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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20221114BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20221114BHJP
   H01L 21/337 20060101ALI20221114BHJP
   H01L 29/808 20060101ALI20221114BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20221114BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
H01L29/80 M
H01L29/80 C
H01L29/80 H
H01L21/28 301B
H01L21/28 301R
H01L21/28 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018225694
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020088344
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大嶽 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼堂 真也
(72)【発明者】
【氏名】近松 健太郎
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/051530(WO,A1)
【文献】特開2018-182247(JP,A)
【文献】特開2013-207102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/778
H01L 29/812
H01L 21/338
H01L 29/808
H01L 21/337
H01L 29/47
H01L 29/872
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子走行層を構成する第1窒化物半導体層と、
前記第1窒化物半導体層上に形成され、電子供給層を構成する第2窒化物半導体層と、
前記第2窒化物半導体層上に配置され、アクセプタ型不純物を含むリッジ形状の窒化物半導体ゲート層と、
前記窒化物半導体ゲート層上に形成されたゲート電極と
前記窒化物半導体ゲート層の上面の両側部上に形成された一対の第1誘電体膜をさらに含み、
前記ゲート電極は、前記窒化物半導体ゲート層上に形成され、主としてTiからなる第1金属膜と、前記第1金属膜上に形成されたTiNからなる第2金属膜とを含み、
前記第1金属膜は、前記窒化物半導体ゲート層の上面における前記一対の第1誘電体膜の間部分および前記一対の第1誘電体膜の上面および互いに対向する側面を覆うように形成されている、窒化物半導体装置。
【請求項2】
電子走行層を構成する第1窒化物半導体層と、
前記第1窒化物半導体層上に形成され、電子供給層を構成する第2窒化物半導体層と、
前記第2窒化物半導体層上に配置されたリッジ形状の窒化物半導体ゲート層と、
前記窒化物半導体ゲート層上に形成されたゲート電極と、
前記窒化物半導体ゲート層の上面の両側部上に形成された一対の第1誘電体膜をさらに含み、
前記ゲート電極は、前記窒化物半導体ゲート層上に形成されたTiNからなる第1金属膜と、前記第1金属膜上に積層されたTiNからなる第2金属膜とを含み、
前記第1金属膜は、前記窒化物半導体ゲート層の上面における前記一対の第1誘電体膜の間部分および前記一対の第1誘電体膜の上面および互いに対向する側面を覆うように形成されており、
前記第1金属膜のTi/N組成比が、前記第2金属膜のTi/N組成比よりも大きい、窒化物半導体装置。
【請求項3】
前記窒化物半導体ゲート層が、アクセプタ型不純物を含む第3窒化物半導体層のみからなる、請求項1または2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項4】
前記窒化物半導体ゲート層が、前記第2窒化物半導体層上に形成されたアクセプタ型不純物を含む第3窒化物半導体層と、前記第3窒化物半導体層上に積層され、前記第3窒化物半導体層よりもホール濃度が低い第4窒化物半導体層とを含む、請求項1または2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項5】
前記第4窒化物半導体層が、ドナー型不純物を含む、請求項4に記載の窒化物半導体装置。
【請求項6】
少なくとも前記窒化物半導体ゲート層の側面および前記第1誘電体膜の側面を覆う第2誘電体膜をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項7】
前記第1誘電体膜がSiN、SiO、SiONまたはそれらの複合層である、請求項1~6のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項8】
前記第1誘電体膜がSiN、SiO、SiONまたはそれらの複合層であり、前記第2誘電体膜がSiN、SiO、SiONまたはそれらの複合層である、請求項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項9】
前記第1金属膜は、窒化物半導体ゲート層側の表層部であるTiNからなる第1領域と、前記第1領域以外のTiからなる第2領域とを有する、請求項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項10】
前記第1領域のTi/N組成比が、前記第2金属膜のTi/N組成比よりも大きい、請求項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項11】
基板上に、電子走行層を構成する第1窒化物半導体層と、電子供給層を構成する第2窒化物半導体層と、アクセプタ型不純物を含む窒化物半導体ゲート層材料膜と、第1誘電体膜とを、その順に形成する第1工程と、
前記第1誘電体膜に前記窒化物半導体ゲート層材料膜に達するゲート開口部を形成する第2工程と、
前記窒化物半導体ゲート層材料膜上に、少なくとも前記ゲート開口部および前記第1誘電体膜の表面における前記ゲート開口部の両側周縁部を覆うように、ゲート電極膜を形成する第3工程と、
前記窒化物半導体ゲート層材料膜、前記第1誘電体膜および前記ゲート電極膜を、平面視で前記ゲート開口部およびその両側周縁部の領域が残るように、選択的に除去することにより、リッジ形状の窒化物半導体ゲート層と、前記窒化物半導体ゲート層の上面の両側部上に配置された一対の前記第1誘電体膜と、前記窒化物半導体ゲート層および前記第1誘電体膜の表面上に形成されたゲート電極とからなるゲート部を形成する第4工程と、
前記第2窒化物半導体層および前記ゲート部の露出面を覆う第2誘電体膜を形成する第5工程と、
前記第2誘電体膜を貫通して前記第2窒化物半導体層に達するソース電極およびドレイン電極を形成する第6工程と、
前記第4工程と前記第6工程の間または前記第6工程の後にアニール処理を行う、アニール工程とを含み、
前記ゲート電極膜は、前記窒化物半導体ゲート層上に形成されるTiからなる第1金属膜と、前記第1金属膜上に積層されるTiNからなる第2金属膜とからなり、
前記アニール工程によって、前記第1金属膜における前記窒化物半導体ゲート層側の表層部に、前記窒化物半導体ゲート層のNと反応することにより、TiNからなる領域が形成される、窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項12】
基板上に、電子走行層を構成する第1窒化物半導体層と、電子供給層を構成する第2窒化物半導体層と、アクセプタ型不純物を含む窒化物半導体ゲート層材料膜と、ゲート電極膜と、第3誘電体膜とを、その順に形成する第1工程と、
前記第3誘電体膜を、前記ゲート電極膜上のゲート電極形成領域を残して除去する第2工程と、
