(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】研磨加工用パッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B24B 37/24 20120101AFI20221114BHJP
B24B 37/30 20120101ALI20221114BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
B24B37/24 C
B24B37/30 C
H01L21/304 622F
(21)【出願番号】P 2018048812
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081385
【氏名又は名称】塩川 修治
(72)【発明者】
【氏名】永嶌 匠
(72)【発明者】
【氏名】喜樂 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 明正
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-179425(JP,A)
【文献】特開2017-064883(JP,A)
【文献】特開2008-119861(JP,A)
【文献】特開2003-100681(JP,A)
【文献】特開2010-149259(JP,A)
【文献】特開2008-088563(JP,A)
【文献】特開2018-024061(JP,A)
【文献】特開2011-020234(JP,A)
【文献】米国特許第06454633(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B37/00-37/34
H01L21/304;21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式成膜により形成された複数の気泡を内在し、表面に開口を有するポリウレタン気泡シートであって研磨パッドや保持パッドとして用いられる研磨加工用パッドにおいて、
ポリウレタン気泡シートの三次元計測X線CTにより測定した表面から深さ100μmの断層画像における16.4mm
2の測定領域内で、気泡空間を海部としたときに当該海部上に存在する島部の個数が
29個以下であることを特徴とする研磨加工用パッド。
【請求項2】
前記ポリウレタン気泡シートの三次元計測X線CTにより測定した表面から深さ50μmの断層画像における16.4mm
2の測定領域内で、気泡空間を海部としたときに当該海部上に存在する島部の個数が
34個以下である請求項1に記載の研磨加工用パッド。
【請求項3】
湿式成膜により形成された複数の気泡を内在するポリウレタン気泡シートからなる研磨加工用パッドの製造方法において、
湿式成膜されたポリウレタン気泡シートのスキン層に、該シートの送り方向に対し逆方向に回転するバフローラーを接触させ、該シートの表面に気泡空間を開口させるバフィング処理工程を含むものであり、
前記ポリウレタン気泡シートにバフィング処理を施す前に、該シートのスキン層に対する反対面に
粘着剤を介し基材を貼り付けるとともに、
前記ポリウレタン気泡シートの送り速度に対するバフローラーの速度の比が500乃至2000である研磨加工用パッドの製造方法。
【請求項4】
前記ポリウレタン気泡シートを送り出す送出ローラーとバフローラーに対向する圧接ローラーの間の該シートに作用する張力が10N乃至50Nである請求項3に記載の研磨加工用パッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨加工用パッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウエハ基板や磁気ディスク基板等の被研磨物の研磨加工時には、湿式成膜により形成された複数の気泡を内在するポリウレタン気泡シートからなり、研磨パッド或いは保持パッドとして機能する研磨加工用パッドが用いられている。
【0003】
研磨パッドでは、研磨スラリの保持量向上、及び、表面の粗さ或いはうねりの改善を目的として被研磨物の表面を研磨するに際し、湿式成膜されたポリウレタン気泡シートのスキン層をバフィング処理して、該シートの表面に気泡空間を開口させることとしている。
【0004】
また、保持パッドでは、研磨パッドによって研磨される被研磨物を吸着保持するに際し、当該被研磨物に及ぼす吸着保持力を調整するために、湿式成膜されたポリウレタン気泡シートのスキン層をバフィング処理し、該シートの表面に気泡空間を開口させる場合がある。
