(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】誘電加熱成形装置及び誘電加熱成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/08 20060101AFI20221114BHJP
【FI】
B29C33/08
(21)【出願番号】P 2019211588
(22)【出願日】2019-11-22
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】518455354
【氏名又は名称】株式会社micro-AMS
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 文夫
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-048303(JP,U)
【文献】特開平04-299106(JP,A)
【文献】特開平07-241853(JP,A)
【文献】特開2012-086560(JP,A)
【文献】特開2007-181962(JP,A)
【文献】特開2018-167528(JP,A)
【文献】特開昭61-235114(JP,A)
【文献】特開2012-116023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 39/00-39/44
B29C 43/00-43/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形用材料から成形体が成形されるキャビティを有するとともに、誘電損失によって発熱する性質を有する絶縁性の成形型と、
前記成形型の両側に配置された一対の電極間に加わる交流電圧によって、前記キャビティ内の成形用材料及び前記成形型に交番電界を印加して前記キャビティ内の成形用材料を加熱する誘電加熱源と、を備え
、
前記成形型は、複数の分割型部に分割されており、
複数の前記分割型部は、一対の前記電極による型締め力を受けて、前記キャビティの容積を縮小させるように相対移動又は変形が可能である、誘電加熱成形装置。
【請求項2】
成形用材料から成形体が成形されるキャビティを有するとともに、誘電損失によって発熱する性質を有する絶縁性の成形型と、
前記成形型の両側に配置された一対の電極間に加わる交流電圧によって、前記キャビティ内の成形用材料及び前記成形型に交番電界を印加して前記キャビティ内の成形用材料を加熱する誘電加熱源と、を備え
、
一対の前記電極の少なくとも一方には、冷却水が流れる冷却流路が形成されており、
前記誘電加熱源は、前記冷却流路を流れる冷却水によって冷却された前記電極によって前記成形型を冷却する機能も有する、誘電加熱成形装置。
【請求項3】
一対の前記電極の少なくとも一方には、通電によって発熱するヒータが設けられており、
前記誘電加熱源による加熱と同時もしくは交互に、又は前記誘電加熱源による加熱の前後に、前記ヒータによる前記キャビティ内の成形用材料の加熱を行う、請求項1又は2に記載の誘電加熱成形装置。
【請求項4】
前記誘電加熱成形装置は、温風によって前記成形型を加熱する温風加熱源をさらに備え、
前記誘電加熱源による加熱と同時もしくは交互に、又は前記誘電加熱源による加熱の前後に、前記温風加熱源による前記キャビティ内の成形用材料の加熱を行う、請求項1又は2に記載の誘電加熱成形装置。
【請求項5】
前記成形型には、前記キャビティと外表面とに繋がる減圧経路が形成されており、
前記誘電加熱成形装置は、
可撓性を有するシート材によって袋形状に形成され、前記成形型が内部に収容される減圧バッグと、
前記減圧バッグ内を減圧するとともに、前記減圧経路を介して前記キャビティ内を減圧する減圧ポンプと、をさらに備える、請求項1~
4のいずれか1項に記載の誘電加熱成形装置。
【請求項6】
成形用材料が、誘電損失によって発熱する性質を有する絶縁性の成形型のキャビティ内に配置される配置工程と、
誘電加熱源が用いられ、前記成形型の両側に配置された、前記誘電加熱源の一対の電極間に加わる交流電圧によって、前記キャビティ内の成形用材料及び前記成形型に交番電界が印加されて前記キャビティ内の成形用材料が加熱される加熱工程と、
前記成形型及び前記成形用材料が冷却されて、前記成形用材料から成形体が得られる冷却工程と、を含む誘電加熱成形方法。
【請求項7】
前記成形型は、複数の分割型部に分割されており、
前記加熱工程においては、複数の前記分割型部は、一対の前記電極による型締め力を受けて、前記キャビティの容積を縮小させるように相対移動又は変形する、請求項
6に記載の誘電加熱成形方法。
【請求項8】
一対の前記電極の少なくとも一方には、通電によって発熱するヒータが設けられており、
前記加熱工程においては、前記誘電加熱源による加熱と同時もしくは交互に、又は前記誘電加熱源による加熱の前後に、前記ヒータによる前記キャビティ内の成形用材料の加熱を行う、請求項
6又は
7に記載の誘電加熱成形方法。
【請求項9】
前記加熱工程においては、温風によって前記成形型を加熱する温風加熱源がさらに用いられ、前記誘電加熱源による加熱と同時もしくは交互に、又は前記誘電加熱源による加熱の前後に、前記温風加熱源による前記キャビティ内の成形用材料の加熱を行う、請求項
6又は
7に記載の誘電加熱成形方法。
【請求項10】
一対の前記電極の少なくとも一方には、冷却水が流れる冷却流路が形成されており、
前記冷却工程においては、前記冷却流路を流れる冷却水によって冷却された前記電極によって前記成形型が冷却される、請求項
6~
9のいずれか1項に記載の誘電加熱成形方法。
【請求項11】
前記成形型には、前記キャビティと外表面とに繋がる減圧経路が形成されており、
前記配置工程においては、可撓性を有するシート材によって袋形状に形成され、前記成形型が内部に収容される減圧バッグが用いられ、前記減圧バッグ内に、前記成形用材料が前記キャビティ内に配置された前記成形型が配置され、
前記配置工程の後には、減圧ポンプによって前記減圧バッグ内及び前記減圧経路を介した前記キャビティ内が減圧され、前記減圧バッグが前記成形型に密着して前記減圧バッグによる型締め力が前記成形型に作用する減圧工程が行われ、
前記冷却工程においては、前記型締め力が前記成形型に作用する状態が維持される、請求項
6~
