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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】摺動機構を具備する脆弱物保持デバイス
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20221114BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20221114BHJP
   B65D 77/00 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12M1/00 Z
B65D77/00 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019530609
(86)(22)【出願日】2018-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2018027218
(87)【国際公開番号】W WO2019017465
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2017141186
(32)【優先日】2017-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昭宏
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/094370(WO,A1)
【文献】特開2009-089715(JP,A)
【文献】特開2007-269327(JP,A)
【文献】特開2013-116061(JP,A)
【文献】特開2015-216851(JP,A)
【文献】特開2012-130311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12M 3/00
B65D 77/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆弱物を収容するための容器と、容器内を収容部と収容部外の容器内周縁部とに仕切る仕切り要素と、容器を密閉する蓋部材とを含む、デバイスであって、
仕切り要素は、収容部と容器内周縁部とを連通させる連通部を有し、および、
蓋部材は、容器に取り付けた状態で収容部に向けて突出する窪み部、および、仕切り要素に対する蓋部材の摺動によって仕切り要素の連通部を開閉する開閉部を有し、窪み部が、脆弱物および液体を収容した収容部の気体および液体を、仕切り要素の連通部から容器内周縁部に押し出すことで収容部内の気体を除去した後に、蓋部材の摺動によって開閉部を閉じることで収容部を液密にすることができ、さらに、液密にした収容部の体積を実質的に増大させずに蓋部材の摺動によって開閉部を開けることで液密を解除することができる、前記デバイス。
【請求項2】
仕切り要素が容器に一体形成されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
開閉部が、窪み部の周縁から垂下する突設部によって構成され、仕切り要素の連通部は、突設部が仕切り要素に密着して連通部を覆うことにより閉じられる、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
仕切り要素が、容器の底面に立設された筒状突設部であり、連通部が、筒状突設部の一部に設けられた開口部である、請求項1~3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
容器と蓋部材とが螺合する、請求項1~4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
容器と、蓋部材との間にシール部を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
脆弱物がシート状細胞培養物である、請求項1~6に記載のデバイス。
【請求項8】
シート状細胞培養物が、積層体である、請求項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動機構を具備する脆弱物保持デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、重症心不全治療の解決策として新しい再生医療の開発が進められている。その一例として、重症心筋梗塞等において組織工学を応用した温度応答性培養皿を用いて作製したシート状細胞培養物を心臓表面に適用する手法などが試みられている。シート状細胞培養物を用いる手法は、大量の細胞を広範囲に安全に移植することが可能であり、例えば、心筋梗塞(心筋梗塞に伴う慢性心不全を含む)、拡張型心筋症、虚血性心筋症、収縮機能障害(例えば、左室収縮機能障害)を伴う心疾患(例えば、心不全、特に慢性心不全)などの治療に特に有用である。
【0003】
このようなシート状細胞培養物を臨床応用するには、例えば、作製されたシート状細胞培養物を保存液と共に容器内に収容し、移植が行われる集中治療室などに移送する必要がある。しかしながら、シート状細胞培養物は絶対的な物理的強度が低く、容器を移送する際などに生じる振動で、皺、破れ、破損などが生じることから、この移送作業には高度な技術が要求され、かつ細心の注意を払う必要がある。
【0004】
このようなニーズに応えるために、種々の方法や容器が開発されている。たとえば、下記特許文献1に記載された膜状組織の保存輸送容器は、収容部内を気体層が形成されることがない程度に保存液で満たすことで、保存液が波打ったり流動したりせず、結果的に、膜状組織に振動が伝わらず、膜状組織の破損を防止できるようになっている。しかしながら、かかる容器を用いた場合、内部を液密にした収容部の取り外しや貫通孔の開栓には強い力を要し、無理に液密を解除すると容器の振動や液体の流動が発生して、膜状組織の変形や破損などにつながるおそれがある。
【0005】
また、下記特許文献2には、培養組織の包装容器であって、容器本体と、蓋体と、培養組織を載置可能なインナートレイとを備える、包装容器が記載されている。かかる包装容器は、包装容器内において、培養組織をインナートレイに載置して収容するとともに、インナートレイ操作部を予め包装容器内に準備しておくことで、インナートレイの容器本体からの取り出しを容易化できるようになっている。しかしながら、かかる包装容器を用いた場合、内部を液密にした容器本体と蓋体との取り外しには強い力を要し、無理に液密を解除すると容器の振動や液体の流動が発生して、培養組織の変形や破損などにつながるおそれがある。さらに、かかる包装容器にはインナートレイおよびインナートレイ操作部を要することから、コストが増大し、および余分な保管スペースを要することになる。
