(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】表面弾性波デバイス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 3/08 20060101AFI20221114BHJP
H03H 9/145 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
H03H3/08
H03H9/145 C
H03H9/145 Z
(21)【出願番号】P 2019072656
(22)【出願日】2019-04-05
【審査請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】518453730
【氏名又は名称】三安ジャパンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156018
【氏名又は名称】若田 充史
(74)【代理人】
【識別番号】100081569
【氏名又は名称】若田 勝一
(72)【発明者】
【氏名】中村 博文
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 浩一
(72)【発明者】
【氏名】門川 裕
(72)【発明者】
【氏名】飯田 浩章
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-267117(JP,A)
【文献】特開2003-298383(JP,A)
【文献】特開2001-326552(JP,A)
【文献】特開平11-031937(JP,A)
【文献】特開平11-186866(JP,A)
【文献】国際公開第2011/062072(WO,A1)
【文献】特開2006-086710(JP,A)
【文献】特開平04-068607(JP,A)
【文献】特開平03-219716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に形成された第1の櫛型電極と第2の櫛型電極とを備え、
前記第1の櫛型電極の電極指の間に、前記第2の櫛型電極の電極指が配置される表面弾性波デバイスの製造方法において、
前記圧電基板上に、前記第1の櫛型電極を形成する工程と、
前記第1の櫛型電極を形成した圧電基板上に、前記第1の櫛型電極の少なくとも電極指形成領域の表面、及び前記第1の櫛型電極の電極指間の領域を覆うように絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜に異方性ドライエッチングを施すことにより、前記第1の櫛型電極の共通電極における前記第2の櫛型電極側の側面、及び前記第1の櫛型電極の電極指の側面を覆う部分の絶縁膜を残留させて残留部分により第1の絶縁膜を形成する工程と、
少なくとも、前記第1の櫛型電極の電極指の表面と、前記第1の絶縁膜の表面と、前記第1の絶縁膜の間の、前記異方性ドライエッチングにより露出した圧電基板の表面と、圧電基板上の前記第2の櫛型電極の共通電極を形成すべき面の上に金属膜を形成する工程と、
前記金属膜の表面を、前記第1の櫛型電極と前記第1の絶縁膜が露出するまで研磨により除去して、平坦面に形成する工程と、
前記研磨により形成された平坦面に第2の絶縁膜を形成する工程と、
を含む、表面弾性波デバイスの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の表面弾性波デバイス
の製造方法において、
前記第1の絶縁膜の幅
を、前記第1の櫛型電極の電極指の幅及び前記第2の櫛型電極の電極指の幅より狭幅
とし、前記第2の櫛型電極の電極指の幅
を前記第1の櫛型電極の電極指の幅以下
とする、表面弾性波デバイス
の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面弾性波デバイス
の製造方法において、
前記第1の櫛型電極の隣り合う電極指間の間隔
を、前記第1の櫛型電極の電極指の幅に等しく形成
する、表面弾性波デバイス
の製造方法。
【請求項4】
請求項1から
3までのいずれか1項に記載の表面弾性波デバイス
の製造方法において、
前記第1の絶縁膜と前記第2の絶縁膜と
を異なる絶縁材により形成
