(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】ボールシート、ボールジョイント及びボールジョイントの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 11/06 20060101AFI20221114BHJP
【FI】
F16C11/06 R
F16C11/06 K
(21)【出願番号】P 2019131554
(22)【出願日】2019-07-17
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 茂
(72)【発明者】
【氏名】永田 裕也
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-065725(JP,A)
【文献】特開2009-068554(JP,A)
【文献】特開2016-103406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/00-11/12
F16B 5/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体に一端部が連結されるスタッド部の他端部に、球体部が一体に接合されて成るボールスタッドと、当該ボールスタッドの球体部を揺動及び回転可能に支持し一方が開口した空間を有する金属製のハウジングと、当該ハウジングと球体部との間に介在される樹脂製のボールシートとを有し、ハウジングの底部に形成された複数の貫通孔に、ボールシートから突き出た複数の突起部が貫通され、貫通した突起部の先端部がカシメられたボールジョイントに用いられるボールシートであって、
突起部は、先端部よりも根元側に、ハウジングの貫通孔の内径よりも太い径の拡径部
を備えることを特徴とするボールシート。
【請求項2】
拡径部は、複数の突起部の少なくとも1本に設ける
ことを特徴とする請求項1に記載のボールシート。
【請求項3】
前記ボールシートの底部における拡径部の周囲に、所定幅で凹状に周回するプール部を設けた
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のボールシート。
【請求項4】
プール部の深さをH、貫通孔の内径をφB、拡径部の径をφC、突起部の拡径部が貫通孔に所定長さ挿通される際に当該拡径部が当該貫通孔の入口エッジで削られる長さをh1aとした場合に、
1≦H/{(|φB-φC|/2)×h1a}≦2の式が成立するようにした
ことを特徴とする請求項3に記載のボールシート。
【請求項5】
拡径部の長さは、ハウジングにおける底部の厚さ以上の寸法である
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のボールシート。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載のボールシートを備え、
前記ボールシートの突起部の拡径部が、ハウジングの貫通孔に圧縮された状態で挿通されている
ことを特徴とするボールジョイント。
【請求項7】
前記拡径部が貫通孔に削られながら且つ圧縮されながら挿通される際に、当該貫通孔の入口エッジで削られる拡径部の削りカスが、前記ボールシートのプール部の中に蓄積されるようにした
ことを特徴とする請求項6に記載のボールジョイント。
【請求項8】
貫通孔の入口エッジをテーパ形状に切削した
ことを特徴とする請求項6又は7に記載のボールジョイント。
【請求項9】
プール部を、ボールシートに代え、ハウジングの貫通孔の入口の周囲に設けた
ことを特徴とする請求項6~8の何れか1項に記載のボールジョイント。
【請求項10】
構造体に一端部が連結されるスタッド部の他端部に、球体部が一体に接合されて成るボールスタッドと、当該ボールスタッドの球体部を揺動及び回転可能に支持し一方が開口した空間を有する金属製のハウジングと、当該ハウジングと球体部との間に介在される樹脂製のボールシートとを有し、ハウジングの底部に形成された複数の貫通孔に、ボールシートから突き出た複数の突起部が貫通され、貫通した突起部の先端部がカシメられたボールジョイントの製造方法であって、
突起部は、先端部よりも根元側に、ハウジングの貫通孔の内径よりも太い径の拡径部を備え、
拡径部が、ハウジングの貫通孔に圧縮されて挿通されるステップと、
挿通された拡径部の先端側の先端部が、貫通孔からハウジングの外部へ突き出るステップと
