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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】誘導加熱コイル
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/36 20060101AFI20221114BHJP
   H05B 6/42 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
H05B6/36 Z
H05B6/42
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021097666
(22)【出願日】2021-06-11
(62)【分割の表示】P 2017121138の分割
【原出願日】2017-06-21
(65)【公開番号】P2021144949
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】591195994
【氏名又は名称】株式会社ミヤデン
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英司
(72)【発明者】
【氏名】西村 昌訓
(72)【発明者】
【氏名】桑原 正樹
【審査官】土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-135045(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0318105(US,A1)
【文献】特開2008-282559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/36
H05B 6/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅の丸パイプを扁平状に潰した潰し銅パイプからなり内部に所定幅の隙間を有して所定回数巻回されたコイル状扁平パイプ、及び該コイル状扁平パイプの外周側を覆うコイルカバーを有するコイル部と、該コイル部の基端側を支持するコイルクランプ部と、を備え、
前記コイル状扁平パイプは、その基端側に第1の導電性パイプの先端が電気的及び機械的に接続され、その先端側に当該コイル状扁平パイプの軸芯に配置された第2の導電性パイプの先端が電気的及び機械的に接続されると共に、
前記コイル状扁平パイプを冷却するための冷却水の流路が、前記第1の導電性パイプ内と前記第2の導電性パイプ内を流通する流路と、前記コイルクランプ部に設けた冷却水供給部を介して前記コイルカバー内を流通する流路の二系統で形成されている ことを特徴とする誘導加熱コイル。
【請求項2】
前記冷却水供給部が、前記コイルカバーの基端部に密着状態で嵌合配置される前記コイルクランプ部のコイル固定カラーに固着されたホースジョイントで形成され、当該ホースジョイントを介して前記コイルカバー内に冷却水が供給されたり前記コイルカバー内の冷却水が排出されることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば蒸気タービン室内のフランジを締付ける大型の金属製ボルトに設けられた軸孔内に挿入されて、軸孔の内径面を誘導加熱する際に使用される誘導加熱コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の誘導加熱コイルは、例えば特許文献1に開示されている。この誘導加熱コイル(内径面誘導加熱コイル)は、絶縁体で形成され、板状部の中央部位に内径突出部が形成されたベース部材、及び大径の膨出部と細径の外径突出部を備えたカバー部材からなる中空のケースと、このケースの内部に配設された薄板状の導体を所定回数巻回した加熱部材とを備え、加熱部材に高周波電流を供給すると共に加熱部材を配設したケース内に冷却水を供給して、被加熱部材の内径面を誘導加熱するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3621685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような誘導加熱コイルにあっては、薄板状の導体をコイル状に巻回した加熱部材をケース内に配設し、このケース内に冷却水を供給して加熱部材の通電時の発熱を抑えるようにしているため、加熱部材の外周表面しか冷却できず、冷却水で加熱部材の内部を含めた全体を効果的に冷却することが難しく、十分な加熱効率が得られ難い。
