(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】円偏光発光ダイオード
(51)【国際特許分類】
H01L 33/36 20100101AFI20221114BHJP
H01L 33/40 20100101ALI20221114BHJP
H01L 29/43 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
H01L33/36
H01L33/40
H01L29/46
(21)【出願番号】P 2019030657
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2021-12-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、先端光量子科学アライアンス(先端光科学における材料開拓)/平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、地域産学バリュープログラム、純粋円偏光スピン発光ダイオードの開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【氏名又は名称】河野上 正晴
(72)【発明者】
【氏名】西沢 望
(72)【発明者】
【氏名】宗片 比呂夫
【審査官】東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-041690(JP,A)
【文献】特開2014-120692(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0145952(US,A1)
【文献】特開平09-246669(JP,A)
【文献】特開平10-321964(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103779463(CN,A)
【文献】特開昭56-090574(JP,A)
【文献】NISHIZAWA N. et al.,Pure circular polarization electroluminescence at room temperature with spin-polarized light-emitting diodes,,PNAS,Vol.114, no.8,,2017年02月21日,1783 - 1788
【文献】MOTSNYI V F et al.,Electrical Spin Injection in a Ferromagnet/Tunnel Barrier/Semiconductor Heterostructure,Applied Physics Letters, Vol.81, No.2,2002年07月08日,265-267
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
H01L 29/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダブルヘテロ構造、前記ダブルヘテロ構造上に配置されたトンネル絶縁膜、及び前記トンネル絶縁膜上に配置された強磁性体電極を有する円偏光発光ダイオードであって、
前記トンネル絶縁膜が、砒化アルミニウム層及び前記砒化アルミニウム層上に配置された酸化アルミニウム層を含み、
前記ダブルヘテロ構造が、ガリウム、アルミニウム、及びヒ素を含み、且つ前記トンネル絶縁膜の前記砒化アルミニウム層に接する位置に配置された砒化ガリウム層を含む、
円偏光発光ダイオード。
【請求項2】
前記砒化アルミニウム層の厚みが、2.0nm~2.8nmである、請求項1に記載の円偏光発光ダイオード。
【請求項3】
前記酸化アルミニウム層の厚みが、0.2nm~1.0nmである、請求項1または2に記載の円偏光発光ダイオード。
【請求項4】
前記強磁性体電極がFe、FeCo、FeCoB、またはGaMnAsである、請求項1~3のいずれか一項に記載の円偏光発光ダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、円偏光発光ダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光の偏光や位相を扱う光学技術の発展は目覚しく、円偏光を直接発光する光源として、半導体LED構造と強磁性体金属とを組み合わせた円偏光発光ダイオードが検討されている。
【0003】
半導体LED構造と強磁性体金属とを単に直接接合しても、電気伝導度が大きく相違するため、強磁性体中のスピンの揃った電子を効率良く半導体LED構造中に入れることができない。そこで、トンネル伝導を利用して、強磁性体中のスピンの揃った電子を半導体LED構造中に入れることが検討されており、トンネル絶縁膜として、1nm程度の結晶性に優れた酸化アルミニウムの酸化膜を、半導体LED構造と強磁性体金属との間に配置することにより、室温で純粋な円偏光を生成する発光ダイオード素子が提案されている(非特許文献1)。
