(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル樹脂
(51)【国際特許分類】
C08G 63/60 20060101AFI20221114BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20221114BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
C08G63/60
C08L67/04
C08K7/00
(21)【出願番号】P 2019077598
(22)【出願日】2019-04-16
【審査請求日】2021-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】藤原 久成
(72)【発明者】
【氏名】山下 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小畑 明
(72)【発明者】
【氏名】澤田 哲英
(72)【発明者】
【氏名】高須賀 聖五
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-128893(JP,A)
【文献】特開平5-97983(JP,A)
【文献】特表2003-519707(JP,A)
【文献】特開2006-28287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63/
C08L67/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)~(VI)
[式中、
p、q、r、s、tおよびuは、それぞれ、液晶ポリエステル樹脂中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
60≦p≦70、
15≦q+r≦20、
10≦s+t≦19、
ここで、s/tは1.05~1.5である、
1≦u≦5]
で表される繰返し単位から構成される液晶ポリエステル樹脂。
【請求項2】
q/rが0.9~1.3である、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂。
【請求項3】
曲げ弾性率が10GPa以上である、請求項1
または2に記載の液晶ポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂100質量部に対し、繊維状、板状または粉状の充填剤0.1~200質量部を含む、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂あるいは請求項
4に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物から構成される成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
サーモトロピック液晶ポリマー(以下、液晶ポリマーまたはLCPと略称する)は、機械特性、成形性、耐薬品性、ガス遮断性、耐湿性、電気特性などに優れるため、多種多様な分野の部品に用いられている。特に、耐熱性、耐溶媒性、薄肉成形性および絶縁性に優れることから、電動機等の絶縁体(インシュレーター)への使用が拡大しつつある。
【0003】
空調機器、冷房機器、冷蔵庫等の密閉型圧縮機の駆動に用いられる電動機は、冷媒に浸漬された状態で駆動される。従って、電動機の内部に搭載されるインシュレーターも冷媒に浸漬され、かつ室温から100℃前後に亘る、非常に厳しい温度条件下で使用される。
【0004】
そのため、耐熱性、機械物性および耐薬品性に優れる液晶ポリマーの使用が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、液晶性樹脂に対して充填剤を配合してなる樹脂組成物を溶融成形してなる電動機のインシュレーター成形品が提案されている。また、特許文献2にはパラヒドロキシ安息香酸と2,6-ヒドロキシナフトエ酸を原料とした液晶ポリマーから構成される絶縁体が提案されている。
【0006】
特許文献1および2に記載の絶縁体(インシュレーター)は、液晶ポリマーで構成することによって、耐熱性に優れ、バリの発生が少ないという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平09-111106号公報
【文献】特開2004―52730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1および2に開示された液晶ポリマーは、機械物性、特に曲げ弾性率が不十分であり、過酷な条件での使用に際してはインシュレーターが変形するおそれがあった。また、これらの液晶ポリマーは比較的融点が高いため、高温で反応を行わないと重合が不十分となって樹脂中に低分子量化合物が残存しやすく、これが冷媒中に溶出しやすいという問題があった。
【0009】
このような問題を解消するため、高い耐熱性および機械強度をバランスよく有し、インシュレーターに適した液晶ポリエステル樹脂の開発が要望されている。
【0010】
本発明の目的は、優れた耐熱性および耐溶媒性を維持しつつ、機械特性、とりわけ曲げ弾性率に優れた液晶ポリエステル樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、特定の繰返し単位を与える単量体を縮重合することによって、優れた耐熱性および耐溶媒性を維持しつつ、曲げ弾性率に優れた液晶ポリエステル樹脂が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕式(I)~(VI)
[式中、
p、q、r、s、tおよびuは、それぞれ、液晶ポリエステル樹脂中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
60≦p≦70、
15≦q+r≦20、
10≦s+t≦19、
1≦u≦5]
で表される繰返し単位から構成される液晶ポリエステル樹脂。
〔2〕q/rが0.9~1.3である、〔1〕に記載の液晶ポリエステル樹脂。
〔3〕s/tが0.9~1.5である、〔1〕または〔2〕に記載の液晶ポリエステル樹脂。
〔4〕曲げ弾性率が10GPa以上である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂。
