(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】オーバーコートインク及びこれを含むインクセット
(51)【国際特許分類】
C09D 11/54 20140101AFI20221111BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221111BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20221111BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20221111BHJP
【FI】
C09D11/54
B41J2/01 501
B41M5/00 134
B41M5/00 120
B41M5/00 132
B41M5/00 100
C09D11/30
(21)【出願番号】P 2022102884
(22)【出願日】2022-06-27
【審査請求日】2022-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2021109294
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183923
【氏名又は名称】株式会社DNPファインケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】両角 俊也
(72)【発明者】
【氏名】牧本 祐二
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/090465(WO,A1)
【文献】特開2019-163442(JP,A)
【文献】特開2015-182348(JP,A)
【文献】特開2013-221141(JP,A)
【文献】特開2020-094080(JP,A)
【文献】特許第7082251(JP,B1)
【文献】特開2016-083791(JP,A)
【文献】特開2018-035270(JP,A)
【文献】特開2017-002255(JP,A)
【文献】特開2017-149812(JP,A)
【文献】国際公開第2015/079638(WO,A1)
【文献】特開2015-172124(JP,A)
【文献】国際公開第2020/202618(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式により記録物の表面に吐出され、オーバーコート層を形成するためのオーバーコートインクと
、水性インクと、のインクセットであって、
前記オーバーコートインクは、
少なくとも、樹脂と、有機溶剤と、水と、を含み、
樹脂の含有量は、オーバーコートインク全量中5質量%以上30質量%以下の範囲であり、
前記オーバーコートインクは、
さらに前記樹脂とは異なるワックスと、界面活性剤と、を含有し、
色材を含有せず、
前記界面活性剤は、シリコーン系界面活性剤及び/又はアセチレングリコール系界面活性剤を含有し、
前記樹脂は、(a)ガラス転移温度が20℃以上の樹脂及び/又は(b)ガラス転移温度が6℃以上のスチレンアクリル系樹脂を含有
し、
前記インクセットに含まれるそれぞれのインクの静的表面張力は以下の関係を満たす、
インクセット。
オーバーコートインクの静的表面張力So<水性インクの静的表面張力Sc
【請求項2】
さらに前処理インクを含む
請求項
1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記インクセットに含まれるそれぞれのインクの静的表面張力は以下の関係を満たす、
請求項
2に記載のインクセット。
オーバーコートインクの静的表面張力S
O≦前処理インクの静的表面張力S
P<水性インクの静的表面張力S
C
【請求項4】
請求項
1に記載のインクセットを使用したインクジェット記録方法であって、
前記インクセットに含まれるそれぞれのインクを基材上にインクジェット吐出する、
記録方法。
【請求項5】
前記インクセットに含まれるそれぞれのインクの吐出後に該インクを乾燥する
請求項
4に記載の記録方法。
【請求項6】
請求項
1に記載のインクセットを使用した記録物の製造方法であって、
前記インクセットに含まれるそれぞれのインクを基材上にインクジェット吐出する、
記録物の製造方法。
【請求項7】
請求項
1に記載のインクセットに含まれるオーバーコートインクを備えたオーバーコートインク吐出部と、請求項2に記載のインクセットに含まれる水性インクを備えた水性インク吐出部と、を備え、
請求項
1に記載のインクセットに含まれる前記オーバーコートインク及び前記水性インクをインクジェット吐出する
装置。
【請求項8】
前記インクセットに含まれるそれぞれのインクの吐出後に該インクを乾燥する乾燥機構を備える
請求項
7に記載の装置。
【請求項9】
記録媒体と、
請求項1に記載のインクセットに含まれる水性インクにより形成される水性インクの層と、
前記水性インクの層の上に請求項
1に記載
のインクセットに含まれるオーバーコートインクにより形成されるオーバーコート層と、
を備える記録物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーバーコートインク及びこれを含むインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク組成物の液滴を紙等の基材に直接吐出し、塗布して文字や画像を得る記録方式である。この記録方式は、小型化、高速化、低騒音化、省電力化、カラー化が容易であり、しかも基材に対して非接触印刷が可能であることから、家庭用途のみならず、オフィス用途、商業印刷用途にまで適用範囲が拡大している。
【0003】
インクジェット記録方式に使用されるインク組成物として、各種の色材を水、又は水と水溶性有機溶剤との混合液に溶解させた水性インクが広く用いられている。このような水を主成分とする水性インクは、環境に対する影響が少なく、引火することがないため作業者に対して安全性が高い。
【0004】
ここで、記録物の表面にオーバーコート層を形成するためのオーバーコートインクが知られている。例えば、特許文献1には、所定の樹脂と、中和剤と、溶剤と、を含むオーバーコートインクが記載されている。
【0005】
特許文献1には、このオーバーコートインクは吐出安定性に優れ、記録媒体に印刷された画像に対する耐擦過性及び耐摩耗性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、表面にオーバーコート層が形成された記録物をカートンなどの包装材料に使用する場合には、この記録物を複数積み重ねて一枚ずつ荷重が加わった状態で繰り出すことが行われる。
【0008】
ところが、記録物のオーバーコート層の滑り性が不十分であると、記録物を1枚ずつ荷重が加わった状態で繰り出したときに、記録物が2枚以上重なって繰り出すことや起函部で記録物が飛び出すこと等があり記録物に比較的高い荷重が加わった状態で高速に繰り出すことが困難となることがある。
【0009】
本発明は、滑り性の高いオーバーコート層を記録物の表面に形成することのできるオーバーコートインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、所定のガラス転移温度の範囲の樹脂を含むオーバーコートインクであれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0011】
(1)記録物の表面にオーバーコート層を形成するためのオーバーコートインクであって、少なくとも、樹脂と、有機溶剤と、水と、を含み、前記樹脂は、(a)ガラス転移温度が20℃以上の樹脂及び/又は(b)ガラス転移温度が6℃以上のスチレンアクリル系樹脂を含有するオーバーコートインク。
【0012】
(2)前記樹脂の含有量は、オーバーコートインク全量中5質量%以上30質量%以下の範囲である(1)に記載のオーバーコートインク。
【0013】
(3)インクジェット方式により記録物の表面に吐出される(1)又は(2)に記載のオーバーコートインク。
【0014】
(4)さらに界面活性剤を含有し、前記界面活性剤は、シリコーン系界面活性剤及び/又はアセチレングリコール系界面活性剤を含有する(1)から(3)のいずれかに記載のオーバーコートインク。
【0015】
(5)さらにワックスを含有する(1)から(4)のいずれかに記載のオーバーコートインク。
【0016】
(6)(1)から(5)のいずれかに記載のオーバーコートインクと、水性インクと、を含むインクセット。
【0017】
(7)前記インクセットに含まれるそれぞれのインクの静的表面張力は以下の関係を満たす、(6)に記載のインクセット。
オーバーコートインクの静的表面張力So<水性インクの静的表面張力Sc
【0018】
(8)さらに前処理インクを含む(6)又は(7)に記載のインクセット。
【0019】
(9)前記インクセットに含まれるそれぞれのインクの静的表面張力は以下の関係を満たす、(8)に記載のインクセット。
オーバーコートインクの静的表面張力SO≦前処理インクの静的表面張力SP<水性インクの静的表面張力SC
【0020】
(10)(6)から(9)のいずれかに記載のインクセットを使用したインクジェット記録方法であって、前記インクセットに含まれるそれぞれのインクを基材上にインクジェット吐出する、記録方法。
【0021】
(11)前記インクセットに含まれるそれぞれのインクの吐出後に該インクを乾燥する(10)に記載の記録方法。
【0022】
(12)(6)から(9)のいずれかに記載のインクセットを使用した記録物の製造方法であって、前記インクセットに含まれるそれぞれのインクを基材上にインクジェット吐出する、記録物の製造方法。
【0023】
(13)(6)から(9)のいずれかに記載のインクセットをインクジェット吐出する装置。
【0024】
(14)前記インクセットに含まれるそれぞれのインクの吐出後に該インクを乾燥する乾燥機構を備える(13)に記載の装置。
【0025】
(15)記録媒体と、水性インクにより形成される水性インクの層と、前記水性インクの層の上に(1)から(5)のいずれかに記載のオーバーコートインクにより形成されるオーバーコート層と、を備える記録物。
【発明の効果】
【0026】
本発明のオーバーコートインクは、滑り性の高いオーバーコート層を記録物の表面に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態のインクセットに好適に使用することができるインクセットを吐出する装置である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0029】
≪オーバーコートインク≫
本実施の形態に係るオーバーコートインクは、記録物の表面にオーバーコート層を形成するためのオーバーコートインクである。そして、このオーバーコートインクは、少なくとも、樹脂と、有機溶剤と、水と、を含む水性のオーバーコートインクである。水性のオーバーコートインクであることで環境に対する影響が少なく、引火することがないため作業者に対して安全性が高い。
【0030】
なお、「記録物の表面にオーバーコート層を形成するためのオーバーコートインク」という文言は、色材(有色の色材やブラックホワイトの色材を含む。)を含有する着色インク(例えば、水性インク)等のインクが流動性を有し液体として存在している間にその液体の表面上に直接オーバーコート層を形成するためのオーバーコートインクであってもよく、着色インク(例えば、水性インク)等により形成されたインクの層の表面上に直接オーバーコート層を形成するためのオーバーコートインクであってもよい。
【0031】
また、「記録物の表面にオーバーコート層を形成するためのオーバーコートインク」は、着色インクや着色インクの層に直接オーバーコート層を形成するためのオーバーコートインクに限定はされず、記録物(被体)をメタリック調にするための光輝性顔料(鱗片状金属粒子)を含むインクやその層に直接オーバーコート層を形成するためのオーバーコートインクであっても、色材を含有しないクリアインクやその層に直接オーバーコート層を形成するためのオーバーコートインクであってもよい。色材を含有しないクリアインクである場合には、所望の機能を有する層を形成するためのインクが挙げられる。このようなインクとしては、例えば、記録物(被体)の艶を消す艶消しインク組成物や耐候層を形成するための紫外線吸収剤や光安定化剤等を含むインクやプライマーインク等が挙げられる。
【0032】
そして、本実施の形態に係るオーバーコートインクに含まれる樹脂は、(a)ガラス転移温度が20℃以上の樹脂及び/又は(b)ガラス転移温度が6℃以上のスチレンアクリル系樹脂を含有する。
【0033】
所定のガラス転移温度の範囲の樹脂を含むオーバーコートインクであれば、記録物の表面に滑り性の高いオーバーコート層を形成できることが本発明者らの研究により明らかとなった。この理由は必ずしも明らかではないが、オーバーコート層を構成する樹脂のガラス転移温度が高いことでオーバーコート層の硬度が上がり塗膜(オーバーコート層)の静摩擦力が低下することでオーバーコート層と記録物の裏面との摩擦係数が低下するためであると思われる。
【0034】
本実施の形態に係るオーバーコートインクや後述するインクセットに含まれる水性インクや前処理インクは、例えば、グラビア方式、フレキソ方式、スプレー方式、スクリーン方式、コーター方式等に用いられるものであってもよい。これらの中でもインクジェット方式は、小ロットの記録物を形成することに優れているため特に好ましい。
【0035】
特に本実施の形態に係るオーバーコートインクと後述する水性インクと含むインクセットやさらに受理溶液を含むインクセットであって、これらのインクセットに含まれるインクがインクジェット方式により吐出するものであると、表面に水性インクの層とオーバーコート層を一度に形成することが可能となって、これらの層を備える記録物を高速で製造することができるので、滑り性の高いオーバーコート層を備える記録物を生産性が高い状態で製造することが可能となる。
【0036】
次に、本実施の形態に係るオーバーコートインクに含まれる各成分について説明する。
【0037】
(樹脂)
本実施の形態に係るオーバーコートインクに含まれる樹脂は、オーバーコート層に耐擦性を付与する。
【0038】
そして、この樹脂は、(a)ガラス転移温度が20℃以上の樹脂及び/又は(b)ガラス転移温度が6℃以上のスチレンアクリル系樹脂を含有する。これにより、オーバーコート層に滑り性を付与して、例えば複数積み重なった記録物を比較的高い荷重が加わった状態で1枚ずつ高速に繰り出すことを可能とする。
【0039】
(a)ガラス転移温度が20℃以上の樹脂としては、特に限定されず、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエーテル系樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン(シリコン)樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂からなる群より選択される1つ以上の樹脂あるいは共重合樹脂を含むものあるいはこれらの混合物を用いることができる。これらの中でも構成モノマーの少なくとも1つ以上にアクリル骨格を有するアクリル系樹脂、構成モノマーの少なくとも1つ以上にウレタン骨格を有するポリウレタン系樹脂、構成モノマーの少なくとも1つ以上にエステル骨格を有するポリエステル系樹脂を含むものを用いることが特に好ましい。
【0040】
(b)ガラス転移温度が6℃以上のスチレンアクリル系樹脂としては、スチレン-アクリル酸の共重合体やスチレン-メタクリル酸の共重合体を挙げることができる。
【0041】
また、(a)ガラス転移温度が20℃以上の樹脂、(b)ガラス転移温度が6℃以上のスチレンアクリル系樹脂のような本実施の形態に係るオーバーコートインクに含まれる樹脂は少なくとも一部が樹脂エマルションを含むものであることが好ましい。本実施の形態に係るオーバーコートインクは水を含んでいるため、樹脂エマルジョンを形成することによって、水を含むオーバーコートインク中で樹脂が静電反発力や立体反発力によって樹脂微粒子として分散させることができる。このため、特に、オーバーコートインクをインクジェット方式により記録物の表面に吐出する場合には、樹脂は少なくとも一部が樹脂エマルションを含むものであることで吐出安定性を高めることが可能となる。
【0042】
市販の樹脂エマルジョンとしては、例えば、NeoCryl A-2092(スチレンアクリル系樹脂 Tg:8℃)、NeoCryl A-639(スチレンアクリル系樹脂 Tg:62℃)、NeoCryl A-662(スチレンアクリル系樹脂 Tg:95℃)、NeoCryl A-2091(スチレンアクリル系樹脂 Tg:98℃)、QE-1042(スチレンアクリル系樹脂 Tg:53℃)、KE-1062(スチレンアクリル系樹脂 Tg:96℃)、TE-1048(スチレンアクリル系樹脂 Tg:123℃)、NeoCryl XK-190(アクリル系樹脂 Tg:80℃)、JONCRYL PDX-7630A(スチレンアクリル系樹脂 Tg:53℃)、JONCRYL PDX-7696(スチレンアクリル系樹脂 Tg:86℃)、Carboset GA7439(アクリル系樹脂 Tg:31℃)、MW6899d(アクリル系樹脂 Tg:48℃)、MW6969d(アクリル系樹脂 Tg:73℃)、MW6810(アクリル系樹脂 Tg:110℃)、JE-1056(アクリル系樹脂 Tg:82℃)、タケラック W-6061(ウレタン系樹脂 Tg:73℃)、タケラック WS4022(ウレタン系樹脂 Tg:115℃)、Sancure 815(ウレタン系樹脂 Tg:161℃)、Sancure777F(ウレタン系樹脂 Tg:162℃)、エリーテル KZT-8803(ポリエステル系樹脂 Tg:61℃)、エリーテル KZT-3556S(ポリエステル系樹脂 Tg:81℃)、JONCRYL PDX-7430(アクリルスチレン系樹脂 Tg:73℃)、JONCRYL PDX-7158(アクリルスチレン系樹脂 Tg:55℃)、JONCRYL PDX-7538(アクリルスチレン系樹脂 Tg:75℃)、NeoCryl A-2091(スチレンアクリル系樹脂 Tg:98℃)、ビニブラン700(塩化ビニル-アクリル系樹脂 Tg:73℃)、ビニブラン701(塩化ビニル-アクリル系樹脂 Tg:70℃)、ビニブラン745(塩化ビニル-アクリル系樹脂 Tg:40℃)を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
