(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】X線CT装置及びX線発生システム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20221114BHJP
H01J 35/14 20060101ALI20221114BHJP
H05G 1/00 20060101ALI20221114BHJP
H05G 1/52 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
A61B6/03 320C
H01J35/14
H05G1/00 E
H05G1/52 A
H05G1/52 B
(21)【出願番号】P 2017222060
(22)【出願日】2017-11-17
【審査請求日】2020-09-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】唐橋 昌宏
【合議体】
【審判長】石井 哲
【審判官】長井 真一
【審判官】伊藤 幸仙
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-090862(JP,A)
【文献】特表2008-516388(JP,A)
【文献】特開平04-012439(JP,A)
【文献】特開2009-018024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/00-35/32
A61B 6/00- 6/14
H05G 1/00- 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電子を発生する陰極と、
前記陰極側に対してX線窓側に傾斜する面を有し、前記陰極から照射される熱電子を受けて、X線を発生する陽極と、
前記熱電子の軌道を調整する第1の熱電子調整部と、
前記第1の熱電子調整部により調整された熱電子の軌道を更に調整する第2の熱電子調整部と、
前記第1の熱電子調整部と前記第2の熱電子調整部とを制御することにより、前記陽極への熱電子の照射角を、
90度より小さい角度であって、前記第1の熱電子調整部による熱電子の軌道調整と前記第2の熱電子調整部による熱電子の軌道調整とを行わない場合と同じ照射角に保持しつつ、円形の外周を有する前記陽極の前記円形の半径方向に沿った前記熱電子の複数の焦点位置と円周方向に沿った前記熱電子の複数の焦点位置との両方について切替制御する制御部と、
を備える、X線CT装置。
【請求項2】
前記制御部は、円形の外周を有する前記陽極の前記円形の半径方向に沿って前記熱電子の焦点位置を変化させるように前記第1の熱電子調整部と、前記第2の熱電子調整部と、を制御する、
請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項3】
前記制御部は、円形の外周を有する前記陽極の前記円形の円周方向に沿って前記熱電子の焦点位置を変化させるように前記第1の熱電子調整部と、前記第2の熱電子調整部と、を制御する、
請求項1又は2に記載のX線CT装置。
【請求項4】
前記制御部は、要求される位置に、前記陽極における前記熱電子の焦点位置を制御する、
請求項1~3のいずれか一つに記載のX線CT装置。
【請求項5】
熱電子を発生する陰極と、
前記陰極側に対してX線窓側に傾斜する面を有し、前記陰極から照射される熱電子を受けて、X線を発生する陽極と、
前記熱電子の軌道を調整する第1の熱電子調整部と、
前記第1の熱電子調整部により調整された熱電子の軌道を更に調整する第2の熱電子調整部と、
前記第1の熱電子調整部と前記第2の熱電子調整部とを制御することにより、前記陽極への熱電子の照射角を、
90度より小さい角度であって、前記第1の熱電子調整部による熱電子の軌道調整と前記第2の熱電子調整部による熱電子の軌道調整とを行わない場合と同じ照射角に保持しつつ、円形の外周を有する前記陽極の前記円形の半径方向に沿った前記熱電子の複数の焦点位置と円周方向に沿った前記熱電子の複数の焦点位置との両方について切替制御する制御部と、
を備える、X線発生システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線CT装置及びX線発生システムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線撮影は、X線を発生するX線管装置と、患者等の撮影対象を挟んで対向するX線検出器とを備えたX線撮影装置により行われる。また、X線管装置における陽極上のX線発生位置である焦点位置を高速に変化させることで空間解像度を高めるFFS(flying focal spot)という技術が知られている。この場合、焦点位置が変化するのに応じ、発生したX線が陽極内を透過する経路が変化し、意図せずにX線の線質が変化してしまうことで、撮影される画質が低下する可能性がある。そのため、焦点位置の変化に応じて線質が変化しないことが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-229906号公報
【文献】特開2015-208601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、照射されるX線の線質を変えずに焦点位置を変更可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係るX線CT装置は、陰極と、陽極と、第1の熱電子調整部と、第2の熱電子調整部と、制御部とを備える。陰極は、熱電子を発生する。陽極は、前記陰極から照射される熱電子を受けて、X線を発生する。第1の熱電子調整部は、前記熱電子の軌道を調整する。第2の熱電子調整部は、前記第1の熱電子調整部により調整された熱電子の軌道を更に調整する。制御部は、前記第1の熱電子調整部と、前記第2の熱電子調整部とを制御することにより、前記陽極への熱電子の照射角を一定に保持しつつ、前記陽極における前記熱電子の焦点位置を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係るX線CT装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、X線管の構成例を示す図(1)である。
【
図3】
図3は、
図2の熱電子調整機構だけを抜き出して示した斜視図である。
【
図4】
図4は、X線高電圧装置の構成例を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、熱電子調整機構の調整量の制御手法の例を示す図(1)である。