【0005】
ところが、ポリウレタン気泡シートのスキン層がバフィング処理される研磨パッド或いは保持パッドの製造段階では、バフィング処理によって発生するバフ粉と呼ばれるポリウレタン樹脂の削り屑が、該シートのバフィング処理によって開口された気泡空間に侵入して残留する。研磨パッドの気泡空間に残留することになったバフ粉は、研磨加工時に当該研磨パッドから研磨環境中に放出され、当該被研磨物の表面に線状傷等の微小欠陥を生じたり、当該被研磨物の表面に付着して付着欠陥を生ずるものになる。スキン層がバフィング処理されるタイプの保持パッドにおいても同様に、気泡空間に残留することになったバフ粉は、被研磨物を吸着保持していない、露出した保持面より研磨環境中に放出され、当該被研磨物の表面に線状傷等の微小欠陥を生じたり、当該被研磨物の表面に付着して付着欠陥を生ずる可能性がある。
【0006】
そこで、従来、研磨パッドや保持パッドの製造段階で、湿式成膜されたポリウレタン気泡シートのバフィング処理によって開口される気泡空間へ残留するバフ粉の低減手法として、特許文献1に記載の如く、当該ポリウレタン気泡シートのバフィング処理された表面に高圧水を吹き付ける処理の前又は後に、回転するブラシロールを当該表面に当てながら、当該気泡空間に落下したバフ粉を吸引除去するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、湿式成膜されたポリウレタン気泡シートは気孔同士が互いに連結した連続気泡構造を有するため、特許文献1に記載のバフ粉の低減手法では、ポリウレタン気泡シートの気泡空間の奥深くに侵入し、バフローラーの回転により更に気泡内部へと押し込まれたバフ粉を十分には除去できない。
【0009】
そして、研磨パッドが研磨加工に伴うドレス処理などで当該パッドの厚みが薄くなるに従い、ポリウレタン気泡シートにおける気泡空間の底部が露出すると、当該気泡空間の底部に残留していたバフ粉が研磨環境中に放出するに至り、被研磨物に微小欠陥や付着欠陥を発生させてしまう。
【0010】
本発明の課題は、研磨パッドや保持パッドの製造段階で、湿式成膜されたポリウレタン気泡シートのバフィング処理によって開口される気泡空間におけるバフ粉の残留を低減させ、被研磨物に生ずる微小欠陥や付着欠陥を低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、湿式成膜により形成された複数の気泡を内在し、表面に開口を有するポリウレタン気泡シートであって研磨パッドや保持パッドとして用いられる研磨加工用パッドにおいて、ポリウレタン気泡シートの三次元計測X線CTにより測定した表面から深さ100μmの断層画像における16.4mm2の測定領域内で、気泡空間を海部としたときに当該海部上に存在する島部の個数が29個以下であるようにしたものである。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記ポリウレタン気泡シートの三次元計測X線CTにより測定した表面から深さ50μmの断層画像における16.4mm2の測定領域内で、気泡空間を海部としたときに当該海部上に存在する島部の個数が34個以下であるようにしたものである。
【0013】
請求項3に係る発明は、湿式成膜により形成された複数の気泡を内在するポリウレタン気泡シートからなる研磨加工用パッドの製造方法において、湿式成膜されたポリウレタン気泡シートのスキン層に、該シートの送り方向に対し逆方向に回転するバフローラーを接触させ、該シートの表面に気泡空間を開口させるバフィング処理工程を含むものであり、前記ポリウレタン気泡シートにバフィング処理を施す前に、該シートのスキン層に対する反対面に粘着剤を介し基材を貼り付けるとともに、前記ポリウレタン気泡シートの送り速度に対するバフローラーの速度の比が500乃至2000であるようにしたものである。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明において更に、前記ポリウレタン気泡シートを送り出す送出ローラーとバフローラーに対向する圧接ローラーの間の該シートに作用する張力が10N乃至50Nであるようにしたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る研磨加工用パッド及びその製造方法によれば、ポリウレタン気泡シートの表面から該シートに内在する気泡空間の表面より深い位置(深さ100μmの位置)乃至表面付近(深さ50μmの位置)に存在するバフ粉を低減し、従来のブラシロールなどによるポリウレタン気泡シートの表面洗浄の手法では除去できずに残留するバフ粉を低減できる。