樹脂エマルジョンの平均粒子径は、30nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましく、50nmがさらに好ましい。樹脂エマルジョンの平均粒子径は、インク組成物中での分散安定性と、インクジェット吐出性の観点から、300nm以下が好ましく、270nm以下がより好ましく、250nmがさらに好ましい。これにより、オーバーコートインク中での樹脂エマルジョンの分散安定性がさらに向上する。特に、オーバーコートインクをインクジェット方式により記録物の表面に吐出する場合には、樹脂は少なくとも一部が樹脂エマルションを含むものであることで吐出安定性をさらに高めることが可能となる。なお、本実施形態において、樹脂エマルジョンの平均粒子径は、測定温度25℃にて濃厚系粒径アナライザー(大塚電子(株)製、型式:FPAR-1000)を用いて測定することができる。
【0044】
樹脂エマルジョンの質量平均分子量は、オーバーコート層の耐水性の観点から、10000以上が好ましく、50000以上がより好ましく、100000以上がさらに好ましい。樹脂エマルジョンの質量平均分子量は、インク組成物の安定性の観点から、1000000以下が好ましく、700000以下がより好ましく、500000以下がさらに好ましい。なお、本実施形態において樹脂の分子量は、質量平均分子量Mwを示すものであり、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値であり、東ソー(株)製の「HLC-8120GPC」にて、校正曲線用ポリスチレンスタンダードを標準にして測定することができる。
【0045】
(a)ガラス転移温度が20℃以上の樹脂、(b)ガラス転移温度が6℃以上のスチレンアクリル系樹脂の含有量は、本実施の形態に係るオーバーコートインクに含まれる樹脂全量中50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることがさらになお好ましい。
【0046】
本実施の形態に係るオーバーコートインクに含まれる樹脂の含有量は特に限定されないが、樹脂の含有量の下限は、オーバーコートインク全量中5質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。これにより、オーバーコート層にさらに耐擦性を付与するとともに、さらに滑り性を付与することができるようになり本発明の効果を更に奏するオーバーコートインクとなる。樹脂の含有量の上限は、オーバーコートインク全量中30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。これにより、樹脂の分散安定性がさらに向上する。特に、オーバーコートインクをインクジェット方式により記録物の表面に吐出する場合には、樹脂の含有量が30質量%以下であることで吐出安定性をさらに高めることが可能となる。
【0047】
[水]
オーバーコートインクは、水を主成分として含有する。水としては、種々のイオンを含有するものではなく、脱イオン水を使用することが好ましい。水の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、水の含有量の下限は、オーバーコートインク全量中30質量%以上の範囲内であることが好ましく、40質量%以上の範囲内であることがより好ましく、45質量%以上の範囲内であることがさらに好ましく、50質量%以上の範囲内であることがさらなお好ましい。水の含有量の上限は、オーバーコートインク全量中85質量%以下の範囲内であることが好ましく、82質量%以下の範囲内であることがより好ましく、80質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0048】
[有機溶剤]
本実施の形態に係るオーバーコートインクは、有機溶剤を含有する。有機溶剤は、樹脂等を分散又は溶解することができるものである。
【0049】
本実施の形態に係るオーバーコートインクは、水を含んでいるため、有機溶剤は水溶性溶剤を含むことが好ましい。本明細書において水溶性溶媒とは、25℃の水100質量部中に、1気圧下で5質量部以上、好ましくは20質量部以上、より好ましくは50質量部以上、更に好ましくは70質量部以上、最も好ましくは90質量部以上溶解することができるものをいう。
【0050】
有機溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ペンタノール等の炭素数1~5のアルキルアルコール類;ホルムアミド、アセトアミド、プロパンアミド、ブタンアミド、イソブチルアミド、ペンタンアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、N-メチルブタンアミド、N-メチルイソブチルアミド、N-メチルペンタンアミド、N-エチルホルムアミド、N-エチルアセトアミド、N-エチルプロパンアミド、N-エチルブタンアミド、N-エチルイソブチルアミド、N-エチルペンタンアミド、N-プロピルホルムアミド、N-プロピルアセトアミド、N-プロピルプロパンアミド、N-プロピルブタンアミド、N-プロピルイソブチルアミド、N-プロピルペンタンアミド、N-イソプロピルホルムアミド、N-イソプロピルアセトアミド、N-イソプロピルプロパンアミド、N-イソプロピルブタンアミド、N-イソプロピルイソブチルアミド、N-イソプロピルペンタンアミド、N-ブチルホルムアミド、N-ブチルアセトアミド、N-ブチルプロパンアミド、N-ブチルブタンアミド、N-ブチルイソブチルアミド、N-ブチルペンタンアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルブタンアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N,N-ジメチルペンタンアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジエチルプロパンアミド、N,N-ジエチルブタンアミド、N,N-ジエチルイソブチルアミド、N,N-ジエチルペンタンアミド、N,N-ジプロピルホルムアミド、N,N-ジプロピルアセトアミド、N,N-ジプロピルプロパンアミド、N,N-ジプロピルブタンアミド、N,N-ジプロピルイソブチルアミド、N,N-ジプロピルペンタンアミド、N,N-ジイソプロピルホルムアミド、N,N-ジイソプロピルアセトアミド、N,N-ジイソプロピルプロパンアミド、N,N-ジイソプロピルブタンアミド、N,N-ジイソプロピルイソブチルアミド、N,N-ジイソプロピルペンタンアミド、N,N-ジブチルホルムアミド、N,N-ジブチルアセトアミド、N,N-ジブチルプロパンアミド、N,N-ジブチルブタンアミド、N,N-ジブチルイソブチルアミド、N,N-ジブチルペンタンアミド、N-エチル-N-メチルホルムアミド、N-エチル-N-メチルアセトアミド、N-エチル-N-メチルプロパンアミド、N-エチル-N-メチルブタンアミド、N-エチル-N-メチルイソブチルアミド、N-エチル-N-メチルペンタンアミド、N-メチル-N-プロピルホルムアミド、N-メチル-N-プロピルアセトアミド、N-メチル-N-プロピルプロパンアミド、N-メチル-N-プロピルブタンアミド、N-メチル-N-プロピルイソブチルアミド、N-メチル-N-プロピルペンタンアミド、N-エチル-N-プロピルホルムアミド、N-エチル-N-プロピルアセトアミド、N-エチル-N-プロピルプロパンアミド、N-エチル-N-プロピルブタンアミド、N-エチル-N-プロピルイソブチルアミド、N-エチル-N-プロピルペンタンアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類;エチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、プロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル等のモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルメチルエーテル等の多価アルコールのジアルキルエーテル類エチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート等のアセテート類;γ-ブチロラクトン、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ヘキサノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、δ-バレロラクトン、δ-ヘキサノラクトン、δ-ヘプタラクトン、δ-オクタラクトン、δ-ノナラクトン、δ-デカラクトン、δ-ウンデカラクトン、γ,γ-ジメチル-γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-クロトラクトン、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、β-メチル-γ-ブチロラクトン、6-メチルバレロラクトン等のラクトン類、2,3-ブチレンカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル類、3-メチル-2-オキサゾリジノン、3-エチル-2-オキサゾリジノン、N-ビニルメチルオキサゾリジノン等のオキサゾリジノン系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ペンタノール等の炭素数1~5のアルキルアルコール類、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-n-ブタノール等の1価のアルコール類、アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン類;N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の含窒素複素環化合物;γ-ブチロラクトン、スルホラン等の環状化合物、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-ホルミルモルホリンなどのモルホリン類、テルペン系溶剤等が挙げられる。この中でも、オーバーコートインクが後述するような静的表面張力の関係になるような所望の静的表面張力になるように水溶性溶媒を選択することが好ましく、例えば、プロピレングリコールなどのアルカンジオールを使用することが好ましい。
【0051】
有機溶媒の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、有機溶媒の含有量の下限は、オーバーコートインク全量中5質量%以上の範囲内であることが好ましく、10質量%以上の範囲内であることがより好ましく、12質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。水溶性溶媒の含有量の上限は、オーバーコートインク全量中50質量%以下の範囲内であることが好ましく、45質量%以下の範囲内であることがより好ましく、40質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0052】
[ワックス]
オーバーコートインクは、ワックスを含有してもよい。ワックスとは、常温またはそれ以下の温度で固体であって加熱すると液化する有機物やシリコーン化合物である。所定のガラス転移温度の範囲の樹脂とともに、ワックスを含有することで、オーバーコート層の耐擦性をさらに向上させることができる。さらに、ワックスを含有することで、オーバーコート層の滑り性をより効果的に向上させることが可能となり、本発明の効果をさらに奏するオーバーコートインクとなる。また、ワックスを含有することで、より耐擦性に優れたオーバーコート層を形成することが可能となる。
【0053】
ワックスとしては具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリエチレン混合ワックス、ポリプロピレンワックス、ポリプロピレン混合ワックス等の低分子量ポリオレフィンワックス類、軟化点を有するシリコーン(シリコン)類、シリコーン(シリコン)-アクリルワックス類、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類、エステルワックス、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス類、ミツロウ、ラノリン、鯨ロウ等の動物系ワックス類、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物系ワックス類、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、パラフィン混合ワックス等の石油系ワックス類、及びそれらの変性物が挙げられる。これらのワックスは、市販品として容易に入手することができる。これらのワックスには、滑剤やスリップ剤と呼ばれるものも含まれる。これらの中でもポリエチレン、シリコーン系界面活性剤をワックスとして使用することが好ましい。このようなポリエチレン、シリコーン系界面活性剤としては、AQUACER515、531(ビックケミー製ポリエチレンワックスエマルジョン)、ノプコートPEM-17(サンノプコ(株)製ポリエチレンワックスエマルジョン)、TEGO Glide410、440、450、482、485、496(エボニック社製シリコーン界面活性剤)、シルフェイスSAG005、シルフェイスSAG008(日信化学工業(株)製シリコーン界面活性剤)等が挙げられる。本実施の形態に係るオーバーコートインクにおいて、ワックスは1種単独でも、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0054】
オーバーコートインクにワックスを含有させる場合、ワックスの含有量の下限は、オーバーコートインク全量中0.05質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましい。これにより、オーバーコート層の滑り性をさらに効果的に向上させることが可能となり、本発明の効果をさらに奏するオーバーコートインクとなる。ワックスの含有量の上限は、オーバーコートインク全量中5.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であることがさらに好ましい。これにより、オーバーコートインク中でのワックスの分散性を向上させることが可能となり、特に、インクジェット方式により記録物の表面に吐出されるオーバーコートインクである場合には、吐出安定性を向上させることが可能となる。
【0055】
[界面活性剤]
本実施の形態に係るオーバーコートインクは、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤を含有することで、オーバーコートインクの表面張力を適切な範囲に制御することができる。界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、表面張力の調整性が優れる点から、アニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤、シリコーン(シリコン)系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等が好ましく用いられる。これらの中でもシリコーン(シリコン)系界面活性剤やアセチレングリコール系界面活性剤を含有するものが特に好ましい。これにより、オーバーコートインクの表面張力を適切な範囲に制御することが可能となり、例えば後述するような水性インクの静的表面張力や前処理インクの静的表面張力の所望の関係となるような範囲に制御することが可能となる。さらに、水を含有する本実施の形態に係るオーバーコートインクをインクジェット方式で用いる際には、シリコーン(シリコン)系界面活性剤やアセチレングリコール系界面活性剤を含有することで吐出安定性を維持させることが可能となる。この理由は必ずしも明らかではないが、水を含むオーバーコートをインクジェット方式で用いる際、インクジェット吐出の際に水が揮発することがあり、成分割合が変化してオーバーコートインクに含まれる樹脂の分散性が低下し、吐出安定性が低下することがある。本実施の形態に係る所定のガラス転移温度の範囲の樹脂を含むオーバーコートインクにおいて、シリコーン(シリコン)系界面活性剤やアセチレングリコール系界面活性剤を含有することで、水が揮発することにより樹脂の分散性の低下を抑制できるためであると考えられる。
【0056】
