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特許7175908N-アシル-X-グルタミンジペプチドを含む培地
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】N-アシル-X-グルタミンジペプチドを含む培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20221114BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20221114BHJP
   C07K 5/06 20060101ALN20221114BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/09
C07K5/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019548006
(86)(22)【出願日】2018-03-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 EP2018055192
(87)【国際公開番号】W WO2018162352
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】17160020.8
(32)【優先日】2017-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター クナウプ
(72)【発明者】
【氏名】フリードヘルム メルツ
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-187697(JP,A)
【文献】特開平04-305596(JP,A)
【文献】AMB Express.,2016年,Vol.6, No.48,pp.1-12
【文献】Biotechnol Prog.,2013年,Vol.29, No.1,pp.165-175
【文献】Cytotechnology,2013年01月,Vol.65, No.1,pp.135-143
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のモル比R=n(アシル-X-Q)/n(Qsource)で、一連のN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-QからのL-グルタミンと、一連の他のグルタミン源QsourceからのL-グルタミンとを含み、
ここで、Xは、L-アミノ酸として定義され;
Qは、L-アミノ酸Xにアミド結合を介して接続したL-グルタミンとして定義され;
アシルは、L-アミノ酸Xのアミノ末端にアミド結合を介して接続したC1-C7-アシル部分として定義され;
Rは、1/3-3の範囲であると定義され;
n(アシル-X-Q)は、前記培地中の一連のN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qに含まれるL-グルタミンの物質の合計量であり;
n(Qsource)は、前記培地中の一連の他のグルタミン源Qsourceに含まれるL-グルタミンの物質の合計量であり;
Qは、L-アミノ酸Yにアミド結合を介して接続したL-グルタミンとして定義され;ジペプチドY-Q中のYとQを接続するアミド結合は、アミノ酸Yのカルボキシ末端とグルタミンQのアミノ末端を含む規則的な骨格のアミド結合である、
N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの合計濃度は、1mM-8mMの範囲であり、
前記一連のN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qが、アセチル-A-Qとして定義され、
前記一連の他のL-グルタミン源Qsourceの唯一の構成要素がジペプチドY-Qであり、Yがアラニンである、
哺乳動物細胞培地。
【請求項2】
無血清である、
請求項1記載の哺乳動物細胞培地。
【請求項3】
既知化学組成である、
請求項1または2のいずれかに記載の哺乳動物細胞培地。
【請求項4】
哺乳動物細胞を培養するための請求項1乃至3のいずれかに記載の哺乳動物細胞培地の使用。
【請求項5】
細胞培養産物を製造する方法であって、哺乳動物細胞と、請求項1乃至3のいずれかに記載の哺乳動物細胞培地とを接触させる工程を含む、方法。
【請求項6】
前記培地と接触した前記哺乳動物細胞は、CHO細胞である、請求項5記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体工学による製造工程に関する。より特定的には、本発明は、生体工学による製造工程に使用するために改良された培地、このような改良された培地を使用する工程、および改良された培地を用いる工程から得られた産物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体工学による工程は、生物学的製剤の製造に広く用いられている。これらの工程は、典型的には、培養された細胞による成長および産物生成にとって許容される条件下での培地中の細胞の培養を伴う。生体工学による製造に有用な細胞は、細菌細胞、真菌細胞、酵母細胞、および動物由来または植物由来の細胞である。
【0003】
動物細胞培養物は、生体産物、例えば、治療用タンパク質、ポリペプチド、ペプチドまたは他の生体分子、例えば、治療用多糖の製造に使用されてきた。このような細胞培養工程において、動物細胞は、通常は所望な産物を産生するように遺伝的に改変され、細胞増殖および産物生成のための液体培地、固体培地または半固体培地の中で培養される。細胞培養物の顕著な利点の1つは、動物細胞および植物細胞が、一次産物の翻訳後改変(例えば、フォールディング)およびポリペプチドの翻訳後改変を行うことができるという事実である。
【0004】
生体工学による製造工程において、特に、動物細胞培養物において、細胞培養条件の制御および最適化は、細胞増殖および産物生成にとって重要である。決定的要因の1つは、培地組成である。最終的な細胞培養産物の濃度および品質は、培地組成に大きく依存する。動物細胞および植物細胞の培養物は、必要な栄養組成物および培養条件という観点で、特に要求が厳しい。必要な栄養素は、炭素、窒素およびエネルギーの基本的な供給源、例えば、糖およびアンモニアを含むだけではなく、必須アミノ酸およびビタミンなどのもっと複雑な栄養素も必要とされる場合がある。この理由のため、広範囲にわたる栄養素を動物細胞に与えるため、動物細胞培地への複雑な栄養組成物(例えば血清)の追加が用いられてきた。しかし、規制および安全性の問題と、血清の入手可能源の多様性を伴う問題によって、産業は、工業的な細胞培養工程から血清および他の非既知組成培地を除外することに対する努力を強いられてきた。しかし、無血清培地中で成長した細胞培養物は、多くは、栄養失調を示す。この理由のため、細胞培養物中の満足な成長およびタンパク質生成に必要な、複雑な培地の栄養構成要素と、その最適濃度を特定するために多くの努力がはらわれてきた。
