(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/50 20160101AFI20221114BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20221114BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20221114BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20221114BHJP
B60T 8/96 20060101ALI20221114BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20221114BHJP
B60L 7/24 20060101ALI20221114BHJP
B60L 15/00 20060101ALI20221114BHJP
B60L 50/61 20190101ALN20221114BHJP
【FI】
B60W20/50 ZHV
B60W10/08 900
B60K6/46
B60T17/18
B60T8/96
B60T8/17 C
B60L7/24 D
B60L15/00 J
B60L50/61
(21)【出願番号】P 2018179787
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】山本 稜治
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-177904(JP,A)
【文献】特開2006-175944(JP,A)
【文献】特開2016-016801(JP,A)
【文献】特開2006-035967(JP,A)
【文献】特開2004-027985(JP,A)
【文献】特開平11-004503(JP,A)
【文献】特開2007-253715(JP,A)
【文献】特開2016-064735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 10/30
B60W 20/00 - 20/50
B60T 17/18
B60T 8/96
B60T 8/17
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者がアクセルペダルから足を離している場合に発電機により発電して車輪を制動する回生制動を行うことが可能であり、その際に発電機が発電する電力の大きさを変更できるものであって、
現在のブレーキペダルの踏込量若しくはマスタシリンダ圧と車輪に付帯するブレーキ装置に印加されている液圧力とを基に、または、現在のブレーキペダルの踏込量若しくはマスタシリンダ圧と車速の減速度とを基に、ブレーキ装置において正常な制動が困難となるベーパロックが生じているか否かを判断し、
ベーパロックが発生していると判断した場合において、
発電機が発電する回生制動により発揮する制動力を
ベーパロックが発生していると判断していない場合に比して増大させ、
かつアクセルペダルのみの操作により加速、減速及び制動が可能なワンペダル操作モードに自動的に移行
し、運転者がアクセルペダルから足を離しアクセルペダルの踏込量が0または0に近い極小値となったときに車両が殆どまたは完全に停車できる程度まで前記発電機が発揮する制動力を大きくする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者がアクセルペダルから足を離している場合に発電機により発電して車輪を制動する回生制動が可能な車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、内燃機関及び電動機の二つの動力源を備えるハイブリッド車両が一定の普及を見ている。シリーズ方式のハイブリッド車両(例えば、下記特許文献を参照)は、内燃機関により発電用モータジェネレータを駆動して発電を行い、発電した電力を蓄電装置(バッテリ及び/またはキャパシタ)に蓄えるとともに走行用モータジェネレータに供給する。そして、走行用モータジェネレータによって車両の車軸ひいては駆動輪を回転させて走行する。
【0003】
ハイブリッド車両では、内燃機関が燃料を燃焼させて回転駆動力を発生させなくとも、走行用モータジェネレータが出力する回転駆動力により車両を走行させることが可能である。故に、車両の運用中であっても、内燃機関の運転を停止している状態が継続することがある。
【0004】
