(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】車両用アンダーカバー
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20221114BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20221114BHJP
B32B 27/04 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
B62D25/20 N
B60R13/08
B32B27/04 Z
(21)【出願番号】P 2018174519
(22)【出願日】2018-09-19
【審査請求日】2021-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【氏名又は名称】横井 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100124958
【氏名又は名称】池田 建志
(72)【発明者】
【氏名】宮野 宏務
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-69813(JP,A)
【文献】特開2017-81103(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0166142(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0040292(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/08,
B62D 25/20,
B32B 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体的に成形された車両用アンダーカバーであって、
無機繊維、及び、固化した熱可塑性バインダーを含む基材層と、
合成樹脂繊維、及び、固化した熱可塑性バインダーを含み、前記基材層における路面側の面と一体化された外層と、
厚さ方向へ空気が流通することができるように複数の開口を有し、前記基材層における車体側の面と一体化された合成樹脂層と、を含み、
前記複数の開口を有する前記合成樹脂層の目付は、前記外層の目付よりも小さく、
通気性を有する車両用アンダーカバー。
【請求項2】
本車両用アンダーカバーの通気度は、0.05cc/cm
2/sec以上、70cc/cm
2/sec以下である、請求項1に記載の車両用アンダーカバー。
【請求項3】
本車両用アンダーカバーの目付は、560g/m
2以上、3600g/m
2以下である、請求項1又は請求項2に記載の車両用アンダーカバー。
【請求項4】
前記外層の目付は、50g/m
2以上、400g/m
2以下であり、
前記合成樹脂層の目付は、前記外層の目付よりも小さい範囲で、10g/m
2以上、200g/m
2以下である、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の車両用アンダーカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一体的に成形された車両用アンダーカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
車内の静粛性を向上させる等のため、エンジンアンダーカバーやフロアアンダーカバー等といった車両用アンダーカバーが車体の下に取り付けられている。
特許文献1に開示された車両用アンダーカバーは、無機繊維と固化した熱可塑性バインダーを含んでニードルパンチされた第一繊維層、及び、無機繊維及び固化した熱可塑性バインダーを含んでニードルパンチされた第二繊維層を有している。第一繊維層と第二繊維層とは、第一繊維層と第二繊維層との間に脆弱層が形成された状態で互いに接着している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用アンダーカバーには、石といった異物の接触に対する耐久性、ロードノイズやエンジンノイズといった500~2000Hz程度の騒音に対する吸音性、及び、燃費向上のための軽量性が求められる。車両用アンダーカバーにおいて、例えば、路面側の面と車体側の面とに合成樹脂繊維を含む表皮層が一体化されると、吸音性を維持しながら耐久性を向上させることができる。しかし、車両用アンダーカバーの両面に表皮層が一体化されると、その分、車両用アンダーカバーの重量が増加する。
【0005】
本発明は、軽量でありながら、異物の接触に対する良好な耐久性、及び、良好な吸音性を有する車両用アンダーカバーを開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一体的に成形された車両用アンダーカバーであって、
無機繊維、及び、固化した熱可塑性バインダーを含む基材層と、
合成樹脂繊維、及び、固化した熱可塑性バインダーを含み、前記基材層における路面側の面と一体化された外層と、
厚さ方向へ空気が流通することができるように複数の開口を有し、前記基材層における車体側の面と一体化された合成樹脂層と、を含み、
前記複数の開口を有する前記合成樹脂層の目付は、前記外層の目付よりも小さく、
通気性を有する車両用アンダーカバーの態様を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、軽量でありながら、異物の接触に対する良好な耐久性、及び、良好な吸音性を有する車両用アンダーカバーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】アンダーカバーを有する自動車の例を模式的に示す側面図。
【
図2】アンダーカバーを有する自動車の例を模式的に示す底面図。
【
