(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】脂肪計測装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/359 20140101AFI20221114BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
G01N21/359
G01N21/17 610
(21)【出願番号】P 2017196030
(22)【出願日】2017-10-06
【審査請求日】2020-08-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【氏名又は名称】和田 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100208524
【氏名又は名称】小曳 満昭
(72)【発明者】
【氏名】青木 宏道
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04633087(US,A)
【文献】特開2011-146725(JP,A)
【文献】国際公開第2015/159704(WO,A1)
【文献】特開2000-046734(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0024041(US,A1)
【文献】特開昭63-305234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/61
G01N 21/84 - G01N 21/958
A61B 9/00 - A61B 10/06
G01J 3/00 - G01J 3/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の脂肪に関する数値を計測する脂肪計測装置であって、
920nm以上940nm以下の範囲に発光スペクトルの中心波長を有する第1の発光ダイオード部と、前記第1の発光ダイオード部の発光スペクトルの中心波長よりも短い発光スペクトルの中心波長を有する第2の発光ダイオード部とを含み、前記第1の発光ダイオード部から生じた光と前記第2の発光ダイオード部から生じた光とを合成して、合成された発光スペクトルを有する照射光として前記対象物に照射する光照射部と、
前記対象物において前記照射光の照射に応じて生じた計測光を分光する分光器と、
前記分光器によって分光された前記計測光を検出し、前記計測光に関するスペクトルデータを出力する光検出器と、
前記スペクトルデータに基づいて、前記数値に関する情報を算出する演算部と、を備え、
前記第2の発光ダイオード部が生成する光の強度は、前記第1の発光ダイオード部が生成する光の強度よりも小さくなり、前記第1の発光ダイオード部及び前記第2の発光ダイオード部において同時に光が生成されるように構成されて
おり、
前記照射光は、920~940nmの波長帯域にピーク波長を有し、前記ピーク波長よりも長波長の領域において、前記ピーク波長よりも短波長の領域よりも急峻に変化する発光スペクトルを有する、
脂肪計測装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記スペクトルデータを一次微分して一次微分データを算出し、前記一次微分データを基に前記数値に関する情報を算出する、
請求項1に記載の脂肪計測装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記スペクトルデータを二次微分して二次微分データを算出し、前記二次微分データを基に前記数値に関する情報を算出する、
請求項1に記載の脂肪計測装置。
【請求項4】
前記光照射部による前記照射光の照射を制御する制御部をさらに備え、
前記制御部は、前記第2の発光ダイオード部が生成する光の強度が前記第1の発光ダイオード部が生成する光の強度よりも小さくなるように、前記第1の発光ダイオード部及び前記第2の発光ダイオード部の少なくともいずれか一方を制御する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の脂肪計測装置。