【0005】
細胞培養物へのアミノ酸の供給は、成長速度および産生に大きな影響があることが知られている。グルタミンは、培養した細胞にとって重要な炭素源、窒素源およびエネルギー源であるため、通常、細胞培地に使用される。動物細胞培養物の最適な成長に必要なグルタミンの量は、他のアミノ酸の量より3倍から10倍多いことが示された(Eagleら、Science 130:432-37)。しかし、栄養素としてのグルタミンは、加熱するとピログルタメートとアンモニアが生成するため、加熱滅菌条件などの高温で水に溶解したときは不安定である(Rothら、1988、In Vitro Cellular & Developmental Biology 24(7):696-98)。この理由のため、多くは、グルタミンの代わりにグルタメートが細胞培地で使用される(Cell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell-based Therapies、52、Sadettinら編集、Taylor and Francis Group、2006)。他のグループは、グルタミン含有ジペプチド、例えば、アラニル-グルタミンまたはグリコシル-グルタミンを細胞培地に加えることによって、ピログルタメートおよびアンモニアなどの望ましくない物質の生成を避けようと試みてきた(Rothら(1988)、In Vitro Cellular & Developmental Biology 24(7):696-98)。他のグループは、加熱滅菌条件でさらに安定化させるために、ジペプチドをアシル化することを提案している。US 5,534,538号は、N-アシルジペプチド、および加熱滅菌した経腸または非経口栄養産物におけるその使用を記載する。
【0006】
EP 0220379号およびDE3538310号は、細胞培地におけるグルタミン含有ジペプチドおよびトリペプチドの使用を開示する。グルタミンは、高温でグルタミンが不安定であることに基づく問題を避けるために、ジペプチドの形態で加えられる。グルタミン含有ジペプチドは、温度に敏感ではないグルタミン源として使用される。
【0007】
JP61271985号は、ジペプチドXxx-L-グルタミンを含む、動物細胞にとって有用な培地を開示し、ここで、Xxxは、グリシン、D/L-アラニン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-バリン、L-ロイシン、L-セリン、L-リシンまたはL-フェニルアラニンである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】US 5,534,538号
【文献】EP 0220379号
【文献】DE3538310号
【文献】JP61271985号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Eagleら、Science 130:432-37
【文献】Rothら、1988、In Vitro Cellular & Developmental Biology 24(7):696-98
【文献】Cell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell-based Therapies、52、Sadettinら編集、Taylor and Francis Group、2006
【文献】Rothら(1988)、In Vitro Cellular & Developmental Biology 24(7):696-98
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術に記載される細胞培地は、特定の細胞培養工程にとって満足のいく性能および特性を与えるが、生体工学による製造工程において改良された産物生成を促進する細胞培地が依然として必要である。
【0011】
(本発明)
本発明との関連において、以下の細胞培地が、生体工学による製造工程の生産性を高めることがわかった。
細胞培地であって、所定のモル比R=n(アシル-X-Q)/n(Qsource)で、一連のN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-QからのL-グルタミンと、一連の他のグルタミン源QsourceからのL-グルタミンとを含み、
ここで、Xは、L-アミノ酸として定義され;
Qは、L-アミノ酸Xにアミド結合を介して接続したL-グルタミンとして定義され;
アシルは、L-アミノ酸Xのアミノ末端にアミド結合を介して接続したC-C-アシル部分として定義され;
Rは、0.03-20の範囲であると定義され;
n(アシル-X-Q)は、前記培地中の一連のN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qに含まれるL-グルタミンの物質の合計量であり;
n(Qsource)は、前記培地中の一連の他のグルタミン源Qsourceに含まれるL-グルタミンの物質の合計量である、細胞培地。
【0012】
一連の他のL-グルタミン源Qsourceの構成要素は、遊離L-グルタミン、ジペプチドY-Q、またはこれらの混合物から選択され、Yは、20種類の遺伝的にコードされるL-アミノ酸の1つとして定義され;Qは、L-アミノ酸Yにアミド結合を介して接続したL-グルタミンとして定義され;ジペプチドY-Q中のYとQを接続するアミド結合は、アミノ酸Yのカルボキシ末端とグルタミンQのアミノ末端を含む規則的な骨格のアミド結合である。
【0013】
第1の態様では、本発明は、上に開示した培地に関する。本発明は、さらに、細胞を培養するためのこのような細胞培地の使用、および細胞と本明細書に開示する細胞培地とを接触させる工程を含む、細胞培養産物を製造するための方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
「培地」は、本発明によれば、栄養素を含有する液体培地または固体培地であると理解すべきであり、この培地は、培養物中の細胞に栄養を与え、生命を維持し、および/または産物生成を補助するのに適している。培養した細胞は、本発明によれば、細菌細胞、酵母細胞、真菌細胞、動物細胞、例えば、哺乳動物細胞または昆虫細胞、および/または植物細胞、例えば、藻類であってもよい。典型的には、培地は、必須アミノ酸および非必須アミノ酸、ビタミン、少なくとも1つのエネルギー源、脂質および微量元素を与え、これらは全て、細胞が生命を維持し、成長および/産物生成を維持するのに必要である。培地は、ホルモンおよび成長因子を含め、最小速度を超えて成長および/または生存を向上させる構成要素も含んでいてもよい。培地は、好ましくは、細胞の生命を維持し、成長および/産物生成を維持するpHおよび塩濃度を有する。培地は、本発明によれば、好ましくは、細胞培養物の生命および増殖の維持に必要な全ての栄養素を含む。好ましい培地は、既知組成培地である。
