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特許7175990自己免疫疾患の予防または処置のための糞便物質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】自己免疫疾患の予防または処置のための糞便物質
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/12 20150101AFI20221114BHJP
   A61K 35/741 20150101ALI20221114BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20221114BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20221114BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20221114BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20221114BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20221114BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20221114BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221114BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221114BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20221114BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20221114BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221114BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
A61K35/12
A61K35/741
A61K35/745
A61K35/747
A61K35/744
A61P37/06
A61P3/10
A61P17/06
A61P17/00
A61P29/00 101
A61P11/06
A61P19/02
A61K45/00
A61P43/00 121
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020544205
(86)(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 NL2019050130
(87)【国際公開番号】W WO2019168401
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-08-17
(31)【優先権主張番号】2020525
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(31)【優先権主張番号】2021365
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(31)【優先権主張番号】2021366
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(31)【優先権主張番号】2021367
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(31)【優先権主張番号】2021369
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(31)【優先権主張番号】2021370
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】506071771
【氏名又は名称】アカデミッシュ メディッシュ セントラム
(73)【特許権者】
【識別番号】515131390
【氏名又は名称】ヴァーヘニンゲン ユニバーシテイト
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】ニーウドルプ マックス
(72)【発明者】
【氏名】デ ヴォス ウィレム メインデルト
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0322213(US,A1)
【文献】特表2017-535597(JP,A)
【文献】特表2013-537531(JP,A)
【文献】糖尿病, (2017), 60, [1], p.25-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己免疫疾患の予防または処置に使用するための糞便であって、前記使用が対象に自己由来である糞便の前記対象への投与を含み、前記自己免疫疾患が炎症性腸症候群(IBD)ではなく、かつ前記使用が自己免疫疾患の処置のためである場合、前記自己免疫疾患を有する間に前記対象から前記糞便が得られる、糞便
【請求項2】
前記自己免疫疾患が、1型糖尿病、甲状腺自己免疫疾患、アジソン病、乾癬、白斑、リウマチ性自己免疫疾患、セリアック病、喘息、およびアジソン病からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のための糞便
【請求項3】
前記甲状腺自己免疫疾患が、橋本病、およびグレーブス病からなる群から選択される、請求項2に記載の使用のための糞便
【請求項4】
前記リウマチ性障害が、関節リウマチおよびベヒテレフ病からなる群から選択される、請求項2に記載の使用のための糞便
【請求項5】
前記乾癬が乾癬性関節炎を伴う、請求項2に記載の使用のための糞便
【請求項6】
前記対象の小腸または十二指腸に前記糞便が投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための糞便
【請求項7】
前記糞便は、液体媒体中に含まれ、かつ/または10、25、50、75、100、200、400、600、800、もしくは1000μmを超える直径を有する固体を含まない、請求項1~のいずれか一項に記載の使用のための糞便
【請求項8】
前記糞便が、腫瘍壊死因子α(TNFα)阻害剤と併用される、請求項1~のいずれか一項に記載の使用のための糞便
【請求項9】
前記糞便が、ubacterium、Intestinimonas、Bifidobacteria、Lactobacillalesおよび/またはAkkermansia属由来の細菌と併用される、請求項1~のいずれか一項に記載の使用のための糞便
【請求項10】
前記糞便が、組成物で構成される、請求項1~のいずれか一項に記載の使用のための糞便
【請求項11】
前記糞便は、腸溶コーティングで構成され、かつ/またはそれによって封入されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のための糞便
【請求項12】
前記糞便が凍結乾燥および/またはマイクロカプセル化形態で存在する、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のための糞便
【請求項13】
前記使用が、前記対象から得られた糞便を、前記対象の小腸または十二指腸に投与することを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための糞便
【請求項14】
前記使用は、前記対象から得られた糞便の、前記対象の小腸または十二指腸への、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回の別々の投与を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のための糞便
【請求項15】
前記糞便が経腸投与、経口投与、経鼻投与もしくは直腸内投与によって、および/または経鼻十二指腸管投与によって投与される、請求項1~5および7~14のいずれか一項に記載の使用のための糞便
【請求項16】
前記対象が哺乳類である、請求項1~15のいずれか一項に記載の使用のための糞便
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己免疫疾患の予防および/または処置に、より具体的には、前記予防および/または処置における糞便移植の使用に関し、好ましくは糞便移植は、実質的に精製される。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患は、免疫系が対象自身の細胞、組織および/または器官に対して不適切な応答を生じる疾患のクラスである。その結果、炎症、損傷、機能喪失を来すことがある。一般的な自己免疫疾患は、甲状腺炎、関節リウマチおよび1型糖尿病である。
【0003】
自己免疫疾患の原因は、明らかではない。しかし、感染症および遺伝的素因などの要因が、自己免疫疾患の誘因となる役割を果たしている可能性がある。自己免疫疾患は通常、病歴および血液検査(他の自己抗体の中からの検出、または炎症もしくは臓器機能のマーカー)の組み合わせを用いて診断される。
【0004】
自己免疫疾患の病期および病型に依存した治療選択肢は広範囲であるが、自己免疫疾患の決定的な治癒はない。
【0005】
処置戦略は一般に、症状を緩和し、臓器または組織の損傷を最小限に抑え、臓器機能を温存するように向けられる。例えば、処置選択肢には、臓器機能の置換(例えば1型糖尿病におけるインスリンおよび橋本病におけるチロキシンを投与すること)、非ステロイド性抗炎症薬物療法(NSAIDS)、コルチコステロイド性抗炎症薬物療法(プレドニゾロンなど)、TNFα阻害剤、免疫抑制薬物療法、または免疫グロブリン補充療法が含まれ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、自己免疫疾患患者のQOLを改善するためには、新規の治療戦略が必要である。自己免疫疾患に対する新たな、または改善された予防および/または処置戦略を開発する必要性が依然として存在する。このニーズを満たすことが本開示の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、同種(健常ドナー)または自己(自身)源のいずれかからの糞便移植の投与が、自己免疫疾患患者において有益な効果を有し得るかどうかを検討した。
【0008】
驚くべきことに、本発明者らは、自己糞便移植の投与が、自己免疫疾患患者内で免疫のリセットをもたらすことができることを見出した。