シリーズ方式のハイブリッド車両にあって、発電用モータジェネレータは、停止した内燃機関を始動する際に内燃機関をモータリング(または、クランキング)する役割を兼ねる。モータリング時には、蓄電装置から必要な電力の供給を受ける。
【0005】
さらには、走行用モータジェネレータもまた、回生制動により発電を行い、発電した電力を蓄電装置に蓄えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常、回生制動は、運転者がアクセルペダルから足を離しているときに実行する。回生制動により発電する電力が大きいほど、車両の減速度が大きくなる。既知のシステムでは、運転者がシフトレバー(セレクトレバー)またはスイッチを操作することで、回生制動中の発電電力の大きさ及び車両の減速度を、運転者の好みに合わせて手動で切り替えることが可能となっている。
【0008】
一方、運転者がブレーキペダルを踏むことで、フットブレーキ即ちディスクブレーキやドラムブレーキといった車輪に付帯する摩擦ブレーキ装置による制動も、当然ながら可能となっている。この種のブレーキ装置は、ブレーキキャリパやホイールシリンダを液圧力により駆動する。
【0009】
液圧式のブレーキ装置では、作動流体であるブレーキ液がブレーキキャリパまたはホイールシリンダにおける摩擦熱により過熱されて沸騰し、液圧回路内に蒸気の気泡が生じることがある。その現象が顕著となると、運転者がブレーキペダルを踏み込んでも十分な液圧力をブレーキキャリパまたはホイールシリンダに印加することができなくなり、ブレーキ装置の制動性能が悪化する。ベーパロックと呼ばれるこの事象は、長い下り坂等でブレーキ装置を多用することにより生起し得る。
【0010】
本発明は、ブレーキ装置に正常な制動が困難となる事象が生じたときにも、車両を安全に減速ないし停車させることができるフェイルセーフを実現することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、運転者がアクセルペダルから足を離している場合に発電機により発電して車輪を制動する回生制動を行うことが可能であり、その際に発電機が発電する電力の大きさを変更できるものであって、現在のブレーキペダルの踏込量若しくはマスタシリンダ圧と車輪に付帯するブレーキ装置に印加されている液圧力とを基に、または、現在のブレーキペダルの踏込量若しくはマスタシリンダ圧と車速の減速度とを基に、ブレーキ装置において正常な制動が困難となるベーパロックが生じているか否かを判断し、ベーパロックが発生していると判断した場合において、発電機が発電する回生制動により発揮する制動力をベーパロックが発生していると判断していない場合に比して増大させ、かつアクセルペダルのみの操作により加速、減速及び制動が可能なワンペダル操作モードに自動的に移行し、運転者がアクセルペダルから足を離しアクセルペダルの踏込量が0または0に近い極小値となったときに車両が殆どまたは完全に停車できる程度まで前記発電機が発揮する制動力を大きくする車両の制御装置を構成した。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ブレーキ装置に正常な制動が困難となる事象が生じたときにも、車両を安全に減速ないし停車させることができるフェイルセーフが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態におけるシリーズ方式のハイブリッド車両の概要を示す図。
【
図2】同実施形態における車両のブレーキアクチュエータの液圧回路の構造を示す図。
【
図3】回生制動時の車両の車速及びその減速度と発電機の発電電力の大きさとの関係を示す図。
【
図4】同実施形態の車両の制御装置がプログラムに従い実行する処理の手順例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態におけるハイブリッド車両の主要システムの概略構成を示している。このハイブリッド車両は、内燃機関1と、内燃機関1により駆動されて発電を行う発電用モータジェネレータ2と、発電用モータジェネレータ2が発電した電力を蓄える蓄電装置3と、発電用モータジェネレータ2及び/または蓄電装置3から電力の供給を受けて車両の車軸及び駆動輪72を駆動する走行用モータジェネレータ4とを備えている。
【0015】
本実施形態のハイブリッド車両は、内燃機関1を発電にのみ使用するシリーズハイブリッド方式の電気自動車であり、車両の駆動輪72には専ら走行用モータジェネレータ4から走行のための駆動力を供給する。内燃機関1と駆動輪72との間は機械的に切り離されており、元来両者の間で回転駆動力の伝達がなされない。従って、イグニッションスイッチ(パワースイッチ、またはイグニッションキー)がONに操作されている車両の運用中、換言すれば運転者がアクセルペダルを踏むことで車両が走行可能な状態にあっても、蓄電装置3が充分な電荷を蓄えている状況下では、燃料の燃焼を伴う内燃機関1の運転を実施しない。