を実行することを特徴とするボールジョイントの製造方法。
【請求項11】
ボールシートの底部から突き出た突起部における拡径部の周囲の底面に、所定幅で凹状に周回するプール部を備え、
拡径部が、ハウジングの貫通孔に削られながら且つ圧縮されて挿通される際に、当該貫通孔の入口エッジで削られる拡径部の削りカスが、前記プール部の中に全て蓄積されるステップ
を実行することを特徴とする請求項10に記載のボールジョイントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の路面からの衝撃軽減等の役割を果たすサスペンションとスタビライザとを連結するスタビリンクを備え、このスタビリンクの両側に配備されるボールジョイントに用いられるボールシート、ボールジョイント及びボールジョイントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンションは、路面から車体に伝わる衝撃を軽減し、スタビライザは、車体のロール剛性(捩れに対する剛性)を高める。このサスペンションとスタビライザは、スタビリンクを介して連結されている。スタビリンクは、棒状のサポートバーの両端にボールジョイントを備えて構成されている。
【0003】
このボールジョイントとして、例えば特許文献1に記載のボールジョイントがある。このボールジョイントJは、
図8に示すように、金属製のカップ状のハウジング11内に、樹脂製のボールシート12を介して金属製のボールスタッド10のボール部10bを回転自在に収容(包含)した構成となっている。
【0004】
ボールスタッド10は、棒状のスタッド部10sの一端に球状のボール部10bが一体に連結された構造となっている。スタッド部10sには、雄ねじ10nが螺刻されており、この雄ねじ10nよりも先端側(ボール部10b側)に、周回状に拡がる鍔部10a1と小鍔部10a2とが離間して形成されている。鍔部10a1とハウジング11の上端側との間には、ダストカバー13が配設されている。ダストカバー13におけるハウジング11の上端側への接続部分には、鉄リンク13aが圧入固定されている。
【0005】
ハウジング11の外周面には、金属製のサポートバー1aが固定されている。サポートバー1aを水平線Hに沿って水平とした際に、ボールスタッド10の軸芯が水平線Hに対して垂直線Vで示す垂直となるように構成されている。
【0006】
ボール部10bを包含するボールシート12は、ハウジング11の直立した胴部11bに対して90°折り曲げられた上端部11aで、C型ストッパリング14(リング14ともいう)を介してカシメられている(固定されている)。ボールシート12の上端部は、平坦面から内周側に傾斜するテーパ面を有する形状となっている。リング14は、ボールシート12の上端部を被覆する平坦面とテーパ面14aを有する形状となっている。テーパ面14aの傾斜角は、ボールスタッド10が揺動(矢印α1)した際に、ボールスタッド10の予め定められた揺動角を満たす角度となっている。
【0007】
ハウジング11の内面は、断面形状の縦壁がストレート形状となっており、この内面にボールシート12が収容されている。ボールシート12の内面は、ボール部10bの球状に沿った球形湾曲面12aの形状となっている。この球形湾曲面12aをボールシート内球面12a又は内球面12aともいう。
【0008】
また、ハウジング11の底部11aには、複数の貫通孔11bが形成されている。ボールシート12の底部12bには、各貫通孔11bと同数で同間隔の各突起部12cが垂直線Vに沿って突出して設けられている。各突起部12cは、棒状を成して各貫通孔11bに挿通され、貫通した先端部が拡幅形状にカシメられている。つまり、突起部12cが貫通孔11bに嵌合されて固定されている。
【0009】
カシメ前の突起部12cは、
図9に示すように、垂直線Vに沿って直線状に延在しており、貫通孔11bに挿通されている。この挿通された突起部12cは、貫通孔11bからハウジング11の外部へ突き出た棒形状部分が、熱カシメによって、
図8に示すように、拡幅形状にカシメられる。
【0010】
このボールジョイントJでは、車両のサスペンションがストロークするに伴い、ボール部10bとボールシート内球面12aとが揺摺動するが、この揺摺動する際の特性が、揺動トルク及び回転トルク(各トルクともいう)と定義づけられる。ボール部10bの回転時の内球面12aへの摩擦力が増加して各トルクが高まると、乗り心地が悪化する。
【0011】