【
図5B】
図5Bは、熱電子調整機構の調整量の制御手法の例を示す図(2)である。
【
図6A】
図6Aは、熱電子調整機構による熱電子の軌道の調整の例を示す図(1)である。
【
図6B】
図6Bは、熱電子調整機構による熱電子の軌道の調整の例を示す図(2)である。
【
図6C】
図6Cは、熱電子調整機構による熱電子の軌道の調整の例を示す図(3)である。
【
図7A】
図7Aは、比較のための一対の電極による熱電子の軌道の調整の例を示す図(1)である。
【
図7B】
図7Bは、比較のための一対の電極による熱電子の軌道の調整の例を示す図(2)である。
【
図7C】
図7Cは、比較のための一対の電極による熱電子の軌道の調整の例を示す図(3)である。
【
図8】
図8は、FFSによるCT撮影の処理例を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、FFSによるCT撮影の制御タイミングの例を示す図である。
【
図10】
図10は、熱電子調整機構の他の構成例を示す図(1)である。
【
図11A】
図11Aは、熱電子調整機構による熱電子の軌道の調整の例を示す図(4)である。
【
図11B】
図11Bは、熱電子調整機構による熱電子の軌道の調整の例を示す図(5)である。
【
図11C】
図11Cは、熱電子調整機構による熱電子の軌道の調整の例を示す図(6)である。
【
図12】
図12は、熱電子調整機構の他の構成例を示す図(2)である。
【
図13】
図13は、X線管の他の構成例を示す図(1)である。
【
図15】
図15は、X線管の他の構成例を示す図(2)である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して、X線CT装置及びX線発生システムの各実施形態を説明する。なお、実施形態は、以下の内容に限られるものではない。また、1つの実施形態や変形例に記載された内容は、原則として他の実施形態や変形例にも同様に適用される。
【0008】
(第1の実施形態)
図1を参照しながら、第1の実施形態に係るX線CT装置1の構成について説明する。なお、X線発生システムはX線CT装置1においてX線の発生のために用いられる部分であり、X線CT装置1の構成の一部である。
図1は、第1の実施形態に係るX線CT装置1の構成例を示すブロック図である。X線CT装置1は、
図1に示されるように、架台装置10と、寝台装置30と、コンソール装置40とを有する。なお、
図1においては、架台装置10の非チルト状態での回転フレーム16の回転軸又は寝台装置30の天板33の長手方向をZ軸方向とする。また、Z軸方向に直交し、床面に対し水平である軸方向をX軸方向とする。また、Z軸方向に直交し、床面に対し垂直である軸方向をY軸方向とする。
【0009】
架台装置10は、X線管11と、X線検出器15と、回転フレーム16と、X線高電圧装置17と、制御装置18と、ウェッジ19と、コリメータ20と、データ収集回路21とを有する。
【0010】
X線管11は、熱電子を発生する陰極(フィラメント)と、熱電子の衝突を受けてX線を発生する陽極(ターゲット)とを有する真空管である。X線管11は、X線高電圧装置17から供給される高電圧により、陰極から陽極に向けて熱電子を照射する。なお、X線高電圧装置17は、高電圧の発生だけでなく、フィラメントへの電源供給、回転型陽極の駆動電源供給(回転型陽極の場合)、及び、後述する熱電子調整機構の駆動等も行う。詳細については後述する。
【0011】
図2は、X線管11の構成例を示す図であり、回転型陽極の例を示している。
図2において、X線管11は、筐体111と、陰極113と、第1の熱電子調整機構114と、第2の熱電子調整機構115と、陽極116と、回転軸117とを備えている。筐体111は、例えば、金属により作製され、内部で発生したX線を通過させるX線窓112を有している。陰極113は、熱電子を発生する。熱電子は、フィラメントに流れる電流により発生した熱によって励起され、フィラメント又は加熱された部材から飛び出す電子である。
【0012】
陽極116は、陰極113から放出される熱電子の衝突を受けてX線を発生させる。具体的には、陰極113と陽極116との間に大きな電位差が設けられる。例えば、陽極116を接地し、陰極113の電位をマイナスとすることにより、陰極113と陽極116との間に電位差が設けられる。この電位差により、陰極113から放出された熱電子は加速されて陽極116に衝突し、X線が発生する。また、陽極116は、回転軸117により回転する回転体であり、回転軸117の軸方向から見ると外周が円形となっている。陽極116は、傘状の形状を有しており、傘の先端側が陰極113側を向いている。陽極116の陰極113と対向する側はテーパ面となっており、陰極113側に対して若干の角度だけX線窓112側に傾斜する面を形成している。陽極116は、回転することにより、熱電子の衝突によって発熱する位置を分散させ、発熱による陽極116の表面の溶解を回避する。回転軸117は、図示しないベアリング等により支持され、図示しないステータコイル等により発生される回転磁界により回転駆動される。なお、図では陰極113から陽極116に向かう熱電子の軌道(一点鎖線にて図示)が陽極116の回転軸117と平行に描かれているが、これに限られない。
【0013】
第1の熱電子調整機構114と第2の熱電子調整機構115は、陰極113と陽極116との間の熱電子の軌道に沿って、軌道を挟むように設けられており、電界により陰極113から放出された熱電子の軌道を変化させる。第1の熱電子調整機構114は、調整極114aと調整極114bとを備えている。熱電子調整機構115は、調整極115aと調整極115bとを備えている。軌道の調整に電界が用いられる場合、調整極114a、114b、115a、115bは、例えば、平板状の電極であり、陰極113の電位に対してマイナスの異なる電位が印加され、マイナスの電荷を持った熱電子に作用する反発力により、電位が相対的に高い側に熱電子の軌道を変化させる。
【0014】
図3は、
図2の熱電子調整機構だけを抜き出して示した斜視図である。すなわち、第1の熱電子調整機構114の調整極114aと調整極114bは、Y軸方向に距離を隔てて対向している。また、第2の熱電子調整機構115の調整極115aと調整極115bは、Y軸方向に距離を隔てて対向している。
【0015】
図4は、X線高電圧装置17の構成例を示す図である。
