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  • 特許-ポリマー組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】ポリマー組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20221111BHJP
   C08F 20/56 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
C08F2/44 A
C08F20/56
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021565690
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2020047507
(87)【国際公開番号】W WO2021125341
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2019230500
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】宮村 泰直
(72)【発明者】
【氏名】門脇 靖
(72)【発明者】
【氏名】山竹 邦明
(72)【発明者】
【氏名】原 真尚
(72)【発明者】
【氏名】山木 繁
(72)【発明者】
【氏名】大籏 英樹
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-070821(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0374268(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0090405(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0380131(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1803858(CN,A)
【文献】特開2019-168386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/44
C08F 20/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀ナノワイヤを含むモノマー組成物を用意する用意工程と、
前記銀ナノワイヤを含むモノマー組成物を重合する重合工程と、
前記用意工程と前記重合工程の間に、前記モノマー組成物を静置する静置工程とを含み、
前記重合工程の開始が、前記静置工程での前記モノマー組成物中の銀ナノワイヤの鉛直方向の配向状態を指標にして、決定されることを特徴とする、銀ナノワイヤを含む高分子重合体の製造方法。
【請求項2】
前記静置工程で、前記モノマー組成物中の銀ナノワイヤが鉛直方向に配向した後、前記重合工程を開始する、請求項1に記載の高分子重合体の製造方法。
【請求項3】
前記高分子重合体がシートである、請求項1または2に記載の高分子重合体の製造方法。
【請求項4】
前記高分子重合体がゲルである、請求項1または2に記載の高分子重合体の製造方法。
【請求項5】
前記静置工程が、前記銀ナノワイヤの配向を確認するサブ工程を含む、請求項1または2に記載の高分子重合体の製造方法。
【請求項6】
前記サブ工程が、前記モノマー組成物を、光源と偏光フィルタの間に配置し、前記光源からの光軸を軸として、前記偏光フィルタを回転させ、観察を行う工程である、請求項5に記載の高分子重合体の製造方法。
【請求項7】
前記サブ工程が、光源の手前に常にクロスニコル状に配置される2つの偏光フィルタを設け、前記モノマー組成物を、前記2つの偏光フィルタの間に配置し、前記光源からの光軸を軸として、前記偏光フィルタを回転させ、観察を行う工程である、請求項5に記載の高分子重合体の製造方法。
【請求項8】
前記サブ工程が、前記2つの偏光フィルタのいずれか一方と前記モノマー組成物との間に鋭敏色板を配置する工程である、請求項7に記載の高分子重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー組成物の製造方法に関する。
本願は、2019年12月20日に、日本に出願された特願2019-230500号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
