(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】硬化性組成物及びこれを用いてなる目地構造
(51)【国際特許分類】
C08L 71/02 20060101AFI20221114BHJP
C08K 3/40 20060101ALI20221114BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20221114BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221114BHJP
C08K 3/016 20180101ALI20221114BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20221114BHJP
E04F 13/08 20060101ALI20221114BHJP
E04B 1/682 20060101ALI20221114BHJP
C09K 21/14 20060101ALI20221114BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
C08L71/02
C08K3/40
C08K3/26
C08K3/22
C08K3/016
C08L33/06
E04F13/08 Y
E04B1/682 A
C09K21/14
E04B1/94 H
(21)【出願番号】P 2019537722
(86)(22)【出願日】2018-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2018031460
(87)【国際公開番号】W WO2019039611
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2017161655
(32)【優先日】2017-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305044143
【氏名又は名称】積水フーラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】池内 拓人
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-092490(JP,A)
【文献】特開平08-081674(JP,A)
【文献】特開2004-137316(JP,A)
【文献】特開平08-134344(JP,A)
【文献】特開2018-039997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C09D
C09J
E04B1/94
C09K3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイドと、
アンチモン系化合物及びガラスフリットからなる群から選ばれた少なくとも一種の耐火性付与化合物と、
炭酸カルシウムとを
含有し、
上記炭酸カルシウムの含有量と上記耐火性付与化合物の含有量との比率(上記炭酸カルシウムの含有量/上記耐火性付与化合物の含有量)が2~20であることを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
耐火性付与化合物がガラスフリットを含有していることを特徴とする請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
アクリル系重合体を更に含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
炭酸カルシウムの含有量とガラスフリットの含有量との比率(炭酸カルシウムの含有量/ガラスフリットの含有量)が3~10であることを特徴とする請求項2に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
耐火性付与化合物がアンチモン系化合物及びガラスフリットを含有しており、上記アンチモン系化合物の含有量と上記ガラスフリットの含有量との比率(アンチモン系化合物の含有量/ガラスフリットの含有量)が0.1~9であることを特徴とする請求項1~
4の何れか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
ガラスフリットがリン酸系ガラスフリットであることを特徴とする請求項2に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
建築構造物の壁部を構成している壁部材と、
上記壁部材間に形成された目地部に充填された請求項1~
6の何れか1項に記載の硬化性組成物の硬化物と
を含むことを特徴とする目地構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物及びこれを用いてなる目地構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物の目地構造は、壁部を構成している壁部材間に形成された目地部に、硬化性組成物の硬化物をシーリング材として充填することによって構成されている。
【0003】
上記目地構造において、硬化性組成物の硬化物は有機物であるため、燃焼に対して弱く、火災時に硬化物が目地部から脱落し、目地部から炎が廻り込むことがあり、建築構造物の壁部の耐火性能が不十分となるという問題点を有している。
【0004】
そこで、特許文献1には、(A)末端に加水分解によってシラノール基を形成しうるケイ素含有官能基をもつポリアルキレンエーテル100質量部、(B)マイクロカプセル化ポリリン酸アンモニウム粉末20~150質量部、(C)炭酸カルシウム粉末50~150質量部及び(D)シラノール縮合触媒0.1~10質量部からなることを特徴とする耐久性を有する防火性シーリング材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、防火性シーリング材は、火災時の熱によって発泡した後、炭化層膜を形成するが、発泡により燃焼残渣が脆くなるため、燃焼炎の風圧によって容易に破壊し、目地部からの脱落を生じ、建築構造物の壁部の耐火性能が依然として不十分であるという問題点を有する。