図4において、X線高電圧装置17は、X線高電圧供給回路171と、フィラメント電源供給回路172と、陽極回転駆動電源供給回路173と、熱電子調整機構駆動回路174とを備えている。X線高電圧供給回路171は、X線管11の陰極113と陽極116との間に印加される高電圧を発生し供給する。X線高電圧供給回路171は、変圧器(トランス)及び整流器等の電気回路を有し、X線管11に印加する高電圧を発生する高電圧発生回路と、X線管11が照射するX線に応じた出力電圧の制御を行うX線制御回路とを有する。高電圧発生回路は、変圧器方式であってもよいし、インバータ方式であってもよい。
【0016】
フィラメント電源供給回路172は、X線管11のフィラメントの電源を供給する。陽極回転駆動電源供給回路173は、陽極116を回転駆動する電源を供給する。熱電子調整機構駆動回路174は、熱電子調整機構114、115に供給する電圧等により、熱電子の軌道に対して作用する電界を制御する。なお、X線高電圧装置17は、回転フレーム16に設けられてもよいし、図示しない固定フレームに設けられても構わない。また、X線高電圧装置17にX線高電圧供給回路171とフィラメント電源供給回路172と陽極回転駆動電源供給回路173と熱電子調整機構駆動回路174とが含まれる構成例について説明したが、その一部が他の装置として設けられるようにしてもよい。
【0017】
図5Aは、熱電子調整機構114、115の調整量の制御手法の例を示す図であり、テーブル形式のデータを用いたものである。テーブル形式のデータは、後述するメモリ41等に保持される。
図5Aにおいて、焦点位置を表す焦点位置指標に対して、第1の熱電子調整機構114に対する第1調整量と、第2の熱電子調整機構115に対する第2調整量とが対応付けられて記憶される。焦点位置指標は、例えば、陽極116上の基準位置から方向別の距離を示す数値や、「P
0」「P
1」「P
2」等の記号である。第1調整量及び第2調整量は、電界が用いられる場合、例えば、調整極114a~114d、115a~115dに印加される電圧値(調整する方向に対応する極性を含む)である。
【0018】
図5Bは、熱電子調整機構114、115の調整量の他の制御手法の例を示す図であり、数式を用いたものである。
図5Bにおいて、第1の熱電子調整機構114に対する第1調整量は、焦点位置指標に対する関数F1により計算される。また、第2の熱電子調整機構115に対する第2調整量は、焦点位置指標に対する関数F2により計算される。これにより、焦点位置指標が決まると、対応する第1調整量と第2調整量とが得られる。
【0019】
図6A~
図6Cは、熱電子調整機構114、115による熱電子の軌道の調整の例を示す図であり、軌道の調整に電界が用いられる場合を示している。また、熱電子調整機構114、115は、それぞれ図のY軸方向に対向する調整極114a、114bと調整極115a、115bとが設けられている場合について示している。
【0020】
図6Aは、第1の熱電子調整機構114と第2の熱電子調整機構115の両方とも調整がオフ(OFF)となっている場合を示しており、陰極113から放出された熱電子の軌道は調整されず、陽極116に照射される。すなわち、陰極113から放出された熱電子は、陰極113に対して正の高い電位差が印加された陽極116に引かれて、ある焦点位置P
0にまっすぐに照射される。この場合の照射角をθ
0とする。陽極116に熱電子が照射されることで、X線が発生する。
【0021】
図6Bは、第1の熱電子調整機構114と第2の熱電子調整機構115の両方とも調整がオン(ON)となっている場合を示しており、第1の熱電子調整機構114において熱電子の軌道に対してY軸方向における上向き(Y軸正方向)の調整が行われ、第2の熱電子調整機構115において熱電子の軌道に対してY軸方向における下向き(Y軸負方向)の調整が行われた場合を示している。調整量が予め適切に設定されることで、
図6Aの場合と同様に陽極116への照射角は変わらずθ
0であり、焦点位置が上方に変化してP
1となる。この場合、陽極116への照射角は変化しないため、陽極116から発生するX線の線質は変化しない。すなわち、陽極116への照射角により、熱電子が陽極116の表面から侵入する深さが変わり、陽極116の内部で発生したX線が陽極116の内部を通過して外部に出るまでの経路が変わり、線質に影響(経路の距離が長くなると波長の長い成分の吸収が増大して線質が硬くなる)するが、照射角が変化しないことで、線質は一定となる。
【0022】
図6Cは、第1の熱電子調整機構114と第2の熱電子調整機構115の両方とも調整がオン(ON)となっている場合を示しており、第1の熱電子調整機構114において熱電子の軌道に対してY軸方向における下向きの調整が行われ、第2の熱電子調整機構115において熱電子の軌道に対してY軸方向における上向きの調整が行われた場合を示している。調整量が予め適切に設定されることで、
図6A及び
図6Bの場合と同様に陽極116への照射角は変わらずθ
0であり、焦点位置が下方に変化してP
2となる。この場合も、陽極116への照射角が変化しないため、陽極116から発生するX線の線質は変化しない。
【0023】
図7A~
図7Cは、比較のための一対の電極による熱電子の軌道の調整の例を示す図である。すなわち、陰極と陽極との間に対向する一対の電極が設けられている場合を示している。
図7Aは、電極をオフ(OFF)とした場合を示しており、陰極から放出された熱電子の軌道は調整されず、陽極に照射される。すなわち、陰極から放出された熱電子は、陰極に対して正の高い電位差が印加された陽極に引かれて、ある焦点位置P
0にまっすぐに照射される。この場合の照射角をθ
0とする。陽極に熱電子が照射されることで、X線が発生する。
【0024】
図7Bは、電極がオン(ON)となっている場合を示しており、一対の電極により熱電子の軌道に対して上向きの調整が行われた場合を示している。この場合、焦点位置は上に移動してP
1となり、照射角は深くなってθ
01となっている。
図7Cは、電極がオン(ON)となっている場合を示しており、一対の電極により熱電子の軌道に対して下向きの調整が行われた場合を示している。この場合、焦点位置は下に移動してP
2となり、照射角は浅くなってθ
02となっている。このように、一対の電極による熱電子の軌道の調整の場合、焦点位置と照射角との両者が変化してしまい、照射角を一定に保持しつつ焦点位置だけを変化させることは困難である。
【0025】