【請求項5】
前記第1の発光ダイオード部は、n個(nは1以上の整数)の発光ダイオード素子を有し、
前記第2の発光ダイオード部は、m個(mは1以上の整数)の発光ダイオード素子を有し、
n>mである、
請求項1~3のいずれか1項に記載の脂肪計測装置。
【請求項6】
前記第2の発光ダイオード部は、前記第2の発光ダイオード部から生じた光を減光する減光フィルタを有し、
前記減光フィルタは、前記第2の発光ダイオード部が生成する光の強度が前記第1の発光ダイオード部が生成する光の強度よりも小さくなるように、前記第2の発光ダイオード部から生じた光を減光する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の脂肪計測装置。
【請求項7】
前記数値に関する情報は、脂肪量及び脂肪率の少なくとも一方である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の脂肪計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の脂肪に関する数値を計測する脂肪計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、脂肪による光の吸収を利用して対象物の脂肪の関する数値を測定する装置が知られている。例えば、下記特許文献1には、ハロゲンランプを用いてまぐろに光を照射して、それに応じてまぐろ内部から生じた拡散反射光を受光し、受光した拡散反射光を分光分析することにより推定脂肪量を算出する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脂肪による光の吸収は、一般に、927nm付近を中心とする920~940nmの波長帯域で生じることが知られている。その一方で、その波長領域に近い956nm付近の波長においては、水による光の吸収の影響が顕著に現れる。その結果、上記非特許文献1に記載の装置においては、ハロゲンランプを用いているため、分光分析結果において水による光の吸収の影響を受けやすい。そのため、脂肪に関する数値を精度よく計測することが難しい傾向にあった。
【0005】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、対象物の脂肪に関する数値を精度よく計測することが可能な脂肪計測装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者等は、鋭意研究した結果、以下の事実を新たに見出した。
【0007】
対象物に対して照射する照射光の発光スペクトルの波形パターンを様々変えて、それに応じて対象物において拡散及び反射される計測光のスペクトルを観測したところ、発光スペクトルの波形パターンによって脂肪に関する数値の反映の度合いが大きく変化することが分かった。このとき、脂肪に関する数値の反映の度合いが比較的大きいのは、脂肪による光の吸収が生じる波長帯域にピーク波長を有し、そのピーク波長よりも長波長の領域において、ピーク波長よりも短波長の領域よりも急峻に変化する発光スペクトルを有する照射光を用いた場合であることを新たに見出した。かかる事実を踏まえ、本発明者らは、下記側面の構成を想到するに至った。
【0008】
本発明の一側面は、対象物の脂肪に関する数値を計測する脂肪計測装置であって、920nm以上940nm以下の範囲に発光スペクトルの中心波長を有する第1の発光ダイオード部と、第1の発光ダイオード部の発光スペクトルの中心波長よりも短い発光スペクトルの中心波長を有する第2の発光ダイオード部とを含み、第1の発光ダイオード部から生じた光と第2の発光ダイオード部から生じた光とを合成して照射光として対象物に照射する光照射部と、対象物において照射光の照射に応じて生じた計測光を分光する分光器と、分光器によって分光された計測光を検出し、計測光に関するスペクトルデータを出力する光検出器と、スペクトルデータに基づいて、数値に関する情報を算出する演算部と、を備え、第2の発光ダイオード部が生成する光の強度は、第1の発光ダイオード部が生成する光の強度よりも小さくなるように構成されている。
【0009】
