(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】タイヤ試験装置の軸トルク制御器
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20221114BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20221114BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20221114BHJP
G05D 17/02 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
G05B11/36 A
G05D17/02
(21)【出願番号】P 2019005432
(22)【出願日】2019-01-16
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】秋山 岳夫
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-127953(JP,A)
【文献】特開2016-080414(JP,A)
【文献】特開平05-240739(JP,A)
【文献】特開2016-133377(JP,A)
【文献】特開2018-146421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 - 17/10
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのタイヤ駆動軸に連結されたタイヤ駆動モータと、前記タイヤ駆動軸における軸トルクに応じた軸トルク検出信号を生成する軸トルクセンサと、前記タイヤを模擬路面に対し接地させたり離間させたりするタイヤ接地装置と、を備えるタイヤ試験装置を制御対象とし、前記軸トルク検出信号と当該軸トルク検出信号に対する軸トルク指令信号とに基づいて前記タイヤ駆動モータに対する制御入力を生成するタイヤ試験装置の軸トルク制御器であって、
前記軸トルク指令信号と前記軸トルク検出信号との偏差の積分演算を行うことにより第1入力を生成する積分器と、
前記軸トルク検出信号から高周波数成分を減衰させ低周波数成分を通過させることにより第2入力を生成するローパスフィルタと、
前記第1入力と第2入力とに基づいて前記制御入力を生成する制御入力生成部と、を備えることを特徴とするタイヤ試験装置の軸トルク制御器。
【請求項2】
前記積分器の積分ゲイン
Ki及び前記ローパスフィルタの入出力特性を特徴付ける
4つの制御ゲイン
(Kp,Kd,a1,a2)は、前記積分器及び前記ローパスフィルタによって構成される制御回路の閉ループ伝達関数の特性多項式が
、所定の応答周波数fr及び所定の係数p1,p2,p3,p4,p5
により下記式(1-1)に従って特徴付けられる下記多項式Pr(s)になるように設定さ
れ、
前記応答周波数frは、前記タイヤ駆動モータの慣性モーメントをJ2とし、前記タイヤ駆動軸のねじり剛性をK12とした場合、下記式(1-2)によって設定され、
前記積分ゲインKi及び前記4つの制御ゲイン(Kp,Kd,a1,a2)は、前記応答周波数fr及び複数の係数(p1,p2,p3,p4,p5)を用いて下記式(1-3)から(1-7)によって設定されること
を特徴とする請求項1に記載のタイヤ試験装置の軸トルク制御器
【数1】
【請求項3】
前記ローパスフィルタの伝達関数GLPF(s)は、4つの制御ゲイン(Kp,Kd,a1,a2)によって下記式によって表されることを特徴とする請求項
