(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】アクチュエータの制御方法及びアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F15B 15/10 20060101AFI20221114BHJP
【FI】
F15B15/10 H
(21)【出願番号】P 2018105262
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 太郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】奥井 学
(72)【発明者】
【氏名】小島 明寛
(72)【発明者】
【氏名】辻 知章
(72)【発明者】
【氏名】只見 侃朗
(72)【発明者】
【氏名】久道 樹
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-071740(JP,A)
【文献】特開2018-017396(JP,A)
【文献】特開2015-107533(JP,A)
【文献】米国特許第05937732(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成された弾性体
の両端に端部部材を設け、前記弾性体の内周面と前記端部部材により形成した流体室への流体の供給により径方向に膨張
して軸方向に収縮し、流体の排出により径方向に収縮
して軸方向に伸長する膨縮体を備えるアクチュエータを
軸方向に繰り返し伸縮させる前記アクチュエータの制御方法であって、
前記膨縮体を、径方向に膨張した状態から径方向に最も収縮した状態とするときに、前記膨縮体の軸方向長さが当該膨縮体の自然長よりも短くなるように維持し、再び膨張させる
ことを特徴とするアクチュエータの制御方法。
【請求項2】
前記径方向に最も収縮した状態は、前記流体の与圧によりなされる
ことを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項3】
前記膨縮体の最も収縮した状態は、
前記膨縮体
の径方向
への収縮を規制する規制手段
によりなされることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項4】
筒状に形成された弾性体
の両端に端部部材を設け、前記弾性体の内周面と前記端部部材により形成した流体室への流体の供給により径方向に膨張
して軸方向に収縮し、流体の排出により径方向に収縮
して軸方向に伸長する膨縮体を備え
、軸方向に繰り返し伸縮されるアクチュエータであって、
前記アクチュエータは、
前記膨縮体を、径方向に膨張した状態から径方向に最も収縮した状態とするときに与圧を印加し、前記膨縮体の軸方向長さが当該膨縮体の自然長よりも短くなるように維持して再び膨張させる与圧手段を備えたことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項5】
筒状に形成された弾性体
の両端に端部部材を設け、前記弾性体の内周面と前記端部部材により形成した流体室への流体の供給により径方向に膨張
して軸方向に収縮し、流体の排出により径方向に収縮
して軸方向に伸長する膨縮体を備え
、軸方向に繰り返し伸縮されるアクチュエータであって、
前記アクチュエータは、
前記流体を大気圧になるまで排出し、前記膨縮体を径方向に膨張した状態から径方向に最も収縮した状態とするときに、前記膨縮体の内周面側から径方向の収縮を拘束し、前記膨縮体の軸方向長さが当該膨縮体の自然長よりも短くなるように維持する拘束手段を備えたことを特徴とするアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータの制御方法及びアクチュエータに関し、特に、空気等の流体の給排により駆動されるアクチュエータの長寿命化を可能にするアクチュエータの制御方法及びアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、筒状に形成され、軸方向に沿って繊維が内包された弾性体からなる膨縮体の端部を閉塞して形成された空間に、流体を給排することにより、軸方向に伸長、収縮させて負荷に対して牽引力を作用させるアクチュエータが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このように膨縮体の弾性を利用するアクチュエータは、膨縮体の膨張、収縮の繰り返しの疲労により、破壊しやすく寿命が短いという問題がある。
