(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】列車制御システム
(51)【国際特許分類】
B60L 15/40 20060101AFI20221114BHJP
B61L 3/12 20060101ALI20221114BHJP
B61L 23/14 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
B60L15/40 G
B61L3/12 Z
B61L23/14 Z
(21)【出願番号】P 2021044753
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2021-11-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 森田隼史、内田敏博、細川公孝、青柳孝彦及び藤田浩由が、第57回鉄道サイバネ・シンポジウム論文集の論文番号516(公開日:2020年(令和2年)11月1日)にて、田中和宏及び森田隼史が発明した列車制御システムを含む「ATS-DKをベースとした自動列車運転装置の開発」について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 森田隼史が、第57回鉄道サイバネ・シンポジウム(公開日:2020年(令和2年)11月5日)にて、田中和宏及び森田隼史が発明した列車制御システムを含む「ATS-DKをベースとした自動列車運転装置の開発」について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 交通新聞社が、交通新聞の2021年(令和3年)2月25日付け第2面にて、田中和宏及び森田隼史が発明した列車制御システムを含む「ATSベース 自動列車運転システム」について公開した。
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(72)【発明者】
【氏名】森田 隼史
(72)【発明者】
【氏名】田中 和広
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-066988(JP,A)
【文献】特開2013-005588(JP,A)
【文献】特開2003-034250(JP,A)
【文献】特開平03-098406(JP,A)
【文献】特開2010-58675(JP,A)
【文献】特開2006-56293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/40
B61L 3/12
B61L 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗務員による走行開始操作に基づく走行開始から
最初の地上子の位置情報を取得するまでは所定速度以下の低速で列車を走行させ、
前記最初の地上子の位置情報の取得によって速度照査パターンが設定されて前記速度照査パターン上の速度を超えない範囲で前記列車の加減速制御を行う
一方、前記最初の地上子から即時停止情報を受信すると前記列車を直ちに停止させる、列車制御システム。
【請求項2】
前記列車が走行を開始してから所定距離走行するまでの間に地上子の位置情報が取得されない場合には前記列車を停止させるように構成され、
前記所定距離は、走行開始前の列車停止位置と、前記列車の走行方向において前記列車停止位置の先にあり且つ前記列車停止位置に最も近い地上子との距離よりも大きく設定されている、
請求項1に記載の列車制御システム。
【請求項3】
前記
最初の地上子は、駅における列車停止位置より出口側に設置されて信号現示情報又は即時停止情報を選択的に発信する地上子である、請求項1又は2に記載の列車制御システム。
【請求項4】
列車走行路の互いに異なる位置に設置された複数の地上子と、
前記列車走行路を走行する列車に搭載された車上装置と、
を含み、
前記車上装置は、
乗務員による走行開始操作に基づく走行開始から
最初の地上子の位置情報を取得するまでは所定速度以下の低速で前記列車を走行させ、前記
最初の地上子の位置情報を取得すると取得された前記
最初の地上子の位置情報に基づいて速度照査パターンを発生させ、前記速度照査パターン上の速度を超えない範囲で前記列車の加減速制御を行う
一方、前記最初の地上子から即時停止情報を受信すると前記列車を直ちに停止させるように構成されている、
列車制御システム。
【請求項5】
前記車上装置は、取得された前記地上子の位置情報に基づいて自動列車停止機能のための速度照査パターン及び前記列車の自動運転のための速度照査パターンを発生させ、前記列車の自動運転のための速度照査パターンに追随するように前記列車を加速させ及び減速させる一方、前記列車の速度が前記自動列車停止機能のための速度照査パターン上の対応速度を超えた場合に前記列車を停止させるように構成されている、
請求項4に記載の列車制御システム。
【請求項6】
前記車上装置は、前記列車を加速状態から惰行状態を経て減速状態に切り替える、請求項5に記載の列車制御システム。
【請求項7】
前記車上装置は、前記列車が走行を開始してから所定距離走行するまでの間に地上子の位置情報を取得しない場合には前記列車を停止させるように構成され、
前記所定距離は、走行開始前の列車停止位置と、前記列車の走行方向において前記列車停止位置の先にあり且つ前記列車停止位置に最も近い地上子との距離よりも大きく設定されている、
請求項4~6のいずれか一つに記載の列車制御システム。
【請求項8】
前記最初の地上子は、駅における列車停止位置よりも駅の出口側に設置されて信号現示情報又は即時停止情報を選択的に発信する地上子
である、請求項4~7のいずれか一つの記載の列車制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車の自動運転を可能とする列車制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の列車の自動運転は、主に自動列車制御装置(以下「ATC装置」という)と自動列車運転装置(以下「ATO装置」という)との組み合わせによって実現されている(特許文献1等参照)。ATC装置は、列車の速度が先行列車との間隔や進路の条件などに応じて決定される制限速度を超えると自動的にブレーキを作動させると共に前記制限速度を下回ると自動的にブレーキを緩める装置であり、前記制限速度などのATC情報が線路(軌道回路)を利用して地上から車上へと送信される。また、ATO装置は、あらかじめ設定された運転パターンに従って列車の加速制御やブレーキ制御(減速制御)などを行う装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
列車の自動運転は、これまで主に人が容易に線路内に立ち入ることのできない路線を中心に行われてきたが、近年、それ以外の一般的な路線への導入も検討され始めている。しかし、上述のように、従来の列車の自動運転は、ATC装置とATO装置との組み合わせによって実現されているところ、既存の路線の中にはATC装置が設備されていない路線が多数存在する。そのため、列車の自動運転を導入するためには導入対象となる路線に前記ATC装置を設備する必要があり、多大な導入コストがかかるという課題がある。
【0005】
そこで、本発明は、列車の自動運転を可能とし且つ従来に比べて導入コストを低減することのできる列車制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によると、列車制御システムが提供される。前記列車制御システムは、乗務員による走行開始操作に基づく走行開始から最初の地上子の位置情報を取得するまでは所定速度以下の低速で列車を走行させ、前記最初の地上子の位置情報の取得によって速度照査パターンが設定されて前記速度照査パターン上の速度を超えない範囲で前記列車の加減速制御を行う一方、前記最初の地上子から即時停止情報を受信すると前記列車を直ちに停止させる。
【0007】
