(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】第1のマイクロフォン及び第2のマイクロフォンの位相応答を調整するための方法
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20221114BHJP
H04R 1/40 20060101ALI20221114BHJP
H04R 25/00 20060101ALN20221114BHJP
【FI】
H04R3/00 320
H04R1/40 320
H04R25/00 M
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021004024
(22)【出願日】2021-01-14
【審査請求日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】10 2020 200 553.2
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】508115093
【氏名又は名称】シバントス ピーティーイー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【氏名又は名称】林 恒徳
(72)【発明者】
【氏名】ヘニング プダー
(72)【発明者】
【氏名】イェンス ハイン
【審査官】菊池 智紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0228495(US,A1)
【文献】特表2003-506937(JP,A)
【文献】米国特許第06272229(US,B1)
【文献】特開2010-010758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のマイクロフォン信号(x1)の生成のために配置された第1のマイクロフォン(1)及び第2のマイクロフォン信号(x2)の生成のために配置された第2のマイクロフォン(2)のそれぞれの位相応答を調整するための方法であって、
前記第1のマイクロフォン信号(x1)及び/又は前記第2のマイクロフォン信号(x2)をフィルタリングするための第1のフィルタ(H1)を決定し、ここで、前記第1のフィルタは、前記第1のマイクロフォン(1)と前記第2のマイクロフォン(2)との間の位相応答の差の第1の寄与分(12)に相当し、第1の適応パラメータ(p1)を有するものであり、
前記第1のマイクロフォン信号(x1)及び/又は前記第2のマイクロフォン信号(x2)をフィルタリングするための第2のフィルタ(H2)を決定し、ここで、前記第2のフィルタは、前記位相応答の差の第2の寄与分(16)に相当し、第2の適応パラメータ(p2)を有するものであり、
前記第1のフィルタ(H1)及び前記第2のフィルタ(H2)に基づいて、グローバルフィルタ(H
all
)を決定し、ここで、前記グローバルフィルタは、前記位相応答の差の前記第1の寄与分(12)と前記第2の寄与分(16)とを表し、前記第1の適応パラメータ(p1)及び前記第2の適応パラメータ(p2)を有するものであり、
前記グローバルフィルタ(H
all
)に基づいて、前記第1の適応パラメータ(p1)のための第1の値(p1.0)と、前記第2の適応パラメータ(p2)のための第2の値(p2.0)とを、多次元最適化を用いて決定し、
前記位相応答の調整のために、前記第1の適応パラメータ(p1)のための前記第1の値(p1.0)を有する前記第1のフィルタ(H1)と、前記第2の適応パラメータ(p2)のための前記第2の値(p2.0)を有する前記第2のフィルタ(H2)とを、前記第1のマイクロフォン信号(x1)及び/又は前記第2のマイクロフォン信号(x2)に適用する、方法
であり、
前記位相応答の差の前記第1の寄与分(12)が前記位相応答の電子寄与分(14)を表すように、前記第1のフィルタ(H1)を決定し、及び/又は、
前記位相応答の差の前記第2の寄与分(16)が前記位相応答の電気音響寄与分(18)を表すように、前記第2のフィルタ(H2)を決定す
る方法。
【請求項2】
前記第1のマイクロフォン(1)及
び前記第2のマイクロフォン(2)に、前記第1のマイクロフォン(1)及び前記第2のマイクロフォン(2)に関して同一位相である音信号(22)を印加し、
それによって、前記第1のマイクロフォン信号(x1)の第1のテスト信号を、前記第1のマイクロフォン(1)によって生成し、又は前記第2のマイクロフォン信号(x2)の第2のテスト信号を前記第2のマイクロフォン(2)によって生成し、
前記多次元最適化を、前記第1のテスト信号及
び前記第2のテスト信号に基づいて実行する、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のフィルタ(H1)及び前記第2のフィルタ(H2)が、それぞれ前記第2のマイクロフォン信号(x2)のみを変化させる、請求項
1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記多次元最適化を、勾配法によって実行し、
前記第1の適応パラメータ(p1)の方向における変化、及び前記第2の適応パラメータ(p2)の方向における変化に関して、勾配を誤差関数(e
2(n))に適用し、
前記誤差関数を、前記グローバルフィルタによってフィルタリングされた前記第2のマイクロフォン信号(x2)の、基準信号(R)からの偏差(e(n))に基づいて決定する、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のマイクロフォン信号(x1)を、前記偏差(e(n))のための基準信号(R)として使用する、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記グローバルフィルタ(H
