(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】炭素触媒、電池電極及び電池
(51)【国際特許分類】
B01J 27/224 20060101AFI20221114BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20221114BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20221114BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20221114BHJP
C25B 11/073 20210101ALI20221114BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20221114BHJP
【FI】
B01J27/224 M
H01M4/90 X
H01M4/86 M
H01M4/96 B
H01M4/96 M
C25B11/073
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2019529073
(86)(22)【出願日】2018-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2018025248
(87)【国際公開番号】W WO2019013050
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2017137456
(32)【優先日】2017-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】窪田 裕次
(72)【発明者】
【氏名】岸本 武亮
(72)【発明者】
【氏名】成塚 久美
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 鉄太郎
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-154258(JP,A)
【文献】国際公開第2013/089026(WO,A1)
【文献】特表2013-530039(JP,A)
【文献】国際公開第2016/088716(WO,A1)
【文献】特開2009-291706(JP,A)
【文献】WANG, Bo et al.,Liquid phase aerobic oxidation of benzyl alcohol over Pd and Rh catalysts on N-doped mesoporous carbon: Effect of the surface acido-basicity,Catal. Commun.,NL,Elsevier B.V.,2012年04月27日,Vol. 25,pp. 96-101,DOI: 10.1016/j.catcom.2012.04.005
【文献】OH, Hyung-Suk et al.,Modification of polyol process for synthesis of highly platinum loaded platinum-carbon catalysts for fuel cells,J. Power Sources,NL,Elsevier B.V.,2008年06月03日,Vol. 183,pp. 600-603,DOI: 10.1016/j.powsour.2008.05.070
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C25B 11/00-11/097
H01M 4/86-4/98
8/00- 8/0297
8/08- 8/2495
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物と金属とを含む原料の炭素化材料であって、
内部に前記金属を含み、
600℃から1000℃までの窒素脱離量を測定する昇温脱離法において、800℃から1000℃までの窒素脱離量
2.00×10
-5mоl/g以上を示
し、ゼータ電位の等電点pH9.3以上を示す炭素構造を含む、
燃料電池又は空気電池の電極用炭素触媒。
【請求項2】
有機物と金属とを含む原料の炭素化材料であって、
内部に前記金属を含み、
600℃から1000℃までの窒素脱離量を測定する昇温脱離法において、600℃から1000℃までの窒素脱離量
2.50×10
-5mоl/g以上を示
し、ゼータ電位の等電点pH9.3以上を示す炭素構造を含む、
燃料電池又は空気電池の電極用炭素触媒媒。
【請求項3】
600℃から1000℃までの窒素脱離量を測定する昇温脱離法において、600℃から1000℃までの窒素脱離量1.20×10
-5mоl/g以上を示す、請求項1に記載の炭素触媒。
【請求項4】
有機物と金属とを含む原料の炭素化材料であって、
内部に前記金属を含み、
600℃から1000℃までの窒素脱離量を測定する昇温脱離法において、800℃から1000℃までの窒素脱離量2.00×10
-5
mоl/g以上を示し、X線光電子分光法で得られる光電子スペクトルにおいて、窒素原子の1s軌道に由来するピークを分離して得られる、結合エネルギー398.0±1.0eVの範囲内にピークトップを有する第一の窒素ピークの強度の、結合エネルギー400.5±1.0eVの範囲内にピークトップを有する第二の窒素ピークの強度に対する比
0.750以上を示す炭素構造を含む、
燃料電池又は空気電池の電極用炭素触媒。
【請求項5】
有機物と金属とを含む原料の炭素化材料であって、
内部に前記金属を含み、
600℃から1000℃までの窒素脱離量を測定する昇温脱離法において、600℃から1000℃までの窒素脱離量2.50×10
-5
mоl/g以上を示し、X線光電子分光法で得られる光電子スペクトルにおいて、窒素原子の1s軌道に由来するピークを分離して得られる、結合エネルギー398.0±1.0eVの範囲内にピークトップを有する第一の窒素ピークの強度の、結合エネルギー400.5±1.0eVの範囲内にピークトップを有する第二の窒素ピークの強度に対する比0.750以上を示す炭素構造を含む、
燃料電池又は空気電池の電極用炭素触媒。
【請求項6】
ゼータ電位の等電点pH9.2以上を示す炭素構造を含む、請求項4又は5に記載の炭素触媒。
【請求項7】
X線光電子分光法で得られる光電子スペクトルにおいて、窒素原子の1s軌道に由来するピークを分離して得られる、結合エネルギー398.0±1.0eVの範囲内にピークトップを有する第一の窒素ピークの強度の、結合エネルギー400.5±1.0eVの範囲内にピークトップを有する第二の窒素ピークの強度に対する比0.620以上を示す炭素構造を含む、請求項1乃至
3のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項8】
X線光電子分光法で得られる光電子スペクトルにおいて、窒素原子の1s軌道に由来するピークを分離して得られる、結合エネルギー398.0±1.0eVの範囲内にピークトップを有する第一の窒素ピークの強度の、炭素原子の1s軌道に由来するピークの強度に対する比0.017以上を示す炭素構造を含む、請求項1乃至7のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項9】
X線光電子分光法で測定される炭素原子濃度に対する窒素原子濃度の割合1.5%以上を示す炭素構造を含む、請求項1乃至8のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項10】
13C固体核磁気共鳴測定で得られるスペクトルにおいて、化学シフト150ppm付近にピークが観察される炭素構造を含む、請求項1乃至9のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項11】
BET法で測定される比表面積が800m
2/g以上である、請求項1乃至10のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項12】
燃焼法による元素分析で測定される窒素原子含有量1.5重量%以上を示す炭素構造を含む、請求項1乃至11のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかに記載の炭素触媒を含む、
燃料電池又は空気電池の電極。
【請求項14】
請求項13に記載の電池電極を含む、
燃料電池
又は空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素触媒、電池電極及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、燃料電池の電極用触媒としては、白金触媒が使用されている。しかしながら、例えば、白金の埋蔵量は限られていること、固体高分子形燃料電池(PEFC)においては白金の使用によってコストが高くなること等、解決すべき問題が多い。このため、白金を使用しない代替技術の開発が進められている。
【0003】
具体的に、例えば、特許文献1には、遷移金属含有イオン交換樹脂を炭素化して得られた炭素化材料からなり、多数の平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子が非凝集状態で集合して形成された燃料電池用電極触媒が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、優れた耐久性を有する炭素触媒を得ることは難しかった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、優れた耐久性を有する炭素触媒、電池電極及び電池を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態の一側面に係る炭素触媒は、600℃から1000℃までの窒素脱離量を測定する昇温脱離法において、800℃から1000℃までの窒素脱離量0.75×10-5mоl/g以上を示す炭素構造を含む。本発明によれば、優れた耐久性を有する炭素触媒が提供される。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態の他の側面に係る炭素触媒は、600℃から1000℃までの窒素脱離量を測定する昇温脱離法において、600℃から1000℃までの窒素脱離量1.20×10-5mоl/g以上を示す炭素構造を含む。本発明によれば、優れた耐久性を有する炭素触媒が提供される。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態のさらに他の側面に係る炭素触媒は、ゼータ電位の等電点pH9.2以上を示す炭素構造を含む。本発明によれば、優れた耐久性を有する炭素触媒が提供される。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態のさらに他の側面に係る炭素触媒は、X線光電子分光法で得られる光電子スペクトルにおいて、窒素原子の1s軌道に由来するピークを分離して得られる、結合エネルギー398.0±1.0eVの範囲内にピークトップを有する第一の窒素ピークの強度の、結合エネルギー400.5±1.0eVの範囲内にピークトップを有する第二の窒素ピークの強度に対する比0.620以上を示す炭素構造を含む。本発明によれば、優れた耐久性を有する炭素触媒が提供される。
【0011】
また、前記炭素触媒は、X線光電子分光法で得られる光電子スペクトルにおいて、窒素原子の1s軌道に由来するピークを分離して得られる、結合エネルギー398.0±1.0eVの範囲内にピークトップを有する第一の窒素ピークの強度の、炭素原子の1s軌道に由来するピークの強度に対する比0.017以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。
【0012】
また、前記炭素触媒は、X線光電子分光法で測定される炭素原子濃度に対する窒素原子濃度の割合1.5%以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。また、前記炭素触媒は、13C固体核磁気共鳴測定で得られるスペクトルにおいて、化学シフト150ppm付近にピークが観察される炭素構造を含むこととしてもよい。
【0013】
また、前記炭素触媒は、金属を含むこととしてもよい。また、前記炭素触媒は、BET法で測定される比表面積が800m2/g以上であることとしてもよい。また、前記炭素触媒は、燃焼法による元素分析で測定される窒素原子含有量1.5重量%以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る電池電極は、前記いずれかの炭素触媒を含む。本発明によれば、優れた耐久性を有する炭素触媒を含む電池電極が提供される。