本発明の他の側面によると、列車走行路の互いに異なる位置に設置された複数の地上子と、前記列車走行路を走行する列車に搭載された車上装置とを含む列車制御システムが提供される。前記列車制御システムにおいて、前記車上装置は、乗務員による走行開始操作に基づく走行開始から最初の地上子の位置情報を取得するまでは所定速度以下の低速で前記列車を走行させ、前記最初の地上子の位置情報を取得すると取得された前記最初の地上子の位置情報に基づいて速度照査パターンを発生させ、前記速度照査パターン上の速度を超えない範囲で前記列車の加減速制御を行う一方、前記最初の地上子から即時停止情報を受信すると前記列車を直ちに停止させるように構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、列車の自動運転を可能とし且つ従来に比べて導入コストを低減することのできる列車制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る列車制御システムの概略構成を示す図である。
【
図2】前記列車制御システムにおける列車の走行制御の概要を示す図である。
【
図3】前記列車制御システムにおける列車の走行制御の概要を示す図である。
【
図4】前記列車制御システムにおける列車の走行制御の概要を示す図である。
【
図5】前記列車制御システムにおける列車の走行制御の概要を示す図である。
【
図6】前記列車制御システムにおける列車の走行制御の概要を示す図である。
【
図7】前記列車制御システムにおける列車の走行制御の概要を示す図である。
【
図8】前記列車制御システムにおける列車の走行制御の概要を示す図である。
【
図9】前記列車制御システムにおける列車の走行制御の概要を示す図である。
【
図10】前記列車制御システムにおける列車の走行制御の概要を示す図である。
【
図11】前記列車制御システムにおける列車の走行制御の概要を示す図である。
【
図12】前記列車制御システムにおける列車の走行制御の概要を示す図である。
【
図13】前記列車制御システムにおける列車の走行制御の概要を示す図である。
【
図14】前記列車制御システムにおける列車の走行制御の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本発明の概要を説明する。既述のように、従来の列車の自動運転は、ATC装置とATO装置との組み合わせによって実現されている場合が多い。また、既存の路線の中にはATC装置が設備されていない路線が多数存在する。このため、既存の路線に列車の自動運転を導入するためには導入対象となる路線にATC装置を新たに設備しなければならず、多大な導入コストがかかる。
【0011】
他方、ATC装置が設備されていない既存の路線には、自動列車停止装置(以下「ATS装置」という)がすでに設備されている場合が多い。ATS装置は、ATC装置と同様に列車保安装置の一つである。ATS装置は、列車の運転士が運転操作を誤ったときなどに列車の非常ブレーキ(常用最大ブレーキが非常ブレーキとして機能する場合には常用最大ブレーキを含む。以下同じ。)を作動させる装置であり、停止位置までの距離などのATS情報が地上子を利用して地上から車上へと送信される。
【0012】
したがって、ATC装置とATO装置との組み合わせではなく、ATS装置とATO装置との組み合わせによって列車の自動運転のためのシステムを実現すれば、換言すれば、地上子を利用した地上-車上間通信をベースとした列車の自動運転を実現できれば、既存の路線に列車の自動運転を導入する際のコスト(すなわち、導入コスト)を従来に比べて大幅に低減することが可能である。
【0013】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、ATS装置を利用して、換言すれば、地上子を利用する地上-車上間通信をベースとした列車の自動運転を可能とするように構成された列車制御システムを提供する。
【0014】
ここで、本発明による列車制御システムは、ATS装置を利用していればよく、ATS装置に加えてさらなる列車保安装置等を利用することを妨げるものではない。また、本発明における「列車」とは、あらかじめ定められた走行路(列車走行路)走行する各種の車両のことをいい、レール上を鉄輪で走行する車両(鉄道車両)はもちろん、専用軌道上をゴムタイヤ等で走行する車両をも含む。また、「列車走行路」には、複数の停車駅(以下単に「駅」という)が設けられているものとする。
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る列車制御システムについて説明する。
【0016】
図1は、実施形態に係る列車制御システムの概略構成を示す図である。
図1に示されるように、実施形態に係る列車制御システム1において、複数の駅(
図1にはそのうちの1つの駅Sのみが示されている)を経由する列車走行路Rには、地上側設備として複数の地上子が設置されており、列車走行路Rを走行する列車Tには、車上側設備として車上子11、速度発電機12、車上データベース13及び車上装置14が搭載されている。
【0017】
[地上側設備]
前記地上側設備としての複数の地上子は、列車走行路R上の互いに異なる位置に設置されている。前記複数の地上子のそれぞれは、自身の上方を通過する列車Tの車上子11に対して自身の識別情報(以下「地上子ID」という)や各種の情報などを地上子情報として発信するように構成されている。本実施形態において、前記複数の地上子は、各駅(ここでは駅S)における列車停止位置(以下「駅停止位置」という)Xに列車Tを停止させるために利用される2つの定位置停止制御地上子21、22と、各駅(ここでは駅S)の出口側に設置された出発信号機30に連動する4つの地上子31~34と、各駅(ここでは駅S)の入口側に設置された場内信号機40に連動する4つの地上子41~44とを含む。
【0018】
2つの定位置停止制御地上子21、22は、駅Sに向かう列車Tから見て、駅Sの駅停止位置Xの手前に設置されている。なお、以下では、2つの定位置停止制御地上子21、22のうち、駅Sの駅停止位置Xから離れている方の地上子21を「第1TASC地上子21」といい、駅Sの駅停止位置Xに近い方の地上子22を「第2TASC地上子22」という。
【0019】
第1TASC地上子21は、駅Sに向かう列車Tから見て駅Sの手前であって、駅Sに近い位置に設置されている。第2TASC地上子22は、駅S内において駅停止位置Xの手前数十メートル(例えば30m)の位置に設置されている。第1TASC地上子21及び第2TASC地上子22は、自身の地上子ID及び駅Sの駅停止位置Xまでの距離情報を地上子情報として発信する。
【0020】
出発信号機30に連動する4つの地上子31~34は、出発信号機30に向かう列車Tから見て出発信号機30の手前に設置されている。なお、以下では、出発信号機30に連動する4つの地上子31~34のうち、最も手前に設置された地上子31を「第1ロング地上子31」といい、残りの3つの地上子32~34を「第1直下地上子32」、「第1冒進防護地上子33」及び「第1予備直下地上子34」という。
【0021】
第1ロング地上子31は、出発信号機30から最も離れた位置に設置されている。第1ロング地上子31は、列車Tの車上子11に対して出発信号機30の現示情報を最初に発信する地上子である。第1ロング地上子31は、駅Sに向かう列車Tから見て第1TASC地上子21よりも手前に設置されている。第1ロング地上子31は、出発信号機30が進行現示の場合、自身の地上子ID及び出発信号機30が進行現示であることを示す情報(以下「出発信号機30の進行現示情報」という)を地上子情報として発信する。また、第1ロング地上子31は、出発信号機30が停止現示の場合、自身の地上子ID及び出発信号機30が停止現示であることを示す情報(以下「出発信号機30の停止現示情報」という)を地上子情報として発信する。
【0022】
第1直下地上子32、第1冒進防護地上子33及び第1予備直下地上子34は、駅Sにおける駅停止位置Xと出発信号機30との間に、列車Tの走行方向にこの順序で設置されている。
【0023】
第1直下地上子32は、駅Sにおける駅停止位置Xに近い位置に設置されている。第1直下地上子32は、出発信号機30が進行現示の場合、自身の地上子ID及び出発信号機30の進行現示情報を地上子情報として発信する。また、第1直下地上子32は、出発信号機30が停止現示の場合、自身の地上子ID及び列車Tに非常ブレーキを作動させる即時停止情報を地上子情報として発信する。
【0024】