上記一側面に係る脂肪計測装置においては、光照射部によって、脂肪による光の吸収が生じる波長帯域にピーク波長を有し、そのピーク波長よりも長波長の領域において、ピーク波長よりも短波長の領域よりも急峻に変化する発光スペクトルを有する照射光が、対象物に向けて照射される。そして、分光器によって、照射光の照射に応じて対象物において生じた計測光が分光され、光検出器によって、分光された計測光が検出されて計測光に関するスペクトルデータが出力され、演算部によって、そのスペクトルデータを基に脂肪の数値に関する情報が算出される。これにより、脂肪に関する数値変化が大きく反映され、かつ、水による光の吸収の影響の少ないスペクトルデータを用いて、脂肪の数値に関する情報が算出される。その結果、対象物の脂肪の数値に関する情報を精度よく安定して得ることができる。
【0010】
上記一側面においては、演算部は、スペクトルデータを一次微分して一次微分データを算出し、一次微分データを基に数値に関する情報を算出する、ことが好適である。この場合、スペクトルデータの一次微分データを用いることで計測する脂肪の数値に関する予測精度を高めることができ、加えて、水による光の吸収の影響による誤差も低減することができる。
【0011】
また、演算部は、スペクトルデータを二次微分して二次微分データを算出し、二次微分データを基に数値に関する情報を算出する、ことも好適である。この場合、スペクトルデータの二次微分データを用いることで計測する脂肪の数値に関する予測精度を高めることができ、加えて、水による光の吸収の影響による誤差も低減することができる。
【0012】
さらに、光照射部による照射光の照射を制御する制御部をさらに備え、制御部は、第2の発光ダイオード部が生成する光の強度が第1の発光ダイオード部が生成する光の強度よりも小さくなるように、第1の発光ダイオード部及び第2の発光ダイオード部の少なくともいずれか一方を制御する、ことも好適である。このような構成により、脂肪による光の吸収が生じる波長帯域にピーク波長を有し、そのピーク波長よりも長波長の領域において、ピーク波長よりも短波長の領域よりも急峻に変化する発光スペクトルを有する照射光を照射することができる。その結果、脂肪に関する数値が大きく反映され、かつ、水による光の吸収の影響の少ないスペクトルデータを得ることができる。
【0013】
またさらに、第1の発光ダイオード部は、n個(nは1以上の整数)の発光ダイオード素子を有し、第2の発光ダイオード部は、m個(mは1以上の整数)の発光ダイオード素子を有し、n>mである、ことも好適である。かかる構成によっても、脂肪に関する数値が大きく反映され、かつ、水による光の吸収の影響の少ないスペクトルデータを得ることができる。
【0014】
さらにまた、第2の発光ダイオード部は、第2の発光ダイオード部から生じた光を減光する減光フィルタを有し、減光フィルタは、第2の発光ダイオード部が生成する光の強度が第1の発光ダイオード部が生成する光の強度よりも小さくなるように、第2の発光ダイオード部から生じた光を減光する、ことも好適である。かかる構成によっても、脂肪に関する数値が大きく反映され、かつ、水による光の吸収の影響の少ないスペクトルデータを得ることができる。
【0015】
また、数値に関する情報は、脂肪量及び脂肪率の少なくとも一方であってよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一側面によれば、対象物の脂肪に関する数値を精度よく計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る脂肪計測装置の概略構成図である。
【
図2】
図1のヘッド部3を対象物Sに密着させる面3a側から見た平面図である。
【
図3】
図1のヘッド部3から照射される照明光の発光スペクトルを示すグラフである。
【
図4】
図1の演算部5eによって算出された二次微分値の波長分布の一例を示すグラフである。
【
図5】実施形態及び比較例における照射光の発光スペクトルを示すグラフである。
【
図6】実施形態及び比較例において複数の計測によって算出された脂肪量換算値を示すグラフである。
【
図7】実施形態及び比較例において5回の計測によって算出された脂肪量換算値の標準偏差を示すグラフである。