する、表面弾性波デバイス
の製造方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の表面弾性波デバイス
の製造方法において、
前記第1の絶縁膜
を窒化ケイ素により形成
し、前記第2の絶縁膜
を二酸化ケイ素により形成
する、表面弾性波デバイス
の製造方法。
【請求項6】
圧電基板上に形成された第1の櫛型電極と第2の櫛型電極とを備え、
前記第1の櫛型電極の電極指の間に、前記第2の櫛型電極の電極指が配置される表面弾性波デバイスにおいて、
前記第1の櫛型電極の共通電極における前記第2の櫛型電極側の側面、及び前記第1の櫛型電極の電極指の側面に形成された第1の絶縁膜と、
前記第1の絶縁膜と、前記圧電基板の櫛型電極形成面とで形成される凹部に
設けられる電極指を有する前記第2の櫛型電極と、
前記第1の櫛型電極と、前記第1の絶縁膜と、前記第2の櫛型電極の、前記圧電基板の反対側の面に形成された平坦面と、
前記平坦面に形成された第2の絶縁膜とを備え、
前記第1の櫛型電極と前記第2の櫛型電極とが異種金属により形成された、
表面弾性波デバイス。
【請求項7】
請求項
6に記載の表面弾性波デバイスにおいて、
前記第1の櫛型電極がアルミニウム又はアルミニウム合金により形成され、前記第2の櫛型電極が銅により形成された、
表面弾性波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波用の表面弾性波デバイスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面弾性波デバイスは、
図9、
図10に示すように、圧電体材料でなる基板30の表面にIDT電極31を形成して構成される。IDT電極31は、対をなす櫛型電極32と33により構成される。各櫛型電極32と33は、一方の櫛型電極32の電極指32aと32aの間に、他方の櫛型電極33の電極指33aが位置するように配置される。
【0003】
従来の表面弾性波デバイスにおいては、例えば特許文献1に記載されているように、基板30にアルミニウム等の金属薄膜を形成した後、フォトリソグラフィー及びエッチング等を行うことにより、櫛型電極32と33を同時に形成している。従来は、フォトリソグラフィー用の露光装置として、露光光に波長365nmのi線ステッパーを用いている。IDT電極31の表面には、IDT電極31を覆う二酸化ケイ素等からなる保護用絶縁膜34が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図9、
図10に示した表面弾性波デバイスにおいては、櫛型電極32と33の電極指32aと33aの幅Lは、電極指32aと33aとの間隔Sと等しく(L=S)形成される。櫛型電極32と33の電極指32aと33aの電極周期Pは、電極指32aと33aの各中心線の間の間隔である。また、表面弾性波の波長をλ、基板30における表面弾性波の音速をVとしたとき、共振周波数Fは、
F=V/λ
で定義される。このため、共振周波数Fは、電極周期P(=λ/2)により決定される。例えば共振周波数Fとして2GHz(2×10
9Hz)を得たい場合、基板30の音速V=4000m(=4×10
9μm)と仮定して、
λ=V/F=4×10
9μm/2×10
9Hz=2μm
となる。また、
図9に示すように、電極周期P=λ/2=1μmとなる。また、電極指32aと33aとの間の間隔Sは電極指32a、33aの幅Lに等しいため、電極指の幅L=間隔S=0.4μmとなる。
【0006】
櫛型電極32と33の電極指32aと33aの幅Lと両者間の間隔Sの、形成可能な最も細いパターンは、露光光の波長に等しい。従って、i線ステッパーに用いられる露光光の波長は365nmであるから、その露光装置によって電極指等の配線を形成する場合には、配線の幅や配線どうしの距離は、L=S=0.365nm≒0.4μm程度までしか微細に形成することができない。このため、電極周期Pの最小限界は、P=S+L=0.8μmである。この電極周期の最小限界値に相当する共振周波数Fは、
共振周波数F=V/2P=4×109μm/2×0.8μm
=2.5GHzである。
【0007】
