(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】海洋生物の飼育水製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
A01K 63/04 20060101AFI20221114BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20221114BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20221114BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20221114BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20221114BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20221114BHJP
C02F 1/50 20060101ALI20221114BHJP
C02F 1/58 20060101ALI20221114BHJP
C02F 9/04 20060101ALI20221114BHJP
C02F 9/08 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
A01K63/04 A
C02F1/44 D
B01D61/02 500
C02F1/44 A
B01D61/58
B01D61/14 500
C02F1/28 D
C02F1/44 C
C02F1/50 510A
C02F1/50 520F
C02F1/50 520A
C02F1/50 531N
C02F1/50 531M
C02F1/50 531P
C02F1/50 532C
C02F1/50 532D
C02F1/50 532H
C02F1/50 531L
C02F1/50 531R
C02F1/50 560E
C02F1/50 560B
C02F1/50 560Z
C02F1/50 550L
C02F1/58 H
C02F9/04
C02F9/08
C02F1/50 532J
(21)【出願番号】P 2019077965
(22)【出願日】2019-04-16
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 明広
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-23857(JP,A)
【文献】特開平2-182127(JP,A)
【文献】実開平06-015462(JP,U)
【文献】特開2006-305411(JP,A)
【文献】特開2015-181973(JP,A)
【文献】特開2011-130686(JP,A)
【文献】特開2004-275020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00 ー 63/10
C02F 1/44
B01D 61/02
B01D 61/58
B01D 61/14
C02F 1/28
C02F 1/50
C02F 1/58
C02F 9/04
C02F 9/08
A01K 63/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩類濃度0.05~3.1重量%の被処理水を透過水および濃縮水に分離する逆浸透膜分離工程を含み、
前記濃縮水を海洋生物の飼育水として用いることを特徴とする海洋生物の飼育水製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の海洋生物の飼育水製造方法であって、
前記被処理水および前記濃縮水のうちの少なくとも1つについて、電気伝導率、塩類濃度、および比重のうちの少なくとも1つを測定する水質測定工程をさらに含み、
前記水質測定工程で測定した測定値が予め設定された目標値になるように、前記逆浸透膜分離工程の濃縮倍率を設定することを特徴とする海洋生物の飼育水製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の海洋生物の飼育水製造方法であって、
前記被処理水および前記濃縮水のうちの少なくとも1つを限外ろ過膜または精密ろ過膜で膜処理する膜処理工程をさらに含むことを特徴とする海洋生物の飼育水製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の海洋生物の飼育水製造方法であって、
前記被処理水に酸化剤を添加する酸化剤添加工程と、
前記濃縮水に含まれる酸化剤を除去する酸化剤除去工程と、
をさらに含むことを特徴とする海洋生物の飼育水製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の海洋生物の飼育水製造方法であって、
前記酸化剤除去工程において活性炭を用いて酸化剤を除去することを特徴とする海洋生物の飼育水製造方法。
【請求項6】
塩類濃度0.05~3.1重量%の被処理水を透過水および濃縮水に分離する逆浸透膜分離装置と、
前記濃縮水を海洋生物の飼育水として供給する供給手段と、
を備えることを特徴とする海洋生物の飼育水製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載の海洋生物の飼育水製造装置であって、
前記被処理水および前記濃縮水のうちの少なくとも1つについて、電気伝導率、塩類濃度、および比重のうちの少なくとも1つを測定する水質測定手段と、
前記水質測定手段で測定した測定値が予め設定された目標値になるように、前記逆浸透膜分離装置の濃縮倍率を設定する濃縮倍率設定手段と、
をさらに備えることを特徴とする海洋生物の飼育水製造装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の海洋生物の飼育水製造装置であって、
前記被処理水および前記濃縮水のうちの少なくとも1つを限外ろ過膜または精密ろ過膜で膜処理する膜処理手段をさらに備えることを特徴とする海洋生物の飼育水製造装置。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載の海洋生物の飼育水製造装置であって、
前記被処理水に酸化剤を添加する酸化剤添加手段と、
前記濃縮水に含まれる酸化剤を除去する酸化剤除去手段と、
をさらに備えることを特徴とする海洋生物の飼育水製造装置。
【請求項10】
請求項9に記載の海洋生物の飼育水製造装置であって、
前記酸化剤除去手段が、活性炭を用いた酸化剤除去装置であることを特徴とする海洋生物の飼育水製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋生物の飼育水製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋生物の飼育において、水道水や井水等の淡水を逆浸透膜で膜分離し、得られた透過水に人工海水の素等の人工海水製造用薬剤等を添加し、飼育水として用いる方法が一般的に知られている。また、特許文献1のように、天然海水を逆浸透膜等によって脱水濃縮処理し、得られた濃縮海水を脱塩処理することによって、海洋生物の飼育等に用いる富栄養人工海水を製造する方法が知られている。