【
図8】変形例にかかるヘッド部3Aを対象物Sに密着させる面3a側から見た平面図である。
【
図9】変形例にかかる一体型の光源装置の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0019】
図1は、好適な一実施形態に係る脂肪計測装置の概略構成図である。
図1に示す脂肪計測装置1は、人体等の対象物Sの脂肪に関する数値としての脂肪量、脂肪率等を計測する装置であり、ヘッド部3、本体装置5、及びヘッド部(光照射部)3と本体装置5とを繋ぐケーブル7とによって構成されている。ヘッド部3は、対象物Sに密着されることにより、対象物Sに照明光を照射するとともに、それに応じて対象物Sにおいて生じた反射光及び散乱光を含む計測光を受け、計測光をケーブル7を経由して本体装置5の内部に導光する。すなわち、ヘッド部3の対象物S側の面と本体装置5の内部との間には、ケーブル7の内部に挿入された光ケーブル7aが設けられており、この光ケーブル7aによって対象物Sからの計測光が本体装置5の内部に導光される。また、ケーブル7には、ヘッド部3と本体装置5とを電気的に接続する図示しないケーブルも挿入して設けられている。なお、脂肪計測装置1の計測対象である対象物Sとしては、人体の他、様々な種類の動物及び植物、又はそれらの組織の一部分であってもよい。
【0020】
図2は、ヘッド部3を対象物Sに密着させる面3a側から見た平面図である。ヘッド部3は略円柱状をなしており、4個の第1発光ダイオード素子9aと2個の第2発光ダイオード素子11aとを、面3aから外部に向けて光を照射可能な状態で内蔵している。さらに、ヘッド部3の面3aの中央には穴部13が設けられ、この穴部13の内側に光ケーブル7aの端部が配置される。このような構造により、光ケーブル7aの端部から対象物Sの計測光が入射される。
【0021】
第1発光ダイオード素子9aは、920nm以上940nm以下の波長範囲に発光スペクトルの中心波長を有するLED(Light Emitting Diode)である。例えば、第1発光ダイオード素子9aの発光スペクトルの中心波長は930nmである。これらの4個の第1発光ダイオード素子9aにより、脂肪による光の吸収が生じやすい波長帯域内の中心波長の光を照射する第1発光ダイオード部9が構成される。
【0022】
第2発光ダイオード素子11aは、第1発光ダイオード素子9aの発光スペクトルの中心波長よりも短い発光スペクトルの中心波長を有するLEDである。例えば、第2発光ダイオード素子11aの発光スペクトルの中心波長は875nmである。これらの2個の第2発光ダイオード素子11aにより、脂肪による光の吸収が生じやすい波長帯域より短い中心波長の光を照射する第2発光ダイオード部11が構成される。
【0023】
上述したように、第2発光ダイオード部11を構成する第2発光ダイオード素子11aの個数は、第1発光ダイオード部9を構成する第1発光ダイオード素子9aの個数よりも少ない。また、それぞれの第2発光ダイオード素子11a及びそれぞれの第1発光ダイオード素子9aの発光強度は同じ強度になるように設定されている。そのため、第2発光ダイオード部11の全体が生成する光の強度は、第1発光ダイオード部9の全体が生成する光の強度よりも小さくなるように設定される。ここで、第1発光ダイオード素子9aの個数n(nは1以上の整数)及び第2発光ダイオード素子11aの個数m(mは1以上の整数)は、特定の個数には限定されず、n>mであれば様々な個数に設定されうる。
【0024】
上記の第1発光ダイオード部9及び第2発光ダイオード部11を内蔵するヘッド部3は、第1発光ダイオード部9から生じた光と、第2発光ダイオード部11から生じた光とを合成して対象物Sに照射することができる。一般に、脂肪酸は927nm付近の光を吸収する性質を有し、分子構造上におけるCH鎖状部分の幾何学構造の違いなどにより吸収帯が若干変化する特性も有している。このようにしてヘッド部3から照射された照明光は、脂肪による光の吸収が生じやすい920~940nmの波長帯域(以下、「脂肪の吸収帯」と呼ぶ。)にピーク波長を有し、そのピーク波長よりも長波長の領域において、ピーク波長よりも短波長の領域よりも急峻に変化する発光スペクトルを有するものとなる。