このため、2.5GHzを超える例えば3GHz等の高周波で使用する表面弾性波デバイスを必現するためには、波長が248nmのKrFや、波長が193nmのArFを使用する露光装置を用いる必要がある。しかしながら、これらの露光装置は高額であるため、製造費の負担増加を招く。そこで、このような製造装置の高額化を回避するため、表面弾性波デバイスの代わりにBAWフィルタを使用することが考えられる。しかしながら、BAWフィルタ自体も製造費が高額となるので、やはり製造費の高額化は回避できない。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、従来より使用されている比較的安価な製造装置を使用してより高周波に対応できる櫛型電極の形成が可能となる構造の表面弾性波デバイス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(請求項1)
本発明の表面弾性波デバイスの製造方法の1つの態様は、圧電基板上に形成された第1の櫛型電極と第2の櫛型電極とを備え、前記第1の櫛型電極の電極指の間に、前記第2の櫛型電極の電極指が配置される表面弾性波デバイスの製造方法において、前記圧電基板上に、前記第1の櫛型電極を形成する工程と、前記第1の櫛型電極を形成した圧電基板上に、前記第1の櫛型電極の少なくとも電極指形成領域の表面、及び前記第1の櫛型電極の電極指間の領域を覆うように絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜に異方性ドライエッチングを施すことにより、前記第1の櫛型電極の共通電極における前記第2の櫛型電極側の側面、及び前記第1の櫛型電極の電極指の側面を覆う部分の絶縁膜を残留させて残留部分により第1の絶縁膜を形成する工程と、少なくとも、前記第1の櫛型電極の電極指の表面と、前記第1の絶縁膜の表面と、前記第1の絶縁膜の間の、前記異方性ドライエッチングにより露出した圧電基板の表面と、圧電基板上の前記第2の櫛型電極の共通電極を形成すべき面の上に金属膜を形成する工程と、前記金属膜の表面を、前記第1の櫛型電極と前記第1の絶縁膜が露出するまで研磨により除去して、平坦面に形成する工程と、前記研磨により形成された平坦面に第2の絶縁膜を形成する工程と、を含む。
【0010】
このように、異方性ドライエッチングによる第1の絶縁膜の除去工程では、従来の露光装置を用いたパターン形成による場合よりも狭い幅の絶縁膜を、第1の櫛型電極の共通電極及び電極指の各側面に形成できる。そしてその後の第2の櫛型電極の形成工程に、第1の櫛型電極のための電極パターン形成以上の短い波長を使用する露光装置を必要としない。このため、例えば比較的安価なi線ステッパー等の露光装置で第1櫛型電極を形成しても、第1の絶縁層及び第2の櫛型電極の電極指の幅は、露光装置の解像限界による制限を受けず、より高周波に対応できる表面弾性波デバイスの提供が可能となる。
【0011】
(請求項2)
上述した本発明の態様において、より具体的には、前記第1の絶縁膜の幅は、前記第1の櫛型電極の電極指の幅及び前記第2の櫛型電極の電極指の幅より狭幅とし、前記第2の櫛型電極の電極指の幅は前記第1の櫛型電極の電極指の幅以下とする。
【0012】
このような第1の絶縁膜の幅及び電極指の幅とすることにより、従来の一般的に使用される露光装置を用いて、微細な電極パターンの形成が可能となり、従来よりも高い共振周波数の表面弾性波デバイスを得ることができる。
【0013】
(請求項3)
上述した本発明の態様において、前記第1の櫛型電極の隣り合う電極指間の間隔を、前記第1の櫛型電極の電極指の幅に等しく形成する態様がある。
【0014】
このような電極指の構成をとることにより、従来の一般的に使用される露光装置を用いて、さらに微細な電極パターンの形成が可能となり、従来よりもさらに高い共振周波数の表面弾性波デバイスを得ることができる。
【0015】
(請求項4)
上述した本発明の態様において、前記第1の絶縁膜と前記第2の絶縁膜とを異なる絶縁材により形成する一態様がある。
【0016】
このように、第1の絶縁膜と前記第2の絶縁膜とを異なる絶縁材により形成すれば、各絶縁膜が形成される箇所に好適な材質のものを選択することにより、各絶縁膜として、形成工程上、あるいは特質上、有利なものを選択して絶縁膜を形成できる。
【0017】
(請求項5)
