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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】車両制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/182 20200101AFI20221114BHJP
   B60W 40/105 20120101ALI20221114BHJP
   B60W 50/10 20120101ALI20221114BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20221114BHJP
【FI】
B60W30/182
B60W40/105
B60W50/10
B60W50/14
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018225426
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020083262
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】土屋 大樹
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-309961(JP,A)
【文献】特開2007-196808(JP,A)
【文献】特開2017-097518(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199575(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/199839(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/168738(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00 ~ 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行制御を自動的に行う自動運転と運転者の操作により前記車両を走行させる手動運転とを切り替える車両制御システムであって、
前記車両の自動運転中に手動運転への切替要求がなされたとき、アクセル及びステアリングの少なくとも一方に対する自動運転と手動運転の制御割合を、経時的に自動運転の制御割合が小さく、手動運転の制御割合が大きくなるように変化させる制御割合変更部を備え、
前記制御割合は、前記切替要求がなされたときの車速に応じて変化される
車両制御システム。
【請求項2】
運転者の状態を検知するための運転者状態検知部と、
前記運転者状態検知部で検知した運転者の情報に基づき、手動運転を行うのに適切か否かを判断する運転者状態判定部と、をさらに備え、
自動運転が困難である状況において、
前記運転者状態判定部で手動運転を行うのに適していないと判断された場合、運転者に自動運転が継続できないことを警告し、
前記運転者状態判定部で手動運転を行うのに適していると判断された場合、前記制御割合変更部により、前記制御割合を、経時的に自動運転の制御割合が小さく、手動運転の制御割合が大きくなるように変化させる、請求項1に記載の車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動運転から手動運転へ円滑に切り替えを行うための車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動運転システムにより自動的に車両の走行制御を行う技術が開発されている。自動運転による車両の走行中、手動運転への切り替えが必要となることがある。例えば、カメラやミリ波レーダなど自動運転の実行に必要な機器が荒天や故障により十分に機能しなくなった場合や、運転者自身が手動運転への切替要求をした場合などである。手動運転への切替後、運転者は自身の操作により安定して運転を継続できる必要がある。
【0003】
ところが、車両の制御が自動運転から手動運転に一気に切り替わると、車両の走行状態が不安定になることがある。自動運転時、車両の制御は自動運転システムが行うため、運転者は周囲の状況の認識や車両の状態の把握が欠けていたり低下している虞がある上、運転感覚が鈍っているからである。例えば、どの程度ハンドルを操舵すればどの程度車両の向きが変わるかや、どの程度アクセルやブレーキのペダルを操作すればどの程度車速が変化するかの判断は、自動運転から手動運転への切替直後に的確に行うことは難しい。