【0005】
また、加熱部材の外周面を覆う中空のケースが、膨出部の内部に大きな空間が形成されたカバー部材と、このカバー部材の空間上面を閉塞する大径の板状部を有するベース部材とで構成されているため、ケースの基端側の外径が加熱部材の外径よりかなり大きくなり、誘導加熱コイル自体が大型化し易い。その結果、この加熱コイルを例えば金属製ボルトに設けられた軸孔に挿入配置して、軸孔内面を誘導加熱してボルトを脱着する際に、ボルトの上方が広く開放されて作業ができる場合にのみ使用できる等、加熱コイルの使用範囲が限定されてその汎用性が劣る。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、コイル状扁平パイプの内外に冷却媒体を供給可能で通電時のコイル部の発熱を効果的に抑制して加熱効率を高め得ると共に、コイル部の小型化を図り使用範囲を広めて汎用性を向上させ得る誘導加熱コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、銅の丸パイプを扁平状に潰した潰し銅パイプからなり内部に所定幅の隙間を有して所定回数巻回されたコイル状扁平パイプ、及び該コイル状扁平パイプの外周側を覆うコイルカバーを有するコイル部と、該コイル部の基端側を支持するコイルクランプ部と、を備え、前記コイル状扁平パイプは、その基端側に第1の導電性パイプの先端が電気的及び機械的に接続され、その先端側に当該コイル状扁平パイプの軸芯に配置された第2の導電性パイプの先端が電気的及び機械的に接続されると共に、前記コイル状扁平パイプを冷却するための冷却水の流路が、前記第1の導電性パイプ内と前記第2の導電性パイプ内を流通する流路と、前記コイルクランプ部に設けた冷却水供給部を介して前記コイルカバー内を流通する流路の二系統で形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、前記冷却水供給部が、前記コイルカバーの基端部に密着状態で嵌合配置される前記コイルクランプ部のコイル固定カラーに固着されたホースジョイントで形成され、当該ホースジョイントを介して前記コイルカバー内に冷却水が供給されたり前記コイルカバー内の冷却水が排出されることを特徴とする
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1及び請求項2に記載の発明によれば、コイル部を被加熱物の孔内に挿入配置した状態で、コイル状扁平パイプに高周波電流を供給すると共に、コイルカバー内とコイル状扁平パイプの隙間内に冷却水を供給して、被加熱物の孔の内面を誘導加熱するため、コイル状扁平パイプの外周面の全域と隙間内面を冷却水で冷却できて、コイル状扁平パイプの通電時の発熱を効果的に抑制して加熱効率を高め得ると共に、コイル部の小型化を図り誘導加熱コイルの使用範囲を広めてその汎用性を向上させることができる。
【0010】
また、コイル状扁平パイプが、銅の丸パイプを扁平状に潰した潰し銅パイプで、断面略楕円の面積の広い外周面をコイルカバーの内面に対向配置できるため、扁平パイプをプレス加工等で簡単かつ確実に成型できる等、コイル状扁平パイプを容易に形成できると共に、被加熱物の内面に作用する磁束密度を高めて加熱コイルによる加熱効率を一層高めることができる。
【0011】
さらに、コイル状扁平パイプが、その基端側に第1の導電性パイプの先端が電気的及び機械的に接続され、その先端側に当該コイル状扁平パイプの軸芯に配置された第2の導電性パイプの先端が電気的及び機械的に接続されて、両導電性パイプに冷却水の流路が形成されていたり、コイルクランプ部に設けた冷却水供給部による流路が形成されているため、第1及び第2の導電性パイプの先端部にコイル状扁平パイプの両端部を電気的に接続しつつ機械的に安定支持することができると共に、二系統の流路でコイルカバー内に冷却水を良好に流通させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係わる誘導加熱コイルの一実施形態を示す平面図