上述した本発明の態様において、前記第1の絶縁膜を窒化ケイ素により形成し、前記第2の絶縁膜を二酸化ケイ素により形成する一態様がある。
【0018】
このように、第1の絶縁膜に窒化ケイ素を用いれば、窒化ケイ素は電気抵抗値が高いため、薄膜でありながら、第1の櫛型電極と第2の櫛型電極の各電極指間の電気的絶縁を確実に確保することができる。また、圧電基板にタンタル酸リチウム(LT)を用いた場合、LTは温度上昇に伴い音速が遅くなるが、第2の絶縁膜8として、二酸化ケイ素を用いれば、二酸化ケイ素は温度上昇に伴い音速が速くなる特性を有するため、温度変化に対する特性変化を緩和することができる。
【0019】
(請求項6)
本発明の表面弾性波デバイスの1つの態様は、圧電基板上に形成された第1の櫛型電極と第2の櫛型電極とを備え、前記第1の櫛型電極の電極指の間に、前記第2の櫛型電極の電極指が配置される表面弾性波デバイスにおいて、前記第1の櫛型電極の共通電極における前記第2の櫛型電極側の側面、及び前記第1の櫛型電極の電極指の側面に形成された第1の絶縁膜と、前記第1の絶縁膜と、前記圧電基板の櫛型電極形成面とで形成される凹部に設けられる電極指を有する前記第2の櫛型電極と、前記第1の櫛型電極と、前記第1の絶縁膜と、前記第2の櫛型電極の、前記圧電基板の反対側の面に形成された平坦面と、前記平坦面に形成された第2の絶縁膜とを備え、前記第1の櫛型電極と前記第2の櫛型電極とが異種金属により形成されたものである。
【0020】
このように、第1の櫛型電極と第2の櫛型電極とを異種金属で形成すれば、第1の櫛型電極と第2の櫛型電極として、その形成工程上、あるいは特質上、有利な金属を選択して櫛型電極を形成できる。
【0021】
(請求項7)
上述した本発明の態様において、第1の櫛型電極がアルミニウムまたはアルミニウム合金により形成され、第2の櫛型電極が銅により形成される構成とする一態様がある。
【0022】
このように、第1の櫛型電極には一般的に使用されるアルミニウム又はアルミニウム合金を使用し、第2の櫛型電極にマイグレーションを起こしにくい銅を用いることにより、マイグレーション発生を抑制することができる。また、第1の櫛型電極として用いるアルミニウム又はアルミニウム合金より、第2の櫛型電極として用いる銅は電気伝導度が高い。このため、第2の櫛型電極の電極指の幅を第1の櫛型電極の電極指の幅より狭くした場合であっても、第2の櫛型電極の電気抵抗の増大を緩和することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、例えばi線ステッパー等の露光装置を用いた比較的安価な製造装置を使用してより高周波に対応できる表面弾性波デバイスの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の表面弾性波デバイスの一実施の形態の櫛型電極の配置構造を示す平面図である。
【
図2】
図1の櫛型電極を備える表面弾性波デバイスの断面図である。
【
図3】
図1、
図2に示した表面弾性波デバイスの製造工程図である。
【
図4】本発明の表面弾性波デバイスの他の実施の形態の櫛型電極の配置構造を示す平面図である。
【
図5】
図4の櫛型電極を備える表面弾性波デバイスの断面図である。
【
図6】本発明の表面弾性波デバイスの他の実施の形態を示す断面図である。
【
図7】本発明の表面弾性波デバイスの他の実施の形態をさらに示す断面図である。
【
図8】本発明の表面弾性波デバイスの他の実施の形態をさらに示す断面図である。
【
図9】従来の表面弾性波デバイスの櫛型電極の配置構造を示す平面図である。
【
図10】
図9の櫛型電極の配置構造を有する表面弾性波デバイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は本発明の表面弾性波デバイスの一実施の形態における櫛型電極の配置構造を示す平面図、
図2はこの表面弾性のデバイスの断面図である。この表面弾性波デバイスは、圧電基板1と、その表面に形成されたIDT電極2とを備え、IDT電極2は、対をなす第1の櫛型電極3と第2の櫛型電極4とを備える。
【0026】