本発明は、上記問題点を解決すべく、アクチュエータの長寿命化を可能にするアクチュエータの制御方法及びアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのアクチュエータの制御方法の形態として、筒状に形成された弾性体の両端に端部部材を設け、前記弾性体の内周面と前記端部部材により形成した流体室への流体の供給により径方向に膨張して軸方向に収縮し、流体の排出により径方向に収縮して軸方向に伸長する膨縮体を備えるアクチュエータを軸方向に繰り返し伸縮させる前記アクチュエータの制御方法であって、
前記膨縮体を、径方向に膨張した状態から径方向に最も収縮した状態とするときに、前記膨縮体の軸方向長さが当該膨縮体の自然長よりも短くなるように維持し、再び膨張させる態様とした。
本態様によれば、アクチュエータの寿命を長寿命化を可能にすることができる。
また、その形態として、前記径方向に最も収縮した状態は、前記流体の与圧によりなされるようにしたり、前記膨縮体の最も収縮した状態は、前記膨縮体の径方向への収縮を規制する規制手段によりなされるようにしたりすることにより、アクチュエータの長寿命化を可能にすることができる。
また、上記課題を解決するためのアクチュエータの構成として、筒状に形成された弾性体の両端に端部部材を設け、前記弾性体の内周面と前記端部部材により形成した流体室への流体の供給により径方向に膨張して軸方向に収縮し、流体の排出により径方向に収縮して軸方向に伸長する膨縮体を備え、軸方向に繰り返し伸縮されるアクチュエータであって、前記アクチュエータは、前記膨縮体を径方向に膨張した状態から径方向に最も収縮した状態とするときに与圧を印加し、前記膨縮体の軸方向長さが当該膨縮体の自然長よりも短くなるように維持して再び膨張させる与圧手段を備えた構成としたり、前記流体を大気圧になるまで排出し、前記膨縮体を径方向に膨張した状態から径方向に最も収縮した状態とするときに、前記膨縮体の内周面側から径方向の収縮を拘束し、前記膨縮体の軸方向長さが当該膨縮体の自然長よりも短くなるように維持する拘束手段を備えた構成とした。
本構成によれば、アクチュエータの寿命を長寿命化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図3】アクチュエータの収縮時の状態を示す図である。
【
図4】ゴムを伸縮させたときの応力-ひずみ線図である。
【
図5】アクチュエータを収縮させたときの収縮率とひずみの関係を示すグラフである。
【
図6】アクチュエータのひずみと応力の関係を示すグラフである。
【
図7】アクチュエータの収縮率、ひずみ及び応力の関係をまとめた表である。
【
図8】アクチュエータの駆動時の応力の変化を示すグラフである。
【
図9】伸長結晶化による耐久性向上の概念図である。
【0007】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組み合わせのすべてが発明の解決手段に必須であるとは限らず、選択的に採用される構成を含むものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、流体注入式のアクチュエータ1の外観図である。
図2は、アクチュエータを駆動する駆動装置100の一実施形態を示す構成図である。
図1に示すように、アクチュエータ1は、円筒状に形成された膨縮体2と、膨縮体2の両端を封止する端部部材4;4とを備える。
【0009】
膨縮体2は、伸縮性を有する素材として形成された弾性体からなり、内部に複数の繊維6を備える。繊維6は、膨縮体2の軸方向(長手方向)に沿って延長し、例えば、膨縮体2の円周方向に均等に分布するように配設される。これにより、繊維6は、膨縮体2の内部において繊維層を形成する。なお、軸方向に沿ってとは、数学的に厳密な意味を示すものでなく、軸方向に対しての傾斜を許容するものである。繊維6は、例えば、膨縮体2の軸方向の一端部から他端部側まで連続して延長する。
【0010】
