(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】タイル健全性判定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/12 20060101AFI20221114BHJP
【FI】
G01N29/12
(21)【出願番号】P 2019158554
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】稲留 康一
(72)【発明者】
【氏名】起橋 孝徳
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-200165(JP,A)
【文献】特開平9-257765(JP,A)
【文献】特開2006-260443(JP,A)
【文献】特開2017-40585(JP,A)
【文献】特開平10-170482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-G01N 29/52
G01H 1/00-G01H 17/00
E04G 23/00-E04G 23/08
G01N 21/84-G01N 21/958
G01N 33/00-G01N 33/46
G01B 11/00-G01B 11/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロホンにより検出された周囲音を含むタイルの打音に基いて、所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の音圧レベルからなる周波数特性を取得する周波数特性取得部と、
前記マイクロホンにより検出された周囲音を含む健全なタイルの打音に基き、前記所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の音圧レベルからなる基準周波数特性が予め記憶されている基準周波数特性記憶部と、
前記周波数特性の所定の周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルと前記基準周波数特性の当該周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルとの差である特定音圧相対レベル差を算出する特定音圧相対レベル差算出部と、
前記周波数特性の各周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルと前記基準周波数特性の当該周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルとの差の平均である平均音圧相対レベル差を算出する平均音圧相対レベル差算出部と、
前記特定音圧相対レベル差と前記平均音圧相対レベル差との差の絶対値の合計値又は最大値が所定の閾値を超える場合、
かつ、前記周波数特性の各周波数帯域における音圧相対レベルと前記基準周波数特性の当該周波数帯域における音圧相対レベルとの差の絶対値の最大値が所定の閾値を超える場合
、判定対象物である
前記タイルは不健全であると判定する健全性判定部とを備え、
前記健全なタイルは、前記判定対象物であるタイルと、タイルの種類、張り付ける際に用いた接着剤の種類、及び、タイルを張り付けた下地の材質が同じであることを特徴とするタイル健全性判定装置。
【請求項2】
前記マイクロホンにより検出された周囲音を含む健全なタイルの打音に基いて、前記所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の相対的な音圧レベルである音圧相対レベルからなる周波数特性を取得する基準周波数特性取得部を備え、
前記基準周波数特性記憶部は前記基準周波数取得部が取得した前記周波数特性を前記基準周波数特性として記憶することを特徴とする請求項1に記載のタイル健全性判定装置。
【請求項3】
前記所定の周波数帯域は、前記周波数特性の音圧レベルが最も大きい周波数帯域であることを特徴とする請求項1又は2に記載のタイル健全性判定装置。
【請求項4】
マイクロホンにより検出された周囲音を含むタイルの打音に基いて、所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の音圧レベルからなる周波数特性を取得する周波数特性取得工程と、
前記マイクロホンにより検出された周囲音を含む健全なタイルの打音に基き、前記所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の音圧レベルからなる基準周波数特性を予め記憶されている記憶部から取り出す基準周波数特性取り出し工程と、