【0007】
本発明は、燃焼により生成された燃焼残渣が非常に強固であり、火災時においても目地部を充填した状態を確実に保持して目地部からの炎の回り込みを阻止し、建築構造物の壁部に優れた耐火性能を付与することができる硬化性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の硬化性組成物は、
加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイドと、
アンチモン系化合物及びガラスフリットからなる群から選ばれた少なくとも一種の耐火性付与化合物と、
炭酸カルシウムとを含有する。
【0009】
[ポリアルキレンオキサイド]
硬化性組成物に含まれているポリアルキレンオキサイドは、加水分解性シリル基を有している。加水分解性シリル基とは、珪素原子に1~3個の加水分解性基が結合してなる基である。
【0010】
加水分解性シリル基の加水分解性基としては、特に限定されず、例えば、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。
【0011】
なかでも、加水分解性シリル基としては、加水分解反応が穏やかであることから、アルコキシシリル基が好ましい。アルコキシシリル基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、及びトリフェノキシシリル基などのトリアルコキシシリル基;プロピルジメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、及びメチルジエトキシシリル基などのジアルコキシシリル基;並びに、ジメチルメトキシシリル基、及びジメチルエトキシシリル基などのモノアルコキシシリル基が挙げられる。なかでも、ジアルコキシシリル基がより好ましく、ジメトキシシリル基が特に好ましく、プロピルジメトキシシリル基が最も好ましい。
【0012】
ポリアルキレンオキサイドは、1分子中に平均して、1~4個の加水分解性シリル基を有していることが好ましい。ポリアルキレンオキサイドにおける加水分解性シリル基の数が上記範囲内にあると、硬化性組成物の硬化物の燃焼残渣が目地部に安定的に保持され、建築構造物の壁部に優れた耐火性能を付与することができる。また、ポリアルキレンオキサイドは、その主鎖の両末端のうち少なくとも一方に加水分解性シリル基を有していることが好ましい。
【0013】
なお、ポリアルキレンオキサイド中における、1分子当たりの加水分解性シリル基の平均個数は、1H-NMRにより求められるポリアルキレンオキサイド中の加水分解性シリル基の濃度、及びGPC法により求められるポリアルキレンオキサイドの数平均分子量に基づいて算出することができる。
【0014】
ポリアルキレンオキサイドとしては、主鎖が、一般式:-(R-O)n-(式中、Rは炭素数が1~14のアルキレン基を表し、nは、繰り返し単位の数であって正の整数である。)で表される繰り返し単位を含有する重合体が好ましく挙げられる。ポリアルキレンオキサイドの主鎖骨格は一種のみの繰り返し単位からなっていてもよいし、二種以上の繰り返し単位からなっていてもよい。
【0015】
ポリアルキレンオキサイドの主鎖骨格としては、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド、ポリテトラメチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体、及びポリプロピレンオキサイド-ポリブチレンオキサイド共重合体などが挙げられる。なかでも、ポリプロピレンオキサイドが好ましい。ポリプロピレンオキサイドによれば、硬化後に優れたゴム弾性及び接着性に優れる硬化性組成物を提供することができる。
【0016】
ポリアルキレンオキサイドの数平均分子量は、3000~50000が好ましく、10000~30000がより好ましい。ポリアルキレンオキサイドの数平均分子量が3000以上であると、硬化性組成物の硬化物の機械的強度又は伸び性が向上する。ポリアルキレンオキサイドの数平均分子量が50000以下であると、硬化性組成物の塗工性が向上する。
【0017】
なお、本発明において、ポリアルキレンオキサイドの数平均分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定されたポリスチレン換算した値を意味する。GPC法による測定においては、例えば、GPCカラムとして東ソー製Shodex KF800Dを用い、溶媒としてクロロホルムなどを用いることができる。
【0018】
加水分解性シリル基を含有しているポリアルキレンオキサイドは、市販されているものを用いることができる。例えば、カネカ社製 商品名「MSポリマー S-203」、「MSポリマー S-303」、「サイリルポリマー SAT-200」、「サイリルポリマー SAT-350」及び「サイリルポリマー SAT-400」、旭硝子社製 商品名「エクセスター ESS-3620」、「エクセスター ESS-2420」、「エクセスター ESS2410」及び「エクセスター ESS3430」などが挙げられる。
【0019】
主鎖がポリプロピレンオキサイドで且つポリプロピレンオキサイドの末端に(メトキシメチル)ジメトキシシリル基を有しているポリアルキレンオキサイドは、カネカ社から商品名「HS-2」にて市販されている。
【0020】
主鎖がポリプロピレンオキサイドで且つポリプロピレンオキサイドの末端にイソプロピルメチルジメトキシシリル基を有しているポリアルキレンオキサイドは、カネカ社から商品名「SAX720」にて市販されている。
【0021】
[耐火性付与化合物]
硬化性組成物は、耐火性付与化合物を含有している。耐火性付与化合物は、アンチモン系化合物及びガラスフリットからなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物を含有している。