ハウジング11内のボール部10bに対するボールシート12の締め代を減少させると、各トルクを下げることができるが、同時に弾性リフト量が上がる。弾性リフト量とは、ハウジング11内のボールシート12を介したボール部10bの移動量である。弾性リフト量が大きくなると、ボール部10bがハウジング11内でボールシート12を介して大きく移動し、ボールジョイントJにガタが発生し、車両走行中の異音発生に繋がる。つまり、各トルクと弾性リフト量との間には、各トルクが低下すると、弾性リフト量が増大するといった相反関係がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したボールシート12は、樹脂部品であって射出成形にて製造されるが、成形時の熱収縮の影響によりボールシート12の幅が一定とならずテーパ状となっている。一方、ハウジング11の内壁はストレート形状であるため、ボールシート12のテーパ状の外壁と形状が異なる。このため、ボールシート12のテーパ状の外壁と、ハウジング11のストレート形状の内壁との当りが局部的になって締め代が減少し、弾性リフト量が増大する。この増大に応じて、ハウジング11の貫通孔11bに対するボールシート12の突起部12dの嵌合が緩み、ボールスタッド10の引き抜き強度(スタッド引抜強度)が低下するという問題があった。スタッド引抜強度が低下すると、ボールジョイントJにガタが発生し、車両走行中の異音発生に繋がったり、ハウジング11からボールスタッド10が抜ける恐れがある。
【0014】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、ハウジング底部の貫通孔に嵌合されるボールシートの突起部のスタッド引抜強度を向上できるボールシート、ボールジョイント及びボールジョイントの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、構造体に一端部が連結されるスタッド部の他端部に、球体部が一体に接合されて成るボールスタッドと、当該ボールスタッドの球体部を揺動及び回転可能に支持し一方が開口した空間を有する金属製のハウジングと、当該ハウジングと球体部との間に介在される樹脂製のボールシートとを有し、ハウジングの底部に形成された複数の貫通孔に、ボールシートから突き出た複数の突起部が貫通され、貫通した突起部の先端部がカシメられたボールジョイントに用いられるボールシートであって、突起部は、先端部よりも根元側に、ハウジングの貫通孔の内径よりも太い径の拡径部を備えることを特徴とするボールシートである。
【0016】
請求項10に係る発明は、構造体に一端部が連結されるスタッド部の他端部に、球体部が一体に接合されて成るボールスタッドと、当該ボールスタッドの球体部を揺動及び回転可能に支持し一方が開口した空間を有する金属製のハウジングと、当該ハウジングと球体部との間に介在される樹脂製のボールシートとを有し、ハウジングの底部に形成された複数の貫通孔に、ボールシートから突き出た複数の突起部が貫通され、貫通した突起部の先端部がカシメられたボールジョイントの製造方法であって、突起部は、先端部よりも根元側に、ハウジングの貫通孔の内径よりも太い径の拡径部を備え、拡径部が、ハウジングの貫通孔に圧縮されて挿通されるステップと、挿通された拡径部の先端側の先端部が、貫通孔からハウジングの外部へ突き出るステップとを実行することを特徴とするボールジョイントの製造方法である。
【0017】
請求項1の構成又は請求項10の方法によれば、ボールシートの拡径部を、ハウジングの貫通孔に挿通する際に、拡径部が貫通孔に圧縮されて挿通される。この挿通により、突起部の先端部が貫通孔から所定長さ貫通した際に、拡径部が貫通孔に高圧力で嵌合される。この嵌合で樹脂が圧縮されることによる径方向の反発力により、スタッド引き抜きの際に貫通孔と拡径部の間に摩擦力が発生する。このため、ハウジング底部の貫通孔に嵌合されるボールシートの突起部のスタッド引抜強度を向上できる。
【0018】
請求項2に係る発明は、拡径部は、複数の突起部の少なくとも1本に設けることを特徴とする請求項1に記載のボールシートである。
【0019】
請求項3に係る発明は、前記ボールシートの底部における拡径部の周囲に、所定幅で凹状に周回するプール部を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載のボールシートである。
【0020】
