(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】蓋部材用ポリエチレン樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
B65D 41/04 20060101AFI20221114BHJP
C08G 63/60 20060101ALI20221114BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20221114BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20221114BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
B65D41/04
C08G63/60
C08L23/04
C08L67/04
C08L101/12
(21)【出願番号】P 2017164558
(22)【出願日】2017-08-29
【審査請求日】2020-03-18
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】石津 忍
(72)【発明者】
【氏名】太田 晃仁
(72)【発明者】
【氏名】木原 正博
【合議体】
【審判長】山崎 勝司
【審判官】柳本 幸雄
【審判官】藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-99998(JP,A)
【文献】特表2006-511632(JP,A)
【文献】特開2003-12908(JP,A)
【文献】特開平4-65455(JP,A)
【文献】特開平4-81451(JP,A)
【文献】特開2001-11305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D41/04
C08G63/60
C08L23/04
C08L101/12
C08L67/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン樹脂100質量部に対して、結晶融解温度が170~235℃である液晶ポリマー3~75質量部を含有
し、JIS K 7126-2に準拠して測定される酸素ガス透過度が24cm
3
/m
2
・24h・atm以下である蓋部材用ポリエチレン樹脂組成物であって、ここで、該液晶ポリマーは、式(I)~(IV)
【化1】
[式中、
Ar
1およびAr
2は、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、全芳香族液晶ポリエステル中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たすものである:
0.5≦p/q≦2.5
2≦r≦15、および
2≦s≦15]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルであ
る、蓋部材用ポリエチレン樹脂組成物。
【請求項2】
曲げ弾性率が1.3~10GPaであり、かつ引張伸度が0.5~10%である、請求項1に記載の蓋部材用ポリエチレン樹脂組成物。
【請求項3】
Ar
1およびAr
2が、互いに独立して、式(1)~(4)
【化2】
で表される芳香族基からなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項1または2に記載の蓋部材用ポリエチレン樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の蓋部材用ポリエチレン樹脂組成物から構成される蓋部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン樹脂と特定の液晶ポリマーを含有する蓋部材用ポリエチレン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、清涼飲料水などの容器の口部に、ネジ部などの係合部を設けて容器を密封する蓋部材の材料としてポリプロピレン樹脂が使用されている。
【0003】
近年、成形サイクルを短縮して生産効率を上げる要求が高くなっていることから、ポリプロピレン樹脂に比べて低融点であるポリエチレン樹脂が使用されるようになっている。例えば、特定のメルトフローレートおよび流動性インデックスを有するポリエチレン樹脂組成物からなるボトルキャップが提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、ポリエチレン樹脂は剛性や靱性などの機械強度が十分でなく、キャップ成形時のコア型抜き工程や使用時のネジ締めにおいてネジ部が変形するおそれがあった。また、ポリエチレン樹脂はガスバリア性に劣るため、容器内容物が劣化するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ポリエチレン樹脂と比較して剛性や靱性などの機械強度に優れ、かつガスバリア性が改良された蓋部材用ポリエチレン樹脂組成物を提供することにある。
【0007】
本発明者らは、ポリエチレン樹脂の機械強度およびガスバリア性の改良について鋭意検討した結果、ポリエチレン樹脂に特定の結晶融解温度を有する液晶ポリマーを含有させることによって、剛性や靱性などの機械物性が改善され、かつガスバリア性に優れたポリエチレン樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、ポリエチレン樹脂100質量部に対して、結晶融解温度が250℃以下である液晶ポリマー1~100質量部を含有する蓋部材用ポリエチレン樹脂組成物に関する。
本発明の好ましい態様は以下を包含する。
〔1〕ポリエチレン樹脂100質量部に対して、結晶融解温度が250℃以下である液晶ポリマー1~100質量部を含有する蓋部材用ポリエチレン樹脂組成物であって、JIS K 7126-2に準拠して測定される酸素ガス透過度が24cm
3
/m
2
・24h・atm以下である、蓋部材用ポリエチレン樹脂組成物。
〔2〕曲げ弾性率が1.3GPa以上であり、かつ引張伸度が0.5%以上である、〔1〕に記載の蓋部材用ポリエチレン樹脂組成物。
〔3〕液晶ポリマーが、式(I)~(IV)
[化1]
[式中、
Ar
1
およびAr
2
は、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、全芳香族液晶ポリエステル中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たすものである:
