(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】シランカップリング剤
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20221114BHJP
C07F 7/18 20060101ALI20221114BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221114BHJP
【FI】
C09K3/18 104
C09K3/18 103
C07F7/18 Q
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2018222640
(22)【出願日】2018-11-28
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】渡部 陽太
(72)【発明者】
【氏名】神谷 武志
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-053919(JP,A)
【文献】特開平03-056491(JP,A)
【文献】特開平01-275586(JP,A)
【文献】国際公開第2003/016385(WO,A1)
【文献】特開2000-336012(JP,A)
【文献】特開平06-267731(JP,A)
【文献】Acta Chimica Sinica ,1983年,Vol. 41, No. 9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C09K
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒と、前記溶媒に溶解したペルフルオロエーテル基を有するペルフルオロエーテル含有シラン化合物
とからなるシランカップリング剤であって、
前記ペルフルオロエーテル含有シラン化合物が、下記の一般式(1)で表される化合物であるシランカップリング剤。
【化1】
ただし、上記の一般式(1)において、Rf
1
は、炭素数が1~3の範囲内にある直鎖または分岐鎖状のペルフルオロアルキル基を表し、Rf
2
は、炭素数が3~4の範囲内にある直鎖または分岐鎖状のペルフルオロアルキレン基を表し、R
1
は、C
3
H
7
基を表し、Xは、炭素数が2~10の範囲内にあるアルキレン基を表し、R
2
は、メトキシ基を表し、Zは、ハロゲン原子を表し、aは、3を表す。
【請求項2】
前記溶媒が、水、有機溶媒または水と有機溶媒との混合液である請求項1に記載のシランカップリング剤。
【請求項3】
前記有機溶媒が、非フッ素系溶媒である請求項2に記載のシランカップリング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シランカップリング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機材料と無機材料の界面においてその接着性を改善するため、種々のシラン化合物がシランカップリング剤として使用されている。また、シランカップリング剤は、有機材料あるいは無機材料の表面処理剤としても利用されており、材料表面に種々の機能を付与することができることが知られている。
【0003】
その中でも、ペルフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤は、滑り性、剥離性、撥水性、撥油性などの付与剤として様々な分野で使用され、特に、炭素数が8以上のペルフルオロアルキル基を含有するものが利用されてきた(例えば、特許文献1、2を参照)。また、パーフルオロポリエーテル構造を有するシラン化合物が知られている(特許文献3)。
【0004】
ところが、近年、炭素数が8以上のペルフルオロアルキル基を有する化合物はペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)またはペルフルオロオクタン酸(PFOA)に代表されるように、環境・生体への蓄積性が懸念され、その使用が制限されつつある。そこで、単純にペルフルオロアルキル基の炭素数を短くした短鎖長の構造のシラン化合物が提案されている(例えば、非特許文献1、2を参照)。このような短鎖長構造のシラン化合物は、分解してもPFOSまたはPFOAなどの炭素数が8以上の炭化フッ素化合物を生成しないため、環境や生体への影響を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3342170号公報
【文献】特許第3619724号公報
