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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】貝殻杭、及び、地盤改良方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/08 20060101AFI20221114BHJP
【FI】
E02D3/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019069482
(22)【出願日】2019-03-30
(65)【公開番号】P2020165270
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正美
(72)【発明者】
【氏名】中村 孝道
(72)【発明者】
【氏名】谷口 惠梨
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特許第6489569(JP,B1)
【文献】特開2006-169940(JP,A)
【文献】特開2017-055693(JP,A)
【文献】特開2007-074906(JP,A)
【文献】特開2004-156290(JP,A)
【文献】特開2014-109179(JP,A)
【文献】特開平09-235723(JP,A)
【文献】特開平02-104811(JP,A)
【文献】登録実用新案第3199107(JP,U)
【文献】特開2019-119637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に形成された杭孔に、未焼成の貝殻を粉砕した貝殻粉砕物と微生物とを供給して形成されたことを特徴とする貝殻杭。
【請求項2】
地盤に杭孔を形成し、当該杭孔に、未焼成の貝殻を粉砕した貝殻粉砕物と微生物とを供給して締固めた貝殻杭を構築したことを特徴とする地盤改良方法。
【請求項3】
地盤に杭孔を形成した後、当該杭孔に未焼成の貝殻を粉砕した貝殻粉砕物と微生物とを一緒に供給する供給ステップと当該杭孔に供給された当該貝殻粉砕物を締固める締固めステップとを交互に繰り返して貝殻杭を構築したことを特徴とする地盤改良方法。
【請求項4】
貝殻粉砕物として、ホタテ貝殻を粉砕したものを用いたことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の地盤改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝殻と微生物の代謝作用(微生物反応)とを利用した貝殻杭、及び、当該貝殻杭を用いた地盤改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液状化対策として、液状化対策を要する地盤に杭孔を形成し、この杭孔に投入した砂を締固めた砂杭を構築することにより地盤を改良する、サンドコンパクションパイル工法と呼ばれる地盤改良方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4332569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した砂杭、及び、地盤改良方法では、資源である砂を大量に使用するため、省資源化及び低コスト化を図ることができないという課題があった。
本発明は、廃棄物となる貝殻を利用できて省資源化及び低コスト化を実現できる貝殻杭、及び、当該貝殻杭を用いた地盤改良方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る貝殻杭は、地盤に形成された杭孔に、未焼成の貝殻を粉砕した貝殻粉砕物と微生物とを供給して形成されたことを特徴とするので、液状化対策に効果的で、かつ、廃棄物となる貝殻を利用した省資源化及び低コスト化を実現できる貝殻杭を提供できる。