櫛型電極3と4は、それぞれ入力ポート3a、出力ポート4aとを備えると共に、それぞれ入力ポート3a、出力ポート4aをそれぞれ含む共通電極3b、4bを備える。入力ポート3aを出力ポートとし、出力ポート4aを入力ポートとして用いることもある。第1の櫛型電極3及び第2の櫛型電極4には、各共通電極3bと4bからそれぞれ延出して形成された複数の電極指3cと4cを有する。第1の櫛型電極3の電極指3cの間に、第2の櫛型電極4の電極指4cが配置される。
【0027】
第1の櫛型電極3の電極指3cの側面には、第1の絶縁膜5aが形成される。また、第1の櫛型電極3の共通電極3bにおける第2の櫛型電極4側の側面にも第1の絶縁膜5bが形成される。第1の絶縁膜5a及び5bと、圧電基板1の櫛型電極形成面1aとで形成される凹部6(
図3(c)参照)に、第2の櫛型電極4の電極指4cが充填配置される。第1の櫛型電極3の電極指3cと、第1の絶縁膜5a及び5bと、第2の櫛型電極4の電極指4cの、圧電基板1の反対側の面は同面をなし、平坦面7に形成される。この平坦面7に、第2の絶縁膜8が形成される。
【0028】
圧電基板1には、タンタル酸リチウム(LiTaO3)(以下LTと称することがある)又はニオブ酸リチウム(LiNbO3)(以下LNと称することがある)が用いられる。しかしながら、圧電基板1はこれらの材質のものに限定されず、他の材質のものを用いることも可能である。
【0029】
櫛型電極3と4には、例えばアルミニウム、銅、金、ニッケル、白金、チタン、クロム、銀あるいはこれらの合金等を用いることができるが、他の金属あるいは合金を用いてもよい。
【0030】
第1の絶縁膜5aと5b及び第2の絶縁膜8には、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムあるいは酸化タンタル等から選択された材質の絶縁材料が用いられる。
【0031】
図3はこの実施の形態の表面弾性波デバイスの製造方法を説明する工程図である。本実施の形態の表面弾性波デバイスは、以下の工程によって製造される。
【0032】
<1>第1の櫛型電極3の形成
図3(a)に示すように、ウエハ状の圧電基板1上に、まず第1の櫛型電極3を形成する。この第1の櫛型電極3は、圧電基板1上にレジストを塗布する工程と、露光装置により配線となるパターンを得るため、例えばi線ステッパーにより露光する工程と、レジストの露光した部分または露光しなかった部分を除去する工程と、蒸着やスパッタリング等の成膜技術により、第1の櫛型電極3用の金属膜を形成する工程と、レジストの残留した部分を除去して圧電基板1に直接金属膜を形成した部分を残す工程により形成することができる(リフトオフ法)。
【0033】
第1の櫛型電極3の他の形成方法として、圧電基板1上に第1の櫛型電極3となる金属膜を形成する工程と、金属膜上にレジストを形成する工程と、露光装置により配線となるパターンを得るため、例えばi線ステッパーにより露光する工程と、レジストの露光した部分または露光しなかった部分を除去する工程と、レジストが除去された部分をエッチングする工程と、残留しているレジストを除去してパターン化された櫛型電極を得る方法(エッチング法)を用いることができる。
【0034】
<2>第1の絶縁膜用の絶縁膜形成
第1の櫛型電極3を形成した後、
図3(b)に示すように、圧電基板1上に、第1の絶縁膜用の絶縁膜5を形成する。この絶縁膜5の形成は、前述した二酸化ケイ素や窒化ケイ素等の絶縁材料を用い、蒸着やスパッタリング等の成膜技術により行なう。この絶縁膜5の形成領域は、第1の櫛型電極3や、その電極指3cの間の領域である。
【0035】
<3>第1の絶縁膜形成
次に、
図3(b)に示すように、異方性ドライエッチングにより、エッチングを行う。異方性エッチングには、例えばイオン化したアルゴンを照射するスパッタリング又はRIE(リアクティブ イオン エッチング)等が用いられる。イオンは圧電基板1に対して垂直をなす方向(矢印9に示す)に照射する。これにより、
図3(c)に示すように、第1の櫛型電極3の電極指3cの表面(圧電基板1の反対側の面)の絶縁膜5と、電極指3cと3cとの間の中央側の絶縁膜5は除去される。しかしながら、第1の櫛型電極3の共通電極3b及び電極指3cの各側面の絶縁膜5a及び5b(第1の絶縁膜)は残る。第1の絶縁膜5a及び5bが残る理由は、異方性ドライエッチングにおいては、エッチングのためのイオン化されたガス粒子が直進するため、第1の櫛型電極3の共通電極3b及び電極指3cの各側面の絶縁膜5a及び5bが除去し難いためである。