2に記載のタイヤ試験装置の軸トルク制御器。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ試験装置の軸トルク制御器に関する。より詳しくは、本発明は、タイヤ試験装置において試験対象であるタイヤのタイヤ駆動軸における軸トルクを制御する軸トルク制御器に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪の自動車や自動二輪車等の多くの車両には、少なくとも2つのタイヤが装着される。タイヤの性能は、その材質、形状、空気圧、路面への接触荷重、及び温度等の様々な要因によって変化する。このようなタイヤの性能を評価するタイヤ試験装置として、ベルトやローラ等の模擬路面上でタイヤを回転させながら、そのキャンバー角、スリップ角、及び垂直荷重等を調整しつつ、この際にタイヤに加わる力や転がり抵抗等を測定するものが公知となっている。このようなタイヤ試験装置によれば、タイヤを現実の車両に装着したり、さらにこの実車両をテストコースで実際に走行させたりすることなく、タイヤ単体で性能を評価できるため、試験にかかる時間が短く利便性が高い。
【0003】
また近年では、上記のようなタイヤ試験装置で現実のタイヤを用いることで得られた情報を入力として、車両モデルを用いたシミュレーションによって車両全体の挙動を再現し、さらにこのシミュレーションによって得られた情報をタイヤ試験装置において現実のタイヤを運動させるアクチュエータにフィードバックする試験装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このように、現実の装置(上記の例では、現実のタイヤ及びそのタイヤ試験装置)をシミュレーションに組み込んだ試験装置は、HIL(Hardware In the Loop)シミュレータとも呼称されている。
【0004】
このような試験装置では、車両の挙動を再現するシミュレーションによって得られた情報をタイヤ試験装置に入力することにより、より実走行条件に近い条件でタイヤの試験を行うことができる。またタイヤは、ゴム、有機繊維、金属等の複合素材で構成され、大きな変化を伴う弾性体であり、路面状態や温度によって性能が大きく変化すること等から、タイヤの挙動を精度良く再現できるタイヤモデルを構築することは困難である。これに対し、上記試験装置によれば、実タイヤから得られた情報を用いて、シミュレーションによって車両の挙動を再現することにより、より実走行条件に近い条件で精密な車両挙動の解析が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで試験装置では、実タイヤが模擬路面に接地している場合と接地していない場合とで、実タイヤを駆動するタイヤ駆動モータが負う負荷慣性が大きく変化する。より具体的には、タイヤ駆動モータは、実タイヤが模擬路面に接地している場合には実タイヤのタイヤ慣性と実タイヤが接する模擬路面との両方の慣性を負うが、実タイヤが模擬路面に接地していない場合にはタイヤ慣性のみを負う。このように試験装置では、タイヤ駆動モータと実タイヤとを連結するタイヤ駆動軸の軸トルクセンサで検出される共振周波数が大きく変化し得るため、安定してタイヤ駆動軸の軸トルク制御を行うことができなくなってしまうおそれがあるが、特許文献1にはこの点について十分に検討されていない。
【0007】
本発明は、タイヤの接地状況によらず安定して軸トルク制御を行うことができるタイヤ試験装置の軸トルク制御器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る軸トルク制御器(例えば、後述のタイヤ軸トルク制御器62)は、タイヤ(例えば、後述のタイヤT)のタイヤ駆動軸(例えば、後述のタイヤ駆動軸42)に連結されたタイヤ駆動モータ(例えば、後述のタイヤ駆動モータ38)と、前記タイヤ駆動軸における軸トルクに応じた軸トルク検出信号(Tsh)を生成する軸トルクセンサ(例えば、後述のタイヤ軸トルクセンサ40)と、前記タイヤを模擬路面(例えば、後述の模擬路面25a)に対し接地させたり離間させたりするタイヤ接地装置(例えば、後述のタイヤ支持機構3及び垂直荷重調整モータ37)と、を備えるタイヤ試験装置(例えば、後述のタイヤ試験装置S)を制御対象とし、前記軸トルク検出信号(Tsh)と当該軸トルク検出信号に対する軸トルク指令信号(Tsh_cmd)とに基づいて前記タイヤ駆動モータに対する制御入力(Itire)を生成するものである。