図1に戻り、X線検出器15は、X線管11から照射されて被検体Pを通過したX線を検出し、検出したX線量に対応した信号をデータ収集回路21へと出力する。X線検出器15は、例えば、X線管11の焦点を中心とした1つの円弧に沿ってチャネル方向(周回方向)に複数のX線検出素子が配列された複数のX線検出素子列を有する。X線検出器15は、例えば、チャネル方向に複数のX線検出素子が配列されたX線検出素子列がスライス方向(列方向、row方向)に複数配列された構造を有する。また、X線検出器15は、例えば、グリッドと、シンチレータアレイと、光センサアレイとを有する間接変換型の検出器である。シンチレータアレイは、複数のシンチレータを有する。シンチレータは入射X線量に応じた光子量の光を出力するシンチレータ結晶を有する。グリッドは、シンチレータアレイのX線入射側の面に配置され、散乱X線を吸収するX線遮蔽板を有する。光センサアレイは、シンチレータからの光量に応じた電気信号に変換する機能を有し、例えば、光電子増倍管(フォトマルチプライヤー:PMT)等の光センサを有する。なお、X線検出器15は、入射したX線を電気信号に変換する半導体素子を有する直接変換型の検出器であっても構わない。
【0026】
回転フレーム16(架台ベース)は、X線管11とX線検出器15とを対向支持し、制御装置18によってX線管11とX線検出器15とを回転させる円環状のフレームである。例えば、回転フレーム16は、アルミニウムを材料とした鋳物である。なお、回転フレーム16は、X線管11及びX線検出器15に加えて、X線高電圧装置17やデータ収集回路21を更に支持することもできる。更に、回転フレーム16は、
図1において図示しない種々の構成を更に支持することもできる。以下では、架台装置10において、回転フレーム16とともに回転移動する部分及び回転フレーム16を回転部とも記載する。なお、X線管11とX線検出器15とが一体として被検体Pの周囲を回転するRotate/Rotate-Type(第3世代CT)について説明したが、その他にも、リング状にアレイされた多数のX線検出素子が固定され、X線管11のみが被検体Pの周囲を回転するStationary/Rotate-Type(第4世代CT)等様々なタイプがあり、いずれのタイプでも本実施形態へ適用可能である。
【0027】
なお、データ収集回路21が生成した検出データは、回転フレーム16に設けられた発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)を有する送信機から、光通信によって、架台装置10の非回転部分に設けられた、フォトダイオードを有する受信機に送信され、コンソール装置40へと転送される。ここで、非回転部分とは、例えば、回転フレーム16を回転可能に支持する固定フレーム等である。なお、回転フレーム16から架台装置10の非回転部分への検出データの送信方法は、光通信に限らず、回転部分と非回転部分との間でデータ伝送が行えるものであれば如何なる方式を採用しても構わない。
【0028】
制御装置18は、モータ及びアクチュエータ等の駆動機構と、この機構を制御する回路とを含む。制御装置18は、入力インターフェース43や架台装置10に設けられた入力インターフェース等からの入力信号を受けて、架台装置10及び寝台装置30の動作制御を行う。例えば、制御装置18は、回転フレーム16の回転や架台装置10のチルト、寝台装置30及び天板33の動作等について制御を行う。一例を挙げると、制御装置18は、架台装置10をチルトさせる制御として、入力された傾斜角度(チルト角度)情報により、X軸方向に平行な軸を中心に回転フレーム16を回転させる。なお、制御装置18は架台装置10に設けられてもよいし、コンソール装置40に設けられてもよい。
【0029】
ウェッジ19は、X線管11から照射されたX線量を調節するためのフィルタである。具体的には、ウェッジ19は、X線管11から被検体Pへ照射されるX線が、予め定められた分布になるように、X線管11から照射されたX線を透過して減衰するフィルタである。例えば、ウェッジ19は、ウェッジフィルタ(wedge filter)やボウタイフィルタ(bow-tie filter)であり、所定のターゲット角度や所定の厚みとなるようにアルミニウム等を加工して構成される。
【0030】
コリメータ20は、ウェッジ19を透過したX線の照射範囲を絞り込むための鉛板等であり、複数の鉛板等の組み合わせによってスリットを形成する。コリメータ20は、図示しないコリメータ調整回路によって、開口度及び位置が調整される。これにより、X線管11が発生させたX線の照射範囲が調整される。
【0031】
データ収集回路21は、DAS(Data Acquisition System)である。データ収集回路21は、X線検出器15の各X線検出素子から出力される電気信号に対して増幅処理を行う増幅器と、電気信号をデジタル信号に変換するA/D変換器とを有し、検出データを生成する。データ収集回路21は、例えば、プロセッサにより実現される。
【0032】
寝台装置30は、スキャン対象の被検体Pを載置、移動させる装置であり、基台31と、寝台駆動装置32と、天板33と、支持フレーム34とを有する。基台31は、支持フレーム34を鉛直方向に移動可能に支持する筐体である。寝台駆動装置32は、被検体Pが載置された天板33を、天板33の長軸方向に移動する駆動機構であり、モータ及びアクチュエータ等を含む。支持フレーム34の上面に設けられた天板33は、被検体Pが載置される板である。なお、寝台駆動装置32は、天板33に加え、支持フレーム34を天板33の長軸方向に移動してもよい。立位CTに応用される場合は、天板33に相当する患者支持機構を移動する方式であってもよい。架台装置10の天板33の位置関係の相対的な変更を伴うスキャン(ヘリカルスキャンや位置決めスキャン等)実行の際、当該位置関係の相対的な変更は天板33の駆動によって行われてもよいし、架台装置10の走行によって行われてもよく、またそれらの複合によって行われてもよい。歯科用CTに適用される場合には、寝台装置30等は不要となる。
【0033】
コンソール装置40は、メモリ41と、ディスプレイ42と、入力インターフェース43と、処理回路44とを有する。
【0034】
メモリ41は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。例えば、メモリ41は、投影データや再構成画像データを記憶する。また、例えば、メモリ41は、X線CT装置1に含まれる回路がその機能を実現するためのプログラムを記憶する。メモリ41は、ハードウェアによる非一過性の記憶媒体として用いられる。なお、投影データや再構成画像データの記憶は、コンソール装置40のメモリ41が行う場合に限らず、インターネット等の通信ネットワークを介してX線CT装置1と接続可能なクラウドサーバがX線CT装置1からの保存要求を受けて投影データや再構成画像データの記憶を行うようにしてもよい。