10のいずれか1項に記載の誘電加熱成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電加熱成形装置及び誘電加熱成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂等の樹脂成形品を成形する方法としては、射出成形法、ブロー成形法、プレス成形法等がある。これらの成形方法においては、金属製の成形型である金型が使用されている。金型を製造する際には、金属材料を三次元的に切削加工する必要があり、この切削加工に手間がかかるといった弱点がある。一方、成形型を用いずに熱可塑性樹脂の成形を可能にした成形方法としては、3Dプリンター等として知られる積層造形法がある。積層造形法においては、成形型が不要である一方、成形された樹脂成形品に積層界面が残ることによる特性上の弱点がある。これらの成形方法の弱点が克服された成形方法として、例えば、特許文献1,2に示される、非金属材料からなる成形型及び電磁波を用いた熱可塑性樹脂の成形方法がある。
【0003】
特許文献1の樹脂成形方法においては、金型の代わりにゴム型が用いられ、ゴム型の表面から照射される電磁波によって、ゴム型のキャビティ内の熱可塑性樹脂が加熱されて、熱可塑性樹脂の成形品が得られる。この樹脂成形方法においては、ゴム型のキャビティ内が真空手段によって真空状態にされ、キャビティ内に熱可塑性樹脂が充填されやすくしている。
【0004】
また、特許文献2の熱可塑性樹脂成形品の成形方法においては、ゴム型内の熱可塑性樹脂が電磁波によって加熱されるときに、真空手段によってゴム型内の圧力が外部の圧力よりも低くなり、ゴム型を構成する一対のゴム型部が互いに接近して、容積が縮小したゴム型内に熱可塑性樹脂成形品が成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-216448号公報
【文献】特開2011-240539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2等に示される熱可塑性樹脂の成形方法においては、近赤外線、マイクロ波等の電磁波が使用され、成形型の外部から照射される電磁波によって、成形型のキャビティ内の成形用材料が加熱される。そのため、例えば、大型の成形体、複雑な形状を有する成形体等を成形する場合には、キャビティ内の成形用材料の全体に電磁波が照射されにくいことが判明した。そのため、特に、大型の成形体、複雑な形状を有する成形体等の成形に有効な、非金属材料からなる成形型及び電磁波を用いた加熱方法の開発が望まれる。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、成形する成形体のサイズ、形状等の自由度を高めることができる誘電加熱成形装置及び誘電加熱成形方法を提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様の一つは、
成形用材料から成形体が成形されるキャビティを有するとともに、誘電損失によって発熱する性質を有する絶縁性の成形型と、
前記成形型の両側に配置された一対の電極間に加わる交流電圧によって、前記キャビティ内の成形用材料及び前記成形型に交番電界を印加して前記キャビティ内の成形用材料を加熱する誘電加熱源と、を備え、
前記成形型は、複数の分割型部に分割されており、
複数の前記分割型部は、一対の前記電極による型締め力を受けて、前記キャビティの容積を縮小させるように相対移動又は変形が可能である、誘電加熱成形装置にある。
本発明の第1態様のもう一つは、
成形用材料から成形体が成形されるキャビティを有するとともに、誘電損失によって発熱する性質を有する絶縁性の成形型と、
前記成形型の両側に配置された一対の電極間に加わる交流電圧によって、前記キャビティ内の成形用材料及び前記成形型に交番電界を印加して前記キャビティ内の成形用材料を加熱する誘電加熱源と、を備え、
一対の前記電極の少なくとも一方には、冷却水が流れる冷却流路が形成されており、
前記誘電加熱源は、前記冷却流路を流れる冷却水によって冷却された前記電極によって前記成形型を冷却する機能も有する、誘電加熱成形装置にある。
【0009】
本発明の第2態様は、
成形用材料が、誘電損失によって発熱する性質を有する絶縁性の成形型のキャビティ内に配置される配置工程と、
誘電加熱源が用いられ、前記成形型の両側に配置された、前記誘電加熱源の一対の電極間に加わる交流電圧によって、前記キャビティ内の成形用材料及び前記成形型に交番電界が印加されて前記キャビティ内の成形用材料が加熱される加熱工程と、
前記成形型及び前記成形用材料が冷却されて、前記成形用材料から成形体が得られる冷却工程と、を含む誘電加熱成形方法にある。
【発明の効果】
【0010】
(第1態様の誘電加熱成形装置)
前記誘電加熱成形装置は、一対の電極を有する誘電加熱源を用いることにより、大型、複雑形状等の成形体の成形を可能にする。
【0011】
成形体を成形する際には、誘電加熱源における一対の電極の間に、成形用材料がキャビティ内に配置された成形型が配置される。次いで、一対の電極の間に交流電圧が印加されたときには、キャビティ内の成形用材料及び成形型に交番電界が印加される。そして、キャビティ内の成形用材料が誘電損失によって発熱し、又はキャビティ内の成形用材料が、誘電損失によって発熱する成形型からの伝熱によって加熱されて、成形用材料が溶融する。その後、成形用材料が冷却されて固化し、成形体が得られる。
【0012】
前記誘電加熱成形装置においては、成形型の全体もしくは一部が一対の電極の間に配置される。そして、交番電界は、一対の電極の間に配置された成形型の全体もしくは一部、及び一対の電極の間に配置された成形型の全体もしくは一部に位置するキャビティ内の成形用材料に印加される。交流電圧による交番電界を利用して成形型が発熱する場合には、マイクロ波を利用して成形型が発熱する場合に比べて、成形型のより深い位置まで発熱することが可能になる。そのため、キャビティ内に成形する成形体が、大型である場合、複雑な形状を有する場合等であっても、一対の電極の間に配置された成形用材料の部位は、この部位に印加される交番電界によってより適切に溶融することができ、成形体を適切に成形することができる。
【0013】
なお、一対の電極の間に成形型の一部が配置される場合には、一対の電極に対して成形型を相対的に移動させて、成形型のキャビティ内の各部に位置する成形用材料を順次溶融させることができる。
【0014】