0.5≦p/q≦2.5
2≦r≦15、および
2≦s≦15]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルである、〔1〕または〔2〕に記載の蓋部材用ポリエチレン樹脂組成物。
〔4〕Ar
1
およびAr
2
が、互いに独立して、式(1)~(4)
[化2]
で表される芳香族基からなる群から選択される1種または2種以上を含む、〔3〕に記載の蓋部材用ポリエチレン樹脂組成物。
〔5〕〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の蓋部材用ポリエチレン樹脂組成物から構成される蓋部材。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、剛性や靱性などの機械強度およびガスバリア性に優れるため、清涼飲料水などの容器を密封する蓋部材に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の蓋部材用ポリエチレン樹脂組成物は、ポリエチレン樹脂と液晶ポリマーを必須成分として含有する。
【0011】
本発明に使用するポリエチレン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0012】
これらの中でも、得られるポリエチレン樹脂組成物のガスバリア性の観点から、高密度ポリエチレンが好ましい。
【0013】
本発明に使用するポリエチレン樹脂は、エチレンを主原料とするエチレン重合体であり、エチレン単独重合体であってもよく、あるいは、エチレンと好ましくは炭素原子数が3~20のα-オレフィンとの共重合体であってもよい。
【0014】
炭素原子数3~20のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-オクタデセンおよび1-エイコセンなどが挙げられる。
【0015】
炭素原子数3~20のα-オレフィンは、単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0016】
エチレンと炭素原子数3~20のα-オレフィンとの共重合体の具体例としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、およびエチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体およびエチレン-1-ブテン-1-オクテン共重合体などが挙げられる。
【0017】
エチレンとα-オレフィンとの共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、また、ブロック共重合体であってもよい。
【0018】
本発明に使用するポリエチレン樹脂は、単一の重合槽で重合した単独のエチレン重合体であってもよく、2種以上のエチレン重合体の混合物であってもよい。混合物は、単軸あるいは多軸の押出機などを用いて溶融混練する方法や、異なる条件の二段階以上の重合槽で多段的に重合する方法などによって得ることができる。
【0019】
エチレンとα-オレフィンとの共重合体において、α-オレフィンから与えられる構成単位の含有量は、得られるポリエチレン樹脂組成物の熱安定性の点で、共重合体中に5モル%以下であることが好ましく、2モル%以下であることがより好ましい。
すなわち、ポリエチレン樹脂中におけるエチレン構成単位の含有量は、95モル%以上が好ましく、98モル%以上がより好ましい。
【0020】
本発明に使用するポリエチレン樹脂の製造方法は特に限定されないが、例えば以下に示す方法で製造することができる。
【0021】
ポリエチレン樹脂が高密度ポリエチレンの場合は、例えば、チタン、ジルコニウムなどの遷移金属化合物、マグネシウム化合物からなるチーグラー触媒、酸化クロム系触媒を代表とするフィリップス触媒、ジルコニウム、ハフニウム、チタンなどの遷移金属化合物に少なくとも1つのシクロペンタジエニル基または置換シクロペンタジエニル基を有するメタロセン触媒などの触媒を使用して、気相法、溶液法、高圧法、スラリー法などのプロセスで、エチレンまたはエチレンとα-オレフィンとを(共)重合させて製造する。
【0022】
また、ポリエチレン樹脂が直鎖状低密度ポリエチレンの場合は、例えば、前記チーグラー触媒、前記フィリップス触媒、前記メタロセン触媒などの触媒を使用して、気相法、溶液法、高圧法、スラリー法などのプロセスで、エチレンを重合させ、またはエチレンとα-オレフィンとを共重合させるなどして製造する。
【0023】
また、ポリエチレン樹脂が低密度ポリエチレンの場合は、例えば、パーオキサイドなどのラジカル発生剤を重合開始剤として、高圧ラジカル重合法などのプロセスで、エチレンを重合させて、またはエチレンとα-オレフィンとを共重合させて製造する。
【0024】
上記の重合は、回分式で行ってもよく、連続式で行ってもよい。また、一段階で製造する方法であってもよく、異なる条件の二段階以上の多段階で製造する多段重合法であってもよい。
【0025】
本発明に使用する液晶ポリマーとは、当業者にサーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれる、異方性溶融相を形成する液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステルアミドである。
【0026】
液晶ポリマーの異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわち、ホットステージに載せた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0027】
本発明に使用する液晶ポリマーを構成する繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位およびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0028】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸である4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸など、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では4-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が、得られる液晶ポリマーの特性や結晶融解温度を調整しやすいという点から好ましい。