all)を、前記第1の適応パラメータ(p1)及び前記第2の適応パラメータ(p2)に依存しない無限インパルス応答を有するフィルタ寄与分(C)と、有限インパルス応答を有するフィルタ寄与分
と、に分割できるように、前記第1のフィルタ(H1)及び前記第2のフィルタ(H2)を形成し、
第1の適応パラメータ(p1)及び第2の適応パラメータ(p2)のフィルタ多項式
を、時間領域において有限インパルス応答を有する前記フィルタ寄与分
に基づいて形成し、
前記第1の適応パラメータ(p1)のための第1の値(p1.0)及び/又は前記第2の適応パラメータ(p2)のための第2の値(p2.0)を、時間領域において更新し、
前記更新のステップサイズを、前記フィルタ多項式
に適用される前記勾配に依存して形成する、請求項
4または請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の適応パラメータ(p1)の方向における前記ステップサイズ、及び前記第2の適応パラメータ(p2)の方向における前記ステップサイズを、それぞれ前記偏差(e(n))に関連して正規化する、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記正規化を、それぞれ前記誤差関数(e
2(n))に依存して正則化する、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
補聴器の2つのマイクロフォン(1,2)の前記位相応答を調整する、請求項1~請求項
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
第1のマイクロフォン信号(x1)の生成のために配置された第1のマイクロフォン(1)と、
第2のマイクロフォン信号(x2)の生成のために配置された第2のマイクロフォン(2)と、
請求項1~請求項
9のいずれか一項に記載の、前記第1のマイクロフォン(1)及び前記第2のマイクロフォン(2)のそれぞれの位相応答を調整するための方法を実行するように配置された制御ユニットと、を備えたシステム。
【請求項11】
前記第1のマイクロフォン(1)及び前記第2のマイクロフォン(2)が、補聴器に配置されている、請求項
10に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1のマイクロフォン信号を生成する第1のマイクロフォン及び第2のマイクロフォン信号を生成する第2のマイクロフォンのそれぞれの位相応答を調整する方法に関する。その方法では、第1のマイクロフォン信号及び/又は第2のマイクロフォン信号をフィルタリングするための第1のフィルタを決定し、第1のフィルタは、第1のマイクロフォンと第2のマイクロフォンとの間の位相ずれの第1の寄与分に相当し、第1の適応パラメータを有するものであり、第1のマイクロフォン信号及び/又は第2のマイクロフォン信号をフィルタリングするための第2のフィルタを決定し、第2のフィルタは、上記位相ずれの第2の寄与分に相当し、第2の適応パラメータを有するものであり、位相応答の調整のために、第1の適応パラメータのための第1の値を有する第1のフィルタと、第2の適応パラメータのための第2の値を有する第2のフィルタとを、第1のマイクロフォン信号及び/又は第2のマイクロフォン信号に適用する。
【背景技術】
【0002】
補聴器、又は通信機器や通信システムに使用されるマイクロフォンは、通常、入射音を電気信号に変換するための、例えば膜のような電気音響部品と、広義において、生成された電気信号のための例えばプリアンプのような電子部品とを含む。このような部品は、多くの場合、マイクロフォンに、ほとんどの場合ハイパスフィルタによって近似された非自明な位相応答をもたらす。音の指向性信号処理のための複数のマイクロフォンを有するシステムでは、個々のマイクロフォンの位相応答(周波数応答とも呼ばれる)は、マイクロフォンの部品の製造公差だけでなく、経年劣化や汚れによっても異なり得る。
【0003】
しかしながら、差動指向性マイクロフォンを用いた入射音信号の処理に対して、差動マイクロフォンの抑制性能を全周波数帯域にわたって保証するために、使用する全てのマイクロフォンについて、可能な限り同一の位相応答を有することが要求される。この理由から、指向性マイクロフォンの使用のためには、2つ以上のマイクロフォンの異なる可能性のある位相応答を調整することが特に有用である。
【0004】
2つのマイクロフォンの位相応答を調整する1つの可能性は、生成されたマイクロフォン信号のうちの1つに適用される2つの異なるフィルタによって、電気音響部品と電子部品との影響を別々に補償することである。そのために、それらのフィルタは、電気音響部品又は電子部品から生じる位相応答において、それぞれの違いを補償するように、適合される。しかしながら、どちらのフィルタも、それぞれ同様のカットオフ周波数(電気音響部品では約60Hz、電子部品では約120Hz)と低いエッジ急峻性とを有する上記マイクフォン部品のハイパスフィルタ動作をモデルとしているため、1つのフィルタのこのような適合は、常に他方のフィルタに影響を与えることとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の課題は、第1のマイクロフォン及び第2のマイクロフォンの位相応答を調整するための改良された方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記課題は、特に、第1のマイクロフォン信号の生成のために配置された第1のマイクロフォン及び第2のマイクロフォン信号の生成のために配置された第2のマイクロフォンのそれぞれの位相応答を、特に適応性を有して調整するための方法によって解決される。