第1冒進防護地上子33は、第1直下地上子32の内方、すなわち、第1直下地上子32よりも出発信号機30に近い位置に設置され、第1予備直下地上子34は、第1冒進防護地上子33の内方、すなわち、第1冒進防護地上子33よりもさらに出発信号機30に近い位置(出発信号機30の直前)に設置されている。第1冒進防護地上子33は、例えば第1直下地上子32の内方で停止した列車Tが誤発進(誤出発)した場合に列車Tが停止現示の出発信号機30を超えて進むこと(すなわち、出発信号機30を冒進すること)を防止するために設けられている。また、第1予備直下地上子34は、主に出発信号機30が進行現示から停止現示に変化した場合にそのことをできるだけ出発信号機30の近くで列車T側に報知して列車Tに非常ブレーキをかけさせる(列車Tを直ちに停止させる)ために設けられている。
【0025】
本実施形態において、第1冒進防護地上子33は、出発信号機30が進行現示の場合には出発信号機30の進行現示情報を地上子情報として発信し、出発信号機30が停止現示の場合には前記即時停止情報を地上子情報として発信する。また、第1予備直下地上子34は、第1直下地上子32と同様、出発信号機30が進行現示の場合には自身の地上子ID及び出発信号機30の進行現示情報を地上子情報として発信し、出発信号機30が停止現示の場合には自身の地上子ID及び前記即時停止情報を地上子情報として発信する。
【0026】
場内信号機40に連動する4つの地上子41~44は、場内信号機40に向かう列車Tから見て場内信号機40の手前に設置されている。なお、以下では、場内信号機40に連動する4つの地上子41~44のうち、最も手前に設置された地上子41を「第2ロング地上子41」といい、残りの3つの地上子42~44を「第2直下地上子42」、「第2冒進防護地上子43」及び「第2予備直下地上子44」という。
【0027】
第2ロング地上子41は、場内信号機40から最も離れた位置に設置されている。第2ロング地上子41は、列車Tの車上子11に対して場内信号機40の現示情報を最初に発信する地上子である。第2ロング地上子41は、場内信号機40の手前数百メートル(例えば600m)の位置に設置されている。第2ロング地上子41は、場内信号機40が進行現示の場合、自身の地上子ID及び場内信号機40が進行現示であることを示す情報(以下「場内信号機40の進行現示情報」という)を地上子情報として発信する。また、第2ロング地上子41は、場内信号機40が停止現示の場合、自身の地上子ID及び場内信号機40が停止現示であることを示す情報(以下「場内信号機40の停止現示情報」という)を地上子情報として発信する。
【0028】
第2直下地上子42、第2冒進防護地上子43及び第2予備直下地上子44は、場内信号機40が停止現示のときに列車Tを停止させる列車停止位置(以下「信号停止位置」という)Yと場内信号機40との間に、列車Tの走行方向にこの順序で設置されている。本実施形態において、信号停止位置Yは、場内信号機40の手前数十メートル(例えば80m)の位置に設定される。
【0029】
第2直下地上子42は、信号停止位置Yに近い位置に設置されている。第2直下地上子42は、場内信号機40が進行現示の場合、自身の地上子ID及び場内信号機40の進行現示情報を地上子情報として発信する。また、第2直下地上子42は、場内信号機40が停止現示の場合、自身の地上子ID及び前記即時停止情報を地上子情報として発信する。
【0030】
第2冒進防護地上子43は、第2直下地上子42の内方、すなわち、第2直下地上子42よりも場内信号機40に近い位置に設置され、第2予備直下地上子44は、第2冒進防護地上子43の内方、すなわち、第2冒進防護地上子43よりもさらに場内信号機40に近い位置(場内信号機40の直前)に設置されている。第2冒進防護地上子43は、例えば第2直下地上子42の内方で停止した列車Tが誤発進した場合に列車Tが停止現示の場内信号機40を超えて進むこと(すなわち、場内信号機40を冒進すること)を防止するために設けられている。第2予備直下地上子44は、主に場内信号機40が進行現示から停止現示に変化した場合にそのことをできるだけ場内信号機40の近くで列車T側に報知して列車Tに非常ブレーキをかけさせる(列車Tを直ちに停止させる)ために設けられている。
【0031】
本実施形態において、第2冒進防護地上子43は、場内信号機40が進行現示の場合には場内信号機40の進行現示情報を地上子情報として発信し、場内信号機40が停止現示の場合には前記即時停止情報を地上子情報として発信する。また、第2予備直下地上子44は、第2直下地上子42と同様、場内信号機40が進行現示の場合には自身の地上子ID及び場内信号機40の進行現示情報を地上子情報として発信し、場内信号機40が停止現示の場合には自身の地上子ID及び前記即時停止情報を地上子情報として発信する。
【0032】
[車上側設備]
車上子11は、列車Tの下部(好ましくは前側下部)に取り付けられている。車上子11は、列車Tが列車走行路Rに設置された各地上子の上方を通過する際に各地上子から発信された地上子情報を受信する。車上子11によって受信された地上子情報は、車上装置14に送られる。
【0033】
速度発電機12は、列車Tの車軸に取り付けられている。速度発電機12は、車軸の回転数に応じた信号を出力する。速度発電機12の出力信号は、車上装置14に送られる。
【0034】
車上データベース13には、列車走行路に関する情報や地上子に関する情報が格納されている。前記列車走行路に関する情報は、列車走行路Rにおける最高速度情報(線区最高速度や駅間最高速度)、信号機に関する情報及び列車走行路Rにおける速度制限区間に関する情報(速度制限区間の位置、長さ及び制限速度など)を含む。前記速度制限区間は、分岐器による分岐器速度制限区間及び曲線部による曲線速度制限区間を含む。前記地上子に関する情報は、列車走行路Rに設置された各地上子の位置情報(例えば地上子IDと対応付けられた位置情報)を含む。
【0035】
車上装置14は、速度発電機12の出力信号に基づいて列車Tの速度を検出すると共に速度発電機12の出力信号と地上子の位置情報とに基づいて列車Tの走行距離(位置)を検出するように構成されている。また、車上装置14は、自動列車停止(ATS)装置としての機能と自動列車運転(ATO)装置としての機能とを有している。そして、本実施形態において、車上装置14は、列車Tの走行を自動的に制御し、及び/又は、列車Tの乗務員の操作に基づいて列車Tの走行を制御するように構成されている。以下、車上装置14が行う列車Tの走行制御について説明する。
【0036】
[駅出発及び再発進]
列車Tが駅Sの駅停止位置Xに停止しているとき、出発信号機30が進行現示になり且つ列車Tの乗務員が所定の走行開始操作を行うと、車上装置14は、列車Tの常用ブレーキを解除すると共に列車Tの駆動装置(例えば電動機)を作動させて列車Tを駅Sの駅停止位置Xから出発させる(駅出発)。また、車上装置14は、例えば列車Tが信号停止位置Yで停止しているときに場内信号機40が進行現示になり且つ列車Tの乗務員が所定の走行開始操作を行うと、列車Tの常用ブレーキを解除すると共に列車Tの駆動装置を作動させて列車Tを発進させる(再発進)。つまり、車上装置14は、列車Tの乗務員による走行開始操作に基づいて列車Tの走行を開始させるように構成されている。但し、これに限られるものではない。列車Tの乗務員が前記所定の走行開始操作を行うことに加えて及び/又は代えて、前記所定の走行開始操作が専用のネットワークなどを介して遠隔で行われるように構成されてもよい。例えば、列車Tに無線機などが前記車上側設備として搭載されている場合、車上装置14は、無線送信された走行開始指令を前記無線機などによって受信して列車Tの走行を開始させるようにしてもよい。
【0037】
[駅間走行]
車上装置14は、列車Tを駅Sから出発させると列車Tを所定速度(例えば15km/h)以下の低速で走行させる。同様に、車上装置14は、駅間で停止した列車Tを発進させると(すなわち、列車Tを再発進させると)列車Tを前記所定速度以下の低速で走行させる。つまり、車上装置14は、走行開始直後においては前記所定速度以下の低速で列車Tを走行させるように構成されている。
【0038】
