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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】電気化学反応装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 3/26 20210101AFI20221114BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20221114BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20221114BHJP
   C25B 11/032 20210101ALI20221114BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
C25B3/26
C25B9/00 G
C25B9/23
C25B11/032
C25B15/08 302
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021039197
(22)【出願日】2021-03-11
(65)【公開番号】P2022139001
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】及川 博
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 雄太
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-123390(JP,A)
【文献】特開2018-154899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を電気化学的に還元する電気化学反応装置であって、
カソードと、
アノードと、
前記アノードの前記カソード側の表面に隣接されたイオン交換膜と、
前記カソードと前記イオン交換膜の間に設けられ、電解液流路を形成する液流路構造体と、
前記カソードの前記アノードとは反対側に設けられ、二酸化炭素ガスが供給されるカソード側ガス流路を形成する第1ガス流路構造体と、
前記アノードの前記カソードとは反対側に設けられ、アノード側ガス流路を形成する第2ガス流路構造体と、
前記第1ガス流路構造体の前記カソードとは反対側に設けられた第1給電体と、
前記第2ガス流路構造体の前記アノードとは反対側に設けられた第2給電体と、
を備え
前記電解液流路、前記カソード側ガス流路及び前記アノード側ガス流路がそれぞれ複数形成されており、
少なくとも一組の前記電解液流路の間で、前記カソード、前記アノード及び前記イオン交換膜が、前記液流路構造体と前記第1ガス流路構造体と前記第2ガス流路構造体の流路以外の部分によって挟持されており、
前記カソード側ガス流路と前記電解液流路と前記アノード側ガス流路がそれぞれ同数で、かつそれらが厚さ方向から見て重なるように配置されており、すべての隣り合う前記電解液流路の間で、前記カソード、前記アノード及び前記イオン交換膜が、前記液流路構造体と前記第1ガス流路構造体と前記第2ガス流路構造体の流路以外の部分によって挟持されている、電気化学反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排気ガスや大気中の二酸化炭素を電気化学的に還元して有価物を得る技術は、カーボンニュートラルを達成する可能性のある有望な技術であるが、経済性が最大の課題である。経済性を改善するためには、できるだけ損失を低減し、高いエネルギー効率で二酸化炭素を電解することが重要である。
【0003】
二酸化炭素電解には水電解が伴うため、二酸化炭素電解を行うセルには、二酸化炭素の供給、及び還元によって生成したガス状生成物の排出のためのガス流路に加え、電解液(水溶液)の供給及び排出のための電解液流路が必要である。そのため、二酸化炭素電解を行うセルは多層構造で、水電解を行うセルの構造よりも複雑である。二酸化炭素電解を行う電気化学反応装置としては、例えば、ガス拡散層の電解液と接する側に二酸化炭素還元触媒を用いて触媒層を形成したカソードに対し、ガス拡散層の触媒層とは反対側に二酸化炭素ガスを供給するガス流路を設けた装置が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/232515号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような従来の電気化学反応装置のエネルギー効率はまだ不十分であり、さらに損失を低減し、エネルギー効率を向上させることは意義深いと言える。