前記周波数特性の所定の周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルと前記基準周波数特性の当該周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルとの差である特定音圧相対レベル差を算出する特定音圧相対レベル差算出工程と、
前記周波数特性の各周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルと前記基準周波数特性の当該周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルとの差の平均である平均音圧相対レベル差を算出する平均音圧相対レベル差算出工程と、
前記特定音圧相対レベル差と前記平均音圧相対レベル差との差の絶対値の合計値又は最大値が所定の閾値を超える場合、
かつ、前記周波数特性の各周波数帯域における音圧相対レベルと前記基準周波数特性の当該周波数帯域における音圧相対レベルとの差の絶対値の最大値が所定の閾値を超える場合
、判定対象物である
前記タイルは不健全であると判定する健全性判定工程とを備え、
前記健全なタイルは、前記判定対象物であるタイルと、タイルの種類、張り付ける際に用いた接着剤の種類、及び、タイルを張り付けた下地の材質が同じであることを特徴とするタイル健全性判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイルの健全性を判定する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンションなどの建築物の外壁タイルは、10年毎に全面打診検査を実施して定期報告することが義務付けられている。現状の一般的な検査方法は、検査員がタイルを1枚ずつ打診棒などで叩き、その打音から浮きなどの不具合に係る健全性を判定している。しかし、検査員の聴覚によってタイルの健全性を判定しており、検査員の熟練度などによっては判定結果に誤りが生じるおそれがあった。
【0003】
そこで、タイルの打音から機械的に健全性を判定することが提案されている。例えば、特許文献1には、ロータリソレノイドを用いて打撃する打撃装置を用いてタイルを打撃し、健全と判断されるタイルの打音の周波数特性の実効値を教師データとしておき、この教師データと個々のタイルの打音の計測データとの相関係数を算出し、相関係数が所定の閾値よりも大きい場合に健全なタイルであると診断する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、検査員が打診棒でタイルを打撃する際の打撃力は一定ではないので、同一のタイルを同じ打診棒で打撃しても打撃音、特にその音圧レベルが相違する。そのため、タイルの打音を基準となる周波数特性(例えば、上記特許文献1に記載の教師データ)と比較して健全性を判定する際に、誤判定が生じるおそれが高かった。
【0006】
また、上記特許文献1に開示された打撃装置のように、打撃力を一定とする機器を用いる場合、このような機器を導入する際に費用を要する。また、打音検査は、検査員が移動しながら広範囲に亘って実施されるので、機器が大型又は重量物であると、検査作業が困難となるおそれがある。さらに、機械化せずに打撃力を一定にすることは、個々の検査員の技量などに依存するため、非常に困難である。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、タイルを加振させる打撃力が変化してもタイルの健全性の確実な判定を図ることが可能なタイル健全性判定装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のタイル健全性判定装置は、マイクロホンにより検出された周囲音を含むタイルの打音に基いて、所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の音圧レベルからなる周波数特性を取得する周波数特性取得部と、前記マイクロホンにより検出された周囲音を含む健全なタイルの打音に基き、前記所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の音圧レベルからなる基準周波数特性が予め記憶されている基準周波数特性記憶部と、前記周波数特性の所定の周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルと前記基準周波数特性の当該周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルとの差である特定音圧相対レベル差を算出する特定音圧相対レベル差算出部と、前記周波数特性の各周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルと前記基準周波数特性の当該周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルとの差の平均である平均音圧相対レベル差を算出する平均音圧相対レベル差算出部と、前記特定音圧相対レベル差と前記平均音圧相対レベル差との差の絶対値の合計値又は最大値が所定の閾値を超える場合、かつ、前記周波数特性の各周波数帯域における音圧相対レベルと前記基準周波数特性の当該周波数帯域における音圧相対レベルとの差の絶対値の最大値が所定の閾値を超える場合、判定対象物である前記タイルは不健全であると判定する健全性判定部とを備え、前記健全なタイルは、前記判定対象物であるタイルと、タイルの種類、張り付ける際に用いた接着剤の種類、及び、タイルを張り付けた下地の材質が同じであることを特徴とする。
【0009】
本発明のタイル健全性判定装置によれば、健全性判定部において、特定音圧相対レベル差又は平均音圧相対レベル差を用いて補正したうえで、周波数特性を基準周波数特性と比較している。これにより、打診棒の検査員による打撃力やマイクロホンの設置位置などの相違によって加振されたタイルから発生する音圧レベルの相違に基く影響の除去が図られ、健全なタイルと不健全なタイルの音圧レベルの相違を、これらの相違に応じて特徴的に変化する周波数特性に基いて区別することが可能となる。そのため、打撃力などの加振力を一定とするための機器などを用いることなく、タイルの健全性を簡易、且つ確実な判定を図ることが可能となる。
【0010】
なお、タイルを打診した際に生じる打音の周波数特性は、健全なタイルであっても、タイルの種類、タイルを張り付ける際に用いた接着剤などの種類、タイルを張り付けた下地の材質などによって相違する。
【0011】
そこで、本発明のタイル健全性判定装置において、前記マイクロホンにより検出された周囲音を含む健全なタイルの打音に基いて、前記所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の相対的な音圧レベルである音圧相対レベルからなる周波数特性を取得する基準周波数特性取得部を備え、前記基準周波数特性記憶部は前記基準周波数取得部が取得した前記周波数特性を前記基準周波数特性として記憶することが好ましい。
【0012】
例えば、本発明のタイル健全性判定装置において、前記所定の周波数帯域は、前記周波数特性の音圧レベルが最も大きい周波数帯域であることが好ましい。
【0013】
本発明のタイル健全性判定方法は、マイクロホンにより検出された周囲音を含むタイルの打音に基いて、所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の音圧レベルからなる周波数特性を取得する周波数特性取得工程と、前記マイクロホンにより検出された周囲音を含む健全なタイルの打音に基き、前記所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の音圧レベルからなる基準周波数特性を予め記憶されている記憶部から取り出す基準周波数特性取り出し工程と、前記周波数特性の所定の周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルと前記基準周波数特性の当該周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルとの差である特定音圧相対レベル差を算出する特定音圧相対レベル差算出工程と、前記周波数特性の各周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルと前記基準周波数特性の当該周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルとの差の平均である平均音圧相対レベル差を算出する平均音圧相対レベル差算出工程と、前記特定音圧相対レベル差と前記平均音圧相対レベル差との差の絶対値の合計値又は最大値が所定の閾値を超える場合、かつ、前記周波数特性の各周波数帯域における音圧相対レベルと前記基準周波数特性の当該周波数帯域における音圧相対レベルとの差の絶対値の最大値が所定の閾値を超える場合、判定対象物である前記タイルは不健全であると判定する健全性判定工程とを備え、前記健全なタイルは、前記判定対象物であるタイルと、タイルの種類、張り付ける際に用いた接着剤の種類、及び、タイルを張り付けた下地の材質が同じであることを特徴とする。
