IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セルプロテラの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】細胞培養カセット及び自動装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20221114BHJP
   C12M 1/10 20060101ALI20221114BHJP
   C12M 1/36 20060101ALI20221114BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20221114BHJP
   C12M 3/02 20060101ALI20221114BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20221114BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C12M1/10
C12M1/36
C12M3/00 B
C12M3/02
C12N5/0789
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2018566852
(86)(22)【出願日】2017-06-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 FR2017051703
(87)【国際公開番号】W WO2017220948
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-05-27
(31)【優先権主張番号】1655922
(32)【優先日】2016-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514232753
【氏名又は名称】セルプロテラ
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ バラト
(72)【発明者】
【氏名】フィリッペ ヘノン
(72)【発明者】
【氏名】クレール サウコート
(72)【発明者】
【氏名】ラオウル ワイル
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム セール
(72)【発明者】
【氏名】キリル マレシャル
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-513347(JP,A)
【文献】特表2013-520164(JP,A)
【文献】特開2004-251292(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0058907(US,A1)
【文献】特表平11-507229(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014105472(DE,A1)
【文献】特開2006-325437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
・少なくとも部分的に剛性であり、かつ内部容積を画定する細胞培養バッグ(100)が配置されて固定される内部空間を内部に画定しているハウジング(90)、
・それぞれ一方の端部が該バッグ(100)の内部容積に接続され、それぞれ該ハウジング(90)の外側に位置する第2の端部を有する導管(36、38)、
・該ハウジング(90)に取り付けられた該導管(36、38)を通る流体の流れを通過/遮断する弁(128、130)
を備える、細胞培養カセット(16)。
【請求項2】
前記導管(36、38)が、可撓性管によって形成され、かつ前記弁(128、130)のうちの少なくともいくつかが、前記ハウジング(90)の構造部材(132)に対して該管を締め付けるための可動部材(136、138)を備える、請求項1記載のカセット。
【請求項3】
各可動部材(136、138)が、回転軸(136c、138c)を有し、かつ各可動部材(136、138)の半径方向外周部が、該可動部材(136、138)が回転すると管(36、38)の流体通路断面を変化させるように該管(36、38)の締め付け面を形成する、該回転軸(136c、138c)を中心とする少なくとも1つの螺旋面(160)を備える、請求項2記載のカセット。
【請求項4】
前記可動部材(136、138)が、前記ハウジング(90)内に配置されて、該ハウジング(90)に組み込まれたプレート(132)の凹部(134)に取り付けられ、各凹部(134)が可動部材を受容する、請求項3記載のカセット。
【請求項5】
各可動部材(136、138)が、前記ハウジング(90)の外部からアクセス可能である端部(136a、138b)を備え、該端部(136a、138b)が、アクチュエータの第2の回転結合手段と協働する第1の回転結合手段(154)を備える、請求項2~4のいずれか一項記載のカセット。
【請求項6】
前記可動部が、その一端が前記ハウジングの開口部に、そして反対側の端部が前記プレート(132)の開口部にくるように回転により中心に案内されることを特徴とする、請求項4又は5記載のカセット。
【請求項7】
前記バッグ(100)が、空の状態及び液体が充填された状態の両方で実質的に互いに平行な第1の可撓性壁(122)及び第2の可撓性壁を備えた実質的に長方形の形状を有する、請求項2~6のいずれか一項記載のカセット。
【請求項8】
前記バッグ(100)の全内部容積に対する前記第1の可撓性壁(122)と前記第2の可撓性壁の表面の合計の比率が、500~690 cm2/L、好ましくは580 cm2/L程度である、請求項7記載のカセット。
【請求項9】
前記第1の可撓性壁(122)と前記第2の可撓性壁との間の距離が、20 mm未満、好ましくは10~20 mm、さらに好ましくは約14 mmである、請求項7又は8記載のカセット。
【請求項10】
前記バッグ(100)の壁が、ガス、特にCO2透過性であり、好ましくは、細胞の前記バッグ(100)の壁への接着を可能な限り制限する特性を有する、請求項1~9のいずれか一項記載のカセット。
【請求項11】
前記ハウジング(90)が、直方体の形状に実質的に対応する形状を有し、かつ互いに固定された下側ハーフシェル(96)及び上側ハーフシェル(98)を備え、該下側ハーフシェル(96)が剛性であり、該上側ハーフシェル(98)が剛性又は可撓性である、請求項1~10のいずれか一項記載のカセット。
【請求項12】
前記上側ハーフシェル(98)が、液体を含む前記カセット(16)が水平軸を中心に振動されたときに前記バッグ(100)から開口部(108)への液体の波の伝播を可能にするように形状及びサイズが決定される該開口部(108)又は中心凹部を備え、該開口部が上向きに配置される、請求項11記載のカセット。
【請求項13】
前記下側ハーフシェル(96)が、好ましくは例えば20 mm未満の直径を有する、複数の孔(104)を備える、請求項11又は12記載のカセット。
【請求項14】
前記導管(36、38)が、前記下側ハーフシェル(96)又は前記上側ハーフシェル(98)のうちの1つの外周縁(102a、102b)の1つを貫通して延在する、請求項11~13のいずれか一項記載のカセット。
【請求項15】
前記ハウジング(90)の外部に配置され、かつ前記導管(36、38)の少なくともいくつかが横断している導管(36、38)支持ストリップ(34)を備える、請求項1~14のいずれか一項記載のカセット。
【請求項16】
前記バッグが細胞培養培地を含むことを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項記載のカセット。
【請求項17】
前記細胞培養培地が、ヒトインスリン、ヒトトランスフェリン、及びヒト血漿又は血清を含むことを特徴とする、請求項16記載のカセット。
【請求項18】
前記細胞培養培地が凍結されていることを特徴とする、請求項16又は17記載のカセット。
【請求項19】
前記バッグがCD34+細胞を含むことを特徴とする、請求項1~17のいずれか一項記載のカセット。
【請求項20】
恒温エンクロージャ(28)、及び請求項1~19のいずれか一項記載の細胞培養カセットを支持して撹拌するための装置(14)、及び前記細胞培養カセット(16)を該支持及び撹拌装置内の細胞培養位置に対応する所与の位置に配置してロックするための手段を備える、細胞培養インキュベータ。
【請求項21】
前記支持及び撹拌装置(14)が、水平軸(63)を中心に回動可能に取り付けられた、細胞培養カセット(16)を支持するためのトレイ(54)を備え、該トレイ(54)が、前記バッグ(100)の内容物を撹拌及び均質化するために該水平軸(63)を中心に振動するようになっている、請求項20記載のインキュベータ。
【請求項22】
前記支持及び撹拌装置(14)が連結ロッド(64)を備え、該連結ロッドの一方の上端部が、オシレータを介して前記トレイ(54)に連結され、該連結ロッドの下端部が、その軸(70)が実質的に水平であるモータのシャフトによって回転駆動されるクランク(68)に連結されている、請求項21記載のインキュベータ。
【請求項23】
前記トレイ(54)が、前記弁(128、130)を開閉するための電気機械式アクチュエータ(82)を保持し、該電気機械式アクチュエータの1つの出力部が、前記カセット(16)が前記所与の位置にあるときに該カセットの該弁(128、130)の第1の結合手段(154)と協働する第2の結合手段を保持する、請求項21又は22記載のインキュベータ。
【請求項24】
前記エンクロージャ(28)の開口部(26)を密閉するためのドア(22)を備え、該開口部(26)が、凹部(32)が形成されている外周縁(24)を備え、該凹部(32)の形状が、請求項15記載のカセットの導管の前記支持ストリップ(34)を受容するように適合され、該ストリップ(34)が、該ドアが該エンクロージャ(28)の閉位置にあるときに該ドア(22)と該外周縁との間に密閉部材を形成する、請求項20~23のいずれか一項記載のインキュベータ。
【請求項25】
前記支持及び撹拌装置における前記細胞培養カセット(16)の位置を制御するための手段を備える、請求項20~24のいずれか一項記載のインキュベータ。
【請求項26】
請求項20~25のいずれか一項記載の少なくとも1つのインキュベータ(12)と、該少なくとも1つのインキュベータのエンクロージャにおける培養条件を調節するため、及び該エンクロージャ内に収容された前記カセットの弁を制御するための、データの取得及び記録手段を含むコンピュータ制御システムとを備える、細胞培養自動装置。
【請求項27】
(a)請求項1~19のいずれか一項記載の細胞培養カセット(16)を、前記インキュベータのエンクロージャ(12)内の、水平な解凍位置にある前記支持及び撹拌装置(14)上に配置する工程;
(b)培養するべき細胞を前記バッグ(100)に供給する工程;
(c)該カセット(16)を細胞培養位置にある該支持及び撹拌装置(14)に配置する工程;
(d)該カセット(16)を一定時間撹拌してその内容物を均質化する工程;
(e)該カセット(16)をインキュベーション条件下で数日間維持する工程;及び
(f)該カセット(16)の管のうちの1つによって該カセット(16)の内容物を回収する工程を含むことを特徴とする、請求項26記載の自動装置を用いる細胞培養方法。
【請求項28】
工程(d)の間に、前記バッグの内容物を試料採取する1つ以上の試料採取工程(196)を含み、該1つ以上の工程のそれぞれの前に、前記トレイ(54)を水平培養位置から、該バッグ(100)の試料採取領域が該バッグ(100)の最低点となる傾斜位置に傾ける工程が行われることを特徴とする、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記培養するべき細胞がCD34+細胞であることを特徴とする、請求項27又は28記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養カセット、及び該カセットを用いた細胞培養自動装置に関する。従って、本発明は、カセットと呼ばれる細胞培養用の装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養を使用する分野の中で、細胞療法は、産業化の点で最も遅れている。従って、治療用途でのこれらの細胞の使用のための最適かつ安全な条件下で、十分な量の細胞を生産することができる技術を見出すという重要な要望が存在する。
【0003】
いくつかの細胞療法プロセスは、収集した量が時には治療効果を得るには不十分であるため、幹細胞が患者に再注入される前に該幹細胞の培養又は増幅を必要とする。培養中に細胞の治療特性の完全性を保証することが不可欠である。現在の技術では、エクスビボでの幹細胞の培養のために提案された解決策は、熟練を必要とし、非常に経験に基づくものであり、効果が低い。
【0004】
加えて、現在の技術では、治療用途に十分な量の幹細胞を生産することができない。従って、コンパクトな形状を有し、かつ細胞を大量に増殖させることができるバイオリアクター技術を開発することが実際に必要とされている。
【0005】
治療又は臨床現場における生産用途での幹細胞増殖プロセスの自動化は、最小限の人間の介入で制御された活動領域(クリーンルーム)で動作することができる細胞生産装置を必要とする。幹細胞培養プロセスは、これらの細胞を患者の試料から得るために複数の工程、すなわち細胞を単離する工程、培養及び最終的な収集の前に精製する工程、臨床処置センターに送付する前に培養後の細胞を精製してパッケージングする工程を伴うため比較的複雑である。
【0006】