【0025】
図3には、ヘッド部3から照射される照明光の発光スペクトルの特性グラフSP1を、一般的なハロゲンランプから照射される光の発光スペクトルの特性グラフSP0と比較して示している。このように、ハロゲンランプから照射される光の発光スペクトルは、脂肪の吸収帯よりも100nm以上短い波長にピークを有し、490nm~1100nmまでの広い波長範囲に広がったものとなっている。これに対して、ヘッド部3から照射される照明光の発光スペクトルは、脂肪の吸収帯に含まれる930nm近傍にピークを有し、ピーク波長の長波長側は急峻に変化し、ピーク波長の短波長側は長波長側と比較してなだらかに変化するものとなっている。後述するように、脂肪計測装置1による脂肪の数値に関する情報の演算は、照明光の照射に応じて対象物Sで生じる計測光のスペクトルデータを微分することによって行われる。上記のような照明光の特性は、微分演算による脂肪の数値の演算結果に影響を与える波長範囲である、脂肪の吸収帯及びその隣接波長帯域を含む約870~約970nmの波長領域W1内に、効率的に発光強度が分布している。それに加えて、波長領域W1の長波長側の境界においては、照明光の特性は急峻に変化しているので、水による光の吸収が生じる956nm近傍では発光強度が十分小さくされている。
【0026】
図1に戻って、本体装置5の内部構成について説明する。
【0027】
本体装置5は、分光器5a、光検出器5b、及び制御装置5cを内蔵している。分光器5aは、光ケーブル7aの端部に光学的に接続されており、対象物Sから、ヘッド部3及びケーブル7を経由して入射した計測光を、プリズムあるいは回折格子等によって複数の波長成分に分光する。光検出器5bは、分光器5aの出力と光学的に接続されており、分光器5aによって分光された計測光の複数の波長成分を、ラインセンサ、フォトダイオードアレイ、イメージセンサ等のセンサを用いて検出することにより、計測光の強度の各波長毎の分布を示すスペクトルデータを生成する。光検出器5bは、制御装置5cと電気的に接続され、生成したスペクトルデータを制御装置5cに出力する。なお、光検出器5bとしては、例えば、600nm~1000nmの波長領域に検出感度を有するものが用いられる。
【0028】
本体装置5の制御装置5cは、機能的な構成要素として、制御部5d及び演算部5eを含んで構成されている。制御装置5cは、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、記録媒体であるRAM(RandomAccess Memory)またはROM(Read Only Memory)103、及び通信モジュール等を含んでいる。上記の制御装置5cの各機能部は、CPU、RAM等のハードウェア上に予めプログラムを記憶させることにより、CPUの制御のもとで、通信モジュール等を動作させるとともにRAMにおけるデータの読み出し、書き込み、及びROMからのデータの読み出しを行うことで実現される。また、制御装置5cは、本体部15aと、ディスプレイ等の表示部15bと、キーボード及びマウス等の入力部15cとを備える外部のコンピュータ15とデータ通信可能に接続される。
【0029】
制御装置5cの制御部5dは、脂肪計測装置1による計測処理の実行を制御するとともに、ヘッド部3における照明光の照射を制御する。すなわち、外部のコンピュータ15から指示入力の受信に応じて、計測処理を開始し、ヘッド部3における照明光の照射を開始する。制御装置5cは、ヘッド部3の第1発光ダイオード部9及び第2発光ダイオード部11とケーブルを介して電気的に接続されており、制御部5dの制御に応じて第1発光ダイオード部9及び第2発光ダイオード部11に給電する。このとき、制御装置5cは、それぞれの第2発光ダイオード素子11a及びそれぞれの第1発光ダイオード素子9aの発光強度が同じ強度になるように給電する。
【0030】
制御装置5cの演算部5eは、制御部5dによる計測処理の実行の制御に応じて、光検出器5bから出力されたスペクトルデータを基に、対象物Sの脂肪に関する数値の情報を算出する。算出された数値の情報は、外部のコンピュータ15に送信され、表示部15bに表示(出力)される。