この方法では、第1のマイクロフォン信号及び/又は第2のマイクロフォン信号をフィルタリングするための第1のフィルタを決定し、この第1のフィルタは、第1のマイクロフォンと第2のマイクロフォンとの間の位相応答の差の第1の寄与分に相当し、第1の適応パラメータを有するものであり、第1のマイクロフォン信号及び/又は第2のマイクロフォン信号をフィルタリングするための第2のフィルタを決定し、この第2のフィルタは、上記位相応答の差の第2の寄与分に相当し、第2の適応パラメータを有するものであり、第1のフィルタ及び第2のフィルタに基づいて、グローバルフィルタを決定し、このグローバルフィルタは、上記位相応答の差の第1の寄与分と第2の寄与分をと表し、第1の適応パラメータ及び第2の適応パラメータを有するものであり、グローバルフィルタに基づいて、第1の適応パラメータのための第1の値と、特に同時に、第2の適応パラメータのための第2の値とを、多次元最適化を用いて決定し、位相応答の調整のために、第1の適応パラメータのための第1の値を有する第1のフィルタと、第2の適応パラメータのための第2の値を有する第2のフィルタとを、第1のマイクロフォン信号及び/又は第2のマイクロフォン信号に適用する。有利で、部分的にそれ自体で発明性のある形態は,従属請求項の、及び以下の記載の主題である。
【0007】
好ましくは、第1のマイクフォン及び第2のマイクフォンとして、補聴器又は通信装置の2つのマイクフォンが用いられる。第1のフィルタ及び第2のフィルタは、以下のように決定される。すなわち、フィルタが、その構造及び概念に応じて提供されるように、第1のマイクロフォン信号又は第2のマイクロフォン信号又は両方のマイクロフォン信号に適用される場合に、好ましくは、2つのフィルタの基礎を成す異なった位相応答のそれぞれの寄与分が、それぞれ第1又は第2の適応パラメータを用いて、それぞれのフィルタによって補償されるように、決定される。好ましくは、位相応答の差の第1の寄与分と第2の寄与分とは、それぞれ、位相応答の物理的に異なる寄与分を表し、特に、第1の寄与分は電子寄与分を表し、第2の寄与分は電気音響寄与分を表す。
【0008】
言い換えれば、好ましくは、第1のフィルタ及び第2のフィルタは、それぞれ、マイクロフォンの位相応答における物理的に実在する差異を補償するために、物理-電子的モデルに基づいて生成される。その際、第1のフィルタは、第2のフィルタによって扱われている位相応答への寄与分とは異なる、他の部品に由来する位相応答への寄与分を扱う。本明細書では、第1のフィルタは以下のように構想され得る。すなわち、第1のフィルタの又はそれに対応する寄与分の、基礎を成す部品から生じた位相応答の差を補償するために、第1のフィルタが、第1のマイクロフォン信号のみに対して、又は第2のマイクロフォン信号のみに対して、又は両方のマイクロフォン信号に対して適用されるように、構想され得る。これは、特に第2のフィルタについても同様である。第1のフィルタを1つのマイクロフォン信号のみに適用し、第2のフィルタも同様に1つのマイクロフォン信号のみに適用することが好ましく、又、2つのフィルタを同一のマイクロフォン信号に適用することが、特に好ましい。
【0009】
特に、第1のフィルタ及び第2のフィルタは、上述のように、位相応答の差への互いに異なる寄与分を補償するように決定される。第1のフィルタの機能態様に対応して提供されるマイクロフォン信号への(又は対応して両方のマイクロフォン信号への)第1のフィルタの分離された、すなわち単独の適用が、位相応答の差への第1のフィルタの基礎を成す寄与分を、正確に補償する。第2のフィルタについても同様である。位相応答の実際の調整のために、2つのフィルタは、後述される方法で決定されるように、それぞれの適応パラメータのための第1の値又は第2の値によって、それぞれに関係するマイクロフォン信号に適用される。
【0010】
2つのフィルタに基づいて、特に、それらの連続した適用によって、例えば、周波数領域又はz領域において(すなわち、z変換された時間離散的な信号のための「離散的な」周波数領域において)、グローバルフィルタが決定される。グローバルフィルタは、位相ずれのための2つの寄与分を表し、2つの寄与分は、特に、グローバルフィルタによって補償される。グローバルフィルタは、第1のフィルタの第1の適応パラメータ及び第2のフィルタの第2の適応パラメータが自由パラメータとして含まれるように、第1のフィルタ及び第2のフィルタに基づいて決定される。それは、特に、グローバルフィルタが2つのフィルタの上記の連続した適用(又はさらなるフィルタの介在の下での連続した適用)によって生成される際に与えられる。
【0011】
グローバルフィルタに基づいて、第1の適応パラメータのための第1の値と第2の適応パラメータのための第2の値とが、多次元最適化を用いて、それぞれ決定される。グローバルフィルタが、自由パラメータとして第1及び第2の適応パラメータのみを有する場合、最適化は、上記2つの適応パラメータに関して特に2次元的に行うことができる。最適化は、グローバルフィルタに直接適用することができる。好ましくは、グローバルフィルタは、上記2つの適応パラメータに依存しないフィルタ関数と、グローバルフィルタの2つの適応パラメータへの依存性を含む有効グローバル適応フィルタとに分割することができる。それによって、多次元最適化、特に2次元最適化が、この場合、その有効グローバル適応フィルタに適用される。
【0012】