本発明に係る地盤改良方法は、地盤に杭孔を形成し、当該杭孔に、未焼成の貝殻を粉砕した貝殻粉砕物と微生物とを供給して締固めた貝殻杭を構築したことを特徴とするので、液状化対策に効果的で、かつ、廃棄物となる貝殻を利用した省資源化及び低コスト化を実現できる地盤改良方法を提供できる。
また、本発明に係る地盤改良方法は、地盤に杭孔を形成した後、当該杭孔に未焼成の貝殻を粉砕した貝殻粉砕物と微生物とを一緒に供給する供給ステップと当該杭孔に供給された当該貝殻粉砕物を締固める締固めステップとを交互に繰り返して貝殻杭を構築したことを特徴とするので、液状化対策に効果的で、かつ、廃棄物となる貝殻を利用した省資源化及び低コスト化を実現できる地盤改良方法を提供できる。
また、貝殻粉砕物として、ホタテ貝殻を粉砕したものを用いたことを特徴とするので、液状化対策に効果的で、かつ、廃棄物となるホタテ貝殻を利用した省資源化及び低コスト化を実現できる地盤改良方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】地盤改良方法の手順を示す断面図(実施形態1)。
図2】地盤改良方法の手順を示す断面図(実施形態1)。
図3】実験1に用いた各試験体の成分比を示す図。
図4】実験1の実験結果を示す数値表。
図5】実験1の実験結果を示すグラフ。
図6】実験2に用いた各試験体の成分比を示す図。
図7】実験2の実験結果を示すグラフ。
図8】実験2の実験結果を示す数値表及びグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1図2に示すように、実施形態1に係る貝殻杭5Xは、地盤1に形成された杭孔に、未焼成の貝殻を粉砕した貝殻粉砕物と微生物とを供給して形成されたものである。
また、実施形態1に係る貝殻杭5Xを利用した地盤改良方法は、地盤1に杭孔を形成し、当該杭孔に、未焼成の貝殻を粉砕した貝殻粉砕物と微生物とを供給して締固めた貝殻杭5Xを構築した。
即ち、砂杭の代わりに、貝殻杭5Xを構築した。
【0008】
尚、貝殻粉砕物とは、貝殻をほぼ等しい大きさに砕いて(割って)形成された欠片、貝殻を粒径の大きい粗粒状に砕いて形成された粗粒体、貝殻を粉状に砕いて形成された粉体等を言う。
【0009】
未焼成の貝殻は、約95質量%の無機成分と5質量%程度の有機成分とからなる無機-有機複合体であり、無機成分は炭酸カルシウム、有機成分はコンキオリンとよばれるタンパク質とキチンから構成される。
そして、未焼成の貝殻の構造は、板状の炭酸カルシウム層間にバインダーとして有機質シートが存在し、炭酸カルシウム層と有機質シートとが結合した積層構造となっている。
【0010】
従って、地盤1に形成された杭孔に、未焼成の貝殻粉砕物と微生物とを供給することにより、微生物の代謝作用により生成される二酸化炭素(炭酸イオン)と未焼成の貝殻粉砕物中の炭酸カルシウム以外のカルシウムイオンとが反応する鉱物化反応により貝殻粉砕物の粒子間に炭酸カルシウムが析出されて、貝殻粉砕物の粒子間(炭酸カルシウム層間)の結合がより強固になり、貝殻粉砕物同士が結合されて固化した貝殻杭5Xが形成されると考えられる。
さらに、微生物の代謝作用により生成される二酸化炭素と、土壌中に存在するか、あるいは、土壌に供給されたカルシウムイオンとが反応(鉱物化反応)して、土粒子間に析出される炭酸塩により、土壌が固化すると考えられる。
【0011】
例えば、液状化対策の必要な粘性土地盤1に形成された杭孔に、未焼成の貝殻粉砕物と微生物とを供給することによって貝殻杭5Xが形成された場合、粘性土地盤1のせん断抵抗力が向上するとともに、貝殻杭5Xは貝殻粉砕物同士間の隙間が多い多孔質体となり、透水性及び耐水性に優れたものとなるので、貝殻杭5Xの周囲の間隙水圧が低下することにより、粘性土地盤1の沈下を早期に安定させ、圧密沈下量を低減させる効果が得られると考えられる。
また、液状化対策の必要な砂質土地盤1に形成された杭孔に、未焼成の貝殻粉砕物と微生物とを供給することによって貝殻杭5Xが形成された場合、当該砂質土地盤1の相対密度が高まり、当該砂質土地盤1のせん断強度が向上する効果が得られると考えられる。
【0012】
