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特許7176004キッシュグラファイトから純粋なグラフェンを製造するための方法
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  • 特許-キッシュグラファイトから純粋なグラフェンを製造するための方法 図1
  • 特許-キッシュグラファイトから純粋なグラフェンを製造するための方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】キッシュグラファイトから純粋なグラフェンを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/19 20170101AFI20221114BHJP
【FI】
C01B32/19
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020564252
(86)(22)【出願日】2019-04-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-09
(86)【国際出願番号】 IB2019052803
(87)【国際公開番号】W WO2019220226
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-12-28
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/053413
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブー,ティ・タン
(72)【発明者】
【氏名】ペレス・ビダル,オスカル
(72)【発明者】
【氏名】スアレス・サンチェス,ロベルト
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-099986(JP,A)
【文献】特開昭51-109914(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0347619(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103879990(CN,A)
【文献】特表2012-515705(JP,A)
【文献】特開平02-153810(JP,A)
【文献】特表2016-534958(JP,A)
【文献】特開2012-131691(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0248214(US,A1)
【文献】特開平10-017313(JP,A)
【文献】特開昭49-112898(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105948033(CN,A)
【文献】WU Zhong-Shuai et al.,Carbon,2009年,47,P.493-499,DOI:10.1016/j.carbon.2008.10.31
【文献】AN Jung-Chul et al.,Journal of Industrial and Engineering Chemistry,2015年,26,P.55-60,http://dx.doi.org/10.1016/j.jiec.2014.12.016
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C09K 3/10
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キッシュグラファイトから純粋なグラフェンを製造するための方法であって、
A.キッシュグラファイトを提供すること、
.キッシュグラファイトを前処理すること、ここで、キッシュグラファイトの前処理が、以下の連続するサブステップ:
i.キッシュグラファイトが、次のようにサイズ:
a)50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイト、
b)50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイト、
によって分類されるふるい分けステップであって、
50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)が除去されるステップ、
ii.50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイトの画分b)に対する浮選ステップ、
iii.重量比(酸量)/(キッシュグラファイト量)が0.25~1.0の間となるように酸が添加される酸浸出ステップ、
iv.任意選択的に、キッシュグラファイトを洗浄及び乾燥させるステップ
を含むものである、
C.キッシュグラファイトからの純粋なグラフェンの合成ステップであって、以下の連続するサブステップ:
i.インターカレートされたキッシュグラファイトを得るための、硝酸塩及び酸によるキッシュグラファイトのインターカレーション、
ii.600℃を超える温度で膨張したキッシュグラファイトを得るための、インターカレートされたキッシュグラファイトの熱膨張、
iii.剥離したキッシュグラファイトを得るための超音波処理による剥離、
iv.剥離していないキッシュグラファイトと得られた純粋なグラフェンとの分離
を含むステップ