【文献】特開2005-290323号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】「シランカップリング剤の効果と使用法」、S&T出版株式会社、p.290-304、2012年発行
【文献】Bull.Chem.Soc.Jpn.1993、66、1754-1758.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、単純にペルフルオロアルキル基の炭素数を短くした短鎖長の構造のシラン化合物は、滑り性、剥離性、撥水性、撥油性などの特性面において、炭素数が8以上のペルフルオロアルキル基を有する従来のシラン化合物に匹敵するものが得られていないという課題があった。
【0008】
一方、パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物はフッ素含有量が多いことにより、炭化水素系溶媒に不溶であり、コーティング剤などに用いる場合、溶媒として高価なフッ素系溶媒を多量に使用する必要があった。
【0009】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、ペルフルオロアルキル基の炭素数が4以下でありながらも、滑り性、剥離性、撥水性、撥油性などの特性面に優れ、かつアルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒などの非フッ素系溶媒に可溶なシラン化合物を含むシランカップリング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明のシランカップリング剤は、溶媒と、前記溶媒に溶解したペルフルオロエーテル基を有するペルフルオロエーテル含有シラン化合物とからなるシランカップリング剤であって、前記ペルフルオロエーテル含有シラン化合物が、下記の一般式(1)で表される化合物であることを特徴としている。
【0011】
上記本発明のシランカップリング剤で用いるペルフルオロエーテル含有シラン化合物が有するペルフルオロエーテル基は、炭素数が1~3の範囲内にあるペルフルオロアルキル基と、そのペルフルオロアルキル基と酸素を介して結合している炭素数が3~4の範囲内にあるペルフルオロアルキレン基とからなるので、高い疎水性と疎油性を有する。よって、ペルフルオロエーテル含有シラン化合物は、滑り性、剥離性、撥水性、撥油性などの特性面に優れる。また、ペルフルオロアルキル基は、炭素数が1~3の範囲内とされ、ペルフルオロアルキレン基は、炭素数が3~4の範囲内とされているので、炭素数が5以上のフッ化炭素化合物を生成しない。また、フッ素を含む基が2つであり、フッ素含有量が少ないため、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒などの非フッ素系溶媒に可溶となる。
【0013】
【0014】
ただし、上記の一般式(1)において、Rf1は、炭素数が1~3の範囲内にある直鎖または分岐鎖状のペルフルオロアルキル基を表し、Rf2は、炭素数が3~4の範囲内にある直鎖または分岐鎖状のペルフルオロアルキレン基を表し、R1は、C
3
H
7
基を表し、Xは、炭素数が2~10の範囲内にあるアルキレン基を表し、R2は、メトキシ基を表し、Zは、ハロゲン原子を表し、aは、3を表す。
【0015】
上記の一般式(1)で表されるペルフルオロエーテル含有シラン化合物は、ペルフルオロエーテル基(Rf1-O-Rf2-)とケイ素原子(Si)とを連結する連結基が、スルホニルイミノ基(-SO2-NR1-)を有し、ペルフルオロエーテル基のペルフルオロアルキレン基とスルホニル基とが結合しているので、化学的安定性が高くなる。
【0018】
さらに、上記の一般式(1)で表されるペルフルオロエーテル含有シラン化合物において、前記R1
はC3H7基であるので、イミノ基(-NR1-)の原料として、常温で液体のプロピルアミンを用いることができる。このため、ペルフルオロエーテル含有シラン化合物を、加圧装置などの特殊な装置を用いなくても合成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ペルフルオロアルキル基、およびペルフルオロアルキレン基の炭素数が4以下でありながらも、滑り性、剥離性、撥水性、撥油性などの特性面に優れ、かつアルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒などの非フッ素系溶媒に可溶なシラン化合物を含むシランカップリング剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係るペルフルオロエーテル含有シラン化合物について説明する。