【0006】
本発明は、高いエネルギー効率で二酸化炭素を電気化学的に還元できる電気化学反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を採用した。
(1)本発明の一態様に係る電気化学反応装置(例えば、実施形態の電気化学反応装置10)は、二酸化炭素を電気化学的に還元する電気化学反応装置であって、カソード(例えば、実施形態のカソード21)と、アノード(例えば、実施形態のアノード22)と、前記アノードの前記カソード側の表面に隣接されたイオン交換膜(例えば、実施形態のイオン交換膜26)と、前記カソードと前記イオン交換膜の間に設けられ、電解液流路(例えば、実施形態の電解液流路31)を形成する液流路構造体(例えば、実施形態の液流路構造体23)と、前記カソードの前記アノードとは反対側に設けられ、二酸化炭素ガスが供給されるカソード側ガス流路(例えば、実施形態のカソード側ガス流路32)を形成する第1ガス流路構造体(例えば、実施形態の第1ガス流路構造体24)と、前記アノードの前記カソードとは反対側に設けられ、アノード側ガス流路(例えば、実施形態のアノード側ガス流路33)を形成する第2ガス流路構造体(例えば、実施形態の第2ガス流路構造体25)と、前記第1ガス流路構造体の前記カソードとは反対側に設けられた第1給電体(例えば、実施形態の第1給電体27)と、前記第2ガス流路構造体の前記アノードとは反対側に設けられた第2給電体(例えば、実施形態の第2給電体28)と、を備えている。
【0008】
(2)前記電解液流路、前記カソード側ガス流路及び前記アノード側ガス流路がそれぞれ複数形成されており、少なくとも一組の前記電解液流路の間で、前記カソード、前記アノード及び前記イオン交換膜が、前記液流路構造体と前記第1ガス流路構造体と前記第2ガス流路構造体の流路以外の部分によって挟持されていてもよい。
【0009】
(3)前記カソード側ガス流路と前記電解液流路と前記アノード側ガス流路がそれぞれ同数で、かつそれらが厚さ方向から見て重なるように配置されており、すべての隣り合う前記電解液流路の間で、前記カソード、前記アノード及び前記イオン交換膜が、前記液流路構造体と前記第1ガス流路構造体と前記第2ガス流路構造体の流路以外の部分によって挟持されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
(1)~(3)の態様によれば、高いエネルギー効率で二酸化炭素を電気化学的に還元できる電気化学反応装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の電気化学反応装置を電解液流路の長さ方向に垂直な面で切断した断面図である。
図2図1の電気化学反応装置を電解液流路の長さ方向に沿う面で切断した断面図である。
図3図1の電気化学反応装置の液流路構造体をカソード側から見た図である。
図4図1の電気化学反応装置の第1ガス流路構造体をカソード側から見た図である。
図5図1の電気化学反応装置の第2ガス流路構造体をアノード側から見た図である。
図6】他の実施形態の電気化学反応装置を電解液流路の長さ方向に垂直な面で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において例示される図の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0013】
図1~5に例示する実施形態の電気化学反応装置10は、二酸化炭素を電気化学的に還元する装置である。電気化学反応装置10は、カソード21と、アノード22と、液流路構造体23と、第1ガス流路構造体24と、第2ガス流路構造体25と、イオン交換膜26と、第1給電体27と、第2給電体28と、を備えている。電気化学反応装置10では、第1給電体27、第1ガス流路構造体24、カソード21、液流路構造体23、イオン交換膜26、アノード22、第2ガス流路構造体25、第2給電体28がこの順に積層されている。
【0014】
図3に示すように、液流路構造体23には、6本の直線状のスリット23aが互いに平行に形成されている。各々のスリット23aにおけるカソード21とイオン交換膜26と液流路構造体23とで囲まれた部分が電解液流路31になっている。各々の電解液流路31の長さ方向の一方の側には、外部から供給される電解液を各々の電解液流路31に分配する入口側流路31aが形成されている。各々の電解液流路31の長さ方向の他方の側には、各々の電解液流路31を流れる電解液を集約して排出する出口側流路31bが形成されている。
【0015】
電解液流路31の厚さ方向から見た形状は、特に限定されず、圧損が小さいことから、直線状が好ましい。