【0004】
特許文献1は、自動運転から手動運転に切り替える前に、運転者が実際のハンドル、アクセル、ブレーキ等を操作して、運転シミュレータ手段が再現した模擬走行コース上を疑似的に走行することを行う技術を開示している。この運転シミュレーションを行って運転者が運転感覚を取り戻してから手動運転への切替を行うことで、手動運転への切替後に車両の走行状態が不安定になることを防止できるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-83517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、運転シミュレータ手段を用いた車両の制御は、複雑なシステムが必要な上、コスト高の要因となる。このようなシミュレータ手段を用いることなく、より簡易な構成で自動運転から手動運転への切替直後に安定した走行状態で手動運転できる技術が求められている。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、自動運転から手動運転に切り替えた際に車両の走行状態が不安定になることを抑制できる車両制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様に係る車両制御システムは、車両の走行制御を自動的に行う自動運転と運転者の操作により前記車両を走行させる手動運転とを切り替える車両制御システムであって、前記車両の自動運転中に手動運転への切替要求がなされたとき、アクセル及びステアリングの少なくとも一方に対する自動運転と手動運転の制御割合を、経時的に自動運転の制御割合が小さく、手動運転の制御割合が大きくなるように変化させる制御割合変更部を備え、前記制御割合は車速に応じて変化される。
【0009】
本発明の第二の態様に係る車両制御システムは、車両の走行制御を自動的に行う自動運転と運転者の操作により前記車両を走行させる手動運転とを切り替える車両制御システムであって、前記車両の自動運転中に手動運転への切替要求がなされたとき、アクセル及びステアリングの少なくとも一方の応答ゲインを一時的に所定の割合に低下させてから復帰させる応答ゲイン制御部を備え、前記応答ゲインの低下割合は車速に応じて変化される。
【発明の効果】
【0010】
上記の車両制御システムは、自動運転から手動運転に切り替えわる過渡期に、アクセル及びステアリングの少なくとも一方に対する自動運転と手動運転の制御割合を、経時的に自動運転の制御割合が小さくなるようにしたり、アクセル及びステアリングの少なくとも一方の応答ゲインを一時的に所定の割合にまで低下させる。そのため、自動運転から手動運転への過渡期において、運転感覚が十分に戻っていない運転者であっても、徐々に手動運転への切り替えを促すことができると共に、運転者の操作により車両が急激な不測の挙動をすることを抑制して、安定した手動運転への移行を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る車両制御システムの機能ブロック図である。
図2】実施形態に係る車両制御システムにおける自動運転と手動運転の制御割合の変化例を示す説明図である。
図3】実施形態に係る車両制御システムにおけるアクセルの応答ゲインの変化例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態1]
実施形態に係る車両制御システムの詳細を図面を参照して説明する。以下の説明において、自動運転とは、車両が走行経路に沿って自動で走行することをいう。例えば、自動運転には、運転者が運転操作をすることなく、予め設定された目的地に向かって自動で車両を走行させることが含まれる。但し、必ずしも車両の全ての制御を自動で行う必要はなく、運転者が運転操作の主体とならない走行であれば、自動運転に含まれる。例えば、アダクティブクルーズコントロールやレーンキープアシストなどによる走行も自動運転に該当する。手動運転とは、運転者が運転操作の主体となって車両を走行させることをいう。
【0013】
(概要)