【0029】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではテレフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸が、得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0030】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジオールであるハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではハイドロキノンおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニルが、重合時の反応性、得られる液晶ポリマーの特性などの点から好ましい。
【0031】
芳香族オキシジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ヒドロキシジカルボン酸である3-ヒドロキシ-2,7-ナフタレンジカルボン酸、4-ヒドロキシイソフタル酸、および5-ヒドロキシイソフタル酸など、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0032】
芳香族アミノオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ヒドロキシアミンである4-アミノフェノール、3-アミノフェノール、4-アミノ-1-ナフトール、5-アミノ-1-ナフトール、8-アミノ-2-ナフトール、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0033】
芳香族ジアミノ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジアミンである1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレンなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0034】
芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、アミノカルボン酸である4-アミノ安息香酸、3-アミノ安息香酸、6-アミノ-2-ナフトエ酸など、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0035】
本発明に使用する液晶ポリマーは本発明の目的を損なわない範囲で、脂肪族ジヒドロキシ繰返し単位、脂肪族ジカルボニル繰返し単位やチオエステル結合を含むものであってもよい。チオエステル結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰り返し単位を与える単量体の合計量を含む全体に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0036】
脂肪族ジヒドロキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、脂肪族ジオールであるエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、ならびにこれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオキシ繰返し単位を含有するポリマーを、前記の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールおよびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させることによっても、脂肪族ジオキシ繰返し単位を含む液晶ポリマーを得ることができる。
【0037】
脂肪族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸であるシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、フマル酸、マレイン酸およびヘキサヒドロテレフタル酸などの脂肪族ジカルボン酸、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0038】
これらの繰り返し単位を組み合わせた共重合体には、単量体の構成や組成比、共重合体中での各繰り返し単位のシークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用する液晶ポリマーは異方性溶融相を形成する共重合体に限られる。
【0039】
本発明に使用する液晶ポリマーは、2種以上の液晶ポリマーをブレンドしたものであってもよい。
【0040】
本発明に使用する液晶ポリマーは、結晶融解温度が250℃以下であり、好ましくは235℃以下であり、さらに好ましくは225℃以下である。本発明に使用する液晶ポリマーは、結晶融解温度が、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。
【0041】
液晶ポリマーの結晶融解温度が250℃以下であると、成形加工の際のポリエチレン樹脂の熱劣化が抑制されるとともに、ポリエチレン樹脂組成物中に液晶ポリマーが均一に分散し、本発明の目的である剛性や靱性などの機械強度およびガスバリア性に優れたポリエチレン樹脂組成物が得られる。
【0042】
結晶融解温度が250℃を超える液晶ポリマーを使用した場合、ポリエチレン樹脂との溶融混練を高温下で行う必要あり、ポリエチレン樹脂が劣化し、上記特性を有するポリエチレン樹脂組成物が得られない。
【0043】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「結晶融解温度」とは、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter、以下DSCと略す)によって、昇温速度20℃/分で測定した際の結晶融解ピーク温度から求めたものである。より具体的には、液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの結晶融解温度とする。測定用機器としては、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)Exstar6000などを使用することができる。