【0004】
酸化アルミニウム層は、半導体LED構造の砒化ガリウム層上に直接アルミニウム層をエピタキシャル成長させ、エピタキシャル成長させたアルミニウム層を自然酸化させることにより形成することができる。格子が揃った結晶化したアルミニウム層を酸化することにより、格子が揃った結晶化した酸化アルミニウム層を得ることができる。このようにして、強磁性体中のスピンの揃った電子を半導体LED構造中に入れることによって、実質的に100%の円偏光を発光するLEDを作製することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】N. Nishizawa, K. Nishibayashi, H. Munekata, Pure circular polarization electroluminescence at room temperature with spin-polarized light-emitting diodes, PNAS 2017, 8, 1783 - 1788.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、純粋円偏光発光時、円偏光発光ダイオード全体に10V程度の電圧がかかり、トンネル絶縁膜の酸化アルミニウム層に10~20MV/cmの電界がかかる。この電界の大きさはサファイアに絶縁破壊が起きる電界強度と同程度であり、トンネル絶縁膜の酸化アルミニウム層の結晶性を高品質にしても、絶縁破壊により発光が消失し得るため、歩留まりが低いという課題があった。
【0007】
また、円偏光発光ダイオードの発光面となる端面や膜中に漏れ電流が流れて非発光再結合が増加すること、及びトンネル絶縁膜となる酸化膜を自然酸化により形成する際に、トンネル絶縁膜に隣接する半導体層中に酸素が拡散して外部量子効率が低下することにより、純粋円偏光発光を得るために大きな電流密度が必要であった。
【0008】
そのため、低電流密度での純粋円偏光生成及び歩留まりが向上した円偏光発光ダイオードが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するために、本発明者は鋭意研究を行い、トンネル絶縁膜として、酸化アルミニウム層と半導体LED構造の砒化ガリウム層との間に、絶縁性が高い砒化アルミニウムの半導体層を配置した構造を見出した。
図1に、本開示の円偏光発光ダイオードの一例の断面模式図を示す。
【0010】
本開示は、ダブルヘテロ構造、前記ダブルヘテロ構造上に配置されたトンネル絶縁膜、及び前記トンネル絶縁膜上に配置された強磁性体電極を有する円偏光発光ダイオードであって、
前記トンネル絶縁膜が、砒化アルミニウム層及び前記砒化アルミニウム層上に配置された酸化アルミニウム層を含み、
前記ダブルヘテロ構造が、ガリウム、アルミニウム、及びヒ素を含み、且つ前記トンネル絶縁膜の前記砒化アルミニウム層に接する位置に配置された砒化ガリウム層を含む、
円偏光発光ダイオードを対象とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低電流密度での純粋円偏光生成及び歩留まりが向上した円偏光発光ダイオードを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の円偏光発光ダイオードの一例の断面模式図である。
【
図2】
図2は、比較例の円偏光発光ダイオードの断面模式図である。
【
図3】
図3は、円偏光発光ダイオード素子の長さL及び幅W、強磁性体電極の磁化方向、並びに発光方向を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、本開示の円偏光発光ダイオードで得られたフォトンエネルギーとエレクトロルミネッセンス強度(EL強度)との関係を表すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例1~6で作製した円偏光発光ダイオードと、比較例1で作製した円偏光発光ダイオードの、電流密度に対する円偏光度の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、ダブルヘテロ構造、前記ダブルヘテロ構造上に配置されたトンネル絶縁膜、及び前記トンネル絶縁膜上に配置された強磁性体電極を有する円偏光発光ダイオードであって、前記トンネル絶縁膜が、砒化アルミニウム層及び前記砒化アルミニウム層上に配置された酸化アルミニウム層を含み、前記ダブルヘテロ構造が、ガリウム、アルミニウム、及びヒ素を含み、且つ前記トンネル絶縁膜の前記砒化アルミニウム層に接する位置に配置された砒化ガリウム層を含む、円偏光発光ダイオードを対象とする。
【0014】