車両制御システム1は、図1に示すように、ECU100(Electronic Control Unit)、ナビゲーションシステム20、車外情報検知部30、運転者状態検知部40、車速センサ50、操作系及びMMI600(Man-Machine Interface)を備えている。ECU100は、車両の制御を行う電子制御ユニットであり、CPU、ROM、RAMを含むコンピュータを主体として構成されている。ECU100は、切替制御部110、運転者状態判定部120、駆動源制御部130、ステアリング制御部140、及びブレーキ制御部150を備える。ECU100により、自動運転の制御は勿論、自動運転と手動運転との切替が行われる。ECU100は、ナビゲーションシステム20、車外情報検知部30、運転者状態検知部40、車速センサ50、エンジンなどの駆動源200、操作系及びMMI600に接続されて、各部との信号の入出力や各部の制御を行う。操作系には、アクセル300、ステアリング400、及びブレーキ500が含まれる。本実施形態に係る車両制御システム1の特徴の一つは、EUC100の切替制御部110が制御割合変更部112又は応答ゲイン制御部114を有することにある。制御割合変更部112は、アクセル300及びステアリング400の少なくとも一方に対する自動運転と手動運転の制御割合を、経時的に自動運転の制御割合が小さく、手動運転の制御割合が大きくなるように変化させる。この制御割合は車速に応じて変化される。応答ゲイン制御部114は、自動運転中に手動運転への切替要求がなされたとき、アクセル300及びステアリング400の少なくとも一方の応答ゲインを一時的に所定の割合にまで低下させてから復帰させる。さらに、その応答ゲインの低下割合は車速に応じて変化される。以下、各部の構成を順に説明する。
【0014】
(ナビゲーションシステム)
ナビゲーションシステム(GPS:Global Positioning System)20は、運転者によって設定された目的地までの走行経路を運転者に案内する。GPS20は、車両の現在地を把握する測位部22と、地図情報24とを備える。測位部22は、例えば、複数のGPS衛星からの信号を受信することにより、車両の現在地の情報を演算する。地図情報24は、例えば、道路の位置情報、道路の種別情報、道路形状の情報等が含まれる。この地図情報24は、通信によって外部から取得したものでもよいし、車載のデータベースに予め格納されたものでもよい。
【0015】
GPS20は、測位部22の求めた車両の現在地情報と地図情報24とに基づいて、車両の走行する道路及び車線を認識する。GPS20は、車両の現在地から目的地に至るまでの経路を演算し、ディスプレイでの表示と音声案内により運転者に走行経路を案内する。車両の現在地情報、車両の走行する道路や車線の情報、及び車両の走行経路の情報はECU100へ送信される。
【0016】
(車外情報検知部)
車外情報検知部30は、車両の周囲の状況を検知する。車外情報検知部30の具体的としては、カメラ、レーザレーダ、ミリ波レーダ、超音波レーダなどの機器が挙げられる。これらの機器は、異種の機器を組み合わせても良いし、同種の機器を複数用いても良い。例えば、複数台のカメラとミリ波レーダとを組み合わせる構成としても良い。これらの車外情報検知部30は、少なくとも車両の前方と後方とに設けられ、前方と後方の双方の周囲の情報を取得する。車外情報検知部30により、車両の周囲に存在する他の車両、歩行者、障害物、車線を示す白線など、自車両の自動走行に必要な情報を検知する。車外情報検知部30の検知信号は、ECU100に出力される。
【0017】
(運転者状態検知部)
運転者状態検知部40は、運転者の状態を検知するためのセンサである。このセンサには、例えば、運転者を撮像するカメラが用いられる。カメラによる検知結果は、運転者の状態を撮像した画像情報として検知することができる。特に、運転者の視線の動きを検出するカメラが好適に利用できる。その他、運転者状態検知部40としては、運転者の心拍情報又は脳波情報を検知するウェアラブルセンサが利用できる。具体例としては、運転者の指に装着するリング型、運転者の手首に装着するリストバンド型、運転者の頭部に装着するメガネ型又はヘッドバンド型などのウェアラブルセンサが挙げられる。運転者状態検知部40の検知信号は、ECU100に出力される。
【0018】
(ステアリング)
ステアリング400は、例えばステアリングホイール、反力アクチュエータ、転舵アクチュエータ、操舵角センサ、操舵トルクセンサ、及び転舵角センサを備える。ステアリングホイールは、運転席に設けられて、手動運転時に運転者により操舵される。反力アクチュエータは、ステアリングホイールに操舵反力を付与する。操舵反力は転舵輪からステアリングホイールに作用するトルクの大きさに応じて決定される。転舵アクチュエータは転舵輪を転舵するためのトルクを出力する。操舵角センサは、ステアリングホイールの操舵角を検知する。操舵トルクセンサは、ステアリングホイールの操舵トルクを検知する。転舵角センサは、転舵輪の転舵角を検出する。各センサの検知信号はECU100に出力される。
【0019】
(アクセル)
