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特許7175588炭素材料含有架橋性熱電変換複合体、および、それを用いた熱電変換素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】炭素材料含有架橋性熱電変換複合体、および、それを用いた熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/22 20060101AFI20221114BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20221114BHJP
   C01B 32/159 20170101ALI20221114BHJP
   C08G 18/34 20060101ALI20221114BHJP
   C08G 18/80 20060101ALI20221114BHJP
   C08G 59/42 20060101ALI20221114BHJP
   C08G 63/12 20060101ALI20221114BHJP
   H01L 51/00 20060101ALI20221114BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20221114BHJP
   H01L 35/24 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
H01L35/22
B82Y30/00
C01B32/159
C08G18/34 030
C08G18/80
C08G59/42
C08G63/12
H01L29/28 100Z
H01L29/28 250H
H01L35/24
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017025405
(22)【出願日】2017-02-14
(65)【公開番号】P2018133420
(43)【公開日】2018-08-23
【審査請求日】2020-01-17
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】千阪 二郎
(72)【発明者】
【氏名】玉野 美智子
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】棚田 一也
【審判官】松永 稔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/068054(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0345661(US,A1)
【文献】特許第6780952(JP,B2)
【文献】特許第5429751(JP,B2)
【文献】特許第6868402(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/22
H01L 35/24
C08G 63/12
C08G 59/42
C08G 18/34
C08G 18/80
B82Y 30/00
C01B 32/159
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する炭素材料(A)の分子と、下記一般式(1)で表される化合物、エポキシ基含有化合物およびブロック化イソシアネート基含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種である化合物(B)の分子架橋した生成物である熱電変換複合体。
一般式(1)
【化1】
(式中、Xはn価の、未置換の脂肪族炭化水素基、未置換の脂環式炭化水素基、未置換の芳香族炭化水素基または未置換の脂肪族複素環基を表し、nは2~4の整数であり、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、一般式(2)で表される基、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、または、芳香族炭化水素基を表し、R1およびR2のうち、少なくとも1つは、一般式(2)で表される基である。)
一般式(2)
【化2】
(式中、R3~R6は水素原子を表す。)
【請求項2】
カルボキシル基を有する炭素材料(A)が、カルボキシル基を有する多層カーボンナノチューブおよび/またはカルボキシル基を有する単層カーボンナノチューブ、である請求項1記載の熱電変換複合体。
【請求項3】
化合物(B)が、前記一般式(1)で表される化合物である請求項1または請求項2記載の熱電変換複合体。
【請求項4】
請求項1~3いずれか記載の熱電変換複合体を用いた熱電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシル基を有する炭素材料と特定の有機化合物との架橋物である熱電変換複合体と、それを用いた熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換することができる熱電変換材料は、熱電発電素子やペルチェ素子のような熱電変換素子に用いられている。熱電変換材料や熱電変換素子を応用した熱電発電は、熱エネルギーを直接電力に変換することができ、可動部を必要とせず、体温で作動する腕時計や僻地用電源、宇宙用電源等に用いられている。また、発生した起電圧を利用した温度センサーとしても利用することが可能である。
【0003】
「熱電変換技術ハンドブック(初版)」P19に記載されているとおり、熱電変換材料の性能を表す指標として、無次元熱電性能指数(ZT)が用いられる。また、熱電変換材料の性能を表す指標として、パワーファクターPF(=S・σ)を用いる場合もある。
上記無次元熱電性能指数「ZT」は、下式(1)により表される。
ZT=(S・σ・T)/κ (1)
ここで、Sはゼーベック係数(V/K)、σは導電率(S・m)、Tは絶対温度(K)、及びκは熱伝導率(W/(m・K))である。熱伝導率κは下式(2)で表される。
κ=α・ρ・C (2)
ここで、αは熱拡散率(m/s)、ρは密度(kg/m)、及びCは比熱容量(J/(kg・K))である。
つまり、熱電変換の性能(以下、熱電特性とも称す)を向上させるには、ゼーベック係数または導電率を向上させ、その一方で熱伝導率を低下させることが重要である。
【0004】
代表的な熱電変換材料として、例えば、常温から500Kまではビスマス・テルル系(Bi-Te系)、常温から800Kまでは鉛・テルル系(Pb-Te系)、及び常温から1000Kまではシリコン・ゲルマニウム系(Si-Ge系)などの無機材料が使用されている。