図3】アンダーカバーの垂直断面の例を模式的に示す断面図。
【
図4】繊維材の垂直断面の例を模式的に示す断面図。
【
図5】表皮材の垂直断面の例を模式的に示す断面図。
【
図6】
図6A~6Cは、別のアンダーカバーの垂直断面の例を模式的に示す断面図。
【
図7】アンダーカバーの製造方法の例を模式的に示す図。
【
図8】1/3オクターブバンド毎の中心周波数に対するアンダーカバーサンプルの残響室法吸音率の例を示す図。
【
図9】1/3オクターブバンド毎の中心周波数に対するアンダーカバーサンプルの残響室法吸音率の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0010】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、
図1~9に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。
また、本願において、数値範囲「Min~Max」は、最小値Min以上、且つ、最大値Max以下を意味する。
【0011】
[態様1]
本技術の一態様に係る車両用アンダーカバー1は、一体的に成形された車両用アンダーカバー1であって、基材層10、外層20、及び、合成樹脂層30を含む。前記基材層10は、無機繊維11、及び、固化した熱可塑性バインダー12を含んでいる。前記外層20は、合成樹脂繊維21、及び、固化した熱可塑性バインダー22を含み、前記基材層10における路面側の面13aと一体化されている。前記合成樹脂層30は、通気性を有し、前記基材層10における車体側の面13bと一体化されている。本車両用アンダーカバー1は、通気性を有している。
【0012】
上記態様では、車両用アンダーカバー1における路面側の外層20に合成樹脂繊維21が含まれているので、石といった異物の接触に対する良好な耐久性が得られる。ここで、車両用アンダーカバー1における車体側の層にも合成樹脂繊維と固化した熱可塑性バインダーを含む材料を用いると、その分、車両用アンダーカバーの重量が増加する。本態様の車両用アンダーカバー1における車体側の層は通気性を有して基材層10における車体側の面13bと一体化された合成樹脂層30であるので、車両用アンダーカバーにおける車体側の層に合成樹脂繊維と固化した熱可塑性バインダーを含む材料を用いる場合と比べて、車両用アンダーカバー1の耐久性を維持しながら車両用アンダーカバー1を軽量化することができる。また、合成樹脂層30が通気性を有しているので、良好な吸音性が得られる。従って、本態様は、軽量でありながら、石といった異物の接触に対する良好な耐久性、及び、良好な吸音性を有する車両用アンダーカバーを提供することができる。
【0013】
ここで、無機繊維には、ガラス繊維、炭素繊維、炭化けい素繊維、アルミナ繊維、セラミック繊維、岩石繊維、スラッグ繊維、等が含まれる。
熱可塑性バインダーは、繊維状でもよいし、繊維状でなくてもよい。
基材層には、無機繊維と熱可塑性バインダー以外の材料が含まれてもよい。基材層は、ニードルパンチされた層でもよいし、複数の層を含んでいてもよい。
外層には、合成樹脂繊維と熱可塑性バインダー以外の材料が含まれてもよい。外層も、ニードルパンチされた層でもよいし、複数の層を含んでいてもよい。
基材層における車体側の面と一体化された合成樹脂層は、基材層における車体側の面に含浸した状態でもよい。
合成樹脂層が通気性を有することは、合成樹脂層において一面側から他面側へ空気が流通可能であることを意味する。車両用アンダーカバーが通気性を有することは、車両用アンダーカバーにおいて一面側から他面側へ空気が流通可能であることを意味する。
車両用アンダーカバーは、上述した層以外の部位を有してもよい。
尚、上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0014】
[態様2]
ところで、本車両用アンダーカバー1の通気度は、0.05~70cc/cm2/secでもよい。通気度が0.05cc/cm2/sec以上になると、車両用アンダーカバー1の通気性が高まることにより500~2000Hz程度においてさらに良好な吸音性が得られる。また、通気度が70cc/cm2/sec以下になると、車両用アンダーカバー1の吸音特性のピーク周波数が2000Hz程度以下になることにより500~2000Hz程度においてさらに良好な吸音性が得られる。従って、本態様は、さらに良好な吸音性を有する車両用アンダーカバーを提供することができる。
ここで、通気度は、JIS L1096:2010(織物及び編物の生地試験方法)に規定されたA法(フラジール形法)に従うものとする。この付言は、以下の態様においても適用される。
【0015】
[態様3]
また、本車両用アンダーカバー1の目付は、560~3600g/m2でもよい。目付が3600g/m2以下であるので、本車両用アンダーカバー1は軽量である。目付が560g/m2以上になると、異物の接触に対するさらに良好な耐久性が得られる。従って、本態様は、軽量でありながら、良好な耐久性、及び、良好な吸音性を有する好適な車両用アンダーカバーを提供することができる。
【0016】
[態様4]
さらに、前記外層20の目付は、50~400g/m2でもよい。前記合成樹脂層30の目付は、前記外層20の目付よりも小さい範囲で、10~200g/m2でもよい。外層20の目付が400g/m2以下であって合成樹脂層30の目付が200g/m2以下であるので、本車両用アンダーカバー1は軽量である。合成樹脂層30の目付が10g/m2以上になると、車両用アンダーカバー1の通気度がある程度抑えられるため、500~2000Hz程度においてさらに良好な吸音性が得られる。外層20の目付が50g/m2以上になると、異物の接触に対するさらに良好な耐久性が得られる。従って、本態様は、軽量でありながら、良好な耐久性、及び、良好な吸音性を有する好適な車両用アンダーカバーを提供することができる。