【0006】
さらに、下記特許文献3には、培養細胞シートを運搬するための包装体が記載されている。かかる包装体は、リッドで密封する際に若干の液体培地と共に空気を排除することによって、運搬時に培養細胞シート包装体が揺れても、液体培地中を気泡が移動したりすることがないため、培養細胞シートのズレや欠損を防止できるようになっている。しかしながら、かかる包装体を用いた場合、内部を液密にしたトレイ窪み部とリッド窪み部との取り外しには強い力を要し、無理に液密を解除すると容器の振動や液体の流動が発生して、培養細胞シートの変形や破損などにつながるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-130311号公報
【文献】特開2007-269327号公報
【文献】特開2009-89715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような中、本発明者は、液体中の脆弱物を安定的に取り出すための手段を開発するにあたり、液密にした空間内の液体の拡張には強い力を要し、無理に液密を解除すると容器の振動や液体の流動が発生することから、液体中の脆弱物が変形したり、容器の内面に脆弱物が接触して破損するなどの問題に直面した。
したがって、本発明の目的は、脆弱物を収容した液密空間に対して強い力を加えずに液密を解除することができ、容器の振動や液体の流動を抑え、液体中の脆弱物を安定的に取り出すための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進める中で、液密空間の体積を実質的に増大させずに、液密空間を形成した部材間の摺動により液密空間をその外部の液密でない空間と連通させることによって、強い力を要することなく、かつ容器の振動や液体の流動を抑えながら、液密を解除し得ることを見い出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、以下に関する。
[1]脆弱物を収容するための容器と、容器内を収容部と収容部外の容器内周縁部とに仕切る仕切り要素と、容器を密閉する蓋部材とを含む、デバイスであって、仕切り要素は、収容部と容器内周縁部とを連通させる連通部を有し、および、蓋部材は、容器に取り付けた状態で収容部に向けて突出する窪み部、および、仕切り要素に対する蓋部材の摺動によって仕切り要素の連通部を開閉する開閉部を有し、窪み部が、脆弱物および液体を収容した収容部の気体および液体を、仕切り要素の連通部から容器内周縁部に押し出すことで収容部内の気体を除去した後に、蓋部材の摺動によって開閉部を閉じることで収容部を液密にすることができ、さらに、液密にした収容部の体積を実質的に増大させずに蓋部材の摺動によって開閉部を開けることで液密を解除することができる、前記デバイス。
[2]仕切り要素が容器に一体形成されている、上記[1]に記載のデバイス。
[3]開閉部が、窪み部の周縁から垂下する突設部によって構成され、仕切り要素の連通部は、突設部が仕切り要素に密着して連通部を覆うことにより閉じられる、上記[1]または[2]に記載のデバイス。
[4]仕切り要素が、容器の底面に立設された筒状突設部であり、連通部が、筒状突設部の一部に設けられた開口部である、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載のデバイス。
【0011】
[5]容器と蓋部材とが螺合する、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載のデバイス。
[6]容器と、蓋部材との間にシール部を含む、上記[1]~[5]のいずれか一つに記載のデバイス。
[7]脆弱物がシート状細胞培養物である、上記[1]~[6]のいずれか一つに記載のデバイス。
[8]シート状細胞培養物が、積層体である、上記[7]に記載のデバイス。
【0012】
[9]脆弱物を収容するための容器と、容器内を収容部と収容部外の容器内周縁部とに仕切る仕切り要素と、容器を密閉する蓋部材とを含む、デバイスであって、仕切り要素は、収容部と容器内周縁部とを連通させる連通部を有し、および、蓋部材は、仕切り要素に対する蓋部材の摺動によって仕切り要素の連通部を開閉する開閉部を有し、仕切り要素が、脆弱物および液体を収容した収容部の気体および液体を、仕切り要素の連通部から容器内周縁部に押し出すことで収容部内の気体を除去した後に、蓋部材の摺動によって開閉部を閉じることで収容部を液密にすることができ、さらに、液密にした収容部の体積を実質的に増大させずに蓋部材の摺動によって開閉部を開けることで液密を解除することができる、前記デバイス。
[10]蓋部材が、容器に取り付けた状態で収容部に向けて突出する窪み部を有し、開閉部が、窪み部の底面であって、仕切り要素に当接する部分と当接しない部分とで構成される、上記[9]に記載のデバイス。
[11]仕切り要素が、天板部を有する内蓋部材であり、連通部が、内蓋部材の天板部において、天板部の中心に対して偏心した位置に設けられた孔である、上記[9]または[10]に記載のデバイス。
[12]内蓋部材の天板部が、容器に取り付けた状態で容器内の下部空間の上方に向けて突出し、該天板部の水平断面積は垂直上方に向かうほど小さくなる凸部を有し、連通部が、凸部の頂部に設けられた孔である、上記[11]に記載のデバイス。
【0013】
[13]容器と仕切り要素とが嵌合する、上記[9]~[12]のいずれか一つに記載のデバイス。
[14]容器と、蓋部材との間にシール部を含む、上記[9]~[13]のいずれか一つに記載のデバイス。
[15]脆弱物がシート状細胞培養物である、上記[9]~[14]に記載のデバイス。
[16]シート状細胞培養物が、積層体である、上記[15]に記載のデバイス。
【発明の効果】
【0014】
本発明のデバイスによれば、簡単な作業と、簡単な機構で効率よく液密空間を形成することができるため、作業性や製造コスト、省スペースの点において大きなメリットがある。また、本発明のデバイスによれば、液密空間に対して強い力を要することなくその液密を解除することができるため、脆弱物を取り出す際に容器の振動や液体の流動の発生を抑えることができる。したがって、液体中の脆弱物の変形や破損などを防止することができる。