【0036】
<4>第2の櫛型電極用金属膜の形成
次に、蒸着やスパッタリング等の成膜技術により、第2の櫛型電極4となる金属膜4Xを形成する。この工程により、
図3(d)に示すように、第1の櫛型電極3の電極指3cの領域、電極指3cと3cとの間の領域、第2の櫛型電極4の出力ポート4aを含む共通電極4bの領域に金属膜4Xが形成される。なお、この金属膜4Xの形成にあたり、第2の櫛型電極4を形成する箇所以外の領域には、予めレジストを塗布しておく。すなわち、第1の櫛型電極3の電極指3cの領域、電極指3cと3cとの間の領域、第2の櫛型電極4の出力ポート4aを含む共通電極4bの領域を残して、レジストを塗布しておく。そして、蒸着やスパッタリングなどの膜形成技術により、金属膜4Xを形成する。金属膜4Xを形成した後、レジストを除去する。
【0037】
<5>第2の櫛型電極の形成
次に、
図3(e)に示すように、金属膜4Xの、圧電基板1の反対側の面の研磨を行う。研磨方法としては例えば、CMP、ドライポリッシュ又はウエットグライデイング等の方法を用いる。この研磨は、第1の櫛型電極3と第1の絶縁膜5a及び5bが露出するまで行なう。
図3(e)のとおり、この研磨により、第1の櫛型電極3の電極指3cと、第1の絶縁膜5a及び5bと、第2の櫛型電極4の電極指4cの、圧電基板1の各反対側の面は同面となり、平坦面7が形成される。
【0038】
<6>第2の絶縁膜の形成
次に
図3(e)により得られた平坦面7に、
図3(f)に示すように、前記二酸化ケイ素や窒化ケイ素等でなる第2の絶縁膜8を形成する。成膜方法としては、例えば蒸着やスパッタリング等の成膜技術を用いる。この第2の絶縁膜8は櫛型電極3、4を保護するものであり、例えば30nm程度の厚みに形成される。なお、この第2の絶縁膜8の上にさらに例えばイミド樹脂やアミド樹脂等でなる保護膜を形成してもよい。
【0039】
このように、本実施の形態においては、第1の櫛型電極3の電極指3cの側面及び共通電極3bの各側面に第1の絶縁膜5a及び5bを形成している。そして、第1の絶縁膜5a及び5bにより、第1の櫛型電極3の電極指3cと第2の櫛型電極4の電極指4cとを電気的に仕切る絶縁膜を構成している。ここで、第1の絶縁膜5a及び5bは、異方性ドライエッチングにより、例えば0.1μm程度の狭い厚さ(
図1において、S1=0.1μm)に形成可能である。このため、本実施の形態によれば、露光装置にi線ステッパーを用いたとしても、第1の絶縁膜5a及び5bの幅は、露光装置の解像限界(i線ステッパーの場合0.4μm程度)の制限を受けないから、従来より狭い電極周期P1(
図1参照)が形成可能である。
【0040】
ここで、
図1の第1の櫛型電極3の電極指
3cの幅L1と、第1の櫛型電極3の電極指3cと3cの間隔G1を、仮にi線ステッパーにおける解像限度となる幅である0.4μmに設計した場合を想定する。この場合、第2の櫛型電極4の電極指4cの幅L2は、
L2=G1-2×S1=0.4-2×0.1=0.2(μm)となる。
また、第1の櫛型電極3の電極指3cと第2櫛型電極4の電極指4cの電極周期P1は、
P1=(L1/2)+S1+(L2/2)=0.2+0.1+0.1=0.4(μm)となる。このため、共振周波数を得るための表面弾性波の波長λ1は、
λ1=2×P1=2×0.4=0.8(μm)となる。ここで圧電基板1における音速V=4000m(=4×10
9μm)と仮定すると、共振周波数Fは、
F=V/λ1=4×10
9μm/0.8μm=5(GHz)となる。
このように、第1の櫛型電極3の電極指3cの幅L1と、電極指3cと3cの間隔G1を、露光装置としてi線ステッパーを用いた場合の解像限界である最小幅に設定することにより、高い共振周波数の表面弾性波デバイスが得られる。
【0041】
図4は本発明の表面弾性波デバイスの他の実施の形態における櫛型電極の配置構造を示す平面図、
図5はこの表面弾性のデバイスの断面図である。この実施の形態は、第1の櫛型電極3の電極指3cと3cの間隔G2を、第1の櫛型電極3の電極指3cの幅L1より大きく(G2>L1)設定したものである。ここで、第1の櫛型電極3の電極指3cの幅L1を、露光装置としてi線ステッパーを用いた場合の解像限界である0.4μmとする。また、第2の櫛型電極4の電極指4cの幅L3も第1の櫛型電極3の電極指3cの幅L1に等しくL1=L3=0.4μmに設定したとすると、第2の絶縁膜5aと5bの幅は0.1μmであるから、隣接する電極指3cと3cの間隔G2は、