請求項11に係る発明は、ボールシートの底部から突き出た突起部における拡径部の周囲の底面に、所定幅で凹状に周回するプール部を備え、拡径部が、ハウジングの貫通孔に削られながら且つ圧縮されて挿通される際に、当該貫通孔の入口エッジで削られる拡径部の削りカスが、前記プール部の中に全て蓄積されるステップを実行することを特徴とする請求項10に記載のボールジョイントの製造方法である。
【0021】
請求項3の構成又は請求項11の方法によれば、ボールシートの底部のプール部に、貫通孔の入口エッジで削られる拡径部の削りカスを溜めることができる。このため、ハウジングの貫通孔の形成面と、ボールシートのプール部の形成面との双方の間に、削りカスが挟まらないので、双方を隙間なく当接できる。このため、貫通孔への拡径部の圧入不足を解消できる。
【0022】
請求項4に係る発明は、プール部の深さをH、貫通孔の内径をφB、拡径部の径をφC、突起部の拡径部が貫通孔に所定長さ挿通される際に当該拡径部が当該貫通孔の入口エッジで削られる長さをh1aとした場合に、1≦H/{(|φB-φC|/2)×h1a}≦2の式が成立するようにしたことを特徴とする請求項3に記載のボールシートである。
【0023】
この構成によれば、拡径部の高さh1を高くする程、又は、拡径部e1の径φCを太くするほどに、拡径部が貫通孔の入口エッジで削られる長さ(高さ)h1aが長くなり、上式で得られる値である削りカスの量が大きくなる。つまり、拡径部の径φCを太くし、高さh1を高くするのであれば、その分、プール部の深さHを深くする必要がある。このように、上式から適正なプール部の深さを求めることができる。
【0024】
請求項5に係る発明は、拡径部の長さは、ハウジングにおける底部の厚さ以上の寸法であることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のボールシートである。
【0025】
この構成によれば、拡径部の長さが、ハウジング底部の厚さと同じ場合、貫通孔から拡径部がハウジング外面側にはみ出ないので、拡径部の先端側の先端部を熱カシメする際に容易に行える。また、拡径部の長さ(高さ)が、底部の厚さよりも、熱カシメに影響しない程度、高い場合、スタッド引抜強度を高くできる。
【0026】
請求項6に係る発明は、請求項1~5の何れか1項に記載のボールシートを備え、前記ボールシートの突起部の拡径部が、ハウジングの貫通孔に圧縮された状態で挿通されていることを特徴とするボールジョイントである。
【0027】
この構成によれば、ボールジョイントにおけるボールシートの拡径部が、ハウジングの貫通孔に高圧力で嵌合される。この嵌合で樹脂が圧縮されることによる径方向の反発力により、スタッド引き抜きの際に貫通孔と拡径部の間に摩擦力が発生する。このため、ハウジング底部の貫通孔に嵌合されるボールシートの突起部のスタッド引抜強度を向上できる。
【0028】
請求項7に係る発明は、前記拡径部が貫通孔に削られながら且つ圧縮されながら挿通される際に、当該貫通孔の入口エッジで削られる拡径部の削りカスが、前記ボールシートのプール部の中に蓄積されるようにしたことを特徴とする請求項6に記載のボールジョイントである。
【0029】
この構成によれば、プール部に拡径部の削りカスを溜めることができるので、ハウジングの貫通孔の形成面と、ボールシートのプール部の形成面との双方の間に削りカスが挟まらず、双方を隙間なく当接できる。このため、貫通孔への拡径部の圧入不足を解消できる。
【0030】
請求項8に係る発明は、貫通孔の入口エッジをテーパ形状に切削したことを特徴とする請求項6又は7に記載のボールジョイントである。
【0031】
この構成によれば、貫通孔の入口エッジをテーパ形状とすることにより、入口エッジの角度が拡がる。このため、貫通孔に挿通される拡径部を圧縮し易く、且つ削られ過ぎないようにできるので、貫通孔11bへの拡径部e1の嵌合圧力を高めることができる。
【0032】
請求項9に係る発明は、プール部を、ボールシートに代え、ハウジングの貫通孔の入口の周囲に設けたことを特徴とする請求項6~8の何れか1項に記載のボールジョイントである。
【0033】
この構成によれば、ボールシートの底面とプール部との間にできる空間に、拡径部の削りカスを溜めることができるので、ハウジングの貫通孔及びプール部の形成面と、ボールシートの拡径部の形成面との双方を隙間なく当接できる。このため、貫通孔への拡径部の圧入不足を解消できる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、ハウジング底部の貫通孔に嵌合されるボールシートの突起部のスタッド引抜強度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明に係る実施形態のボールジョイントの構成を示す縦断面図である。