前記第3誘電体膜をマスクとして前記ゲート電極膜をエッチングすることにより、ゲート電極を形成する第3工程と、
前記ゲート電極の側面を覆う第1誘電体膜を形成する第4工程と、
前記第3誘電体膜および前記第1誘電体膜をマスクとして、前記窒化物半導体ゲート層材料膜をエッチングすることにより、窒化物半導体ゲート層を形成する第5工程と、
前記第2窒化物半導体層、窒化物半導体ゲート層、前記ゲート電極、前記第1誘電体膜および前記第3誘電体膜の露出面を覆う第2誘電体膜を形成する第6工程と、
前記第2誘電体膜を貫通して前記第2窒化物半導体層に達するソース電極およびドレイン電極を形成する第7工程と、
前記第6工程と前記第7工程の間または前記第7工程の後にアニール処理を行う、アニール工程とを含み、
前記ゲート電極膜は、前記窒化物半導体ゲート層上に形成されるTiからなる第1金属膜と、前記第1金属膜上に積層されるTiNからなる第2金属膜とからなり、
前記アニール工程によって、前記第1金属膜における前記窒化物半導体ゲート層側の表層部に、前記窒化物半導体ゲート層のNと反応することにより、TiNからなる領域が形成される、窒化物半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、III族窒化物半導体(以下単に「窒化物半導体」という場合がある。)からなる窒化物半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体とは、III-V族半導体においてV族元素として窒素を用いた半導体である。窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)が代表例である。一般には、AlInGa1-x-yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)と表わすことができる。
このような窒化物半導体を用いたHEMT(High Electron Mobility Transistor;高電子移動度トランジスタ)が提案されている。このようなHEMTは、例えば、GaNからなる電子走行層と、この電子走行層上にエピタキシャル成長されたAlGaNからなる電子供給層とを含む。電子供給層に接するように一対のソース電極およびドレイン電極が形成され、それらの間にゲート電極が配置される。
【0003】
GaNとAlGaNとの格子不整合に起因する分極のために、電子走行層内において、電子走行層と電子供給層との界面から数Åだけ内方の位置に、二次元電子ガスが形成される。この二次元電子ガスをチャネルとして、ソース・ドレイン間が接続される。ゲート電極に制御電圧を印加することで、二次元電子ガスを遮断すると、ソース・ドレイン間が遮断される。ゲート電極に制御電圧を印加していない状態では、ソース・ドレイン間が導通するので、ノーマリーオン型のデバイスとなる。
【0004】
窒化物半導体を用いたデバイスは、高耐圧、高温動作、大電流密度、高速スイッチングおよび低オン抵抗といった特徴を有するため、パワーデバイスへの応用が検討されている。
しかし、パワーデバイスとして用いるためには、ゼロバイアス時に電流を遮断するノーマリーオフ型のデバイスである必要があるため、前述のようなHEMTは、パワーデバイスには適用できない。
【0005】
ノーマリーオフ型の窒化物半導体HEMTを実現するための構造は、たとえば、特許文献1において提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-73506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、AlGaN電子供給層にp型GaNゲート層(窒化物半導体ゲート層)を積層し、その上にゲート電極を配置し、前記p型GaNゲート層から広がる空乏層によってチャネルを消失させることで、ノーマリーオフを達成する構成を開示している。特許文献1では、ゲート電極としてはp型GaNゲート層とショットキー接合するTiN(窒化チタン)からなるゲート電極が用いられている。このような構成では、p型の窒化物半導体ゲート層とTiNゲート電極とがショットキー接合されるが、ゲート電極と窒化物半導体ゲート層との間のエネルギー障壁(バリアハイト)が不十分でゲートリーク電流が大きいという問題がある。
【0008】
ゲートリーク電流が大きい場合、所望のオン抵抗を得るために必要なゲート電圧が確保できない、またはゲートドライブ回路での消費電力が増加するといった問題に繋がり、パワー回路、および制御回路部での効率低下、発熱増加が懸念される。これは、高周波スイッチングを特長に掲げるHEMTにとって大きな課題となる。
この発明の目的は、ゲートリーク電流を低減できる窒化物半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係る窒化物半導体装置は、電子走行層を構成する第1窒化物半導体層と、前記第1窒化物半導体層上に形成され、電子供給層を構成する第2窒化物半導体層と、前記第2窒化物半導体層上に配置され、アクセプタ型不純物を含むリッジ形状の窒化物半導体ゲート層と、前記窒化物半導体ゲート層上に形成されたゲート電極とを含み、前記ゲート電極は、前記窒化物半導体ゲート層上に形成され、主としてTiからなる第1金属膜と、前記第1金属膜上に形成されたTiNからなる第2金属膜とを含む。
【0010】
この構成では、ゲート電極は、窒化物半導体ゲート層上に形成され、主としてTiからなる第1金属膜と、第1金属膜上に形成されたTiNからなる第2金属膜とを含んでいる。ここで、材料物性としては、アクセプタ型不純物を含んだp型半導体層に対してのバリアハイトはTiよりTiNの方が高いが、Tiが窒化物半導体表面の窒素Nと反応した場合、窒化物半導体層表面をN空孔によってn型化する効果がある。これにより、ゲート電極がTiNの金属膜のみから構成されている場合に比べて、ゲートリーク電流に起因するキャリアに対して、バリアハイトを高くできるので、ゲートリーク電流を低減させることができる。
【0011】
本発明の一実施形態に係る窒化物半導体装置は、電子走行層を構成する第1窒化物半導体層と、前記第1窒化物半導体層上に形成され、電子供給層を構成する第2窒化物半導体層と、前記第2窒化物半導体層上に配置されたリッジ形状の窒化物半導体ゲート層と、前記窒化物半導体ゲート層上に形成されたゲート電極とを含み、前記ゲート電極は、前記窒化物半導体ゲート層上に形成されたTiNからなる第1金属膜と、前記第1金属膜上に積層されたTiNからなる第2金属膜とを含み、前記第1金属膜のTi/N組成比が、前記第2金属膜のTi/N組成比よりも大きい。
【0012】
この構成では、ゲート電極は、窒化物半導体ゲート層上に形成されたTiNからなる第1金属膜と、第1金属膜上に積層されたTiNからなる第2金属膜とを含み、第1金属膜のTi/N組成比が、第2金属膜のTi/N組成比よりも大きい。これにより、ゲート電極が、第2金属膜のTi/N組成比を有するTiNの金属膜のみから構成されている場合に比べて、ゲート電極と窒化物半導体ゲート層との間のバリアハイトを高くできるので、ゲートリーク電流を低減させることができる。
【0013】
この発明の一実施形態では、前記窒化物半導体ゲート層が、アクセプタ型不純物を含む第3窒化物半導体層のみからなる。
この発明の一実施形態では、前記窒化物半導体ゲート層が、前記第2窒化物半導体層上に形成されたアクセプタ型不純物を含む第3窒化物半導体層と、前記第3窒化物半導体層上に積層され、前記第3窒化物半導体層よりもホール濃度が低い第4窒化物半導体層とを含む。
【0014】
この発明の一実施形態では、前記第4窒化物半導体層が、ドナー型不純物を含む。
この発明の一実施形態では、前記窒化物半導体ゲート層の上面の両側部上に形成された一対の第1誘電体膜をさらに含み、前記第1金属膜は、前記窒化物半導体ゲート層の上面における前記一対の第1誘電体膜の間部分および前記一対の第1誘電体膜の上面および互いに対向する側面を覆うように形成されている。
【0015】
この発明の一実施形態では、前記窒化物半導体ゲート層の上面の両側部上に形成された一対の第1誘電体膜をさらに含み、前記第1金属膜は、前記一対の第1誘電体膜の間に配置されており、前記第1金属膜の下面は前記窒化物半導体ゲート層の上面における前記一対の第1誘電体膜の間部分に接触し、前記第1金属膜の側面は前記一対の第1誘電体膜によって覆われている。