銀ナノワイヤは、樹脂やゲル等の材料中に,混練や分散等されて、例えば透明なタッチパネルに代表されるような光学材料等に用いられる。これらの光学材料等の物性を決定づける特性として、銀ナノワイヤの配向が挙げられる。前記光学材料等の物性としては、具体的には、力学強度、伸び強度、光学異方性、複屈折性、導電異方性、電熱異方性といった物性が挙げられる。
【0003】
配向したナノワイヤを含有する樹脂やゲルの製造法としては、スプレーコートやせん断応力などを利用した方法が用いられている。
【0004】
例えば、非特許文献1では、凹凸を設けた基材へのスプレー方向の制御により、配向ナノワイヤフィルムが作製されている。
【0005】
また、非特許文献2では、バーコート時のせん断応力による配向を利用して配向ナノワイヤフィルムが作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-168386号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Probst, P. T. et al. ACS Applied Materials & Interfaces 10, 2018, 3046-3057
【0008】
【文献】Byoungchoo Park et al. Scientific Reports volume 6, 2016, Article number: 19485
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1や2の方法では、ナノワイヤの配向はスプレーの方向やバーコートの方向に依存するため、配向方向は限られていた。特許文献1には配向性の測定方法のみが記載される。
【0010】
本発明の第一の態様は、上記のような事情を鑑み、銀ナノワイヤの配向方向や配向の程度を自由に制御可能な、銀ナノワイヤを含む高分子重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の第一の態様は以下に示す構成を備えるものである。
【0012】
[1] 銀ナノワイヤを含むモノマー組成物を用意する用意工程と、前記銀ナノワイヤを含むモノマー組成物を重合する重合工程と、前記用意工程と前記重合工程の間に、前記モノマー組成物を静置する静置工程とを含み、前記重合工程の開始が、前記静置工程での前記モノマー組成物中の銀ナノワイヤの鉛直方向の配向状態を指標にして決定されることを特徴とする銀ナノワイヤを含む高分子重合体の製造方法。
本発明の第一の態様は以下の[2]~[8]の特徴を好ましく含む。これらの特徴は2つ以上を好ましく組み合わせることができる。
[2] 前記静置工程で、前記モノマー組成物中の銀ナノワイヤが鉛直方向に配向した後、前記重合工程を開始する[1]に記載の高分子重合体の製造方法。
[3] 前記高分子重合体がシートである[1]または[2]に記載の高分子重合体の製造方法。
[4] 前記高分子重合体がゲルである[1]または[2]に記載の高分子重合体の製造方法。
[5] 前記静置工程が、前記銀ナノワイヤの配向を確認するサブ工程を含む、[1]または[2]に記載の高分子重合体の製造方法。
[6] 前記サブ工程が、前記モノマー組成物を、光源と偏光フィルタの間に配置し、前記光源からの光軸を軸として、前記偏光フィルタを回転させ、観察を行う工程である、[5]に記載の高分子重合体の製造方法。
[7] 前記サブ工程が、光源の手前に常にクロスニコル状に配置される2つの偏光フィルタを設け、前記モノマー組成物を、前記2つの偏光フィルタの間に配置し、前記光源からの光軸を軸として、前記偏光フィルタを回転させ、観察を行う工程である、[5]に記載の高分子重合体の製造方法。
[8] 前記サブ工程が、前記2つの偏光フィルタのいずれか一方と前記モノマー組成物との間に鋭敏色板を配置する工程である、[7]に記載の高分子重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
銀ナノワイヤを含む高分子重合体中の銀ナノワイヤの配向方向や配向の程度を自由に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の配向の測定方法の例を模式的に示す概略図であり、図中の矢印は光源からの光の方向であり、光軸方向を示す。