上記最適化によって、第1の適応パラメータのための第1の値と第2の適応パラメータのための第2の値とが、それぞれ決定される。2つのマイクロフォンの位相応答の差を補償し、位相応答を互いに調整するために、第1のフィルタは、第1の適応パラメータのための第1の値を共なって、関係するマイクロフォン信号、すなわち、第1のフィルタの構成及び動作態様に対応して提供されたマイクロフォン信号(又は、提供される場合には両方のマイクロフォン信号)に適用される。又、第2のフィルタは、第2の適応パラメータのための第2の値を共なって、対応して提供されるマイクロフォン信号(又は、提供される場合には両方のマイクロフォン信号)に適用される。
【0013】
本明細書における調整は、以下の理由によって特に有利に行われ得る。すなわち、2つのマイクロフォンの位相応答における物理的に異なる寄与分、つまり、位相応答における上記寄与分の結果として生じる差は、互いに個別に適応された2つのフィルタによっては補償されず、それによって、フィルタの適応はシステム全体の動作に影響を与え、その結果、他のフィルタにも影響を与える。反対に、提案された手順によっては、使用される個別フィルタの適応パラメータのための、可能な限りグローバルな最適値を決定し、その最適値で個別のフィルタを動作させるために、異なる寄与分を有する2つの個別のフィルタを用いて形成されるグローバルフィルタを多次元処理において直接最適化できる。
【0014】
好ましくは、位相応答の差の第1の寄与分が位相応答の電子寄与分を表すように、第1のフィルタを決定し、及び/又は、位相応答の差の第2の寄与分が位相応答の電気音響寄与分を表すように、第2のフィルタを決定する。これは、特に、第2のフィルタが、第2の適応パラメータに基づく適用によって、2つのマイクロフォンの位相応答の差における寄与分が補償されるような方法で決定されることを意味する。この寄与分は、2つのマイクロフォンの電気音響部品によって、特に、2つのマイクロフォンにおける電気音響部品の差によって引き起こされる。すなわち、特に、膜、及び膜のそれぞれのハイパス作用によって引き起こされる。第2のフィルタは、電気音響部品の違いから生じる位相応答をモデル化する1つ以上のさらなるパラメータを有し得る。電気音響部品の位相応答は、2つのマイクロフォンのそれぞれについて、基本的には1次ハイパスフィルタによって記述することができ、特にカットオフ周波数(2つのマイクロフォンのそれぞれの電気音響部品について60Hzの領域に存在する)によって記述することができる。上記ハイパスフィルタによってモデル化された2つのマイクロフォンの異なる作用は、適切に構成された第2のフィルタを1つ又は両方のマイクロフォン信号に適用することによって補償することができる。カットオフ周波数は、上記パラメータを介して第2のフィルタに表すことができる。
【0015】
同様のことが、特に各マイクロフォンの出力インピーダンスとプリアンプとを含む電子部品に関する第1のフィルタにも言える。特に、第1のフィルタは、電子部品の違いから生じる位相応答をモデル化する1つ以上のさらなるパラメータを有しており、各マイクロフォンの電子部品は、特に、それぞれ120Hzの領域のカットオフ周波数を有するハイパスフィルタによってモデル化することができる。
【0016】
有利には、第1のマイクロフォン及び第2のマイクロフォンに、第1のマイクロフォン及び第2のマイクロフォンに関して同位相の音信号を印加する。その際、第1のマイクロフォン信号の第1のテスト信号を第1のマイクロフォンによって生成し、第2のマイクロフォン信号の第2のテスト信号を第2のマイクロフォンによって生成し、多次元最適化を、第1のテスト信号及び第2のテスト信号に基づいて実行する。したがって、特に、第1及び第2のテスト信号が生成され、それによって、2つのフィルタに基づいて本方法を実行するために、関係するテスト信号又は両方のテスト信号を処理することができ、特に、グローバルフィルタを、最適化の間に関係するテスト信号又は両方のテスト信号の信号成分に適用できる。それによって、最適化の間、第1のマイクロフォン信号及び第2のマイクロフォン信号内に、上記生成の結果として、位相差を有さない信号成分が存在し、これは、位相応答の差の調整に特に有利である。同相の音信号には、特に、以下の音源からの音信号が含まれる。すなわち、その音源は、2つのマイクロフォンの対称面内にあるか、又は、2つのマイクロフォンを結ぶ経路に直交し、かつ、結果として得られる音響的伝達時間に関して無視できるほどの、その対称面からの距離にある。
【0017】
有利なことに、第1のフィルタ及び第2のフィルタは、それぞれ第2のマイクロフォン信号のみを変化させる。原則として、2つのマイクロフォン信号のそれぞれが2つのフィルタの適用によって変化を受けるように、第1のフィルタ及び第2のフィルタを、位相応答の調整のために決定することができるのに対して、フィルタの概念は、1つのマイクロフォン信号だけが2つのフィルタによって変化されるようなものである。特に、2つのフィルタが他のマイクロフォン信号に及ぼす影響は些細なものである一方、変化されないマイクロフォン信号を、最適化のために基準信号として使用することができるため、この場合は特別な利点がある。
【0018】
適切なことに、多次元の、特に2次元の最適化を、勾配法を用いて実施し、その際、第1の適応パラメータの方向における変化、及び第2の適応パラメータの方向における変化に関して、勾配を誤差関数に適用する。誤差関数を、グローバルフィルタによってフィルタリングされた第2のマイクロフォン信号の、基準信号からの偏差に基づいて決定する。これは、特に、グローバルフィルタを、従って第1及び第2のフィルタを、第2のマイクロフォン信号に適用し、こうしてフィルタリングされた第2のマイクロフォン信号の、基準信号(例えば、第1のマイクロフォン信号)からの偏差を決定することを意味する。