【0003】
しかし、逆浸透膜で膜分離して得られた透過水に人工海水製造用薬剤等を添加する方法は、添加剤の保管スペースやコストが掛かるという問題がある。また、特許文献1の方法は天然海水を脱水濃縮処理し、さらに脱塩処理するという複雑な工程を経ているため、システムが大きくなり、設置スペースやコストアップにつながる可能性がある。また漁業権等の関係で、海水の取水に制限がある地域では用いることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、海水の取水に制限がある地域であっても、コストアップを抑制して海洋生物の飼育水を製造することができる海洋生物の飼育水製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、塩類濃度0.05~3.1重量%の被処理水を透過水および濃縮水に分離する逆浸透膜分離工程を含み、前記濃縮水を海洋生物の飼育水として用いる、海洋生物の飼育水製造方法である。
【0007】
前記海洋生物の飼育水製造方法において、前記被処理水および前記濃縮水のうちの少なくとも1つについて、電気伝導率、塩類濃度、および比重のうちの少なくとも1つを測定する水質測定工程をさらに含み、前記水質測定工程で測定した測定値が予め設定された目標値になるように、前記逆浸透膜分離工程の濃縮倍率を設定することが好ましい。
【0008】
前記海洋生物の飼育水製造方法において、前記被処理水および前記濃縮水のうちの少なくとも1つを限外ろ過膜または精密ろ過膜で膜処理する膜処理工程をさらに含むことが好ましい。
【0009】
前記海洋生物の飼育水製造方法において、前記被処理水に酸化剤を添加する酸化剤添加工程と、前記濃縮水に含まれる酸化剤を除去する酸化剤除去工程と、をさらに含むことが好ましい。
【0010】
前記海洋生物の飼育水製造方法において、前記酸化剤除去工程において活性炭を用いて酸化剤を除去することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、塩類濃度0.05~3.1重量%の被処理水を透過水および濃縮水に分離する逆浸透膜分離装置と、前記濃縮水を海洋生物の飼育水として供給する供給手段と、を備える、海洋生物の飼育水製造装置である。
【0012】
前記海洋生物の飼育水製造装置において、前記被処理水および前記濃縮水のうちの少なくとも1つについて、電気伝導率、塩類濃度、および比重のうちの少なくとも1つを測定する水質測定手段と、前記水質測定手段で測定した測定値が予め設定された目標値になるように、前記逆浸透膜分離装置の濃縮倍率を設定する濃縮倍率設定手段と、をさらに備えることが好ましい。
【0013】
前記海洋生物の飼育水製造装置において、前記被処理水および前記濃縮水のうちの少なくとも1つを限外ろ過膜または精密ろ過膜で膜処理する膜処理手段をさらに備えることが好ましい。
【0014】
前記海洋生物の飼育水製造装置において、前記被処理水に酸化剤を添加する酸化剤添加手段と、前記濃縮水に含まれる酸化剤を除去する酸化剤除去手段と、をさらに備えることが好ましい。
【0015】
前記海洋生物の飼育水製造装置において、前記酸化剤除去手段が、活性炭を用いた酸化剤除去装置であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、海水の取水に制限がある地域であっても、コストアップを抑制して海洋生物の飼育水を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る海洋生物の飼育水製造装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る海洋生物の飼育水製造装置の他の例を示す概略構成図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る海洋生物の飼育水製造装置の他の例を示す概略構成図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る海洋生物の飼育システムの一例を示す概略構成図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る海洋生物の飼育システムの他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明の実施形態に係る海洋生物の飼育水製造装置の一例の概略を
図1に示し、その構成について説明する。
【0020】
図1に示す飼育水製造装置1は、塩類濃度0.05~3.1重量%の被処理水を透過水および濃縮水に分離する逆浸透膜分離装置10を備える。
【0021】
図1の飼育水製造装置1において、被処理水配管18が、被処理水を加圧吐出する加圧ポンプ12を介して逆浸透膜分離装置10の入口に接続されている。逆浸透膜分離装置10の透過水出口には、透過水の流量を測定する透過水流量測定手段である透過水流量測定装置34を介して透過水配管20が接続され、濃縮水出口には、調整バルブ16、濃縮水の流量を測定する濃縮水流量測定手段である濃縮水流量測定装置35を介して濃縮水配管22が接続されている。濃縮水配管22における調整バルブ16の下流側であって濃縮水流量測定装置35の上流側には、水質測定手段として水質測定装置14が設置されていてもよい。
【0022】
本実施形態に係る海洋生物の飼育水製造方法および飼育水製造装置1の動作について説明する。
【0023】
飼育水製造装置1において、塩類濃度0.05~3.1重量%の被処理水が、加圧ポンプ12により加圧されて被処理水配管18を通して、逆浸透膜分離装置10へ供給され、逆浸透膜分離装置10において逆浸透膜分離処理されて透過水および濃縮水に分離される(逆浸透膜分離工程)。得られた透過水は、透過水配管20を通して排出される。一方、得られた濃縮水は、調整バルブ16が開状態とされ濃縮水配管22を通して、例えば海洋生物の飼育装置へ送液されて、海洋生物の飼育水として用いられる。ここで、濃縮水配管22が、濃縮水を海洋生物の飼育水として供給する供給手段として機能する。
【0024】
本実施形態に係る海洋生物の飼育水製造方法および飼育水製造装置により、海水の取水に制限がある地域であっても、コストアップを抑制して海洋生物の飼育水を製造することができる。人工海水の素等の人工海水製造用薬剤等を使用しなくてもよく、人工海水製造用薬剤等の使用量削減に伴う、保管スペース、コストを削減することができる。また、天然海水を脱水濃縮処理し、さらに脱塩処理するという複雑な工程を経なくてもよく、設置スペースやコストを削減することができる。さらに、漁業権等の関係で海水の取水に制限がある沿岸部等の地域であっても、塩分含有井水等を利用して海洋生物の飼育水を製造することができる。