【0014】
本発明のタイル健全性判定方法によれば、健全性判定工程において、特定音圧相対レベル差又は平均音圧相対レベル差を用いて補正したうえで、周波数特性を基準周波数特性と比較している。これにより、打診棒の検査員による打撃力やマイクロホンの設置位置などの相違によって加振されたタイルから発生する音圧レベルの相違に基く影響の除去が図られ、健全なタイルと不健全なタイルの打音の相違を、これらの相違に応じて特徴的に変化する周波数特性に基いて区別することが可能となる。そのため、打撃力などの加振力を一定とするための機器などを用いることなく、タイルの健全性を簡易、且つ確実な判定を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るタイル健全性判定装置のブロック図。
【
図2A】健全なタイルの打音を含む音信号の周波数特性を示すグラフ。
【
図2B】健全なタイルの打音を含む音信号の周波数特性の最大音圧レベルを合わせたものを示すグラフ。
【
図3A】不健全なタイルの打音を含む音信号の周波数特性を示すグラフ。
【
図3B】不健全なタイルの打音を含む音信号の周波数特性の最大音圧レベルを合わせたものを示すグラフ。
【
図4】本発明の実施形態に係るタイル健全性判定方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係るタイル健全性判定装置10について
図1を参照して説明する。
タイル健全性判定装置10は、マンションなどの建築物の外壁面に張り付けられたタイルを検査員が打診棒などで叩き又は擦り、これにより発生した打音によって浮き、割れ、欠けなどの不具合の有無を判定する打音検査を行う際に好適に使用することができる。
【0017】
タイル健全性判定装置10は、マイクロホン20に接続されている。マイクロホン20は、検査員が打診棒で判定対象物であるタイルを叩く又は擦るなどして発生した音(打音)を周囲音を含んで集音して検出した音信号を、タイル健全性判定装置10に送信する。
【0018】
マイクロホン20は、検査員が携帯するものであっても、タイルの近傍に三脚などを用いて設置されるものであってもよい。マイクロホン20及び打診棒は、市販品などを用いればよい。
【0019】
タイル健全性判定装置10は、例えば、パーソナルコンピュータやPDAなどであり、マイクロホン20から有線又は無線にて音信号の受信が可能となっている。タイル健全性判定装置10は、詳細は図示しないが、CPU、マルチプロセッサなどからなる演算処理装置、ROM、RAMなどのメモリからなる記憶装置、マイクロホンなどと送受信するための送受信装置、I/O回路などにより構成されている。
【0020】
タイル健全性判定装置10は、アナログ/デジタル(A/D)変換部1、周波数特性取得部2、音圧相対レベル比較部3、健全性判定部4及び記憶部5を備えている。
【0021】
A/D変換部1は、マイクロホン20から出力されたアナログの音信号をデジタルの音信号にA/D変換する機能ブロックである。A/D変換部1は、A/D変換した音信号を周波数特性取得部2に出力する。
【0022】
周波数特性取得部2は、マイクロホン20からA/D変換部1を介して入力された音信号から、所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の音圧レベルからなる周波数特性(スペクトル)を取得する機能ブロックである。取得される周波数特性は、例えば、
図2A及び
図3Aに黒塗印で示すような周波数特性である。
【0023】
具体的には、周波数特性取得部2は、高速フーリエ変換(FFT)などの既知の手法を用いて、マイクロホン20から入力された音信号を、例えば、1/3オクターブバンドレベルなどの所定の周波数間隔に分割し、各周波数帯域の音圧レベルを算出する。なお、分割する際の周波数間隔は、1/3オクターブバンドレベルに限定されず、1/1オクターブバンドレベルや1/4オクターブバンドレベル、さらには250kHzなどの周波数を間隔とするものであってもよい。
【0024】
ただし、音圧レベルを算出する対象となる周波数帯域から所定の低周波数帯域又は高周波数帯域を除去することが好ましい。これは、これらの周波数帯域はタイルの打音、特に不健全なタイルに特徴的な打音に関連せず、また、タイルの打音以外の周囲音に大きく影響されるおそれがあるからである。算出する対象から除く周波数帯域は、例えば、0~500Hz程度の低周波数帯域及び10kHzを超える高周波数帯域とすればよい。なお、これらの周波数帯域の音データを、A/D変換部1に入力される前に、ローパスフィルタやハイパスフィルタなどによって除去してもよい。