G2=2×S1+L3=2×0.1+0.4=0.6(μm)である。この場合の第1の櫛型電極3の電極指3cと第2櫛型電極4の電極指4cの電極周期P2は、
P2=(L1/2)+S1+(L3/2)=0.2+0.1+0.2=0.5(μm)となる。このため、共振周波数を得るための表面弾性波の波長λ2は、
λ2=2P2=2×0.5=1.0(μm)となる。ここで圧電基板1における音速V=4000m(=4×10
9μm)と仮定すると、共振周波数Fは、
F=V/λ2=4×10
9μm/1μm=4(GHz)となる。
【0042】
この実施の形態においても、第1の絶縁膜5a及び5bの幅S1は、第1の櫛型電極3の電極指3cの幅L1及び前記第2の櫛型電極4の電極指4cの幅L1より狭幅であるため、露光装置にi線ステッパーを用いたとしても、従来(2.5GHz)より高い共振周波数を得ることが可能である。ここで、第2の櫛型電極4の電極指4cの幅L3を第1の櫛型電極3の電極指3cの幅L1より狭く(L3<L1)とすれば、より高い共振周波数が得られる。
【0043】
ただし、L3>L1としても、L3をある値以下に設定すれば、従来例より高い共振周波数が得られる。すなわち、従来例の電極指32aと33aの幅が第1の櫛型電極3の電極指3cの幅L1と等しい(L=L1)とし、
図4、
図9の符号L3、S1、L、Sを参照して、
L3+2×S1<L+2×S=3×L=3×L1、すなわち、
L3<3×L1-2×S1であれば、従来例より高い共振周波数が得られる。
【0044】
また、この実施の形態においては、第1の櫛型電極3の電極指3cと3cの間隔G2は電極指3cの幅L1より広く(G2>L1)形成できる。このため、
図9に示した従来例の場合より、電極指32aと33aとの間隔Sより電極指3cと3cの間隔G2を広幅(G2>S)とすることができる。ここで、従来例において、電極指の微細パターンを得るため、電極指32aと33aの間隔Sを狭くする必要がある。しかし、間隔Sを狭くすると、絶縁膜34を形成する際に絶縁膜34にボイドが発生しやすく、電極指32aと33aとの間の絶縁性を損なうおそれがある。しかしながら、この実施の形態においては、
図3(b)に示したように、絶縁膜5を形成するにあたり、電極指3cと3cの間隔G2は電極指3cの幅L1より広く(G2>L1)形成されているので、絶縁膜5におけるボイドの発生を回避できる。
【0045】
なお、上記の実施の形態においては、露光装置がi線ステッパーである場合について説明したが、それ以外の他の露光装置を用いることも可能である。特にi線ステッパーよりも露光解像度の高いKrF,ArF等を用いたエキシマレーザーステッパーを使用すれば、より微細な加工が可能である。
【0046】
上述した本発明の各態様において、第1の櫛型電極3と第2の櫛型電極4とは別の工程で形成されるため、これらの櫛型電極3と4とは異種金属により形成することができる。
【0047】
このように、第1の櫛型電極3と第2の櫛型電極4とを異種金属で形成すれば、第1の櫛型電極3と第2の櫛型電極4として、これらの櫛型電極形成工程上、あるいは特質上、有利な金属を選択して櫛型電極を形成できる。
【0048】
例えば第1の櫛型電極3をアルミニウムまたはアルミニウム合金により形成し、第2の櫛型電極4を銅により形成することができる。
【0049】
このように、第1の櫛型電極3には一般的に使用されるアルミニウムあるいはアルミニウム合金を使用し、第2の櫛型電極4にマイグレーションを起こしにくい銅を用いることにより、マイグレーション発生を抑制することができる。また、第1の櫛型電極3として用いるアルミニウムより、第2の櫛型電極4として用いる銅は電気伝導度が高い。このため、
図1及び
図2に示したように、第2の櫛型電極4の電極指4cの幅L2を第1の櫛型電極3の幅L1より狭くした場合であっても、第2の櫛型電極4の電気抵抗の増大を緩和することができる。
【0050】