【0009】
いかなる理論にも拘束されることなく、本発明者らは、自己の糞便物質が、例えば、B細胞クローン機能および制御性T細胞を再設定することによって、免疫系を調節し、それが次に自己免疫応答を阻害する可能性があると考える。
【0010】
幼少期には、発達中の腸内マイクロバイオーム組成物との連続的なクロストークを介して免疫系が訓練されると考えられている。このようにして、腸内微生物は、適応免疫細胞の発生、組成、および機能の調節に必須の役割を果たしている(例えば、Agace and McCoy Immunity 46、2017年4月18日参照)。とりわけ、自己免疫因子を欠いて、適切に機能する免疫系を導くのがこのプロセスである。
【0011】
しかし、免疫系と腸内微生物との間のクロストーク、またはその最終結果が妨げられ得、自己免疫抗体の産生につながる可能性がある。本開示による処置は、免疫系と腸内微生物(その特定の細菌、ウイルス、真菌および/または誘導産物、例えば代謝産物もしくは微生物細胞エンベロープ化合物、ならびにmiRNAを含む)との間のクロストークを再開始することによって、この障害を克服することができる。
【0012】
したがって、自己免疫疾患における自己糞便物質(自己糞便細菌叢移植など)の使用は、標的組織の自己免疫破壊を阻止し、免疫寛容を再確立する可能性がある。本開示は、免疫系を刺激することによってこれを達成することができ、自己の糞便物質は、好ましくは、十二指腸に投与される(直接的または間接的に、例えば経口投与を介して)。本開示は、好ましくは、腸内細菌群、すなわち腸内細菌叢組成を変化させることを目的としない。
【0013】
したがって、本開示は、自己免疫疾患、特に内分泌性自己免疫疾患(例えば、1型糖尿病、橋本甲状腺機能低下症疾患、グレーブス甲状腺機能亢進症疾患、およびアジソン病)、白斑、セリアック病、乾癬(関節炎)、関節リウマチ、ならびに/またはベヒテレフ病の処置を目的とする。また、喘息の予防および/または処置が包括されており、これは喘息においても同様に機能している可能性のある自己免疫機序によって説明され得る(例えば、TedeschiおよびAsero Expert Rev Clin Immunol.2008 Nov;4(6):767-76参照)。
【0014】
本開示はまた、自己免疫疾患の予防を包含する。従って、自己免疫疾患の発症を回避するために、例えば、それぞれの自己免疫疾患の前段階または初期段階に関連するリスクマーカーが検出された(それぞれの自己免疫疾患の診断前)対象において、本開示の自己糞便物質を対象に投与することができる。このような一次または二次予防戦略は、自己抗体の発症を予防する可能性がある。
【0015】
本明細書中で言及される自己免疫疾患のいくつかは、現在、例えばTNFαに対する抗体を用いることによって、免疫療法で処置されている。しかしながら、これらの高価な免疫療法は、患者のサブセットでしか成功しない可能性がある。これは、腸内細菌叢の偏差によるものとされている(Kolho et al 2015 Am J Gastroenterol.110(6):921-30)。本発明者らは、TNFαアンタゴニストまたは抗TNFαでの処置が、本発明による処置、例えば、例えば炎症性腸疾患(IBD)の処置および/または予防における自己糞便細菌叢移植の投与と相乗的であり得ることを想定している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、自己免疫疾患の予防および/または処置における糞便物質の使用に関し、対象への糞便物質の投与を含み、糞便物質は、対象に自己由来である。本明細書中で使用される用語「自己」は、糞便物質が対象自身の糞便物質である、すなわち、処理後に任意に同じ対象から得られ、投与されることを示す。
【0017】
従って、本開示は、それを必要とする対象、特に内分泌性自己免疫疾患のような自己免疫疾患を有する対象の予防および/または処置を提供し、対象に糞便物質を投与するステップを含み、糞便物質は対象に自己由来である。
【0018】
糞便物質が自己免疫疾患を処置するために使用される場合には、自己糞便物質は、好ましくは、対象が既に自己免疫疾患を有している間、すなわち、対象が既に、例えば、本明細書で言及される診断マーカーのいずれかに基づいて、自己免疫疾患を有すると診断されている間に、対象から得られる。例えば、自己糞便物質は、多くても1、2、3、4、5、6、7、8、9、10週間、または多くても処置前1、2、3、4、5、6ヵ月で得られ得る。この点に関して、可能ではあるが、対象が健康な状態(すなわち、自己免疫疾患を有さない)にある間も、自己免疫疾患が寛解の状態にある間も、自己の糞便物質は、好ましくは、処置される対象から得られない。
【0019】
特に、本開示は、自己免疫疾患の予防または処置に使用するための糞便物質を提供し、使用は、対象に自己由来する糞便物質の対象への投与を含み、自己免疫疾患は、炎症性腸症候群(IBD)ではなく、使用が自己免疫疾患の処置のためである場合、糞便物質は、自己免疫疾患を有する間に対象から得られる。
【0020】
本開示は、少なくとも先験的には、好ましくは、腸内細菌叢、すなわち腸内構成細菌または特に結腸内構成細菌を変化させることを目的としない。実際に、本開示の自己糞便物質に含まれる構成細菌は、自己糞便物質が投与される対象の腸内構成細菌と同一であってもよい、すなわち、その中に含まれる種々の微生物の数および/またはそれらの間の細胞数比は、ほぼ同一であるか、またはせいぜい5、3、もしくは1%ずれている。
【0021】
本開示の文脈では、自己免疫疾患は、全身性および局在化(臓器特異的)自己免疫疾患、特に内分泌性自己免疫疾患(例えば、1型糖尿病、橋本病、グレーブス病、またはアジソン病);皮膚自己免疫疾患(例えば、乾癬または白斑);リウマチ性自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ、またはベヒテレフ病)、および消化管自己免疫疾患(例えば、セリアック病)からなる群から選択される自己免疫疾患を含む任意の自己免疫疾患であり得る。
【0022】
内分泌性自己免疫疾患
様々な自己免疫疾患の中で、自己免疫性内分泌障害が最も一般的である。内分泌系は、ホルモンを産生し、これらを循環系に直接送達する腺と、ホメオスタシスを達成するためのフィードバックループを含む。内分泌系の器官は、様々な影響および重症度を特徴とするいくつかの自己免疫疾患によって影響を受ける可能性がある。多腺性自己免疫症候群のように、ときに多臓器が侵される。
【0023】
異なる自己免疫性内分泌疾患の中で、1型糖尿病、橋本病、グレーブス病、アジソン病は、臨床現場で特に頻度が高い。
【0024】
1型糖尿病
1型糖尿病は、慢性内分泌性自己免疫疾患であり、膵臓は、過度に少量のインスリンを産生するかまたは全く産生しない。それは一般に、進行性のβ細胞破壊と関連しているとみなされ、健常対象と比較して罹病率および死亡リスクの増加と関連している。β細胞機能は2型糖尿病においても悪化し得るので、本開示は2型糖尿病の予防および/または処置にも関与し得る。
【0025】
1型糖尿病を予防および/または処置するために、対象に自己である糞便移植などの糞便物質を使用できることが見出された。このような処置はまた、1型糖尿病におけるハニムーン期、すなわち、膵臓が体内での外因性インスリン必要量を制限し、血糖コントロールを維持するのに顕著な十分な量のインスリンを依然として産生することができる診断後の期間を延長することができる。この期間を延長すれば、患者のQOLを劇的に改善することができる。この処置はまた、1型糖尿病の症状、例えば、眼(複数可)、腎臓(複数可)、神経および/または脳の機能障害に関連する症状または合併症の重症度を低下させるために適用することができる。
【0026】
より具体的には、処置は、β細胞機能の崩壊を阻害し、かつ/あるいは膵島(β)細胞自己抗体、インスリンに対する自己抗体、GADに対する自己抗体(GAD65)、チロシンホスファターゼIA-2およびIA-2βに対する自己抗体、ならびに/または亜鉛トランスポーター8(ZnT8)に対する自己抗体のような1型糖尿病に関連する自己抗体の産生を阻害し得る。
【0027】
1型糖尿病の症状には、多尿、多飲、多食、体重減少、疲労、悪心、および霧視が含まれ得る。症候性疾患の発症は、突然起こりうる。この点で、1型糖尿病患者が糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)に罹患していることは珍しくない。以下の診断基準は、1型および2型糖尿病に適用できる(米国糖尿病学会、ADA):
- 空腹時血漿グルコース(FPG)レベル、126mg/dL(7.0mmol/L)以上、または
- 75g経口グルコース負荷試験(OGTT)中の2時間血漿グルコースレベル、200mg/dL(11.1mmol/L)以上、または
- 高血糖もしくは高血糖緊急症の古典的症状を有する患者におけるランダム血漿グルコース、200mg/dL(11.1mmol/L)以上。
【0028】
さらに、および/または代替として、混合食試験後のC-ペプチド応答を、実施例に記載されているように、および/またはLachin et al(2011 PLoS ONE Vol.6(11)e26471)によって記載されているように、評価することができる。
【0029】
1型糖尿病および/またはその先行症状は、膵島(ベータ)細胞自己抗体、インスリンに対する自己抗体、GADに対する自己抗体(GAD65)、チロシンホスファターゼIA-2およびIA-2ベータに対する自己抗体、ならびに亜鉛トランスポーター8(ZnT8)に対する自己抗体ならびにHbA1cの増加および耐糖能の変化を含む1つ以上の自己免疫マーカーの存在によって確認することができる。
【0030】
橋本病
橋本病は、臓器特異的な自己免疫疾患であり、最も発症率が高い。それは、橋本甲状腺炎、または慢性リンパ性甲状腺炎とも呼ばれ、甲状腺が徐々に破壊される自己免疫疾患とされている。橋本病の原因はいまだ不明であるが、甲状腺に対する不適切な細胞性免疫応答および自己抗体産生が、一般に関与していると考えられている。
【0031】
甲状腺機能低下が明らかになるまでは、甲状腺の肥大が典型的には唯一の症状である。しかしながら、この疾患は甲状腺機能低下症に進行することがあり、それにより、浮腫、体重増加、および易疲労性(疲労感を受けやすい)、寒冷および下痢に対する感受性、ならびに皮膚乾燥、嗄声、徐脈、および/またはアキレス腱反射の遷延性弛緩局面などの身体所見を含む症状をしばしば引き起こす。
【0032】
橋本病は、患者の血清中に抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体および抗サイログロブリン(Tg)抗体が存在することで確認され得る。さらに、甲状腺刺激ホルモン(TSH)のレベルの上昇、および遊離T4(FT4)のレベルの低下、遊離T3のレベルの低下、および/または抗ミクロソーム抗体レベルの上昇は、健常な個体の平均と比較して、陽性診断を得るのに役立ち得る。