図2】同その内部を透視した状態の正面図
図3】同図2の左側面図
図4】同図2の右側面図
図5】同図2の縦断面図
図6】同図5のA部の拡大図
図7】同図5のB部の拡大図
図8】同加熱コイルの使用状態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1図7は、本発明に係わる誘導加熱コイルの一実施形態を示している。図1図4に示すように、誘導加熱コイル1(加熱コイル1という)は、所定外径φ(例えば図2のφ=38mm)で所定有効長さ(例えば図2のL=355mm)の円筒形状のコイル部2と、このコイル部2の基端側を支持するコイルクランプ部3を備えている。
【0014】
前記コイル部2は、図5及び図7に示すように、扁平パイプを所定回数コイル状に巻回して形成したコイル状扁平パイプ2aと、このコイル状扁平パイプ2aの外周側を覆う絶縁体からなるコイルカバー2bを有している。
【0015】
このとき、コイル状扁平パイプ2aは、導体である銅の丸パイプを潰すことで、断面略楕円の扁平形状で内外に面積の広い外周面を有して内部に扁平な所定の幅寸法tの隙間2a2を有した潰し銅パイプ2a1が使用され、この潰し銅パイプ2a1を直線状の軸芯に沿って所定回数巻回することでコイル状に形成されている。そして、このコイル状扁平パイプ2aは、その面積の広い外側の外周面がコイルカバー2bの内周面に略接触する等して対向配置されている。
【0016】
また、図5に示すように、コイル状扁平パイプ2aのコイルクランプ部3側となる基端部には、第1の導電性パイプとしての長さの短い丸もしくは角の銅パイプ4aの先端が例えばロー付け固定され、この銅パイプ4aの基端部は、前記コイルクランプ部3に後述する如く支持されつつ、コイルクランプ部3外に所定長さ引き出されている。また、前記コイル状扁平パイプ2aの先端部には、第2の導電性パイプとしての外周面に絶縁パイプ等の絶縁材5(図6参照)が嵌挿等された長さの長い丸もしくは角の銅パイプ4bの先端が例えばロー付け固定され、この銅パイプ4bは、コイル状扁平パイプ2aの軸芯位置に貫通状態で配置されて、その基端側が銅パイプ4aと同様に、コイルクランプ部3に支持されつつ該クランプ部3外に所定長さ引き出されている。
【0017】
なお、コイル状扁平パイプ2aの基端部と銅パイプ4a及びコイル状扁平パイプ2aの先端部と銅パイプ4bの接続部には、図6及び図7に示すように、冷却水等が流通する冷却孔6がそれぞれ形成されている。この冷却孔6により、コイル状扁平パイプ2aの両端部である基端部及び先端部の前記隙間2a2と、各銅パイプ4a、4bの円形の内部空間とが連通状態とされ、冷却媒体としての冷却水や冷却ガス(以下の説明では冷却水)が両者間で流通することになる。また、この冷却孔6は、図示した例に限らず、コイル状扁平パイプ2aの外周面の適宜位置に設けて、銅パイプ4a、4bの内部とコイルカバー2bの内部空間2b2を連通させるようにしても良い。
【0018】
なお、前記コイル状扁平パイプ2aは、前述したように円形の銅パイプを潰した潰し銅パイプ2a1が使用されるが、この扁平パイプの内部に形成される扁平な隙間2a2の寸法tは、内部に冷却水(冷却媒体)が流通可能なできるだけ小さい寸法で扁平度が大きいことが好ましいが、コイル部2の外径や被加熱物の形態等に応じて適宜に設定される。
【0019】
前記コイルカバー2bは、図5に示すように、例えばベーク材等の絶縁材で、基端側が開口すると共に先端側が底壁2b1で閉塞されて内部空間2b2を形成する有底円筒形状に形成されている。また、コイルカバー2bの内径は、コイル状扁平パイプ2aの外径より若干大きいか略同一に形成されて、コイル状扁平パイプ2aをコイルカバー2bの内部空間2b2内に収容した際に、コイル状扁平パイプ2aの外周側の全域を覆う(カバーする)ようになっている。なお、コイルカバー2bの先端側の底壁2b1の内面は、中心位置が深くなる断面円錐形状に形成されて、冷却水のコイルカバー2b内における流れがスムーズとなるように設定されている。