を含む、方法。
【請求項2】
ステップC.i)において、硝酸塩が、NaNO、NHNO、KNO、Ni(NO、Cu(NO、Zn(NO、Al(NO又はそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップC.i)において、酸が、HSO、HCl、HNO、HPO、CCl(ジクロロ酢酸)、HSOOH(スルホン酸)又はそれらの混合物から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップC.ii)において、インターカレートされたキッシュグラファイトの膨張が、900℃を超える温度で行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップC.ii)において、温度が、900~1500℃の間である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
ステップC.ii)において、温度が、900~1200℃の間である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
ステップC.ii)において、膨張が、1分~2時間の期間中に行われる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップC.iii)において、超音波処理による剥離の前に、ステップCii)で得られた膨張したキッシュグラファイトが、ビタミンB2と混合される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップC.iii)において、膨張したキッシュグラファイトとビタミンB2との混合物が、水に分散される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
ステップC.iii)において、超音波処理が、1時間を超える時間の期間中に行われる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップC.iii)において、超音波処理が、1時間30分~5時間の間の時間の期間中に行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップC.iii)において、超音波処理期間中に、混合物が冷却される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップC.iii)において、混合物が、氷浴を使用して冷却される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ステップC.iv)において、剥離していないキッシュグラファイトと得られた純粋なグラフェンとの分離が、遠心分離、デカンテーション蒸留又は浮選によって行われる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キッシュグラファイトからの純粋なグラフェンのための方法に関する。特に、純粋なグラフェンは、鋼鉄、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、銅合金、チタン、コバルト、金属複合材料、ニッケル産業を含む金属産業において、例えば、コーティング又は冷却試薬としての用途がある。
【背景技術】
【0002】
キッシュグラファイトは、製鋼工程、特に高炉工程又は製鉄工程中に生成される副産物である。実際、キッシュグラファイトは通常、その冷却中に溶鉄の自由表面上に生成される。これは、1300~1500℃の溶鉄に由来し、混銑車で運搬される場合は0.40℃/分~25℃/時の冷却速度で、又は取鍋搬送中はより速い冷却速度で冷却される。毎年大量のトン数のキッシュグラファイトが製鉄所で生産されている。
【0003】
キッシュグラファイトは、通常50重量%を超える大量の炭素を含むため、グラフェンベースの材料を製造するのに適している。通常、グラフェンベースの材料には、グラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン又はナノグラファイトが含まれる。
【0004】
グラフェンは、六角形のハニカム格子で互いに結合された炭素からなるグラファイトの単一層である。言い換えれば、それはsp結合原子の平面構造における炭素の同素体である。
【0005】
グラフェンを製造するために、機械的液体剥離及び化学的方法などの各種技術がある。どのような技術を使用しても、良質のグラフェンを得るのは非常に困難である。
【0006】
例えば、液体剥離法では、グラフェンはグラファイトの機械的剥離によって直接得られる。しかしながら、得られたグラフェンは、小面積のグラフェンフレーク、コロイド安定性及び低収率などのいくつかの欠陥を有する。さらに、得られたグラフェンは、完全に1つの平面にあるわけではない。最後に、グラフェンの収率は非常に低く、最大で5~10%である。
【0007】
化学的方法には、化学蒸着(CVD)及びハマー法が含まれる。
【0008】
ハマー法は、以下の
-キッシュグラファイト、硝酸ナトリウム及び硫酸の混合物の生成ステップと、
-酸化剤として過マンガン酸カリウムを添加して、グラファイトを酸化グラファイトに酸化するステップと、
-酸化グラファイトの単層又は数層の酸化グラフェンへの機械的剥離ステップと
-酸化グラフェンの還元型酸化グラフェンへの還元ステップと
を含む。
【0009】
特許KR101109961は、グラフェンを製造する方法であって、