【0016】
内燃機関1は、例えば複数の気筒を包有する4ストロークエンジンである。内燃機関1の出力軸であるクランクシャフトは、発電用モータジェネレータ2の入力軸と機械的に接続している。そして、内燃機関1が出力する回転駆動力を発電用モータジェネレータ2に入力することで、発電用モータジェネレータ2が発電する。発電した電力は、蓄電装置3に充電し、及び/または、走行用モータジェネレータ4に供給する。また、発電用モータジェネレータ2は、自らが回転駆動力を発生させて内燃機関1のクランクシャフトを回転駆動する電動機としても機能する。例えば、発電用モータジェネレータ2は、停止している内燃機関1を始動するためのモータリング(クランキング)を実行することがある。
【0017】
走行用モータジェネレータ4は、車両の走行のための駆動力を発生させ、その駆動力を減速機71を介して駆動輪72に入力する。また、走行用モータジェネレータ4は、駆動輪72に連れ回されて回転することで発電し、車両の運動エネルギを電気エネルギとして回収する。この回生制動により発電した電力は、蓄電装置3に充電する。
【0018】
但し、既に蓄電装置3の容量一杯まで電荷が蓄えられており、それ以上の充電が困難である場合には、発電した電力を敢えて発電用モータジェネレータ2に供給し、発電用モータジェネレータ2を電動機として稼働させて内燃機関1を回転駆動する。これにより、車両の制動性能を維持しながら、余剰の電力を消尽する。また、このとき、内燃機関1の回転が保たれることから、内燃機関1の気筒への燃料供給を一時的に停止する燃料カットを実行することができる。
【0019】
発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2が発電する交流電力を直流電力に変換する。そして、その直流電力を蓄電装置3または駆動機インバータ41に入力する。並びに、発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させる際に、蓄電装置3及び/または駆動機インバータ41から供給される直流電力を交流電力に変換した上で発電用モータジェネレータ2に入力する。
【0020】
駆動機インバータ41は、蓄電装置3及び/または発電機インバータ21から供給される直流電力を交流電力に変換した上で走行用モータジェネレータ4に入力する。並びに、駆動機インバータ41は、車両の回生制動を行うときに走行用モータジェネレータ4が発電する交流電力を直流電力に変換した上で蓄電装置3または発電機インバータ21に入力する。
【0021】
発電機インバータ21及び駆動機インバータ41は、PCU(Power Control Unit)の一部をなす。
【0022】
蓄電装置3は、バッテリ及び/またはキャパシタ等である。蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々が発電する電力を充電して蓄える。並びに、蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々を電動機として作動させるための電力を放電し、それらモータジェネレータ2、4に必要な電力を供給する。
【0023】
内燃機関1には、車両の制動時に必要となる操作力、即ちブレーキペダルの踏力を軽減するためのブレーキブースタ(図示せず)が付帯している。ブレーキブースタは、内燃機関1の吸気通路におけるスロットルバルブの下流側の部位から吸気負圧を導き入れ、その負圧を用いてブレーキペダルの踏力を倍力する、この分野では広く知られているものである。ブレーキブースタは、負圧を蓄える定圧室と、大気圧が加わる変圧室とを有し、定圧室が負圧管路を介して吸気通路に接続している。負圧管路は、スロットルバルブの下流側の吸気負圧を定圧室へと導く。負圧管路上には、負圧を定圧室内に留め、定圧室に正圧が加わることを防止するためのチェックバルブを設けてある。
【0024】
運転者によりブレーキペダルが操作されていないとき、定圧室と変圧室とが連通し、かつ変圧室が大気圧から隔絶される。ブレーキペダルが操作されると、定圧室と変圧室との間が遮断され、かつ変圧室に大気が導入される。結果、定圧室と変圧室との圧力差が、ブレーキペダルの踏力を倍力する制御圧力となる。ブレーキブースタにより増幅されたブレーキ踏力は、マスタシリンダにおいて液圧力に変換される。マスタシリンダが出力するマスタシリンダ圧、即ちマスタシリンダが吐出するブレーキ液の圧力は、液圧回路を介して例えばブレーキキャリパ67、69やホイールシリンダ68、60等といったブレーキ装置に伝達され、当該ブレーキ装置67、68、69、60による車両の制動に用いられる。