【
図2】本実施形態のボールジョイントにおけるボールシートの特徴構成を拡大した側面図である。
【
図3】本実施形態のボールジョイントにおけるハウジングの貫通孔に、ボールシートの突起部を貫通した部分を拡大した断面図である。
【
図4】本実施形態の変形例1のハウジングの貫通孔におけるテーパ形状部分の断面図である。
【
図5】本実施形態の変形例2のボールジョイントのハウジング及びボールシートの特徴構成を示す側面図である。
【
図6】変形例2ボールシートの特徴構成を拡大した側面図である。
【
図7】変形例2のハウジングの貫通孔におけるテーパ形状部分の断面図である。
【
図9】従来のボールジョイントにおけるボールシートの突起部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。但し、本明細書の全図において互いに対応する構成部分には同一符号を付し、その説明を適宜省略する。
<実施形態>
図1は、本発明に係る実施形態のボールジョイントの構成を示す縦断面図である。
但し、
図1に示すボールジョイントJ1のスタッド部10sは、前述したサスペンション又はスタビライザに固定されている。サスペンション又はスタビライザは、請求項記載の構造体を構成する。
図1に示すボールジョイントJ1において、スタッド部10sの先端側が「上」、ハウジング11の底部側が「下」であるとする。
【0037】
図1に示すボールジョイントJ1が、従来のボールジョイントJ(
図9)と異なる点は、ボールシート12Aの棒状の突起部12eが、この先端部e2よりも根元側に、ハウジング11の貫通孔11bの内径よりも太い径の拡径部e1を備えることにある。更に、ボールシート12Aの底部12bにおける拡径部e1の周囲に、所定幅で凹状に周回するプール部b1を備えることにある。
【0038】
図2はボールシート12Aの上記特徴構成を拡大した側面図である。但し、
図2に示すボールシート12Aは、実際のボールジョイントJ1の組み立て作業時に、突起部12eを
図1と上下逆向きとする状態に基づき表している。これは、後述の
図3~
図7も同様である。
【0039】
図2に示すように、突起部12eは、高さh2の円柱棒状の先端部e2の径がφAであり、高さh1の円柱状の拡径部e1の径が、φAより太いφCとなっている。プール部b1の凹形状の深さは、Hである。
【0040】
図1に示すボールシート12Aが収容されるハウジング11は、鉄板等の金属板がプレス成形又は冷鍛によってカップ形状に成形されている。ハウジング11の貫通孔11bは、ボールシート12Aの突起部12eと同数で、貫通孔11bと突起部12eとの互いの中心が同間隔で形成されている。突起部12eは、ボールシート12Aの底部12bから垂直線Vに沿って突出している。
【0041】
ボールシート12Aは、POM(polyoxymethylene)等の熱カシメが可能な熱可塑性樹脂材料により形成されている。但し、ボールシート12Aは、POM以外の熱可塑性樹脂であって、前述したボール部(球体部)10bとの摩耗要件等が満たされれば、他の材料でもよい。
【0042】
POM製のボールシート12Aは、140℃~150℃位の熱で柔らかくなって変形し、この変形後に冷却されると、その変形形状を保持する。このため、ハウジング11の貫通孔11bに挿通されて外部へ突き出た突起部12eの先端部e2を、熱カシメによって拡幅形状(
図8参照)に変形した後、冷却すれば、その拡幅形状を保持できる。
【0043】
図3はハウジング11の貫通孔11bに、ボールシート12Aの突起部12eを挿通した部分を拡大した断面図である。
ハウジング11の貫通孔11bの内径φBは、ボールシート12Aの先端部e2の径φA(
図2)以上のサイズで、且つ、拡径部e1の径φCよりも小さいサイズとなっている。このように、φA≦φBとすることで、径φAの先端部e2が、内径φBの貫通孔11bに挿入し易くなる。
【0044】