具体的には、図1(a)~(c)、図2(a),(b)に示すステップを経て貝殻杭5Xを形成するようにすればよい。
【0013】
例えば、図1に示すように、ケーシングパイプ2と、ケーシングパイプ2をケーシングパイプ2の中心軸を回転中心として回転させるとともに、ケーシングパイプ2をケーシングパイプ2の中心軸に沿って昇降させる駆動装置3と、ケーシングパイプ2内にホタテ貝殻粉砕物5及び酵母液を投入するための投入口4とを備えた機械を用い、後述する(1)削孔ステップ、(2)ホタテ貝殻粉砕物及び酵母液投入ステップ、(3)締固めステップ、(4)貝殻杭構築ステップを経て、図2に示すような貝殻杭5Xを構築する。
【0014】
(1)削孔ステップ
図1(a)に示すように、ケーシングパイプ2を回転させながら地盤1中を降下させて、ケーシングパイプ2の先端を所定深度まで到達させて杭孔を形成する。
(2)ホタテ貝殻粉砕物及び酵母液投入ステップ
未焼成のホタテ貝殻を粉砕したホタテ貝殻粉砕物5を、投入口4を介して、ケーシングパイプ2内に投入した後、図1(b)に示すように、ケーシングパイプ2を引き上げてホタテ貝殻粉砕物5を地盤1に形成された杭孔中に排出するとともに、ケーシングパイプ2に付随する図外の供給管を介してケーシングパイプ2の先端よりホタテ貝殻粉砕物5に酵母液を供給する。
尚、酵母液は、例えば、イースト菌(微生物)とグルコース(当該微生物によって代謝される栄養源)とを純水に溶かして作製すればよい。
(3)締固めステップ
杭孔中に排出したホタテ貝殻粉砕物5を、ケーシングパイプ2を昇降させることによって、杭孔中で締固めることにより、図1(c)に示すような、拡径杭部5Aを形成する。
(4)貝殻杭構築ステップ
(2)ホタテ貝殻粉砕物及び酵母液投入ステップと(3)締固めステップとを交互に繰り返して、地盤1の所定深度から地表面まで延長する、図2(a)に示すような貝殻杭5Xを構築し、さらに、地盤1の地盤改良範囲に応じて、図2(b)に示すように、貝殻杭5Xを複数構築する。
【0015】
実施形態1に係る貝殻杭5X、及び、貝殻杭5Xを利用した地盤改良方法によれば、液状化対策に効果的で、かつ、廃棄物となる貝殻を利用した省資源化及び低コスト化を実現できる貝殻杭5X、及び、貝殻杭5Xを利用した地盤改良方法を提供できる。
【0016】
尚、上記では、ホタテ貝殻粉砕物5と酵母液とを一緒に杭孔に供給するようにしたが、ホタテ貝殻粉砕物5と酵母液とを別々に杭孔に供給するようにしてもよい。例えば、ホタテ貝殻粉砕物5を杭孔に供給し、ホタテ貝殻粉砕物5を締固めながら当該ホタテ貝殻粉砕物5に酵母液を供給するようにしたり、杭孔に酵母液を供給した後に、ホタテ貝殻粉砕物5を杭孔に供給して、当該ホタテ貝殻粉砕物5を締固めるようにしてもよい。
【0017】
また、ホタテ貝殻粉砕物と酵母液と土砂とを混合して作製された混合剤を杭孔に供給するようにしてもよい。
この場合、土砂としては、例えば、後述する実験で用いたような、山砂や赤土等を用いればよい。
【0018】
また、微生物としてイースト菌を例示したが、その他の微生物を用いてもよい。
また、微生物によって代謝される栄養源としてグルコースを例示したが、その他の栄養源を用いてもよい。
【0019】
また、ホタテ貝殻粉砕物が、水分を含んだ状態のものであれば、水分を供給しなくてもよい。
また、地盤1の土壌が、水分、栄養分等を含む場合、未焼成のホタテ貝殻粉砕物と微生物とだけを杭孔に供給するようにしてもよい。
【0020】
また、上述したように、杭孔に、未焼成のホタテ貝殻粉砕物と微生物と当該微生物によって代謝されるグルコース等の栄養源とを供給することが好ましいが、必ずしも栄養源を供給しなくても構わない。例えば、培養して活性化させた微生物と未焼成の貝殻粉砕物とを供給するだけでもよい。
【0021】
また、杭孔に、カルシウムイオンを含む硝酸カルシウムや塩化カルシウム等を供給すれば、鉱物化反応が促進されるので、より好ましい貝殻杭、及び、地盤改良効果を得ることができる。
【0022】
