(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】茶葉抽出物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23F 3/16 20060101AFI20221114BHJP
A23F 3/18 20060101ALI20221114BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20221114BHJP
A61K 8/97 20170101ALI20221114BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
A23F3/16
A23F3/18
A61P17/00
A61K8/97
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2018126464
(22)【出願日】2018-07-03
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2017133721
(32)【優先日】2017-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 奈緒美
(72)【発明者】
【氏名】森田 美穂
【審査官】山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-000062(JP,A)
【文献】特開平01-199542(JP,A)
【文献】特開平06-319453(JP,A)
【文献】特開2010-029170(JP,A)
【文献】特開2014-198039(JP,A)
【文献】特開2005-130734(JP,A)
【文献】特開2010-075207(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136797(WO,A1)
【文献】木村敬子,緑茶浸出液の褐変について,調理科学,1981年,vol.14, No.1,pp.44-48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00-3/42
A23L 2/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) 茶葉を、水を含む溶媒で抽出する工程
(2) (1)で得た抽出物のpHを基準に、+1.0以上のpHにする工程
(3) (1)で得た抽出物を10℃以上に維持する工程
を含む
淡色化された茶葉抽出物の製造方法。
【請求項2】
(1) 茶葉を、水を含む溶媒で抽出する工程
(2) (1)で得た抽出物のpHを基準に、+1.0以上+6.0以内の範囲のpHにする工程
(3) (1)で得た抽出物を10℃以上維持する工程
を含む
淡色化された茶葉抽出物の製造方法。
【請求項3】
(2)における調整後のpHが、pH6.0~10.5である
請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
(1) 茶葉を水で抽出した際のpHより+1.0以上のpHを呈する、水を含む溶媒又は緩衝液で当該茶葉を抽出する工程
(2) 抽出物の温度を10℃以上に維持する工程
を含む
淡色化された茶葉抽出物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかの方法で製造された茶葉抽出物。
【請求項6】
請求項5の茶葉抽出物を含むことを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項7】
請求項5の茶葉抽出物を含むことを特徴とする化粧料。
【請求項8】
請求項5の茶葉抽出物を含むことを特徴とする飲料。
【請求項9】
請求項5の茶葉抽出物を含むことを特徴とする食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶葉抽出物の製造方法に関する。より詳細には、淡色化された茶葉抽出物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茶葉抽出物の製造・利用に際しては、茶葉抽出物の劣化抑制は、香り、風味、色合い、種々の有用性の維持のために重要である。
【0003】
茶葉抽出物の利用には、いわゆる茶飲料等のようにそのまま利用する一次利用と、薬剤、皮膚外用剤、化粧料、加工食品、サプリメント、茶飲料以外の飲料のように茶葉抽出物を添加して他の製剤にする二次利用がある。いずれの利用においても、茶葉本来の効能効果の維持は勿論のこと、各剤型における外観は、商品価値に大きく影響する。
しかしながら、茶葉抽出物はいずれの利用においても、経時で褐色化が進み、外観色の変化が商品価値を下げる問題が生じていた。