これらの全ての工程は、厳格な無菌性とトレーサビリティの条件を課す製造規格に従って行われなければならない。多くの場合手作業である製造工程が増加すると、プロセスの無菌性を維持するために異なるクラスの封じ込め領域を使用する必要がある。培養の前後の準備プロセスの適切な実施では、多くの場合、ある領域から別の領域へのプロセス中間体の移動を伴い、無菌性の喪失のリスク及び生産フローの混合のリスクの両方が高まる。
【0007】
例えば、米国特許出願公開第2012/0308531号の文献に記載されているような細胞培養システムが公知である。幹細胞生産のための連続培養物の生産は、異なる試薬、細胞、及びガスを反応器に移送する部分組立体の複雑なシステムによって行われる。
【0008】
本出願人は、国際公開第2013/135817号の文献において自動細胞培養のための自動装置も提案している。細胞培養が単一バッグ内で行われる場合、その取り扱いは、その柔軟な構造のために困難であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、特に、上述した先行技術の問題に対する単純で効果的かつ経済的な解決策を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため、本発明は、細胞培養カセットを提案し、該細胞培養カセットは:
・内部容積を画定する細胞培養バッグが配置されて固定される内部空間を画定する、少なくとも部分的に剛性のハウジング、
・それぞれ一方の端部が該バッグの内部容積に接続され、それぞれハウジングの外側に位置する第2の端部を有する導管、及び
・該ハウジングに取り付けられた導管を通る流体の流れを開閉する弁を備える。
【0011】
バッグ及び弁は、カセットハウジングを介して操作される。導管の第2の端部のみを直接操作する必要がある。本発明によると、細胞培養カセット又は装置は、無菌性の点で困難さを伴う可能性があり、かつその直接操作を制限しなければならない全ての要素が組み込まれている。これらの要素は、使い捨ての細胞培養カセットに予め組み付けられる。使用後は、使用された導管、弁、及び培養バッグの全てを適正作業の規則に従って廃棄することが可能である。好ましくは、少なくとも部分的に剛性のハウジングに可撓性バッグを組み込むことにより、該バッグがハウジング内に保持され、取り扱いが非常に容易になる。同様に、ハウジングに弁を組み込むことにより、該弁の位置の確認が容易になり、以下の説明で明らかになるように、インキュベータ制御手段による操作がさらに容易になり得る。
【0012】
カセットラインを遮断する手段として弁を流体カセットに組み込む解決策は、しばしば凍結工程中に脆弱化する、手動でのみ操作可能であるプラスチック「クランプ」の使用も、ピンチ電磁弁のジョーのラインに手動で取り付ける必要があるピンチ電磁弁の使用も回避することによって、細胞培養プロセスにおける該カセットの使用の自動化を改善することを可能にする。従って、この解決策は、導管の操作、及び導管の電磁弁への誤挿入に関連するエラーを回避する。
【0013】
バッグが細胞培養培地を含むカセットは、必要であれば凍結することができる。
【0014】
本発明の別の特徴は、導管が可撓性管によって形成され、少なくともいくつかの弁がハウジングの構造要素上に管のための可動締め付け部材を備えることである。上記のように、弁のカセットへの組み込みにより、外部エネルギーを必要とすることなく所望の時間にわたって閉路(貯蔵又は培養時間)を独立かつ確実に維持することが可能となる。
【0015】
本発明のさらに別の特徴によると、各可動部材は回転軸を有し、各可動部材の半径方向外周部は、該回転軸を中心とする少なくとも1つの螺旋面を備え、該螺旋面は、該部材が回転すると管を通る流体の通路断面を変化させるように該管の締め付け面を形成している。
【0016】
有利なことに、弁は所与の位置を維持することができる。より具体的には、弁は、エネルギーが供給されなくても可動部が所与の開位置又は閉位置を維持できるように設計されている。特に、これは、螺旋面と管との接触点に対する垂線が可動部材の回転軸に向くようにし、前記軸を中心とするトルクがゼロになるようにすることによって達成することができる。
【0017】
特定の一設計では、可動部は、ハウジングに固定されたプレートの凹部に取り付けられ、各凹部は可動部材を受容する。ハウジングが下側ハーフシェルと上側ハーフシェルの2つから形成されている場合は、細胞培養バッグを下側ハーフシェルに取り付けること、管を締め付けるための可動部を該下側ハーフシェルに取り付けること、そして該可動部を同時に保持できるようにするプレートを取り付けることが可能である。プレートは、例えば、下側ハーフシェルに、例えばねじによって取り付けることができる。従って、プレートは、前述の様々な部品の組み立てを確実かつ容易にすることを可能にする。これにより、弁が確実に維持される。
【0018】
各可動部材は、ハウジングの外側からアクセス可能な端部を備え、該端部が、電気機械式であり得るアクチュエータの第2の回転結合手段と協働するようになっている第1の回転結合手段を備える。
【0019】
外部からの弁の可動部材へのアクセスにより、第2の結合手段、例えば必要に応じて液体の流れを通過/遮断するために第1の弁結合手段を回転させるための相補的な第2の結合手段を備えるインキュベータの適切な支持体にカセットを取り付けることが可能となる。この外部からのアクセス性により、弁の駆動手段が故障した場合に弁を手動で操作することが可能となる。
【0020】
好ましくは、可動部は、その一端がハウジングの開口部に、そして反対側の端部がプレートの開口部にくるように回転により中心に案内される。ハウジングが2つのハーフシェルからなる場合、プレートを、これら2つのハーフシェル間のハウジングの内部に固定することができる。
【0021】
本発明の他の特徴によると、パウチは、空の状態でも液体で充填された状態でも実質的に互いに平行な第1の可撓性壁及び第2の可撓性壁を備えた実質的に長方形の形状を有する。
【0022】
長方形の形状は、実質的に平坦であるため、第1の壁及び第2の壁に実質的に垂直な第1の方向において該第1の壁と該第2の壁の間で測定される厚さは非常に小さい、すなわち互いに対して及び該第1の方向に対して垂直な空間の他の2つの方向で測定されるバッグの他の2つの寸法よりも遥かに小さい。「非常に有意に低い」は、数学で一般的に認められているように少なくとも10分の1であることを意味する。
【0023】
好ましくは、バッグの全内部容積に対する第1の壁と第2の壁の表面の合計の比率は、500~690 cm2/L、好ましくは580 cm2/L程度である。この比率は、カセットが恒温エンクロージャ内のインキュベータの内部に配置されたときに可撓性バッグと外部との間の最適な熱交換を保証する。
【0024】
第1及び第2の壁に垂直な方向で測定される該第1の壁と該第2の壁との間の距離又は液体が充填された状態のパウチの厚さは、有利には20 mm未満、好ましくは10~20 mm、さらに好ましくは14 mm程度である。薄い厚さを使用すると、バッグの液体中での熱の拡散がさらに促進される。これはまた、培養培地の様々な成分の均一な凍結及び解凍を可能にし、これは一定温度でより迅速である。
【0025】
本発明によるバッグは、低温凍結による凍結工程の間、培養培地の安定性を維持することを可能にする。実際、血液由来の生物学的産物の高い凍結速度は、成分の保存、解凍後の培地の均質性、並びに凍結塊の中心にある溶液中の塩及びタンパク質の濃度効果が存在しないことの保証となる。本発明によるバッグは、高い表面積/体積比及び薄い厚さを有するその特定の形状により、培養培地の急速凍結を促進する。
【0026】
本発明の別の特徴によると、バッグの壁は、ガス、特にCO2透過性であり、好ましくは細胞のバッグの壁への付着を可能な限り制限する特性を有する。
【0027】
パウチは、好ましくは可撓性、すなわち変形可能である。パウチは、好ましくは、液体である培養培地及びその細胞の拡大を保持することができる可撓性のガス透過性壁を備える。実際には、バッグ内に含まれる全ての液体の保持の問題である。バッグは、好ましくは優れた酸素及び二酸化炭素透過性を有し、これにより、該バッグを開けることなく、従ってその内容物が汚染されるリスクなしに該バッグの内容物の良好な通気が可能となる。本発明の特定の一実施態様では、バッグは、以下の透過特性(37℃で、1大気、すなわち1バール(100 kPa)の圧力下での1日当たりの透過体積(cm3)):酸素では418~508、二酸化炭素では699~1200、窒素では157~200、そして水では0.05~0.1を有する。
【0028】
バッグは、例えば約120 pmの厚さを有するフルオロポリマー、特にフルオロエチレンプロピレン(fluorethylene propylene)などのコポリマーから製造することができる薄膜から形成される。好ましい一実施態様では、バッグは、薄い厚さの実質的に長方形の形状を有し、幅が最も平坦な状態で230~250 mm、そして長さが平坦な状態で230~250 mmに達し得る。
【0029】
フルオロポリマーファミリーに属する材料の使用は、ガス透過性であるという利点、及び液体に対して低い接着性を有するという利点も有する。
【0030】
ハウジングは、好ましくは、直方体の形状に実質的に対応する形状を有し、かつ互いに固定された下側ハーフシェル及び上側ハーフシェルを備えることができ、該下側ハーフシェルは剛性であり、該上側ハーフシェルは剛性又は可撓性である。
【0031】
従って、ハウジングは、その長さ及び幅と比較して非常に薄い厚さを有する実質的に平坦な形状を有することもできる。
【0032】
ハウジングは、SEBS(スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン)などの任意のエラストマー熱可塑性材料から形成することができる。下側ハーフシェルは、可撓性バッグの最適な保持を確実にするために剛性とすることができ、上側ハーフシェルは、部分的に剛性とすることができ、かつ把持及びある程度の変形性を容易にして、以下に記載される支持及び撹拌手段へのカセットの取り付けを容易にするためにエラストマー材料から形成された1つ以上の可撓性領域を備え得る。もちろん、上側ハーフシェルは、下側ハーフシェルのように完全に剛性とすることもできる。
【0033】
下側ハーフシェル及び上側ハーフシェルの両方は、それらの外周縁をクリッピング、接着、又は溶接することによって組み付けることができる。ハーフシェルは、同じ厚さを有してもよいし、又は異なる厚さを有してもよい。
【0034】
本発明の好ましい一実施態様では、上側ハーフシェルは、中心開口部又は凹部を備えることができ、該中心開口部又は凹部の形状及び大きさは、液体を含むカセットが水平軸を中心に振動されたときにバッグの液体の波の該開口部への伝播を可能にするように設計され、該開口部は上向きに構成されている。波の形成は、バッグ内の液体の迅速な均質化を達成するのに望ましい。従って、切り欠き部又は開口部と呼ばれることもある凹部の形成は、ハウジングの厚さを増加させることがない。この凹部はまた、バッグと接触しているガスのより良好な拡散を確実にする。凹部は、幅約210 mm及び長さ約28 mmの寸法を有し得る。
【0035】
好ましくは、下側ハーフシェルは、好ましくは、例えば20 mm未満の直径を有する複数の孔を備える。孔の一体化により、バッグが下側ハーフシェルに確実に保持されたまま、上側ハーフシェルの開口部と同様の要領でガスの移動が容易になる。
【0036】
本発明の実用的な一実施態様では、下側ハーフシェルは、それぞれ5~20 mm、例えば10 mm程度の直径を有する約50~400個の孔を備えることができる。孔は、5~40 mm、例えば20 mmの単位長さを有する正三角形のパターンである基本パターンでメッシュサイズに従って分布させることができる。
【0037】
本発明によるカセットの設計では、導管は、下側又は上側ハーフシェルの一方の外周縁の1つを貫通して延在する。導管は、下側又は上側ハーフシェルの外周縁のうちの1つにおけるスロットに収容することができる。
【0038】
カセットは、好ましくは、ハウジングの外側に配置された、少なくともいくつかの導管が通過する導管支持ストリップを備える。このストリップは、カセットハウジングの外部に延びている導管を支持し、該導管の自由端の意図しない動きを制限する。加えて、支持体は、以下の説明でより明らかになるように、インキュベータのドアの防水通路要素を形成することを目的としている。
【0039】
カセットは、好ましくは、バッグに貯蔵された細胞培養培地を含み、該細胞培養培地は凍結することができる。
【0040】
細胞培養培地は、その組成が哺乳動物細胞、特にヒト胚性幹細胞を除くヒト細胞の増殖に適している細胞培養培地であり得る。培養培地は、培養中の細胞を含んでもよいし、又は含まなくてもよい。
【0041】
これらの細胞、特にヒト胚性幹細胞を除くヒト細胞は、有利に、(ヒト)CD34+細胞、特に(ヒト)CD34+造血細胞又は(ヒト)非造血CD34+細胞であってもよいし、又はこれを含んでもよい。これらの(ヒト)CD34+細胞は、例えば、(ヒト)末梢血、又は(ヒト)臍帯、又はヒト組織、特に(ヒト)末梢血に由来の細胞であり得る。
【0042】
これらの細胞、特にヒト胚性幹細胞を除くヒト細胞は、有利に、幹細胞又は前駆細胞、特に多分化能細胞又は多能性細胞であってもよいし、又はこれを含んでもよい。
【0043】
これらの細胞は、ヒト胚細胞ではないし、これを含みもしない。
【0044】
この細胞培養培地は、これらの細胞の増殖を可能にする成分、特にこれらを未分化状態に維持したまま、又は少なくとも最終分化の段階に達しないで、これらの増殖を可能にする成分を含み得る。
【0045】
この細胞培養培地は、インスリン、トランスフェリン、及び(ヒト)血漿又は血清を含み得る。
【0046】
この細胞培養培地は、線維芽細胞などの支持細胞を含んでもよいし、又はこれを欠いてもよい。
【0047】