アクセル300は、アクセルペダルと、アクセルペダルセンサと、アクセル用アクチュエータとを備える。アクセルペダルは、運転席の床面に設けられ、手動運転時に運転者に踏まれることで操作される。アクセルペダルセンサは、アクセルペダルの位置、即ちアクセルペダルの踏込み量を検知する。手動運転時、例えば駆動源200がエンジンであれば、アクセルペダルの踏み込み量に応じてスロットル開度が制御される。アクセル用アクチュエータは、アクセルペダルに踏み込み力を付与する。アクセルペダルセンサの検知信号はECU100に出力される。
【0020】
(ブレーキ)
ブレーキ500は、ブレーキペダル、ブレーキペダルセンサ、ブレーキ用アクチュエータ、マスターシリンダ、及びブレーキ本体を備える。ブレーキペダルは、運転席の床面に設けられ、手動運転時に運転者に踏まれることで操作される。ブレーキペダルセンサは、ブレーキペダルの位置、即ちブレーキペダルの踏込み量を検知する。マスターシリンダは、液圧ブレーキシステムにおいて、ブレーキペダルの踏力を液圧に変換して、ブレーキ本体のピストンやホイールシリンダにブレーキ液を圧送する。ブレーキ本体は、ピストン又はホイールシリンダと、ブレーキパッドと、ディスク又はドラムとを含む。ブレーキ用アクチュエータは、ブレーキペダルに踏み込み力を付与する。ブレーキペダルセンサの検知信号はECU100に出力される。
【0021】
(車速センサ)
車速センサ50は、車両の走行速度を検知するセンサである。車速センサ50には、例えば、車輪速センサが用いられる。車速センサ50の検知信号はECU100に出力される。
【0022】
(MMI)
MMI600は、運転者と車両制御システム1との間で情報の入出力を行うインターフェイスである。MMI600の具体例としては、画像情報を出力するディスプレイ、音声情報を出力するためのスピーカ、運転者が入力操作を行うための操作ボタン又はタッチパネル、運転者の音声入力システム等が挙げられる。MMI600は運転者の操作に応じた信号をECU100へ出力する。
【0023】
その他、本例の車両制御システム1は、運転モードの切替スイッチ610を備える。切替スイッチ610は、運転者の操作により、自動走行制御を行う自動運転モードと運転者による手動運転を行う手動運転モードとを切り替えるためのスイッチである。切替スイッチ610は、例えば運転席に設けられており、必要に応じて操作することで、自動運転から手動運転に切り替えたり、手動運転から自動運転に切り替えたりできる。本例の切替スイッチ610は、上記MMI600のタッチパネルに設けている。
【0024】
(切替制御部)
切替制御部110は、切替要求である所定のトリガに基づいて、自動運転と手動運転とを切替のための所定の処理を行い、所定のタイミングで自動運転と手動運転とを切り替える制御を行う。所定のトリガには、運転者が切替スイッチ610を操作したことや、アクセル300、ステアリング400又はブレーキ500を運転者が一定量以上操作したことの他、荒天や故障などにより自動運転を行うために必要な機器(車外情報検知部30など)が正常に動作しないことが挙げられる。
【0025】
所定の処理は、自動運転から手動運転へと徐々に切り替えるための処理である。この切替を行うため、制御割合変更部112又は応答ゲイン制御部114が利用される。両者の具体的な利用状況は後述する。
【0026】
〈制御割合変更部〉
制御割合変更部112は、経時的に自動運転の制御割合が小さく、手動運転の制御割合が大きくなるように自動運転と手動運転の制御割合を変化させる。この制御割合は車速に応じて変化される。例えば、車速が速いほど自動運転の制御割合が高く、車速が遅いほど手動運転の操作割合が高くなるように制御割合が変化される。自動運転と手動運転の制御割合とは、全面的に自動運転を行っている場合の操作系(アクセル300及びステアリング400の少なくとも一方)の動作量に対して、一部を自動運転による制御で操作系の動作量を実行し、残部を手動運転による操作系の動作量で補完する場合において、自動運転の制御による操作系の動作量の実行割合と手動運転による操作系の動作量の補完割合との比率である。例えば、全面的な自動運転では、自動運転で設定される目標速度に対応したスロット開度が10である場合、アクセルペダルの踏み込み量に関わらず自動運転の制御によりスロット開度が10とされるのであれば、自動運転:手動運転の制御割合は10:0である。これに対し、自動運転で設定される目標速度に対応したスロットル開度が10である場合、自動運転の制御によりスロット開度を8とし、手動運転により補完されるスロット開度が2であれば、自動運転:手動運転の制御割合は8:2である。