本開示の円偏光発光ダイオードによれば、トンネル絶縁膜中の酸化アルミニウム層の結晶性を向上することができる。
【0015】
従来、半導体LED構造の砒化ガリウム層上に接して酸化アルミニウム層を形成する場合は、酸素が砒化ガリウム層中に拡散して、砒化ガリウム層の最表面に酸化ヒ素の層が形成されてしまう。この場合、酸化ヒ素と酸化アルミニウムとは結晶構造が大きく相違するので、酸化アルミニウム層の結晶性が低下してしまう。
【0016】
これに対して、半導体LED構造の砒化ガリウム層上に砒化アルミニウム層を下地に配置する場合は、砒化アルミニウム層上に接してアルミニウム層を形成し、アルミニウム層を酸化して酸化アルミニウムを形成する。このアルミニウム層を酸化する際に、下地の砒化アルミニウム層の表面は酸化して酸化アルミニウムの層が形成される。砒化アルミニウム層の表面が酸化して形成される酸化アルミニウム層と、その上に接して配置される酸化アルミニウム層とは、結晶構造が同じであるので、結晶性が高い酸化アルミニウム層を得ることができる。
【0017】
また、本開示の円偏光発光ダイオードによれば、絶縁性が高い砒化アルミニウム層をトンネル絶縁膜の下地に配置しているので、膜中及び端面に漏れ電流が流れることを抑制することができる。
【0018】
さらには、本開示の円偏光発光ダイオードによれば、酸化アルミニウム層と半導体LED構造との間に砒化アルミニウム層を配置した構造を有するため、アルミニウム層を酸化して酸化アルミニウム層を形成する際に、半導体LED構造の半導体層への酸素の拡散を抑制することができる。
【0019】
このように、本開示の円偏光発光ダイオードによれば、酸化アルミニウム層と半導体LED構造の砒化ガリウム層との間に絶縁性が高い砒化アルミニウム層が配置され、トンネル絶縁膜の酸化アルミニウム層の結晶性が向上し、膜中及び端面への漏れ電流が抑制され、半導体LED構造の半導体層への酸素の拡散が抑制される。これらに効果により従来よりも、トンネル絶縁膜の絶縁破壊が抑制されて大幅に歩留まりが向上し、且つ大幅に小さい電流密度で純粋円偏光発光を得ることができる。
【0020】
本開示の円偏光発光ダイオードは、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の円偏光度を示す。本願において、前記好ましい範囲の円偏光度を、純粋円偏光という。円偏光度とは、右回り円偏光及び左回り円偏光のエレクトロルミネッセンス強度の合計に対する右回り円偏光または左回り円偏光のエレクトロルミネッセンス強度が占める割合をいう。
【0021】
酸化アルミニウムは、AlOxで表され、xは好ましくは1.0~1.5である。砒化アルミニウムは、AlAsで表される。
【0022】
本開示の円偏光発光ダイオードは、ダブルヘテロ構造を有する。砒化アルミニウム層及び酸化アルミニウム層を含むトンネル絶縁膜とダブルヘテロ構造との組み合わせにより、高い発光効率を得ることができる。
【0023】
ダブルヘテロ構造は、砒化ガリウム系のダブルヘテロ構造であり、ガリウム、アルミニウム、及びヒ素を含み、且つトンネル絶縁膜の砒化アルミニウム層に接する位置に配置された砒化ガリウム層を含む。
【0024】
ダブルヘテロ構造は、
図1に例示するn型半導体が強磁性体電極側に配置されるPIN構造、またはNIP構造であることができる。
【0025】
ダブルヘテロ構造は、好ましくはPIN構造である。強磁性体電極からスピンの揃った電子を、ダブルヘテロ構造の半導体LED構造中に入れるため、トンネル絶縁膜の砒化アルミニウム層に接するダブルヘテロ構造の層は、n型半導体であるn型砒化ガリウムが好ましい。電子はホールよりも緩和時間が長いので、ダブルヘテロ構造中の発光層まで、電子はスピンが揃ったまま到達することができる。
【0026】
ダブルヘテロ構造は、より好ましくは、p型砒化アルミニウムガリウム層、p型砒化ガリウム層、n型砒化アルミニウムガリウム層、及びn型砒化ガリウム層を含むPIN構造を有し、ダブルヘテロ構造のn型砒化ガリウム層上に接してトンネル絶縁膜の砒化アルミニウム層が配置される。この場合、p型砒化ガリウム層が発光層となる。
【0027】
p型砒化アルミニウムガリウム層の砒化アルミニウムガリウムは、p-AlaGabAsで表され、好ましくは、aは0.10~0.45、bは0.55~0.90である。p型砒化アルミニウムガリウム層は、好ましくはC、Be、Zn、Si、またはそれらの組み合わせがドープされている。p型砒化アルミニウムガリウム層には、好ましくは、1×1017~1×1018/cm3のドーパントがドープされている。
【0028】
p型砒化ガリウム層の砒化ガリウムは、p-GaAsで表される。p型砒化ガリウム層は、好ましくはC、Be、Zn、Si、またはそれらの組み合わせがドープされている。p型砒化ガリウム層には、好ましくは、1×1017 ~1×1018/cm3のドーパントがドープされている。
【0029】