【0016】
この発明の一実施形態では、少なくとも前記窒化物半導体ゲート層の側面および前記第1誘電体膜の側面を覆う第2誘電体膜をさらに含む。
この発明の一実施形態では、前記第1誘電体膜がSiN、SiO、SiONまたはそれらの複合層である。
この発明の一実施形態では、前記第1誘電体膜がSiN、SiO、SiONまたはそれらの複合膜であり、前記第2誘電体膜がSiN、SiO、SiONまたはそれらの複合膜である。
【0017】
この発明の一実施形態では、前記第1金属膜は、窒化物半導体ゲート層側の表層部であるTiNからなる第1領域と、前記第1領域以外のTiからなる第2領域とを有する。
この発明の一実施形態では、前記第1領域のTi/N組成比が、前記第2金属膜のTi/N組成比よりも大きい。
この発明の一実施形態に係る窒化物半導体装置の製造方法は、基板上に、電子走行層を構成する第1窒化物半導体層と、電子供給層を構成する第2窒化物半導体層と、アクセプタ型不純物を含む窒化物半導体ゲート層材料膜と、第1誘電体膜とを、その順に形成する第1工程と、前記第1誘電体膜に前記窒化物半導体ゲート層材料膜に達するゲート開口部を形成する第2工程と、前記窒化物半導体ゲート層材料膜上に、少なくとも前記ゲート開口部および前記第1誘電体膜表面における前記ゲート開口部の両側周縁部を覆うように、ゲート電極膜を形成する第3工程と、前記窒化物半導体ゲート層材料膜、前記第1誘電体膜および前記ゲート電極膜を、平面視で前記ゲート開口部およびその両側周縁部の領域が残るように、選択的に除去することにより、リッジ形状の窒化物半導体ゲート層と、前記窒化物半導体ゲート層の上面の両側部上に配置された一対の前記第1誘電体膜と、前記窒化物半導体ゲート層および前記第1誘電体膜の表面上に形成されたゲート電極とからなるゲート部を形成する第4工程と、前記第2窒化物半導体層および前記ゲート部の露出面を覆う第2誘電体膜を形成する第5工程と、前記第2誘電体膜を貫通して前記第2窒化物半導体層に達するソース電極およびドレイン電極を形成する第6工程と、前記第4工程と前記第6工程の間または前記第6工程の後にアニール処理を行う、アニール工程とを含み、前記ゲート電極膜は、前記窒化物半導体ゲート層上に形成されるTiからなる第1金属膜と、前記第1金属膜上に積層されるTiNからなる第2金属膜とからなり、前記アニール工程によって、前記第1金属膜における前記窒化物半導体ゲート層側の表層部に、前記窒化物半導体ゲート層のNと反応することにより、TiNからなる領域が形成される。
【0018】
この窒化物半導体装置の製造方法によれば、ゲートリーク電流を低減できる窒化物半導体装置を得ることができる。
この発明の一実施形態に係る窒化物半導体装置の製造方法は、基板上に、電子走行層を構成する第1窒化物半導体層と、電子供給層を構成する第2窒化物半導体層と、アクセプタ型不純物を含む窒化物半導体ゲート層材料膜と、ゲート電極膜と、第3誘電体膜とを、その順に形成する第1工程と、前記第3誘電体膜を、前記ゲート電極膜上のゲート電極形成領域を残して除去する第2工程と、前記第3誘電体膜をマスクとして前記ゲート電極膜をエッチングすることにより、ゲート電極を形成する第3工程と、前記ゲート電極の側面を覆う第1誘電体膜を形成する第4工程と、前記第3誘電体膜および前記第1誘電体膜をマスクとして、前記窒化物半導体ゲート層材料膜をエッチングすることにより、窒化物半導体ゲート層を形成する第5工程と、前記第2窒化物半導体層、窒化物半導体ゲート層、前記ゲート電極、前記第1誘電体膜および前記第3誘電体膜の露出面を覆う第2誘電体膜を形成する第6工程と、前記第2誘電体膜を貫通して前記第2窒化物半導体層に達するソース電極およびドレイン電極を形成する第7工程と、前記第6工程と前記第7工程の間または前記第7工程の後にアニール処理を行う、アニール工程とを含み、前記ゲート電極膜は、前記窒化物半導体ゲート層上に形成されるTiからなる第1金属膜と、前記第1金属膜上に積層されるTiNからなる第2金属膜とからなり、前記アニール工程によって、前記第1金属膜における前記窒化物半導体ゲート層側の表層部に、前記窒化物半導体ゲート層のNと反応することにより、TiNからなる領域が形成される。
【0019】
この窒化物半導体装置の製造方法によれば、ゲートリーク電流を低減できる窒化物半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、この発明の第1実施形態に係る窒化物半導体装置の構成を説明するための断面図である。
図2図2は、図1のゲート部の詳細な構成を説明するための一部拡大断面図である。
図3A図3Aは、図1の窒化物半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図3B図3Bは、図3Aの次の工程を示す断面図である。
図3C図3Cは、図3Bの次の工程を示す断面図である。
図3D図3Dは、図3Cの次の工程を示す断面図である。
図3E図3Eは、図3Dの次の工程を示す断面図である。
図3F図3Fは、図3Eの次の工程を示す断面図である。
図3G図3Gは、図3Fの次の工程を示す断面図である。
図3H図3Hは、図3Gの次の工程を示す断面図である。
図3I図3Iは、図3Hの次の工程を示す断面図である。
図4図4は、ゲート-ソース間電圧[V]に対するゲート-ソース間リーク電流[A/mm]の実験結果を示すグラフである。
図5図5は、図1のゲート部の変形例を示す断面図であり、図2に対応する断面図である。
図6図6は、この発明の第2実施形態に係る窒化物半導体装置の構成を説明するための断面図である。
図7図7は、図6のゲート部の詳細な構成を説明するための一部拡大断面図である。
図8A図8Aは、図6の窒化物半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図8B図8Bは、図8Aの次の工程を示す断面図である。
図8C図8Cは、図8Bの次の工程を示す断面図である。
図8D図8Dは、図8Cの次の工程を示す断面図である。
図8E図8Eは、図8Dの次の工程を示す断面図である。
図8F図8Fは、図8Eの次の工程を示す断面図である。
図8G図8Gは、図8Fの次の工程を示す断面図である。
図8H図8Hは、図8Gの次の工程を示す断面図である。
図8I図8Iは、図8Hの次の工程を示す断面図である。
図8J図8Jは、図8Iの次の工程を示す断面図である。
図9図6のゲート部の変形例を示す断面図であり、図7に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の第1実施形態に係る窒化物半導体装置の構成を説明するための断面図である。図2は、図1のゲート部の詳細な構成を説明するための一部拡大断面図である。
窒化物半導体装置1は、基板2と、基板2の表面に形成されたバッファ層3と、バッファ層3上にエピタキシャル成長された第1窒化物半導体層4と、第1窒化物半導体層4上にエピタキシャル成長された第2窒化物半導体層5と、第2窒化物半導体層5上に形成されたゲート部20とを含む。
【0022】
さらに、この窒化物半導体装置1は、第2窒化物半導体層5およびゲート部20を覆うパッシベーション膜6(第2誘電体膜)を含む。さらに、この窒化物半導体装置1は、パッシベーション膜6に形成されたソースコンタクトホール7およびドレインコンタクトホール8を貫通して第2窒化物半導体層5にオーミック接触しているソース電極9およびドレイン電極10を含む。ソース電極9およびドレイン電極10は、間隔を開けて配置されている。ソース電極9は、ゲート部20を覆うように形成されている。
【0023】
基板2は、例えば、低抵抗のシリコン基板であってもよい。低抵抗のシリコン基板は、例えば、0.001Ωmm~0.5Ωmm(より具体的には0.01Ωmm~0.1Ωmm程度)の電気抵抗率を有したp型基板でもよい。また、基板2は、低抵抗のシリコン基板の他、低抵抗のSiC基板、低抵抗のGaN基板等であってもよい。基板2の厚さは、半導体プロセス中においては、例えば650μm程度であり、チップ化する前段階において、300μm以下程度に研削される。基板2は、ソース電極14に電気的に接続されている。