【0017】
(2)車両用アンダーカバーを有する自動車の構成の具体例:
図1,2は、アンダーカバーを有する自動車の例を模式的に示している。
図1,2に示す自動車100は、道路上で使用されるように設計及び装備された路上走行自動車であり、車体101に囲まれた車室CA1を有する乗用自動車であるものとする。これらの図中、FRONT、REAR、LEFT、RIGHT、UP、DOWNは、それぞれ、前、後、左、右、上、下を示す。左右の位置関係は、車室CA1内の運転席に座って前を見る方向を基準とする。
図1に示す自動車100において、前輪のタイヤ111と後輪のタイヤ112が路面200と接触している。
【0018】
車体101の下には、路面200と接触しないように車両用アンダーカバー1が取り付けられている。アンダーカバー1は、車体101の下において車両走行時に生じる空気抵抗を下げる(燃費を向上させる)機能、車両走行時に跳ね上がる石等といった異物から車体101を保護する機能、及び、車室CA1の静粛性を向上させる吸音機能及び遮音機能を有する。
【0019】
図2に示すアンダーカバー1は、複数のアンダーカバー1a,1b,1c,1c,1d,1dに分けられている。エンジンアンダーカバー1aは、左右の前輪のタイヤ111,111の間において自動車100のエンジンの下に配置されている。ミッションカバー1bは、エンジンアンダーカバー1aから後側において自動車100の変速装置(トランスミッション)の下に配置されている。左右のフロントフロアアンダーカバー1c,1cは、前輪のタイヤ111,111よりも後側において自動車100のフロアパネルの下に配置されている。左右のリヤフロアアンダーカバー1d,1dは、後輪のタイヤ112,112よりも前側であってフロントフロアアンダーカバー1c,1cから後側において自動車100のフロアパネルの下に配置されている。
【0020】
図3は、アンダーカバー1の垂直断面を模式的に例示している。
図4は、基材層10を形成するための繊維材60の垂直断面を模式的に例示している。
図5は、外層20を形成するための表皮材70の垂直断面を模式的に例示している。
図3~5に示す例の断面は、分かり易くするため誇張して示している。
図3~5に示す符号D1は、アンダーカバー1の厚さ方向であり、各層10,20,30の厚さ方向でもあり、繊維材60の厚さ方向でもあり、表皮材70の厚さ方向でもある。
【0021】
プレス成形された基材層10は、無機繊維11、及び、固化した熱可塑性バインダー12を含んでいる。
図3では、無機繊維11が細線で示され、固化した熱可塑性バインダー12は無機繊維11の周りにある。基材層10は、通気性があるため、厚さ方向D1へ空気が流通可能である。尚、通気性があるとは、通気度が0.05cc/cm
2/sec以上(より好ましくは1cc/cm
2/sec以上、さらに好ましくは3cc/cm
2/sec以上)であることを意味する。無機繊維11及び熱可塑性バインダー12の間に空気を含む基材層10は、吸音性能を発揮する。
【0022】
プレス成形されたアンダーカバー1の路面側の面2aには、合成樹脂繊維21、及び、固化した熱可塑性バインダー22を含む外層20が形成されている。
図3では、合成樹脂繊維21が細線で示され、固化した熱可塑性バインダー22は合成樹脂繊維21の周りにある。
図3に示す外層20は、基材層10における路面側の面13aと接着により一体化されている。多くの場合、アンダーカバー1の路面側の面2aには、凹凸が形成されている。外層20は、通気性があるため、厚さ方向D1へ空気が流通可能である。合成樹脂繊維21及び熱可塑性バインダー22の間に空気を含む外層20は、吸音性能を発揮する。路面側の面2aから外層20を通り抜けた音は、基材層10に吸収される。また、アンダーカバー1の路面側の面2aに外層20が有ることにより、石といった異物の接触に対する良好な耐久性が得られる。
【0023】
プレス成形されたアンダーカバー1の車体101側の面2bには、複数の開口31を有して基材層10における車体側の面13bと一体化された合成樹脂層30が形成されている。多くの場合、アンダーカバー1の車体側の面2bには、凹凸が形成されている。合成樹脂層30は、複数の開口31による通気性を有するため、厚さ方向D1へ空気が流通可能である。車体側の面2bから合成樹脂層30を通り抜けた音は、基材層10に吸収される。また、アンダーカバー1の車体側の面2bに合成樹脂層30が有ることにより、軽量ながらアンダーカバー1の車体側の面2bに良好な耐久性が得られる。
【0024】
尚、吸音性能の点からは、合成樹脂繊維21と熱可塑性バインダー22を含む層を基材層10の車体側の面13bに形成し合成樹脂層を基材層10の路面側の面13aに形成しても、同等の性能が得られる。しかし、外層20と合成樹脂層30とを逆にしたアンダーカバーは、本具体例のアンダーカバー1と比べて、石といった異物の接触に対する耐久性が低下する。
【0025】
以下、各層10,20,30の詳細を説明する。説明中、MFRは、JIS K7210-1:2014(プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の求め方-第1部:標準的試験方法)に規定されたMFRであるものとする。また、算術平均粗さは、粗さ曲線の中心線からの偏差の絶対値の平均値であり、具体的には、JIS B0601:2013(製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ)に規定される算術平均粗さRaとする。
【0026】