【0025】
被処理水としては、塩類濃度0.05~3.1重量%の水であればよく、特に制限はない。被処理水としては、例えば、汽水、天然海水や人工海水を薄めた薄海水、沿岸部の井水、河口付近の河川水等が挙げられる。被処理水としては、海洋生物の飼育に有用なミネラル分等を含むために、海水を一部含む水であることが好ましい。被処理水の塩類濃度は、1.0~3.1重量%であることが好ましい。河口付近の河川水の塩類濃度は、例えば、1.0重量%程度であり、沿岸部の井水の塩類濃度は、例えば、3.0重量%程度である。
【0026】
被処理水に含まれる塩類は、塩化ナトリウム等であり、塩化ナトリウムの他に、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、ホウ素、ストロンチウム、鉄、ヨウ素、フッ素等が含まれていてもよい。被処理水に含まれる塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カリウム等の量は、例えば、0.001~0.31重量%である。
【0027】
逆浸透膜分離装置10で用いられる逆浸透膜としては、特に制限はないが、例えば、ポリアミド系逆浸透膜、酢酸セルロース系逆浸透膜等の高分子系逆浸透膜等が挙げられる。逆浸透膜分離装置10は、多段式でもよい。
【0028】
本実施形態に係る海洋生物の飼育水製造方法および飼育水製造装置により得られた飼育水を用いて飼育する海洋生物は、塩類濃度3.2重量%~3.8重量%の海水で飼育することが可能な生物であり、特に制限はないが、例えば、サケ・マス類、タイ類、ブリ類、ハタ類、フグ類、ハギ類、ウナギ類、ヒラメ・カレイ類、クマノミ類、スズメダイ類、チョウチョウウオ類等の海水魚や、タコ類、イカ類、エビ・カニ類、サンゴ類、ウミウシ類等の無脊椎動物等が挙げられる。
【0029】
本実施形態に係る海洋生物の飼育水製造方法および飼育水製造装置において、被処理水および濃縮水のうちの少なくとも1つについて、電気伝導率、塩類濃度、および比重のうちの少なくとも1つを測定し(水質測定工程)、水質測定工程で測定した測定値が予め設定された目標値になるように、逆浸透膜分離工程の濃縮倍率を設定することが好ましい。例えば、
図1の飼育水製造装置1において、水質測定装置14によって、濃縮水について、電気伝導率、塩類濃度、および比重のうちの少なくとも1つが測定され、水質測定装置14によって測定された測定値が予め設定された目標値になるように、逆浸透膜分離工程の濃縮倍率を設定すればよい。被処理水配管18に水質測定装置14を設置し、水質測定装置14によって、被処理水について、電気伝導率、塩類濃度、および比重のうちの少なくとも1つが測定され、水質測定装置14によって測定された測定値が予め設定された目標値になるように、逆浸透膜分離工程の濃縮倍率を設定してもよい。このとき、透過水流量測定装置34によって透過水の流量が測定され、濃縮水流量測定装置35によって濃縮水の流量が測定されてもよい。測定された測定値(水質)が予め設定された目標値より低い場合、濃縮倍率を上げ(調整バルブ16を閉める)、予め設定された目標値より高い場合、濃縮倍率を下げ(調整バルブ16を開ける)ればよい。ここで、調整バルブ16が、水質測定工程で測定した測定値が予め設定された目標値になるように、逆浸透膜分離工程の濃縮倍率を設定する濃縮倍率設定手段として機能する。
【0030】
図示しない制御装置を設け、制御装置と、水質測定装置14および調整バルブ16とを電気的接続等によりそれぞれ接続し、水質測定装置14によって、濃縮水について、電気伝導率、塩類濃度、および比重のうちの少なくとも1つが測定され、制御装置によって、水質測定装置14によって測定された測定値が予め設定された目標値になるように、調整バルブ16が制御され、逆浸透膜分離工程の濃縮倍率が自動的に設定されてもよい。
【0031】
水質測定手段としては、被処理水および濃縮水のうちの少なくとも1つについて、電気伝導率、塩類濃度、および比重のうちの少なくとも1つを測定することができるものであればよく、特に制限はない。水質測定手段としては、例えば、電気伝導率測定装置、塩類濃度測定装置、および比重測定装置等が挙げられる。比重計は精確な測定を行うためには高価な装置となるため、水質測定手段は、価格等の点から、電気伝導率測定装置または塩類濃度測定装置が好ましく、温度補正機能を有していることが、さらに好ましい。電気伝導率または比重を測定する場合、予め塩類濃度と相関を確認しておくことが望ましい。
【0032】
予め設定された目標値は、逆浸透膜分離工程で得られる濃縮水の塩類濃度が例えば3.2重量%~3.8重量%となるように設定すればよい。
【0033】
本実施形態に係る海洋生物の飼育水製造方法および飼育水製造装置において、被処理水および濃縮水のうちの少なくとも1つを限外ろ過膜または精密ろ過膜等で膜処理する膜処理工程をさらに含むことが好ましい。これにより、被処理水または濃縮水の除菌を行うことができる。
【0034】
膜処理で用いられる膜としては、例えば、限外ろ過膜(UF膜)、精密ろ過膜(MF膜)等が挙げられ、除菌性能等の点から、限外ろ過膜(UF膜)が好ましい。これらの膜は、例えば、被処理水配管18や、濃縮水配管22に設置すればよい。
【0035】
本実施形態に係る海洋生物の飼育水製造方法および飼育水製造装置において、被処理水に酸化剤を添加する酸化剤添加工程と、濃縮水に含まれる酸化剤を除去する酸化剤除去工程と、をさらに含むことが好ましい。これにより、被処理水を除菌しつつ、逆浸透膜分離装置10等におけるバイオファウリングを抑制することができる。このような飼育水製造装置の例を、
図2に示す。
【0036】
図2に示す飼育水製造装置2は、塩類濃度0.05~3.1重量%の被処理水を透過水および濃縮水に分離する逆浸透膜分離装置10と、被処理水に酸化剤を添加する酸化剤添加手段として、酸化剤添加配管24と、濃縮水に含まれる酸化剤を除去する酸化剤除去手段として、酸化剤除去装置26とを備える。
【0037】
図2の飼育水製造装置2において、被処理水配管18が、被処理水を加圧吐出する加圧ポンプ12を介して逆浸透膜分離装置10の入口に接続されている。逆浸透膜分離装置10の透過水出口には、透過水流量測定装置34を介して透過水配管20が接続され、濃縮水出口には、調整バルブ16、濃縮水流量測定装置35、酸化剤除去装置26を介して濃縮水配管22が接続されている。被処理水配管18における加圧ポンプ12の上流側には、酸化剤添加配管24が接続されている。濃縮水配管22における調整バルブ16の下流側であって酸化剤除去装置26の上流側には、水質測定手段として水質測定装置14が設置されていてもよい。
【0038】