膨縮体2を構成する素材は、例えば、シリコーンゴムやその他の合成ゴム、天然ラテックスゴム等の弾性を有し、伸縮自在な素材により構成される。また、繊維6は、例えば、炭素(カーボン)繊維、ガラス繊維、ナイロン、ポリアミド系繊維やポリオレフィン系繊維、金属繊維等の被伸長性を有するものから適宜選択して用いることができる。また、繊維6の形態は、フィラメント、ヤーン(スパン・ヤーン及びフィラメント・ヤーン)、ストランド、撚りをかけずに収束させた無撚繊維、これらの繊維を複数本撚って作成した繊維等のいずれの形態であっても良く、また、二種類以上の形態の異なる繊維を組み合わせても良い。
【0011】
膨縮体2の開口する両端部は、端部部材4;4により閉塞される。これにより、膨縮体2の内周側には、流体室Sが形成される。一方の端部部材4には、外部と流体室Sとを連通する空気流通口8が設けられる。空気流通口8には、後述の駆動装置100から延長するチューブ145が接続される。
【0012】
膨縮体2の外周には、複数のリング10が設けられる。リング10は、膨縮体2の外周において軸方向に均等な間隔a1,a2,a3で設けられ、接着等の固定方法により膨縮体2の外周に固定される。リング10は、例えば、膨縮体2の外径と同じ内径となるように形成され、膨縮体2の膨張により変形しない強度を有する素材により構成される。リング10は、流体室S内に空気を供給したときに、膨縮体2の一体的な膨張を規制し、リング10により区画された複数の瘤を形成するように設けられる。
このように膨縮体2を膨張させることにより、アクチュエータ1は、膨縮体2に内包された繊維6の拘束力によって軸方向に収縮して、牽引力を生じさせるように動作する。また、流体室S内の空気を排出することによって、もとの自然長L1に復帰(伸長)する。
【0013】
図2は、アクチュエータ1を動作させる駆動装置100の構成の一例を示す図である。上述のアクチュエータ1は、例えば、
図2に示す駆動装置100により動作が制御される。即ち、アクチュエータ1は、駆動装置100を備える。駆動装置100は、アクチュエータ1に圧縮空気を供給する空気供給手段141と、圧縮空気の圧力を制御する制御弁142と、空気供給手段141からアクチュエータ1に供給する圧縮空気を制御するコントロールユニット143とを主たる構成として備える。空気供給手段141は、例えば、エアコンプレッサやエアタンクにより構成される。
【0014】
制御弁142は、アクチュエータ1に供給する空気の流量を調整する。制御弁142には、例えば、比例電磁弁が適用される。制御弁142は、コントロールユニット143から出力される信号に基づいて、空気供給手段141に蓄圧された圧縮空気をアクチュエータ1に供給する空気の流量を調整する。制御弁142は、例えば、コントロールユニット143から信号の入力が無いときには、アクチュエータ1への空気の供給を遮断するノーマルクローズ型である。制御弁142には、チューブ144とチューブ145の一端側が接続される。チューブ144の他端側には、空気供給手段141、チューブ145の他端側にはアクチュエータ1が接続される。チューブ144及びチューブ145には、耐圧性及び可撓性を有するものが好ましい。
【0015】
チューブ145の途中には、分岐管146の一端側が接続される。分岐管146の他端側には、排出弁147が接続される。分岐管146は、チューブ145と連通し、アクチュエータ1に供給された空気が排出弁147から排出可能に構成される。排出弁147は、コントロールユニット143から出力される信号に基づいて、弁を開閉することにより、アクチュエータ1の流体室Sから空気を排出する。
【0016】
また、チューブ145の途中には、圧力センサ150が設けられる。圧力センサ150は、チューブ145を介して流体室S内の圧力を検出する。圧力センサ150により検出された圧力は、コントロールユニット143に出力される。
【0017】
コントロールユニット143は、演算手段としてのCPU、アクチュエータ1の膨縮動作(伸縮動作)を制御するためのプログラムを記憶するROM等の記憶手段を含むマイクロコンピュータを備える。コントロールユニット143は、圧力センサ150から出力される出力値に応じて、制御弁142や排出弁147に出力する信号を制御する。コントロールユニット143は、例えば、記憶手段に、アクチュエータ1に作用する負荷の荷重値と、流体室Sに供給する空気の圧力値との対応関係を紐付けしたデータや、圧力算定式等を、予め記憶させておき、各センサ150により検出された圧力値に基づいて、制御弁142や排出弁147に出力する信号を制御する。コントロールユニット143では、入力された圧力値に基づいてアクチュエータ1に供給する空気の流量を演算処理する。