この細胞培養培地は、例えば、任意にグルタミン又はグルタミン含有ペプチドが添加されるイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)であってもよいし、又はこれを含んでもよい:例えば、Iscove, N.N.及びMelchers, F. の文献、J. Exper. Med. 147:923 (1978)を参照されたい。
【0048】
特に、この細胞培養培地は、任意にグルタミン又はグルタミン含有ペプチドが添加されるIMDM培地であってもよいし、又はこれを含んでもよく、この培地は、線維芽細胞を含まず、ヒト(組換え)インスリン、(ヒト)トランスフェリン、及び(ヒト)血漿又は血清を含む。
【0049】
例えば、培養培地は:
・1~50μg/mL、特に8~12μg/mLのインスリン、
・100~2000μg/mL、特に300~500μg/mLのトランスフェリン、及び
・1~30%、特に4~12%の(ヒト)血清又は血漿を含み得る。培養培地は、ヘパリン、例えば1.5~3.5 IU/mLのヘパリンも含み得る。
【0050】
培養培地は、ヒト(組換え)エリスロポエチンを含む、エリスロポエチンも含み得る。
【0051】
培養培地は、ヒドロコルチゾン、SCF(幹細胞因子)、インターロイキン3(IL-3)、トロンボポエチン(TOP)、FLT3(Fms様チロシンキナーゼ3)、BMP4(骨形成タンパク質4)、VEGF-A165(血管内皮増殖因子A165)、及びIL-6から選択される1つ以上の増殖因子を含む、1つ以上の増殖因子も含み得る。
【0052】
培養培地は、限定されるものではないが、
・ヒドロコルチゾン、又は
・SCF、又は
・SCF及びIL-3、又は
・ヒドロコルチゾン及びSCF、又は
・ヒドロコルチゾン、SCF、及びIL-3、又は
・SCF、TOP、FLT3、BMP4、VEGF-A165、IL-3、及びIL-6を含み得る。
【0053】
培養培地は、特に、国際公開第2011/101468号(又は、引用により本明細書中に組み込まれているこのPCT国際出願、例えば、特に米国特許出願公開第2013/0078721 A1号から生じた、又はこれに基づく米国特許出願のうちの1つ)に記載の培養培地であり得る。
【0054】
カセットは、上記の培養培地及び/又は細胞を含み得る。
【0055】
一生産方法によると、カセットは、特に凍結形態でバッグに培養培地を含むが、細胞は含まない。
【0056】
別の生産方法によると、カセットは、特に非凍結形態でバッグに培養培地を含み、かつ細胞、特に培養細胞、特に上記の(ヒト)CD34+細胞も含む。
【0057】
本発明はまた、細胞培養インキュベータに関し、該細胞培養インキュベータは、恒温エンクロージャ、及び上で定義した細胞培養カセットを支持して撹拌するための装置、及び該細胞培養カセットを該支持装置内の所与の位置に配置して遮断するための手段を備える。
【0058】
一実施態様では、支持及び撹拌装置は、水平軸を中心に回動可能に取り付けられた、細胞培養カセットの支持トレイを備え、該支持トレイが、バッグの内容物を撹拌して均質化するために該水平軸を中心に振動するようになっている。
【0059】
支持及び撹拌装置は、連結ロッドを備えることができ、該連結ロッドの一方の上端部が、オシレータを介してトレイに連結され、該連結ロッドの下端部が、実質的に水平な軸を有するモータのシャフトによって回転駆動されるクランクハンドルに連結されている。
【0060】
インキュベータは、細胞培養カセットが支持手段に適切に配置されてこれを使用できるようにするために、該支持手段における該カセットの位置を制御するための手段を備えることができる。
【0061】
トレイは、弁を開閉するための電気機械式アクチュエータを保持することができ、その1つの出力部は、カセットが前記所与の位置にあるときに該カセットの弁の第1の結合手段と協働するようになっている第2の結合手段を保持する。
【0062】
本発明の別の特徴によると、インキュベータは、エンクロージャの開口部を密閉するためのドアを備え、この開口部は外周縁を備え、該外周縁には、導管支持ストリップを受容するように適合された形状の凹部が形成され、該ストリップは、該ドアが該エンクロージャの閉位置にあるときに該ドアと該外周縁との間に密閉部材を形成する。
【0063】
導管支持ストリップの組み込みにより、入口での導管の配置を迅速かつ容易に行うことが可能となる。実際、導管のハウジングの溝を外周縁に直接組み込むこと、及び導管を溝に1つずつ配置することからなる既知の技術とは対照的に、本発明は、全ての導管を単一工程で取り付けることを提案する。加えて、密閉は、もはや導管ではなくストリップで行われ、これにより、このストリップがドアを支持することができる剛性構造を有し得るため、密閉を行うのがより容易になる。
【0064】
本発明はまた、上述のタイプの少なくとも1つのインキュベータと、該少なくとも1つのインキュベータのエンクロージャにおける培養条件を調節し、かつ該エンクロージャ内に収容されたカセットの弁を制御することを目的とした、データの取得及び記録手段を含むコンピュータ制御システムとを備える、細胞培養自動装置にも関する。
【0065】
本発明はまた、上記の自動装置による細胞培養のプロセスにも関し、このプロセスは:
(a)上記の細胞培養カセットを、インキュベータのエンクロージャ内の、解凍位置にある支持及び撹拌装置上に配置する工程;
(b)培養するべき細胞をバッグに供給する工程;
(c)該カセットを細胞培養位置にある該支持体及び撹拌装置に配置する工程;
(d)該細胞培養カセットを一定時間振盪してその内容物を均質化する工程;
(e)該細胞培養カセットをインキュベーション条件下で数日間維持する工程;及び
(f)該カセットの管のうちの1つによって該カセットの内容物を回収する工程を含む。
【0066】
このプロセスは:
・工程(d)の間に、バッグの内容物を試料採取する1つ以上の工程をさらに含み、該1つ以上の工程のそれぞれの前に、支持トレイを水平培養位置から、該バッグの試料採取領域が該バッグの最低点となる傾斜位置に傾ける工程が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
添付の図面を参照しながら、単なる例である以下の説明を読めば、本発明がよりよく理解され、本発明の他の詳細、利点、及び特徴が明らかになるであろう。
【0068】
図1図1は、本発明による細胞培養自動装置の概略斜視図であり、該自動装置は、開いているサーモスタット制御エンクロージャを画定しているインキュベータを備える。
図2図2は、分離されたインキュベータの概略斜視図である。
図3図3A及び図3Bは、支持及び撹拌手段並びにカセットの概略側面図である。
図4図4は、支持及び撹拌手段並びにカセットの概略斜視図である。
図5図5は、支持及び撹拌手段に支持されているカセットの概略上面図である。
図6図6A図6Cは、自動装置の恒温エンクロージャにおけるカセットの異なる動作位置を示している。
図7図7は、上側ハーフシェルを示す、本発明によるカセットの概略斜視図である。
図8図8は、下側ハーフシェルを示す、本発明によるカセットの概略斜視図である。
図9図9は、図8の点線の領域の概略拡大図である。
図10図10は、上側ハーフシェルが取り除かれた、図7のカセットの概略斜視図である。
図11図11は、分離された下側ハーフシェルの概略斜視図である。
図12図12は、図11の点線で囲まれた領域の概略拡大斜視図である。
図13図13は、上側ハーフシェルの概略斜視図である。
図14図14は、上側ハーフシェルの概略斜視図である。
図15図15Aは、カセットの導管の弁を開閉するための受容プレートの概略斜視図である。図15B及び図15Cは、図15Aに示されているプレートのほんの一部の概略拡大斜視図である。
図16図16A図16B、及び図16Cは、図15Aのプレートと共に使用することができる弁の第1の変形形態を示している。
図17図17A及び図17Bは、図15Aのプレートと共に使用することができる弁の第2の変形形態を示している。
図18図18は、図16A図16B、及び図16Cの弁を回転させる手段の概略斜視図である。
図19図19A及び図19Bは、図17A及び図17Bの弁アクチュエータの概略斜視図である。
図20図20は、複数のインキュベータ及び遠心分離機からなる細胞培養システムの概略斜視図である。
図21図21は、本発明による細胞培養プロセスの工程を示すフローチャート(organization chart)である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
まず、本発明による細胞培養自動装置10の一実施態様の例を表す図1及び図2を参照する。この自動装置10は、例えば、ヒト胚性幹細胞を除く幹細胞の培養を目的とする。
【0070】
図示されているように、自動装置10は、本質的に3つの要素:
・本発明による細胞培養カセット16を支持して撹拌するための装置14を備える恒温エンクロージャを有するインキュベータ12(図1及び図3);
・該インキュベータ12及び遠心分離機20を支持するラック18、並びに
・インキュベータ12及び遠心分離機20に接続され、かつフレーム18によって支持された弁及びポンプを制御するためのコンピュータシステムからなる。
【0071】
典型的には、コンピュータシステムは、データの入力及び記録装置、データ処理装置、表示装置、並びにインキュベータ及びカセット16の弁とポンプの信号伝送制御及び信号伝送監視装置を含む。好ましくは、コンピュータシステムは、タッチスクリーンディスプレイ22、及び操作者若しくは使用者によるデータ入力部を含む。
【0072】
生物学的プロトコルの工程の制御及びトレーサビリティは、コンピュータシステム及び適切なヒューマンマシンインターフェース(HMI)によって保証することができ、これにより、特に以下が可能となる:
・各幹細胞移植の製造プロセス、すなわち自動装置、各工程の温度、CO2率、及び時間などの培養パラメータへの操作者の介入の工程の完全なトレーサビリティ、並びに特定のプロセスの工程で必要な検証作業を保証すること、
・入力インターフェース、バーコードデータの読み取りと保存のための手段、及びRFIDラベルによる、プロセスで使用される消耗品及び試薬のトレーサビリティ、並びに内部データベースで収集された情報の整合性の検証を保証すること。このトレーサビリティは、消耗品及び試薬の全製造、貯蔵、及び輸送チェーン、並びにこれらの構成要素の温度を維持するための材料の状態に適用することができる。
・プロセスの工程の進行を例示する動画及び画像を通じてプロトコルの工程の詳細を使用者に体系的に示すこと、
・患者識別データ、幹細胞移植片の特徴付けに関連する生物学的データを安全に記録すること、
・各アクチュエータ制御機能を制御すること、
・自動装置又は流体カセットに存在する様々なセンサのデータを記録し解釈すること。
【0073】
図2に示されているように、インキュベータ12は2つのドア、すなわち該インキュベータ12のエンクロージャ28の開口部26を取り囲む第1の接触面24に当接される第1の内側ドア22、及び該第1の接触面24を取り囲む第2の接触面31に当接される第2の外側ドア30を備えている。第1のドア22及び第2のドア30はそれぞれ、例えば、同じ垂直軸を中心に回動可能である。エンクロージャ28は、該エンクロージャ28の上部に配置された換気手段33を収容する(図1図6A図6B、及び図6C)。これらの換気手段33は、効率的な細胞培養に必要なインキュベータチャンバ内での温度及びガスの均一な分布を可能にし、かつ適切な温度を有するように設計され、構成されている(図1図6A図6B、及び図6C)。従って、バッグ内に含められている培養培地の解凍中に、チャンバ内の熱が均一に分布して細胞培養培地の急速解凍が可能となる。
【0074】
内側ドア22は、インキュベータ12を閉じた位置に保ったまま該インキュベータ12のチャンバ28の内容物を観察できるように透明なガラスで形成することができる。エンクロージャ28の開口部26は、第1の接触面に対応する外周縁24を備え、その下縁24aは、特に図7及び図8を参照して以降により詳細に説明されるカセット16の管又は導管36、38を保持するためのストリップ34を受容するようになっている凹部32を備える。図4図5図7、及び図8で確認できるバー34は、実質的に平行六面体の形状を有し得る剛性シェルを形成する。バー34はまた、下面42及び上面42によって互いに連結された2つの相反する側面40も備え得る。導管又は管36、38は、ストリップ34の孔を水密に貫通して延在する。これらの孔は、側面40並びに下壁及び上壁42に対して実質的に垂直な壁44に形成されている。バー34の各側面40は、下面42及び上面42に平行な溝46を有する。側面40の溝46は、バー34の中央面に対して互いに非対称に、かつ両方の側面40に平行に配置されている。これらの溝46は、ストリップ34が凹部32内に配置されるようにするために、インキュベータ12の下側外周縁24aの凹部32の側面から延びたリブ(見えない)を受容するようになっている。溝46の非対称の配置は、ストリップ34をインキュベータ12の凹部32に取り付けられるときにコーディング(coding)の実施を可能にする。従って、より一般的には、ストリップは、該ストリップをインキュベータの開口部の外周縁の凹部に取り付けるときのコーディング手段を備えることができる。次いで、開口部は、インキュベータの開位置とインキュベータの閉位置との間で移動可能なドア又はハッチなどの可動部材によって閉じることができる。バー又は剛性シェル34は、好ましくは、凹部32の形状と相補的な形状を有する。この相補的な形状は、ストリップ34が凹部32内の所定位置にあるときに、その下面42が該凹部32の底面に接触し、かつ上面42がインキュベータ12のエンクロージャ28の開口部26の外周縁24の残りの部分と同一平面上にあって、第1のドア22を密閉して支持できるような実質的に平坦な表面を形成するようにすることができる。このようにして、インキュベータ12のエンクロージャ28の開口部26の外周縁24に対する内側ドア22の密閉を単純な方法で行うことができる。加えて、管36、38又は導管の第1のドア22の通過は、該管36、38を1つずつ操作する必要なく容易に実現することができる。最後に、第1のドア22がストリップ34に当接すると、閉じる力が、管36、38にではなくストリップ34の剛性構造に加えられ、これにより該管36、38が潰れるのが防止されて、これらの流体通路断面が確保される。好ましくは、凹部32は、第1のドア22、次いで第2のドア30を閉じることができるようにストリップの該凹部32への正確な配置を確認するためにストリップ34の存在センサ47を備えることができる。