本発明の実施形態に係るペルフルオロエーテル含有シラン化合物は、ペルフルオロエーテル基を有する。
【0021】
ペルフルオロエーテル基は、炭素数が1~4の範囲内にある直鎖または分岐鎖状のペルフルオロアルキル基と、このペルフルオロアルキル基と酸素を介して結合している炭素数が1~4の範囲内にある直鎖または分岐鎖状のペルフルオロアルキレン基とからなる。ペルフルオロエーテル基は、ペルフルオロアルキレン基を有することによって、ペルフルオロアルキレン基の炭素数が4以下でありながらも高い疎水性と疎油性を示す。また、ペルフルオロエーテル基のペルフルオロアルキル基とペルフルオロアルキレン基の合計炭素数は2~8の範囲内にあるが、ペルフルオロアルキル基とペルフルオロアルキレン基とが酸素原子を介して結合しているので、炭素数が5以上のフッ化炭素化合物を生成しない。
【0022】
ペルフルオロエーテル基とケイ素原子とを接続する連結基は、2価の炭化水素基、酸素原子(エーテル結合)、硫黄原子(スルフィド結合)、カルボニル基、イミノ基(-NR1-、R1は、水素原子または炭素数が1~4の範囲内にある直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を表す)、スルホニル基及びこれらを組合せた基を挙げることができる。2価の炭化水素基は、炭素数が1~10の範囲内にあることが好ましい。2価の炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。また、2価の炭化水素基は、鎖状炭化水素基であってもよいし、環状炭化水素基であってもよいし、さらにこれらを組合せた基であってもよい。鎖状炭化水素基の例としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基を挙げることができる。環状炭化水素基の例としては、シクロアルキレン基、フェニレン基を挙げることができる。
【0023】
連結基は、スルホニルイミノ基(-SO2-NR1-)を有することが好ましく、スルホニルイミノ基とアルキレン基とを組合せた基を有することが特に好ましい。スルホニルイミノ基は、スルホニル基がペルフルオロアルキレン基に結合していることが好ましい。
【0024】
ペルフルオロエーテル含有シラン化合物は、下記の一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0025】
【0026】
ただし、上記の一般式(1)において、Rf1は、炭素数が1~4の範囲内にある直鎖または分岐鎖状のペルフルオロアルキル基を表し、Rf2は、炭素数が1~4の範囲内にある直鎖または分岐鎖状のペルフルオロアルキレン基を表す。Rf1は、C2F5基もしくはC3F7基であることが好ましい。C3F7基は、-CF2-CF2-CF3基(ペルフルオロプロピル基)および-CF(CF3)2基(ペルフルイソプロピル基)を含む。Rf2はC2F4基もしくはC3F6基であることが好ましい。-C3F6-基は、-CF2-CF2-CF2-基(ペルフルオロトリメチレン基)および-CF2-CF(CF3)-基(ペルフルオロプロピレン基)を含む。ペルフルオロエーテル含有シラン化合物の環境や生体への影響、疎水性と疎油性および非フッ素系溶媒への溶解性などの観点から、Rf1とRf2の合計炭素数は4~8の範囲内にあることが好ましく、5~6の範囲内にあることが特に好ましい。Rf2がC2F4基である場合は、Rf1はC3F7基であることが好ましい。Rf2がC3F6基である場合は、Rf1はC2F5基であってもよいし、C3F7基であってもよい。
【0027】
R1は、水素原子または炭素数が1~4の範囲内にある直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を表す。R1はC3H7基であることが好ましい。C3H7基は、-CH2-CH2-CH3基(プロピル基)であることが好ましい。
【0028】
Xは、炭素数が2~10の範囲内にある2価の炭化水素基を表す。2価の炭化水素基は、直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基であることが好ましい。アルキレン基は、工業的な原料の入手が容易である点で、炭素数が3であることが特に好ましい。
【0029】
R2は、水酸基または炭素数が1~4の範囲内にあるアルコキシ基を表す。Zは、ハロゲン原子を表す。aは、0~3の整数を表す。
【0030】
次に、本実施形態のペルフルオロエーテル含有シラン化合物の製造方法を説明する。