【0022】
即ち、耐火性付与化合物は、アンチモン系化合物及びガラスフリットの何れか一方又は双方を含有している。耐火性付与化合物としてはガラスフリットが好ましい。
【0023】
[アンチモン系化合物]
アンチモン系化合物としては、特に限定されず、例えば、三酸化アンチモンなどの酸化アンチモン、五フッ化アンチモン、硫化アンチモンなどが挙げられ、酸化アンチモンが好ましく、三酸化アンチモンがより好ましい。
【0024】
硬化性組成物中におけるアンチモン系化合物の含有量は、加水分解性シリル基性を有するポリアルキレンオキサイド100質量部に対して2~120質量部が好ましく、5~100質量部がより好ましく、8~90質量部が特に好ましい。アンチモン系化合物の含有量が上記範囲内にあると、硬化性組成物の硬化物の燃焼残渣が目地部に安定的に保持され、建築構造物の壁部に優れた耐火性能を付与することができる。
【0025】
[ガラスフリット]
ガラスフリットを構成しているガラスとしては、たとえば、リン酸系ガラス、ホウ酸系ガラス、酸化ビスマス系ガラス、珪酸系ガラス、酸化ナトリウム系ガラスなどが挙げられ、リン酸系ガラス、ホウ酸系ガラスが好ましく、リン酸系ガラスがより好ましい。これらのガラスフリットは、B2O3、P2O5、ZnO、SiO2、Bi2O3、Al2O3、BaO、CaO、MgO、MnO2、ZrO2、TiO2、CeO2、SrO、V2O5、SnO2、Li2O、Na2O、K2O、CuO、Fe2O3などを所定の成分割合で調整して得ることができる。
【0026】
ガラスフリットを構成しているガラスの軟化点は350~650℃が好ましく、360~560℃がより好ましく、370~540℃が特に好ましく、380~520℃が最も好ましい。ガラスフリットを構成しているガラスの軟化点が上記範囲内にあると、硬化性組成物の硬化物の燃焼残渣が目地部に安定的に保持され、建築構造物の壁部に優れた耐火性能を付与することができる。なお、ガラスフリットを構成しているガラスの軟化点は、ガラスの粘度が107.6dPa・s(logη=7.6)となる温度である。
【0027】
硬化性組成物中におけるガラスフリットの含有量は、加水分解性シリル基性を有するポリアルキレンオキサイド100質量部に対して1~80質量部が好ましく、3~70質量部がより好ましく、4~60質量部が特に好ましく、5~50質量部が最も好ましい。ガラスフリットの含有量が上記範囲内にあると、硬化性組成物の硬化物の燃焼残渣が目地部に安定的に保持され、建築構造物の壁部に優れた耐火性能を付与することができる。
【0028】
耐火性付与化合物がアンチモン系化合物及びガラスフリットを含有している場合、アンチモン系化合物の含有量とガラスフリットの含有量との比率(アンチモン系化合物の含有量/ガラスフリットの含有量)は0.1~9が好ましく、0.5~8がより好ましく、0.8~7が特に好ましく、1.6~6が最も好ましい。
【0029】
[炭酸カルシウム]
硬化性組成物は、炭酸カルシウムを含有している。
【0030】
炭酸カルシウムとしては、特に限定されず、例えば、コロイダル炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムなどが挙げられ、コロイダル炭酸カルシウム及び重質炭酸カルシウムが好ましく、コロイダル炭酸カルシウム及び重質炭酸カルシウムを双方含有していることがより好ましい。
【0031】
炭酸カルシウムの平均粒子径は、0.01~5μmが好ましく、0.05~2.5μmがより好ましい。このような平均粒子径を有している炭酸カルシウムによれば、硬化性組成物の硬化物の燃焼残渣が目地部に安定的に保持され、建築構造物の壁部に優れた耐火性能を付与することができる。なお、炭酸カルシウムの平均粒子径は、SEMを用いて倍率20000倍の拡大写真を撮影し、写真にあらわれた任意の10個の炭酸カルシウムの直径を測定し、各炭酸カルシウムの直径の相加平均値をいう。なお、炭酸カルシウムの直径とは、炭酸カルシウムを包囲し得る最小径の真円の直径をいう。
【0032】
また、炭酸カルシウムは、脂肪酸や脂肪酸エステルなどにより表面処理されているのが好ましい。脂肪酸や脂肪酸エステルなどにより表面処理されている炭酸カルシウムによれば、硬化性組成物にチキソトロピー性を付与できると共に炭酸カルシウムが凝集することを抑制することができる。
【0033】
硬化性組成物中における炭酸カルシウムの含有量は、加水分解性シリル基性を有するポリアルキレンオキサイド100質量部に対して1~700質量部が好ましく、5~300質量部がより好ましく、10~230質量部が特に好ましい。硬化性組成物中における炭酸カルシウムの含有量が上記範囲内であると、硬化性組成物の硬化物の燃焼残渣が目地部に安定的に保持され、建築構造物の壁部に優れた耐火性能を付与することができる。
【0034】
硬化性組成物中において、炭酸カルシウムの含有量と耐火性付与化合物の含有量との比(炭酸カルシウムの含有量/耐火性付与化合物の含有量)は2~20が好ましく、2~10がより好ましく、2~5が特に好ましい。炭酸カルシウムの含有量と耐火性付与化合物の含有量との比が上記範囲内であると、硬化性組成物の硬化物の燃焼残渣が目地部に安定的に保持され、建築構造物の壁部に優れた耐火性能を付与することができる。
【0035】
耐火性付与化合物がアンチモン系化合物を含有している場合、炭酸カルシウムの含有量とアンチモン系化合物の含有量との比(炭酸カルシウムの含有量/アンチモン系化合物の含有量)は2~20が好ましく、2~10がより好ましく、2~5が特に好ましい。炭酸カルシウムの含有量とアンチモン系化合物の含有量との比が上記範囲内であると、硬化性組成物の硬化物の燃焼残渣が目地部に安定的に保持され、建築構造物の壁部に優れた耐火性能を付与することができる。
【0036】