【0024】
バッファ層3は、この実施形態では、複数の窒化物半導体膜を積層した多層バッファ層から構成されている。この実施形態では、バッファ層3は、基板2の表面に接するAlN膜からなる第1バッファ層(図示略)と、この第1バッファ層の表面(基板2とは反対側の表面)に積層されたAlN/AlGaN超格子層からなる第2バッファ層(図示略)とから構成されている。第1バッファ層の膜厚は、100nm~500nm程度である。第2バッファ層の膜厚は、500nm~2μm程度である。バッファ層3は、例えば、AlGaNの単膜または複合膜から構成されていてもよい。
【0025】
第1窒化物半導体層4は、電子走行層を構成している。この実施形態では、第1窒化物半導体層4は、GaN層からなり、その厚さは0.5μm~2μm程度である。また、第1窒化物半導体層4を流れるリーク電流を抑制する目的で、表面領域以外には半絶縁性にするための不純物が導入されていてもよい。その場合、不純物の濃度は、4×1016cm-3以上であることが好ましい。また、不純物は、例えばCまたはFeである。
【0026】
第2窒化物半導体層5は、電子供給層を構成している。第2窒化物半導体層5は、第1窒化物半導体層4よりもバンドギャップの大きい窒化物半導体からなっている。具体的には、第2窒化物半導体層5は、第1窒化物半導体層4よりもAl組成の高い窒化物半導体からなっている。窒化物半導体においては、Al組成が高いほどバッドギャップは大きくなる。この実施形態では、第2窒化物半導体層5は、Alx1Ga1-x1N層(0<x1<1)からなり、その厚さは5nm~15nm程度である。
【0027】
このように第1窒化物半導体層(電子走行層)4と第2窒化物半導体層(電子供給層)5とは、バンドギャップ(Al組成)の異なる窒化物半導体からなっており、それらの間には格子不整合が生じている。そして、第1窒化物半導体層4および第2窒化物半導体層5の自発分極と、それらの間の格子不整合に起因するピエゾ分極とによって、第1窒化物半導体層4と第2窒化物半導体層5との界面における第1窒化物半導体層4の伝導帯のエネルギーレベルはフェルミ準位よりも低くなる。これにより、第1窒化物半導体層4内には、第1窒化物半導体層4と第2窒化物半導体層5との界面に近い位置(例えば界面から数Å程度の距離)に、二次元電子ガス(2DEG)11が広がっている。
【0028】
ゲート部20は、第2窒化物半導体層5上にエピタキシャル成長されたリッジ形状の窒化物半導体ゲート層21と、窒化物半導体ゲート層21の両側部上に形成された一対の誘電体膜(第1誘電体膜)22と、窒化物半導体ゲート層21および誘電体膜22の表面上に形成されたゲート電極23とを含む。ゲート部20は、ソースコンタクトホール7寄りに偏って配置されている。
【0029】
この実施形態では、窒化物半導体ゲート層21の横断面形状は略矩形である。また、誘電体膜22の横断面形状も略矩形である。以下において、窒化物半導体ゲート層21上面における一対の誘電体膜22の間部分を底面とし、窒化物半導体ゲート層21の両側部上に形成された一対の誘電体膜22の互いに対向する側面を内側面とする凹部を、ゲート開口部20aという場合がある。
【0030】
窒化物半導体ゲート層21は、アクセプタ型不純物がドーピングされた窒化物半導体からなる。この実施形態では、窒化物半導体ゲート層21は、アクセプタ型不純物がドーピングされたGaN層(p型GaN層)からなっており、その厚さは40nm~100nm程度である。
窒化物半導体ゲート層21に注入されるアクセプタ型不純物の濃度は、1×1019cm-3以上であることが好ましい。この実施形態では、アクセプタ型不純物は、Mg(マグネシウム)である。アクセプタ型不純物は、Zn(亜鉛)等のMg以外のアクセプタ型不純物であってもよい。窒化物半導体ゲート層21は、ゲート部20の直下の領域において、第1窒化物半導体層4(電子走行層)と第2窒化物半導体層5(電子供給層)との界面付近に生じる二次元電子ガス11を相殺するために設けられている。
【0031】
この実施形態では、誘電体膜22は、SiNからなる。誘電体膜22は、SiN、SiO、SiONまたはそれらの複合膜から構成されてもよい。
ゲート電極23は、一対の誘電体膜22の上面とゲート開口部20aの内面(側面および底面)とを覆うように形成されている。ゲート電極23は、主としてTiからなる下層の第1金属膜31と、第1金属膜31上に積層され、TiNからなる上層の第2金属膜32とを含む。第1金属膜31の膜厚は、5nm~10nm程度であり、第2金属膜32の膜厚は、50nm~150nm程度である。
【0032】
第1金属膜31は、窒化物半導体ゲート層21の上面における一対の誘電体膜22の間部分と、一対の誘電体膜22の上面および互いに対向する側面(内方側面)とに接している。第1金属膜31のうち、窒化物半導体ゲート層21に表面が接触している表層部の両側面は、一対の誘電体膜22の内方側面によって覆われている。
第1金属膜31は、図2に示すように、窒化物半導体ゲート層21に表面が接触している表層部であるTiNからなる第1領域31Aと、第1領域31A以外のTiからなる第2領域31Bとを有する。第1領域31Aは、元々は第2領域31Bと同様にTiから構成されているが、製造過程において窒化物半導体ゲート層21の表層部のNと反応してTiNが形成された領域である。第1領域31AのTi/N組成比は、第2金属膜32のTi/N組成比よりも大きい。例えば、第2金属膜32のTi/N組成比は1程度であり、第1領域31AのTi/N組成比は2程度である。
【0033】
製造過程において、窒化物半導体ゲート層21の表層部のNと第1金属膜31のTiとの反応によるTiNの形成によって、窒化物半導体ゲート層21の表層部からNが脱離する。これにより、窒化物半導体ゲート層21の表層部がn型化される。これにより、図2に示すように、窒化物半導体ゲート層21のうち、第1金属膜31に表面が接触している表層部に、窒化物半導体ゲート層21よりもホール濃度の低いp型もしくはn型GaN領域21aが形成される。
【0034】
図1に戻り、パッシベーション膜6は、第2窒化物半導体層5の表面(コンタクトホール7,8が臨んでいる領域を除く)およびゲート部20の側面および表面を覆っている。この実施形態では、パッシベーション膜6はSiN膜からなり、その厚さ50nm~200nm程度である。パッシベーション膜6は、SiN、SiO、SiONまたはそれらの複合膜から構成されてもよい。
【0035】
ソース電極9およびドレイン電極10は、例えば、第2窒化物半導体層5に接する第1金属層(オーミックメタル層)と、第1金属層に積層された第2金属層(主電極メタル層)と、第2金属層に積層された第3金属層(密着層)と、第3金属層に積層された第4金属層(バリアメタル層)とからなる。第1金属層は、例えば、厚さが10nm~20nm程度のTi層である。第2金属層は、例えば、厚さが100nm~300nm程度のAl層である。第3金属層は、例えば、厚さが10nm~20nm程度のTi層である。第4金属層は、例えば、厚さが10nm~50nm程度のTiN層である。
【0036】
この窒化物半導体装置1では、第1窒化物半導体層4(電子走行層)上にバンドギャップ(Al組成)の異なる第2窒化物半導体層5(電子供給層)が形成されてヘテロ接合が形成されている。これにより、第1窒化物半導体層4と第2窒化物半導体層5との界面付近の第1窒化物半導体層4内に二次元電子ガス11が形成され、この二次元電子ガス11をチャネルとして利用したHEMTが形成されている。ゲート電極23は、窒化物半導体ゲート層21を挟んで第2窒化物半導体層5に対向している。
【0037】
ゲート電極23の下方においては、p型GaN層からなる窒化物半導体ゲート層21に含まれるイオン化アクセプタによって、第1窒化物半導体層4および第2窒化物半導体層5のエネルギーレベルが引き上げられる。このため、第1窒化物半導体層4と第2窒化物半導体層5との間のヘテロ接合界面における伝導帯のエネルギーレベルはフェルミ準位よりも大きくなる。したがって、ゲート電極23(ゲート部20)の直下では、第1窒化物半導体層4および第2窒化物半導体層5の自発分極ならびにそれらの格子不整合によるピエゾ分極に起因する二次元電子ガス11が形成されない。