【0015】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る電池は、前記電池電極を含む。本発明によれば、優れた耐久性を有する炭素触媒を含む電池が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた耐久性を有する炭素触媒、電池電極及び電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る実施例4の炭素触媒について、昇温脱離法により窒素(質量数14)を測定した結果を示す説明図である。
【
図2A】本発明の一実施形態に係る実施例2の炭素触媒のX線光電子分光法により得られた光電子スペクトルにおいて窒素原子の1s軌道に由来するピークを分離した結果を示す説明図である。
【
図2B】本発明の一実施形態に係る比較例2の炭素触媒のX線光電子分光法により得られた光電子スペクトルにおいて窒素原子の1s軌道に由来するピークを分離した結果を示す説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る実施例において炭素触媒を評価した結果示す説明図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る実施例において空気電池の最大出力密度を評価した結果を示す説明図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る実施例において空気電池の出力維持率を評価した結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態に係る炭素触媒(以下、「本触媒」という。)、電池電極(以下、「本電極」という。)及び電池(以下、「本電池」という。)について説明する。なお、本発明は本実施形態で示す例に限られない。
【0019】
本発明の発明者らは、優れた耐久性を有する炭素触媒を得る技術的手段について鋭意検討を重ねた結果、昇温脱離法において比較的高い温度(すなわち600℃以上、特に800℃以上)で窒素の脱離を発生させるような特定の含窒素含有基を多く含む炭素構造を有する炭素触媒が優れた耐久性を有することを独自に見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
本実施形態の一側面に係る本触媒は、600℃から1000℃までの窒素脱離量を測定する昇温脱離法(以下、「TPD」という。)において、800℃から1000℃までの窒素(N2)脱離量0.75×10-5mоl/g以上を示す炭素構造を含む。
【0021】
この場合、本触媒の炭素構造は、上記TPDにおける800℃から1000℃までのN2脱離量として、1.00×10-5mоl/g以上を示すことが好ましく、1.50×10-5mоl/g以上を示すことがより好ましく、2.00×10-5mоl/g以上を示すことがより一層好ましく、2.30×10-5mоl/g以上を示すことが特に好ましい。
【0022】
本触媒は、上記TPDにおける800℃から1000℃までのN2脱離量が上記特定の閾値以上の値を示す炭素構造を有することにより、優れた耐久性を有する。本触媒の上記800℃から1000℃までのN2脱離量の上限値は特に限られないが、当該N2脱離量は、45.00×10-5mоl/g以下であることとしてもよい。
【0023】
本実施形態の他の側面に係る本触媒は、600℃から1000℃までのN2脱離量を測定するTPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量1.20×10-5mоl/g以上を示す炭素構造を含む。
【0024】
この場合、本触媒の炭素構造は、上記TPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量として、1.50×10-5mоl/g以上を示すことが好ましく、2.00×10-5mоl/g以上を示すことがより好ましく、2.50×10-5mоl/g以上を示すことがより一層好ましく、3.00×10-5mоl/g以上を示すことが特に好ましい。
【0025】
本触媒は、上記TPDにおける600℃から1000℃までのN2脱離量が上記特定の閾値以上の値を示す炭素構造を有することにより、優れた耐久性を有する。本触媒の上記600℃から1000℃までのN2脱離量の上限値は特に限られないが、当該N2脱離量は、65.00×10-5mоl/g以下であることとしてもよい。
【0026】
また、本触媒は、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量0.75×10-5mоl/g以上を示し、且つ600℃から1000℃までのN2脱離量1.20×10-5mоl/g以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、上述した800℃から1000℃までのN2脱離量の閾値の各々と、上述した600℃から1000℃までのN2脱離量の閾値の各々とを任意に組み合わせて、本触媒の炭素構造を規定することができる。
【0027】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量1.00×10-5mоl/g以上を示し、且つ600℃から1000℃までのN2脱離量1.50×10-5mоl/g以上を示すことが好ましく、800℃から1000℃までのN2脱離量1.50×10-5mоl/g以上を示し、且つ600℃から1000℃までのN2脱離量2.00×10-5mоl/g以上を示すことがより好ましく、800℃から1000℃までのN2脱離量2.00×10-5mоl/g以上を示し、且つ600℃から1000℃までのN2脱離量2.50×10-5mоl/g以上を示すことがより一層好ましく、800℃から1000℃までのN2脱離量2.30×10-5mоl/g以上を示し、且つ600℃から1000℃までのN2脱離量3.00×10-5mоl/g以上を示すことが特に好ましい。
【0028】
なお、TPDにおいては、まず炭素触媒を不活性ガス(例えば、窒素又はヘリウム)雰囲気中で600℃まで加熱して、比較的低温で脱離する官能基及び吸着成分を除去し、その後、さらに加熱して、600℃から1000℃までの温度範囲で、当該炭素触媒からのN2の脱離量を測定する。
【0029】
本触媒について規定される、TPDにおける比較的高い特定の温度範囲でのN2脱離量は、本触媒が有する炭素構造に含まれる含窒素官能基の質及び量を規定するものであり、本触媒自体の構造を規定するものである。すなわち、本触媒は、上記TPDにおいて、比較的高い上記特定の温度範囲で、比較的多い上記特定の量のN2の脱離を発生させるような、特定の含窒素官能基を含む炭素構造を有する。
【0030】
また、本発明の発明者らは、優れた耐久性を有する炭素触媒を得る技術的手段について鋭意検討を重ねた結果、ゼータ電位の等電点が特定の閾値以上の値を示す炭素構造を有する炭素触媒が優れた耐久性を有することを独自に見出し、本発明を完成するに至った。
【0031】
すなわち、本実施形態のさらに他の側面に係る本触媒は、ゼータ電位の等電点pH9.2以上を示す炭素構造を含む。この場合、本触媒の炭素構造が示すゼータ電位の等電点は、pH9.3以上であることが好ましく、pH9.4以上であることがより好ましく、pH9.5以上であることが特に好ましい。
【0032】
本触媒は、そのゼータ電位の等電点が、比較的高い上記特定の閾値以上の値を示す炭素構造を含むことにより、優れた耐久性を有する。本触媒の炭素構造が比較的高いゼータ電位等電点を示すことは、例えば、本触媒の炭素構造が、正の電荷を有する含窒素官能基を特に多く含むことを反映していると考えられる。本触媒の上記ゼータ電位の等電点の上限値は特に限られないが、当該等電点は、pH13.0以下であることとしてもよい。
【0033】
ここで、本触媒が、比較的高い上記特定の閾値以上のゼータ電位等電点を示す炭素構造を有することは、アニオンバインディング抑制(犠牲効果)による耐久性の向上に寄与していると考えられる。すなわち、炭素触媒の被毒は、その炭素構造に含まれる正の電荷を有する活性点に、アイオノマーの分解物であるアニオン(例えば、硫酸)が吸着すること(活性点の酸化)により起こると考えられるが、本触媒の炭素構造は、当該活性点と同様に正の電荷を有する含窒素官能基を多く含むため、当該含窒素官能基が当該アニオンを吸着する犠牲効果により、当該炭素構造に含まれる活性点が維持され、当該被毒の発生が抑制されると考えられる。
【0034】
また、本触媒は、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量0.750×10-5mоl/g以上を示し、且つゼータ電位の等電点pH9.2以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、上述した800℃から1000℃までのN2脱離量の閾値の各々と、上述したゼータ電位の等電点の閾値の各々とを任意に組み合わせて、本触媒の炭素構造を規定することができる。
【0035】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量1.00×10-5mоl/g以上を示し、且つゼータ電位の等電点pH9.2以上を示すことが好ましく、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量1.50×10-5mоl/g以上を示し、且つゼータ電位の等電点pH9.3以上を示すことがより好ましく、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量2.00×10-5mоl/g以上を示し、且つゼータ電位の等電点pH9.4以上を示すことがより一層好ましく、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量2.30×10-5mоl/g以上を示し、且つゼータ電位の等電点pH9.5以上を示すことが特に好ましい。
【0036】
また本触媒は、上記TPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量1.20×10-5mоl/g以上を示し、且つゼータ電位の等電点pH9.2以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、上述した600℃から1000℃までのN2脱離量の閾値の各々と、上述したゼータ電位の等電点の閾値の各々とを任意に組み合わせて、本触媒の炭素構造を規定することができる。
【0037】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、上記TPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量1.50×10-5mоl/g以上を示し、且つゼータ電位の等電点pH9.2以上を示すことが好ましく、上記TPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量2.00×10-5mоl/g以上を示し、且つゼータ電位の等電点pH9.3以上を示すことがより好ましく、上記TPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量2.50×10-5mоl/g以上を示し、且つゼータ電位の等電点pH9.4以上を示すことがより一層好ましく、上記TPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量3.00×10-5mоl/g以上を示し、且つゼータ電位の等電点pH9.5以上を示すことが特に好ましい。
【0038】
また本触媒は、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量0.750×10-5mоl/g以上を示し、600℃から1000℃までのN2脱離量1.20×10-5mоl/g以上を示し、且つゼータ電位の等電点pH9.2以上を示す素構造を含むこととしてもよい。この場合、上述した800℃から1000℃までのN2脱離量の閾値の各々と、上述した600℃から1000℃までのN2脱離量の閾値の各々と、上述したゼータ電位の等電点の閾値の各々とを任意に組み合わせて、本触媒の炭素構造を規定することができる。
【0039】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量1.00×10-5mоl/g以上を示し、600℃から1000℃までのN2脱離量1.50×10-5mоl/g以上を示し、且つゼータ電位の等電点pH9.2以上を示すことが好ましく、上記昇温脱離法において、800℃から1000℃までのN2脱離量1.50×10-5mоl/g以上を示し、600℃から1000℃までのN2脱離量2.00×10-5mоl/g以上を示し、且つゼータ電位の等電点pH9.3以上を示すことがより好ましく、上記昇温脱離法において、800℃から1000℃までのN2脱離量2.00×10-5mоl/g以上を示し、600℃から1000℃までのN2脱離量2.50×10-5mоl/g以上を示し、且つゼータ電位の等電点pH9.4以上を示すことがより一層好ましく、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量2.30×10-5mоl/g以上を示し、600℃から1000℃までのN2脱離量3.00×10-5mоl/g以上を示し、且つゼータ電位の等電点pH9.5以上を示すことが特に好ましい。