基材層10の無機繊維11は、無機物質を主に含む繊維であり、基材層10を形成するための繊維材60が加熱されても溶融せず繊維の状態を保つ材料である。従って、繊維材60の無機繊維11がプレス成形後にも残ることになる。無機繊維には、ガラス繊維、炭素繊維、炭化けい素繊維、アルミナ繊維、セラミック繊維、岩石繊維、スラッグ繊維、等を用いることができ、特に、比較的安価なガラス繊維が好適である。無機繊維の直径は、特に限定されないが、例えば5~14μmとすることができる。無機繊維の長さは、特に限定されないが、例えば5~200mmとすることができる。無機繊維の断面形状は、特に限定されず、真円を含む楕円、三角形、扁平形状、等とすることができる。無機繊維11には、複数の種類の無機繊維を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
基材層10の熱可塑性バインダー12は、熱可塑性樹脂といった熱可塑性の接着成分を主に含むバインダーであり、繊維材60が加熱されると軟化し更に加熱されると溶融する材料である。熱可塑性バインダー12は、溶融されることにより、無機繊維11同士を接着させ、基材層10と外層20とを接着させ、基材層10と合成樹脂層30とを接着させる。熱可塑性バインダー用の熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む。)には、ポリプロピレン(PP)樹脂やポリエチレン(PE)樹脂といったポリオレフィン樹脂、これらの合成樹脂にエラストマーを添加した改質樹脂、これらの合成樹脂に着色剤といったといった添加剤を添加した材料、等を用いることができ、特に、比較的安価なPPが好適である。熱可塑性バインダー12には、複数の種類の熱可塑性バインダーを組み合わせて用いてもよい。
【0028】
基材層10を形成するための繊維材60の熱可塑性バインダー12は、熱可塑性樹脂繊維といった熱可塑性の接着性繊維でもよい。従って、繊維材60の繊維状の熱可塑性バインダー12は、溶融によりプレス成形後に繊維状でなくなることがある。接着性繊維には、上述した熱可塑性樹脂の繊維(例えばPP繊維やPE繊維といったポリオレフィン繊維)等を用いることができ、芯鞘構造やサイドバイサイド構造等といったコンジュゲート構造の繊維を用いてもよく、複数の種類の接着性繊維を組み合わせて用いてもよい。接着性繊維の融点は、例えば100~220℃とすることができる。接着性繊維の繊度は、特に限定されないが、例えば2.2~16dtex(デシテックス)とすることができる。ここで、単位「dtex」は、長さ10km当たりの質量のグラム数を意味する。接着性繊維の長さは、特に限定されないが、例えば27~76mmとすることができる。接着性繊維の断面形状は、特に限定されず、真円を含む楕円、三角形、扁平形状、等とすることができる。繊維材60は、通気性があるため、厚さ方向D1へ空気が流通可能である。
尚、繊維材60の熱可塑性バインダー12が繊維でない場合も、本技術に含まれる。
【0029】
繊維材60(すなわち基材層10)に対する無機繊維11の配合比(R1とする。)は、例えば、10~90重量%とすることができる。繊維材60に対する熱可塑性バインダー12の配合比(R2とする。)は、例えば、10~90重量%とすることができる。ただし、R1+R2≦100重量%である。繊維材60には、R1+R2以下の範囲(好ましくはR1+R2≧75重量%となる範囲)の配合比で他の材料(例えば繊維)が添加されてもよい。
【0030】
繊維材60(すなわち基材層10)の目付(単位面積あたりの重量)は、500~3000g/m
2程度が好ましい。繊維材60の目付が3000g/m
2以下であると、アンダーカバー1を好ましく軽量化させることができる。繊維材60の目付が500g/m
2以上であると、異物の接触に対する好ましい耐久性を有するアンダーカバー1を製造することができる。繊維材60は、ニードルパンチされた材料でもよい。この場合、例えば、無機繊維11と繊維状の熱可塑性バインダー12とを含む繊維材料を混合しマット状に配置してニードルパンチ加工機でニードルパンチすることにより、繊維材60を形成することができる。ニードルパンチされた繊維材60を用いてアンダーカバー1を形成すると、
図6Aに例示するようなニードルパンチの跡15が基材層10の断面に残る。ニードルパンチの跡15を有する基材層10において、外層20が路面側の面13aと一体化され、複数の開口31を有する合成樹脂層30が車体側の面13bと一体化されている。
【0031】
また、繊維材60は、特開2018-69813号公報に示されるように、ニードルパンチされた繊維材料を複数重ねた材料でもよい。例えば、ニードルパンチされた繊維材料を2層重ねた繊維材60を用いてアンダーカバー1を形成すると、
図6Bに例示するように、路面から車体に向かう順に、外層20、ニードルパンチされた第一基材層10a、ニードルパンチされた第二基材層10b、及び、合成樹脂層30が形成される。第一基材層10aと第二基材層10bは、基材層10に含まれる。第一基材層10aと第二基材層10bとは、ニードルパンチの跡15を有し、第一基材層10aと第二基材層10bとの間に脆弱層10zが形成された状態で互いに接着していてもよい。脆弱層10zは、アンダーカバー1を厚さ方向D1へ引っ張ったときに剥がれる層を意味する。むろん、外層20は第一基材層10aにおける路面側の面13aと一体化され、複数の開口31を有する合成樹脂層30は第二基材層10bにおける車体側の面13bと一体化されている。
【0032】
基材層10の通気度は、3~200cc/cm2/sec程度が好ましい。基材層10の通気度が3cc/cm2/sec以上になると、アンダーカバー1の通気性が高まることにより500~2000Hz程度においてさらに良好な吸音性が得られる。基材層10の通気度が200cc/cm2/sec以下になると、アンダーカバー1の吸音特性のピーク周波数が2000Hz程度以下になることにより500~2000Hz程度においてさらに良好な吸音性が得られる。
【0033】