【0033】
橋本病は現在、レボチロキシン(FT4補給)、トリヨードチロニン(T3補給)または乾燥甲状腺抽出物などの甲状腺ホルモン補充剤で処置されている。本発明者らは、本開示による糞便物質、例えば、対象に自己由来である糞便細菌叢移植は、橋本病を予防および/または処置するために、任意に上記の甲状腺ホルモン補充剤と併用して使用することができることを見出した。本開示による処置は、橋本病の症状、例えば、上記の1つ以上の症状または合併症の重症度を低減するためにも適用することができる。
【0034】
グレーブス病
グレーブス病は、甲状腺を侵す自己免疫疾患であり、甲状腺機能亢進症の最も一般的な原因である。当該疾患は、甲状腺刺激ホルモン受容体、すなわち甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体に結合する血清中の自己抗体の存在によって特徴づけることができる。これらの抗TSH受容体抗体(TBII)は、甲状腺を過剰刺激し、それは、甲状腺腫および甲状腺中毒症の兆候、ならびに患者のサブセットにおける眼筋の関与(グレーブス眼症)につながる可能性がある。
【0035】
その症状の中に、甲状腺機能亢進症、甲状腺腫、および眼窩症がある。その他の主な症状としては、体重減少(食欲増進を伴う)、疲れやすさ、息切れ、多汗、手指のふるえ、下痢、周期性麻痺(男性における)、および筋力低下が含まれる。グレーブス眼症に関しては、患者は、眼球の突出、霧視および眼の乾燥/赤み(まれな場合において失明につながることがある)に悩まされることがある。2つの兆候は、グレーブス病に真に特異的であり、他の甲状腺機能亢進状態では見られない:眼球突出および脛骨前粘液水腫。
【0036】
グレーブス病は、健常な個体と比較して、低い血清TSHレベル(ときに検出可能でない)ならびに/または遊離T3および遊離T4の上昇によって確認され得る。患者は典型的には、血清中の抗TSH受容体抗体(TBII)が陽性となることがある。
【0037】
グレーブス病の現在の処置には、抗甲状腺薬(ブロックおよび補充療法)、放射性ヨウ素(放射性ヨウ素I-131)の投与;ならびに/または甲状腺切除(腺の外科的切除)が含まれ得る。通常、スルマゾールおよびメチマゾール(PTU)が処方され、続いてレボチロキシン(FT4補給)、トリヨードサイロニン(T3補給)または乾燥甲状腺抽出物などの甲状腺ホルモン補充剤が処方される。
【0038】
上記の処置の代わりに、またはこれと組み合わせて、本発明者らは、本開示による糞便物質、例えば、対象に自己由来である糞便微生物叢移植を用いて、眼症を含むグレーブス病を予防および/または処置することができることを見出した。本開示による処置はまた、グレーブス病の症状、例えば、上記の1つ以上の症状または合併症の重症度を低減するために適用することができる。
【0039】
アジソン病
アジソン病は、副腎が十分なステロイドホルモンを産生しない慢性の内分泌性自己免疫疾患である。当該疾患は、副腎(皮質および髄質の両方が産生するホルモン)の破壊によって起こる。当該疾患は、他の臓器特異的自己免疫障害(例えば、1型糖尿病、橋本病、白斑)による合併症を含む多腺性自己免疫症候群の顕在化であり得る。
【0040】
ACTHの分泌増加による色素沈着過剰は、グレーブス病の特徴的な臨床的兆候である。他の症状としては、胃部の腹痛、起立症、および体重減少が含まれる。
【0041】
典型的には、医学的検査により、起立症、低血糖、低ナトリウム血症、高カリウム血症、および末梢血好酸球増加症が存在するかどうかを判定する。アジソン病を確認するため、診断には、合成下垂体ACTHホルモンテトラコサクチドでの刺激(ACTH刺激試験またはシナクチン試験と呼ばれる)後でも低い副腎ホルモンレベルの証明が、一般的に行われる。
【0042】
処置は一般に、経口ヒドロコルチゾンおよび/またはフルドロコルチゾンなどの鉱質コルチコイドでの補充療法を含む(副腎髄質も含まれる場合)。本発明者らは、本開示による糞便物質、例えば、対象に自己由来である糞便微生物叢移植は、任意にヒドロコルチゾンでの処置に加えて、アジソン病を予防および/または処置するために使用できることを見出した。本開示による処置はまた、アジソン病の症状、例えば、上記の1つ以上の症状または合併症の重症度を低減するために適用することができる。
【0043】
皮膚自己免疫疾患
乾癬(関節炎)
乾癬は慢性自己免疫疾患であり、皮膚細胞の急速な産生につながる。その根底にある病因は、T細胞が健常な皮膚細胞を攻撃することであり、それは、皮膚細胞産生プロセスがオーバードライブに陥る原因となる。新しい細胞は、皮膚の表面に押し出され、そこにそれらは積み重なる。その結果、プラークおよび皮膚の赤色の炎症部位が生じ、それは、乾癬と最も一般的に関連している。乾癬の亜型は、以下を含む。
(1)プラーク乾癬、それは、乾癬の最も頻繁に発生するタイプである。それは、皮膚の領域、典型的には肘、膝、および頭皮を覆う赤色に炎症したパッチによって特徴付けられる。これらのパッチは、多くの場合、帯白色の銀色の鱗屑またはプラークで覆われている;
(2)滴状乾癬、それは、小児によくみられ、小さなピンク色の斑点を引き起こす乾癬の形態であり、典型的には胴体、腕、および脚に発症する;
(3)膿疱性乾癬、それは、成人により多くみられる形態であり、白色の膿で満たされた水疱および赤色の炎症を起こした皮膚の領域を、典型的には手または足上に引き起こす;
(4)逆乾癬、それは、赤色の光沢のある炎症を起こした皮膚の明るい領域を引き起こす。逆乾癬のパッチは、典型的にはわきの下もしくは乳房の下、鼠径部、または皮膚のひだの周囲に発症する;
(5)乾癬性紅皮症、それは、乾癬の重症であり、まれな型である。この形態は、皮膚が日焼けしている外見を呈し得る身体の広い部分を覆うことが多い。この種の乾癬の患者は、発熱を起こすか、または重症化することがあり、この形態の乾癬は、生命を脅かすことがある;
(6)関節の併発を伴う乾癬性関節炎。
【0044】
乾癬症状は、患者によって異なる。一般的な症状には、厚い銀色の鱗屑で覆われた皮膚の赤色のパッチ、小さい鱗屑の斑点(小児によくみられる)、出血することがある乾燥したひび割れた皮膚、かゆみ、灼熱感もしくは痛み、肥厚、陥凹もしくは隆起した爪、および/または腫脹し、かつ硬い関節が含まれる。ほとんどのタイプの乾癬は、周期的に進行し、数週間またはさらに数カ月にわたって発赤し、その後、ある期間鎮静し、または寛解に至ることさえある。乾癬性関節炎(psoriasis arthritis)(または乾癬性関節炎(psoriatic arthritis))は、関節炎の関節の腫れ、痛みが乾癬と共に起こる状態である。
【0045】
体の小さな領域にのみ限局する軽症の疾患の場合は、クリーム、ローション、およびスプレーなどの局所的処置(皮膚に塗る)が、一般的に処方される。ときに、強固な、または抵抗性の孤立性乾癬斑に直接ステロイドを局所注射することが有用であり得る。
【0046】
腫瘍壊死因子(TNF)拮抗薬(または抗TNFα療法)は、中等度から重度の乾癬または乾癬性関節炎の処置における第一選択薬となっている。例としては、インフリキシマブ、エタネルセプト、およびアダリムマブが含まれる。抗TNFα療法は、乾癬および乾癬性関節炎の両方を処置するのに有効であることが見出されており、心血管事象のリスクも低下させる可能性がある。本発明者らは、加えて、または代替的に、本開示による糞便物質、例えば、対象に自己由来である糞便微生物叢移植を、乾癬および/または乾癬性関節炎の予防および/または処置に使用できることを見出した。さらに、本開示による処置は、乾癬および乾癬性関節炎の症状、例えば、上記の1つ以上の症状または合併症の重症度を低減するためにも適用することができる。特に、TNFアンタゴニストまたは抗TNFαとの併用処置および本開示による処置は、相乗的であり得る。
【0047】
白斑
白斑とは、体のさまざまな部位に皮膚の白色のパッチが現れる疾患である。これは一般に、皮膚の着色剤素(色)をつくる細胞、すなわちメラノサイトを破壊する自己免疫プロセスによると考えられている。白斑はまた、粘膜(口および鼻の内部など)ならびに眼に生じることがある。
【0048】
最近の研究は、白斑対象の皮膚微生物における微生物群集構造の多様性における生物異常症を明らかにしている。個々の特異的な微生物シグネチャは、白斑特異的な細菌叢よりも優勢であるが、分類学的豊富さおよび均等性の明確な低下が、病変パッチにおいて記録され得る(Ganju et al Sci Rep.2016 Jan 13;6:18761)。
【0049】
白斑の白色パッチは、皮膚が日光に定期的にさらされている領域においてより一般的である。パッチは、手、足、腕、顔、および唇に、しかしときにはまたわきの下および鼠径部、口の周囲、眼、鼻孔、へそ、生殖器、直腸領域にできることがある。さらに、白斑のある人では、早期(例えば35歳未満)に灰色に変わる毛髪がしばしばみられる。
【0050】
紫外線(UV)は、診断のために、およびUV処置の有効性を決定するために、特に白斑の初期の局面で使用することができる。白斑のある皮膚は、紫外線にさらされると、典型的には青色に光る。対照的に、健康な皮膚は、反応を示さない。
【0051】
白斑は、分節性白斑(SV)および非分節性白斑(NSV)に分類でき、NSVが、白斑の最も一般的なタイプである。
【0052】
非分節性白斑(NSV)では、典型的には脱色素のパッチの位置に対称性がある。極端な症例では、色素沈着した皮膚はほとんど残らず、これを汎発性白斑と呼ぶ。NSVはどの年齢でも発症し得、一方分節性白斑は10代ではるかに多くみられる。
【0053】
分節性白斑(SV)は、脊髄からの後根と関連し、最もしばしば片側性である皮膚の領域に影響を及ぼす傾向がある。それは、正規の過程を経て、はるかにより安定/静的である。SVは、典型的には紫外線療法では改善せず、細胞移植などの外科的処置が有効となりうる。
【0054】
白斑には根治的な治療法はないが、いくつかの処置選択肢が利用可能であり、紫外線および/またはクリームが含まれる。コルチコステロイドまたはグルココルチコイド(クロベタゾールおよび/またはベタメタゾンなど)ならびにカルシニューリン阻害薬(タクロリムスおよび/またはピメクロリムスなど)を含む免疫抑制薬物療法の局所用製剤(すなわち、クリーム)は、第一線の白斑処置と考えられ、一方、UV(B)療法は、白斑に対する第二線の処置と考えられる。
【0055】
本発明者らは、上記の処置(複数可)に加えて、またはその代わりに、本開示による糞便物質、例えば、対象に自己由来である糞便細菌叢移植を、白斑を予防および/または処置するために使用できることを見出した。さらに、本開示による処置はまた、白斑の症状、例えば、上記の1つ以上の症状または合併症の重症度を低減するために適用できる。