【0019】
従って、本発明に係る研磨加工用パッドを用いた研磨パッド又は保持パッドによれば、被研磨物における残留バフ粉由来の微小欠陥或いは付着欠陥の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1はポリウレタン気泡シートの厚み方向模式断面図である。
【
図2】
図2はポリウレタン気泡シートのバフィング処理装置を示す模式図である。
【
図3(A)】
図3(A)はポリウレタン気泡シートの表面から50μm深さのX線CT画像を示す比較例1の断層画像である。
【
図3(B)】
図3(B)はポリウレタン気泡シートの表面から50μm深さのX線CT画像を示す実施例1の断層画像である。
【
図4(A)】
図4(A)はポリウレタン気泡シートの表面から100μm深さのX線CT画像を示す比較例1の断層画像である。
【
図4(B)】
図4(B)はポリウレタン気泡シートの表面から100μm深さのX線CT画像を示す実施例1の断層画像である。
【
図5】
図5はポリウレタン気泡シートの表面から50μm深さの断層画像における島部個数を示すグラフである。
【
図6】
図6はポリウレタン気泡シートの表面から100μm深さの断層画像における島部個数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.研磨加工用パッド
本発明の研磨加工用パッドは、研磨パッド又は保持パッドとして用いられる。
本発明の研磨加工用パッドは、湿式成膜により形成された複数の気泡を内在するポリウレタン気泡シートから構成される。即ち、湿式成膜されたポリウレタン気泡シートは、例えば
図1に示す如く、研磨パッドの研磨面又は保持パッドの保持面から厚み方向に遠ざかるにつれて拡大する略涙形状の気泡(涙形気泡)を有し、また、一部の気泡同士が連結した多孔質構造に形成されるため、略球状の独立気泡を有する硬質パッドと比べて柔軟性が高いことから、研磨パッドにおいては被研磨物に対する研磨傷の発生を抑制でき、保持パッドにおいては被研磨物の平坦性向上に寄与する。
【0022】
(1)研磨加工用パッドの特徴的構成及び作用
(a)研磨加工用パッドにおいて、ポリウレタン気泡シートの三次元計測X線CTにより測定した表面から深さ100μm(
図1参照)の断層画像における16.4mm
2の測定領域内で、気泡空間を海部としたときに当該海部上に存在する島部の個数が70個以下であるものにした(
図4(B)、
図6参照)。これにより、ポリウレタン気泡シートの表面から該シートにおける気泡空間の奥深い位置に存在するバフ粉が低減される。従来のブラシロールを伴うポリウレタン気泡シートの表面洗浄では除去できずに残留するバフ粉を低減できる。尚、島部の個数は測定領域面積に比例しており、例えば、測定領域が10mm
2であれば、島部の個数は43個以下である。
【0023】
(b)上述(a)の研磨加工用パッドにおいて更に、ポリウレタン気泡シートの三次元計測X線CTにより測定した表面から深さ50μm(
図1参照)の断層画像における16.4mm
2の測定領域内で、気泡空間を海部としたときに当該海部上に存在する島部の個数が100個以下であるものにした(
図3(B)、
図5)。これにより、ポリウレタン気泡シートの表面付近の気泡空間に残留するバフ粉も低減できる。尚、島部の個数は測定領域面積に比例しており、例えば、測定領域が10mm
2であれば、島部の個数は61個以下である。
【0024】
本明細書において「気泡空間を海部としたときに当該海部上に存在する島部」には連通した複数の気泡で囲まれた、凝集したバフ粉と同程度の大きさのポリウレタン樹脂壁を含む。このような樹脂壁は研磨パッドとして利用したときに、研磨加工時に研磨面として露出した際、千切れてスクラッチ要因となり易い。このため、「島部」にはバフ粉のみならず、3000μm2以下の凝集バフ粉と同程度の大きさを有する樹脂壁部分も含まれる。表面から深さ100μmにおける島部個数を70個以下、或いは、表面から深さ50μmにおける島部個数を100個以下にする方法としては、バフ粉を低減することの他に、千切れ易い樹脂壁部分を形成させないように、ポリウレタン樹脂種やポリウレタン樹脂濃度、界面活性剤や製造条件を適宜選択して低減させることができる。
【0025】
(2)研磨加工用パッドを製造する方法の特徴的構成及び作用