〔5〕〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂100質量部に対し、繊維状、板状または粉状の充填剤0.1~200質量部を含む、液晶ポリエステル樹脂組成物。
〔6〕〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂あるいは〔5〕に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物から構成される成形品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた耐熱性および耐溶媒性を維持しつつ、曲げ弾性率に優れた液晶ポリエステル樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂と呼ばれる、異方性溶融相を形成するポリエステル樹脂である。
【0015】
異方性溶融相の性質は、直交偏向子を利用した慣用の偏光検査法により確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明の液晶ポリエステル樹脂は光学的に異方性を示すもの、すなわち、直交偏光子の間で検査したときに光を透過させるものである。試料が光学的に異方性であると、たとえ静止状態であっても偏光は透過する。
【0016】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、式(I)~(VI)
[式中、
p、q、r、s、tおよびuは、それぞれ、液晶ポリエステル樹脂中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
60≦p≦70、
15≦q+r≦20、
10≦s+t≦19、
1≦u≦5]
で表される繰返し単位から構成される。
【0017】
式(I)で表される繰返し単位の組成比pは、62~68モル%が好ましく、63~67モル%がより好ましい。
【0018】
式(II)表される繰返し単位の組成比qおよび(III)で表される繰返し単位の組成比rの合計(q+r)は、16~19モル%が好ましく、17~18モル%がより好ましい。
【0019】
式(IV)で表される繰返し単位の組成比sおよび(V)で表される繰返し単位の組成比tの合計(s+t)は、12~17.5モル%が好ましく、14~16モル%がより好ましい。
【0020】
式(VI)で表される繰返し単位組成比uは、1.5~4.0モル%が好ましく、2.0~3.5モル%がより好ましい。
【0021】
qとrの比(q/r)は0.9~1.3であるのが好ましく、1.0~1.25であるのがより好ましく、1.05~1.25であるのがさらに好ましい。
【0022】
sとtの比(s/t)は0.9~1.5であるのが好ましく、1.0~1.45であるのがより好ましく、1.05~1.4であるのがさらに好ましい。
【0023】
式(II)表される繰返し単位の組成比qは、7~12モル%が好ましく、7.5~11モル%がより好ましく、8~10.5モル%がさらに好ましい。
また、式(III)で表される繰返し単位の組成比rは、5~11モル%が好ましく、6~10モル%がより好ましく、7~9モル%がさらに好ましい。
【0024】
式(IV)で表される繰返し単位の組成比sは、5~11モル%が好ましく、6~10モル%がより好ましく、7~9モル%がさらに好ましい。
また、式(V)で表される繰返し単位の組成比tは、4~10モル%が好ましく、4.5~9.5モル%がより好ましく、5~9モル%がさらに好ましい。
【0025】
なお、p+q+r+s+t+u=100であることが好ましい。
【0026】
また、q+r=s+t+uであることが好ましい。
【0027】
式(I)で表される繰返し単位を与える単量体としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、ならびにこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性の誘導体が挙げられる。
【0028】
式(II)で表される繰返し単位を与える単量体としては、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、およびこのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0029】
式(III)で表される繰返し単位を与える単量体としては、例えば、ハイドロキノン、およびこのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0030】
式(IV)で表される繰返し単位を与える単量体としては、例えば、テレフタル酸、およびこのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0031】
式(V)で表される繰返し単位を与える単量体としては、例えば、イソフタル酸、およびこのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0032】
式(VI)で表される繰返し単位を与える単量体としては、例えば、2,6-ナフタレンジカルボン酸、およびこのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0033】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、上述した通り、式(I)~(VI)で表される繰返し単位により構成される液晶ポリエステル樹脂に関し、[p+q+r+s+t+u=100]であるのが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲において、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0034】
他の繰返し単位を与える単量体としては、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシジカルボン酸、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールおよびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0035】