【0056】
リウマチ疾患
関節リウマチ
関節リウマチ(RA)は、免疫系が関節を攻撃する自己免疫疾患として見ることができる。それによって炎症に至り、それによって関節の内側を覆う組織(滑膜)が厚くなり、関節が痛む。
【0057】
処置しなければ、RAは、関節内の骨の末端を覆う弾性組織である軟骨、さらには骨そのものを損傷し得る。最終的には、軟骨の喪失、関節のゆるみ、不安定、痛み、および可動性の喪失、またはさらには変形が起こり得る。残念ながら、関節損傷は一般的には回復できず、したがってRAを抑制するために早期の診断および処置が推奨される。
【0058】
RAは、手、足、手首、肘、膝、および足首の関節に最も一般的に発生する。RAはまた、心血管系または呼吸器系などの身体系に影響し得、その後、全身性RAと呼ばれる。早期の段階では、RAを有する人々は、関節に圧痛および痛みを感じることがある。
【0059】
RAの症状には、こわばりおよび関節痛、特に小関節(手首、手および足の特定の関節)が含まれ、典型的には6週間以上にわたる。痛みとともに、多くの人が疲労感、食欲不振および軽い発熱を体験する。
【0060】
RAを明確に確認できる単一の検査はないが、炎症レベルを測定し、RAと関連している抗体などのバイオマーカーを探す血液検査を行うことができる。
【0061】
健常な個体と比較しての高い赤血球沈降割合および高いC反応性タンパク質(CRP)レベルは、炎症のバイオマーカーである。高ESRまたは高CRPは、RAに特異的ではないが、RA関連抗体の存在と組み合わせると、RA診断を確認できる。
【0062】
リウマチ因子(RF)は、RAを有する人の大半にみられる抗体である。RFは他の炎症性疾患で起こりうるため、それは、RAを有する決定的な兆候ではない。しかしながら、異なる抗体-抗環状シトルリン化ペプチド(抗CCP)-は、主にRA患者で発生する。それによって、陽性の抗CCP検査はRAのより強い指標となる。さらに、X線、超音波または磁気共鳴画像法による走査を行って、関節腔のびらんおよび狭窄などの関節の損傷を探すことができる。
【0063】
処置に関しては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が一般的に処方され、それは関節炎の痛みおよび炎症を緩和できる。NSAIDの例としては、イブプロフェン、ケトプロフェンおよびナプロキセンナトリウムが挙げられる。さらに、プレドニゾン、プレドニゾロンおよびメチプレドニゾロンを含むコルチコステロイドを、抗炎症薬物療法として投与することができる。
【0064】
疾患の進行を遅らせるために、DMARD、すなわち疾患修飾性抗リウマチ薬を使用することがある。DMARDには、メトトレキサート、ヒドロキシコロキン、スルファサラジン、レフルノミド、シクロホスファミドおよびアザチオプリンが含まれる。DMARDのサブカテゴリーが、Janusキナーゼ、すなわちJAK経路を遮断する「JAK阻害剤」として知られている。一例は、トファシチニブである。
【0065】
生物学的製剤は、従来のDMARDよりも迅速に作用し得、注射されるかまたは点滴によって施与される。RAを有する多くの人では、生物学的製剤によって疾患の進行を遅らせ、修正し、または停止させることができる。特に好ましいのは、腫瘍壊死因子(TNF)拮抗薬(抗TNFα療法)である。
【0066】
本発明者らは、上記の処置(複数可)に加えて、またはその代替として、本開示による糞便物質、例えば、対象に自己由来である糞便細菌叢移植を、上記のリウマチ性関節炎および/またはその症状の1つ以上を予防および/または処置するために使用できることを見出した。TNFアンタゴニストまたは抗TNFαとの本開示による併用処置(例えば糞便細菌叢移植での)は、相乗的であり得る。
【0067】
ベヒテレフ病
ベヒテレフ病(または強直性脊椎炎)は、特に軸骨格が関与する慢性自己免疫性リウマチ性障害である。典型的には、それは、年齢20~30歳の男性成人に発症する。
【0068】
最も重篤な症状は、頸部痛および腰痛である。典型的な症状は、仙腸関節の炎症と同様に夜間痛である。いくらかの患者において、脊椎の骨の変形が起こり得、その結果、動作が制限されることがある。これらの脊椎の愁訴とは別に、末梢関節の炎症が一般的である。
【0069】
ベヒテレフ病を診断するために、脊柱の検査を行って、頸椎および腰椎の可動性の制限を評価する。Schober試験は、腰椎前屈制限の量を推定するのに有用であり得る。診断は、患者の血液中のHLA-B27抗原の発見により確認できた。
【0070】
処置の選択肢には、NSAID、スルファサラジン、メトトレキサート、レフルノミド、コルチコステロイド、TNFα阻害剤(複数可)の投与が含まれる。本発明者らは、上記の処置(複数可)に加えて、またはその代替として、本開示による糞便物質、例えば、対象に自己由来である糞便細菌叢移植を用いて、上記のベヒテレフ病および/またはその症状の1つ以上を予防および/または処置することができることを見出した。特に、本開示による処置(例えば糞便細菌叢移植での)のTNFアンタゴニストまたは抗TNFαとの併用は、相乗的であり得る。
【0071】
消化管自己免疫疾患
セリアック病
セリアック(Celiac)病(またはセリアック(coeliac)病)は、グルテンの摂取が小腸上皮細胞の損傷につながる自己免疫障害である。それは、典型的には、遺伝的に素因のある人において、および1型糖尿病と併発して起こり得る。セリアック病および1型糖尿病は、遺伝的遺伝因子ならびに食事および微生物への露出が特に生命の初期において何らかの役割を果たし得る同様の病因を有し得る(例えば、Verdu and Danska Nature Immunology|VOL 19|JULY 2018|685-695参照)。
【0072】
セリアック病の人がグルテン(小麦、ライ麦およびオオムギ中に見出されるタンパク質)を食べると、彼らの体は小腸を攻撃する免疫応答を開始し、絨毛(小腸の内側である小さい指状の突起)の損傷を引き起こす。絨毛が損傷を受けると、栄養分は腸から適切に吸収され得ない。症状は、腹部痙攣、栄養不良および骨粗鬆症である。
【0073】
セリアック病抗体をスクリーニングする有用ないくつかの血清学的(血液)検査があるが、最も一般的に用いられるのはtTG-IgA検査である。この検査が機能するためには、患者はグルテンを消費していなければならない。さらに、内視鏡的生検によりセリアック疾患の診断に到達できる。その後、小腸の生検を行い、それをその後分析して、セリアック病に合致する何らかの損傷があるかどうかを確認する。診断は、グルテンを含まない食事をしている間に改善が見られた場合に確認され得る。
【0074】
現在、セリアック病に対する唯一の処置は、厳格なグルテン除去食である。グルテンを含まない生活をしている人は、小麦、ライ麦および大麦の入った食べ物、例えばパンおよびビールを避けなければならない。少量のグルテンを摂取すると、小腸の損傷を引き起こすことがある。本発明者らは、上記の処置(複数可)に加えて、またはその代替として、本開示による糞便物質、例えば、対象に自己由来である糞便細菌叢移植を用いて、上記のセリアック病および/またはその症状の1つ以上を予防および/または処置することができることを見出した。
【0075】
喘息
本開示の文脈では、喘息において同様に作動している可能性のある自己免疫機序を考慮して、喘息の予防および/または処置もまた予想される。
【0076】
喘息は、肺の気道の一般的な慢性炎症性疾患である。それは、可逆性の気流閉塞および気管支痙攣によって特徴づけられ得る。症状には、咳、喘鳴、胸部圧迫感、および息切れのエピソードが含まれる。
【0077】
喘息の確定的な診断検査は現在のところ存在せず、診断は、典型的には症状のパターンおよび経時的な療法に対する応答に基づく。喘鳴、咳、または呼吸困難を繰り返す病歴があり、運動、ウイルス感染、アレルゲンおよび/または大気汚染によりこれらの症状が発生または悪化している場合は、喘息と診断することができる;また、気管支拡張薬に対するFEV1試験を行って、肺機能に対する影響を検討する。
【0078】
喘息の効果的な処置は、タバコの煙、ペット、またはアスピリンなどの疾患の引き金となるものを特定し、これらの引き金への曝露を解消することである。さらに、気管支拡張薬がしばしば推奨される。軽症ではあるが持続性の疾患の場合は、低用量の吸入したコルチコステロイドまたはその代替として、ロイコトリエン拮抗薬もしくは肥満細胞安定薬を、適用することができる。重篤な喘息、すなわち毎日発作を起こす患者には、吸入したコルチコステロイドを、すなわちより高い用量で使用することができる。
【0079】
本発明者らは、上記の処置(複数可)に加えて、またはその代替として、本開示による糞便物質、例えば、対象に自己由来である糞便細菌叢移植を用いて、上記の喘息および/またはその症状の1つ以上を予防および/または処置することができることを見出した。
【0080】
本開示による処置の有効性は、Korpela et al(Nat Commun.2016 Jan 26;7:10410)により仮定されている腸内マイクロバイオーム組成と喘息発症のリスクとの間の関連性を確認する。
【0081】
他の状態
本開示はまた、特に自己免疫性肝炎、糖尿病1a型および/または1b型、多腺性自己免疫症候群、ギラン・バレー症候群、多発性硬化症、重症筋無力症、悪性貧血、原発性胆汁性肝硬変、硬化性胆管炎、抗リン脂質抗体症候群、皮膚筋炎、混合性結合組織病、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、強皮症、シェーグレン症候群、および全身性エリテマトーデスを含む他の自己免疫疾患を予防および/または処置する状況で使用され得る。しかしながら、上記疾患のいずれかが本開示から除外されることも想定される。
【0082】
さらに、本開示による糞便物質は、アレルギー疾患としても知られるアレルギーを予防および/または処置するために使用されてもよく、それは、環境中の典型的に無害な物質に対する免疫系の過敏性によって引き起こされる状態である。一般的なアレルギーには、花粉熱(植物花粉アレルギー)および食物アレルギー(例えば、牛乳、大豆、卵、小麦、ピーナッツ、木の実、魚、および/または貝に関連する)が含まれる。
【0083】
本開示はまた、以下の疾患の予防および/または処置を可能にし得るが、好ましくは、これらの疾患は、本開示の範囲から除外される:胃腸障害、Clostridium difficile感染症、Morbus Crohn(クローン病)、潰瘍性大腸炎もしくは炎症性腸疾患(IBD)、および/または過敏性腸症候群(IBS)。代替的に、および/または追加的に、以下の疾患のいずれかを、本開示から除外してもよい:全身性および限局性(臓器特異的)自己免疫疾患、内分泌性自己免疫疾患、1型糖尿病、2型糖尿病、橋本病、グレーブス病、またはアジソン病、皮膚自己免疫疾患、乾癬または白斑、リウマチ性自己免疫疾患、関節リウマチ、ベヒテレフ病、および消化管自己免疫疾患、セリアック病。