上述した本発明の態様において、第1の絶縁膜5a及び5bと第2の絶縁膜8とは別工程により形成されるため、第1の絶縁膜5a及び5bと第2の絶縁膜8を、異なる材質の絶縁材により形成することができる。
【0051】
このように、第1の絶縁膜5a及び5bと第2の絶縁膜8とを異なる材質の絶縁材により形成すれば、第1の絶縁膜5a及び5bと第2の絶縁膜8として、各配置箇所に好適な材質のものを選択することにより、各絶縁膜として、形成工程上、あるいは特質上、有利なものを選択して絶縁膜を形成できる。
【0052】
例えば圧電基板1としてLTを用いた場合、LTは温度上昇に伴い音速が遅くなるが、第2の絶縁膜8として、二酸化ケイ素を用いれば、二酸化ケイ素は温度上昇に伴い音速が速くなる特性を有するため、温度変化に対する特性変化を緩和することができる。一方、第1の絶縁膜5a及び5bとして、窒化ケイ素を用いれば、窒化ケイ素は電気抵抗値が高いため、薄膜でありながら、第1の櫛型電極3と第2の櫛型電極4の各電極指3cと4cとの間の電気的絶縁を確実に確保することができる。
【0053】
上記実施の形態においては、圧電基板1が1層で構成される場合について説明したが、本発明においては、
図6ないし
図8に示すように、2層以上の構成により圧電基板11A~11Cを構成してもよい。
【0054】
図6に示す圧電基板11Aは、キャリア基板12上に圧電層1xを形成して構成したものである。キャリア基板12は高抵抗の半導体または絶縁体で構成され、例えば非晶質でない結晶形態を持つシリコンや結晶質のサファイアを用いられる。キャリア基板12に用いられる材質としてはこれらに限定されず、多結晶シリコン、多結晶酸化アルミニウム、多結晶サファイアなど本発明の課題を解決しえるものであれば他の材質のものであってもよい。
【0055】
図7に示す圧電基板11Bは、キャリア基板12上に、中間層13を介して圧電層1xを形成したものである。中間層13は、キャリア基板12と圧電層1xとの結合強度を高めるかあるいは弾性波の伝搬速度の高速化を図る層の少なくともいずれかの目的を持って設けられる層である。キャリア基板12と圧電層1xとの結合強度を高める目的を持って設けられる場合、中間層13には例えば二酸化ケイ素等が用いられる。また、弾性波の高速化層として中間層13を設ける場合には、例えば窒化アルミニウム(AlN)又は窒化ホウ素アルミニウム(B
XAl
1-XN)等が用いられる。このような表面弾性波デバイスを製造する場合、圧電層1xにはなるべく薄いものを用いることがQ値を向上させる上で有効である。
【0056】
図8に示す圧電基板11Cは、中間層として、第一層13aと第二層13bの2層を設けたものである。この場合、圧電層1x側の第一層13aとして高速化層を用い、キャリア基板12側の第二層13bとして結合を強化する層を用いることができる。すなわち、第一層13aとして窒化アルミニウム又は窒化ホウ素アルミニウム等を用い、第二層13bとして二酸化ケイ素等を用いることにより、Q値の向上と結合強度の向上の効果が得られる。この他、第一層13aとして二酸化ケイ素を用い、第二層13bとして窒化アルミニウム又は窒化ホウ素アルミニウム等を用いることも可能である。また、中間層として3層以上の層構造を採用することも可能である。
【0057】
また、圧電層1xとキャリア基板12との接合層にシリコン多結晶層を設けてもよい。接合層にシリコン多結晶層を設けることで、高周波のリーク電流を抑える効果があり、圧電層1xを高周波の波長近くに薄くした場合、高周波ノイズを抑圧する効果がある。
【0058】
以上、本発明についての説明を行なったが、上述した例に限らず、例えば第1の櫛型電極3及び第2の櫛型電極4の少なくともいずれかを2層構造としたり、第1の絶縁膜5a及び5bと第2の絶縁膜8の少なくともいずれかを2層構造とする等、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更、付加が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 圧電基板
1x 圧電層
2 IDT電極
3 第1の櫛型電極
3b 共通電極
3c 電極指
4 第2の櫛型電極
4b 共通電極
4c 電極指
5a、5b 第1の絶縁膜
6 凹部
7 平坦面
8 第2の絶縁膜
11A~11C 圧電基板
12 キャリア基板
13、13a、13b 中間層