【0005】
しかし、これらの無機材料を含む熱電変換材料は、しばしば希少元素を含み高コストであるか、または有害物質を含む場合がある。また、無機材料は加工性に乏しいため、製造工程が複雑となる。そのため、無機材料を含む熱電変換材料については、製造エネルギー及び製造コストが高くなり、汎用化が困難である。さらに、無機材料は剛直であるため、平面ではない形状にも設置可能な、フルキシブル性を有する熱電変換素子を形成することは困難である。
【0006】
これに対し、近年、カーボンナノチューブ等の炭素材料が注目されている。たとえば、カーボンナノチューブ等をポリアクリル、ポリオレフィン、および、ポリフッ化ビニリデンなどフルオロポリマーなどの高分子中へ分散させた材料(特許文献1)、さらに、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン、カーボンブラックなどの炭素材料と導電性高分子の混合物を用いた材料(特許文献2)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-546175号公報
【文献】特開2015-050420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2に開示される材料は、少なくとも炭素材料と、高分子材料と、溶剤とを含む組成物を基材へ塗工することで容易に成膜できるため、従来の無機材料と比べてフルキシブル性に優れる熱電変換素子を、形成することが出来る。
【0009】
しかし、これらの材料の場合、形成される膜の強度を保つために高分子材料の含有率を高くすると導電性やゼーベック係数が低下して熱電変換材料としての性能が損なわれる問題がある。一方、高分子材料の含有率を下げると材料強度が低下し折り曲げや擦過に対し脆弱になる問題がある。
また、炭素材料、特にカーボンナノチューブは極めて分散が難しいので、安定した分散体を得るためには大量の分散剤の使用が必要であるが、大量の分散剤の使用は熱電変換性能を低下させしまうという問題もある。
【0010】
本発明は、分散剤を用いることなく安定した分散体を得、前記分散体を用いて、強度と熱電変換性能とを共に満足する熱電変換複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、カルボキシル基を有する炭素材料(A)と、下記一般式(1)で表される化合物、エポキシ基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、およびブロック化イソシアネート基含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種である化合物(B)との架橋物である熱電変換複合体に関する。
【0012】
一般式(1)
【化1】

【0013】
(式中、Xはn価の、置換もしくは未置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは未置換の脂環式炭化水素基、置換もしくは未置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは未置換の脂肪族複素環基、あるいは、置換もしくは未置換の芳香族複素環基、を表し、nは2~6の整数であり、
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、一般式(2)で表される基、脂肪族炭化水
素基、脂環式炭化水素基、または、芳香族炭化水素基を表し、RおよびRのうち、少な
くとも1つは、一般式(2)で表される基である。)
【0014】
一般式(2)
【化2】

【0015】
(式中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、または、脂肪族炭化水素基を表す。)
【0016】
更に本発明は、カルボキシル基を有する炭素材料(A)が、カルボキシル基を有する多層カーボンナノチューブおよび/またはカルボキシル基を有する単層カーボンナノチューブ、である上記の熱電変換複合体に関する。
【0017】
更に本発明は、化合物(B)が、前記一般式(1)で表される化合物である上記の熱電変換複合体に関する。
【0018】
更に本発明は、上記の熱電変換複合体を用いた熱電変換素子に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、安定性に優れる分散体から、強度と熱電性能に優れる熱電変換複合体を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、詳細にわたって本発明を説明する。
カルボキシル基を有する炭素材料の製造方法としては、炭素材料にカルボキシル基を導入するには、酸化作用を有する酸とともに加熱すればよい。この操作は比較的容易であり、しかも反応性に富むカルボキシル基を付加することができるため、好ましい。当該操作について、簡単に説明する。
【0021】
酸化作用を有する酸としては、濃硝酸、過酸化水素水、硫酸と硝酸の混合液、王水等が挙げられる。特に濃硝酸を用いる場合には、その濃度としては、5質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。
【0022】
加熱は、常法にて行えばよいが、その温度としては、使用する酸の沸点以下が好ましい。例えば、濃硝酸では50~130℃の範囲が好ましい。また、加熱の時間としては、30分~20時間の範囲が好ましく、1時間~8時間の範囲がより好ましい。
【0023】
還流の後の反応液には、カルボキシル基が付加した炭素材料が生成しており、室温まで冷却し、必要に応じて分離操作ないし洗浄を行うことで、目的のカルボキシル基を有する炭素材料が得られる。
【0024】
本発明において用いられる炭素材料のうち、無機炭素材料由来の炭素粒子としては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック及びミディアムサーマルカーボンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン、グラフェンナノプレートレット、ナノポーラスカーボン及び炭素繊維等が挙げられる。
【0025】
本発明において、グラフェンナノプレートレットとは、炭素原子が6角形をなす平面構造を有するグラフェンシートが、ファンデルワールス力により弱く結合した複層構造を有している。グラフェンナノプレートレットは、欠陥の少ない平面構造を有しているため、高い電子伝導性、高い熱伝導性や高い機械的強度を示す。
【0026】
本発明において、カーボンブラックとは、一次粒子がストラクチャーと呼ばれる粒子同士の繋がり、または凝集による構造を有する微細炭素粒子であり、大きい比表面積及び高い電子伝導性有する。
【0027】
本発明におけるカーボンナノチューブ(英: carbon nanotube、略称CNT)は、炭素によって作られる六員環ネットワーク(グラフェンシート)が単層あるいは多層の同軸管状になった物質である。カーボンナノチューブは、欠陥の少ない平面構造を有しているため、高い電子伝導性、高い熱伝導性や高い機械的強度を示す。
【0028】
単層カーボンナノチューブは、ナノメートル領域の直径を持つ継ぎ目のない円筒状で、グラフェンシート(2次元のグラファイト平面)が丸まった状態としてイメージすることができる。ナノチューブの構造は、直径とチューブの軸に対する炭素の6員環の相対的な方向で規定される。例えば、名城ナノカーボン(EC1.0,EC1.5,EC2.0,EC1.5-P)等が挙げられる。
【0029】
多層カーボンナノチューブは同心円筒状のこれらチューブから構成され、幾つかの単層チューブが入れ子になっていると考えられており、少ない場合は6層、多い場合で25層ほどの同心多層構造をとる。そのため、多層カーボンナノチューブの直径は、典型的な単層カーボンナノチューブの0.7-2.0nmに対して、30 nmと大きい値を示す。カーボンナノチューブの持つ優れた独特の特性によって、新たな応用開発や既存の用途における性能改善を行うことが可能となる。例えば、CNano社(FloTube9000、FloTube9100、FloTube9110、FloTube9200)、Nanocyl社(NC7000)、Knano社(100T)等が挙げられる。
【0030】
市販の無機炭素粒子としては、例えば、ケッチェンブラックEC-300J、及びEC-600JD等のアクゾ社製ケッチェンブラック;
トーカブラック#4300、#4400、#4500、及び#5500等の東海カーボン社製ファーネスブラック;
プリンテックスL等のデグサ社製ファーネスブラック;
Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、975 ULTRA、PUER BLACK100、115、及び205等のコロンビヤン社製ファーネスブラック;
#2350、#2400B、#2600B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、及び#5400B等の三菱化学社製ファーネスブラック;
MONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、及びBlackPearls2000等のキャボット社製ファーネスブラック;
Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、及びSuperP-Li等のTIMCAL社製ファーネスブラック;
デンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等の電気化学工業社製アセチレンブラック;
VGCF、VGCF-H、VGCF-X等の昭和電工社製カーボンナノチューブ;
名城ナノカーボン社製カーボンナノチューブ;
xGnP-C-750、xGnP-M-5等のXGSciences社製グラフェンナノプレートレット;
Easy-N社製ナノポーラスカーボン;
カイノール炭素繊維、カイノール活性炭繊維などの群栄化学工業社製炭素繊維;等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
次に、化合物(B)について説明する。
一般式(1)におけるXは、Xはn価の、置換もしくは未置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは未置換の脂環式炭化水素基、置換もしくは未置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは未置換の脂肪族複素環基、あるいは、置換もしくは未置換の芳香族複素環基、を表し、nは2~6の整数であり、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、一般式(2)で表される基、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、または、芳香族炭化水素基を表し、RおよびRのうち、少なくとも1つは、一般式(2)で表される基である。
【0032】
一般式(1)におけるXの、直鎖の脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケン基、アルキン基が挙げられる。また、アルキル基、アルケン基、アルキン基が有する水素原子のうち、n個が置換をすることができる。
【0033】
ここで、2価以上のアルキル基としては、1,6-ヘキシル基、1,7-ヘプチル基、1,8-オクチル基、1,9-ノニル基、1,6-デシル基、1,10-デシル基、1,11-ウンデシル基、1,12-ドデシル基、1,13-トリデシル基、1,14-テトラデシル基、1,15-ペンタデシル基、1,16-ヘキサデシル基、1,17-ヘプタデシル基、1,18-オクタデシル基、1,19-ノナデシル基、1,20-イコシル基、1,3,6-ヘキシル基、1,4,7-ヘプチル基、1,2,8-オクチル基、1,3,9-ノニル基、1,3,4,6-ヘキシル基、1,4,6,7-ヘプチル基、1,4,5,6,7-ヘプチル基、1,2,3,4,5,6-ヘキシル基といった炭素数6以上のアルキル基が挙げられる。
【0034】
また、2価以上のアルケニル基としては、1,6-(2-ヘキセニル)基、1,7-(2-ヘプテニル)基、1,8-(2-オクテニル)基、1,9-(2-ノネニル)基、1,10-(2-デセニル)基、1,11-(2-ウンデセニル)基、1,12-(2-ドデセニル)基、1,13-(2-トリデセニル)基、1,14-(2-テトラデセニル)基、1,15-(2-ペンタデセニル)基、1,16-(2-ヘキサデセニル)基、1,17-(2-ヘプタデセニル)基、1,18-(2-オクタデセニル)基、1,19-(2-ノナデセニル)基、1,3,6-(2-ヘキセニル)基、1,4,7-(3-ヘプセニル)基、1,2,8-(4-オクテニル)基、1,3,9-(5-ノネニル)基、1,3,4,6-(2-ヘキセニル)基、1,4,6,7-(3-ヘプセニル)基、1,4,5,6,7-(3-ヘプセニル)基、といった炭素数6以上のアルケニル基が挙げられる。