【0044】
本発明に使用する液晶ポリマーの溶融粘度(キャピラリーレオメーターで測定、測定温度は結晶融解温度+10℃~結晶融解温度+40℃、1000s-1)は本発明の目的であるポリエチレン樹脂組成物の剛性、靱性およびガスバリア性を向上させる点から、1~1000Pa・sが好ましく、5~300Pa・sがより好ましく、10~200Pa・sがさらに好ましい。
【0045】
本発明に使用する液晶ポリマーは、ポリエチレン樹脂の加工温度(250℃以下)でも溶融流動可能であるため、溶融加工の際にポリエチレン樹脂を熱劣化させることなくポリエチレン樹脂組成物の流動性を向上させ、また、上記溶融粘度の範囲において容易に繊維状態で分散して、剛性、靱性およびガスバリア性を向上させるものと推定される。
【0046】
本発明に使用する液晶ポリマーは、ペンタフルオロフェノール中で対数粘度を測定することが可能である。本発明に使用する液晶ポリマーは、ペンタフルオロフェノール(濃度0.1g/dl)中、温度60℃で測定した場合の対数粘度が0.3dl/g以上であるものが好ましく、0.5~10dl/gであるものがより好ましく、1~8dl/gであるものがさらに好ましい。
【0047】
本発明に使用する液晶ポリマーとしては、繰返し単位が芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位および芳香族ジオキシ繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステルが好ましい。
【0048】
繰返し単位中にエチレングリコールなどの脂肪族基を含む半芳香族液晶ポリエステルと使用した場合、所望のガスバリア性が得られない傾向がある。
本発明に使用する結晶融解温度が250℃以下の液晶ポリマーとしては、式(I)~(IV)で表される繰返し単位を有する全芳香族液晶ポリエステルがより好適である。
【化1】
[式中、
Ar
1およびAr
2は、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、全芳香族液晶ポリエステル中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たすものである:
0.5≦p/q≦2.5
2≦r≦15、および
2≦s≦15。]
【0049】
上記式(I)に係る組成比p(モル%)と式(II)に係る組成比q(モル%)のモル比(p/q)は、0.6~1.8がより好ましく、0.8~1.6がさらに好ましい。
【0050】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、pとqの合計の組成比は、70~96モル%が好ましく、76~90モル%がより好ましい。
【0051】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、式(I)に係る組成比pと式(II)に係る組成比qは、それぞれ、32~54モル%が好ましく、35~48モル%がよりが好ましく、38~45モル%がさらに好ましい。
【0052】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルは、式(I)および式(II)で表される繰り返し単位を、少なくとも上記のモル比(p/q)、および場合により上記のpとqの合計の組成比および/またはpとqのそれぞれの組成比(モル%)で含むことにより、250℃以下である結晶融解温度を示す。
【0053】
また、本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、式(III)に係る組成比rと式(IV)に係る組成比sは、それぞれ、2~15モル%が好ましく、5~13モル%がより好ましい。rとsは、等モル量であるのが好ましい。
【0054】
上記の繰返し単位において、例えばAr1(またはAr2)が2種以上の2価の芳香族基を表すとは、式(III)(または(IV))で表される繰返し単位が全芳香族液晶ポリエステル中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。この場合、式(III)に係る組成比r(または式(IV)に係る組成比s)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0055】
式(I)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸およびこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0056】
式(II)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸およびこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0057】
式(III)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0058】
式(IV)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジオールであるハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0059】
また、本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルのなかでも、式(III)および式(IV)で表される繰返し単位に係るAr
1およびAr
2が、互いに独立して、式(1)~(4)で表される芳香族基からなる群から選択される1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリエステルが、さらに好適に使用される。
【化2】
【0060】
これらの中でも、式(III)で表される繰返し単位としては、式(1)および式(4)で表される芳香族基が、すなわち、これら繰返し単位を与える単量体としては、テレフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が、得られる全芳香族液晶ポリエステルの機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことから特に好ましい。
【0061】