【0025】
音圧相対レベル比較部3は、周波数特性取得部2により取得された周波数特性と基準周波数特性との音圧レベルを相対化して比較する機能ブロックである。
【0026】
基準周波数特性は、
図2A及び
図3Aに白丸で示すように、マイクロホン20により検出された周囲音を含む健全なタイルの打音に基いて、前記所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の音圧レベルからなる周波数特性であり、記憶部5に予め記憶されている。記憶部5は、本発明の基準周波数特性記憶部に相当する。
【0027】
タイルを打音検査した際に生じる周波数特性は、健全なタイルであっても、タイルの種類、タイルを張り付ける際に用いた接着剤などの種類、タイルを張り付けた下地の材質などによって相違する。そのため、打撃検査を行うタイルに関して、これらが同じ又は類似の健全な複数枚のタイルに関して取得した周波数特性を基準周波数特性として用いることが好ましい。
【0028】
さらに、打音検査を行うタイルと同じ建築物の外壁に張り付けされた同じタイルに関して周波数特性取得部2により取得した周波数特性を基準周波数特性として用いることがより好ましい。すわなち、例えば、打音検査を行うタイルのうち、複数枚、例えば30枚のタイルに対して熟練した検査員が打音検査を行い、健全であると確信したタイルを打音検査した際に取得した周波数特性の平均値を基準周波数特性とすることが好ましい。
【0029】
音圧相対レベル比較部3は、特定音圧レベル差算出部3a、平均音圧レベル算出部3b、第1比較部3c及び第2比較部3dを有している。
【0030】
特定音圧相対レベル差算出部3aは、
図2B及び
図3Bを参照して、周波数特性取得部2が取得した周波数特性の所定の周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルと当該周波数帯域における基準周波数特性の相対的な音圧レベルである音圧相対レベルとの差である特定音圧相対レベル差を算出する。
【0031】
所定の周波数帯域における音圧相対レベルは、所定の周波数帯域における音圧レベルを周波数帯域全体の音圧レベルで正規化することにより相対化したものである。周波数帯域全体の音圧レベルとして、例えば、バンドフィルタを通していない全周波数成分の音圧レベルの総和を取った合成レベルを表すオールパス(AP)値の他、バンドフィルタを通した後の周波数成分全体の強さを表す値、又は、各周波数帯域における音圧レベルの最大値などを用いればよい。
【0032】
平均音圧相対レベル差算出部3bは、周波数特性の各周波数帯域における相対的な音圧レベルである音圧相対レベルと当該周波数帯域における基準周波数特性の相対的な音圧レベルである音圧相対レベルとの差の平均である平均音圧相対レベル差を算出する。
【0033】
第1比較部3cは、各周波数帯域における特定音圧相対レベル差と平均音圧相対レベル差との差の合計値又は最大値と所定の閾値とを比較する。
【0034】
第2比較部3dは、周波数特性の各周波数帯域における音圧相対レベルと当該周波数帯域における基準周波数特性の音圧相対レベルとの差の合計値又は最大値と所定の閾値とを比較する。なお、第1比較部3cにおける所定の閾値は、第2比較部3cにおける所定の閾値よりも小さいか同じである。これらの閾値として、不偏標準偏差に係数を掛けたものを用いることができる。
【0035】
健全性判定部4は、音圧レベル比較部3による比較結果に基いて、マイクロホン20で集音した際に打音検査したタイルが健全であるか否かを判定する機能ブロックである。健全性判定部4は、第1比較部3cにおける比較結果において、特定音圧相対レベル差と平均音圧相対レベル差との差の合計値又は最大値が所定の閾値を超える場合、又は、第2比較部3dにおける比較結果において、周波数特性の各周波数帯域における音圧相対レベルと当該周波数帯域における基準周波数特性の音圧相対レベルとの差の最大値が所定の閾値を超える場合、打音検査したタイルは不健全であると判定する。
【0036】
なお、健全性判定部4は、第1比較部3c及び第2比較部3dにおける比較結果が共に閾値を超える場合に、打音検査されたタイルは不健全であると判定してもよい。さらに、音圧レベル比較部3が第1比較部3c又は第2比較部3dの一方のみを備え、健全性判定部4は、第1比較部3c又は第2比較部3dにおける比較結果のみに基いて、打音検査されたタイルの健全性を判定してもよい。
【0037】