【0015】
また、本発明のデバイスによれば、容器の収容部内を完全に液密状態にできるため、泡(気体)が容器内にはいらず、容器の揺れによって泡が容器内で動いて脆弱物を破損することがない。特に、脆弱物がシート状細胞培養物の積層体である場合に、気泡が移動して、積層体がズレたり欠損したりすることがない。
【0016】
さらに、本発明のデバイスは、蓋部材で押し出された液体を受容できるため、周囲を汚染することがない。したがって、シート状細胞培養物の作製に使用されるバイオクリーンルームなど、清浄度が厳密に管理されている場所での使用に適している。
この結果、本発明のデバイスは、液体中の脆弱物の形状を保持し、脆弱物を安定的に取り出すデバイスとしての信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るデバイスの断面図である。
図2図2は、第1実施形態に係る容器および仕切り要素の断面図である。
図3図3は、第1実施形態に係る蓋部材の断面図である。
図4図4は、第1実施形態に係るデバイスの上方からの分解断面斜視図である。
図5図5は、第1実施形態に係るデバイスの下方からの分解断面斜視図である。
【0018】
図6図6は、本発明の第2実施形態に係るデバイスの断面図である。
図7図7は、第2実施形態に係る容器の断面図である。
図8図8は、第2実施形態に係る仕切り要素の断面図である。
図9図9は、第2実施形態に係る蓋部材の断面図である。
図10図10は、第2実施形態に係るデバイスの上方からの分解断面斜視図である。
図11図11は、第2実施形態に係るデバイスの下方からの分解断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一側面は、脆弱物を収容するための容器と、容器内を収容部と収容部外の容器内周縁部とに仕切る仕切り要素と、容器を密閉する蓋部材とを含む、デバイスであって、仕切り要素は、収容部と容器内周縁部とを連通させる連通部を有し、および、蓋部材は、容器に取り付けた状態で収容部に向けて突出する窪み部、および、仕切り要素に対する蓋部材の摺動によって仕切り要素の連通部を開閉する開閉部を有し、窪み部が、脆弱物および液体を収容した収容部の気体および液体を、仕切り要素の連通部から容器内周縁部に押し出すことで収容部内の気体を除去した後に、蓋部材の摺動によって開閉部を閉じることで収容部を液密にすることができ、さらに、液密にした収容部の体積を実質的に増大させずに蓋部材の摺動によって開閉部を開けることで液密を解除することができる、前記デバイスに関する。
【0020】
本発明における脆弱物とは、物理的強度が低く、液体の揺れなどによって、破れ、破損、変形などが生じ得る物体をいう。かかる物体の形状としては、薄肉部を有する物体、帯形状を有する物体、シート形状を有する物体などが挙げられる。かかるシート形状を有する物体としては、とくに限定されないが、シート状構造物、例えば、シート状細胞培養物などの、生体由来材料からなる平膜上の膜組織や、プラスチック、紙、織布、不織布、金属、高分子、脂質といった種々の材質のフィルム等が含まれる。これらのうち、液体中で難分解性のもの、液体中で難崩壊性のものなどが好ましい。シート状構造物は、多角形や円形などであってもよく、幅、厚み、直径などは一様であってもなくてもよい。本発明におけるシート状構造物は、1枚のみを単層の状態で使用してもよいし、2枚以上を重ねた積層の状態で使用してもよい。後者の場合、積層の各層は互いに連結していても、連結していなくてもよく、連結している場合は、重なり合っている部分が全て連結していても、部分的に連結していてもよい。また、本発明において脆弱とは、 例えば、液体外で物体のつかみ具への固定がなされる従来の引張試験機(例えば、JIS K 7161等に記載のもの)での引張特性の評価が、その脆弱性のために困難であるか、実質的に不可能であることを指す。かかる脆弱な物体としては、例えば、引張特性の各数値が小さく、従来の引張試験機では正確に測定することが困難な物体などが挙げられる。かかる脆弱物としては、引張試験において、例えば、10N(ニュートン)未満、5N未満、2N未満、1N未満、0.5N未満、0.1N未満、0.05N未満の破断荷重を示すものが挙げられる。また、従来の引張試験の測定限界は、破断荷重として一般に1N程度であるため、本発明の一態様においては、これを下回る破断荷重(例えば、0.5N未満)を示すものが脆弱物として好ましい。
【0021】
本発明の一態様において、脆弱物はシート状細胞培養物である。シート状細胞培養物とは、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、シート状細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(積層(多層)、例えば、2層、3層、4層、5層、6層など)であってもよい。また、シート状細胞培養物は、細胞が明確な層構造を示すことなく、細胞1個分の厚みを超える厚みを有する3次元構造を有してもよい。例えば、シート状細胞培養物の垂直断面において、細胞が水平方向に均一に整列することなく、不均一に(例えば、モザイク状に)配置された状態で存在していてもよい。
【0022】
本発明の一態様におけるシート状細胞培養物は、上記の構造を形成し得る任意の細胞から構成される。かかる細胞の例としては、限定されずに、接着細胞(付着性細胞)を含む。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞(例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞など)および幹細胞(例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞などの多能性幹細胞、間葉系幹細胞等)などを含む。体細胞は、幹細胞、特にiPS細胞から分化させたものであってもよい。シート状細胞培養物を形成し得る細胞の非限定例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞など)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のものなど)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞など)、肝細胞(例えば、肝実質細胞など)、膵細胞(例えば、膵島細胞など)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。本明細書においては、単層の細胞培養物を形成するもの、例えば、筋芽細胞などが好ましく、とくに好ましくは骨格筋芽細胞である。