図2】本実施形態の他の配向の測定方法の例を模式的に示す概略図であり、図中の矢印は光源からの光の方向であり、光軸方向を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態の好ましい例を挙げて説明するが、本発明は、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、位置、角度、数、材料、量、構成等について、変更、付加、省略、置換等が可能である。
【0016】
(高分子重合体の製造方法)
本実施形態の高分子重合体の製造方法は、銀ナノワイヤを含むモノマー組成物を重合する重合工程を含み、前記重合工程の直前に前記モノマー組成物を静置する静置工程を設け、前記重合工程の開始が、前記静置工程での前記モノマー組成物中の銀ナノワイヤの鉛直方向の配向状態を指標に決定される。
前記静置工程は、前記銀ナノワイヤの配向を確認するサブ工程を含んでよい。前記サブ工程としては、例えば、下記サブ工程A~Dが例として挙げられ、これらのいずれかであってもよい。
サブ工程A:前記モノマー組成物を、光源と偏光フィルタの間に配置し、前記光源からの光軸を軸として、前記偏光フィルタを回転させ、観察を行う工程。
サブ工程B:前記モノマー組成物を、常にクロスニコル状に配置される2つの偏光フィルタの間に配置し、光源からの光軸を軸として、前記2つの偏光フィルタを回転させ、観察を行う工程。
サブ工程C:サブ工程Bと同様に、モノマー組成物と偏光フィルタとを配置し、モノマー組成物と2つの偏光フィルタのいずれかとの間にさらに鋭敏色板を配置し、2つの偏光フィルタを鋭敏色板と一体として回転させ、観察を行う工程。
サブ工程D:前記モノマー組成物について、小角X線散乱(SAXS)を測定する工程(特許文献1に開示される測定方法が好ましい例として挙げられる。なお測定方法や条件は、文献1の記載を参照してよい。)。
上記サブ工程において、偏光フィルタと測定試料(モノマー組成物)は、互いに平行に配置されてよい。また、偏光フィルタと鋭敏色板と測定試料は、互いに平行に配置されてよい。また偏光フィルタと鋭敏色板と測定試料は、板状形状を有してよい。前記板状の板や試料はその主面が光源からの光軸に対して垂直になるように配置されてよい。
なお重合前のモノマー組成物が液状などである場合は、必要に応じて選択される容器の中で静置されてもよく、そのまま観察が行われてもよい。容器に入れたまま重合を行ってもよい。容器としては、石英やガラスなどの透明な材料から形成されたものが例として挙げられるが、これら例のみに限定されない。容器の形は任意に選択でき、箱型やセル型などが例として挙げられるが、これら例のみに限定されない。
【0017】
理由は不明ではあるが、水溶液や有機溶媒などの液中に分散している銀ナノワイヤは、静置すると鉛直方向(重力方向)に配向する性質を示した。そのため、得ようとする目的の高分子重合体を得るためには、銀ナノワイヤの配向方向が鉛直方向となるような配置にすることで、前記高分子重合をすればよい。すなわち、高分子重合体の前記配置を必要に応じて変えることにより、得られる高分子重合体の形状に対して、銀ナノワイヤの配向方向を自由に変えることができる。
なお銀ナノワイヤは、銀のみから形成されてもよい。また銀ナノワイヤのサイズは任意に選択できるが、例えば、その径が20~28nmであり、その長さが12~16μmなどであってもよい。
【0018】
銀ナノワイヤを含むモノマー組成物を用意及び静置した後、得られた高分子重合体中の銀ナノワイヤの配向は、その切片を顕微鏡観察するなど、一般的な方法で、測定することができる。これを、銀ナノワイヤの配向の確認工程と考えても良い。銀ナノワイヤは、本実施形態で得られた重合後の高分子重合体中で配向しているのならば、前記静置工程終了時の重合前のモノマー組成物中でも既に配向していた、と考えられる。前記確認工程は、後述するように、前記モノマー組成物を、光源と偏光フィルタの間に配置し、前記光源からの光軸を軸として、すなわち光源から入射する光の光軸を軸として、前記偏光フィルタを回転させ、観察を行う工程であってもよい。前記確認工程は、観察のしやすさから、好ましくは、前記モノマー組成物を、常にクロスニコル状に配置される2つの偏光フィルタの間に配置し、光源からの光軸を軸として、前記2つの偏光フィルタを回転させ、観察を行う工程であってもよい。またさらに好ましくは、前記モノマー組成物と前記クロスニコル状に配置される2つの偏光フィルタのいずれかとの間に、鋭敏色板を配置してもよい。なおクロスニコルの状態では、2枚の偏光フィルタのみで観察された場合、光線が遮断され暗黒に観察される。また鋭敏色板は、速軸方向と遅軸方向を有し、直交位に組み合わされた2枚の偏光フィルタの間に配置された場、干渉色として鮮やかな色を示す板であり、位相差が僅かでも変わると干渉色が敏感に変化する。また前記モノマー組成物を用意する前に、銀ナノワイヤ、モノマー、及び必要に応じて加えられる成分を、混合する工程を有してもよい。