また、杭孔に、pH調整剤を供給すれば、微生物反応により発生する炭酸イオンとカルシウムイオンとが反応する鉱物化反応を促進できて、より好ましい貝殻杭、及び、地盤改良効果を得ることができる。
即ち、微生物反応により発生する炭酸イオンとカルシウムイオンとが反応する鉱物化反応を促進させるための土壌のpH環境は、pH8~9であることが好ましいとされており、上述したミネカル、又は、ケイカル、又は、ミネカルとケイカルとを混合した混合肥料を用いて、土壌のpH環境をpH8~9に維持することにより、鉱物化反応を促進できて、より好ましい貝殻杭、及び、地盤改良効果を得ることができる。
【0023】
また、上記では、未焼成の貝殻粉砕物として、ホタテ貝殻粉砕物を使用した例を示したが、例えば、ホタテ貝殻以外の貝殻、たとえば、アワビ、サザエ、カキ、タイラギガイ等の未焼成の貝殻を用いてもよい。
【0024】
尚、本発明において、「地盤に形成された杭孔に、未焼成の貝殻を粉砕した貝殻粉砕物と微生物とを供給」とは、杭孔に、貝殻粉砕物と微生物とを混合したものを供給すること、あるいは、杭孔に、貝殻粉砕物と微生物とを、同時に、又は、別々に供給することを言う。
【0025】
実験1
貝殻粉砕物の大きさの違いによって形成される貝殻粉砕物固化体の支持強度の違いを確認するための実験を行った。
尚、貝殻粉砕物として、未焼成のホタテ(帆立)の貝殻粉砕物を用いた。
【0026】
図3に示すように、試験体は、以下のものを用いた。
・試験体1は、粗い粒子のホタテ貝殻粉砕物350gに、硝酸カルシウム8g+酵母液150mlを供給した試験体とした。当該粗い粒子のホタテ貝殻粉砕物350gは、粒径10mm~2mmのホタテ貝殻粉砕物80~90%+粒径0.85mm~0.1mmのホタテ貝殻粉砕物10~20%であり、当該粗い粒子のホタテ貝殻粉砕物としては、商品名「ホタテチップ」、青森エコサイクル産業共同組合会社製を使用した。
・試験体2は、中粒子のホタテ貝殻粉砕物350gに、硝酸カルシウム8g+酵母液150mlを供給した試験体とした。当該中粒子のホタテ貝殻粉砕物350gは、粒径2mm~0.85mmのホタテ貝殻粉砕物が55~60%+粒径0.85mm~0.005mmのホタテ貝殻粉砕物が40~45%であり、当該中粒子のホタテ貝殻粉砕物としては、商品名「ホタテで元気」、青森エコサイクル産業共同組合会社製を使用した。
・試験体3は、粉状のホタテ貝殻粉砕物400gに、硝酸カルシウム8g+酵母液150mlを供給した試験体とした。当該粉状のホタテ貝殻粉砕物400gは、粒径0.106mm~0.005mmのホタテ貝殻粉砕物が100%であり、当該粉状のホタテ貝殻粉砕物としては、商品名「スキャロップマーカー」、青森エコサイクル産業共同組合会社製を使用した。
尚、酵母液150mlは、イースト菌8gとグルコース8gとを純水に溶かして作製した。
また、各試験体1,2,3は、所定の容器の底に、ホタテ貝殻粉砕物を、深さ20mmとなるように敷き詰めた後に、酵母液150mlを注ぐことで作製した。
そして、各試験体1,2,3を数日間、室温環境下(温度30℃、湿度60%)で放置して、1日経過する毎に、各試験体1,2,3の支持強度の状況を測定した。
支持強度の測定方法は、山中式硬度計により測定した。
【0027】
・実験結果
図4図5からわかるように、各試験体1、2、3は、固化し、特に、中粒子のホタテ貝殻粉砕物にイースト菌を供給した試験体2では、3日後に、支持強度117.1N/mmとなる支持強度の大きい貝殻粉砕物固化体を得ることができた。
【0028】
実験から、未焼成のホタテ貝殻粉砕物に、イースト菌8gとグルコース8gとを純水に溶かして作製した酵母液150mlを供給することによって、ホタテ貝殻粉砕物を固化させることができるという事実を立証できた。
【0029】
実験のように、ホタテ貝殻粉砕物を固化させることができた原因としては、第1に、未焼成の貝殻を粉砕した貝殻粉砕物に、微生物を供給したことにより、微生物の代謝作用により生成される二酸化炭素(炭酸イオン)と未焼成の貝殻粉砕物中の炭酸カルシウム以外のカルシウムイオンとが反応する鉱物化反応により貝殻粉砕物の粒子間に炭酸カルシウムが析出されて、貝殻粉砕物の粒子間(炭酸カルシウム層間)の結合がより強固になり、貝殻粉砕物同士が結合されて固化した貝殻粉砕物固化体が形成されたと考えられる。