【0023】
細胞は、細胞培養物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、とくに限定されないが、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどが含まれる。また、シート状細胞培養物の形成に用いる細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いることもできる。本発明の好ましい態様において、細胞培養物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の比率(純度)は、細胞培養物製造終了時において、例えば骨格筋芽細胞の場合、65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。
【0024】
本発明の一態様におけるシート状細胞培養物は、スキャフォールド(細胞培養時の足場)に細胞を播種し、培養することによって得られるシート形状の培養組織などでもよいが、好ましくは、細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
シート状細胞培養物は、任意の既知の手法によって製造されたものであってよい。
【0025】
本発明の一態様において、シート状細胞培養物は、シート状骨格筋芽細胞培養物である。これは、シート状骨格筋芽細胞培養物は、その一部をつかむと自重で破断するほど脆弱であるがゆえに、従来単体で移送することができないばかりか、一度折り重なると元の形状に戻すことが極めて困難なため、液中でシート形状を維持することに大きな意義があるからである。
【0026】
本発明において、容器は、内部に脆弱物、液体などを収容でき、液体が漏出しないものであればとくに限定されず、市販の容器を含む任意のものを用いることができる。容器の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられるがこれに限定されない。また、容器は、脆弱物の形状を維持するための少なくとも1つの平坦な底面を有することが好ましく、例えば、シャーレ、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられるがこれに限定されない。平坦な底面の面積は、特に限定されないが、典型的には、1.13~78.5cm、好ましくは12.6~78.5cm、より好ましくは9.1~60.8cmである。
【0027】
本発明において、容器内の液体は、少なくとも1種の成分から構成され、その成分としてはとくに限定されないが、例えば、水、水溶液、非水溶液、懸濁液、乳液などの液体から構成される。
本発明における液または液体とは、全体として流動性を有する流体であればよく、細胞足場などの固形物質や気泡などその他非液体成分を含んでもよい。
【0028】
容器内の液体を構成する成分は、脆弱物に与える影響が少ないものであればとくに限定されない。脆弱物が生体由来材料からなる膜である場合、容器内の液体を構成する成分は、生物学的安定性や長期保存可能性の観点から、生体適合性のもの、すなわち、生体組織や細胞に対して炎症反応、免疫反応、中毒反応などの望まない作用を起こさないか、少なくともかかる作用が小さいものが好ましく、例えば、水、生理食塩水、生理緩衝液(例えば、HBSS、PBS、EBSS、Hepes、重炭酸ナトリウム等)、培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB、L15、SkBM、RITC80-7、IMDM等)、糖液(スクロース溶液、Ficoll-paque(登録商標)PLUS等)、海水、血清含有溶液、レノグラフィン(登録商標)溶液、メトリザミド溶液、メグルミン溶液、グリセリン、エチレングリコール、アンモニア、ベンゼン、トルエン、アセトン、エチルアルコール、ベンゾール、オイル、ミネラルオイル、動物脂、植物油、オリーブ油、コロイド溶液、流動パラフィン、テレピン油、アマニ油、ヒマシ油などが挙げられる。
【0029】
脆弱物がシート状細胞培養物である場合、容器内の液体を構成する成分は、細胞を安定して保存することができ、細胞生存に必要な最低限の酸素や栄養等を含み、細胞を浸透圧等により破壊しないものが好ましく、例えば、生理食塩水、生理緩衝液(例えば、HBSS、PBS、EBSS、Hepes、重炭酸ナトリウム等)、培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB、L15、SkBM、RITC80-7、IMDM等)、糖液(スクロース溶液、Ficoll-paque PLUS(登録商標)等)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
本発明において、容器内の液体の量は、蓋部材を容器に取り付けた状態で脆弱物を保持できる程度であって、容器の底部と蓋部材の頂部との間に形成される液嵩が、脆弱物が揺動しない程度の高さであればとくに限定されない。本発明の一態様において、シート状細胞培養物の直径は約35~55mmであり、面積は6cm以上である。上記液嵩は、シート状細胞培養物の直径に関わらず、例えば、1.0mm~70.0mmである。
【0031】
本発明において、蓋部材は、容器を密閉するものであればとくに限定されない。蓋部材の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられるがこれに限定されない。
【0032】
本発明において、蓋部材および容器の形状は、蓋部材と容器とが係合可能で、かかる係合により密閉空間が形成され得る限り、特に限定されない。例えば、容器が汎用シャーレである場合は、蓋部材の形状を円形にすることが好ましい。また、蓋部材および/または容器を光透過性の材料で構成することで、容器に収容されている脆弱物の状態や、液体中の気泡の有無を確認できるようにしてもよい。
【0033】