飼育水製造装置2において、塩類濃度0.05~3.1重量%の被処理水が、加圧ポンプ12により加圧されて被処理水配管18を通して、逆浸透膜分離装置10へ供給される。ここで、被処理水配管18における加圧ポンプ12の上流側において、酸化剤が酸化剤添加配管24を通して被処理水に添加される(酸化剤添加工程)。酸化剤が添加された被処理水について、逆浸透膜分離装置10において逆浸透膜分離処理されて透過水および濃縮水に分離される(逆浸透膜分離工程)。得られた透過水は、透過水配管20を通して排出される。一方、得られた濃縮水は、調整バルブ16が開状態とされ濃縮水配管22を通して酸化剤除去装置26へ送液され、酸化剤除去装置26において、濃縮水に含まれる酸化剤が除去される(酸化剤除去工程)。酸化剤が除去された濃縮水は、濃縮水配管22を通して、例えば海洋生物の飼育装置へ送液されて、海洋生物の飼育水として用いられる。ここで、濃縮水配管22が、濃縮水を海洋生物の飼育水として供給する供給手段として機能する。
【0039】
酸化剤の添加位置は逆浸透膜分離装置10の前段であればよく、加圧ポンプ12の上流側であっても、下流側であってもよい。
【0040】
酸化剤としては、例えば、塩素系酸化剤、臭素系酸化剤、安定化次亜塩素酸組成物、安定化次亜臭素酸組成物、オゾン等が挙げられ、逆浸透膜の劣化影響やバイオファウリング抑制効果等の点から、安定化次亜塩素酸組成物または安定化次亜臭素酸組成物が好ましい。
【0041】
塩素系酸化剤としては、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸またはその塩、亜塩素酸またはその塩、塩素酸またはその塩、過塩素酸またはその塩、塩素化イソシアヌル酸またはその塩等が挙げられる。これらのうち、塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸バリウム等の亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ニッケル等の他の亜塩素酸金属塩、塩素酸アンモニウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム等の塩素酸アルカリ金属塩、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム等の塩素酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。塩素系酸化剤としては、取り扱い性等の点から、次亜塩素酸ナトリウムを用いるのが好ましい。
【0042】
臭素系酸化剤としては、臭素(液体臭素)、塩化臭素、臭素酸、臭素酸塩、次亜臭素酸等が挙げられる。次亜臭素酸は、臭化ナトリウム等の臭素化合物と次亜塩素酸等の塩素系酸化剤とを反応させて生成させたものであってもよい。
【0043】
安定化次亜塩素酸組成物は、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含むものである。「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物」は、「塩素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を含む安定化次亜塩素酸組成物であってもよいし、「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜塩素酸組成物であってもよい。
【0044】
安定化次亜臭素酸組成物は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含むものである。「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物」は、「臭素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を含む安定化次亜臭素酸組成物であってもよいし、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜臭素酸組成物であってもよい。
【0045】
これらのうち、臭素を用いた「臭素とスルファミン酸化合物(臭素とスルファミン酸化合物の混合物)」または「臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物」の酸化剤は、「次亜塩素酸と臭素化合物とスルファミン酸」の酸化剤および「塩化臭素とスルファミン酸」の酸化剤等に比べて、臭素酸の副生が少なく、酸化剤としてはより好ましい。
【0046】
臭素化合物としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、臭化アンモニウムおよび臭化水素酸等が挙げられる。これらのうち、製剤コスト等の点から、臭化ナトリウムが好ましい。
【0047】
スルファミン酸化合物は、以下の一般式(1)で示される化合物である。
R2NSO3H (1)
(式中、Rは独立して水素原子または炭素数1~8のアルキル基である。)
【0048】
スルファミン酸化合物としては、例えば、2個のR基の両方が水素原子であるスルファミン酸(アミド硫酸)の他に、N-メチルスルファミン酸、N-エチルスルファミン酸、N-プロピルスルファミン酸、N-イソプロピルスルファミン酸、N-ブチルスルファミン酸等の2個のR基の一方が水素原子であり、他方が炭素数1~8のアルキル基であるスルファミン酸化合物、N,N-ジメチルスルファミン酸、N,N-ジエチルスルファミン酸、N,N-ジプロピルスルファミン酸、N,N-ジブチルスルファミン酸、N-メチル-N-エチルスルファミン酸、N-メチル-N-プロピルスルファミン酸等の2個のR基の両方が炭素数1~8のアルキル基であるスルファミン酸化合物、N-フェニルスルファミン酸等の2個のR基の一方が水素原子であり、他方が炭素数6~10のアリール基であるスルファミン酸化合物、またはこれらの塩等が挙げられる。スルファミン酸塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩、マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩等の他の金属塩、アンモニウム塩およびグアニジン塩等が挙げられる。スルファミン酸化合物およびこれらの塩は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。スルファミン酸化合物としては、環境負荷等の点から、スルファミン酸(アミド硫酸)を用いるのが好ましい。
【0049】
酸化剤の添加量は、被処理水または濃縮水の全塩素濃度等を測定して管理すればよい。例えば、被処理水または濃縮水の全塩素濃度は、有効塩素濃度換算で、0.1~100mg/Lの範囲であることが好ましい。被処理水または濃縮水の全塩素濃度が0.1mg/L未満であると、十分なバイオファウリング抑制効果を得ることができない場合があり、100mg/Lより多いと、逆浸透膜の劣化、配管等の腐食を引き起こす可能性がある。
【0050】