界面活性剤の具体例としては、エマール、ラテムル、ペレックス、ネオペレックス、デモール(いずれも、アニオン系界面活性剤;花王株式会社製)、サンノール、リポラン、ライポン、リパール(いずれも、アニオン系界面活性剤;ライオン株式会社製)、ノイゲン、エパン、ソルゲン(いずれも非イオン性界面活性剤;第一工業製薬株式会社製)エマルゲン、アミート、エマゾール(いずれも非イオン性界面活性剤;花王株式会社製)、ナロアクティー、エマルミン、サンノニック(いずれも非イオン性界面活性剤;三洋化成工業株式会社製)、サーフィノール104、82、420、440、465、485、TG、2502、SE-F、107L、ダイノール360、ダイノール604、ダイノール607(いずれも、アセチレングリコール系界面活性剤;エボニック社製)、ダイノール960(アセチレングリコール系とシリコン系界面活性剤の配合物;エボニック社製)、サーフィノールAD01(アルカングリコール系界面活性剤;エボニック社製)、オルフィンE1004、E1010、PD004、EXP4300(いずれも、アセチレングリコール系界面活性剤;日信化学工業株式会社製)、メガファック(フッ素系界面活性剤;DIC株式会社製)、サーフロン(フッ素系界面活性剤;AGCセイミケミカル社製)、BYK302、306、307、331、333、345、346、347、348、349、3420、3450、3451、3455、3456(いずれもシリコーン(シリコン)系界面活性剤;ビックケミー社製)、KP-110、112、323、341、6004(いずれもシリコーン(シリコン)系界面活性剤;信越化学株式会社製)シルフェイスSAG002、シルフェイスSAG005、シルフェイスSAG008、シルフェイスSAG014、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSJG002、シルフェイスSJM-002、シルフェイスSJM-003(いずれも、シリコーン(シリコン)系界面活性剤;日信化学工業(株)製)、TEGO FLOW 425、TEGO Glide 100、110、130、410、432、440、450、482、490、492、494、496、ZG400、TEGO Twin 4000、TEGO Twin 4100、TEGO Twin 4200、TEGO Wet 240、KL245、250、260、265、270、280、(いずれもシリコーン(シリコン)系界面活性剤;エボニック社製)、TEGO Wet 500、505、510、520(いずれもノニオン系界面活性剤;エボニック社製)などが挙げられる。
【0057】
界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、界面活性剤の含有量の下限は、オーバーコートインク全量中0.5質量%以上の範囲内であることが好ましく、0.8質量%以上の範囲内であることがより好ましく、1.0質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量の上限は、オーバーコートインク全量中5.0質量%以下の範囲内であることが好ましく、4.5質量%以下の範囲内であることがより好ましく、4.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量がこのような範囲であることにより、オーバーコートインクでの樹脂やワックスの分散性を向上させることが可能となり、特に、インクジェット方式により記録物の表面に吐出されるオーバーコートインクである場合には、吐出安定性を向上させることが可能となる。
【0058】
[抗菌剤]
本実施の形態に係るオーバーコートインクは、抗菌剤を含有してもよい。抗菌剤としては、無機系抗菌剤又は、水溶性の有機系抗菌剤が挙げられる。抗菌剤としては、黄色ブドウ球菌や大腸菌に代表される細菌類や、かび、酵母などの真菌類や、ウィルスなど、身の回りに存在する菌類や細菌類やウィルスに対して殺菌効果を発揮するものが用いられる。
【0059】
有機機系の抗菌剤としては、フェノールエーテル誘導体、イミダゾール誘導体、スルホン誘導体、N・ハロアルキルチオ化合物、アニリド誘導体、ピロール誘導体、第4アンモニウム塩、ピリジン系、トリアジン系、ベンゾイソチアゾリン系、イソチアゾリン系などが挙げられる。
【0060】
例えば1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、N-フルオルジクロロメチルチオ-フタルイミド、2,3,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル〈以下、「TPN」ともいう。〉、N-トリクロロメチルチオ-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシイミド、8-キノリン酸銅、ビス(トリブチルスズ)オキシド、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール〈以下、「TBZ」ともいう。〉、2-ベンズイミダゾールカルバミン酸メチル〈以下、「BCM」ともいう。〉、10,10′-オキシビスフェノキシアルシン〈以下、「OBPA」ともいう。〉、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォン)ピリジン、ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)亜鉛〈以下、「ZPT」ともいう。〉、N,N-ジメチル-N′-(フルオロジクロロメチルチオ)-N′-フェニルスルファミド〈ジクロルフルアニド〉、ポリ-(ヘキサメチレンビグアニド)ハイドロクロライド、ジチオ-2-2′-ビス(ベンズメチルアミド)、2-メチル-4,5-トリメチレン-4-イソチアゾリン-3-オン、2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-プロパンジオール、ヘキサヒドロ-1,3-トリス-(2-ヒドロキシエチル)-S-トリアジン、p-クロロ-m-キシレノール、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0061】
無機系の抗菌剤としては、殺菌作用の高い順に、水銀、銀、銅、亜鉛、鉄、鉛、ビスマスなどが挙げられる。例えば、銀、銅、亜鉛、ニッケル等の金属や金属イオンをケイ酸塩系担体、リン酸塩系担体、酸化物、ガラスやチタン酸カリウム、アミノ酸等に担持させたものが挙げられる。例えばゼオライト系抗菌剤、ケイ酸カルシウム系抗菌剤、リン酸ジルコニウム系抗菌剤、リン酸カルシウム抗菌剤、酸化亜鉛系抗菌剤、溶解性ガラス系抗菌剤、シリカゲル系抗菌剤、活性炭系抗菌剤、酸化チタン系抗菌剤、チタニア系抗菌剤、有機金属系抗菌剤、イオン交換体セラミックス系抗菌剤、層状リン酸塩-四級アンモニウム塩系抗菌剤、抗菌ステンレス等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0062】
[赤外線吸収剤]
本実施の形態に係るオーバーコートインクは、赤外線吸収剤を含有してもよい。赤外線吸収剤としては、赤外線、特に近赤外領域の波長の光を効果的に吸収する性質を有するものであればよく、特に制限されず、無機系及び有機系のいずれも用いることができる。
【0063】
無機系赤外線吸収剤としては、例えば酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、酸化錫、アンチモンドープ酸化錫(ATO)及び硫化亜鉛の中から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0064】
有機系赤外線吸収剤としては、例えばシアニン系化合物、スクワリリウム系化合物、チオールニッケル錯塩系化合物、ナフタロシアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、トリアリルメタン系化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、更にはN,N,N',N'-テトラキス(p-ジ-n-ブチルアミノフェニル)-p-フェニレンジアミニウムの過塩素酸塩、フェニレンジアミニウムの塩素塩、フェニレンジアミニウムのヘキサフルオロアンチモン酸塩、フェニレンジアミニウムのフッ化ホウ素酸塩、フェニレンジアミニウムのフッ素塩、フェニレンジアミニウムの過塩素酸塩等のアミノ化合物、銅化合物とビスチオウレア化合物、リン化合物と銅化合物、リン酸エステル化合物と銅化合物との反応により得られるリン酸エステル銅化合物等が挙げられる。
【0065】
[紫外線吸収剤]
本実施の形態に係るオーバーコートインクは、紫外線吸収剤を含有してもよい。これにより、オーバーコート層の耐光性を向上させることができる。紫外線吸収剤としては、公知の紫外線吸収剤、例えばベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、ベンズオキサゾール系化合物等が挙げられる。
【0066】
[光安定剤]
本実施の形態に係るオーバーコートインクは、光安定剤を含有してもよい。これにより、オーバーコート層の耐光性を向上させることができる。光安定剤としては、従来公知のヒンダードアミン光安定剤(HALS)等が挙げられる。
【0067】
[酸化防止剤]
本実施の形態に係るオーバーコートインクは、酸化防止剤を含有してもよい。これにより、オーバーコート層の耐光性を向上させることができる。酸化防止剤としては、従来公知の酸化防止剤、例えばヒンダードフェノール等のフェノール系、クロマン系、クラマン系、ハイドロキノン誘導体、ベンゾトリアゾール系(紫外線吸収能を有しないもの)、スピロインダン系等が挙げられる。また、エポキシ系化合物、多価カルボン酸化合物であってもよい。
【0068】
[その他の成分]
オーバーコートインクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、色材、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤等が挙げられる。
【0069】
本実施の形態に係るオーバーコートインクは、色材を含有してもよいが、色材をあまり含有しないことが好ましい。これにより記録物の記録面の視認性が向上させることが可能となる。具体的には、色材の含有量はオーバーコートインク全量中3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることが更になお好ましく、色材が含まれないことが最も好ましい。
【0070】
また、オーバーコート層を白色の層とする場合には、白色顔料を含有してもよい。さらに、オーバーコート層をメタリック調の層とする場合には、光輝性顔料を含有してもよい。これらの場合、顔料の含有量の下限はオーバーコートインク全量中0.05質量%以上の範囲内であることが好ましく、0.08質量%以上の範囲内であることがより好ましく、0.1質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。顔料の含有量の上限は、水性インク全量中20質量%以下の範囲内であることが好ましく、15質量%以下の範囲内であることがより好ましく、10質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。白色顔料硫酸バリウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、シリカ、クレー、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、合成マイカ、アルミナ等の無機顔料を挙げることができる。光輝性顔料としては、雲母、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス、二酸化ケイ素、金属酸化物、およびそれらの積層等の真珠光沢や干渉光沢を有するパール顔料やアルミニウム、銀、金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅等の単体金属;金属化合物;合金およびそれら混合物の少なくとも1種の金属含有光輝性顔料が挙げられる。
【0071】
オーバーコートインクの調製方法は、特に限定されない。例えば、水溶性溶媒に樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法等が挙げられる。
【0072】
オーバーコートインクの表面張力は、特に限定されないが、表面張力の上限は、30.0mN/m以下が好ましく、29.0mN/m以下がより好ましく、28.0mN/m以下がさらに好ましい。表面張力の下限は、19.0mN/m以上が好ましく、20.0mN/m以上がより好ましく、21.0mN/m以上がさらに好ましい。なお、静的表面張力は、測定温度25℃にてWilhelmy法(協和界面科学製 型式:DY-300)で測定された値である。
【0073】
オーバーコートインクは、オーバーコートインクに含まれる有機溶媒や界面活性剤の種類や含有量を調整することで所定の範囲内の表面張力を有するオーバーコートインクとなる。
【0074】
≪第1実施形態のインクセット≫
本実施の形態に係るインクセットは、上記のオーバーコートインクと、水性インクと、を含むインクセットである。
【0075】
以下では、本実施の形態に係るインクセットに含まれる水性インクに付いて説明する。
【0076】
[水性インク]
水性インクとは、水を主成分として含み、色材を含んでもよく、上記のオーバーコートインクの塗布に際して予め基材上に塗布されるインクである。水を主成分とする水性インクは、環境に対する影響が少なく、引火することがないため作業者に対して安全性が高い。
【0077】
[水]
水性インクは、水を主成分として含有する。水としては、種々のイオンを含有するものではなく、脱イオン水を使用することが好ましい。水の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、水の含有量の下限は、水性インク全量中30質量%以上の範囲内であることが好ましく、45質量%以上の範囲内であることがより好ましく、50質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。水の含有量の上限は、水性インク全量中85質量%以下の範囲内であることが好ましく、80質量%以下の範囲内であることがより好ましく、75質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0078】
[有機溶剤]
本実施の形態に係る水性インクは、有機溶剤を含有する。有機溶剤は、色材等を分散又は溶解することができるものである。本実施の形態に係る水性インクは、水を含んでいるため、有機溶剤は水溶性溶剤を含むことが好ましい。
【0079】
有機溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ペンタノール等の炭素数1~5のアルキルアルコール類;ホルムアミド、アセトアミド、プロパンアミド、ブタンアミド、イソブチルアミド、ペンタンアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、N-メチルブタンアミド、N-メチルイソブチルアミド、N-メチルペンタンアミド、N-エチルホルムアミド、N-エチルアセトアミド、N-エチルプロパンアミド、N-エチルブタンアミド、N-エチルイソブチルアミド、N-エチルペンタンアミド、N-プロピルホルムアミド、N-プロピルアセトアミド、N-プロピルプロパンアミド、N-プロピルブタンアミド、N-プロピルイソブチルアミド、N-プロピルペンタンアミド、N-イソプロピルホルムアミド、N-イソプロピルアセトアミド、N-イソプロピルプロパンアミド、N-イソプロピルブタンアミド、N-イソプロピルイソブチルアミド、N-イソプロピルペンタンアミド、N-ブチルホルムアミド、N-ブチルアセトアミド、N-ブチルプロパンアミド、N-ブチルブタンアミド、N-ブチルイソブチルアミド、N-ブチルペンタンアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルブタンアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N,N-ジメチルペンタンアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジエチルプロパンアミド、N,N-ジエチルブタンアミド、N,N-ジエチルイソブチルアミド、N,N-ジエチルペンタンアミド、N,N-ジプロピルホルムアミド、N,N-ジプロピルアセトアミド、N,N-ジプロピルプロパンアミド、N,N-ジプロピルブタンアミド、N,N-ジプロピルイソブチルアミド、N,N-ジプロピルペンタンアミド、N,N-ジイソプロピルホルムアミド、N,N-ジイソプロピルアセトアミド、N,N-ジイソプロピルプロパンアミド、N,N-ジイソプロピルブタンアミド、N,N-ジイソプロピルイソブチルアミド、N,N-ジイソプロピルペンタンアミド、N,N-ジブチルホルムアミド、N,N-ジブチルアセトアミド、N,N-ジブチルプロパンアミド、N,N-ジブチルブタンアミド、N,N-ジブチルイソブチルアミド、N,N-ジブチルペンタンアミド、N-エチル-N-メチルホルムアミド、N-エチル-N-メチルアセトアミド、N-エチル-N-メチルプロパンアミド、N-エチル-N-メチルブタンアミド、N-エチル-N-メチルイソブチルアミド、N-エチル-N-メチルペンタンアミド、N-メチル-N-プロピルホルムアミド、N-メチル-N-プロピルアセトアミド、N-メチル-N-プロピルプロパンアミド、N-メチル-N-プロピルブタンアミド、N-メチル-N-プロピルイソブチルアミド、N-メチル-N-プロピルペンタンアミド、N-エチル-N-プロピルホルムアミド、N-エチル-N-プロピルアセトアミド、N-エチル-N-プロピルプロパンアミド、N-エチル-N-プロピルブタンアミド、N-エチル-N-プロピルイソブチルアミド、N-エチル-N-プロピルペンタンアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類;エチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、プロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル等のモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルメチルエーテル等の多価アルコールのジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート等のアセテート類;γ-ブチロラクトン、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ヘキサノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、δ-バレロラクトン、δ-ヘキサノラクトン、δ-ヘプタラクトン、δ-オクタラクトン、δ-ノナラクトン、δ-デカラクトン、δ-ウンデカラクトン、γ,γ-ジメチル-γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-クロトラクトン、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、β-メチル-γ-ブチロラクトン、6-メチルバレロラクトン等のラクトン類、2,3-ブチレンカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル類、3-メチル-2-オキサゾリジノン、3-エチル-2-オキサゾリジノン、N-ビニルメチルオキサゾリジノン等のオキサゾリジノン系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ペンタノール等の炭素数1~5のアルキルアルコール類、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-n-ブタノール等の1価のアルコール類、アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン類;N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の含窒素複素環化合物;γ-ブチロラクトン、スルホラン等の環状化合物、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-ホルミルモルホリンなどのモルホリン類、テルペン系溶剤等が挙げられる。