本発明において、脆弱物は、液体が収容された容器内の液体中に保持される。脆弱物の液体中での位置は、特に限定されないが、蓋部材または仕切り要素を容器に取り付けて密閉空間を形成した状態で、蓋部材または仕切り要素と脆弱物とが接触しない位置に配置される(または接触してもよい)。好ましくは、脆弱物は、容器の液体中で、容器の底面上、底面付近などに配置される。
【0034】
本発明の一態様において、蓋部材の「容器に取り付けた状態」とは、蓋部材を容器に取り付けて蓋部材と容器とを密着させて、蓋部材と容器とで容器内の空間を密閉した状態をいう。したがって、「容器に取り付けた状態で収容部に向けて突出する窪み部」とは、蓋部材と容器とで密閉空間を形成した状態で、容器内の収容部に向けて蓋部材から突き出ている部分、膨らんでいる部分など、平坦ではない部分をいう。また、収容部に向けて突出する窪み部とは、窪み部が収容部の液体や気体を押し出すことができる程度に突出していることをいい、当業者は、容器の容積、使用する液体の量や液嵩に応じて、窪み部の大きさを自由に設定することができる。
【0035】
本発明において、蓋部材が「容器を密閉する」とは、蓋部材が、容器内の空間を密閉することをいう。本発明の一態様において、デバイスは、容器と蓋部材との間に介在し、容器および蓋部材と密着することで容器を密閉するシール部を含む。シール部は、容器および蓋部材から独立した部材でもよく、または、容器または蓋部材のいずれかと一体形成されてもよい。
【0036】
本発明において、仕切り要素とは、容器内の空間を、脆弱物および液体などを収容する収容部と、容器内かつ収容部外であって収容部の周縁に位置する容器内周縁部とに仕切る構成要素をいう。本発明の一態様において、仕切り要素は、容器内において容器の底部から上方向に立設された筒状突設部である。
【0037】
本発明において、容器における収容部とは、液体、気体、脆弱物などを収容できる平坦な面を有する容器の収容空間をいう。また、本発明において、容器内周縁部とは、容器内であって収容部の外部にある空間をいい、容器内周縁部は、収容部から押し出された気体および液体を収容するように構成される。したがって、容器内周縁部の高さは、容器内に蓋部材を挿入したときに、容器内周縁部内の液体の液嵩が収容部内の液体の液嵩よりも高くなるように設計される。
【0038】
本発明において、仕切り要素は、収容部と容器内周縁部とを連通させる連通部を有する。本発明の一態様において、連通部は、容器の底部から上方向に立設された筒状突設部の一部に設けられた開口部である。
【0039】
本発明において、蓋部材は、仕切り要素に当接して仕切り要素の連通部を開閉する開閉部を有する。本発明の一態様において、開閉部は、窪み部の周縁から垂下する突設部によって構成される。また、本発明の一態様において、突設部は、仕切り要素に密着した状態で仕切り要素の連通部と容器内周縁部との間に位置づけられ、連通部全体を覆い、収容部と容器内周縁部との間の液体の連通を遮断することによって、仕切り要素の連通部を閉じることができる。そして、収容部から気体を排出し、脆弱物および液体のみが収容部に含まれる状態で、仕切り要素の連通部を開閉部で閉じると、収容部は液密になる。また、収容部を液密にした後に仕切り要素の連通部を開閉部で開けると、収容部の液密が解除され、収容部と容器内周縁部との間の液体の移動が可能となる。
【0040】
本発明において、「仕切り要素に対する蓋部材の摺動」とは、容器内に位置する仕切り要素に対して蓋部材を当接させたまま、蓋部材を仕切り要素に対して動かすことをいう。かかる摺動には、例えば、仕切り要素を容器に固定した状態で、仕切り要素に対して蓋部材を相対的に回転させることが含まれる。また、「液密にした収容部の体積を実質的に増大させずに」とは、液密にした収容部内の液体を拡張させないことを意味する。例えば、収容部内の液体の上方の水面と平行な面において蓋部材を回転させ、仕切り要素の連通部を閉じていた開閉部を摺動によりずらすことで、収容部内の液体を拡張させずに連通部を開けることができ、この場合、液密にした収容部の体積は実質的に増大していない。そして、かかる連通部の開放には強い力を要せず、収容部内の液体の流動を抑えながら液密を解除することができるため、収容部内に収容された脆弱物の変形や破損などを防止することができる。
【0041】
本発明の他の側面は、脆弱物を収容するための容器と、容器内を収容部と収容部外の容器内周縁部とに仕切る仕切り要素と、容器を密閉する蓋部材とを含む、デバイスであって、仕切り要素は、収容部と容器内周縁部とを連通させる連通部を有し、および、蓋部材は、仕切り要素に対する蓋部材の摺動によって仕切り要素の連通部を開閉する開閉部を有し、仕切り要素が、脆弱物および液体を収容した収容部の気体および液体を、仕切り要素の連通部から容器内周縁部に押し出すことで収容部内の気体を除去した後に、蓋部材の摺動によって開閉部を閉じることで収容部を液密にすることができ、さらに、液密にした収容部の体積を実質的に増大させずに蓋部材の摺動によって開閉部を開けることで液密を解除することができる、前記デバイスである。
以下、上述の本発明の一側面との相違点について詳細に説明し、同様の事項については、説明を省略する。
【0042】
本発明において、仕切り要素は、容器および蓋部材から独立した部材として構成される。この場合、仕切り要素を容器に挿入し、容器の底部に載置することによって、容器内の空間が収容部と容器内周縁部とに仕切られる。本発明において、容器内周縁部の高さは、容器内に仕切り要素を挿入したときに、容器内周縁部内の液体の液嵩が収容部内の液体の液嵩よりも高くなるように設計される。
【0043】
本発明の一態様において、仕切り要素は、天板部を有する中蓋部材であり、連通部は、中蓋部材の天板部において、天板部の中心に対して偏心した位置に設けられた孔である。また、本発明の一態様において、開閉部は、窪み部の底面であって、仕切り要素に当接する部分と当接しない部分とで構成される。さらに、本発明の一態様において、内蓋部材の天板部は、容器に取り付けた状態で容器内の下部空間の上方に向けて突出し、該天板部の水平断面積は垂直上方に向かうほど小さくなる凸部を有し、連通部は、天板部の凸部の頂部に設けられた孔である。ここで天板部の水平断面積が垂直上方に向かうほど小さいとは、天板部を液体の上方から垂直下方に降下させながら液体に浸漬する場合、凸部と液体との接触面積が徐々に小さくなることをいう。この場合、液体中の気泡などに浮力が掛りやすく、気泡を確実に上方に押し上げることができる。さらに、本発明の一態様において、容器と仕切り要素とは嵌合する。この場合、容器と仕切り要素とが嵌合することで脆弱物をより安定的に保持することができる点に利点がある。