また、車上装置14は、列車Tが走行を開始してから第1所定距離走行しても車上子11を介して地上子から地上子情報を受信しない場合、すなわち、地上子の位置情報を取得しない場合には、列車Tを停止させる。そして、車上装置14は、列車Tの自動的な走行制御(列車Tの自動運転)を不可とする。なお、前記第1所定距離は、列車停止位置(例えば駅停止位置Xや信号停止位置Y)と、列車Tの走行方向において前記列車停止位置の先にある且つ前記列車停止位置に最も近い地上子(例えば第1直下地上子32や第2直下地上子42)との距離よりも大きく設定される。
【0039】
他方、車上装置14は、列車Tが走行を開始してから前記第1所定距離走行するまでの間に車上子11を介して地上子から地上子情報を受信して当該地上子の位置情報を取得すると、速度照査パターンを発生させ、前記速度照査パターン上の対応速度を超えない範囲で列車Tを加減速制御するように構成されている。
【0040】
具体的には、本実施形態において、車上装置14は、列車走行路Rに関する情報及び取得された地上子の位置情報に基づいて、自動列車停止機能のための速度照査パターン(以下「ATS速度照査パターン」という)を発生させると共に、列車Tの自動運転のための速度照査パターン(以下「ATO速度照査パターン」という)を発生させる。
【0041】
本実施形態において、前記ATS速度照査パターンは、列車走行路Rにおける対応区間の最高速度情報に基づく最高速度パターンと、前記速度制限区間に対する速度制限パターンと、列車Tから見て一つ先の信号機に対する信号機冒進防護パターンとを含む。なお、前記一つ先の信号機に対する信号機冒進防護パターンは、前記一つ先の信号機が停止現示のときに列車Tを前記一つ先の信号機の手前(直前)で停止させることができるように列車Tを減速させるパターンである。
【0042】
また、前記ATO速度照査パターンは、例えばパターン上の各速度が前記ATS速度照査パターン上の対応速度よりも一定速度(例えば10~15km/h)だけ低い速度に設定されたパターン又は前記ATS速度照査パターンを列車Tの走行方向とは逆方向に第2所定距離(例えば50~100m)だけシフトさせたパターンであり得る。本実施形態において、前記ATO速度照査パターンは、前記最高速度パターンに対応する運転速度パターンと、前記速度制限パターンに対応する速度制限区間用速度パターンと、前記信号機冒進防護パターンに対応する信号機停止パターンとを含む。なお、前記ATO速度照査パターンは、列車Tの自動運転パターンと称される場合もある。
【0043】
そして、車上装置14は、地上子の位置情報に基づいて前記ATS速度照査パターン及び前記ATO速度照査パターンを発生させると、前記ATO速度照査パターンに追随するように列車Tの加減速制御を行うように構成されている。具体的には、本実施形態において、車上装置14は、前記ATO速度照査パターンのうち、列車Tの位置に応じてそのときの列車Tにとってパターン上の速度が最も低いパターンを選択し、前記選択されたパターンに追随するように列車Tの加減速制御を行う。換言すれば、車上装置14は、列車Tの速度と前記選択されたパターンとに基づき、前記選択されたパターン上の速度に近い速度で列車Tを走行させるように、列車Tを加速させたり、減速させたりするように構成されている。
【0044】
但し、列車Tが加速状態からいきなり減速状態に切り替わると、列車Tの乗り心地の低下を招くおそれがある。そのため、車上装置14は、列車Tを加速状態からいきなり減速状態に切り替えるのではなく、可能な限り、それら間で列車Tを惰行させる(惰行状態とする)ようにしている。したがって、本実施形態における列車Tの加減速制御には、列車Tを惰行させることが含まれ得る。
【0045】
なお、車上装置14は、列車Tの速度が前記ATS速度照査パターン上の対応速度を超えた場合、非常ブレーキ(又は常用最大ブレーキ)を作動させて列車Tを停止させる。
【0046】
ここで、前記ATS速度照査パターンとしての信号機冒進防護パターンに関し、車上装置14は、前記一つ先の信号機に対する信号機冒進防護パターンを発生させた後に車上子11を介して前記一つ先の信号機に連動する地上子から前記一つ先の信号機の停止現示情報を受信した場合には前記一つ先の信号機に対する信号機冒進防護パターンを維持する。他方、車上装置14は、車上子11を介して前記一つ先の信号機に連動する地上子から前記一つ先の信号機の進行現示情報を受信した場合には、前記一つ先の信号機に対する信号機冒進防護パターン及びこれに対応する信号機停止パターンを消去し、もう一つ先の信号機に対する信号機冒進防護パターン及びこれに対応する信号機停止パターン(新たな信号機冒進防護パターン及び新たな信号機停止パターン)を発生させる。つまり、車上装置14が信号機に連動する地上子から信号機の進行現示情報を受信すると、前記信号機冒進防護パターン(前記ATS速度照査パターン)及び前記信号機停止パターン(前記ATO速度照査パターン)が更新されるようになっている。
【0047】
[駅停車]
本実施形態において、車上装置14は、列車Tが駅Sに接近して車上子11を介して第1TASC地上子21から駅Sの駅停止位置Xまでの距離情報を受信すると、列車Tを駅Sの駅停止位置Xに停止させるための駅停車パターンを発生させ、発生させた駅停車パターンに追随するように列車Tを減速させて列車Tを駅停止位置Xに停止させる。
【0048】
次に、
図2~
図14を参照して列車TがA駅を出発してからB駅に到着するまでの間に列車制御システム1(主に車上装置14)が行う列車Tの走行制御の概要を説明する。なお、ここでは、列車走行路RにおけるA駅とB駅との間に分岐器速度制限区間及び曲線速度制限区間が列車Tの走行方向にこの順序で設けられているものとする。また、
図2~
図14において、破線は前記ATS速度照査パターンを示しており、実線は前記ATO速度照査パターンを示しており、二重線は列車Tの走行軌跡(速度及び位置)を示している。さらに、
図2~
図14において、前記地上側設備に関し、A駅に関連する設備については符号の末尾に「A」が付加されており、B駅に関連する設備については符号の末尾に「B」が付加されている。
【0049】
図2は、列車TがA駅の駅停止位置XAから出発した直後の様子を示している。A駅の出発信号機30Aが進行現示となり且つ列車Tの乗務員が前記所定の走行開始操作を行うと、車上装置14は、列車TをA駅の駅停止位置XAから出発させる。車上装置14は、列車Tを出発させると、列車Tを前記所定速度の近傍まで加速させ、その後、列車Tを惰行させる(
図2の二重線を参照)。これにより、車上装置14は、列車Tが駅を出発した直後(すなわち、列車Tの走行開始直後)においては前記所定速度以下の低速で列車Tを走行させる。
【0050】
本実施形態において、車上装置14は、列車Tの駆動装置の出力を互いに異なる出力に設定する複数の力行ノッチのいずれかを選択することによって列車Tの駆動装置の出力を調整可能に構成されている。そして、車上装置14は、列車TをA駅の駅停止位置XAから出発させると所定の力行ノッチを選択することで列車Tを加速させ、列車Tの速度が前記所定速度の近傍の速度に到達すると力行ノッチをオフにして列車Tを惰行させる。
【0051】
なお、A駅の出発信号機30Aが進行現示であるので、第1直下地上子32A、第1冒進防護地上子33A及び第1予備直下地上子34Aは前記即時停止情報を発信しない。したがって、列車Tは、第1直下地上子32Aの上方、第1冒進防護地上子33Aの上方及び第1予備直下地上子34Aの上方を通過することになる。
【0052】
図3は、A駅の駅停止位置XAを出発した列車TがA駅の出発信号機30Aに連動する第1直下地上子32Aの上方に到達したときの様子を示している。列車Tが第1直下地上子32Aの上方に到達すると、車上装置14は、車上子11を介して第1直下地上子32Aから第1直下地上子32Aの地上子ID及び出発信号機30の進行現示情報を受信する。すると、車上装置14は、車上データベース13にアクセスし、前記地上子に関する情報を参照して第1直下地上子32Aの位置情報を取得する。これにより、車上装置14は、自身が搭載されている列車Tの位置を把握し、その後は、把握された列車Tの位置及び速度発電機12の出力信号に基づいて列車Tの位置を検出する。
【0053】
また、車上装置14は、自身が搭載されている列車Tの位置を把握すると、前記列車走行路に関する情報を参照し、列車Tの位置に応じた前記ATS速度照査パターンを発生させる。具体的には、本実施形態において、車上装置14は、列車走行路Rにおける対応区間(ここではA駅-B駅間)の最高速度情報に基づく最高速度パターンと、分岐器速度制限区間に対する分岐器速度制限パターンと、曲線速度制限区間に対する曲線速度制限パターンと、一つ先の信号機であるB駅の場内信号機40Bに対する信号機冒進防護パターン(以下「第1信号機冒進防護パターン」という)とを前記ATS速度照査パターンとして発生させる(