前記軸トルク制御器は、前記軸トルク指令信号と前記軸トルク検出信号との偏差(etsh)の積分演算を行うことにより第1入力(I1)を生成する積分器(例えば、後述の積分器622)と、前記軸トルク検出信号(Tsh)から高周波数成分を減衰させ低周波数成分を通過させることにより第2入力(I2)を生成するローパスフィルタ(例えば、後述のローパスフィルタ623)と、前記第1入力(I1)と第2入力(I2)とに基づいて前記制御入力(Itire)を生成する制御入力生成部(例えば、後述のタイヤ軸トルク指令演算部624)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
(2)この場合、前記積分器の積分ゲイン及び前記ローパスフィルタの入出力特性を特徴付ける複数の制御ゲインは、前記積分器及び前記ローパスフィルタによって構成される制御回路の閉ループ伝達関数の特性多項式が、前記タイヤ駆動モータの慣性モーメント及び前記タイヤ駆動軸のねじり剛性に基づいて定められる応答周波数fr及び所定の係数p1,p2,p3,p4,p5によって特徴付けられる下記多項式Pr(s)になるように設定されることが好ましい。なお以下では、“s”をラプラス演算子とする。
【数1】
【0010】
(3)この場合、前記応答周波数frは、前記タイヤ駆動モータの慣性モーメントをJ2とし、前記タイヤ駆動軸のねじり剛性をK12とした場合、下記式によって設定されることが好ましい。
【数2】
【0011】
(4)この場合、前記ローパスフィルタの伝達関数GLPF(s)は、4つの制御ゲイン(Kp,Kd,a1,a2)によって下記式によって表されることが好ましい。
【数3】
【0012】
(5)この場合、前記積分器の積分ゲインKi及び前記4つの制御ゲイン(Kp,Kd,a1,a2)は、前記応答周波数fr及び複数の係数(p1,p2,p3,p4,p5)を用いて下記式によって設定されることが好ましい。
【数4】
【発明の効果】
【0013】
(1)本発明の軸トルク制御器は、軸トルク指令信号と軸トルクセンサによって検出される軸トルク検出信号との偏差の積分演算を行うことによって第1入力を生成する積分器と、上記軸トルク検出信号から高周波数成分を減衰させ低周波数成分を通過させることによって第2入力を生成するローパスフィルタと、これら第1入力と第2入力とに基づいてタイヤのタイヤ駆動軸に連結されたタイヤ駆動モータに対する制御入力を生成する制御入力生成部と、を備える。本発明の軸トルク制御器によれば、このような第1入力と第2入力とに基づいてタイヤ駆動モータに対する制御入力を生成することにより、タイヤが模擬路面に接地している場合には高応答に、またタイヤが模擬路面に接地していない場合には低応答であるが安定に、タイヤ駆動軸の軸トルクを制御できる。
【0014】
(2)本発明の軸トルク制御器において、積分器の積分ゲイン及びローパスフィルタの入出力特性を特徴付ける複数の制御ゲインは、積分器及びローパスフィルタによって構成される制御回路の閉ループ伝達関数の特性多項式が、タイヤ駆動モータの慣性モーメント及びタイヤ駆動軸のねじり剛性に基づいて定められる応答周波数fr及び所定の係数p1~p5によって特徴付けられる上記式(1)に示す多項式Pr(s)になるように設定される。本発明の軸トルク制御器によれば、閉ループ伝達関数の特性多項式が上記式(1)に示すような5次の多項式になるように積分器の積分ゲイン及びローパスフィルタの制御ゲインを調整することにより、タイヤが模擬路面に接地している場合には高応答に、またタイヤが模擬路面に接地していない場合には低応答であるが安定に、タイヤ駆動軸の軸トルクを制御できる。
【0015】
(3)本発明の軸トルク制御器では、軸トルク制御の応答性能を示す応答周波数frを、既知であるタイヤ駆動モータの慣性モーメントJ2及びタイヤ駆動軸のねじり剛性K12に基づいて上記式(2)によって設定する。これにより本発明の軸トルク制御器によれば、タイヤが模擬路面に接地している場合には高応答に、またタイヤが模擬路面に接地していない場合には低応答であるが安定に、タイヤ駆動軸の軸トルクを制御できる。