電解液流路31の高さ、すなわち液流路構造体23の厚さ方向における電解液流路31の両端間の距離は、カソード21からアノード22へのイオン移動抵抗が可能な範囲で小さくなるように設定すればよく、例えば、0.1~5mmとすることができる。電解液流路31の幅は、適宜設定でき、例えば、0.1~1mmとすることができる。
【0016】
電気化学反応装置10が有する電解液流路31の数は、6本には限定されず、電気化学反応装置10の寸法等に応じて適宜設定でき、例えば、5~1000本とすることができる。
【0017】
図4に示すように、第1ガス流路構造体24のカソード21側の面には6本の直線状の溝24aが互いに平行して形成されている。各々の溝24aにおける第1ガス流路構造体24とカソード21に囲まれた部分がカソード側ガス流路32となっている。各々のカソード側ガス流路32の長さ方向の一方の側には、外部から供給される二酸化炭素ガスを各々のカソード側ガス流路32に分配する入口側流路32aが形成されている。各々のカソード側ガス流路32の長さ方向の他方の側には、カソード21での還元反応によって生成するガス状生成物を各々のカソード側ガス流路32から集約して排出する出口側流路32bが形成されている。
【0018】
本実施形態では、電解液流路31の入口側流路31aとカソード側ガス流路32の入口側流路32aとが流路の長さ方向において逆側に配置されている。すなわち、電解液流路31内の電解液の流れ方向と、カソード側ガス流路32内の二酸化炭素ガス及びガス状生成物の流れ方向とが逆向き(向流)となるようになっている。二酸化炭素の還元効率が高い点では、この例のように電解液の流れと二酸化炭素ガス及びガス状生成物の流れが向流となる態様が好ましい。なお、実施形態の電気化学反応装置は、電解液の流れ方向と二酸化炭素ガス及びガス状生成物の流れ方向が同じ方向(並流)となる態様であってもよい。
【0019】
カソード側ガス流路32の厚さ方向から見た形状は、電解液流路31の形状に一致させればよく、圧損が小さいことから、直線状が好ましい。カソード側ガス流路32の寸法は、適宜設定できる。厚さ方向から見てカソード側ガス流路32と電解液流路31が完全に重なると、電極を挟む面圧を与えることができ、給電体から供給される電気が損失無く各部に均等に行きわたる点から、カソード側ガス流路32と電解液流路31の幅は同じであることが好ましい。
【0020】
電気化学反応装置10が有するカソード側ガス流路32の数は、6本には限定されず、電気化学反応装置10の寸法等に応じて適宜設定でき、例えば、5~1000本とすることができる。
【0021】
図5に示すように、第2ガス流路構造体25のアノード22側の面には6本の直線状の溝25aが互いに平行して形成されている。各々の溝25aにおける第2ガス流路構造体25とアノード22に囲まれた部分がアノード側ガス流路33となっている。各々のアノード側ガス流路33の長さ方向の一方の側には、アノード22で生成する酸素を各々のアノード側ガス流路33から集約して排出する出口側流路33aが形成されている。
【0022】
アノード側ガス流路33の形状は、特に限定されないが、圧損が小さいことから、直線状が好ましい。アノード側ガス流路33の寸法は、適宜設定できる。厚さ方向から見てアノード側ガス流路33と電解液流路31が完全に重なると、電極を挟む面圧を与えることができ、給電体から供給される電気が損失無く各部に均等に行きわたる点から、カソード側ガス流路32、電解液流路31及びアノード側ガス流路33の幅は同じであることが好ましい。
【0023】
電気化学反応装置10が有するアノード側ガス流路33の数は、6本には限定されず、電気化学反応装置10の寸法等に応じて適宜設定でき、例えば、5~1000本とすることができる。電解液流路31、カソード側ガス流路32及びアノード側ガス流路33の数は、同じであることが好ましい。
【0024】
このように電気化学反応装置10では、図1及び図2に示すように、カソード21とアノード22の間に複数の電解液流路31が形成され、カソード21のアノード22とは反対側に複数のカソード側ガス流路32が形成され、アノード22のカソード21とは反対側に複数のアノード側ガス流路33が形成されている。この例では、電解液流路31、カソード側ガス流路32及びアノード側ガス流路33が同数であり、厚さ方向(積層方向)から見て、それぞれ1本ずつの電解液流路31、カソード側ガス流路32及びアノード側ガス流路33が重なる位置で平行に延びている。
【0025】
第1給電体27と第2給電体28は、図示しない電源装置と電気的に接続されている。また、第1ガス流路構造体24と第2ガス流路構造体25は導電体であり、電源装置から供給される電力によってカソード21とアノード22の間に電圧を印加できるようになっている。
【0026】