【0084】
本開示による処置
好ましい実施形態では、本開示による糞便物質は、対象の消化管、好ましくは対象の小腸、最も好ましくは十二指腸に投与される。十二指腸は、哺乳動物を含むほとんどの高等脊椎動物の小腸の最初の区域である。十二指腸は、空腸および回腸に先行し、小腸の最も短い部分である。ヒトでは、十二指腸は、胃を遠隔の十二指腸に接続する25~38cmの中空の管である。それは、十二指腸球部で始まり、十二指腸の提筋で終わる。
【0085】
糞便物質を対象の結腸(または盲腸)に投与することも可能であるが、対象の結腸(または盲腸)への投与は、好ましくは本開示に包含されない。
【0086】
明白であるように、本開示による糞便物質は、糞便、すなわち、(朝の)便のような腸(肛門)から排出される排泄物、またはその一部および/またはそれに由来する組成物であり得る。
【0087】
さらに、および/または代替として、本開示による糞便物質は、自己または同種の糞便の1以上の構成成分/画分を指し得、前記構成成分/画分は、好ましくは、細菌、ウイルス、バクテリオファージ、真菌、代謝産物、タンパク質、および/またはマイクロRNA(例えば、Lui,Cell Host Microbe.2016 Jan 13;19(1):32-43に開示されているように)、抗体、抗原、免疫調節/シグナル伝達成分、エンテロ(内分泌)シグナル伝達成分、神経シグナル伝達成分および/または構造成分からなる群から選択される。本明細書中で使用される用語「シグナル伝達」は、このようにして、成分が、本明細書中に開示されるような対象の細胞、特に(腸内分泌または神経)細胞を引き起こし、または誘導して、特定の化合物を排泄するか、またはトランスクリプトームもしくは遺伝子発現の変化を提示するなど、異なる作用をすることができることを示す。例えば、腸内分泌シグナル伝達成分は、腸内分泌細胞が機能性分子を放出する引き金となりうる。ウイルス、細菌、真菌などのマイクロバイオームの構成成分および/または代謝産物もしくはmiRNAを含む細菌莢膜化合物のような誘導産物は、B細胞クローン機能および調節性T細胞を再設定することによって免疫系を調節し、それは次に、自己免疫応答を阻害し得る。
【0088】
構成成分/画分は、例えば、de Vos(Microb Biotechnol.2013 Jul;6(4):316-325)により開示されているように、構成成分の1つ以上であってもよい。所望の処置または予防効果を有する自己源から得られる特定の1以上の成分/画分はまた、同種源から得ることができる。したがって、同種異系供給源から得られ、所望の治療および/または予防効果を有するそのような1つ以上の成分/画分は、本開示に明示的に包含される。
【0089】
本開示による糞便物質であって、自己または同種の供給源から得られるものは、したがって細菌、すなわち細菌叢または腸内微生物細胞であるかまたはそれを含み得、門は、以下からなる群から選択される1つ(または組み合わせ)であってよい:
- ユーバクテリウム属、腸内細菌、フェカリバクテリウム、クリステンセネラ、アナエロチプス、アガトバクター、ローズブリア、コプロコッカス、クロストリジウム、サブドリグラニュラム、アナエロトランカス、フラビノバクター、ルミノコッカス、ブチリコッカス、ブチロビブリオ、スポロバクター、パピリバクター、オシロバクター、オシロスピラ、ヴェイロネラ、ラクトバチルス、連鎖球菌に属するようなファーミキューテス;
- エシェリヒア属もしくはエンテロバクター属に属するようなプロテオバクテリア;
- ビフィズス菌もしくはコリンセラ属に属するような放線菌;
- バクテロイデス属、プレボテラ属もしくはアリスチペス属に属するバクテロイデス、および/または
- アッカーマンシア属に属するようなVerrucomicrobia。
【0090】
糞便物質はまた、真核生物、古細菌、および細菌から選択される、好ましくは、Rajilic-Stojanovicおよびde Vos(2014 FEMS Microbiol Rev.38(5):996-1047)によって開示された1057種の群から選択される細菌叢または腸内微生物細胞であり得るか、またはそれを含む。
【0091】
合計で10~1016、10~1015、10~1014、10~1012、好ましくは10~1010の細菌細胞が、好ましくは糞便物質に含まれ得る。
【0092】
本開示はまた、本開示による糞便物質(自己または同種)がアデノウイルス、ロタウイルス、サポウイルス、エンテロウイルス、および/またはレオウイルスからなる群から選択されるような1以上のウイルスに関するかまたはそれを含むことも包含する。同時に、または代替として、糞便物質は、等尺性バクテリオファージおよび/または尾部バクテリオファージ(caudovirales)のような1つ以上のバクテリオファージに関するかまたはそれを含む。例えば、前記バクテリオファージは、Manrique et al(2016 Proc Natl Acad Sci U S A.2016 13;113(37):10400-5)によって開示されているように、23の共有バクテリオファージのうちの1つ以上、または44のバクテリオファージ群のうちの1つ以上であり得る。
【0093】
さらに、および/または代替的に、本開示による糞便物質(自己または同種)は、好ましくはカンジダ酵母およびDipodascaceae科(Galactomyces、Geotrichum、Saprochaete)、マラセジアおよび糸状菌Cladosporium、PenicilliumおよびDebaryomyces種、Saccharomyces cerevisiae、および/またはAspergillus種の酵母からなる群から選択される1以上の真菌および/または酵母であるかまたはそれを含み得る。
【0094】
また、本開示による糞便物質(自己または同種)は、代謝物、すなわち(ヒトおよび/または細菌叢)代謝で形成された化合物および/または物質、例えば2302種の(潜在的)代謝物、1388種の陽性に同定された代謝物および/またはBi-Feng Yuan et al(2018 Anal.Chem.,Article ASAP DOI:10.1021/acs.analchem.7b05355)によって開示された308種の確認された代謝物であるかまたはそれを含み、カルボキシル、カルボニル、アミンおよび/またはチオール官能性部分を有する代謝物を含むことが予見される。
【0095】
好ましくは、代謝物(複数可)は、短鎖脂肪酸(SCFA)、遊離脂肪酸(FFA)、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、多価不飽和脂肪酸(PUFA)、胆汁酸、フェニル乳酸(PLA)、リポテイコ酸(LTA)から選択される、ならびに/またはp-ヒドロキシフェニル酢酸、タウロコール酸、酪酸、酢酸、ピペコール酸、エタノール、γ-アミノ酪酸、グリコール酸、ホモバニリン酸、フマル酸、グリココール酸、d-ガラクトース、グルタミン酸、l-チロシン、l-フェニルアラニン、l-アラニン、l-プロリン、l-スレオニン、l-トリプトファン、d-マンノース、l-イソロイシン、l-ヒスチジン、l-リシン、l-乳酸、オレイン酸、フェニル酢酸、パルミチン酸、フェノール、プロピオン酸、ピルビン酸、コハク酸、d-リボース、ウリシン、3-ヒドロキシ酪酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)プロパン酸、3,4-ジヒドロキシヒドロ桂皮酸、3-ヒドロキシフェニル酢酸、アジピン酸、ブタノン、バニリン酸、および/もしくは4-ヒドロキシ安息香酸から選択される1種以上、ならびに/またはコール酸、グリココール酸、タウロコール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、グリコケノデオキシコール酸、タウロケノデオキシコール酸、リトコール酸からなる群から選択される胆汁酸である。
【0096】
しかしながら、本開示による糞便物質(自己または同種)は、タンパク質、すなわち自己糞便のタンパク質画分であるかまたはそれを含むことが特に好ましい。この点に関して、「タンパク質」という用語は、特定の作用様式、サイズ、3次元構造または起源に言及することなく、アミノ酸の鎖からなるかまたはそれを含む分子を指す。好ましくは、これは、分子量が1,000~500,000ダルトン、または1,000~100,000ダルトンまたは100,000~500,000ダルトン、または100,000~300,000ダルトンのタンパク質に関する。タンパク質は、腸からの分解産物、細菌タンパク質および/または食物タンパク質であり得る。タンパク質は、例えばビードビーティングによって糞便サンプルから抽出することができる(例えば、Kolmeder et al .2012 PLoS One.7:e29913参照)。これらのタンパク質は、大きさが変化し得、抗体、ペプチド、および/または酵素であり、したがってアルカリホスファターゼのような酵素活性を有し得る。
【0097】
タンパク質は、Kolmeder et al(2012 PLoS One.7:e29913)に開示されているように、1つ以上のタンパク質であり得る。具体的な実施形態では、タンパク質は、抗体、例えば免疫グロブリンA(IgA)、免疫グロブリンE(IgE);免疫グロブリンM(IgM)および/または免疫グロブリンG(IgG)である。
【0098】
また、本開示による糞便物質(自己または同種)は、抗原(複数可)、すなわち、対象において免疫応答および/または免疫寛容誘導を誘導することができ、次に自己免疫反応の阻害につながり得る物質または分子であるかまたはそれを含むことが予見される。
【0099】
前述したように、本開示による糞便物質(自己または同種)は、(構造的)成分、例えば、レシピエントの免疫系、すなわち、例えば、細菌叢に由来し得る免疫系コミュニケーション分子と連絡し、かつ/または相互作用する成分であるかまたはそれを含み得る。
【0100】
好ましい実施形態では、このような成分は、1以上のToll様受容体リガンドである。Toll様受容体(TLR)活性化が自己免疫疾患に関与し得ることが推測されている。本開示において、そのような1つ以上のToll様受容体リガンドは、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、TLR11、TLR12、TLR13、TLR14についてのリガンドならびに/または細菌性リポタンパク質および/もしくはペプチドグリカン、細菌性ペプチドグリカン、二本鎖RNA、リポ多糖、細菌性鞭毛、細菌性リポタンパク質、一本鎖RNA(細菌および/もしくはウイルス)、一本鎖RNA(細菌および/もしくはウイルス)、食作用細菌性RNA、CpG DNA、Toxoplasma gondiiからのプロフィリン、また場合によっては尿路病原性細菌、Toxoplasma gondiiからのプロフィリン、ならびに/または細菌性リボソームRNAもしくはマンノース結合レクチン(MBL)からなる群から選択され得る。