【0016】
(4)本発明の軸トルク制御器では、ローパスフィルタの伝達関数GLPF(s)を、4つの制御ゲイン(Kp,Kd,a1,a2)によって上記式(3)によって設定する。本発明の軸トルク制御器によれば、積分器及びローパスフィルタによって構成される制御回路の閉ループ伝達関数の特性多項式が上記式(1)に示すような5次の多項式になるようにローパスフィルタの制御ゲイン(Kp,Kd,a1,a2)を調整することにより、タイヤが模擬路面に接地している場合には高応答に、またタイヤが模擬路面に接地していない場合には低応答であるが安定に、タイヤ駆動軸の軸トルクを制御できる。
【0017】
(5)本発明の軸トルク制御器では、積分器の積分ゲインKi及びローパスフィルタの制御ゲイン(Kp,Kd,a1,a2)を、応答周波数fr及び複数の係数(p1,p2,p3,p4,p5)を用いて上記式(4-1)~(4-5)によって設定する。これにより本発明の軸トルク制御器によれば、上記閉ループ伝達関数の特性多項式が上記式(1)を満たすようになるので、タイヤが模擬路面に接地している場合には高応答に、またタイヤが模擬路面に接地していない場合には低応答であるが安定に、タイヤ駆動軸の軸トルクを制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るタイヤ試験装置の構成を示す図である。
【
図2】タイヤ試験装置に設けられる複数のモータ及び複数のセンサを模式的に示す図である。
【
図3A】模擬路面上におけるスリップ角を示す図である。
【
図3B】模擬路面上におけるキャンバー角を示す図である。
【
図3C】模擬路面上で運動するタイヤに作用する力を示す図である。
【
図4】総括制御装置のうちタイヤ軸トルク制御に係る制御モジュールの構成を示す図である。
【
図5】タイヤ軸トルク制御器の制御回路の構成を示す図である。
【
図6】タイヤが模擬路面に接地している状態でタイヤ軸トルク制御器にステップ状に変化するタイヤ軸トルク指令信号を入力した場合におけるタイヤ軸トルク検出信号の応答波形を示す図である。
【
図7】タイヤが模擬路面に接地していない状態でタイヤ軸トルク制御器にステップ状に変化するタイヤ軸トルク指令信号を入力した場合におけるタイヤ軸トルク検出信号の応答波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係るタイヤ試験装置Sの構成を示す図である。
図2は、タイヤ試験装置Sに設けられる複数のモータ及び複数のセンサを模式的に示す図である。
【0020】
タイヤ試験装置Sは、複数のモータを用いて現実のタイヤTに様々な外力を加えることによってタイヤTを運動させるタイヤ試験ユニット1と、タイヤ試験ユニット1を制御する総括制御装置6と、を備える。
【0021】
タイヤ試験装置Sは、タイヤ試験ユニット1において現実のタイヤTを用いて得らえた情報を総括制御装置6への入力とし、総括制御装置6ではタイヤTを構成要素の一部とした仮想車両の挙動を、モデルを用いたシミュレーションによって再現し、さらにこのシミュレーションによって得られた情報をタイヤ試験ユニット1にフィードバックする。なお以下では、タイヤ試験装置Sにおいて想定する仮想車両は、エンジンを動力発生源とした四輪の自動車とするが、仮想車両の車輪の数や動力発生源はこれらに限らない。またタイヤTは、この仮想車両における動力発生源からの動力が伝達する駆動輪でありかつ運転者が操作可能なステアリングによって操舵角を変化させることができる転舵輪である場合について説明するが、仮想車両におけるタイヤTの役割はこれに限らない。
【0022】
タイヤ試験ユニット1は、ホイールにリム組みされたタイヤTと、タイヤTが接する路面模擬装置2と、タイヤTをそのハブを中心として回転駆動しつつこのタイヤTを路面模擬装置2に対し所定の姿勢で支持するタイヤ支持機構3と、を備える。
【0023】