【0035】
ディスプレイ42は、各種の情報を表示する。例えば、ディスプレイ42は、処理回路44によって生成されたCT画像や、操作者からの各種操作を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)等を出力する。例えば、ディスプレイ42は、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイである。
【0036】
入力インターフェース43は、操作者からの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路44に出力する。例えば、入力インターフェース43は、投影データを収集する際の収集条件や、CT画像を再構成する際の再構成条件、CT画像から後処理画像を生成する際の画像処理条件等を操作者から受け付ける。例えば、入力インターフェース43は、マウスやキーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、タッチパネル等により実現される。
【0037】
処理回路44は、X線CT装置1全体の動作を制御する。例えば、処理回路44は、スキャン制御機能441、画像生成機能442、表示制御機能443及び制御機能444を有する。処理回路44は、例えば、プロセッサにより実現される。
【0038】
例えば、処理回路44は、メモリ41からスキャン制御機能441に相当するプログラムを読み出して実行することにより、X線CT装置1を制御してスキャンを実行する。ここで、スキャン制御機能441は、例えば、コンベンショナルスキャンやヘリカルスキャン、ステップアンドシュート方式といった種々の方式でのスキャンを実行することができる。
【0039】
具体的には、スキャン制御機能441は、寝台駆動装置32を制御することにより、被検体Pを架台装置10の撮影口内へ移動させる。また、スキャン制御機能441は、X線高電圧装置17を制御することにより、X線管11へ高電圧を供給させる。また、スキャン制御機能441は、X線管11内の熱電子の軌道を調整し、陽極116上の照射角を変化させずに焦点位置を変化させ、線質が一定に保持されるように制御する。また、スキャン制御機能441は、コリメータ20の開口度及び位置を調整する。また、スキャン制御機能441は、制御装置18を制御することにより、回転フレーム16を含む回転部を回転させる。また、スキャン制御機能441は、データ収集回路21に投影データを収集させる。なお、CT画像を再構成するには被検体Pの周囲一周、360°分の投影データが、またハーフスキャン法でも180°+ファン角度分の投影データが必要とされる。いずれの再構成方式に対しても本実施形態へ適用可能である。
【0040】
また、例えば、処理回路44は、メモリ41から画像生成機能442に相当するプログラムを読み出して実行することにより、データ収集回路21から出力された検出データに対して対数変換処理やオフセット補正処理、チャネル間の感度補正処理、ビームハードニング補正等の前処理を施したデータを生成する。なお、前処理を施す前のデータ(検出データ)及び前処理後のデータを総称して投影データと称する場合もある。また、例えば、画像生成機能442は、CT画像データを生成する。具体的には、画像生成機能442は、前処理後の投影データに対して、フィルタ補正逆投影法や逐次近似再構成法等を用いた再構成処理を行ってCT画像データを生成する。また、画像生成機能442は、入力インターフェース43を介して操作者から受け付けた入力操作に基づいて、CT画像データを任意断面の断層像データや3次元画像データに変換する。
【0041】
また、例えば、処理回路44は、メモリ41から表示制御機能443に相当するプログラムを読み出して実行することにより、CT画像をディスプレイ42に表示する。また、例えば、処理回路44は、メモリ41から制御機能444に相当するプログラムを読み出して実行することにより、入力インターフェース43を介して操作者から受け付けた入力操作に基づいて、処理回路44の各種機能を制御する。
【0042】
なお、
図1においては、スキャン制御機能441、画像生成機能442、表示制御機能443及び制御機能444の各処理機能が単一の処理回路44によって実現される場合を示したが、実施形態はこれに限られるものではない。例えば、処理回路44は、複数の独立したプロセッサを組み合わせて構成され、各プロセッサが各プログラムを実行することにより各処理機能を実現するものとしても構わない。また、処理回路44が有する各処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。処理回路44はコンソール装置40に含まれる場合に限らず、複数の医用画像診断装置にて取得された検出データに対する処理を一括して行う統合サーバに含まれてもよい。コンソール装置40は、単一のコンソールにて複数の機能を実行するものとして説明したが、複数の機能を別々のコンソールが実行することにしても構わない。
【0043】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、あるいは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、又はフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサはメモリ41に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、メモリ41にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。
【0044】
熱電子調整機構114は、第1の熱電子調整部の一例である。熱電子調整機構115は、第2の熱電子調整部の一例である。X線高電圧装置17及びコンソール装置40は、制御部の一例である。X線発生システムは、X線管11、X線高電圧装置17及び処理回路44を含む。
【0045】
以下、線質を変化させずにFFSによりCT撮影が行われるようにするための処理例について説明する。なお、ここでは、Z軸方向(体軸方向)に焦点位置を変化させるFFS(以下、z-FFSと略記)を想定して説明する。z-FFSでは、Z軸方向のサンプリングピッチを等価的に半分にすることができ、空間分解能を向上させることができる。
図2におけるY軸方向に熱電子の軌道が変化することで、陽極116の傾斜面におけるZ軸方向の焦点位置が変化し、z-FFSにおける焦点位置の変化が行われる。