【0020】
前記コイルクランプ部3は、図5及び図6に示すように、それぞれ絶縁材で形成された、カバー固定ナット3a、コイル固定カラー3b及びコイル固定板3c等を有している。カバー固定ナット3aは、反コイル状扁平パイプ2a側に円形の凹部3a1を有し、この凹部3a1の内周側面にはネジ3a2が形成されると共に、凹部3a1の底壁の中心位置には、コイルカバー2bが嵌合される嵌合孔3a3が形成されている。なお、嵌合孔3a3に嵌合されるコイルカバー2bの基端部には、2つの段差を有する肉厚部2b3が形成され、この肉厚部2b3の段差の端面にカバー固定ナット3aの底壁面が当接して位置決めされることで、カバー固定ナット3aの反コイル状扁平パイプ2a側への抜けが防止されるようになっている。
【0021】
また、コイルカバー2bの肉厚部2b3の段差の外周面にはOリング(オーリング)7aが配設され、このOリング7aを介して前記コイル固定カラー3bが、コイルカバー2の基端部に密着状態で嵌合配置されている。このとき、コイル固定カラー3bは、反コイル状扁平パイプ2a側が閉塞しコイル状扁平パイプ2a側が開口した内部空間3b1を有する略カップ形状に形成され、開口側の外周面にはネジ3b2が形成されている。このネジ3b2に、前記カバー固定ナット3aのネジ3a2をねじ込んだり緩めることにより、カバー固定ナット3aとコイル固定カラー3bを一体的に組み付けたり取り外し可能なっている。
【0022】
また、前記コイル固定カラー3bの前記内部空間3b1は、コイル固定カラー3bをカバー固定ナット3aでコイルカバー2bに組み付け固定した際に、コイルカバー2bの基端側の内部空間2b2に連通するようになっている。このコイル固定カラー3bの内部空間3b1の内径は、コイルカバー2bの内径と略同一に設定されている。
【0023】
また、コイル固定カラー3bの周壁の直径方向の対向位置に設けた一対の孔には、冷却水を供給したり排出するための一対のホースジョイント8a、8bが嵌合固着されている。この一対のホースジョイント8a、8bと一対の銅パイプ4a、4bとにより、本発明の冷却媒体供給部が構成される。なお、コイル固定カラー3bの底壁には、一対の貫通孔が形成され、この各貫通孔には前記一対の銅パイプ4a、4bが、Oリング7bを介し機密性を有してそれぞれ貫通配置されている。
【0024】
前記コイル固定板3cは、角柱形状に形成され、図3に示すように、その長手方向の側面に2本の銅パイフ4a、4bを支持する半円形の凹部が設けられると共に、一対のネジ9によりコイル固定カラー3bの底壁外面に固定されている。これにより、1対の銅パイプ4a、4bの基端部がコイル固定板3cとコイル固定カラー3bで支持されると共に、コイル固定カラー3bの内部空間3b1内の冷却水が、銅パイプ4a、4bの外周面を伝わってコイル固定カラー3bの底壁外面への漏洩が防止されるようになっている。なお、コイルクランプ部3の構成は、以上説明した構成に限らず、例えばコイル固定板3cを円盤形状として防水性(気密性)を一層高める等、同等の作用効果が得られる適宜の構成を採用することができる。
【0025】
そして、このように構成された前記加熱コイル1は、図8に示すように接続されて使用される。すなわち、加熱コイル1の一対の銅パイプ4a、4bの基端部には、端子板11がそれぞれ固定されると共に各銅パイプ4a、4bに連通状態でホースジョイント4a1、4b1がそれぞれ固定されており、この加熱コイル1の一対の端子板11を出力変成器13の出力端子14のそれぞれに蝶ナット22を利用して直接固定する。また、出力変成器13の入力端子15を可撓性の接続ケーブル16を介して、高周波発信機としてのトランジスタインバータ17の出力端子にそれぞれ接続する。
【0026】
これにより、加熱コイル1のコイル状扁平パイプ2aとトランジスタインバータ17が、出力変成器13を介して電気的に接続される。電気的な接続が完了したら、前記トランジスタインバータ17に付設して設けられ冷却水タンクや冷却器を有する冷却水供給装置18と、出力変成器13の入力側をホース19で接続すると共に、この出力変成器13の出力側と加熱コイル1の冷却水供給部とを次のように接続する。