【0038】
よって、ゲート電極23にバイアスを印加していないとき(ゼロバイアス時)には、二次元電子ガス11によるチャネルはゲート電極23の直下で遮断されている。こうして、ノーマリーオフ型のHEMTが実現されている。ゲート電極23に適切なオン電圧(たとえば3V)を印加すると、ゲート電極23の直下の第1窒化物半導体層4内にチャネルが誘起され、ゲート電極23の両側の二次元電子ガス11が接続される。これにより、ソース-ドレイン間が導通する。
【0039】
使用に際しては、たとえば、ソース電極9とドレイン電極10との間に、ドレイン電極10側が正となる所定の電圧(たとえば10V~500V)が印加される。その状態で、ゲート電極23に対して、ソース電極9を基準電位(0V)として、オフ電圧(0V)またはオン電圧(5V)が印加される。
図3A図3Iは、前述の窒化物半導体装置1の製造工程の一例を説明するための断面図であり、製造工程における複数の段階における断面構造が示されている。
【0040】
まず、図3Aに示すように、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によって、基板2上に、バッファ層3、第1窒化物半導体層(電子走行層)4および第2窒化物半導体層(電子供給層)5がエピタキシャル成長される。さらに、MOCVD法によって、第2窒化物半導体層5上に、窒化物半導体ゲート層21の材料膜であるゲート層材料膜71が形成される。
【0041】
次に、図3Bに示すように、例えばLPCVD(Low Pressure Chemical Vapor Deposition)法によって、ゲート層材料膜71上に、誘電体膜22の材料膜であるSiN膜72が形成される。
次に、図3Cに示すように、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、SiN膜72に、ゲート層材料膜71に達するゲート開口部20aが形成される。
【0042】
次に、図3Dに示すように、スパッタ法によって、露出した表面全体を覆うように、第1金属膜31の材料膜であるTi膜73が形成され、続いて、Ti膜73上に、第2金属膜32の材料膜であるTiN膜74が形成される。
次に、図3Eに示すように、フォトリソグラフィにより、TiN膜74における第2金属膜32(ゲート電極23)となる部分を覆うように、TiN膜74上にレジストパターン75が形成される。
【0043】
この後、図3Fに示すように、レジストパターン75をマスクとするエッチングにより、TiN膜74、Ti膜73、SiN膜72およびゲート層材料膜71がパターニングされる。これにより、窒化物半導体ゲート層21と、誘電体膜22、ゲート電極23とからなるゲート部20が形成される。ゲート電極23は、下層の第1金属膜31と上層の第2金属膜32とからなる。この段階では、第1金属膜31は、Tiからなる。ゲート部20が形成後に、レジストパターン75は除去される。
【0044】
次に、図3Gに示すように、露出した表面全体を覆うように、パッシベーション膜6が形成される。パッシベーション膜6は例えばSiNからなる。この後、窒素雰囲気中で、アニール処理が行われる。
このアニール工程によって、窒化物半導体ゲート層21表層部のNと第1金属膜31のTiとが反応し、第1金属膜31における窒化物半導体ゲート層21側の表層部に、TiNからなる第1領域31A(図2参照)が形成される。したがって、第1金属膜31は、図2に示すように、TiNからなる第1領域31Aと、それ以外のTiNからなる第2領域31Bとを有することになる。なお、このアニール工程によって、第1金属膜31の側壁にもTiNができる。この変化は、より多様な薬液洗浄に耐えられる膜によるゲート電極の保護に繋がり、適切な窒化物半導体表面の洗浄によってゲートリーク電流や電流コラプス低減といった効果も得られる。
【0045】
一方、窒化物半導体ゲート層21の表層部のNと第1金属膜31のTiとの反応によるTiNの形成によって、窒化物半導体ゲート層21の表層部からNが脱離する。これにより、窒化物半導体ゲート層21の表層部がn型化され、窒化物半導体ゲート層21の第1金属膜31側の表層部に、窒化物半導体ゲート層21よりもホール濃度の低いp型もしくはn型GaNからなる領域21a(図2参照)が形成される。これにより、ゲートリーク電流に起因するキャリアに対して、第1金属膜31と窒化物半導体ゲート層21との間のバリアハイトが高くなるので、ゲートリーク電流が低減される。
【0046】
次に、図3Hに示すように、パッシベーション膜6に、第2窒化物半導体層5に達するソースコンタクトホール7およびドレインコンタクトホール8が形成される。
次に、図3Iに示すように、露出した表面全体を覆うようにソース・ドレイン電極膜76が形成される。
最後に、フォトリソグラフィおよびエッチングによってソース・ドレイン電極膜76がパターニングされることにより、第2窒化物半導体層5にオーミック接触するソース電極14およびドレイン電極15が形成される。こうして、図1に示すような構造の窒化物半導体装置1が得られる。
【0047】
前述の製造方法では、窒化物半導体ゲート層21の表層部をn型化するためのアニール工程はパッシベーション膜6が形成された直後に行われているが、このようなアニール工程はパッシベーション膜6が形成された後であれば、任意のタイミンクで行うことができる。
前述の実施形態におけるゲート電極23をTiNからなるゲート電極に置き換えた構成を比較例ということにする。
【0048】
図4は、ゲート-ソース間電圧[V]に対するゲート-ソース間リーク電流[A/mm]の実験結果を示すグラフである。図4に実線で示すグラフは、実施形態に対する実験結果を示している。図4に破線で示すグラフは、比較例に対する実験結果を示している。
図4から、ゲート-ソース間電圧が約3[V]以上の範囲および約-2[V]以下の範囲において、比較例に比べて実施形態では、ゲート-ソース間リーク電流が低減されていることがわかる。
【0049】
前述の第1実施形態では、ゲート電極23が、窒化物半導体ゲート層21上に形成され、主としてTiからなる第1金属膜31と、第1金属膜31上に積層され、TiNからなる第2金属膜32とから構成されている。これにより、ゲート電極23がTiNの金属膜のみから構成されている場合に比べて、ゲートリーク電流に起因するキャリアに対して、ゲート電極23と窒化物半導体ゲート層21との間のバリアハイトを高くできるので、ゲートリーク電流を低減させることができる。
【0050】
また、前述の第1実施形態では、窒化物半導体ゲート層21の上面の両側部上には、誘電体膜22が形成されているので、窒化物半導体ゲート層21の上面の両側部上にゲート電極23が接触していない。これにより、前述の第1実施形態では、窒化物半導体ゲート層21の上面の両側部上にゲート電極が接触している場合に比べて、ゲート電極23から窒化物半導体ゲート層21の表面を通ってソース電極9にリーク電流が流れる経路を長くできる。これにより、ゲートリーク電流を低減させることができる。
【0051】
第1金属膜31を構成するTiは、酸化しやすい性質を有している。前述の第1実施形態では、第1金属膜31のうち、窒化物半導体ゲート層21に表面が接触している表層部の両側面は、一対の誘電体膜22の内方側面によって覆われている。このため、製造過程において、第1金属膜31の当該表層部の両側面が大気に晒されない。これにより第1金属膜31の当該表層部の両側面が酸化により劣化するのを抑制できるから、ゲートリーク電流を低減させることができる。
【0052】
前述の第1実施形態では、第1金属膜31は主としてTiから構成されているが、第1金属膜31は、TiNから構成されていてもよい。第1金属膜31がTiNから構成される場合、第1金属膜31のTi/N組成比は、第2金属膜32のTi/N組成比よりも大きいことが好ましい。例えば、第2金属膜32のTi/N組成比は1程度であり、第1金属膜31のTi/N組成比は2程度である。
【0053】