カソード21は、二酸化炭素を還元するとともに水を還元するための電極である。カソード21としては、二酸化炭素を電気化学的に還元でき、かつ還元反応によって生成したガス状生成物がカソード側ガス流路32まで透過するものであればよく、例えば、ガス拡散層の電解液流路31側にカソード触媒層が形成された電極を例示できる。カソード触媒層は、一部がガス拡散層中に入り込んでいてもよい。ガス拡散層とカソード触媒層の間には、ガス拡散層よりも緻密な多孔質層を配置してもよい。
【0027】
カソード触媒層を形成するカソード触媒としては、二酸化炭素の還元を促進する公知の触媒を使用できる。カソード触媒の具体例としては、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、チタン、カドミウム、亜鉛、インジウム、ガリウム、鉛、錫等の金属、それらの合金や金属間化合物、ルテニウム錯体、レニウム錯体等の金属錯体を例示できる。なかでも、二酸化炭素の還元が促進される点から、銅、銀が好ましく、銅がより好ましい。カソード触媒としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
カソード触媒としては、金属粒子が炭素材料(カーボン粒子、カーボンナノチューブ、グラフェン等)に担持された担持触媒を用いてもよい。
【0028】
カソード21のガス拡散層としては、特に限定されず、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロスを例示できる。
カソード21の製造方法は、特に限定されず、例えば、ガス拡散層の電解液流路31側となる面に、カソード触媒を含む液状組成物を塗布して乾燥する方法を例示できる。
【0029】
アノード22は、水酸化物イオンを酸化して酸素を生成するための電極である。アノード22としては、水酸化物イオンを電気化学的に酸化でき、かつ生成した酸素がアノード側ガス流路33まで透過するものであればよく、例えば、ガス拡散層の電解液流路31側にアノード触媒層が形成された電極を例示できる。
【0030】
アノード触媒層を形成するアノード触媒としては、特に限定されず、公知のアノード触媒を使用できる。具体的には、例えば、白金、パラジウム、ニッケル等の金属、それらの合金や金属間化合物、酸化マンガン、酸化イリジウム、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ルテニウム、酸化リチウム、酸化ランタン等の金属酸化物、ルテニウム錯体、レニウム錯体等の金属錯体を例示できる。アノード触媒としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
アノード22のガス拡散層としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロスを例示できる。また、ガス拡散層としては、メッシュ材、パンチング材、多孔体、金属繊維焼結体等の多孔質体を用いてもよい。多孔質体の材質としては、例えば、チタン、ニッケル、鉄等の金属、これらの合金(例えばSUS)を例示できる。
【0032】
イオン交換膜26としては、水酸化物イオンを透過し、かつアノード22で生成する酸素を透過しないものであればよく、公知の陰イオン交換膜を使用できる。
陰イオン交換膜としては、例えば、炭化水素系陰イオン交換樹脂を含む陰イオン交換膜を例示できる。炭化水素系陰イオン交換樹脂としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等に、必要に応じて種々の官能基が導入された陰イオン交換樹脂を例示できる。
【0033】
イオン交換膜26の厚さは、0.03~0.5mmが好ましく、0.05~0.1mmがより好ましい。イオン交換膜26の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、機械的強度及び耐久性が得られる。イオン交換膜26の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、イオン移動抵抗が低く抑えられる。
【0034】
液流路構造体23の材質としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂を例示できる。
第1ガス流路構造体24及び第2ガス流路構造体25の材質としては、例えば、チタン、SUS等の金属、カーボンを例示できる。
第1給電体27及び第2給電体28の材質としては、例えば、銅、金、チタン、SUS等の金属、カーボンを例示できる。第1給電体27及び第2給電体28としては、銅基材の表面に金メッキ等のメッキ処理を施したものを使用してもよい。
【0035】