図3の破線を参照)。
【0054】
さらに、車上装置14は、パターン上の各速度が前記最高速度パターン上の対応速度よりも前記一定速度だけ低い速度に設定された運転速度パターンと、パターン上の各速度が前記分岐器速度制限パターン上の対応速度よりも前記一定速度だけ低い速度に設定された前記分岐器速度制限区間用の速度パターン(以下単に「分岐器速度パターン」という)と、パターン上の各速度が前記曲線速度制限パターン上の対応速度よりも前記一定速度だけ低い速度に設定された前記曲線速度制限区間用の速度パターン(以下単に「曲線速度パターン」という)と、前記第1信号機冒進防護パターンを列車Tの走行方向とは逆方向に前記所定距離だけシフトさせた第1信号機停止パターンとを前記ATO速度照査パターンとして発生させる(
図2の実線を参照)。なお、前記第1信号機停止パターンは、列車TをB駅の場内信号機40Bの手前数十メートル(例えば80m)の位置に設定された信号停止位置YBで停止させるように形成されたパターンである。
【0055】
図4は、第1直下地上子32Aの上方を通過した列車Tが前記分岐器速度制限区間に進入する直前まで走行したときの様子を示している。本実施形態において、第1直下地上子32Aの上方を通過した列車Tにとっては前記ATO速度照査パターンのうち前記分岐器速度パターン上の速度が最も低い。そのため、車上装置14は、前記分岐器速度パターンに追随するように、列車Tの速度と前記分岐器速度パターンとに基づき、列車Tを加速させ、惰行させ、及び、減速させる。
【0056】
具体的には、本実施形態において、第1直下地上子32Aの上方を通過した直後の列車Tの速度は、前記分岐器速度パターン上の対応速度に比べてかなり低い。そのため、車上装置14は、前記複数の力行ノッチのそれぞれが選択された場合における第1所定時間後の列車Tの速度及び列車Tの走行距離(位置)を予測(算出)し、予測(算出)された前記第1所定時間後の列車Tの速度が前記分岐器速度パターンを超過せず且つ列車Tの加速度の変化が閾値以下となる力行ノッチを選択する。複数の力行ノッチが選択可能な場合、車上装置14は、選択可能な複数の力行ノッチのうち列車Tの駆動装置の出力を最も高い出力に設定する力行ノッチを選択する。これにより、車上装置14は、列車Tを前記分岐器速度パターンに向かって加速させる。なお、前記第1所定時間は、列車Tの走行安定性などの面からノッチの切り替えが実質的に禁止されるノッチ切替禁止時間よりも長い時間に設定される。特に制限されるものではないが、前記第1所定時間は、例えば前記ノッチ切替禁止時間の1.5~2.5倍の時間、好ましくは前記ノッチ切替禁止時間の2倍の時間に設定される。また、前記閾値は、列車Tの乗り心地などの面から任意に設定可能であるが、例えば5km/h/s以下、好ましくは3km/h/s以下、さらに好ましくは2.5km/h/s以下に設定される。
【0057】
その後、選択可能な力行ノッチがなくなると、車上装置14は、力行ノッチをオフにして列車Tを惰行させる。そして、車上装置14は、列車Tを惰行させると、第2所定時間後の列車Tの走行距離(位置)を予測し、前記第2所定時間後に列車Tが前記分岐器速度パターンに達すると判断した場合、列車Tの常用ブレーキを作動させて列車Tを減速させる。なお、特に制限されるものではないが、前記第2所定時間は、惰行開始時の列車Tの速度や列車Tのブレーキ性能などに基づいて適宜設定される。
【0058】
これにより、車上装置14は、乗り心地の低下を抑制しつつ列車Tをできるだけ速く走行させると共に、列車Tが前記分岐器速度制限区間の開始位置に到達するまでに列車Tの速度が前記分岐器速度制限区間の制限速度に対応する前記分岐器速度パターン上の速度以下となるように、換言すれば、列車Tが前記分岐器速度制限区間の制限速度に対応する前記分岐器速度パターン上の速度以下の速度で前記分岐器速度制限区間に進入するように、列車Tを減速させる(
図4の二重線を参照)。
【0059】
車上装置14は、列車Tが前記分岐器速度制限区間に進入すると、列車Tが前記分岐器速度制限区間から進出するまでの間、換言すれば、列車Tが前記分岐器速度制限区間(の終了位置)を通過するまでの間、列車Tを前記分岐器速度制限区間の制限速度に対応する前記分岐器速度パターン上の速度以下の速度で走行させる。
【0060】
図5は、列車Tが前記分岐器速度制限区間(の終了位置)を通過した後の様子を示している。本実施形態において、前記分岐器速度制限区間を通過した列車Tにとっては前記ATO速度照査パターンのうち前記曲線速度パターン上の速度が最も低くなる。そのため、車上装置14は、列車Tが前記分岐器速度制限区間(の終了位置)を通過すると、前記曲線速度パターンに追随するように、列車Tの速度と前記曲線速度パターンとに基づき、列車Tを加速させ、惰行させ、及び、減速させる。
【0061】
具体的には、本実施形態において、前記分岐器速度制限区間を通過した後の列車Tの速度は、前記曲線速度パターン上の対応速度に比べてかなり低い。そのため、車上装置14は、前記複数の力行ノッチのそれぞれが選択された場合における前記第1所定時間後の列車Tの速度及び列車Tの走行距離(位置)を予測(算出)し、予測(算出)された前記第1所定時間後の列車Tの速度が前記曲線速度パターンを超過せず且つ列車Tの加速度の変化が前記閾値以下となる力行ノッチを選択する。複数の力行ノッチが選択可能な場合、車上装置14は、力行ノッチのうち列車Tの駆動装置の出力を最も高い出力に設定する力行ノッチを選択する。これにより、車上装置14は、列車Tを前記曲線速度パターンに向かって加速させる(
図5の二重線を参照)。
【0062】
ここで、本実施形態において、列車走行路Rにおける前記分岐器速度制限区間と前記曲線速度制限区間との間にはB駅の場内信号機40Bに連動する第2ロング地上子41Bが設置されている。このため、列車Tは、前記曲線速度制限区間(の開始位置)に到達する前に第2ロング地上子41Bの上方を通過する。
【0063】
図6は、B駅の場内信号機40Bが進行現示であるときに、前記分岐器速度制限区間を通過した列車TがB駅の場内信号機40Bに連動する第2ロング地上子41Bの上方に到達したときの様子を示している。列車Tが第2ロング地上子41Bの上方に到達すると、車上装置14は、車上子11を介して第2ロング地上子41Bから第2ロング地上子41Bの地上子ID及び場内信号機40の進行現示情報を受信する。すると、車上装置14は、車上データベース13にアクセスし、前記地上子に関する情報を参照して第2ロング地上子41Bの位置情報を取得する。そして、車上装置14は、取得された第2ロング地上子41Bの位置情報に基づいて列車Tの位置を更新(補正)し、その後は、更新(補正)された列車Tの位置及び速度発電機12の出力信号に基づいて列車Tの位置を検出する。
【0064】
また、車上装置14は、場内信号機40Bの進行現示情報を受信したことにより、前記第1信号機冒進防護パターン及び前記第1信号機停止パターンを消去する。そして、車上装置14は、もう一つ先の信号機、すなわち、B駅の場内信号機40Bの一つ先の信号機であるB駅の出発信号機30Bに対する信号機冒進防護パターン(以下「第2信号機冒進防護パターン」という)を前記ATS速度照査パターンとして発生させると共に、前記第2信号機冒進防護パターンを列車Tの走行方向とは逆方向に前記所定距離だけシフトさせた第2信号機停止パターンを前記ATO速度照査パターンとして発生させる。
【0065】