【0027】
先ず、前記コイルクランプ部3に配設された一対のホースジョイント8a、8bと、出力変成器13の出力端子14に設けられたホースジョイント14aをホース20でそれぞれ接続すると共に、前記一対の銅パイプ4a、4bの基端部に固定した各ホースジョイント4a1、4b1と、前記ホースジョイント14aをホース21でそれぞれ接続する。なお、ホース20、21が接続される出力変成器13の出力端子14のホースジョイント14aは、出力変成器13内に配設された図示しないパイプ等を介して、出力変成器13の入力端子に設けたホースジョイント15aに連通状態とされて、このホースジョイント15aが前記冷却水供給装置18に接続される。
【0028】
これにより、冷却水供給装置18と加熱コイル1のホースジョイント4a1、4b1及びホースジョイント8a、8bとが共に連通状態とされて、加熱コイル1内に二系統の冷却水流路が形成される。すなわち、冷却水供給装置18→出力変成器13→ホースジョイント8a→コイル固定カラー3bの内部空間3b1→コイルカバー2bの内部空間2b2→コイル固定カラー3bの内部空間3b1→ホースジョイント8b→出力変成器13→冷却水供給装置18の第1の流路と、冷却水供給装置18→出力変成器13→ホースジョイント4b1→銅パイプ4b→コイルカバー2bの内部空間2b2→銅パイプ4a→ホースジョイント4a1→出力変成器13→冷却水供給装置18の第2の流路の二系統で、冷却水が加熱コイル1のコイルカバー2b内に循環供給されることになる。
【0029】
つまり、前記第1の流路で図5の矢印イの如く、ホースジョイント8aからコイル固定カラー3bの内部空間3b1内に供給される冷却水は、コイルカバー2bの空間2b2内を流通して該空間2b2内の水量が所定量(水圧が所定圧)になると、コイルカバー2bの内部空間2b2に連通状態のコイル固定カラー3bの内部空間3b1からホースジョイント8bを介して、図5矢印ロの如く加熱コイル1外に排出され、最終的に冷却水供給装置18に回収される。
【0030】
また、前記第2の流路で図5の矢印ニの如く、加熱コイル1の銅パイプ4b内に供給される冷却水は、銅パイプ4b内をコイルカバー2bの先端側(底壁2b1側)に向けて流れて、その先端部からコイルカバー2bの底壁2b1に向けて、図7の矢印ニの如く所定圧で噴射される。この噴射された冷却水は、底壁2b1の円錐状の傾斜面で反射されつつコイルカバー2b内を基端側に向けて流れ、銅パイプ4aの先端部内に流れて図5の矢印ホの如く、ホースジョイント4a1等を介して冷却水供給装置18に回収されることになる。
【0031】
なお、前記第1の流路と第2の流路を流れる冷却水の水量(水圧)は、同一に設定されるが、例えば各流路のホースジョイントの流通孔の大きさやホースの内径を異ならせること等により、コイル状扁平パイプ2aを効果的に冷却できるように設定することも可能である。
【0032】
また、コイルカバー2b内の冷却水の温度を、例えば直接もしくは冷却水供給装置18あるいは出力変成器13の出力側に回収される冷却水を利用して、適宜の温度センサで検出し、この検出温度が予め設定した温度より高い場合に、第1の流路と第2の流路を流れる冷却水の流量を増減したりあるいは一方を停止する等、所定に制御するように構成することもできる。この場合は、切替弁や調整弁(いずれも図示せず)を各流路の所定位置に接続し、これらを検出した温度に基づいて制御することで、一方の流路のみに冷却水を供給したり、二つの流路の流量を増減することで、コイルカバー2b内の冷却水の温度を常に最適温度に設定できるようにすれば良い。
【0033】
ここで、本発明の加熱コイル1が接続される前記出力変成器13の構成について説明する。出力変成器13は、図9に示すように、円筒状ケース13aによりその外形形状が所定長さの円筒形状に形成され、その出力(二次コイル)側には一対の前記出力端子14が設けられ、その入力(一次コイル)側には一対の前記入力端子15が設けられている。
【0034】
