(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】多元系極性基含有オレフィン共重合体
(51)【国際特許分類】
C08F 210/00 20060101AFI20221114BHJP
C08F 220/00 20060101ALI20221114BHJP
C08F 232/00 20060101ALI20221114BHJP
C08F 4/70 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
C08F210/00
C08F220/00
C08F232/00
C08F4/70
(21)【出願番号】P 2018235881
(22)【出願日】2018-12-17
【審査請求日】2021-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2017248314
(32)【優先日】2017-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 稔
(72)【発明者】
【氏名】上松 正弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳佳
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-077395(JP,A)
【文献】特表2009-530438(JP,A)
【文献】特開2007-117991(JP,A)
【文献】特開2006-328402(JP,A)
【文献】特表2009-535444(JP,A)
【文献】特表2011-504959(JP,A)
【文献】特開2016-079408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/00-246/00、301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンに由来する構造単位及び炭素数3~20のα-オレフィンに由来する構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位(A)と、
一般式(1)で表される極性基含有オレフィンモノマーに由来する構造単位(B)
を2mol%~20mol%と、
一般式(2)で表される非極性環状オレフィンに由来する構造単位(C)
を0.1mol%~20mol%と、を含むことを特徴とする多元系極性基含有オレフィン共重合体。
【化1】
[一般式(1)中、
T
1
およびT
2
は、水素原子であり、T
3
は、水素原子又はメチル基であり、
T
4は、
カルボキシル基
又はカルボン酸塩基であり、
当該カルボン酸塩基は、周期表1族、2族又は12族の金属イオンを含有するカルボン酸塩基である
。]
【化2】
[一般式(2)中、R
1~R
12は、
水素原子であり、
また、nは、0又は
1である。]
【請求項2】
ゲルパーミエイションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が1.5以上4.0以下である、請求項
1に記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体。
【請求項3】
示差走査熱量測定により観測される融点(Tm、℃)と、前記構造単位(B)及び前記構造単位(C)の合計の含有量[Z](mol%)とが下記の式(I)を満たす、請求項1
又は2に記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体。
50<Tm<-3.74×[Z]+130・・・(I)
【請求項4】
回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G
*=0.1MPaにおける位相角δが、50度~75度である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体。
【請求項5】
13C-NMRにより算出されるメチル分岐数が、炭素1,000個当たり5個以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体。
【請求項6】
前記構造単位(A)を70.000mol%~96.980mol%含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体を製造する方法であって、周期表第10族の遷移金属を含む
構造式(c)で表される遷移金属触媒を用いて製造される
、多元系極性基含有オレフィン共重合体
の製造方法。
【化3】
[構造式(c)中、
Mは、周期表の第10族の遷移金属を表す。
X
1
は、酸素、硫黄、-SO
3
-、又は-CO
2
-を表す。
Y
1
は、炭素又はケイ素を表す。
nは、0又は1の整数を表す。
E
1
は、リン、砒素又はアンチモンを表す。
R
53
及びR
54
は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を表す。
R
55
は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、又は炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を表す。
R
58
、R
59
、R
60
及びR
61
は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基、OR
52
、CO
2
R
52
、CO
2
M’、C(O)N(R
51
)
2
、C(O)R
52
、SR
52
、SO
2
R
52
、SOR
52
、OSO
2
R
52
、P(O)(OR
52
)
2-y
(R
51
)
y
、CN、NHR
52
、N(R
52
)
2
、Si(OR
51
)
3-x
(R
51
)
x
、OSi(OR
51
)
3-x
(R
51
)
x
、NO
2
、SO
3
M’、PO
3
M’
2
、P(O)(OR
52
)
2
M’又はエポキシ含有基を表す。
R
51
は、水素又は炭素数1ないし20の炭化水素基を表す。
R
52
は、炭素数1ないし20の炭化水素基を表す。
M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウム又はフォスフォニウムを表し、xは、0から3までの整数、yは、0から2までの整数を表す。
R
58
、R
59
、R
60
及びR
61
から適宜選択された複数の基が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、又は酸素、窒素、若しくは硫黄から選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。この時、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
L
1
は、Mに配位したリガンドを表す。
R
53
とL
1
が互いに結合して環を形成してもよい。]
【請求項8】
前記周期表第10族の遷移金属がニッケル又はパラジウムである、請求項
7に記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多元系極性基含有オレフィン共重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン系アイオノマーは、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体をベース樹脂とし、ナトリウムや亜鉛等の金属イオンで分子間結合した樹脂である。強靭で弾性に富み、かつ柔軟性があり、耐摩耗性、及び透明性等の特徴がある(特許文献1)。市販されているアイオノマーは、Dupont社が開発したエチレン-メタクリル酸共重合のナトリウムや亜鉛塩「Surlyn(登録商標)」、及び、三井・デュポンポリケム社が販売している「ハイミラン(登録商標)等が知られている。
【0003】
この従来公知のエチレン系アイオノマーに用いられるエチレン-不飽和カルボン酸共重合体としては、具体的にはエチレンと(メタ)アクリル酸等の極性基含有モノマーを、高圧ラジカル重合法により重合した極性基含有オレフィン共重合体が用いられている。しかしながら、高圧ラジカル重合法で製造される極性基含有オレフィン共重合体の分子構造は、多くの長鎖分岐及び短鎖分岐を不規則に有する構造であり、強度的には不十分であるという欠点がある。
【0004】
一方、エチレン系アイオノマーのベース樹脂となる極性基含有オレフィン共重合体の他の製造方法として、後周期遷移金属触媒を用い、エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合体を製造し、得られた極性基含有オレフィン共重合体を熱または酸処理を行うことでエチレンーアクリル酸共重合体に変性した後、金属イオンと反応させエチレン系アイオノマーを製造したことが報告されている(特許文献2)。
遷移金属触媒を用いて製造される極性基含有オレフィン共重合体をベース樹脂としているため、熱的物性、及び機械強度等に優れるアイオノマーが得られているが、当該アイオノマーは、結晶化度が高いため透明性が低いことが問題となっている。
特許文献2の実施例に記載されたエチレン-アクリル酸共重合体をベース樹脂としたエチレン系アイオノマーでは、結晶化度により透明性を制御可能であるが、結晶化度と剛性がトレードオフの関係にあるため、当該エチレン系アイオノマーの透明性を上げるためにその結晶化度を下げると、その剛性が低下し、当該エチレン系アイオノマーの透明性、剛性、及び靱性のバランスをとることが困難であることが課題となっている。
【0005】
また、剛性の高いアイオノマーの製造方法として、エチレン-環状オレフィン共重合体(COC)に無水マレイン酸をグラフト変性させた後、金属イオンと反応させエチレン系アイオノマーを製造した報告もされている(特許文献3)。
しかしながら、グラフト変性によって多量の無水マレイン酸を有する共重合体を製造することは極めて困難であるため、共重合体中の酸含量が少ないという欠点がある。実際に特許文献3の実施例に記載された共重合体の無水マレイン酸含量は0.7~1.4wt%(0.5~1mol%)程度である。そのため、グラフト変性共重合体をベース樹脂としたエチレン系アイオノマーは、共重合体の極性部位が少ない為、接着性が劣るものとなる。
また当該エチレン系アイオノマーは、金属イオンとの反応点が少ないため、アイオノマーとして期待される靭性や弾性が十分に発現しないと考えられる。
さらに、特許文献3の実施例で用いられるエチレン系アイオノマーのベース樹脂は、環状オレフィンを21~35mol%も含有しているため、ガラス転移点(Tg)が高く硬すぎるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第3264272号明細書
【文献】特開2016-79408号公報
【文献】国際公開第2009/123138号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願は、かかる従来技術の状況に鑑み、透明性、剛性、及び、靱性のバランスに優れる多元系極性基含有オレフィン共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体は、エチレンに由来する構造単位及び炭素数3~20のα-オレフィンに由来する構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位(A)と、
一般式(1)で表される極性基含有オレフィンモノマーに由来する構造単位(B)と、
一般式(2)で表される非極性環状オレフィンに由来する構造単位(C)と、を含むことを特徴とする。
【0009】
【0010】
[一般式(1)中、T1~T3はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~18の炭素骨格を有するシリル基、炭素数1~20のアルコキシ基、ハロゲン、及び、シアノ基からなる群より選択される置換基であり、
T4は、
炭素数2~30のエステル基、カルボキシル基、カルボン酸塩基、
炭素骨格の一部がエステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の置換基で置換された炭素数2~30のアルコキシカルボニル基、
炭素骨格の一部がエステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の置換基で置換された炭素数2~20の炭化水素基、
炭素骨格の一部がエステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の置換基で置換された炭素数1~20のアルコキシ基、
炭素骨格の一部がエステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の置換基で置換された炭素数2~20のアシルオキシ基、
炭素骨格の一部がエステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の置換基で置換された炭素数1~12の置換アミノ基、並びに、
炭素骨格の一部がエステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の置換基で置換された炭素数1~18の置換シリル基からなる群より選択される置換基であり、
当該カルボン酸塩基は、周期表1族、2族又は12族の金属イオンを含有するカルボン酸塩基である。
また、T1、T2、T3及びT4は、互いに結合して環を形成していてもよい。]
【0011】
【0012】
[一般式(2)中、R1~R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~20の炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