それ故、前記誘電加熱成形装置によれば、成形する成形体のサイズ、形状等の自由度を高めることができる。
【0015】
(第2態様の誘電加熱成形方法)
前記誘電加熱成形方法においては、配置工程、加熱工程及び冷却工程が行われて、成形用材料から成形体が成形される。特に、加熱工程においては、誘電加熱源が用いられて、一対の電極の間に配置された成形用材料の部位がより適切に溶融される。
【0016】
それ故、前記誘電加熱成形方法によれば、前記誘電加熱成形装置の場合と同様に、成形する成形体のサイズ、形状等の自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態1にかかる、誘電加熱成形装置を示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1にかかる、減圧バッグ内の減圧を行う前の誘電加熱成形装置を示す、
図1のII-II断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態1にかかる、減圧バッグ内の減圧を行った後の誘電加熱成形装置を示す、
図1のIII-III断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態1にかかる、減圧バッグ内の減圧を行った後の誘電加熱成形装置を示す、
図1のIV-IV断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態1にかかる、複数の分割型部に分割された成形型を示す断面斜視図である。
【
図6】
図6は、実施形態1にかかる、他の成形型を示す断面図である。
【
図7】
図7は、実施形態1にかかる、減圧バッグが開けられた状態の誘電加熱成形装置を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、実施形態1にかかる、減圧バッグの開口部を閉じる開口チャックの周辺を拡大して示す斜視断面図である。
【
図9】
図9は、実施形態1にかかる、成形体の一例を示す斜視断面図である。
【
図10】
図10は、実施形態1にかかる、他の誘電加熱成形装置を示す断面図である。
【
図11】
図11は、実施形態2にかかる、誘電加熱成形装置を示す断面図である。
【
図12】
図12は、実施形態2にかかる、他の誘電加熱成形装置を示す断面図である。
【
図13】
図13は、実施形態3にかかる、誘電加熱成形装置を示す断面図である。
【
図14】
図14は、実施形態3にかかる、減圧バッグ内の減圧を行う前の他の誘電加熱成形装置を示す、
図1のII-II断面相当図である。
【
図15】
図15は、実施形態3にかかる、減圧バッグ内の減圧を行った後の他の誘電加熱成形装置を示す、
図1のIII-III断面相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
前述した誘電加熱成形装置及び誘電加熱成形方法にかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態1>
本形態の誘電加熱成形装置1は、
図1~
図4に示すように、成形型2及び誘電加熱源6を備える。成形型2は、誘電損失によって発熱する性質を有する絶縁性のものであり、成形用材料80から成形体8が成形されるキャビティ20を有する。誘電加熱源6は、成形型2の両側に配置された一対の電極61間に加わる交流電圧によって、キャビティ20内の成形用材料80及び成形型2に交番電界Yを印加してキャビティ20内の成形用材料80を加熱する。
【0019】
また、本形態の誘電加熱成形装置1は、減圧バッグ3及び減圧ポンプ4も備える。減圧バッグ3は、可撓性を有するシート材30によって袋形状に形成されており、成形型2が内部に収容される。減圧ポンプ4は、減圧バッグ3内及びキャビティ20内を減圧する。
【0020】
まず、誘電加熱成形装置1について詳説する。
図9に示すように、誘電加熱成形装置1は、例えば、成形体8を少量生産する用途、金型の製作に不向きな複雑形状を有する成形体8を成形する用途、大型の成形体8を成形する用途等に用いてもよい。誘電加熱成形装置1は、例えば、車両、電化製品、種々の試作品等として用いられる成形体8を成形するために用いてもよい。
図9には、誘電加熱成形装置1によって成形する成形体8の一例を概略的に示す。
【0021】
(成形型2)
図5に示すように、成形型2は、金属以外の絶縁性を有する種々の材料によって構成される。成形型2には、交番電界Yの印加等を受けたときに、成形用材料80と異なる加熱特性を有し、かつ成形された成形体8を離型可能な性質を有する種々の材料が用いられる。成形型2は、例えば、ゴム材料によって形成されたゴム型、樹脂材料によって形成された樹脂型、セラミックス材料によって構成されたセラミックス型、セメント材料によって形成されたセメント型、又は石膏材料によって形成された石膏型等によって構成してもよい。
【0022】
ゴム材料には、シリコーンゴム、フッ素ゴム等があり、樹脂材料には、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等があり、セラミックス材料には、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物などの無機化合物の成形体8(焼結体)等がある。
【0023】
成形型2は、成形用材料80に比べて誘電損失が小さい材料、成形用材料80に比べて誘電損失が大きい材料等によって成形することができる。誘電損失の値は、絶縁体としての物質の種類に応じて決まる。また、誘電損失は、誘電正接tanδの値に応じて決まる。
【0024】
成形型2は、成形体8の形状を有するマスターモデルの形状を転写して成形してもよく、3Dプリンター等によって三次元形状に形成してもよい。3Dプリンターによって成形型2を形成する場合には、キャビティ20を形成する成形面202に残された、積層による段差形状が平滑になる加工を加えることができる。
【0025】
図5に示すように、成形型2は、2つの分割型部21に分割して形成してもよく、3つ以上の分割型部21に分割して形成してもよい。分割型部21同士の間には、パーティングラインを構成する分割面204が形成されている。成形型2は、
図5に示すように、複数の分割型部21の互いの位置が固定された固定型としてもよく、
図10に示すように、複数の分割型部21の互いの位置が相対的に変化してキャビティ20の容積を縮小可能な可動型としてもよい。