【0040】
また、本発明の発明者らは、優れた耐久性を有する炭素触媒を得る技術的手段について鋭意検討を重ねた結果、X線光電子分光法で得られる光電子スペクトルにおいて、窒素原子の1s軌道に由来するピークを分離して得られる、2つの特定の窒素ピークの強度比が特定の閾値以上の値を示す炭素構造を含む炭素触媒が優れた耐久性を有することを独自に見出し、本発明を完成するに至った。
【0041】
すなわち、本実施形態のさらに他の側面に係る本触媒は、X線光電子分光法(以下、「XPS」という。)で得られる光電子スペクトルにおいて、窒素原子の1s軌道に由来するピーク(以下、「N1sピーク」という。)を分離して得られる、結合エネルギー398.0±1.0eVの範囲内にピークトップを有する第一の窒素ピークの強度の、結合エネルギー400.5±1.0eVの範囲内にピークトップを有する第二の窒素ピークの強度に対する比(以下、「第一/第二窒素強度比」という。)0.620以上を示す炭素構造を含む。
【0042】
この場合、本触媒の炭素構造が示す第一/第二窒素強度比は、0.700以上であることが好ましく、0.750以上であることがより好ましく、0.800以上であることがより一層好ましく、0.850以上であることが特に好ましい。
【0043】
本触媒は、XPSで得られる光電子スペクトルから得られる第一/第二窒素強度比が比較的大きい上記特定の閾値以上の値を示す炭素構造を含むことにより、優れた耐久性を有する。本触媒の炭素構造が比較的大きい第一/第二窒素強度比を示すことは、本触媒の炭素構造に含まれる、上記第一の窒素ピークを示す特定の含窒素官能基の量が特に多いことを反映している。すなわち、本触媒は、上記第一の窒素ピークを示す特定の含窒素官能基を多く含む炭素構造を有することにより、優れた耐久性を有する。本触媒の上記第一/第二窒素強度比の上限値は特に限られないが、当該第一/第二窒素強度比は、1.600以下であることとしてもよい。
【0044】
ここで、本触媒が、比較的大きい第一/第二窒素強度比を示す炭素構造を有することは、アニオンバインディング抑制(犠牲効果)による耐久性の向上に寄与していると考えられる。すなわち、炭素触媒の被毒は、その炭素構造に含まれる正の電荷を有する活性点に、アイオノマーの分解物であるアニオン(例えば、硫酸)が吸着すること(活性点の酸化)により起こると考えられるが、本触媒は、比較的大きい第一/第二窒素強度比を示す炭素構造、すなわち第一の窒素ピークを示す特定の含窒素官能基を多く含む炭素構造を有するため、当該特定の含窒素官能基が当該アニオンを吸着する犠牲効果により、当該炭素構造に含まれる活性点が維持され、当該被毒の発生が抑制されると考えられる。より具体的に、第一の窒素ピークを示す含窒素官能基は、ニトリル基を含むと考えられ、当該ニトリル基は、アミド基を経てカルボン酸に酸化される、すなわち二段階で酸化されるため、特に高い犠牲効果を示すと考えられる。
【0045】
なお、上記N1sピークは、上記ピーク分離によって、第一の窒素ピーク、第二の窒素ピーク及び第三の窒素ピークに分離される。この第三の窒素ピークは、上記N1sピークを分離して得られる3つのピークのうち、最も強度(ピークトップの強度)が小さいピークとして特定される。
【0046】
本触媒の炭素構造は、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量0.750×10-5mоl/g以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.620以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、上述した800℃から1000℃までのN2脱離量の閾値の各々と、上述した第一/第二窒素強度比の閾値の各々とを任意に組み合わせて、本触媒の炭素構造を規定することができる。
【0047】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量1.00×10-5mоl/g以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.700以上を示すことが好ましく、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量1.50×10-5mоl/g以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.750以上を示すことがより好ましく、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量2.00×10-5mоl/g以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.800以上を示すことがより一層好ましく、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量2.30×10-5mоl/g以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.850以上を示すことが特に好ましい。
【0048】
また本触媒は、上記TPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量1.20×10-5mоl/g以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.620以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、上述した600℃から1000℃までのN2脱離量の閾値の各々と、上述した第一/第二窒素強度比の閾値の各々とを任意に組み合わせて、本触媒の炭素構造を規定することができる。
【0049】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、上記TPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量1.50×10-5mоl/g以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.700以上を示すことが好ましく、上記TPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量2.00×10-5mоl/g以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.750以上を示すことがより好ましく、上記TPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量2.50×10-5mоl/g以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.800以上を示すことがより一層好ましく、上記TPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量3.00×10-5mоl/g以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.850以上を示すことが特に好ましい。
【0050】
また本触媒は、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量0.750×10-5mоl/g以上を示し、600℃から1000℃までのN2脱離量1.20×10-5mоl/g以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.620以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、上述した800℃から1000℃までのN2脱離量の閾値の各々と、上述した600℃から1000℃までのN2脱離量の閾値の各々と、上述した第一/第二窒素強度比の閾値の各々とを任意に組み合わせて、本触媒の炭素構造を規定することができる。
【0051】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量1.00×10-5mоl/g以上を示し、600℃から1000℃までのN2脱離量1.50×10-5mоl/g以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.700以上を示すことが好ましく、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量1.50×10-5mоl/g以上を示し、600℃から1000℃までのN2脱離量2.00×10-5mоl/g以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.750以上を示すことがより好ましく、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量2.00×10-5mоl/g以上を示し、600℃から1000℃までのN2脱離量2.50×10-5mоl/g以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.800以上を示すことがより一層好ましく、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量2.30×10-5mоl/g以上を示し、600℃から1000℃までのN2脱離量3.00×10-5mоl/g以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.850以上を示すことが特に好ましい。
【0052】
また本触媒は、ゼータ電位の等電点pH9.2以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.620以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、上述したゼータ電位の等電点の閾値の各々と、上述した第一/第二窒素強度比の閾値の各々とを任意に組み合わせて、本触媒の炭素構造を規定することができる。
【0053】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、ゼータ電位の等電点pH9.2以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.700以上を示すことが好ましく、ゼータ電位の等電点pH9.3以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.750以上を示すことがより好ましく、ゼータ電位の等電点pH9.4以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.800以上を示すことがより一層好ましく、ゼータ電位の等電点pH9.5以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.850以上を示すことが特に好ましい。
【0054】
また本触媒は、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量0.750×10-5mоl/g以上を示し、ゼータ電位の等電点pH9.2以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.620以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、上述した800℃から1000℃までのN2脱離量の閾値の各々と、上述したデータ電位の等電点の閾値の各々と、上述した第一/第二窒素強度比の閾値の各々を任意に組み合わせて、本触媒の炭素構造を規定することができる。