【0046】
図8は、FFSによるCT撮影の処理例を示すフローチャートである。
図8において、X線CT装置1によるCT撮影に際し、コンソール装置40のスキャン制御機能441は、入力インターフェース43を介して、FFSによるスキャンである旨を含む各種指定を受け付ける(ステップS11)。なお、各種指定には、患者情報(患者ID、患者名、生年月日、年齢、体重、性別等)や検査部位等の情報が含まれる。患者情報は、図示しない検査予約システムにより登録された検査予約リストから取得される場合もある。なお、緊急時には患者情報の入力を省略して検査に移行することが可能である。
【0047】
次いで、コンソール装置40の処理回路44のスキャン制御機能441は、FFSによるスキャンを実行する(ステップS12)。すなわち、スキャン制御機能441は、寝台駆動装置32の制御、X線高電圧装置17の制御、コリメータ20の調整、回転フレーム16の制御、データ収集回路21の制御を行い、スキャンを実行する。この際、スキャン制御機能441は、X線高電圧装置17の熱電子調整機構駆動回路174により、X線管11の熱電子調整機構114、115を制御し、例えばビュー毎に焦点位置を切り替えてスキャンを実行する。ビューは、回転フレーム16の角度毎の撮影を行う単位である。スキャン制御機能441は、FFSに用いる2つの焦点位置に対応する調整量を、焦点位置指標と調整量とを対応付けたテーブル(
図5A)や焦点位置指標から調整量を計算する数式(
図5B)により取得し、熱電子調整機構114、115に供給する電圧を制御する。
【0048】
図9は、FFSによるCT撮影の制御タイミングの例を示す図である。
図9において、奇数番号のビューv001、v003、v005、・・・では、例えば
図6Aで説明されたように、第1の熱電子調整機構114による熱電子の軌道の調整(第1調整)と第2の熱電子調整機構115による熱電子の軌道の調整(第2調整)は、両方ともオフ(OFF)としている。この場合、焦点位置はP
0となり、照射角は一定のθ
0となる。従って、線質は一定(例えば、「普通」)となる。また、偶数番号のビューv002、v004、・・・では、例えば
図6Bで説明されたように、第1の熱電子調整機構114による熱電子の軌道の調整(第1調整)は上向き、第2の熱電子調整機構115による熱電子の軌道の調整(第2調整)は下向きとしている。この場合、焦点位置はP
1となり、照射角は一定のθ
0となり、線質は一定となる。なお、
図6Aと
図6Bの場合の調整状態を用いたが、これに限られない。また、ビュー番号の奇数と偶数とで焦点位置を切り替える例について説明したが、1つのビューの中で焦点位置を切り替えてそれぞれの状態で撮影を行うようにしてもよい。
【0049】
次いで、
図8に戻り、画像生成機能442は、データ収集回路21から出力された検出データに対する前処理を行った後、再構成処理を行ってCT画像データを生成する(ステップS13)。データ収集回路21から出力された検出データは第1の焦点位置と第2の焦点位置とに対応付けられており、z-FFSにおける再構成では、第1の焦点位置と第2の焦点位置とのZ軸方向の位置の違いが考慮される。すなわち、焦点位置がZ軸方向に切り替わることで、X線管11から出たX線が被検体Pを透過してX線検出器15に至るZ軸方向の経路が増加し、Z軸方向の撮影の分解能を高めることができる。なお、2つの焦点位置に切り替えるだけでなく、3つ以上の焦点位置に切り替えることもできる。また、CT画像データは、操作者から受け付けた入力操作に基づいて、任意断面の断層像データや3次元画像データに変換される。
【0050】
次いで、表示制御機能443は、CT画像や任意断面の断層像データや3次元画像データに基づく画像をディスプレイ42に表示する(ステップS14)。
【0051】
図8に示されたステップS11、S12は、スキャン制御機能441に対応するステップである。ステップS11、S12は、処理回路44がメモリ41からスキャン制御機能441に対応するプログラムを読み出し実行することにより、スキャン制御機能441が実現されるステップである。ステップS13は、画像生成機能442に対応するステップである。ステップS13は、処理回路44がメモリ41から画像生成機能442に対応するプログラムを読み出し実行することにより、画像生成機能442が実現されるステップである。ステップS14は、表示制御機能443に対応するステップである。ステップS14は、処理回路44がメモリ41から表示制御機能443に対応するプログラムを読み出し実行することにより、表示制御機能443が実現されるステップである。
【0052】
上述したように、第1の実施形態によれば、X線の線質を変えずに焦点位置を高速に変えてz-FFSによるCT撮影を行うことができるため、意図しない線質の変化に起因する画質の低下を防止し、画質を安定・向上させることができる。また、陽極上の焦点位置が変化することで、陽極の1箇所に焦点位置が固定せず、陽極の熱溶融等のダメージが軽減される。
【0053】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態ではz-FFSについて説明したが、第2の実施形態では、X軸方向(チャネル方向)に焦点位置を変化させるFFS(以下、x-FFSと略記)を想定して説明する。x-FFSでは、X軸方向のサンプリングピッチを等価的に小さくすることができ、空間分解能を向上させることができる。前述した
図2に示されたX線管11の左右の方向は体軸方向(Z軸方向)に一致し、
図2における紙面に対する前後方向(X軸方向)に焦点位置が変化することで、x-FFSにおける焦点位置の変化が行われる。
【0054】
図10は、第2の実施形態に係る熱電子調整機構114、115の構成例を示す図であり、熱電子調整機構114、115だけを斜視図で示している。熱電子調整機構114、115以外のX線管11の構成は、
図2と同様である。
図10において、第1の熱電子調整機構114には、
図3におけるY軸方向に距離を隔てて対向する調整極114a、114bに代えて、X軸方向に距離を隔てて対向する調整極114c、114dが設けられている。また、第2の熱電子調整機構115には、
図3におけるY軸方向に距離を隔てて対向する調整極115a、115bに代えて、X軸方向に距離を隔てて対向する調整極115c、115dが設けられている。調整極114c、114d、115c、115dは、
図2の調整極114a、114b、115a、115bと同様に、軌道の調整に電界を用いたものとすることができる。これにより、熱電子の軌道が変化する方向は、