【0015】
「既知化学組成培地」は、本発明によれば、細胞抽出物、細胞加水分解物またはタンパク質加水分解物を含まない培地である。既知化学組成培地は、未知の組成の構成要素を含まない。当業者には一般的に理解されているように、既知化学組成培地は、通常、動物由来の構成要素を含まない。既知化学組成培地の全ての構成要素は、既知の化学構造を有する。既知組成培地以外の培地は、「複雑な」培地と呼ばれる場合がある。
【0016】
「細胞培地」は、動物細胞および/または植物細胞の生命、増殖および/または産物生成を維持するのに適した培地であると理解すべきである。
【0017】
「栄養素」は、本発明によれば、生存し、成長するために細胞が必要とする化学化合物または物質である。栄養素は、好ましくは、環境から細胞によって取り込まれる。栄養素は、「有機栄養素」および「無機栄養素」であってもよい。有機栄養素としては、炭水化物、脂肪、タンパク質(またはこれらのビルディングブロック、例えばアミノ酸)およびビタミンが挙げられる。無機栄養素は、無機化合物であり、例えば、栄養素のミネラルおよび微量元素である。「必須栄養素」は、細胞が合成することができず、そのため、培地によって細胞に与えられなければならない栄養素である。
【0018】
「細胞培養産物」は、本発明によれば、細胞培養物中の細胞によって産生される任意の有用な生体化合物であると理解すべきである。本発明の好ましい細胞培養産物は、治療用タンパク質、診断用タンパク質、治療用多糖類、例えば、ヘパリン、抗体、例えば、モノクローナル抗体、成長因子、インターロイキン、ペプチドホルモン、および酵素である。
【0019】
「遊離アミノ酸」は、本発明によれば、遊離形態で(すなわち、他の分子に共有結合していない)アミノ官能基およびその(α-)カルボキシル官能基を有するアミノ酸、例えば、ペプチド結合を生成しないアミノ酸であると理解される。遊離アミノ酸はまた、塩として、または水和物形態で存在していてもよい。ペプチドの一部として、またはペプチド中のアミノ酸について言及する場合、遊離アミノ酸は、それぞれのアミノ酸から誘導されるそれぞれのペプチド構造のその部分を指すと理解すべきである。
【0020】
「成長因子」は、本発明によれば、細胞成長、増殖および細胞分化を刺激することができる任意の天然に存在する物質であると理解すべきである。好ましい成長因子は、タンパク質またはステロイドホルモンの形態である。本発明の一実施形態によれば、「成長因子」との表現は、酸性FGFおよび塩基性FGFを含む線維芽細胞成長因子(FGF)、インスリン、インスリン様成長因子(IGF)、上皮成長因子(EGF)、神経成長因子(NGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、およびTGFαおよびTGFβを含むトランスフォーミング成長因子(TGF)、サイトカイン、例えば、インターロイキン1、2、6、顆粒球刺激因子、および白血病阻止因子(LIF)からなるリストから選択される成長因子に関連するものであると解釈すべきである。
【0021】
「ペプチド」は、本発明によれば、2個から20個のアミノ酸からなるペプチド化合物であると理解すべきである。
【0022】
「Nアシル化」との表現は、アミノ酸について言及する場合、Nアシル化アミノ酸が、そのアミノ酸のα-アミノ基にアシル基が付加することによって改変されていることを意味すると理解すべきである。
【0023】
栄養組成物、培地、細胞培地などの「滅菌形態」は、前記組成物、培地、細胞培地などに生命体が何ら存在しないことを規定すると理解すべきである。
【0024】
「固体培地」は、本発明との関連において、任意の非液体培地または非気体培地であると理解すべきである。本発明の好ましい固体培地は、ゲル様培地であり、例えば、寒天、カラギーナンまたはゼラチンである。
【0025】
「細胞の継代」(細胞の継代培養または分割としても知られる)は、本発明との関連において、少数の細胞を新しい培養容器に移すことを意味すると理解される。細胞は、長期間にわたる高い細胞密度に関連する老化を避けるために、規則的に分割する場合には、さらに長い時間培養してもよい。懸濁培養物は、数個の細胞を含む少量の培養物を大容積の新しい培地で希釈して、容易に継代される。
【0026】
本発明は、細胞培地であって、所定のモル比R=n(アシル-X-Q)/n(Qsource)で、一連のN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-QからのL-グルタミンと、一連の他のグルタミン源QsourceからのL-グルタミンとを含み、
ここで、Xは、L-アミノ酸として定義され;
Qは、L-アミノ酸Xにアミド結合を介して接続したL-グルタミンとして定義され;
アシルは、L-アミノ酸Xのアミノ末端にアミド結合を介して接続したC-C-アシル部分として定義され;
Rは、0.03-20の範囲であると定義され;
n(アシル-X-Q)は、前記培地中の一連のN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qに含まれるL-グルタミンの物質の合計量であり;
n(Qsource)は、前記培地中の一連の他のグルタミン源Qsourceに含まれるL-グルタミンの物質の合計量である、細胞培地に関する。
【0027】
一連の他のL-グルタミン源Qsourceの構成要素は、遊離L-グルタミン、ジペプチドY-Q、またはこれらの混合物から選択され、Yは、20種類の遺伝的にコードされるL-アミノ酸の1つとして定義され;Qは、L-アミノ酸Yにアミド結合を介して接続したL-グルタミンとして定義され;ジペプチドY-Q中のYとQを接続するアミド結合は、アミノ酸Yのカルボキシ末端とグルタミンQのアミノ末端を含む規則的な骨格のアミド結合である。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、一連の他のL-グルタミン源Qsourceの構成要素は、遊離L-グルタミン、ジペプチドY-Qから選択され、ここで、Yは、アラニン、またはその混合物である。本発明のさらに好ましい実施形態では、前記一連の他のL-グルタミン源Qsourceの唯一の構成要素がジペプチドY-Qであり、Yがアラニンである。
【0029】
本願発明者らは、この種の細胞培地が、従来の細胞培地と比較して優れた特性を有することを見出した。明記された比率でL-グルタミン源を与えると、細胞培養物の生産性が増加することが、本願発明者らによって発見された。
【0030】