【0004】
従来、外観色変化を含む劣化原因が酸化であるとの思想に基づき、種々の酸化抑制手段による安定な茶葉抽出物の製造方法が考案されている。
たとえば、脱気した水を用いて抽出する方法(特許文献1)や窒素雰囲気下で抽出物を製造する方法(特許文献2)、負圧下で窒素を混合する方法(特許文献3)などが発明されている。しかし、これらの方法は、茶葉抽出物を最終産物として保存する場合には有用であるが、茶葉抽出物を配合した二次加工物を製造する場合には、脱気あるいは気体溶存状態維持の阻害が生じ、上記工夫の作用がその時点で停止してしまう、という問題点があった。また、茶葉抽出物を高分子樹脂に接触させて、混濁や着色化の主な原因と考えられていたポリフェノールやカテキンなどを減少させる方法も開示されている(特許文献4および5)。しかし、それらの方法では、身体の健康維持や向上にとって有用な成分の除去も同時に生じてしまい、茶葉抽出物を利用したい所望の目的を達成することができない場合があった。
【0005】
従来の茶葉抽出物の製造方法は、抽出直後からの抽出物の外観色や性状の経時変化をできる限り小さく抑制する、すなわち外観色を維持することが重要な課題として認識されており、淡色化することで、外観色変化による商品価値の低下を防ぐという発想はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-50799
【文献】特開2002-211676
【文献】特開2007-6812
【文献】特開昭62-61569
【文献】特開平9-220053
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特別の気体溶存状態調整や精製による易劣化成分の除去を行うことなく、一次利用する場合は勿論のこと、二次利用においても製品の外観色の変化に伴う商品価値の低下を防ぐことのできる茶葉抽出物の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、下記工程を経ることで、茶葉抽出物の本来の効果を損なうことなく、淡色化された茶葉抽出物を得ることを可能にした。
〔1〕第一発明は、
(1)茶葉を、水を含む溶媒で抽出する工程
(2)(1)で得た抽出物のpHを基準に、+1.0以上のpHにする工程
(3)(1)で得た抽出物を10℃以上に維持する工程
を含む茶葉抽出物の製造方法である。
〔2〕第二発明は、
(1)茶葉を、水を含む溶媒で抽出する工程
(2)(1)で得た抽出物のpHを基準に、+1.0以上+6.0以内の範囲のpHにする工程
(3)(1)で得た抽出物を10℃以上に維持する工程
を含む茶葉抽出物の製造方法である。
〔3〕第三発明は、
第一又は第二発明の(2)工程において
調整後のpHが、pH6.0~10.5である
茶葉抽出物の製造方法である。
〔4〕第四発明は、
(1)茶葉を水で抽出した際のpHより+1.0以上のpHを呈する、水を含む溶媒又は緩衝液で当該茶葉を抽出する工程
(2)抽出物の温度を10℃以上に維持する工程
を含む茶葉抽出物の製造方法である。
〔5〕第五発明は、
第一乃至第四発明のいずれかの方法で製造された茶葉抽出物である。
〔6〕第六発明は、
第五発明で得られた茶葉抽出物を含むことを特徴とする皮膚外用剤である。
〔7〕第七発明は、
第五発明で得られた茶葉抽出物を含むことを特徴とする化粧料である。
〔8〕第八発明は、
第五発明で得られた茶葉抽出物を含むことを特徴とする飲料である。
〔9〕第九発明は、
第五発明で得られた茶葉抽出物を含むことを特徴とする食品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、特別の気体溶存状態調整や精製による易劣化成分の除去を行うことなく、一次利用する場合は勿論のこと、二次利用においても製品の外観色の変化に伴う商品価値の低下を防ぐことのできる茶葉抽出物を提供することができる。これにより、性状の安定した茶葉抽出物利用物の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】試験番号1におけるpH調整後の維持温度の違いと抽出物の淡色化との関係〔縦軸:450nmの吸光度、横軸:維持日数、RT:室温(20~25℃)〕
【
図2】試験番号9におけるpH調整後の維持温度の違いと抽出物の淡色化との関係〔縦軸:450nmの吸光度、横軸:維持日数、RT:室温(20~25℃)〕
【
図3】試験番号1、試験番号9におけるスーパーオキシド消去率(%)比較
【
図4】維持温度60℃における、pH調整後の各種茶葉抽出物の淡色化の経時変化
【
図5】各種茶葉抽出物のpH調整の有無によるスーパーオキシド消去率(%)比較〔pH調整なし:pH調整剤添加の工程を行っていない抽出物(淡色化されていない)、pH調整剤あり:pH調整剤添加の工程ありの抽出物(淡色化後)〕