【0044】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、断面図で示された各構成要素の図中に示されない部分は、本明細書に特段の記載がない限り、図中に示された部分と同様に構成される。また、本願における各図において、説明を容易とするため、各部材の大きさは、適宜強調されており、図示の各部材は、実際の大きさを示すものではない。
〔第1実施形態〕
まず、図1図5を参照しながら、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るデバイス1の断面図、図2は、第1実施形態に係る容器2および筒状突設部3の断面図、図3は、第1実施形態に係る蓋部材4の断面図、図4は、第1実施形態に係るデバイス1の上方からの分解断面斜視図、図5は、第1実施形態に係るデバイス1の下方からの分解断面斜視図である。
【0045】
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係るデバイス1は、容器2、容器2内の空間を収容部Aと容器内周縁部Rとに仕切る筒状突設部3、容器2内の空間を密閉するための蓋部材4、容器2と蓋部材4との間に介在し、容器2内を気密にするためのシール部材5を含む。
【0046】
図2に示すように、容器2は、縁部22で取り囲まれた開口部を有するシャーレであり、底部21と下方側壁部25とで構成される空間内に、脆弱物や液体などを収容することができる。また、容器2は、下方側壁部25の上端においてシール部材5を載置することができる段差部23を有する。段差部23は、その外周縁から上方に延伸する上方側壁部24を有し、その上端が縁部22であり、蓋部材4を縁部22に載置することで容器2内の空間を密閉することができる。
【0047】
容器2は、底部21において上方に突設された筒状突設部3を有する。筒状突設部3は、容器2の底部21と下方側壁部25とで構成される空間を、筒状突設部3の内側であって脆弱物や液体などを収容することができる収容部Aと、筒状突設部3の外側であって液体などを収容することができる容器内周縁部Rとに仕切る。また、筒状突設部3は、収容部Aと容器内周縁部Rとを連通させるための開口部31を有する。本実施形態において、開口部31は、筒状突設部3の一部に設けられた切り欠きとして図示される。
【0048】
図3に示すように、蓋部材4は、容器2の縁部22に載置される環状上端部41、および、環状上端部41の外周縁部から垂下し、容器2の上方側壁部24を覆う筒状スカート壁部42を有する。筒状スカート壁部42は、容器2に対して蓋部材4を回転させやすくするための持ち手部分として利用することができる。また、蓋部材4は、筒状突設部3の上端である縁部32、および、容器2の段差部23に載置されるシール部材5の両方に載置され、容器内周縁部Rを密閉することができる段差部43を有する。
【0049】
蓋部材4は、容器2に取り付けた状態で筒状突設部3の内周面に沿って、収容部Aに向けて突出する窪み部44を有する。本実施形態において、窪み部44は、上方に開口部を有する円筒状で図示される。窪み部44は、蓋部材4を容器2に取り付けた状態で、筒状突設部3の縁部32より低い位置に配置されるように構成されている。また、窪み部44の側壁部は、筒状突設部3の内周面に密着するように構成されており、蓋部材4を容器2に取り付けると、窪み部44と筒状突設部3とで密閉される密閉空間を形成することができる。
【0050】
窪み部44は、蓋部材4を容器2に取り付けるときに、収容部Aに収容された気体および液体を、筒状突設部3の開口部31から容器内周縁部Rに押し出し、収容部Aから気体を除去することができる。また、窪み部44は、蓋部材4を容器2に取り付けた状態で筒状突設部3の内周面に沿って、窪み部44の底部の周縁部から収容部Aに向けて垂下する突設部45を有する。突設部45は、蓋部材4を容器2に取り付けた状態で下方の先端部が容器2の底部21に当接し、筒状突設部3の内周面に密着する。そして、突設部45は、開口部31を覆うように蓋部材4を回転させることによって、開口部31全体を閉じることができる。収容部Aが液体で満たされている場合、開口部31を閉じることによって収容部Aを液密にすることができる。また、開口部31を覆っている突設部45を蓋部材4の回転によってずらし、開口部31を容器内周縁部Rに連通させることによって、収容部Aの液密を解除することができる。
【0051】
図4および図5に示すように、デバイス1は、容器2の段差部23にシール部材5を載置し、さらに蓋部材4を容器2、筒状突設部3およびシール部材5に載置することによって組み立てられる。容器2の段差部23に載置にされたシール部材5は、蓋部材4の段差部43の裏面と密着して容器2内を気密にすることができる。
【0052】
デバイス1を使用する際は、容器2の収容部Aに脆弱物および液体を収容し、蓋部材4を容器2内に取り付ける。蓋部材4を取り付ける際は、蓋部材4の筒状スカート壁部42を把持して窪み部44を収容部Aに押し込んで、蓋部材4を容器2に挿嵌する。このとき、突設部45が開口部31を閉じないように窪み部44を収容部に押し込むことによって、収容部A内の気体および液体が開口部31を通じて容器2の容器内周縁部Rへ押し出される。収容部Aから気体がすべて押し出された後、かつ、容器内周縁部Rが液体で満たされる前に、容器2と蓋部材4とがシール部材5によって気密になるように、事前に収容部に収容する液体の量を調節する。すなわち、開口部31から押し出された液体の体積が、容器内周縁部Rの容積より大きくならないように、液量を事前に調節しておくことで、液体が容器2外に漏れ出ないようにすることが好ましい。そして、収容部Aから気体がすべて押し出された状態で開口部31を突設部45で閉じることにより、収容部Aを液密にすることができる。
【0053】
液密にした収容部Aに収容されている脆弱物を使用する際は、蓋部材4の筒状スカート壁部42を把持し、蓋部材4を収容部Aに対して持ち上げることなく、蓋部材4を容器2に対して回転させ、開口部31を閉じていた突設部45をずらすことによって、収容部A内の液体を拡張させずに液密を解除することができる。そして、蓋部材4を容器2から取り外し、液体に浸漬されている脆弱物を取り出して使用する。上記蓋部材4の回転には強い力を要せず、かつ、収容部A内の液体の流動を抑えながら液密を解除することができるため、収容部A内に収容された脆弱物の変形や破損などを防止することができる。