【0019】
最適化のための誤差関数は、この偏差に基づいて、例えば、偏差の二乗として決定され、勾配が、2つの適応パラメータに関して、誤差関数に適用される。特に、これは、第1の適応パラメータ又は第2の適応パラメータに応じて、誤差関数の偏導関数によって行うことができる。この勾配に基づいて、特に第1の値と第2の値の修正値が2つの適応パラメータのために決定され、段階的に、特に適応するように、最適化の範囲内において最適値が決定される。具体的には、これは、例えば、最急降下法や、対角スケーリング(diagonal skalierten)最急降下法などで実施することができる。
【0020】
有利な形態において、グローバルフィルタを、第1の適応パラメータ及び第2の適応パラメータに依存しない無限インパルス応答(IIR)を有するフィルタ寄与分と、有限インパルス応答(FIR)を有するフィルタ寄与分と、に分割できるように、第1のフィルタ及び第2のフィルタを形成する。第1の適応パラメータ及び第2の適応パラメータのフィルタ多項式を、時間領域において有限インパルス応答を有するフィルタ寄与分に基づいて形成する。第1の適応パラメータの第1の値及び/又は第2の適応パラメータの第2の値を、時間領域において更新し、その更新のステップサイズを、フィルタ多項式に適用される勾配に依存して形成する。その勾配を、特に、第1の適応パラメータの方向における変化、及び第2の適応パラメータの方向における変化に関して形成する。
【0021】
これは、結果として得られるグローバルフィルタが、上記の形態、すなわち、2つの適応パラメータに依存しないIIRフィルタの寄与分と、2つの適応パラメータへの依存を全て含むFIRフィルタの寄与分と、に分割できる形態を有するように、第1のフィルタ及び第2のフィルタが、位相応答の差に対する寄与分に応じて形成されることを特に意味する。特に周波数領域又はz領域において識別可能なFIRフィルタ寄与分に基づいて、第1の適応パラメータ及び第2の適応パラメータのフィルタ多項式が、例えば、時間領域において、zの逆数の累乗(z領域における)における寄与分の次数によって、形成される。第1又は第2の適応パラメータの第1の値及び/又は第2の値は、それぞれ離散時間領域を含む時間領域において更新される。更新ステップ(時間単位での)のために、上記フィルタ多項式に適用される勾配に依存するステップサイズが使用される。
【0022】
これは、特に、グローバルフィルタについて説明した形態から得られるものである。すなわち、勾配が上記誤差関数に適用され、その誤差関数が、「グローバルにフィルタリングされた」第2のマイクロフォン信号の、第1のマイクロフォン信号からの偏差の関数を表す場合、勾配は、その偏差に適用され、最終的には、グローバルにフィルタリングされた第2のマイクロフォン信号に適用される。グローバルフィルタが、IIRフィルタ寄与分と、2つの適応パラメータへのグローバルフィルタの全依存性を含んでいるFIRフィルタ寄与分とに分割される場合、場合によっては離散時間領域における誤差関数への勾配の適用は,最終的には、フィルタ多項式への勾配(適応パラメータに関して)の適用となる。
【0023】
適切なことに、第1の適応パラメータの方向における、及び第2の適応パラメータの方向におけるステップサイズを、それぞれ、上記偏差に関連して正規化する。このような正規化は、ステップサイズが大きすぎることによる最適値を超える「オーバーシュート」を防ぐことができるため、調整の収束特性を向上させる。正規化は、特に、偏差に適用される勾配の大きさの二乗に関して行われる。
【0024】
有利なことに、その正規化を、それぞれ誤差関数に依存して正則化する。特に、グローバルフィルタリングされた第2のマイクロフォン信号の第1のマイクロフォン信号からの偏差が、単位時間当たり(すなわち、離散した時間ステップ当たり)の2つの適応パラメータに関して、わずかに変化するだけである場合に(最適への収束が進むにつれて)、正則化は、小さな正規化の場合に小さな分母のために修正値が大きくなることを防ぐために有利である。しかしながら、計算が非常に小さな信号に依存して行われる場合には、場合によっては、信頼性を低下させる可能性がある。
【0025】
好ましくは、第1マイクロフォンと第2マイクロフォンとの異なる音量感度を考慮したパラメータを、位相応答の調整のために追加で使用する。2つのマイクフォン間の音量感度の違いは、一方では、位相応答の違いから分離して個別に補償できるが、それにもかかわらず、位相応答の調整に影響を与える可能性があるため、音量感度の違いを考慮に入れることは有利となり得る。
【0026】
さらに、補聴器の2つのマイクロフォンの位相応答が調整されれば有利である。2つ以上のマイクロフォンを有する補聴器においては、特に雑音の抑制のため、及び信号対雑音比の改善のために、指向性マイクロフォンの方法がよく用いられる。特に差動指向性マイクロフォンのために、関与するマイクロフォンは、例えば音源の指向性の認識の際に、マイクロフォンの異なる作用によってのみ生じる伝達時間や音量の違いが生じないように、振幅と位相の応答に関して可能な限り同一の動作をする必要がある。この理由のため、補聴器の2つのマイクロフォンの位相応答の調整のための本明細書での動作は、特に有益である。
【0027】
補聴器という用語は、本明細書では以下のような装置を意味するものと解されるべきである。すなわち、聴覚障害者の扶養のために、又は聴覚障害のその他の補償のために装着され、又、聴覚障害者の聴覚障害に応じた周波数帯域で入射音を処理し、特に増幅し、それによって、個々の要求に応じて処理された信号を、出力変換器を介して補聴器の装着者の聴覚に供給するような装置である。