基材層10の通気度は、例えば、次のようにして調節することができる。基材層10の通気度を大きくするためには、繊維材60に対する熱可塑性バインダー12の配合比R2を少なくしたり、繊維材60の目付を少なくしたりすればよい。基材層10の通気度を小さくするためには、繊維材60に対する熱可塑性バインダー12の配合比R2を多くしたり、繊維材60の目付を多くしたりすればよい。
【0034】
外層20の合成樹脂繊維21は、熱可塑性樹脂といった合成樹脂を主に含む繊維である。合成樹脂繊維21が熱可塑性である場合、合成樹脂繊維の融点は熱可塑性バインダー22の融点よりも高い方が好ましい。高融点の合成樹脂繊維21は、加熱されても繊維としての状態を保ち、外層20の穴あきや剥離を防止する。合成樹脂繊維21のための熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む。)には、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂といったポリエステル樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、アクリル(PMMA)樹脂、PP樹脂といったポリオレフィン樹脂、これらの合成樹脂にエラストマーを添加した改質樹脂、これらの合成樹脂に着色剤といったといった添加剤を添加した材料、等を用いることができ、特に、高融点で比較的安価なPET繊維が好適である。合成樹脂繊維21に、コンジュゲート構造の繊維を用いることも可能である。合成樹脂繊維の繊度は、特に限定されないが、例えば2.2~16dtexとすることができる。合成樹脂繊維の長さは、特に限定されないが、例えば27~76mmとすることができる。合成樹脂繊維の断面形状は、特に限定されず、真円を含む楕円、三角形、扁平形状、等とすることができる。合成樹脂繊維21には、複数の種類の合成樹脂繊維を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
外層20の熱可塑性バインダー22は、熱可塑性樹脂といった熱可塑性の接着成分を主に含むバインダーであり、外層20を形成するための表皮材70が加熱されると軟化し更に加熱されると溶融する材料である。熱可塑性バインダー22は、溶融されて滑らかな表面を形成することにより、耐着氷性を向上させる。また、熱可塑性バインダー22は、溶融されることにより、合成樹脂繊維21同士を接着させ、外層20と基材層10とを接着させる。これにより、熱可塑性バインダー22は、耐チッピング性(剥離し難さ)を向上させる。熱可塑性バインダー用の熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む。)には、PP樹脂やPE樹脂といったポリオレフィン樹脂、これらの合成樹脂にエラストマーを添加した改質樹脂、これらの合成樹脂に着色剤といったといった添加剤を添加した材料、等を用いることができ、特に、比較的安価なPPが好適である。熱可塑性バインダー12には、複数の種類の熱可塑性バインダーを組み合わせて用いてもよい。
【0036】
外層20を形成するための表皮材70の熱可塑性バインダー22は、熱可塑性樹脂繊維といった熱可塑性の接着性繊維でもよい。従って、表皮材70の繊維状の熱可塑性バインダー22は、溶融によりプレス成形後に繊維状でなくなることがある。接着性繊維には、上述した熱可塑性樹脂の繊維(例えばPP繊維やPE繊維といったポリオレフィン繊維)等を用いることができ、コンジュゲート構造の繊維を用いてもよく、複数の種類の接着性繊維を組み合わせて用いてもよい。接着性繊維の融点は、例えば100~220℃とすることができる。接着性繊維の繊度は、特に限定されないが、例えば2.2~16dtexとすることができる。接着性繊維の長さは、特に限定されないが、例えば27~76mmとすることができる。接着性繊維の断面形状は、特に限定されず、真円を含む楕円、三角形、扁平形状、等とすることができる。表皮材70は、通気性があるため、厚さ方向D1へ空気が流通可能である。
尚、表皮材70の熱可塑性バインダー22が繊維でない場合も、本技術に含まれる。
【0037】
表皮材70(すなわち外層20)に対する合成樹脂繊維21の配合比(R3とする。)は、例えば、10~90重量%とすることができる。表皮材70に対する熱可塑性バインダー22の配合比(R4とする。)は、例えば、10~90重量%とすることができる。ただし、R3+R4≦100重量%である。表皮材70には、R3+R4以下の範囲(好ましくはR3+R4≧75重量%となる範囲)の配合比で他の材料(例えば繊維)が添加されてもよい。
【0038】
表皮材70(すなわち外層20)の目付は、50~400g/m2が好ましい。表皮材70の目付が400g/m2以下であると、アンダーカバー1を好ましく軽量化させることができる。表皮材70の目付が50g/m2以上であると、異物の接触に対する好ましい耐久性を有するアンダーカバー1を製造することができる。表皮材70は、ニードルパンチされた材料でもよい。この場合、例えば、合成樹脂繊維21と繊維状の熱可塑性バインダー22とを含む繊維材料を混合しマット状に配置してニードルパンチ加工機でニードルパンチすることにより、表皮材70を形成することができる。
【0039】
外層20の通気度は、0.1~200cc/cm2/sec程度が好ましい。外層20の通気度が0.1cc/cm2/sec以上になると、アンダーカバー1の通気性が高まることにより500~2000Hz程度においてさらに良好な吸音性が得られる。外層20の通気度が200cc/cm2/sec以下になると、アンダーカバー1の吸音特性のピーク周波数が2000Hz程度以下になることにより500~2000Hz程度においてさらに良好な吸音性が得られる。
【0040】
外層20の通気度は、例えば、次のようにして調節することができる。外層20の通気度を大きくするためには、表皮材70に対する熱可塑性バインダー22の配合比R4を少なくしたり、表皮材70の目付を少なくしたりすればよい。外層20の通気度を小さくするためには、表皮材70に対する熱可塑性バインダー22の配合比R4を多くしたり、表皮材70の目付を多くしたりすればよい。