第1金属膜31のTi/N組成比は、第2金属膜32のTi/N組成比よりも大きいため、製造過程において、窒化物半導体ゲート層21の第1金属膜31側の表層部のNが第1金属膜31に引き抜かれて、窒化物半導体ゲート層21の第1金属膜31側の表層部にn型GaN層が形成されやすい。このため、ゲート電極全体が、第2金属膜32のTi/N組成比を有するTiNから構成されている場合に比べて、ゲートリーク電流を低減させることができる。
【0054】
図5は、図1のゲート部の変形例を示す断面図であり、図2に対応する断面図である。
図5のゲート部20Aでは、窒化物半導体ゲート層21が、第2窒化物半導体層5上に形成された第3窒化物半導体層33と、第3窒化物半導体層上に形成された第4窒化物半導体層34とから構成されている点のみが、図1のゲート部20と異なっている。
第3窒化物半導体層33は、アクセプタ型不純物がドーピングされた窒化物半導体からなる。この実施形態では、第3窒化物半導体層33は、アクセプタ型不純物がドーピングされたGaN層(p型GaN層)からなっており、その厚さは50nm~100nm程度である。第3窒化物半導体層33に注入されるアクセプタ型不純物の濃度は、1×1019cm-3以上であることが好ましく、表面近傍で1×1018cm-3程度まで低減していることが望ましい。この実施形態では、アクセプタ型不純物は、Mg(マグネシウム)である。アクセプタ型不純物は、Zn等のMg以外のアクセプタ型不純物であってもよい。第3窒化物半導体層33は、ゲート部20の直下の領域において、第1窒化物半導体層4(電子走行層)と第2窒化物半導体層5(電子供給層)との界面付近に生じる二次元電子ガス11を相殺するために設けられている。
【0055】
第4窒化物半導体層34は、ドナー型不純物がドーピングされた窒化物半導体からなる。この実施形態では、第4窒化物半導体層34は、ドナー型不純物がドーピングされたGaN層(n型GaN層)からなっており、その厚さは第3窒化物半導体層33の厚さの1/10以下である。第4窒化物半導体層34に注入されるドナー型不純物の濃度は、例えば、2×1018cm-3以上であることが好ましい。この実施形態では、アクセプタ型不純物は、Si(シリコン)である。第4窒化物半導体層34は、窒化物半導体ゲート層21とゲート電極23との間のバリアハイトを高くして、ゲートリーク電流を低減するために設けられている。これにより、この変形例においても、ゲートリーク電流を低減することができる。
【0056】
図5のゲート部20Aにおいても、製造過程において、第4窒化物半導体層34の表層部のNと第1金属膜31のTiとが反応して、第1金属膜31における第4窒化物半導体層54側の表層部にTiNが形成される。このため、第1金属膜31は、窒化物半導体ゲート層21側の表層部のTiNからなる第1領域31Aと、第1領域31A以外のTiからなる第2領域31Bとを有する。
【0057】
図5のゲート部20Aでは、第1金属膜31は主としてTiから構成されているが、第1金属膜31は、TiNから構成されていてもよい。第1金属膜31がTiNから構成される場合、第1金属膜31のTi/N組成比は、第2金属膜32のTi/N組成比よりも大きいことが好ましい。例えば、第2金属膜32のTi/N組成比は1程度であり、第1金属膜31のTi/N組成比は2程度である。
【0058】
図6は、この発明の第2実施形態に係る窒化物半導体装置の構成を説明するための断面図である。図7は、図6のゲート部の詳細な構成を説明するための一部拡大断面図である。
窒化物半導体装置101は、基板2と、基板2の表面に形成されたバッファ層3と、バッファ層3上にエピタキシャル成長された第1窒化物半導体層4と、第1窒化物半導体層4上にエピタキシャル成長された第2窒化物半導体層5と、第2窒化物半導体層5上に形成されたゲート部40とを含む。
【0059】
さらに、この窒化物半導体装置1は、第2窒化物半導体層5およびゲート部40を覆うパッシベーション膜6(第2誘電体膜)を含む。さらに、この窒化物半導体装置1は、パッシベーション膜6に形成されたソースコンタクトホール7およびドレインコンタクトホール8を貫通して第2窒化物半導体層5にオーミック接触しているソース電極9およびドレイン電極10を含む。ソース電極9およびドレイン電極10は、間隔を開けて配置されている。ソース電極9は、ゲート部40を覆うように形成されている。
【0060】
基板2は、例えば、低抵抗のシリコン基板であってもよい。低抵抗のシリコン基板は、例えば、0.001Ωmm~0.5Ωmm(より具体的には0.01Ωmm~0.1Ωmm程度)の電気抵抗率を有したp型基板でもよい。また、基板2は、低抵抗のシリコン基板の他、低抵抗のSiC基板、低抵抗のGaN基板等であってもよい。基板2の厚さは、半導体プロセス中においては、例えば650μm程度であり、チップ化する前段階において、300μm以下程度に研削される。基板2は、ソース電極14に電気的に接続されている。
【0061】
バッファ層3は、この実施形態では、複数の窒化物半導体膜を積層した多層バッファ層から構成されている。この実施形態では、バッファ層3は、基板2の表面に接するAlN膜からなる第1バッファ層(図示略)と、この第1バッファ層の表面(基板2とは反対側の表面)に積層されたAlN/AlGaN超格子層からなる第2バッファ層(図示略)とから構成されている。第1バッファ層の膜厚は、100nm~500nm程度である。第2バッファ層の膜厚は、500nm~2μm程度である。バッファ層3は、例えば、AlGaNの単膜または複合膜から構成されていてもよい。
【0062】
第1窒化物半導体層4は、電子走行層を構成している。この実施形態では、第1窒化物半導体層4は、GaN層からなり、その厚さは0.5μm~2μm程度である。また、第1窒化物半導体層4を流れるリーク電流を抑制する目的で、表面領域以外には半絶縁性にするための不純物が導入されていてもよい。その場合、不純物の濃度は、4×1016cm-3以上であることが好ましい。また、不純物は、例えばCまたはFeである。
【0063】
第2窒化物半導体層5は、電子供給層を構成している。第2窒化物半導体層5は、第1窒化物半導体層4よりもバンドギャップの大きい窒化物半導体からなっている。具体的には、第2窒化物半導体層5は、第1窒化物半導体層4よりもAl組成の高い窒化物半導体からなっている。窒化物半導体においては、Al組成が高いほどバッドギャップは大きくなる。この実施形態では、第2窒化物半導体層5は、Alx1Ga1-x1N層(0<x1<1)からなり、その厚さは5nm~15nm程度である。
【0064】
このように第1窒化物半導体層(電子走行層)4と第2窒化物半導体層(電子供給層)5とは、バンドギャップ(Al組成)の異なる窒化物半導体からなっており、それらの間には格子不整合が生じている。そして、第1窒化物半導体層4および第2窒化物半導体層5の自発分極と、それらの間の格子不整合に起因するピエゾ分極とによって、第1窒化物半導体層4と第2窒化物半導体層5との界面における第1窒化物半導体層4の伝導帯のエネルギーレベルはフェルミ準位よりも低くなる。これにより、第1窒化物半導体層4内には、第1窒化物半導体層4と第2窒化物半導体層5との界面に近い位置(例えば界面から数Å程度の距離)に、二次元電子ガス(2DEG)11が広がっている。
【0065】
ゲート部40は、第2窒化物半導体層5上にエピタキシャル成長されたリッジ形状の窒化物半導体ゲート層41と、窒化物半導体ゲート層41上の両側部を除く幅中間部上に形成されたゲート電極42と、ゲート電極42上に形成された絶縁膜43とを含む。ゲート部40は、さらに、ゲート電極42と絶縁膜43との積層体の各側壁に形成されたサイドウォール(第1誘電体膜)44を含む。ゲート部40は、ソースコンタクトホール7寄りに偏って配置されている。
【0066】
この実施形態では、窒化物半導体ゲート層41の横断面形状は略矩形である。窒化物半導体ゲート層41は、アクセプタ型不純物がドーピングされた窒化物半導体からなる。この実施形態では、窒化物半導体ゲート層41は、アクセプタ型不純物がドーピングされたGaN層(p型GaN層)からなっており、その厚さは40nm~100nm程度である。
【0067】