耐火性付与化合物がガスフリットを含有している場合、炭酸カルシウムの含有量とガラスフリットの含有量との比(炭酸カルシウムの含有量/ガラスフリットの含有量)は3~10が好ましく、4~8がより好ましく、4~6が特に好ましい。炭酸カルシウムの含有量とガラスフリットの含有量との比が上記範囲内であると、硬化性組成物の硬化物の燃焼残渣が目地部に安定的に保持され、建築構造物の壁部に優れた耐火性能を付与することができる。
【0037】
[アクリル系重合体]
硬化性組成物は、アクリル系重合体を含有していてもよい。アクリル系重合体は、加水分解性シリル基を有していてもよい。
【0038】
加水分解性シリル基の加水分解性基としては、特に限定されず、例えば、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。
【0039】
なかでも、加水分解性シリル基としては、加水分解反応が穏やかであることから、アルコキシシリル基が好ましい。アルコキシシリル基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、及びトリフェノキシシリル基などのトリアルコキシシリル基;プロピルジメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、及びメチルジエトキシシリル基などのジアルコキシシリル基;並びに、ジメチルメトキシシリル基、及びジメチルエトキシシリル基などのモノアルコキシシリル基が挙げられる。なかでも、トリアルコキシシリル基がより好ましく、トリメトキシシリル基が特に好ましい。
【0040】
アクリル系重合体は、1分子中に平均して、0.3個以上の加水分解性シリル基を有しているのが好ましく、0.5個以上の加水分解性シリル基を有しているのが好ましい。アクリル系重合体は、1分子中に平均して、2.0個以下の加水分解性シリル基を有しているのが好ましく、1.8個以下の加水分解性シリル基を有しているのが好ましい。アクリル系重合体における加水分解性シリル基の数が0.3個以上であると、硬化性組成物の硬化性が向上する。アクリル系重合体における加水分解性シリル基の数が2.0個以下であると、硬化性組成物の硬化物の機械的強度又は伸び性が向上する。また、アクリル系重合体は、主鎖の側鎖又は末端に加水分解性シリル基を有していることが好ましく、主鎖の両末端のうち少なくとも一方に加水分解性シリル基を有していることがより好ましく、主鎖の両末端に加水分解性シリル基を有していることが特に好ましい。
【0041】
アクリル系重合体において、主鎖骨格の側鎖に加水分解性シリル基を有しているとは、主鎖骨格に側鎖として加水分解性シリル基を有している場合と、主鎖骨格の側鎖の一部に加水分解性シリル基を有している場合の双方を含む。
【0042】
アクリル系重合体を、上述した、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイドと組み合わせて用いることにより、硬化性組成物の硬化物の柔軟性が向上し、硬化性組成物の硬化物の最大荷重時伸びが高くなり、硬化物が目地部を充填した状態を確実に保持することができる。
【0043】
アクリル系重合体への加水分解性シリル基の導入方法としては、特に限定されず、例えば、主鎖骨格を構成する単量体の共重合体に不飽和基を導入した後、加水分解性シリル基を有するヒドロシランを作用させてヒドロシリル化する方法などが挙げられる。
【0044】
なお、アクリル系重合体中における、1分子当たりの加水分解性シリル基の平均個数は、1H-NMRにより求められるアクリル系重合体中の加水分解性シリル基の濃度、及びGPC法により求められるアクリル系重合体の数平均分子量に基づいて算出することができる。
【0045】
アクリル系重合体の主鎖骨格は、メチル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレートを含む単量体の共重合体、n-ブチル(メタ)アクリレート及びn-オクタデシル(メタ)アクリレートを含む単量体の共重合体が好ましく、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートを含む単量体の共重合体、n-ブチルアクリレート及びn-オクタデシルアクリレートを含む単量体の共重合体、がより好ましく、n-ブチルアクリレート及びn-オクタデシルアクリレートを含む単量体の共重合体が特に好ましい。主鎖骨格が上記共重合体であるアクリル系重合体によれば、硬化性組成物の硬化物の柔軟性が向上し、硬化性組成物の硬化物の最大荷重時伸びが高くなり、硬化物が目地部を充填した状態を確実に保持することができる。なお、(メタ)アクリレートは、メタクリレート及び/又はアクリレートを意味する。
【0046】
アクリル系重合体において、メチル(メタ)アクリレート成分の含有量は、3~70質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましい。メチル(メタ)アクリレート成分の含有量が3質量%以上であることによって、硬化性組成物の硬化物の接着性が向上する。メチル(メタ)アクリレート成分の含有量が70質量%以下であることによって、硬化性組成物の硬化物の柔軟性が向上し、硬化性組成物の硬化物の最大荷重時伸びが高くなり、硬化物が目地部を充填した状態を確実に保持することができる。
【0047】
アクリル系重合体において、ブチル(メタ)アクリレート成分の含有量は、30~97質量%が好ましく、50~95質量%がより好ましい。ブチル(メタ)アクリレート成分の含有量が30質量%以上であることによって、硬化性組成物の硬化物の柔軟性が向上し、硬化性組成物の硬化物の最大荷重時伸びが高くなり、硬化物が目地部を充填した状態を確実に保持することができる。
【0048】