【0075】
図2に示されているように、インキュベータチャンバ12の前面は、エンクロージャ28の開口部26の外周縁24の凹部32につながっている別の凹部48を有する。この凹部48は、導管又は管36、38が第1のドア22及び第2のドア30の凹部32を通過して遠心分離機に至ることを可能にするようになっている。実際には、この第2の凹部48は、ハッチ(不図示)、例えばスライドハッチによって閉じることができる。
【0076】
図3Aに示されているように、恒温エンクロージャ28は、本発明による細胞培養カセット16を支持して撹拌するための装置14を備えている。この装置は、互いに連結された支持装置50と撹拌装置52とに分けることができる。支持装置50は、支持トレイ54又はカセット16支持クレードル及びベース60からなる。トレイ54は、恒温エンクロージャ28の底部に配置された第1の端部56及び該第1の端部とは反対側の第2の端部58を有し、該第2の端部58は、水平軸63を中心に回動可能に、実質的に垂直に延びたベース60に連結され、該ベース60は、該恒温エンクロージャ28の床を形成する壁62によって保持されている(図3A及び図4)。より正確には、図3Bに示されているように、トレイ54の第1の端部56は、エンクロージャ28の床62から垂直に延びている、トレイ54の両側に形成された2つのアーム65上の軸63に保持され、該軸63を中心に回動される。
【0077】
撹拌装置52は、連結ロッド64を有する連結ロッド/クランク型システムを備え、該連結ロッド64の一方の上端部は、その反対側の上端部でトレイ54をその下面で支持しているオシレータ又は垂直振動ロッド66の下端部に連結されている。連結ロッド64の下端部は、実質的に水平な回転軸70を有するモータシャフトによって回転駆動されるクランクハンドル68に連結されている。この軸70は、軸63に対して垂直である。オシレータの上端部66は、回転軸70に対して垂直な平面内での該オシレータの運動を可能にするようにトレイに連結されている。また、オシレータ66の上端部は、軸70の方向において支持トレイ54に移動可能に連結され、この連結は、場合によっては、該オシレータ66の上端部からフィンガーを該トレイ54のスロット71又は溝の中にスライドさせることによって行うことができる。
【0078】
図3図4、及び図5に示されているように、オシレータ64は、インキュベータ12のエンクロージャ28の床壁62を通過している。好ましくは、ベローズのような密閉手段が、撹拌装置52の機械構成要素に損傷を与え得る熱及び湿気が恒温エンクロージャ28の外部に移動するのを回避するために、床壁62の通過領域のレベルでオシレータ66の周囲に設けられる。
【0079】
図6A図6B、及び図6Cは、撹拌手段によるトレイ54の運動中に該トレイ54がとる3つの位置を示している。図6Aは、その上側の位置にあるトレイ54を示し、図6Bは、その下側位置にあるトレイ54を示している。これら2つの位置のいずれにおいても、トレイは水平面に対して傾斜している。図6Cは、トレイ54が実質的に水平である中央位置を示している。従って、運転中に、カセット支持トレイ54は、軸63(図4)を中心としたその極端位置(図6A及び図6C)間で傾けることができる。
【0080】
図2に示されているように、カセット16の支持トレイ54は、開口部74又は中空部及び中実部76を有するフレーム72によって形成されている。トレイ54の第1の端部56に近接した中空部74は、以下に説明されるカセットの下側ハーフシェルに対面するようになっている。中実部76は、トレイ54の第2の端部58の近傍に配置されている。この中実部76は、カセット16がフレーム72に支持され、かつインキュベーション段階を行うことを可能にする位置に対応するトレイ54上の所与の位置に細胞培養カセットを位置決めしてロックするための手段を備えている。位置決め手段は、カセット16の2つの止まり穴(後述)と協働するように上方に突出した2つのピン78を備える。カセット16をロックする手段は、カセット16をトレイ54にロックするために、後述するカセットフックに係合するクリップフック80又はスナップフックを備えている。トレイ54のフレーム72の中実部46のフック80は、2つのピン78の間に配置されている。
【0081】
図2に示されているように、トレイは、弁を開閉するための3つの電気機械式アクチュエータ82を備え、各アクチュエータ82は、カセット16がトレイ54のフレーム72に支持されているときの該カセットの第1の弁結合手段と協働する第2の結合手段を有する出力部を備えている。
【0082】
フレーム72の上には、該フレーム72から離れてカセット16を支持する構造体84が配置されている。この支持構造体84は、解凍段階に対応する第2の位置でカセット16を支持することを可能にする。この支持構造体84は、平坦な壁88によって互いに連結された2つの横方向フィン86を備え、これらは共に、第2の位置にあるカセット16の共通の支持平面を形成する。第1の位置にあるカセット16の支持面と第2位置にあるカセット16の支持面とは、互いに対して傾斜していることに留意されたい。第2の位置は、解凍段階中にピン78によって、一般にプラスチックから形成されるエンベロープのいかなる裂けも回避するためにフレーム72から離れて、該エンベロープ内に真空密封されたカセット16を支持することを可能にする。
【0083】
ここで図7及び図8を参照すると、これらの図面は、トレイ54に対するカセット16の位置決めで参照した第1の端部92及び第2の端部94を有する直方体の形状に実質的に対応する形状を有するハウジング90を備える本発明による細胞培養カセット16を示している。ハウジング90は、互いに一体の下側ハーフシェル96(図9図12)及び上側ハーフシェル98(図13及び図14)を有し、該下側ハーフシェル96は剛性であり、該上側ハーフシェル98は、剛性又は部分的に剛性である、すなわち可撓性部分を含む。下側ハーフシェル96及び上側ハーフシェル98の2つは共にハウジングを画定し、該ハウジング内に、細胞培養培地で充填されるべき内部容積を画定する可撓性細胞培養バッグ100が固定される。
【0084】
下側ハーフシェル96と上側ハーフシェル98は、4つの外周縁102a、102bによって互いに連結されている。下側ハーフシェル96と上側ハーフシェル98の2つは、それらの外周縁102a、102bをクリッピング、接着、又は溶接することによって組み立てることができる。好ましい一実施態様では、下側ハーフシェル96及び上側ハーフシェル98は共に剛性である。
【0085】
下側ハーフシェル96は、好ましくは20 mm未満の直径を有する複数の孔104を備える。例えば、カセット16は、長さが405 mm、幅が305 mm、厚さが25 mmである。カセット16はまた、互いに離間した2つの止まり穴106を備え、これらの間に貫通開口部107が形成されている。止まり穴106は、上側ハーフシェル98に向かって延びている、下側ハーフシェル96の凹部109によって形成されている(図11及び図12)。上側ハーフシェル98は、液体を含むカセット16が水平軸63を中心に振動されたときにバッグ100の液体の波の開口部への伝播を可能にするように形状及びサイズが決定された該開口部又は凹部108を備え、該開口部108(又は切り抜き部)は、上向きに配置されている(図7図13図14)。上述のように、凹部108の形成は、カセット16がトレイ54上の第2の位置に装着されて、該トレイが図6A図6B、及び図6Cに描かれているように振動方式で運動したときに、ハウジング内のバッグ100の表面が波打つことを可能にする。上側ハーフシェル98は、既に上述したように、トレイ54のフレーム72のフック80に係合するクリップフック112を保持する弾性舌状部110を備えている。従って、上側ハーフシェル98のフック112は、下側ハーフシェル96の開口部107を通過するように構成されている。最後に、上側ハーフシェル98は、手動弁作動プラグ116を挿入するための円形孔114も備え、該弁作動プラグ116の使用は、図17及び図18を参照するとより明確に明らかになるであろう。
【0086】
ハウジング90の第1の端部92に位置する下側ハーフシェル96の外周縁102aは、細胞培養カセット16がインキュベータ12のエンクロージャ28内のトレイ54上のその第1の位置に装着されたときに、トレイ54の支持構造体84のスロット118と協働するようになっている直線状リブ116を有することに留意されたい(図8図9図11図12)。この第1の位置では、上側ハーフシェル98のクリップフック112が、下側ハーフシェル96の開口部107を通過してトレイ54のフレーム72のフック80と協働して、カセット16がこの第1の位置にロックされるようにする(図3図4、及び図5)。カセット16を解放して培養エンクロージャ28から取り出す際には、タブ110を押すだけでよく、これにより、上側ハーフシェル98のフック110がフック80、従ってトレイ54から係合解除される。
【0087】
パッド120は、上側ハーフシェルの中にスナップ留めすることによって固定され、カセット16の管36、38を該上側ハーフシェル98の外面上の折り曲げられた位置に保持するのに適している。
【0088】
図10は、ハウジング90の内部を示し、上側ハーフシェル98は示されていない。見て分かるように、細胞培養バッグ100は、空の状態及び液体が充填された状態で互いに実質的に平行な第1の壁122及び第2の壁(見えない)を備える実質的に長方形の形状を有する。第1の壁122及び第2の壁は、溶接又は接着などの任意の手段を用いて、それらの外周縁123によって互いに連結されて一体にされている。本発明の特定の一実施態様では、バッグの内部容積に対する第1の壁122又は第2の壁のうちの一方の表面積の比率は、540~600 cm2/Lであり、好ましくは580 cm2/L程度である。第1の壁122と第2の壁との間の距離は、20 mm未満、好ましくは10~20 mm、さらに好ましくは約14 mmである。
【0089】
細胞培養バッグ100は、下側ハーフシェル96の内面から突出したピン124によって該下側ハーフシェル96に固定されている。これらのピン124は、細胞培養バッグ100の外周縁123の孔を貫通している。バッグ100の内部容積は、複数の導管を介して外部と連通している。特に、カセット16は、4本の導管又は可撓性管36、38を備えることができ、そのうち3本の導管36が既に記載されたバー34に取り付けられ、第4の導管38は独立している。
【0090】
より具体的には、カセット16は、第1及び第2の試料採取管36a、36b、及び排出管36cを備えている。管38は、目的の細胞を注入するための管に対応する。図5図7図8図9、及び図10に示されているように、カセットは、バッグ100を培養培地で最初に充填するための管39も備えている。本発明によるカセット16の好ましい一構成では、4本の管36a、36b、36c、38は、無菌コネクタ及び/又は無針引き抜きコネクタ(needle-free withdrawal connector)であり得るコネクタを備え、該コネクタは、必要に応じて逆止め手段も備える。以下の説明において、参照番号36が単独で使用される場合、この参照番号36は、管36a、36b、又は36cの少なくとも1つを指す。
【0091】
図10に示されているように、管36、38は、下側ハーフシェル96の同じ外周縁102a、すなわちハウジング90の第2の端部94に形成された外周縁102aのノッチ126を通って延在している。充填管39は、管36、38が通る側に隣接した一側に延在し、該管39が、弁128とバッグ100との間を流体連通させるように配置された管36の部分において、ハウジング90内に配置された該管38の端部に連結されている。
【0092】
各管36、38は、該管36、38を通る流体の流れを通過/遮断するための弁128、130a、130b、130cを通過し、これらのピンチ弁128、130は、ハウジング90内に配置されている。図示されている例では、3本の管36が第1のタイプの弁130を通過し、管36aは弁130aを通過し、管36bは弁130bを通過し、管36cは弁130cを通過する一方、第4の管38は、第2のタイプの弁128を通過している(図10及び図15A)。より正確には、ハウジング90は、プレート132(図15A図15B及び図15C)を備え、該プレート132は、それぞれ管36、38を締め付けるための可動部材136、138(図16及び図17)を受容する複数の実質的に円筒形の凹部134を有する。従って、このプレートは、弁128、130の本体又は固定部を形成する。プレート132の各凹部134は、プレート132がハウジング90内に装着されたときに下側ハーフシェル96の孔144に整合する中心孔142を画定する環状底壁140を備えている(図10及び図12)。
【0093】