窒化物半導体ゲート層41に注入されるアクセプタ型不純物の濃度は、1×1019cm-3以上であることが好ましい。この実施形態では、アクセプタ型不純物は、Mg(マグネシウム)である。アクセプタ型不純物は、Zn(亜鉛)等のMg以外のアクセプタ型不純物であってもよい。窒化物半導体ゲート層41は、ゲート部40の直下の領域において、第1窒化物半導体層4(電子走行層)と第2窒化物半導体層5(電子供給層)との界面付近に生じる二次元電子ガス11を相殺するために設けられている。
【0068】
ゲート電極42は、主としてTiからなる下層の第1金属膜51と、第1金属膜51上に積層され、TiNからなる上層の第2金属膜52とを含む。第1金属膜51の膜厚は、5nm~10nm程度であり、第2金属膜52の膜厚は、50nm~150nm程度である。
ゲート電極42(第1金属膜51)の下面は、窒化物半導体ゲート層41の上面における2つのサイドウォール44の間部分に接触している。ゲート電極42の両側面は、サイドウォール44によって覆われており、ゲート電極42の上面は絶縁膜43によって覆われている。
【0069】
第1金属膜51は、図7に示すように、窒化物半導体ゲート層41側の表層部であるTiNからなる第1領域51Aと、第1領域51A以外のTiからなる第2領域51Bとを有する。第1領域51Aは、元々は第2領域51Bと同様にTiから構成されているが、製造過程において窒化物半導体ゲート層41の表層部のNと反応してTiNが形成された領域である。第1金属膜51の第1領域51AのTi/N組成比は、第2金属膜52のTi/N組成比よりも大きい。例えば、第2金属膜52のTi/N組成比は1程度であり、第1金属膜51の第1領域51AのTi/N組成比は2程度である。
【0070】
製造過程において、窒化物半導体ゲート層41の表層部のNと第1金属膜51のTiとの反応によるTiNの形成によって、窒化物半導体ゲート層41の表層部からNが脱離する。これにより、窒化物半導体ゲート層41の表層部がn型化される。これにより、図7に示すように、窒化物半導体ゲート層41のうち、第1金属膜51に表面が接触している表層部には窒化物半導体ゲート層41よりもホール濃度の低いp型もしくはn型GaN領域41aが形成されている。
【0071】
図6に戻り、絶縁膜43は、例えば、SiOからなり、その厚さは100nm~300nm程度である。絶縁膜43は、SiNから構成されてもよい。各サイドウォール44は、例えば、SiNからなる。各サイドウォール44は、SiN、SiO、SiONまたはそれらの複合膜から構成されてもよい。
パッシベーション膜6は、第2窒化物半導体層5の表面(コンタクトホール7,8が臨んでいる領域を除く)およびゲート部40の側面および表面を覆っている。この実施形態では、パッシベーション膜6はSiN膜からなり、その厚さ50nm~200nm程度である。パッシベーション膜6は、SiN、SiO、SiONまたはそれらの複合膜から構成されてもよい。
【0072】
ソース電極9およびドレイン電極10は、例えば、第2窒化物半導体層5に接する第1金属層(オーミックメタル層)と、第1金属層に積層された第2金属層(主電極メタル層)と、第2金属層に積層された第3金属層(密着層)と、第3金属層に積層された第4金属層(バリアメタル層)とからなる。第1金属層は、例えば、厚さが10nm~20nm程度のTi層である。第2金属層は、例えば、厚さが100nm~300nm程度のAl層である。第3金属層は、例えば、厚さが10nm~20nm程度のTi層である。第4金属層は、例えば、厚さが10nm~50nm程度のTiN層である。
【0073】
この窒化物半導体装置1では、第1窒化物半導体層4(電子走行層)上にバンドギャップ(Al組成)の異なる第2窒化物半導体層5(電子供給層)が形成されてヘテロ接合が形成されている。これにより、第1窒化物半導体層4と第2窒化物半導体層5との界面付近の第1窒化物半導体層4内に二次元電子ガス11が形成され、この二次元電子ガス11をチャネルとして利用したHEMTが形成されている。ゲート電極42は、窒化物半導体ゲート層41を挟んで第2窒化物半導体層5に対向している。
【0074】
ゲート電極42の下方においては、p型GaN層からなる窒化物半導体ゲート層41に含まれるイオン化アクセプタによって、第1窒化物半導体層4および第2窒化物半導体層5のエネルギーレベルが引き上げられる。このため、第1窒化物半導体層4と第2窒化物半導体層5との間のヘテロ接合界面における伝導帯のエネルギーレベルはフェルミ準位よりも大きくなる。したがって、ゲート電極42(ゲート部40)の直下では、第1窒化物半導体層4および第2窒化物半導体層5の自発分極ならびにそれらの格子不整合によるピエゾ分極に起因する二次元電子ガス11が形成されない。
【0075】
よって、ゲート電極42にバイアスを印加していないとき(ゼロバイアス時)には、二次元電子ガス11によるチャネルはゲート電極42の直下で遮断されている。こうして、ノーマリーオフ型のHEMTが実現されている。ゲート電極42に適切なオン電圧(たとえば3V)を印加すると、ゲート電極42の直下の第1窒化物半導体層4内にチャネルが誘起され、ゲート電極42の両側の二次元電子ガス11が接続される。これにより、ソース-ドレイン間が導通する。
【0076】
使用に際しては、たとえば、ソース電極9とドレイン電極10との間に、ドレイン電極10側が正となる所定の電圧(たとえば10V~500V)が印加される。その状態で、ゲート電極42に対して、ソース電極9を基準電位(0V)として、オフ電圧(0V)またはオン電圧(5V)が印加される。
図8A図8Jは、前述の窒化物半導体装置1Bの製造工程の一例を説明するための断面図であり、製造工程における複数の段階における断面構造が示されている。
【0077】
まず、図8Aに示すように、MOCVD法によって、基板2上に、バッファ層3、第1窒化物半導体層(電子走行層)4および第2窒化物半導体層(電子供給層)5がエピタキシャル成長される。さらに、MOCVD法によって、第2窒化物半導体層5上に、窒化物半導体ゲート層41の材料膜であるゲート層材料膜81が形成される。
次に、図8Bに示すように、スパッタ法によって、ゲート層材料膜81上に、第1金属膜51の材料膜であるTi膜82が形成され、続いて、Ti膜82上に、第2金属膜52の材料膜であるTiN膜83が形成される。この後、プラズマCVD法によって、TiN膜83上に、絶縁膜43の材料膜であるSiO膜84が形成される。
【0078】
次に、図8Cに示すように、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、SiO膜84がパターニングされる。これにより、TiN膜83における第2金属膜52(ゲート電極42)となる部分を覆うように、TiN膜83上に絶縁膜43が形成される。
次に、図8Dに示すように、絶縁膜43をマスクとするエッチングにより、TiN膜83およびTi膜82がパターニングされる。これにより、ゲート層材料膜81上に、ゲート電極42と絶縁膜43との積層体が形成される。ゲート電極42は、下層の第1金属膜51と上層の第2金属膜52とからなる。この段階では、第1金属膜51は、Tiからなる。
【0079】
次に、図8Eに示すように、露出した表面全体を覆うように、サイドウォール44の材料膜であるSiN膜85が形成される。
次に、図8Fに示すように、SiN膜85がエッチングされることにより、サイドウォール44が形成される。
次に、図8Gに示すように、絶縁膜43およびサイドウォール44をマスクとするエッチングにより、ゲート層材料膜81がパターニングされる。これにより、窒化物半導体ゲート層41と、ゲート電極42と、絶縁膜43と、サイドウォール44とからなるゲート部40が形成される。
【0080】
次に、図8Hに示すように、露出した表面全体を覆うように、パッシベーション膜6が形成される。パッシベーション膜6は例えばSiNからなる。この後、窒素雰囲気中で、アニール処理が行われる。
このアニール工程によって、窒化物半導体ゲート層41の表層部のNと第1金属膜51のTiとが反応し、第1金属膜51における窒化物半導体ゲート層41側の表層部に、TiNからなる第1領域51A(図7参照)が形成される。したがって、第1金属膜51は、図7に示すように、TiNからなる第1領域51Aと、それ以外のTiNからなる第2領域51Bとを有することになる。