【0101】
本開示による予防および/または処置は、対象から得られたかまたは由来した糞便物質を、前記対象の小腸、好ましくは十二指腸に投与することを含むことができる。この点に関して、糞便は、経腸投与、好ましくは経口投与、経鼻投与もしくは直腸内投与、および/または(経鼻)十二指腸チューブによるような十二指腸投与によって投与することができる。予想されるが、好ましくは除外されるのは、静脈内投与である。
【0102】
糞便物質は、所望の治療および/または予防効果を達成するのに有効な量、すなわち、十分な量、例えば、それぞれの状態の処置および/または予防をもたらす量、例えば、少なくとも0.1、0.5、1、10、50、100、500mg、または少なくとも1、5、10、25、50、100、250、500gで適用され得る。治療的または予防的適用の関連において、対象に投与される量は、疾患または状態の種類および重症度、ならびに一般的健康状態、年齢、性別、体重および薬物に対する耐性などの対象の特性に依存し得る。それはまた、疾患または状態の程度、重症度および種類に依存し得る。熟練者は、これらの、および他の要因に依存して適切な用量を決定することができるであろう。
【0103】
好ましい実施形態では、本開示による予防および/または処置は、対象から得られた糞便物質の前記対象の小腸、好ましくは十二指腸への、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50回の別々の投与を含み、好ましくは、前記別々の投与間の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、10、20、30、40、50週間の間隔を伴う。予防および/または処置はまた、毎日、毎週、毎月の投与、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10日/週/月内に1回または2回を含むことができ、および/または少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50週(または月またはさらに年)の期間の間であり得る。
【0104】
糞便物質は、液体媒体に含まれてもよく、および/または好ましくは、1、2、3、4、5、10、15、20、25、50、75、100、200、400、600、800、または1000μmを超える直径を有する固体を含まず、好ましくは自己糞便を水性媒体(例えば、0.5~1.5重量%のNaCl、例えば0.9重量%のNaClを含む水溶液)と混合し、続いてろ過(最大で500、400、300、200、100、50、40、30、20、10μmの細孔を持つフィルターを通して)および/または遠心分離(例えば、少なくとも5,000、10,000gで少なくとも1、2、3、4、5、10分間)することによって得られる。このような組成物を、抽出物と呼ぶことができる。用語「固体」で、多くても30、20、10、5、1重量%の水を有する別個の粒子を意味する。
【0105】
また、糞便物質は、採取された糞便に対して(実質的に)精製または濃縮されることも予見される。例えば、糞便の1つ以上の(群の)構成成分の濃度が、前記糞便に対して増加し、かつ/または、糞便物質中の1つ以上の(群の)構成成分の濃度が、全構成成分に対して、および/または全糞便物質に対して、少なくとも40、50、60、70、80、90、95、99重量%である。このような処理された糞便物質は、例えば、以下によって得ることができる:
- 前述の遠心および/または濾過、例えば液体画分から固体を分離する;
- 異なるサイズの成分への糞便物質(例えば液体媒体中)の濾過;
- 微生物細胞を破壊するが、タンパク質をほとんど無傷に保つ例えばビードビーティングによる糞便物質の崩壊;
- 本明細書の他の箇所に記載されている糞便物質の凍結乾燥;ならびに/あるいは
- 超音波処理、例えば、周囲の構造/物質から所望の成分を除去する。
【0106】
本開示による糞便物質は、組成物、好ましくは医薬組成物、より好ましくは液体または固体投薬形態、最も好ましくはカプセル、錠剤、または粉末で構成されることがさらに予見される。
【0107】
経口投与の場合、糞便物質、例えば自己糞便の1つ以上の構成成分を、カプセル、錠剤、および粉末のような固形剤形、またはエリキシル剤、シロップ、および懸濁液のような液体剤形で投与することができる。また、担体、例えば活性炭を適用することができる。
【0108】
糞便物質は、医薬として、および/または任意の不活性担体であり得る生理学的に許容可能な担体を伴って使用され得る。例えば、適切な生理学的または薬学的に許容される担体の非限定的な例としては、任意の周知の生理学的または薬学的担体、緩衝剤、希釈剤、および賦形剤が挙げられる。適当な生理学的担体のための選択は、ここで教示されるような組成物の意図された投与の様式(例えば、経口)および組成物の意図された形態(例えば、飲料、ヨーグルト、粉末、カプセルなど)に依存することが認識されるであろう。当業者は、本明細書で教示されるように使用するための組成物に適しているかまたはそれと適合性である、生理学的に許容可能な担体を選択する方法を知っている。
【0109】
糞便物質は、(腸溶性)コーティング中に含まれ、および/またはそれによってカプセル封入されることが特に好ましく、ここで好ましくは、前記コーティングは、対象の胃環境中で溶解および/または崩壊しない。このようなコーティングは、胃の酸性環境による分解を受けることなく、糞便物質が、例えば十二指腸のような送達のための意図された場所に到達するのを助けることができる。好適な(腸溶性)コーティングは、胃で見出される高酸性のpHで安定であるが、より低いpHでより急速に分解する表面を提示することによって作用する。例えば、それは、胃の胃酸(pH約3)には溶解せず、小腸または十二指腸に存在するアルカリ(pH7~9)環境では溶解する。
【0110】
一実施形態では、本開示による糞便物質は、粘膜結合剤をさらに含むことができる。本明細書中で使用される用語「粘膜結合剤」または「粘膜結合ポリペプチド」は、哺乳動物(例えば、ヒト)の腸粘膜障壁の腸粘膜表面にそれ自体を付着させることができる剤またはポリペプチドを指す。種々の粘膜結合ポリペプチドが、当該技術分野において開示されている。粘膜結合ポリペプチドの非限定的な例としては、コレラ毒素のBサブユニット、大腸菌易熱性エンテロトキシンのBサブユニット、百日咳菌毒素サブユニットS2、S3、S4および/またはS5、ジフテリア毒素のBフラグメントならびに志賀毒素または志賀様毒素の膜結合サブユニットなどを含む細菌毒素膜結合サブユニットが挙げられる。他の適切な粘膜結合ポリペプチドには、大腸菌線毛K88、K99、987P、F41、FAIL、CFAIII ICES1、CS2および/またはCS3、CFAIIV ICS4、CS5および/またはCS6)、P線毛などを含む細菌線毛タンパク質が含まれる。線毛の他の非限定的な例としては、百日咳菌糸状赤血球凝集素、コレラ菌毒素-コレギュレート線毛(TCP)、マンノース感受性赤血球凝集素(MSHA)、フコース感受性赤血球凝集素(PSHA)などが挙げられる。さらに他の粘膜結合剤には、インフルエンザおよびセンダイウイルスヘマグルチニンを含むウイルス付着タンパク質ならびに免疫グロブリン分子またはその断片を含む動物レクチンまたはレクチン様分子、カルシウム依存性(C型)レクチン、セレクチン、コレクチンまたはヘリックスポマチスヘマグルチニン、粘膜結合サブユニットを有する植物レクチンには、コンカナバリンA、コムギ-胚芽凝集素、フィトヘマグルチニン、アブリン、リシンなどが含まれる。
【0111】
一実施形態では、本明細書で教示される使用のための組成物は、液体形態、例えば糞便の安定化された懸濁液であり得、例えば自己の糞便の1つまたは複数の成分を固体の形で含み、例えば本明細書で教示される凍結乾燥成分の粉末。例えば、ラクトース、トレハロースまたはグリコーゲンのような凍結保護剤を用いることができる。
【0112】
任意に、糞便物質は、場合によってはグルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、デンプン、セルロースまたはセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、タルク、炭酸マグネシウム等のような不活性成分および粉末担体と共に、ゼラチンカプセルのようなカプセルに封入することができる。
【0113】
一実施形態において、本開示による糞便物質は、1つ以上の成分を含んでいてもよく、それらは、例えば、貯蔵中および/または胆汁への曝露中および/または哺乳動物(例えば、ヒト)の消化管を通過する間の胆汁への曝露中および/または通過中の、生存および/または生存性を促進する、および/または糞便物質もしくはその成分の完全性を維持するのに適している。このような成分の非限定的な例には、胃を通過することを可能にする前に記載の腸溶コーティング、および/または制御放出剤が含まれる。熟練者は、糞便物質が意図された目的の箇所に到達し、そこでその作用を発揮することを保証するために、適切な成分をどのように選択するかを知っている。
【0114】
一実施形態では、本明細書で教示されるような使用のための組成物は、プレバイオティクス、プロバイオティクス、炭水化物、ポリペプチド、脂質、ビタミン、ミネラル、医薬、保存剤、抗生物質、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される成分をさらに含み得る。
【0115】
特に好ましい実施形態では、本開示による糞便物質は、好ましくはBifidobacterium animalis sub lactisまたはBifidobacterium breve、Lactobacillus plantarum.Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus acidophilus、Eubacterium hallii、Intestinimonas butyriciproducensおよび/またはAkkermansia muciniphilaからなる群から選択されるEubacterium属、Intestinimonas、Bifidobacteria、Lactobacillalesおよび/またはAkkermansiaからの細菌と組み合わせられる。このような細菌細胞の10~1014、10~1012、好ましくは10~1010の総数を、好ましくは使用する。上記の組み合わせは、相乗効果をもたらし得る。糞便物質および細菌は、異なる組成物中に、または単一の組成物(例えば、本明細書に記載されるカプセルもしくは他の剤形)内で一緒に含むことができる。