【0026】
成形型2は、全体が同じ材料によって形成された単一型としてもよく、部分的に異なる材料が用いられた複合型としてもよい。複合型は、例えば、
図6に示すように、キャビティ20を形成する成形面202に沿って形成された成形表面層211と、成形型2の成形表面層211以外の部分としての一般部210とによって形成してもよい。この場合に、成形表面層211は、一般部210に比べて誘電損失が大きい材料によって構成する。成形表面層211は、誘電損失を大きくするために、例えば、カーボンブラック、グラファイト、炭化珪素、フェライト、チタン酸バリウム、黒鉛及び二酸化マンガンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の物質を含有していてもよい。
【0027】
成形型2のキャビティ20の形状、換言すれば誘電加熱成形装置1によって成形する成形体8の形状は、製品として用いられる種々の樹脂の成形部品の形状にすることができる。キャビティ20の形状は、種々の形状にしてもよく、例えば、車両のボディの形状、種々のケースの形状、機能部品の形状、円柱、角柱等としてもよい。
【0028】
図5に示すように、成形型2には、成形する成形体8の形状に沿った空間であるキャビティ20と、キャビティ20の適宜箇所に繋がって、キャビティ20内を真空引きするときの真空引き通路となる減圧経路22とが形成されている。減圧経路22は、キャビティ20と成形型2の外表面201とに繋がっている。成形型2の複数の分割型部21は、キャビティ20内に成形された成形体8の取り出しが可能となる状態で分割されている。
【0029】
減圧経路22は、キャビティ20の成形面202と成形型2の外表面201とを、1箇所において繋ぐだけでなく、複数箇所において繋いでいてもよい。減圧経路22は、キャビティ20における容積が大きな部位の成形面202に開口するように形成してもよい。また、減圧経路22は、キャビティ20の成形面202における、成形用材料80が充填されにくい部位又はキャビティ20内のガス(残留気体)が抜けにくい部位に開口するように形成してもよい。
【0030】
減圧経路22を形成するこれらの部位としては、例えば、
図1に示すように、キャビティ20における行き詰まりとなる端部203等がある。なお、成形型2の外表面201とは、成形型2の外側に位置する表面のことをいう。キャビティ20内のガスには、空気の他、樹脂等から気化してキャビティ20内に残留する物質等がある。
【0031】
成形型2が弾性変形可能なゴム材料によって形成された場合には、減圧バッグ3による型締め力を受けて成形型2が変形してもよい。成形型2が変形する際には、キャビティ20の容積が縮小し、キャビティ20内に残留するガスが抜き出され、キャビティ20内に成形する成形体8の形状が整えられる。
【0032】
図10に示すように、成形型2を構成する複数の分割型部21は、キャビティ20の容積を縮小させるように相対移動可能にしてもよい。キャビティ20は、複数の分割型部21同士の間に形成される。分割型部21同士が組み合わさってキャビティ20が形成された状態においては、減圧バッグ3による型締め力を受けて分割型部21同士が互いに接近すると、キャビティ20の容積が縮小される。一方、成形体8の成形後に分割型部21同士が互いに離されたときには、キャビティ20内から、成形された成形体8が取り出される。
【0033】
(成形用材料80)
図1及び
図2に示すように、成形用材料80の種類は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂の他、金属化合物等を含むセラミックス粒子等としてもよい。セラミックス粒子には、熱可塑性樹脂等の樹脂のバインダーが含有されていてもよい。成形用材料80の形態は、不定形の粒子、所定形状を有する固形物、加熱溶融された液状物等としてもよい。また、粒子、固形物、液状物等の形態を有する成形用材料80は、互いに組み合わされて用いられてもよい。
【0034】
粒状又は固形状の成形用材料80が用いられる場合には、減圧バッグ3内に成形型2が配置される前に、成形用材料80が成形型2のキャビティ20内に配置されていてもよい。また、粒状又は液状の成形用材料80は、減圧バッグ3内に配置された成形型2のキャビティ20内に投入してもよい。また、粒状又は固形状の成形用材料80の一部を、減圧バッグ3の外部において成形型2のキャビティ20内に配置し、粒状の成形用材料80の残部又は液状の成形用材料80は、減圧バッグ3内に配置された成形型2のキャビティ20内に配置してもよい。
【0035】
(誘電加熱源6)
図3及び
図4に示すように、誘電加熱源6は、成形型2の両側に配置された一対の電極61間に加わる交流電圧によって、キャビティ20内の成形用材料80及び成形型2に交番電界Yを印加するものである。誘電加熱源6は、一対の電極61によって交番電界Yを発生させる、電磁波としての高周波を用いたものとする。誘電加熱源6による交流電圧の周波数は、1m~100mの波長領域を含む電磁波としての高周波とする。
【0036】
誘電加熱成形装置1は、成形用材料80の誘電損失が成形型2及び減圧バッグ3の誘電損失に比べて大きい場合に用いられる。この場合は、例えば、成形用材料80に誘電性を高くするための物質が添加された場合として想定される。この場合には、成形型2が収容された減圧バッグ3の両側に配置された一対の電極61に高周波の交流電圧が印加され、成形用材料80、成形型2及び減圧バッグ3に高周波の交流電圧による交番電界Yが印加されたときに、誘電損失によって成形用材料80が発熱し加熱される。
【0037】
一方、誘電加熱成形装置1は、成形用材料80及び一般部210に比べて誘電損失が大きい成形表面層211が成形型2に形成されている場合、又は成形用材料80の誘電損失に比べて成形型2の誘電損失が大きい場合にも用いられる。これらの場合には、成形用材料80は、誘電損失によって発熱した成形表面層211又は成形型2からの熱伝導を受けて加熱される。
【0038】
また、
図3及び
図4に示すように、一対の電極61は、成形型2の複数の分割型部21の外側から、複数の分割型部21を押圧するために用いてもよい。この場合には、一対の電極61を利用して、分割型部21同士が互いに離れないように、成形型2の型締めを行うことができる。一対の電極61は、減圧バッグ3の上から複数の分割型部21を押圧してもよい。
【0039】