【0080】
これらの中でも、水-オクタノール分配係数が-0.3以下の有機溶剤を含有することが好ましい。水-オクタノール分配係数とは、水と1-オクタノールと、の2つの溶媒相中に化学物質を加えて平衡状態となった時の、その2相における有機溶剤の濃度比の常用対数を意味する。
【0081】
水性インクの基材(記録媒体)への浸透性が高いと、基材表面に残存する水性インクの量が減り、これにより基材に対する水性インクの濡れ広がり(基材表面方向への広がり)が低下して埋まり不良が発生することがある。水とともに水-オクタノール分配係数が-0.3以下の有機溶剤を含有することで基材(記録媒体)への浸透を抑制できることが本発明の研究により明らかとなった。そして、水性インクの基材(記録媒体)への浸透を抑制することで、濡れ広がり性が低下して埋まり不良を効果的に抑制することが可能となり、再現性の高い画像が得られる。
【0082】
水-オクタノール分配係数が-0.3以下の有機溶剤は、水との親和性が高く水とともに含有することで基材に対して接触角が低くすること(すなわち、濡れ性を高くすること)が可能となって、基材(記録媒体)への浸透よりも濡れ広がりやすくなるためである。
【0083】
さらに、水-オクタノール分配係数が-0.3以下の有機溶剤を含む水性インク上に上記の所定のガラス転移温度の範囲の樹脂を含むオーバーイングを塗布することで埋まり不良が抑制され再現性の高い画像上に滑り性の高いオーバーコート層を形成することが可能である。これにより、その再現性の高い画像をオーバーコート層により保護しつつ、例えば複数積み重なった記録物を比較的高い荷重が加わった状態で1枚ずつ高速に繰り出すことができる。さらに、水-オクタノール分配係数が-0.3以下の有機溶剤を含む水性インクにより得られた記録層に耐擦性や光沢性を付与することができる。
【0084】
このような水-オクタノール分配係数が-0.3以下の有機溶剤としては、水-オクタノール分配係数が-0.3以下のアルカンジオール類の有機溶剤であることが好ましく、例えば、1,2-ブタンジオール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール等が挙げられる。
【0085】
有機溶媒の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、有機溶媒の含有量の下限は、水性インク全量中5質量%以上の範囲内であることが好ましく、10質量%以上の範囲内であることがより好ましく、12質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。有機溶媒の含有量の上限は、水性インク全量中50質量%以下の範囲内であることが好ましく、45質量%以下の範囲内であることがより好ましく、40質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0086】
また、水-オクタノール分配係数が-0.3以下の有機溶剤(例えば、水-オクタノール分配係数が-0.3以下のアルカンジオール類の有機溶剤)の含有量としては、特に限定されるものではないが、その含有量の下限は、水性インク全量中1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、水-オクタノール分配係数が-0.3以下の有機溶剤の含有量の下限は、水性インク全量中50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、23質量%以下であることがさらに好ましい。
【0087】
[樹脂]
本実施の形態に係る水性インクは、樹脂を含有してもよい。樹脂を含有することで顔料の基材(記録媒体)への浸透を抑制して、色材の定着を促進することができる。樹脂としては、定着性に優れ、水性インクの層の耐水性に優れる点から樹脂エマルションが好ましい。また、樹脂エマルジョンを形成することによって、樹脂が静電反発力や立体反発力によって樹脂微粒子として水性インク中に分散することができ、分散安定性を向上させることが可能となる。
【0088】
具体的には、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン(シリコン)系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂からなる群より選択される1つ以上の樹脂あるいは共重合樹脂を含むものあるいはこれらの混合物を用いることができる。これらのものは耐水性に加えて耐溶剤性も向上させることができる点で好ましい。中でも、吐出安定性、耐水性及び耐溶剤性に優れたものとすることができることから、構成モノマーの少なくとも1つ以上にアクリル骨格を有するアクリル系樹脂を含むものであることが好ましい。
【0089】
市販の樹脂エマルジョンとしては、例えば、例えば、アクリットWEM-031U、WEM-200U、WEM-321、WEM-3000、WEM-202U、WEM-3008、(大成ファインケミカル(株)製、アクリル-ウレタン樹脂エマルジョン)、アクリットUW-550CS、UW-223SX、AKW107、RKW-500(大成ファインケミカル(株)製、アクリル樹脂エマルジョン)、LUBRIJET N240(ルーブリゾール製、アクリル樹脂エマルジョン)、スーパーフレックス150、210、470、500M、620、650、E2000、E4800、R5002(第一工業製薬(株)製、ウレタン樹脂エマルジョン)、ビニブラン701FE35、701FE50、701FE65、700、701、711、737、747(日信化学(株)製、塩化ビニル-アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2706、2685(日信化学(株)製、アクリル樹脂エマルジョン)、モビニール743N、6520、6600、6820、7470、7720、(ジャパンコーティングレジン社製、アクリル樹脂エマルジョン)、PRIMAL AC-261P、 AC-818(ダウ・ケミカル社製 アクリル樹脂エマルジョン)、NeoCryl A2091、A2092、A639、A655、A662(DSM Coating Resin社製 スチレン-アクリル樹脂エマルジョン)、QE-1042、KE-1062(星光PMC社製 スチレン-アクリル樹脂エマルジョン)、JE-1056(星光PMC社製 アクリル樹脂エマルジョン)、JONCRYL7199、PDX-7630A(BASFジャパン社製 スチレン-アクリル樹脂エマルジョン)、シャリーヌR170BX(日信化学工業社製 シリコーン-アクリル樹脂エマルジョン)、タケラックW-6010(三井化学社製 ウレタン樹脂エマルジョン)、エリーテルKA-5071S(ユニチカ社製 ポリエステル樹脂エマルジョン)、ポリゾールAP-1350(昭和電工社製 アクリル樹脂エマルジョン)等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0090】
水性インクに含まれる樹脂(樹脂エマルジョン)の含有量は、特に限定されるものではないが、樹脂の含有量の下限は、水性インク全量中0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることが好ましく、更に0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上がより好ましい。これにより、水性インクが基材(記録媒体)に浸透することを抑制できるようになり、部分的に印字濃度が低下して埋まり不良を効果的に抑制することが可能となり、再現性の高い画像が得られるようになる。樹脂の含有量の上限は、水性インク全量中15質量%以下であることが好ましく、中でも、12質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。これにより、樹脂の分散安定性がさらに向上する。特に、水性インクをインクジェット方式により基材の表面に吐出する場合には、樹脂の含有量が15質量%以下であることで吐出安定性をさらに高めることが可能となる。
【0091】
この中でも本実施の形態に係るインクセット(第1実施形態のインクセット)や後述するインクセット(第2実施形態のインクセット)において、水性インクに含まれる樹脂(樹脂エマルジョン)の含有量はオーバーコートインクに含まれる樹脂(樹脂エマルジョン)の含有量よりも少ないことが好ましい。特に水性インクが流動性を有し液体として存在している間にその液体の表面上に直接オーバーコートインクを塗布する場合には、水性インクとオーバーコートインクとの界面でこれらのインクが混和する。そして、水性インクに含まれる樹脂の含有量がオーバーコートインクに含まれる樹脂の含有量よりも多いと、水性インクに含まれる樹脂の一部がオーバーコートインクに含まれることとなる。すると、水性インクに含まれる樹脂の影響を受けてオーバーコート層の滑り性が相対的に低下することがある。水性インクに含まれる樹脂(樹脂エマルジョン)の含有量はオーバーコートインクに含まれる樹脂(樹脂エマルジョン)の含有量よりも少ないことで、水性インクに含まれる樹脂の影響を受けてオーバーコート層の滑り性が低下することを抑制できるので、本発明の効果をさらに奏するインクセットとなる。
【0092】
樹脂エマルジョンの平均粒子径は、30nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましく、50nm以上がさらに好ましい。樹脂エマルジョンの平均粒子径は、300nm以下が好ましく、270nm以下がより好ましく、250nm以下がさらに好ましい。これにより、水性インク中での樹脂エマルジョンの分散安定性がさらに向上する。特に、水性インクをインクジェット方式により記録物の表面に吐出する場合には、樹脂は少なくとも一部が樹脂エマルションを含むものであることで吐出安定性をさらに高めることが可能となる。なお、本実施形態において、樹脂エマルジョンの平均粒子径は、測定温度25℃にて濃厚系粒径アナライザー(大塚電子(株)製、型式:FPAR-1000)を用いて測定することができる。
【0093】
樹脂エマルジョンの質量平均分子量は、水性インクの層の耐水性の観点から、10000以上が好ましく、50000以上がより好ましく、100000以上がさらに好ましい。樹脂エマルジョンの質量平均分子量は、インク組成物の安定性の観点から、1000000以下が好ましく、700000以下がより好ましく、500000以下がより好ましい。なお、本実施形態において樹脂の分子量は、質量平均分子量Mwを示すものであり、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値であり、東ソー(株)製の「HLC-8120GPC」にて、校正曲線用ポリスチレンスタンダードを標準にして測定することができる。
【0094】
[色材]
本実施の形態に係る水性インクには色材を含有してもよい。色材を含有することで、基材の表面に印字をすることが可能となり、所望の画像パターンを形成する記録層を形成することができる。色材としては、染料であっても顔料であってもよいが顔料であることが好ましい。
【0095】
顔料としては、従来インクジェットインクに使用されている顔料、例えば、硫酸バリウム、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸バリウム、硫酸バリウム、シリカ、クレー、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、合成マイカ、アルミナ等の無機顔料、又は有機顔料等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。具体的な有機顔料としては、例えば、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、染料からの誘導体、フタロシアニン系有機顔料、キナクリドン系有機顔料、ペリレン系有機顔料、ペリノン系有機顔料、アゾメチン系有機顔料、アントラキノン系有機顔料(アントロン系有機顔料)、キサンテン系有機顔料、ジケトピロロピロール系有機顔料、ジオキサジン系有機顔料、ニッケルアゾ系顔料、イソインドリノン系有機顔料、ピランスロン系有機顔料、チオインジゴ系有機顔料、縮合アゾ系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料、キノフタロン系有機顔料、イソインドリン系有機顔料、キナクリドン系固溶体顔料、ペリレン系固溶体顔料等の有機固溶体顔料、その他の顔料として、レーキ顔料やカーボンブラック等が挙げられる。
【0096】
有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで例示すると、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、20、24、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、117、120、125、128、129、130、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185、213、214;C.I.ピグメントレッド5、7、9、12、48、48:2、48:3、49、52、53、57、57:1、97、112、122、123、146、149、150、168、176、177、180、184、185、192、202、206、208、209、213、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、269、291;C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、64、71、73;C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50;C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64;C.I.ピグメントグリーン7、36、58、59、62、63;C.I.ピグメントブラウン23、25、26;C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0097】
本実施の形態に係る水性インクにおいて、用いることのできる染料の具体例としては、アゾ系染料、ベンゾキノン系染料、ナフトキノン系染料、アントラキノン系染料、シアニン系染料、スクアリリウム系染料、クロコニウム系染料、メロシアニン系染料、スチルベン系染料、ジアリールメタン系染料、トリアリールメタン系染料、フルオラン系染料、スピロピラン系染料、フタロシアニン系染料、インジゴイド等のインジゴ系染料、フルギド系染料、ニッケル錯体系染料、及びアズレン系染料が挙げられる。
【0098】
また、前記無機顔料の具体例としては、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、亜鉛華、硫酸鉛、黄色鉛、亜鉛黄、べんがら(赤色酸化鉄(III))、カドミウム赤、群青、紺青、酸化クロム緑、コバルト緑、アンバー、チタンブラック、合成鉄黒、無機固溶体顔料等を挙げることができる。
【0099】
顔料の平均分散粒径は、所望の発色が可能なものであれば特に限定されるものではない。顔料の種類によっても異なるが、顔料の分散安定性が良好で、充分な着色力を得る点から、顔料の平均分散粒径の下限は、10nm以上の範囲内であることが好ましく、20nm以上の範囲内であることがより好ましく、30nm以上の範囲内であることがさらに好ましい。顔料の平均分散粒径の上限は、300nm以下の範囲内であることが好ましく、250nm以下の範囲内であることがより好ましく、200nm以下の範囲内であることがさらに好ましい。平均分散粒径が300nm以下であれば、インクジェットヘッドのノズル目詰まりを起こしにくく、再現性の高い均質な画像を得ることができる。平均分散粒径が10nm以上であれば、得られる印刷物の耐光性を良好なものとすることができる。なお、本実施形態において、顔料の平均分散粒径は、濃厚系粒径アナライザー(大塚電子(株)製、型式:FPAR-1000))を用いて25℃の条件下で測定した平均粒子径(D50)である。