各可動部136、138は、垂直方向において、下側ハーフシェル96及び上側ハーフシェル98並びにカセットの配置に対して下端部136a、138a及び上端部136b、138bを備えている。もちろん、より一般的に下端部を第1の端部とし、上端部を第1の端部の反対側の第2の端部とすることも可能であろう。従って、各可動部材136、138の上端部136b、138bは、該凹部の孔142に適合するようになっている円筒壁148bを、プレート132の凹部134の孔142の周辺で、回転軸136c、138cに沿って支持し、かつ取り囲むようになっている環状肩部146bを備えている。この場合、部材136の表面146bは、弁130a、130b、130cの凹部134の底面140に支持されている。従って、プレート132の凹部134内に可動部136、138の第2の端部136b、136aを回転により中心に案内することが可能である。各可動部材136、138の下端部136a、138aは、下側ハーフシェル96の孔144の周辺で回転軸136c、138cに沿って支持するようになっている環状肩部146aと、該下側ハーフシェル96の孔144に挿入されるようになっている円筒壁148aとを有する。この場合、構成要素138の表面146bは、弁128の凹部134の底面140に支持される。このようにして、各可動部136、138は、下側ハーフシェル96及びプレート142に対して回転により中心に案内され、該プレートはそれ自体が、該下側ハーフシェル96の内面にあるスタッド152が挿入される耳150によって固定され、そして上側ハーフシェル98により、その周縁102bが該下側ハーフシェル96の周縁102aに固定される。従って、可動部136、138の下端部136a、138aは、下側ハーフシェル96を貫通して露出され、従って、図9に示されているように下側ハーフシェル96の外面からアクセス可能である。
【0094】
可動構成要素136は、管36に関連して図16A図16B図16Cに示されているように、それらの下端部136aに、インキュベータ内に配置された、可動構成要素136の第2のアクチュエータ結合手段82と協働するようにハウジングの外部からアクセス可能な第1の結合手段を有する。部材136の下面に形成された第1の結合手段は、ここでは、半径方向内側端部が回転軸136cを横断している半径方向のスロット151、及び該回転軸136cを中心とする半円溝153を備えている。アクチュエータ82の第2の結合手段は、例えば、2本のロッド155a、155bを備えることができ、そのうちの第1のロッド155aは、アクチュエータ82の回転軸の中心に位置し、第2のロッド155bは、第1のロッド155aに対して半径方向にずれている。図3Aに示されているように、カセット16がフレーム72に装着されると、第1のロッド155aが、スロット151の半径方向内側端部に係合し、第2のロッド155bが半円溝153に係合する。半円溝153を使用すると、カセット16をフレーム72に装着する前の可動部材136の角度位置に関係なく、第2のロッド153bが溝153と確実に協働することを理解されたい。半径方向スロット151の可動部136への一体化により、必要に応じて、可動部136を手動で作動させることができる。
【0095】
管38に関連する図17A及び図17Bの弁138の場合には、第1の結合手段は、可動部材138の上端部138bに形成されている。弁130の3つの可動部材136とは異なり、弁128の可動部材138は、電気機械式アクチュエータによって作動されるのではなく、図18A及び図18Bに示されている部材又はノブ154の回転によって手動で作動される。ここでは、結合は、可動部材138の上端部138bにある交差凹部157によって行われ、該交差凹部157に、作動ボタン154の相補形の交差部材156が係合する。ボタン154は、複数の弾性変形可能なフック158によって上側ハーフシェル98に固定され、該フック158は、上側ハーフシェル98の円形孔114の内周面に係合する。
【0096】
管36、38を締め付けるために、各可動部材136、138は、その回転軸136c、138cを中心とする螺旋状突出部160を備えている。各突出部160の半径方向の外面が、管36、38に対する支持面を形成する。各突出部160は、回転軸136c、138cに垂直な平面に対称面を有する。各管36、38は、下側ハーフシェル96の半円断面の直線溝162内に部分的に収容され、別の部分が、プレート132の半円断面の直線溝164内に収容され、これにより、可動部の回転軸136c、138cに垂直な方向において、プレート132の凹部134の外周部を通過している(図11図12図15A図15B図15C)。従って、弁128、130の可動部材136、138の回転により、突出部160が、可動部材136、138の回転方向によって管36、38の一部を確実に漸進的に開く又は閉じる。
【0097】
プレート132の凹部の各環状底壁140は、凹部134の内側に突出し、かつ互いに円周方向に離間している2つのストッパー部材166a、166bを保持している。突出部を保持する自由端を有する弾性ラメラ168を凹部134に画定するように、切り欠き部167が該凹部134の各環状底壁140に形成され、この突出部は、可動部136、138と摺動的に協働する凸状部171を有する(図15B図15C)。突出部170は、各可動部136、138の、円弧状の凹状に湾曲した底部を有する溝172と摺動的に協働する。図16A図16B、及び図16Cの可動部材136の場合には、溝172は、突出部160と上側環状肩部146bとの間に軸方向に配置された半径方向環状フランジ174の、可動部材136の上端部136bに面する面に形成されている。同様に、図17A及び図17Bの可動部材138の場合にも、溝172は、突出部160と上部環状肩部146bとの間に軸方向に配置された半径方向環状フランジ174の、可動部材138の上端部138bに面する面に形成されている。
【0098】
可動部材136、138の停止位置、すなわち流体が流れることができる開放位置に対応する1つの位置と流体が流れることができない閉鎖位置に対応するもう1つの位置を形成するために、半球状キャビティ176a、176bが、各溝170、172の円周方向の端部に形成されている。また、各可動部材136、138は、上側肩部146bから横方向に延びた半径方向のフィンガー178を備え、該フィンガー178は、溝172を有するフランジ174の面に接触していることにも留意されたい。従って、管36、38を通る流れの遮断位置では、可動部材136、138は、弾性ラメラ168の突出部170が該可動部材136、138のキャビティ又は凹部176aに係合するように配置され、該可動部材136、138の半径方向のフィンガー178は、ストッパー部材166aに対して、図15では反時計回りの回転で停止するように配置されている。管36、38を通る流れの通過位置では、可動部材136、138は、弾性ラメラ168の突出部170が該可動部材136、138のキャビティ又は凹部176bに係合するように配置され、該可動部材136、138の半径方向のフィンガー178は、ストッパー部材166bに対して、図15では時計回りの回転で停止するように配置されている。突出部170とキャビティ176a、176bとの協働により、閉位置及び開位置における可動部136、138の弾性的なロックを確実にすることが可能になることを理解されたい。
【0099】
上述の弁は、マニフォールドを通る流体の流れを通過/遮断するための装置を必要とする他の装置に十分に使用できることを容易に理解されよう。従って、本説明は、説明された弁を組み込んだ任意の装置、例えば、回転部品が係合する複数の凹部134を有するプレート132を備える装置なども含む。
【0100】
カセット16及び/又はインキュベータが、該カセット16のその第1及び第2の位置のそれぞれへの正しい位置決めをチェックする自動手段を装備することが可能であろう。このために、磁石を、下側ハーフシェル96の内側のハウジング90内に配置することができ、この磁石は、検出されるべき第1及び第2の位置に対してトレイ上に適切に配置された2つのホール効果センサと協働する。
【0101】
図20は、上記の複数のインキュベータ12及び遠心分離機20を備える細胞培養システム180を示している。インキュベータ12及び遠心分離機20は、コンピュータシステムによって制御される。
【0102】
図21は、本発明による細胞培養プロセスの工程を示すフローチャートである。
【0103】
以下に記載されるプロセスの前に、細胞培養カセット16は、横方向の管39を使用して細胞培養培地が充填される。充填後、この管39は、例えば溶接によって直ちに閉じられる。次いで、細胞培養カセット16を、保存及びその後の使用のために平らに、すなわち水平位置で凍結する。
【0104】
プロセスの第1の工程182では、コンピュータシステムを用いて生物学的プロトコルに特有の培養パラメータを取得して記録する。入力は、操作者によって行われ、入力されるパラメータは、例えば、患者の識別、カセットの識別などである。これらのパラメータの入力を容易にするために、コンピュータシステムは、バーコードリーダを装備することができ、カセットは、該カセットの番号及び性質をコンピュータシステムに直接知らせるバーコードを有し得る。次いで、培養されるべき細胞について、バッグなどの容器のラベル上に示されている個人識別データのバーコード読み取りによって、又はそのタッチスクリーンを介した手動入力によって入力される。
【0105】
第2の工程184では、コンピュータシステムは、細胞培養スケジュールに従ってインキュベータの利用可能性をチェックした後に、所与のインキュベータを操作者に割り当てる。操作者は、細胞培養液を含む細胞培養カセット16を前記指定されたインキュベータに装着し、このとき、好ましくは、他のインキュベータ、すなわちロックされている他のインキュベータ12のドア22、30にアクセスできない。
【0106】
第3の工程186では、プロセスは、上記のように培養カセットの可撓性バッグに収容されている培養培地を解凍することからなる。このために、無菌保護エンベロープ内に密封された細胞培養カセット16を、コンピュータシステムによって指定されたインキュベータの支持及び撹拌装置52、すなわち、支持構造体84(図3A及び図3B)の第2の位置に取り付ける。操作者がドア22、30の両方を閉じ、そしてコンピュータシステムが、解凍手順を開始し、該ドア22、30が自動的にロックされる。支持及び撹拌装置は、カセット16が水平に配置されるように運転される。
【0107】
第4の工程188では、解凍後、細胞培養カセット16をインキュベータから取り出し、外側シェルを適切に制御された活動領域で取り外す。
【0108】
第5の工程190では、ヒト胚性幹細胞を除く目的の細胞をカセットに注入する。このために、手動弁128を開位置にする。管36、38は、バッグ100内の液体が流出するのを防止する逆止め手段を備えていることを思い出されたい。細胞を管38によってバッグ100に注入し、次いで弁128を閉位置にし、そして管38を締め付けキャップで密閉する。
【0109】
第6の工程192では、培養培地及び目的の細胞が充填されたカセット16を、インキュベーション位置に対応するその第1の位置に装着する。ストリップ34を、ドア22の開口部32に装着し、バッグ100とは反対側の管36の端部を開口部38に通し、図20に示されているシステムの流体回路に連結する。
【0110】
次に、本発明によるプロセスは、数日間、例えば約10日間持続し得るインキュベーション工程194を含む。周期的に、プロトコルパラメータによって、バッグ100の内容物を、上記説明されたようにトレイ54を軸63を中心に振動させることによって均質化することができる。この均質化(継続時間、反復頻度、振幅)は、選択したプロトコルのパラメータによって決まる。
【0111】
インキュベーション工程中に、操作者が、バッグ100から1つ以上の試料を取り出すことができる(196)(図14及び図22)。これらの試料採取のうちのいくつかは、コンピュータシステムに任せることができる。試料は、管36a及び36bを用いて取り出す。
【0112】
第1の試料を取り出す際には、コンピュータシステムは、流体が管36aを通過できるようにするために、その対応する弁130aに関連する可動部材136を作動させる。試料採取がコンピュータシステムによって実行される場合、無菌性を保証し、かつ既に使用されている試料採取管のその後の一切の使用を回避するように、管36aの最後の充填操作が行われる。第2の試料採取は、同じ方法であるが管36bを用いて行う。
【0113】
バッグ100からの試料採取196の各サブ工程の後、操作者は、該試料の分析を行うことができ、この結果を、操作者によって又は自動的にコンピュータシステムに入力して記録することができる。
【0114】
プロセス198の最後の工程で、コンピュータシステムは、カセット16のバッグ100の内容物を回収又は排出する。
【0115】
最後に、バッグの内容物に対して、精製工程、及び後の使用のための滅菌シリンジへの充填工程を行う。
【0116】
本出願はまた、細胞培養プロセス、特に哺乳動物細胞、特にヒト胚性幹細胞を除くヒト細胞の培養に関する。
【0117】
これらの細胞、特にヒト胚性幹細胞を除くヒト細胞は、有利に、(ヒト)CD34+細胞、特に(ヒト)CD34+造血細胞又は(ヒト)CD34+非造血細胞であってもよいし、又はこれを含んでもよい。これらの(ヒト)CD34+細胞は、例えば、(ヒト)末梢血、(ヒト)臍帯、又はヒト組織、特に(ヒト)末梢血に由来の細胞であり得る。
【0118】
これらの細胞、特にヒト胚性幹細胞を除くヒト細胞は、有利に、幹細胞又は前駆細胞、特に多分化能細胞又は多能性細胞であってもよいし、又はこれを含んでもよい。
【0119】
これらの細胞は、ヒト胚細胞ではないし、これを含みもしない。
【0120】
これらの細胞、特に、ヒト胚性幹細胞を除くヒト細胞は、有利に、G-CSF(成長コロニー刺激因子)などの増殖因子によって動員される末梢血のヒトCD34+(多分化能又は多能性)幹細胞又は前駆細胞であってもよいし、又はこれを含んでもよい。
【0121】