R9及びR10、並びに、R11及びR12は、各々一体化して2価の有機基を形成してもよく、R9又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、nが2以上の場合には、R5~R8は、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【0013】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、前記T4が、炭素数2~30のエステル基、カルボキシル基、カルボン酸塩基、
炭素骨格の一部がエステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の置換基で置換された炭素数2~30のアルコキシカルボニル基、並びに、
炭素骨格の一部がエステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の置換基で置換された炭素数2~20の炭化水素基、
からなる群より選択される置換基であってもよい。
【0014】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、前記T4が炭素数2~30のエステル基、カルボキシル基又はカルボン酸塩基であってもよい。
【0015】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、前記T4がカルボキシル基又はカルボン酸塩基であってもよい。
【0016】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、前記T1及び前記T2が水素原子であり、前記T3が水素原子又はメチル基であってもよい。
【0017】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、前記非極性環状オレフィンに由来する構造単位(C)が0.1mol%~20mol%含まれていてもよい。
【0018】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、前記極性基含有オレフィンモノマーに由来する構造単位(B)が2mol%~20mol%含まれていてもよい。
【0019】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が1.5以上4.0以下であってもよい。
【0020】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、示差走査熱量測定により観測される融点(Tm、℃)と、前記構造単位(B)及び前記構造単位(C)の合計の含有量[Z](mol%)とが下記の式(I)を満たしてもよい。
50<Tm<-3.74×[Z]+130・・・(I)
【0021】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G*=0.1MPaにおける位相角δが、50度~75度であってもよい。
【0022】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、13C-NMRにより算出されるメチル分岐数が、炭素1,000個当たり5個以下であってもよい。
【0023】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体は、周期表第10族の遷移金属を含む遷移金属触媒を用いて製造されたものであってもよい。
【0024】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、前記周期表第10族の遷移金属がニッケル又はパラジウムであってもよい。
【発明の効果】
【0025】
第三成分として、一般式(2)の非極性環状オレフィンを含む本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体は、エチレン-アクリル酸共重合体などの二元系重合体と比べ、透明性、剛性、及び、靱性のバランスが優れる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施例4~15、及び、比較例6~12のベース樹脂又はアイオノマーの中和度と結晶化度との関係を示す図である。
【
図2】実施例4~15、及び、比較例6~12のベース樹脂又はアイオノマーの引張弾性率(剛性)と引張衝撃強度(靱性)との関係(バランス)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体は、エチレンに由来する構造単位及び炭素数3~20のα-オレフィンに由来する構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位(A)と、
一般式(1)で表される極性基含有オレフィンモノマーに由来する構造単位(B)と、
一般式(2)で表される非極性環状オレフィンに由来する構造単位(C)と、を含むことを特徴とする。
【0028】
以下、本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体及びその用途などについて、項目毎に詳細に説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。また、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。また、本明細書において、多元系極性基含有オレフィン共重合体とは、少なくとも一種の構造単位(A)と、少なくとも一種の構造単位(B)と、少なくとも一種の構造単位(C)とを含む、三元系以上の共重合体を意味する。
【0029】
(1)構造単位(A)
構造単位(A)はエチレンに由来する構造単位及び炭素数3~20のα-オレフィンに由来する構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位である。
本発明に関わるα-オレフィンは構造式:CH2=CHR18で表される、炭素数3~20のα-オレフィンである(R18は炭素数1~18の炭化水素基であり、直鎖構造であっても分岐を有していてもよい)。α-オレフィンの炭素数は、より好ましくは、3~12である。
構造単位(A)の具体例として、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン、及び4-メチル-1-ペンテン等が挙げられ、エチレンであってもよい。
また、構造単位(A)は、一種類であってもよいし、複数種であってもよい。
二種の組み合わせとしては、エチレン-プロピレン、エチレン-1-ブテン、エチレン-1-ヘキセン、エチレン-1-オクテン、プロピレン-1-ブテン、プロピレン-1-ヘキセン、及びプロピレン-1-オクテン等が挙げられる。
三種の組み合わせとしては、エチレン-プロピレン-1-ブテン、エチレン-プロピレン-1-ヘキセン、エチレン-プロピレン-1-オクテン、プロピレン-1-ブテン-ヘキセン、及びプロピレン-1-ブテン-1-オクテン等が挙げられる。
本発明においては、構造単位(A)としては、好ましくは、エチレンを必須で含み、必要に応じて1種以上の炭素数3~20のα-オレフィンをさらに含んでも良い。
構造単位(A)中のエチレンは、構造単位(A)の全molに対して、65~100mol%であってもよく、70~100mol%であってもよい。
【0030】
(2)構造単位(B)
構造単位(B)は、一般式(1)で表される極性基含有オレフィンモノマーに由来する構造単位である。
【0031】
【0032】
[一般式(1)中、T1~T3はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~18の炭素骨格を有するシリル基、炭素数1~20のアルコキシ基、ハロゲン、及び、シアノ基からなる群より選択される置換基であり、
T4は、
炭素数2~30のエステル基(-COOR40)、カルボキシル基(-COOH)、カルボン酸塩基(-COOM:Mは周期表の第1族、第2族及び第12族からなる群より選ばれる族の一価又は二価の金属イオンである)、
炭素骨格の一部がエステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の置換基で置換された炭素数2~30のアルコキシカルボニル基(-COOR41)、
炭素骨格の一部がエステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の置換基で置換された炭素数2~20の炭化水素基(R42-)、
炭素骨格の一部がエステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の置換基で置換された炭素数1~20のアルコキシ基(R43O-)、
炭素骨格の一部がエステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の置換基で置換された炭素数2~20のアシルオキシ基(R44COO-)、
炭素骨格の一部がエステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の置換基で置換された炭素数1~12の置換アミノ基((R45)2N-:2種のR45は、それぞれ独立して炭素数1~6の官能基であってもよく、当該官能基は同じ炭素骨格を有していてもよく、異なっていてもよく、いずれか一方が水素原子であってもよい)、並びに、
炭素骨格の一部がエステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の置換基で置換された炭素数1~18の置換シリル基((R46)3Si-:3種のR46は、それぞれ独立して炭素数1~6の官能基であってもよく、当該官能基は同じ炭素骨格を有していてもよく、異なっていてもよい)からなる群より選択される置換基であり、
当該カルボン酸塩基は、周期表1族、2族又は12族の金属イオンを含有するカルボン酸塩基である。
また、T1、T2、T3及びT4は、互いに結合して環を形成していてもよい。]
【0033】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、前記T4が、
炭素数2~30のエステル基、カルボキシル基、カルボン酸塩基、
炭素骨格の一部がエステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の置換基で置換された炭素数2~30のアルコキシカルボニル基、並びに、
炭素骨格の一部がエステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種の置換基で置換された炭素数2~20の炭化水素基、からなる群より選択される置換基であってもよく、
特に炭素数2~30のエステル基、カルボキシル基又はカルボン酸塩基であってもよく、さらにカルボキシル基又はカルボン酸塩基であってもよい。
また、T1及びT2が水素原子であり、T3が水素原子又はメチル基であってもよい。
本発明においては、上記一般式(1)においてT4の置換基がカルボン酸塩基である状態を含むものが、後述する本発明におけるアイオノマーである。
【0034】
T1~T3に関する炭化水素基、アルコキシ基、及び、シリル基が有する炭素骨格は、分岐、環、及び/又は不飽和結合を有してもよい。
T1~T3に関する炭化水素基(R47-)の炭素数は、下限値が1以上であればよく、上限値は20以下であればよく、10以下であってもよい。
T1~T3に関するアルコキシ基(R48O-)の炭素数は、下限値が1以上であればよく、上限値は20以下であればよく、10以下であってもよい。
T1~T3に関するシリル基の炭素数は、下限値が1以上であればよく、3以上であってもよく、上限値は18以下であればよく、12以下であってもよい。シリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリn-プロピルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、メチルジフェニルシリル基、及びトリフェニルシリル基等が挙げられる。
【0035】
T4に関するアルコキシカルボニル基、炭化水素基、アルコキシ基、アシルオキシ基、置換アミノ基、並びに、置換シリル基が有する炭素骨格は、エステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有している。
T4に関するエステル基、アルコキシカルボニル基、炭化水素基、アルコキシ基、アシルオキシ基、置換アミノ基、並びに、置換シリル基が有する炭素骨格は、分岐、環、及び/又は不飽和結合を有してもよい。
T4に関するエステル基(-COOR40)の炭素数は、当該エステル基中のカルボニル基の炭素を含めて、下限値が2以上であればよく、上限値は30以下であればよく、29以下であってもよく、28以下であってもよく、20以下であってもよく、19以下であってもよく、18以下であってもよく、12以下であってもよく、11以下であってもよく、10以下であってもよく、9以下であってもよく、8以下であってもよい。
T4に関するアルコキシカルボニル基(-COOR41)の炭素数は、当該アルコキシカルボニル基中のカルボニル基の炭素を含めて、下限値が2以上であればよく、上限値は30以下であればよく、20以下であってもよい。アルコキシカルボニル基の炭素骨格の一部がエステル基で置換されている場合の当該エステル基の炭素数は、アルコキシカルボニル基の炭素数の上気した上限を超えない範囲であれば特に限定されない。
T4に関する炭化水素基(R42-)の炭素数は、下限値が2以上であればよく、上限値は20以下であればよく、10以下であってもよい。炭化水素基の炭素骨格の一部がエステル基で置換されている場合の当該エステル基の炭素数は、炭化水素基の炭素数の上記した上限を超えない範囲であれば特に限定されない。
T4に関するアルコキシ基(R43O-)の炭素数は、下限値が1以上であればよく、上限値は20以下であればよく、10以下であってもよい。アルコキシ基の炭素骨格の一部がエステル基で置換されている場合の当該エステル基の炭素数は、アルコキシ基の炭素数の上記した上限を超えない範囲であれば特に限定されない。