【0035】
また、2価以上のアルキニル基としては、1,6-(2-ヘキシニル)基、1,7-(2-ヘプシニル)基、1,8-(2-オクシニル)基、1,9-(2-ノニル)基、1,10-(2-デシニル)基、1,11-(2-ウンデシニル)基、1,12-(2-ドデシニル)基、1,13-(2-トリデシニル)基、1,14-(2-テトラデシニル)基、1,15-(2-ペンタデシニル)基、1,16-(2-ヘキサデシニル)基、1,17-(2-ヘプタデシニル)基、1,18-(2-オクタデシニル)基、1,19-(2-ノナデシニル)基、1,3,6-(2-ヘキシニル)基、1,4,7-(3-ヘプシニル)基、1,2,8-(4-オクシニル)基、1,3,9-(5-ノニル)基、1,3,4,6-(2-ヘキシニル)基、1,4,6,7-(3-ヘプシニル)基、1,4,5,6,7-(3-ヘプシニル)基、といった炭素数6以上のアルケニル基が挙げられる。
【0036】
また、一般式[1]における脂環式炭化水素基としては、シクロアルキル基、デカヒドロナフチル基、アダマンチル基などが挙げられる。
【0037】
また、2価以上の脂環式炭化水素基としては、1,1-シクロヘキシル基、1,2-シクロヘキシル基、1,3-シクロヘキシル基、1,4-シクロヘキシル基、1,2,4-シクロヘキシル基、1,3,5-シクロヘキシル基、1,2,4,5-シクロヘキシル基、1、2,3,4,5,6-シクロヘキシル基、2,6-デカヒドロナフチル基、1,3-アダマンチル基、1、3、5ーアダマンチル基、といった炭素数6以上のシクロアルキル基が挙げられる。
【0038】
また、2価以上の脂肪族複素環基としては、2-ピラゾリノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、2-モルホリニル基といった炭素数3~18の脂肪族複素環基が挙げられる。
【0039】
また、2価以上の芳香族複素環基としては、トリアゾリル基、3-オキサジアゾリル基、2-フラニル基、3-フラニル基、2-フリル基、3-フリル基、2-チエニル基、3-チエニル基、1-ピロ-リル基、2-ピロ-リル基、3-ピロ-リル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基、2-ピラジル基、2-オキサゾリル基、3-イソオキサゾリル基、2-チアゾリル基、3-イソチアゾリル基、2-イミダゾリル基、3-ピラゾリル基、2-キノリル基、3-キノリル基、4-キノリル基、5-キノリル基、6-キノリル基、7-キノリル基、8-キノリル基、1-イソキノリル基、2-キノキサリニル基、2-ベンゾフリル基、2-ベンゾチエニル基、N-インドリル基、N-カルバゾリル基、N-アクリジニル基、2-チオフェニル基、3-チオフェニル基、ビピリジル基、フェナントロリル基といった炭素数2~18の芳香族複素環基が挙げられる。
【0040】
また、一般式[1]中のXにおいて、好ましくは、炭素数2~20の直鎖の脂肪族炭化水素基、あるいは、脂環式炭化水素基であり、より好ましくは、炭素数4~12の直鎖の脂肪族炭化水素基、あるいは、脂環式炭化水素基であり、さらに好ましくは、炭素数6~12の直鎖の脂肪族炭化水素基である。炭素数20を超えるとロウ状固体となり、有機溶剤や樹脂への溶解性が低下する恐れがある。
【0041】
また、一般式[1]中のRおよびRのうち、脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。
【0042】
ここで、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基といったアルキル基が挙げられる。
【0043】
また、アルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-オクテニル基、1-デセニル基、1-オクタデセニル基といったアルケニル基が挙げられる。
【0044】
また、アルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-オクチニル基、1-デシニル基、1-オクタデシニル基といったアルキニル基が挙げられる。
【0045】
一般式[1]中のRおよびRにおける、脂環式炭化水素基としては、一般式[1]中のXにおいて前述したものが挙げられる。
【0046】
また、一般式[1]中のRおよびRにおける、脂環式化水素基としては、シクロアルキル基などが挙げられる。
【0047】
また、シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロオクタデシル基、2-インデノ基といったシクロアルキル基が挙げられる。
【0048】
また、一般式[1]中のRおよびRにおける、芳香族炭化水素基としては、単環、縮合環、環集合芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0049】
ここで、単環芳香族炭化水素基としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、2,4-キシリル基、p-クメニル基、メシチル基等の単環芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0050】
また、縮合環芳香族炭化水素基としては、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アンスリル基、2-アンスリル基、5-アンスリル基、1-フェナンスリル基、9-フェナンスリル基、1-アセナフチル基、2-アズレニル基、1-ピレニル基、2-トリフェニレル基等の縮合環芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0051】
また、環集合芳香族炭化水素基としては、o-ビフェニリル基、m-ビフェニリル基、p-ビフェニリル基等の環集合芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0052】
また、一般式[1]中のRおよびRとして、好ましくは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素、または、単環芳香族炭化水素基であり、より好ましくは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素であり、さらに好ましくは、炭素数4以上の脂肪族炭化水素基である。
【0053】