図7は、第2ロング地上子41の上方を通過した列車Tが前記曲線速度制限区間に進入する直前まで走行したときの様子を示している。本実施形態において、第2ロング地上子41の上方を通過した列車Tにとっては依然として前記ATO速度照査パターンのうち前記曲線速度パターン上の速度が最も低い。そのため、車上装置14は、引き続き、前記曲線速度パターンに追随するように、列車Tの速度と前記曲線速度パターンとに基づき、列車Tを加速させ、惰行させ、及び、減速させる。すなわち、車上装置14は、前記複数の力行ノッチのそれぞれが選択された場合における第1所定時間後の列車Tの速度及び列車Tの走行距離(位置)を予測(算出)し、予測(算出)された前記第1所定時間後の列車Tの速度が前記曲線速度パターン上の速度を超過せず且つ列車Tの加速度の変化が前記閾値以下となる力行ノッチであって、列車Tの駆動装置の出力を最も高い出力に設定する前記力行ノッチを選択する。これにより、車上装置14は、列車Tを前記曲線パターンに向かって加速させる。その後、選択可能な力行ノッチがなくなると、車上装置14は、力行ノッチをオフにして列車Tを惰行させる。そして、車上装置14は、前記第2所定時間後に列車Tが前記曲線速度パターンに達すると判断すると、列車Tの常用ブレーキを作動させて列車Tを減速させる。
【0066】
これにより、車上装置14は、乗り心地の低下を抑制しつつ列車Tをできるだけ速く走行させると共に、列車Tが前記曲線速度制限区間の開始位置に到達するまでに列車Tの速度が前記曲線速度制限区間の制限速度に対応する前記曲線速度パターン上の速度以下となるように、換言すれば、列車Tが前記曲線速度制限区間の制限速度に対応する前記曲線速度パターン上の速度以下の速度で前記曲線速度制限区間に進入するように、列車Tを減速させる(
図7の二重線を参照)。
【0067】
車上装置14は、列車Tが前記曲線速度制限区間に進入すると、列車Tが前記曲線速度制限区間から進出するまでの間、換言すれば、列車Tが前記曲線速度制限区間(の終了位置)を通過するまでの間、列車Tを前記曲線速度制限区間の制限速度に対応する前記曲線速度パターン上の速度以下の速度で走行させる。
【0068】
図8は、列車Tが前記曲線速度制限区間(の終了位置)を通過した後の様子を示している。本実施形態において、B駅の場内信号機40Bが進行現示であるとき、前記曲線速度制限区間を通過した直後の列車Tにとっての前記ATO速度照査パターンは前記運転速度パターンになる。そのため、車上装置14は、列車Tが前記曲線速度制限区間(の終了位置)を通過すると、前記運転速度パターンに追随するように、列車Tの速度と前記運転速度パターンとに基づき、列車Tを加速させ及び惰行させる。
【0069】
前記曲線速度制限区間を通過した直後の列車Tの速度は、前記運転速度パターン上の対応速度に比べてかなり低い。そのため、車上装置14は、前記複数の力行ノッチのそれぞれが選択された場合における第1所定時間後の列車Tの速度及び列車Tの走行距離(位置)を予測(算出)し、予測(算出)された前記第1所定時間後の列車Tの速度が前記運転速度パターンを超過せず且つ列車Tの加速度の変化が前記閾値以下となる力行ノッチであって、列車Tの駆動装置の出力を最も高い出力に設定する前記力行ノッチを選択する。これにより、車上装置14は、列車Tを前記運転速度パターンに向かって加速させる(
図8の二重線を参照)。そして、選択可能な力行ノッチがなくなると、車上装置14は、力行ノッチをオフにして列車Tを惰行させる。
【0070】
ここで、本実施形態において、列車走行路Rにおける前記曲線速度制限区間とB駅との間、さらに言えば、前記曲線速度制限区間とB駅の駅停止位置XBに列車Tを停止させるための第1TASC地上子21Bとの間にはB駅の出発信号機30Bに連動する第1ロング地上子31Bが設置されている。このため、列車Tは、B駅に接近する前に第1ロング地上子31Bの上方を通過する。
【0071】
図9は、B駅の出発信号機30Bが進行現示であるときに、前記曲線速度制限区間を通過した列車TがB駅の出発信号機30Bに連動する第1ロング地上子31Bの上方に到達したときの様子を示している。列車Tが第1ロング地上子31Bの上方に到達すると、車上装置14は、車上子11を介して第1ロング地上子31Bから第1ロング地上子31Bの地上子ID及び出発信号機30Bの進行現示情報を受信する。すると、車上装置14は、車上データベース13にアクセスし、前記地上子に関する情報を参照して第1ロング地上子31Bの位置情報を取得する。そして、車上装置14は、取得された第1ロング地上子31Bの位置情報に基づいて列車Tの位置を更新(補正)し、その後は、更新(補正)された列車Tの位置及び速度発電機12の出力信号に基づいて列車Tの位置を検出する。
【0072】
また、車上装置14は、出発信号機30Bの進行現示情報を受信したことにより、前記第2信号機冒進防護パターン及び前記第2信号機停止パターンを消去する。そして、車上装置14は、図示省略のさらにもう一つ先の信号機、すなわち、B駅の出発信号機30の一つ先の信号機(例えば、B駅の次の駅であるC駅の場内信号機)に対する第3信号機冒進防護パターン(図示省略)を前記ATS速度照査パターンとして発生させると共に、前記第3信号機冒進防護パターンを列車Tの走行方向とは逆方向に前記所定距離だけシフトさせた第3信号機停止パターン(図示省略)を前記ATO速度照査パターンとして発生させる。
【0073】
よって、第1ロング地上子31Bの上方に到達した列車Tにとっての前記ATO速度照査パターンは依然として前記運転速度パターンである。そのため、車上装置14は、引き続き、前記運転速度パターンに追随するように、列車Tの速度と前記運転速度パターンとに基づき、列車Tを加速させ及び惰行させる。
【0074】
ここで、本実施形態において、B駅の出発信号機30Bに連動する第1ロング地上子31BとB駅との間には、B駅の駅停止位置XBに列車Tを停止させるための第1TASC地上子21Bが設置されている。このため、列車Tは、第1ロング地上子31Bの上方を通過してB駅に接近すると第1TASC地上子21Bの上方を通過する。
【0075】
図10は、B駅の出発信号機30Bに連動する第1ロング地上子31Bの上方を通過した列車TがB駅の駅停止位置XBに列車Tを停止させるための第1TASC地上子21Bの上方に到達したときの様子を示している。列車Tが第1TASC地上子21Bの上方に到達すると、車上装置14は、車上子11を介して第1TASC地上子21Bの地上子ID及びB駅の駅停止位置XBまでの距離情報を受信する。すると、車上装置14は、車上データベース13にアクセスし、前記地上子に関する情報を参照して第1TASC地上子21Bの位置情報を取得する。そして、車上装置14は、取得された第1TASC地上子21Bの位置情報に基づいて列車Tの位置を更新(補正)し、その後は、更新(補正)された列車Tの位置及び速度発電機12の出力信号に基づいて列車Tの位置を検出する。また、車上装置14は、B駅の駅停止位置XBまでの距離情報に基づいて列車Tを駅停止位置XBに停止させるための駅停車パターンを発生させる。但し、これに限られるものではない。第1TASC地上子21及び第2TASC地上子22に関する情報が車上データベース13に格納されていない場合などにおいては、車上装置14は、車上データベース13にアクセスすることなく、B駅の駅停止位置XBまでの距離情報に基づいて列車Tを駅停止位置XBに停止させるための駅停車パターンを発生させるように構成され得る。
【0076】
図11は、車上装置14が前記駅停車パターンを発生させた後の様子を示している。車上装置14は、前記駅停車パターンを発生させると、発生させた駅停車パターンに追随するように列車Tを減速させる。その際、車上装置14は、車上子11を介して第2TASC地上子22から受信されるB駅の駅停止位置Xまでの距離情報に基づき、列車Tの減速や停止位置を調整することができる。これにより、列車TがB駅の駅停止位置XB(第2TASC地上子22Bの位置)に停止する(
図11の二重線を参照)。
【0077】
ところで、第1直下地上子32Aの故障などにより、列車TがA駅の駅停止位置XAを出発してから前記第1所定距離走行しても、車上装置14が車上子11を介して第1直下地上子32Aから第1直下地上子32Aの地上子IDを受信しない場合、すなわち、第1直下地上子32Aの位置情報を取得しない場合があり得る。このような場合、車上装置14は、自身が搭載されている列車Tの位置を把握することができず、前記ATS速度照査パターンや前記ATO速度照査パターンを発生させることもできない。換言すれば、列車Tの安全な走行が確保されない。このため、車上装置14は、列車Tを速やかに停止させると共に、列車Tの自動的な走行制御(列車Tの自動運転)を不可とする。但し、列車Tの乗務員(特に運転士)による列車Tの手動運転は可能である。
【0078】