また、式(IV)で表される繰返し単位としては、式(1)および式(3)で表される芳香族基が、すなわち、これら繰返し単位を与える単量体としては、ハイドロキノンおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニルならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が、重合時の反応性および得られる全芳香族液晶ポリエステルの機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことから特に好ましい。
【0062】
上記の繰返し単位において、例えばAr1(またはAr2)が2種以上の芳香族基を含むとは、式(III)(または(IV))で表される繰返し単位が全芳香族液晶ポリエステル中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。この場合、式(III)に係る組成比r(または式(IV)に係る組成比s)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0063】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルにおいて繰返し単位の組成比の合計[p+q+r+s]が100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲において、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0064】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルを構成する他の繰返し単位を与える単量体としては、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシジカルボン酸、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールおよびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0065】
他の芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、例えば、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0066】
他の繰返し単位を与える単量体である芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシジカルボン酸、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオールおよび芳香族メルカプトフェノールの具体例については、それぞれ、上記の本発明に使用する液晶ポリマーを構成する繰返し単位を与える単量体として述べたものと同様である。
【0067】
これらの他の単量体成分から与えられる繰返し単位の組成比は、繰返し単位全体において、10モル%以下であるのが好ましい。
【0068】
以下、本発明に使用する液晶ポリマーの製造方法について説明する。
本発明に使用する液晶ポリマーの製造方法には特に限定はなく、前記の単量体成分によるエステル結合またはアミド結合を形成させる公知の重縮合法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0069】
溶融アシドリシス法とは、本発明において用いる液晶ポリマーを製造するのに適した方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、反応を継続することにより溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0070】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0071】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法のいずれの場合においても、液晶ポリマーを製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2~5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体成分のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0072】
単量体の低級アシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時にモノマーに無水酢酸などのアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0073】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法のいずれの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0074】
触媒の具体例としては、例えば、有機スズ化合物(ジブチルスズオキシドなどのジアルキルスズオキシド、ジアリールスズオキシドなど)、有機チタン化合物(二酸化チタン、三酸化アンチモン、アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなど)、カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなど)、ルイス酸(BF3など)、ハロゲン化水素などの気体状酸触媒(HClなど)などが挙げられる。
【0075】
触媒の使用量は、モノマー質量に対し10~1000ppmが好ましく、20~200ppmがより好ましい。
【0076】
このような重縮合反応によって得られた液晶ポリマーは、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工され、ポリエチレン樹脂とのブレンドに供される。
【0077】
本発明のポリエチレン樹脂組成物における、液晶ポリマーの含有量は、ポリエチレン樹脂100質量部に対し、1~100質量部であり、好ましくは、3~90質量部、より好ましくは7~80質量部、さらに好ましくは10~75質量部である。
【0078】
液晶ポリマーの含有量が1質量部未満であると、剛性およびガスバリア性の改良効果が十分に得られにくくなる傾向があり、100質量部を超えるとコスト高になるうえに、ポリエチレン樹脂組成物の剛性のさらなる向上が得られにくくなる傾向がある。