T4に関するアシルオキシ基(R44COO-)の炭素数は、当該アシルオキシ基中のカルボニル基の炭素を含めて、下限値が2以上であればよく、上限値は20以下であればよく、10以下であってもよい。アシルオキシ基の炭素骨格の一部がエステル基で置換されている場合の当該エステル基の炭素数は、アシルオキシ基の炭素数の上記した上限を超えない範囲であれば特に限定されない。
T4に関する置換アミノ基の炭素数は、下限値が1以上であればよく、2以上であってもよく、上限値は12以下であればよく、9以下であってもよい。置換アミノ基の炭素骨格の一部がエステル基で置換されている場合の当該エステル基の炭素数は、置換アミノ基の炭素数の上記した上限を超えない範囲であれば特に限定されない。置換アミノ基((R45)2N-)において、2種のR45は、それぞれ独立して炭素数1~6の置換基であってもよく、当該置換基は同じ炭素骨格を有していてもよく、異なっていてもよく、いずれか一方が水素原子であってもよい。上記エステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる置換基と置換する前のアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ-n-プロピルアミノ基、及びシクロヘキシルアミノ基等を挙げることができる。
T4に関する置換シリル基の炭素数は、下限値が1以上であればよく、3以上であってもよく、上限値は18以下であればよく、12以下であってもよい。置換シリル基の炭素骨格の一部がエステル基で置換されている場合の当該エステル基の炭素数は、置換シリル基の炭素数の上記した上限を超えない範囲であれば特に限定されない。置換シリル基((R46)3Si-)において、3種のR46は、それぞれ独立して炭素数1~6の置換基であってもよく、当該置換基は同じ炭素骨格を有していてもよく、異なっていてもよく、いずれか1種以上のR46が炭素数1~6の置換基を有していれば、その他のR46は水素原子であってもよい。上記エステル基、カルボキシル基及びカルボン酸塩基からなる群より選ばれる置換基と置換する前のシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリn-プロピルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、メチルジフェニルシリル基、及びトリフェニルシリル基等が挙げられる。
【0036】
極性基含有オレフィンモノマーとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
本発明に関わる(メタ)アクリル酸エステルは、構造式:CH2=C(R21)CO2(R22)で表される化合物である。ここで、R21は、水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であり、分岐、環、及び/又は不飽和結合を有してもよい。R22は、炭素数1~30の炭化水素基であり、分岐、環、及び/又は不飽和結合を有してもよい。さらに、R22内の任意の位置にヘテロ原子を含有してもよい。
(メタ)アクリル酸エステルとして、R21は、水素原子または炭素数1~5の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。また、R21が水素原子であるアクリル酸エステル又はR21がメチル基であるメタクリル酸エステルが挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル(4-HBAGE)、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸エチレンオキサイド、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル、(メタ)アクリル酸-2-トリフルオロメチルエチル、及び(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル等が挙げられる。
具体的な化合物として、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル(tBA)、(4-ヒドロキシブチル)アクリレートグリシジルエーテル、及びメタクリル酸t-ブチル等が挙げられ、特にアクリル酸t-ブチルであってもよい。
なお、極性基含有オレフィンモノマーは、単独の(メタ)アクリル酸エステルを使用してもよいし、複数の(メタ)アクリル酸エステルを併用してもよい。
【0037】
カルボン酸塩基の金属イオン(M)としては、周期表の第1族、第2族及び第12族からなる群より選ばれる族の一価又は二価の金属イオンが挙げられ、具体的には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、及び、亜鉛(Zn)のイオン等が挙げられ、取扱い易さの観点から、特にナトリウム(Na)、又は、亜鉛(Zn)のイオンであってもよい。
カルボン酸塩基は、例えば、共重合体のエステル基を加水分解若しくは加熱分解させた後、又は、加水分解若しくは加熱分解させながら、周期表1族、2族、又は12族の金属イオンを含有する化合物と反応させることで、共重合体中のエステル基部分を金属含有カルボン酸塩に変換することで得られる。
【0038】
(3)構造単位(C)
構造単位(C)は一般式(2)で表される非極性環状オレフィンに由来する構造単位である。
【0039】
【0040】
[一般式(2)中、R1~R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~20の炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
R9及びR10、並びに、R11及びR12は、各々一体化して2価の有機基を形成してもよく、R9又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、nが2以上の場合には、R5~R8は、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【0041】
非極性環状オレフィンとしては、ノルボルネン系オレフィン等が挙げられ、ノルボルネン、ビニルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ノルボルナジエン、テトラシクロドデセン、トリシクロ[4.3.0.12,5]、トリシクロ[4.3.0.12,5]デク-3-エン、などの環状オレフィンの骨格を有する化合物等が挙げられ、2-ノルボルネン(NB)、及び、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン等であってもよい。
【0042】
(4)多元系極性基含有オレフィン共重合体
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体は、エチレンに由来する構造単位及び炭素数3~20のα-オレフィンに由来する構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位(A)と、一般式(1)で表される極性基含有オレフィンモノマーに由来する構造単位(B)と、一般式(2)で表される非極性環状オレフィンに由来する構造単位(C)と、を含むことを特徴とする。
【0043】
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体は、構造単位(A)、構造単位(B)、及び構造単位(C)をそれぞれ1種類以上含有し、合計3種以上のモノマー単位を含むことが必要である。
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体の構造単位と構造単位量について説明する。
エチレン及び/又は炭素数3~20のα-オレフィン(A)、極性基含有オレフィンモノマー(B)、および非極性環状オレフィン(C)それぞれ1分子に由来する構造を、多元系極性基含有オレフィン共重合体中の1構造単位と定義する。
そして、多元系極性基含有オレフィン共重合体中の構造単位全体を100mol%とした時に各構造単位の比率をmol%で表したものが構造単位量である。
【0044】
・エチレン及び/又は炭素数3~20のα-オレフィン(A)の構造単位量:
本発明に関わる構造単位(A)の構造単位量は、下限が60.000mol%以上、好ましくは70.000mol%以上、より好ましくは80.000mol%以上、さらに好ましくは85.000mol%以上、さらにより好ましくは87.000mol%以上、特に好ましくは91.400mol%以上であり、上限が97.999mol%以下、好ましくは97.990mol%以下、より好ましくは97.980mol%以下、さらに好ましくは96.980mol%以下、さらにより好ましくは96.900mol%以下、特に好ましくは94.300mol%以下から選択される。
エチレン及び/又は炭素数3~20のα-オレフィン(A)に由来する構造単位量が60.000mol%よりも少なければ多元系極性基含有オレフィン共重合体の靱性が劣り、97.999mol%よりも多ければ多元系極性基含有オレフィン共重合体の結晶化度が高くなり、透明性が悪くなる。
【0045】
・極性基含有オレフィンモノマー(B)の構造単位量:
本発明に関わる構造単位(B)の構造単位量は、下限が2.0mol%以上、好ましくは2.9mol%以上であり、上限が20.0mol%以下、好ましくは15.0mol%以下、より好ましくは10.0mol%以下、さらに好ましくは8.0mol%以下、特に好ましくは6.1mol%以下から選択される。
極性基含有オレフィンモノマー(B)に由来する構造単位量が2.0mol%よりも少なければ、多元系極性基含有オレフィン共重合体の極性の高い異種材料との接着性が充分ではなく、20.0mol%より多ければ多元系極性基含有オレフィン共重合体の充分な機械物性が得られない。
更に、用いられる極性基含有オレフィンモノマーは単独でも良く、2種類以上を合わせて用いても良い。
【0046】
・非極性環状オレフィン(C)の構造単位量:
本発明に関わる構造単位(C)の構造単位量は、下限が0.001mol%以上、好ましくは0.010mol%以上、より好ましくは0.020mol%以上、さらに好ましくは0.100mol%以上、特に好ましくは1.200mol%以上であり、上限が20.000mol%以下、好ましくは15.000mol%以下、より好ましくは10.000mol%以下、さらに好ましくは5.000mol%以下、特に好ましくは2.900mol%以下から選択される。
非極性環状オレフィン(C)に由来する構造単位量が0.001mol%よりも少なければ、多元系極性基含有オレフィン共重合体の剛性が充分ではなく、20.000mol%より多ければ多元系極性基含有オレフィン共重合体の剛性と靱性のバランスがわるくなる。
更に、用いられる非極性環状オレフィンは単独でも良く、2種類以上を合わせて用いても良い。
【0047】
・多元系極性基含有オレフィン共重合体中の極性基含有モノマーの構造単位量の測定方法:
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体中のコモノマーの定量には、13C-NMRを用いる。13C-NMRの測定条件は試料の温度120℃、パルス角を90°、パルス間隔を51.5秒、積算回数を512回以上、逆ゲートデカップリング法で測定をする。
化学シフトはヘキサメチルジシロキサンの13Cシグナルを1.98ppmに設定し、他の13Cによるシグナルの化学シフトはこれを基準とする。
【0048】
<E/tBA>
tBAのt-ブチルアクリレート基の四級炭素シグナルは、13C-NMRスペクトルの79.6~78.8に検出する。これらのシグナル強度を用い、以下の式からコモノマー量を算出する。
tBA総量(mol%)=I(tBA)×100/〔I(tBA)+I(E)〕
ここで、I(tBA)、I(E)はそれぞれ、以下の式で示される量である。
I(tBA)=I79.6~78.8
I(E)=(I180.0~135.0+I120.0~2.0-I(tBA)×7)/2
【0049】
<E/tBA/NB>
tBAのt-ブチルアクリレート基の四級炭素シグナルは、13C-NMRスペクトルの79.6~78.8、ノルボルネン(NB)のメチン炭素シグナルは、41.9~41.1ppmに検出する。これらのシグナル強度を用い、以下の式からコモノマー量を算出する。
tBA総量(mol%)=I(tBA)×100/〔I(tBA)+I(NB)+I(E)〕
NB総量(mol%)=I(NB)×100/〔I(tBA)+I(NB)+I(E)〕
ここで、I(tBA)、I(NB)、I(E)はそれぞれ、以下の式で示される量である。
I(tBA)=I79.6~78.8
I(NB)=I41.9~41.1/2
I(E)=(I180.0~135.0+I120.0~2.0-I(NB)×7-I(tBA)×7)/2
【0050】
<E/tBA/TCD>
tBAのt-ブチルアクリレート基の四級炭素シグナルは、13C-NMRスペクトルの79.6~78.8ppm、テトラシクロドデセン(TCD)のメチレンとメチンシグナルは45.0~38.0と37.3~34.5ppmに検出する。これらのシグナル強度を用い、以下の式からコモノマー量を算出する。
tBA総量(mol%)=I(tBA)×100/〔I(tBA)+I(TCD)+I(E)〕
TCD総量(mol%)=I(TCD)×100/〔I(tBA)+I(TCD)+I(E)〕
ここで、I(tBA)、I(TCD)、I(E)はそれぞれ、以下の式で示される量である。
I(tBA)=I79.6~78.8
I(TCD)=(I45.0~38.0+I37.3~34.5)/6
I(E)=(I180.0~135.0+I120.0~2.0-I(TCD)×12-I(tBA)×7)/2
Iは積分強度を、Iの下つき添字の数値は化学シフトの範囲を示す。例えばI180.0~135.0は180.0pmと135.0ppmの間に検出した炭素シグナルの積分強度を示す。