(c)研磨加工用パッドの製造方法として、湿式成膜されたポリウレタン気泡シートのスキン層に、該シートの送り方向に対し逆方向に回転するバフローラーを接触させ、該シートの表面に気泡空間を開口させるバフィング処理工程を含む(
図2参照)。これにより、バフローラーの回転方向がポリウレタン気泡シートの送り方向に対して逆方向になり、バフローラーによりポリウレタン気泡シートのスキン層から削り取られたバフ粉が、該シートのバフィング処理された表面の側に付着しにくい。即ち、バフ粉は該シートのバフィング処理によって開口された気泡空間に侵入し難く、該気泡空間への残留を上述(a)、(b)の如くに低減できる。
【0026】
(d)ポリウレタン気泡シートの送り速度に対するバフローラーの速度の比が500乃至2000であるものにした。これにより、バフローラーがポリウレタン気泡シートのスキン層に及ぼす剪断力を適度に高め、該シートに削り残しなく、気泡空間を開口させた平滑な表面を形成できる。
【0027】
(e)ポリウレタン気泡シートを送り出す送出ローラーとバフローラーに対向する圧接ローラーの間の該シートに作用する張力が10N乃至50Nであるものにした。これにより、バフローラーがポリウレタン気泡シートのスキン層に及ぼす剪断力を適度に高め、該シートに削り残しなく、気泡空間を開口させた平滑な表面を形成できる。
【0028】
(f)ポリウレタン気泡シートにバフィング処理を施す前に、該シートのスキン層に対する反対面に基材を貼り付けるものにした。これにより、バフィング処理対象となるポリウレタン気泡シートを含む全体の剛性及び硬度を高め、該シートが逆回転するバフローラーの回転方向に引きずられて撓むことなく、バフローラーの強い剪断力をポリウレタン気泡シートのスキン層に及ぼしてバフィング処理を確実に図ることができる。
【0029】
2.研磨加工用パッドの製造方法
本発明の研磨加工用パッドを製造する方法として、代表的な方法を以下に説明する。該方法は、少なくとも以下の構成:
準備工程
塗布工程
凝固再生工程
洗浄・乾燥工程
基材貼り合せ工程
バフィング処理工程
を含んでいる。
【0030】
(1)準備工程
準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN、N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)及び添加剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。水混和性の有機溶媒としては、水と任意の割合で混ざり合う有機溶媒であれば良く、DMF以外に、例えばN,N-ジメチルアセトアミド等を用いても良い。ポリウレタン樹脂には、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から数平均分子量が5,000~100,000の範囲のものを選択して用い、例えば、ポリウレタン樹脂が30重量%となるようにDMFに溶解させる。ポリウレタン樹脂の分子量を制限することにより、凝固再生工程において、ポリウレタン樹脂の分子移動を円滑にすることができる。添加剤としては、気泡の平均厚さ方向の長さや単位体積あたりの個数を制御するため、カーボンブラック等の顔料、気泡の形成を促進させる親水性添加剤及びポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性添加剤等を用いることができる。得られた溶液を減圧下で脱泡してポリウレタン樹脂溶液を得る。
【0031】
(2)塗布工程
塗布工程では、準備工程で得られたポリウレタン樹脂溶液を常温下でナイフコータ等により帯状の成膜基材に略均一となるように、連続的に塗布する。このとき、ナイフコータ等と成膜基材との間隙(クリアランス)を調整することで、ポリウレタン樹脂溶液の塗布厚さ(塗布量)が調整される。成膜基材にはPET樹脂等の樹脂製の不織布やフィルムを用いることができるが、本例では、成膜基材としてPET製フィルムが用いられる。
【0032】
(3)凝固再生工程
凝固再生工程では、成膜基材に塗布されたポリウレタン樹脂溶液が、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液(水系凝固液)に案内される。本例では、凝固液として、水を用いている。凝固液中では、まず、ポリウレタン樹脂溶液の表面側に緻密な微細孔が形成されスキン層が形成される。その後、ポリウレタン樹脂溶液中のDMFと凝固液との置換の進行によりポリウレタン樹脂が成膜基材上にシート状に凝固再生されて気泡が形成された樹脂シートが形成される。ポリウレタン樹脂溶液からDMFが脱溶媒し、DMFと水とが置換することで、気泡及び微細孔が網目状に連通する。