【0055】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量1.00×10-5mоl/g以上を示し、ゼータ電位の等電点pH9.2以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.700以上を示すことが好ましく、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量1.50×10-5mоl/g以上を示し、ゼータ電位の等電点pH9.3以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.750以上を示すことがより好ましく、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量2.00×10-5mоl/g以上を示し、ゼータ電位の等電点pH9.4以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.800以上を示すことがより一層好ましく、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量2.30×10-5mоl/g以上を示し、ゼータ電位の等電点pH9.5以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.850以上を示すことが特に好ましい。
【0056】
また本触媒は、上記TPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量1.20×10-5mоl/g以上を示し、ゼータ電位の等電点pH9.2以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.620以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、上述した600℃から1000℃までのN2脱離量の閾値の各々と、上述したデータ電位の等電点の閾値の各々と、上述した第一/第二窒素強度比の閾値の各々を任意に組み合わせて、本触媒の炭素構造を規定することができる。
【0057】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、上記TPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量1.50×10-5mоl/g以上を示し、ゼータ電位の等電点pH9.2以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.700以上を示すことが好ましく、上記TPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量2.00×10-5mоl/g以上を示し、ゼータ電位の等電点pH9.3以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.750以上を示すことがより好ましく、上記TPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量2.50×10-5mоl/g以上を示し、ゼータ電位の等電点pH9.4以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.800以上を示すことがより一層好ましく、上記TPDにおいて、600℃から1000℃までのN2脱離量3.00×10-5mоl/g以上を示し、ゼータ電位の等電点pH9.5以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.850以上を示すことが特に好ましい。
【0058】
また本触媒は、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量0.750×10-5mоl/g以上を示し、600℃から1000℃までのN2脱離量1.20×10-5mоl/g以上を示し、ゼータ電位の等電点pH9.2以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.620以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、上述した800℃から1000℃までのN2脱離量の閾値の各々と、上述した600℃から1000℃までのN2脱離量の閾値の各々と、上述したデータ電位の等電点の閾値の各々と、上述した第一/第二窒素強度比の閾値の各々を任意に組み合わせて、本触媒の炭素構造を規定することができる。
【0059】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量1.00×10-5mоl/g以上を示し、600℃から1000℃までのN2脱離量1.50×10-5mоl/g以上を示し、ゼータ電位の等電点pH9.2以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.700以上を示すことが好ましく、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量1.50×10-5mоl/g以上を示し、600℃から1000℃までのN2脱離量2.00×10-5mоl/g以上を示し、ゼータ電位の等電点pH9.3以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.750以上を示すことがより好ましく、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量2.00×10-5mоl/g以上を示し、600℃から1000℃までのN2脱離量2.50×10-5mоl/g以上を示し、ゼータ電位の等電点pH9.4以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.800以上を示すことがより一層好ましく、上記TPDにおいて、800℃から1000℃までのN2脱離量2.30×10-5mоl/g以上を示し、600℃から1000℃までのN2脱離量3.00×10-5mоl/g以上を示し、ゼータ電位の等電点pH9.5以上を示し、且つXPSで得られる第一/第二窒素強度比が0.850以上を示すことが特に好ましい。
【0060】
本触媒は、XPSで得られる光電子スペクトルにおいて、N1sピークを分離して得られる、結合エネルギー398.0±1.0eVの範囲内にピークトップを有する第一の窒素ピークの強度の、炭素原子の1s軌道に由来するピーク(以下、「C1sピーク」という。)の強度に対する比(以下、「第一窒素/C1s強度比」という。)0.017以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、本触媒の炭素構造が示す第一窒素/C1s強度比は、0.020以上であることが好ましく、0.025以上であることが特に好ましい。
【0061】
本触媒の炭素構造が比較的大きい第一窒素/C1s強度比を示すことは、本触媒の炭素構造に含まれる、上記第一の窒素ピークを示す特定の含窒素官能基の量が多いことを反映している。本触媒の上記第一窒素/C1s強度比の上限値は特に限られないが、当該第一窒素/C1s強度比は、0.150以下であることとしてもよい。
【0062】
本触媒は、XPSで測定される炭素原子濃度(atm%)に対する窒素原子濃度(atm%)の割合(以下、「N/C割合」という。)1.5%以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、本触媒の炭素構造が示すN/C割合は、2.1%以上であることが好ましく、2.5%以上であることがより好ましく、2.8%以上であることが特に好ましい。
【0063】
本触媒の炭素構造が上記特定の閾値以上のN/C割合を示すことは、当該炭素構造の表面に多くの量の含窒素官能基が含まれていることを反映しており、例えば、本触媒の優れた触媒活性に寄与する。本触媒の上記N/C割合の上限値は特に限られないが、当該N/C割合は、15.0%以下であることとしてもよい。
【0064】
本触媒は、13C固体核磁気共鳴(以下、「13C固体NMR」という。)測定で得られるスペクトルにおいて、化学シフト150ppm付近にピークが観察される炭素構造を含むこととしてもよい。
【0065】
この場合、本触媒の13C固体NMR測定で得られるスペクトルにおいては、化学シフト150ppm付近(具体的には、例えば、135ppm以上、170ppm以下の範囲内)にショルダーピークが観察される。すなわち、例えば、13C固体NMR測定で得られるスペクトルにおいて、スムージング等でノイズを除去した後に、化学シフト135ppm以上、170ppm以下の範囲内に変曲点が複数存在する場合、ショルダーピークが観察されたと判断される。
【0066】
本触媒の炭素構造が13C固体NMRのスペクトルにおいて化学シフト150ppm付近にピークを示すことは、当該炭素構造が、アゾメチン(イミン)等の含窒素官能基を多く含むことを反映していると考えられる。
【0067】
本触媒は、金属を含むこととしてもよい。この場合、本触媒に含まれる金属は、上述した本触媒の特性が得られるものであれば特に限られないが、遷移金属であることが好ましい。また、本触媒は、2種以上の金属を含むことが好ましく、2種以上の遷移金属を含むことが好ましい。
【0068】
本実施形態において、遷移金属は、周期表の3族から12族に属する金属であり、周期表の3族から12族の第4周期に属する遷移金属であることが好ましい。具体的に、本触媒に含まれる遷移金属は、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ランタノイド(例えば、ガドリニウム(Gd))及びアクチノイドからなる群、又はSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、ランタノイド(例えば、Gd)及びアクチノイドからなる群より選択される1種以上であることとしてもよく、当該群より選択される2種以上であることとしてもよい。
【0069】
また、本触媒は、Ti、Cr、Fe、Zn、及びGdからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましく、当該群より選択される2種以上を含むことがより好ましい。この場合、本触媒は、例えば、Fe及びZnからなる群より選択される1種以上を含むこととしてもよく、Fe及びZnを含むこととしてもよい。
【0070】
本触媒が上記特定の遷移金属を含む場合、本触媒は、さらに他の遷移金属を含むこととしてもよい。すなわち、例えば、本触媒がTi、Cr、Fe、Zn、及びGdからなる群より選択される1種以上又は2種以上の第一の遷移金属を含む場合、本触媒は、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、ランタノイド(例えば、Gd)及びアクチノイドからなる群、又はSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、ランタノイド(例えば、Gd)及びアクチノイドより選択される1種以上であって当該第一の遷移金属とは異なる第二の遷移金属をさらに含むこととしてもよい。
【0071】
また本触媒は、白金(Pt)を含まないこととしてもよい。この場合、本触媒は、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、金(Au)及びオスミウム(Os)からなる群より選択される1種以上を含まないこととしてもよい。
【0072】
本触媒が、後述する炭素化の原料に由来する金属を含む場合、本触媒は、炭素化の原料に金属が含まれていたことに起因して、その内部に当該金属を含む。すなわち、本触媒が、後述するように炭素化材料に金属除去処理を施すことを含む方法により製造される場合であっても、本触媒の内部には、微量の原料由来金属が残存する。
【0073】
具体的に、例えば、金属を含む本触媒が粒子状である場合、本触媒を構成する粒子を切断すると、切断により露出した当該粒子の断面に当該金属が検出される。この本触媒に含まれる金属は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光光度法によって検出することができる。
【0074】
本触媒は、BET法で測定される比表面積が800m2/g以上であることとしてもよい。この場合、本触媒の上記比表面積は、1000m2/g以上であることが好ましく、1200m2/g以上であることが特に好ましい。
【0075】
本触媒の比表面積が上記特定の閾値以上であることは、本触媒による化学反応の効率化に寄与し、優れた触媒活性に寄与する。本触媒の上記比表面積の上限値は特に限られないが、当該比表面積は、3000m2/g以下であることとしてもよい。
【0076】
本触媒は、燃焼法による元素分析で測定される窒素原子含有量1.5重量%以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、上記元素分析で測定される本触媒の炭素構造の窒素原子含有量は、1.7重量%以上であることが好ましい。
【0077】