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、茶葉を水を含む溶媒で抽出して得た抽出物を特定のpHにし、特定の温度下に置くことで茶葉抽出物を淡色化し、茶葉抽出物の効能効果を維持しつつ、製品の外観色変化による商品価値の低下を防ぐことのできる、茶葉抽出物の製造方法等を提供する。
【0012】
本発明の茶葉は、ツバキ属チャノキ(Camellia sinensis)の葉で、例えば種々の適当な加工を経たものが使用できる。加工を経たものとしては、例えば、煎茶・番茶・ほうじ茶のような不発酵茶、ウーロン茶のような半発酵茶、紅茶のような発酵茶、プーアル茶、富山黒茶、阿波番茶、石鎚黒茶、碁石茶(登録商標)のような後発酵茶などが例示できる。これら茶葉を用いて抽出する際には、そのまま用いても良いし、殺菌、発酵状態の停止目的でオートクレーブ等を用いて加熱した上で用いても良い。
【0013】
抽出の方法は特に限定されないが、水を含む溶媒を用いて、或いは緩衝液を用いて、低温下から加温下で抽出される。抽出溶媒としては、水のみの他、水に加えて、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール等の低級1価アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の液状多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸エチルなどのアルキルエステル;ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素;ジエチルエーテル等のエーテル類;ジクロルメタン、クロロホルム等のハロゲン化アルカン等の1種または2種以上を用いることが好ましい。就中、水が特に好適である。
緩衝液を用いて直接抽出する場合は、公知の緩衝液を用いることができる。例えば、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、重炭酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、マッキルベイン緩衝液等が挙げられるがこれに限らない。
【0014】
茶葉の抽出方法は特に限定されないが、例えば乾燥したものであれば質量比で1~1000倍量、特に10~100倍量の溶媒を用い、0℃以上、特に20℃~40℃で1時間以上、特に3~7日間行うのが好ましい。また、60~100℃で1~5時間、加熱抽出しても良い。市販の茶葉抽出物をそのまま用いても良い。緩衝液を用いて直接抽出する場合は、抽出物から茶葉を取り除くまでの間の工程における条件として考えればよい。
【0015】
淡色化された茶葉抽出物を得るには、茶葉抽出物のpHを通常より高い状況下に置くことが重要であり、抽出物を得た後であっても、抽出前、抽出中であっても問題ない。
具体的には、水を含む特定の溶媒で抽出した茶抽出物(この段階でのpHを通常とする)に対し、pH調整剤等を添加して、後からpHを高める場合だけでなく、予めpHを高めた水を含む溶媒或いは緩衝液を用いてもよい。例えば、任意の茶葉を水で抽出した際の当該茶葉抽出物のpH(仮に、pH=4.0とする。)に対し、+1.0以上のpH(例えば、pH=5.0)を呈するように予め調整した水を含む溶媒或いは緩衝液を用いて茶葉を抽出する場合であってもよいし、水を含む溶媒を用いて抽出中にpHを+1.0以上のpH(例えば、pH=5.0)に調整してもよい。
pHを調整する方法は、抽出物の使用目的を阻害しなければ特に限定されず、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを加える等の公知の方法を用いれば良い。二次利用する場合は、緩衝液を用いれば、経時で茶葉抽出物のpHが変化しないので、製品の品質維持の面で特に好ましい。既知の緩衝液の中ではクエン酸緩衝液が好適に用いられる。この場合において、必ずしも予め緩衝液を用いる必要はない。緩衝液を構成する酢酸やリン酸、クエン酸、ホウ酸、酒石酸等の弱酸化合物とその共役塩基を解離する化合物、あるいはアンモニア等の弱塩基化合物とその共役酸を解離する化合物、あるいはトリスヒドロキシメチルアミノメタン等の緩衝剤、あるいは酢酸アンモニウム等の弱酸と弱塩基の塩、あるいはクエン酸等の弱酸またはアンモニア等の弱塩基とその塩をそれぞれ直接抽出物に加えることで茶葉抽出物全体として緩衝作用を持たせるようにしても構わない。
【0016】
本発明におけるpHは、水を含む溶媒で茶葉抽出物を得た際のpHを基準に+1.0以上に調整する、+1.0以上+6.0以内の範囲にする、又はpH6.0~10.5にすることが好ましい。pHが6.0よりも低いと淡色化までの時間が長期化して実用性を損なう場合があり、pHが高くなるに従って淡色化が進みやすい傾向にあるが、pHが10.5より高いと香りを保つことができない場合がある。本発明の作用がより強く発揮されるのは、pH6.5~7.5の範囲である。