本発明によれば、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Q中のL-アミノ酸Xは、任意の天然のアミノ酸、すなわち、20種類の遺伝的にコードされたL-アミノ酸のいずれであってもよく、すなわち、Xは、以下から選択される。
アラニン (Ala/A)
アルギニン (Arg/R)
アスパラギン (Asn/N)
アスパラギン酸 (Asp/D)
システイン (Cys/C)
グルタミン酸 (Glu/E)
グルタミン (Gln/Q)
グリシン (Gly/G)
ヒスチジン (His/H)
イソロイシン (Ile/I)
ロイシン (Leu/L)
リシン (Lys/K)
メチオニン (Met/M)
フェニルアラニン (Phe/F)
プロリン (Pro/P)
セリン (Ser/S)
トレオニン (Thr/T)
トリプトファン (Trp/W)
チロシン (Tyr/Y)
バリン (Val/V)
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、Xは、グルタミンを除く、20種類の遺伝的にコードされたL-アミノ酸から選択される。
【0032】
本発明の他の好ましい実施形態では、Xは、Ala、Gly、Asnから選択される。本発明のさらに好ましい実施形態では、Xは、Alaである。
【0033】
本発明によれば、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Q中のXとQを接続するアミド結合は、アミノ酸Xのカルボキシ末端とグルタミンQのアミノ末端を含む規則的な骨格のアミド結合である。
【0034】
本発明によれば、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-QのC-C-アシル部分は、アシル基R-C(O)-として定義され、ここで、Rは、直鎖または分枝鎖のC-C-アルキルまたはC-C-シクロアルキルである。
【0035】
有用な直鎖または分枝鎖のC-C-アルキル基としては、特に、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、イソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、1-エチルブチル、2-エチルブチル、3-エチルブチル、1,1-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチルが挙げられる。
【0036】
有用なC-C-シクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルが挙げられる。
【0037】
好ましくは、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-QのC-C-アシル部分は、アセチル基であり、すなわち、好ましくは、Rはメチルである。
【0038】
本発明によれば、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qのアシル基は、L-アミノ酸Xのアミノ末端にアミド結合を介して接続する。
【0039】
好ましくは、本発明の培地中の一連のN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アセチル-A-Q、アセチル-G-Q、アセチル-N-Q、またはこれらの混合物から選択される。非常に好ましくは、本発明の培地中の一連のN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アセチル-A-Qのみを含む。
【0040】
本発明の培地中の全てのL-グルタミンを含有する物質は、2つの互いに共通部分を持たない一連の物質のいずれかに割り当てることができる。
(i)それぞれの実施形態で定義されるようなアシルおよびXを含む、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Q。
(ii)一連の他のL-グルタミン源Qsource。
【0041】
したがって、それぞれの実施形態で定義されるようなアシルおよびXを含む、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの定義を満たさない、本発明の培地に含まれる一連のL-グルタミンを含有する物質中の全ての物質は、一連の他のL-グルタミン源Qsourceを構成する。
【0042】
本発明によれば、モル比R=n(アシル-X-Q)/n(Qsource)は、好ましくは、0.03-20;R=0.04-15.67;R=0.05-10;R=0.05-5の範囲から選択される。本発明の好ましい実施形態では、Rは、R=0.04-15.67の範囲から選択される。
【0043】
本発明の培地は、液体形態、ゲル、例えば、寒天、カラギーナンまたはゼラチンを含有する培地の形態であってもよく、または粉末、顆粒、ペレットの形態、またはタブレットの形態であってもよい。好ましい実施形態では、培地は、液体形態である。
【0044】
好ましくは、培地は、滅菌形態である。
【0045】
好ましい実施形態では、本発明の培地は、既知化学組成培地または無血清培地である。さらに好ましい実施形態では、本発明の培地は、既知化学組成培地である。このような培地を得るために、例えば、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qを、Miltenyi Biotech(ベルギッシュグラートバハ、ドイツ)のCHOMACS CD培地、LONZA(バーゼル、スイス)から入手可能なPowerCHO-2 CD培地、PAAの抗CHO P培地(PAA Laboratories、パシング、オーストリア)、SAFCから入手可能なEx-Cell CD CHO培地、ThermoFisher(ウォルサム、USA)のSFM4CHO培地およびCDM4CHO培地、DMEM培地(Life Technologies Corp.、カールスバッド、USA)に追加してもよく、これにより、本発明に明記されるように、適切な化学量論量比のL-グルタミン源が得られる。しかし、本発明は、上述の培地の追加に限定されない。
【0046】
本発明の一実施形態では、培地は、成長因子を含まない。本発明のいくつかの実施形態では、培地は、脂質を何ら含まない。
【0047】
他の好ましい実施形態では、本発明の培地は、使用時の培地の濃度に対し、2倍、3倍、3.33倍、4倍、5倍または10倍の濃縮形態(体積/体積)の液体培地である。これにより、濃縮培地をそれぞれの体積の滅菌水で単純に希釈することによって、「すぐに使える」培地を調製することができる。本発明の培地のこのような濃縮形態は、例えば、供給バッチ培養工程で培地に加えることによって使用することもできる。
【0048】