n型砒化アルミニウムガリウム層の砒化アルミニウムガリウムは、n-AlcGadAsで表され、好ましくは、cは0.10~0.45、及びdは0.55~0.90である。n型砒化アルミニウムガリウム層は、好ましくはSn、Si、Te、またはそれらの組み合わせがドープされている。n型砒化アルミニウムガリウム層には、好ましくは、1×1016 ~1×1018/cm3のドーパントがドープされている。
【0030】
n型砒化ガリウム層の砒化ガリウムは、n-GaAsで表される。n型砒化ガリウム層は、好ましくはSn、Si、Te、またはそれらの組み合わせがドープされている。n型砒化ガリウム層には、好ましくは、1×1018 ~5×1019/cm3のドーパントがドープされている。
【0031】
ダブルヘテロ構造は、好ましくは拡散防止層を含む。拡散防止層は、例えば、p型砒化ガリウム層とn型砒化アルミニウムガリウム層との間に配置され、ドーパントの拡散を防止することができる。拡散防止層は、好ましくはノンドープの砒化アルミニウムガリウム層である。
【0032】
ノンドープの砒化アルミニウムガリウム層は、好ましくはAleGafAsで表され、eは0.10~0.45、fは0.55~0.90である。
【0033】
ダブルヘテロ構造は、単結晶基板上に形成することができる。単結晶基板として、例えば、
図1に例示するような(100)面を有するp型砒化ガリウム基板を用いることができる。
【0034】
ダブルヘテロ構造は、単結晶基板とクラッド層との間に、バッファ層を含んでもよい。単結晶基板上に、表面が平坦なバッファ層をエピタキシャル成長させ、その上にクラッド層をエピタキシャル成長させることにより、結晶性が良好なクラッド層を形成することができる。単結晶基板とクラッド層との間に配置されるバッファ層として、例えばp型砒化ガリウム層を用いることができる。バッファ層としてのp型砒化ガリウム層も、好ましくは、GaAsで表され、上記同様の種類及び量のドーパントがドープされている。
【0035】
砒化アルミニウム層の厚みは、好ましくは2.0nm~2.8nm、より好ましくは2.0nm~2.4nmである。砒化アルミニウム層の厚みは2.2nm以上であってもよい。砒化アルミニウム層の厚みが前記好ましい範囲内にあることにより、表面がより平坦な砒化アルミニウム層を得ることができ、その上に形成する酸化アルミニウム層の結晶性を向上することができる。
【0036】
酸化アルミニウム層の厚みは、好ましくは0.2nm~1.0nm、より好ましくは0.6nm~1.0nmである。酸化アルミニウム層の厚みは0.8nm以下であってもよい。酸化アルミニウム層の厚みが前記好ましい範囲内にあることにより、トンネル伝導による半導体層への電子注入効率を向上することができる。
【0037】
砒化アルミニウム層及び酸化アルミニウム層を含むトンネル絶縁膜の厚みは、好ましくは2.2nm~3.0nmである。トンネル絶縁膜の厚みが前記好ましい範囲内にあることにより、より良好に電子をトンネル伝導させることができ、また、トンネル絶縁膜全体に印加される電界が低下するので、トンネル絶縁膜の絶縁破壊がより抑制される。
【0038】
強磁性体電極は、好ましくはFe、FeCo、FeCoBまたはGaMnAsで構成される。
【0039】
本開示の円偏光発光ダイオードは、強磁性体電極の上に、好ましくは強磁性体電極の酸化防止電極を含む。酸化防止電極は、好ましくはAu層及びTi層からなるAu/Ti電極、Au層及びCr層からなるAu/Cr電極、または単層のAu電極である。
【0040】
単結晶基板は、金属板上に配置することができる。金属板は、好ましくは、Cu、Al、またはAuで構成され、より好ましくはCuで構成される。
【0041】
単結晶基板と金属板との間に、オーミック接合層を配置することができる。オーミック接合層は、好ましくは、In/Agペースト、AuZn/Agペースト、またはAu/Agペーストで構成され、より好ましくはIn/Agペーストで構成される。
【0042】
本開示の円偏光ダイオードは、分子線エピタキシー(MBE)を用いて作製することができる。酸化アルミニウムの層は、MBEで形成したアルミニウム層を酸化することにより形成することができる。アルミニウム層の酸化は、形成する酸化アルミニウム層の結晶性劣化防止のため、好ましくは、室温以下の温度で行う。酸化させる雰囲気は、好ましくは乾燥空気であり、乾燥空気中で自然酸化させて酸化アルミニウム層を形成することができる。自然酸化させる時間は、好ましくは10時間以上である。1回でアルミニウム層を自然酸化させる場合、自然酸化させる最大厚みは0.7nmである。そのため、0.7nm超の酸化アルミニウム層を形成する場合は、一旦、0.7nmの酸化アルミニウム層を形成し、酸化アルミニウム層上にアルミニウム層を形成し酸化することができる。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
(円偏光発光層の形成)