つまり、自動運転で設定される目標速度に対応したスロットル開度が10である場合、自動運転の制御によるスロット開度が8で、手動運転により補完されるスロット開度が2であれば、車速は目標速度となる。一方、自動運転の制御によるスロット開度が8で、手動運転により補完されるスロット開度が1であれば、自動運転と手動運転とを併用した制御によるスロットル開度は10に満たないため、目標速度よりも車速が低下することになる。逆に、スロットル開度が2を超えるアクセルの踏み込み量を運転者が操作しても、目標速度の範囲内でしか車速は増加しない。上記の制御割合の変化は、段階的な変化であっても連続的な変化であってもよい。この制御割合を経時的に自動運転の制御割合が小さく、手動運転の制御割合が大きくなるように変化させると、最終的に自動運転:手動運転の制御割合は0:10となり、全面的な手動運転への切替が可能になる。なお、上記制御割合の変化と同等の機能を実現するには、次述する応答ゲインの変更を用いて行ってもよい。
【0027】
〈応答ゲイン制御部〉
一方、応答ゲイン制御部114は、アクセル300及びステアリング400の少なくとも一方の応答ゲインを一時的に所定の割合に低下させてから復帰させる。アクセル300は、その踏み込み量に応じてスロットルの開度が決定される。ステアリング400も、その操舵角や操舵トルクに応じて、転舵輪の転舵量が決定される。このアクセル300の踏み込み量に対するスロットルの開度やステアリング400の操舵角(操舵トルク)に対する転舵輪(車輪の一部)の転舵量が応答ゲインである。通常、アクセル300やステアリング400の一定の操作量に対しては、スロットルの開度や転舵輪の転舵量といった動作量は特定値となるように操作量と動作量の関係が決められている。応答ゲイン制御部114では、切替制御部110に上記トリガが入力されたら、上記操作量と動作量との関係である応答ゲインを所定の値に低下させてスロットル開度や転舵輪の転舵量を調整する。その際、応答ゲインの低下割合は車速に応じて変化される。例えば、車速が速いほど、応答ゲインの低下割合を大きくし、逆に車速が遅いほど、応答ゲインの低下割合を小さくすればよい。つまり、車速が速いほど操作系の動作量が小さく、車速が遅いほど操作系の動作量が大きくなる。車速が速いほど応答ゲインを大きく低下させて、一時的に車速が低下してでも運転者が操作し易い車速にて手動運転を開始できるようにするためである。低下された応答ゲインは、所定の低下状態から、初期の値に復帰される。応答ゲインが復帰されることで、自動運転から手動運転への完全な切替が可能になる。応答ゲインが復帰される際の変化は、段階的な変化であっても連続的な変化であってもよい。この復帰に伴う応答ゲインの単位時間当たりの変化量は、例えば車速が早いほど単位時間当たりの変化量を小さくし、車速が遅いほど単位時間当たりの変化量を大きくすればよい。車速に対応した応答ゲインの低下割合や初期の値に復帰させる際の変化量は、例えば演算テーブルや演算式を用いて求めればよい。
【0028】
所定のタイミングは、上記トリガが切替制御部110に入力されてから、所定の処理が行われ、自動運転:手動運転の制御割合が0:10となった後、又は応答ゲインが初期の値に復帰された後である。例えば、上記トリガの入力から一連の処理に必要な時間を想定して、トリガの入力から一定時間経過後又は一定距離走行後に手動運転への切替を行う。その他、後述するように、上記トリガが切替制御部110に入力されてから、運転者状態検知部40で検知した運転者の状態に基づき、運転者状態判定部120で手動運転を行うのに適切であると判断された後、応答ゲインの低下と復帰を経てから手動運転への切替を行っても良い。
【0029】
運転者状態判定部120は、運転者状態検知部40で検知した運転者の情報に基づき、手動運転を行うのに適切か否かを判断する。例えば、運転者状態検知部40であるカメラで撮像した運転者の画像から、所定の単位時間内における視点の移動範囲を求める。この視点の移動範囲が閾値よりも広ければ、手動運転に適していると判断し、閾値よりも狭ければ、手動運転に適していないと判断する。一般に、運転者自身により手動運転を行っている場合、走行経路の曲がり状態や前方の障害物或いは後続車の接近状況などを把握するため、ルームミラーやサイドミラーを含む広範囲に亘って視点の移動が頻繁に行われる。そのため、所定の単位時間内での視点の移動範囲が広ければ、手動運転に適していると考えられるからである。逆に、この視点の移動範囲が狭ければ、車外の景色や同乗者など特定の狭い領域を注視している状況にあると推定され、手動運転に適していないと判断する。運転者状態判定部120による判定の結果、手動運転に適していると判断されると、手動運転への切替のための処理が開始される。手動運転に適していないと判断されると、図示しない警報部により、運転者に手動運転に切り替えできないこと又は自動運転が継続できないことを警告する。この警告は、警報音や自動音声の他、ディスプレイにおける表示などで行われる。この警告は、運転者状態判定部120により自動運転を行うのに適していると判断されるまで繰り返し行う。