また、複数の分割型部21は、一対の電極61による型締め力を受けて、キャビティ20の容積を縮小させるように相対移動又は変形が可能である。本形態の複数の分割型部21は、減圧バッグ3による型締め力と一対の電極61による型締め力とを受ける。これにより、複数の分割型部21の型締めがより効果的に行われる。
【0040】
また、一対の電極61を複数の分割型部21を押圧するために用いない場合には、一対の電極61は、複数の分割型部21又は減圧バッグ3との間に隙間を形成して配置されてもよい。
【0041】
また、誘電加熱成形装置1においては、減圧バッグ3を用いずに、キャビティ20内を減圧ポンプ4によって直接減圧してもよい。また、減圧バッグ3及び減圧ポンプ4は用いずに、一対の電極61による複数の分割型部21の型締めを行ってもよい。
【0042】
本形態の電極61の外形は成形型2の外形よりも大きく、一対の電極61の間には成形型2の全体が配置される。そして、一対の電極61と成形型2との位置関係は固定される。一方、電極61の外形が成形型2の外形よりも小さい場合には、一対の電極61の間には成形型2の一部が配置されるようにしてもよい。この場合には、一対の電極61に対して成形型2を相対的に移動させて、成形型2のキャビティ20内の各部に位置する成形用材料80を順次溶融させることができる。
【0043】
(減圧ポンプ4)
図1に示すように、減圧ポンプ4は、真空ポンプとも呼ばれ、減圧バッグ3内及び成形型2のキャビティ20内の真空引きを行うものである。減圧ポンプ4は、減圧バッグ3内のガス(残留気体)を吸い出して、減圧バッグ3内及び成形型2のキャビティ20内を大気圧よりも低い減圧状態(真空状態)にする。
【0044】
減圧バッグ3内のガスが吸い出されるときには、減圧バッグ3が撓んでしぼむことによって、減圧バッグ3から成形型2に圧力が作用し、成形型2の複数の分割型部21が相対的に移動することが防止される。そして、減圧バッグ3によって成形型2が型締めされる。また、成形型2のキャビティ20内も減圧状態になることによって、キャビティ20内にガスが残らないようにし、キャビティ20内に成形される成形体8に空洞、欠け等が形成されないようにする。
【0045】
(減圧配管5)
図1に示すように、本形態の誘電加熱成形装置1は、減圧ポンプ4によって減圧バッグ3内を減圧するための減圧配管5を備える。減圧配管5は、減圧バッグ3内に配置された成形型2の減圧経路22と、減圧バッグ3の外部に配置された減圧ポンプ4とに接続されている。減圧配管5の一部は減圧バッグ3内に配置されており、減圧配管5の残部は減圧バッグ3の外部に配置されている。減圧配管5は、減圧ポンプ4によって、減圧バッグ3内の真空引きと成形型2のキャビティ20内の真空引きとを行うために用いられる。換言すれば、本形態の減圧配管5は、成形型2のキャビティ20内と減圧バッグ3内との両方を減圧する構成を有する。
【0046】
減圧配管5の先端部51は、成形型2の外表面201における、減圧経路22の形成部位に形成された装着部23に装着されるよう構成されている。減圧配管5の先端部51と成形型2の装着部23とは、繰り返し着脱可能な形状に形成されている。減圧配管5には、その流路50を開閉することが可能な、後述するバルブ53が設けられていてもよい。本形態の減圧配管5は、減圧ポンプ4に接続される側の部位にフレキシブル配管部54を有する。
【0047】
(減圧バッグ3)
図7及び
図8に示すように、減圧バッグ3を構成するシート材30は、可撓性を有するシリコーンフィルムによって形成されている。シリコーンフィルムは、シリコーンシート、シリコーンゴムフィルム、シリコーンゴムシート等とも呼ばれる。シート材30には、透明又は半透明のシリコーンフィルムを用いることができる。この場合には、成形型2に透明又は半透明のシリコーンゴムを用いることができる。そして、減圧バッグ3の外部から、減圧バッグ3及び成形型2を透かし見て、キャビティ20内の成形用材料80の成形状態を確認することができる。
【0048】
減圧バッグ3は、成形用材料80もしくは成形型2に比べて誘電損失が小さい材料によって構成してもよい。また、成形表面層211が形成された成形型2を用いる場合には、減圧バッグ3は、成形表面層211に比べて近赤外線を透過しやすい材料、又は成形表面層211に比べて誘電損失が小さい材料によって構成してもよい。
【0049】
減圧バッグ3を構成するシート材30は、可撓性だけでなく、伸縮性も有していることが好ましい。シート材30が伸縮性も有することにより、減圧バッグ3が成形型2に、より密着しやすくすることができる。また、シート材30は、非粘着性又は離型性を有し、成形型2等から容易に離れることが好ましい。
【0050】
シート材30は、シリコーンフィルム以外にも、可撓性及び伸縮性を有する種々のゴムフィルムによって構成してもよい。また、シート材30は、少なくとも可撓性を有する樹脂フィルムによって構成してもよい。シート材30には、耐熱性に優れた材料を用いることが好ましい。シート材30は、例えば、フッ素ゴムフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリメチルペンテンフィルム等によって構成してもよい。
【0051】
減圧バッグ3は、折り返された1枚のシート材30の適宜箇所を接着剤によって接着して形成してもよい。また、減圧バッグ3は、2枚のシート材30を接着剤によって接着して形成してもよい。減圧バッグ3は、樹脂のシート材30を用いて形成する場合には、シート材30を溶融させて接合して形成してもよい。
【0052】
減圧バッグ3は、少なくとも成形型2の全体が収容される大きさに形成されている。減圧バッグ3は、成形型2の出し入れを可能にするための開口部31と、開口部31を閉じて、減圧バッグ3内を密封するための開口チャック32とを有する。また、減圧バッグ3には、減圧配管5が挿入された挿入口33が形成されており、挿入口33の周縁は封止材によって封止されている。
【0053】
図8に示すように、開口部31は、四角形に形成された減圧バッグ3の1辺に形成されている。開口チャック32は、減圧バッグ3における、開口部31を形成するシート材30の一対の端部を挟み込んで封止するものである。開口チャック32は、溝が形成された雌側チャック部321と、溝に嵌合される凸部が形成された雄側チャック部322との組み合わせによって形成されている。
【0054】