前記出力端子14は、前縁板を介して圧接固定された一対の銅板からなる端子部と、この両端子部に固定されその先端が両外面側に突出して蝶ナット22がそれぞれねじ込まれたボルトと、端子部の外側面にロー付け固定されると共に二次コイルの端部に接続された銅パイプやホースジョイント14a等をそれぞれ有している。また、前記入力端子15は、絶縁板を介して圧接固定された一対の銅板からなる端子部と、この端子部を固定するボルト及びナットをそれぞれ有すると共に、この入力端子15の側方には、冷却水供給用の前記ホースジョイント15aが配設されている。
【0035】
さらに、出力変成器13は、所定長さの例えば塩ビパイプ等からなる絶縁性の前記円筒状ケース13aの内部に、フェライトコアを複数個連設することにより全体形状が直方体形状に形成されて例えば垂直状態で配置されたI型コアと、このI型コアの高さ方向の中間位置の周囲に水平状態で配設され、銅の角パイプによって平面視で略コ字状に形成された単巻き状の二次コイルと、この二次コイルの上下面でI型コアの周囲に所定回数巻回され外周面が絶縁材で被覆された円形の銅パイプからなる一次コイルと、これら一次コイルと二次コイルの外周面を覆うように長手方向に連設配置された複数個のリングコア(いずれも図示せず)等を有している。
【0036】
そして、一次コイルの両端が前記入力端子15の一対の端子部にそれぞれ接続され、二次コイルの両端が前記出力端子14の一対の端子部にそれぞれ接続されている。また同時に、前記入力端子15の側方に設けられたホースジョイント15aが、一次コイルの銅パイプの端部と二次コイルの角パイプの端部に図示しない冷却水ホース等でそれぞれ接続されている。
【0037】
なお、前記出力変成器13の円筒状ケース13aの長手方向の例えば中間位置には、設置板24が配設されている。この設置板24は、所定長さで所定幅の例えばTCボード等の絶縁性の板材で形成され、出力変成器13の円筒状ケース13aの外周面に複数の板体からなる支持部材24aで支持されている。そして、支持部材24aが円筒状ケース13aの外周面にその回動が規制された状態で支持固定されることで、水平な設置板24が出力端子14の垂直な各端子部に対して直交するようになっている。
【0038】
このように構成された出力変成器13は、前述したように、その入力側にトランジスタインバータ17や冷却水供給装置18に接続され、その出力側に加熱コイル1が接続される。このとき、加熱コイル1の端子板11が、円筒状ケース13a内に連設状態のI型コアやリングコアを有すると共にこれらのコアに対して一次コイルと二次コイルを効率的に配置した出力変成器13の出力端子14に直接接続されることから、トランジスタインバータ17から出力変成器13に入力される電流を所定に設定することで、出力変成器13から加熱コイル1に所望の電流を直接供給できて、出力変成器13と加熱コイル1間の電流ロスを考慮する必要がなく、加熱作業現場における加熱コイル1の加熱条件の設定が簡単かつ確実に行えることになる。
【0039】
また、出力変成器13自体が、I型コアやリングコア及び一次コイルや二次コイルの効果的な配置により、磁束の漏れ等を抑えて一次コイルと二次コイルの結合係数(巻数比率)が高められることから、小型で高出力の出力変成器13が得られ、本発明の加熱コイル1のように加熱作業現場で加熱コイル1を移動させつつ作業を行う場合に最適な出力変成器13として使用できることになる。
【0040】
次に、前記加熱コイル1の使用方法の一例について説明する。
先ず、前述した接続状態(設置状態)において、出力変成器13の位置を調整して加熱コイル1を図示しない被加熱部材としての金属製ボルトの軸孔内に挿入する。そして、この加熱コイル1の挿入状態を維持しつつ、例えば出力変成器13に設けた図示しない加熱スイッチやリモコンを操作して、トランジスタインバータ17から出力変成器13を介して加熱コイル1に所定周波数の高周波電流を供給すると共に、冷却水供給装置18から出力変成器13の一次コイル及び二次コイルと加熱コイル1の前記第1の流路と第2の流路に冷却水を循環供給する。
【0041】