【0100】
顔料の含有量としては、所望の画像を形成可能であれば特に限定されるものではなく、適宜調整されるものである。具体的には、顔料の種類によっても異なるが、顔料の含有量の下限は、水性インク全量中0.05質量%以上の範囲内であることが好ましく、0.08質量%以上の範囲内であることがより好ましく、0.1質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。顔料の含有量の上限は、水性インク全量中20質量%以下の範囲内であることが好ましく、15質量%以下の範囲内であることがより好ましく、10質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。顔料の含有量が0.05質量%以上、又は20質量%以下の範囲内であることにより、顔料の分散安定性と着色力のバランスに優れたものとすることができる。
【0101】
[顔料分散剤]
本実施の形態に係る水性インクには顔料分散剤が含有されていてもよい。ここで顔料分散剤とは、顔料表面の一部に付着することでインク内での顔料の分散性を向上させる機能を有する樹脂又は界面活性剤のことを意味する。
【0102】
本実施の形態に係る水性インクにおいて、用いることのできる顔料分散剤は特に限定されない。例えば、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性、シリコーン(シリコン)系、フッ素系等の界面活性剤を使用できる。界面活性剤の中でも、次に例示するような高分子界面活性剤(高分子分散剤)が好ましい。
【0103】
本実施の形態に係る水性インクにおいて用いることのできる顔料分散剤としては、水溶性高分子分散剤を好ましく用いることができる。水溶性高分子分散剤としては、例えば、ポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプトラクトン系の主鎖を有し、側鎖に、アミノ基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等の極性基を有する分散剤等が挙げられる。例えば、ポリアクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体類;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物とアクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルの共重合体類;ポリアクリル酸等の不飽和カルボン酸の(共)重合体の(部分)アミン塩、(部分)アンモニウム塩や(部分)アルキルアミン塩類;水酸基含有ポリアクリル酸エステル等の水酸基含有不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体やそれらの変性物;ポリウレタン類;不飽和ポリアミド類;ポリシロキサン類;長鎖ポリアミノアミドリン酸塩類;ポリエチレンイミン誘導体(ポリ(低級アルキレンイミン)と遊離カルボキシル基含有ポリエステルとの反応により得られるアミドやそれらの塩基);ポリアリルアミン誘導体(ポリアリルアミンと、遊離のカルボキシル基を有するポリエステル、ポリアミド又はエステルとアミドの共縮合物(ポリエステルアミド)の3種の化合物の中から選ばれる1種以上の化合物とを反応させて得られる反応生成物)等が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル樹脂を含有する水溶性高分子分散剤が、インクの分散安定性と、印刷物の画像鮮明性の観点から好ましい。
【0104】
水溶性高分子分散剤の具体例としては、Cray Valley製SMA1440、SMA2625、SMA17352、SMA3840、SMA1000、SMA2000、SMA3000、BASFジャパン社製JONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL586、JONCRYL611、JONCRYL680、JONCRYL682、JONCRYL690、JONCRYL819、JONCRYL-JDX5050、EFKA4550、EFKA4560、EFKA4585、EFKA5220、EFKA6230、Dispex Ultra PX4575、ルーブリゾール社製SOLSPERSE20000、SOLSPERSE27000、SOLSPERSE40000、SOLSPERSE41000、SOLSPERSE41090、SOLSPERSE43000、SOLSPERSE44000、SOLSPERSE45000、SOLSPERSE46000、SOLSPERSE47000、SOLSPERSE53095、SOLSPERSE54000、SOLSPERSE64000、SOLSPERSE65000、SOLSPERSE66000、SOLSPERSE J400、SOLSPERSE W100、SOLSPERSE W200、SOLSPERSE W320、SOLSPERSE WV400、ビックケミー社製ANTI-TERRA-250、BYKJET-9150、BYKJET-9151、BYKJET-9152、BYKJET-9170、DISPERBYK-102、DISPERBYK-168、DISPERBYK-180、DISPERBYK-184、DISPERBYK-185、DISPERBYK-187、DISPERBYK-190、DISPERBYK-191、DISPERBYK-193、DISPERBYK-194N、DISPERBYK-198、DISPERBYK-199、DISPERBYK-2010、DISPERBYK-2012、DISPERBYK-2013、DISPERBYK-2014、DISPERBYK-2015、DISPERBYK-2018、DISPERBYK-2019、DISPERBYK-2055、DISPERBYK-2060、DISPERBYK-2061、DISPERBYK-2081、DISPERBYK-2096、エボニック社製TEGO DISPERS650、TEGO DISPERS651、TEGO DISPERS652、TEGO DISPERS655、TEGO DISPERS660C、TEGO DISPERS670、TEGO DISPERS715W、TEGO DISPERS740W、TEGO DISPERS741W、TEGO DISPERS750W、TEGO DISPERS752W、TEGO DISPERS755W、TEGO DISPERS757W、TEGO DISPERS760W、TEGO DISPERS761W、TEGO DISPERS765W、ZETASPERSE170、ZETASPERSE179、ZETASPERSE182、ZETASPERSE3100、ZETASPERSE3400、ZETASPERSE3700、ZETASPERSE3800、サンノプコ社製SNディスパーサント2010、SNディスパーサント2060、SNディスパーサント4215、SNディスパーサント5027、SNディスパーサント5029、SNディスパーサント5034、SNディスパーサント5468、ノプコール5200、ノプコサントK、ノプコサントR、ノプコスパース44-C、ノプコスパース6100、ノプコスパース6150等が挙げられる。これらの顔料分散剤は、本実施の形態に係る水性インクにおいて好適に用いることができる。
【0105】
本実施の形態に係る水性インクにおいて、用いることのできる顔料は、顔料を顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体、であっても、顔料の表面に直接に親水性基を修飾した自己分散型顔料とした顔料分散体であってもよい。本実施形態において、インクジェット記録用インクに用いることのできる顔料は、複数の先述した有機顔料や無機顔料を併用してもよく、先述した顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体と自己分散型顔料を併用したものであってもよい。そのなかでも、本実施の形態に係るインクセットにおいては、自己分散型顔料を含まない顔料を使用することが好ましい。これにより、水性インクのはじきを効果的に抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、水性インクが適度に濡れ広がって基材埋まりが良好となって、水性インクのはじきを効果的に抑制することができるものと推定される。
【0106】
[界面活性剤]
本実施の形態に係る水性インクは、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、表面張力の調整性が優れる点から、アニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤、シリコーン(シリコン)系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等が好ましく用いられる。
【0107】
具体例としては、エマール、ラテムル、ペレックス、ネオペレックス、デモール(いずれも、アニオン系界面活性剤;花王株式会社製)、サンノール、リポラン、ライポン、リパール(いずれも、アニオン系界面活性剤;ライオン株式会社製)、ノイゲン、エパン、ソルゲン(いずれも非イオン性界面活性剤;第一工業製薬株式会社製)エマルゲン、アミート、エマゾール(いずれも非イオン性界面活性剤;花王株式会社製)、ナロアクティー、エマルミン、サンノニック(いずれも非イオン性界面活性剤;三洋化成工業株式会社製)、サーフィノール104、82、420、440、465、485、TG、2502、SE-F、107L、ダイノール360、ダイノール604、ダイノール607(いずれも、アセチレングリコール系界面活性剤;エボニック社製)、ダイノール960(アセチレングリコール系とシリコン系界面活性剤の配合物;エボニック社製)、サーフィノールAD01(アルカングリコール系界面活性剤;エボニック社製)、オルフィンE1004、E1010、PD004、EXP4300(いずれも、アセチレングリコール系界面活性剤;日信化学工業株式会社製)、メガファック(フッ素系界面活性剤;DIC株式会社製)、サーフロン(フッ素系界面活性剤;AGCセイミケミカル社製)、BYK302、306、307、331、333、345、346、347、348、349、3420、3450、3451、3455、3456(いずれもシリコーン(シリコン)系界面活性剤;ビックケミー社製)、KP-110、112、323、341、6004(いずれもシリコーン(シリコン)系界面活性剤;信越化学株式会社製)、シルフェイスSAG002、シルフェイスSAG005、シルフェイスSAG008、シルフェイスSAG014、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSJM-002、シルフェイスSJM-003(いずれもシリコーン(シリコン)系界面活性剤;日信化学工業(株)製)、TEGO FLOW 425、TEGO Glide 100、110、130、410、432、440、450、482、490、492、494、496、ZG400、TEGO Twin 4000、TEGO Twin 4100、TEGO Twin 4200、TEGO Wet 240、TEGO Wet 250、TEGO Wet 240、KL245、250、260、265、270、280、(いずれもシリコーン(シリコン)系界面活性剤;エボニック社製)、TEGO Wet 500、505、510、520(いずれもノニオン系界面活性剤;エボニック社製)などが挙げられる。
【0108】
界面活性剤の含有量は、それぞれのインクの静的表面張力が所定の範囲であれば特に限定されないが、界面活性剤の含有量の下限は、水性インク全量中0.30質量%以上の範囲内であることが好ましく、0.40質量%以上の範囲内であることがより好ましく、0.50質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量の上限は、水性インク全量中5.0質量%以下の範囲内であることが好ましく、4.0質量%以下の範囲内であることがより好ましく、3.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0109】
[その他の成分]
水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、ワックス、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤等が挙げられる。
【0110】
水性インクの調製方法は、特に限定されない例えば、水溶性溶媒に自己分散型の顔料、樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法、水溶性溶媒に、顔料と分散剤を加えて分散した後、樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法、水溶性溶媒に顔料と樹脂と界面活性剤と必要に応じてその他の成分を添加した後、顔料を分散して調製する方法等が挙げられる。
【0111】
水性インクの表面張力は、特に限定されないが、表面張力の上限は、35.0mN/m以下が好ましく、32.0mN/m以下がより好ましく、30.0mN/m以下がさらに好ましい。表面張力の下限は、21.5mN/m以上が好ましく、22.5mN/m以上がより好ましく、23.5mN/m以上がさらに好ましい。
【0112】
水性インクは、水性インクに含まれる水溶性溶媒や界面活性剤の種類や含有量を調整することで所定の範囲内の表面張力を有する水性インクとなる。水性インクの表面張力(静的表面張力)は、インクセットに含まれるオーバーコートインクの静的表面張力Soと水性インクの静的表面張力Scは、以下の関係を満たすように、水性インクの静的表面張力を調製することが好ましい。
【0113】
オーバーコートインクの静的表面張力So<水性インクの静的表面張力Sc
【0114】
このような静的表面張力の関係があることで水性インクの滲みを効果的に抑制することが可能となる。この理由は明らかではないが、オーバーコートインクと水性インクとの界面でオーバーコートインクは広がる方向(外側の方向)に流動し、水性インクは収縮する方向(内側の方向)に流動することにより、水性インクの濡れ広がりを制御し、水性インクのにじみを効果的に抑制することができるものと推定される。
【0115】
なお、オーバーコートインクは水性インクが固化又は乾燥されることにより形成された水性インクの層上に着弾されてもよいが、水性インクが基材上に着弾して液体として存在している間(流動性を有する状態)に吐出されて、基材に着弾されることが好ましい。基材上の水性インクの流動性が高い状態で、オーバーコートインクが基材上の水性インクに着弾されても、水性インクが広がることを抑制することができる。しかも、基材上の水性インクの流動性が高い状態で、オーバーコートインクが基材上の水性インクに着弾されることでより高速で印刷することが可能となって記録物の製造速度を向上させることが可能となる。
【0116】
オーバーコートインクの静的表面張力Soと、水性インクの静的表面張力Scとの差(Sc-SO)の下限は、0.6mN/m以上であることが好ましく、0.8mN/m以上であることがより好ましく、0.9mN/m以上であることがさらに好ましい。SOとScとの差(Sc-SO)が0.6mN/m以上であることにより、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、SOとScとの差(Sc-SO)が0.6mN/m以上であることで、オーバーコートインクに対して混合物(前処理インクと水性インクとの混合物)は収縮する方向(内側の方向)に流動して水性インクのにじみを抑制できるためであると推定される。
【0117】
また、SOとScとの差(Sc-SO)の上限は特に限定されないが、7.5mN/m以下であることが好ましく、6.0mN/m以下であることがより好ましく、4.5mN/m以下であることがさらに好ましい。特に、SOとScとの差(Sc-SO)が7.5mN/m以下であることにより、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、SOとScとの差(Sc-SO)が大きすぎるとオーバーコートインクが大きく濡れ広がりすぎて、水性インクが物理的に追従して濡れ広がってしまい水性インクのにじみが相対的に悪くなる傾向がある。SOとScとの差(Sc-SO)が7.5mN/m以下であることにより、オーバーコートインクが大きく濡れ広がることによる水性インクのにじみをより効果的に抑制できるためであると推定される。
【0118】
≪第2実施形態のインクセット≫
本実施の形態に係るインクセットは、上記のオーバーコートインクと、上記の水性インクと、前処理インクとを含むインクセットである。
【0119】
以下では、本実施の形態に係るインクセットに含まれる前処理インクに付いて説明する。
【0120】
[前処理インク]
前処理インクとは、前処理インクは、基材に水性インクを吐出するのに先立ち水を主成分として含み、反応液としてカチオン性の化合物を含む水性のインクである。前処理インクは、反応液としてカチオン性の化合物を含むものであれば特に限定されない。
【0121】
(反応液)
反応液は、カチオン性の化合物を含み、水性インクに含まれる色材を凝集させ、着弾位置の周囲に広がることにより発生するにじみを抑制する。カチオン性の化合物としては、カチオン基を有するカチオン性の樹脂や金属イオン(カチオン性の化合物)とアニオンからなる金属塩を挙げることができる。この中でも、カチオン基を有するカチオン性の樹脂を使用することが好ましい。これにより、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、カチオン性の樹脂は、分子鎖中の反応点が多く、また樹脂を構成する分子鎖の絡み合いも加わり、水性インクに含まれる色材との凝集性が向上する。また、前処理インクの浸透性を向上させることができる。これらのことから、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができるものと推定される。