本発明の培地は、好ましくは、持続的な成長および産物生成に必要な全ての栄養素を含む。培地、特に細胞培地を調製する処方は、当業者にはよく知られている(例えば、Cell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell-Based Therapies、OeztuerkおよびWei-Shou Hu編集、Taylor and Francis Group 2006を参照)。種々の培地は、種々の供給源から市販されている。
【0049】
本発明の培地は、好ましくは、炭水化物源を含む。細胞培地に使用される主な炭水化物はグルコースであり、通常は5nMから25nM追加される。これに加え、任意のヘキソース、例えば、ガラクトース、フルクトースまたはマンノース、または組み合わせを使用してもよい。
【0050】
培地は、さらに、典型的には、必須アミノ酸(すなわち、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Thr、Tyr、Val)と特定の非必須アミノ酸も少なくとも含む。非必須アミノ酸は、典型的には、細胞株がそのアミノ酸を合成することができない場合、または細胞株が、最大成長を維持するのに十分な量のそのアミノ酸を産生することができない場合に、細胞培地に含まれる。
【0051】
本発明の培地は、好ましくは、塩を含む。塩は、等張状態を維持し、浸透圧の不均衡を防ぐために、細胞培地に加えられる。本発明の培地の浸透圧は、約300mOsm/kgであるが、多くの細胞株は、この値の約10%変動またはもっと高い値に耐えることができる。ある種の昆虫細胞培養物の浸透圧は、300mOsm/kgより高い傾向があり、この浸透圧は、300mOsm/kgより0.5%、1%、2%から5%、5%-10%、10%-15%、15%-20%、20%-25%、25%-30%高くてもよい。細胞培地中で最も一般的に使用される塩としては、Na、K、Mg2+、Ca2+、Cl、SO 2-、PO 3-およびHCO (例えば、CaCl、KCl、NaCl、NaHCO、NaHPO)が挙げられる。
【0052】
培地には、他の無機元素が存在していてもよい。他の無機元素としては、Mn、Cu、Zn、Mo、Va、Se、Fe、Ca、Mg、SiおよびNiが挙げられる。これらの元素の多くは、酵素活性に関与する。これらは、CaCl、Fe(NO、MgCl、MgSO、MnCl、NaCl、NaHCO、NaHPOなどの塩形態、およびセレン、バナジウムおよび亜鉛などの微量元素のイオンの形態で与えられてもよい。これらの無機塩および微量元素は、例えば、Sigma(セントルイス、ミズーリ)から商業的に得てもよい。
【0053】
本発明の培地は、好ましくは、ビタミン類を含む。ビタミン類は、典型的には、補因子として細胞に使用される。各細胞株のビタミン要求は、大きく変動するが、一般的に、細胞培地が血清をほとんど含まないか、または全く含まない場合、または細胞が高密度で成長する場合には、余分のビタミンが必要となる。本発明の培地中に存在する好ましい例示的なビタミンとしては、ビオチン、塩化コリン、葉酸、i-イノシトール、ニコチンアミド、D-Ca++-パントテン酸塩、ピリドキサール、リボフラビン、チアミン、ピリドキシン、ナイアシンアミド、A、B、B12、C、D、E、Kおよびp-アミノ安息香酸(PABA)が挙げられる。
【0054】
本発明の複雑な培地は、血清も含んでいてもよい。血清は、凝固血の上清である。血清の構成要素としては、接着因子、微量栄養素(例えば、微量元素)、成長因子(例えば、ホルモン、プロテアーゼ)、および保護要素(例えば、抗毒素、酸化防止剤、抗タンパク分解酵素)が挙げられる。血清は、ヒト、ウシまたはウマの血清を含め、種々の動物源から入手可能である。本発明の細胞培地に含まれる場合、血清は、典型的には、5%-10%(体積)の濃度で加えられる。好ましい細胞培地は、無血清である。
【0055】
血清非存在下、または血清減少培地中で細胞成長を促進するために、以下の1つ以上のポリペプチドを細胞本発明の培地に加えてもよい。例えば、酸性FGFおよび塩基性FGFを含む線維芽細胞成長因子(FGF)、インスリン、インスリン様成長因子(IGF)、上皮成長因子(EGF)、神経成長因子(NGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、およびTGFαおよびTGFβを含むトランスフォーミング成長因子(TGF)、任意のサイトカイン、例えば、インターロイキン1、2、6、顆粒球刺激因子、白血病阻止因子(LIF)など。しかし、本発明の培地は、上に列挙した成長因子をどれも含んでいなくてもよい。
【0056】
他の実施形態では、細胞培地は、ポリペプチド(すなわち、20を超えるアミノ酸を含むペプチド)を含まない。
【0057】
1種類以上の脂質も、細胞本発明の培地に加えてもよい。例えば、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、ポリエン酸および/または12、14、16、18、20または24炭素原子の脂肪酸(それぞれの炭素原子は分岐しているか、分岐していない)、リン脂質、レシチン(ホスファチジルコリン)およびコレステロール。これらの脂質の1つ以上が、無血清培地に追加剤として含まれてもよい。ホスファチジン酸およびリゾホスファチジン酸は、特定の足場依存性細胞、例えば、MDCK、マウス上皮および他の腎臓細胞株の成長を刺激し、一方、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルイノシトールは、無血清培地においてヒト線維芽細胞の成長を刺激する。エタノールアミンおよびコレステロールは、特定の細胞株の成長を促進することも示されてきた。特定の実施形態では、細胞培地は、脂質を含まない。
【0058】
1種類以上の輸送タンパク質、例えばウシ血清アルブミン(BSA)またはトランスフェリンも、細胞培地に加えることができる。輸送タンパク質は、特定の栄養素または微量元素の輸送を補助することができる。BSAは、典型的には、脂質(例えば、水溶液に不溶性のリノール酸およびオレイン酸)の輸送体として使用される。これに加え、BSAは、特定の金属(例えば、Fe、CuおよびNi)の輸送体としても機能することができる。タンパク質を含まない製剤では、BSAの非動物由来代替物(例えば、シクロデキストリン)を脂質輸送体として使用してもよい。
【0059】
1種類以上の接着タンパク質、例えば、フィブロネクチン、ラミニンおよびプロネクチンも、基質への足場依存性細胞の接着を促進しやすくするために、細胞培地に加えることができる。
【0060】
細胞培地は、場合により、1種類以上の緩衝剤を含んでいてもよい。適切な緩衝剤としては、限定されないが、N-[2-ヒドロキシエチル]-ピペラジン-N’-[2-エタンスルホン酸](HEPES)、MOPS、MES、リン酸塩、重炭酸塩、および細胞培養用途に使用するのに適した他の緩衝剤が挙げられる。適切な緩衝剤は、培養する細胞に対する実質的な細胞毒性がなく、緩衝能を与えるものである。適切な緩衝剤の選択は、細胞培養分野における通常の技術の範囲内である。
【0061】