【0031】
詳細には、演算部5eは、スペクトルデータを波長に関して二次微分して二次微分値の波長分布を算出する。
図4は、演算部5eによって算出された二次微分値の波長分布の一例を示すグラフである。このグラフには、脂肪量が比較的少ない対象物Sを対象に算出された二次微分値の波長分布R1と、脂肪量が比較的多い対象物Sを対象に算出された二次微分値の波長分布R3と、脂肪量が中間値の対象物Sを対象に算出された二次微分値の波長分布R2とが示されている。このように、830nm付近から950nm付近の波長範囲では、二次微分値が脂肪量に応じて比較的大きく変化している。
【0032】
そして、演算部5eは、850nm近辺の波長帯Δλ1の二次微分値の代表値x1と、920nm近辺の波長帯Δλ2の二次微分値の代表値x2と、950nm近辺の波長帯Δλ3の二次微分値の代表値x3を求め、これらの代表値x1,x2,x3を基にして下記式(1);
f(x)=a・x1+b・x2+c・x3+d …(1)
を用いることにより、脂肪の数値に関する情報を算出する。ここで、上記式(1)中、a,b,c,dは、予め回帰演算によって算出されて制御装置5c内に記憶されている演算係数である。このとき、演算部5eは、代表値x1,x2,x3として、それぞれの波長帯Δλ1,Δλ2,Δλ3の二次微分値の平均値を求めてもよいし、最大値あるいは最小値を求めてもよいし、それぞれの波長帯の中心波長の値を求めてもよい。演算部5eが演算する脂肪の数値に関する情報は、脂肪量の情報であってもよいし、脂肪率の情報であってもよいし、それらの両方であってもよい。式(1)を用いることにより、脂肪量に応じて変化する光学的特性値x1,x2、x3を基に脂肪の数値に関する情報を求めることができる。なお、脂肪量の数値に関する情報の算出に用いる代表値の数は適宜変更されてよいし、波長帯の範囲も適宜変更されてもよい。
【0033】
ここで、制御装置5c内に記憶される演算係数a,b,c,dは、次のようにして取得される。まず、予め対象物Sの脂肪量をソックスレー法などの化学分析によって取得しておく。次に、対象物Sを脂肪計測装置1によって計測することにより、スペクトルデータを基に二次微分値の波長分布を算出する。そして、外部のコンピュータ15等を用いて、化学分析による脂肪量のデータと二次微分値の波長分布のデータとを回帰分析することによって、演算係数a,b,c,dを求め制御装置5c内に記憶させる。回帰分析は、重回帰分析、PLS分析等によって化学分析による脂肪量のデータと二次微分値の波長分布のデータとの関連付けを行うことによって実行される。
【0034】
以上のような構成の脂肪計測装置1によれば、ヘッド部3によって、脂肪の吸収帯にピーク波長を有し、そのピーク波長よりも長波長の領域において、ピーク波長よりも短波長の領域よりも急峻に変化する発光スペクトルを有する照射光が、対象物Sに向けて照射される。そして、本体装置5内の分光器5aによって、照射光の照射に応じて対象物Sにおいて生じた計測光が分光され、本体装置5内の光検出器5bによって、分光された計測光が検出されて計測光に関するスペクトルデータが出力される。さらに、本体装置5内の演算部5eによって、そのスペクトルデータを基に脂肪の数値に関する情報が算出される。これにより、脂肪に関する数値変化が大きく反映され、かつ、水による光の吸収の影響の少ないスペクトルデータを用いて、脂肪の数値に関する情報が算出される。その結果、対象物Sの脂肪の数値に関する情報を精度よく安定して得ることができる。
【0035】
すなわち、脂肪の計測にハロゲンランプ、キセノンランプ等の従来の光源を用いた場合は、照射光の発光スペクトルが比較的フラットであるため、脂肪に対する光学的な応答を観測する際に効率的にその応答を観測することが困難となる。つまり、観測されるスペクトルデータにおいて脂肪の吸収応答パターンをダイナミックに反映することができない。特に、この傾向はスペクトルデータを微分演算することによって、安定的に脂肪を計測しようとする場合に顕著である。本実施形態によれば、脂肪の吸収帯及びその隣接波長帯域に発光スペクトルを有する照射光を用いているため、脂肪に対する光学的な応答を効率的に観測することができる。加えて、照射光の発光スペクトルは水による光の吸収が生じる波長近傍では発光強度が十分小さくされている。そのため、スペクトルデータの微分演算結果における水による光の吸収の影響を低減することができ、脂肪の数値に関する情報の演算精度を向上させることができる。