まず、下記の反応式(A)に示すように、ペルフルオロエーテル含有スルホンアミド化合物(Rf1-O-Rf2-SO2-NHR1、R1は、水素原子または炭素数が1~4の範囲内にある直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を表す)と、ハロゲン化アリル化合物(Y-(CH2)m-CH=CH2、Yは、ハロゲン原子を表し、mは、1~7の整数を表す)とを反応させて、ペルフルオロエーテル含有アリル化合物を得る。この反応は、反応溶媒中、ペルフルオロエーテル含有スルホンアミド化合物とハロゲン化アリル化合物とを混合することによって行うことができる。反応溶媒としては、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、アセトニトリルなどを用いることができる。
【0031】
【0032】
ペルフルオロエーテル含有スルホンアミド化合物は、例えば、第一級アルキルアミン(R1-NH2)の溶液に、ペルフルオロエーテル含有スルホニルフルオリド(Rf1-O-Rf2-SO2F)を添加することによって得ることができる。第一級アルキルアミン溶液の溶媒としては、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、アセトニトリル、水などを用いることができる。これらの溶媒の中では、ジイソプロピルエーテルやアセトニトリルが溶解性や収率の面で好ましい。ペルフルオロエーテル含有スルホニルフルオリドは、例えば、特開2010-116390号公報に記載された方法によって得ることができる。
【0033】
ハロゲン化アリル化合物としては、例えば、臭化アリル、塩化アリルを用いることができる。
【0034】
次に、上記のようにして得られたペルフルオロエーテル含有アリル化合物とシラン化合物とを反応させることにより、ペルフルオロエーテル含有シラン化合物を得ることができる。この反応は、反応溶媒中、金属触媒の存在下、ペルフルオロエーテル含有アリル化合物とシラン化合物とをヒドロシリル化反応させることによって行うことができる。シラン化合物としては、例えば、トリメトキシシラン、トリエトキシシランなどのトリアルコキシシラン、トリフルオロシラン、トリクロロシランなどのトリハロゲン化シランを用いることができる。金属触媒としては、例えば、白金触媒を用いることができる。反応溶媒としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、フッ素系溶媒の1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンなどを用いることができる。
【0035】
本実施形態のペルフルオロエーテル含有シラン化合物は、高い疎水性と疎油性を有するペルフルオロエーテル基と、シラノール基または水との接触によってシラノール基を生成しやすいアルコキシシリル基あるいはハロゲン化シリル基とを有するので、シランカップリング剤として利用することができる。
【0036】
本実施形態のペルフルオロエーテル含有シラン化合物は、シランカップリング剤として、そのまま使用してもよいし、溶媒で希釈して使用してもよい。溶媒で希釈する場合、ペルフルオロエーテル含有シラン化合物の濃度は、好ましくは0.01質量%以上であり、特に好ましくは0.01質量%以上50質量%以下の範囲内である。
【0037】
溶媒としては、水、有機溶媒および水と有機溶媒との混合液を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、フッ素系溶媒を用いることができる。アルコール系溶媒の例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールを挙げることができる。ケトン系溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトンを挙げることができる。エステル系溶媒の例としては、酢酸エチル、酢酸ブチルを挙げることができる。フッ素系溶媒の例としては、α,α,α-トリフルオロトルエン、1,3-ビストリフルオロメチルベンゼン、1,4-ビストリフルオロメチルベンゼン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロヘキサン、HCFC-225、HFC-365、メチルペルフルオロプロピルエーテル、メチルペルフルオロブチルエーテル、エチルペルフルオロブチルエーテル、ヘキサフルオロイソプロパノールを挙げることができる。これらの有機溶媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。有機溶媒としては、工業的に入手が容易なアルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒などの非フッ素系溶媒を用いることが好ましい。