アクリル系重合体において、主鎖骨格を構成している重合体に用いられる単量体は、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、及びブチルメタクリレートの他に、さらに他のモノマーを含んでいてもよい。他のモノマーとしては、例えば、スチレン、インデン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-クロロスチレン、p-クロロメチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-tert-ブトキシスチレン、ジビニルベンゼンなどのスチレン誘導体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、安息香酸ビニル、珪皮酸ビニルなどのビニルエステル基を持つ化合物、無水マレイン酸、N-ビニルピロリドン、N-ビニルモルフォリン、メタクリロニトリル、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-ベンジルマレイミド、n-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、tert-アミルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、2-クロロエチルビニルエーテル、エチレングリコールブチルビニルエーテル、トリエチレングリコールメチルビニルエーテル、安息香酸(4-ビニロキシ)ブチル、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ブタン-1,4-ジオール-ジビニルエーテル、ヘキサン-1,6-ジオール-ジビニルエーテル、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール-ジビニルエーテル、イソフタル酸ジ(4-ビニロキシ)ブチル、グルタル酸ジ(4-ビニロキシ)ブチル、コハク酸ジ(4-ビニロキシ)ブチルトリメチロールプロパントリビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサン-1,4-ジメタノールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、3-アミノプロピルビニルエーテル、2-(N,N-ジエチルアミノ)エチルビニルエーテル、ウレタンビニルエーテル、ポリエステルビニルエーテルなどのビニロキシ基を持つ化合物などを挙げることができる。これらのモノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0049】
アクリル系重合体の重合方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば、フリーラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法、UVラジカル重合法、リビングアニオン重合法、リビングカチオン重合法、リビングラジカル重合法などの各種重合法などが挙げられる。
【0050】
アクリル系重合体の重量平均分子量は、1000~50000が好ましく、2000~30000がより好ましく、3000~15000が特に好ましい。重量平均分子量が上記範囲内であるアクリル系重合体によれば、硬化性組成物の硬化物の柔軟性が向上し、硬化性組成物の硬化物の最大荷重時伸びが高くなり、硬化物が目地部を充填した状態を確実に保持することができる。
【0051】
硬化性組成物中におけるアクリル系重合体の含有量は、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド100質量部に対して5~300質量部が好ましく、10~200質量部がより好ましく、30~100質量部が特に好ましい。硬化性組成物中におけるアクリル系重合体の含有量が5質量部以上であると、硬化性組成物の接着性が向上する。硬化性組成物中におけるアクリル系重合体の含有量が300質量部以下であると、硬化性組成物の硬化物の柔軟性が向上し、硬化性組成物の硬化物の最大荷重時伸びが高くなり、硬化物が目地部を充填した状態を確実に保持することができる。
【0052】
[可塑剤]
可塑剤としては、例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジノルマルヘキシル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジノルマルオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジイソウンデシル、及びフタル酸ビスブチルベンジルなどのフタル酸エステル;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールが挙げられる。なかでも、ポリアルキレングリコールが好ましく、ポリプロピレングリコールがより好ましい。
【0053】
ポリアルキレングリコールの数平均分子量は、1000~10000が好ましく、2000~5000がより好ましい。ポリアルキレングリコールの数平均分子量が上記範囲内である場合、硬化性組成物の硬化物の燃焼残渣が目地部に安定的に保持され、建築構造物の壁部に優れた耐火性能を付与することができる。
【0054】
なお、本発明において、ポリアルキレングリコールの数平均分子量は、ポリアルキレンオキサイドの数平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって、ポリスチレン換算されて測定された値である。具体的な測定方法や測定条件は、上述したポリアルキレンオキサイドと同様である。
【0055】
硬化性組成物中における可塑剤の含有量は、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド100質量部に対して1~50質量部が好ましく、10~40質量部がより好ましい。
【0056】
[脱水剤]
硬化性組成物は、脱水剤をさらに含んでいるのが好ましい。脱水剤によれば、硬化性組成物を保存している際に、空気中などに含まれている水分によって硬化性組成物が硬化することを抑制することができる。
【0057】