【0036】
さらに、本実施形態では、光照射部として発光ダイオード素子を用いているため、ハロゲンランプ、キセノンランプ等に比較して小型化及び消費電力の削減が容易とされると共に、上述したような脂肪の計測に適した発光スペクトルが、複数の発光ダイオード素子の組み合わせにより容易に実現できる。
【0037】
また、本実施形態の演算部5eは、スペクトルデータを二次微分して二次微分データを算出し、二次微分データを基に数値に関する情報を算出している。このように、スペクトルデータの二次微分データを用いることで計測する脂肪の数値に関する予測精度を高めることができ、加えて、水による光の吸収の影響による誤差も低減することができる。
【0038】
次に、本実施形態における脂肪の数値に関する情報の算出結果の例を比較例と比較しつつ示す。
【0039】
図5は、本実施例における照射光の発光スペクトル及び比較例の照射光の発光スペクトルを示すグラフである。
図5において、特性グラフSP0は、ハロゲンランプから照射される光の発光スペクトルを示し、特性グラフSP1は、本実施形態の照射光の発光スペクトルを示し、特性グラフSP2は、比較例の照射光の発光スペクトルを示している。比較例における本実施形態との構成の違いは、ヘッド部3に内蔵された第1発光ダイオード素子9aの個数が第2発光ダイオード素子11aの個数と同数の2個に設定されている点である。このような比較例の照射光の発光スペクトルは、長波長側の発光強度の低下により、実施形態よりもピークが短波長側にずれるとともに、ピーク波長の長波長側と短波長側とで光強度の変化率は同等なものとなっている。
【0040】
図6及び
図7は、本実施形態及び比較例において対象物を計測した結果を示している。
図6は、複数の計測によって算出された脂肪量換算値を示しており、計測回数が1回目~5回目においては脂肪量が比較的少ない対象物を対象にし、計測回数が7回目~11回目においては脂肪量が中間値の対象物を対象にし、計測回数が13回目~17回目においては脂肪量が比較的多い対象物を対象にしている。
図7は、それぞれの対象物1~3を対象にして5回計測した場合の脂肪量換算値の標準偏差の値を示し、対象物1は脂肪量が比較的少ないもの、対象物2は脂肪量が中間値のもの、対象物3は脂肪量が比較的多いものを示している。
【0041】
これらの結果より、比較例における計測結果にはばらつきが見られ安定性に欠けていることがわかる。特に、脂肪量が比較的多い対象物、脂肪量が比較的少ない対象物の計測結果のばらつきが大きくなっている。これに比較して本実施形態では、複数回の計測間で安定した計測結果が得られている。
【0042】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0043】
上記実施形態の脂肪計測装置1においては、演算部5eがスペクトルデータを二次微分して二次微分データを算出し、それを基に脂肪の数値に関する情報を算出していたが、スペクトルデータを周波数に関して一次微分して一次微分データを算出し、それを基に脂肪の数値に関する情報を算出してもよい。スペクトルデータの一次微分データを用いることで計測する脂肪の数値に関する予測精度を高めることができ、加えて、水による光の吸収の影響による誤差も低減することができる。
【0044】
また、上記実施形態の脂肪計測装置1においては、制御部5dが、それぞれの第2発光ダイオード素子11a及びそれぞれの第1発光ダイオード素子9aの発光強度が同じ強度になるように給電していたが、第2発光ダイオード部11が生成する光の強度が、第1発光ダイオード部9が生成する光の強度よりも小さくなるように給電を制御してもよい。このとき、制御部5dは、両者の光の強度を相対的に制御できればよく、第2発光ダイオード部11の第2発光ダイオード素子11a、及び第1発光ダイオード部9の第1発光ダイオード素子9aの少なくともいずれか一方の給電を制御すればよい。このような構成により、脂肪の吸収帯にピーク波長を有し、そのピーク波長よりも長波長の領域において、ピーク波長よりも短波長の領域よりも急峻に変化する発光スペクトルを有する照射光が照射可能とされる。この場合には、必ずしも、第1発光ダイオード素子9aの個数は第2発光ダイオード素子11aの個数より多い必要はなく、第1発光ダイオード素子9aの個数が第2発光ダイオード素子11aの個数以下であってもよい。