【0038】
さらに、シランカップリング剤は、上述したペルフルオロエーテル含有シラン化合物以外に、他の成分として、酸やアルカリ(例えば、酸としては塩酸、硫酸、硝酸、アルカリとしてはアンモニア等)が含まれていてもよい。
【0039】
本実施形態のペルフルオロエーテル含有シラン化合物を含むシランカップリング剤は、滑り性、剥離性、撥水性、撥油性、防汚性などの特性を付与するためのコーティング剤、塗料あるいは表面処理材として利用することができる。また、銀ペーストや金属ナノワイヤなどの電子部品・回路のマイグレーション防止剤、プラスチック等の合成原料などの用途に好適に使用することができる。
【0040】
以上に述べたように、本実施形態のペルフルオロエーテル含有シラン化合物に含まれるペルフルオロエーテル基は、炭素数が1~4の範囲内にあるペルフルオロアルキル基と、そのペルフルオロアルキル基と酸素を介して結合している炭素数が1~4の範囲内にあるペルフルオロアルキレン基とからなるので、高い疎水性と疎油性を有する。よって、本実施形態のペルフルオロエーテル含有シラン化合物は、滑り性、剥離性、撥水性、撥油性などの特性面に優れる。また、ペルフルオロアルキル基及びペルフルオロアルキレン基は、それぞれ炭素数が1~4の範囲内とされているので、炭素数が5以上のフッ化炭素化合物を生成しない。
【0041】
特に、前記一般式(1)で表されるペルフルオロエーテル含有シラン化合物は、ペルフルオロエーテル基とケイ素原子とを連結する連結基が、スルホニルイミノ基を有し、ペルフルオロエーテル基のペルフルオロアルキレン基とスルホニル基とが結合しているので、化学的安定性が高くなる。
【0042】
また、前記一般式(1)のRf1で表されるペルフルオロアルキル基とRf2で表されるペルフルオロアルキレン基の合計炭素数を4~8の範囲内にある場合は、ペルフルオロエーテル含有シラン化合物の疎水性と疎油性がより確実に高くなる。
【0043】
また、前記の一般式(1)のRf1がC2F5基もしくはC3F7基であって、Rf2がC2F4基もしくはC3F6基である場合は、疎水性と疎油性が高く、非フッ素系溶媒への溶解性に優れ、かつ炭素数が4以上のフッ化炭素化合物を生成しないペルフルオロエーテル含有シラン化合物を提供することができる。
【0044】
さらに、前記一般式(1)において、R1がC3H7基である場合は、イミノ基の原料として、常温で液体のプロピルアミンを用いることができるため、ペルフルオロエーテル含有シラン化合物を、加圧装置などの特殊な装置を用いなくても合成することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の作用効果を、実施例により説明する。本実施例において生成物の同定確認は、19F-NMRにより行った。
【0046】
[本発明例1]
(1)ペルフルオロエーテル含有スルホンアミド化合物の合成
ジイソプロピルエーテル36.3gにn-プロピルアミン7.44gを溶解して、n-プロピルアミン溶液を調製した。得られたn-プロピルアミン溶液を撹拌しながら、その溶液にC3F7OC3F6SO2F17.5gを室温で滴下した。滴下終了後、反応液を濾過し、得られた濾液を水で2回洗浄した。次いで、有機層を濃度5質量%の硫酸水溶液で処理し、処理後の有機層を、エバポレータを用いて濃縮して、ペルフルオロエーテル含有スルホンアミド化合物(C3F7OC3F6SO2NHC3H7)を18.2g得た(収率:95%)。なお、C3F7OC3F6SO2Fは、特開2010-116390号公報の実施例5に記載されている方法に従って合成した。
【0047】
得られたペルフルオロエーテル含有スルホンアミド化合物の19F-NMRの測定結果を、以下に示す。
19F-NMR(CDCl3):δ -81.2(CF3、3F)、-82.9(CF2、2F)、-84.2(CF2、2F)、-112.8(CF2、2F)、-124.1(CF2、2F)、-129.8(CF2、2F)
【0048】
(2)ペルフルオロエーテル含有アリル化合物の合成
アセトンに、上記(1)で得られたペルフルオロエーテル含有スルホンアミド化合物5.39gと臭化アリル4.83gと水酸化カリウム1.15gとを加え、室温下で24時間撹拌した。撹拌終了後、反応液を濾過し、得られた濾液を、エバポレータを用いて濃縮した。次いで、ジイソプロピルエーテル50mLを加えて、水洗浄を2回実施した。水洗浄後のジイソプロピルエーテル溶液を、エバポレータを用いて濃縮して、粗生成物を得た。得られた粗生成物を減圧蒸留して、ペルフルオロエーテル含有アリル化合物(C3F7OC3F6SO2N(C3H7)CH2CH=CH2)を4.59g得た(収率:70%、沸点70-76℃/1Torr)。