【0116】
本開示による糞便物質は、ホルモン補給(甲状腺、ヒドロコルチゾン、インスリンなど)、腫瘍壊死因子α(TNFα)阻害剤、および/またはDMARD(関節リウマチ)と追加的に、または代替的に併用され、好ましくはインフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、およびゴリムマブからなる群から選択される。本発明者らは、TNFα阻害剤による処置は、本開示による糞便物質での処置に対する応答を増大させ得、および/または本開示による糞便物質による処置は、TNFα阻害剤での処置に対する応答を増大させ得るという逆もあると考える。好ましくは、TNFα阻害剤は、糞便物質とは異なるかまたは同じ組成で投与される(例えば、カプセルまたは本明細書に記載される他の剤形で)。TNFα阻害剤は、例えば1~10、2~8、3~7、4~6、または5mg/kgの用量で、少なくとも(または多くて)1、2、3、4回、週1回または毎日および/または静脈内/経口投与され得る。
【0117】
本開示による使用のための糞便物質は、凍結乾燥および/またはマイクロカプセル化形態、例えば、前記を含むカプセルに存在することがさらに想定される。好ましくは、前記糞便物質は、固体、凍結乾燥または乾燥形態(すなわち、20、10、5、2、1重量%未満の水を含む)で、例えば、粉末または顆粒形態で存在する。例えば、それは、マイクロカプセル化形態で存在し得る。熟練者は、周知の技術に基づいて、糞便物質を凍結乾燥またはマイクロカプセル化することができ、無酸素条件を適用して、糞便物質に含まれるあらゆる細菌の生存性を保つことができる。
【0118】
マイクロカプセル化の技術は、細菌を保存するために当技術分野で周知である(例えば、Serna-CockおよびVallejocastillo,2013.Afr J of Microbiol Res,7(40):4743-4753)。例えば、Serna-CockおよびVallejocastilloによって教示される保存技術および保存系のあらゆるものが、本開示において使用され得る。
【0119】
凍結乾燥法には、限定されずに、乾燥前にゆっくりと徐々に-40℃に凍結する方法、乾燥前に-80℃に置いて急速に凍結する方法、または乾燥前に液体窒素中に凍結保護剤で細胞を滴下することによって超急速に凍結する方法が含まれる。凍結保護剤は、しばしば凍結乾燥中の組成物を保護し、有効期間を延長するために使用される。限定されずに、スクロース、マルトース、マルトデキストリン、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、イヌリン、グリセロール、DMSO、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリグリセロール、脱脂粉乳、乳タンパク質、乳清タンパク質、UHT乳、ベタイン、アドニトール、スクロース、グルコース、乳糖またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される凍結防止剤を、使用することができる。
【0120】
デンプンおよびコムギふすまのようなプレバイオティクスは、例えば、その効力を増強するために凍結乾燥の前に、本開示の糞便物質にさらに加えることができる。凍結乾燥混合物へのリボフラビン、リボフラビンリン酸塩またはその生理学的に許容可能な塩、グルタチオン、アスコルビン酸塩、グルタチオンおよびシステインのような抗酸化剤の添加は、本開示によれば、糞便物質中に含まれるあらゆる細菌の生存性をさらに増強することができる。
【0121】
糞便物質は、本明細書に開示されるような凍結保護剤、例えばグリセロールの添加および/または-80℃での凍結の後、長期間保存することができる(例えば、少なくとも10、20、40、52週間、または少なくとも1、2、3年間)。さらに、またはその代替として、凍結乾燥は、このような期間にわたって糞便物質を安定化させる。最後に、de Vos(2013 Microb Biotechnol,2013 Jul;6(4):316-25)に記載されているように、糞便物質にも接種することができる。
【0122】
一実施形態では、本明細書で教示されるように使用する糞便物質は、食品または食品サプリメント組成物であってもよく、またはそれらに含まれてもよい。このような食品または食品サプリメント組成物は、乳製品、より好ましくは発酵乳製品、好ましくはヨーグルトまたはヨーグルト飲料を含むことができる。
【0123】
一実施形態において、本明細書で教示されるように使用する組成物は、さらに、本明細書で教示されるように糞便物質の栄養価および/または治療価値をさらに高める1つ以上の成分を含むことができる。例えば、タンパク質、アミノ酸、酵素、ミネラル塩、ビタミン(例えばチアミンHCl、リボフラビン、ピリドキシンHCl、ナイアシン、イノシトール、コリン塩化物、パントテン酸カルシウム、ビオチン、葉酸、アスコルビン酸、ビタミンB12、p-アミノ安息香酸、酢酸ビタミンA、ビタミンK、ビタミンD、ビタミンEなど)、糖および複合炭水化物(例えば水溶性および水不溶性の単糖類、二糖類、および多糖類)、薬用化合物(例えば、抗生物質)、酸化防止剤、微量元素成分(例えばコバルト、銅、マンガン、鉄、亜鉛、スズ、ニッケル、クロム、モリブデン、ヨウ素、塩素、ケイ素、バナジウム、セレン、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムおよびカリウムなど)から選択された1つ以上の成分(例えば、栄養成分、獣医用または医薬剤など)を添加するのが有利であり得る。熟練者は、栄養的および/または治療的/医薬的価値を高めるのに適した方法および成分を熟知している。
【0124】
本開示の文脈において、処置を受ける対象は、好ましくは動物、より好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトである。明らかになるように、本処置は、対照もしくはプラセボ処置として、および/または臨床試験内で行われないことが好ましい。すなわち、参加者が1つ以上の介入/処置、1つ以上の対照もしくはプラセボ介入/処置、または介入を受けていない群に割り当てられた研究のいずれかを受ける群に割り付けられ、その結果、研究者は、生物医学または健康関連のアウトカムに対する介入の効果を評価することができる。
【0125】
さらに、本開示の文脈では、糞便物質が、対象に自己である糞便物質ではなく、処置される対象と同じ疾患を有する対象の糞便物質であり得ることは除外されない。この点で、糞便物質は、処置される対象と同じ疾患を有する任意の対象から得られ、任意に、処置後に、処置される対象(同じ対象であってもよい)に投与され得る。この実施形態では、本明細書に記載された全ての他の(好ましい/任意の)技術的特徴を適用することができる。
【0126】
本文書およびその特許請求の範囲では、語に続く項目が含まれるが、具体的に言及されていない項目は除外されないことを意味するために、「構成する」という動詞およびその接合が、その非限定的な意味で使用される。加えて、不定冠詞「1つの(a)」または「1つの(an)」による要素への言及は、その文脈が、要素の1つおよび1つのみが存在することを明確に要求しない限り、要素の1つより多くが存在する可能性を除外しない。不定冠詞「1つの(a)」または「1つの(an)」は、したがって通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0127】
図1】1型糖尿病患者におけるβ細胞予備能の残存(y軸:AUC混合食試験はCペプチド反応を刺激した;x軸:月単位の時間)。下の直線は、糖尿病1型(DM1)患者における残存β細胞予備能の経時的な減衰を表す。塗りつぶした点を有する破線は、健常ドナーから糞便物質を受けたDM1患者における経時的な残留β細胞予備能を表している。塗りつぶしていない点を有する連続線は、自己(自身の)糞便物質を受けたDM1患者における経時的な残留β細胞予備能を表している。
図2図2の上のグラフは、ドナーから糞便物質を受けた1型糖尿病患者と比較して、自己糞便物質を受けた1型糖尿病患者のインスリンの外因性の必要性を示す;図2の下のグラフは、ドナーから糞便物質を受けた1型糖尿病患者と比較して、自己糞便物質を受けた1型糖尿病患者の糖化ヘモグロビンHbA1cのレベルを経時的に示す。塗りつぶしていない点を有する連続線は、(それぞれ)外因性インスリンの必要性および、自己(自身の)糞便物質を受けたDM1患者における経時的な糖化ヘモグロビンHbA1cへの影響を表している。
【実施例
【0128】
実施例1
種々の自己免疫状態における自己糞便物質の投与、および同種糞便物質の投与との比較
以下に示す状態の患者は、以下の3つの処置群に従って、腸洗浄後の(実施例3のように)十二指腸チューブ投与による同種または自己の糞便物質のいずれかの注入で処置される:
1.0、8および16週の複数回の同種の健康なドナー糞便注入。
2.0、8および16週の複数回の自己の(自身の)の糞便注入。
3.0、8および16週の静脈内抗TNFα(インフリキシマブ、5mg/kg)を併用した複数回の自己の(自身の)の糞便注入。
【0129】
【表1(1)】
【表1(2)】
【表1(3)】
【0130】
処置する対象と同じ疾患を有する対象(複数可)から得た同種糞便注入によって自己糞便注入を置き換えた場合に、同様の結果が得られることがある。また、より大きな患者コホートでは、上に示すような推定効果と同様の結果が得られることが期待される。
【0131】
実施例2
1型糖尿病患者の残存β細胞機能に及ぼす糞便物質注入の効果
1.概要
目的:小腸チューブを通して投与された同種(健常)または自己(自身)ドナーからの糞便物質移植が、最近診断された1型糖尿病における免疫状態に対する有益な効果、β細胞機能(混合食試験(MMT)時のcペプチド放出)に対する有益な効果を有するかどうかを検討すること。
【0132】
研究設計:二重盲検無作為化比較単一施設試験。
【0133】
試験集団:1型糖尿病(18~30歳、BMI 18~25kg/m、男性/女性、インスリン以外の併用薬の使用なし、血漿Cペプチド0.2mmol/l超および/またはMMT後に1.2ng/mL超)、空腹時グルコース10~13mmol/l、抗GAD陽性および/または抗IA-2力価濃度を有する新たに診断された(診断から4~6週間以内)患者。さらに、健康なドナー(n=17男性/女性、BMI 18~25kg/m、薬物療法の使用なし、1型糖尿病を含む自己免疫疾患の家族歴なし、EBV/CMV免疫状態と一致)が、採用された。
【0134】
処置:マクロゴールによる腸洗浄後、同種(健常ドナー)または自己(自身)糞便由来の溶液の十二指腸チューブを介して、患者を3回の腸注入により処理した。