また、φC>φBとすることで、例えば径φC=4.1mmの拡径部e1が、内径φB=4.0mmの貫通孔11bに挿通される際に、貫通孔11bの入口エッジで拡径部e1が削られながら、且つ貫通孔11bで圧縮されながら挿入される。拡径部e1の削られて残った部分が、必然的に貫通孔11bに圧縮状態で嵌合される。この圧縮嵌合された拡径部e1と、貫通孔11bの内面との摩擦抵抗で、スタッド引抜荷重(後述)の一部を負担させることが可能となる。なお、嵌合された拡径部e1を引き抜いた際の拡径部e1の径φCは、貫通孔11bの内径φBよりも太くなっている。スタッド引抜荷重は、ボールスタッド10をハウジング11から引き抜くために必要な力(荷重)である。
【0045】
次に、ボールシート12Aのプール部b1は、上述した貫通孔11bの入口エッジで削られる拡径部e1の削りカスe1aを溜める。つまり、プール部b1の深さHは、全ての削りカスe1aが、プール部b1内に収容可能なサイズとなっている。
【0046】
プール部b1の深さがH、貫通孔11bの内径がφB、拡径部e1の径がφC、長さ(高さ)h1の拡径部e1が貫通孔11bに所定長さ(高さ)挿通される際に、拡径部e1が貫通孔11bの入口エッジで削られる長さをh1aとした場合に、次式(1)が成立する。
【0047】
1≦H/{(|φB-φC|/2)×h1a}≦2 …(1)
【0048】
ここで、例えばH=0.4mm、|φB-φC|=0.2mm、h1a=2.5mmとすると、H/{(|φB-φC|/2)×h1a=1.6となる。
【0049】
{(|φB-φC|/2)×h1aは、拡径部e1の削られる量(削りカスe1aの全量)である。拡径部e1の高さh1を高くする程、又は、拡径部e1の径φCを太くするほどに、上式(1)の値である削りカスe1aの量が大きくなる。つまり、拡径部e1の径φCを太くし、高さh1を高くするのであれば、その分、プール部b1の深さHを深くする必要がある。
【0050】
また、ハウジング11の底部12bの厚さtとした際に、拡径部e1の高さh1を、次式(2)で設定することで、削りカスe1aの全てをプール部b1に落として収容できる。
【0051】
t/2≦h1≦t …(2)
【0052】
ここで、拡径部e1の高さ(長さ)h1が、ハウジング11の底部12bの厚さtと同じ場合、貫通孔11bから拡径部e1がハウジング外面側に食み出ないので、貫通孔11bから突き出た先端部e2を、容易に熱カシメできる。
【0053】
また、拡径部e1の高さh1を、底部12bの厚さtよりも、熱カシメに影響しない程度、高くしてもよい。この場合、スタッド引抜強度を高くできる。
【0054】
但し、拡径部e1の高さh1を、貫通孔11bの途中部分までの高さとした場合、スタッド引抜荷重に対抗できる摩擦抵抗が減少するが、スタッド引抜荷重に対抗する摩擦負荷を、任意に調整できる。
【0055】
上述したように、プール部b1に削りカスe1aを溜めることにより、ハウジング11の貫通孔11bの形成面と、ボールシート12Aのプール部b1の形成面との双方の間に、削りカスe1aが挟まらないので、双方を隙間なく当接できる。
【0056】
また、ボールシート12Aの複数の突起部12eの内、拡径部e1を形成する突起部12eの数は、スタッド引抜荷重に応じて設定する。スタッド引抜荷重が大きい程に、拡径部e1を有する突起部12eの数を多くする。例えば拡径部e1を有する突起部12eが1本の場合に、スタッド部10s(
図1)が抜けるようであれば、拡径部e1を2本にする。
【0057】
ボールシート12Aの突起部12eの数は、4本又は6本が一般的であるが、拡径部e1は、複数の突起部12eの少なくとも1本に設ける。
【0058】
<実施形態のボールジョイントの製造方法>
上述したボールジョイントJ1の製造方法について説明する。
まず、ボールシート12Aの拡径部e1を、ハウジング11の貫通孔11bに挿通する。この際、拡径部e1が貫通孔11bに圧縮されて挿通される。
【0059】
次に、その挿通された拡径部e1の先端部e2が、貫通孔11bからハウジング11の外部へ所定長さ突き出る。これによって、拡径部e1が貫通孔11bに高圧力で嵌合される。
【0060】
但し、拡径部e1が貫通孔11bに挿通される際に、拡径部e1が貫通孔11bで削られながら且つ圧縮されて挿通される場合、貫通孔11bの入口エッジで削られる拡径部e1の削りカスe1aが、プール部b1の中に全て蓄積される。このため、
図3に示したように、ハウジング11の貫通孔11bの形成面と、ボールシート12Aのプール部b1の形成面との双方を隙間なく当接できるので、貫通孔11bへの拡径部e1の圧入不足を解消できる。
【0061】
<実施形態の効果>