本触媒の炭素構造の元素分析による窒素原子含有量が上記特定の閾値以上であることは、当該炭素構造に多くの量の含窒素官能基が含まれていることを反映しており、本触媒の優れた触媒活性に寄与する。本触媒の元素分析による窒素原子含有量の上限値は特に限られないが、当該窒素原子含有量は、15.0重量%以下であることとしてもよい。
【0078】
本触媒は、平均粒子径が1.0μm以下であることとしてもよい。本触媒の平均粒子径が上記特定の閾値以下であることは、本触媒による化学反応の効率化に寄与し、本触媒の優れた触媒活性に寄与し、また、本触媒を含む電池電極の作製における効率化にも寄与する。本触媒の平均粒子径の下限値は特に限られないが、当該平均粒子径は、0.05μm以上であることとしてもよい。
【0079】
本触媒は、最大粒子径が1000.0μm以下であることとしてもよい。この場合、本触媒の最大粒子径は、例えば、50.0μm以下であることが好ましく、10.0μm以下であることが特に好ましい。具体的に、例えば、本触媒が燃料電池用炭素触媒(例えば、燃料電池のカソード用又はアノード用の炭素触媒、好ましくは燃料電池のカソード用炭素触媒)である場合には、本触媒の最大粒子径は、50.0μm以下であることが好ましく、10.0μm以下であることが特に好ましい。また、これらの場合、本触媒の最小粒子径は特に限られないが、例えば、0.001μm以上であることとしてもよい。
【0080】
本触媒は、それ自身が単独で触媒活性を有する炭素材料である。本触媒を構成する炭素材料は、例えば、後述のとおり有機物を含む原料の炭素化により得られる炭素化材料である。また、本触媒が、有機物と金属とを含む原料の炭素化により得られる炭素化材料である場合、本触媒の炭素構造には当該金属が含まれるが、本触媒の触媒活性は、当該金属よりも、主に当該炭素構造自身に含まれる活性点によるものと考えられる。このことは、炭素化の原料に由来する金属を含む本触媒に、当該金属の含有量を低減する金属除去処理を施した場合においても、当該金属除去処理後の本触媒の触媒活性は、当該金属除去処理前のそれに比べて大きく低下しないことや、有機物を含み金属を含まない原料の炭素化により得られた炭素化材料の表面に、当該炭素化後に金属を担持して得られる炭素材料は、本触媒のように優れた触媒活性を有しないことによって裏付けられる。なお、本触媒が有する触媒活性は、例えば、酸化活性、及び/又は還元活性であり、より具体的には、例えば、酸素還元活性、及び/又は水素酸化活性である。
【0081】
本触媒は、それ自身が単独で触媒活性を有するため、Ptを含まない、又はPt等の希少金属を含まないこととしてもよいが、これに限られず、本触媒は、例えば、当該希少金属を担持する担体として用いられてもよい。この場合、本触媒に担持される希少金属は、例えば、Pt、Ru、Rh、Pd、Ir、Au及びOsからなる群より選択される1種以上である。
【0082】
なお、本触媒が、希少金属の担体として用いられる場合であっても、未だ当該希少金属を担持していない担体としての本触媒(当該希少金属を担持する前の本触媒)は、それ自身が触媒活性を有する炭素材料、すなわち炭素触媒である。
【0083】
本触媒の製造方法は、上述した特性を有する本触媒が得られる方法であれば特に限られないが、本実施形態においては、有機物を含む原料を加圧下で炭素化することを含む方法について説明する。
【0084】
原料に含まれる有機物は、炭素化できるものであれば特に限られない。すなわち、有機物としては、例えば、高分子量の有機化合物(例えば、熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂等の樹脂)及び/又は低分子量の有機化合物が使用される。また、有機物としてバイオマスを使用してもよい。
【0085】
有機物としては、窒素含有有機物が好ましく使用される。窒素含有有機物は、その分子内に窒素原子を含む有機化合物を含む有機物であれば特に限られない。本触媒が、窒素含有有機物を含む原料の炭素化物である場合、本触媒の炭素構造は、窒素原子を含む。
【0086】
具体的に、有機物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル-ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリロニトリル-ポリアクリル酸メチル共重合体、ポリアクリロニトリル-ポリメタクリル酸共重合体、ポリアクリロニトリル-ポリメタクリル酸-ポリメタリルスルホン酸共重合体、ポリアクリロニトリル-ポリメタクリル酸メチル共重合体、フェノール樹脂、ポリフルフリルアルコール、フラン、フラン樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、メラミン、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、窒素含有キレート樹脂(例えば、ポリアミン型、イミノジ酢酸型、アミノリン酸型及びアミノメチルホスホン酸型からなる群より選択される1種以上)、ポリアミドイミド樹脂、ピロール、ポリピロール、ポリビニルピロール、3-メチルポリピロール、アクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、チオフェン、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、ビニルピリジン、ポリビニルピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピペラジン、ピラン、モルホリン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、キノキサリン、アニリン、ポリアニリン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ポリスルフォン、ポリアミノビスマレイミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ベンゾイミダゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、リグニン、キチン、キトサン、ピッチ、褐炭、絹、毛、ポリアミノ酸、核酸、DNA、RNA、ヒドラジン、ヒドラジド、尿素、サレン、ポリカルバゾール、ポリビスマレイミド、トリアジン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリウレタン、ポリアミドアミン及びポリカルボジイミドからなる群より選択される1種以上が使用される。
【0087】
原料における有機物の含有量は、本触媒が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、5質量%以上、90質量%以下であることとしてもよく、好ましくは10質量%以上、80質量%以下である。
【0088】
炭素化の原料は、金属をさらに含むこととしてもよい。すなわち、この場合、有機物と金属とを含む原料が加圧下で炭素化される。本触媒が、有機物と金属とを含む原料の炭素化により得られる炭素化材料である場合、本触媒は、当該金属を含む。
【0089】
原料に含まれる金属(すなわち、本触媒に含まれる金属)は、遷移金属であることが好ましい。また、原料は、2種以上の金属を含むことが好ましく、2種以上の遷移金属を含むことが好ましい。
【0090】
本実施形態において、遷移金属は、周期表の3族から12族に属する金属であり、周期表の3族から12族の第4周期に属する遷移金属であることが好ましい。具体的に、原料に含まれる遷移金属は、例えば、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、ランタノイド(例えば、Gd)及びアクチノイドからなる群、又はSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、ランタノイド(例えば、Gd)及びアクチノイドからなる群より選択される1種以上であることとしてもよく、当該群より選択される2種以上であることとしてもよい。
【0091】
また、原料は、Ti、Cr、Fe、Zn及びGdからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましく、当該群より選択される2種以上を含むことがより好ましい。この場合、原料は、例えば、Fe及びZnからなる群より選択される1種以上を含むこととしてもよく、Fe及びZnを含むこととしてもよい。
【0092】
原料が上記特定の遷移金属を含む場合、当該原料は、さらに他の遷移金属を含むこととしてもよい。すなわち、例えば、原料がTi、Cr、Fe、Zn、及びGdからなる群より選択される1種以上の第一の遷移金属を含む場合、当該原料は、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、ランタノイド(例えば、Gd)及びアクチノイドからなる群、又はSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、ランタノイド(例えば、Gd)及びアクチノイドからなる群より選択される1種以上であって当該第一の遷移金属とは異なる第二の遷移金属をさらに含むこととしてもよい。
【0093】
また原料は、Ptを含まないこととしてもよい。この場合、原料は、Pt、Ru、Rh、Pd、Ir、Au及びOsからなる群より選択される1種以上を含まないこととしてもよい。
【0094】
原料に含まれる金属としては、当該金属の単体及び/又は当該金属の化合物が使用される。金属化合物としては、例えば、金属塩、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属硫化物、金属炭化物及び金属錯体からなる群より選択される1種以上を使用することとしてもよい。
【0095】
原料における金属の含有量(2種以上の金属を使用する場合には、当該2種以上の金属の含有量の合計)は、本触媒が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、1質量%以上、90質量%以下であることとしてもよく、2質量%以上、80質量%以下であることが好ましい。
【0096】
炭素化は、加圧下で、原料を加熱して、当該原料が炭素化される温度(以下、「炭素化温度」という。)で保持することにより行う。炭素化温度は、原料が炭素化される温度であれば特に限られず、例えば、300℃以上である。すなわち、この場合、有機物を含む原料は、加圧下、300℃以上の温度で炭素化される。
【0097】
また、炭素化温度は、例えば、700℃以上であることとしてもよく、900℃以上であることが好ましく、1000℃以上であることがより好ましく、1100℃以上であることが特に好ましい。炭素化温度の上限値は、特に限られないが、当該炭素化温度は、例えば、3000℃以下である。
【0098】
炭素化温度までの昇温速度は、例えば、0.5℃/分以上、300℃/分以下である。炭素化温度で原料を保持する時間は、例えば、1秒以上、24時間以下であり、好ましくは、5分以上、24時間以下である。炭素化は、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。すなわち、炭素化は、例えば、窒素ガス等の不活性ガスの流通下で行うことが好ましい。
【0099】
炭素化を行う雰囲気の圧力は、大気圧より大きい圧力であれば特に限られないが、例えば、ゲージ圧で0.05MPa以上の圧力である。さらに、炭素化を行う雰囲気の圧力は、ゲージ圧で、0.15MPa以上であることとしてもよく、0.20MPa以上であることが好ましく、0.40MPa以上であることがより好ましく、0.50MPa以上であることが特に好ましい。すなわち、これらの場合、本製法は、有機物を含む原料は、ゲージ圧が上記閾値(MPa)以上の圧力下で炭素化される。
【0100】
本触媒の製造方法は、有機物を含む原料の炭素化により得られる炭素化材料にさらなる処理を施すことを含むこととしてもよい。すなわち、例えば、炭素化材料にアンモニア処理を施すこととしてもよい。この場合、例えば、有機物を含む原料は加圧下で炭素化され、当該炭素化により得られた炭素化材料はアンモニア処理を施される。
【0101】
アンモニア処理は、炭素化材料をアンモニアと接触させる処理であれば特に限られない。すなわち、アンモニア処理は、例えば、アンモニア含有ガス雰囲気中で、炭素化材料を加熱する処理である。
【0102】
アンモニア含有ガスのアンモニア含有量は、アンモニア処理の効果が得られる範囲内であれば特に限られないが、例えば、0.1体積%以上であることとしてもよく、1.0体積%以上であることとしてもよく、3.0体積%以上であることとしてもよい。
【0103】
アンモニア処理中に炭素化材料を加熱する温度は、アンモニア処理の効果が得られる範囲内であれば特に限られないが、例えば、300℃以上であることとしてもよく、500℃以上であることが好ましく、700℃以上であることが特に好ましい。加熱温度の上限値は特に限られないが、当該加熱温度は、例えば、1300℃以下であることとしてもよく、1000℃以下であることが好ましい。アンモニア処理中の加熱温度の範囲は、上述の下限値の各々と、上述の上限値の各々とを任意に組み合わせて規定される。