細胞が凝集するのを防ぎ、懸濁物中の細胞の成長を促進するために、多価アニオン性または多価カチオン性の化合物を培地に加えてもよい。
【0062】
好ましい実施形態では、本発明の液体培地中に存在するN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの合計濃度は、0.01g/l-20g/l、または0.1g/l-10g/l、または0.5g/l-5g/lの範囲である。他の好ましい実施形態では、本発明の液体培地中に存在するN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの合計濃度は、0.01mM、0.02mM、0.04mM、0.08mM、0.2mM、0.4mMまたは1mMより高い。N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの合計濃度が50mM、20mM、10mM、5mMまたは2mMより低い濃度で存在する液体培地も好ましい。好ましくは、本発明の液体培地中に存在するN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの合計濃度は、0.01mM-40mM、または0.1mM-20mM、または0.1mM-10mM、または0.5mM-10mM、または1mM-10mM、または1mM-8mM、または1mM-6mMの範囲である。非常に好ましい実施形態では、本発明の液体培地中に存在するN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの合計濃度は、1mM-8mMであり、アシルは、アセチル基としてであり、Xは、アラニンである。上述の濃度は、非濃縮培地中の濃度、すなわち、実際の培養物中に存在する濃度として与えられる。濃縮培地は、X倍高い濃度を有していてもよい。
【0063】
本発明の培地は、濃縮形態であってもよい。本発明の培地は、例えば、2倍、3倍、3.33倍、4倍、5倍、10倍、20倍、50倍または100倍の濃縮形態であってもよい(細胞の成長および産物生成を補助する濃度に対して)。このような濃縮培地は、水性溶媒(例えば水)を用いて濃縮培地を希釈することによって使用するための培地を調製するのに有用である。このような濃縮培地は、バッチ培養で使用されてもよいが、有利には、例えば、培養中に細胞によって消費された栄養素を補充するために、濃縮した栄養組成物が、進行中の細胞培養に加えられる供給バッチ培養または連続培養にも使用される。
【0064】
本発明はまた、細胞を培養するための本発明の培地の使用に関する。本発明の別の態様は、細胞培養産物を製造するための本発明の培地の使用に関する。
【0065】
本発明の好ましい実施形態は、動物細胞または植物細胞、最も好ましくは哺乳動物細胞を培養するための本発明の培地の使用に関する。特定の実施形態では、培養される細胞は、CHO細胞、COS細胞、VERO細胞、BHK細胞、HEK細胞、HELA細胞、AE-1細胞、昆虫細胞、線維芽細胞、筋肉細胞、神経細胞、幹細胞、皮膚細胞、内皮細胞およびハイブリドーマ細胞である。本発明の好ましい細胞は、CHO細胞およびハイブリドーマ細胞である。本発明の最も好ましい細胞は、CHO細胞である。本発明の特に好ましいCHO細胞は、CHO DG44細胞およびCHO DP12細胞である。
【0066】
細胞と、本発明の細胞培地とを接触させることを含む、細胞を培養する方法も、本発明の範囲に含まれる。本発明の一実施形態では、細胞を培養する方法は、細胞の培養を補助する条件下で細胞と基本培地とを接触させることと、前記基本細胞培地に本発明の濃縮培地を追加することと、を含む。好ましい実施形態では、基本培地に、1日より多い日数、濃縮供給物または濃縮培地を追加する。
【0067】
本発明の別の態様は、本発明の培地を製造する方法に関する。本発明の培地を製造する方法は、本発明の少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qを培地に追加する少なくとも1つの工程を含む。同様に、本発明の一態様は、細胞培地を製造するための本発明の少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用に関する。
【0068】
本発明の別の態様は、培地を改変する方法であって、前記培地の改変が、前記培地への本発明の少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの添加を含む、方法に関する。
【0069】
本発明の別の態様は、液体培地を製造する方法であって、前記方法が、本発明の固体培地を例えば乾燥粉末の形態で、または顆粒の形態で、またはペレットの形態で、またはタブレットの形態で提供することと、前記固体培地を水性媒体、例えば水に溶解することと、を含む方法に関する。
【0070】
本発明の別の態様は、細胞を培養するための本発明の少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用に関する。本発明の別の態様は、細胞培養のための本発明の少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用に関する。
【0071】
本発明はまた、細胞培養産物を製造する方法であって、(i)前記細胞培養産物を製造することが可能な細胞を提供する工程と、(ii)前記細胞と本発明の培地とを接触させる工程と、(iii)前記培地または前記細胞から前記細胞培養産物を得る工程と、を含む方法に関する。同様に、本発明は、細胞培養産物を製造するための本発明の少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用に関する。
【0072】
好ましい方法では、細胞培養産物は、治療用タンパク質、診断用タンパク質、多糖、例えば、ヘパリン、抗体、モノクローナル抗体、成長因子、インターロイキン、ウイルス、ウイルス様粒子または酵素である。
【0073】
本発明の細胞の培養は、バッチ培養、供給バッチ培養または連続培養で行うことができる。
【0074】
本発明の細胞を培養する好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アセチル-A-Qであり、アセチル-A-Qは、1mM-8mMの濃度で存在し、細胞は、CHO細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アセチル-A-Qであり、アセチル-A-Qは、1mM-8mMの濃度で存在し、細胞は、CHO細胞またはハイブリドーマ細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アセチル-A-Qであり、アセチル-A-Qは、1mM-8mMの濃度で存在し、細胞は、哺乳動物細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アセチル-A-Qであり、アセチル-A-Qは、0.5mM-10mMの濃度で存在し、細胞は、CHO細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アセチル-A-Qであり、アセチル-A-Qは、0.5mM-10mMの濃度で存在し、細胞は、CHO細胞またはハイブリドーマ細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アセチル-A-Qであり、アセチル-A-Qは、0.5mM-10mMの濃度で存在し、細胞は、哺乳動物細胞である。