路面模擬装置2は、水平な床面に固定された基台21と、この基台21に対し垂直な鉛直方向に沿った回動軸OSAを中心として回動自在に設けられたベルトユニット22と、このベルトユニット22を、回動軸を中心として回動させるスリップ角モータ23(
図2参照)と、スリップ角センサ29(
図2参照)と、を備える。
【0024】
ベルトユニット22は、回転可能に設けられた一対の筒状のベルトドラム24a,24bと、これらベルトドラム24a.24bの外周に架け渡された無端帯状のフラットベルト25と、を備える。フラットベルト25の外周面には、実路面を模した加工が施されている。これにより、フラットベルト25の外周面のうち鉛直上方の面は、タイヤTが接する模擬路面25aとなっている。これらベルトドラム24a,24bの回転軸は、互いに平行でありかつ上記回動軸OSAに対し垂直となっている。
【0025】
またベルトドラム24aには、その出力軸がベルトドラム24aに連結された路面駆動モータ26(
図2参照)と、路面駆動モータ26の出力軸の回転速度を検出するベルト回転速度センサ27(
図2参照)と、出力軸に発生する軸トルクを検出するベルト軸トルクセンサ28(
図2参照)と、が設けられている。路面駆動モータ26は、総括制御装置6からの指令信号に応じてドラム24aを回転駆動する。これにより、模擬路面25aは、ベルトドラム24aの回転速度に応じた速度で、回動軸OSAに対し垂直な平面内を、路面進行方向FRに沿って流れる。ベルト回転速度センサ27は、出力軸の回転速度、すなわちベルトドラム24aの回転速度を検出し、検出値に応じたベルト回転速度検出信号ωbelを総括制御装置6へ送信する。またベルト軸トルクセンサ28は、出力軸に発生する軸トルクを検出し、検出値に応じたベルト軸トルク検出信号Tbelを総括制御装置6へ送信する。
【0026】
スリップ角モータ23は、総括制御装置6からの信号に応じてベルトユニット22を、回動軸OSAを中心として回動させる。路面模擬装置2では、スリップ角モータ23を用いてベルトユニット22を回動させることにより、
図3Aに示すように、模擬路面25a上におけるタイヤTの回転軸Rと垂直なタイヤ進行方向FTと路面進行方向FRとの成す角αであるスリップ角を調整することができる。スリップ角センサ29は、スリップ角に応じたスリップ角検出信号θSAを生成し、総括制御装置6へ送信する。
【0027】
タイヤ支持機構3は、ベルトユニット22のベルト送り方向である路面進行方向FRの両端側の床面に固定された一対の台座31a,31bと、これら台座31a,31bによって両端部が支持された弧状のフレーム33と、このフレーム33によって支持された棒状の支持アーム35と、このアーム35の先端部に設けられた回転駆動ユニット36と、を備える。
【0028】
フレーム33は、フラットベルト25の鉛直上方を延びる。フレーム33の両端部は、それぞれ、台座31a,31bによってフラットベルト25の延在方向と略垂直な回動軸OCAを中心として回動自在に支持されている。また台座31aには、フレーム33を、回動軸OCAを中心として回動駆動するキャンバー角調整モータ32(
図2参照)と、フレーム33の模擬路面25aに対する角度を検出するキャンバー角センサ34と、が設けられている。キャンバー角調整モータ32は、総括制御装置6からの指令信号に応じてフレーム33を、回動軸OCAを中心として回動させる。タイヤ支持機構3では、このキャンバー角調整モータ32を用いてフレーム33及びこれに支持された支持アーム35を回動させることにより、
図3Bに示すように、模擬路面25a上におけるタイヤTの回転軸Rと模擬路面25aとの成す角、すなわち模擬路面25aの法線と回転軸Rと垂直な面との成す角βであるキャンバー角を調整することができる。キャンバー角センサ34は、キャンバー角に応じたキャンバー角検出信号θCAを生成し、総括制御装置6へ送信する。
【0029】
支持アーム35は、模擬路面25aに対し垂直な鉛直方向に沿って延びる。支持アーム35の基端部は、フレーム33によって支持アーム35の延在方向に沿って摺動自在に支持されている。フレーム33には、支持アーム35を、支持アーム35の延在方向に沿って変位させる垂直荷重調整モータ37(