茶葉を、水を含む溶媒で抽出した時点でpHが6.0付近にある場合であっても、抽出直後のpHよりpHを高くすることで淡色化が促進される。
もっとも、上記範囲は厳密である必要はない。工業生産におけるバラツキを考慮して、実質的に上記pHの範囲内と当業者が判断できる範囲であれば差し支えない。また、pH調整の際に上記範囲であることが好ましいのであって、最終利用時点において上記範囲から逸脱することがあっても構わない。
予めpHを高めた溶媒又は緩衝液を用いて茶葉を抽出する場合も同様に考えればよい。
【0017】
本発明における10℃以上で維持する工程とは、茶葉抽出物から茶葉を取り除いた後(市販の茶葉抽出物であれば、既に茶葉は取り除かれていることは言うまでもない。)の工程をさし、当該温度の範囲内であれば、一定の温度下でも良いし、温度変動下であって良い。
発明者らは、検討の過程で、抽出物を所定のpH条件の下、10℃以上に置くと、抽出物の色が経時的に褐色の度合いを増し、褐色の度合いがピークを超えた後、淡色化される現象が起きることを発見した。本願では、本現象に着目した。
抽出物を10℃以上で維持する工程は、所望の程度に淡色化まで放置すれば良く、抽出物の淡色化の目的を達成できれば、期間は特に限定されない。また、例えば該抽出物を二次利用するに際し、予備的検討により維持条件と色変化の関係を承知した上で、所望の色に変化するまで待つことなく、二次利用品を調製後、実使用や市場に出るまでの期間に所望の変化を遂げるように期間を調整しても良い。もっとも、抽出物の褐色がピークを超えることは必須ではない。茶の種類、設定するpH値によっては、抽出物の褐色がピークを確認することなく、淡色化される場合もある。この場合は、褐色のピークの有無に関係なく、単に所望の程度に淡色化されるまで維持すれば良い。維持期間が長期間に渡る場合や、防腐効果の低い溶媒を用いた茶葉抽出物である場合には、維持工程前に、1,3-ブチレングリコール等の防腐効果のある溶媒や、公知の防腐剤を添加することが好ましい。これらの添加は、抽出物の淡色化に何ら影響するものではなく、維持工程において抽出物が腐敗することを防止する趣旨である。
【0018】
本発明の「維持する工程」は、本発明の抽出物の色の変化を加速する目的が達成できれば、温度や期間は特に限定されないが、好ましくは、常圧下で10℃以上、具体的には10℃~90℃、より好ましくは20℃~80℃、最も好ましくは30℃~70℃で7~20日間である。温度が高いほうが、淡色化が早く進む傾向にある。10℃より低くても淡色化は進行するが、長期間を要し、発明の効果が小さい。
【0019】
茶葉を水を含む溶媒で抽出した後における、pH調整工程、温度維持工程の順番は特に限定されない。所定のpH調整工程を行った後、温度維持工程を行っても良いし、所定の温度に維持途中でpH調整工程を行っても良い。所定のpHにした状態を所定の温度条件下で継続することが好ましく、より好ましくは、所定のpH調整工程の後に、温度維持工程を行うことである。pH調整工程の後に、加温状態で維持することが、より短期間に淡色化が起こるので好ましい。
【0020】
本発明の茶葉抽出物の皮膚外用剤、化粧料、飲料、食品への配合量は、配合目的に応じて適宜調整すれば良い。
本発明の茶葉抽出物は、そのまま用いても良いし、ろ過等の処理をした後に使用しても良い。茶葉抽出物を配合する皮膚外用剤、化粧料、飲料、食品の剤形は特に制限されない。例えば、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水-油二層系、水-油-粉末三層系、軟膏、ゲル、エアゾール、打錠、カプセル、錠剤、ガム、キャンディ等、任意の剤型が適用される。
【0021】
本発明の茶葉抽出物を配合する皮膚外用剤、化粧料、飲料、食品は、本発明の効果を阻害しない範囲で、例えば酸化防止剤、油分、紫外線防御剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、香料、水性成分、水、各種栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0022】
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。また、特記しない限り配合量は質量%で示す。
【実施例】
【0023】
―各種茶葉の水抽出物の当初pH―
各種茶葉を用いて各茶葉抽出物の当初pHを測定した。
<抽出方法>
市販の各乾燥茶葉
表1に記載の各乾燥茶葉重量1に対し20倍重量の水を加えて80℃下3時間抽出を行い、各茶葉抽出物とした。得られた各茶葉抽出物のpHを測定した(pHメーター:HORIBA製、測定温度24±1℃)。