【0025】
図2に、本実施形態における車両のブレーキアクチュエータの液圧回路を示す。マスタシリンダ圧は、ブレーキアクチュエータの入力ライン601、602に入力される。入力ライン601、602は、二系統存在する。第一の系統の入力ライン601は、車両の右前輪及び左後輪に付帯するブレーキ装置67、68に接続しており、これらブレーキ装置67、68に液圧力を供給する。第二の系統の入力ライン602は、車両の左前輪及び右後輪に付帯するブレーキ装置69、60に接続しており、これらブレーキ装置69、60に液圧力を供給する。
【0026】
ブレーキ装置67、68、69、60は、例えば、ディスクブレーキにおいて車輪とともに回転するディスクの両面にパッドを押し付けて制動力を発生させるためのブレーキキャリパ67、69であったり、ドラムブレーキにおいて車輪とともに回転するドラムの内面にシューを押し付けて制動力を発生させるためのホイールシリンダ68、60であったりする。
【0027】
各系統の入力ライン601、602とブレーキ装置67、68、69、60とを繋ぐ液圧回路上には、マスタシリンダカットソレノイドバルブ61、62を配置している。第一の系統の回路上に存在する第一のマスタシリンダカットソレノイドバルブ61は、閉止することにより、同系統に接続しているブレーキ装置である右前輪ブレーキキャリパ67及び左後輪ホイールシリンダ68に供給された液圧力を維持する役割を担う。第二の系統の回路上に存在する第二のマスタシリンダカットソレノイドバルブ62は、閉止することにより、同系統に接続しているブレーキ装置である左前輪ブレーキキャリパ69及び右後輪ホイールシリンダ60に供給された液圧力を維持する役割を担う。
【0028】
加えて、液圧回路上には、ABS(Antilock Brake System)を構成するための保持ソレノイドバルブ63及び減圧ソレノイドバルブ64をも配置してある。これらバルブ63、64の開放/閉止を組み合わせることにより、各ブレーキ装置67、68、69、60に供給される液圧力を調節し、ブレーキ装置67、68、69、60が発揮する制動力の大きさを増減させることが可能である。通常は、保持ソレノイドバルブ63を開放し減圧ソレノイドバルブ64を閉止することで増圧しているが、保持ソレノイドバルブ63を閉止し減圧ソレノイドバルブ64を開放することで減圧を実現できる。リザーバ65は、減圧時にブレーキ装置67、68、69、60から流入するブレーキ液を一時蓄える。電動ポンプ66は、リザーバ65に蓄えられたブレーキ液を吸い込んで吐出し圧送、還流させる。保持ソレノイドバルブ63及び減圧ソレノイドバルブ64の両方を閉止すれば、各ブレーキ装置67、68、69、60に供給された液圧力を保持することもできる。
【0029】
内燃機関1、発電用モータジェネレータ2、蓄電装置3、インバータ21、41、走行用モータジェネレータ4及びブレーキ装置67、68、69、60の制御を司る制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。ECU0は、複数基のECU(例えば、内燃機関1、モータジェネレータ2、4、蓄電装置3、ブレーキ装置67、68、69、60等を個別に制御する各コントローラ)がCAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものであることがある。
【0030】
ECU0は、センサを介してセンシングしている運転者によるアクセルペダルの踏込量や、現在の車両の車速、路面の勾配、蓄電装置3の蓄電量、発電用モータジェネレータ2の発電電力等に応じて、走行用モータジェネレータ4が出力する回転駆動力、内燃機関1が出力する回転駆動力、及び発電用モータジェネレータ2が発電する電力の大きさを増減制御する。蓄電装置3が現在充分な電荷を蓄えており、走行用モータジェネレータ4に要求される出力駆動力が極大でない場合には、内燃機関1への燃料の供給を遮断して内燃機関1を運転しない。
【0031】
蓄電装置3が現在蓄えている電荷の量が所定量を下回っている場合、または走行用モータジェネレータ4に要求される出力駆動力が極大である場合には、内燃機関1を始動するとともに内燃機関1に燃料を供給してこれを燃焼させ、内燃機関1の出力する回転駆動力を以て発電量モータジェネレータ2を駆動し、発電を実施して蓄電装置3を充電し、または走行モータジェネレータ4に供給する電力を増強する。