Cu基板上にIn/Agペーストを塗布し、In/Agペースト上にp型Znドープp-GaAs(1×10
18/cm
3)基板を配置した。電子線エピタキシー法(MBE法)を用い、基板温度510℃で、以下の順番で、上記基板上に、
図1に断面模式図として示すダブルヘテロ構造の円偏光発光層を形成した:
1.厚さ500nmのBeドープp型GaAs(1×10
18/cm
3)(バッファ層);
2.厚さ500nmのBeドープp-Al
0.3Ga
0.7As(1×10
18/cm
3)(クラッド層);
3.厚さ500nmのBeドープp-Ga
7As(1×10
18/cm
3)(発光層);
4.厚さ15nmのノンドープAl
0.3Ga
0.7As(ドーパントの拡散防止層);
5.厚さ300nmのSiドープn型Al
0.3Ga
0.7As(1×10
17/cm
3)(クラッド層);
6.厚さ15nmのSiドープn型GaAs(5×10
18/cm
3)(バッファ層)。
【0044】
(トンネル絶縁膜の形成)
電子線エピタキシー法(MBE法)を用い、基板温度25℃で、以下の順番で、ダブルヘテロ構造上に、
図1に断面模式図として示すトンネル絶縁膜を形成した:
7.厚さ2.0nmのAlAs層を成膜(トンネル絶縁膜);
8.厚さ0.56nmのAl層を成膜;
9.乾燥空気中に10時間暴露することによりAl層を酸化して、厚さ0.70nmの酸化アルミニウム層を形成(トンネル絶縁膜);
【0045】
(磁性金属電極の作製)
形成したトンネル絶縁膜の上に、下記の手順で、強磁性体電極(Fe)層及びAu/Ti層(電極層)を、電子線蒸着装置の真空チャンバー内で蒸着した:
10.フォトリソグラフィー法により幅40nmのレジストパターンをGaAs(110)方向に平行に形成;
11.上面に、幅40μm、長さ1mm、及び厚さ100nmのFe膜を成膜(強磁性電極);
12.Fe膜上に、幅40μm、長さ1mm、及び厚さ20nmのTi膜を成膜(Fe膜の酸化保護膜);
13.Ti膜上に、幅40μm、長さ1mm、及び厚さ50nmのAuを成膜(電極)。
【0046】
図3の矢印で示すように示すように、Feで構成された強磁性体電極に5kOeの磁場を印加し、面内方向(発光方向)に磁化させた。
【0047】
上記のようにして、長さLが1mm、幅Wが1mmの円偏光発光ダイオード素子を作製した。
図1に、実施例1で作製した円偏光発光ダイオード素子の断面模式図を示す。
図3に、円偏光発光ダイオード素子の長さL及び幅W、強磁性体電極の磁化方向、並びに発光方向を示す斜視図を示す。
【0048】
(実施例2~6)
図3における長さL及び幅Wを表1に示す組み合わせとして、円偏光発光ダイオードを作製した。その際、強磁性体電極のFeは、幅40nm及び厚み100mmを一定とし、長さは、円偏光発光ダイオード素子の長さLと同じになるようにした。
【0049】
【0050】
(比較例1)
AlAs層を形成せずに、GaAs上にAlをエピタキシャル成長(0.56nm)させて、乾燥大気による自然酸化(0.70nm)を行った後、さらにAl成長(0.24nm)させて乾燥大気による自然酸化(0.30nm)させて、結晶性酸化アルミニウム層(合計1.0nm)を形成し、長さLを1.00mm、幅Wを1.80mmとしたこと以外は、実施例1と同じ方法で、
図2に断面模式図として示す円偏光発光ダイオードを作製した。
【0051】
図4に、本開示の円偏光発光ダイオードで得られたフォトンエネルギーとエレクトロルミネッセンス強度(EL強度)との関係を表すグラフを示す。λ/4板及び直線偏光子を用いて、右回り円偏光及び左回り円偏光を分けて測定した。EL強度は、室温において、電流値I=4.0mA、電流密度J=10A/cm
2で測定した。電流密度Jは、電流値を、強磁性体電極の面積で除した値である。
【0052】
図4において、σ+が右回り円偏光のEL強度を示し、σ-が左回り円偏光のEL強度を示す。EL強度全体に対する右回り円偏光のEL強度の比率は最大91.7%であり、実質的に純粋な円偏光発光が得られた。
【0053】
表3に、実施例1~6で作製した円偏光発光ダイオードの歩留まりを示す。表4に、比較例1で作製した円偏光発光ダイオードの歩留まりを示す。比較例1で作製した円偏光発光ダイオードの多くは絶縁破壊が発生し、実質的に純粋な円偏光発光を示した割合は5%であった。一方で、実施例1~6で作製した円偏光発光ダイオードは、実質的に純粋な円偏光発光を示した割合は67%であり、大幅に歩留まりが向上した。
【0054】
【0055】
【0056】
図5に、実施例1~6で作製した円偏光発光ダイオードと、比較例1で作製した円偏光発光ダイオードの、電流密度に対する円偏光度の関係を表すグラフを示す。実施例1~6で作製した円偏光発光ダイオードは、比較例1で作製した円偏光発光ダイオードの約1/10の電流密度で、純粋円偏光発光を示した。
【符号の説明】
【0057】
100 円偏光発光ダイオード
10 強磁性体電極