【0104】
また、炭素化材料に金属除去処理を施すこととしてもよい。この場合、例えば、有機物を含む原料は加圧下で炭素化され、次いで、当該炭素化により得られた炭素化材料は金属除去処理を施される。また、例えば、有機物を含む原料は加圧下で炭素化され、次いで、当該炭素化により得られた炭素化材料は金属除去処理を施され、その後、当該金属除去処理後の炭素化材料はアンモニア処理を施される。金属除去処理は、炭素化材料に含まれる原料由来の金属の量を低減する処理である。金属除去処理は、例えば、酸による洗浄処理及び/又は電解処理である。
【0105】
本電極は、上述した本触媒を含む。すなわち、本電極は、例えば、本触媒が担持された電池電極である。具体的に、本電極は、例えば、電極基材と、当該電極基材に担持された本触媒と、を含む電池電極である。
【0106】
ここで、上述のとおり、本触媒は、それ自身が単独で触媒活性を有するため、本電極は、Ptを含まない、又はPt等の上記希少金属を含まないこととしてもよいが、これに限られず、本電極は、例えば、当該希少金属を担持する担体としての本触媒と、当該本触媒に担持された当該希少金属とを含むこととしてもよい。
【0107】
本電極は、例えば、燃料電池(例えば、固体高分子形燃料電池)、空気電池、水電解槽(例えば、固体高分子形水電解槽)、レドックスフロー電池、又はハロゲン電池の電極である。また、本電極は、例えば、カソード又はアノードであり、好ましくはカソードである。すなわち、本電極は、燃料電池、空気電池、水電解槽、レドックスフロー電池、又はハロゲン電池のカソード又はアノードであり、好ましくは燃料電池カソード、空気電池カソード、水電解槽カソード、レドックスフロー電池カソード、又はハロゲン電池カソードである。
【0108】
本電池は、上述した電池電極を含む。すなわち、本電池は、例えば、本電極を含む燃料電池(例えば、固体高分子形燃料電池)、空気電池、レドックスフロー電池、又はハロゲン電池である。本電池は、本電極を含む膜/電極接合体(MEA)を有することとしてもよい。本電池は、カソード又はアノードとして本電極を有する電池であり、好ましくはカソードとして本電極を有する電池である。すなわち、本電池は、カソード又はアノードとして本電極を有する燃料電池、空気電池、レドックスフロー電池、又はハロゲン電池であり、好ましくはカソードとして本電極を有する燃料電池、空気電池、レドックスフロー電池、又はハロゲン電池である。
【0109】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例】
【0110】
[実施例1]
1.0gのポリアクリロニトリル(PAN)と、1.0gの2-メチルイミダゾールと、6.0gの塩化亜鉛(ZnCl2)と、30gのジメチルホルムアミドとを混合した。得られた混合物から乾燥により溶媒を除去した。乾燥した混合物を大気中で加熱して、250℃で不融化を行った。
【0111】
不融化後の混合物25gと、0.03gの塩化鉄(III)六水和物(FeCl3・6H2O)と、105gのジメチルホルムアミドとを混合した。得られた混合物から乾燥により溶媒を除去した。そして、乾燥した混合物を、窒素雰囲気中、0.9MPaのゲージ圧力下、1100℃で加熱保持することにより、炭素化を行った。
【0112】
炭素化により得られた炭素化材料に希塩酸を加え、撹拌した。その後、炭素化材料を含有する懸濁液を、ろ過膜を使用してろ過し、ろ液が中性になるまで蒸留水で炭素化材料を洗浄した。こうして酸洗浄による金属除去処理を行った。さらに、微粉砕機によって、金属除去処理後の炭素化材料を、その平均粒子径が1μm以下になるまで粉砕した。
【0113】
粉砕後の炭素化材料を、100%アンモニアガスを0.3L/分で流通させた雰囲気中、900℃で1時間加熱保持した。その後、アンモニアガスを窒素に置換し、窒素雰囲気中、炭素化材料を500℃で10分保持した。そして、窒素雰囲気中で自然放冷により冷却した炭素化材料を、実施例1の炭素触媒として得た。
【0114】
[実施例2]
アンモニアガス雰囲気中、900℃で1時間加熱保持した後に、窒素雰囲気中で冷却する代わりに、当該アンモニアガスを窒素に置換することなく当該アンモニアガス中で冷却したこと以外は上述の実施例1と同様にして、実施例2の炭素触媒を得た。
【0115】
[実施例3]
上述の実施例2で得られた炭素触媒を、窒素雰囲気中、常圧下で加熱し、600℃で30分保持することにより、実施例3の炭素触媒を得た。
【0116】
[実施例4]
アンモニアガス中で加熱する前に、粉砕後の炭素化材料に希硝酸を加えて撹拌し、次いで、当該炭素化材料を含有する懸濁液を、ろ過膜を使用してろ過し、さらに、ろ液が中性になるまで蒸留水で炭素化材料を洗浄する硝酸処理を行い、その後、当該硝酸で処理された炭素化材料を、窒素雰囲気中300℃で加熱し、次いで、アンモニアガス中で加熱したこと以外は上述の実施例1と同様にして、実施例4の炭素触媒を得た。
【0117】
[実施例5]
900℃に代えて800℃で粉砕後の炭素化材料をアンモニアガス中で加熱したこと以外は上述の実施例1と同様にして、実施例5の炭素触媒を得た。
【0118】
[実施例6]
不融化前に、0.018gの塩化クロム六水和物(CrCl3・6H2O)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例2と同様にして、実施例6の炭素触媒を得た。
【0119】
[実施例7]
不融化前に、0.06gのホウ酸(B(HO)3)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例1と同様にして、実施例7の炭素触媒を得た。
【0120】
[実施例8]
1.0gに代えて2.0gの2-メチルイミダゾールを使用したこと以外は上述の実施例1と同様にして、実施例8の炭素触媒を得た。
【0121】
[実施例9]
不融化前に、0.69gの塩化ゲルマニウム(IV)(GeCl4)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例1と同様にして、実施例9の炭素触媒を得た。
【0122】
[実施例10]
不融化前に、0.06gの硝酸鉛六水和物(Pb(NO3)2・6H2O)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例1と同様にして、実施例10の炭素触媒を得た。
【0123】
[実施例11]
不融化前に、0.075gの硝酸ガドリニウム六水和物(Gd(NO3)3・6H2O)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例1と同様にして、実施例11の炭素触媒を得た。
【0124】
[実施例12]
不融化前に、1.06gの塩化ビスマス(III)(BiCl3)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例1と同様にして、実施例12の炭素触媒を得た。
【0125】
[実施例13]
不融化前に、0.03gの窒化チタン(TiN)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例1と同様にして、実施例13の炭素触媒を得た。
【0126】
[実施例14]
不融化前に、0.48gの塩化銀(AgCl)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例1と同様にして、実施例14の炭素触媒を得た。
【0127】
[比較例1]
1.0gのポリアクリロニトリル(PAN)と、1.0gの2-メチルイミダゾールと、6.0gの塩化亜鉛(ZnCl2)と、30gのジメチルホルムアミドとを混合した。得られた混合物から乾燥により溶媒を除去した。乾燥した混合物を大気中で加熱して、250℃で不融化を行った。
【0128】
不融化後の混合物25gと、0.03gの塩化鉄(III)六水和物(FeCl3・6H2O)と、105gのジメチルホルムアミドとを混合した。得られた混合物から乾燥により溶媒を除去した。そして、乾燥した混合物を、窒素雰囲気中、常圧下、1100℃で加熱保持することにより、炭素化を行った。
【0129】
炭素化により得られた炭素化材料に希塩酸を加え、30分間撹拌した。その後、炭素化材料を沈殿させ、溶媒を除去した。この処理を数回繰り返した後、蒸留水を加え、撹拌した。炭素化材料を含有する懸濁液を、ろ過膜を使用してろ過し、ろ液が中性になるまで蒸留水で炭素化材料を洗浄した。こうして酸洗浄による金属除去処理を行った。さらに、微粉砕機によって、金属除去処理後の炭素化材料を、その平均粒子径が1μm以下になるまで粉砕した。こうして粉砕後の炭素化材料を、比較例1の炭素触媒として得た。
【0130】
[比較例2]
アンモニアガス雰囲気中における加熱以降の処理を行うことなく、粉砕後の炭素化材料をそのまま炭素触媒として得たこと以外は上述の実施例1と同様にして、比較例2の炭素触媒を得た。
【0131】
[比較例3]
上述の実施例2で得られた炭素触媒を、窒素雰囲気中、常圧下で加熱し、1000℃で30分保持することにより、比較例3の炭素触媒を得た。
【0132】
[比較例4]
不融化前に、0.018gの塩化クロム六水和物(CrCl3・6H2O)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の比較例1と同様にして、比較例4の炭素触媒を得た。
【0133】
[比較例5]
不融化前に、0.018gの塩化クロム六水和物(CrCl3・6H2O)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の比較例2と同様にして、比較例5の炭素触媒を得た。
【0134】
[比較例6]
上述の比較例1で得られた炭素触媒を、100%アンモニアガスを0.3L/分で流通させた雰囲気中、900℃で1時間加熱保持した。その後、アンモニアガスを窒素に置換し、窒素雰囲気中、炭素触媒を500℃で10分保持した。そして、窒素雰囲気中で冷却した炭素触媒を、比較例6の炭素触媒として得た。
【0135】
次に、上述のようにして得られた炭素触媒について、後述するような分析を行った。なお、以降の各分析に関する説明において記載される、用いた炭素触媒の重量は、真空下、80℃で3時間加熱処理した場合の当該炭素触媒の重量である。
【0136】
[昇温脱離法]
昇温脱離装置(マイクロトラック・ベル株式会社製)に炭素触媒を設置し、キャリアガス(He)を20mL/分で流通させて当該炭素触媒を加熱し、脱離したガスを四重極質量分析計(Quadrupole Mass Spectrometer:QMS)で測定した。
【0137】
具体的に、まず、炭素触媒の前処理(熱処理による触媒表面官能基の脱離)を行った。すなわち、まず炭素触媒を、窒素雰囲気中、10℃/分の昇温速度で600℃まで加熱し、600℃で30分保持することにより、前処理を行った。前処理後の炭素触媒0.05gを石英製の反応管中央部に充填し、昇温脱離装置にセットした。装置内にヘリウム(He)ガスを流通させ、装置内を25℃で120分保持することにより、装置を安定させた。その後、炭素触媒を再度加熱し、10℃/分の昇温速度で1000℃に昇温することにより、当該炭素触媒の加熱処理を行い、その表面の官能基を脱離させた。
【0138】
次に、炭素触媒に加熱処理を施し、脱離する窒素(N2)の量を測定した。すなわち、装置内を再び10℃/分の昇温速度で600℃まで昇温し、その後、600℃から1000℃に昇温した。この600℃から1000℃までの昇温の間、ヘリウム(He)ガスを20mL/分で流通させながら、含窒素化合物の脱離によって生じる窒素を質量数14で検出し(質量数28を用いると、N2の他に、CO、C2H4等のガスも含まれる(特にCOが主に含まれる)ため、質量数14を用いた。)、まず得られたスペクトルに対してベースライン補正を行い、その後、温度(横軸)と検出強度(縦軸)との相関関係を記録した。
【0139】
そして、600℃から1000℃までの温度範囲、800℃から1000℃までの温度範囲、及び600℃から800℃までの温度範囲のそれぞれにおける窒素の検出強度の積分値(検出強度面積)を計算することにより、当該各温度範囲で脱離した窒素の放出量を求めた。
【0140】
一方、窒素ガスを標準ガスとして用いて、窒素の放出量と、検出強度面積と、の相関関係を示す検量線を作成した。そして、測定により得た検出強度面積と、検量線と、に基づいて、定量した値を、測定に用いた炭素触媒量で除することにより、炭素触媒からの窒素の脱離量(炭素触媒の単位重量あたりの放出量)を求めた。
【0141】
上記検出強度面積の求め方の例として、
図1には、実施例4で得られた炭素触媒の窒素(質量数14)のTPD測定結果を示す。