【0032】
内燃機関1の気筒に燃料を供給して内燃機関1を運転しておらず、走行用モータジェネレータ4により駆動輪72を駆動して車両を走行させている最中に、内燃機関1を始動しようとするとき、発電用モータジェネレータ2が内燃機関1の始動のためのモータリングを行う。
【0033】
内燃機関1の始動のためのモータリングは、内燃機関1が燃料を燃焼させて自立的に回転できるようになるまで続行する。より具体的には、センシングしている内燃機関1のクランクシャフトの回転速度が始動に必要な最低限度の閾値以上に高まり、かつモータリングの開始から内燃機関1のクランクシャフトが所定回数以上または所定角度以上回転した時点で、モータリングを終了する。クランクシャフトが所定回数以上または所定角度以上回転した、という条件は、内燃機関1の各気筒の現在の行程またはピストンの位置を知得する気筒判別が完了した、と置き換えてもよい。各気筒の行程に合わせて適切なタイミングで燃料を噴射し、また適切なタイミングで燃料を着火燃焼させるためには、各気筒の現在の行程を知る必要がある。気筒判別は、クランクシャフトが所定角度(例えば、10°CA)回転する都度パルス信号を発するクランク角センサと、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトが所定角度(カムシャフトの一回転を気筒数で割った角度。三気筒エンジンであれば、120°(240°CA))回転する都度パルス信号を発するカム角センサとを用いて行う。気筒判別の手法は周知であるので、ここではその説明を割愛するが、クランク角信号及びカム角信号を参照した気筒判別を完了するためには、停止していた内燃機関1のクランクシャフトが二回転程度回転する必要がある。モータリングの開始から終了までの所要時間の長さは、蓄電装置3が故障していなければコンマ数秒以下である。
【0034】
内燃機関1の始動が完了し、内燃機関1のモータリングを終了して以降は、発電用モータジェネレータ2への電力供給を0まで低下させる。
【0035】
車両の運転者がアクセルペダルから足を離し、またはブレーキペダルを踏んだことに呼応して回生制動を実施しようとする際、発電機として動作する走行用モータジェネレータ4が発電する電力(または、電圧若しくは電流)の大きさは、変更が可能である。
図3に、回生制動時の車両の車速及びその減速度と、走行用モータジェネレータ4の発電電力の大きさとの関係を示している。
図3中、実線は発電電力が最も小さいモード、破線は発電電力が中程度のモード、一点鎖線は発電電力が最も大きいモードを表す。図示例のように、回生制動時の走行用モータジェネレータ4の発電電力が大きいほど、車両の減速度は大きくなる。
【0036】
運転者は、例えばシフトレバー(セレクトレバー)またはスイッチを操作することで、上掲のモードのうちの何れかを手動で選択することができる。本実施形態のECU0は、当該シフトレバー等を介して運転者が選択したモードを知得し、そのモードに合致するように回生制動時の走行用モータジェネレータ4の発電電力の大きさを制御する。これにより、運転者の好みに合致した車両の減速度を実現できる。
【0037】
一方、運転者がブレーキペダルを踏めば、車輪に付帯する液圧式のブレーキ装置67、68、69、60により車両を制動することができる。だが、ブレーキ装置67、68、69、60が過剰に使用されると、摩擦熱によりブレーキ液が過熱されて沸騰し、液圧回路内に多量の気泡が生じるベーパロックが起こる。さすれば、ブレーキペダルを踏み込んでも十分な液圧力をブレーキ装置67、68、69、60に印加することができなくなって、ブレーキ装置67、68、69、60の制動性能が悪化する。
【0038】
そこで、本実施形態のECU0は、
図4に示すように、ベーパロックのようなブレーキ装置67、68、69、60による正常な制動が困難となる事象が生じたことを感知した場合に(ステップS1)、走行用モータジェネレータ4が発電する回生制動により発揮する制動力を徐々に増大させ(ステップS2)、かつアクセルペダルのみの操作により加速、減速及び制動が可能なワンペダル操作モードに自動的に移行する(ステップS3)。また、それと相前後して、ブレーキ装置67、68、69、60が正常に働かないことを運転者の視覚または聴覚に訴えかける態様にて報知、警告する(ステップS4)。
【0039】
ステップS1では、例えば、センサを介してセンシングしている、現在のブレーキペダルの踏込量またはマスタシリンダ圧と、ブレーキ装置67、68、69、60に印加されている液圧力とを基に、ベーパロック等の事象が生じているか否かを判断する。ブレーキペダルが踏まれており、またはマスタシリンダ圧が所定以上の高圧であるにもかかわらず、ブレーキ装置67、68、69、60に印加される液圧力が閾値を下回って小さいならば、ベーパロック等の事象が生じているということになる。