-キッシュグラファイトを前処理するステップと、
-前処理したキッシュグラファイトを酸性溶液で酸化することにより、酸化グラファイトを製造するステップと、
-酸化グラファイトを剥離することにより、酸化グラフェンを製造するステップと、
-酸化グラフェンを還元剤で還元することにより、還元型酸化グラフェンを製造するステップと
を含む方法について開示している。
【0010】
しかしながら、特に酸素基をごくわずかな量しか含まないグラフェンを得るのは困難である。得られたグラフェンには多くの欠陥が存在する。
【0011】
グラフェンをCVD法により得る場合、炭素の代わりに外来原子が存在するなどの多くの欠陥が含まれる。
【0012】
「GIC(グラファイトインターカレーション化合物)ビア工程によるキッシュグラファイトベースのグラフェンナノプレートレットの調製」,Journal of Industrial and Engineering Chemistry,2015年6月1日,vol.26,p.55-60(“Preparation of Kish Graphite-based graphene nanoplatelets by GIC(graphite intercalation compound)via process”,Journal of Industrial and Engineering Chemistry,vol.26,1 June 2015,pages 55-60)と呼ばれる刊行物は、グラフェンナノプレートレットの調製方法について開示しており、精製されたキッシュグラファイトフレークを硫酸に添加して酸ベースのGICを調製する。次に、市販グレードの電子レンジ(LG、MW231GBM、電力=800W)を使用してキッシュGICを膨張させる。最後に、得られた膨張化グラファイトをイソプロピルアルコールに添加し、超音波発生器で粉砕して、多層グラフェンプレートレットに剥離する。
【0013】
それにもかかわらず、この方法では純粋なグラフェンは得られない。多層グラフェンプレートレットのみが得られる。さらに、インターカレーション中に硫酸が使用される。しかしながら、インターカレーションは一晩行われるため、非常に長い。最後に、電子レンジを使用することによって、膨張度を制御することは困難である。
【0014】
したがって、一般に純粋なグラフェンと呼ばれる、欠陥の数がごくわずかしかないグラフェンを製造する必要がある。純粋なグラフェンとは、グラフェンが本来の状態、つまり理想的であり、いかなる欠陥もない状態、つまり、少なくとも90%の炭素原子を含み、すべてが単一層の同じ平面にあることを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】韓国登録特許第10-1109961号公報
【非特許文献】
【0016】
【文献】“Preparation of Kish Graphite-based graphene nanoplatelets by GIC(graphite intercalation compound)via process”,Journal of Industrial and Engineering Chemistry,vol.26,1 June 2015,pages 55-60)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、キッシュグラファイトから欠陥の数がごくわずかしかない純粋なグラフェンを製造するための実行が容易な方法を提供することである。特に、高純度の純粋なグラフェンを得るための環境に優しい方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
これは、請求項1に記載の方法を提供することによって達成される。この方法はまた、単独で又は組み合わせて考慮される、請求項2~15の任意の特徴を含み得る。
【0019】
本発明はまた、請求項16に記載の純粋なグラフェンを包含する。
【0020】
以下の用語が定義される。
【0021】
-浮選ステップとは、キッシュグラファイト又は純粋なグラフェンなどの疎水性材料を親水性材料から選択的に分離する工程を意味する。
【0022】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の本発明の詳細な説明により明らかとなるであろう。
【0023】
本発明を説明するために、特に以下の図を参照して、非限定的な実施例の様々な実施形態及び試験について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明による方法を用いたキッシュグラファイトからの純粋なグラフェンの合成を示す。
図2】本発明による純粋なグラフェンの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、キッシュグラファイトから純粋なグラフェンを製造するための方法であって、
A.キッシュグラファイトを提供することと、
B.任意選択的に、キッシュグラファイトを前処理することと、
C.前記キッシュグラファイトからの純粋なグラフェンの合成ステップであって、以下の連続するサブステップである
i.インターカレートされたキッシュグラファイトを得るための、硝酸塩及び酸によるキッシュグラファイトのインターカレーション、
ii.600℃を超える温度で膨張したキッシュグラファイトを得るための、インターカレートされたキッシュグラファイトの熱膨張、
iii.剥離したキッシュグラファイトを得るための超音波処理による剥離、及び