また、一般式[2]中のR~Rはそれぞれ独立に、水素原子、または、脂肪族炭化水素基を表す。
【0054】
ここで、脂肪族炭化水素基としては、一般式[1]中のRおよびRにおいて前述したものが挙げられる。
【0055】
本発明で用いられる一般式(1)で表される化合物の代表例を、以下の表1に示すが、本発明は、この代表例に限定されるものではない。
【0056】
表1
【表1】
【0057】
【表1】
【0058】
【表1】
【0059】
【表1】
【0060】
【表1】
【0061】
【表1】
【0062】
【表1】
【0063】
【表1】
【0064】
【表1】
【0065】
【表1】
【0066】
【表1】
【0067】
【表1】
【0068】
本発明の熱電変換複合体の形成に用いる一般式(1)で表される化合物は、2価以上のカルボン酸またはその誘導体と、β位にヒドロキシ基を1つ以上有する1級または2級アミンとをアミド化することで製造することができ、その具体的な合成は、公知の方法(特開2013-151639号公報等)に従った。一般式(1)で表される化合物は、水、有機溶剤に可溶である。
【0069】
ここでの有機溶剤としては、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン、オクタン、シクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、などが挙げられる。
【0070】
本発明において化合物(B)として用いられるエポキシ基含有化合物としては、分子内にエポキシ基を含有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。例えば、分子内にエポキシ基を1個有する化合物としては、N-グリシジルフタルイミド、グリシドール、グリシジル(メタ)アクリレート等の化合物が挙げられる。これらは、次に例示する分子内にエポキシ基を2個以上有する化合物と、必要に応じて併用することで、硬化物の架橋密度を制御する目的で好適に用いることができる。また、エポキシ基を分子内に2個以上含有する化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA・エピクロロヒドリン型エポキシ樹脂、ビスフェノールF・エピクロロヒドリン型エポキシ樹脂、ビスフェノールS・エピクロロヒドリン型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD・エピクロロヒドリン型エポキシ樹脂、ビフェノール・エピクロロヒドリン型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体もしくはプロピレンオキシド付加体のエピクロロヒドリン型エポキシ樹脂、グリセリン・エピクロロヒドリン付加物のポリグリシジルエーテル、ナフタレンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ポリブタジエンジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジフェニルスルホンジグリシジルエーテル、ジヒドロキシベンゾフェノンジグリシジルエーテル、ビフェノールジグリシジルエーテル、ジフェニルメタンジグリシジルエーテル、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスクレゾールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、特開2004-156024公報、特開2004-315595号公報、特開2004-323777号公報に開
されている柔軟性に優れたエポキシ化合物や、下記式(a)~(c)で表される構造のエポキシ化合物等が挙げられる。
【0071】
式(a)
【化3】
【0072】
式(b)
【化4】
【0073】
式(c)
【化5】
【0074】
さらに、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレートトリグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、三菱化学株式会社製「エピコート1031S」、「エピコート1032H60」、「エピコート604」、「エピコート630」の他、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、特開2001-240654号公報に開示されているジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、エチレングリコール・エピクロルヒドリン付加物のポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、等が挙げられる。また、エポキシ基以外の他の熱硬化性基を併有する化合物も使用できる。例えば、特開2001-59011号公報や、2003-48953号公報に開示されているシラン変性エポキシ樹脂が挙げられる。
【0075】
特に、三菱化学株式会社製「エピコート1031S」、「エピコート1032H60」、「エピコート604」、「エピコート630」は、多官能であり、かつ、耐熱性に優れるため、本発明において好ましく、また、脂肪族系のエポキシ化合物や、特開2004-156024号公報、特開2004-315595号公報、特開2004-323777号公報記載のエポキシ化合物は、架橋物の柔軟性に優れるため、好ましい。また、特開2001-240654号公報記載のジシクロペンタジエン型エポキシ化合物や、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール・エピクロロヒドリン型エポキシ樹脂、などは、本発明において、熱硬化性および吸湿性や耐熱性をはじめとする架橋物の耐久性の面で優れており好ましい。
【0076】
本発明において化合物(B)として用いられるイソシアネート基含有化合物としては、イソシアネート基を分子内に有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。具体的には、ジイソシアネート化合物としては、例えば、炭素数4~50の芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート等を挙げることができる。
【0077】