また、成形型2が大型になる場合等には、減圧バッグ3は、成形型2及び減圧配管5の両側に一対のシート材30を配置した後、一対のシート材30の周縁を閉じて形成してもよい。換言すれば、成形型2及び減圧配管5が一対のシート材30の間に配置された後に、一対のシート材30の周縁を密閉性のあるジッパー等によって閉じて、成形型2及び減圧配管5の一部が内部に配置された減圧バッグ3を形成してもよい。
【0055】
(減圧バッグ3及び減圧配管5の通気孔52)
図7に示すように、減圧バッグ3は、真空パックとも呼ばれ、減圧バッグ3内を大気圧よりも低い減圧状態(真空状態)に維持することができるものである。減圧バッグ3は、成形型2を型締めする機能と、成形型2のキャビティ20内を減圧状態に維持する機能とを有する。
【0056】
図1、
図3及び
図7に示すように、本形態の減圧配管5は、減圧バッグ3内を減圧するための通気孔52を有する。通気孔52は、減圧配管5における、減圧バッグ3内に配置される部位の側面に形成されている。減圧配管5においては、先端部51の先端開口511から成形型2のキャビティ20内の真空引きが可能であるとともに、通気孔52から減圧バッグ3内の真空引きが可能である。減圧配管5の先端部51の先端開口511及び通気孔52は、減圧ポンプ4によって真空引きを行うための吸引口となる。
【0057】
減圧ポンプ4によって減圧バッグ3内の真空引きを行うときには、減圧配管5の先端部51の先端開口511からキャビティ20内の真空引きが行われると同時に、減圧配管5の通気孔52から減圧バッグ3内の真空引きが行われる。このとき、減圧ポンプ4と減圧配管5の通気孔52との距離が減圧ポンプ4と減圧配管5の先端部51の先端開口511との距離よりも短い、減圧バッグ3内の隙間がキャビティ20内の隙間よりも大きい等の理由により、通気孔52から吸引されるガスの流量が先端開口511から吸引されるガスの流量よりも多くなる。そして、キャビティ20内が減圧される速度よりも減圧バッグ3内が減圧される速度が速くなり、減圧バッグ3内のガス抜きがキャビティ20内のガス抜きよりも先に停止される。
【0058】
また、
図3及び
図4に示すように、減圧バッグ3内のガスがなくなるに連れて減圧バッグ3のシート材30が、減圧配管5及び成形型2に密着していく。減圧バッグ3内のガスがなくなっていく過程、又は減圧バッグ3内のガスがほとんどなくなったときに、減圧バッグ3のシート材30によって通気孔52が塞がれる。通気孔52が塞がれると、減圧ポンプ4によって真空引きが行われる部位は、減圧配管5の先端部51の先端開口511のみとなり、この先端開口511からキャビティ20内のガスが吸引される。こうして、減圧バッグ3によって成形型2の型締めが行われるとともに、キャビティ20内のガスが適切に吸引される。
【0059】
このような減圧配管5の側面に形成された通気孔52を、真空引きを行うための吸引口として使用する工夫により、極めて簡単な構造によって、減圧バッグ3内及びキャビティ20内を効果的に減圧することができる。そして、キャビティ20内の真空度を高めることができる。
【0060】
なお、誘電加熱成形装置1においては、減圧ポンプ4に繋がる減圧配管5を2系統の分岐配管に分岐し、第1の分岐配管を成形型2の減圧経路22に接続するとともに、第2の分岐配管を減圧バッグ3に接続する構成を採用してもよい。
【0061】
図1及び
図7に示すように、通気孔52は、減圧配管5における、減圧バッグ3内に配置される部位の側面の1箇所に形成してもよく、複数箇所に形成してもよい。通気孔52は、減圧バッグ3内に成形型2が配置された状態において、成形型2によって塞がれず、かつ減圧バッグ3によって直ちに塞がれない位置に形成されている。通気孔52は、減圧配管5における、減圧バッグ3内に配置される部位の側面の、減圧バッグ3を構成するシート材30に対向する部位を除く部位に形成することが好ましい。具体的には、通気孔52は、例えば、減圧配管5における、減圧バッグ3内に配置される部位の側面の、シート材30と平行な方向又はシート材30に対して傾斜する方向に形成することができる。
【0062】
減圧配管5は、減圧ポンプ4に対して着脱可能であってもよい。この場合には、
図1及び
図7に示すように、減圧配管5には、減圧配管5が減圧ポンプ4から外されたときに、減圧バッグ3内の減圧状態を維持するためのバルブ53を設けることが好ましい。成形型2、減圧バッグ3、減圧配管5及びバルブ53は、減圧ポンプ4から切り離された一つのセットとして扱うことができる。バルブ53には、作業者の手動操作によって開閉されるボールバルブ、ニードルバルブ等が用いられる。
【0063】
減圧ポンプ4から減圧配管5が外されるときには、バルブ53によって減圧配管5の流路50が閉じられ、減圧バッグ3内の圧力が維持される。減圧バッグ3内が減圧された状態においてバルブ53によって減圧配管5の流路50が閉じられると、減圧バッグ3が成形型2及び減圧配管5に密着する状態が維持され、成形型2に型締め力が作用する状態が維持される。
【0064】
減圧ポンプ4から、減圧バッグ3及び成形型2に配置された減圧配管5が外されることにより、成形体8の成形後に成形型2内の成形用材料80が冷却されて固化するまでの間に、減圧ポンプ4を、別の減圧バッグ3、成形型2及び減圧配管5が用いられた別の成形体8の成形に使用することができる。そして、減圧バッグ3内に配置された成形型2を任意の冷却場所に移動させることができる。また、成形型2及び成形用材料80を冷却する場所及び時間を容易に確保することができる。
【0065】
(誘電加熱成形方法)
次に、誘電加熱成形装置1を用いた誘電加熱成形方法について詳説する。
誘電加熱成形方法においては、配置工程、減圧工程、加熱工程及び冷却工程が行われて、成形用材料80から成形体8が成形される。
【0066】
(配置工程)
配置工程においては、
図2及び
図7に示すように、可撓性を有するシート材30によって袋形状に形成された減圧バッグ3内に、成形用材料80がキャビティ20内に配置された成形型2が配置される。成形型2には、誘電損失によって発熱する性質を有するものを用いる。
【0067】
粒子状の成形用材料80を使用する場合には、キャビティ20を形成する凹部に成形用材料80が配置された後に、複数の分割型部21を互いに組み合わせてもよい。また、分割型部21に形成された減圧経路22又は投入口(図示略)から、互いに組み合わされた分割型部21によるキャビティ20内に粒子状の成形用材料80が投入されてもよい。また、成形用材料80の一部は、減圧バッグ3内に配置された成形型2のキャビティ20内に、減圧バッグ3の外部から投入してもよい。