【0024】
【0025】
―茶葉抽出物の製造条件と経時変化との関係評価試験―
淡色化した茶葉抽出物の製造条件を明らかにするため、抽出方法や活性炭による処理、pH調整の方法の異なる茶葉抽出物の経時変化確認試験を実施した。評価の結果は表2にまとめて示した。抽出物の色の変化については、下記に示す目視の他、マイクロプレートリーダー(TECAN製)を用いて450nmの吸光度を測定した。代表して、試験例1、試験例9における変化について
図1、
図2に示す。
【0026】
<茶葉抽出物の製造方法>
茶葉として、市販の碁石茶を使用し、乾燥碁石茶葉重量1に対し20倍重量の水を加えて80℃下3時間抽出を行った。ろ過により茶葉を除去した後、活性炭処理を行ったものはこの時点で活性炭を添加し、その後活性炭を除去した。次に、防腐目的で1,3-ブチレングリコールを終濃度が30重量%になるように添加した。pH調整を行ったものは、ここでpH調整剤を添加した。pH調整剤として、水酸化ナトリウムとしては水酸化ナトリウムのみ、重炭酸緩衝系は重炭酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムで構成し、クエン酸緩衝系はクエン酸とクエン酸ナトリウムで構成したものを用いた。
【0027】
<経時変化の評価基準-色>
20-25℃で4週間維持後、製造直後からの色変化を目視観察し、下記の通り評価した。
5:褐変した
4:やや褐変した
3:変化しなかった
2:やや淡色化した
1:淡色化した
<経時変化の評価基準―におい>
20-25℃で4週間維持後、製造直後からのにおい変化を専門パネラー5名で観察し、下記の通り評価した。表1にはその平均値を示した。
5:変臭した、あるいはにおいが強くなった
4:やや変臭した、あるいはややにおいが強くなった
3:変化しなかった
2:ややにおいが弱くなった
1:においが弱くなった
<経時変化の評価基準―pH>
20-25℃で4週間維持後、製造直後からのpH変化を観察し、下記の通り評価した。
5:pHが2以上高くなった
4:pHが1以上高くなった
3:変化しなかった
2:pHが1以上低くなった
1:pHが2以上低くなった
【0028】
【0029】
表2に示したとおり、茶葉を抽出後、特別の処置をせずに維持した場合(試験番号1および2)と活性炭処理を加えた場合(試験番号3)とでは、どちらも色の変化が激しく、淡色化された抽出物は得られなかった。
一方、pHを水酸化ナトリウムで調整した場合(試験番号4-6)、活性炭処理の有無に関わらず、pHを高くするほど色は淡色化する傾向にあった。
また、
図2に示したように、茶葉抽出物のpHを調製した場合は、維持温度が高いほど、抽出物の淡色化を加速する傾向にあることが分かった。
淡色化が確認できた試験番号4~10については、経時的に褐色化に転じることはなく、製品の外観色の変化に伴う商品価値の低下を防ぐことが期待された。
次に、pHを水酸化ナトリウムで調整した場合(試験番号4-6)、活性炭処理の有無に関わらず、pHを高くするほど色は淡色化する傾向にあった。一方で、これらの条件では調整直後のpHが高い場合ににおいの評価が悪化する傾向と経時でpHの低下する傾向が見られた。さらに、pH緩衝系を使用してpHの安定化を試みた場合(試験番号7-10)、重炭酸緩衝系を用いた場合には色は淡色化したが、沈殿物が若干確認される場合があった。クエン酸緩衝系を用いた場合は、淡色化だけでなく、においとpHの変化や沈殿物を生じない抽出物を得ることができた。
【0030】
<スーパーオキシド消去作用測定>
発色試薬(0.4mM キサンチンナトリウム塩、0.24mM ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)、0.1M リン酸緩衝液(pH8.0))、0.1M リン酸緩衝液に溶解したキサンチンオキシダーゼ懸濁液(0.05units/mL)、被験物質(試験番号1または9)または対照物質を、それぞれ5:5:1の割合で混合し、96 well-plateに200μLずつ分注した。室温で30分間インキュベートしたのち、プレートリーダーにて540nmの吸光度を測定し、系中に発生するスーパーオキシドの消去作用を算出した。
なお、スーパーオキシドの消去作用は以下の式で算出した。
【0031】
【0032】
図3より、各被験物質のスーパーオキシド消去率は試験番号1または試験番号9でほとんど差がなく、淡色化という工程を経ても、茶抽出物の効果が減少するといったような悪影響は見られなかった。
【0033】
―その他の茶葉抽出物における淡色化の確認試験―
<茶葉抽出物の製造方法>