これらの他の繰り返し単位を与える単量体は、式(I)~(VI)で表される繰返し単位を与える単量体の合計に対し、10モル%以下であるのが好ましい。
【0036】
本発明の液晶ポリエステル樹脂の製造方法には特に限定はなく、上記単量体成分間にエステル結合を形成させる公知のポリエステルの重縮合法、たとえば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0037】
溶融アシドリシス法とは、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融溶液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(たとえば酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。この方法は、本発明において特に好適に用いられる。
【0038】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0039】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法のいずれの場合においても、液晶ポリエステル樹脂を製造する際に使用する重合性単量体成分は、ヒドロキシル基をエステル化した変性形態、すなわち低級アシルエステルとして反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2~5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体成分の酢酸エステルを反応に用いる方法が挙げられる。
【0040】
単量体の低級アシルエステルは、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリエステル樹脂の製造時にモノマーに無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0041】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法のいずれにおいても、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0042】
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;二酸化チタンなどの金属酸化物;三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物;アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);ルイス酸(たとえば三フッ化硼素)、ハロゲン化水素(たとえば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0043】
触媒の使用割合は、通常モノマー全量に対し10~1000ppm、好ましくは20~200ppmである。
【0044】
このようにして得られる本発明の液晶ポリエステル樹脂は、示差走査熱量計(DSC)により測定される結晶融解温度が通常330℃以下であり、熱分解を抑制できる低温加工性に優れたものである。本発明の液晶ポリエステル樹脂の結晶融解温度は、好ましくは290~330℃、より好ましくは295~325℃、さらに好ましくは300~323℃である。
【0045】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、これから構成される成形品について、後述する方法で測定した曲げ強度が、好ましくは130MPa以上、より好ましくは130~170MPa、さらに好ましくは140~160MPaである。
【0046】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、これから構成される成形品について、後述する方法で測定した曲げ弾性率が、好ましくは10GPa以上、より好ましくは10~16GPa、さらに好ましくは11~15GPaである。
【0047】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、70℃の温度条件下、クロロホルム700g中に16時間浸漬した際の液晶ポリエステル樹脂の溶出率が、好ましくは600ppm以下、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは400ppm以下である。
【0048】
本発明はさらに、本発明の液晶ポリエステル樹脂に繊維状、板状、粉状の充填剤の1種または2種以上を配合せしめて得られる液晶ポリエステル樹脂組成物を提供する。充填剤としては、従来から樹脂組成物に用いられることが知られている物質から、液晶ポリエステル樹脂組成物の使用目的、用途等に応じて適宜選択すればよい。
【0049】
繊維状の充填剤としては、例えばガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、などが挙げられる。これらの中では、ガラス繊維が物性とコストのバランスが優れている点から好ましい。
【0050】
板状あるいは粉状の充填剤としては、例えばタルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、硫酸バリウム、酸化チタンなどが挙げられる。これらの中では、タルクが物性とコストのバランスが優れている点から好ましい。
【0051】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物において、充填剤はその合計配合量が、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~200質量部、特に10~100質量部であるのが好ましい。充填剤の配合量が200質量部を超える場合、樹脂組成物の成形加工性が低下したり、成形機のシリンダーや金型の磨耗が大きくなる傾向がある。