【0033】
(4)洗浄・乾燥工程
洗浄・乾燥工程では、凝固再生工程で凝固再生したシート状のポリウレタン樹脂(成膜樹脂)を成膜基材から剥離し、水等の洗浄液中で洗浄してポリウレタン樹脂中に残留するDMFを除去する。洗浄後、成膜樹脂をシリンダ乾燥機で乾燥させる。シリンダ乾燥機は内部に熱源を有するシリンダを備えている。成膜樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。乾燥後の成膜樹脂は、ポリウレタン気泡シートとしてロール状に巻取られる。
【0034】
尚、このようにして製造されたポリウレタン気泡シートは、気泡空間を内在し、その表面には内部よりも高密度で皮膜状の表面層(スキン層)が形成される。
【0035】
(5)基材貼り合せ工程
基材貼り合せ工程では、洗浄及び乾燥されてロール状に巻取られたポリウレタン気泡シートのスキン層と反対の面側に略平坦な支持材としてのシート基材が接着剤或いは両面粘着テープを介して貼り合わされる。シート基材には、PET製シート、不織布、ポリウレタン樹脂含浸不織布が用いられる。シート基材が貼り合わされたポリウレタン気泡シートはロール状に巻取られる。
【0036】
(6)バフィング処理工程
バフィング処理工程では、バフ機によってポリウレタン気泡シートのスキン層に回転するバフローラーを接触させて研削処理を施す。これにより、ポリウレタン気泡シートの厚みが均一化され、該シートの表面に気泡空間が開口される。
【0037】
ポリウレタン気泡シートのバフィング処理装置は例えば
図2に示す如くに構成され、送出ローラー11、巻取ローラー12、圧接ローラー13、バフローラー14を有する。ポリウレタン気泡シート1は、送出ローラー11から送出されて巻取ローラー12に巻取られ、送出ローラー11と巻取ローラー12の間でその長手方向に張力が付与され、送出ローラー11と巻取ローラー12の間で圧接ローラー13に巻掛けられる。ポリウレタン気泡シート1は、圧接ローラー13に巻掛けられて搬送される過程で、バフローラー14によってバフィング処理が施される。バフィング処理されたポリウレタン気泡シート1は、シート基材とともにガイドローラー15を介して搬送され、巻取ローラー12に巻取られる。
【0038】
即ち、バフローラー14は、細かな砥粒が固着されたサンドペーパー等で表面を覆われている。バフローラー14と対向する位置には、ポリウレタン気泡シート1を支持するための圧接ローラー13が配置されている。圧接ローラー13は、ゴム製で表面が平滑に形成されている。圧接ローラー13とバフローラー14の間には間隙が形成されており、間隙の大きさを調整することで、ポリウレタン気泡シート1が所望の厚さとなるようにバフ量(バフィング処理よる研削量)が調整される。バフローラー14の上流側には、ポリウレタン気泡シート1の供給側として送出ローラー11が配置されている。バフローラー14の下流側には、バフィング処理されたポリウレタン気泡シート1をシート基材とともに巻取るための巻取ローラー12が配置されている。
【0039】
ここで、バフローラー14によるポリウレタン気泡シート1のバフィング処理時には、ポリウレタン気泡シート1の長手方向に張力が付与される。長手方向に付与する張力は、送出ローラー11とバフローラー14に対向する圧接ローラー13の間で10乃至50Nの範囲に設定される。張力が10Nより小さい場合は、バフィング処理時にポリウレタン気泡シート1の弛みが生じ易くなり、バフィング処理後のポリウレタンシート1に厚さのバラツキが生じ易くなる。反対に、張力が50Nを超えた場合には、バフィング処理面の負荷が大きくバフィング処理の途中でポリウレタン気泡シート1が破断してしまうおそれがある。ポリウレタン気泡シート1の長手方向に付与する張力は、送りローラー11に備えられているギアが設定の張力になるように送りローラー11の回転を調整することで調整できる。
【0040】
また、送出ローラー11から引き出されたポリウレタン気泡シート1がシート基材とともに圧接ローラー13の側に搬送されるとき、バフローラー14がポリウレタン気泡シート1のバフィング処理面に及ぼす剪断力は、ポリウレタン気泡シート1の移送速度とバフローラー14の移送速度の比を500乃至2000として与えられる。上記移動速度の比が2000を超える場合には、ポリウレタン気泡シート1に対する抵抗が大きくなり、ポリウレタン気泡シート1が破断する恐れがある。反対に、上記移動速度の比が500未満では、ポリウレタン気泡シートの表面に形成された開口の周辺に削り残しが生じてしまう。バフローラー14がポリウレタン気泡シート1のバフ処理面に及ぼす剪断力の調整は、ポリウレタン気泡シート1に付与する張力によっても行なわれる。