図2参照)が設けられている。垂直荷重調整モータ37は、総括制御装置6からの指令信号に応じて、支持アーム35を、その延在方向に沿って変位させる。タイヤ支持機構3では、この垂直荷重調整モータ37を用いて支持アーム35を変位させることにより、タイヤTを模擬路面25aに対し接地させたり、タイヤTを模擬路面25aに対し離間させたりする。またタイヤ支持機構3では、この垂直荷重調整モータ37を用いて支持アーム35を変位させることにより、タイヤTを模擬路面25aに押さえつける力である垂直荷重を調整することも可能となっている。
【0030】
回転駆動ユニット36は、支持アーム35の先端部において、タイヤTを回転自在に支持する。
図2に示すように、回転駆動ユニット36は、タイヤ駆動モータ38と、力センサ39と、タイヤ軸トルクセンサ40と、タイヤ回転速度センサ41と、タイヤ駆動軸42と、を備える。
【0031】
タイヤ駆動軸42は、支持アーム35に対し略垂直に延び、タイヤ駆動モータ38とタイヤTとを連結する。タイヤ駆動軸42の先端側は、タイヤTのハブに連結され、基端側は、タイヤ駆動モータ38の出力軸に連結されている。タイヤ駆動モータ38は、総括制御装置6からの指令信号に応じてタイヤTを回動駆動する。タイヤ回転速度センサ41は、タイヤ駆動モータ38の出力軸の回転速度、すなわちタイヤTの回転速度を検出し、検出値に応じたタイヤ回転速度検出信号ωtireを総括制御装置6へ送信する。
【0032】
力センサ39は、模擬路面25a上で運動するタイヤTに作用する力を検出する。この力センサ39には、例えば、
図3Cに示すようにタイヤTに作用する6分力のうちの5つを検出する5分力計が用いられる。より具体的には、力センサ39は、タイヤTの進行方向軸Xに沿った前後力に応じた前後力検出信号Fxと、タイヤTの横方向軸Yに沿った横力に応じた横力検出信号Fyと、タイヤTの縦方向軸Zに沿った垂直荷重に応じた垂直荷重検出信号Fzと、タイヤTの進行方向軸X周りのモーメントに応じたオーバターニング検出信号Mxと、及びタイヤTの縦方向軸周りのモーメントに応じたセルフアライニングトルク検出信号Mzと、を総括制御装置6へ送信する。なお以下では、力センサ39によって生成される上記5つの信号Fx,Fy,Fz,Mx,Mzをまとめて“F5”と表記する。
【0033】
タイヤ軸トルクセンサ40は、タイヤ駆動軸42における軸トルク、すなわちタイヤTの横方向軸周りのモーメントに応じたタイヤ軸トルク検出信号Tshを生成し、このタイヤ軸トルク検出信号Tshを総括制御装置6へ送信する。
【0034】
総括制御装置6は、各種センサ27,28,29,34,39,40,41等から送信される入力信号をA/D変換したり、各種モータ23,26,32,37,38等へ入力される出力信号をD/A変換したりするI/Oインターフェース、各種プログラムに従って演算処理を実行するCPU、各種データを記憶するROM及びRAM等の記憶手段、作業者が各種指令を入力するために操作可能な入力手段、並びに演算結果等を作業者が視認可能な態様で表示する表示手段等のハードウェアによって構成されるコンピュータである。
【0035】
総括制御装置6では、各種センサ27,28,29,34,39,40,41等から送信される入力信号に基づいて、タイヤTを構成要素の一部とした仮想車両の挙動を再現するシミュレーション演算を行うとともに、このシミュレーション演算によって各種モータ23,26,32,37,38等への出力信号を生成し、各種モータ23,26,32,37,38等へ入力する。
【0036】
図4は、総括制御装置6のうちタイヤ駆動軸42に作用するタイヤ軸トルク制御に係る制御モジュールの構成を示す図である。総括制御装置6は、タイヤ軸トルク制御に係る制御モジュールとして、タイヤ駆動車両モデル演算部61と、タイヤ軸トルク制御器62と、を備える。
【0037】