酸化剤除去手段としては、酸化剤を除去できる手段であればよく、特に制限はないが、例えば、活性炭を用いて酸化剤を除去する活性炭処理装置、還元剤と添加して酸化剤を除去する還元剤添加手段等が挙げられる。濃縮水中の塩類濃度の上昇を抑制することができる等の点から、活性炭処理装置が好ましい。
【0051】
還元剤としては、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられる。還元剤の添加量は、酸化剤の添加量に基づいて決めればよく、酸化剤を除去できる程度の量とすればよい。酸化剤除去手段の後段に全塩素計等の酸化剤量測定手段を設け、酸化剤量測定手段より測定された酸化剤量に基づいて、還元剤の添加量を制御してもよい。
【0052】
逆浸透膜分離工程で得られた透過水も海洋生物の飼育水として利用する場合には、透過水配管20にも同様の酸化剤除去手段を設置することが好ましい。
【0053】
本実施形態に係る海洋生物の飼育水製造方法および飼育水製造装置において、逆浸透膜分離工程で得られた濃縮水を循環してさらに逆浸透膜分離処理を行ってもよい。これにより、被処理水の塩類濃度等の水質変動の影響を低減することができる。また、被処理水の塩類濃度が低い場合であっても、循環して逆浸透膜分離処理を行うことにより、水質測定工程で測定した測定値を予め設定された目標値になるようにすることができる。このような飼育水製造装置の例を、
図3に示す。
【0054】
図3に示す飼育水製造装置3は、塩類濃度0.05~3.1重量%の被処理水を透過水および濃縮水に分離する逆浸透膜分離装置10と、濃縮水を循環する循環手段として濃縮水循環配管44とを備える。飼育水製造装置3は、被処理水を貯留する貯留槽28を備えてもよい。
【0055】
図3の飼育水製造装置3において、貯留槽28の被処理水出口と逆浸透膜分離装置10の入口とは、被処理水を加圧吐出する加圧ポンプ12を介して被処理水配管42により接続されている。逆浸透膜分離装置10の透過水出口と貯留槽28の循環透過水入口とは、バルブ36、透過水の流量を測定する透過水流量測定手段として透過水流量測定装置34、三方バルブ38を介して透過水循環配管56により接続されている。逆浸透膜分離装置10の濃縮水出口と貯留槽28の循環濃縮水入口とは、調整バルブ16、濃縮水の流量を測定する濃縮水流量測定手段として濃縮水流量測定装置35、三方バルブ40を介して濃縮水循環配管44により接続されている。三方バルブ38には、透過水循環配管56から分岐した透過水ブロー配管52が接続されている。三方バルブ40には、濃縮水循環配管44から分岐した濃縮水ブロー配管54が接続されている。貯留槽28には、処理水および濃縮水のうちの少なくとも1つについて、電気伝導率、塩類濃度、および比重のうちの少なくとも一つを測定する水質測定手段として、水質測定装置30が設置されていてもよい。貯留槽28には、被処理水供給配管48と、薬剤添加手段として薬剤添加配管50とが接続されていてもよい。貯留槽28の濃縮水出口には、貯留槽28から濃縮水を排出する濃縮水配管46が接続されている。被処理水配管42における加圧ポンプ12の下流側には、圧力測定手段として圧力測定装置32が設置されていてもよい。
【0056】
飼育水製造装置3において、塩類濃度0.05~3.1重量%の被処理水が、被処理水供給配管48を通して必要に応じて貯留槽28に貯留される。被処理水は、加圧ポンプ12により加圧されて被処理水配管42を通して、逆浸透膜分離装置10へ供給され、逆浸透膜分離装置10において逆浸透膜分離処理されて透過水および濃縮水に分離される(逆浸透膜分離工程)。得られた透過水は、バルブ36が開状態とされ、三方バルブ38が透過水ブロー配管52への連通状態とされて透過水循環配管56、透過水ブロー配管52を通して排出される。一方、得られた濃縮水は、調整バルブ16が開状態とされ、三方バルブ40が濃縮水循環配管44への連通状態とされて濃縮水循環配管44を通して、貯留槽28に循環されて供給される(循環工程)。循環運転の調整は、透過水流量測定装置34により測定された透過水の流量、濃縮水流量測定装置35により測定された濃縮水の流量、または圧力測定装置32により測定された給水圧を監視して行えばよい。水質測定装置30により測定された貯留槽28内の測定値が予め設定された目標値になったら、循環運転を停止し、貯留槽28から濃縮水配管46を通して濃縮水が抜き取られ、例えば海洋生物の飼育装置へ送液されて、海洋生物の飼育水として用いられる。ここで、濃縮水配管46が、濃縮水を海洋生物の飼育水として供給する供給手段として機能する。
【0057】
逆浸透膜分離装置10の逆浸透膜の洗浄が必要になったら、薬剤添加配管50を通して洗浄用の薬剤が貯留槽28に添加され(薬剤添加工程)、三方バルブ38が透過水循環配管56への連通状態とされて透過水が透過水循環配管56を通して貯留槽28に循環され、三方バルブ40が濃縮水循環配管44への連通状態とされて濃縮水循環配管44を通して貯留槽28に循環されて、透過水および濃縮水を貯留槽28に戻す全循環運転が所定時間行われ、必要であれば、その状態で逆浸透膜を浸漬放置して、逆浸透膜の洗浄が行われてもよい。薬剤は、被処理水配管42または濃縮水循環配管44においてライン添加されてもよい。その後、貯留槽28へ被処理水が補給されつつ、三方バルブ38が透過水ブロー配管52への連通状態とされて、三方バルブ40が濃縮水ブロー配管54への連通状態とされて、透過水ブローおよび濃縮水ブローが排出される。被処理水の補充と透過水ブローおよび濃縮水ブローの排出を繰り返し、濃縮水ブローの電気伝導率、pH、全塩素のいずれかが所定の値になったら、透過水ブローおよび濃縮水ブローの排出が停止されればよい。
【0058】
本実施形態に係る海洋生物の飼育水製造方法および飼育水製造装置を用いる海洋生物の飼育方法および飼育システムの例を以下で説明するが、上記濃縮水を海洋生物の飼育水として用いればよく、これらの例に限定されない。
【0059】
本実施形態に係る海洋生物の飼育方法は、例えば、水槽から原水槽へ送液された飼育水を前記原水槽へ循環しながら過酸化物を添加する過酸化物添加工程と、前記原水槽の水を膜ろ過処理する膜ろ過工程と、前記膜ろ過工程による膜ろ過処理で得られる濃縮水の少なくとも一部を前記原水槽に返送する濃縮水返送工程と、前記膜ろ過工程による膜ろ過処理で得られる膜ろ過水の過酸化物を分解処理する過酸化物分解工程と、前記過酸化物分解工程により分解処理した処理水の少なくとも一部を前記水槽に返送する処理水返送工程と、を含み、前記飼育水の少なくとも一部は、上記海洋生物の飼育水製造方法で得られた濃縮水である。
【0060】
また、本実施形態に係る海洋生物の飼育システムは、例えば、飼育水を貯留する水槽と、前記水槽からの前記飼育水を貯留する原水槽と、前記原水槽の水を循環しながら過酸化物を添加する過酸化物添加手段と、前記原水槽の水を膜ろ過処理する膜ろ過手段と、前記膜ろ過手段による膜ろ過処理で得られる濃縮水の少なくとも一部を前記原水槽に返送する濃縮水返送手段と、前記膜ろ過手段による膜ろ過処理で得られる膜ろ過水の過酸化物を分解処理する過酸化物分解手段と、前記過酸化物分解手段により分解処理した処理水の少なくとも一部を前記水槽に返送する処理水返送手段と、を備え、前記飼育水の少なくとも一部は、上記海洋生物の飼育水製造装置で得られた濃縮水である。