図1において、横軸は反応管温度(℃)を示し、縦軸は四重極質量分析計の測定強度(μV)を示す。
図1に示すプロファイルにおいて、積分により、ハッチングが付された領域の面積が、窒素の検出強度面積として得られた。
【0142】
[ゼータ電位]
ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS(電気泳動法)、マルバーン社製)、及びキャピラリ―セル(ディスポーザブルゼータ電位測定セル)を用いて、電気泳動法にて、炭素触媒のゼータ電位の等電点を測定した。すなわち、炭素触媒約0.1gを、50mLビーカーに採取し、純水を数滴加えてよく撹拌した。さらに純水30mLを少しずつ加えて、よく撹拌した。その後、超音波照射(100W、5分間)を行い、約10分間スターラーで撹拌することにより、炭素触媒を含む懸濁液を調製した。この懸濁液に純水を加えて、0.1wt%の炭素触媒を含む懸濁液を調製し、JIS R 1638:1999 ファインセラミックス粉末の等電点測定方法を参考にして、当該懸濁液を、減衰器の値が最適(減衰指数6-9)となるように純水で希釈し、当該希釈後の懸濁液のpHを測定した。
【0143】
そして、水酸化ナトリウム水溶液、及び塩酸を用いて、懸濁液のpHを、1.0刻みで、2.0から11.0の範囲に調整した。ゼータ電位は、pHを調整した懸濁液をセルに採取して測定した(n=2)。溶媒の屈折率、誘電率、及び粘度としては、水のそれらの数値を使用した。
【0144】
[X線光電子分光法]
炭素触媒をXPSにより解析した。すなわち、X線光電子分光装置(AXIS NOVA、KRATOS社製)を用いて、炭素触媒の表面における炭素原子及び窒素原子の内殻準位からの光電子スペクトルを測定した。X線源にはAlKα線(10mA、15kV、Pass energy 40eV)を用いた。得られた光電子スペクトルにおいては、炭素原子の1s軌道に由来するC1sピークのピークトップが284.5eVに位置するよう結合エネルギーの補正を行った。
【0145】
光電子スペクトルにおいて、窒素原子の1s軌道に由来するN1sピークを、結合エネルギー397eV~399eVの範囲内にピークトップを有する第一の窒素ピークと、結合エネルギー399.5eV~401.5eVの範囲内にピークトップを有する第二の窒素ピークと、結合エネルギー401eV~403eVの範囲内にピークトップを有する第三の窒素ピークとに分離した。
【0146】
そして、第一の窒素ピークのピークトップの強度を、第二の窒素ピークのピークトップの強度で除することにより、第一/第二窒素強度比を求めた。また、第一の窒素ピークのピークトップの強度を、C1sピークのピークトップの強度で除することにより、第一窒素/C1s強度比を求めた。
【0147】
なお、ピーク分離は、次のようにして行った。すなわち、まず得られた光電子スペクトルに対してベースライン補正を行った。ベースライン補正後の光電子スペクトルにおいて、398.0eV付近に見られる第一の窒素ピーク、400.5eV付近に見られる第二の窒素ピーク、及び402.0eV付近に見られる第三の窒素ピークをそれぞれ次の式で表されるガウス関数で表現することによって特定した:Gn=An・exp(-Bn(x-Cn)2)。ここで式中、xは横軸である結合エネルギー(eV)を表し、An、Bn及びCnは変数である。ただし、第一の窒素ピークのCn、及び第二の窒素ピークのCnは、それぞれピークトップの位置±1.0eVの範囲内となるように決定した。
【0148】
そして、最小二乗法を用い、又は最適化問題を解くことにより、各ピークに関するAn、Bn及びCnを求めた。すなわち、各ピークのガウス関数Gnの和と、ベースライン補正後の光電子スペクトルとの差の二乗和が最小値となるように、各ピークの分離を行った。
【0149】
ピーク分離の例として、
図2Aには、実施例2で得られた炭素触媒のXPSで得られた光電子スペクトルを示し、
図2Bには、比較例2得られた炭素触媒のXPSで得られた光電子スペクトルを示す。
【0150】
図2A及び
図2Bにおいて、横軸は結合エネルギー(eV)を示し、縦軸は強度を示し、細い実線は、ベースライン補正後のN
1sピークを示し、細い点線は第一の窒素ピークを示し、太い点線は第二の窒素ピークを示し、太い実線は第三の窒素ピークを示し、太い破線は、分離ピーク(ピーク分離により得られた第一の窒素ピーク、第二の窒素ピーク、及び第三の窒素ピーク)のガウス関数G
nの和を示す。
【0151】
図2A及び
図2Bに示されるように、上記ピーク分離によって、光電子スペクトルにおいて、N
1sピークが、第一の窒素ピークと、第二の窒素ピークと、第三の窒素ピークとに分離された。
【0152】
また、各スペクトルのピーク面積と検出感度係数とから、炭素触媒の表面における窒素原子及び炭素原子の元素濃度(atm%)を求めた。そして、窒素原子濃度(atm%)を炭素原子濃度(atm%)で除した値に100を乗じてN/C割合(%)を算出した。
【0153】
[固体核磁気共鳴]
炭素触媒の13C固体NMR測定を行った。すなわち、固体NMR測定装置(AVANCE3 HD、ブルカー・バイオスピン社製)を用いて、4mm WVTprobe、MASR=10kHz、繰り返し時間10秒、積算回数10240回の条件で、CP/MAS法により測定を行った。
【0154】
そして、13C固体NMR測定で得られたスペクトルにおいて、スムージング等でノイズを除去した後に、化学シフト135ppm以上、170ppm以下の範囲内にショルダーピークが観察されたか否かに基づき、化学シフト150ppm付近にピークが観察されたか否かを判断した。
【0155】
[比表面積]
炭素触媒の比表面積を、比表面積・細孔分布測定装置(Tristar 3000、株式会社島津製作所製)を用いて、窒素ガスを用いたBET法により測定した。すなわち、まず、0.1gの炭素触媒を、100℃、6.7×10-2Paで、3時間保持することにより、当該炭素触媒に吸着している水分を取り除いた。次いで、BET法により、77Kにおける窒素吸着等温線から、炭素触媒の比表面積(m2/g)を得た。なお、77Kにおける窒素吸着等温線は、77Kの温度で、窒素ガスの圧力の変化に伴う、炭素触媒への窒素吸着量の変化を測定して得た。
【0156】
[元素分析]
炭素触媒の元素分析を行った。すなわち、有機微量元素分析装置(2400II、パーキンエルマー株式会社)を用いて、炭素触媒の窒素含有量を燃焼法により測定した。ヘリウムをキャリアガスとして用い、2mgの炭素触媒を、燃焼管温度980℃、還元管温度640℃の条件で分析した。そして、窒素の重量を炭素触媒の全重量で除した値に100を乗じて窒素原子含有量(重量%)を算出した。
【0157】
[平均粒子径]
炭素触媒の平均粒子径を測定した。すなわち、ナノ粒子径分布測定装置(SALD-7100H、株式会社島津製作所製)を用いて、炭素触媒の粒子径をレーザー回折法により測定した。具体的に、まず炭素触媒10mgに対して界面活性剤を1滴添加し、次いで、蒸留水40gを加え、懸濁液を調製した。その後、ホモジナイザー処理を20分行い、分散液を調製した。蒸留水が循環しているフローセルに、回折/散乱光強度の最大値が50±5になるまで、調製した分散液を滴下し、粒子径を測定した。得られた粒子径分布(体積分布)から求められるメディアン径(d50)を、平均粒子径として得た。得られた粒子径分布(体積分布)における頻度(%)が0.001以上の粒子径のうち、最大の値を最大粒子径と定義し、最小となる値を最小粒子径と定義した。
【0158】
[触媒活性]
炭素触媒の触媒活性を、回転リングディスク電極装置(RRDE-3A回転リングディスク電極装置ver.1.2、ビー・エー・エス株式会社製)と、デュアル電気化学アナライザー(CHI700C、株式会社ALS社製)とを用いて評価した。すなわち、まず炭素触媒を含む作用電極を有する、三極式の回転リングディスク電極装置を作製した。具体的に、炭素触媒5mgと、5%ナフィオン(登録商標)(シグマアルドリッチ社製、ナフィオン 過フッ素化イオン交換樹脂、5%溶液(整理番号:510211))50μLと、水400μLと、イソプロピルアルコール100μLとを混合してスラリーを調製した。次いで、このスラリーに超音波処理を10分行い、その後、ホモジナイザー処理を2分行った。そして、得られたスラリーを、炭素触媒の塗布量が0.1mg/cm2となるように、作用電極(RRDE-3A用リングディスク電極 白金リング-金ディスク電極 ディスク直径4mm、ビー・エー・エス株式会社製)に塗布し、乾燥することにより、当該炭素触媒を含む作用電極を作製した。
【0159】
また対極としては白金電極(Ptカウンター電極23cm、ビー・エー・エス株式会社製)を使用し、参照極としては可逆式水素電極(RHE)(溜め込み式可逆水素電極、株式会社イーシーフロンティア製)を使用した。こうして、炭素触媒を含む作用電極、対極としての白金電極、及び参照極としての可逆式水素電極(RHE)を有する回転リングディスク電極装置を得た。また、電解液としては、0.1M過塩素酸水溶液を使用した。
【0160】
そして、上記回転リングディスク電極装置を用いた触媒活性を測定した。すなわち、炭素触媒を含む作用電極を有する、三極式の回転リングディスク電極装置を用いた窒素雰囲気下におけるリニアスイープボルタンメトリ(N2-LSV)及び酸素雰囲気下におけるリニアスイープボルタンメトリ(O2-LSV)及びを実施した。
【0161】
N2-LSVにおいては、まず窒素バブリングを10分行い、電解液内の酸素を除去した。その後、電極を回転速度1600rpmで回転させ、掃引速度20mV/secで電位掃引した時の電流密度を電位の関数として記録した。
【0162】
O2-LSVにおいては、さらにその後、酸素バブリングを10分行い、電解液内を飽和酸素で満たした。その後、電極を回転速度1600rpmで回転させ、掃引速度20mV/secで電位掃引した時の電流密度を電位の関数として記録した(O2-LSV)。そして、O2-LSVからN2-LSVを差し引いて、酸素還元ボルタモグラムを得た。なお、得られた酸素還元ボルタモグラムにおいて、還元電流が負の値、酸化電流が正の値となるように数値に符号を付した。
【0163】
こうして得られた酸素還元ボルタモグラムから、後述の耐久性試験開始時における炭素触媒の触媒活性(初期活性)を示す指標として、-10μA/cm2の還元電流が流れた時の電圧(酸素還元開始電位EO2)(V vs.NHE)と、0.7V(vs.NHE)の電圧を印加した時の電流密度i0.7(mA/cm2)とを記録した。
【0164】
[発電試験及び耐久性試験]
炭素触媒を含む触媒層が形成された電池カソードを製造した。すなわち、まず、上述のようにして製造された炭素触媒0.25gと、電解質溶液と、ボール25gをポットに投入し、200rpm、50分間ボールミルで混合することにより、均一に分散された当該炭素触媒を含むスラリー状の触媒層用組成物を得た。
【0165】
得られたスラリー状の触媒層用組成物を、ガス拡散層(“29BC”、SGLカーボン社製)(2.3cm×2.3cm)の面積5cm2の領域上に、電池電極の単位面積あたりの炭素触媒の含有量が1.5mg/cm2になるように塗布して乾燥させることにより、当該ガス拡散層上に触媒層を形成した。こうして、炭素触媒を含む触媒層が形成された電池電極を得た。
【0166】
次に、得られた電池電極の電流保持試験(耐久性試験)を行った。すなわち、正極としては、上述のようにして製造された、触媒層(正極触媒層)を含む電池電極を使用した。一方、負極は以下のようにして作製した。0.5gのPt/Cと、5重量%NAFION(登録商標)溶液(Aldrich社製)10gと、蒸留水2gと、ボール25gとをポットに投入し、200rpm、50分間ボールミルで混合することにより、スラリー状のPt/C組成物を調製した。このスラリー状のPt/C組成物を、ガス拡散層(5cm2)上に単位面積あたりのPt/C塗布量が0.3mg/cm2となるようにしたこと以外は、上記正極と同様にして、当該Pt/C組成物から形成された触媒層(負極触媒層)を含む負極を作製した。
【0167】
そして、上記正極触媒層と上記負極触媒層との間に、固体高分子電解質膜(Dupont社製、“NAFION(登録商標)211”)を配置して、これらを150℃、1MPaの条件で3分間圧着することにより、MEAを作製した。このMEAに一対のガスケットを貼り付け、さらに一対のセパレーターで挟み、燃料電池単セルを作製した。その後、上述のようにして作製した単セルを燃料電池自動評価システム(株式会社東陽テクニカ製)に設置し、発電試験を行った後、電流保持試験(耐久性試験)を行った。
【0168】
発電試験は、単セルに対して、背圧70kPaで正極側に飽和加湿空気(酸素)を2.5L/分で供給し、負極側に飽和加湿水素を1.0L/分で供給し、セル温度を75℃に設定して、開回路電圧を5分間測定した。その後、セル電流密度を1.5A/cm2から0A/cm2まで、各電流密度で3分間保持してセル電圧を測定した。
【0169】