【0041】
合成樹脂層30を形成するための合成樹脂フィルム80(
図7参照)は、熱可塑性樹脂といった合成樹脂を主に含むフィルムである。合成樹脂フィルム80のための熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む。)には、PE樹脂やPP樹脂といったポリオレフィン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、これらの合成樹脂にエラストマーを添加した改質樹脂、これらの合成樹脂に着色剤といったといった添加剤を添加した材料、等を用いることができ、特に、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)といった低流動性のポリオレフィン樹脂が好適である。熱可塑性樹脂のMFRは、例えば、0.1~30g/10min程度、より好ましくは0.3~20g/10min程度とすることができる。
【0042】
合成樹脂層30の開口31は、繊維材60に重ねられた合成樹脂フィルム80が溶融した時に形成されてもよいし、合成樹脂フィルム80に形成された開口に由来してもよい。
【0043】
合成樹脂フィルム80(すなわち合成樹脂層30)の目付は、表皮材70(すなわち外層20)の目付よりも小さい範囲で、10~200g/m2が好ましく、30~100g/m2がより好ましい。合成樹脂フィルム80の目付が200g/m2以下であると、アンダーカバー1を好ましく軽量化させることができる。合成樹脂フィルム80の目付が10g/m2以上であると、アンダーカバー1の通気度がある程度抑えられるため、500~2000Hz程度においてさらに良好な吸音性が得られる。
【0044】
合成樹脂フィルム80(すなわち合成樹脂層30)の厚さは、10~200μmが好ましく、30~100μmがより好ましい。合成樹脂フィルム80の厚さが200μm以下であると、アンダーカバー1を好ましく軽量化させることができる。合成樹脂フィルム80の厚さが10μm以上であると、アンダーカバー1の通気度がある程度抑えられるため、500~2000Hz程度においてさらに良好な吸音性が得られる。
【0045】
合成樹脂層30の通気度は、0.1~200cc/cm2/sec程度が好ましい。合成樹脂層30の通気度が0.1cc/cm2/sec以上になると、アンダーカバー1の通気性が高まることにより500~2000Hz程度においてさらに良好な吸音性が得られる。合成樹脂層30の通気度が200cc/cm2/sec以下になると、アンダーカバー1の吸音特性のピーク周波数が2000Hz程度以下になることにより500~2000Hz程度においてさらに良好な吸音性が得られる。
【0046】
合成樹脂層30の通気度は、例えば、次のようにして調節することができる。合成樹脂層30の通気度を大きくするためには、合成樹脂層30のための熱可塑性樹脂のMFRを大きくしたり、合成樹脂フィルム80の目付を少なくしたりすればよい。これらによりプレス成形後の合成樹脂層30の開口31が大きくなり易くなり、合成樹脂層30の通気度が大きくなる。合成樹脂層30の通気度を小さくするためには、合成樹脂層30のための熱可塑性樹脂のMFRを小さくしたり、合成樹脂フィルム80の目付を多くしたりすればよい。これらによりプレス成形後の合成樹脂層30の開口31が小さくなり易くなり、合成樹脂層30の通気度が小さくなる。
【0047】
プレス成形されたアンダーカバー1の厚さ(
図3には一般部の厚さT1を図示)は、例えば、1~17mmとすることができる。アンダーカバー1の一般部1G(
図6C参照)の厚さT1は、例えば、3~17mmとすることができる。
プレス成形されたアンダーカバー1の密度は、例えば、0.05~0.5g/cm
3、より好ましくは0.1~0.3g/cm
3とすることができる。
【0048】
アンダーカバー1の目付は、560~3600g/m2が好ましい。アンダーカバー1の目付が560g/m2以上であると、異物の接触に対する好ましい耐久性を有するアンダーカバー1が得られる。従って、目付が3600g/m2以下と軽量でありながら、良好な耐久性を有するアンダーカバー1が得られる。
【0049】
アンダーカバー1の通気度は、0.05~70cc/cm2/secが好ましく、1~50cc/cm2/secがより好ましく、2~30cc/cm2/secがさらに好ましく、3~15cc/cm2/secが特に好ましい。アンダーカバー1の通気度が0.05cc/cm2/sec以上になると、500~2000Hz程度においてさらに良好な吸音性が得られる。通気度が70cc/cm2/sec以下になると、アンダーカバー1の吸音特性のピーク周波数が2000Hz程度以下になることにより500~2000Hz程度においてさらに良好な吸音性が得られる。
【0050】
図6Cに示すように、プレス成形されたアンダーカバー1の厚さは、部分的に異なってもよい。
図6Cは、左側のリヤフロアアンダーカバー1dを例としてアンダーカバー1の垂直端面を模式的に例示している。
図6Cに示すアンダーカバー1は、部分的に薄くされた厚み低減部1T、及び、該厚み低減部1Tの周りにある一般部1Gを有している。すなわち、厚み低減部1Tの厚さT2は、アンダーカバー1の大部分を占める一般部1Gの厚さT1よりも薄い。厚み低減部1Tは、アンダーカバー1において、端末部、車両構成部品との締結部、等、車両が縁石等といった障害物に乗り上がった時に車両構成部品と障害物とに挟まれ易い位置に設定されている。厚み低減部1Tの厚さT2は、一般部1Gの厚さT1よりも薄い範囲で、例えば、1~3mmとすることができる。
【0051】