【0075】
本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アセチル-A-Qであり、アセチル-A-Qは、0.1mM-20mMの濃度で存在し、細胞は、CHO細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アセチル-A-Qであり、アセチル-A-Qは、0.1mM-20mMの濃度で存在し、細胞は、CHO細胞またはハイブリドーマ細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アセチル-A-Qであり、アセチル-A-Qは、0.1mM-20mMの濃度で存在し、細胞は、哺乳動物細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Qであり、アシル-A-Qは、1mM-8mMの濃度で存在し、細胞は、CHO細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Qであり、アシル-A-Qは、1mM-8mMの濃度で存在し、細胞は、CHO細胞またはハイブリドーマ細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Qであり、アシル-A-Qは、1mM-8mMの濃度で存在し、細胞は、哺乳動物細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Qであり、アシル-A-Qは、0.5mM-10mMの濃度で存在し、細胞は、CHO細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Qであり、アシル-A-Qは、0.5mM-10mMの濃度で存在し、細胞は、CHO細胞またはハイブリドーマ細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Qであり、アシル-A-Qは、0.5mM-10mMの濃度で存在し、細胞は、哺乳動物細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Qであり、アシル-A-Qは、0.1mM-20mMの濃度で存在し、細胞は、CHO細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Qであり、アシル-A-Qは、0.1mM-20mMの濃度で存在し、細胞は、CHO細胞またはハイブリドーマ細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用において、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Qであり、アシル-A-Qは、0.1mM-20mMの濃度で存在し、細胞は、哺乳動物細胞である。
【0076】
本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用では、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Q、アシル-G-Qまたはこれらの混合物から選択され、1mM-8mMの合計濃度で存在するN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qを含み、細胞は、CHO細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用では、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Q、アシル-G-Qまたはこれらの混合物から選択され、1mM-8mMの合計濃度で存在するN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qを含み、細胞は、CHO細胞またはハイブリドーマである。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用では、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Q、アシル-G-Qまたはこれらの混合物から選択され、1mM-8mMの合計濃度で存在するN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qを含み、細胞は、哺乳動物細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用では、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Q、アシル-G-Qまたはこれらの混合物であり、0.5mM-10mMの合計濃度で存在するN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qを含み、細胞は、CHO細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用では、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Q、アシル-G-Qまたはこれらの混合物から選択され、0.5mM-10mMの合計濃度で存在するN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qを含み、細胞は、CHO細胞またはハイブリドーマである。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用では、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Q、アシル-G-Qまたはこれらの混合物から選択され、0.5mM-10mMの合計濃度で存在するN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qを含み、細胞は、哺乳動物細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用では、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Q、アシル-G-Qまたはこれらの混合物であり、0.1mM-20mMの合計濃度で存在するN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qを含み、細胞は、CHO細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用では、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Q、アシル-G-Qまたはこれらの混合物から選択され、0.1mM-20mMの合計濃度で存在するN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qを含み、細胞は、CHO細胞またはハイブリドーマ細胞である。