また、列車TがA駅の駅停止位置XAを出発した直後にA駅の出発信号機30Aが進行現示から停止現示に変化する場合があり得る。このような場合、車上装置14は、列車Tが第1直下地上子32A又は第1冒進防護地上子33Aの上方に到達したとき、車上子11を介して前記即時停止情報を受信し、これによって、列車Tの非常ブレーキを作動させて列車Tを停止させる。このため、列車Tが出発信号機30Aを冒進することが防止され得る。あるいは、車上装置14は、列車Tが第1予備直下地上子34Aの上方に到達したときに車上子11を介して前記即時停止情報を受信し、これによって、列車Tの非常ブレーキを作動させて列車Tを停止させる。このため、例えば列車Tが出発信号機30の近傍に至る直前で出発信号機30が進行現示から停止現示に変化した場合であっても列車Tを直ちに停止させて危険を回避することが可能となる。
【0079】
さらに、第1直下地上子32Aの内方で停止した列車Tが誤発進した場合においても、車上装置14は、列車Tが第1冒進防護地上子33Aの上方に到達したときに車上子11を介して前記即時停止情報を受信し、これによって、列車Tの非常ブレーキを作動させて列車Tを停止させる。このため、列車Tが出発信号機30Aを冒進することが防止され得る。あるいは、車上装置14は、列車Tが第1予備直下地上子34Aの上方に到達したときに車上子11を介して前記即時停止情報を受信し、これによって、列車Tの非常ブレーキを作動させて列車Tを停止させる。このため、例えば第1冒進防護地上子33Aの内方で停止した列車Tが誤発進した場合においても列車Tを直ちに停止させて危険を回避することが可能となる。
【0080】
本実施形態において、車上装置14は、車上子11を介して第1直下地上子32A又は第1冒進防護地上子33Aから前記即時停止情報を受信して列車Tを停止させた場合、列車Tの自動的な走行制御(列車Tの自動運転)を不可とする。この場合、列車Tが誤出発又は誤発進した可能性が高く、列車Tの安全な走行を確保できないおそれがあるからである。
【0081】
図12~
図14は、B駅の場内信号機40Bが停止現示であるときに、前記分岐器速度制限区間を通過した列車TがB駅の場内信号機40Bに連動する第2ロング地上子41Bの上方に到達した場合を示している。この場合、列車Tが第2ロング地上子41Bの上方に到達すると、車上装置14は、車上子11を介して第2ロング地上子41Bから第2ロング地上子41Bの地上子ID及び場内信号機40の停止現示情報を受信する。場内信号機40Bの停止現示情報を受信したことにより、車上装置14は、前記第1信号機冒進防護パターン及び前記第1信号機停止パターンを維持する(
図12参照)。但し、この場合においても、B駅の場内信号機40Bが進行現示であるときと同様(
図6、
図7)、第2ロング地上子41Bの上方を通過した列車Tにとっては依然として前記ATO速度照査パターンのうち前記曲線速度パターン上の速度が最も低い。そのため、車上装置14は、引き続き、前記曲線速度パターンに追随するように、列車Tの速度と前記曲線速度パターンとに基づき、列車Tを加速させ、惰行させ、及び、減速させる。すなわち、車上装置14は、乗り心地の低下を抑制しつつ列車Tをできるだけ速く走行させ、及び、列車Tを前記曲線速度制限区間の制限速度に対応する前記曲線速度パターン上の速度以下の速度で前記曲線速度制限区間に進入させる(
図13の二重線を参照)。
【0082】
列車Tが前記曲線速度制限区間に進入すると、列車Tにとっては前記ATO速度照査パターンのうち前記第1信号機停止パターン上の速度が最も低くなる。そのため、車上装置14は、前記第1信号機停止パターンにしたがって列車Tを減速させることになる。そして、車上装置14は、列車TをB駅の場内信号機40Bの信号停止位置YBで停止させる(
図14の二重線を参照)。
【0083】
その後、B駅の場内信号機40Bが進行現示になり且つ列車Tの乗務員が前記所定の走行開始操作を行うと、車上装置14は、列車Tを信号停止位置YBから発進させる。列車Tを信号停止位置YBから発進させると、車上装置14は、列車TをA駅の駅停止位置XAから出発させたときと同様、列車Tを前記所定速度の近傍まで加速させた後に列車Tを惰行させる。すなわち、車上装置14は列車Tを前記所定速度以下の低速で走行させる。
【0084】
そして、信号停止位置YBを発進した列車TがB駅の場内信号機40Bに連動する第2直下地上子42Bの上方に到達すると、車上装置14は、車上子11を介して第2直下地上子42Bから第2直下地上子42Bの地上子ID及び場内信号機40の進行現示情報を受信する。すると、車上装置14は、車上データベース13にアクセスし、前記地上子に関する情報を参照して第2直下地上子42Bの位置情報を取得し、取得された第2直下地上子42Bの位置情報に基づいて列車Tの位置を更新する。また、車上装置14は、場内信号機40Bの進行現示情報を受信したことにより、前記第1信号機冒進防護パターンを消去する。さらに、車上装置14は、第2信号機冒進防護パターン(
図6参照)を前記ATS速度照査パターンとして発生させると共に、第2信号機停止パターン(
図6参照)を前記ATO速度照査パターンとして発生させる。その後については、上述した、B駅の場内信号機40Bが進行現示であるときに列車Tが第2ロング地上子41Bの上方に到達した場合と同様である。
【0085】
ここで、第2直下地上子42Bの故障などにより、列車Tが信号停止位置YBを発進してから前記第1所定距離走行しても車上子11を介して第2直下地上子42Bから第2直下地上子42Bの地上子IDを受信しない場合、すなわち、第2直下地上子42Bの位置情報を取得しない場合があり得る。このような場合、車上装置14は、自身が搭載されている列車Tの位置を正確に把握することができず、列車Tの安全な走行が十分に確保されない。このため、車上装置14は、列車Tを速やかに停止させると共に、列車Tの自動的な走行制御(列車Tの自動運転)を不可とする。但し、列車Tの乗務員(特に運転士)による列車Tの手動運転は可能である。
【0086】
また、列車Tが信号停止位置YBを発進した直後にB駅の場内信号機40Bが停止現示に変化する場合があり得る。この場合、車上装置14は、列車Tが第2直下地上子42B又は第2冒進防護地上子43Bの上方に到達したとき、車上子11を介して前記即時停止情報を受信し、これによって、列車Tの非常ブレーキを作動させて列車Tを停止させる。このため、列車Tが場内信号機40Bを冒進することが防止され得る。あるいは、車上装置14は、列車Tが第2予備直下地上子44Bの上方に到達したときに車上子11を介して前記即時停止情報を受信し、これによって、列車Tの非常ブレーキを作動させて列車Tを停止させる。このため、例えば列車Tが場内信号機40の近傍に至る直前で場内信号機40が進行現示から停止現示に変化した場合であっても列車Tを直ちに停止させて危険を回避することが可能となる。
【0087】
さらに、第2直下地上子42Bの内方で停止した列車Tが誤発進した場合においても、車上装置14は、列車Tが第2冒進防護地上子43Bの上方に到達したときに、車上子11を介して前記即時停止情報を受信し、これによって、列車Tの非常ブレーキを作動させて列車Tを停止させる。このため、列車Tが場内信号機40Bを冒進することが防止され得る。あるいは、車上装置14は、列車Tが第2予備直下地上子44Bの上方に到達したときに車上子11を介して前記即時停止情報を受信し、これによって、列車Tの非常ブレーキを作動させて列車Tを停止させる。このため、例えば第2冒進防護地上子43Bの内方で停止した列車Tが誤発進した場合においても列車Tを直ちに停止させて危険を回避することが可能となる。
【0088】
本実施形態において、車上装置14は、車上子11を介して第2直下地上子42B又は第2冒進防護地上子43Bから前記即時停止情報を受信して列車Tを停止させた場合、列車Tの自動的な走行制御(列車Tの自動運転)を不可とする。この場合、列車Tが誤発進した可能性が高く、列車Tの安全な走行を確保できないおそれがあるからである。
【0089】
なお、B駅の出発信号機30Bが停止現示であるときに、前記曲線速度制限区間を通過した列車TがB駅の出発信号機30Bに連動する第1ロング地上子31Bの上方に到達した場合、前記第2信号機冒進防護パターン及び前記第2信号機停止パターンが維持されることになる。この場合、車上装置14は、例えば、列車Tが第1TASC地上子21Bの上方に到達して前記駅停車パターンを発生させると、前記第2信号機停止パターンを消去する。そして、車上装置14は、発生させた前記駅停車パターンに追随するように列車Tを減速させる。これにより、上述した、B駅の出発信号機30Bが進行現示であるときに列車Tが第1ロング地上子31Bの上方に到達した場合と同様、列車TがB駅の駅停止位置XBに停止する。