脱水剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、及びジフェニルジメトキシシランなどのシラン化合物;並びにオルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル、及びオルト酢酸エチル等のエステル化合物などを挙げることができる。これらの脱水剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。なかでも、ビニルトリメトキシシランが好ましい。
【0058】
硬化性組成物中における脱水剤の含有量は、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド100質量部に対して0.5~20質量部が好ましく、1~15質量部がより好ましい。硬化性組成物中における脱水剤の含有量が0.5質量部以上であると、脱水剤により得られる効果が十分に得られる。また、硬化性組成物中における脱水剤の含有量が20質量部以下であると、硬化性組成物が優れた硬化性を有する。
【0059】
[シラノール縮合触媒]
硬化性組成物は、シラノール縮合触媒を含有していることが好ましい。シラノール縮合触媒とは、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイドが含有する加水分解性シリル基などが加水分解することにより形成されたシラノール基同士の脱水縮合反応を促進させるための触媒である。
【0060】
シラノール縮合触媒としては、1,1,3,3-テトラブチル-1,3-ジラウリルオキシカルボニル-ジスタノキサン、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫フタレート、ビス(ジブチル錫ラウリン酸)オキサイド、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、ジブチル錫ビス(モノエステルマレート)、オクチル酸錫、ジブチル錫オクトエート、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫ビス(トリエトキシシリケート)、ビス(ジブチル錫ビストリエトキシシリケート)オキサイド、及びジブチル錫オキシビスエトキシシリケートなどの有機錫系化合物;テトラ-n-ブトキシチタネート、及びテトライソプロポキシチタネートなどの有機チタン系化合物などが挙げられる。これらのシラノール縮合触媒は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0061】
シラノール縮合触媒としては、1,1,3,3-テトラブチル-1,3-ジラウリルオキシカルボニル-ジスタノキサンが好ましい。このようなシラノール縮合触媒によれば、硬化性組成物の硬化速度を容易に調整することができる。
【0062】
硬化性組成物中におけるシラノール縮合触媒の含有量は、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド100質量部に対して1~10質量部が好ましく、1~5質量部がより好ましい。硬化性組成物中におけるシラノール縮合触媒の含有量が1質量部以上であると、硬化性組成物の硬化速度を速くして、硬化性組成物の硬化に要する時間の短縮化を図ることができる。また、硬化性組成物中におけるシラノール縮合触媒の含有量が10質量部以下であると、硬化性組成物が適度な硬化速度を有し、硬化性組成物の貯蔵安定性及び取扱性を向上させることができる。
【0063】
[他の添加剤]
硬化性組成物は、チキソ性付与剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、沈降防止剤、及び溶剤など他の添加剤を含んでいてもよい。なかでも、チキソ性付与剤、紫外線吸収剤、及び酸化防止剤が好ましく挙げられる。
【0064】
チキソ性付与剤は、硬化性組成物にチキソトロピー性を発現せることができるものであればよい。チキソ性付与剤としては、水添ひまし油、脂肪酸ビスアマイド、ヒュームドシリカなどが好ましく挙げられる。
【0065】
硬化性組成物中におけるチキソ性付与剤の含有量は、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド100質量部に対して0.1~200質量部が好ましく、1~150質量部がより好ましい。硬化性組成物中におけるチキソ性付与剤の含有量が0.1質量部以上であると、硬化性組成物にチキソトロピー性を効果的に付与することができる。また、硬化性組成物中におけるチキソ性付与剤の含有量が200質量部以下であると、硬化性組成物が適度な粘度を有し、硬化性組成物の取扱性が向上する。
【0066】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤などが挙げられ、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。硬化性組成物中における紫外線吸収剤の含有量は、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド100質量部に対して0.1~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましい。
【0067】
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、モノフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、及びポリフェノール系酸化防止剤などが挙げられ、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく挙げられる。硬化性組成物中における酸化防止剤の含有量は、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド100質量部に対して0.1~20質量部が好ましく、0.3~10質量部がより好ましい。
【0068】
[光安定剤]
硬化性組成物は、ヒンダードアミン系光安定剤を含んでいることが好ましい。ヒンダードアミン系光安定剤によれば、硬化後に優れたゴム弾性をより長期間に亘って維持することができる硬化性組成物を提供することができる。