【0054】
以上、本発明の第1実施形態に係るデバイス1によれば、簡単な作業と、簡単な機構で効率よく液密空間を形成することができるため、作業性や製造コスト、省スペースの点において大きなメリットがある。また、本発明の第1実施形態に係るデバイス1によれば、液密空間に対して強い力を要することなくその液密を解除することができるため、脆弱物を取り出す際に容器の振動や液体の流動の発生を抑えることができる。したがって、液体中の脆弱物の変形や破損などを防止することができる。
【0055】
また、本発明の第1実施形態に係るデバイス1によれば、容器の収容部内を完全に液密状態にできるため、泡(気体)が容器内にはいらず、容器の揺れによって泡が容器内で動いて脆弱物を破損することがない。特に、脆弱物がシート状細胞培養物の積層体である場合に、気泡が移動して、積層体がズレたり欠損したりすることがない。
【0056】
さらに、本発明の第1実施形態に係るデバイス1は、蓋部材で押し出された液体を受容できるため、周囲を汚染することがない。したがって、シート状細胞培養物の作製に使用されるバイオクリーンルームなど、清浄度が厳密に管理されている場所での使用に適している。
【0057】
この結果、本発明の第1実施形態に係るデバイス1は、液体中の脆弱物の形状を保持し、脆弱物を安定的に取り出すデバイスとしての信頼性が向上する。また、本発明の第1実施形態に係るデバイス1は、容器2と筒状突設部3とが一体形成されていることから、作業性や製造コストの点でより大きな利点がある。
【0058】
なお、本実施形態は上記に限定されるものではなく、当業者は、デバイスの構成および形状を好適に組み合わせて、異なる構成や形状を有するデバイスを設計することができる。例えば、上記開口部31は、筒状突設部3の一部に設けられた孔でもよく、他の形状でもよい。また、上記窪み部44は、その水平断面積が垂直下方に向かうほど小さくなってもよく、特に、その水平断面積が円形で頂部を有するドーム形状でもよい。この場合、窪み部44を液体に浸漬する際に、面積の小さな頂部が最初に液面に接触し、それから徐々に接触面積が大きくなるため、容器2の収容部A内の液体の波打ちを最小限に抑えることができる。さらに、上記シール部材5は、容器2または蓋部材3と一体形成されてもよい。さらに、上記デバイス1は、容器2の縁部22と蓋部材4の環状上端部41とが螺合するように構成されてもよい。この場合、蓋部材4の窪み部44は、筒状突設部3に設けられた開口部31から緩やかに気体および液体を容器内周縁部Rに押し出すことができ、容器2内の液体の流動をより確実に抑えることができる。
【0059】
〔第2実施形態〕
次に、図6図11を参照しながら、本発明の第2実施形態について説明する。以下、第1実施形態との相違点について詳細に説明し、同様の事項については、説明を省略する。図6は、本発明の第2実施形態に係るデバイス6の断面図、図7は、第2実施形態に係る容器7の断面図、図8は、第2実施形態に係る中蓋部材8の断面図、図9は、第2実施形態に係る蓋部材9の断面図、図10は、第2実施形態に係るデバイス6の上方からの分解断面斜視図、図11は、第2実施形態に係るデバイス6の下方からの分解断面斜視図である。
【0060】
図6に示すように、本発明の第2実施形態に係るデバイス6は、容器7、容器2内の空間を収容部Aと容器内周縁部Rとに仕切るための中蓋部材8、容器7内の空間を密閉するための蓋部材9、容器7と蓋部材9との間に介在し、容器7内を気密にするためのシール部材5’を含む。
【0061】
図7に示すように、容器7は、縁部72で取り囲まれた開口部を有するシャーレであり、底部71と側壁部73とで構成される空間内に、脆弱物や液体などを収容することができる。縁部72には、シール部材5’を載置することができ、さらにその上に蓋部材9を載置することで容器7内の空間を密閉することができる。
【0062】
図8に示すように、中蓋部材8は、天板部81、および、天板部81の周縁部から垂下する筒状スカート壁部82を有する。中蓋部材8は、容器7の底部71と側壁部73とで構成される空間を、中蓋部材8の天板部81と筒状スカート壁部82とで囲まれる空間(中蓋部材8の内部)であって、脆弱物や液体などを収容することができる収容部Aと、天板部81と筒状スカート壁部82とで囲まれる空間の外側(中蓋部材8の外部)であって、液体などを収容することができる容器内周縁部Rとに仕切る。また、中蓋部材8は、容器7と嵌合して固定するための嵌合部83を有する。
【0063】
中蓋部材8は、天板部81の一部に設けられ、収容部Aと容器内周縁部Rとを連通させるための孔84、および、孔84の周りに設けられ、パッキンリング(図示されない)を挿着することができる環状凹み部85を有する。中蓋部材8は、容器7に挿入されるとき、容器7内の空間に収容された気体および液体を孔84から中蓋部材8の外部に押し出し、収容部Aから気体を除去することができる。
【0064】
図9に示すように、蓋部材9は、容器7の縁部72に載置されたシール部材5’に載置される天板部91、および、天板部91の周縁部から垂下し、容器7の側壁部73の上部を覆う筒状スカート壁部92を有する。筒状スカート壁部92は、容器7に対して蓋部材9を回転させやすくするための持ち手部分として利用することができる。
【0065】
蓋部材9は、容器7に取り付けた状態で容器7内の空間に向けて突出する窪み部93を有する。窪み部93は、中蓋部材8を挿入した後に蓋部材9を容器7に取り付けた状態で、窪み部93の底部が中蓋部材8の天板部81に密着するように構成されている。窪み部93の底部は、中蓋部材8の孔84を閉じることによって、収容部Aを密閉することができ、収容部Aが液体で満たされている場合、孔84を閉じることによって収容部Aを液密にすることができる。また、窪み部93は、その底部の一部に隙間として設けられた溝部94を有する。溝部94は、中蓋部材8を挿入した後に蓋部材9を容器7に取り付けた状態で、孔84を容器内周縁部Rに連通させることができる。溝部94の形状は、孔84と容器内周縁部Rとを連通させるものであれば特に限定されない。
【0066】