【0068】
図2及び
図7に示すように、配置工程においては、減圧ポンプ4に減圧配管5が接続され、減圧配管5の一部が減圧バッグ3内に配置されて、減圧バッグ3における、減圧配管5の挿入口33が封止された状態が形成されている。そして、減圧バッグ3の開口部31から、成形用材料80が配置された成形型2が減圧バッグ3内に挿入され、減圧配管5の先端部51に、成形型2の装着部23が装着される。減圧バッグ3は、可撓性を有しているため、成形型2の大きさ及び形状に応じて任意に変形することができる。減圧バッグ3内に成形型2が配置された後には、減圧バッグ3の開口部31が開口チャック32によって閉じられる。これにより、成形型2が配置された減圧バッグ3の内部が密閉される。
【0069】
(減圧工程)
図3及び
図4に示すように、減圧工程においては、減圧バッグ3内及びキャビティ20内が減圧され、減圧バッグ3が成形型2に密着して減圧バッグ3による型締め力が成形型2に作用する。減圧工程においては、減圧ポンプ4によって減圧配管5を介して減圧バッグ3内のガス及び成形型2のキャビティ20内のガスが吸引される。このとき、減圧配管5の通気孔52から減圧バッグ3内のガスが吸引され、また、減圧配管5の先端部51の先端開口511からキャビティ20内のガスが吸引される。そして、減圧バッグ3によって通気孔52が閉じられて、減圧バッグ3内のガス抜きが停止された後、キャビティ20内のガス抜きが継続される。
【0070】
より具体的には、キャビティ20内の圧力損失が大きい等の理由により、減圧ポンプ4による減圧が開始された後、通気孔52が塞がれていない間は、キャビティ20内のガスは吸引されにくい。換言すれば、減圧ポンプ4によって、減圧配管5の先端部51の先端開口511からのキャビティ20内のガスの吸引力に比べて、減圧配管5の通気孔52からの減圧バッグ3内のガスの吸引力が強くなる。ただし、減圧配管5の通気孔52から減圧バッグ3内のガスが吸引されるときには、減圧配管5の先端部51の先端開口511からキャビティ20内のガスも吸引される。
【0071】
減圧バッグ3内が減圧されて減圧バッグ3がしぼんでくると、減圧バッグ3のシート材30が減圧配管5及び成形型2に密着してくる。そして、
図3及び
図4に示すように、減圧バッグ3がしぼむ過程において、シート材30によって通気孔52の全体が閉じられたときには、減圧配管5の先端部51の先端開口511のみが開口した状態になり、減圧配管5の先端部51の先端開口511からキャビティ20内が減圧される。
【0072】
(加熱工程)
加熱工程においては、キャビティ20内の成形用材料80及び成形型2の少なくとも一方が加熱されて、キャビティ20内の成形用材料80が溶融する。加熱工程においては、一対の電極61の間に高周波の交流電圧を印加する誘電加熱源6が用いられる。そして、一対の電極61から成形型2に高周波の交番電界Yが印加され、この交番電界Yによる誘電損失によって成形型2が発熱し、成形型2からの伝熱によってキャビティ20内の成形用材料80が加熱される。
【0073】
また、成形型2に成形表面層211が形成されているときには、交番電界Yによって成形表面層211を発熱させ、成形表面層211からの伝熱によってキャビティ20内の成形用材料80が加熱されてもよい。
【0074】
加熱工程においては、減圧バッグ3から成形型2に型締め力が継続して作用するよう、減圧ポンプ4による真空引きを継続することが好ましい。
図10に示すように、キャビティ20の容積を縮小可能な成形型2が用いられる場合には、加熱工程においてキャビティ20内の成形用材料80が溶融すると、減圧バッグ3による型締め力を受けて、成形型2を構成する複数の分割型部21同士が互いに接近する。また、弾性変形可能な成形型2が用いられる場合には、キャビティ20内の成形用材料80が溶融すると、減圧バッグ3による型締め力を受けて、成形型2が変形してキャビティ20の容積が縮小されることもある。
【0075】
(冷却工程)
冷却工程においては、型締め力が成形型2に作用する状態において、キャビティ20内の溶融した成形用材料80が冷却されて固化し、成形体8が得られる。冷却工程においては、減圧バッグ3、成形型2及び成形用材料80に残留する熱が、空気の自然対流によって放熱されてもよく、ファン等による空気の強制対流によって放熱されてもよい。
【0076】
冷却工程においては、減圧ポンプ4から、減圧バッグ3及び成形型2に配置された減圧配管5が外された状態で、成形型2を放置してもよい。このときには、減圧配管5に設けられたバルブ53が閉じられて、減圧配管5の流路50及び減圧バッグ3内の減圧状態が維持された状態で、減圧ポンプ4が減圧配管5から外される。
【0077】
加熱工程及び冷却工程においては、一対の電極61を、成形型2の複数の分割型部21の外側から、複数の分割型部21を押圧するために用いてもよい。そして、成形型2には、減圧バッグ3による型締め力と一対の電極61による型締め力とを作用させることができる。
【0078】
成形型2のキャビティ20内の成形用材料80が冷却されて固化したときには、減圧バッグ3の開口部31から開口チャック32が外され、開口部31から成形型2が取り出される。そして、成形型2の複数の分割型部21が互いに離され、分割型部21同士の間から成形後の成形体8が取り出される。
【0079】
(作用効果)
本形態の誘電加熱成形装置1は、一対の電極61を有する誘電加熱源6を用いることにより、大型、複雑形状等の成形体8の成形を可能にする。
【0080】
成形体8を成形する際には、誘電加熱源6における一対の電極61の間に、成形用材料80がキャビティ20内に配置された成形型2が配置される。また、成形型2は減圧バッグ3内に配置され、減圧ポンプ4によって減圧バッグ3内及びキャビティ20内が減圧される。次いで、一対の電極61の間に交流電圧が印加されたときには、キャビティ20内の成形用材料80及び成形型2に交番電界Yが印加される。そして、キャビティ20内の成形用材料80が誘電損失によって発熱し、又はキャビティ20内の成形用材料80が、誘電損失によって発熱する成形型2からの伝熱によって加熱されて、成形用材料80が溶融する。その後、成形用材料80が冷却されて固化し、成形体8が得られる。
【0081】