【0030】
(駆動源制御部)
駆動源制御部130は、車両の駆動源200の動作を制御する電子制御ユニットである。例えば、駆動源200がエンジンの場合、駆動源制御部130は、エンジンに対する燃料の供給量及び空気の供給量をコントロールすることで車両の駆動力を制御する。空気の供給量は、スロットル開度を変えることで調整する。車両がハイブリッド車又は電気自動車である場合、駆動源制御部130は、駆動源200となるモータの制御を行うモータ制御部として機能する。駆動源制御部130は、ECU100からの制御信号に応じて車両の駆動力を制御する。本例では、自動運転時、目標設定速度に応じたスロットル開度が得られるようにスロットル開度を調整するが、エンジンのスロットル開度に合わせてアクセル用アクチュエータによりアクセルペダルの踏み込み量を変化させることはしない。手動運転時、アクセルペダルセンサによりアクセル300の踏み込み量が検知されると共に、アクセル用アクチュエータを制御することで、アクセルペダルに踏み込み力を付与する。
【0031】
(ステアリング制御部)
ステアリング制御部140は、車両のステアリング400を制御する電子制御ユニットである。ステアリング制御部140は、操舵角センサ、操舵トルクセンサ、及び転舵角センサの検知結果に応じて、反力アクチュエータ、転舵アクチュエータを駆動して転舵輪の転舵を行う。ステアリング制御部140は、ECU100からの制御信号に応じて操舵トルクを制御する。本例では、自動運転時、転舵アクチュエータを駆動して転舵輪の転舵を行うが、転舵輪の転舵角に合わせて反力アクチュエータによりステアリングホイールを回転することはしない。手動運転時、反力アクチュエータによりステアリングホイールに操舵力を付与して、運転者が操舵感を感じることができるようにしている。
【0032】
(ブレーキ制御部)
ブレーキ制御部150は、車両のブレーキ500の動作を制御する電子制御ユニットである。例えば、ブレーキ制御部150は、液圧ブレーキシステムに付与する液圧を調整することで、車両の車輪へ付与する制動力をコントロールする。ブレーキ制御部150は、ECU100からの制御信号に応じて車輪への制動力を制御する。本例では、自動運転時、目標車速に応じた車速を実現できるよう、ブレーキペダルを変位させることなく液圧ブレーキシステムに付与する液圧を調整するが、この液圧の変化(ブレーキ本体の動作)に合わせてブレーキ用アクチュエータによりブレーキペダルの踏み込み量を変化させることはしない。手動運転時、ブレーキペダルセンサによりブレーキ500の踏み込み量が検知されると共に、ブレーキ用アクチュエータを制御することで、ブレーキペダルに踏み込み力を付与する。
【0033】
(自動運転から手動運転への切替)
自動運転から手動運転への切替は、次の各部の動作により、以下の手順により行われる。
【0034】
自動運転時、上記車両制御システム1は、GPS20、車外情報検知部30及び車速センサ50から受け取った情報に基づいて、目的地までの走行経路や交通状況、交通規制などの道路状況、他車両や障害物の有無などの走行環境の情報と共に、自車両の位置や速度といった自車両の情報を取得する。これらの情報に基づいて、走行経路に沿って走行するための目標舵角や目標車速を設定し、車両が自動的に走行するように舵角や車速を制御する。自車両前方に先行車両が存在する場合には、運転者が予め設定した上限速度を超えない範囲で、先行車両との車間距離を車速に応じて適切に保つような目標車速を設定する。一方、先行車両が存在しない場合には、設定した上限速度を保つように目標車速を設定する。
【0035】
〈意図的な切替〉