【0079】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、さらに、相溶化剤を含有することができる。
【0080】
本発明のポリエチレン樹脂組成物における相溶化剤の含有量は、ポリエチレン樹脂100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、1.5~7質量部がより好ましく、2~5質量部がさらに好ましい。
【0081】
相溶化剤の添加量が1質量部未満であると相溶性向上による剛性および靱性のさらなる改良効果が得られにくくなる傾向があり、10質量部を超えると流動性および成形加工時の熱安定性が低下する傾向がある。
【0082】
本発明に使用する相溶化剤は、樹脂組成物を構成する各樹脂の相の界面に存在し、それらの相間の界面張力を低下させ、相溶性を向上させる機能を有するものが使用できる。相溶化剤の具体例は、特に限定されないが、例えば、無水マレイン酸グラフトポリオレフィン系共重合体、無水マレイン酸グラフトポリスチレン系共重合体、ビニルモノマー/無水マレイン酸共重合体、エポキシ基含有ポリオレフィン系共重合体、エポキシ基含有ビニル系ランダムまたはグラフトもしくはブロック共重合体、カルボキシル基含有オレフィン系ランダムまたはグラフト共重合体などが挙げられる。
【0083】
これらの相溶化剤の中でも、エポキシ基、カルボキシル基および酸無水物基からなる群から選択される少なくとも1種により変性された変性ポリオレフィン系共重合体が好ましく、無水マレイン酸グラフトポリオレフィン系共重合体やエポキシ基含有ポリオレフィン系共重合体がより好ましい。
【0084】
無水マレイン酸グラフトポリオレフィン系共重合体の具体例としては、例えば、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン(PP-g-MAH)、無水マレイン酸グラフトエチレン/プロピレンゴム(EPR-g-MAH)および無水マレイン酸グラフトエチレン/プロピレン/ジエンゴム(EPDM-g-MAH)などが挙げられる。
【0085】
無水マレイン酸グラフトポリスチレン系共重合体の具体例としては、例えば、無水マレイン酸グラフトポリスチレン(PS-g-MAH)、無水マレイン酸グラフトスチレン/ブタジエン/スチレン共重合体(SBS-g-MAH)および無水マレイン酸グラフトスチレン/エチレン/ブテン/スチレン共重合体(SEBS-g-MAH)などが挙げられる。
【0086】
ビニルモノマー/無水マレイン酸共重合体の具体例としては、例えば、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン/アクリル酸/無水マレイン酸共重合体およびアクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0087】
エポキシ基含有ポリオレフィン系共重合体の具体例としては、例えば、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート/酢酸ビニル共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体へのポリスチレングラフト共重合体(EGMA-g-PS)、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体へのポリメチルメタクリレートグラフト共重合体(EGMA-g-PMMA)およびエチレン/グリシジルメタクリレート共重合体へのスチレン/アクリロニトリルグラフト共重合体(EGMA-g-AS)などが挙げられる。
【0088】
エポキシ基含有ビニル系ランダムまたはグラフトもしくはブロック共重合体の具体例としては、例えば、グリシジルメタクリレートグラフトポリスチレン(PS-g-GMA)、グリシジルメタクリレートグラフトポリメチルメタクリレート(PMMA-g-GMA)およびグリシジルメタクリレートグラフトポリアクリロニトリル(PAN-g-GMA)などが挙げられる。
【0089】
カルボキシル基含有オレフィン系ランダム共重合体またはグラフト共重合体の具体例としては、例えば、カルボキシル化ポリエチレン、カルボキシル化ポリプロピレン、エチレン/メタクリル酸共重合体(アイオノマー)、スチレン/メタクリル酸共重合体およびスチレン/アクリル酸共重合体などが挙げられる。
【0090】
相溶化剤は、単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0091】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、任意の成分として、さらに無機および/または有機充填材を含有してもよい。
【0092】
本発明のポリエチレン樹脂組成物が含有してもよい無機および/または有機充填材の具体例としては、例えば、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタンなどが挙げられ、これらは単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
これらの中では、タルクおよびガラス繊維が、物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。
【0093】
また、無機および/または有機の充填材は、表面処理をされたものであってもよい。表面処理の方法としては、例えば、充填材表面に表面処理剤を吸着させる方法、溶融混練する際に表面処理剤を添加する方法などが挙げられる。
【0094】
表面処理剤としては、反応性カップリング剤であるシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ボラン系カップリング剤など、潤滑剤である高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などが挙げられる。
【0095】
無機および/または有機充填材の含有量は、ポリエチレン樹脂および液晶ポリマーの合計量100質量部に対して、1~150質量部であることが好ましく、10~100質量部であることがより好ましい。
【0096】
無機および/または有機充填材の含有量が1質量部未満であるとポリエチレン樹脂組成物について剛性の向上効果が得られにくくなる傾向があり、150質量部を超えると流動性が低下する傾向がある。
【0097】