誘電加熱成形装置1においては、成形型2の全体もしくは一部が一対の電極61の間に配置される。そして、交番電界Yは、一対の電極61の間に配置された成形型2の全体もしくは一部、及び一対の電極61の間に配置された成形型2の全体もしくは一部に位置するキャビティ20内の成形用材料80に印加される。高周波の交流電圧による交番電界Yを利用して成形型2が発熱する場合には、マイクロ波を利用して成形型2が発熱する場合に比べて、成形型2のより深い位置まで発熱することが可能になる。
【0082】
また、高周波の交流電圧が利用される場合には、マイクロ波が利用される場合に比べて、キャビティ20内の成形用材料80も交番電界Yによって発熱しやすくなると考えられる。これらの理由により、キャビティ20内に成形する成形体8が、大型である場合、複雑な形状を有する場合等であっても、一対の電極61の間に配置された成形用材料80の部位は、この部位に印加される交番電界Yによってより適切に溶融することができ、成形体8を適切に成形することができる。
【0083】
それ故、本形態の誘電加熱成形装置1及び誘電加熱成形方法によれば、成形する成形体8のサイズ、形状等の自由度を高めることができる。
【0084】
<実施形態2>
本形態は、誘電加熱源6と他の加熱源とを併用する場合の誘電加熱成形装置1について示す。
図11に示すように、他の加熱源は、誘電加熱源6における一対の電極61の少なくとも一方に設けられた、通電によって発熱するヒータ62としてもよい。ヒータ62は、各電極61に設けることができ、各電極61に形成された複数の配置穴611内にそれぞれ埋設することができる。ヒータ62を用いる場合には、誘電加熱源6による加熱と同時もしくは交互に、又は誘電加熱源6による加熱の前後に、ヒータ62によるキャビティ20内の成形用材料80の加熱を行うことができる。この場合には、成形用材料80の加熱温度の部分的な偏りを抑制し、成形用材料80の全体ができるだけ均一に加熱されるようにすることができる。
【0085】
また、
図12に示すように、他の加熱源は、温風Hによって減圧バッグ3を介して成形型2を加熱する温風加熱源7としてもよい。温風加熱源7は、気体を加熱するヒータ71と、ヒータ71によって加熱された気体を温風Hとして成形型2へ送風するファン72とによって構成される。温風加熱源7を用いる場合には、誘電加熱源6による加熱と同時もしくは交互に、又は誘電加熱源6による加熱の前後に、温風加熱源7によるキャビティ20内の成形用材料80の加熱を行うことができる。この場合にも、成形用材料80の加熱温度の部分的な偏りを抑制し、成形用材料80の全体ができるだけ均一に加熱されるようにすることができる。
【0086】
また、温風加熱源7は、ファン72を用いずに、自然対流による温風が流れる温風環境下に、減圧バッグ3内に収容された成形型2を配置する構成としてもよい。
【0087】
本形態の誘電加熱成形装置1及び誘電加熱成形方法における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1の場合と同様である。また、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の場合と同様である。
【0088】
<実施形態3>
本形態は、実施形態1,2とは異なる、誘電加熱成形装置1の種々の形態について示す。
図13に示すように、誘電加熱源6における一対の電極61の少なくとも一方には、冷却水Cが流れる冷却流路63を形成してもよい。冷却流路63は、各電極61内を通過するように形成された穴によって形成することができる。図示は省略するが、冷却流路63には、冷却流路63に冷却水Cを循環させるための循環ポンプが接続される。
【0089】
この場合には、誘電加熱源6は、冷却流路63を流れる冷却水Cによって冷却された電極61によって減圧バッグ3を介して成形型2を冷却する機能も有する。この場合には、誘電加熱成形方法の冷却工程において、冷却流路63を流れる冷却水Cによって冷却された電極61によって成形型2を強制的に冷却することができる。そのため、電極61に冷却流路63が形成された簡単な構成により、成形型2のキャビティ20内において溶融した成形用材料80を迅速に固化させることができる。
【0090】
また、
図14及び
図15に示すように、減圧バッグ3から成形型2に型締め力をより適切に作用させるために、成形型2の両側には、成形型2よりも硬い型締め部材25を配置してもよい。この場合には、型締め部材25を用いることにより、成形型2の薄肉部及び厚肉部のいずれに対しても、できるだけ均一に型締め力を作用させることができる。誘電加熱源6における一対の電極61は、型締め部材25を押圧してもよく、型締め部材25を押圧しなくてもよい。
【0091】
また、キャビティ20に連通する減圧経路22の形成部位は、成形型2の外表面201の複数箇所に形成してもよい。この場合には、減圧バッグ3内が真空引きされる際に、複数箇所の減圧経路22からキャビティ20内を真空引きすることができる。特に、複数の減圧経路22は、
図1に示すように、キャビティ20における行き詰まりとなる端部203に連通される位置に形成してもよい。
【0092】
本形態の誘電加熱成形装置1及び誘電加熱成形方法における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1の場合と同様である。また、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の場合と同様である。
【0093】
本発明は、各実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。さらに、本発明から想定される様々な構成要素の組み合わせ、形態等も本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0094】
1 誘電加熱成形装置
2 成形型
20 キャビティ
201 外表面
202 成形面
21 分割型部
210 一般部
211 成形表面層
22 減圧経路
23 装着部
25 型締め部材
3 減圧バッグ
30 シート材
31 開口部
32 開口チャック
321 雌側チャック部
322 雄側チャック部
33 挿入口
4 減圧ポンプ
5 減圧配管
51 先端部
511 先端開口
52 通気孔
53 バルブ
6 誘電加熱源
61 電極
62 ヒータ
63 冷却流路
7 温風加熱源
71 ヒータ
72 ファン
8 成形体
80 成形用材料
Y 交番電界