【0061】
このような海洋生物の飼育方法および飼育システムの一例を
図4に示す。
【0062】
図4に示す飼育システム5は、飼育水を貯留する水槽60と、水槽60からの飼育水(高分子有機物含有水)を貯留する原水槽62と、原水槽62の水を循環しながら過酸化物を添加する過酸化物添加手段として、オゾン発生装置74を備えるオゾン処理装置72と、原水槽62の水を膜ろ過処理する膜ろ過手段として、膜ろ過装置64と、膜ろ過装置64による膜ろ過処理で得られる膜ろ過水の過酸化物を分解処理する過酸化物分解手段として、活性炭処理装置68とを備える。飼育システム5は、膜ろ過水槽66と、処理水槽70とを備えてもよい。
【0063】
図4の飼育システム5において、飼育水製造装置1,2,3からの濃縮水配管22または濃縮水配管46が水槽60の飼育水入口に接続されている。水槽60の出口と原水槽62の原水入口とがポンプ76およびストレーナ88を介して配管90により接続され、原水槽62の出口と膜ろ過装置64の入口とがポンプ78を介して配管92により接続され、膜ろ過装置64の透過水(膜ろ過水)出口と膜ろ過水槽66の入口とが配管94により接続され、膜ろ過水槽66の出口と活性炭処理装置68の入口とがポンプ80を介して配管96により接続され、活性炭処理装置68の出口と処理水槽70の入口とが配管98により接続され、処理水槽70の処理水出口と水槽60とがポンプ82を介して処理水返送配管100により接続されている。処理水槽70の逆洗水出口と膜ろ過装置64の2次側の逆洗水入口とはポンプ84を介して配管108により接続されている。膜ろ過装置64の1次側の濃縮水出口と原水槽62の濃縮水入口とが濃縮水返送配管106により接続されている。膜ろ過装置64の濃縮水出口には、配管116が接続されている。
【0064】
原水槽62の循環水出口とオゾン処理装置72の循環水入口とが循環配管102により接続され、オゾン処理装置72の循環水出口と原水槽62の循環水入口とが循環配管104により接続されている。オゾン処理装置72の下部にはオゾン発生装置74が配管110により接続されている。
【0065】
上記飼育水製造装置1,2,3からの濃縮水は、濃縮水配管22または濃縮水配管46を通して水槽60へ飼育水として供給される。水槽60において例えば魚類等の海洋生物が飼育水中で飼育されている。飼育水には、海洋生物の飼育に伴い、通常、タンパク質等の高分子有機物、懸濁物質等が含まれるようになる。水槽60内の飼育水、すなわち高分子有機物等を含む高分子有機物含有水は、ポンプ76により配管90を通して原水槽62へ送液される。必要に応じて配管90の途中にストレーナ88を設置し、高分子有機物含有水中の比較的大きめの固形物が除去されてもよい。
【0066】
原水槽62の高分子有機物含有水の一部は、循環配管102を通してオゾン処理装置72へ送液される。オゾン処理装置72には、オゾン発生装置74で発生させたオゾンが配管110を通して供給される。オゾン処理装置72において、オゾンにより、高分子有機物含有水中の有機物の循環処理(ここでは主に有機物の分解処理)が行われる。また、オゾン処理装置72において、オゾンを用いた加圧浮上により、濃縮された懸濁物質等が固液分離される。有機物処理が行われたオゾン処理水は、循環配管104を通して原水槽62に循環される。すなわち、水槽60から原水槽62へ送液された高分子有機物含有水を原水槽62へ循環しながら過酸化物を添加する(過酸化物添加工程)。排オゾンは、配管112を通して排出され、オゾン除去装置により処理されてもよい。オゾン処理装置72において発生したスカム等は、配管114を通して排出されてもよい。
【0067】
一方で、原水槽62中の原水は、ポンプ78により配管92を通して膜ろ過装置64に送液される。膜ろ過装置64において、原水中の残存した懸濁物質等が膜を用いてろ過されて除去される(膜ろ過工程)。膜ろ過工程で得られた濃縮水の少なくとも一部は、濃縮水返送配管106を通して、原水槽62に返送される(濃縮水返送工程)。濃縮水返送配管106等が、濃縮水の少なくとも一部を原水槽62に返送する濃縮水返送手段として機能する。濃縮水を原水槽62に返送することで、懸濁物質の濃度が高くなり、オゾン処理装置72における加圧浮上の効率を上げることができる。
【0068】
膜ろ過された膜ろ過水は、配管94を通して必要に応じて膜ろ過水槽66に貯留された後、ポンプ80により配管96を通して活性炭処理装置68に供給される。活性炭処理装置68において、膜ろ過水中の残オゾン等の過酸化物が活性炭により分解処理される(過酸化物分解工程)。
【0069】
残オゾン等の過酸化物が分解処理された処理水は、配管98を通して必要に応じて処理水槽70に貯留された後、処理水の少なくとも一部はポンプ82により処理水返送配管100を通して水槽60に返送され、飼育水として再利用されてもよい(処理水返送工程)。ポンプ82および処理水返送配管100等が、処理水の少なくとも一部を水槽60に返送する処理水返送手段として機能する。処理水を水槽60に返送して再利用することで、補給水や排水にかかるコストを削減することができる。
【0070】
膜ろ過装置64の洗浄が必要になった場合は、処理水の一部が逆洗水として処理水槽70からポンプ84により配管108を通して膜ろ過装置64の2次側から1次側に逆流されて、膜が洗浄されてもよい(逆洗工程)。逆洗排水は、配管116を通して排出される。膜ろ過水槽66の膜ろ過水が逆洗水として用いられてもよい。
【0071】
本実施形態に係る飼育システム5において、高分子有機物含有水を原水槽62に貯留し、原水槽62の水を循環して有機物処理を行い、原水槽62の水を膜ろ過処理することにより、高分子有機物や生物等による膜のファウリングを抑制し、膜ろ過装置64の安定した運転が可能となる。原水槽の水を循環して有機物処理を行うことによって、多段処理により有機物の効率的な分解が可能となる。逆洗工程中には、有機物の循環処理を行ってもよいし、停止してもよい。
【0072】
高分子有機物とは、重量平均分子量が10万~200万の範囲の有機物である。重量平均分子量は、排水中に含まれる有機物の成分を把握する方法として、LC-OCD(Liquid Chromatography-Organic Carbon Detection)装置(DOC-LABOR社製、mobel12007)を用いて、湿式酸化法(カラム:HW50S)で測定することができる。LC-OCDとは、有機物を分子量毎に分け、それぞれの成分の有機物濃度を測定する方法である。
【0073】
過酸化物添加手段としては、オゾン発生装置を備えるオゾン処理装置の他に、紫外線酸化処理装置等が挙げられる。処理性能等の観点から、オゾン発生装置を備えるオゾン処理装置が好ましい。過酸化物添加手段としては、オゾンを用いるオゾン処理装置であることが好ましく、オゾンマイクロバブルを用いるオゾン処理装置であることがより好ましい。