また、厚み低減部1Tにおける路面側の面2aの算術平均粗さRa(T)は、一般部1Gにおける路面側の面2aの算術平均粗さRa(G)よりも小さい。これにより、アンダーカバー1の路面側の面2aにおいて、厚み低減部1Tは、一般部1Gよりも合成樹脂の光沢感が強く、縁石等といった障害物の接触に対して動摩擦力が小さく、車両構成部品と障害物とに挟まれた時に引き裂かれ難い。尚、一般部1Gの路面側面2aの算術平均粗さRa(G)は、例えば、1.5~5μmとすることができる。厚み低減部1Tの路面側面2aの算術平均粗さRa(T)は、Ra(G)よりも小さい範囲で、例えば、0.5~1.5μmとすることができる。
【0052】
(3)車両用アンダーカバーの製造方法の具体例、並びに、その作用及び効果:
次に、
図7等を参照してアンダーカバー1の製造方法の例を説明する。
図7は、
図3で示したような各層20,10,30を有するアンダーカバー1を製造する具体例を示している。
図7に示す製造方法では、まず、各層20,10,30を形成するための表皮材70、繊維材60、及び、合成樹脂フィルム80を順に重ねる(材料積層工程S1)。表皮材70は、合成樹脂繊維21と繊維状熱可塑性バインダー22を含む繊維材料をカーディングしシート状に配置してニードルパンチ加工機でニードルパンチすることにより形成されてもよい。繊維材60は、無機繊維11と繊維状熱可塑性バインダー12とを含む繊維材料をカーディングしマット状に配置してニードルパンチ加工機でニードルパンチすることにより形成されてもよい。合成樹脂フィルム80は、溶融状態又は液状の合成樹脂を押出成形機のTダイ(フラットダイ)からフィルム状に押し出し成形されて繊維材60の表面(車体側の面13b)に形成されてもよい。
【0053】
本具体例では、材料積層工程S1で得られる積層材料50を予備加熱装置で熱可塑性バインダー12,22及び合成樹脂フィルム80の融点以上に加熱して予備プレス装置で厚さ方向D1へプレスしている(予備プレス工程S2)。これにより、熱可塑性バインダー12,22及び合成樹脂フィルム80の少なくとも一部が一旦溶融して各材料70,60,80が互いに接着し、積層材料50が一体化されて扱い易くなる。また、合成樹脂フィルム80の少なくとも一部が繊維材60の表面に含浸して開口31が形成されることがある。一体化された積層材料50が熱可塑性バインダー12,22及び合成樹脂フィルム80の軟化温度よりも低い温度となると、熱可塑性バインダー12,22及び合成樹脂フィルム80が固化し、積層材料50が一体化された状態で維持される。ここで、一体化された積層材料50の厚さをT3とする。目標の一般部1Gの厚さT1に対する積層材料50の厚さT3は、例えば、0.5×T1≦T3≦1.5×T1とすることができる。
【0054】
その後、一体化された積層材料50を加熱装置で熱可塑性バインダー12,22及び合成樹脂フィルム80の融点以上に加熱する(積層材料加熱工程S3)。これにより、熱可塑性バインダー12,22及び合成樹脂フィルム80の少なくとも一部が溶融し、厚さ方向D1へ圧縮されていた繊維材60の無機繊維11の復元力により繊維材60が厚さ方向D1へ膨らむ。繊維材60がニードルパンチされている場合、厚さの復元は限定的である。また、合成樹脂フィルム80の少なくとも一部が繊維材60の表面に含浸して開口31が形成されることがある。
尚、本工程S3や予備プレス工程S2の加熱は、赤外線ヒーターによる輻射加熱、サクションヒーター(熱風循環ヒーター)による熱風加熱、熱プレスによる接触加熱、これらの組合せ、等により行うことができる。
【0055】
積層材料加熱工程S3の後、加熱された積層材料50をプレス成形装置300でプレス成形する(プレス成形工程S4)。プレス成形装置300は、アンダーカバー1の路面側の凹凸を有する面2aを形成する型310と、アンダーカバー1の車体101側の凹凸を有する面2bを形成する型320とを有している。
図7では型310が下型であって型320が上型となっているが、型310が上型であって型320が下型であってもよい。プレス成形は、冷間プレスでよいが、熱間プレスでもよい。アンダーカバー1が熱可塑性バインダー12,22及び合成樹脂フィルム80の軟化温度よりも低い温度となると、熱可塑性バインダー12,22及び合成樹脂フィルム80が固化し、アンダーカバー1の形状が維持される。
【0056】
ここで、厚み低減部1Tについては、熱可塑性バインダー12,22の密度が高くなっているため、溶融した熱可塑性バインダーが路面側の面2aと車体101側の面2bに多く染み出す。このため、厚み低減部1Tは一般部1Gよりも滑らかとなり、厚み低減部1Tの路面側面2aの算術平均粗さRa(T)は一般部1Gの路面側面2aの算術平均粗さRa(G)よりも小さくなる。見た目では、厚み低減部1Tの方が一般部1Gよりも合成樹脂の光沢感が強くなっている。
【0057】
尚、必要に応じてプレス成形品の外周を裁断機で裁断してもよい(裁断工程S5)。裁断方法は、裁断刃による裁断、ウォータージェット裁断、カッターを用いた手裁断、等を採用することができる。
以上説明したようにして、
図3で示したような各層20,10,30を有するアンダーカバー1を製造することができる。むろん、
図6A~6Cで示したアンダーカバー1も、同様の製造方法により製造することができる。
【0058】
本具体例のアンダーカバー1は、路面側の外層20に合成樹脂繊維21が含まれているので、石といった異物の接触に対する耐久性が良好である。ここで、アンダーカバー1における車体側の層にも合成樹脂繊維と固化した熱可塑性バインダーを含む材料を用いると、その分、アンダーカバーの重量が増加する。本具体例のアンダーカバー1における車体側の層は通気性を有して基材層10における車体側の面13bと一体化された合成樹脂層30であるので、本具体例のアンダーカバー1は耐久性が維持されながら重量の増加が抑制されている。また、合成樹脂層30が通気性を有しているので、本具体例のアンダーカバー1は500~2000Hz程度の騒音に対する吸音性が良好である。従って、本具体例のアンダーカバー1は、軽量でありながら、石といった異物の接触に対する良好な耐久性、及び、良好な吸音性を有する。