【0069】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート及びメチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケートの混合物、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールとの重縮合物などが挙げられる。
【0070】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、NOR型ヒンダードアミン系光安定剤が好ましく挙げられる。NOR型ヒンダードアミン系光安定剤によれば、硬化後に経時的なゴム弾性の低下が抑制されている硬化性組成物を提供することができる。
【0071】
NOR型ヒンダードアミン系光安定剤は、ピペリジン環骨格に含まれている窒素原子(N)に酸素原子(O)を介してアルキル基(R)が結合しているNOR構造を有している。NOR構造におけるアルキル基の炭素数は、1~20が好ましく、1~18がより好ましく、18が特に好ましい。アルキル基としては、直鎖状のアルキル基、分岐鎖状のアルキル基、及び、環状のアルキル基(飽和脂環式炭化水素基)が挙げられる。
【0072】
直鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などが挙げられる。分岐鎖状のアルキル基としては、例えば、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルなどが挙げられる。環状のアルキル基(飽和脂環式炭化水素基)としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。また、アルキル基を構成している水素原子が、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)又はヒドロキシル基などで置換されていてもよい。
【0073】
NOR型ヒンダードアミン系光安定剤としては、下記式(I)で示されるヒンダードアミン系光安定剤が挙げられる。
【0074】
【0075】
NOR型ヒンダードアミン系光安定剤を用いる場合、NOR型ヒンダードアミン系光安定剤と、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤又はトリアジン系紫外線吸収剤とを組み合わせて用いることが好ましい。これにより、硬化後に経時的なゴム弾性の低下がより高く抑制されている硬化性組成物を提供することができる。
【0076】
硬化性組成物中におけるヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド100質量部に対して0.01~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましい。
【0077】
硬化性組成物は、ポリアルキレンオキサイド、耐火性付与化合物及び炭酸カルシウムに、必要に応じて上記化合物を加えた上で混合することによって製造することができる。
【0078】
硬化性組成物の硬化物の最大荷重時伸びは、300~800%が好ましく、400~700%がより好ましく、570~650%が特に好ましい。なお、硬化性組成物の硬化物の最大荷重時伸びは、下記の要領で測定される。先ず、硬化性組成物を用いて、JIS A1439 4.21に準拠してH型試験体を作製する。具体的には、アルマイト処理を施したアルミニウム板(縦50mm×横50mm×厚み3mm)2枚を用い、これらのアルミニウム板の間にスペーサーを挟むことによってアルミニウム板間の中央部に直方体状の空間(縦12mm×横50mm×高さ12mm)を形成する。この空間に硬化性組成物を空気が入らないように充填する。硬化性組成物の充填後、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で硬化性組成物を14日間放置する。しかる後、硬化性組成物をさらに温度30℃の雰囲気下で14日間放置する。硬化性組成物を養生させて硬化させることにより、2枚のアルミニウム板が硬化性組成物の硬化物によって接着一体化されてなるH型試験体を作製する。そして、作製直後のH型試験体について、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で、引張速度50mm/分での引張試験をJIS A1439に準拠して行い、最大荷重時伸び[%]を測定する。
【0079】
硬化性組成物の硬化物の燃焼残渣強度は、0.2~3.5N/mm2が好ましく、0.5~3N/mm2がより好ましく、0.65~2.5N/mm2がより好ましく、1.0~2.0N/mm2が特に好ましい。硬化性組成物の硬化物の燃焼残渣強度は、下記の要領で測定される。先ず、硬化性組成物を亜鉛鉱板上に厚さ10mm、幅10mm、長さ50mmとなるように塗布し、硬化性組成物を23℃及び相対湿度50%の環境下にて1ヶ月間養生し、硬化性組成物を硬化させて硬化物を得る。
【0080】
硬化性組成物の硬化物を600℃の恒温槽に30分間放置して燃焼させた後に恒温槽から取り出し、23℃の雰囲気下にて3時間放置して燃焼残渣を得る。
【0081】
万能試験機を用いて1.5mm径のニードルによって燃焼残渣を50mm/分の圧縮スピードで圧縮することによって燃焼残渣の皮膜強度を測定し、皮膜強度を硬化性組成物の硬化物の燃焼残渣強度とする。
【0082】
硬化性組成物を目地部に施工して目地構造を得る方法としては、硬化性組成物を目地部に充填した後に養生させて硬化させる方法が用いられる。得られる目地構造は、建築構造物の壁部を構成している壁部材と、互いに隣接する壁部材間に形成された目地部に充填された、硬化性組成物の硬化物とを含む。建築構造物の壁部としては、例えば、外壁、内壁、天井部などが挙げられる。壁部材としては、例えば、外壁部材、内壁部材、天井部材などが挙げられる。