加熱コイル1に例えば高周波電流が供給されると、その渦電流により金属製ボルトの軸孔内面が誘導加熱されて金属製ボルトが膨張してフランジのネジ孔から抜き取られる。また、加熱時に循環供給される冷却水により、出力変成器13と加熱コイル1のコイル状扁平パイプ2aが冷却されて、これらの発熱による加熱効率の低下が抑制される。このとき、加熱コイル1の加熱導体としてコイル状扁平パイプ2aを使用していることから、例えば加熱導体として円形の銅パイプを使用した場合に比較して、コイル状扁平パイプ2aから放射される磁力線が軸孔の内面に効率的に照射されて、軸孔の軸方向の加熱温度のバラツキを抑えることができる等、軸孔の軸方向全域の内面を略均一に誘導加熱することができる。
【0042】
また同時に、コイル状扁平パイプ2aの外周面全域が冷却水中に浸漬した状態になると共に、コイル状扁平パイプ2aの隙間2a2内にも冷却水が循環供給されることから、コイル状扁平パイプ2aを効果的に冷却でき、その発熱による加熱効率の低下を抑制して加熱コイル1による加熱効率を一層高めることができる。また、軸孔の加熱による金属製ボルトの抜き取り時に、小型で持ち運び等が容易な出力変成器13の出力端子14に加熱コイル1が直接固定されていることから、金属製ボルト間の移動や設置及び作業開始や作業終了時の移動等が簡単に行えることになる。これらにより、例えば多数の金属製ボルトで固定されている蒸気タービン室内のフランジから、金属製ボルトが短時間かつ簡単に抜き取りできることになる。
【0043】
このように、前記加熱コイル1によれば、コイル部2を金属製ボルトの軸孔内に挿入配置した状態で、コイル状扁平パイプ2aにトランジスタインバータ17から高周波電流を供給すると共に、冷却水供給装置18からコイルカバー2bの内部空間2b2とコイル状扁平パイプ2aの隙間2a2内に冷却水を供給して、金属製ボルトの軸孔の内面を誘導加熱するため、コイル状扁平パイプ2aの外周面の全域と隙間2a2内面を冷却水で冷却できて、コイル状扁平パイプ2aの通電時の発熱を効果的に抑制しその加熱効率を高めることができる。
【0044】
また同時に、新たな冷却水の流路の構成により、コイルクランプ部3の外径を従来例のように大きくする必要がないため、コイルクランプ部3の小型化を図って加熱コイル1の運搬や設置が容易に行えたり、加熱コイル1の使用範囲を広めることができて、各種設置状態の金属製ボルトの軸孔の誘導加熱に簡単に利用できる等、加熱コイル1の汎用性を大幅に向上させることが可能になる。
【0045】
また、コイル状扁平パイプ2aが、丸(円形)銅パイプを扁平状に潰した潰し銅パイプ2a1であるため、丸銅パイプをプレス加工機等で押圧することで扁平パイプとし、これを所定回数巻回することでコイル状扁平パイプ2aを容易に形成することができて、加熱コイル1のコストアップを抑えることが可能になる。
【0046】
また、コイル状扁平パイプ2aが、その基端側に銅パイプ4aの先端が電気的及び機械的に接続され、その先端側に当該コイル状扁平パイプ2aの軸芯位置に配置された銅パイプ4bの先端が電気的及び機械的に接続されて、両銅パイプ4a、4bに冷却水の流路が形成されるため、銅パイプ4a、4bの先端部にコイル状扁平パイプ2aの両端部を電気的に接続しつつ機械的に安定支持することができると共に、コイル状扁平パイプ2aの隙間2a2内にも冷却水を良好に流通させることができて、安定した加熱状態を得ることができる。
【0047】
さらに、銅パイプ4a、4bとコイル状扁平パイプ2aとの接続部に、各銅パイプ4a、4bの内部空間とコイル状扁平パイプ2aの隙間2a2とを連通する冷却孔6を設けているため、銅パイプ4a、4bとコイル状扁平パイプ2a間に冷却水を流通できて、冷却水をコイルカバー2内で効率的に供給循環させて、コイル状扁平パイプ2aの冷却効果を一層高めることができる。
【0048】
また、冷却水供給装置18からの冷却水が、コイル状扁平パイプ2aの隙間2a2及び又はコイルカバー2bの内部空間2b2に連通するコイル固定カラー3bの内部空間3b1に供給可能であるため、コイルカバー2b内に冷却水を二系統で供給することができて、金属製ボルト(被加熱物)の形態等に応じて冷却系統を設定でき、コイル状扁平パイプ2aの冷却効果をより一層高めることができる。このとき、コイル状扁平パイプ2aの隙間2a2とコイル固定カラー3bの内部空間3b1への冷却水の供給が、コイルカバー2b内の冷却水の温度に基づいて制御されるように構成することで、コイル状扁平パイプ2aの冷却状態に応じた最適条件での冷却が可能となる。