これらの細胞、特にヒト胚性幹細胞を除くヒト細胞は、ヒト対象又は患者(新生児、小児、青年、成人、又は高齢者)であってもよいし、又はこれから採取されてもよい。本発明は、ヒト対象又は患者の末梢血から採取することができるヒトCD34+(多分化能又は多能性)細胞に特に適合されている。患者が化学療法を受けようとしている場合、これらの細胞は、この化学療法の前又は開始時に採取されたものであってもよい。
【0122】
培養用の細胞を含む生物学的試料(例えば、(ヒト)血液の試料、特に(ヒト)末梢血、(ヒト)臍帯血、又はヒト組織の試料、特にヒト末梢血の試料)は、ヒト対象又は患者から採取されるか、又は採取されたものである。
【0123】
本出願の手段は、白血球除去療法の使用を必要としないという利点を有する:単純な血液試料、例えば200~250 mLの血液、特に220 mLの血液の試料は、有意な数の細胞、特に治療及び/又は予防処置、特に(ヒト)対象又は患者の自己又は同種異系細胞療法、特に(ヒト)対象又は患者の自己細胞療法に十分な多数の細胞を得るのに十分である。
【0124】
これは、治療及び/又は予防処置、特に対象又は患者の自己又は同種異系細胞療法、特に対象又は患者の自己細胞療法用のヒトCD34+細胞に特に当てはまる。ヒトCD34+細胞は、ヒト胚性幹細胞を除くヒト非胚性CD34+細胞であり得る。ヒトCD34+細胞は、胚性CD34+細胞ではないし、これを含みもしない。
【0125】
本出願の細胞培養手段では、少量の血液(例えば、200~250 mLの血液、特に220 mLの血液の試料)から、少なくとも70%のヒト(非胚性)CD34+細胞を含む少なくとも107個又は少なくとも108個の細胞の集団を得ることできる。対照的に、このような量のヒトCD34+細胞を単一の対象又は患者の血液から直接(細胞培養なしで)得るためには、7~10 Lの量の血液を白血球除去療法によって処置する必要があろう。
【0126】
培養用の細胞、特にヒト(非胚性)CD34+細胞は、血液試料、特に末梢血試料(例えば、200~250 mLの末梢血、特に220 mLの末梢血の試料)を含む採取された生物学的試料から精製又は単離することができる。
【0127】
細胞は、特定の細胞型の最低レベルに達するように精製することができる。例えば、細胞は、少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%のヒト(非胚性)CD34+細胞、特にヒトCD34+造血(非胚性)細胞を含むように精製することができる。
【0128】
この単離又は精製は、当分野のあらゆる技術者に公知の任意の手段を用いて行うことができる。
【0129】
例えば、ヒト胚性幹細胞を除くヒトCD34+細胞では、この単離又は精製は、ヒト抗CD34モノクローナル抗体、例えば、DAKO DENMARK AS(Produktionsvej 42 ; DK-2600 Glostrup ; Denmark)によってクローンQBEnd-10(コードM7165)の名称で販売されているヒトマウス抗CD34モノクローナル抗体を用いて行うことができる。(ヒト)CD34+細胞の単離又は精製システム、例えば、BAXTER(Deerfield, IL, U.S.A.)によって販売されるISOLEX 300i磁気細胞セパレーター、又はMILTENYI BIOTECH(2303 Lindbergh Street, Auburn, CA 95602, U.S.A.)によって販売されるCD34マイクロビーズキットも市場で入手可能である。
【0130】
精製又は単離された細胞を、その成分がこれらの細胞の増殖に適合されている培養培地上に置く、又はその中に入れる。ヒトCD34+細胞の培養に適した培地を含むこのような培養培地の例は上述されている。例えば、このような培養培地は、ヒトインスリン、ヒトトランスフェリン、及びヒト血漿又は血清を含む培地を含め、上記のような培養培地であり得る。この培養培地は、本出願のカセットのバッグに含めることができる。
【0131】
次いで、例えば、バッグ又は該バッグを含むカセットを本出願によるインキュベータを含むインキュベータ内に配置することによって細胞をインキュベートする。例えば、インキュベーション時間は、特に、ヒト胚性幹細胞を除くヒトCD34+細胞の培養に関する場合は、数日、特に8~10日間、特に9日間であり得る。
【0132】
本出願はまた、ヒト胚性幹細胞を除く細胞、このような細胞を含む細胞集団、及びこのような細胞又は細胞集団を含む医薬組成物にも関する。
【0133】
これらの細胞又は細胞集団は、上記のように、本出願に従った培養によって得ることができる。
【0134】
本出願では、細胞は、特に、ヒト胚性幹細胞を除く(ヒト)CD34+細胞、特に(ヒト)CD34+造血細胞又は(ヒト)CD34+非造血細胞を含み得る。
【0135】
これらの(ヒト)CD34+細胞は、例えば、(ヒト)末梢血、(ヒト)臍帯、又はヒト組織、特に(ヒト)末梢血由来の細胞であり得る。
【0136】
これらの細胞は、有利に、ヒト胚性幹細胞を除く幹細胞又は前駆細胞、特に多分化能細胞又は多能性細胞であってもよいし、又はこれを含んでもよい。
【0137】
これらの細胞は、ヒト胚細胞ではないし、これを含みもしない。
【0138】
これらの細胞は、特に、G-CSF(成長コロニー刺激因子)などの成長因子によって動員される末梢血由来のヒトCD34+(多分化能又は多能性)幹細胞又は前駆細胞を含み得る。
【0139】
ヒト胚性幹細胞を除く本出願の(ヒト)CD34+細胞を含む本出願の細胞は、純粋な形態若しくは単離された形態でもよいし、又は細胞集団に含めてもよい。
【0140】
従って、本出願による細胞集団は、本出願によるヒトCD34+細胞を含むヒト非胚性細胞の集団であり得る。
【0141】
特に、本出願による細胞は、ヒト非胚性細胞(の集団)を含み得、該ヒト非胚性細胞は、以下の特徴:
・該ヒト非胚性細胞が、少なくとも107個のヒト細胞、特に少なくとも108個、又は少なくとも1.5×108個、又は107~1.7×108個のヒト細胞であること、及び
・該ヒト非胚性細胞が、少なくとも70%のヒトCD34+(多分化能又は多能性、かつ非胚性)細胞、特に少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%のヒトCD34+(多分化能又は多能性、かつ非胚性)細胞を含むこと、を含む。
【0142】
これらのヒト細胞はまた、全て同じHLA型、特に同じHLA-A型、HLA-B型、HLA-C型、及びHLA-DR型を有し得る。
【0143】
例えば、本出願による細胞は、ヒト非胚性造血細胞(の集団)を含み得、該ヒト非胚性造血細胞は、以下の特徴:
・該ヒト非胚性造血細胞が、少なくとも107個のヒト非胚性造血細胞、特に少なくとも108個、又は少なくとも1.5×108個、又は107~1.7×108個のヒト非胚性造血細胞であること、及び
・該ヒト非胚性造血細胞が、少なくとも70%のヒトCD34+(多分化能又は多能性、かつ非胚性)細胞、特に少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%のヒトCD34+(多分化能又は多能性、かつ非胚性)細胞を含むことを含む。
【0144】
これらのヒト造血細胞はまた、全て同じHLA型、特に同じHLA-A型、HLA-B型、HLA-C型、及びHLA-DR型を有し得る。
【0145】
本出願の細胞は、該細胞をナイーブ細胞と区別する1つ以上の特徴を有し得る。
【0146】
この文脈における「ナイーブ」という用語は、これらがヒト対象又は患者から直接得られた細胞であること、及び精製されていてもよいが、培養されていない細胞であることを意味する。
【0147】
実際、本出願に従った(例えば、上記のように培養培地上及び/又はバッグ若しくはカセット内での)培養の後、得られるヒト細胞集団は、最初に培養されたナイーブ集団とは、以下の点:
・平均直径がより大きいこと(11.2±0.5μm、特に11.18±0.49μmの直径)、
・CD34-CD14+細胞(細胞移植の効率に良い影響を有し得る単球)の割合が高いこと、
・CD34+CD33-細胞(CD33は骨髄系統のマーカーである)の割合が高いこと(ただし100%ではない)、
・CD34+CD133+細胞(内皮前駆細胞のマーカー)の割合が小さいこと(それでも10%を超えている)、の1つ以上が異なることが観察されている。
【0148】
特に、本出願の細胞は、ヒト胚性幹細胞を除くヒト細胞であり得、該ヒト細胞は、以下の特徴:
1.該ヒト細胞が、少なくとも107個のヒト細胞、特に少なくとも108個、又は少なくとも1.5×108個、又は107~1.7×108個のヒト細胞であること、
2.該ヒト細胞が全て、同じHLA型、特に同じHLA-A型、HLA-B型、HLA-C型、及びHLA-DR型を有すること、
3.該ヒト細胞が、少なくとも70%のヒトCD34+(多分化能又は多能性、及び非胚性)細胞、特に少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%のヒトCD34+(多分化能又は多能性、及び非胚性)細胞を含むこと、
4.該ヒト細胞が、11.2±0.5μm、特に11.18±0.49μmの細胞直径を有すること、
5.該ヒト細胞が、(ヒト)CD34-CD14+細胞を1~12%、特に2~10%又は3.8~10%の割合で含むこと、
6.該ヒト細胞が、(ヒト)CD34+CD33-細胞を10%超、又は20%超、又は25%超(そして有利には、100%未満、特に60%未満、又は50%未満、又は40%未満、又は35%未満)の割合で含むこと、
7.該ヒト細胞が、(ヒト)CD34+CD133+細胞を60%未満又は50%未満(そして有利には、20%超、特に25%超又は30%超)の割合で含むこと、のうちの1つ以上を有する。
【0149】
一実施態様によると、本出願の細胞は、これらの7つの特徴のうち少なくとも2つ、特にこれら7つの特徴のうちの少なくとも3つ、又は少なくとも4つ、又は少なくとも5つ、又は少なくとも6つ、又は7つ全ての特徴を有する、ヒト胚性幹細胞を除くヒト細胞である。
【0150】
例えば、本出願の細胞は、ヒト造血細胞であり得、該ヒト造血細胞は、以下の特徴:
1.該ヒト造血細胞が、少なくとも107個のヒト造血細胞、特に少なくとも108個、又は少なくとも1.5×108個、又は107~1.7×108個のヒト造血細胞であること、
2.該ヒト造血細胞が全て、同じHLA型、特に同じHLA-A型、HLA-B型、HLA-C型、及びHLA-DR型を有すること、
3.該ヒト造血細胞が、少なくとも70%のヒトCD34+(多分化能又は多能性、及び非胚性)細胞、特に少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%のヒトCD34+(多分化能又は多能性、及び非胚性)細胞を含むこと、
4.該ヒト造血細胞が、11.2±0.5μm、特に11.18±0.49μmの細胞直径を有すること、
5.該ヒト造血細胞が、(ヒト)CD34-CD14+細胞を1~12%、特に2~10%又は3.8~10%の割合で含むこと、
6.該ヒト造血細胞が、(ヒト)CD34+CD33-細胞を10%超、又は20%超、又は25%超(そして有利には、100%未満、特に60%未満、又は50%未満、又は40%未満、又は35%未満)の割合で含むこと、
7.該ヒト造血細胞が、(ヒト)CD34+CD133+細胞を60%未満又は50%未満(そして有利には、20%超、特に25%超又は30%超)の割合で含むこと、のうちの1つ以上を有する。
【0151】
一実施態様によると、本出願の細胞は、これらの7つの特徴のうち少なくとも2つ、特にこれら7つの特徴のうちの少なくとも3つ、又は少なくとも4つ、又は少なくとも5つ、又は少なくとも6つ、又は7つ全ての特徴を有する、ヒト造血細胞である。
【0152】
特に、本出願の細胞は、ヒト胚性幹細胞を除くヒト細胞であり得、該ヒト細胞は、以下の特徴:
1.該ヒト細胞が、少なくとも107個のヒト細胞、特に少なくとも108個、又は少なくとも1.5×108個、又は107~1.7×108個のヒト細胞であること、
2.該ヒト細胞が全て、同じHLA型、特に同じHLA-A型、HLA-B型、HLA-C型、及びHLA-DR型を有すること、
3.該ヒト細胞が、少なくとも70%のヒトCD34+(多分化能又は多能性、及び非胚性)細胞、特に少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%のヒトCD34+(多分化能又は多能性、及び非胚性)細胞を含むこと、
4.該ヒト細胞が、11.2±0.5μm、特に11.18±0.49μmの細胞直径を有すること、
5.該ヒト細胞が、(ヒト)CD34-CD14+細胞を1~12%、特に2~10%又は3.8~10%の割合で含むこと、のうちの1つ以上を有する。
【0153】
一実施態様によると、本出願の細胞は、これらの5つの特徴のうち少なくとも2つ、特にこれら5つの特徴のうちの少なくとも3つ、又は少なくとも4つ、又は5つ全ての特徴を有する、ヒト胚性幹細胞を除くヒト細胞である。
【0154】
例えば、本出願の細胞は、ヒト造血細胞であり得、該ヒト造血細胞は、以下の特徴:
1.該ヒト造血細胞が、少なくとも107個のヒト造血細胞、特に少なくとも108個、又は少なくとも1.5×108個、又は107~1.7×108個のヒト造血細胞であること、
2.該ヒト造血細胞が全て、同じHLA型、特に同じHLA-A型、HLA-B型、HLA-C型、及びHLA-DR型を有すること、
3.該ヒト造血細胞が、少なくとも70%のヒトCD34+(多分化能又は多能性、及び非胚性)細胞、特に少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%のヒトCD34+(多分化能又は多能性、及び非胚性)細胞を含むこと、
4.該ヒト造血細胞が、11.2±0.5μm、特に11.18±0.49μmの細胞直径を有すること、
5.該ヒト造血細胞が、(ヒト)CD34-CD14+細胞を1~12%、特に2~10%又は3.8~10%の割合で含むこと、のうちの1つ以上を有する。