図3の場合に熱電子の軌道が変化する方向に対し、
図10では、熱電子の進行方向に垂直な面内で直角の方向となる。すなわち、軌道の調整に電界が用いられる場合には、XZ平面内で熱電子の軌道が変化する。
【0055】
X線CT装置1の構成は、
図1に示されたものと同様である。X線高電圧装置17の構成は、
図4に示されたものと同様である。熱電子調整機構114、115の調整量の制御手法は、
図5A及び
図5Bに示されたものと同様である。
【0056】
図11A~
図11Cは、熱電子調整機構114、115による熱電子の軌道の調整の例を示す図であり、
図10に示されたようなX軸方向に対向する調整極114c、114dと調整極115c、115dとが設けられた構成において、軌道の調整に電界が用いられる場合を示している。この場合、熱電子の軌道は陽極116の円周方向に変化するように調整される。
【0057】
図11Aは、第1の熱電子調整機構114と第2の熱電子調整機構115の両方とも調整がオフ(OFF)となっている場合を示しており、陰極113から放出された熱電子の軌道は調整されず、陽極116に照射される。すなわち、陰極113から放出された熱電子は、陰極113に対して正の高い電位差が印加された陽極116に引かれて、ある焦点位置P
0Tにまっすぐに照射される。この場合の照射角をθ
0Tとする。陽極116に熱電子が照射されることで、X線が発生する。
【0058】
図11Bは、第1の熱電子調整機構114と第2の熱電子調整機構115の両方とも調整がオン(ON)となっている場合を示しており、第1の熱電子調整機構114において熱電子の軌道に対してX軸方向における上向き(X軸正方向)の調整が行われ、第2の熱電子調整機構115において熱電子の軌道に対してX軸方向における下向き(X軸負方向)の調整が行われた場合を示している。調整量が予め適切に設定されることで、
図11Aの場合と同様に陽極116への照射角は変わらずθ
0Tであり、焦点位置が上方に変化してP
1Tとなる。この場合、陽極116への照射角は変化しないため、陽極116から発生するX線の線質は変化しない。すなわち、陽極116への照射角により、陽極116の表面付近から発生したX線が陽極116の内部を通過する経路が変わり、線質に影響(経路の距離が長くなると波長の長い成分の吸収が増大して線質が硬くなる)するが、照射角が変化しないことで、線質は一定となる。
【0059】
図11Cは、第1の熱電子調整機構114と第2の熱電子調整機構115の両方とも調整がオン(ON)となっている場合を示しており、第1の熱電子調整機構114において熱電子の軌道に対してX軸方向における下向きの調整が行われ、第2の熱電子調整機構115において熱電子の軌道に対してX軸方向における上向きの調整が行われた場合を示している。調整量が予め適切に設定されることで、
図6A及び
図6Bの場合と同様に陽極116への照射角は変わらずθ
0Tであり、焦点位置が下方に変化してP
2Tとなる。この場合も、陽極116への照射角が変化しないため、陽極116から発生するX線の線質は変化しない。
【0060】
X線CT装置1によるCT撮影の処理手順は
図8に示されたフローチャートと同様であるが、画像生成(ステップS13)の処理において、x-FFSにおける再構成では、回転フレーム16の回転角とともに、第1の焦点位置と第2の焦点位置とのX軸方向(チャネル方向)の位置の違いが考慮されて投影データの合成が行われる。すなわち、焦点位置がX軸方向に切り替わることで、X線管11から出たX線が被検体Pを透過してX線検出器15に至るX軸方向の経路が増加し、X軸方向の撮影の分解能を高めることができる。なお、2つの焦点位置に切り替えるだけでなく、3つ以上の焦点位置に切り替えることもできる。
【0061】
上述したように、第2の実施形態によれば、X線の線質を変えずに焦点位置を高速に変えてx-FFSによるCT撮影を行うことができるため、意図しない線質の変化に起因する画質の低下を防止し、画質を安定・向上させることができる。
【0062】
(第3の実施形態)
第1の実施形態では、
図3に示されるようにY軸方向に離間した調整極114a、114bを有する第1の熱電子調整機構114と、同じくY軸方向に離間した調整極115a、115bを有する第2の熱電子調整機構115とをX線管11が備える場合について説明した。第2の実施形態では、
図10に示されるようにX軸方向に離間した調整極114c、114dを有する第1の熱電子調整機構114と、同じくX軸方向に離間した調整極115c、115dを有する第2の熱電子調整機構115とをX線管11が備える場合について説明した。そして、それぞれの構成をX線管11が併せて備えることもでき、それぞれの方向だけを切り替えて使用することもできるし、両方向を同時に使用することもできる。例えば、X軸方向に離間した調整極の使用により第1の実施形態で説明されたz-FFSに適用でき、Y軸方向に離間した調整極の使用により第2の実施形態で説明されたx-FFSに適用できる。また、X軸方向に離間した調整極とY軸方向に離間した調整極との同時使用により、z-FFSとx-FFSとを混在させた運用にも適用することができる。そこで、このような実施形態を第3の実施形態として説明する。
【0063】
図12は、第3の実施形態に係る熱電子調整機構114、115の構成例を示す図であり、熱電子調整機構114、115だけを斜視図で示している。
図12において、第1の熱電子調整機構114には、Y軸方向に距離を隔てて対向する調整極114a、114bに加えて、X軸方向に距離を隔てて対向する調整極114c、114dが設けられている。また、第2の熱電子調整機構115には、Y軸方向に距離を隔てて対向する調整極115a、115bに加えて、X軸方向に距離を隔てて対向する調整極115c、115dが設けられている。調整極114c、114d、115c、115dは、軌道の調整に電界を用いたものとすることができる。
【0064】
図12において、第1の熱電子調整機構114の調整極114a、114bと、第2の熱電子調整機構115の調整極115a、115bとを使用すれば、
図3の場合と同様に、熱電子の軌道のY軸方向への調整に使用することができる。また、第1の熱電子調整機構114の調整極114c、114dと、第2の熱電子調整機構115の調整極115c、115dとを使用すれば、
図10の場合と同様に、熱電子の軌道のX軸方向への調整に使用することができる。更に、第1の熱電子調整機構114の調整極114a、114b、114c、114dと、第2の熱電子調整機構115の調整極115a、115b、115c、115dとを使用すれば、3次元のXYZ空間内で熱電子の軌道を調整可能である。