【0051】
・炭素1,000個当たりのメチル分岐数:
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、13C-NMRにより算出されるメチル分岐数が、炭素1,000個当たり、上限が5個以下であってもよく、0.8個以下であってもよく、下限は、特に限定されず、少なければ少ないほどよい。
メチル分岐数の定量には、13C-NMRを用いる。13C-NMRの測定条件は試料の温度120℃、パルス角を90°、パルス間隔を51.5秒、積算回数を512回以上、逆ゲートデカップリング法で測定をする。
化学シフトはヘキサメチルジシロキサンの13Cシグナルを1.98ppmに設定し、他の13Cによるシグナルの化学シフトはこれを基準とする。
【0052】
・重量平均分子量(Mw)と分子量分布(Mw/Mn):
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体の重量平均分子量(Mw)は、下限が通常1,000以上であり、好ましくは6,000以上であり、上限が通常2,000,000以下であり、好ましくは1,500,000以下であり、更に好ましくは1,000,000以下であり、特に好適なのは800,000以下であり、最も好ましくは39,000以下である。
Mwが1,000未満では多元系極性基含有オレフィン共重合体の機械的強度や耐衝撃性などの物性が充分ではなく、Mwが2,000,000を超えると多元系極性基含有オレフィン共重合体の溶融粘度が非常に高くなり、多元系極性基含有オレフィン共重合体の成形加工が困難となる。
【0053】
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、通常1.5~4.0、好ましくは1.6~3.3、更に好ましくは1.6~2.3の範囲である。Mw/Mnが1.5未満では多元系極性基含有オレフィン共重合体の成形を始めとして各種加工性が充分でなく、4.0を超えると多元系極性基含有オレフィン共重合体の機械物性が劣るものとなる。
また、本発明においては(Mw/Mn)を分子量分布パラメーターと表現することがある。
【0054】
本発明に関わる重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)はゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)によって求められる。また、分子量分布パラメーター(Mw/Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)によって、更に数平均分子量(Mn)を求め、MwとMnの比、Mw/Mnを算出するものである。
【0055】
本発明に関わるGPCの測定方法の一例は以下の通りである。
(測定条件)
使用機種:ウォーターズ社製150C
検出器:FOXBORO社製MIRAN1A・IR検出器(測定波長:3.42μm)
測定温度:140℃
溶媒:オルトジクロロベンゼン(ODCB)
カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
流速:1.0mL/分
注入量:0.2mL
(試料の調製)
試料はODCB(0.5mg/mLのBHT(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール)を含む)を用いて1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して溶解させる。
(分子量(M)の算出)
標準ポリスチレン法により行い、保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー社製の、(F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000)の銘柄である。各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。分子量(M)への換算に使用する粘度式[η]=K×Mαは以下の数値を用いる。
ポリスチレン(PS):K=1.38×10-4、α=0.7
ポリエチレン(PE):K=3.92×10-4、α=0.733
ポリプロピレン(PP):K=1.03×10-4、α=0.78
【0056】
・融点(℃):
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、示差走査熱量測定(DSC)により観測される融点(Tm、℃)と、前記構造単位(B)及び前記構造単位(C)の合計の含有量[Z](mol%)とが下記の式(I)を満たしてもよい。
50<Tm<-3.74×[Z]+130・・・(I)
多元系極性基含有オレフィン共重合体の機械的物性に影響を与える因子として、多元系極性基含有オレフィン共重合体の構造単位(B)及び構造単位(C)の合計の含有量[Z]の他に、多元系極性基含有オレフィン共重合体の融点が大きく影響し、当該融点が低い方が、多元系極性基含有オレフィン共重合体が高い機械的物性を示す事を見い出した。
しかしながら、本研究者らが検討した結果、例えば構造単位(A)としてエチレンと構造単位(B)との2元系共重合体の場合、共重合体の融点は構造単位(B)の含有量に依存し、-3.74×[Z]+130(℃)よりも低くすることは極めて困難であり、機械的物性の向上に限界があった。
そのため、本発明に関わる共重合体の融点が-3.74×[Z]+130(℃)を超える場合、機械的物性の向上が見込めず充分な機械的物性が発現しにくい。また、融点が50℃未満では、エチレン系共重合体として最低限必要な耐熱性が保持しにくい。
融点は、例えば、セイコー電子工業株式会社製「EXSTAR6000」を使用し、40℃で1分等温、10℃/分で40℃から160℃までの昇温、160℃で10分等温、10℃/分で160℃から10℃まで降温、10℃で5分等温後、10℃/分で10℃から160℃までの昇温時の測定により求めることができる。
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体の融点Tmは、上記式(I)の関係を満たせば特に限定されないが、ポリエチレンを想定した場合、融点は50℃超140℃以下であることが好ましく、60℃~138℃であることが更に好ましく、70℃~135℃が最も好ましい。融点が50℃以下であると多元系極性基含有オレフィン共重合体の耐熱性が充分ではなく、融点が140度よりも高い場合は多元系極性基含有オレフィン共重合体の耐衝撃性が劣るものとなる。
【0057】
・結晶化度(%):
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、示差走査熱量測定(DSC)により観測される結晶化度は、特に限定されないが、0%を超え、30%以下であることが好ましく、0%を超え、25%以下であることが更に好ましく、5%を超え、25%以下であることが特に好ましく、7%以上、24%以下であることが最も好ましい。
結晶化度が、0%であると多元系極性基含有オレフィン共重合体の靱性が充分ではなく、結晶化度が、30%より高い場合は多元系極性基含有オレフィン共重合体の透明性が劣るものとなる。なお、結晶化度は透明性の指標となり、多元系極性基含有オレフィン共重合体の結晶化度が低くなればなるほど、その透明性が優れると判断することができる。
結晶化度は、例えば、セイコー電子工業株式会社製「EXSTAR6000」を使用し、室温から160℃まで昇温した際に得られる融解吸熱ピーク面積から融解熱(ΔH)を求め、その融解熱を高密度ポリエチレン(HDPE)の完全結晶の融解熱293J/gで除することにより求めることができる。
【0058】
・多元系極性基含有オレフィン共重合体の分子構造:
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体は、構造単位(A)、構造単位(B)、及び構造単位(C)のランダム共重合体、ブロック共重合体、並びにグラフト共重合体等が挙げられる。これらの中では、極性基を多く含むことが可能なランダム共重合体であってもよい。
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体の分子鎖末端は、構造単位(A)、構造単位(B)、又は構造単位(C)のいずれであっても良い。
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体は、その分子構造を直鎖状とする観点から、遷移金属触媒の存在下で製造されたものであってもよい。
なお、高圧ラジカル重合法プロセスによる重合、金属触媒を用いた重合など、製造方法によって多元系極性基含有オレフィン共重合体の分子構造は異なることが知られている。
この分子構造の違いは製造方法を選択する事によって制御が可能であるが、例えば、特許公報「特開2010-150532号公報」に記載されている様に、回転式レオメータで測定した複素弾性率によっても、その分子構造を推定する事ができる。
【0059】
・複素弾性率の絶対値G*=0.1MPaにおける位相角δ:
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G*=0.1MPaにおける位相角δが、下限が50度以上であってもよく、51度以上であってもよく、上限が75度以下であってもよく、63度以下であってもよい。
より具体的には、回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G*=0.1MPaにおける位相角δ(G*=0.1MPa)が50度以上である場合、多元系極性基含有オレフィン共重合体の分子構造は直鎖状の構造であって、長鎖分岐を全く含まない構造か、機械的強度に影響を与えない程度の少量の長鎖分岐を含む構造を示す。
また、回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G*=0.1MPaにおける位相角δ(G*=0.1MPa)が50度より低い場合、多元系極性基含有オレフィン共重合体の分子構造は長鎖分岐を過多に含む構造を示し、機械的強度が劣るものとなる。
回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G*=0.1MPaにおける位相角δは、分子量分布と長鎖分岐の両方の影響を受ける。しかし、Mw/Mn≦4、より好ましくはMw/Mn≦3である多元系極性基含有オレフィン共重合体に限れば長鎖分岐の量の指標になり、その分子構造に含まれる長鎖分岐が多いほどδ(G*=0.1MPa)値は小さくなる。なお、多元系極性基含有オレフィン共重合体のMw/Mnが1.5以上であれば、当該分子構造が長鎖分岐を含まない構造である場合でもδ(G*=0.1MPa)値が75度を上回ることはない。
【0060】
複素弾性率の測定方法は、以下の通りである。
試料を厚さ1.0mmの加熱プレス用モールドに入れ、表面温度180℃の熱プレス機中で5分間予熱後、加圧と減圧を繰り返すことで溶融樹脂中の残留気体を脱気し、更に4.9MPaで加圧し、5分間保持する。その後、試料を表面温度25℃のプレス機に移し替え、4.9MPaの圧力で3分間保持することで冷却し、厚さが約1.0mmの試料からなるプレス板を作成した。試料からなるプレス板を直径25mm円形に加工したものをサンプルとし、動的粘弾性特性の測定装置としてRheometrics社製ARES型回転式レオメータを用い、窒素雰囲気下において以下の条件で動的粘弾性を測定する。
・プレート:φ25mm パラレルプレート
・温度:160℃
・歪み量:10%
・測定角周波数範囲:1.0×10-2~1.0×102 rad/s
・測定間隔:5点/decade
複素弾性率の絶対値G*(Pa)の常用対数logG*に対して位相角δをプロットし、logG*=5.0に相当する点のδ(度)の値をδ(G*=0.1MPa)とする。測定点の中にlogG*=5.0に相当する点がないときは、logG*=5.0前後の2点を用いて、logG*=5.0におけるδ値を線形補間で求める。また、測定点がいずれもlogG*<5であるときは、logG*値が大きい方から3点の値を用いて2次曲線でlogG*=5.0におけるδ値を補外して求める。
【0061】
・赤外吸収スペクトル
共重合体を180℃にて3分間溶融し、圧縮成形して、厚さ50μm程度のフィルムを作製する。
このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析により分析して、共重合体の赤外吸収スペクトルを得る。
製品名:FT/IR-6100 日本分光株式会社製
測定手法:透過法
検出器:TGS(Triglycine sulfate)
積算回数:16~64回
分解能:4.0cm-1
測定波長:5000~500cm-1
【0062】
・多元系極性基含有オレフィン共重合体の分子構造:
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体は、ランダム共重合体であってもよい。
一般的な三元系の極性基含有オレフィン共重合体の分子構造例(1)を下記に示す。
ランダム共重合体とは、下記に示した分子構造例(1)のエチレン又は炭素数3~20のα-オレフィンの構造単位(A)と極性基含有モノマーの構造単位(B)と非極性環状オレフィンの構造単位(C)とが、ある任意の分子鎖中の位置においてそれぞれの構造単位を見出す確率が、その隣接する構造単位の種類と無関係な共重合体である。
また、極性基含有オレフィン共重合体の分子鎖末端は、エチレン又は炭素数3~20のα-オレフィンの構造単位(A)であっても良く、極性基含有モノマーの構造単位(B)であっても良く、非極性環状オレフィンの構造単位(C)であっても良い。
下記のように、極性基含有オレフィン共重合体の分子構造例(1)は、エチレン及び/又は炭素数3~20のα-オレフィンの構造単位(A)と極性基含有モノマーの構造単位(B)と非極性環状オレフィンの構造単位(C)とが、ランダム共重合体を形成している。
【0063】
【0064】