【0041】
また、ポリウレタン気泡シート1はバフィング処理を施す前に、該シートのスキン層に対する反対面にシート基材が貼り付けられるようにしたものである。シート基材を貼り合わせていないポリウレタン気泡シート1に対し、ポリウレタン気泡シート1の送り方向に対して逆方向に回転するバフローラー14を接触させると、ポリウレタン気泡シート1の送り速度に対するバフローラー14の速度の比を500乃至2000とした場合や、送出ローラー11とバフローラー14に対向する圧接ローラー13の間に作用するシート張力を10N乃至50Nとした場合に、ポリウレタン気泡シートにかかる負荷が大きすぎてしまい、ポリウレタン気泡シート1が破断するおそれがある。
【0042】
しかるに、本発明による研磨加工用パッドの製造方法では、ポリウレタン気泡シート1のスキン層にバフィング処理を施すバフローラー14の回転方向Nが、前述した如くに、該シート1の送り方向Fに対する逆方向に設定される。これにより、ポリウレタン気泡シート1の表面から研削除去されたバフ粉が該シート1の表面に開口する気泡空間に落下侵入して残留することの抑制を図るものになる。
【0043】
3.具体的実施結果
(1)実施例1及び比較例1、2の研磨加工用パッドを製造した。
(実施例1)
実施例1では、ポリウレタン樹脂として、100%モジュラスが10MPaのポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ポリウレタン樹脂を用いた。このポリウレタン樹脂のDMF溶液100部に対して、粘度調整用のDMFの45部、顔料のカーボンブラックを30%含むDMF分散液の40部、界面活性剤(大日本インキ株式会社製、商品名:クリスボンSD-11)の2部を混合してポリウレタン樹脂溶液45を調製し、湿式成膜法で厚さ1mmのポリウレタン気泡シートを得た。このポリウレタン気泡シートのスキン層と反対面側に感熱タイプの粘着剤を介し不織布基材を貼り合せ、巻取った。得られたポリウレタン気泡シート巻取体のスキン層側をバフ番手♯180のサンドペーパーを用いたバフローラーにより、バフ量60μmでバフィング処理した。このとき、バフローラーの回転方向をポリウレタン気泡シートの送り方向に対し逆方向とし、ポリウレタン気泡シートの送り速度(1.4m/min)に対するバフローラーの回転速度(1440.5m/min)の比を1030とした。
【0044】
(比較例1)
比較例1では、バフローラーの回転方向をポリウレタン気泡シートの送り方向と同じにする以外、実施例1と同じ条件でバフィング処理した。
【0045】
(比較例2)
比較例2では、比較例1と同じ条件でバフィング処理した後、そのバフィング処理面に500rpmで回転しているブラシロールによってブラシ掛けするとともに、水圧3MPa、水量500L/minの高圧水流を吹付けて洗浄後、乾燥させた。
【0046】
(2)実施例1及び比較例1、2の研磨加工用パッドについて、ポリウレタン気泡シートのバフィング処理によって開口された気泡空間における残留バフ粉の有無を確認した。
【0047】
即ち、三次元計測X線CT装置(ヤマト科学製、TDM1000-IS/SP)を用いて、実施例1及び比較例1、2のポリウレタン気泡シートの内部をスキャンし、連続断層画像を得た。バフィング処理した表面から深さ50μm、深さ100μmの各断層画像について、画像解析ソフト「Image J」を用いて二値化処理し、
図3(A)、
図3(B)、
図4(A)、
図4(B)に示す如くの海島画像を得た。尚、測定試料厚みとスライス厚みの関係より、バフィング処理した表面からの深さを深さ50μm、深さ100μmちょうどに設定することが難しい場合があるため、本明細書中では、バフィング処理した表面から深さ50μm、深さ100μmとは、それぞれ±5μmの範囲を含むものとし、例えば、バフィング処理した表面から深さ45~55μmは深さ50μmの範囲とする。
【0048】
(三次元計測X線CT測定条件)
管電圧:25kV
管電流:0.2mA
画素数:512×512pixel
視野サイズ: 4.32mm×4.32mm
【0049】
(画像処理)