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、1,3-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-トルイジンジイソシアネート、2,4,6-トリイソシアネートトルエン、1,3,5-トリイソシアネートベンゼン、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’,4”-トリフェニルメタントリイソシアネート等を挙げることができる。
【0078】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0079】
芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、例えばω,ω’-ジイソシアネート-1,3-メチルベンゼン、ω,ω’-イソシアネート-1,4-メチルベンゼン、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼン、1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0080】
脂環族ジイソシアネートとしては、例えば3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート[別名:イソホロンジイソシアネート]、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等を挙げることができる。
【0081】
分子中にイソシアネート基を1個または3個以上有するイソシアネート基含有化合物としては、具体的には、1分子中に1個のイソシアネート基を有する単官能イソシアネートとして、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1-ビス[(メタ)アクリロイルオキシメチル]エチルイソシアネート、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、イソプロペニル-α,α-メチルベンジルイソシアネート等が挙げられる。また、1,6-ジイソシアナトヘキサン、ジイソシアン酸イソホロン、ジイソシアン酸4,4’-ジフェニルメタン、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、2,4-ジイソシアン酸トリレン、ジイソシアン酸トルエン、2,4-ジイソシアン酸トルエン、ジイソシアン酸ヘキサメチレン、ジイソシアン酸4-メチル-m-フェニレン、ナフチレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、シクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、p-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等のジイソシアン酸エステル化合物と水酸基、カルボキシル基、アミド基含有ビニルモノマーとを等モルで反応せしめた化合物もイソシアン酸エステル化合物として使用することができる。
【0082】
また、1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネートとしては、例えば、芳香族ポリイソシアネート、リジントリイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート等が挙げられ、前述したジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、水と反応したビュウレット体、イソシアヌレート環を有する3量体が挙げられる。
【0083】
本発明において化合物(B)として用いられるブロック化イソシアネート基含有化合物としては、イソシアネート基がε-カプロラクタムやMEKオキシム等で保護されたイソシアネート基含有化合物であればよく、特に限定されるものではない。具体的には、上記イソシアネート基含有化合物のイソシアネート基を、ε-カプロラクタム、MEKオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ピラゾール、フェノール等でブロックしたものなどが挙げられる。
【0084】
本発明において、化合物(B)は、一種のみを単独で用いてもよいし、複数を併用しても良い。化合物(B)の使用量は、本発明の硬化性樹脂組成物の用途等を考慮して決定すればよく、特に限定されるものではないが、カルボキシル基を有する導電性炭素材料(A)100質量部に対して、0.1質量部~100質量部の割合で加えることが好ましく、0.1質量部~10質量部の割合で加えることがより好ましい。化合物(B)を使用することにより、カルボキシル基を有する炭素材料の間を架橋することができるので、少量でありながら架橋後の熱電変換複合体の強度を高めることが出来る。そのため、柔軟性にも優れる上に高い熱電変換性能を発現することができる。
【0085】
本発明の熱電変換複合体を得る一例を説明する。少なくとも、カルボキシル基を有する炭素材料(A)と、下記一般式(1)で表される化合物、エポキシ基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、およびブロック化イソシアネート基含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種である化合物(B)と、溶剤とから成る組成物(C)を調整し、その組成物を各種基材へ塗工後に溶剤を蒸発乾燥させ、加熱等で架橋を進行させて得る方法が挙げられる。
【0086】
組成物(C)に使用可能な溶剤の一例として、水、及び以下の各種溶剤が挙げられる。
アルコール類:メタノール、エタノール、プロパノール、及びイソプロパノールなど。
ケトン類:アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトンなど。
炭酸エステル類:プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、及びメチルプロピルカーボネートなど。
エステル類:プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、メチルアセテート、及びエチルアセテート。
エーテル類:エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、及びグリコールエーテルなど。
スルホキシド類:ジメチルスルホキシドなど。
【0087】