iv.剥離していないキッシュグラファイトと純粋なグラフェンとの分離
を含むステップと
を含む方法に関する。
【0026】
いかなる理論にも束縛されることを望まないが、本発明による方法では、純粋なグラフェンの純度は、特にキッシュグラファイトの構造を改変するインターカレーションステップC.i)、熱膨張ステップC.ii)及び超音波処理ステップC.iii)によって大幅に向上するようである。
【0027】
通常、グラファイトは、2つの炭素層の間に約0.34nmのギャップを有する炭素層からなる。この場合、2層の炭素を分離することは、ギャップが小さいために非常に困難であり、剥離工程の収率が非常に低くなる(最大で5~10%)。
【0028】
本発明によれば、図1に示されているように、キッシュグラファイト1は、2つの炭素層の間に約0.34nmのギャップを有する炭素層を含む。硝酸塩及び酸を使用してインターカレーションステップC.i)を行うことにより、酸のごく一部が硝酸塩と反応して硝酸を生成すると考えられる。実際、そのような硝酸を含む2つの酸の混合物は、工業規模で管理するには危険すぎる。これに対して、本発明による方法は安全である。したがって、インターカレートされたキッシュグラファイト2を得るために、得られた硝酸及び残りの酸3をキッシュグラファイト層に導入して、特に硝酸グラファイトを形成する。グラファイトを酸化せずに2つの炭素層の間に導入される官能基には、酸素、窒素及び/又は水素官能基が含まれる。次に、膨張したキッシュグラファイト4を得るための熱膨張ステップC.ii)の間に、導入された基はガス状化合物に分解され、その結果、2つの層間のギャップは約0.5nmに増加するようである。その後、ガス状化合物は自動的に除去される。次に、超音波処理C.iii)による剥離が容易に行われ、欠陥が最小限である純粋なグラフェン5が得られる。
【0029】
好ましくは、ステップA)において、キッシュグラファイトは、製鋼工程の残留物である。例えば、キッシュグラファイトは、高炉工場、製鉄所、混銑車及び取鍋搬送中に見られる。
【0030】
好ましくは、ステップB)において、キッシュグラファイトの前処理は、以下の連続するサブステップである
i.前記キッシュグラファイトが、次のようにサイズ:
a)50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイト、
b)50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイト、
によって分類されるふるい分けステップであって、
50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの前記画分a)が除去されるステップ、
ii.50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイトの前記画分b)に対する浮選ステップ、
iii.重量比(酸量)/(キッシュグラファイト量)が0.25~1.0の間となるように酸が添加される酸浸出ステップ、
iv.任意選択的に、前記キッシュグラファイトを洗浄及び乾燥させるステップ
を含む。
【0031】
いかなる理論にも束縛されることを望まないが、本発明による方法でキッシュグラファイトを前処理すると、この前処理されたキッシュグラファイトは高純度を有するため、品質が向上した純粋なグラフェンの製造が可能となると思われる。実際、ステップB)の後に得られたキッシュグラファイトの純度は、少なくとも90%である。さらに、前処理ステップB)は、工業規模での実施が容易であり、従来の方法よりも環境に優しい。
【0032】
ステップB.i)において、ふるい分けステップは、ふるい分け機で行うことができる。
【0033】
ふるい分け後、キッシュグラファイトのサイズが50μm未満の画分a)は除去される。実際、いかなる理論にも束縛されることを望まないが、50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトは、非常に少量の、例えば10%未満のグラファイトを含むと考えられる。
【0034】
好ましくは、ステップB.ii)において、浮選ステップは、水溶液中で浮選剤を用いて行われる。例えば、浮選剤は、メチルイソブチルカルビノール(MIBC)、松根油、ポリグリコール、キシレノール、S-ベンジル-S’-n-ブチルトリチオカーボネート、S,S’-ジメチルトリチオカーボネート及びS-エチル-S’-メチルトリチオカーボネートから選択される発泡剤である。有利には、浮選ステップは、浮選装置を使用して行われる。
【0035】
好ましくは、ステップB.i)において、55μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)が除去され、ステップB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)は、55μm以上のサイズを有する。より好ましくは、ステップB.i)において、60μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)が除去され、ステップB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)は、60μm以上のサイズを有する。
【0036】
好ましくは、ステップB.i)及びB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)は、300μm以下のサイズを有し、300μmを超えるサイズを有するキッシュグラファイトのいかなる画分も、ステップB.ii)の前に除去される。