【0155】
一実施態様によると、本出願の細胞は、これらの5つの特徴のうち少なくとも2つ、特にこれら5つの特徴のうちの少なくとも3つ、又は少なくとも4つ、又は5つ全ての特徴を有する、ヒト造血細胞である。
【0156】
特に、本出願の細胞は、ヒト胚性幹細胞を除くヒト細胞であり得、該ヒト細胞は、以下の特徴:
・該ヒト細胞が、少なくとも107個のヒト細胞、特に少なくとも108個、又は少なくとも1.5×108個、又は107~1.7×108個のヒト細胞であること、及び
・該ヒト細胞が、少なくとも70%のヒトCD34+(多分化能又は多能性、及び非胚性)細胞、特に少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%のヒトCD34+(多分化能又は多能性、及び非胚性)細胞を含むこと、を有し、かつさらに以下の特徴:
・該ヒト細胞が、11.2±0.5μm、特に11.18±0.49μmの細胞直径を有すること、
・該ヒト細胞が、(ヒト)CD34-CD14+細胞を1~12%、特に2~10%又は3.8~10%の割合で含むこと、の少なくとも1つ又は両方を有する。
【0157】
例えば、本出願の細胞は、ヒト造血細胞であり得、該ヒト造血細胞は、以下の特徴:
・該ヒト造血細胞が、少なくとも107個のヒト造血細胞、特に少なくとも108個、又は少なくとも1.5×108個、又は107~1.7×108個のヒト造血細胞であること、及び
・該ヒト造血細胞が、少なくとも70%のヒトCD34+(多分化能又は多能性、及び非胚性)細胞、特に少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%のヒトCD34+(多分化能又は多能性、及び非胚性)細胞を含むこと、を有し、
かつさらに以下の特徴:
・該ヒト造血細胞が、11.2±0.5μm、特に11.18±0.49μmの細胞直径を有すること、
・該ヒト造血細胞が、(ヒト)CD34-CD14+細胞を1~12%、特に2~10%又は3.8~10%の割合で含むこと、の少なくとも1つ(又は両方)を有する。
【0158】
この集団の細胞は全て、同じHLA-A型、HLA-B型、HLA-C型、及びHLA-DR型を有し得る。
【0159】
この集団の細胞はまた:
・10%超、又は20%超、又は25%超(そして有利には、100%未満、特に60%未満、又は50%未満、又は40%未満、又は35%未満)の割合の(ヒト)CD34+CD33-細胞、
・60%未満又は50%未満の割合の(ヒト)CD34+CD133+細胞(そして有利には、20%超、特に25%超又は30%超のCD34+CD133+細胞)も含み得る。
【0160】
あるいは、又はこれに加えて、本出願の細胞は、ナイーブ細胞、特にナイーブヒト細胞、特にナイーブヒト造血細胞の特徴と同一(又は有意に異なっていない)の1つ以上の特徴を有し得る。
【0161】
実際、本出願に従った(例えば、上記のように培養培地上及び/又はカセットのバッグ内での)培養の後に、得られるヒト細胞集団(得られるヒト造血細胞集団を含む)は、最初に培養されたナイーブ(造血)細胞集団の特徴と共通の特徴を有し得る。
【0162】
特に、本出願の細胞は、ナイーブ細胞(ナイーブ造血細胞を含む)と比較して、特に最初に培養された(ナイーブ)細胞と比較して以下の特徴:
1.同じ(又は有意に異なっていない)数又は割合のCD34エピトープ、
2.分裂する同一の(又は有意に異なっていない)能力、特に同一の(又は有意に異なっていない)相対長さのテロメア、
3.染色体異常及び倍数性の同じ非存在(又は同じ割合での同じ染色体異常若しくは倍数性)、
4.同一の(又は有意に異なっていない)生存率、特に同一の(又は有意に異なっていない)CD34+細胞の生存率、例えば少なくとも90%又は少なくとも95%のCD34+細胞の生存率、
5.同一の(又は有意に異なっていない)割合のCD34-CD2+/CD3+細胞、
6.同一の(又は有意に異なっていない)割合のCD34-CD19+/CD20+細胞、
7.同一の(又は有意に異なっていない)割合のCD34-CD56+細胞、
8.同一の(又は有意に異なっていない)割合のCD34-CD15+細胞、の1つ以上を有する細胞(造血細胞を含む)であり得る。
【0163】
さらなる一実施態様によると、本出願の細胞は、これらの8つの特徴のうちの少なくとも2つ、又は少なくとも3つ、又は少なくとも4つ、又は少なくとも5つ、又は少なくとも6つ、又は少なくとも7つ、又は8つ全ての特徴を有する。
【0164】
特に、本出願の細胞は、ナイーブ(造血)細胞と比較して、特に最初に培養された(ナイーブ)細胞と比較して以下の特徴:
1.同じ(又は有意に異なっていない)数又は割合のCD34エピトープ、
2.分裂する同一の(又は有意に異なっていない)能力、特に同一の(又は有意に異なっていない)相対長さのテロメア、
3.染色体異常及び倍数性の同じ非存在(又は同じ割合での同じ染色体異常若しくは倍数性)、のうちの1つ以上を有する細胞(造血細胞を含む)であり得る。
【0165】
さらなる一実施態様によると、本出願の細胞は、これらの3つの特徴のうちの少なくとも2つ又は3つ全てを有する。
【0166】
本出願は:
・ナイーブ細胞とは異なる本出願の細胞の特徴と、
・ナイーブ細胞の特徴と同一である特徴との組み合わせを含む、本明細書に記載の細胞の特徴のうちの細胞の特徴の任意の組み合わせを明示的に含む。
【0167】
本出願の細胞培養手段は、エクスビボ細胞増幅手段に本質的に対応する。この細胞培養手段は、患者又は対象からの少量の末梢血の試料から有意な数(特に治療に十分な数)の自己又は同種異系細胞、特に自己細胞(特に自己又は同種異系CD34+細胞、特に自己CD34+細胞)を、これらの細胞に有害な変化をもたらすことなく提供するという利点を有する。
【0168】
下記の表1は、本出願に従った培養バッグでの培養(沈殿により単離され、そして抗CD34磁気ビーズ上での免疫親和性により精製された細胞のIMDM培地(グルタミンが添加され、線維芽細胞を含まず、0.01 mg/mLのインスリン、330 pg/mlのトランスフェリン、及び5%(VN)のヒト血清を含む)での9日間の培養)の実施の前及び後の健康なヒトボランティアのコホートの末梢血から得られた細胞の集団の特徴の例示を示す:
【0169】
【表1】
【0170】
培養が完了したら、得られた細胞、特に得られた(ヒト)CD34+細胞を収集することができる。
【0171】
収集した細胞を精製又は単離、特に精製することができる。特に、CD34+細胞は、例えば上記のように当業者が利用可能な精製手段を使用することによって精製することができる。
【0172】
収集し、場合により精製した細胞を、組成物、特に医薬組成物、特に液体医薬組成物、例えばヒト用の非毒性の薬剤等張液(isotonic pharmaceutical solution)に含めることができる。得られる組成物又は溶液は、本出願の主題である。
【0173】
この組成物は、ヒト用の生理学的に許容し得るビヒクルを含み得る。
【0174】
この組成物は、ヒトに又はヒトの体内に投与可能、特に注射可能となるように製剤することができる。従って、この組成物は、液体であり得、ヒトに対して非毒性の化合物、好ましくはヒトの等張濃度で非毒性の化合物を含む。
【0175】
従って、細胞に加えて、この組成物は、例えば、ヒトに対して非毒性の緩衝液、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(リン酸緩衝食塩水又はPBS)、又はグルコン酸及び/若しくは酢酸緩衝液を含み得る。
【0176】
この組成物はまた、ヒトに対して非毒性の少なくとも1つの添加剤、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)を含むヒト血清又はヒト血漿由来のタンパク質も含み得る。
【0177】
本出願の組成物又は溶液は、使用するまで、例えば冷蔵(凍結)によって保存することができる。
【0178】
本出願の手段は、(治療的及び/又は予防的)細胞治療、特に自己又は同種異系細胞治療、有利には自己細胞治療に使用することができる。
【0179】
この細胞治療は:
・本出願の細胞、特に上記のヒト胚性幹細胞を除くCD34+細胞を含むヒト細胞、又は
・これらの細胞を含む医薬組成物又は溶液、の患者又は対象への投与を含み得る。
【0180】
この患者又は対象は、細胞培養(自己細胞治療又は療法)のために細胞が最初に採取された患者又は対象と同じであってもよい。あるいは、この患者又は対象は、細胞培養(自己細胞治療又は療法)のために細胞が最初に採取された患者又は対象と異なってもよい。
【0181】
細胞治療、特に自己又は同種異系(特に自己)細胞治療は、心不全又は非心臓病の処置又は予防を含み得る。
【0182】
心不全は、特に:
・心室不全、特に左心室不全を含む心不全、
・特に収縮機能障害を伴う心不全、
・特に、心室、特に左心室の収縮機能の変化を伴う心不全、
・より具体的には、左心室駆出分画率(LVEF)の減少に関連する収縮末期容積の増加を伴う心不全であり得る。
【0183】
これには、ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association(NYHA))の分類[The Criteria Committee of the New York Heart Association]. 1994「心臓と大血管の疾患の診断のための命名法と基準(Nomenclature and Criteria for Diagnosis of Diseases of the Heart and Great Vessels.)(第9版)」. Boston: Little, Brown & Co., pages 253-256]に従ったレベルII以上の心不全、特に僧帽弁逆流によって誘発されるレベルII以上(NYHA分類による)の心不全が含まれ得る。
【0184】
心不全には:
・高血圧、
・弁障害、
・先天性疾患、
・難治性狭心症(例えば、強化型体外カウンターパルス(EECCP:Enhanced Extracorporeal CounterPulse)又は神経刺激療法(特に経皮神経刺激(TNS)又は脊髄刺激(SMS))による処置、又はキレート療法(特にEDTA投与療法)では効果がない狭心症)、
・特に心筋症、
・虚血性心筋症、特に心筋梗塞、特に急性心筋梗塞、
・拡張型心筋症、
・肥大型心筋症、
・拘束型心筋症、
・不整脈源性右室心筋症(ARVC)によって引き起こされる心不全が含まれ得る。
心不全には、心筋症、特に
・虚血性心筋症、特に心筋梗塞、特に急性心筋梗塞、
・拡張型心筋症、
・肥大型心筋症、
・拘束型心筋症、
・不整脈源性右室心筋症(ARVC)によって引き起こされる心不全が含まれ得る。
【0185】
心不全には、心筋症、特に虚血性心筋症、特に心筋梗塞、特に急性心筋梗塞)によって引き起こされる心不全が含まれ得る。
【0186】
心不全は、特に、心不全を軽減するか又は完治させることによって、及び/又は心不全の発症を制限することによって処置又は予防することができる。
【0187】
虚血性心筋症、特に心筋梗塞、特に急性心筋梗塞によって引き起こされる心不全は、この心不全を軽減するか又は完治させることによって、及び/又はこの心不全の発症を制限することによって処置又は予防することができる。
【0188】
実際、本出願に従った培養、及び場合によっては精製によって得られる細胞(特にCD34+細胞)、又はこれらの細胞を含む医薬組成物若しくは溶液は、以下の目的:
・梗塞後の壊死及び/又は梗塞後の瘢痕の大きさを含む、虚血後の心筋障害を軽減するか又は完治させること、
・構造を部分的に又は完全に再生し、かつ/又は心筋若しくは梗塞領域の血管を再生すること、
・心室機能、特に左心室機能、特に心室収縮性、特に左心室収縮性を改善又は回復させて、例えば左心室駆出分画率(LVEF)の(特に45%を超えるLVEFを達成する)増加と組み合わせられた収縮末期容積を減少させること、のうちの1つ以上に使用することができる。
【0189】
より具体的には、(急性)心筋梗塞、特に冠動脈心疾患又は心臓発作による(急性)心筋梗塞によって引き起こされる心不全の処置又は予防を目的とする。この使用は、特に:
・左室の機能又は収縮性が損なわれている患者、及び
・最初の事象又は心臓症候群(この最初の事象又は心臓症候群は、ステント留置(複数可)及び経皮経管冠動脈形成術(PTCA)、及び/又は冠動脈バイパス術(CABG)をもたらし得る)の後に新たに発症した急性心筋梗塞を有し、かつ
・この最初の心臓事象の少なくとも10日後(例えば、この最初の心臓事象又は症候群の少なくとも3ヶ月後又は少なくとも6ヶ月後)に左心室駆出分画率(LVEF)が45%以下である患者を対象とする。
【0190】
本出願の細胞、本出願の医薬組成物若しくは溶液の細胞、又は本出願の医薬組成物若しくは溶液の投与を、例えば虚血性脳卒中から数週間以内、特に3~6週間以内に行うことができる。
【0191】
心不全の処置又は予防は、(投与される細胞を梗塞心臓領域へ移植することによる)細胞心筋形成術を含み得る。
【0192】
このような処置又は予防は、本出願による細胞集団(ヒト胚性幹細胞を除くCD34+細胞を含むヒト細胞の集団を含む)、本出願による細胞(ヒト胚性幹細胞を除くヒトCD34+細胞を含む)、又は本出願による組成物若しくは溶液の、外科手術又はカテーテルによるこれらの注入による投与を含み得る。
【0193】
外科的注入は、例えば冠動脈バイパス移植術(CABG)中の、梗塞領域への直接注入であり得る。
【0194】
カテーテル注入は、経皮大腿注入を含み得る。
【0195】
カテーテルには、冠動脈内、心外膜、又は経心内膜注射若しくは注入カテーテルが含まれ得る。
【0196】