【0090】
以上説明したように、本実施形態に係る列車制御システム1は、走行開始直後は前記所定速度以下の低速で列車Tを走行させ、地上子の位置情報の取得によって速度照査パターンが設定されて前記速度照査パターン上の速度を超えない範囲で列車Tの加減速制御を行うように構成されている。例えば、列車Tの車上装置14は、列車TをA駅から出発させると前記所定速度以下の低速で列車Tを走行させ、A駅の出発信号機30Aに連動する第1直下地上子32Aの位置情報を取得すると、自動運転停止機能のための前記ATS速度照査パターン及び列車の自動運転のための前記ATO速度照査パターンを発生させる。そして、列車Tの車上装置14は、前記ATO速度照査パターンに追随するように、列車Tの速度と前記ATO速度照査パターンとに基づき、列車Tを加速させ、惰行させ、及び、減速させる一方、列車Tの速度が前記ATS速度照査パターン上の対応速度を超えた場合に列車Tを停止させる。
【0091】
このため、本実施形態に係る列車制御システム1によれば、地上子を利用する地上-車上間通信をベースとした列車の自動運転を実現すること、換言すれば、既存のATS装置を利用しつつ列車の自動運転を実現することが可能である。したがって、既存の路線に対して列車の自動運転を導入する際にATC装置を列車保安装置として新たに設備する必要がなく、従来に比べて列車の自動運転の導入コストを大幅に低減することができる。
【0092】
また、列車Tの車上装置14は、列車Tが走行を開始してから前記第1所定距離走行するまでの間に地上子の位置情報を取得しない場合には列車Tを停止させるように構成されている。例えば、列車Tの車上装置14は、列車TがA駅の駅停止位置XAから出発してから前記所定距離走行するまでの間に第1直下地上子32Aの位置情報を取得しない場合や列車Tが信号停止位置YBから発進してから前記所定距離走行するまでの間に第2直下地上子42Bの位置情報を取得しない場合には列車Tを停止させる。このため、安全な走行が十分に確保されない状態での車上装置14による列車Tの走行制御が回避され得る。
【0093】
なお、上述の実施形態においては車上装置14が自動列車停止(ATS)装置としての機能と自動列車運転(ATO)装置としての機能とを有している。しかし、これに限られるものではない。車上装置14に代えてATS装置とATO装置とが列車Tに搭載されてもよい。この場合、前記ATS装置が前記ATS速度照査パターンを発生させると共に列車Tの速度が前記ATS速度照査パターン上の対応速度を超えた場合に列車Tを停止させるように構成され、前記ATO装置が前記ATO速度照査パターンを発生させると共に前記ATO速度照査パターンに追随するように列車Tを加速させ、惰行させ、及び、減速させるように構成される。
【0094】
また、上述の実施形態において、列車Tの車上装置14は、列車Tが走行を開始してから前記第1所定距離走行するまでの間に地上子の位置情報を取得しない場合に列車Tを停止させるように構成されている。しかし、これに限られるものではない。列車Tの車上装置14は、例えば信号機に関する情報(特に、信号機までの距離情報や信号機の進行現示情報)を取得することにより、当該信号機まで走行させることが可能である。よって、列車Tの車上装置14は、列車Tが走行を開始してから所定距離走行するまでの間の地上子の位置情報及び信号機に関する情報を取得しない場合に列車Tを停止させるように構成されてもよい。
【0095】
また、上述の実施形態においては各駅の列車停止位置Xに列車Tを停止させるために利用される2つのTASC地上子21、22と、各駅の出口側に設置された出発信号機30に連動する4つの地上子31~34と、各駅の入口側に設置された場内信号機40に連動する4つの地上子41~44とが前記地上側設備として列車走行路Rに設置されている。しかし、これに限られるものではない。各駅の駅停止位置Xに列車Tを停止させるためのTASC地上子の個数、出発信号機30に連動する地上子の個数及び場内信号機40に連動する地上子の個数は、任意に設定可能である。
【0096】
例えば、駅Sの列車停止位置Xに第3定位置停止制御地上子(第3TASC地上子)が設置されてもよい。この場合、車上装置14は、車上子11を介して第3TASC地上子が発信する地上子情報を受信することによって、列車Tが駅Sの駅停止位置Xに停止したか否かを確認すること、及び/又は、必要に応じて列車Tの停止位置を調整することが可能である。
【0097】
また、場内信号機40に連動する地上子として、第2ロング地上子41と第2直下地上子42との間に中間地上子がさらに設置されてもよい。この場合、前記中間地上子は、場内信号機40の現示が上位変化すると(例えば場内信号機40が停止現示から進行現示に変化すると)、自身の地上子ID及び場内信号機40の現示が上位変化したことを示す現示アップ情報を地上子情報として発信する。また、前記中間地上子は、場内信号機40の現示が下位変化すると(例えば場内信号機40が進行現示から停止現示に変化すると)、自身の地上子ID及び場内信号機40の現示が下位変化したことを示す現示ダウン情報を地上子情報として発信する。そして、車上装置14は、車上子11を介して前記中間地上子から場内信号機40の現示アップ情報を受信すると、前記第1信号機冒進防護パターン及び前記第1信号機停止パターンを消去し、前記第2信号機冒進防護パターンを前記ATS速度照査パターンとして発生させると共に前記第2信号機停止パターンを前記ATO速度照査パターンとして発生させる。また、車上装置14は、車上子11を介して前記中間地上子から場内信号機40の現示ダウン情報を受信すると、例えば前記第1信号機冒進防護パターン及び前記第1信号機停止パターンを再度発生させる。
【0098】
さらに、第1冒進防護地上子33及び第1予備直下地上子34の少なくとも一方が省略されたり、第2冒進防護地上子43及び第2予備直下地上子44の少なくとも一方が省略されたりしてもよい。
【0099】
また、上述の実施形態において、車上装置14は、選択可能な力行ノッチがなくなると力行ノッチをオフにして列車Tを惰行させるようにしている。しかし、これに限られるものではない。例えば、車上装置14は、パターン上の各速度が前記分岐器速度パターン上の対応速度よりも一定速度だけ低い速度に設定された第1切替パターン、パターン上の各速度が前記曲線速度パターン上の対応速度よりも一定速度だけ低い速度に設定された第2切替パターン、及び/又は、信号機停止パターンを列車Tの走行方向とは逆方向に前記所定距離だけシフトさせた第3切替パターンを発生させる。そして、車上装置14は、列車Tの速度が前記第1切替パターン、前記第2切替パターン又は前記第3切替パターンを超過すると列車Tを惰行させる(力行状態から惰行状態に切り替える)ようにしてもよい。
【0100】
さらに、上述の実施形態において、車上装置14は、速度発電機12の出力信号に基づいて列車Tの速度及び走行距離(位置)を検出している。しかし、これに限られるものではない。車上装置14は、速度発電機12以外の速度検出器等などを利用して列車Tの速度及び走行距離(位置)を検出してもよい。
【0101】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて変形及び変更が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0102】
1…列車制御システム、11…車上子、12…速度発電機、13…車上データベース、14…車上装置、21…第1定位置停止制御(TASC)地上子、22…第2定位置停止制御(TASC)地上子、30(30A、30B)…出発信号機、31(31B)…第1ロング地上子、32(32A、32B)…第1直下地上子、33(33A、33B)…第1冒進防護地上子、34(34A、34B)…第1予備直下地上子、40(40B)…場内信号機、41(41B)…第2ロング地上子、42(42B)…第2直下地上子、43(43B)…第2冒進防護地上子、44(44B)…第2予備直下地上子、R…列車走行路、T…列車、X(XA、XB)…駅停止位置、Y(YB)…信号停止位置