組成物(C)は、さらに、必要に応じて、非反応性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、併用する硬化剤、光開始剤、増感剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、無機フィラー、接着付与剤、などの添加剤を加えてもよい。
【0088】
組成物(C)の塗工方法としては、スピンコート法、スプレー法、ローラーコート法、グラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法、ロールコート法、カーテンコート法、バーコート法、インクジェット法、ディスペンサー法、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷等の各種手段を用いた方法が挙げられる。塗工する厚み、及び組成物(C)の粘度等に応じて、上記方法から適宜選択することができる。
【0089】
組成物(C)の塗工によって得る膜の厚さは、特に限定されるものではないが、一定以上の厚みを有するように形成されることが好ましい。熱電特性の点からの膜厚は、0.1~200μmの範囲が好ましく、1~100μmの範囲が好ましく、1~50μmの範囲がさらに好ましい。
【0090】
組成物(C)を、各種基材の片面または両面に塗布し、もしくは金型等を用いて成形後、必要に応じて加熱乾燥後、100~200℃において加熱硬化させることで目的の硬化物を得ることができる。基材としては、たとえば、ガラス、セラミック、ポリカーボネート、ポリエステル、ウレタン、アクリル、ポリアセテートセルロース、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ポリビニルアルコール、ステンレス等の各種金属、などが挙げられる。
【0091】
組成物(C)の乾燥物の架橋を行う温度として、好ましくは、100℃~180℃である。このとき、化合物(B)の全体の半分以上の重量を前記一般式(1)の化合物とする場合、低温で架橋反応を行うことが出来る。この場合、150℃以上高温に耐えられない基材の利用が可能であり、組成物(C)の乾燥物の架橋を行う温度として、100℃~140℃の温度が好ましい。
【0092】
組成物(C)に、さらに光酸発生剤を加えることで、紫外線による架橋を行うこともできる。
【0093】
本発明の熱電変換複合体は、炭素材料(A)間が化合物(B)で架橋されることによる強靭さ故にヒートサイクル性や曲げ性に優れることが期待され、耐久性やフレキシブル性に優れた熱電変換素子が提供可能であると期待できる。
【実施例
【0094】
以下に実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0095】
実施例中のNMR測定はすべて、JEOL社製のJNM-ECX400Pを用いてH-NMR測定をDMSO-d6中で行った。
【0096】
実施例中のIR測定はすべて、PerkinElmer社製のSpectrum Oneを用いて行った。
【0097】
以下、合成例におけるカルボキシル基を有する炭素材料は、以下の方法で合成した。
【0098】
カルボキシル基を有する炭素材料(1)の合成
攪拌機、温度計、滴下装置を備えた反応容器に、60%硝酸200部、濃硫酸800部、多層カーボンナノチューブ25部を入れ、60℃で8時間加熱攪拌した。その後、室温まで冷却し、10リットルの氷水中に投入した。析出した多層カーボンナノチューブを吸引濾別し、さらに20リットルのイオン交換水で洗浄して、19部のカルボキシル基を有する炭素材料(1)を得た。出来たカルボキシル基を有する炭素材料(1)のカルボキシル基の導入量はESCA分析で確認し、14.5mol%であった。
【0099】
カルボキシル基を有する炭素材料(2)の合成
攪拌機、温度計、滴下装置を備えた反応容器に、60%硝酸100部、濃硫酸400部、単層カーボンナノチューブ10部を入れ、60℃で8時間加熱攪拌した。その後、室温まで冷却し、5リットルの氷水中に投入した。析出した多層カーボンナノチューブを吸引濾別し、さらに10リットルのイオン交換水で洗浄して、8部のカルボキシル基を有する炭素材料(2)を得た。出来たカルボキシル基を有する炭素材料(2)のカルボキシル基の導入量はESCA分析で確認し、10.5mol%であった。
【0100】
カルボキシル基を有する炭素材料(3)の合成
攪拌機、温度計、滴下装置を備えた反応容器に、60%硝酸100部、濃硫酸400部、ケッチェンブラック(EC-600JD)5部を入れ、60℃で8時間加熱攪拌した。その後、室温まで冷却し、5リットルの氷水中に投入した。析出したケッチェンブラック(EC-600JD)を吸引濾別し、さらに10リットルのイオン交換水で洗浄して、3部のカルボキシル基を有する炭素材料(3)を得た。出来たカルボキシル基を有する炭素材料(3)のカルボキシル基の導入量はESCA分析で確認し、18.0mol%であった。
【0101】
以下、一般式(1)で表される化合物の合成例を示す。尚、化合物番号は表1における化合物番号を示す。
【0102】
合成例1 化合物(1)の合成
攪拌機、温度計、滴下装置、ディーンスターク管、還流冷却器、ガス導入管を備えた反応容器に、スベリン酸ジメチル(オクタン二酸ジメチル)225部、ジエタノールアミン234部、水酸化カリウム10部、トルエン300部を入れ、ディーンスターク管にはトルエンを満たし、窒素を吹き込みながら加熱還流させ、共沸によって生成する水を除去した。4時間後、トルエンをすべて除去し、H-NMR測定、IR測定を行って目的物が生成していることを確認した。50℃まで降温した後、得られた均一な淡黄色透明の溶液を取り出した。
【0103】
合成例2 化合物(2)の合成
窒素雰囲気下、攪拌機、温度計、ディーンスターク管、還流冷却器、減圧装置を備えた反応容器に、アゼライン酸ジメチル(ノナン二酸ジメチル)1,000mmol(216.27g)、ジエタノールアミン2,000mmol(210.28g)、ナトリウムエトキシド50mmol(3.40g)を入れ、常圧状態で内温が90℃になるまで加熱攪拌した。内温が90℃に達したら、500hPaの減圧状態にし、100℃で2時間加熱攪拌し、生成するメタノールを留去しながら反応を進行させた。2時間後、200hPaの減圧状態でさらに1時間加熱攪拌し、残存するメタノールを全て留去した。H-NMR測定、IR測定を行って目的物が生成していることを確認した。50℃まで降温した後、得られた均一な淡黄色透明の溶液を取り出した。
【0104】
合成例9 化合物(3)の合成