なお、グラフト変性によって極性基を導入したオレフィン共重合体の分子構造例(2)も参考に掲載すると、エチレン及び/又は炭素数3~20のα-オレフィンの構造単位(A)及び非極性環状オレフィンの構造単位(C)とが共重合されたオレフィン共重合体の一部が、極性基含有モノマーの構造単位(B)にグラフト変性される。
【0065】
【0066】
(5)多元系極性基含有オレフィン共重合体の製造について
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体は、その分子構造を直鎖状とする観点から、遷移金属触媒の存在下で製造されたものであってもよい。
【0067】
・重合触媒
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体の製造に用いる重合触媒の種類は、構造単位(A)、構造単位(B)、及び構造単位(C)を共重合することが可能なものであれば特に限定されないが、例えば、キレート性配位子を有する第5~11族の遷移金属化合物が挙げられる。
好ましい遷移金属の具体例としては、バナジウム原子、ニオビウム原子、タンタル原子、クロム原子、モリブデン原子、タングステン原子、マンガン原子、鉄原子、白金原子、ルテニウム原子、コバルト原子、ロジウム原子、ニッケル原子、パラジウム原子、銅原子などが挙げられる。これらの中で好ましくは、第8~11族の遷移金属であり、さらに好ましくは第10族の遷移金属であり、特に好ましくはニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)である。これらの金属は、単一であっても複数を併用してもよい。
キレート性配位子は、P、N、O、及びSからなる群より選択される少なくとも2個の原子を有しており、二座配位(bidentate)又は多座配位(multidentate)であるリガンドを含み、電子的に中性又は陰イオン性である。Brookhartらによる総説に、キレート性配位子の構造が例示されている(Chem.Rev.,2000,100,1169)。
キレート性配位子としては、好ましくは、二座アニオン性P、O配位子が挙げられる。二座アニオン性P、O配位子として例えば、リンスルホン酸、リンカルボン酸、リンフェノール、リンエノラートが挙げられる。キレート性配位子としては、他に、二座アニオン性N、O配位子が挙げられる。二座アニオン性N、O配位子として例えば、サリチルアルドイミナ-トやピリジンカルボン酸が挙げられる。キレート性配位子としては、他に、ジイミン配位子、ジフェノキサイド配位子、及びジアミド配位子等が挙げられる。
【0068】
キレート性配位子から得られる金属錯体の構造は、置換基を有してもよいアリールホスフィン化合物、アリールアルシン化合物又はアリールアンチモン化合物が配位した下記構造式(a)又は(b)で表される。
【0069】
【0070】
【0071】
[構造式(a)、及び構造式(b)において、
Mは、元素の周期表の第5~11族のいずれかに属する遷移金属、即ち前述したような種々の遷移金属を表す。
X1は、酸素、硫黄、-SO3-、又は-CO2-を表す。
Y1は、炭素又はケイ素を表す。
nは、0又は1の整数を表す。
E1は、リン、砒素又はアンチモンを表す。
R53及びR54は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を表す。
R55は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、又は炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を表す。
R56及びR57は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基、OR52、CO2R52、CO2M’、C(O)N(R51)2、C(O)R52、SR52、SO2R52、SOR52、OSO2R52、P(O)(OR52)2-y(R51)y、CN、NHR52、N(R52)2、Si(OR51)3-x(R51)x、OSi(OR51)3-x(R51)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR52)2M’又はエポキシ含有基を表す。
R51は、水素又は炭素数1ないし20の炭化水素基を表す。
R52は、炭素数1ないし20の炭化水素基を表す。
M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウム又はフォスフォニウムを表し、xは、0から3までの整数、yは、0から2までの整数を表す。
なお、R56とR57が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、又は酸素、窒素、若しくは硫黄から選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。この時、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
L1は、Mに配位したリガンドを表す。
また、R53とL1が互いに結合して環を形成してもよい。]
より好ましくは、下記構造式(c)で表される遷移金属錯体である。
【0072】
【0073】
[構造式(c)において、
Mは、元素の周期表の第5~11族のいずれかに属する遷移金属、即ち前述したような種々の遷移金属を表す。
X1は、酸素、硫黄、-SO3-、又は-CO2-を表す。
Y1は、炭素又はケイ素を表す。
nは、0又は1の整数を表す。
E1は、リン、砒素又はアンチモンを表す。
R53及びR54は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を表す。
R55は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、又は炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を表す。
R58、R59、R60及びR61は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基、OR52、CO2R52、CO2M’、C(O)N(R51)2、C(O)R52、SR52、SO2R52、SOR52、OSO2R52、P(O)(OR52)2-y(R51)y、CN、NHR52、N(R52)2、Si(OR51)3-x(R51)x、OSi(OR51)3-x(R51)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR52)2M’又はエポキシ含有基を表す。
R51は、水素又は炭素数1ないし20の炭化水素基を表す。
R52は、炭素数1ないし20の炭化水素基を表す。
M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウム又はフォスフォニウムを表し、xは、0から3までの整数、yは、0から2までの整数を表す。
なお、R58~R61から適宜選択された複数の基が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、又は酸素、窒素、若しくは硫黄から選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。この時、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
L1は、Mに配位したリガンドを表す。
また、R53とL1が互いに結合して環を形成してもよい。]
【0074】
ここで、キレート性配位子を有する第5~11族の遷移金属化合物の触媒としては、代表的に、いわゆる、SHOP系触媒及びDrent系触媒等の触媒が知られている。
SHOP系触媒は、置換基を有してもよいアリール基を有するリン系リガンドがニッケル金属に配位した触媒である(例えば、WO2010‐050256号公報を参照)。
また、Drent系触媒は、置換基を有してもよいアリール基を有するリン系リガンドがパラジウム金属に配位した触媒である(例えば、特開2010-202647号公報を参照)。
【0075】
・有機金属化合物:
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体の製造において、極性基含有オレフィンモノマーと少量の有機金属化合物とを接触させた後、前記の遷移金属触媒の存在下、構造単位(A)、構造単位(B)、及び構造単位(C)を共重合させることにより重合活性をより高められる。
有機金属化合物は、置換基を有してもよい炭化水素基を含んだ有機金属化合物であり、下記構造式(d)で示すことができる。
R30nM30X30m-n 構造式(d)
(構造式(d)中、R30は、炭素数1~12の置換基を有してもよい炭化水素基を示し、M30は、周期表第1族、第2族、第12族及び第13族からなる群から選択される金属、X30は、ハロゲン原子または水素原子を示し、mは、M30の価数、nは、1~mである。)
【0076】
上記構造式(d)で示される有機金属化合物としては、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリ-n-ヘキシルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウム、及び、トリ-n-デシルアルミニウム等のアルキルアルミニウム類、メチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、及び、ジエチルアルミニウムエトキシド等のアルキルアルミニウムハライド類等が挙げられ、好ましくはトリアルキルアルミニウムが選択される。
有機金属化合物としては、より好ましくは炭素数が4以上の炭化水素基を有するトリアルキルアルミニウムが、さらに好ましくは炭素数が6以上の炭化水素基を有するトリアルキルアルミニウムが、より好適にはトリ-n-ヘキシルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウム、トリ-n-デシルアルミニウムが選択され、トリ-n-オクチルアルミニウムが最も好適に使用する事ができる。
有機金属化合物は、極性基含有オレフィンコモノマーに対するモル比が10-5~0.9、好ましくは10-4~0.2、更に好ましくは10-4~0.1となる量を接触させることが、重合活性やコストの観点から好ましい。
【0077】
・多元系極性基含有オレフィン共重合体の重合方法:
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体の重合方法は限定されない。
重合方法としては、媒体中で少なくとも一部の生成重合体がスラリーとなるスラリー重合、液化したモノマー自身を媒体とするバルク重合、気化したモノマー中で行う気相重合、又は、高温高圧で液化したモノマーに生成重合体の少なくとも一部が溶解する高圧イオン重合などが挙げられる。
重合形式としては、バッチ重合、セミバッチ重合、又は連続重合のいずれの形式でもよい。
また、リビング重合を行ってもよいし、連鎖移動を併発しながら重合を行ってもよい。
更に、重合の際には、いわゆるchain shuttling agent(CSA)を併用し、chain shuttling反応や、coordinative chain transfer polymerization(CCTP)を行ってもよい。
具体的な製造プロセス及び条件については、例えば、特開2010-260913号公報、及び特開2010-202647号公報等に開示されている。
【0078】
・多元系極性基含有オレフィン共重合体への極性基の導入方法:
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体への極性基の導入方法は特に限定されない。
本発明の主旨を逸脱しない範囲においては種々の方法により特定の極性基を導入することができる。
極性基の導入方法は、例えば、特定の極性基を有する極性基含有コモノマーを直接共重合する方法や、他の極性基含有コモノマーを共重合した後、変性により特定の極性基を導入する方法などが挙げられる。
変性により特定の極性基を導入する方法としては、例えばカルボン酸を導入する場合、アクリル酸t-ブチルを共重合した後、熱分解によりカルボン酸に変化させる方法等が挙げられる。
【0079】
(6)添加剤
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体には、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、従来公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、顔料、架橋剤、発泡剤、核剤、難燃剤、導電材、及び、充填材等の添加剤を配合しても良い。
【0080】
(7)アイオノマー
本発明に係るアイオノマーは、本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体中の極性基の少なくとも一部が、金属イオンにより中和された構造を有する。
すなわち、本発明においては、上記一般式(1)においてT4の置換基がカルボン酸塩基である状態を含むものが、本発明におけるアイオノマーである。
したがって、本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体がアイオノマーである場合は、上記一般式(1)においてT4の少なくとも一部は、
カルボン酸塩基、
炭素骨格の一部がカルボン酸塩基で置換された炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、
炭素骨格の一部がカルボン酸塩基で置換された炭素数2~20の炭化水素基、
炭素骨格の一部がカルボン酸塩基で置換された炭素数1~20のアルコキシ基、
炭素骨格の一部がカルボン酸塩基で置換された炭素数2~20のアシルオキシ基、
炭素骨格の一部がカルボン酸塩基で置換された炭素数1~12の置換アミノ基、及び、