【0019】
銀ナノワイヤを含むモノマー組成物を用意した後、得られた前記モノマー組成物や前記高分子重合体は、これらが透明であれば、偏光を利用して、それらの中の銀ナノワイヤの配向を測定することができる。具体的な例を挙げれば、例えば、前述のサブ工程Aが挙げられる。この場合、例えば図1に示したように、透明な重合前の前記モノマー組成物や、透明な重合後の前記高分子重合体を、測定試料2として配置し、そして、光源からの光1を、前記測定試料2及び偏光フィルタ3を通して観察する。このとき、偏光フィルタ3を、光軸を軸にして回転させる。そして、光が最も暗くなった時の偏光フィルタ3の偏光軸と平行な方向が、銀ナノワイヤの配向方向である、と判断する。偏光フィルタは、特定方向に偏光又は偏波した光だけを通過させため、上記判断に好適に使用される。
他の具体的な例として、例えば、サブ工程Cが挙げられる。この場合、例えば図2に示したように、常にクロスニコル状となる2つの偏光フィルタ3及び4の間に、挿入及び脱着が可能な位相差530~580nmの鋭敏色板(位相差板)5を、鋭敏色板の遅軸が偏光フィルタの偏光軸と45°の角度をなすように、設置する。そして、鋭敏色板5といずれか一方の偏光フィルタ3または4の間に、透明な重合前の前記モノマー組成物や、透明な重合後の前記高分子重合体を、測定試料2として配置する。そして前記光源からの光軸を軸として、前記偏光フィルタ3及び4並びに鋭敏色板5を一体として同時に回転させ、観察する。なおクロスニコル状とは、2枚の偏光フィルタの偏光軸が直交する配置を意味する。なおこの工程において、まず最初に、鋭敏色板を除いた状態(サブ工程Bに相当する)で、偏光フィルタ3及び4のみで測定試料2を観察し、偏光フィルタ3および4を、光軸を軸にして回転させてもよい。すると、銀ナノワイヤが配向している場合、45°の間隔で、明暗が繰り返えされる。光が最も暗くなった時の偏光フィルタ3の偏光軸と平行または垂直な方向が、銀ナノワイヤの配向方向であると判断される。さらに、配向方向が平行または垂直のどちらであるかを区別するためには、鋭敏色板5を挿入して、上記回転を行う。透過光の可視領域の透過極大をとる波長が最も長波長になるときの、典型的な例としては青緑~緑~黄緑の範囲内の色となるときの、前記鋭敏色板5の遅軸と垂直な方向が、銀ナノワイヤの配向方向であると判断できる。鋭敏色板は、微小な配向度であっても鋭敏に色として反応するため、上記判断に好適に使用される。
なお組成物や重合体が透明であるとは、本実施形態の測定系で測定可能な程度に光が透過する材料であることを意味してよい。上記測定試料2及び偏光フィルタ3は、互いに平行に配置されてよい。
銀ナノワイヤを含むモノマー組成物は、静置工程の間に、一定の時間の間隔で、1回以上の前記確認工程を設けて、配向状態の観察を行っても良い。上記間隔は、任意に設定してよいが、例えば、3分や、5分や、10分や、15分や、30分や、1時間などが、例として挙げられる。観察の回数は任意に選択でき、例えば、1~10回や、1~5回や、1~3回などが例として挙げられる。所望の状態が観察されたところで、観察を中止して、重合工程に進むことが好ましい。
【0020】
上記状態では、サブ工程Aを用いた場合には、銀ナノワイヤの配向度が高い方ほど観察される光がより暗くなり、サブ工程Bを用いた場合には、銀ナノワイヤの配向度が高い方ほど、45°回転ごとの明暗の差がより大きくなる。よって、明暗の程度で、配向の程度も同時に判断できる。また、サブ工程Cを用いた場合には、銀ナノワイヤの配向度が高い方が色の変化が大きくなる。サブ工程Dを用いた場合には、銀ナノワイヤの配向度が高い方が、得られる配向関数S値(すなわち、特許文献1で示される一軸配向近似した際の配向関数Sの値)は大きくなり、1の値に近づく。サブ工程Dでは、銀ナノワイヤの配向性を、測定材料の小角X線散乱を測定し、得た散乱ベクトルのデータから求めることができる。
サブ工程A~Cのような観察で得られる明暗や色について、あらかじめ配向度の判明している試料で、検量線を作成しておいてもよい。また、これら明暗や色の判断は、肉眼でもよいが、より精度を得るには光度計や色度計で測定することが好ましい。なお、銀ナノワイヤについてサブ工程Dを用いて測定したときに、配向度が高いとは配向関数S値が0.2以上の状態であることを意味してよい。