【0028】
本発明はさらに、第1のマイクロフォン信号を生成するように配置された第1のマイクロフォンと、第2のマイクロフォン信号を生成するように配置された第第2のマイクロフォンと、第1のマイクロフォン及び第2のマイクロフォンのそれぞれの位相応答を調整するための上記の方法を実行するように配置された制御ユニットとを備えた、システムに言及する。本発明によるシステムは、本発明による方法の利点を共有する。その方法とその更なる形態のために示された利点は、その趣旨において、本システムに転用できる。
【0029】
システムは、特に、上記方法を実行するための制御ユニットをそれぞれ含む補聴器又は通信装置によって与えられ得る。特に、上記方法を実行するための制御ユニットは、補聴器又は通信装置の調整に応じた動作中において、その動作の機能を制御する制御ユニットによって与えられる。好ましくは、システムは、例えば、制御ユニットの適した形態によって、第1及び第2のマイクロフォン信号に基づいて、方法を実施するのに適した音を識別するように設けられている。しかしながら、特に、そのシステムは、方法の実施のために、特に適した音信号を第1のマイクロフォン及び第2のマイクロフォンに印加するように設けられた独自の音源を有することもできる。
【0030】
特に、システムは、第1のマイクロフォン及び/又は第2のマイクロフォンに、第1のマイクロフォン及び第2のマイクロフォンに関して同一位相の音信号を印加するように調節された音源を含む。このような音信号は、方法を実施するのに特に適している。
【0031】
好ましくは、第1のマイクロフォン及び第2のマイクロフォンは、補聴器に配置される。これは、特に、システムが、補聴器によって提供されるか、又は補聴器を含むことを意味する。最初に挙げられた場合では、補聴器は、以下のように設けられている。すなわち、外部の音信号が上記方法に適していると識別された場合には、例えば、上記制御ユニットも実装されている信号処理装置を介して、その外部の音信号を用いて上記方法を実行するように設けられている。第2の場合では、システムは、特に、補聴器のためのテスト環境と上記補聴器自体とによって与えられ、テスト環境は、上記方法に適した音信号を生成するための音源を含む。その際、制御ユニットは、補聴器の制御ユニットによって、又は補聴器に関して外部の制御装置によって実施されてもよい。しかしながら、システムは、補聴器と、制御装置のみが実装された外部装置、例えば、データ送信のために補聴器に接続可能な携帯電話と、によっても提供され得る。
【0032】
以下、本発明の一実施例を、図面を用いてさらに詳細に説明する。この場合、それぞれの図面は、模式的に示される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】2つのマイクロフォンと2つのフィルタとを用いて2つのマイクロフォンの位相応答を調整するシステムを示すブロック図である。
【
図2】
図1による2つのマイクロフォンの異なるハイパス動作と、それに適した補償との等価回路である。
【
図3】
図1による2つのフィルタの結果として生じるグローバルフィルタの適応を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
互いに対応する部品や大きさには、全ての図において同じ参照符号が付される。
【0035】
図1には、第1のマイクロフォン1及び第2のマイクロフォン2が、ブロック図内に概略的に示されている。第1のマイクロフォン1は第1のマイクロフォン信号x1を、第2のマイクロフォン2は第2のマイクロフォン信号x2を、詳細には示されない音信号からそれぞれ生成するように設けられている。第1のマイクロフォン1は、例えば第1のマイクロフォン1の振動板を含む第1の電気音響部品4と、さらに、場合によっては他の一般的な定義とは異なり、特にプリアンプを含む第1の電子部品6とを有する。同様に、第2のマイクロフォン2は、第2の電気音響部品8と第2の電子部品10とを有する。本実施例では、第1のマイクロフォン1と第2のマイクロフォン2とは同一の構造である。すなわち、第1の電気音響部品4と第2の電気音響部品8とは同一の構造であり、第1の電子部品6と、第2の電子部品10とは同一の構造である。
【0036】
しかしながら、製造公差や経年劣化によって、第1の電子部品6が第2の電子部品10とは異なる位相応答を有し得るのと同様に、第1の電気音響部品4は、第2の電気音響部品8とは異なる位相応答を有し得る。上記電子部品6,10は、それによって、2つのマイクロフォン1,2の位相応答における差に対して、本実施例では電子寄与分14によって与えられる第1の寄与分12を提供する。上記電気音響部品4,8は、それと類似して、マイクロフォン1,2の位相応答における差に対して、本実施例では電気音響寄与分18によって与えられる第2の寄与分16を提供する。
【0037】
ここで、2つのマイクロフォン1,2を含むシステム20が、それら2つのマイクロフォン1,2の位相応答の差を調整するために、設けられている。そのために、システム20は、第1のフィルタH1と第2のフィルタH2とを有する。第1及び第2のフィルタH1,H2は、それぞれ第2のマイクロフォン信号x2にのみに適用される(フィルタH1,H2の第1のマイクロフォン信号x1への可能な適用は、それぞれにおいて同一の結果になる)。また、2つのフィルタH1,H2の他の形態、すなわち、これらが、それぞれ異なるマイクロフォン信号x1,x2に適用されること、又は、非自明な方法でそれぞれ両方のマイクロフォン信号x1,x2に適用されることも考えられる。
【0038】