【0018】
図3は、本実施形態に係るアクチュエータ1の収縮時の状態を示す図である。
本実施形態では、コントロールユニット143は、アクチュエータ1を収縮させるとき、即ち、流体室Sから空気を排出するときに、流体室Sに所定の与圧が残るように各弁を制御する。与圧が残るとは、流体室Sの圧力が、0(アクチュエータ1の周囲の気圧、例えば大気圧)よりも大きくなるように制御することを意味する。したがって、アクチュエータ1は、流体室Sに与圧を印加したことにより、
図3に示すように流体室Sの内圧を0としたときよりも軸方向に与圧分収縮し、径方向に与圧分膨張した状態となる。即ち、軸方向の長さが、自然状態におけるL1よりもL2へと短く、筒部2における最大の内径が、D1からD2へと大きい状態となる。これにより膨縮体2には、与圧分だけ張力が作用する。つまり、制御装置100は、アクチュエータ1を軸方向に伸長させたときの張力付与手段として機能する。このように軸方向への伸長時に与圧を設定し、膨縮体2に張力を付与するようにアクチュエータ1の動作を制御することによりアクチュエータ1の耐久性を向上させることができる。ここでいう伸長時とは、アクチュエータ1の駆動範囲における軸方向に最も長くなるときを意味する。以下、与圧の設定によりアクチュエータ1の耐久性が向上する理由について説明する。
【0019】
図4は、ゴムを伸縮させたときの応力-ひずみ線図である。ゴムは、ひずみと応力の関係が非線形であることは知られており、ひずみの差の大きさが同じであっても、ひずみの大きさが異なることで、応力の差の大きさも異なることが知られている。具体的には、
図4に示すように、ひずみが0から2へと変化する時と、8から10へと変化する時とでは、共にひずみの大きさの差が2で同じであるが、ひずみが0から2へと変化する時の応力の差は1.5であるのに対し、ひずみが8から10へと変化する時の応力の差は3.5となり、ひずみの大きさによってひずみと応力の関係が異なることがわかる。
【0020】
そこで、まず、アクチュエータ1を実際に軸方向に収縮させたときの収縮率とひずみの関係を調べた。その結果を
図5のグラフに示す。収縮率とは、アクチュエータ1を軸方向に収縮させたときを意味し、軸方向の長さがもっとも長いときからどれだけ収縮したかを示している。
図5に示すように、流体室Sの圧力が大気圧の状態から圧縮空気を供給してアクチュエータ1を軸方向に20%収縮させたとき(以下動作条件1という)、アクチュエータ1を軸方向に5%収縮させた状態から、圧縮空気を供給してアクチュエータ1をその状態から20%収縮させたとき(以下動作条件2という)のひずみと応力の関係をそれぞれ調べたときの結果を示している。
動作条件1では、ひずみが0から1.1へと変化し、動作条件2ではひずみが0.6から1.3へと変化した。つまり、動作条件1におけるひずみの変化幅は、1.1、動作条件2におけるひずみの変化幅は0.7となった。
【0021】
次に、アクチュエータ1のひずみと応力の関係について調べた。その結果を
図6のグラフに示す。アクチュエータ1の場合、
図6に示すようなひずみと応力の関係が得られた。そこで、動作条件1におけるひずみの変化幅にに対する応力の変化幅と、動作条件2におけるひずみの変化幅に対する応力の変化幅とを比較する。動作条件1においてひずみが0から1.1へと変化したときの応力の変化は0から0.9となった。また、動作条件2においてひずみが0.6から1.3へと変化したときの応力の変化は0.71から1.1となった。つまり、動作条件1における応力の変化幅は0.9、動作条件2における応力の変化幅は0.4となった。
【0022】
図7は、収縮率、ひずみ及び応力の関係をまとめた表である。
図8の表に示すように、同じ収縮率であってもひずみ振幅及び応力振幅σaのいずれも動作条件2が小さくなる結果が得られた。即ち、同じ収縮率でも、ひずみ領域を変更することで応力振幅σaを低減することができる。
ここで応力振幅σaについて説明する。アクチュエータ1は、
図1(a),(b)に示すように、伸縮動作を繰り返すことで駆動力を生じさせる。例えば、上述の動作条件2に基づいて、アクチュエータ1を周期的に径方向に膨張、収縮(軸方向への収縮、伸長)させた場合、アクチュエータ1の膨縮体2に生じる応力は、径方向への膨張、収縮(軸方向への収縮、伸長)に応じて