【0052】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲でさらに、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩、ポリシロキサン、フッ素樹脂などの離型剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤などの従来から樹脂組成物に用いられることが知られている添加剤を、樹脂組成物の目的及び用途に応じて1種または2種以上を組み合わせて添加してもよい。
【0053】
高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の外部滑剤効果を有するものについては、成形に際して予めペレットに付着せしめて用いてもよい。
【0054】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、充填剤および添加剤などの全ての成分をポリエステル樹脂中へ添加し、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機などを用いて、液晶ポリエステル樹脂の結晶融解温度近傍から結晶融解温度+100℃の温度下で溶融混練して調製することができる。
【0055】
このようにして得られた本発明の液晶ポリエステル樹脂および液晶ポリエステル樹脂組成物は、従来公知の射出成形、圧縮成形、押出成形、ブローなどの成形法によって、射出成形品、フィルム、シートおよび不織布などの成形品に加工することができる。
【0056】
本発明の液晶ポリエステル樹脂および液晶ポリエステル樹脂組成物は、耐熱性および機械物性のバランスに優れることから、電気・電子部品、カメラモジュール等の機械機構部品、自動車部品等として好適に使用される。特に本発明の液晶ポリエステル樹脂は、耐溶媒性および曲げ弾性率に優れることから、電動機の絶縁体(インシュレーター)として有用である。
【0057】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
実施例中の結晶融解温度、曲げ強度、曲げ弾性率および溶出率は、以下に記載の方法で測定した。
【0059】
〈結晶融解温度〉
セイコーインスツルメンツ株式会社製Exstar6000を用いて測定を行った。液晶ポリエステル樹脂試料を、室温から20℃/分の昇温条件下で測定し、吸熱ピーク温度(Tm1)を観測した後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持する。次いで20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリエステル樹脂の結晶融解温度とする。
【0060】
〈曲げ強度および曲げ弾性率〉
型締め圧15tの射出成形機(住友重機械工業(株)製MINIMAT M26/15)を用いて結晶融解温度+20~40℃のシリンダー温度、金型温度70℃で射出成形し、短冊状曲げ試験片(長さ65mm×幅12.7mm×厚さ2.0mm)を作製した。曲げ試験は、3点曲げ試験をINSTRON5567(インストロンジャパンカンパニイリミティッド社製万能試験機)を用いて、スパン間距離40.0mm、圧縮速度1.3mm/分で行った。
【0061】
〈溶出率〉
曲げ強度および曲げ弾性率の測定に用いた試験片と同様の試験片9本とクロロホルム700gとを1000mLの四つ口フラスコに入れ、70℃の水浴に浸けて16時間還流を行った。試験片と溶液とを濾別し、濾液を減圧乾固し、さらに60℃で12時間乾燥した。得られた固形物の質量を、測定に供した試験片の質量で除した値を溶出率として算出した。溶出率が大きいほど、溶出する低分子化合物が多く含まれていることを示す。
【0062】
実施例において、下記の略号は以下の化合物を表す。
POB:4-ヒドロキシ安息香酸
BON6:6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
BP:4,4’-ジヒドロキシビフェニル
HQ:ハイドロキノン
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
NDA:2,6-ナフタレンジカルボン酸
【0063】
(実施例1)
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器にPOB、BP、HQ、TPA、IPAおよびNDAを、表1に示す組成比で、総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0064】
窒素ガス雰囲気下に室温から150℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ210℃まで速やかに昇温し、同温度にて30分間保持した。その後、340℃まで4時間かけ昇温した後、80分かけ10mmHgにまで減圧を行なった。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0065】
得られた液晶ポリエステル樹脂のペレットを用いて、上記の方法により、結晶融解温度、曲げ強度、曲げ弾性率および溶出率を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例2~3および比較例1~6)
モノマー組成比を、表1に示す組成比に変えることの他は、実施例1と同様にして、液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。得られたペレットを用いて、結晶融解温度、曲げ強度、曲げ弾性率および溶出率を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
実施例1~3の液晶ポリエステル樹脂は、結晶融解温度が318~323℃、曲げ強度が144~155MPa、曲げ弾性率が11.6~12.2GPaであり、耐熱性および機械強度に優れるものであった。また、溶出率は400ppm以下であり、耐溶媒性に優れるものであった。
【0068】
一方、比較例1~5の液晶ポリエステル樹脂は、曲げ弾性率が10GPaを下回るものであり、機械強度に劣るものであった。
【0069】
なお、比較例6については、340℃まで4時間かけて昇温する際、305℃まで昇温した時点で内容物が固化し攪拌が不能になったため反応を中止し、液晶ポリエステル樹脂を得ることができなかった。
【0070】