タイヤ駆動車両モデル演算部61は、エンジントルク指令信号Teng及びタイヤ回転センサ41から送信されるタイヤ回転速度検出信号ωtireに基づいて、タイヤ軸トルク検出信号Tshに対する目標に相当するタイヤ軸トルク指令信号Tsh_cmdを生成し、このタイヤ軸トルク指令信号Tsh_cmdをタイヤ軸トルク制御器62へ入力する。ここでエンジントルク指令信号Tengは、仮想車両に搭載されるエンジンで発生するエンジントルクに対する指令信号であり、仮想車両におけるアクセルペダルの開度に相当する。このエンジントルク指令信号Tengは、図示しないシミュレーション演算によって算出される。
【0038】
一般的な車両において、エンジンで発生した動力をタイヤに伝達するドライブトレインには、クラッチやドライブシャフト等の様々なばね要素が存在する。このためエンジントルクを急激に変化させると、これらばね要素のねじり振動によってタイヤを駆動する軸トルクが振動する。そこでタイヤ駆動車両モデル演算部61では、エンジントルク指令信号Teng及びタイヤ回転速度検出信号ωtireに基づいて、仮想車両におけるドライブトレインの動作を模擬した演算を行うことによってタイヤ軸トルク指令信号Tsh_cmdを生成する。
【0039】
タイヤ軸トルク制御器62は、タイヤ軸トルク検出信号Tshと上記タイヤ軸トルク指令信号Tsh_cmdとに基づいて、タイヤ駆動モータ38に対する制御入力に相当するモータトルク指令信号Itireを生成し、このモータトルク指令信号Itireをタイヤ駆動モータ38へ入力する。
【0040】
図5は、タイヤ軸トルク制御器62の制御回路の構成を示す図である。タイヤ軸トルク制御器62は、軸トルク偏差演算部621と、積分器622と、ローパスフィルタ623と、タイヤ軸トルク指令演算部624と、を備え、これらを用いることによってモータトルク指令信号Itireを生成する。
【0041】
軸トルク偏差演算部621は、タイヤ軸トルク指令信号Tsh_cmdからタイヤ軸トルク検出信号Tshを減算することによって軸トルク偏差信号etshを生成し、この軸トルク偏差信号etshを積分器622へ入力する。
【0042】
積分器622は、軸トルク偏差信号etshに所定の積分ゲインKiを乗算したものの積分演算を行うことによって第1入力I1を生成し、この第1入力I1をタイヤ軸トルク指令演算部624へ入力する。積分器622の入出力特性を表す伝達関数GI(s)は、積分ゲインKi及びラプラス演算子sを用いて、下記式(5)によって表される。
【数5】
【0043】
ローパスフィルタ623は、軸トルク検出信号Tshから高周波数成分を減衰させかつ低周波数成分を通過させることによって第2入力I2を生成し、この第2入力I2をタイヤ軸トルク指令演算部624へ入力する。ローパスフィルタ623の入出力特性を表す伝達関数GLPF(s)は、4つの所定の制御ゲイン(Kp,Kd,a1,a2)及びラプラス演算子sを用いて、下記式(6)によって表される。
【数6】
【0044】
タイヤ軸トルク指令演算部624は、第1入力I1と第2入力I2とに基づいてモータトルク指令信号Itireを生成し、このモータトルク指令信号Itireをタイヤ駆動モータ38へ入力する。より具体的には、タイヤ軸トルク指令演算部624は、第1入力I1から第2入力I2を減算することによってモータトルク指令信号Itireを生成する。
【0045】
次に、このタイヤ軸トルク制御器62の入出力特性を特徴付ける積分ゲインKi及び4つの制御ゲイン(Kd,Kp,a1,a2)を設定する手順について説明する。上述のようにタイヤ試験装置Sにおいて、タイヤTは、垂直荷重調整モータ37によって模擬路面25aに対し接地させたり離間させたりすることが可能となっている。このためタイヤ駆動モータ38が負う慣性は、タイヤTが模擬路面25aに接地している場合と接地していない場合とで大きく変化するため、タイヤ軸トルクセンサ40で検出される共振周波数は大きく変化し得る。
【0046】