【0059】
(4)実施例:
以下、実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は以下の例により限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
繊維材60には、ガラス繊維(無機繊維11の例)とPP繊維(熱可塑性バインダー12の例)を含んでニードルパンチされた繊維材料(目付550g/m
2)を2層重ねた繊維材を用いた。路面側の表皮材70には、PET繊維(合成樹脂繊維21の例)とPP繊維(熱可塑性バインダー22の例)を含む不織布(目付200g/m
2)を用いた。合成樹脂フィルム80の材料には、LLDPEを用いた。
表皮材70と繊維材60(2層の繊維材料)を順に重ね、加熱して溶融させたLLDPEを目付80g/m
2となるように押出成形機のTダイから押し出して繊維材60の表面に合成樹脂フィルム80を重ねた。
その後、
図7で示した製造方法に従って、厚さT1が7mmとなるように
図6Bで示したような各層20,10,30を有するアンダーカバー1のサンプルを形成した。得られたサンプルの通気度は、8.5cc/cm
2/secであった。
【0061】
[比較例1]
合成樹脂フィルム80を繊維材60に重ねなかった以外は実施例1と同様にして、外層20及び基材層10を有するが合成樹脂層30の無いアンダーカバーのサンプルを形成した。得られたサンプルの通気度は、16cc/cm2/secであった。
【0062】
[吸音性の評価]
実施例1及び比較例1のサンプルについて、それぞれ、車体側に空気層を10mm設定し、JIS A1409:1998(残響室法吸音率の測定方法)に規定された測定方法に従って1/3オクターブバンド中心周波数(Hz)の残響室法吸音率を求めた。
【0063】
結果を、
図8に示す。
図8は、実施例1及び比較例1について400~6300Hzの1/3オクターブバンド毎の中心周波数(単位:Hz)に対する残響室法吸音率の測定結果をグラフにより示している。500~2000Hzにおいて、実施例1の残響室法吸音率は、概ね比較例1の残響室法吸音率よりも高かった。従って、車体側に合成樹脂層30が有ることにより500~2000Hz程度の騒音に対する吸音性能が向上することが判った。むろん、実施例1のアンダーカバーサンプルは、合成樹脂繊維21と熱可塑性バインダー22を含む外層20が路面側に有ることにより異物の接触に対する耐久性が良好であり、合成樹脂繊維と熱可塑性バインダーを含む層の代わりに合成樹脂層30が車体側に有ることにより軽量である。
【0064】
[実施例2]
材料の目付及びサンプルの厚さT1を調節して通気度を4.8~11.1cc/cm
2/secの範囲で6段階に変えてアンダーカバーのサンプルを調製した。各試験区1~6のサンプルは、
図6Bで示したような各層20,10,30を有する。ここで、各試験区とサンプルの通気度との対応関係は、以下の通りである。
試験区1: 4.8cc/cm
2/sec
試験区2: 6.6cc/cm
2/sec
試験区3: 7.5cc/cm
2/sec
試験区4: 7.6cc/cm
2/sec
試験区5: 8.5cc/cm
2/sec
試験区6:11.1cc/cm
2/sec
尚、試験区5のサンプルは、実施例1のサンプルと同じである。
【0065】
各試験区について、それぞれ、車体側に空気層を10mm設定し、上述した残響室法吸音率を求めた。結果を
図9に示す。
図9は、実施例2試験区1~6及び比較例1について400~6300Hzの1/3オクターブバンド毎の中心周波数(単位:Hz)に対する残響室法吸音率の測定結果をグラフにより示している。500~2000Hzにおいて、実施例2試験区1~6の残響室法吸音率は、いずれも、概ね比較例1の残響室法吸音率よりも高かった。従って、通気度を変えても合成樹脂層30が有ることにより500~2000Hz程度の騒音に対する吸音性能が向上することが判った。むろん、実施例2試験区1~6のアンダーカバーサンプルは、合成樹脂繊維21と熱可塑性バインダー22を含む外層20が路面側に有ることにより異物の接触に対する耐久性が良好であり、合成樹脂繊維と熱可塑性バインダーを含む層の代わりに合成樹脂層30が車体側に有ることにより軽量である。
【0066】
(5)変形例:
本発明は、他にも種々の変形例が考えられる。
例えば、繊維材60として繊維材料を複数重ねる場合、或る繊維材料と別の繊維材料とで無機繊維11と熱可塑性バインダー12の少なくとも一方を異なる種類にしてもよい。すなわち、基材層10が複数の層を含む場合、或る層と別の層とで無機繊維11と熱可塑性バインダー12の少なくとも一方が異なる種類であってもよい。
【0067】
(6)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、軽量でありながら、異物の接触に対する良好な耐久性、及び、良好な吸音性を有する車両用アンダーカバー等の技術を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1…アンダーカバー、1a…エンジンアンダーカバー、1b…ミッションカバー、
1c…フロントフロアアンダーカバー、1d…リヤフロアアンダーカバー、
2a…路面側の面、2b…車体側の面、
10…基材層、11…無機繊維、12…熱可塑性バインダー、
13a…路面側の面、13b…車体側の面、
20…外層、21…合成樹脂繊維、22…熱可塑性バインダー、
30…合成樹脂層、31…開口、
50…積層材料、60…繊維材、70…表皮材、80…合成樹脂フィルム、
100…自動車、101…車体、111,112…タイヤ、200…路面、
300…プレス成形装置、310,320…型、
CA1…車室、D1…厚さ方向。