本発明のポリエチレン樹脂組成物には、ポリエチレン樹脂と液晶ポリマーの他に、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の添加剤が添加されてもよい。
【0098】
他の添加剤の具体例としては、例えば、滑剤である高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは、炭素原子数10~25のものをいう)など、離型改良剤であるポリシロキサン、フッ素樹脂など、着色剤である染料、顔料、カーボンブラックなど、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、造核剤であるタルク、有機リン酸塩、ソルビトール類など、アンチブロッキング剤、酸化防止剤であるリン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤など、耐候剤、熱安定剤、中和剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0099】
ポリエチレン樹脂組成物における他の添加剤の合計量は、ポリエチレン樹脂と液晶ポリマーの合計量100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、0.1~3質量部がより好ましい。
【0100】
他の添加剤の合計量が0.01質量部未満であると、添加剤の機能が実現しにくくなる傾向があり、5質量部を超えると、ポリエチレン樹脂組成物の成形加工時の熱安定性が悪くなる傾向がある。
【0101】
また、上記他の添加剤のうち、滑剤、離型剤、アンチブロッキング剤などの添加剤を使用する場合は、ポリエチレン樹脂組成物を作製する際に添加してもよいし、成形加工の際にポリエチレン樹脂組成物のペレット表面に付着させてもよい。
【0102】
本発明のポリエチレン樹脂組成物には、ポリエチレン樹脂と液晶ポリマーの他に、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の樹脂成分が添加されてもよい。
【0103】
他の樹脂成分の具体例としては、例えば、熱可塑性樹脂であるポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどや、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらの樹脂成分は単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0104】
他の樹脂成分を含有する場合、該樹脂成分の含有量は、ポリエチレン樹脂と液晶ポリマーの合計量100質量部に対して0.1~100質量部が好ましく、0.1~80質量部がより好ましい。
【0105】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、ポリエチレン樹脂および液晶ポリマー、ならびに、相溶化剤、無機充填材、他の添加剤または他の樹脂成分を混合し、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機などを用いて、液晶ポリマーの結晶融解温度近傍から結晶融解温度+50℃の温度条件で溶融混練して得ることができる。
【0106】
他の添加剤および他の樹脂成分は、予めポリエチレン樹脂または液晶ポリマーのいずれかに配合しておいてもよく、あるいはポリエチレン樹脂および液晶ポリマーを溶融混練して得られたポリエチレン樹脂組成物を成形する際に配合してもよい。
【0107】
このようにして得られた本発明のポリエチレン樹脂組成物は、ASTM D790に準拠した23℃における曲げ弾性率が、好ましくは1.3GPa以上、より好ましくは1.4GPa以上、さらに好ましくは1.5GPa以上であって、通常は10GPa以下を示し、剛性が優れるという利点を有する。また、本発明のポリエチレン樹脂組成物は、ASTM D638に準拠した23℃における引張伸度が、好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.8%以上、さらに好ましくは1.5%以上であって、通常は10%以下を示し、靱性が優れるという利点を有する。
【0108】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、JIS K7126-2に準拠した酸素ガス透過度が24cm3/m2・24h・atm以下、好ましくは23cm3/m2・24h・atm以下、より好ましくは22cm3/m2・24h・atm以下、さらに好ましくは21cm3/m2・24h・atm以下であって、通常は0.01cm3/m2・24h・atm以上を示し、酸素ガス透過度が小さくガスバリア性に優れるという利点を有する。
【0109】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、射出圧縮成形または圧縮成形などの公知の成形方法により好適に成形することができる。この中でも、成形の容易さ、量産性、コストなどの観点から、射出成形や射出圧縮成形が好ましい。
【0110】
蓋部材としては、容器の口部を密閉できる形態であって、例えば、容器の口部に被さり、内側に係合部(ネジ部、爪状突起、環状突起や環状溝など)を有するキャップやディスクローザーなどを挙げることができる。
【0111】
また、蓋部材は、容器口部の内側に挿入できる蓋部材下部に、係合部(ネジ部、爪状突起、環状突起や環状溝など)が設けられた栓状の形態であってもよい。本発明のポリエチレン樹脂組成物は高いガスバリア性を有するので、蓋部材と容器口部との間に密接部を設けることにより容器の密封状態を得ることができるが、この部分にはさらに高いガスバリア性を示すシール材が設けられてもよい。
【0112】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0113】
実施例中の曲げ弾性率、引張伸度、酸素ガス透過度、結晶融解温度および溶融粘度の測定は以下に記載の方法で行った。
【0114】
(1)曲げ弾性率
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて、シリンダー設定温度250℃、金型温度40℃で、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの短冊状試験片に成形し、これを用いてASTM D790に準拠し、万能試験機(インストロンジャパンカンパニイリミテッド製INSTRON5567)で測定した。曲げ弾性率が高いほど、蓋部材としたときの剛性に優れることを意味する。