【0081】
一方、窒化物半導体ゲート層41の表層部のNと第1金属膜51のTiとの反応によるTiNの形成によって、窒化物半導体ゲート層41の表層部からNが脱離する。これにより、窒化物半導体ゲート層41の表層部がn型化され、窒化物半導体ゲート層41の第1金属膜51側の表層部に、窒化物半導体ゲート層41よりもホール濃度の低いp型もしくはn型GaNからなる領域41a(図7参照)が形成される。これにより、第1金属膜51と窒化物半導体ゲート層41との間のバリアハイトが高くなるので、ゲートリーク電流が低減される。
【0082】
次に、図8Iに示すように、パッシベーション膜6に、第2窒化物半導体層5に達するソースコンタクトホール7およびドレインコンタクトホール8が形成される。
次に、図8Jに示すように、露出した表面全体を覆うようにソース・ドレイン電極膜86が形成される。
最後に、フォトリソグラフィおよびエッチングによってソース・ドレイン電極膜86がパターニングされることにより、第2窒化物半導体層5にオーミック接触するソース電極14およびドレイン電極15が形成される。こうして、図6に示すような構造の窒化物半導体装置101が得られる。
【0083】
前述の製造方法では、窒化物半導体ゲート層41の表層部をn型化するためのアニール工程はパッシベーション膜6が形成された直後に行われているが、このようなアニール工程はパッシベーション膜6が形成された後であれば、任意のタイミンクで行うことができる。
前述の第2実施形態では、ゲート電極42が、窒化物半導体ゲート層41上に形成され、主としてTiからなる第1金属膜51と、第1金属膜51上に積層され、TiNからなる第2金属膜52とから構成されている。これにより、ゲート電極42がTiNの金属膜のみから構成されている場合に比べて、ゲート電極42と窒化物半導体ゲート層41との間のバリアハイトを高くできるので、ゲートリーク電流を低減させることができる。
【0084】
また、前述の第2実施形態では、窒化物半導体ゲート層41の上面の両側部上には、サイドウォール44が形成されているので、窒化物半導体ゲート層41の上面の両側部上にゲート電極42が接触していない。これにより、前述の第2実施形態では、窒化物半導体ゲート層41の上面の両側部上にゲート電極が接触している場合に比べて、ゲート電極42から窒化物半導体ゲート層41の表面を通ってソース電極9にリーク電流が流れる経路を長くできる。これにより、ゲートリーク電流を低減させることができる。
【0085】
前述の第2実施形態では、第1金属膜51は主としてTiから構成されているが、第1金属膜51は、TiNから構成されていてもよい。第1金属膜51がTiNから構成される場合、第1金属膜51のTi/N組成比は、第2金属膜52のTi/N組成比よりも大きいことが好ましい。例えば、第2金属膜52のTi/N組成比は1程度であり、第1金属膜51のTi/N組成比は2程度である。
【0086】
第1金属膜51のTi/N組成比は、第2金属膜52のTi/N組成比よりも大きいため、製造過程において、窒化物半導体ゲート層41の第1金属膜51側の表層部のNが第1金属膜51に引き抜かれて、窒化物半導体ゲート層41の第1金属膜51側の表層部に窒化物半導体ゲート層41よりもホール濃度の低いp型もしくはn型GaN層が形成されやすい。このため、ゲート電極全体が、第2金属膜52のTi/N組成比を有するTiNから構成されている場合に比べて、ゲートリーク電流を低減させることができる。
【0087】
図9は、図6のゲート部の変形例を示す断面図であり、図7に対応する断面図である。
図9のゲート部40Aでは、窒化物半導体ゲート層41が、第2窒化物半導体層5上に形成された第3窒化物半導体層53と、第3窒化物半導体層上に形成された第4窒化物半導体層54とから構成されている点のみが、図6のゲート部40と異なっている。
第3窒化物半導体層53は、アクセプタ型不純物がドーピングされた窒化物半導体からなる。この実施形態では、第3窒化物半導体層53は、アクセプタ型不純物がドーピングされたGaN層(p型GaN層)からなっており、その厚さは50nm~100nm程度である。第3窒化物半導体層53に注入されるアクセプタ型不純物の濃度は、1×1019cm-3以上であることが好ましく、表面近傍で1×1018cm-3程度まで低減していることが望ましい。この実施形態では、アクセプタ型不純物は、Mg(マグネシウム)である。アクセプタ型不純物は、Zn等のMg以外のアクセプタ型不純物であってもよい。第3窒化物半導体層53は、ゲート部40の直下の領域において、第1窒化物半導体層4(電子走行層)と第2窒化物半導体層5(電子供給層)との界面付近に生じる二次元電子ガス11を相殺するために設けられている。
【0088】
第4窒化物半導体層54は、ドナー型不純物がドーピングされた窒化物半導体からなる。この実施形態では、第4窒化物半導体層54は、ドナー型不純物がドーピングされたGaN層(n型GaN層)からなっており、その厚さは第3窒化物半導体層53の厚さの1/10以下である。第4窒化物半導体層54に注入されるドナー型不純物の濃度は、2×1018cm-3以上であることが好ましい。この実施形態では、アクセプタ型不純物は、Si(シリコン)である。第4窒化物半導体層54は、窒化物半導体ゲート層21とゲート電極42との間のバリアハイトを高くして、ゲートリーク電流を低減するために設けられている。これにより、この変形例においても、ゲートリーク電流を低減することができる。
【0089】
図9のゲート部40Aにおいても、製造過程において、第4窒化物半導体層54の表層部のNとゲート電極42の第1金属膜51のTiとが反応して、第1金属膜51における第4窒化物半導体層54側の表層部にTiNが形成される。このため、第1金属膜51は、窒化物半導体ゲート層41側の表層部のTiNからなる第1領域51Aと、第1領域51A以外のTiからなる第2領域51Bとを有する。
【0090】
図9のゲート部40Aでは、第1金属膜51は主としてTiから構成されているが、第1金属膜51は、TiNから構成されていてもよい。第1金属膜51がTiNから構成される場合、第1金属膜51のTi/N組成比は、第2金属膜52のTi/N組成比よりも大きいことが好ましい。例えば、第2金属膜52のTi/N組成比は1程度であり、第1金属膜51のTi/N組成比は2程度である。
【0091】
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明は、さらに他の実施形態で実施することもできる。例えば、前述の実施形態では、基板2の材料例としてシリコンを例示したが、ほかにも、サファイア基板やGaN基板などの任意の基板材料を適用できる。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0092】
1,101 窒化物半導体装置
2 基板
3 バッファ層
4 第1窒化物半導体層
5 第2窒化物半導体層
6 パッシベーション膜
7 ソースコンタクトホール
8 ドレインコンタクトホール
9 ソース電極
10 ドレイン電極
11 二次元電子ガス(2DEG)
20,20A,40,40Aゲート部
20a ゲート開口部
21 の窒化物半導体ゲート層
21a 窒化物半導体ゲート層よりもホール濃度の低いp型もしくはn型GaN領域
22 誘電体膜
23 ゲート電極
31 第1金属膜
31A 第1領域
31B 第2領域
32 第2金属膜
33 第3窒化物半導体層
34 第4窒化物半導体層
41 の窒化物半導体ゲート層
41a 窒化物半導体ゲート層よりもホール濃度の低いp型もしくはn型GaN領域
42 ゲート電極
43 絶縁膜
44 サイドウォール
51 第1金属膜
51A 第1領域
51B 第2領域
52 第2金属膜
53 第3窒化物半導体層
54 第4窒化物半導体層
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図3I
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図8H
図8I
図8J
図9