炭素骨格の一部がカルボン酸塩基で置換された炭素数1~18の置換シリル基からなる群より選択される置換基であってもよい。
【0081】
・金属イオン
アイオノマーに含まれる金属イオンは、特に限定されず、従来公知のアイオノマーに用いられる金属イオンを含むことができる。金属イオンとしては、中でも、周期表1族、2族、又は12族の金属イオンであることが好ましく、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+及びZn2+からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。これらの金属イオンを必要に応じて2種以上混合して含むことができる。
【0082】
・中和度(mol%)
金属イオンの含有量としては、ベースポリマーとしての多元系極性基含有オレフィン共重合体中の極性基の少なくとも一部又は全部を中和する量を含むことが好ましく、好ましい中和度(平均中和度)としては、5~95mol%、より好ましくは10~90mol%、さらに好ましくは20~80mol%である。
中和度が高いと、アイオノマーの引張強度及び引張破壊応力が高く、引張破壊ひずみが小さくなるが、アイオノマーのメルトフローレート(MFR)が高くなる傾向がある。一方、中和度が低いと、適度なMFRのアイオノマーが得られるが、引張弾性率及び引張破壊応力は低く、引張破壊ひずみが高くなる傾向がある。
なお、中和度は、極性基含有オレフィンモノマー(極性基含有コモノマー)の含量と加えた金属イオンのモル比から計算できる。
【実施例】
【0083】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限りこれらの実施例によって制約を受けるものではない。なお、多元系極性基含有オレフィン共重合体等の物性等は、以下の方法で測定した。
【0084】
[多元系極性基含有オレフィン共重合体中の極性基含有構造単位量]
・試料の前処理
試料にカルボン酸塩基が含まれる場合は酸処理を行い、カルボン酸塩基をカルボン酸基へと変性した後、測定に用いた。
多元系極性基含有オレフィン共重合体中の極性基含有構造単位量は、13C-NMRスペクトルを用いて求めた。詳しくは前述している。
【0085】
[MFR](g/10min)
JIS K6922-2:2010に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)を測定した。
【0086】
[融点(Tm)、結晶化度]
融点は、示差走査型熱量計(DSC)により測定した吸熱曲線のピーク温度によって示される。測定にはエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製のDSC(DSC7020)を使用し、次の測定条件で実施した。
試料約5.0mgをアルミパンに詰め、10℃/分で200℃まで昇温し、200℃で5分間保持した後に10℃/分で30℃まで降温させた。30℃で5分間保持した後、再度、10℃/分で昇温させる際の吸収曲線のうち、最大ピーク温度を融点Tmとし、融解吸熱ピーク面積から融解熱(ΔH)を求め、その融解熱を高密度ポリエチレン(HDPE)の完全結晶の融解熱293J/gで除することにより、結晶化度(%)を求めた。
【0087】
[Mw/Mn]
・試料の前処理
試料にカルボン酸基が含まれる場合は、当該試料を例えばジアゾメタンやテトラメチルシラン(TMS)ジアゾメタンなどを用いたメチルエステル化などのエステル化処理を行い測定に用いた。また、試料にカルボン酸塩基が含まれる場合は当該試料について酸処理を行い、カルボン酸塩基をカルボン酸基へと変性した後、上記のエステル化処理を行い測定に用いた。
試料のMw/Mnは、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
・装置:日本ウォーターズ社製Alliance GPCV2000型
・検出器:GPCV2000内蔵の示差屈折計検出器
・試料の調製:4mLバイアル瓶に試料3mg及びオルトジクロロベンゼン(0.1mg/mLの1,2,4-トリメチルフェノールを含む)3mLを秤採し、樹脂製スクリューキャップ及びテフロン(登録商標)製セプタムで蓋をした。その後、試料を温度150℃に設定したセンシュー科学製SSC-9300型高温振とう機を用いて2時間溶解を行った。溶解終了後、試料中に不溶成分がないことを目視で確認した。
・カラム:昭和電工社製Shodex HT-806M×2本
【0088】
・HT-G較正曲線の作成:4mLガラス瓶を4本用意し、それぞれに下記(i)~(iv)の組み合わせの単分散ポリスチレン標準試料を0.2mgずつ秤り採り、続いてオルトジクロロベンゼン(0.1mg/mLの1,2,4-トリメチルフェノールを含む)3mLを秤り採り、樹脂製スクリューキャップ及びテフロン(登録商標)製セプタムで蓋をした。その後、単分散ポリスチレン標準試料について、温度150℃に設定したセンシュー科学製SSC-9300型高温振とう機を用いて2時間溶解を行った。
(i)Shodex S-1460,同S-66.0,n-エイコサン
(ii)Shodex S-1950,同S-152,n-テトラコンタン
(iii)Shodex S-3900,同S-565,同S-5.05
(iv)Shodex S-7500,同S-1010,同S-28.5
温度150℃に設定したセンシュー科学製SSC-9300型高温振とう機を用いて2時間溶解した単分散ポリスチレン標準試料の溶液が入ったバイアル瓶を上記装置(日本ウォーターズ社製Alliance GPCV2000型)にセットし、検出器(GPCV2000内蔵の示差屈折計検出器)を用いて、GPCの測定を行い、サンプリング間隔1sでクロマトグラム(保持時間と示差屈折計検出器の応答のデータセット)を記録した。得られたクロマトグラムから各ポリスチレン標準試料の保持時間(ピーク頂点)を読み取り、分子量の対数値に対してプロットした。ここで、n-エイコサン及びn-テトラコンタンの分子量は、それぞれ600及び1,200とした。このプロットに非線形最小自乗法を適用し、得られた4次曲線を較正曲線とした。
【0089】
・分子量(M)の計算:温度150℃に設定したセンシュー科学製SSC-9300型高温振とう機を用いて2時間溶解した試料について、前述の単分散ポリスチレン標準試料と同様の条件にて当該試料についてGPCの測定を行い、サンプリング間隔1sでクロマトグラムを記録した。このクロマトグラムを用い、森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)第4章p.51~60に記載の方法で微分分子量分布曲線及び試料の平均分子量(Mz)を算出した。ただし、dn/dcの分子量依存性を補正するため、クロマトグラムにおけるベースラインからの高さHを下記式にて補正した。
H’=H/[1.032+189.2/M(PE)]
【0090】
なお、ポリスチレンからポリエチレンへの分子量変換は、下記式を用いた。
M(PE)=0.468×M(PS)
・測定温度:145℃
・濃度:20mg/10mL
・注入量:0.3ml
・溶媒:オルソジクロロベンゼン
・流速:1.0ml/分
【0091】
[引張試験]
各実施例および各比較例の各ベース樹脂又は各アイオノマーを用いて、JIS K7151(1995年)に記載の方法(冷却方法A)で厚さ1mmのシートを作製し、これを打抜いて作製したJIS K7162(1994年)に記載の5B形小型試験片を用いて、JIS K7161(2014年)に従って温度23℃の条件下において引張試験を行い、引張弾性率(MPa)、引張破断応力(MPa)及び引張破断伸び(%)を測定した。なお、試験速度は10mm/分とした。
【0092】
[引張衝撃強さ]
1)引張衝撃強さ試験サンプルの作製方法
各実施例および各比較例の各ベース樹脂又は各アイオノマーからなる樹脂ペレットを、厚さ1mmの加熱プレス用モールドに入れ、表面温度180℃の熱プレス機中で5分間予熱後、加圧と減圧を繰り返すことで樹脂を溶融すると共に溶融樹脂中の残留気体を脱気し、更に4.9MPaで加圧し、5分間保持した。
その後、4.9MPaの圧力をかけた状態で、10℃/分の速度で徐々に冷却し、温度が室温付近まで低下したところでモールドから成形板を取り出した。
得られた成形板を温度23±2℃、湿度50±5℃の環境下で48時間以上、状態調節した。
状態調節後のプレス板からASTM D1822 Type-Sの形状の試験片を打ち抜き、引張衝撃強さ試験サンプルとした。
2)引張衝撃強さ試験条件
上記試験片を用い、JIS K 7160-1996のB法を参考として引張衝撃強度(kJ/m2)を測定した。
なお、JIS K 7160-1996と異なるのは、試験片の形状のみである。
その他測定条件等に関しては、JIS K 7160-1996に準じた方法で試験を実施した。
【0093】
[複素弾性率の絶対値G*=0.1MPaにおける位相角δ(G*=0.1MPa)]
試料を厚さ1.0mmの加熱プレス用モールドに入れ、表面温度180℃の熱プレス機中で5分間予熱後、加圧と減圧を繰り返すことで溶融樹脂中の残留気体を脱気し、更に4.9MPaで加圧し、5分間保持した。その後、表面温度25℃のプレス機に移し替え、4.9MPaの圧力で3分間保持することで冷却し、厚さが約1.0mmの試料からなるプレス板を作成した。試料からなるプレス板を直径25mm円形に加工したものをサンプルとし、動的粘弾性特性の測定装置としてRheometrics社製ARES型回転式レオメータを用い、窒素雰囲気下において以下の条件で動的粘弾性を測定した。
・プレート:φ25mm パラレルプレート
・温度:160℃
・歪み量:10%
・測定角周波数範囲:1.0×10-2~1.0×102 rad/s
・測定間隔:5点/decade
複素弾性率の絶対値G*(Pa)の常用対数logG*に対して位相角δをプロットし、logG*=5.0に相当する点のδ(度)の値をδ(G*=0.1MPa)とした。測定点の中にlogG*=5.0に相当する点がないときは、logG*=5.0前後の2点を用いて、logG*=5.0におけるδ値を線形補間で求めた。また、測定点がいずれもlogG*<5であるときは、logG*値が大きい方から3点の値を用いて2次曲線でlogG*=5.0におけるδ値を補外して求めた。
【0094】
[リガンドの合成]
特開2013-043871号公報に記載された合成例に従い下記の2-ビス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスファノ-6-ペンタフルオロフェニルフェノール配位子(B-27DM)を合成した。
【0095】
【0096】
[金属錯体の合成]
そして、国際公開第2010/050256号の実施例に準じて、ビス-1,5-シクロオクタジエンニッケル(0)(Ni(COD)2と称する)を用いて、B-27DMとNi(COD)2とが1対1で反応したニッケル錯体(B-27DM/Ni触媒)を合成した。
【0097】
(比較例1)
エチレン/イソプレン(isp)の二元共重合(E/isp):
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、材料として乾燥トルエン(1.0リットル)と、トリn-オクチルアルミニウム(TNOA)を37mg(0.1mmol)と、所定量のイソプレン(isp)を2.0mL(20mmol)仕込んだ。
当該材料を攪拌しながらオートクレーブを90℃に昇温し、窒素をオートクレーブ内の圧力が0.5MPaになるまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が2.5MPaになるように調整し、混合物を得た。
調整終了後、オートクレーブにB-27DM/Ni触媒1.4ml(28μmol)を窒素で圧入して、当該混合物について共重合を開始させた。
当該混合物について60分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止し、反応溶液を得た。
当該反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ない、エチレン/イソプレンの二元共重合体を得た。結果を表1~2に示す。
【0098】
(比較例2)
エチレン/アリルアセテート(AAc)の二元共重合(E/AAc):
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、材料として乾燥トルエン(1.0リットル)と、トリn-オクチルアルミニウム(TNOA)を37mg(0.1mmol)と、所定量のアリルアセテート(AAc)を2.2mL(20mmol)仕込んだ。
当該材料を攪拌しながらオートクレーブを90℃に昇温し、窒素をオートクレーブ内の圧力が0.5MPaになるまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が3.0MPaになるように調整し、混合物を得た。
調整終了後、オートクレーブにB-27DM/Ni触媒1.0ml(20μmol)を窒素で圧入して、当該混合物について共重合を開始させた。
当該混合物について180分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止し、反応溶液を得た。
当該反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ない、エチレン/アリルアセテートの二元共重合体を得た。結果を表1~2に示す。
【0099】
(比較例3)
エチレン/1-ヘキセン(Hex)の二元共重合(E/Hex):
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、材料として乾燥トルエン(0.9リットル)と、トリn-オクチルアルミニウム(TNOA)を37mg(0.1mmol)と、所定量の1-ヘキセン(Hex)を125mL(1000mmol)仕込んだ。
当該材料を攪拌しながらオートクレーブを70℃に昇温し、窒素をオートクレーブ内の圧力が0.5MPaになるまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が3.5MPaになるように調整し、混合物を得た。