【0045】
また、上記実施形態の脂肪計測装置1のヘッド部3は、
図8に示すような構成に変更してもよい。すなわち、
図8に示すヘッド部3Aのように、第2発光ダイオード部11の第2発光ダイオード素子11aの前面の面3a上に第2発光ダイオード素子11aから照射された光を減光するNDフィルタ等の減光フィルタ17が設けられてもよい。このような構成によっても、第2発光ダイオード部11によって生成される光の強度を第1発光ダイオード部9によって生成される光の強度よりも小さくすることができる。その結果、脂肪の吸収帯にピーク波長を有し、そのピーク波長よりも長波長の領域において、ピーク波長よりも短波長の領域よりも急峻に変化する発光スペクトルを有する照射光が照射可能とされる。この場合には、必ずしも、第1発光ダイオード素子9aの個数は第2発光ダイオード素子11aの個数より多い必要はなく、第1発光ダイオード素子9aの個数が第2発光ダイオード素子11aの個数以下であってもよい。
【0046】
また、上記実施形態の脂肪計測装置のヘッド部3には、
図9に示すような一体型の光源装置が内蔵されてもよい。
図9は、変形例の光源装置19の構成例を示す斜視図である。この光源装置19は、基板90上に3個の発光素子91
1~91
3がフリップチップ実装された構成を有する。各発光素子91
k(k=1,2,3)は、互いに異なる波長の照射光を出力することができ、例えば、発光素子91
kのうちの2つが第1発光ダイオード素子9aと同一の中心波長の光を出力し、発光素子91
kのうちの1つが第2発光ダイオード素子11aと同一の中心波長の光を出力する。各発光素子91
kは、例えばLED(発光ダイオード)である。各発光素子91
kの一方の電極端子は基板90上の配線W
k1に電気的に接続されている。各発光素子91
kの他方の電極端子は基板90上の配線W
k2に電気的に接続されている。基板90上において、3個の発光素子91
1~91
3の相互間の距離は短いのが好ましく、例えば、その距離は1mm以下にすることができる。
【0047】
また、この光源装置19には図示しない光源駆動回路が備えられている。光源駆動回路は、本体装置5の制御部5dの制御により、各発光素子91kの発光を制御することができる。制御部5dにより制御された光源駆動回路は、配線組W11,W12、配線組W21,W22、および、配線組W31,W32の配線組を対象にして、それらの配線Wk1,Wk2間に同時に駆動電流を流すことで、その配線Wk1,Wk2に接続されている発光素子91kから同時に照射光を出力させることができる。
【0048】
光源装置19の光出力側に発光素子911~913を覆うようにレンズを設けて、このレンズにより照射光の発散を抑制するのが好ましい。このレンズは、例えば樹脂により成形されたものであり、基板90および発光素子911~913と一体であってもよいし、これらとは別体であってもよい。
【0049】
上記実施形態では、ヘッド部3に分光器5a及び光検出器5bを内蔵し、ヘッド部3と本体装置5との間はケーブルで電気的に接続されているのみであってもよい。逆に、本体装置5に光源装置を内蔵し、光源装置から照射された照射光をケーブル7内の光ケーブルを経由してヘッド部3に導光するようにしてもよい。
【0050】
上記実施形態では、本体装置5の一部の機能がスマートフォン、タブレット端末等のスマートデバイスで実現されていてもよい。
【符号の説明】
【0051】
S…対象物、1…脂肪計測装置、3,3A…ヘッド部(光照射部)、5…本体装置、5a…分光器、5b…光検出器、5c…制御装置、5d…制御部、5e…演算部、7…ケーブル、9…第1発光ダイオード部、9a…第1発光ダイオード素子、11…第2発光ダイオード部、11a…第2発光ダイオード素子、17…減光フィルタ、19…光源装置、911,912,913…発光素子。