窒素雰囲気下、攪拌機、温度計、ディーンスターク管、還流冷却器、減圧装置を備えた反応容器に、セバシン酸ジメチル(デカン二酸ジメチル)1,000mmol(230.30g)、ジエタノールアミン2,000mmol(210.28g)、ジイソプロピルエチルアミン50mmol(6.46g)を入れ、常圧状態で内温が90℃になるまで加熱攪拌した。内温が90℃に達したら、500hPaの減圧状態で2時間加熱攪拌し、生成するメタノールを留去しながら反応を進行させた。2時間後、200hPaの減圧状態でさらに1時間加熱攪拌し、残存するメタノールを全て留去した。H-NMR測定、IR測定を行って目的物が生成していることを確認した。50℃まで降温した後、得られた均一な淡黄色透明の溶液を取り出した。
【0105】
化合物4~50については、上記合成例1と同様の操作により合成した。
【0106】
実施例1
表2に示す様に、カルボキシル基を有する炭素材料(A)としてカルボキシル基を有する炭素材料(1)と、化合物(B)として表1の化合物(1)とを質量比が95:5になるようにメチルエチルケトン(MEK)に加え超音波で40分処理して組成物(C)を作製した。
【0107】
得られた組成物(C)に関し、凝集物を目視で確認し、無ければ〇、僅かに有れば△、明らかに有れば×として、結果を表2に記載した。
【0108】
この組成物(C)をアプリケーターでポリイミドフィルムに塗工し、120℃、150℃、180℃のオーブンにそれぞれ10分間入れて塗膜を架橋させた。架橋した塗膜(熱電変換複合体)に対し、鉛筆硬度試験を実施した。結果に関し、5B以下を××、4B~2Bを×、B~Hを△、2H以上を〇とし表2に記載した。
【0109】
また、120℃、10分間加熱した塗膜の熱電性能に関してPF(=S・σ)を算出し評価した。
ここで、Sはゼーベック係数(V/K)、σは導電率(S・m)である。
ゼーベック係数は、アルバック理工製のZEM-2を用いて、測定温度が80℃(温度差の中央値)となるようにして求めた。
塗膜の導電率は、別途膜厚を計測した上で株式会社三菱化学アナリテック社製のロレスタGX MCP-T700を用いて測定した。
PFの算出結果を表2に示すが、この際、以下の様に分類をした。
◎:PFが10μW/(mK)以上である。
○:PFが1以上10μW/(mK)未満である。
×:PFが1μW/(mK)未満である。
【0110】
また、120℃、10分間加熱した得られた塗膜を幅5mm×長さ40mmの短冊状に基材であるポリイミドフィルムと一緒に複数本切り出した。粘着層を有するポリイミドフィルムの粘着面に、前記の短冊4本を5mm間隔でほぼ平行になるように貼付した。貼付に際しては、粘着面に短冊の基材であるポリイミドフィルムが接し、短冊の塗膜(熱電変換複合体)が上を向くようにした。
次いで、導電性ペーストのドータイトD-500(藤倉化成株式会社制)を用いて、前記短冊の1つの端部の塗膜と、隣接する短冊の反対側の端部の塗膜とを電気的に接続することで単位熱電対を形成した。順次4本の短冊の端部の塗膜を同様に電気的に直列に接続し、熱電変換素子を作製した。
次いで、前記の熱電変換素子の片側に配置される複数の電気的接続部分を温接点としてヒーターと接触させて、室温で発電実験を行った。温接点温度が105℃の場合、もう一方の複数の電気的接続部分すなわち冷接点は25℃であって室温とほぼ同じとなり、十分な温度差が2つの接点間で得られた。このときの電流-電圧特性から求めた最大出力電力の相対値を表2に示す。
【0111】
実施例2~73
カルボキシル基を有する炭素材料(A)、化合物(B)として表2に示す材料を用いた以外は、実施例1と同様に試験を行った。結果を表2に示す。
【0112】
表2中の化合物(B)に関する記載は以下に従うものとする。
828:三菱化学株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ化合物
EOCN-102S:日本化薬株式会社製、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂
EPPN-201L:日本化薬株式会社製、フェノールノボラック型エポキシ樹脂
YH434L:東都化成株式会社製、四官能ポリグリシジルアミン
オンコート1040:ナガセケムテックス株式会社製、フルオレン型多官能エポキシ樹脂
BL3175:住化バイエルウレタン株式会社製、イソシアヌレート型ブロックイソシアネート
B80T:旭化成ケミカルズ株式会社製、ブロックイソシアネート
PVDF:ポリフッ化ビニリデン
【0113】
比較例1~4
カルボキシル基を有する炭素材料(A)、そして、化合物(B)として、表2に示す材料を用いた以外は、実施例1と同様に試験を行った。ただし、架橋反応が見込めない場合でも一律に検討を行った。結果を表2に示す。
【0114】
表2
【表2】
【0115】
【表2】
【0116】
【表2】
【0117】
実施例53~73の120℃オーブン加熱での鉛筆硬度は低硬度であったが、実施例1~73は他全ての試験において良好であることが確認された。
【0118】
比較例1~3は、カルボキシル基を有しない炭素材料として、多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブを使用した例であるが、溶剤に対する分散性が乏しく、凝集物が大量に存在したために塗工膜が不連続となり膜の強度も十分ではなかった。熱電特性も膜が不連続なために発現しなかったと考えられる。
【0119】
比較例4は、カルボキシル基を有する炭素材料(1)に、架橋性の無い樹脂だけを加えた例であるが、カルボキシル基を有する炭素材料(A)が優れた分散性を有するため、連続した塗工膜が得られたが、架橋反応が無いために膜強度が十分では無く、加えて炭素材料間の相互作用も弱いために熱電性能も低い結果となった。
【0120】
以上のことから、カルボキシル基を有する炭素材料(A)と、下記一般式(1)で表される化合物、エポキシ基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、およびブロック化イソシアネート基含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種である化合物(B)との架橋物である熱電変換複合体は、強度や熱電性能に優れ、熱電素子としても有用に利用できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の熱電変換複合体は、強度や熱電性能に優れ、それを用いた熱電素子は、体温で作動する腕時計や僻地用電源、宇宙用電源等に利用できる。また、発生した起電圧を利用した温度センサーとしても利用することが可能である。