例えば、注射又は注入カテーテルには、2D蛍光透視誘導システムなどの2次元(2D)誘導システムに結合することができる、BIOCARDIA(登録商標)(125 Shoreway Road, Suite B, San Carlos, CA 94070, U.S.A.)によって販売されているHELIX(登録商標)カテーテルなどの螺旋針を装備することができる。
【0197】
注射又は注入カテーテルは、例えば、BIOSENSE WEBSTER, INC.(15715 Arrow Highway; Irwindale; CA 91706; U.S.A.)によって販売されているMYOSTAR(登録商標)カテーテルであり得る。
【0198】
注射又は注入カテーテルは、例えば、BIOLOGICS DELIVERY SYSTEMS GROUP(CORDIS Corp., Diamond Bar, CA, U.S.A.)によって販売されているNOGA(登録商標)XP電磁3D心臓マッピングシステムなどの3次元(3D)誘導システムに結合することができる。
【0199】
1つ以上のケモカイン、特に1つ以上のCXCファミリーのケモカイン、特にケモカインCXCL12(間質細胞由来因子1又はSDF-1)を患者又は対象に投与、特に注射することができる。このような投与又は注射は、本出願による細胞集団(ヒト胚性幹細胞を除くCD34+細胞を含むヒト細胞の集団を含む)、本出願の細胞(ヒト胚性幹細胞を除くヒトCD34+を含む)、又は本出願の組成物若しくは溶液の投与、特に注射と同時であってもよいし、これに続けてもよいし、又はこれとは時間的に遅らせてもよい。
【0200】
本出願の手段の使用は、虚血性心筋症によって引き起こされる心不全、又は化学療法によって引き起こされる心不全の処置又は予防に限定されない。本出願の手段(特に本出願のCD34+の手段)を代わりに使用して、非心疾患を処置又は予防することができる。
【0201】
非心疾患は、心臓処置によって誘発されない心臓以外の状態であり得る。
【0202】
本出願の手段を使用して、リンパ腫、特に非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、慢性リンパ性白血病の処置によって誘発される骨髄抑制を含む骨髄抑制を処置することができる。次いで、本出願の手段を使用して、上記のように、CD34+細胞を含む(自己又は同種異系)造血細胞の集団を含む、造血細胞(自己又は別の対象に由来)を静脈内移植によって患者の骨髄に移植することができる。次いで、移植された細胞を使用して患者の骨髄を再生する。
【0203】
あるいは、本出願の手段を使用して、変形性関節症などの軟骨変性を誘発する病状を処置又は予防することができる。次いで、本出願の手段を使用して、上記のように、CD34+細胞を含む細胞集団を含む、本出願による細胞(自己又は別の対象に由来)を患者、特に関節炎の領域に移植することができる。次いで、移植された細胞を使用して患者の軟骨を再生する。
【0204】
あるいは、本出願の手段を使用して、(例えば、肝細胞癌の発症を予防するために)肝不全、特に慢性肝不全、特に慢性非アルコール性肝不全を処置又は予防することができる。次いで、本出願の手段を使用して、上記のように、CD34+細胞を含む細胞(自己)の集団を含む、本出願による細胞(自己又は別の対象に由来)を患者、特に肝臓の領域に移植することができる。次いで、移植された細胞を使用して患者の肝臓を再生する。
【0205】
「含む(including)」又は「含む(containing)」と同義である「含む(including)」という用語は、非限定用語であり、かつ明示的に述べられていないであろう1つ以上の追加の要素(複数可)、成分(複数可)、又は方法の工程(複数可)の存在を排除しないが、「~からなる」又は「~からなった」という用語は、限定用語であり、かつ明示的に述べられていないあらゆる他の追加の要素、工程、又は成分の存在を排除する。「~から本質的になる」又は「~から本質的になった」という用語は、部分的な非限定用語であり、1つ以上の追加の要素(複数可)、成分(複数可)、又は工程(複数可)が本発明の基本的性質に実質的に影響を及ぼさないのであれば、このような追加の要素(複数可)、成分(複数可)、又は工程(複数可)の存在を排除するものではない。
【0206】
従って、「含む(including)」(又は「含む(includes)」)という用語は、「~からなる」、「~からなった」という用語、並びに「~から本質的になる」及び「~から本質的になった」という用語を含む。
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
・少なくとも部分的に剛性であり、かつ内部容積を画定する細胞培養バッグ(100)が配置されて固定される内部空間を内部に画定しているハウジング(90)、
・それぞれ一方の端部が該バッグ(100)の内部容積に接続され、それぞれ該ハウジング(90)の外側に位置する第2の端部を有する導管(36、38)、
・該ハウジング(90)に取り付けられた該導管(36、38)を通る流体の流れを通過/遮断する弁(128、130)を備える、細胞培養カセット(16)。
(態様2)
前記導管(36、38)が、可撓性管によって形成され、かつ前記弁(128、130)のうちの少なくともいくつかが、前記ハウジング(90)の構造部材(132)に対して該管を締め付けるための可動部材(136、138)を備える、態様1記載のカセット。
(態様3)
各可動部材(136、138)が、回転軸(136c、138c)を有し、かつ各可動部材(136、138)の半径方向外周部が、該可動部材(136、138)が回転すると管(36、38)の流体通路断面を変化させるように該管(36、38)の締め付け面を形成する、該回転軸(136c、138c)を中心とする少なくとも1つの螺旋面(160)を備える、態様2記載のカセット。
(態様4)
前記可動部材(136、138)が、前記ハウジング(90)内に配置されて、該ハウジング(90)に組み込まれたプレート(132)の凹部(134)に取り付けられ、各凹部(134)が可動部材を受容する、態様3記載のカセット。
(態様5)
各可動部材(136、138)が、前記ハウジング(90)の外部からアクセス可能である端部(136a、138b)を備え、該端部(136a、138b)が、アクチュエータの第2の回転結合手段と協働する第1の回転結合手段(154)を備える、態様2~4のいずれか一項記載のカセット。
(態様6)
前記可動部品が、その一端が前記ハウジングの開口部に、そして反対側の端部が前記プレートの開口部にくるように回転により中心に案内されることを特徴とする、態様4又は態様4及び5記載のカセット。
(態様7)
前記バッグ(100)が、空の状態及び液体が充填された状態の両方で実質的に互いに平行な第1の可撓性壁(122)及び第2の可撓性壁を備えた実質的に長方形の形状を有する、態様2~6のいずれか一項記載のカセット。
(態様8)
前記バッグ(100)の全内部容積に対する前記第1の壁(122)と前記第2の壁の表面の合計の比率が、500~690 cm 2 /L、好ましくは580 cm 2 /L程度である、態様7記載のカセット。
(態様9)
前記第1の壁(122)と前記第2の壁との間の距離が、20 mm未満、好ましくは10~20 mm、さらに好ましくは約14 mmである、態様7又は8記載のカセット。
(態様10)
前記バッグ(100)の壁が、ガス、特にCO 2 透過性であり、好ましくは、細胞の前記バッグ(100)の壁への接着を可能な限り制限する特性を有する、態様1~9のいずれか一項記載のカセット。
(態様11)
前記ハウジング(90)が、直方体の形状に実質的に対応する形状を有し、かつ互いに固定された下側ハーフシェル(96)及び上側ハーフシェル(98)を備え、該下側ハーフシェル(96)が剛性であり、該上側ハーフシェル(98)が剛性又は可撓性である、態様1~10のいずれか一項記載のカセット。
(態様12)
前記上側ハーフシェル(98)が、液体を含む前記カセット(16)が水平軸を中心に振動されたときに前記ポケット(100)の液体の波の開口部(108)への伝播を可能にするように形状及びサイズが決定される該開口部(108)又は中心凹部を備え、該開口部が上向きに配置される、態様11記載のカセット。
(態様13)
前記下側ハーフシェル(96)が、好ましくは、例えば20 mm未満の直径を有する複数の孔(104)を備える、態様11又は12記載のカセット。
(態様14)
前記導管(36、38)が、前記下側ハーフシェル(96)又は前記上側ハーフシェル(98)のうちの1つの外周縁(102a、102b)の1つを貫通して延在する、態様11~13のいずれか一項記載のカセット。
(態様15)
前記ハウジング(90)の外部に配置され、かつ前記導管(36、38)の少なくともいくつかが横断している導管(36、38)支持ストリップ(34)を備える、態様1~14のいずれか一項記載のカセット。
(態様16)
前記バッグが細胞培養培地を含むことを特徴とする、態様1~15のいずれか一項記載のカセット。
(態様17)
前記細胞培養培地が、ヒトインスリン、ヒトトランスフェリン、及びヒト血漿又は血清を含むことを特徴とする、態様16記載のカセット。
(態様18)
細胞培養培地が凍結されていることを特徴とする、態様16又は17記載のカセット。
(態様19)
前記バッグがCD34+細胞を含むことを特徴とする、態様1~17のいずれか一項記載のカセット。
(態様20)
恒温エンクロージャ(28)、及び態様1~19のいずれか一項記載の細胞培養カセットを支持して撹拌するための装置(14)、及び前記細胞培養カセット(16)を該支持装置内の所与の位置に配置してロックするための手段を備える、細胞培養インキュベータ。
(態様21)
前記支持及び撹拌装置(14)が、水平軸(63)を中心に回動可能に取り付けられた、細胞培養カセット(16)を支持するためのトレイ(54)を備え、該トレイ(54)が、前記バッグ(100)の内容物を撹拌及び均質化するために該水平軸(63)を中心に振動するようになっている、態様20記載のインキュベータ。
(態様22)
前記支持及び撹拌装置(14)が連結ロッド(64)を備え、該連結ロッドの一方の上端部が、オシレータを介して前記プレート(54)に連結され、該連結ロッドの下端部が、その軸(70)が実質的に水平であるモータのシャフトによって回転駆動されるクランク(68)に連結されている、態様21記載のインキュベータ。
(態様23)
前記トレイ(54)が、前記弁(128、130)を開閉するための電気機械式アクチュエータ(82)を保持し、該電気機械式アクチュエータの1つの出力部が、前記カセット(16)が前記所与の位置にあるときに該カセットの該弁(128、130)の第1の結合手段(154)と協働する第2の結合手段を保持する、態様21又は22記載のインキュベータ。
(態様24)
前記エンクロージャ(28)の開口部(26)を密閉するためのドア(22)を備え、該開口部(26)が、凹部(32)が形成されている外周縁(24)を備え、該凹部(32)の形状が、態様15記載のカセットの導管の前記支持ストリップ(34)を受容するように適合され、該ストリップ(34)が、該ドアが該エンクロージャ(28)の閉位置にあるときに該ドア(22)と該外周縁との間に密閉部材を形成する、態様20~23のいずれか一項記載のインキュベータ。
(態様25)
前記支持手段における前記細胞培養カセット(16)の位置を制御するための手段を備える、態様20~24のいずれか一項記載のインキュベータ。
(態様26)
態様20~25のいずれか一項記載の少なくとも1つのインキュベータ(12)と、該少なくとも1つのインキュベータのエンクロージャにおける培養条件を調節するため、及び該エンクロージャ内に収容された前記カセットの弁を制御するための、データの取得及び記録手段を含むコンピュータ制御システムとを備える、細胞培養自動装置。
(態様27)
(a)態様1~19のいずれか一項記載の細胞培養カセット(16)を、前記インキュベータのエンクロージャ(12)内の、解凍位置にある前記支持及び撹拌装置(14)上に配置する工程;
(b)培養するべき細胞を前記バッグ(100)に供給する工程;
(c)該カセット(16)を細胞培養位置にある該支持及び撹拌装置(14)に配置する工程;
(d)該カセット(16)を一定時間撹拌してその内容物を均質化する工程;
(e)該カセット(16)をインキュベーション条件下で数日間維持する工程;及び
(f)該カセット(16)の管のうちの1つによって該カセット(16)の内容物を回収する工程を含むことを特徴とする、態様26記載の自動装置による細胞培養方法。
(態様28)
工程(d)の間に、前記バッグの内容物を試料採取する1つ以上の試料採取工程(196)を含み、該1つ以上の工程のそれぞれの前に、前記支持トレイ(54)を水平培養位置から、該バッグ(100)の試料採取領域が該バッグ(100)の最低点となる傾斜位置に傾ける工程が行われることを特徴とする、態様27記載のプロセス。
(態様29)
前記培養するべき細胞がCD34+細胞であることを特徴とする、態様27又は28記載のプロセス。
(態様30)
心筋梗塞によって引き起こされる心不全の処置に使用するための医薬組成物であって、態様1~19のいずれか一項記載のカセット、若しくは態様20~25のいずれか一項記載のインキュベータ、若しくは態様26記載の自動装置での培養によって、又は態様27~29のいずれか一項記載の細胞培養プロセスによって産生することができる細胞を含み、該細胞が:
・ヒト細胞であり、
・少なくとも10 7 個の細胞であり、
・少なくとも70%のヒトCD34+細胞を含み、
・ヒトCD34-CD14+細胞を1~12%の割合で含み、かつ
・11.2±0.5μmの細胞直径を有することを特徴とする、前記医薬組成物。

図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図16A
図16B
図16C
図17A
図17B
図18
図19A
図19B
図20
図21