【0021】
なお、確認される上記配向方向は、光軸と垂直な平面上での方向である。測定試料2中の3次元的配向方向を確認するには、試料を異なる方向、好ましくは90°異なる方向から、観察することにより、配向方向を求めることができる。
【0022】
サブ工程Aでは、図1中の測定試料2と偏光フィルタ3とを前後で入れ替えてもよく、この場合でも同様の結果を得ることができる。
サブ工程Cでは、図2で示されるように、配向方向の測定には、より感度の高い鋭敏色板法を用いてもよい。図2中の測定試料2と鋭敏色板5の位置は、前後で入れ替えてもよく、この場合でも同様の結果を得ることができる。
【0023】
より高い配向度を得るには、前記静置工程の時間をより長くすればよい。ただし、長時間過ぎると生産効率が低下する。よって、より長く静置しても配向度がほとんど高くならない時間を目安として、選択すればよい。
【0024】
前述のサブ工程A~Dのいずれかを利用した方法を用いれば、前記モノマー組成物中の銀ナノワイヤの配向を、リアルタイムで測定できる。この場合、前記静置工程の終了(すなわち前記重合工程の開始)を時間で管理するのではなく、銀ナノワイヤが鉛直方向、すなわち、すなわち垂直な縦方向、に所望の程度に配向したことを、指標にすることができる。なお、所望の程度に配向したとは、例えば、工程管理上許容される配向度の上限と下限の間にある状態を意味しても良い。
【0025】
前記モノマー組成物の重合方法に特に制限はない。例えば、重合中に対流などが生じにくい方法の方が、銀ナノワイヤの配向が保たれるので好ましい。好ましい重合方法としては、アニオン重合、カチオン重合、錯体触媒重合等が挙げられるが、紫外線などの光を用いることによる、光開始ラジカル重合がより好ましい例として挙げられる。
【0026】
得られる高分子重合体は、重合後に銀ナノワイヤの配向状態を保つものであればよく、樹脂などの硬化物に限らず、ゲルであってもよい。得られる高分子重合体は、硬い物質であっても、又は、ある程度の柔軟性を有しても良い。なおモノマー組成物に含まれるモノマーの例としては、N、N-ジメチルアクリルアミド、N、N’-イソプロピルアクリルアミド、アクリルアミド、N-ビニルアセトアミドなどが例としてあげられるが、これら例のみに限定されない。モノマー組成物のモノマー以外の成分の例としては、N、N’-メチレンビスアクリルアミドなどの架橋剤などが例としてあげられるが、これらの例のみに限定されない。その他、必要に応じて、分散剤などを含んでいても良いがこれら例のみに限定されない。モノマー組成物に含まれるナノワイヤの量は、任意に選択できるが、例えば500質量ppm~2000質量ppmであってもよいが、これら例のみに限定されない。
【0027】
前記高分子重合体の形状や、含まれる銀ナノワイヤの配向方向には、特に制限はない。例えば、前記高分子重合体の形状がシート(フィルムや板も含む)状である場合、含まれる銀ナノワイヤの配向方向は、シートの面内方向、厚さ方向、及び、その他の方向などが、例として挙げられる。前記シートがロールシートである場合、前記シートの面内方向の配向方向は、巻取り方向、巻取り軸方向などが、例として挙げられる。
【0028】
前記シートの内、配向が面内方向で配向度が高いものは、例えば偏光フィルタなどの用途に好ましく適用できる。また、前記シートのうちで、配向が厚さ方向であって、配向度がそれほど高くなく、銀ナノワイヤ同士の絡まりを有するものは、異方性導電シートなどの用途に好ましく適用できる。
【実施例
【0029】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
8質量%N,N-ジメチルアクリルアミド、0.1質量%N,N’-メチレンビスアクリルアミド、0.1質量%2,2-ジエトキシアセトフェノンを含む、0.1質量%銀ナノワイヤ(平均直径28nm)水分散液を、モノマー組成物とした。この組成物を、底面を水平に保った石英セル(内寸:縦(厚さ)1mm、横10mm、高さ30mm)に滴下によって満たし、静置した。
【0031】
次に石英セル中の銀ナノワイヤの配向の確認を、前記サブ工程Aの方法で行った。すなわち、ライトボックスを、石英セルの厚さ方向の背面に、すなわち後ろ、に配置し、偏光フィルタを石英セルの前面に配置した。そして、左右45°の方向から、偏光フィルタを通して、前記石英セルを観察した。前記静置開始直後は、偏光フィルタを回転させても、明暗の差は確認されなかった。しかしながら、観察を続けた結果、時間が経過すると共に次第に、偏光フィルタの偏光軸を垂直にした時に、次第に暗くなるようになった。この結果は、水平方向に90°異なる方向から観察しても同様であった。そのため、銀ナノワイヤは鉛直方向に配向していることがわかった。