【0135】
アウトカム指標:主要な評価項目は、混合食負荷試験(0、2、6、9および12か月後)で刺激したベータ細胞インスリン分泌能のCペプチドAUC0-120min応答の長期保存である。
【0136】
対象数:この第1~2相試験では各群10例。患者は、1:1の比率で同種または自己糞便移植群にランダムに割り付けられ、したがって計20例のde novo 1型糖尿病が認められた。計画された中間解析は、全対象の約50%が登録された時点で実施された。
【0137】
2.目的
残留ベータ細胞インスリン分泌能の維持に対する自身の糞便(自己糞便)と比較した、反復的な健康なドナー糞便注入(同種)の効果を調査すること:MMT AUC0-120minで評価される最大Cペプチド応答(残留ベータ細胞機能)0、2、6、9、12か月。
【0138】
3.試験設計
これは、二重盲検ランダム化比較単一施設試験であった。患者を、以下の2つの処置に1:1の方法で無作為に割り付けた:
1.0、8および16週の複数回の同種の健康なドナー糞便注入。
2.0、8および16週の複数回の自己の(自身の)の糞便注入。
【0139】
4.研究集団
4.1 集団(ベース)
DM1レシピエント包含基準
1型糖尿病(年齢18~30歳、BMI 18~25kg/m、なおβ細胞機能が残存している(血漿Cペプチド0.2mmol/l超および/またはMMT後に1.2ng/mL超で示される)、患者、男性/女性が、採用された。
【0140】
DM1レシピエント除外基準
他の自己免疫疾患(例えば、甲状腺機能低下症または亢進症、コエリアキス、関節リウマチまたはクローン病/潰瘍性大腸炎のような炎症性腸疾患)の診断または症状を有する対象は、参加しなかった。また、過去3カ月間の抗生物質使用および抗酸薬またはPPI使用が、除外基準であった。
【0141】
ドナー
年齢18~30歳、BMI 18~25kg/m、薬物療法の使用なし、1型糖尿病を含む自己免疫疾患の家族歴がなく、EBV/CMV免疫状態が一致した健康な男性/女性ボランティアを、ドナーとして採用した。注目すべきことに、Dm1患者は、同じドナーから3回の糞便移植を受けた。
【0142】
4.1 包含基準
インスリン、ピーク刺激Cペプチドレベル0.4pmol/mL超(および/またはMMT後の1.2ng/mL超)、陽性の抗GAD/抗IA-2抗体価、および空腹時血糖値10~13mmol/lの場合を除き、併用薬物療法の使用なし。
【0143】
4.2 除外基準
プロトンポンプ阻害剤(PPI)および抗生物質を含む併用薬物療法の過去3ヵ月間の使用、喫煙、(予想される)免疫力低下の遷延(近年の細胞毒性化学療法またはCD4計数240超のHIV感染による)。
【0144】
5.対象の処置
5.1 プロトコルによる糞便移植
患者は、腸洗浄後に十二指腸チューブによる同種または自己の糞便の注入で処置された。DM1患者を、封筒で以下の2つの処置群に無作為に割り付けた:
1.0、8および16週の複数回の同種の健康なドナー糞便注入。
2.0、8および16週の複数回の自己の(自身の)の糞便注入。
【0145】
5.1.1 糞便療法(0、8および16週)は、以下からなる:
1.午前中の便サンプル(100~200グラム)を、レシピエントおよびドナーが採取し、AMCに運んで処理する。
2.その間、胃十二指腸鏡検査は、ベースラインおよび6か月(チューブなし)での十二指腸チューブの位置決めのために実行された。糞便療法のために、十二指腸管を、CoreTrack磁気デバイスで位置決めした。CoreTrackで位置決めされた各十二指腸管は、ベースラインでの腹部X線により、正しい解剖学的位置(胃への注入を防ぐため)でチェックされた、8週間および16週間、X線あたり0.7mSvの合計n=3は、6か月で2.1mSvになる(これは、年間の平均背景放射線被ばくに等しい)。
3.その後、(標準プロトコルに従って)十二指腸チューブを介して2~3リットルのClean Prepで腸洗浄を行って、完全な腸洗浄を確実にした(持続時間3~4時間)。
4.最後に、約500ccの生理食塩水(ろ過した、処理後6時間未満)に混入した糞便同種ドナーの糞便または自己糞便を、位置決めした十二指腸チューブを通して十二指腸に注入した。
【0146】
6.方法
6.1 試験パラメータ
6.1.1 複数の同種糞便注入時の残存β細胞機能に及ぼす効果
主要な評価項目は、0、2、6、9、および12か月での残存ベータ細胞機能(混合食負荷AUC0-120min時の刺激Cペプチド反応)の変化である。体重1kgあたり6mlで2時間(-10、0、15、30、45、60、90、120分)混合食事試験(Boost(商標)Nutritional Drink,Nestle,Vevey,SwitzerlandのMMTあたり最大360ml:炭水化物33%、脂肪57%およびタンパク質15%)が、以前に公開されたとおりに実行された(例えば、Herold et al N ENG J Med 2002;346(22):1692-8;Moran et al,Lancet.2013 Jun 1;381(9881):1905-15)。Cペプチドは、すべてのこれらの測定時点において血漿中から測定され、Human C-Peptide Radioimmunoassay(Merck)でCVは6.4%であった。AUC0-120min(混合食事耐性試験(MMTT)中の0~120分の間の濃度(pmol/l)対時間曲線(AUC)の下の面積)を測定した。AUC値は、台形則に従って導出した。AUC平均0~120分は、AUC0-120minを期間の長さ(つまり120)で割ったものを示し、したがって0~120分の期間中の平均レベルを示す。
【0147】
6.2 無作為化、盲検化および試験治療の割付
患者はコンピュータにより無作為化された。盲検は、最初の糞便移植(プラセボとして使用される)でドナーおよびレシピエントの糞便を集めることによって保証された。糞便移植当日、患者およびドナーの双方が、その朝に産生された糞便を送達した。糞便のランダム化および調製は、研究のさらなる部分では何の役割も持たない研究助手の1人が行った。糞便を500mlのガラス瓶に入れ、ドナーまたは患者からの糞便として認識可能でない茶色がかった液体のように見え、その後、経鼻十二指腸管注入を実施した治験責任医師に投与した。患者、ドナー、治験責任医師ともに盲検化した。
【0148】
6.3 研究手順
総DM1では、対象は、本試験に34時間(4治験満日)を12ヵ月間で9回にわたって分割して過ごした。健常ドナーは、1年間に本研究に計6時間を費やした。ドナーの糞便は、健常な(n=17、BMI 18~25kg/m、男性/女性、非喫煙)対象から採取した。
【0149】
健常ドナーの除外基準は、以下であった:
1.下痢
2.自己免疫疾患(1型糖尿病、橋本甲状腺機能低下症、グレーブス甲状腺機能亢進症、関節リウマチ、炎症性腸疾患、例えばクローン病、潰瘍性大腸炎または腹腔動脈瘤)の家族歴
3.HIV、HAV、HBV、HCV、活性CMV、活性EBV
4.安全でない性行為(アンケート)
5.糞便細菌性病原体(サルモネラ、赤痢菌、カンピロバクター、エルシニア)または寄生虫の存在
6.C.difficile便検査陽性
7.PPIおよび抗生物質を含むあらゆる薬物療法使用
8.喫煙
【0150】
上記の状態の1つ(同性愛者との接触、最近の輸血)のリスクが高い個人は除外され、ドナーは医療提供者間で募集されなかった。
【0151】
糞便の準備:
ドナーは、注入の日に新鮮な糞便サンプル(平均100~200グラム)を送達した(使用前に6時間以内に生成)。プラスチックフラスコで採取後、糞便を生理食塩水で覆い、室温で保存した。採取時期を記入した。すべての手順は、Clinical Bacteriology,AMC Amsterdamの部門で行った。すべてのステップは、経験豊富な実験協力者がフュームフードで実施した。
【0152】
新鮮な糞便を、500mlの滅菌生理食塩水(0.9%のNaCl)で覆い、ブレンダーに移し、10分間混合した。次に、均質化した溶液を、清潔な金属ふるいを通して2回ろ過し、大きすぎる大きさの食物由来の破片を除去した。以降、均一化した溶液は、清浄な金属漏斗を通して1000ccの滅菌ガラスボトルにデカンテーションされた。その後、処理した糞便注入液のサンプルを、後日の分析のために採取し、ボトルを、患者の腸洗浄が終了するまで通常の室温(17℃)に保った。
【0153】
7.結果
結果を図1に示し、残存β細胞予備能(AUC混合食試験刺激Cペプチド応答)をY軸に、時間をX軸に月単位で描いている。
【0154】
下方の直線は、糖尿病1型(DM1)患者(処置なし)における残存β細胞予備能の経時的な正常な減衰を表す。塗りつぶした点を有する破線は、健常ドナーから糞便物質を受けたDM1患者における経時的な残存β細胞予備能を表している。塗りつぶしていない点を有する連続線は、自己(自身)糞便物質を投与されたDM1患者における経時的な残存β細胞予備能を表している。
【0155】
驚くべきことに、自己(自身)糞便物質を十二指腸に受けたDM1患者では、残存β細胞予備能が経時的に安定化/改善された。図1はまた、十二指腸で健康なドナーから糞便物質を受けたDM1患者では、残存β細胞予備能の崩壊がいくぶん遅くなることを示している。
【0156】
実施例3
外因性インスリン使用(E/kg体重)およびHbA1cは、自己糞便物質の投与時に1型糖尿病患者で減少する
Glycated HBは、自己糞便物質を投与すると有意に減少しうることが、種々の臨床表現型で見出された。図2参照。外因性インスリン必要量の減少は、内因性の(自身の)インスリン産生が残存していることを示唆し、それによって1型糖尿病におけるハニムーン期間を延長する可能性を示す。
【0157】
図2の上のグラフは、患者によって/患者に投与したインスリン注射に基づく、インスリンの外因性の必要性を反映している。このグラフは、いわゆるハニムーン期に通常であるようなインスリン必要性の初期低下を示している。その後、外因性インスリンの必要性が増大する。
【0158】
外因性インスリンの必要性は、ドナーから糞便物質を受けた群と比較して、自己の糞便物質を受けた群で低い。これは、自己群(以前に示した)におけるβ細胞機能のより良好な保存と相関する。
【0159】
図2の下のグラフは、経時的な糖化ヘモグロビンHbA1cのレベルを示す。HbA1cは、過去の期間(6~8週間)の血糖コントロールのレベルを反映しており;低いほど良好である。特に、自己糞便物質を受けた群のHbA1cレベルは、ドナーから糞便物質を受けた群と比較して低い。これは、自己群におけるβ細胞機能の維持のもう一つの確認である。
【0160】
血糖コントロール(HbA1cによって反映される)は、自己群が使用した外因性インスリンの量がドナー群で使用した量より少なかったにもかかわらず、自己糞便物質を受けた群(ドナー群と比較して)においてより良好であることを強調することが重要である。

図1
図2