【0122】
カチオン性の樹脂としては、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、-NHCONH2基等のカチオン基を有する樹脂が挙げられる。カチオン性の樹脂は、公知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。
【0123】
カチオン性の樹脂は、公知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。以下に市販品を例示すると、APC-810,815;D-6010,6020、6030、6040、6050、6060、6080、6310、DEC-50,53、56,65;FL-14、42,44LF、61、2099,2250,2273、2350、2550、2565、2599、2650、2850、2949、3050、3150、4340、4420、4440、4450、4520、4530、4535、4540、4620、4820;FQP-1264;RSL-18-22,4071H,4400,8391、8391H、HD70C、HF70D;WS-72(SNF社製)、アラフィックス100、251S、255、255LOX(荒川化学社製)、DK-6810、6853、6885;WS-4010、4011、4020、4024、4027、4030(星光PMC社製)、センカF-300;パピオゲンP-105、P-113、P-271、P-316;ピッチノールQG5A;ミリオゲンP-20;ユニセンスFPA100L、FPA101L、FPA102L、FPA1000L、FPA1001L、FPA100LU、FPA102LU、FPA1000LU;ユニセンスFCA1000L、FCA1001L、FCA1002L、FCA1003L、FCA5000L;ユニセンスKCA100L、KCA100LU、KCA1000LU、KCA1001LU;ユニセンスKHE100L、KHE101L、KHE102L、E104L、KHE105L、KHE107L、KHE1000L、KHE1001L;ユニセンスKHP10P、KHP11L、KHP10LU、KHP11LU、KHP12LU、KHP20LU:ユニセンスKHF10L、KHF11L;ユニセンスFPV1000L、FPV1000LU;ユニセンスFCV1000L;ユニセンスZCA1000L、ZCA1001L、ZCA1002L、ZCA5000L;ユニセンスKPV100LU、KPV1000LU(センカ社製)、パラロック410K101、410K111、420K308、420K300、460K313、460K318、470K308、480K300、490K300、490K309、500K30E、500K40E、59D、920AP500、975AP500、PD700、PD714L、PD714S、P600、(浅田化学社製)、スミレーズレジン650(30)、675A、6615、SLX-1(田岡化学工業社製)、EP-1137;MZ-477、480;NS-310X、625XC(高松油脂社製)、PAA-D11-HCL、D19-HCL,D41-HCL、D19A;PAA-HCL-03、05、3L、10L;PAA-1112CL、21CL、AC5050A、N5050CL、SA;PAS-A-1、5;PAS-H-1L、5L、10L;PAS-J-81、81L;PAS-M-1、1A、1L;PAS-21、21CL,22SA-40、24、92、92A、880、2201CL、2401(ニットーボーメディカル社製)、PP-17(明成化学社製);カチオマスターPD-1、7、30、A、PDT-2、PE-10、PE-30、DT-EH、EPA-SK01、TMHMDA-E(四日市合成社製)、ジェットフィックス36N、38A、5052(里田化工社製)などとなる。
【0124】
なお、カチオン性の樹脂は、前処理インク中に溶解した状態で存在していても、樹脂微粒子として分散された状態で存在していてもよい。
【0125】
金属塩としては、価数が少なくとも2価以上の多価金属のイオンと、陰イオンと、を含む多価金属塩を挙げることができる。多価金属イオンとしては、例えばカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、チタンイオン、鉄(II)イオン、鉄(III)イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、バリウムイオン、ストロンチウムイオン等が挙げられる。なかでも、インク組成物中の色材との相互作用が大きく、にじみやムラを抑制する効果が高くなることから、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオンより選択される1種以上を含有することが好ましい。
【0126】
陰イオンは、無機物の陰イオンであってもよく、有機物の陰イオンであってもよい。有機物の陰イオンの具体例としては、酢酸、安息香酸、サリチル酸、2、4-ジヒドロキシ安息香酸、2、5-ジヒドロキシ安息香酸、ジメチロールプロピオン酸、パントテン酸、コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、スベリン酸、トリメリット酸、メチルマロン酸の陰イオンを挙げることができる。無機物の陰イオンの具体例としては、塩化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン等を挙げることができる。
【0127】
カチオン性の化合物の含有量としては、特に限定されるものではないが、カチオン性の化合物の含有量の下限は、前処理インク全量中0.5質量%以上の範囲内であることが好ましく、0.8質量%以上の範囲内であることがより好ましく、1.0質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。カチオン性の化合物の含有量が前処理インク全量中0.5質量%以上の範囲内であることで、色材をより効果的に定着することが可能となり、水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。カチオン性の化合物の含有量の上限は、前処理インク全量中9質量%以下の範囲内であることが好ましく、8質量%以下の範囲内であることがより好ましく、7質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。カチオン性の化合物の含有量が前処理インク全量中9質量%以下の範囲内であることで、前処理インクの保存安定性が向上する。特に、前処理インクをインクジェット方式により基材の表面に吐出する場合には、カチオン性の化合物の含有量が9質量%以下の範囲内であることで吐出安定性をさらに高めることが可能となる。
【0128】
[樹脂]
前処理インクに含まれる樹脂の少なくとも一部は、樹脂エマルジョンとして含有してもよい。樹脂エマルジョンとは、続相が水溶性溶媒であり、分散粒子が樹脂微粒子である水性分散液を意味する。樹脂エマルジョンを形成することによって、樹脂が立体反発力や静電反発力によって樹脂微粒子として受理溶液中に分散することができる。
【0129】
前処理インクに含有される樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスチレン系樹脂からなる群より選択される1つ以上の樹脂あるいは共重合樹脂を含むものあるいはこれらの混合物を用いることができる。
【0130】
前処理インクに含有される樹脂の含有量は、特に限定されるものではないが、樹脂の含有量の下限は、前処理インク全量中0.5質量%以上の範囲内であることが好ましく、0.8質量%以上の範囲内であることがより好ましく、1.0質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。樹脂の含有量の上限は、前処理インク全量中20.0質量%以下の範囲内であることが好ましく、15.0質量%以下の範囲内であることがより好ましく、10.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0131】
[水]
前処理インクは、水を含有してもよい。水としては、種々のイオンを含有するものではなく、脱イオン水を使用することが好ましい。水の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、水の含有量の下限は、前処理インク全量中30質量%以上の範囲内であることが好ましく、前処理インク全量中50質量%以上の範囲内であることがより好ましく、55質量%以上の範囲内であることがさらに好ましく、60質量%以上の範囲内であることがさらになお好ましい。水の含有量の上限は、前処理インク全量中85質量%以下の範囲内であることが好ましく、82質量%以下の範囲内であることがより好ましく、80質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0132】
[有機溶剤]
前処理インクには、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤は、樹脂等を分散又は溶解することができるものである。本実施の形態に係る前処理インクは、水を含んでいるため、有機溶剤は水溶性溶剤を含むことが好ましい。
【0133】
有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ペンタノール等の炭素数1~5のアルキルアルコール類;ホルムアミド、アセトアミド、プロパンアミド、ブタンアミド、イソブチルアミド、ペンタンアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、N-メチルブタンアミド、N-メチルイソブチルアミド、N-メチルペンタンアミド、N-エチルホルムアミド、N-エチルアセトアミド、N-エチルプロパンアミド、N-エチルブタンアミド、N-エチルイソブチルアミド、N-エチルペンタンアミド、N-プロピルホルムアミド、N-プロピルアセトアミド、N-プロピルプロパンアミド、N-プロピルブタンアミド、N-プロピルイソブチルアミド、N-プロピルペンタンアミド、N-イソプロピルホルムアミド、N-イソプロピルアセトアミド、N-イソプロピルプロパンアミド、N-イソプロピルブタンアミド、N-イソプロピルイソブチルアミド、N-イソプロピルペンタンアミド、N-ブチルホルムアミド、N-ブチルアセトアミド、N-ブチルプロパンアミド、N-ブチルブタンアミド、N-ブチルイソブチルアミド、N-ブチルペンタンアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルブタンアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N,N-ジメチルペンタンアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジエチルプロパンアミド、N,N-ジエチルブタンアミド、N,N-ジエチルイソブチルアミド、N,N-ジエチルペンタンアミド、N,N-ジプロピルホルムアミド、N,N-ジプロピルアセトアミド、N,N-ジプロピルプロパンアミド、N,N-ジプロピルブタンアミド、N,N-ジプロピルイソブチルアミド、N,N-ジプロピルペンタンアミド、N,N-ジイソプロピルホルムアミド、N,N-ジイソプロピルアセトアミド、N,N-ジイソプロピルプロパンアミド、N,N-ジイソプロピルブタンアミド、N,N-ジイソプロピルイソブチルアミド、N,N-ジイソプロピルペンタンアミド、N,N-ジブチルホルムアミド、N,N-ジブチルアセトアミド、N,N-ジブチルプロパンアミド、N,N-ジブチルブタンアミド、N,N-ジブチルイソブチルアミド、N,N-ジブチルペンタンアミド、N-エチル-N-メチルホルムアミド、N-エチル-N-メチルアセトアミド、N-エチル-N-メチルプロパンアミド、N-エチル-N-メチルブタンアミド、N-エチル-N-メチルイソブチルアミド、N-エチル-N-メチルペンタンアミド、N-メチル-N-プロピルホルムアミド、N-メチル-N-プロピルアセトアミド、N-メチル-N-プロピルプロパンアミド、N-メチル-N-プロピルブタンアミド、N-メチル-N-プロピルイソブチルアミド、N-メチル-N-プロピルペンタンアミド、N-エチル-N-プロピルホルムアミド、N-エチル-N-プロピルアセトアミド、N-エチル-N-プロピルプロパンアミド、N-エチル-N-プロピルブタンアミド、N-エチル-N-プロピルイソブチルアミド、N-エチル-N-プロピルペンタンアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類;エチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、プロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテル等のモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルメチルエーテル等の多価アルコールのジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル)エーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート等のアセテート類;γ-ブチロラクトン、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ヘキサノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、δ-バレロラクトン、δ-ヘキサノラクトン、δ-ヘプタラクトン、δ-オクタラクトン、δ-ノナラクトン、δ-デカラクトン、δ-ウンデカラクトン、γ,γ-ジメチル-γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-クロトラクトン、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、β-メチル-γ-ブチロラクトン、6-メチルバレロラクトン等のラクトン類、2,3-ブチレンカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル類、3-メチル-2-オキサゾリジノン、3-エチル-2-オキサゾリジノン、N-ビニルメチルオキサゾリジノン等のオキサゾリジノン系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ペンタノール等の炭素数1~5のアルキルアルコール類、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-n-ブタノール等の1価のアルコール類、アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン類;N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の含窒素複素環化合物;γ-ブチロラクトン、スルホラン等の環状化合物、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-ホルミルモルホリンなどのモルホリン類、テルペン系溶剤等が挙げられる。
【0134】
これらの中でも、アルカンジオール及びモノオールからなる群より選択される有機溶剤を含有することが好ましい。これにより、前処理インクの静的表面張力SPを低減させることが可能となり、前処理インクの浸透性を向上させて、前処理インクの上に塗布される水性インクが適度に濡れ広がることで埋まり不良を効果的に抑制することが可能となり、再現性の高い画像が得られるようになる。
【0135】
アルカンジオールとは、水酸基(OH基)を2つ有する多価アルコールであり、モノオールとは、水酸基(OH基)を1つ有する単価アルコールである。アルカンジオールとしては、1,2-アルカンジオールであることが好ましい。1,2-アルカンジオールとしては、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、4-メチル-1,2-ペンタンジオール、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジオール等を挙げることができる。モノオールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ペンタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-n-ブタノール等を挙げることができる。
【0136】
有機溶剤の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、有機溶剤の含有量の下限は、前処理インク全量中5質量%以上の範囲内であることが好ましく、10質量%以上の範囲内であることがより好ましく、12質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。有機溶剤の含有量の上限は、前処理インク全量中50質量%以下の範囲内であることが好ましく、45質量%以下の範囲内であることがより好ましく、40質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0137】
[界面活性剤]
前処理インクには、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン(シリコン)系界面活性剤等が好ましく用いられる。
【0138】
非イオン性界面活性剤としては、ノイゲン、エパン、ソルゲン(いずれも、第一工業製薬社製)エマルゲン、アミート、エマゾール(いずれも、花王社製)、ナロアクティー、エマルミン、サンノニック(いずれも、三洋化成工業社製)等が挙げられる。
【0139】