茶葉として、市販のほうじ茶、紅茶(アールグレイ)、富山黒茶(バタバタ茶)を使用し、各乾燥茶葉重量1に対し20倍重量の水を加えて80℃下3時間抽出を行った。ろ過により茶葉を除去した後、活性炭処理を行ったものはこの時点で活性炭を添加し、その後活性炭を除去した。次に、防腐目的で1,3-ブチレングリコールを終濃度が30重量%になるように添加し、pH調整剤を添加して抽出物のpHをpH7に調製した。pH調整剤としてはクエン酸とクエン酸ナトリウムの併用系であるクエン酸緩衝液を用いた。
<淡色化の確認方法>
60℃で約6週間維持後、製造直後からの色の変化を目視のほか、マイクロプレートリーダー(TECAN製)を用いて測定した450nmの吸光度にて評価した。
<スーパーオキシド消去作用測定>
〔0030〕と同様に行った。
【0034】
図4より、各茶葉のpHを調整し加温下にて維持した場合、いずれの茶葉抽出物も製造直後よりも吸光度が減少しており、抽出物の色は淡色化された。
また
図5より、抽出物のスーパーオキシド消去率は、pH調整あり抽出物、pH調整なし抽出物で大きな差はなく、抽出物の効果は十分保持されていた。つまり、使用する茶葉の発酵の有無や程度に関係なく、pH調製による淡色化の工程を経ても抽出物の効果が大きく損なわれることはないことが確認できた。
【0035】
以下、本発明における茶抽出物の製造例、茶抽出物を利用した各剤の処方例を示す。なお、含有量は質量%である。処方は代表例であり、これに限定されない。
【0036】
<製造例1>
茶葉として、市販のウーロン茶を使用し、乾燥茶葉重量1に対し20倍重量の水を加えて80℃下3時間抽出を行った。この時点でのpHは5.4であった。ろ過により茶葉を除去した後、防腐目的で1,3-ブチレングリコールを終濃度が30重量%になるように添加し、水酸化ナトリウムを添加して抽出物のpHをpH7.5に調製した。これを10℃で4週間維持し、ウーロン茶抽出物を得た。
【0037】
<製造例2>
茶葉として、市販の石鎚黒茶を使用し、乾燥茶葉重量1に対し20倍重量の水を加えて80℃下3時間抽出を行った。この時点でのpHは4.4であった。ろ過により茶葉を除去した後、防腐目的で1,3-ブチレングリコールを終濃度が30重量%になるように添加し、水酸化ナトリウムを添加して抽出物のpHをpH7.5に調製した。これを30℃で2週間維持し、石鎚黒茶抽出物を得た。
【0038】
<製造例3>
茶葉として、市販のプーアール茶を使用し、乾燥茶葉重量1に対しpH6.5に調製した緩衝液を100倍重量加えて、80℃下3時間抽出を行った。このとき緩衝液にはクエン酸とクエン酸ナトリウムの併用系であるクエン酸緩衝液を用いた。ろ過により茶葉を除去しUHT(Ultra high temperature heating)殺菌後、70℃で3週間維持し、プーアール茶抽出物を得た。
尚、当該市販のプーアール茶を水で抽出した場合のpHは、5.2であった。
【0039】
<製造例4>
茶葉として、市販の煎茶を使用し、乾燥茶葉重量1に対し20倍重量の50%エタノール水溶液を加えて40℃下3日間抽出を行った。ろ過により茶葉を除去した後、重炭酸ナトリウムを添加して抽出物のpHをpH7.0に調製した。これを70℃で3週間維持したのち乾固させ、煎茶抽出物を得た。
尚、当該市販の煎茶を水で抽出した場合のpHは、5.9であった。
【0040】
<処方例:化粧水>
ウーロン茶抽出物(製造例1) 2.0
ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(20E.O.) 1.5
1,3-ブチレングリコール 4.5
グリセリン 3.0
エタノール 2.0
ヒアルロン酸ナトリウム(1%水溶液) 5.0
エデト酸三ナトリウム 0.1
防腐剤 適量
精製水 残部
合計 100.0
【0041】
<処方例:軟膏>
石鎚黒茶抽出物(製造例2) 0.1
レゾルシン 0.5
パラジメチルアミノ安息香酸オクチル 4.0
ブチルメトキシベンゾイルメタン 4.0
ステアリルアルコール 18.0
モクロウ 20.0
グリセリンモノステアリン酸エステル 0.3
ワセリン 33.0
香料 適 量
防腐剤・酸化防止剤 適 量
精製水 残 部
合 計 100.0
【0042】
<処方例:透明茶飲料>
プーアール茶抽出物(製造例3) 99.95
アスコルビン酸 0.05
合計 100.00
【0043】
<処方例:錠剤>
煎茶抽出物(製造例4) 5.0
卵殻カルシウム 10.0
乳糖 20.0
澱粉 7.0
デキストリン 8.0
硬化油 5.0
セルロース 45.0
合計 100.0
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、特別の気体溶存状態調整や精製による易劣化成分の除去を行うことなく、一次利用は勿論のこと、二次利用においても製品の外観色の変化に伴う商品価値の低下を防ぐことのできる茶葉抽出物を提供することができる。これにより、性状の安定した茶葉抽出物利用物の提供が可能になる。