【0032】
その結果、モノマー組成物中の銀ナノワイヤは、鉛直方向(高さ方向)に配向していることが分かり、石英セルにモノマー組成物を満たしてから約10分後に、配向のさらなる変化は見られなくなった。次に、前記石英セル中のモノマー組成物に、250WUVランプ(浜松ホトニクス製L10852)にて、10分間紫外線を照射することで、重合を開始した。得られたゲル(銀ナノワイヤを含む高分子重合体)を観察した結果、ゲルになっても、同方向に銀ナノワイヤの配向は保たれていた。
【0033】
また、前記偏光フィルタの偏光軸が垂直の時は、前記ゲルを透過する光がほとんど観察されず、得られたゲル自身が、偏光フィルタの役割をしていることがわかった。
【0034】
得られたゲル(銀ナノワイヤを含む高分子重合体)について、他の方法でも銀ナノワイヤの配向の確認を行った。
【0035】
前記サブ工程Dの方法を用いて、前記ゲルの厚み方向にX線を照射して確認を行った。その結果、配向関数Sが0.20であり、鉛直方向に銀ナノワイヤが配向していることが確認された。
【0036】
また、前記ゲルを取り出し、前記ゲルの作成時の水平方向に切り出し、その断面を共焦点レーザー走査型顕微鏡で観察した。その結果、ナノワイヤ断面が観察され、前記ナノワイヤの鉛直方向の配向が確認された。
【0037】
(実施例2)
8質量%N,N’-ジメチルアクリルアミド、0.1質量%N,N’-メチレンビスアクリルアミド、0.1質量%2,2-ジエトキシアセトフェノンを含む、0.1質量%銀ナノワイヤ(平均直径28nm)水分散液をモノマー組成物とした。この組成物を、底面(10mm×30mm)を水平に保った石英セル中に、深さ1mmとなるように滴下し、静置した。
【0038】
次に、石英セル中の銀ナノワイヤの配向の確認を、前記サブ工程Aの方法で行った。すなわち、前記石英セルの下部に、ライトボックスを配置し、偏光フィルタを前記石英セルの上部に配置した。そして、石英セルの上方斜め45°から、偏光フィルタを通して、石英セル中のモノマー組成物を観察した。前記静置開始直後は、偏光フィルタを回転させても、明暗の差は確認されなかった。しかしながら、時間が経過すると共に次第に、偏光フィルタの偏光軸を垂直にした時に、暗くなるようになった。この結果は水平方向に90°異なる方向から観察しても同様であった。そのため、銀ナノワイヤは鉛直方向に配向していることがわかった。
【0039】
前記滴下から約10分後経過後、前記観察においてさらなる変化は見られなくなった。次に、前記石英セル中のモノマー組成物に、250WUVランプ(浜松ホトニクス製L10852)にて、10分間紫外線を照射することで、重合を行い、ゲル(高分子重合体)を得た。
【0040】
得られたゲル(大きさ、縦約10mm×横約30mm×厚さ約1mm)を、偏光フィルタを通して前記同様に観察したところ、銀ナノワイヤはゲルの厚さ方向に配向していた。
【0041】
得られたゲル(銀ナノワイヤを含む高分子重合体)について、他の方法でも銀ナノワイヤの配向の確認を行った。
【0042】
前記サブ工程Dの方法を用いて、前記ゲルの厚さ方向にX線を照射して確認を行った。その結果、配向関数Sが0.00であり、面内方向に配向していないことが観察された。すなわち、配向しているのであれば、厚さ方向に配向していることになる。言い換えると、厚さ方向に配向していることが確認された。
【0043】
また、前記ゲルを切り出し、前記ゲルの厚み方向の断面を共焦点レーザー走査型顕微鏡で観察した。その結果、厚さ方向に配向したナノワイヤが観察された。このことから、前記ナノワイヤの厚さ方向への配向(鉛直配向)が示された。
【0044】
(実施例3)
石英セル中の銀ナノワイヤの配向の確認として、前記サブ工程Aの方法の代わりに前記サブ工程Cの方法を用いたこと以外は、実施例1と同様に、実験及び観察を行なった。その結果、実施例1と同様の結果を得た。
なお、用いられたサブ工程Cの方法は、具体的には次のとおりに行われた。
まずライトボックスを、モノマー組成物を含む石英セルの厚さ方向の背面に設置した。次にそれらの間に、光軸(厚さ方向)に対して垂直に、一方の偏光フィルタを設置し、前記石英セルの手前に、光軸に対して垂直に、他方の偏光フィルタを配置した。これら2つの偏光フィルタは、光軸を軸に回転させることができ、かつ、常に互いにクロスニコル状になるように保たれている。