第1のフィルタH1は、第1の適応パラメータp1を有し、以下のように構成されている。すなわち、2つのマイクロフォン1,2の位相応答の差への電子寄与分14が、第1の適応パラメータp1の適切な値によって、この第1のフィルタH1を用いて修正可能であるように、構成されている。このために、第1のフィルタH1は、フィルタの位相応答を電子寄与分14に適合させる2つのパラメータv,uをさらに有する。カットオフ周波数は、本実施例では約120Hzであり、その遷移範囲は数10Hzである。
【0039】
これと同様に、第2のフィルタH2は、第2の適応パラメータp2を有する。それによって、2つのマイクロフォン1,2の位相応答の差への電気音響寄与分18は、第2の適応パラメータp2の適切な値によって、第2のフィルタH2によって修正可能である。第1のフィルタH1と同様の方法で、第2のフィルタH2の位相応答は、さらに2つのパラメータw,tを介して電気音響寄与分18に適合させることができる。その際に、カットオフ周波数は約60Hzである。第2のフィルタH2は、使用されるパラメータと適応パラメータp1,p2とを除いて、第1のフィルタH1と同様である。
【0040】
z領域において、第1のフィルタH1は、第1のフィルタH1の周波数応答を表すパラメータv,uを有する伝達関数
【数1】
によって表すことができる。それらのパラメータは、対応して、2つのマイクロフォン1,2の位相応答の差の電子寄与分14に適合するように選択することができる。変数zは、第1のフィルタH1の入力信号のz変換、すなわちz領域における第2のマイクロフォン信号x2に関係する。第2のフィルタH2は、対応して、第2のフィルタH2の位相応答を表すパラメータw,tを有する伝達関数
【数2】
によって表すことができる。それらパラメータは、対応して、2つのマイクロフォン1,2の位相応答の差の電気音響寄与分18に適合するように選択することができる。
【0041】
2つのマイクロフォン信号x1,x2のそれぞれのための汎用のハイパスフィルタを用いて
図2に基づいて説明されるように、第1又は第2のフィルタH1(z),H2(z)の具体的な形態は、個々のマイクロフォン1,2のための、補償される電子寄与分14又は電気音響寄与分18のハイパス特性に基づいて根拠付けられる。
【0042】
第1のマイクロフォン1の電気音響部品又は電子部品は、第1のハイパスフィルタHP1によってモデル化され、第2のマイクロフォン2の対応する電気音響部品又は電子部品は、第2のハイパスフィルタHP2によってモデル化される。2つのマイクロフォン1,2の位相応答のために生じる2つのハイパスフィルタHP1,HP2の間の差を補償するために、第2のマイクロフォン信号x2は、Hcomp=HP1/HP2の形を有する補償フィルタHcompによってフィルタリングされる。そのため、このようにしてフィルタリングされた第2のマイクロフォン信号x2は、第1のマイクロフォン信号x1(固有)にも行われる同じハイパスフィルタ動作HP1によってさらに処理される。2つのハイパスフィルタHP1,HP2を対応するRC素子で表すと、補償フィルタHcompは、以下のようになる。
【0043】
【数3】
ここで、qj=-1/(Rj・Cj)である。ハイパスフィルタHP1,HP2は、単に、マイクロフォン1,2の実際の動作のモデル化にすぎないことに注意が必要である。
【0044】
双一次変換
【数4】
の使用によってz領域(ここで、Tはサンプリング周期又はサンプリング周波数の逆数)に変換すると、補償フィルタの形は、z
-1の次数において個々の項をまとめて、以下のように表すことができる。
【0045】
【0046】
(1-Tq1/2)-1による拡張(すなわち分子と分母への掛け算)と、小さな変数Tq1/2のために、適した近似式(1-Tq1/2)-1≒1+Tq1/2を用いること(これは、時間スケールTと、q1の、すなわちR1及びC1の期待し得る値との観点から正当化される)とによって、以下の式(T・q1における主要な項のみ)が得られる。
【0047】
【0048】
以下の定義、
u:=1+Tq1 及び
p1・v:=T(q1-q2)/2
を使用することで、ここで、vをスケーリング係数、p1を適応パラメータとすると、補償フィルタHcomp(z)は、最終的に第1のフィルタH1(z)のために(あるいはp2を適応パラメータとして用い、wをスケーリング係数、uの代わりにtを用いることで、第2のフィルタH2(z)のためにも)上記で示した形になる。補償フィルタHcomp(s)の第2のマイクロフォン信号x2への適用は、2つのマイクロフォン1,2の動作に起因する2つのハイパスフィルタHP1,HP2の差と、その結果として生じる位相応答の差とを補償する。
【0049】
第1の適応パラメータp1及び第2の適応パラメータp2を適応させるために、すなわち、第1の適応パラメータp1のための第1の値p1.0及び第2の適応パラメータp2のための第2の値p2.0をそれぞれ決定するために、誤差関数e2(n)が、これから記述される方法において、2つのフィルタH1,H2に依存して形成される。その第1の値p1.0及び第2の値p2.0を用いて、第1又は第2のフィルタH1,H2は、2つのマイクロフォン1,2の位相応答を調整するために、第2のマイクロフォン信号x2に適用される。その誤差関数e2(n)は、勾配法によって最適化される。その際、勾配は、第1及び第2の適応パラメータp1,p2の方向に関して決定される。第1及び第2の適応パラメータp1,p2(すなわち、2つの適応パラメータp1,p2のベクトルp)の更新は、上記勾配に依存するステップサイズで行われる。
【0050】
上記誤差関数e2(n)のために、まず、第1のフィルタH1と第2のフィルタH2との連続適用によってグローバルフィルタHallが形成され、これは以下の伝達関数によって表される。