調整終了後、オートクレーブにB-27DM/Ni触媒0.025ml(0.5μmol)を窒素で圧入して、当該混合物について共重合を開始させた。
当該混合物について60分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止し、反応溶液を得た。
当該反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ないエチレン/1-ヘキセンの二元共重合体を得た。結果を表1~2に示す。
【0100】
(比較例4)
エチレン/2-ノルボルネン(NB)の二元共重合(E/NB):
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、材料として乾燥トルエン(1.0リットル)と、トリn-オクチルアルミニウム(TNOA)を37mg(0.1mmol)と、所定量の2-ノルボルネン(NB)を1.9g(20mmol)仕込んだ。
当該材料を攪拌しながらオートクレーブを90℃に昇温し、窒素をオートクレーブ内の圧力が0.5MPaになるまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が3.0MPaになるように調整し、混合物を得た。
調整終了後、オートクレーブにB-27DM/Ni触媒0.5ml(10μmol)を窒素で圧入して、当該混合物について共重合を開始させた。
当該混合物について60分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止し、反応溶液を得た。
当該反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ないエチレン/2-ノルボルネンの二元共重合体を得た。結果を表1~2に示す。
【0101】
【0102】
【0103】
表2より、比較例4のコモノマー(2-ノルボルネン)を用いた共重合は、比較例1および比較例2とくらべ、結晶化度の低下がみられ、比較的、分子量(Mw)の高い共重合体が得られることが分かる。
また、表1に示すように、比較例3のモノマー(1-ヘキセン)は比較例4に対し、初期のコモノマー濃度を50倍まで上げないと結晶化度を下げることができない。
即ち、比較例4のコモノマーは比較例1~3のコモノマーと比べ、効率よく結晶化度を下げ、重合体の分子量(Mw)も高いことが分かる。
【0104】
(実施例1)
エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/2-ノルボルネン(NB)の三元共重合(E/tBA/NB):
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、材料として乾燥トルエン(1.0リットル)と、トリn-オクチルアルミニウム(TNOA)を55mg(0.15mmol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA)を9.8ml(67mmol)、及び、所定量の2-ノルボルネン(NB)4.9g(52mmol)を仕込んだ。
当該材料を攪拌しながらオートクレーブを80℃に昇温し、窒素をオートクレーブ内の圧力が0.2MPaになるまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が1.0MPaになるように調整し、混合物を得た。
調整終了後、オートクレーブにB-27DM/Ni触媒25ml(500μmol)を窒素で圧入して、当該混合物について共重合を開始させた。また、オートクレーブ内の圧力が保持されるようにオートクレーブ内にエチレンを供給し、エチレン:tBA:NB=92.7:6.1:1.2(mol比)となるようにtBAおよびNBをそれぞれオートクレーブ内に供給した。
当該混合物について33分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止し、反応溶液を得た。
当該反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ない、E/tBA/NB樹脂1を得た。
[アイオノマーの製造]
1)アイオノマーのベース樹脂(E/AA/NB)の作製:
容量60mlの小型ミキサーを取り付けた東洋精機(株)製ラボプラストミル:ローラミキサR60型に、得られたE/tBA/NB樹脂1を40gとパラトルエンスルホン酸一水和物を0.8g、酸化防止剤としてイルガノックスB225を0.4g投入し、これらを160℃、40rpmで3分間混練し、E/AA/NB樹脂を得た。
得られたE/AA/NB樹脂のIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピークが消失し、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。
これにより、E/tBA/NB樹脂1のt-ブチルエステルの分解およびカルボン酸の生成を確認した。
2)E/AA/NBベースアイオノマーの作製:
容量60mlの小型ミキサーを取り付けた東洋精機(株)製ラボプラストミル:ローラミキサR60型に、E/tBA/NBのエステル分解物であるE/AA/NB樹脂を40g投入し、160℃、40rpmで3分間混練し溶解させた。その後、回転数を20rpmに下げて炭酸ナトリウム水溶液を所望の中和度となるように滴下し、滴下後、250℃、40rpmで5分間混練を行い、アイオノマーを得た。
得られたアイオノマーのIRスペクトルにおいて、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが減少し、カルボン酸塩基のカルボニル基に由来する1560cm-1付近のピークが増加していた。カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークの減少量から所望の中和度のアイオノマーが作製できていることを確認した。結果を表3~5に示す。
【0105】
(実施例2)
エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/2-ノルボルネン(NB)の三元共重合(E/tBA/NB):
2-ノルボルネン(NB)13g(138mmol)、B-27DM/Ni触媒の量を30ml(600μmol)とし、重合時間を32分とした以外は、実施例1と同様にしてエチレン-共重合を行ない、E/tBA/NB樹脂2を得た。
[アイオノマーの製造]
E/AA/NBベースのアイオノマーの作製:
得られたE/tBA/NB樹脂2を使用した以外は実施例1と同様にして、アイオノマーを作製した。結果を表3~5に示す。
【0106】
(実施例3)
エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン(TCD)の三元共重合(E/tBA/TCD):
2-ノルボルネンの代わりにTCDを22mL(138mmol)用い、B-27DM/Ni触媒の量を30ml(600μmol)とし、重合時間を30分とした以外は、実施例1と同様にしてエチレン-共重合を行ない、E/tBA/TCD樹脂3を得た。その後、上記[アイオノマーの製造]は行わなかった。結果を表3~4に示す。
【0107】
(比較例5)
エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)の二元共重合(E/tBA):
2-ノルボルネンを用いず、アクリル酸t-ブチル(tBA)8.2mL(56mmol)、B-27DM/Ni触媒の量を10ml(200μmol)とし、重合時間を80分とした以外は、実施例1と同様にしてエチレン-共重合を行ない、E/tBA樹脂4を得た。
[アイオノマーの製造]
E/AAベースのアイオノマーの作製:
得られたE/tBA樹脂4を使用した以外は実施例1と同様にして、アイオノマーを作製した。結果を表3~5に示す。
【0108】
【0109】
【0110】
表4に示すように、実施例1、実施例2の多元系極性基含有オレフィン共重合体(原料樹脂)の製造結果は、比較例5のエチレン-アクリル酸t-ブチル二元共重合体に比べ、生産量(Vp活性)を落とすことなく、結晶化度を下げることができたことが明らかとなった。また、実施例3は非極性環状オレフィンの種類を2-ノルボルネンからテトラシクロドデセン(テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン)に変更しても、結晶化度を効率よく下げることができたことが明らかになった。なお、表4に示すメチル分岐数の単位である「個/1000C」は、炭素数1,000個当たりのメチル分岐の数を意味し、単位の中に示されるCは炭素を意味する。当該単位については後述する表7についても同様の意味である。
【0111】
【0112】
表5に示すように、実施例1及び実施例2は、引張弾性率が153~194MPaであり、所望の剛性を有し、且つ、引張衝撃強度が988~1203kJ/m2であり、比較例5と比較して靱性が高く、且つ、結晶化度が7~9%であり、比較例5の結晶化度12%と比較して低く透明性に優れる。
したがって、実施例1、及び実施例2は遷移金属触媒の存在下で製造される多元系極性基含有オレフィン共重合体をベースとしたエチレン系アイオノマーであり、同程度の中和度において、同一の遷移金属触媒の存在下で製造される二元系極性基含有オレフィン共重合体を原料樹脂とした比較例5のエチレン系アイオノマーと比較して、剛性(引張弾性率)と靱性(引張衝撃強度)とのバランスに優れ、且つ、結晶化度を下げることができ透明性に優れることが明らかとなった。
【0113】
(実施例4)
エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/2-ノルボルネン(NB)の三元共重合(E/tBA/NB):
内容積1.6m3の攪拌翼付きオートクレーブに、材料として乾燥トルエン(1000リットル)と、トリn-オクチルアルミニウム(TNOA)を82g(0.22mol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA)を7.2kg(56mol)および2-ノルボルネン12kg(127mol)を仕込んだ。
当該材料を攪拌しながらオートクレーブを85℃に昇温した後、エチレンをオートクレーブに供給し、オートクレーブ内の圧力が0.8MPaになるように調整し、混合物を得た。
調整終了後、オートクレーブにB-27DM/Ni触媒(250mmol)を供給して、当該混合物について共重合を開始した。
反応中はオートクレーブ内の温度を85℃に保ち、B-27DM/Ni触媒(734mmol)を複数回に分けて供給した。また、オートクレーブ内の圧力が保持されるようにオートクレーブ内にエチレンを供給し、エチレン:tBA:NB=92.0:5.1:2.9(mol比)となるようにtBAおよびNBをそれぞれオートクレーブ内に供給した。当該混合物について338分間重合させた後、反応を停止し、E/tBA/NB樹脂5を得た。樹脂5の重合条件及び物性測定の結果を表6~7に記載した。
[アイオノマーのベース樹脂(E/AA/NB)の作製]
容量500mlセパラブルフラスコに、得られたE/tBA/NB樹脂5を40gとパラトルエンスルホン酸一水和物を0.8g、トルエンを185ml投入し、これらを105℃で4時間撹拌した。セパラブルフラスコにイオン交換水185mlを投入し内溶液を撹拌、静置した後、水層を抜き出した。以後、抜き出した水層のPHが5以上となるまで、セパラブルフラスコへのイオン交換水の投入とセパラブルフラスコからの水層の抜き出しを繰り返し行った。残った溶液から溶媒を減圧留去し、恒量になるまで乾燥を行ない、E/AA/NB樹脂を得た。得られた実施例4のアイオノマーベース樹脂の物性測定の結果を表8に示す。
得られたE/AA/NB樹脂のIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピークが消失し、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。
これにより、E/tBA/NB樹脂5のt-ブチルエステルの分解およびカルボン酸の生成を確認した。
【0114】
(実施例5)
[アイオノマーの製造]
実施例4で得られたアイオノマーのベース樹脂(E/AA/NB)を使用し、下記の方法でアイオノマーを作製した。
1)Naイオン供給源の作製
容量60mlの小型ミキサーを取り付けた東洋精機(株)製ラボプラストミル:ローラミキサR60型の当該小型ミキサーに、エチレン・メタクリル酸共重合体(三井デュポンケミカル(株)製 銘柄:Nucrel N1050H)を22gと炭酸ナトリウムを18g投入し、これらを180℃、40rpmで3分間混練することでNaイオン供給源を作製した。
2)Znイオン供給源の作製
容量60mlの小型ミキサーを取り付けた東洋精機(株)製ラボプラストミル:ローラミキサR60型の当該小型ミキサーに、エチレン・メタクリル酸共重合体(三井デュポンケミカル(株)製 銘柄:Nucrel N1050H)を21.8gと酸化亜鉛を18gとステアリン酸亜鉛を0.2g投入し、これらを180℃、40rpmで3分間混練することでZnイオン供給源を作製した。
3)E/AA/NBベースアイオノマーの作製:
容量60mlの小型ミキサーを取り付けた東洋精機(株)製ラボプラストミル:ローラミキサR60型の当該小型ミキサーに、実施例4で得られたE/tBA/NB樹脂5のエステル分解物であるE/AA/NB樹脂を40g投入し、これを160℃、40rpmで3分間混練し溶解させた。その後、Naイオン供給源を中和度が20mol%となるように当該小型ミキサーに投入し、250℃、40rpmで5分間混練を行い、アイオノマーを得た。