次に、本実施形態の効果を説明する。本実施形態のボールシート12Aは、構造体(サスペンション又はスタビライザ)に一端部が連結されるスタッド部10sの他端部に、ボール部10bが一体に接合されて成るボールスタッド10と、当該ボールスタッド10のボール部10bを揺動及び回転可能に支持し一方が開口した空間を有する金属製のハウジング11と、当該ハウジング11とボール部10bとの間に介在される樹脂製のボールシート12Aとを有する。ハウジング11の底部に形成された複数の貫通孔11bに、ボールシート12Aから突き出た複数の突起部12eが貫通され、貫通した突起部12eの先端部e2がカシメられたボールジョイントJ1に用いられるボールシート12Aである。
【0062】
(1)ボールシート12Aの突起部12eは、先端部e2よりも根元側に、ハウジング11の貫通孔11bの内径よりも太い径の拡径部e1を備える構成とした。
【0063】
この構成によれば、ボールシート12Aの拡径部e1を、ハウジング11の貫通孔11bに挿通する際に、拡径部e1が貫通孔11bに圧縮されて挿通される。この挿通により、突起部12eの先端部e2が貫通孔11bから所定長さ貫通した際に、拡径部e1が貫通孔11bに高圧力で嵌合される。この嵌合で、拡径部e1の樹脂が圧縮されることによる径方向の反発力により、スタッド引き抜きの際に貫通孔11bと拡径部e1の間に摩擦力が発生する。このため、ハウジング11底部の貫通孔11bに嵌合されるボールシート12Aの突起部12eのスタッド引抜強度を向上できる。
【0064】
(2)拡径部e1は、複数の突起部12eの少なくとも1本に設ける構成とした。
【0065】
この構成によれば、スタッド引抜荷重に応じて、貫通孔11bに嵌合される拡径部e1を有する突起部12eの数を調整できるので、突起部12eの製造時に、無駄に、拡径部e1を有する突起部12eの数を増やすことが無くなり生産効率を向上できる。
【0066】
(3)ボールシート12Aの底部12bにおける拡径部e1の周囲に、所定幅で凹状に周回するプール部b1を設ける構成とした。
【0067】
この構成によれば、ボールシート12Aの底部12bのプール部b1に、貫通孔11bの入口エッジで圧縮されながら削られる拡径部e1の削りカスを溜めることができる。このため、ハウジング11の貫通孔11bの形成面と、ボールシート12Aのプール部b1の形成面との双方の間に、削りカスが挟まらないので、双方を隙間なく当接できる。このため、貫通孔11bへの拡径部e1の圧入不足を解消できる。
【0068】
(4)プール部b1の深さをH、貫通孔11bの内径をφB、拡径部e1の径をφC、突起部12eの拡径部e1が貫通孔11bに所定長さ挿通される際に当該拡径部e1が当該貫通孔11bの入口エッジで削られる長さをh1aとした場合に、1≦H/{(|φB-φC|/2)×h1a}≦2の式(1)が成立するようにした。
【0069】
この構成によれば、拡径部e1の高さh1を高くする程、又は、拡径部e1e1の径φCを太くするほどに、拡径部e1が貫通孔11bの入口エッジで削られる長さ(高さ)h1aが長くなり、上式(1)で得られる値である削りカスの量が大きくなる。つまり、拡径部e1の径φCを太くし、高さh1を高くするのであれば、その分、プール部b1の深さHを深くする必要がある。このように、上式(1)から適正なプール部b1の深さを求めることができる。
【0070】
(5)拡径部e1の長さは、ハウジング11における底部の厚さ以上の寸法である構成とした。
【0071】
この構成によれば、拡径部e1の長さが、ハウジング11底部の厚さと同じ場合、貫通孔11bから拡径部e1がハウジング11外面側にはみ出ないので、拡径部e1の先端側の先端部e2を熱カシメする際に容易に行える。また、拡径部e1の長さ(高さ)が、底部の厚さよりも、熱カシメに影響しない程度、高い場合、スタッド引抜強度を高くできる。
【0072】
(6)本実施形態のボールジョイントJ1は、上記ボールシート12Aを備え、ボールシート12Aの突起部12eの拡径部e1が、ハウジング11の貫通孔11bに圧縮された状態で挿通されている。
【0073】
この構成によれば、ボールジョイントJ1におけるボールシート12Aの拡径部e1が、ハウジング11の貫通孔11bに高圧力で嵌合される。この嵌合で、拡径部e1の樹脂が圧縮されることによる径方向の反発力により、スタッド引き抜きの際に貫通孔11bと拡径部e1の間に摩擦力が発生する。このため、スタッド引抜強度を向上できる。
【0074】
(7)上記(6)の貫通孔11bへの拡径部e1の挿通時に、当該貫通孔11bの入口エッジで削られながら且つ圧縮されながら挿通される際に、貫通孔11bの入口エッジで削られる拡径部e1の削りカスが、プール部b1の中に全て蓄積される構成とした。