【0040】
あるいは、センサを介してセンシングしている、現在のブレーキペダルの踏込量またはマスタシリンダ圧と、車速の減速度とを基に、ベーパロック等の事象が生じているか否かを判断することもできる。ブレーキペダルが踏まれており、またはマスタシリンダ圧が所定以上の高圧であるにもかかわらず、車速の減速度が閾値を下回って小さいならば、ベーパロック等の事象が生じているということになる。
【0041】
ステップS2では、回生制動時に走行用モータジェネレータ4が発電する電力の大きさを、運転者の意思によらず自動で、発電電力が最も小さいモードまたは中程度のモードから、発電電力が最も大きいモードへと遷移させる。このとき、前者のモードから後者のモードに発電電力をステップ的に急増させるのではなく、後者のモードに向かって発電電力を徐々に増大させることで、走行用モータジェネレータ4が発揮する制動力を徐々に増大させ、車両を徐々に減速させる。
【0042】
ステップS3では、運転者がアクセルペダルを踏んだ、またはブレーキペダルから足を離したことを契機として、運転者の意思によらず自動で、ワンペダル操作モードへと移行する。ワンペダル操作モードは、ブレーキペダルの踏込量如何によらず、アクセルペダルの踏込量のみを以て、車両の加速、減速及び制動を実行するモードである。運転者によるアクセルペダルの踏込量がある境界値よりも大きいときには、その踏込量が大きいほど運転者の要求する車両の加速度が大きいと判断し、その加速度を達成できるよう走行用モータジェネレータ4の出力する駆動力を増大させる。
【0043】
翻って、運転者によるアクセルペダルの踏込量が境界値よりも小さいときには、踏込量が小さいほど運転者の要求する車両の減速度が大きいと判断し、その減速度を達成できるよう走行用モータジェネレータ4の回生による発電電力を増大させる。発電電力が最も大きいモードでは、運転者がアクセルペダルから足を離したとき、即ちアクセルペダルの踏込量が0または0に近い極小値となったときに、車両が殆どまたは完全に停車できる程度まで、走行用モータジェネレータ4が発揮する制動力が大きくなる。
【0044】
ステップS4では、例えば、運転席のコックピットに設けた警告ランプを点灯または点滅させたり、ディスプレイの画面に警告を表示したり、ブザーその他の警告音を出力したりする。
【0045】
本実施形態では、運転者がアクセルペダルから足を離している場合に発電機4により発電して車輪72を制動する回生制動を行うことが可能であり、その際に発電機4が発電する電力の大きさを変更できるものであって、車輪72に付帯するブレーキ装置67、68、69、60に正常な制動が困難となる事象が生じたとき、発電機4が発電する回生制動により発揮する制動力を徐々に増大させ、かつアクセルペダルのみの操作により加速、減速及び制動が可能なワンペダル操作モードに自動的に移行する車両の制御装置0を構成した。
【0046】
本実施形態によれば、ブレーキ装置67、68、69、60に正常な制動が困難となる事象が生じたときにも、車両を安全に減速ないし停車させることができるフェイルセーフが実現される。ベーパロック等が発生すると、ブレーキペダルを踏み込んでも車両を停車させることができず、運転者が冷静さを失うおそれがあるが、ワンペダル操作モードに移行することで、運転者がアクセルペダルを踏んでいない限り車両の制動を行うようになり、危険を回避できる。しかも、その際、回生制動を実行する発電機4の発電電力を徐々に増大させ、制動力を徐々に増強するように制御するので、車両が急停車するように減速度が急激に高まることがない。
【0047】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。特に、本発明の適用対象は、発電機により発電して車輪を制動する回生制動を行うことが可能な車両であればよく、シリーズ方式のハイブリッド車両には限定されない。
【0048】
その他、各部の具体的な構成や処理の内容は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、回生制動を行うための電動機が搭載されている車両の制御に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
0…制御装置(ECU)
1…内燃機関
3…蓄電装置
4…発電機(走行用モータジェネレータ)
67、68、69、60…ブレーキ装置