そこでタイヤ軸トルク制御器62では、タイヤTの模擬路面25aに対する接地状況によらず安定してタイヤ軸トルク制御を実行できるようにするため、積分ゲインKi及び4つの制御ゲイン(Kd,Kp,a1,a2)は、タイヤ軸トルク制御器62によって構成される制御回路の閉ループ伝達関数の特性多項式Pr(s)が、下記式(7)に示すように所定の係数(p1,p2,p3,p4,p5)によって特徴付けられる5次の多項式となるように設定される。
【数7】
【0047】
上記式(7)において、係数(p1,p2,p3,p4,p5)は、タイヤ軸トルク制御器62によって所望の制御特性が得られるように設定される。また上記式(7)において、“fr”は、タイヤ軸トルク制御器62の応答特性を特徴付ける応答周波数である。より具体的には、この応答周波数frは、既知であるタイヤ駆動モータ38の慣性モーメントJ2及びタイヤ駆動軸42のねじり剛性K12を用いることにより、下記式(8)によって設定される。
【数8】
【0048】
以上のような条件の下、積分ゲインKi及び4つの制御ゲイン(Kd,Kp,a1,a2)は、応答周波数fr及び係数(p1,p2,p3,p4,p5)を用いて、例えば下記式(9-1)~(9-5)によって設定される。すなわち、下記式(9-1)~(9-5)は、上記閉ループ伝達関数の特性多項式Pr(s)を上記式(7)に示すような5次の多項式とする積分ゲインKi及び4つの制御ゲイン(Kd,Kp,a1,a2)の解の一例である。なおタイヤTが模擬路面25aに接地している場合、タイヤ駆動モータ38に作用する慣性は、このタイヤ駆動モータ38の慣性モーメントJ2よりも十分に大きくなる。そこで下記式(9-1)~(9-5)を導出するにあたり、タイヤTの慣性モーメントは無限大であると近似した。
【数9】
【0049】
次に、
図6及び
図7を参照して、本実施形態に係るタイヤ軸トルク制御器62の効果について説明する。
図6は、タイヤTが模擬路面25aに接地している状態でタイヤ軸トルク制御器62にステップ状に変化するタイヤ軸トルク指令信号Tsh_cmd(
図6中破線参照)を入力した場合におけるタイヤ軸トルク検出信号Tsh(
図6中実線参照)の応答波形を示す図である。
【0050】
図7は、タイヤTが模擬路面25aに接地していない状態でタイヤ軸トルク制御器62にステップ状に変化するタイヤ軸トルク指令信号Tsh_cmd(
図7中破線参照)を入力した場合におけるタイヤ軸トルク検出信号Tsh(
図7中実線参照)の応答波形を示す図である。
【0051】
図6に示すように、時刻t1においてタイヤ軸トルク指令信号Tsh_cmdを正の所定値tstepへステップ状に変化させると、タイヤ軸トルク検出信号Tshは、オーバーシュートすることなく速やかにこのタイヤ軸トルク指令信号Tsh_cmdへ収束する。
【0052】
また
図7に示すように、時刻t1においてタイヤ軸トルク指令信号Tsh_cmdを正の所定値tstepへステップ状に変化させると、タイヤ軸トルク検出信号Tshは、タイヤTが模擬路面25aに接地している場合(
図6参照)と比較して遅れがあるものの、オーバーシュートすることなくタイヤ軸トルク指令信号Tsh_cmdへ収束する。
【0053】
以上のように、本実施形態に係るタイヤ軸トルク制御器62によれば、タイヤTが模擬路面25aに接地している場合には高応答に、またタイヤTが模擬路面25aに接地していない場合には低応答であるが安定に、タイヤ駆動軸42の軸トルクを制御できる。
【0054】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0055】
S…タイヤ試験装置
1…タイヤ試験ユニット
T…タイヤ
2…路面模擬装置
25…フラットベルト
25a…模擬路面
3…タイヤ支持機構(タイヤ接地装置)
37…垂直荷重調整モータ(タイヤ接地装置)
36…回転駆動ユニット
38…タイヤ駆動モータ
40…タイヤ軸トルクセンサ(軸トルクセンサ)
41…タイヤ回転速度センサ
42…タイヤ駆動軸
6…総括制御装置
61…タイヤ駆動車両モデル演算部
62…タイヤ軸トルク制御器(軸トルク制御器)
621…軸トルク偏差演算部
622…積分器
623…ローパスフィルタ
624…タイヤ軸トルク指令演算部(制御入力生成部)