図10および図11に示すように、デバイス6は、容器7の縁部72にシール部材5’の凹み部51を嵌め込み、さらに蓋部材9を中蓋部材8およびシール部材5’に載置することによって組み立てられる。容器7の縁部72に嵌め込まれたシール部材5’と、蓋部材9の天板部91の周縁部の裏面とを密着させることによって、容器7内を気密にすることができる。また、図10に示すように、容器7は、中蓋部材8を嵌合させて固定するための嵌合部74を有する。さらに、図10および図11に示すように、孔84は、天板部81の中心に対して偏心して設けられる。これにより、蓋部材9を中蓋部材8から離すことなく回転させ、窪み部93の底部に設けられた溝部94を孔84にあてがうことで孔84と容器内周縁部Rとを連通させ、また、溝部94ではない窪み部93の底部を孔84にあてがうことで該連通を遮断することができる。
【0067】
デバイス6を使用する際は、容器7内の空間に脆弱物および液体を収容した後に、中蓋部材8を容器7に挿入する。このとき、中蓋部材8の内部の気体および液体が孔84を通じて中蓋部材8の外部へ押し出されるが、中蓋部材8の筒状スカート壁部82の下端が容器7の底部71に当接したとき、中蓋部材8の外部の液体が容器内周縁部Rの容積より大きくならないように、液量を事前に調節しておくことで、液体が容器7外に漏れ出ないようにすることが好ましい。そして、収容部Aから気体がすべて押し出された状態で孔84を窪み部93の底部で閉じることにより、収容部Aを液密にすることができる。蓋部材9を容器7に取り付ける際は、蓋部材9の筒状スカート壁部92を把持し、窪み部93を容器7内の空間に挿入して、窪み部93の底部を中蓋部材8の天板部81に密着させる。
【0068】
液密にした収容部Aに収容されている脆弱物を使用する際は、蓋部材9の筒状スカート壁部92を把持し、蓋部材9を中蓋部材8から離すことなく回転させる。これによって、孔84を閉じていた窪み部93の底部をずらし、溝部94が孔84を容器内周縁部Rに連通させることで、収容部Aの液密を解除することができる。そして、蓋部材9および中蓋部材8を容器7から取り外し、液体に浸漬されている脆弱物を取り出して使用する。上記蓋部材9の中蓋部材8に対する回転は、収容部A内の液体を拡張させないことから強い力を要せず、収容部A内の液体の流動を抑えながら液密を解除することができるため、収容部A内に収容された脆弱物の変形や破損などを防止することができる。
【0069】
以上、本発明の第2実施形態に係るデバイス6によれば、簡単な作業と、簡単な機構で効率よく液密空間を形成することができるため、作業性や製造コスト、省スペースの点において大きなメリットがある。また、本発明の第2実施形態に係るデバイス6によれば、液密空間に対して強い力を要することなくその液密を解除することができるため、脆弱物を取り出す際に容器の振動や液体の流動の発生を抑えることができる。したがって、液体中の脆弱物の変形や破損などを防止することができる。
【0070】
また、本発明の第2実施形態に係るデバイス6によれば、容器の収容部内を完全に液密状態にできるため、泡(気体)が容器内にはいらず、容器の揺れによって泡が容器内で動いて脆弱物を破損することがない。特に、脆弱物がシート状細胞培養物の積層体である場合に、気泡が移動して、積層体がズレたり欠損したりすることがない。
【0071】
さらに、本発明の第2実施形態に係るデバイス6は、蓋部材で押し出された液体を受容できるため、周囲を汚染することがない。したがって、シート状細胞培養物の作製に使用されるバイオクリーンルームなど、清浄度が厳密に管理されている場所での使用に適している。
【0072】
この結果、本発明の第2実施形態に係るデバイス6は、液体中の脆弱物の形状を保持し、脆弱物を安定的に取り出すデバイスとしての信頼性が向上する。また、本発明の第2実施形態に係るデバイス6は、容器7と中蓋部材8とが嵌合することで脆弱物をより安定的に保持することができる点に利点がある。
【0073】
なお、本実施形態は上記に限定されるものではなく、当業者は、デバイスの構成および形状を好適に組み合わせて、異なる構成や形状を有するデバイスを設計することができる。例えば、上記孔84は、蓋部材9の回転によって窪み部93の底部および溝部94で開閉される限り、天板部81の中心に設けてもよい。また、上記天板部81は、容器7の下部空間から上方に向けて突出してもよく、その形状は、中蓋部材8の中心線と交わる頂部を有する円錐形のドーム形状でもよい。すなわち、天板部81の水平断面積は垂直上方に向かうほど小さくなる凸部を有してもよく、該凸部の頂部は、中蓋部材8を容器7に取り付けた状態で、容器7の縁部72より低い位置に配置されるように構成される。この場合、中蓋部材8の該凸部は、容器7の水平面に対して傾斜しているため、液体中の気泡などに浮力が掛りやすく、気泡を確実に上方に押し上げることができる。また、天板部81の筒状スカート壁部82は、天板部81と共に漏斗状の押し上げ構造を形成するため、液体中の気泡を確実に孔84に導くことが出来る。さらに、中蓋部材8の筒状スカート壁部82は、容器7の側壁部73と略同じ直径を有し、側壁部73の内周面に当接して挿入されるように構成されてもよい。これによって、中蓋部材8は容器7内で位置決めされるため、容器7の嵌合部74および中蓋部材8の嵌合部83による嵌合機構がなくとも中蓋部材8を容器7に対して固定することができ、また、容器7として市販の汎用シャーレを用いることができる。また、蓋部材9の窪み部93および中蓋部材8の天板部81に、孔84の開閉に合せた係止機構を設けてもよい。これによって、孔84を容器内周縁部Rに連通させた状態と、孔84を窪み部93で閉じた状態とを容易に区別することができる。
【0074】
以上、本発明を図示の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明においては、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成を付加することもできる。
【符号の説明】
【0075】
A 収容部
R 容器内周縁部
1 デバイス
2 容器
21 底部
22 縁部
23 段差部
24 上方側壁部
25 下方側壁部
3 筒状突設部
31 開口部
32 縁部
【0076】
4 蓋部材
41 環状上端部
42 筒状スカート壁部
43 段差部
44 窪み部
45 突設部
5、5’ シール部材
51 凹み部
【0077】
6 デバイス
7 容器
71 底部
72 縁部
73 側壁部
74 嵌合部
【0078】
8 中蓋部材
81 天板部
82 筒状スカート壁部
83 嵌合部
84 孔
85 環状凹み部
【0079】
9 蓋部材
91 天板部
92 筒状スカート壁部
93 窪み部
94 溝部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11