【0074】
オゾンマイクロバブルは、例えば、直径が10μm~100μm程度の、オゾンを含む微細なオゾン含有気泡である。オゾンマイクロバブルを用いるオゾン処理装置により、高分子有機物および懸濁物質を含む高分子有機物含有水に対して、オゾンを含む微細気泡であるオゾンマイクロバブルの表面に懸濁物質を疎水性吸着させ浮上分離させて除去するとともに、オゾンマイクロバブルによる有機物酸化効果が得られる。また、オゾンをマイクロバブルとして用いることで、オゾン処理装置72の槽内にオゾンマイクロバブルを長時間保持することができるため、有機物との反応時間が増え、有機物の処理効果が飛躍的に向上すると考えられる。
【0075】
膜ろ過装置64としては、例えば、限外ろ過膜(UF膜)または精密ろ過膜(MF膜)等のろ過膜を有するものであればよく、特に制限はない。
【0076】
膜ろ過水中の残オゾンの濃度が高く、水槽60に返送されて生物の飼育等に影響を及ぼすことが懸念される場合は、膜ろ過装置64の後段に活性炭処理装置68等の過酸化物分解手段を設けることが好ましい。膜ろ過装置64の後段に過酸化物分解手段を備えることにより、残オゾン等の過酸化物による生物の飼育等への影響を低減することができる。このため、原水が養殖や水族館等の飼育水である場合に、処理水を水槽60へ返送しても、生物への影響を低減することができる。
【0077】
過酸化物分解手段としては、活性炭を充填した活性炭充填塔等の活性炭処理装置の他に、Pd担持担体、酸化チタン、白金等の過酸化物分解触媒を充填した充填塔等が挙げられ、コスト等の観点から活性炭充填塔等の活性炭処理装置が好ましい。また、過酸化物分解触媒を充填した充填塔への通水方向は、下向流と上向流のどちらでもよいが、過酸化物の分解率を高めるためには下向流が好ましい。
【0078】
図4の例では、処理水の全てが水槽60に返送されて飼育水に添加されているが、処理水の少なくとも一部が水槽60に返送されて飼育水に添加されればよく、処理水の一部が水槽60に返送されて飼育水に添加されてもよいし、処理水の全てが水槽60に返送されて飼育水に添加されてもよい。使用する水量を低減する等の観点から、処理水の一部が水槽60に返送されることが好ましく、処理水の全てが水槽60に返送されることがより好ましい。処理水の全てが水槽60に返送される閉鎖循環系とすることにより、使用する水量を低減することができる等の利点がある。また、循環は、常時循環してもよいし、定期的に循環してもよい。通常は、水槽60中の水質をできるだけ保つために、常時循環すればよい。
【0079】
本実施形態に係る海洋生物の飼育水製造方法および飼育水製造装置を用いる海洋生物の飼育方法および飼育システムの他の例を以下に説明する。
【0080】
本実施形態に係る海洋生物の飼育方法は、例えば、水槽から原水槽へ送液された飼育水を膜ろ過処理する膜ろ過工程と、前記膜ろ過工程による膜ろ過処理で得られる濃縮水に過酸化物を添加する過酸化物添加工程と、前記過酸化物添加工程により得られる過酸化物含有水の少なくとも一部を前記原水槽に返送する過酸化物含有水返送工程と、前記膜ろ過工程による膜ろ過処理で得られる膜ろ過水の過酸化物を分解処理する過酸化物分解工程と、前記過酸化物分解工程により分解処理した処理水の少なくとも一部を前記水槽に返送する処理水返送工程と、を含み、前記飼育水の少なくとも一部は、上記海洋生物の飼育水製造方法で得られた濃縮水である。
【0081】
また、本実施形態に係る海洋生物の飼育システムは、例えば、飼育水を貯留する水槽と、前記水槽からの前記飼育水を貯留する原水槽と、前記原水槽の水を膜ろ過処理する膜ろ過手段と、前記膜ろ過手段による膜ろ過処理で得られる濃縮水に過酸化物を添加する過酸化物添加手段と、前記過酸化物添加手段により得られる過酸化物含有水の少なくとも一部を前記原水槽に返送する過酸化物含有水返送手段と、前記膜ろ過手段による膜ろ過処理で得られる膜ろ過水の過酸化物を分解処理する過酸化物分解手段と、前記過酸化物分解手段により分解処理した処理水の少なくとも一部を前記水槽に返送する処理水返送手段と、を備え、前記飼育水の少なくとも一部は、上記海洋生物の飼育水製造装置で得られた濃縮水である。
【0082】
このような海洋生物の飼育方法および飼育システムの一例を
図5に示す。
【0083】
図5に示す飼育システム6は、飼育水を貯留する水槽60と、水槽60からの飼育水(高分子有機物含有水)を貯留する原水槽62と、原水槽62の水を膜ろ過処理する膜ろ過手段として、膜ろ過装置64と、膜ろ過装置64による膜ろ過処理で得られる濃縮水に過酸化物を添加する過酸化物添加手段として、オゾン発生装置74を備えるオゾン処理装置72と、膜ろ過装置64による膜ろ過処理で得られる膜ろ過水の過酸化物を分解処理する過酸化物分解手段として、活性炭処理装置68とを備える。飼育システム6は、膜ろ過水槽66と、処理水槽70と、濃縮水槽118とを備えてもよい。
【0084】
図5の飼育システム6において、飼育水製造装置1,2,3からの濃縮水配管22または濃縮水配管46が水槽60の飼育水入口に接続されている。水槽60の出口と原水槽62の原水入口とが配管124により接続され、原水槽62の原水出口と膜ろ過装置64の入口とがポンプ120およびストレーナ88を介して配管126により接続され、膜ろ過装置64の透過水(膜ろ過水)出口と膜ろ過水槽66の入口とが配管94により接続され、膜ろ過水槽66の出口と活性炭処理装置68の入口とがポンプ80を介して配管96により接続され、活性炭処理装置68の出口と処理水槽70の入口とが配管98により接続され、処理水槽70の処理水出口と水槽60とがポンプ82を介して処理水返送配管100により接続されている。処理水槽70の逆洗水出口と膜ろ過装置64の2次側の逆洗水入口とはポンプ84を介して配管108により接続されている。
【0085】
膜ろ過装置64の濃縮水出口と濃縮水槽118の濃縮水入口とが配管130により接続され、膜ろ過装置64の逆洗排水出口と濃縮水槽118の逆洗排水入口とが配管128により接続され、濃縮水槽118の出口とオゾン処理装置72の入口とがポンプ122を介して配管132により接続され、オゾン処理装置72の出口と原水槽62の入口とが過酸化物含有水返送配管134により接続されている。オゾン処理装置72の下部にはオゾン発生装置74が配管110により接続されている。
【0086】
上記飼育水製造装置1,2,3からの濃縮水は、濃縮水配管22または濃縮水配管46を通して水槽60へ飼育水として供給される。水槽60において例えば魚類等の海洋生物が飼育水中で飼育されている。飼育水には、海洋生物の飼育に伴い、通常、タンパク質等の高分子有機物、懸濁物質等が含まれるようになる。水槽60内の飼育水、すなわち高分子有機物等を含む高分子有機物含有水は、配管124を通して原水槽62へ送液される。高分子有機物含有水は、原水槽62において、後述する過酸化物を添加した過酸化物含有水と混合された後、混合水としてポンプ120により配管126を通して膜ろ過装置64に送液される。必要に応じて配管126の途中にストレーナ88を設置し、高分子有機物含有水中の比較的大きめの固形物が除去されてもよい。