【0037】
より好ましくは、ステップB.i)及びB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)は、275μm以下のサイズを有し、275μmを超えるサイズを有するキッシュグラファイトのいかなる画分も、ステップB.ii)の前に除去される。
【0038】
有利には、ステップB.i)及びB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)は、250μm以下のサイズを有し、250μmを超えるサイズを有するキッシュグラファイトのいかなる画分も、ステップB.ii)の前に除去される。
【0039】
ステップB.iii)において、(酸量)/(キッシュグラファイト量)の重量比は、0.25~1.0の間、有利には0.25~0.9の間、より好ましくは0.25~0.8の間である。例えば、(酸量)/(キッシュグラファイト量)の重量比は、0.4~1.0の間、0.4~0.9の間又は0.4~1の間である。実際、いかなる理論にも束縛されることを望まないが、(酸量)/(キッシュグラファイト量)比が本発明の範囲を下回る場合、キッシュグラファイトが多くの不純物を含むリスクがあると思われる。さらに、(酸量)/(キッシュグラファイト量)比が本発明の範囲を超える場合、大量の化学廃棄物が発生するリスクがあると考えられる。
【0040】
好ましくは、ステップB.iii)において、酸は、以下の要素である塩化物酸、リン酸、硫酸、硝酸又はそれらの混合物から選択される。
【0041】
本発明による方法のステップB)の後に得られた前処理されたキッシュグラファイトは、50μm以上のサイズを有する。前処理されたキッシュグラファイトは高純度、すなわち少なくとも90%である。さらに、結晶化度は従来の方法と比較して改善され、より高い熱伝導率及び電気伝導率、ひいてはより高い品質が実現される。
【0042】
ステップC.i)において、キッシュグラファイトのインターカレーションは、硝酸塩及び酸を用いて行われ、インターカレートされたキッシュグラファイトが得られる。酸のみを使用する場合と比較して、硝酸塩及び酸を使用することにより、インターカレーションはより効率的及び迅速であると考えられている。
【0043】
例えば、ステップC.i)において、キッシュグラファイトは、室温で硝酸塩及び酸と混合される。混合物を磁気又は機械で攪拌して、キッシュグラファイトの炭素層の間に硝酸塩及び酸の均一なインターカレーションを得ることができる。
【0044】
有利には、ステップC.ii)において、酸は、HSO、HCl、HNO、HPO、CCl(ジクロロ酢酸)、HSOOH(アルキルスルホン酸)又はそれらの混合物から選択される。
【0045】
好ましくは、ステップC.ii)において、硝酸塩は、NaNO、NHNO、KNO、Ni(NO、Cu(NO、Zn(NO、Al(NO又はそれらの混合物から選択される。
【0046】
例えば、HSOを硝酸塩と共に使用する場合である。HSOの一部が硝酸塩と反応して、次のように硝酸(HNO)を生成すると考えられる。
【0047】
NaNO+HSO→HNO+NaSO
NHNO+HSO→HNO+(NHSO
KNO+HSO→HNO+KSO
Ni(NO+HSO→2HNO+NiSO
Zn(NO+HSO→2HNO+ZnSO
Cu(NO+HSO→2HNO+CuSO及び
2Al(NO+3HSO→6HNO+Al(SO
次に、HNO及びHSOがキッシュグラファイト層の間に導入され、少なくとも硝酸グラファイト及び重硫酸グラファイトを形成すると考えられる。HNOは、HSO及びNaSOの存在により、著しく低減できる発煙性を有するようである。
【0048】
ステップC.ii)において、膨張は、好ましくは、空気中又は不活性ガス中で、900℃を超える温度、より好ましくは900~1500℃の間、有利には900~1200℃の間で、インターカレートされた(intercaled)キッシュグラファイトを熱処理することによって行われる。実際、いかなる理論にも束縛されることを望まないが、加熱温度は、純粋なグラフェンの合成において重要な役割を果たし得ると考えられている。本願発明者らは、キッシュグラファイトからのインターカレートされた官能基の除去は、極めて速い加熱速度のために、ガス状生成物中の導入された酸及び硝酸塩の分解の急激な膨張があるので、この温度で非常に効果的であることを見出した。この急激な膨張は、グラファイト層の間の最大のギャップをもたらす。したがって、剥離はより容易に行われ、純粋なグラフェンの高収率をもたらすと思われる。
【0049】
好ましくは、ステップC.ii)において、熱膨張はマイクロ波膨張を含まない、すなわち、膨張は電子レンジを使用することによって行われない。実際、グラファイトの膨張度の程度は、電子レンジを使用して制御することはできないと考えられている。さらに、不均一な膨張になるリスクがある。
【0050】
好ましくは、ステップC.ii)において、膨張は、1分~2時間の期間中、好ましくは15分~60分の間に行われる。
【0051】
好ましくは、ステップC.iii)において、機械的剥離の前に、ステップCii)で得られた膨張したキッシュグラファイトは、リボフラビンと呼ばれるビタミンB2と混合される。例えば、この混合物は水に分散される。
【0052】