図8のグラフに示すように変化する。つまり、
図8のグラフに示すように、アクチュエータ1の動作時には、径方向に最も膨張させたとき(軸方向に最も収縮させたとき)のσmaxから、与圧を印加した状態で径方向に最も収縮させたとき(軸方向に最も伸長させたとき)のσminの範囲で応力が周期的に変化する。換言すれば、応力は、振幅σa=(σmax-σmin)/2で周期的に変化しているということができる。
【0023】
上述の動作条件1,2で示したように、同じ収縮率であっても応力振幅σaを小さくすることができることから、応力振幅σaが小さくなるように、所定の与圧を印加してアクチュエータ1を動作させればよい。応力振幅σaが小さくなるということは、ひずみ振幅も小さくなることを意味し、例えば、膨縮体2を形成する弾性体に内在する欠陥があったとしても、欠陥に起因した亀裂の成長速度を低下させることができる。逆に言えば、応力振幅σaが大きいほど亀裂の成長速度が上昇し、疲労寿命が短くなると言える。
【0024】
また、与圧を設定することにより、膨縮体2には常時張力が作用するため、膨縮体2を形成する弾性体に伸張結晶化を促すことができる。一般に、NR,IR,BR,IIR,CR等のゴムなどの規則的な分子構造を有する弾性体では、架橋後に伸長させることにより結晶化し、分子運動ができなくなり、硬さが上昇し、引っ張り強さが強くなる一方で伸びと弾性が低下することが知られている。膨縮体2の分子レベルの構造において伸張結晶化がなされることにより、
図9に示すような結晶層が伸長方向に層状に形成されることになり、例えば、結晶層と結晶層との間に潜在的な欠陥があったとしても、結晶層が欠陥に起因する亀裂の成長を阻害するため、アクチュエータ1の長寿命化を図ることができる。
【0025】
図10は、収縮率の範囲を変化させて破壊に至るまでの耐久試験の結果を纏めた表である。
図11は、
図10に示す耐久試験の結果を示すグラフである。なお、収縮率の範囲(以下、収縮率範囲という)とは、アクチュエータ1が軸方向に収縮又は伸長したときの割合を示し、0は、流体室Sに与圧が印加されていない状態を示し、自然状態を示している。また、
図10の表に示す耐久試験では、400,000回を上限としたため、実施例3及び実施例5では破壊していない。
【0026】
与圧を印加せずに駆動した比較例1,2の破壊到達回数に比べて、比較例3を除く与圧を印加して駆動した実施例1~5の破壊到達回数が二桁多くなるという結果が得られた。
ここで、与圧を印加したにも関わらず比較例1,2よりも破壊到達回数が少なくなった比較例3について検討する。比較例3では、与圧が印加されているものの、収縮率範囲が1~35と小さな与圧から広い範囲で収縮しているため、応力振幅σaが大きくなり、これに起因して最も寿命が短くなったと考えられる。一方、実施例1では、比較例3と収縮率範囲の下限値が同じであるにも関わらず、収縮率範囲が1~21と狭いため、応力振幅σaが小さくなり、長寿命化したものと言える。
【0027】
実施例2,3では、収縮率範囲が同じにも関わらず応力振幅σaが異なる大きさとなった。これは、アクチュエータ1の個体差によるものと言え、実施例2では、310,000回で破壊したにも関わらず、実施例3では破壊に至らなかった。つまり、実施例2に使用したアクチュエータ1は、欠陥が内在していたにも関わらず、与圧を印加して動作させたことにより、与圧を印加していない比較例1,2よりも長寿命化したものと考えられる。
【0028】
実施例4は、実施例2,3と収縮率の下限値、つまり実施例2,3と同じ与圧を印加した状態から実施例2,3よりも収縮率の範囲を広げたものである。実施例4では、収縮率範囲が広いため、応力振幅σaが大きくなり、実施例2,3よりも寿命が短くなったと考えられる。
【0029】
実施例5は、耐久試験のうちで収縮率の下限値を最も高く、つまり最も高い与圧を印加した状態から実施例1~3と同じ範囲を設定したものである。実施例5では、応力振幅σaが実施例1~3よりも小さくなり、長寿命化したものと考えられる。
【0030】
以上の結果を纏めると、次のように言える。アクチュエータ1に与圧を設定することにより、長寿命化を図ることができる。また、与圧の設定に際し、応力振幅σaが小さくなるように与圧の大きさを設定することで、より長寿命化を図ることができる。
【0031】