さらに、第1比較部3c及び第2比較部3dにおける所定の閾値は、第1比較部3c及び第2比較部3dにおける比較結果に基いて健全性判定部4において不健全であると判定されるタイルのなかに実際には健全であるタイルが入るような値であってもよい。ただし、逆に、第1比較部3c及び第2比較部3dにおける所定の閾値は、第1比較部3c及び第2比較部3dにおける比較結果に基いて健全性判定部4において健全であると判定されるタイルのなかに実際には不健全であるタイルが入らないように余裕を有した値でなくてはならない。
【0038】
記憶部5には、上述した、周波数特性取得部2にて分割する所定の周波数間隔、基準周波数特性、及び第1比較部3c及び第2比較部3cにおけるそれぞれ所定の閾値などが記憶されている。
【0039】
タイル健全性判定装置10は、さらに、出力制御部6、表示部7及び警報部8を備えることが好ましい。ただし、これらは、タイル健全性判定装置10と有線又は無線にて通信可能に接続された別個の装置からなるものであってもよい。
【0040】
出力制御部6は、健全性判定部4から出力される判定結果に基いて、判定結果を出力する処理を制御する機能ブロックである。出力制御部6は、表示部7又は警報部8に対して、判定結果に係る制御信号を出力する。
【0041】
表示部7は、LEDディスプレイなどのモニタなどを備えている。表示部7は、健全性判定部4によってタイルが不健全であると判定された場合に、出力制御部6から出力される制御信号により、打音検査されたタイルが不健全である旨の情報をモニタなどに表示して、検査員に通知する。
【0042】
警報部8は、音声メッセージや警報音を出力するスピーカなどを備えている。警報部8は、健全性判定部4によってタイルが不健全であると判定された場合に、出力制御部6から出力される制御信号により、打音検査されたタイルが不健全である旨の情報を示す音声メッセージ又は警報音などをスピーカなどから出力し、検査員に警報する。
【0043】
検査員は、表示部7や警報部8から出力された情報に基き、不健全であると判定されたタイルを、その位置などと共にPDAなどの入力装置や図面などに記録する。また、打音検査されたタイルが健全である場合にも、表示部7や警報部8によってその旨を出力させ、検査員が位置などと共に入力装置や図面などに記録することが好ましい。
【0044】
さらに、健全性判定部4の判定結果データとタイルの位置データを関連付けて記憶部5に記憶させておき、これらに基き、不健全なタイルを自動的に特定してもよい。
【0045】
次に、タイル健全性判定装置10を用いた、本発明の実施形態に係るタイル健全性判定方法について
図4を参照して説明する。
【0046】
まず、マイクロホン設置工程(STEP1)において、検査員は、打音検査しようとするタイルの近傍にマイクロホン20を設置する。
【0047】
次に、打音検査工程(STEP2)において、検査員は、打音検査しようとするタイルに対して、打診棒を用いて叩く又は擦る。これにより、周囲音を含むタイルの打音がマイクロホン20によって集音される集音工程(STEP3)が行われる。
【0048】
そして、A/D変換工程(STEP4)において、A/D変換部1は、マイクロホン20から出力されたアナログの音信号をデジタルの音信号にA/D変換し、これを周波数特性取得部2に出力する。
【0049】
次に、周波数特性取得工程(STEP5)において、周波数特性取得部2は、マイクロホン20からA/D変換部1を介して入力された音信号から、所定の周波数間隔に分割された各周波数帯域の音圧レベルからなる周波数特性を取得する。
【0050】
また、基準周波数特性取り出し工程(STEP6)において、音圧相対レベル比較部3は、基準周波数特性を記憶部5から取り出す。
【0051】
次に、特定音圧相対レベル差算出工程(STEP7)において、特定音圧相対レベル差算出部3aは、周波数特性取得部2が取得した周波数特性の所定の周波数帯域における音圧相対レベルと当該周波数帯域における基準周波数特性の音圧相対レベルとの差である特定音圧相対レベル差を算出する。
【0052】
さらに、平均音圧相対レベル差算出工程(STEP8)において、平均音圧相対レベル差算出部3bは、周波数特性の各周波数帯域における音圧相対レベルと当該周波数帯域における基準周波数特性の音相対圧レベルとの差の平均である平均音圧相対レベル差を算出する。
【0053】
次に、第1比較工程(STEP9)において、第1比較部3cは、特定音圧相対レベル差と平均音圧相対レベル差との差の合計値又は最大値と所定の閾値とを比較する。
【0054】
また、第2比較工程(STEP10)において、第2比較部3dは、周波数特性の各周波数帯域における音圧相対レベルと当該周波数帯域における基準周波数特性の音圧相対レベルとの差の絶対値の合計値又は最大値と所定の閾値とを比較する。
【0055】