第2に、実験では、未焼成の貝殻を粉砕した貝殻粉砕物に、微生物を供給するととともに、硝酸カルシウムを供給したので、当該硝酸カルシウム中のカルシウムイオンと微生物の代謝作用により生成される二酸化炭素とが反応する鉱物化反応が促進されて貝殻粉砕物の粒子間に炭酸カルシウムが析出されることにより、貝殻粉砕物の粒子間(炭酸カルシウム層間)の結合がより強固になり、貝殻粉砕物同士が結合されて固化した貝殻粉砕物固化体が形成されたと考えられる。
【0030】
特に、試験体2のように、ホタテ貝殻粉砕物が中粒子(例えば粒径2mm~0.85mmのホタテ貝殻粉砕物が55~60%+粒径0.85mm~0.005mmのホタテ貝殻粉砕物が40~45%)である場合、ホタテ貝殻粉砕物の中粒子間の隙間が密になり、炭酸カルシウム層間の結合がより強固になって、支持強度の大きい貝殻粉砕物固化体が形成されたと考えられる。
また、試験体1のように、ホタテ貝殻粉砕物が粗い粒子(例えば粒径10mm~2mmのホタテ貝殻粉砕物80~90%+粒径0.85mm~0.1mmのホタテ貝殻粉砕物10~20%)である場合、ホタテ貝殻粉砕物の粗い粒子間の隙間が大きくなるため、炭酸カルシウム層間の結合が弱くなって、形成された貝殻粉砕物固化体の支持強度が大きくならなかったと考えられる。
さらに、試験体3のように、ホタテ貝殻粉砕物が粉状粒子(例えば粒径0.106mm~0.005mmのホタテ貝殻粉砕物が100%)である場合、ホタテ貝殻粉砕物の粉状粒子自体の支持強度が弱いため、形成された貝殻粉砕物固化体の支持強度が大きくならなかったと考えられる。
【0031】
実験2
土壌の違い、供給する貝殻粉砕物の大きさの違いに基づく、土壌改良効果の違いを確認するための実験を行った。
【0032】
図6に示すように、試験体は、以下のものを用いた。
1.試験体名「山砂」は、山砂400gに、硝酸カルシウム8g+酵母液150ml+pH調整剤(ケイカル0.5g+ミネカル19.5g)を供給した試験体とした。
2.試験体名「赤土」は、赤土350gに、硝酸カルシウム8g+酵母液150ml+pH調整剤(ケイカル0.5g+ミネカル12.0g)を供給した試験体とした。
【0033】
3.試験体名「山砂+帆中」は、山砂400gに、中粒のホタテ貝殻粉砕物40g+硝酸カルシウム8g+酵母液150ml+pH調整剤(ケイカル0.5g+ミネカル19.5g)を供給した試験体とした。
4.試験体名「山砂+帆粉」は、山砂400gに、粉状のホタテ貝殻粉砕物40g+硝酸カルシウム8g+酵母液150ml+pH調整剤(ケイカル0.5g+ミネカル1.5g)を供給した試験体とした。
5.試験体名「山砂+帆荒」は、山砂380gに、荒粒(欠片状)のホタテ貝殻粉砕物80g+硝酸カルシウム8g+酵母液150ml+pH調整剤(ケイカル0.5g+ミネカル5.5g)を供給した試験体とした。
【0034】
6.試験体名「赤土+帆粉」は、赤土200gに、粉状のホタテ貝殻粉砕物100g+硝酸カルシウム8g+酵母液150ml+pH調整剤(ケイカル0.5g+ミネカル12.0g)を供給した試験体とした。
7.試験体名「赤土+帆中」は、赤土200gに、中粒のホタテ貝殻粉砕物100g+硝酸カルシウム8g+酵母液150ml+pH調整剤(ケイカル0.5g+ミネカル12.0g)を供給した試験体とした。
8.試験体名「赤土+帆荒」は、赤土200gに、荒粒(欠片状)のホタテ貝殻粉砕物100g+硝酸カルシウム8g+酵母液150ml+pH調整剤(ケイカル0.5g+ミネカル12.0g)を供給した試験体とした。
【0035】
山砂は、粒径5mm~0.125mm程度のものであり、商品名「山砂」、中島砂利の会社製を使用した。
赤土(粘土質の土)は、粒径0.074mm~0.005mm程度のものであり、商品名「山砂」、中島砂利の会社製を使用した。
ホタテ貝殻粉砕物は、未焼成のホタテ貝殻を粉砕したホタテ貝殻粉砕物を用いた。