得られたアイオノマーのIRスペクトルにおいて、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが減少し、カルボン酸塩基のカルボニル基に由来する1560cm-1付近のピークが増加していた。カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークの減少量から所望の中和度のアイオノマーが作製できていることを確認した。得られた実施例5のアイオノマーの物性測定の結果を表8に記載した。なお、表8中の「ND」は未測定を意味する。
【0115】
(実施例6~12)
[アイオノマーの製造]
実施例4で得られたアイオノマーベース樹脂(E/AA/NB)を使用し、表8に示す中和度(mol%)となるように上記したNaイオン供給源またはZnイオン供給源を投入したこと以外は実施例5と同様にして、アイオノマーを作製した。得られた実施例6~12のアイオノマーの物性測定の結果を表8に示す。
【0116】
(実施例13)
エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/2-ノルボルネン(NB)の三元共重合(E/tBA/NB):
アクリル酸t-ブチル(tBA)を12.4ml(85mmol)、2-ノルボルネン(NB)4.5g(48mmol)、B-27DM/Ni触媒の量を20ml(400μmol)とし、重合温度を90℃、重合時間を48分とした以外は、実施例1と同様にしてエチレン-共重合を行ない、エチレン:tBA:NB=92.7:6.1:1.2(mol比)であるE/tBA/NB樹脂6を得た。樹脂6の重合条件及び物性測定の結果を表6~7に記載した。
[アイオノマーの製造]
E/AA/NBベースのアイオノマーの作製:
得られたE/tBA/NB樹脂6を使用し、上記実施例4に記載の[アイオノマーのベース樹脂(E/AA/NB)の作製]と同様の方法で実施例13のアイオノマーのベース樹脂(E/AA/NB)を作製した。
そして、得られた実施例13のアイオノマーのベース樹脂を用いて、上記実施例5に記載の「3)E/AA/NBベースアイオノマーの作製」において、表8に示す中和度(mol%)となるようにNaイオン供給源の投入量を変更したこと以外は実施例5と同様にして、アイオノマーを作製した。得られた実施例13のアイオノマーの物性測定の結果を表8に記載した。
【0117】
(実施例14)
エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/2-ノルボルネン(NB)の三元共重合(E/tBA/NB):
内容積1.6m3の攪拌翼付きオートクレーブに、材料としてアクリル酸t-ブチル(tBA)を7.0ml(48mmol)、2-ノルボルネン(NB)9.4g(100mmol)を仕込んだ。
当該材料を攪拌しながらオートクレーブを90℃に昇温した後、エチレンをオートクレーブに供給し、オートクレーブ内の圧力が0.8MPaになるように調整し、混合物を得た。
調整終了後、オートクレーブにB-27DM/Ni触媒(240mmol)を供給して当該混合物について共重合を開始した。
反応中はオートクレーブ内の温度を90℃に保ち、B-27DM/Ni触媒(550mmol)を複数回に分けてオートクレーブに供給した。また、オートクレーブ内の圧力が保持されるようにオートクレーブにエチレンを供給し、エチレン:tBA:NB=94.3:2.9:2.8(mol比)となるようにtBA及びNBをオートクレーブに間歇供給した。当該混合物について354分間重合させた後、反応を停止し、E/tBA/NB樹脂7を得た。樹脂7の重合条件及び物性測定の結果を表6~7に記載した。
[アイオノマーのベース樹脂(E/AA/NB)の作製]
得られたE/tBA/NB樹脂7を使用し、上記実施例4に記載の[アイオノマーのベース樹脂(E/AA/NB)の作製]と同様の方法で実施例14のアイオノマーのベース樹脂(E/AA/NB)を作製した。得られた実施例14のアイオノマーのベース樹脂の物性測定の結果を表8に記載した。
【0118】
(実施例15)
[アイオノマーの製造]
E/AA/NBベースのアイオノマーの作製:
実施例14で得られたアイオノマーのベース樹脂(E/AA/NB)を用いて、上記実施例5に記載の「3)E/AA/NBベースアイオノマーの作製」において、表8に示す中和度(mol%)となるようにNaイオン供給源の投入量を変更したこと以外は実施例5と同様にして、アイオノマーを作製した。得られた実施例15のアイオノマーの物性測定の結果を表8に記載した。
【0119】
(比較例6)
比較原料:エチレン・メタクリル酸共重合体(E/MAA)
エチレンとメタクリル酸の共重合体であって、高圧ラジカル法プロセスによって製造された二元系の極性基含有オレフィン共重合体(三井デュポンケミカル(株)製 銘柄:Nucrel N1560)を比較原料として用いた。物性測定の結果を表9に記載した。
【0120】
(比較例7)
比較原料:Naアイオノマー
エチレンとメタクリル酸とメタクリル酸Naの共重合体であって、高圧ラジカル法プロセスによって製造されたアイオノマー樹脂(三井デュポンケミカル(株)製 銘柄:HIMILAN HIM1605)を比較原料として用いた。物性測定の結果を表9に記載した。
【0121】
(比較例8)
比較原料:Naアイオノマー
エチレンとメタクリル酸とメタクリル酸Naの共重合体であって、高圧ラジカル法プロセスによって製造されたアイオノマー樹脂(三井デュポンケミカル(株)製 銘柄:HIMILAN HIM1707)を比較原料として用いた。物性測定の結果を表9に記載した。
【0122】
(比較例9)
比較原料:Znアイオノマー
エチレンとメタクリル酸とメタクリル酸Znの共重合体であって、高圧ラジカル法プロセスによって製造されたアイオノマー樹脂(三井デュポンケミカル(株)製 銘柄:HIMILAN HIM1706)を比較原料として用いた。物性測定の結果を表9に記載した。
【0123】
(比較例10)
エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)の二元共重合(E/tBA):
内容積1.6m3の攪拌翼付きオートクレーブに、材料として乾燥トルエン(1000リットル)と、トリn-オクチルアルミニウム(TNOA)を50g(0.14mol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA)を6.3kg(49mol)仕込んだ。
当該材料を攪拌しながらオートクレーブを100℃に昇温した後、エチレンをオートクレーブに供給し、オートクレーブ内の圧力が0.8MPaになるように調整し、混合物を得た。
調整終了後、オートクレーブにB-27DM/Ni触媒(160mmol)を供給して当該混合物について共重合を開始した。
反応中はオートクレーブ内の温度を100℃に保ち、B-27DM/Ni触媒(224mmol)を複数回に分けてオートクレーブに供給した。また、オートクレーブ内の圧力が保持されるようにオートクレーブにエチレンを供給し、エチレン:tBA=94.4:5.6(mol比)となるようにtBAをオートクレーブに供給した。当該混合物について240分間重合させた後、反応を停止し、E/tBA樹脂8を得た。樹脂8の重合条件及び物性測定の結果を表6~7に記載した。
[アイオノマーのベース樹脂(E/AA)の作製]
得られたE/tBA樹脂8を使用し、上記実施例4に記載の[アイオノマーのベース樹脂(E/AA/NB)の作製]と同様の方法で比較例10のアイオノマーのベース樹脂(E/AA)を作製した。比較例10のアイオノマーのベース樹脂の物性測定の結果を表9に示す。
【0124】
(比較例11~12)
[アイオノマーの製造]
E/AAベースのアイオノマーの作製:
比較例10で得られたアイオノマーのベース樹脂(E/AA)を用いて、上記実施例5に記載の「3)E/AA/NBベースアイオノマーの作製」において、表9に示す中和度(mol%)となるようにNaイオン供給源の投入量を変更したこと以外は実施例5と同様にして、アイオノマーを作製した。比較例11~12のアイオノマーの物性測定の結果を表9に示す。
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
図1は、実施例4~15、及び比較例6~12のベース樹脂又はアイオノマーの中和度と結晶化度との関係を示す図である。
図2は、実施例4~15、及び比較例6~12のベース樹脂又はアイオノマーの引張弾性率(剛性)と引張衝撃強度(靱性)との関係(バランス)を示す図である。
【0130】
[ベース樹脂同士の比較]
表8~9において、実施例4のベース樹脂と比較例6のベース樹脂を比較すると、結晶化度がともに20%であるが、実施例4の方が比較例6よりも引張弾性率、引張破断応力、引張破断伸び、及び引張衝撃強度が高い。そのため、実施例4の方が比較例6よりも相対的に剛性、靱性、及び透明性のバランスに優れ、さらに、引張破断応力、引張破断伸びについても優れる。
実施例14のベース樹脂と比較例6のベース樹脂を比較した場合は、実施例14は結晶化度が23%であり比較例6よりも結晶化度が高いが、その他は、上記実施例4と同様に比較例6よりも引張弾性率、引張破断応力、引張破断伸び、及び引張衝撃強度が高い。そのため、実施例14の方が比較例6よりも相対的に剛性、靱性、及び透明性のバランスに優れ、さらに、引張破断応力、引張破断伸びについても優れる。
また、実施例4のベース樹脂と比較例10のベース樹脂を比較すると、比較例10は、引張弾性率が実施例4よりも高いが、実施例4は所望の剛性(引張弾性率)を有し、実施例4の方が比較例10よりも引張破断応力、引張破断伸び、及び引張衝撃強度が高く、結晶化度が低い。そのため、実施例4の方が比較例10よりも相対的に剛性、靱性、及び透明性のバランスに優れ、さらに、引張破断応力、引張破断伸びについても優れる。
なお、本発明において、所望の引張弾性率とは、少なくとも88MPa以上あればよい。
実施例14のベース樹脂と比較例10のベース樹脂を比較した場合も、実施例4のベース樹脂と比較例10のベース樹脂を比較した場合と同様に、実施例14の方が比較例10よりも相対的に剛性、靱性、及び透明性のバランスに優れ、さらに、引張破断応力、引張破断伸びについても優れる。
【0131】
[アイオノマー同士の比較]
1)Naアイオノマーについて
まず、金属イオンとしてNaイオンを用いたNaアイオノマーについて比較する。
中和度が30mol%の実施例6のアイオノマーと比較例7のアイオノマーを比較すると、比較例7は引張弾性率が実施例6よりも高いが、実施例6は所望の剛性(引張弾性率)を有しし、実施例6の方が比較例7よりも引張破断応力、引張破断伸び、及び引張衝撃強度が高く、結晶化度が低い。そのため、実施例6の方が比較例7よりも相対的に剛性、靱性、及び透明性のバランスに優れ、さらに、引張破断応力、引張破断伸びについても優れる。
中和度が30mol%の実施例6のアイオノマーと比較例11のアイオノマーを比較した場合も、実施例6のアイオノマーと比較例7のアイオノマーを比較した場合と同様に、実施例6の方が比較例11よりも相対的に剛性、靱性、及び透明性のバランスに優れ、さらに、引張破断応力、引張破断伸びについても優れる。
実施例6以外の実施例5、7~8、13、15についても実施例6と同様に剛性、靱性、及び透明性のバランスに優れ、さらに、引張破断応力、引張破断伸びについても優れることがわかる。
【0132】
2)Znアイオノマーについて
次に、金属イオンとしてZnイオンを用いたZnアイオノマーについて比較する。
同程度の中和度を有するアイオノマーとして、中和度が60mol%の実施例12のアイオノマーと中和度が59mol%の比較例9のアイオノマーを比較すると、比較例9は引張弾性率が実施例12よりも高いが、実施例12は所望の剛性(引張弾性率)を有し、実施例12の方が比較例9よりも引張衝撃強度が高く、結晶化度が低い。そのため、実施例12の方が比較例9よりも相対的に剛性、靱性、及び透明性のバランスに優れ、さらに所望の引張破断応力、及び引張破断伸びを有する。
実施例4のベース樹脂と実施例12のアイオノマーの結果から、実施例12以外の実施例9~11についても、中和度が同程度の従来のZnアイオノマーと比較した場合には、当該Znアイオノマーと比較して剛性、靱性、及び透明性のバランスに優れ、さらに所望の引張破断応力、及び引張破断伸びを有すると推定される。
【0133】
3)中和度について
また、実施例4~15の結果から、中和度が0~60mol%の範囲であれば、剛性、靱性、及び透明性のバランスに優れる多元系極性基含有オレフィン共重合体が得られることが実証された。
【0134】
4)金属イオン種について
さらに、実施例4~15の結果から、ベース樹脂に金属イオンとしてNaイオンまたはZnイオンを用いた本願の条件を満たすアイオノマーであれば、剛性、靱性、及び透明性のバランスに優れることが実証された。そのため、Naイオン及びZnイオン以外の金属イオン種を用いたアイオノマーの場合であっても本願の条件を満たすアイオノマーであれば同様の効果が得られることが推察される。
【0135】
以上により、
図1~2、及び表8~9において、実施例4~15は特定の組成を有する本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体であるベース樹脂又はアイオノマーであり、同程度の酸含量、中和度を有する既存の極性基含有オレフィン共重合体であるベース樹脂又はアイオノマーである比較例6、比較例7、比較例8、比較例9よりも格段に優れた剛性(引張弾性率)と靱性(引張衝撃強度)とのバランスを有し、所望の引張破断応力、及び引張破断伸びを有することを示した。
また、実施例4~15は三元系極性基含有オレフィン共重合体であるベース樹脂又はアイオノマーであり、同程度の酸含量、中和度を有する二元系極性基含有オレフィン共重合体であるベース樹脂又はアイオノマーである比較例10、比較例11、比較例12に比べ、剛性(引張弾性率)と靱性(引張衝撃強度)とのバランスに優れ、所望の引張破断応力、及び引張破断伸びを有し、且つ、同程度の中和度における結晶化度が低く透明性にも優れていることを示した。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体は、従来の二元系共重合体と比較して、透明性(結晶化度)、剛性(引張弾性率)、及び、靱性(引張衝撃強度)のバランスに優れる。