【0049】
またさらに、コイルクランプ部3が、そのコイル部2側の外周面に設けたネジ3b2に、コイルカバー2bの基端部に脱着可能に配設されるカバー固定ナット3aのネジ3a2を螺合した際に、コイル状扁平パイプ2a側でコイルカバー2bを支持すると共に、反コイル状扁平パイプ2a側で銅パイプ4a、4bの基端側を支持するため、コイルクランプ部3でコイルカバー2bやコイル状扁平パイプ2bに接続された銅パイプ4a、4bの基端部を確実に支持できると共に、カバー固定ナット3aを緩めて外すことにより、コイルクランプ部3の分解が可能になり、加熱コイル1自体の点検や調整等の保守性を向上させたり、径の異なるコイル部への交換等を容易に行うことができる。
【0050】
また、コイル固定カラー3bが、そのコイル状扁平パイプ2a側にコイルカバー2bの内径と略等しい内径の内部空間3b1を有し、該内部空間3b1の周壁にホースジョイント8a、8bが配設されているため、コイルクランプ部3(コイル固定カラー3b)の一層の小型化を図りつつ内部空間3b1を利用して冷却水の供給及び排出が行え、コイルカバー2b内に冷却水を均一に循環供給できて、コイル状扁平パイプ2aの冷却効果をより一層高めることができる。
【0051】
なお、以上の説明においては、コイル固定カラー3bに一対のホースジョイント8a、8bを配設し、このホースジョイント8a、8bに冷却水を循環供給することで、第2の流路を形成したが、本発明はこの構成に限定されず、例えば、コイル固定カラー3bに設けられる一対のホースジョイント8a、8bを排出専用とし、銅パイプ4bもしくは両銅パイプ4a、4bから供給されてコイルカバー2b内で流通する冷却水を、当該ホースジョイント8a、8bと銅パイプ4aもしくはホースジョイント8a、8bのみを介して冷却水供給装置18に排出(回収)させることもできる。
【0052】
この場合は、コイル固定カラー3bに設けられるホースジョイント8a、8bは一つでも良いし、ホースジョイント8a、8bに調整弁を接続して、コイルカバー2b内の冷却水による水圧が所定値より高くなった場合にのみ排出させるようにし、コイルカバー2b内の水圧を略一定に維持して、コイル状扁平パイプ2aの冷却効果をより高め得る構成とすることもできる。
【0053】
また、前記実施形態においては、コイルクランプ部3をカバー固定ナット3aとコイル固定カラー3b及びコイル固定板3cで構成したが、例えばコイル固定カラー3bとコイル固定板3cを一体化する等、適宜の構成を採用することができる。さらに、前記実施形態における、コイル状扁平パイプ2aの形態等も一例であって、例えばコイル状扁平パイプ2aの巻数を軸方向に一定(均一)ではなく、軸方向中央部分の巻数を密とし両側部分の巻数の粗とする等、軸方向に巻数を異ならせて、軸孔の軸方向内面をより均一に加熱できる構成とする等、同等の作用効果が得られかつ本発明に係わる各発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、蒸気タービン室のフランジ締付け用の金属製ボルトへの適用に限らず、中心位置に軸孔を有してボルトの締付けや緩めに誘導加熱が必要な全ての金属製ボルト、あるいは孔内を誘導加熱する必要がある全ての金属製品にも利用できる。
【符号の説明】
【0055】
1・・・誘導加熱コイル、2・・・コイル部、2a・・・コイル状扁平パイプ、2a1・・・潰し銅パイプ、2a2・・・隙間、2a3・・・角銅パイプ、2b・・・コイルカバー、2b1・・・底壁、2b2・・・内部空間、3・・・コイルクランブ部、3a・・・カバー固定ナット、3a1・・・凹部、3a2・・・ネジ、3a3・・・嵌合孔、3b・・・コイル固定カラー、3b1・・・内部空間、3b2・・・ネジ、3c・・・コイル固定板、4a、4b・・・銅パイプ(導電性パイプ)、6・・・冷却孔、8a、8b・・・ホースジョイント、11・・・端子板、12・・・ホースジョイント、13・・・出力変成器、17・・・トランジスタインバータ、18・・・冷却水供給装置。
図1
図2
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図5
図6
図7
図8