【0087】
膜ろ過装置64において、原水中の残存した懸濁物質等が膜を用いてろ過されて除去される(膜ろ過工程)。
【0088】
膜ろ過された膜ろ過水は、配管94を通して必要に応じて膜ろ過水槽66に貯留された後、ポンプ80により配管96を通して活性炭処理装置68に供給される。活性炭処理装置68において、膜ろ過水中の残オゾン等の過酸化物が活性炭により分解処理される(過酸化物分解工程)。
【0089】
残オゾン等の過酸化物が分解処理された処理水は、配管98を通して必要に応じて処理水槽70に貯留された後、処理水の少なくとも一部はポンプ82により処理水返送配管100を通して水槽60に返送され、例えば飼育水として再利用されてもよい(処理水返送工程)。ポンプ82および処理水返送配管100等が、処理水の少なくとも一部を水槽60に返送する処理水返送手段として機能する。処理水を水槽60に返送して再利用することで、補給水や排水にかかるコストを削減することができる。
【0090】
膜ろ過装置64の洗浄が必要になった場合は、処理水の一部が逆洗水として処理水槽70からポンプ84により配管108を通して膜ろ過装置64の2次側から1次側に逆流されて、膜が洗浄されてもよい(逆洗工程)。逆洗排水は、配管128を通して濃縮水槽118に供給され、膜ろ過装置64からの濃縮水と混合される。膜ろ過水槽66の膜ろ過水が逆洗水として用いられてもよい。
【0091】
膜ろ過装置64の濃縮水は、配管130を通して必要に応じて濃縮水槽118に貯留された後、ポンプ122により配管132を通してオゾン処理装置72に供給される。
【0092】
オゾン処理装置72には、一方で、オゾン発生装置74で発生させたオゾンが配管110を通して供給される。オゾン処理装置72において、オゾンにより、濃縮水中の有機物の処理(ここでは主に有機物の分解処理)が行われる。また、オゾン処理装置72において、オゾンを用いた加圧浮上により、濃縮された懸濁物質等が固液分離される。有機物処理が行われたオゾン処理水は、過酸化物含有水返送配管134を通して原水槽62に返送される。すなわち、膜ろ過工程による膜ろ過処理で得られる濃縮水に過酸化物が添加され(過酸化物添加工程)、過酸化物添加工程により得られる過酸化物含有水の少なくとも一部が原水槽62に返送される(過酸化物含有水返送工程)。過酸化物含有水返送配管134等が、過酸化物含有水の少なくとも一部を原水槽62に返送する過酸化物含有水返送手段として機能する。過酸化物含有水を原水槽62に返送することで、膜ろ過装置64の膜に過酸化物含有水が接触し、ファウリングを抑制することができる。排オゾンは、配管112を通して排出され、オゾン除去装置により処理されてもよい。オゾン処理装置72において発生したスカム等は、配管114を通して排出されてもよい。
【0093】
本実施形態に係る飼育システム6において、高分子有機物含有水を原水槽62に貯留し、原水槽62の水を膜ろ過処理し、膜ろ過処理で得られる濃縮水について有機物処理を行い、原水槽62に返送することにより、高分子有機物や生物等による膜のファウリングを抑制し、膜ろ過装置64の安定した運転が可能となる。また、膜ろ過装置64の膜によって懸濁物質が濃縮され、オゾン処理装置72における加圧浮上の効率を上げることができる。
【0094】
本実施形態に係る海洋生物の飼育方法および飼育システムは、例えば、水族館や養殖等、海洋生物を飼育する際に用いられる飼育水の処理に適用され、飼育水は上記海洋生物の飼育水製造方法および飼育水製造装置で得られた濃縮水である海水相当の水である。水族館や養殖のような海洋生物を飼育する過程で生じる、タンパク質等の高分子有機物を含む飼育水の処理に好適に適用される。生物を飼育する場合、給餌等の要因により飼育水中の有機物濃度が変動する(例えば、±0.5~10mg/L)特徴がある。特に、水族館や養殖のような海洋生物を飼育する過程で生じる、タンパク質等の高分子有機物を含む海水の処理に適しており、魚類等の海洋生物の養殖や水族館等の魚類等の海洋生物の飼育水処理に用いられる閉鎖系循環処理により適している。
【0095】
本実施形態に係る海洋生物の飼育方法および飼育システムにおいて飼育に用いられた飼育水中の高分子有機物の濃度は、例えば、0.1~5mg/Lの範囲であり、飼育水中の懸濁物質の濃度は、例えば、10~100mg/Lの範囲である。
【実施例】
【0096】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
<実施例1~3>
純水に人工海水の素を規定量より少なく添加して作製した試験液を表1に示す塩類濃度の被処理水とし、
図1に示す海洋生物の飼育水製造装置に通水して濃縮水を得た。結果を表1に示す。被処理水、濃縮水の塩類濃度は、塩類濃度計(アタゴ社製、ポケット海水濃度計PAL-06S)を用いて測定した。なお、ポケット海水濃度計PAL-06Sの測定単位‰=1/10重量%である。逆浸透膜装置の逆浸透膜として、日東電工社製「SWC5-LD-4040」(ポリアミド系逆浸透膜)を用いた。
【0098】
【0099】
実施例1~3で得られた濃縮した海水を用いて、
図4に示す飼育システムで海水魚を飼育した。保有水量を130Lとし、海水魚としてデバスズメダイを10匹飼育した。1週間飼育を行ったところ、問題なく飼育することができた。
【0100】
このように、逆浸透膜分離処理によって塩類濃度1.0~3.0重量%の被処理水を海水相当の3.3~3.5重量%の塩類濃度に濃縮し、海洋生物の飼育水として利用することができた。
【0101】
以上の通り、海水の取水に制限がある地域であっても、コストアップを抑制して海洋生物の飼育水を製造することができることがわかった。
【符号の説明】
【0102】
1,2,3 飼育水製造装置、5,6 飼育システム、10 逆浸透膜分離装置、12 加圧ポンプ、14,30 水質測定装置、16 調整バルブ、18,42 被処理水配管、20 透過水配管、22,46 濃縮水配管、24 酸化剤添加配管、26 酸化剤除去装置、28 貯留槽、32 圧力測定装置、34 透過水流量測定装置、35 濃縮水流量測定装置、36 バルブ、38,40 三方バルブ、44 濃縮水循環配管、48 被処理水供給配管、50 薬剤添加配管、52 透過水ブロー配管、54 濃縮水ブロー配管、56 透過水循環配管、60 水槽、62 原水槽、64 膜ろ過装置、66 膜ろ過水槽、68 活性炭処理装置、70 処理水槽、72 オゾン処理装置、74 オゾン発生装置、76,78,80,82,84,120,122 ポンプ、88 ストレーナ、90,92,94,96,98,108,110,112,114,116,124,126,128,130,132 配管、100 処理水返送配管、102,104 循環配管、106 濃縮水返送配管、118 濃縮水槽、134 過酸化物含有水返送配管。