電流保持試験(耐久性試験)は、単セルに対して、背圧70kPaで正極側に飽和加湿空気(酸素)を2.0L/分で供給し、負極側に飽和加湿水素を0.5L/分で供給し、セル温度を75℃に設定して、電流密度を0.5A/cm2で一定に保ち、これを60時間保持することにより行った。この試験によって電池の耐久性が評価された。
【0170】
上記電流保持試験(耐久性試験)を開始してから60時間を経過した後、再び発電試験を行い、発電試験において電流密度0.2A/cm2で観測される電位を電流保持試験(耐久性試験)前後で比較することにより耐久性を評価した。
【0171】
すなわち、電流保持試験(耐久性試験)前の発電試験において電流密度0.2A/cm2で観測された電位(mV)から、当該電流保持試験(耐久性試験)後の発電試験において電流密度0.2A/cm2で観測された電位(mV)を減じて得られた値を、60時間後の電位低下量(mV)として得た。
【0172】
[結果]
図3には、実施例1~14及び比較例1~6で得られた炭素触媒について、耐久性試験開始前の触媒活性(初期活性)としての酸素還元開始電位E
O2(V vs.RHE)及び電流密度i
0.7(mA/cm
2)と、耐久性試験における60時間後の電位低下量(mV)と、TPDによる600℃~1000℃及び800℃~1000℃の温度範囲でのN
2脱離量(mоl/g)と、ゼータ電位の等電点pHと、XPSによるN/C割合、第一/第二窒素強度比及び第一窒素/C
1s強度比と、BET比表面積(m
2/g)と、
13C固体NMRスペクトルにおける化学シフト150ppm付近のピークの有無と、評価した結果を示す。
【0173】
図3に示すように、耐久性試験開始前において、比較例1~6の炭素触媒の触媒活性を示す電位E
O2及び電流密度i
0.7は、0.827V(vs.RHE)~0.834V(vs.RHE)及び-1.51mA/cm
2~-1.86mA/cm
2であったのに対し、実施例1~14の炭素触媒の当該電位E
O2及び電流密度i
0.7は、0.825V(vs.RHE)~0.840V(vs.RHE)及び-1.53mA/cm
2~-2.06mA/cm
2であった。すなわち、実施例1~14の炭素触媒は、比較例1~6の炭素触媒のそれと同等以上の触媒活性を有していた。
【0174】
一方、60時間の耐久性試験において、比較例1~6の炭素触媒の電位低下量は、117mV以上であったのに対し、実施例1~14の炭素触媒のそれは、77mV以下であった。すなわち、実施例1~14の炭素触媒は、比較例1~6の炭素触媒のそれに比べて、顕著に優れた耐久性を有していた。
【0175】
また、TPDにおいて、比較例1~6の炭素触媒の600℃から1000℃までのN2脱離量は1.10×10-5mоl/g以下であったのに対し、実施例1~14の炭素触媒のそれは3.50×10-5mоl/g以上であった。すなわち、実施例1~14の炭素触媒は、比較例のそれに比べて顕著に大きい600℃から1000℃までのN2脱離量を示す炭素構造を有していた。
【0176】
さらに、TPDにおいて、比較例1~6の炭素触媒の800℃から1000℃までのN2脱離量は、0.74×10-5mоl/g以下であったのに対し、実施例1~14の炭素触媒のそれは、2.50×10-5mоl/g以上であった。すなわち、実施例1~14の炭素触媒は、比較例のそれに比べて顕著に大きい800℃から1000℃までのN2脱離量を示す炭素構造を有していた。
【0177】
また、比較例1~6の炭素触媒のゼータ電位の等電点は、pH9.1以下であったのに対し、実施例1~14のそれは、pH9.5以上であった。すなわち、実施例1~14の炭素触媒は、比較例のそれに比べて顕著に高いゼータ電位の等電点を示す炭素構造を有していた。
【0178】
また、比較例1~6の炭素触媒のXPSによるN/C割合は、2.0%以下であったのに対し、実施例1~14のそれは、3.5%以上であった。すなわち、実施例1~14の炭素触媒は、比較例のそれに比べて顕著に大きいXPSによるN/C割合を示す炭素構造を有していた。
【0179】
さらに、比較例1~6の炭素触媒のXPSによる第一/第二窒素強度比は、0.610以下であったのに対し、実施例1~14のそれは、0.877以上であった。すなわち、実施例1~14の炭素触媒は、比較例のそれに比べて顕著に大きいXPSによる第一/第二窒素強度を示す炭素構造を有していた。
【0180】
さらに、比較例1~6の炭素触媒のXPSによる第一窒素/C1s強度比は、0.015下であったのに対し、実施例1~14のそれは、0.026以上であった。すなわち、実施例1~14の炭素触媒は、比較例のそれに比べて顕著に大きいXPSによる第一窒素/C1s強度を示す炭素構造を有していた。
【0181】
また、比較例1~6の炭素触媒のBET表面積は、1220m2/g~1505m2/gであったのに対し、実施例1~14の炭素触媒のそれは、1355m2/g~1560m2/gであった。すなわち、実施例1~14の炭素触媒は、比較例1~6の炭素触媒のそれと同等以上のBET表面積を有していた。
【0182】
また、13C固体NMRにおいて、比較例1~6の炭素触媒については、化学シフト150ppm付近のピークが観察されなかったのに対し、実施例1~14の炭素触媒については、当該ピークが観察された。すなわち、実施例1~14の炭素触媒の炭素構造は、イミン等の含窒素官能基を多く含んでいると考えられた。
【0183】
また、図示はしていないが、実施例1~14の炭素触媒は、元素分析による窒素含有量が3.5重量%以上であり、最大粒子径が10.0μm以下であり、平均粒子径が0.60μm以下であった。
【0184】
[亜鉛空気電池の製造]
炭素触媒を含む触媒層が形成された電池電極を製造した。すなわち、まず上述の実施例1の炭素触媒0.25gと、電解質溶液とをサンプル瓶に投入し、超音波バスで10分間処理した。その後、ホモジナイザーで25000rpm、10分間撹拌し、さらに超音波ホモジナイザーで出力30W、周波数20kHz、10分間処理することで、均一に分散された炭素触媒を含むスラリー状の触媒層用組成物を得た。
【0185】
得られたスラリー状の触媒層用組成物を、ガス拡散層(“29BC”、SGLカーボン社製)(3.0cm×3.0cm)の面積9cm2の領域上に、電池電極の単位面積あたりの炭素触媒の含有量が1.5mg/cm2になるように塗布して乾燥させることにより、当該ガス拡散層上に触媒層を形成した。こうして、炭素触媒を含む触媒層が形成された電池電極を得た。また、比較として、炭素触媒に代えて、高導電性カーボンブラック(ケッチェンブラック、ライオン株式会社製)を使用したこと以外は同様にして、電池電極を得た。
【0186】
次いで、上述のようにして得られた電池電極を含む亜鉛空気電池を製造した。すなわち、8cm×6cmのサイズに切り出した2枚のアルミラミネート(大日本印刷株式会社製)を用意した。一方のアルミラミネートの一部を切り抜いて、正方形の窓部(2cm×2cm)を形成した。
【0187】
また、3cm×9cmのサイズに切り出したニッケル板(株式会社ニラコ製、厚み0.1mm)を用意した。このニッケル板から2cm×6cmのサイズの部分を切り落として、正方形状の基部(3cm×3cm)と、当該基部から延びる長方形状の端子部(1cm×6cm)とから構成されるL字状のニッケル板を得た。
【0188】
そして、このニッケル板の基部が上記一方のアルミラミネートの窓部から露出するよう、当該アルミラミネートに当該ニッケル板を重ねた。さらに、このニッケル板の基部のうち、アルミラミネートの窓部から露出した部分(2cm×2cm)に、空気取り込み穴として、規則的に配置された9つの穴(直径3mm)を形成した(3穴×3穴)。
【0189】
その後、ニッケル板の基部のアルミラミネートと反対側の表面と、上述のようにして得られた電池電極(3cm×3cm)のガス拡散層とが接するように、当該ニッケル板の基部に当該電池電極を重ねた。さらに、電池電極のニッケル板と反対側の表面(すなわち触媒層の表面)のうち、幅0.5cmの枠状の外周部分から、その周囲のアルミラミネートに跨るように熱溶着テープ(大日本印刷株式会社製)を配置した。そして、この熱溶着テープの熱溶着によって、電池電極、ニッケル板、及びアルミラミネートを一体化し、正極(空気極)を得た。
【0190】
一方、3cm×9cmのサイズに切り出した銅箔(宝泉株式会社製、厚み20μm)から、上述のニッケル板と同様に、2cm×6cmのサイズの部分を切り落として、正方形状の基部(3cm×3cm)と、当該基部から延びる長方形状の端子部(1cm×6cm)とから構成されるL字状の銅箔を得た。そして、この銅箔の基部と、3cm×3cmのサイズに切り出した亜鉛板(株式会社ニラコ製、厚み0.5mm)とを超音波溶接機で溶接し、亜鉛負極を得た。
【0191】
その後、正極の触媒層の表面に、3cm×3cmのサイズに切り出したセルロースセパレータ(ニッポン高度紙工業株式会社製、TF40-50)を重ねた。次いで、セルロースセパレータの正極と反対側の表面と、亜鉛負極の亜鉛板の表面とが接するように、当該セルロースセパレータに当該亜鉛負極を重ねた。このとき、ニッケル板の端子部と、銅箔の端子部とが重ならないよう、当該ニッケル板及び当該銅箔を配置した。
【0192】
さらに、亜鉛負極のセルロースセパレータと反対側の表面(すなわち、銅箔の表面)に、他方のアルミラミネート(8cm×6cm)を重ねた。次いで、重ねられた一対のアルミラミネートの4つの辺のうち3つを熱融着することで、1つの辺が開口した当該アルミラミネートの袋を形成した。
【0193】
すなわち、このアルミラミネートの袋の中には、窓部が形成された上記一方のアルミラミネートから、他方のアルミラミネートに向けて、L字状のニッケル板、電池電極のガス拡散層、当該電池電極の触媒層、セルロースセパレータ、亜鉛電極の亜鉛板、及び当該亜鉛電極のL字状の銅箔が、この順序で配置された。
【0194】
さらに、アルミラミネート袋の開口から、電解液として4mol/Lの水酸化カリウム(林純薬工業株式会社製)水溶液を注入した。最後に、アルミラミネート袋の開口を熱融着で閉じて、亜鉛空気電池セルを得た。なお、セルの外部に延びるニッケル板の端子部を正極端子、銅箔の端子部を負極端子として利用した。
【0195】
[マグネシウム空気電池の製造]
上述した亜鉛空気電極と同様にして、上述のようにして得られた電池電極を含むマグネシウム空気電池を製造した。すなわち、上述した亜鉛負極に代えて、正方形状の基部(3cm×3cm)と、当該基部から延びる長方形状の端子部(1cm×6cm)とから構成されるL字状のマグネシウム合金板を、マグネシウム負極として使用して、窓部が形成された一方のアルミラミネートから、他方のアルミラミネートに向けて、L字状のニッケル板、電池電極のガス拡散層、当該電池電極の触媒層、セルロースセパレータ、及び当該マグネシウム負極が、この順序でされ、1つの辺が開口したアルミラミネートの袋を形成した。
【0196】
そして、アルミラミネート袋の開口から、電解液として4mol/Lの塩化ナトリウム(関東化学工業株式会社製)水溶液を注入した。最後に、アルミラミネート袋の開口を熱融着で閉じて、マグネシウム空気電池セルを得た。なお、セルの外部に延びるニッケル板の端子部を正極端子、マグネシウム合金板の端子部を負極端子として利用した。
【0197】
[空気電池の特性評価]
上述のようにして製造した亜鉛空気電池及びマグネシウム空気電池の最大出力密度を、充放電装置(北斗電工株式会社製、HJ0505 SM8A)を用いて、セル電圧0.5Vをカットオフ電圧として測定した。
【0198】
図4には、亜鉛空気電池及びマグネシウム空気電池のそれぞれについて、その正極及び負極の構成と、最大出力密度(mW/cm
2)を測定した結果とを示す。
図4に示すように、亜鉛空気電池及びマグネシウム空気電池のいずれについても、炭素触媒を含む正極を有する空気電池において、カーボンブラックを含む正極を有する空気電池に比べて顕著に高い最大出力密度が得られた。すなわち、炭素触媒は、空気電池において優れた触媒活性を示すことが確認された。
【0199】
また、亜鉛空気電池及びマグネシウム空気電池の耐久性を評価した。すなわち、まず上述のようにして製造した空気電池の出力特性試験を行った。次いで、10mA/cm2の電流値で、理論値の30%まで定電流放電を行った。その後、再び出力特性試験を行った。そして、定電流放電後の出力値を、当該定電流放電前の出力値で除して得られた値に100を乗じることにより、出力維持率(%)を算出した。
【0200】
図5には、亜鉛空気電池及びマグネシウム空気電池のそれぞれについて、その正極及び負極の構成と、出力維持率(%)を測定した結果とを示す。
図5に示すように、亜鉛空気電池及びマグネシウム空気電池のいずれについても、炭素触媒を含む正極を有する空気電池において、カーボンブラックを含む正極を有する空気電池に比べて顕著に高い出力維持率が得られた。すなわち、炭素触媒は、空気電池において優れた耐久性を示すことが確認された。