前記静置開始の直後は、2つの偏光フィルタを回転させても、全体として暗く、明暗の差は確認されなかった。さらに、一方の偏光フィルタと石英セルとの間に、鋭敏色板を、遅軸が一方の偏光フィルタの偏光軸と45°の角度をなすように挿入し、光軸を軸として、2枚の偏光フィルタと鋭敏色板とを一体として回転させた。しかしながら前記回転によっても色の変化は確認されなかった。ここで鋭敏色板を取り外した。
しかしながら、一定時間ごとに観察を続けた結果、時間が経過すると共に、次第に、クロスニコル状に配置されている前記他方の偏光フィルタの偏光軸を水平方向にしたときに暗くなり、水平方向から45°にしたとき明るくなることが、観察されるようになった。このような結果は、銀ナノワイヤ分散液中の銀ナノワイヤが、時間の経過によって、水平または垂直に配向したことを示している。
次に、鋭敏色板を、再度同様に挿入し、光軸を軸として2枚の偏光フィルタと鋭敏色板とを一体として回転させた。その結果、鋭敏色板の遅軸が水平方向になったときに黄緑色の干渉色がみられた。そのため、銀ナノワイヤは鉛直方向に配向していることが判明した。
【0045】
以上の結果から、前記モノマー組成物中の銀ナノワイヤは、鉛直方向(高さ方向)に配向していることが分かった。石英セルにモノマー組成物を満たしてから、約10分後には、配向のさらなる変化は見られなくなった。その後、実施例1と同様の方法で重合を行い、ゲルを得た。
【0046】
得られたゲル(銀ナノワイヤを含む高分子重合体)について、上記同様に銀ナノワイヤの配向の確認を行った。その結果、重合前と同じ方向に、銀ナノワイヤの配向が確認された。また、鋭敏色板を取り去り、前記ゲルを観察したところ、クロスニコル状に配置されている前記一方の偏光フィルタの偏光軸を水平にすると前記ゲルは暗くなり、水平方向から45°にすると前記ゲルは明るくなった。このことは、得られたゲルが位相差板の機能をも有することも確認された。
【0047】
(実施例4)
石英セル中の銀ナノワイヤの配向の確認として、前記サブ工程Aの方法の代わりに、前記サブ工程Cの方法を用いたこと以外は、実施例2と同様に実感及び観察を行なった。その結果、実施例2と同様の結果を得た。
なお、用いられたサブ工程Cの方法としては、具体的には次のとおりに行った。
まず前記石英セルの下部にライトボックスを設置した。そしてそれらの間に、一方の偏光フィルタを配置し、前記石英セルの上に、他方の偏光フィルタを配置した。これら2つの偏光フィルタは、光軸に対して垂直に配置され、光軸を軸に回転させることができ、かつ、常にクロスニコル状になるように保たれている。
その結果、光軸を鉛直にした観察では、静置開始直後でも、静置から10分経過した後でも、前記偏光フィルタを回転してもすべての角度で暗いままであった。このことは銀ナノワイヤが面内方向(水平方向)に配向を有しないことを示している。なお一方で、光軸を鉛直から斜め45°にして観察してみると、前記静置開始直後では偏光フィルタを回転させても、全体として暗く、明暗の差は確認されなかった。しかしながら、時間が経過すると共に、次第に、クロスニコル状に配置されている前記他方の偏光フィルタの偏光軸を水平方向にしたときに暗くなり、水平方向から45°にしたとき明るくなるようになった。石英セルと一方の偏光フィルタとの間に、鋭敏色板を、遅軸が一方の偏光フィルタの偏光軸と45°の角度をなすように挿入し、2枚の偏光フィルタと鋭敏色板とを一体として光軸を軸として回転させた。その結果、鋭敏色板の遅軸が水平方向、偏光フィルタの偏光軸が水平方向から45°になったときに、黄緑色の干渉色がみられた。そのため、銀ナノワイヤは、膜厚方向、すなわち鉛直方向に配向していることが観察された。
【0048】
前記静置開始から約10分後経過後、前記観察においてさらなる色の変化は見られなくなった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、銀ナノワイヤの配向方向を自由に制御可能な銀ナノワイヤを含む高分子重合体の製造方法を提供する。本発明により製造効率も向上できる。
本発明の方法で得られる高分子重合体は、偏光フィルタや位相差板などの光学材料や異方性導電シートなどの電子材料などに利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 光源からの光の方向(光軸方向)
2 測定試料
3 偏光フィルタ
4 偏光フィルタ
5 鋭敏色板
図1
図2