フッ素系界面活性剤としては、メガファックF-114、F-410、F-440、F-447、F-553、F-556(DIC社製)、サーフロンS-211、S-221、S-231、S-233、S-241、S-242、S-243、S-420、S-661、S-651、S-386(AGCセイミケミカル社製)、等が挙げられる。
【0140】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、サーフィノール104、82、420、440、465、485、TG、2502、ダイノール604、ダイノール607、ダイノール960(いずれも、アセチレングリコール系界面活性剤;エボニック社製)、オルフィンE1004、E1010、PD004、EXP4300(いずれも、アセチレングリコール系界面活性剤;日信化学工業社製)、アセチレノールEH、E40、E60、E81、E100、E200(いずれも、アセチレングリコール系界面活性剤;川研ファインケミカル社製)等が挙げられる。
【0141】
シリコーン(シリコン)系界面活性剤としては、例えば、FZ-2122、FZ-2110、FZ-7006、FZ-2166、FZ-2164、FZ-7001、FZ-2120、SH 8400、FZ-7002、FZ-2104、8029 ADDITIVE、8032 ADDITIVE、57 ADDITIVE、67 ADDITIVE、8616 ADDITIVE(いずれも、ダウ・東レ社製)、KF-6012、KF-6015、KF-6004、KF-6013、KF-6011、KF-6043、KP-104、110、112、323、341、6004(いずれも、信越化学社製)、BYK―300、BYK-302、BYK-306、BYK-307、BYK-320、BYK-325、BYK-330、BYK-331、BYK-333、BYK-337、BYK-341、BYK-344、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349、BYK-3420、BYK-3450、BYK-3451、BYK-3456、BYK-375、BYK-377、BYK-378、BYK-UV3500、BYK-UV3510、BYK-310、BYK-315、BYK-370、BYK-UV3570、BYK-322、BYK-323、BYK-350、BYK-352、BYK-354、BYK-355、BYK-358N、BYK-361N、BYK-380N、BYK-381、BYK-392、BYK-340、BYK-Silclean3700、BYK―Dynwet800(いずれも、ビックケミー社製)、シルフェイスSAG002、シルフェイスSAG005、シルフェイスSAG008、シルフェイスSAG014、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSJM-002、シルフェイスSJM-003(いずれも、日信化学工業(株)製)、TEGO FLOW 425、TEGO Glide 100、110、130、410、432、440、450、482、490、492、494、496、ZG400、TEGO Twin 4000、TEGO Twin 4100、TEGO Wet 240、TEGO Wet 250、TEGO Wet 240、KL245、250、260、265、270、280(いずれも、エボニック社製)等が挙げられる。
【0142】
なお、アニオン性界面活性剤を用いてもよいが、前処理インクはカチオン性の化合物を含有するため、アニオン性界面活性剤を用いる場合には、前処理インクに混ぜることができるか確認しておくことが好ましい。
【0143】
アニオン性界面活性剤を使用する場合には、アニオン性界面活性剤としては、エマール、ラテムル、ペレックス、ネオペレックス、デモール(いずれも、花王社製)、サンノール、リポラン、ライポン、リパール(いずれも、ライオン社製)等のうち前処理インクと混ぜることができるものを使用することができる。
【0144】
これらの界面活性剤は、単独で用いても2種以上を併用しても良い。界面活性剤の含有量は、インク混和性や洗浄性、流路内壁への濡れ性、インクジェット吐出性に合わせて適宜調整される。
【0145】
界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、界面活性剤の含有量の下限は、前処理インク全量中0.50質量%以上の範囲内であることが好ましく、0.60質量%以上の範囲内であることがより好ましく、0.70質量%以上の範囲内であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量の上限は、前処理インク全量中5.0質量%以下の範囲内であることが好ましく、4.0質量%以下の範囲内であることがより好ましく、3.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0146】
[その他の成分]
前処理インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤等が挙げられる。
【0147】
前処理インクの調製方法は、特に限定されない。例えば、水溶性溶媒に樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法等が挙げられる。
【0148】
前処理インクの表面張力は、特に限定されないが、表面張力の上限は、30.0mN/m以下が好ましく、29.0mN/m以下がより好ましく、28.0mN/m以下がさらに好ましい。表面張力の下限は、20.0mN/m以上が好ましく、21.0mN/m以上がより好ましく、22.0mN/m以上がさらに好ましい。なお、表面張力は、測定温度25℃にてWilhelmy法(協和界面科学製 型式:DY-300)で測定された値である。
【0149】
前処理インクは、前処理インクに含まれる水溶性溶媒や界面活性剤の種類や含有量を調整することで所定の範囲内の表面張力を有する前処理インクとなる。インクセットに含まれるオーバーコートインクの静的表面張力Soと水性インクの静的表面張力Scと、前処理インクの静的表面張力SPは、以下の関係を満たすようにすることが好ましい。
【0150】
オーバーコートインクの静的表面張力So≦前処理インクの静的表面張力SP<水性インクの静的表面張力SC
【0151】
このような静的表面張力の関係があることで水性インクの滲みを効果的に抑制することが可能となる。この理由は明らかではないが、水性インクが前処理インクの表面に着弾後、その水性インクは収縮する方向(内側の方向)に流動することにより、前処理インクの表面に着弾した水性インクの濡れ広がりを制御し、水性インクのにじみを効果的に抑制することができるものと推定される。さらに、オーバーコートインクと混合物(前処理インクと水性インクとの混合物)との界面でオーバーコートインクは広がる方向(外側の方向)に流動し、混合物(前処理インクと水性インクとの混合物)は収縮する方向(内側の方向)に流動することにより、水性インクの濡れ広がりを制御し、水性インクのにじみを効果的に抑制することができるものと推定される。
【0152】
なお、オーバーコートインクは水性インクが固化又は乾燥されることにより形成された層上に着弾されてもよいが、水性インクと前処理インクの混合物が基材上に着弾して液体として存在している間(流動性を有する状態)に吐出されて、基材に着弾されることが好ましい。基材上の水性インクと前処理インクの混合物の流動性が高い状態で、オーバーコートインクが基材上の水性インクと前処理インクの混合物に着弾されても、水性インクが広がることを抑制することができる。しかも、基材上の水性インクと前処理インクの混合物の流動性が高い状態で、オーバーコートインクが基材上の水性インクと前処理インクの混合物に着弾されることでより高速で印刷することが可能となって記録物の製造速度を向上させることが可能となる。
【0153】
なお、それぞれのインクの静的表面張力において、SPとScとの差(Sc-SP)の下限は特に限定されないが、0.5mN/m以上であることが好ましく、0.7mN/m以上であることがより好ましく、0.9mN/m以上であることがさらに好ましい。SPとScとの差(Sc-SP)が0.5mN/m以上であることにより、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、水性インクが前処理インクの表面に着弾後に、その水性インクは収縮する方向(内側の方向)に流動することにより、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができるものと推定される。
【0154】
また、SPとScとの差(Sc-SP)の上限は特に限定されないが、7.0mN/m以下であることが好ましく、5.5mN/m以下であることがより好ましく、3.0mN/m以下であることがさらに好ましい。SPとScとの差(Sc-SP)が7.0mN/m以下であることにより、水性インクのはじきを効果的に抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、SPとScとの差(Sc-SP)が7.0mN/m以下であることにより、水性インクが適度に濡れ広がって基材埋まりが良好となるためであると推定される。
【0155】
また、SOとSPとの差(SP-SO)の下限は特に限定されないが、0mN/m以上であることが好ましく、0.2mN/m以上であることがより好ましく、0.4mN/m以上であることがさらに好ましい。SOとSPとの差(SP-SO)が0mN/m以上であることにより、水性インクのにじみを抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、SOとSPとの差(SP-SO)0mN/m以上であることで、オーバーコートインクに対して混合物(前処理インクと水性インクとの混合物)は収縮する方向(内側の方向)に流動して水性インクのにじみを抑制できるためであると推定される。
【0156】
また、SOとSPとの差(SP-SO)の上限は特に限定されないが、3.5mN/m以下であることが好ましく、3.0mN/m以下であることがより好ましく、2.7mN/m以下であることがさらに好ましい。SOとSPとの差(SP-SO)が3.5mN/m以下であることにより、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、SOとSPとの差(SP-SO)が大きすぎるとオーバーコートインクが大きく濡れ広がりすぎて、混合物(前処理インクと水性インクとの混合物)が物理的に追従して濡れ広がってしまい水性インクのにじみが相対的に悪くなる傾向がある。SOとSPとの差(SP-SO)が3.5mN/m以下であることにより、オーバーコートインクが大きく濡れ広がることによる水性インクのにじみをより効果的に抑制できるためであると推定される。
【0157】
また、SOとScとの差(Sc-SO)の下限は特に限定されないが、0.6mN/m以上であることが好ましく、0.8mN/m以上であることがより好ましく、0.9mN/m以上であることがさらに好ましい。SOとScとの差(Sc-SO)が0.6mN/m以上であることにより、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、SOとScとの差(Sc-SO)が0.6mN/m以上であることで、オーバーコートインクに対して混合物(前処理インクと水性インクとの混合物)は収縮する方向(内側の方向)に流動して水性インクのにじみを抑制できるためであると推定される。
【0158】
また、SOとScとの差(Sc-SO)の上限は特に限定されないが、7.5mN/m以下であることが好ましく、6.0mN/m以下であることがより好ましく、4.5mN/m以下であることがさらに好ましい。特に、SOとScとの差(Sc-SO)が7.5mN/m以下であることにより、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、SOとScとの差(Sc-SO)が大きすぎるとオーバーコートインクが大きく濡れ広がりすぎて、混合物(前処理インクと水性インクとの混合物)が物理的に追従して濡れ広がってしまい水性インクのにじみが相対的に悪くなる傾向がある。SOとScとの差(Sc-SO)が7.5mN/m以下であることにより、オーバーコートインクが大きく濡れ広がることによる水性インクのにじみをより効果的に抑制できるためであると推定される。
【0159】
≪記録方法≫
本実施の形態に係る記録方法は、上述した前処理インクと、水性インクと、オーバーコートインクと、を含むインクセットを使用したインクジェット記録方法であって、インクセットに含まれるそれぞれのインクを基材上にインクジェット吐出する記録方法である。
【0160】
上記のオーバーコートインクに含まれる樹脂は、(a)ガラス転移温度が20℃以上の樹脂及び/又は(b)ガラス転移温度が6℃以上のスチレンアクリル系樹脂を含有する。このため本実施の形態に係る記録方法においても記録物の表面に滑り性の高いオーバーコート層を形成することが可能である。
【0161】
本実施の形態に係る記録方法は、搬送方向と直交する方向に動くインクジェットヘッドを用いて、ヘッドの往復と基材(記録媒体)を合わせて基材(記録媒体)全体に印刷するスキャン方式でインクジェット吐出する記録方式であっても、基材をインクジェットヘッドに1度通過させることにより画像を形成する1パス方式であってもよい。その中でも、インクセットに含まれるそれぞれのインクの静的表面張力が例えばSo≦SP<SCの範囲に制御されている場合には、1パス方式でインクジェット吐出する記録方法であることが好ましい。1パス方式でインクジェット吐出する記録方式は、より高速な印刷が可能であるため、それぞれのインクが基材に着弾するまでの時間がより短くなって、水性インクの着弾位置の周囲に広がってにじみがより顕著に生じ得るものである。インクセットに含まれるそれぞれのインクの静的表面張力が例えばSo≦SP<SCの範囲に制御されている場合には、ラインヘッド方式等の1パス方式でインクジェット吐出する記録方式に用いることにより、1パス方式でインクジェット吐出する記録方式で発生し得る問題を生じずにより高速な印刷が可能であるという利点を享受することが可能である。
【0162】
図1に本実施の形態に係る記録方法を好適に使用することができるインクセットを基材上に吐出する装置1を示す。この装置1は、前処理インク11を吐出する前処理インク吐出部21と、水性インク12を吐出する水性インク吐出部22と、オーバーコートインク13を吐出するオーバーコートインク吐出部23と、がこの順に基材(記録媒体)の搬送方向に沿うように備えている。そして、前処理インク吐出部21と水性インク吐出部22との間や、水性インク吐出部22とオーバーコートインク吐出部23との間には、乾燥機構を備えていないことを特徴としている。
【0163】
上述したインクセットが「S
O≦S
P<S
C」の関係のようにそれぞれのインクの静的表面張力が所定の範囲に制御されている場合には、それぞれの吐出部の間に乾燥機構を備えない
図1に記載したような装置1を使用して、インクセットに含まれる全てのインクが基材上に吐出されるまでは乾燥処理を施さないように、1パス方式により高速で印刷した場合であっても、水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【0164】
なお、本実施の形態に係る記録方法では、前処理インクと、水性インクと、オーバーコートインクと、を含む第2実施形態のインクセットを使用したインクジェット記録方法を説明したが、水性インクと、オーバーコートインクと、を含む第1実施形態のインクセットにおいても「SO<SC」の関係を有するインクセットであれば、同様に水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【0165】
また、それぞれの吐出部の間に乾燥機構を備えた装置を使用して印刷してもよいが、それぞれの吐出部の間に乾燥機構を備えない装置を使用することで、水性インクのにじみを効果的に抑制しつつ、装置を小型にして、さらに搬送部全体を短くすることが可能となって記録物の製造速度が向上することとなる。
【0166】
本実施の形態に係る記録方法における記録速度(基材の搬送速度)は、上述したインクセットが「SO≦SP<SC」の関係のようにそれぞれのインクの静的表面張力が所定の範囲に制御されている場合には、30m/min以上であることが好ましく、40m/min以上であることがより好ましく、50m/min以上であることがさらに好ましい。このような高速で基材(記録媒体)を搬送して、インクセットに含まれるそれぞれのインクを基材上にインクジェット吐出しても水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【0167】
さらに、インクセットに含まれるそれぞれのインクの吐出後にそれぞれのインクを乾燥することが好ましい。これによりそれぞれのインクに含まれる揮発成分を効果的に除去することが可能となり、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。
【0168】
それぞれのインクを乾燥する方法としては、基材の裏側(インク吐出面側と反対側)等からヒーターにより乾燥させる方法や記録物に温風を送風する方法等が挙げられる。なお、このようなインクの吐出後にそれぞれのインクを意識的に乾燥しなくともよく、いわゆる自然乾燥であってもよい。
【0169】
≪記録物の製造方法≫
本実施の形態に係る記録物の製造方法は、上述した前処理インクと、水性インクと、オーバーコートインクと、を含むインクセットを使用した記録物の製造方法であって、インクセットに含まれるそれぞれのインクを基材上にインクジェット吐出する記録物の製造方法である。
【0170】
上記のオーバーコートインクに含まれる樹脂は、(a)ガラス転移温度が20℃以上の樹脂及び/又は(b)ガラス転移温度が6℃以上のスチレンアクリル系樹脂を含有する。このため、本実施の形態に係る記録物の製造方法においても記録物の表面に滑り性の高いオーバーコート層を形成することが可能である。