【0051】
【0052】
本実施例では、再び、変数zは、z領域における第2のマイクロフォン信号x2によって与えられる。グローバルフィルタHallによってフィルタリングされた第2のマイクロフォン信号x2は、第1のマイクロフォン信号x1(フィルタリングされていない)によって与えられる基準信号Rから減算される。「グローバルにフィルタリングされた」第2のマイクロフォン信号x2の、第1のマイクロフォン信号x1との偏差e(n)から、絶対値e2(n)が上記誤差関数として決定され、その誤差関数は、2つの適応パラメータp1,p2に関して勾配法において最適化される。
【0053】
2つの適応パラメータp1,p2を更新するためのステップサイズを、使用される適切な勾配を介して決定するために、
図3のブロック回路図に模式的に示されているように、グローバルフィルタH
allは、IIRフィルタ寄与分Cと、2つの適応パラメータp1,p2に対するグローバルフィルタH
allの完全な依存性を含むFIRフィルタ寄与分
と、に分割される。
【0054】
IIRフィルタ寄与分Cと、FIRフィルタ寄与分
との伝達関数は,上述したグローバルフィルタH
all(z)の伝達関数の分母又は分子から得られる。すなわち:
【数8】
【0055】
図3に示されるように、偏差e(n)=x1(n)-H
all(n)*x2(n)へのp方向における(すなわち、2つの適応パラメータp1,p2の方向における)勾配の適用は、(ベクトル値の)フィルタ多項式
への上記勾配の適用を生じる(p1とp2の更新のためのステップサイズを決定するために、及び、時間領域において補償される第2のマイクロフォン信号x2(n)を用いたグローバルIIRフィルタH
all(n)の畳み込み(Faltung)によって)。このフィルタ多項式
は、(離散的な)時間領域におけるFIRフィルタ寄与分
に対応する、p1とp2の多項式で与えられる。その際、ベクトル成分
は、
から、zの逆数の累乗の次数によって与えられる。
【0056】
【0057】
偏差e(n)=x1(n)-H
all(n)*x2(n)において、フィルタ多項式
へのpの方向における勾配の適用は、2つの適応パラメータp1及びp2の更新のための、以下のような規則に導く。
【0058】
【0059】
2つの適応パラメータp1,p2の方向に分解し、偏差e(n)=x1(n)-Hall(n)*x2(n)を考慮すると、第2のマイクロフォン信号x2として、(離散的な)時間領域においてIIRフィルタ寄与分Cによってフィルタリングされた信号xc(n)を用いて、以下の結果が得られる。
【0060】
【数12】
適応パラメータp1又はp2に応じたフィルタ多項式
のベクトル成分
の偏導関数は、ベクトル成分
のための上述した形から得られる。
【0061】
IIRでフィルタリングされた第2マイクロフォン信号xc(n)に依存した2つの適応係数のための更新規則は、e(n)に適用される、p1又はp2への勾配の大きさの2乗に関しての正規化と、e2(n)についての以下の正則化との後に生じる。
【0062】
【0063】
位相応答を調整するために、
図1による第1のフィルタH1は、第1の適応パラメータp1の第1の値p1.0を用いて、第2のマイクロフォン信号x2に適用される。その第2のマイクロフォン信号x2は、好ましくはp1(n→n+1)のための上記規則の収束から生じる。同様に、第2のフィルタH2は、第2の適応パラメータp2の第2の値p2.0を用いて、第2のマイクロフォン信号x2に適用される。その第2のマイクロフォン信号x2は、好ましくは、p2(n→n+1)のための上記規則の収束から生じる。
【0064】
本方法を実行するために、
図1による第1のマイクロフォン1及び第2のマイクロフォン2には、それ自体が信号寄与分の位相差を持たないマイクロフォン信号x1,x2を用いて方法を実行できるように、好ましくは、同位相の音信号(
図1の音信号22を参照)が印加される。2つのマイクロフォン1,2のための同一位相の音信号22の、詳細に示されない音源が、2つのマイクロフォン1,2の対称面24内に配置されている。第1のマイクロフォン1及び第2のマイクロフォン2が、詳細には記載されない補聴器の一部である場合、本方法は、好ましくは、校正において、例えば、工場渡し等において、実施される。また、本方法は、第1又は第2のフィルタH1,H2における第1又は第2の適応パラメータp1,p2のために、それぞれ校正中に決定された値p1.0,p2.0を使用して、動作中に適用される。
【0065】
以上、本発明を好ましい実施例によって図示し、詳細に説明してきたが、本発明はこの実施例によって制限されるものではない。別の変形例は、本発明の保護の範囲から離れることなく、当業者によってそこから導き出すことができる。
【符号の説明】
【0066】
1 第1のマイクロフォン
2 第2のマイクロフォン
4 第1の電気音響部品
6 第1の電子部品
8 第2の電気音響部品
10 第2の電子部品
12 第1の寄与分(位相応答の差の)
14 電子寄与分
16 第2の寄与分(位相応答の差の)
18 電気音響寄与分
20 システム
22 同一位相の音信号
24 対称面
C IIRフィルタ寄与分
e(n) 偏差
e
2 誤差関数
H1 第1のフィルタ
H2 第2のフィルタ
Hall グローバルフィルタ
FIRフィルタ寄与分
フィルタ多項式(ベクトル値の)
フィルタ多項式(ベクトル成分j)
HP1/2 第1/第2のハイパスフィルタ
Hcomp 補償フィルタ
p1 第1の適応パラメータ
p1.0 第1の値
p2 第2の適応パラメータ
p2.0 第2の値
R 基準信号
u,v,w,tパラメータ