次に、健全性判定工程(STEP11)において、健全性判定部4は、音圧相対レベル比較部3による比較結果に基いて、マイクロホン20で集音した際に打音検査したタイルが健全であるか否かを判定する。
【0056】
さらに、健全性判定部4が打音検査したタイルは不健全であると判定した場合(STEP11:YES)、出力制御部6が制御信号を出力することにより、出力工程(STEP12)において、表示部7にその旨が出力され、警報工程(STEP13)により警報部8によりその旨が警報される。
【0057】
なお、健全性判定部4が打音検査したタイルは健全であると判定した場合(STEP11:NO)、出力制御部6が制御信号を出力することにより、出力工程(STEP12)において、表示部7にその旨を出力する。さらに、警報部8によりその旨を警報してもよい。
【0058】
以上のように、本発明の実施形態に係るタイル健全性判定装置10及びこれを用いたタイル健全性判定方法によれば、音圧レベルを特定音圧レベル差を用いて補正したうえで、周波数特性を基準周波数特性と比較している。これにより、検査員の打診棒による打撃力やマイクロホン20の設置位置などの相違によって生じる音圧レベルによる影響の除去が図られ、健全なタイルと不健全なタイルの打音の相違を、これらの相違に応じて特徴的に変化する周波数特性に基いて比較することが可能となる。そのため、打撃力を一定とするためなどの検査機器を用いることなく、タイルの健全性を簡易、且つ確実な判定を図ることが可能となる。
【0059】
なお、特定音圧レベル差を用いて補正することにより、周波数特性の比較によってタイルの健全性を判定可能な理由は以下のとおりである。
【0060】
振動加速度レベルLVA[dB]、打撃力F、打撃位置のアクセレランスAcc、音圧レベルLP[dB]及び音響放射係数kには、以下の式(1)、(2)が成立する。
LVA=20log10F+20log10(Acc) ・・・ (1)
LP=LVA+10log10k ・・・ (2)
【0061】
よって、打撃力Fとこの打撃力Fによって発生する音圧レベルLp[dB]には、以下の式(3)の関係がある。
LP=20log10F+20log10(Acc)10log10k ・・・ (3)
【0062】
ここで、同一のタイルを打撃する場合を想定すると、打撃位置のアクセレランスAcc、音響放射係数kは同一であるので、式(3)から、音圧レベルLPの変化は打撃力Fの変化に依存することになる。よって、打撃力Fの変化は音圧レベルLPの相対的な変化となる。そして、この関係は各周波数帯域において成立する。
【0063】
なお、本発明は、上述した実施形態に具体的に記載したタイル健全性判定装置10及びこれを用いたタイル健全性判定方法に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内であれば適宜変更することができる。
【0064】
例えば、上述した実施形態においては、タイルを検査員が打診棒などで叩き又は擦り、これによりタイルに発生した音信号に基いて、タイルの健全性を判定する場合について説明した。しかし、これに限定されず、タイルを加振させたことにより発生する振動に関する情報を基いて、タイルの健全性を判定してもよい。
【0065】
この場合、タイルは、検査員が打診棒で叩き又は擦ることなどにより、加振させればよい。そして、振動情報取得器によって振動に関する情報を取得し、取得した振動に関する情報に基き、タイルの健全性を判定するものであってもよい。振動情報取得器は、例えば、加速度センサ、速度センサ、変位センサなどである。また、振動情報取得器は、非接触型の振動検出器、例えば、レーザドップラー振動計であってもよい。
【0066】
また、本発明のタイル健全性判定方法は、上述したようにタイル健全性判定装置10において実施されるものに限定されず、例えば、各工程をコンピュータ(CPU、マイクロプロセッサ等)に実行させるプログラムとして実現することもできる。そして、そのようなプログラムは、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)などの非一時的な記録媒体やインターネットなどの通信ネットワークを介して流通させることも可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…A/D変換部、 2…周波数特性取得部、 3…音圧相対レベル比較部、 3a…特定音圧相対レベル差算出部、 3b…平均音圧相対レベル差算出部、 3c…第1比較部、 3d…第2比較部、 4…健全性判定部、 5…記憶部、 6…出力制御部、 7…表示部、 8…警報部、 10…タイル健全性判定装置、 20…マイクロホン。