上記実施形態では、アクチュエータ1を膨張収縮させて駆動する駆動装置100の動作によりアクチュエータ1に与圧を印加するものとして説明した。即ち、駆動装置100を与圧手段として機能させたが、アクチュエータ1の膨縮体2が径方向に最も収縮した時(軸方向に最も伸長したとき)に膨縮体2に張力が作用するように、アクチュエータ1に直接、張力付与手段を設けても良い。
【0032】
図12は、
図1(a)に示すアクチュエータ1における膨縮体2の内周側に張力付与手段20を設けたときの断面図である。
図12に示すように、張力付与手段20は、軸方向に伸長した状態においてリング10により区画される区間毎に設けられる。本例における張力付与手段20は、例えば、外周面が樽型に膨張した中空の円膨縮体からなる。この張力付与手段20の外周面における最大径は、流体室Sの圧力が外部の大気圧と同じとき(
図1に示す状態)の膨縮体2の内径D1よりも大きく設定される。また張力付与手段20の軸方向長さは、アクチュエータ1が軸方向に収縮したときに、収縮を妨げない長さに設定される。
【0033】
図12に示す形態では、
図1(b)に示すように、アクチュエータ1が軸方向に収縮したときのリング10によって軸方向に区画される区間長さよりも短い長さに設定される。そして張力付与手段20は、固定され、膨縮体2の内部における位置や姿勢が大きく変化しないように流体室S内において図外の保持手段により保持される。
このように、張力付与手段20をアクチュエータ1の流体室Sの内部に配置することにより、膨縮体2が径方向に収縮するときにその収縮を規制する規制手段として機能し、常に張力が作用するため、上述のように制御装置100によって流体室Sに与圧を印加したときと同じように、膨縮体2に常に張力を付与することができる。
その結果、制御装置100がアクチュエータ1を軸方向に伸長させるときに流体室Sに与圧を印加する制御をしなくても、アクチュエータ1の長寿命化を図ることができる。
なお、張力付与手段20の形状は、上記樽型に限定されず、適宜変更すれば良い。即ち、流体室Sから空気を排出して膨縮体2を径方向に収縮させるときに、膨縮体2に所定の張力が得られるように、収縮を規制するものであれば良い。
【0034】
図12は、アクチュエータ1に設ける張力付与手段の他の形態を示す図である。
図12では、張力付与手段を別体として設けたが、
図13に示すように、膨縮体2に一体的に設けても良い。
図13に示す張力付与手段20は、膨縮体2の内周面から突出する突起として膨縮体2に一体的に形成される。張力付与手段20は、
図13に示すように、膨縮体2の円周方向に沿って複数形成され、
図13(b)に示すように、アクチュエータ1を径方向に膨張させたとき(軸方向に収縮させたとき)には、各突起22は円周方向に離れ、径方向に収縮させたとき(軸方向に伸長させたとき)には、各突起22の円周方向の端面22a同士が接触して、膨縮体2の径方向への収縮を規制するように構成される。つまり、複数の突起が、膨縮体2の径方向への収縮を規制する規制手段として機能する。このように張力付与手段20を構成しても、上述のように、常に膨縮体2に張力がかかることになり、アクチュエータ1の長寿命化を図ることができる。
【0035】
上記実施形態では、流体の供給により膨縮体2が、径方向には膨張、軸方向には収縮し、流体の排出により径方向には収縮し、軸方向には伸長するアクチュエータ1を用いて説明したが、アクチュエータの形態は、これに限定されず、他の流体の供給、排出によって弾性体を膨張、収縮させて駆動するものであれば、いずれであっても上記方法を適用することができる。
【0036】
また、上記実施形態では、弾性体を半径方向外向きに膨張させるアクチュエータ1を用いて、アクチュエータを長寿命化する方向について説明したが、これに限定されない。例えば、弾性体を半径方向内向きに膨張させるものや、外径の異なる弾性体を2重管として配置し、内筒を径方向内向きに、外筒を径方向外向きに膨張させるものであっても同様である。
【0037】
なお、アクチュエータ1の弾性体に張力を付与する場合、アクチュエータ1が動作するときの張力が大きくなる方向と同じ方向の張力を付与するように、張力付与手段を機能させることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0038】
1 アクチュエータ、2 膨縮体、4 端部部材、6 繊維、
20 張力付与手段、100 駆動装置。