X線CTにより得られた画像データを8bit画像に変換し、閾値設定アルゴリズムをDefault設定にして輝度閾値を設定し気泡内の微小物を分割した。複数の画像を同一位置、サイズとなるよう測定領域を切り取った。測定領域の面積は4002.25μm×4097.75μm(16.4mm2)である。
【0050】
白黒に二値化された海島画像において、黒色で示される海部(気泡空間)の中に、白色で示される島部(ポリウレタン樹脂の削り屑であるバフ粉)の点在の有無が検出され、結果として、気泡空間の内部におけるバフ粉の存在の有無が確認できる。尚、連通する気泡に囲まれた樹脂壁部分をバフ粉と区別するために、島部の検出上限サイズを3000μm2に設定した。
【0051】
(島部個数の検出結果)
実施例1及び比較例1、2において、ポリウレタン気泡シートの表面から50μm深さ、100μm深さの
図3(A)、
図3(B)、
図4(A)、
図4(B)に示した各海島画像における島部個数の検出結果は、
図5、
図6に示す通りとなった。
【0052】
比較例1は実施例1より3倍程度バフ粉と思われる島部の個数が多かった。比較例2では高圧水流とブラシを用いて気泡空間からバフ粉を掻き出したことによって、バフ粉を比較例1よりも低減することができているものの、表面からの深さが50μmよりも100μmの如くに深くなると島部個数の増加を認めた。即ち、ブラシ洗浄では気泡内部にもぐり込んだバフ粉を掻き出すことができず、気泡空間の奥深くにバフ粉が残留してしまうことが認められる。
【0053】
(3)実施例1、比較例1、2の研磨加工用パッドを研磨パッドとして用い、この研磨パッドを用いて被研磨物を研磨し、被研磨物に生じたスクラッチ(微小傷)について調査した。研磨試験の研磨条件、実施例1及び比較例1、2におけるスクラッチの評価は以下の通りとなった。
【0054】
(研磨条件)
・使用研磨機:不二越株式会社製、商品名「MCP-150X」
・回転数:(研磨用定盤)100rpm、(保持用定盤(トップリング))75rpm
・研磨圧力(押圧力):330g/cm2
・研磨スラリ:Nalco社製、品番2350(2350原液:水=1:9の混合液を使用)
・被研磨物:8インチφシリコンウエハ(厚さ:750μm)
・研磨時間:15分/枚
【0055】
(スクラッチの評価)
スクラッチの評価では、研磨試験の被研磨物として600枚の基板を研磨し、被研磨物の処理枚数が初期段階の100枚目から、300枚目、更には600枚目の終了段階までの各研磨段階における被研磨物の表面をパターンなしウエハ表面検査装置(KLAテンコール社製、Surfscan SP1DLS)の高感度測定モードにて測定し、被研磨物の表面におけるスクラッチの発生について、損傷が0~4カ所確認された場合を「○」、損傷が5~9カ所確認された場合を「△」、損傷が10カ所以上確認された場合を「×」として評価した。
【0056】
研磨試験の結果、被研磨物の表面に生じたスクラッチを調査し、表1を得た。比較例1では研磨処理の初期段階からスクラッチが大量に発生した。比較例2では研磨処理の初期段階のスクラッチは比較例1ほど多くはないが、研磨処理を継続するにつれて継時的にスクラッチが増加した。研磨加工によりポリウレタン気泡シートの気泡空間内部にもぐり込んでいたバフ粉が当該気泡空間から外方に放出されたものと思われる。
【0057】
一方、実施例1のパッドでは、研磨初期から研磨終了まで一貫して、被研磨物の表面におけるスクラッチの発生を低く抑えることができた。
【0058】
【0059】
尚、本発明の研磨加工用パッドを保持パッドとして用い、この保持パッドに保持された被研磨物を任意の研磨パッドによって研磨加工したときにも、当該被研磨物に生ずるスクラッチを低く抑えることができることを認めた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る研磨加工用パッド及びその製造方法によれば、研磨パッドや保持パッドの製造段階で、湿式成膜されたポリウレタン気泡シートのバフィング処理によって開口される気泡空間におけるバフ粉の残留を低減させ、被研磨物に生ずる微小欠陥や付着欠陥を低減させることができる。
【0061】
また、ポリウレタン気泡シートのスキン層に、該シートの送り方向に対し逆方向に回転するバフローラーを接触させることにより研削力を上げることができることから、当該研磨パッドによって研磨加工される被研磨物の削り残りも低減してその被研磨面の平滑性も向上できる。
【符号の説明】
【0062】
1 ポリウレタン気泡シート
11 送出ローラー
13 圧接ローラー
14 バフローラー