【0075】
この構成によれば、プール部b1に拡径部e1の削りカスを溜めることができるので、ハウジング11の貫通孔11bの形成面と、ボールシート12Aのプール部b1の形成面との双方を隙間なく当接できる。このため、貫通孔11bへの拡径部e1の圧入不足を解消できる。
【0076】
<実施形態の変形例1>
図4は、本発明に係る実施形態の変形例1のボールジョイントの特徴構成であるハウジングの貫通孔におけるテーパ形状部分の断面図である。
【0077】
図4に示す変形例1のハウジング11Aが、上述したハウジング11(
図3)と異なる点は、突起部12eの挿入側である貫通孔11bの入口(入口エッジ)を、入口が拡がるテーパ形状11tとしたことにある。
【0078】
このように貫通孔11bの入口をテーパ形状11tとすることにより、入口エッジの角度が拡がるので、貫通孔11bに挿通される拡径部e1が圧縮され易く、且つ削られ過ぎないようにできる。つまり、拡径部e1が適度に削られるようにできるので、貫通孔11bへの拡径部e1の嵌合圧力を高めることができる。拡径部e1が削られ過ぎると、嵌合圧力が低下する。
【0079】
貫通孔11bにテーパ形状11tを付けた際に、拡径部e1の径φCを、貫通孔11bの径φBよりも極僅かに大きくすることで、拡径部e1を削り取られないように圧縮嵌合できる。この場合もスタッド引抜荷重に対抗する摩擦抵抗を得ることができる。
【0080】
<実施形態の変形例2>
図5は、本発明に係る実施形態の変形例2のボールジョイントのハウジング及びボールシートの特徴構成を示す側面図である。
【0081】
図5に示すハウジング11Bが、上述したハウジング11(
図3)と異なる点は、突起部12eの挿入側である貫通孔11bの周囲の面に、所定幅で凹状に周回するプール部a1を形成した。更に、
図6に示すように、ボールシート12Bの突起部12eが突き出た底部12b1の面12b1を平坦にしたことにある。
【0082】
この構成によって、拡径部e1が貫通孔11bに挿通される際に、拡径部e1が貫通孔11bの入口エッジで削られる削りカスe1aが、ボールシート12Bの底面とプール部a1との間にできる空間に全て蓄積される。
【0083】
このため、ハウジング11Bの貫通孔11b及びプール部a1の形成面と、ボールシート12Aの底部12bの面12b1との双方を隙間なく当接できるので、貫通孔11bへの拡径部e1の圧入不足を解消できる。
【0084】
<実施形態の変形例3>
図7は、本発明に係る実施形態の変形例3のボールジョイントの特徴構成であるハウジングの貫通孔におけるテーパ形状部分の断面図である。
【0085】
図7に示す変形例3のハウジング11Cが、上述したハウジング11B(
図5)と異なる点は、ハウジング11Cの周囲にプール部a1が形成された貫通孔11bの入口を、入口が拡がるテーパ形状11t1としたことにある。
【0086】
このように貫通孔11bの入口をテーパ形状11t1とすることにより、入口エッジの角度が拡がるので、貫通孔11bに挿通される拡径部e1が削られ過ぎないようにできる。つまり、拡径部e1が適度に削られるようにできるので、貫通孔11bへの拡径部e1の嵌合圧力を高めることができる。
【0087】
貫通孔11bにテーパ形状11t1を付けた際に、拡径部e1の径φCを、貫通孔11bの径φBよりも僅かに大きくすることで、拡径部e1を削り取られないように圧縮嵌合できる。この場合もスタッド引抜荷重に対抗する摩擦抵抗を得ることができる。
【0088】
その他、具体的な構成について、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
本発明のボールシート固定構造のボールジョイントJ1は、産業用ロボットや人型ロボット等のロボットアームの関節部分や、ショベルカーやクレーン車等のアームが関節部分で回転する装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0089】
10 ボールスタッド
10s スタッド部
10b ボール部
10s スタッド部
11,11B,11C ハウジング
11a 底部
11b 貫通孔
12,12A,12B ボールシート
12b 底部
12b1 底部の面
12e 突起部
e1 拡径部
e2 先端部
a1,b1 プール部
e1a 削りカス
11t,11t1 テーパ形状
J1 ボールジョイント