中粒のホタテ貝殻粉砕物は、粒径2mm~0.85mmのホタテ貝殻粉砕物が55~60%+粒径0.85mm~0.005mmのホタテ貝殻粉砕物が40~45%であり、商品名「ホタテで元気」、青森エコサイクル産業共同組合会社製を使用した。
粉状のホタテ貝殻粉砕物は、粒径0.106mm~0.005mmのホタテ貝殻粉砕物が100%であり、商品名「スキャロップマーカー」、青森エコサイクル産業共同組合会社製を使用した。
荒粒(欠片状)のホタテ貝殻粉砕物は、粒径10mm~2mmのホタテ貝殻粉砕物が80~90%+粒径0.85mm~0.1mmのホタテ貝殻粉砕物が10~20%であり、商品名「ホタテチップ」、青森エコサイクル産業共同組合会社製を使用した。
pH調整剤としての転炉石灰肥料である上述したミネカルは、商品名「くみあいミネカル」、産業振興株式会社製を用いた。
pH調整剤としての鉱さい珪酸質肥料である上述したケイカルは、商品名「くみあいケイカル」、村樫石灰工業株式会社製を使用した。
また、酵母液150mlは、イースト菌8gとグルコース8gとを純水に溶かして作製した。
また、山砂を用いた試験体は、所定の容器の底に、山砂又は山砂とホタテ貝殻粉砕物とを、深さ40mmとなるように敷き詰めた後に、酵母液150mlを注ぐことで作製した。
また、赤土(粘土)を用いた試験体は、所定の容器の底に、赤土又は赤土とホタテ貝殻粉砕物とを、深さ10mmとなるように敷き詰めた後に、酵母液150mlを注ぐことで作製した。
そして、各試験体を7日間、室温環境下(温度30℃、湿度60%)で放置して、1日経過する毎に、各試験体の支持強度を測定した。
支持強度の測定方法は、山中式硬度計により測定した。
【0036】
・実験結果
貝殻粉砕物を供給しなかった試験体、即ち、図6の試験体名「山砂」、及び、「赤土」の経時に伴って得られた支持強度の推移の結果を図7に示す。
図7に示すグラフからわかるように、貝殻粉砕物を供給せずに酵母液を供給しただけの試験体である「山砂」及び「赤土」では、十分な支持強度は得らず、期待した土壌改良効果は得られなかった。
【0037】
山砂に、それぞれ大きさの異なる貝殻粉砕物を供給した試験体「山砂+帆(中)」、試験体「山砂+帆(粉)」、試験体「山砂+帆(荒)」、及び、赤土に、それぞれ大きさの異なる貝殻粉砕物を供給した試験体「赤土+帆(粉)」、試験体「赤土+帆(中)」、試験体「赤土+帆(荒)」の経時に伴って得られた支持強度の推移の結果を示す数値を図8(a)に示し、支持強度の推移の結果を示すグラフを図8(b),(c)に示す。
【0038】
図8(a),(b)からわかるように、試験体「山砂+帆(中)」、試験体「山砂+帆(粉)」、試験体「山砂+帆(荒)」は、いずれも、5日目には、支持強度が117.1N/mmまでになるという優れた土壌改良効果が得られた。
【0039】
また、図8(a),(c)からわかるように、試験体「赤土+帆(粉)」では、3日目には、支持強度が480.6N/mmまでになるという顕著に優れた土壌改良効果が得られることが分かった。
【0040】
上述した土壌改良効果が得られた原因としては、第1に、土壌に、未焼成の貝殻粉砕物と微生物とを供給したことによって、微生物の代謝作用により生成される二酸化炭素(炭酸イオン)と未焼成の貝殻粉砕物中の炭酸カルシウム以外のカルシウムイオンとが反応する鉱物化反応により貝殻粉砕物の粒子間に炭酸カルシウムが析出されて、貝殻粉砕物の粒子間(炭酸カルシウム層間)の結合がより強固になり、貝殻粉砕物同士が結合されて固化した貝殻粉砕物固化体が形成されたと考えられる。
第2に、実験では、硝酸カルシウムを供給したため、硝酸カルシウム中のカルシウムイオンと微生物の代謝作用により生成される二酸化炭素とが反応する鉱物化反応が促進されて貝殻粉砕物の粒子間に炭酸カルシウムが析出されることにより、貝殻粉砕物の粒子間の結合がより強固になり、貝殻粉砕物同士が結合されて固化した貝殻粉砕物固化体が形成されたと考えられる推測される。
第3に、微生物の代謝作用により生成される二酸化炭素と、土壌中に存在するカルシウムイオン、あるいは、土壌に供給された硝酸カルシウム中のカルシウムイオンとが反応(鉱物化反応)して、土粒子間に析出される炭酸塩により、土壌が固化したと考えられる。