【0065】
図5Aのテーブルや
図5Bの数式は、調整を行う方向(Y軸方向、X軸方向)毎に設けられるものでもよいし、焦点位置指標として両方向が考慮されたものとし、第1調整量と第2調整量とに両方向の調整量が含まれるようにしたものでもよい。
【0066】
(第4の実施形態)
ここまでの実施形態では、X線管11に2組(2段)の熱電子調整機構114、115が設けられる場合について説明してきたが、熱電子調整機構を3段以上としてもよい。
【0067】
図13は、X線管11の他の構成例を示す図であり、回転型陽極のX線管11において、第1の熱電子調整機構114と第2の熱電子調整機構115とに加え、第3の熱電子調整機構119が設けられたものである。第3の熱電子調整機構119は、対向する調整極119aと調整極119bとを備えている。また、熱電子調整機構119の調整極119a、119bは、
図10に示されたように、直角方向(X軸方向)の配置に置き換えられるようにしてもよいし、
図12に示されたように、直角方向(X軸方向)の配置が加えられるようにしてもよい。X線管11のその他の構成は、
図2に示されたものと同様である。
図5Aのテーブルや
図5Bの数式には、第3の熱電子調整機構119のために、第3調整量(方向を含む)が追加される。
【0068】
第3の熱電子調整機構119は、第1・第2の熱電子調整機構114、115と同様に熱電子の軌道の調整に用いられるものでもよいし、熱電子のビームの陽極116への照射部分の焦点サイズの調整に用いられるものでもよい。ただし、焦点サイズの調整には電界が用いられる。電界の場合は、一対の調整極のそれぞれで陰極113との相対的な電位により熱電子に作用する力を制御できるが、磁界の場合は、一対の調整極によって熱電子に力が作用するためである。照射部分の焦点サイズは、陽極116上のX線が発生する領域に対応し、撮影される画像の解像度に影響を与えるため、適切な値に管理されるべきものであるところ、第3の熱電子調整機構119により適切な値に調整することが可能である。すなわち、第3の熱電子調整機構119を電界によるものとし、調整極119a、119bに、陰極113に対して負の同じ電圧を印加することにより、熱電子のビームを細くして焦点サイズを縮小することができる。また、第4、第5、・・・の熱電子調整機構、すなわち、4個以上の熱電子調整機構を設け、熱電子の軌道の調整又は熱電子の焦点サイズの調整を行わせるようにしてもよい。熱電子調整機構119は、第3の熱電子調整部の一例である。
【0069】
(第5の実施形態)
図14は、X線管11の他の構成例を示す図であり、固定型陽極の例を示している。
図14において、X線管11は、筐体111と、陰極113と、第1の熱電子調整機構114と、第2の熱電子調整機構115と、陽極118とを備えている。
図2の構成と比べ、回転型の陽極116が固定型の陽極118に代わり、回転軸117がなくなる点が異なる。陽極118は、例えば、熱電子が衝突する表面がタングステンにより作製され、陰極113から放出される熱電子の軌道に対して所定の傾斜角が設けられたブロック部材である。第1の熱電子調整機構114及び第2の熱電子調整機構115は、
図10に示されたように、直角方向(X軸方向)の配置に置き換えられるようにしてもよいし、
図12に示されたように、直角方向(X軸方向)の配置が加えられるようにしてもよい。固定型陽極の場合、
図4に示されたX線高電圧装置17の構成要素のうち、陽極回転駆動電源供給回路173は不要となる。
【0070】
図15は、X線管11の更に他の構成例を示す図であり、第1の熱電子調整機構114と第2の熱電子調整機構115とに加え、第3の熱電子調整機構119が設けられたものである。第3の熱電子調整機構119は、対向する調整極119aと調整極119bとを備えている。また、熱電子調整機構119の調整極119a、119bは、
図10に示されたように、直角方向(X軸方向)の配置に置き換えられるようにしてもよいし、
図12に示されたように、直角方向(X軸方向)の配置が加えられるようにしてもよい。X線管11のその他の構成は、
図2に示されたものと同様である。第3の熱電子調整機構119の用途は、回転型陽極の場合と同様に、熱電子の軌道の調整に用いられるものでもよいし、熱電子のビームの陽極116への照射部分の焦点サイズの調整に用いられるものでもよい。
【0071】
(第6の実施形態)
ここまでの実施形態では、第1の熱電子調整機構114、第2の熱電子調整機構115及び第3の熱電子調整機構119における軌道の調整に電界が用いられるものとしてきた。しかし、陰極113から放出する熱電子の軌道を調整するのに、電界に代えて磁界を用いることができる。
【0072】
軌道の調整に磁界が用いられる場合、第1の熱電子調整機構114、第2の熱電子調整機構115及び第3の熱電子調整機構119の調整極は、例えば、電磁石の磁極であり、飛翔する熱電子は、磁界から受ける力により、熱電子の軌道が変化する。軌道の調整に磁界が用いられる場合、熱電子に作用する力の方向は、軌道の調整に電界が用いられる場合に熱電子に作用する方向に対し、熱電子の進行方向に垂直な面内で直角の方向(直交する方向)となる。すなわち、軌道の調整に電界が用いられる場合には、
図3等におけるYZ平面内で熱電子の軌道が変化し、軌道の調整に磁界が用いられる場合には、YZ平面に直交するXZ平面内で熱電子の軌道が変化する。
【0073】
第1の熱電子調整機構114、第2の熱電子調整機構115及び第3の熱電子調整機構119に対する第1調整量、第2調整量及び第3調整量は、磁界が用いられる場合、例えば、調整極の電磁石コイルに供給される電流値(調整する方向に対応する極性を含む)である。これにより、焦点位置指標が決まると、対応する第1調整量、第2調整量及び第3調整量が得られる。
【0074】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、照射されるX線の線質を変えずに焦点位置を変更可能とすることができる。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0076】
1 X線CT装置
11 X線管
113 陰極
116、118 陽極
114、115、119 熱電子調整機構
114a~114d、115a~115d、119a、119b 調整極
15 X線検出器
17 X線高電圧装置
174 熱電子調整機構駆動回路
21 データ収集回路
40 コンソール装置
44 処理回路