本発明の細胞を培養する別の好ましい方法、または細胞を培養するための少なくとも1つのN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qの使用では、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、アシル-A-Q、アシル-G-Qまたはこれらの混合物から選択され、0.1mM-20mMの合計濃度で存在するN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qを含み、細胞は、哺乳動物細胞である。
【0077】
本発明の好ましい実施形態では、一連のN-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Q、一連の他のL-グルタミン源Qsourceおよびモル比R=n(アシル-X-Q)/n(Qsource)は、以下に列挙したとおりに定義される。このような好ましい実施形態では、細胞培地は、既知化学組成培地であり、N-アシル化ジペプチドであるアシル-X-Qは、1mM-8mMの合計濃度で存在し、細胞培養産物の好ましい使用および細胞培養産物を製造するための好ましい方法において、CHO細胞を、このような好ましい細胞培地と接触させる。
【表0-1】
【表0-2】
【表0-3】
【実施例
【0078】
実施例1:バッチ培養における、アセチル-A-Qと、異なるグルタミン源との混合物
アセチル-A-Qを、遊離グルタミンまたはA-Qと0%-100%のモル比で混合した。この混合物を、グルタミンを含まない培地(PowerCHO-2 CD、Lonza AG、フィスプ、スイス)に加え、最終培地中の合計グルタミン濃度8mMを得た。成長および生産性を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Subclone DG44;Life Technologies Corporation、カールスバッド、USA)を用いて測定した。培養物の生存率が80%未満まで落ちる点まで、培養を続けた。第3継代からのデータを使用した。アセチル-A-Qと遊離グルタミン(Q)を混合した結果を表1にまとめている。全ての力価に関連する情報は、100%の遊離グルタミンの力価に対して与えられる。したがって、相対的な細胞特異的生産性は、まず、相対力価を積算生存細胞密度(IVCD)によって割り算し、次いで、この数字を、100%遊離グルタミンについての力価/IVCD比によって割り算することによって得られた。相対的な時間特定の生産性は、相対力価を、サンプリングまでの培養時間で割り算し、次いで、この数字を、遊離グルタミンについての力価/培養時間比で割り算することによって得られた。
【0079】
【表1】
【0080】
100%アセチル-A-Qを用い、相対力価および細胞特異的生産性について最もよい値が得られるが、臨界未満細胞密度だと、培養物の頑健性が下がる場合がある。驚くべきことに、遊離グルタミンを加えると、相対的な時間に関連する生産性が上がる。相対力価と時間に関連する生産性の最もよい組み合わせは、75%アセチル-A-Qと25%遊離グルタミンであることがわかった。
【0081】
同じ実験戦略内の第2の一連の実験で、アセチル-A-QをA-Qと混合し、前述したものと同じ条件下で試験した。アセチル-A-Qについての100%点と、遊離グルタミンリファレンスは、第1の例と同じである。
【0082】
【表2】
【0083】
驚くべきことに、75%アセチル-A-Qと25%A-Qを合わせることによって作られた追加物によって、細胞特異的生産性および時間特定の生産性と、相対力価の最良の組み合わせが導かれた。これは、アセチル-A-Qと遊離グルタミンの組み合わせよりも優れている。現在の産業標準である100%A-Qを含む追加物は、全ての関連する分類において、これより低いレベルを発揮する。
実施例2:供給バッチ培養における、アセチル-A-Qと、異なるグルタミン源との混合物
【0084】
遊離グルタミン、A-Qまたはアセチル-A-Qを、グルタミンを含まない培地(PowerCHO-2 CD、Lonza AG、フィスプ、スイス)に加え、最終培地中の合計グルタミン濃度8mMを得た。これに加え、これらの物質と、アセチル-A-QとA-Qの75%混合物を、商業的な供給追加物のグルタミンを含まない配合物(CHOMACS Feed Supplement、Miltenyi Biotech、ドイツ)に加え、グルタミン濃度5.5g/Lを得た。成長および生産性を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Subclone DG44;Life Technologies Corporation、カールスバッド、USA)を用いて測定した。結果を表3にまとめている。全ての力価に関連する情報は、遊離グルタミンを基本培地および供給物に加えることによって得られる力価に対して与えられる。したがって、相対的な細胞特異的生産性は、まず、相対力価を積算生存細胞密度(IVCD)によって割り算し、次いで、この数字を、100%遊離グルタミンについての力価/IVCD比によって割り算することによって得られた。相対的な時間特定の生産性は、相対力価を、サンプリングまでの培養時間で割り算し、次いで、この数字を、遊離グルタミンについての力価/培養時間比で割り算することによって得られた。
【0085】
【表3】
【0086】
驚くべきことに、供給バッチ操作で同じ傾向がみられた。アセチル-A-Qのみを用いて培養すると、非常に高い細胞特異的生産性が導かれたが、細胞密度が非常に低かった。この特定の一連の実験で、さらに、非常に低い力価レベルが得られた。これらの実験は、アセチル-A-QとA-Qの比率75%/25%での既に選択した組み合わせも、供給追加物のためのグルタミン源としてうまく使用可能であることも示す。まとめると、供給物において、グルタミン源(例えば、QまたはA-Q)を基本培地中でアセチル-A-Qと組み合わせると、供給物中のQまたはA-Qの組み合わせよりも常に良好である。供給物において、基本培地中のA-Qと、アセチル-A-QおよびA-Qの混合物とを組み合わせると、全体的に、最良の組み合わせが導かれた。