【0083】
目地部は、特に制限されないが、建築構造物の外壁、内壁、及び天井における目地部などが挙げられる。硬化性組成物は、硬化後に優れたゴム弾性を長期間に亘って維持することができることから、気温や日照等の温度変化による部材の膨張や収縮による、或いは振動や風圧などの作用による目地部の幅の変化に対して優れた追随性を呈し、部材の損傷や建築構造物内への漏水を防止することができる。したがって、建築構造物の外壁における目地部など、所謂、「ワーキングジョイント」とも呼ばれる幅の変化が大きい目地部をシーリングするために好適に用いられる。
【0084】
建築構造物の外壁における目地部としては、例えば、モルタル板、コンクリート板、窯業系サイディングボード、金属系サイディングボード、ALC板、及び金属板などの外壁部材同士の接合部にできる目地部が挙げられる。
【0085】
そして、硬化性組成物の硬化物は、燃焼によって強固な燃焼残渣を生成し、この燃焼残渣は、火災時においても建築構造物の目地部を充填し閉塞した状態を確実に保持して目地部を通じた炎の回り込みを阻止し、建築構造物の壁部に優れた耐火性能を付与することができる。
【発明の効果】
【0086】
本発明の硬化性組成物は、燃焼により生成された燃焼残渣が非常に強固であり、この燃焼残渣は、火災時においても目地部を充填し閉塞した状態を確実に保持して目地部からの炎の回り込みを阻止し、建築構造物の壁部に優れた耐火性能を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0087】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0088】
実施例及び比較例の硬化性組成物の製造において下記の原料を使用した。
【0089】
・加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド(主鎖骨格がポリプロピレンオキサイドからなり且つ主鎖の末端にプロピルジメトキシシリル基を有するポリアルキレンオキサイド、1分子あたりのプロピルジメトキシシリル基の平均個数:1.4個、数平均分子量:20000、カネカ社製 商品名「MSポリマー S-303」)
・三酸化アンチモン(日本精鉱社製 「patox-C」、Sb2O3)
・コロイダル炭酸カルシウム(白石工業社製 商品名「CCR」、平均粒子径:80nm)
・重質炭酸カルシウム(日東粉化社製 商品名「NCC2310」、平均粒子径:1μm)
・ガラスフリットA(リン酸系ガラス、日本フリット社製 「VY0144」、主成分:P2O5、AI2O3及びR2O、Rはアルカリ金属原子、軟化温度:404℃)
・ガラスフリットB(リン酸系ガラス、日本フリット社製 「VY0053」、主成分:P2O5、AI2O3及びR2O、Rはアルカリ金属原子、軟化温度:550℃)
・ガラスフリットC(ホウ酸系ガラス、日本フリット社製 「CY0086」、主成分:B2O3、ZnO及びRO、Rはアルカリ土類金属原子、軟化温度:569℃)
・アクリル系重合体(メチルジメトキシシリル基を主鎖の両末端に含有するアクリル系重合体、1分子当たりのメチルジメトキシシリル基の平均個数:1.7個、数平均分子量:28000、カネカ社製 商品名「SA310S」)
・シラノール縮合触媒(1,1,3,3-テトラブチル-1,3-ジラウリルオキシカルボニル-ジスタノキサン、日東化成社製 商品名「ネオスタンU-130」)
・脱水剤(ビニルトリメトキシシラン、日本ユニカ社製 商品名「NUCシリコーンA171」)
・アミノシランカップリング剤(N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、信越化学社製 商品名 KBM-603」)
・ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(BASFジャパン社製 製品名「チヌビン326」
・ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン社製 製品名「イルガノックス1010」)
・NH型ヒンダードアミン系光安定剤(BASFジャパン社製 製品名「チヌビン770」
・揺変剤(脂肪酸アマイドワックス、楠本化成社製 製品名「ディスパロン#6500」)
・脂肪族アミン(ステアリルアミン)
【0090】
(実施例1~13及び比較例1、2)
加水分解性シリル基を有するポリアルキレンオキサイド、三酸化アンチモン、コロイダル炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、ガラスフリットA~C、アクリル系重合体、シラノール縮合触媒、脱水剤、アミノシランカップリング剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、NH型ヒンダードアミン系光安定剤、揺変剤及び脂肪族アミンを表1に示した配合量となるようにして、プラネタリーミキサーを用いて真空雰囲気下にて60分間に亘って均一になるまで混合することによって硬化性組成物を得た。
【0091】
硬化性組成物の硬化物について、燃焼残渣強度及び最大荷重時伸びを上記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0092】
【0093】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2017年8月24日に出願された日本国特許出願第2017-161655号に基づく優先権を主張し、この出願の開示はこれらの全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、燃焼により非常に強固な燃焼残渣を生成する。硬化性組成物を目地部に施工することによって目地構造を得ることができる。本発明の硬化物は、火災時において燃焼残渣を生成し、この燃焼残渣は、火災時においても目地部を充填し閉塞した状態を確実に保持して目地部からの炎の回り込みを阻止し、建築構造物の壁部に優れた耐火性能を付与することができる。