【0049】
得られたペルフルオロエーテル含有アリル化合物の19F-NMRの測定結果を、以下に示す。
19F-NMR(CDCl3):δ -81.2(CF3、3F)、-82.8(CF2、2F)、-84.2(CF2、2F)、-112.9(CF2、2F)、-124.1(CF2、2F)、-129.8(CF2、2F)
【0050】
(3)ペルフルオロエーテル含有シラン化合物
トルエン10mLに、上記(2)で得られたペルフルオロエーテル含有アリル化合物4.29gとトリメトキシシラン(東京化成株式会社製)1.49gと、1、3-ジビニル-1、1、3、3-テトラメチルジシロキサン白金錯体キシレン溶液(シグマアルドリッチ社製)90μLとを加えて混合し、得られた混合物を60℃で27時間加熱した。得られた反応液を、エバポレータを用いて濃縮し、得られた濃縮物を減圧蒸留して、下記の式(2)で表されるペルフルオロエーテル含有シラン化合物を3.38g得た(収率:67%、沸点125-134℃/1Torr)。
【0051】
【0052】
得られたペルフルオロエーテル含有シラン化合物の19F-NMRの測定結果を、以下に示す。
19F-NMR(CDCl3):δ -81.2(CF3、3F)、-82.8(CF2、2F)、-84.2(CF2、2F)、-112.7(CF2、2F)、-124.1(CF2、2F)、-129.8(CF2、2F)
【0053】
[本発明例2]
C3F7OC3F6SO2Fの代わりにC3F7OC4F8SO2Fを用いたこと以外は、本発明例1と同様にして、下記の式(3)で表されるペルフルオロエーテル含有シラン化合物を2.13g得た(収率:58%)。なお、C3F7OC4F8SO2Fは、特開2010-116390号公報の段落0049~0050に記載の方法を参考にして、メタノールの代わりにn-プロピルアルコールを用いて合成した。
【0054】
【0055】
[本発明例3]
C3F7OC3F6SO2Fの代わりにC2F5OC3F6SO2Fを用いたこと以外は、本発明例1と同様にして、下記の式(4)で表されるペルフルオロエーテル含有シラン化合物を3.45g得た(収率:64%)。なお、C2F5OC3F6SO2Fは、特開2010-116390号公報の実施例2に記載されている方法に従って合成した。
【0056】
【0057】
[本発明例4]
C3F7OC3F6SO2Fの代わりにCF3OC4F8SO2Fを用いた以外は本発明例1と同様にして、下記の式(5)で表されるペルフルオロエーテル含有シラン化合物を3.25g得た(収率:60%)。なお、CF3OC4F8SO2Fは特開2010-116390号公報の実施例4に記載されている方法に従って合成した。
【0058】
【0059】
[比較例1]
C3F7OC3F6SO2Fの代わりにC4F9SO2Fを用いたこと以外は、本発明例1と同様にして、下記式(5)で表されるペルフルオロエーテル含有シラン化合物を1.20g得た(収率:18%)。
【0060】
【0061】
[評価]
上記本発明例1~4および比較例1にて合成したシラン化合物の疎水性と疎油性を評価するため、シラン化合物で被覆した評価部材と、水およびヘキサデカンとの接触角(静的接触角、動的接触角)を測定した。評価部材は、上記シラン化合物をエタノールに濃度が1質量%となるように溶解させた塗布液を調製し、この塗布液にスライドガラスを浸漬し、その後、80℃で1時間乾燥させることにより作製した。接触角は、協和界面科学株式会社製、CA-A型接触角計を用いて測定した。評価部材の表面上の任意の5点に、水およびヘキサデカンを滴下して接触角を測定し、その平均値を算出した。なお、水およびヘキサデカンの滴下量は、静的接触角の測定では2.0μLとし、動的接触角の測定では水は20μL、ヘキサデカンは5μLとした。その結果を、ペルフルオロエーテル基のペルフルオロアルキル基(Rf1)とペルフルオロアルキレン基(Rf2)の化学式と共に、下記の表1、表2に示す。
【0062】
【0063】
【0064】
炭素数が4以下のペルフルオロアルキル基と炭素数が4以下のペルフルオロアルキレン基とを含むペルフルオロエーテル基を有する本発明例1~4のペルフルオロエーテル含有シラン化合物は、炭素数が4のペルフルオロアルキル基のみを有する比較例1のシラン化合物の水溶液と比較して、水に対する静的接触角が大きく、動的接触角が小さいことから、疎水性が高いことが確認された。また、本発明例1~4のペルフルオロエーテル含有シラン化合物は、比較例1のシラン化合物の水溶液と比較して、ヘキサデカンに対する静的接触角が大きく、動的接触角が小さいことから疎油性が高いことが確認された。