【0171】
さらに、上述したインクセットが「S
O≦S
P<S
C」の関係のようにそれぞれのインクの静的表面張力が所定の範囲に制御されている場合には、それぞれの吐出部の間に乾燥機構を備えない
図1に記載したような装置1を使用して1パス方式により高速で印刷した場合であっても、水性インクのにじみを効果的に抑制した状態で滑り性の高い記録物が得られる。
【0172】
さらに、インクセットに含まれるそれぞれのインクの吐出後にそれぞれのインクを乾燥することが好ましい。これによりそれぞれのインクに含まれる揮発成分を効果的に除去することが可能となり、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。それぞれのインクを乾燥させる方法は上記の記録方法に記載した方法を使用することができる。
【0173】
≪記録物≫
上述した実施形態の記録物の製造方法により製造された記録物を構成する各層について説明する。
【0174】
[媒体(記録媒体)]
本実施の形態に係る記録方法に使用することのできる基材(記録媒体)としては、特に限定はされず、樹脂基材、金属板、ガラスなどの非吸収性基材であっても、紙や布帛などの吸収性基材であっても、受容層を備える基材のような表面塗工が施された基材であってもよく、種々の基材を使用することができる。後述する実施の形態に係る記録物の製造方法に使用することのできる基材についても同様である。
【0175】
非吸収性基材としては、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系合成紙、塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂基材や、金属、金属箔コート紙、ガラス、合成ゴム、天然ゴム等を挙げることができる。
【0176】
吸収性基材としては、更紙、中質紙、上質紙、綿、化繊織物、絹、麻、布帛、不織布、皮革等を挙げることができる。
【0177】
表面塗工が施された基材としてはコート紙、アート紙、キャスト紙、軽量コート紙、微塗工紙等を挙げることができる。
【0178】
これらの基材の中でも水性インクを含むインクセットの場合、吸収性基材であることが好ましい。特に、この水性インクが水-オクタノール分配係数が-0.3以下のアルカンジオール類有機溶剤を含有する水性インクである場合には、水性インクの基材(記録媒体)への浸透を抑制することが可能となって、部分的に印字濃度が低下して埋まり不良を効果的に抑制することが可能となる。
【0179】
[水性インクの層]
水性インクの層とは、上述した水性インクに含まれる溶媒が揮発することにより形成される層である。例えば、水性インクに色材を含有した場合には、所望の画像を形成する加飾層や記録層となる。
【0180】
[オーバーコート層]
オーバーコート層とは、上述したオーバーコートインクに含まれる溶媒が揮発することにより形成される層であり、特定の成分を含むことで所望の機能を付与することのできる層である。また、このオーバーコート層は、主に水性インクの層の上層に配置される。オーバーコート層は、主に記録物に耐擦性を付与する層である。
【0181】
そして、上記のオーバーコートインクに含まれる樹脂は、(a)ガラス転移温度が20℃以上の樹脂及び/又は(b)ガラス転移温度が6℃以上のスチレンアクリル系樹脂を含有する。このため記録物の表面に滑り性の高いオーバーコート層を形成することが可能である。
【0182】
このときオーバーコート層表面の滑り角度は、28.0°未満であることが好ましく、27.5°以下であることがより好ましく、27.0°以下であることがさらに好ましい。このような滑り角度のオーバーコート層であれば、滑り性が高くなり、例えば複数積み重なった記録物を比較的高い荷重が加わった状態で1枚ずつ高速に繰り出すことを可能である。
【0183】
≪装置≫
本実施の形態に係る装置は、前処理インクと、水性インクと、オーバーコートインクと、を含むインクセットに使用することができるインクセットを吐出する装置である。具体的には、少なくとも、前処理インクを吐出する前処理インク吐出部と、水性インクを吐出する水性インク吐出部とオーバーコートインク吐出部とがこの順に前記基材の搬送方向に沿うように備えている。
【0184】
上記のオーバーコートインクに含まれる樹脂は、(a)ガラス転移温度が20℃以上の樹脂及び/又は(b)ガラス転移温度が6℃以上のスチレンアクリル系樹脂を含有する。このため、水性インクにより形成される水性インクの層の上に滑り性の高いオーバーコート層を形成することが可能となる。
【0185】
上述したインクセットが「SO≦SP<SC」の関係のようにそれぞれのインクの静的表面張力が所定の範囲に制御されている場合には、インクジェット吐出する記録方式で印刷した場合であっても水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【0186】
なお、水性インク吐出部と、オーバーコートインク吐出部と、の間には乾燥機構を備え、前処理インク吐出部と、水性インク吐出部と、の間に乾燥機構を備える装置であってもよい。また、前処理インク吐出部と、水性インク吐出部と、オーバーコートインク吐出部と、を備える装置において、水性インク吐出部と、オーバーコートインク吐出部と、の間には乾燥機構を備えず、前処理インク吐出部と、水性インク吐出部と、の間に乾燥機構を備える装置であってもよい。さらに、前処理インク吐出部と、水性インク吐出部と、の間には乾燥機構を備えず、水性インク吐出部と、オーバーコートインク吐出部と、の間に乾燥機構を備える装置であってもよい。
図1の装置のように水性インク吐出部と、オーバーコートインク吐出部と、の間には乾燥機構を備えず、前処理インク吐出部と、水性インク吐出部と、の間に乾燥機構を備えない装置であれば、装置を小型にして、さらに搬送部全体を短くすることが可能となって記録物の製造速度を向上させることができる。
【0187】
またこの装置には、インクセットに含まれるそれぞれのインクの吐出後に該インクを乾燥する乾燥機構を備えることが好ましい。これによりそれぞれのインクに含まれる揮発成分を効果的に除去することが可能となり、水性インクのにじみをより効果的に抑制することができる。
【0188】
インクの吐出後に該インクを乾燥する乾燥機構としては特に制限はされず、ヒーター等であってもよいし、熱風や常温の風を送風する機構であってもよい。
【0189】
また、それぞれの吐出部における吐出方式は、ピエゾ方式、サーマル方式、静電方式等のいずれの方式であってもよい。いずれの方式であっても水性インクのにじみを効果的に抑制することができる。
【実施例】
【0190】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0191】
1.オーバーコートインクの調整
表1、2に記載の各成分を混合し、室温(20~25℃)にて1時間撹拌した。その後、溶け残りがないことを確認した。その後、メンブレンフィルターを用いて濾過を行い、実施例、比較例のオーバーコートインクを調製した。
【0192】
2.オーバーコートインクの評価
実施例、比較例のオーバーコートインクについて各評価を行った。
【0193】
(滑り角度)
実施例、比較例のオーバーコートインクによりオーバーコート層を形成し、オーバーコート層表面の滑り角度を求めた。具体的に、MF用紙(王子マテリア製コートボール紙)にバーコーター#4でオーバーコートインクを塗布し、乾燥させてオーバーコート層を形成した。そして、東洋精機製摩擦測定機AN-S2でオーバーコート層表面の滑り角度を測定した。
【0194】
(吐出安定性評価)
インクジェットヘッド(京セラ製KJ4B-QA)により全てのノズルから周波数12kHzの条件で実施例、比較例のオーバーコートインクを吐出し、10分間放置した。その後、全てのノズルから同じ吐出条件で再び吐出し、不吐出ノズルの有無を目視で観察した。
評価基準
○:不吐出ノズルがない。
△:不吐出ノズルが有るが、クリーニングによって直ちに全ノズルから吐出する。
×:不吐出ノズルがあり、クリーニングしても復旧しにくい。
吐出安定性評価が〇、△であれば、実用範囲内である。
【0195】
(耐擦過性評価)
記録物の耐擦過性を評価した。具体的には、実施例、比較例のオーバーコートインクによりオーバーコート層が形成された記録物を製造し、学振型摩擦堅牢度試験機(テスター産業社製AB-301)を用いて、その記録物のオーバーコート層が形成された側の記録表面と金巾3号(綿)を接触させて荷重500gを加えた状態で500回往復した試料について以下の評価基準により評価を行った。
評価基準
A:塗膜(オーバーコート層)の剥離が全くない。
B:塗膜(オーバーコート層)の剥離面積が、試験面積全体の10%未満である。
C:塗膜(オーバーコート層)の剥離面積が、試験面積全体の10%以上20%未満である。
D:塗膜(オーバーコート層)の剥離面積が、試験面積全体の20%以上50%未満である。
E:塗膜(オーバーコート層)の剥離面積が、試験面積全体の50%以上である
耐擦過性評価がA-C評価であれば、実用範囲内である。
【0196】
【0197】
【0198】
表中、「AQUACER531」とは、ビックケミー製ポリエチレンワックスエマルジョンである。
表中「BYK345」とは、ビックケミー社製のシリコーン(シリコン)系界面活性剤である。
表中、「Dynol604」とは、エボニック社製2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテドである。
【0199】
上記表から分かるように、(a)ガラス転移温度が20℃以上の樹脂及び/又は(b)ガラス転移温度が6℃以上のスチレンアクリル系樹脂を含有する実施例のオーバーコートインクであれば、滑り角度が28未満となっており、比較例のオーバーコートインクと比較して、滑り性の高いオーバーコート層を記録物の表面に形成することのできることが分かる。さらに、樹脂の含有量がオーバーコートインク全量中5質量%以上である実施例のオーバーコートインクは、樹脂の含有量がオーバーコートインク全量中5質量%未満である実施例1-27のオーバーコートインクと比較して滑り性に加えて耐擦性の高いオーバーコート層を形成することができた。
【0200】
2.水性インク、前処理インクの調製
各材料を下記表に示す割合(単位は質量%)になるように混合し、室温(20~25℃)にて1時間撹拌した。その後、溶け残りがないことを確認した。その後、メンブレンフィルターを用いて濾過を行い、それぞれの前処理インク、及び水性インクを調製し、静的表面張力を測定した。
【0201】
なお、静的表面張力は、測定温度25℃にてWilhelmy法(協和界面科学製 型式:DY-300)により測定した。
【0202】
【0203】
表中「オルフィンE1010」とは、日信化学工業社製のアセチレングリコール系界面活性剤である。
【0204】
表中「BYK345」とは、ビックケミー社製のシリコーン(シリコン)系界面活性剤である。
【0205】
表中「ハイドランCP-7050」とは、DIC社製カチオン性ウレタン樹脂エマルジョンである。
【0206】
表中「ユニセンスKHE100L」とは、とは、センカ社製水溶性第4級アンモニウム塩型樹脂である。
【0207】
【0208】
表中、「シアン顔料」とは、C.I.ピグメントブルー15:3(PB15:3)である。
【0209】
表中、「BYK345」とは、ビックケミー社製のシリコーン(シリコン)系界面活性剤である。
【0210】
表中、「Dynol604」とは、エボニック社製2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテドである。
【0211】
表中、「モビニール6820」とは、ジャパンコーティングレジン社製のアニオン性アクリル樹脂エマルジョンである。
【0212】
表中、「AQUACER531」とは、ビックケミー製ポリエチレンワックスエマルジョンである。
【0213】
表中、「DISPERBYK-190」とは、ビックケミー社製水溶性高分子分散剤
【0214】
上記シアン色の水性インクにおいて、C.I.ピグメントブルー15:3の代わりに、カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)、C.I.ピグメントレッド122(PR122)、C.I.ピグメントイエロー74(PY74)をそれぞれ用いた以外は、同様にして、ブラック色の水性インク、マゼンタ色の水性インク、及びイエロー色の水性インクを得た。なお、色材を変更したそれぞれの水性インクは、上記シアン色の水性インクの静的表面張力と同じ値であった。
【0215】
3.インクセットの評価
前処理インクと、水性インクと、オーバーコートインクと、を含むインクセットを使用して、にじみを評価した。具体的には、ラインヘッド方式(1パス方式)の
図1に記載の構成のインクジェット印刷装置を使用して、基材(記録媒体)の搬送速度を50m/minにして、基材としてOKボール(王子マテリア製コートボール紙)の表面に前処理インクと、水性インクと、オーバーコートインクと、をこの順に吐出して、所定の印刷パターンになるように記録物を製造した。
【0216】
(にじみ評価)
記録物のにじみを以下の評価基準に基づき、目視で確認した。
評価基準
A:にじみが全く認められず、鮮明な画像であった。
B:極わずかににじみが認められるが、鮮明な画像であった。
C:多少にじみが認められるが、実用範囲内の画像であった。
D:にじみが認められ、鮮明な画像が得られなかった。
E:著しいにじみが認められた。
【0217】
(はじき評価)
記録物のはじきを以下の評価基準に基づき、目視で確認した。
評価基準
A:はじきが観察されず、印刷面が十分にインクで埋まっていると判断された。
B:極わずかにはじきが観察されるが、印刷面は埋まっていた。
C:多少はじきが観察されるが、実用範囲内の埋まりであった。
D:はじきが観察され、印刷面の埋まりが不十分であった。
E:著しいはじきが観察された。
【0218】
(浸透性評価)
前処理液を基材にバーコーターで5g/m2塗布した後、液が基材表面に無くなり完全に基材が曝露した時間を計測した。
評価基準
A:10秒未満
B:10秒以上15秒未満
C:15秒以上20秒未満
D:20秒以上25秒未満
E:25秒以上
【0219】
(耐擦過性評価)
記録物の耐擦過性を評価した。具体的には、学振型摩擦堅牢度試験機(テスター産業社製AB-301)を用いて、記録物の記録表面と金巾3号(綿)を接触させて荷重500gを加えた状態で100回往復した試料について以下の評価基準により評価を行った。
評価基準
A:塗膜(オーバーコート層又は水性インクの層)の剥離が全くない。
B:塗膜(オーバーコート層又は水性インクの層)の剥離面積が、試験面積全体の10%未満である。
C:塗膜(オーバーコート層又は水性インクの層)の剥離面積が、試験面積全体の10%以上20%未満である。
D:塗膜(オーバーコート層又は水性インクの層)の剥離面積が、試験面積全体の20%以上50%未満である。
E:塗膜(オーバーコート層又は水性インクの層)の剥離面積が、試験面積全体の50%以上である。
【0220】
(光沢評価)
光沢度計(Rhopoint Instruments社製RHOPOINT IQs)を用いて60°光沢を測定し、以下の判断基準により評価を行った。
A:光沢値35以上
B:光沢値30以上35未満
C:光沢値25以上30未満
D:光沢値20以上25未満
E:光沢値20未満
【0221】
(滑り角度)
東洋精機製摩擦測定機AN-S2を使用して記録物のオーバーコート層を側の表面の滑り角度を測定した。
【0222】
【0223】
表5から分かるように、所定のガラス転移温度の範囲の樹脂を含むオーバーコートインクであって、それぞれのインクの静的表面張力を所定の範囲に制御された実施例2-1~2-11のインクセットであれば、滑り性の高いオーバーコート層を記録物の表面に形成することのできることに加え、インクジェット吐出する記録方式でより高速で印刷した場合であっても水性インクのにじみを効果的に抑制することができることが分かる。
【0224】
特に、SP-Soが0.2以上の範囲にある実施例2-2のインクセットは実施例2-1、2-7、2-9、2-10のインクセットと比べても水性インクのにじみをより効果的に抑制することができた。また、SP-Soが3.5以下の範囲にある実施例2-2のインクセットは実施例2-6のインクセットと比べても水性インクのにじみをより効果的に抑制することができた。
【0225】
また、SC-Spが3.0以下の範囲にある実施例2-2のインクセットは実施例2-3のインクセットと比べても水性インクのはじきをより効果的に抑制することができた。
【0226】
またSC-Soが4.5以下の範囲にある実施例2-2のインクセットは実施例2-5、2-6、2-8のインクセットと比べても水性インクのにじみをより効果的に抑制することができた。
【0227】
また、水性インクに含まれる樹脂の含有量はオーバーコートインクに含まれる樹脂の含有量よりも少ない実施例2-2のインクセットは、実施例2-12のインクセットと比較して滑り角度が低下していた。このことから、水性インクに含まれる樹脂の含有量がオーバーコートインクに含まれる樹脂の含有量よりも少ないことで、オーバーコート層の滑り性が低下することを抑制することが可能となって、本発明の効果をさらに奏するインクセットとなることが分かる。
【符号の説明】
【0228】
1 装置
11 前処理インク
12 水性インク
13 オーバーコートインク
21 前処理インク吐出部
22 水性インク吐出部
23 オーバーコートインク吐出部
31 乾燥機構
【要約】
【課題】滑り性の高いオーバーコート層を記録物の表面に形成することのできるオーバーコートインクを提供する。
【解決手段】記録物の表面にオーバーコート層を形成するためのオーバーコートインクであって、少なくとも、樹脂と、有機溶剤と、水と、を含み、樹脂は、(a)ガラス転移温度が20℃以上の樹脂及び/又は(b)ガラス転移温度が6℃以上のスチレンアクリル系樹脂を含有するオーバーコートインクである。
【選択図】なし