ここで、運転者の切替スイッチ610の操作などにより、意図的に自動運転から手動運転への切替が選択されたときの切替手順を図2を参照して説明する。図2の横軸に示す経過時間は相対的な単位時間で、図2の縦軸は各種パラメータの相対的な動作量である。ここでは、主にアクセル300とスロットル開度との関係について説明を行う。図2に示すように、時間t0までは自動運転により、目標速度に対応したスロットル開度とされると共に、運転者のアクセルペダルの踏み込み量及び変位角は0%である。時間t0で切替スイッチ610によるトリガが切替制御部110に入力されると、アクセル用アクチュエータでアクセルペダルに補助踏力を付与して、そのときのスロットルの開度に対応したアクセルペダルの変位角とする。時間t1で補助踏力及びアクセルペダルの変位角がスロットルの開度に対応したアクセルペダルの補助踏力及び変位角となる値に到達している。但し、時間t1までは運転者によるアクセルペダルの踏み込みが行われていない。ステアリング400も同様に反力アクチュエータにより補助トルクを付与して、そのときの転舵輪の目標転舵角に対応したステアリングホイールの操舵角とする。以下の説明もアクセル300とスロットル開度との関係について行い、ステアリングホイールの操舵角と転舵輪の転舵角との関係については説明を省略する。
【0036】
次に、制御割合変更部112により、自動運転と手動運転との制御割合を徐々に変化させる。この制御割合の変化は、車速に応じて自動運転の制御割合が低下するように行う。例えば、車速が時速100kmであるときには、自動運転と手動運転の制御割合を自動:手動=8:2とし、時速60kmのときには、自動:手動=5:5としたりして、その後上記制御割合を変化させ、最終的に自動:手動=0:10となるようにする。この制御割合の変化の仕方は、適宜設定することができる。目標速度が時速100kmの場合、図2の時間t1において、スロットルの開度は目標速度に応じた開度とされ、そのスロットル開度に対応した補助踏力を100%とする。この補助踏力はアクセル用アクチュエータでアクセルペダルに付与される。その後、例えば、補助踏力を順次80%、60%、40%、20%、0%と低下させる。補助踏力の低下分は運転者自身がアクセルペダルを踏み込むことで補い、車速を目標速度に到達させるようにする。つまり、補助踏力の低下に伴って、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量が増加する。一方、目標速度が時速60kmの場合、例えば、補助踏力を順次50%、30%、0%と低下させる。つまり、手動運転の制御割合は、車速に応じて異なる段階的な変化を伴って増加することになる。以上の例では自動運転と手動運転の制御割合を段階的に変化させたが、連続的に変化させるようにしても良い。例えば、車速が速い場合は、緩やかに自動運転の制御割合を低下させると共に手動運転の制御割合を増加させ、車速が遅い場合は、より急峻に自動運転の制御割合を低下させると共に手動運転の制御割合を増加させればよい。
【0037】
自動運転と手動運転の制御割合が自動:手動=0:10となれば、自動運転から手動運転への完全な切替が可能となる。図2のグラフでは、時刻t2で補助踏力がゼロになり、目標速度に対応したスロットル開度は、運転者のアクセルペダルの踏み込み量のみにより実現されている。よって、時間t2以降に手動運転に切替が可能となる。簡易的には、例えば、上記トリガが入力されてから上記制御割合が自動:手動=0:10となるまでの一連の処理に必要な時間又は走行距離を予め設定しておき、トリガが入力されてから所定時間経過後又は所定の距離を走行後に手動運転への切替を完了するようにすることが挙げられる。
【0038】
〈意図しない切替〉
次に、荒天などにより、自動運転を行うために必要な機器(車外情報検知部30など)が正常に動作しないため不可避的に自動運転から手動運転への切替が行われるときの切替手順を説明する。この場合、自動運転が困難であるため、目標速度に対応したスロットル開度としたり、転舵輪の目標転舵角に応じた動作を行うことができない。そのため、以下の処理を経て速やかに手動運転に切り替える。
【0039】
まず、運転者状態検知部40で検知した運転者の状態に基づき、運転者状態判定部120で手動運転を行うのに適切か否かを判断する。例えば、カメラで撮像した運転者の画像から、所定時間内における視点の移動範囲を求める。この視点の移動範囲が閾値よりも広ければ、手動運転に適していると判断し、閾値よりも狭ければ、手動運転に適していないと判断する。
【0040】
手動運転に適していないと判断された場合、運転者に自動運転が継続できないことを警告する。運転者状態判定部120により手動運転の適否の判断を手動運転を行うのに適していると判断されるまで繰り返し行う。
【0041】