【0115】
(2)引張伸度
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて、シリンダー設定温度250℃、金型温度40℃で、ISOダンベル試験片を成形し、これを用いてASTM D638に準拠し、万能試験機(インストロンジャパンカンパニイリミテッド製INSTRON5567)で測定した。引張伸度が大きいほど、蓋部材としたときの靱性に優れることを意味する。
【0116】
(3)酸素ガス透過度
射出成形機(日精樹脂工業(株)製FE80S 12ASE型)を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度40℃で、厚さ1.5mmの100mm角試験片を成形し、これを用いてJIS K 7126-2に準拠し、温度20℃、湿度65%における酸素ガス透過度試験を行った。酸素ガス透過度が小さいほど、蓋部材としたときのガスバリア性に優れることを意味する。
【0117】
(4)結晶融解温度
示差走査熱量計としてセイコーインスツルメンツ(株)製Exstar6000を用い、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持する。次に、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却し、その際に観測される発熱ピークのピークトップの温度を液晶ポリマーの結晶化温度(Tc)とし、さらに、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの結晶融解温度(Tm)とした。
【0118】
(5)溶融粘度
溶融粘度測定装置(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、0.7mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000sec-1の条件下、LCP-1については260℃、LCP-2については350℃での溶融粘度をそれぞれ測定した。
【0119】
実施例において、下記の略号は以下の化合物を表す。
PE:ポリエチレン樹脂
LCP:液晶ポリマー
POB:4-ヒドロキシ安息香酸
BON6:6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
HQ:ハイドロキノン
BP:4,4’-ジヒドロキシビフェニル
TPA:テレフタル酸
【0120】
(ポリエチレン樹脂)
実施例において、ポリエチレン樹脂として以下のものを使用した。
PE:ハイゼックス2200J(プライムポリマー(株)製、高密度ポリエチレン、メルトフローレート 5.2g/10分)
【0121】
(LCPの合成)
[合成例1(LCP-1)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:276.2g(40モル%)、BON6:376.3g(40モル%)、TPA:83.1g(10モル%)およびHQ:55.1g(10モル%)を仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.025倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0122】
窒素ガス雰囲気下に室温から150℃まで1時間かけて昇温し、同温にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留出させつつ210℃まで速やかに昇温し、同温にて30分間保持した。その後、3時間かけて335℃まで昇温した後、30分かけて20mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリマーのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は218℃であり、溶融粘度は260℃で23Pa・sであった。
【0123】
[合成例2(LCP-2)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:323.2g(36モル%)、BON6:48.9g(4モル%)、TPA:323.9g(30モル%)、BP:169.4g(14モル%)およびHQ:114.5g(16モル%)を仕込み、さらに全単量体の水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0124】
窒素ガス雰囲気下に室温から145℃まで1時間かけて昇温し、145℃で30分保持した。次いで、副生する酢酸を留出させつつ350℃まで7時間かけて昇温した後、80分かけて5mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリマーのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は335℃であり、溶融粘度は350℃で20Pa・sであった。
【0125】
[実施例1~4および比較例1~4]
ポリエチレン樹脂、LCP-1およびLCP-2を表1に示す含有量となるようにドライブレンドし、2軸押出機(日本製鋼(株)製TEX-30)を用いて、シリンダー温度250℃(LCP-2を用いる場合は350℃)にて溶融混練して、ポリエチレン樹脂組成物のペレットを得た。
【0126】
これらのポリエチレン樹脂組成物について、曲げ弾性率、引張伸度および酸素ガス透過度を測定した。結果を表1に示す。
【0127】
各実施例におけるポリエチレン樹脂組成物(実施例1~4)は、曲げ弾性率が1.5~3.2GPa、引張伸度が0.8~8.5%、酸素ガス透過度が0.5~21.0cm3/m2・24h・atmであり、剛性、靱性およびガスバリア性に優れ蓋部材に適したものであった。
【0128】
これに対して、液晶ポリマーを含有しない比較例1のポリエチレン樹脂組成物や含有量が5質量部未満である比較例2のポリエチレン樹脂組成物は、剛性およびガスバリア性に劣り蓋部材に適さないものであった。
【0129】
液晶ポリマーの含有量が100質量部を超える比較例3のポリエチレン樹脂組成物は引張伸度が劣り蓋部材に適さないものであった。
【0130】
また、結晶融解温度の高い液晶ポリマーを使用した比較例4は、溶融混練時の熱劣化によってポリエチレン樹脂組成物を得ることができなかった。
【表1】