有利には、超音波処理は、少なくとも1時間の期間中、有利には1時間15分~5時間の間、好ましくは、1時間15分~3時間の間に行われる。実際、いかなる理論にも束縛されることを望まないが、上記の時間の期間中に超音波処理が行われる場合、膨張したキッシュグラファイトの層はよりよく剥離され、純粋なグラフェンの高収率をもたらすと考えられる。剥離中に高温に達する可能性があるため、例えば氷浴を使用して混合物を冷却することが可能である。
【0053】
次に、好ましくは、ステップC.iv)において、剥離していないキッシュグラファイトと得られた純粋なグラフェンとの分離は、遠心分離、デカンテーション、蒸留又は浮選によって行われる。好ましくは、それは遠心分離によって行われる。
【0054】
分離後、任意選択的に、例えば水で洗浄を行う。好ましくは、蒸留水が使用される。
【0055】
次に、任意選択的に、乾燥ステップは、粉末を凍結するか、又は純粋なグラフェンを真空乾燥して、純粋なグラフェンを得るなどのいくつかの技術によって行われる。
【0056】
本発明による方法を適用することにより、5%未満の酸素基、5%未満の窒素基及び0.5%未満の水素原子を含むハニカム格子で互いに結合された炭素原子の1つの単一層である純粋なグラフェンが得られる。好ましくは、3%未満の酸素基、5%未満の窒素基及び0.5%未満の水素原子を含むハニカム格子で互いに結合された炭素原子の1つの単一層である純粋なグラフェンが得られる。より好ましくは、2%未満の酸素基、5%未満の窒素基及び0.5%未満の水素原子を含むハニカム格子で互いに結合された炭素原子の1つの単一層である純粋なグラフェンが得られる。
【0057】
図2は、本発明による純粋なグラフェンの例を示す。横方向のサイズは、X軸を通る層の最大の長さを意味し、厚さは、Z軸を通る層の高さを意味し、幅は、Y軸を通して示されている。
【0058】
好ましくは、純粋なグラフェンの横方向のサイズは、40μm未満、好ましくは30μm未満、有利には1~30μmの間である。
【0059】
好ましくは、純粋なグラフェンは、金属基材の耐食性などのいくつかの特性を改善するために、金属基材鋼上に堆積される。
【0060】
別の好ましい実施形態では、純粋なグラフェンは、冷却試薬として使用される。実際、酸化グラフェンは、冷却流体に添加することができる。好ましくは、冷却流体は、水、エチレングリコール、エタノール、油、メタノール、シリコーン、プロピレングリコール、アルキル化芳香族化合物、液体Ga、液体In、液体Sn、ギ酸カリウム及びそれらの混合物から選択することができる。この実施形態では、冷却流体は、金属基材を冷却するために使用される。
【0061】
例えば、金属基材は、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、銅合金、チタン、コバルト、金属複合材料、ニッケルから選択される。
【0062】
ここで、情報のみを目的として行われる試験において、本発明を説明する。これらの試験は限定的ではない。
【実施例
【0063】
すべての試験は、製鋼所からキッシュグラファイトを提供することによって準備した。次に、キッシュグラファイトをふるい分けして、以下のようにサイズ別に分類した。
a)63μm未満のサイズを有するキッシュグラファイト
b)63μm以上のサイズを有するキッシュグラファイト
【0064】
63μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)を除去した。
【0065】
すべての試験について、63μm以上のサイズを有するキッシュグラファイトの画分b)に対する浮選ステップを行った。浮選ステップは、MIBCを発泡剤として用いてHumboldt Wedag浮選機で行った。以下の条件を適用した。
-セル容積(l):2
-ロータ速度(rpm):2000
-固形分濃度(%):5~10
-発泡剤、種類:MIBC
-発泡剤、添加(g/T):40
-調整時間(秒):10
-水条件:中性pH、室温
【0066】
次に、試験品1~6を水溶液中の塩酸で浸出させた。次に、試験品を脱イオン水で洗浄し、90℃の空気中で乾燥させた。前処理キッシュグラファイトを95%の収率で得た。
【0067】
その後、前処理したキッシュグラファイトを硝酸ナトリウム及び硫酸と混合した。この混合物を磁気で攪拌した。次に、混合物を蒸留水で洗浄し、90℃のオーブンで乾燥させた。インターカレートされたキッシュグラファイトを得た。
【0068】
次に、インターカレートされたキッシュグラファイトを600~1000℃の温度で1時間の期間中熱処理した。インターカレートされたキッシュグラファイトを室温まで冷却した。膨張したキッシュグラファイトを得た。
【0069】
次に、膨張したキッシュグラファイトをビタミンB2と混合し、その後、この混合物を脱イオン水に分散させた。次に、この分散液を、氷浴を使用して超音波処理した。超音波処理は、1~2時間30分の期間中行った。剥離したキッシュグラファイトを得た。
【0070】
最後に、試験品を遠心分離し、洗浄し、乾燥させた。純粋なグラフェンを得た。純粋なグラフェンを燃焼、熱分解及び走査型電子顕微鏡法(SEM)によって特性評価した。結果を次の表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
すべての試験の純粋なグラフェンの純度は、炭素の割合が90%を超えていたため、従来の方法、すなわち最大で5~10%と比較して、高かった。得られた純粋なグラフェンは、ごくわずかな量の酸素、窒素しか含まず、水素を含まない。さらに、試験4、5及び6では、純粋なグラフェンの収率が著しく向上した。
図1
図2