即ち、土壌に、未焼成の貝殻粉砕物と微生物とを供給した場合、貝殻粉砕物の固化と土壌の固化との相乗効果によって、土壌改良効果が向上したと考えられる。
【0041】
また、山砂は、粒径5mm~0.125mmであるのに対して、粉状のホタテ貝殻粉砕物は、粒径0.106mm~0.005mm、中粒のホタテ貝殻粉砕物は、粒径2mm~0.005mm、荒粒(欠片状)のホタテ貝殻粉砕物は、粒径10mm~0.1mmである。
即ち、実験では、山砂の粒径よりも小さい粒径のホタテ貝殻粉砕物を供給しているため、山砂の粒子間にホタテ貝殻粉砕物が入り込んで、山砂の粒子間の結合がより強固になり、支持強度の大きい土壌となったものと推測される。
【0042】
また、赤土は、粒径0.074mm~0.005mmであるのに対して、粉状のホタテ貝殻粉砕物は、粒径0.106mm~0.005mm、中粒のホタテ貝殻粉砕物は、粒径2mm~0.005mm、荒粒(欠片状)のホタテ貝殻粉砕物は、粒径10mm~0.1mmである。
【0043】
即ち、試験体「赤土+帆(粉)」は、赤土の土粒子の粒径と粉状のホタテ貝殻粉砕物の粉粒子の粒径とが対応した大きさである。言い換えれば、赤土の土粒子の粒径と粉状のホタテ貝殻粉砕物の粉粒子の粒径とがほぼ同じである割合が大きい(高い)ので、粒子間の微小間隔の均等化が図られ、この均等化した粒子間の微小間隔に鉱物化反応による炭酸塩が析出されて硬化することによって、赤土全体が一体となって固化し、支持強度の著しく大きい土壌となったものと考えられる。
即ち、実験から、土壌の土粒子の大きさに対応した大きさのホタテ貝殻粉砕物と微生物とを土壌に供給することにより、土壌の支持強度を向上できることがわかった。
【0044】
また、実験で用いた粉状のホタテ貝殻粉砕物は、粒径が0.106mm~0.005mmであり、中粒のホタテ貝殻粉砕物や荒粒(欠片状)のホタテ貝殻粉砕物と比べて、赤土の粒径の上限0.074mmよりも小さい粒径の粉を多く含んでいると推測されるため、赤土の粒子間に粉状のホタテ貝殻粉砕物が入り込みやすくなり、赤土の粒子間の結合がより強固になることで、赤土全体が一体となって固化し、支持強度の著しく大きい土壌となったものと推測される。
【0045】
特に、土壌に、土壌の土粒子の大きさに対応した大きさの未焼成貝殻粉砕物と微生物とを供給する方法を採用することにより、支持強度を著しく向上できる顕著に優れた土壌改良効果が得られることがわかった。
例えば、粒径0.074mm~0.005mm程度の粘土である赤土に、粒径が0.106mm~0.005mmの粉状のホタテ貝殻粉砕物を供給すること、即ち、土壌の土粒子の粒径以下の大きさのホタテ貝殻粉砕物と微生物とを赤土(土壌)に供給することによって、赤土の粒子間に粉状のホタテ貝殻粉砕物が入り込みやすくなり、赤土の粒子間の結合がより強固になることから、支持強度を著しく向上できる顕著に優れた土壌改良効果が得られることがわかった。
【0046】
一方で、試験体「赤土+帆(中)」や試験体「赤土+帆(荒)」では、赤土の土粒子の粒径とホタテ貝殻粉砕物の径とが大きく異なる。
即ち、赤土とホタテ貝殻粉砕物との間の間隔が大きくてばらばらな配置となってしまう。このため、赤土とホタテ貝殻粉砕物との結合が弱くなり、支持強度が得られなかったものと考えられる。
【0047】
従って、実験から、土壌の土粒子の粒径以下の大きさのホタテ貝殻粉砕物と微生物とを土壌に供給することにより、土壌の支持強度を向上できることがわかった。
【0048】
換言すれば、土壌が粘土質の土壌である場合、当該粘土質の土壌に粉状のホタテ貝殻粉砕物と微生物とを供給することによって、粘土質の土壌の支持強度を向上でき、土壌改良効果が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0049】
1 地盤、5 貝殻粉砕物、5X 貝殻杭。
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図8