運転者状態判定部120による最初の判断又は上記警告後の判断により手動運転に適していると判断されたら、応答ゲイン制御部114により、アクセル300及びステアリング400の応答ゲインを低下させる。以下の説明ではアクセル300の踏み込み量とスロットル開度との関係について説明を行い、ステアリングホイールの操舵角と転舵輪の転舵角との関係については説明を省略する。図3のグラフに実線で示すように、手動運転を行う場合、例えばアクセル300の踏み込み量とスロットルの開度とは一定の相関関係にある。一方、自動運転から手動運転への過渡期には、図3のグラフに破線で示すように、アクセル300の踏み込み量に対するスロットルの開度の相関関係を低下させる。例えば、通常時、あるアクセル300の踏み込み量が10の場合にスロットルの開度が10であれば、自動運転から手動運転への過渡期には、アクセルペダルの踏み込み量が10の場合にスロットルの開度を10未満、例えば9や8にする。この応答ゲインの低下割合は、車速に応じて変化させる。どんな車速の場合にどの程度応答ゲインを低下させるかは適宜選択できる。例えば、車速が時速100kmのときには、図3の一点鎖線のグラフのように応答ゲインを大きく低下させ、車速が時速60kmであるときには、図3の破線のグラフに示すように、実線で示す通常時よりは低いが、一点鎖線で示す車速が時速100kmのときの応答ゲインよりは大きくする。つまり、車速が速いほど、応答ゲインの低下割合を大きくする。自動運転が継続困難となって手動運転に切り替わったとしても、上記応答ゲインの低下により、運転者のアクセルペダルの踏み込み量に対して、通常よりは小さいスロットル開度しか得られない。特に、車速が速いほど応答ゲインの低下割合が大きい。その結果、応答ゲインの低下に伴い、通常のアクセルペダルの踏み込み量とスロットル開度に対応した車速に比べて車速は低下するが、車速が速いほど車速を大きく低下させ易く、自動運転から手動運転への切替直後において、より運転者が適応しやすい車速で手動運転を行うことができる。
【0042】
この応答ゲインの低下は、一時的なものでよく、所定時間の経過や所定距離の走行後に、通常の応答ゲインに復帰させればよい。一定時間の経過や所定距離の走行に伴い、運転者の手動運転に対する運転感覚が戻るためである。
【0043】
(作用効果)
上記の実施形態に係る車両制御システム1は、以下の効果を奏することができる。
【0044】
(1)車両制御システム1は、自動運転から手動運転に切り替わる過渡期に、アクセル300及びステアリング400の少なくとも一方に対する自動運転と手動運転の制御割合を、経時的に自動運転の制御割合が小さくなるようにしたり、アクセル300及びステアリング400の少なくとも一方の応答ゲインを一時的に所定の割合にまで低下させる。そのため、自動運転から手動運転への過渡期において、自動運転時のアクセルペダルやステアリングホイールの位置に対して、運転者が過不足のある操作を加えて手動運転を行うことが抑制される。また、車両制御システム1は、シミュレーション手段を用いる必要がなく、簡易な構成にて円滑な自動運転への切り替えをを行うことができる。
【0045】
(2)自動運転と手動運転の制御割合を経時的に変化させる場合、徐々に自動運転から手動運転に切り替えられる。そのため、手動運転への切替の過渡期及び切替直後において、安定した走行を実現できる。
【0046】
(3)応答ゲインを低下させる場合、一時的に低下された応答ゲインは後に初期のレベルに復帰されることで、その復帰により手動運転への完全な移行を行うことができる。
【0047】
(4)自動運転と手動運転の制御割合又は操作系の応答ゲインを車速に応じて変化させることで、自動運転時の車速に応じてより適切な自動運転の制御割合の低下や応答ゲインの低下を行うことができる。それにより、手動運転に切り替わる直後に安定した走行性を実現できる。
【0048】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0049】
上記実施形態では、不可避的な切替の場合においてのみ運転者状態判定部で手動運転を行うのに適切か否かの判断を行ったが、意図的な切替においても運転者状態判定部での判断を行っても良い。意図的な切替では、運転者の操作により手動運転へ切り替えるためのトリガが出力されるが、さらに運転者状態判定部での判断を併用することで、より安全な手動運転への切替が可能になる。
【符号の説明】
【0050】
1 車両制御システム
20 ナビゲーションシステム(GPS)
22 測位部
24 地図情報
30 車外情報検知部
40 運転者状態検知部
50 車速センサ
100 ECU
110 切替制御部
112 制御割合変更部
114 応答ゲイン制御部
120 運転者状態判定部
130 駆動源制御部
140 ステアリング制御部
150 ブレーキ制御部
200 駆動源
300 アクセル
400 ステアリング
500 ブレーキ
600 MMI
610 切替スイッチ
図1
図2
図3