電気化学反応装置10を用いて二酸化炭素を電気化学的に還元する際には、例えば、膜分離装置等の公知の濃縮装置によって大気や排ガスの二酸化炭素を濃縮し、その濃縮ガスをエタノールアミン等の吸収液に吸収させて回収する。そして、二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して二酸化炭素ガスを放出させ、二酸化炭素ガスを電気化学反応装置10のカソード側ガス流路32に供給する。また、電解液流路31に電解液を流して、カソード21とアノード22の間に電圧を印加する。これにより、水電解を伴う二酸化炭素電解によって、カソード21で二酸化炭素が電気化学的に還元されてエチレン等を含むガス状生成物が得られる。
【0036】
電解液としては、特に限定されず、例えば、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液を例示できる。なかでも、二酸化炭素の還元が促進される点から、水酸化カリウム水溶液が好ましい。
【0037】
カソード21では、例えば、以下の反応で二酸化炭素が還元されて一酸化炭素及びエチレンが生成する。また、カソード21では以下の反応で水素も生成する。生成した一酸化炭素、エチレン、水素等のガス状生成物は、カソード21のガス拡散層を透過し、カソード側ガス流路32から流出する。
CO+HO→CO+2OH
2CO+8HO→C+8OH+2H
2HO→H+2OH
【0038】
また、カソード21で生じた水酸化物イオンは電解液及びイオン交換膜26を通じてアノード22へと移動し、以下の反応で酸化されて酸素が生成する。生成した酸素は、アノード22のガス拡散層を透過し、アノード側ガス流路33から排出される。
4OH→O+2H
【0039】
電気化学反応装置10では、アノード22のカソード21側の表面にイオン交換膜26が隣接して設けられている。イオン交換膜26においては、水酸化物イオンはアノード22に向かって移動するが、酸素の透過は妨げられる。これにより、アノード22で生成した酸素はカソード21側に移動することが抑制される。そのため、カソード21で酸素が副反応を起こすことによる損失が低減される。また、電解液流路31のアノード22側ではイオン交換膜26が設けられたことによってアノード22へのイオン移動抵抗が低減される。このように、水電解を伴う二酸化炭素電解における損失が低減され、エネルギー効率が高まる。
【0040】
また、カソード21における電解液流路31とカソード側ガス流路32が存在する部分は、液流路構造体23と第2ガス流路構造体25で挟持されていない。そのため、電解液流路31とカソード側ガス流路32とアノード側ガス流路33を、それぞれ幅広い1本ずつの流路とすると、カソード21及びアノード22は幅方向の両端部だけで支持されることになるため、電気化学反応装置10の各積層部材をボルト、ナット等で締結したときにカソード21及びアノード22に十分な面圧がかかりにくい。その結果、カソード21及びアノード22の幅方向における流路の幅方向の電流密度が不均一になりやすく、エネルギーの損失となる。
【0041】
これに対し、図1に示すように、この例では電解液流路31とカソード側ガス流路32とアノード側ガス流路33が同数であり、各流路はいずれも直線状で幅が揃えられている。また、厚さ方向(積層方向)から見て、電解液流路31とカソード側ガス流路32とアノード側ガス流路33がそれぞれ重なるように配置されている。そして、すべての隣り合う電解液流路31の間で、カソード21は、液流路構造体23の電解液流路31以外の部分と、第1ガス流路構造体24のカソード側ガス流路32以外の部分とによって挟持されている。また、すべての隣り合う電解液流路31の間で、アノード22及びイオン交換膜26は、液流路構造体23の電解液流路31以外の部分と、第2ガス流路構造体25のアノード側ガス流路33以外の部分とによって挟持されている。
【0042】
電気化学反応装置10では、このような態様になっていることで、各積層部材をボルト、ナット等で厚さ方向(積層方向)に締結したときに、隣り合う流路間においてカソード21、アノード22及びイオン交換膜26に多点でしっかりと面圧がかかる。これにより、第1給電体27、第1ガス流路構造体24及びカソード21が互いにしっかりと密着するため、第1給電体27からカソード21までの電気の供給の損失を低減できる。同様に、第2給電体28、第2ガス流路構造体25及びアノード22が互いにしっかりと密着するため、第2給電体28からアノード22までの電気の供給の損失を低減できる。これらのことから、カソード21及びアノード22において、各々の電解液流路31の幅方向の電流密度が均一になり、エネルギー効率がさらに高くなる。
【0043】
以上説明したように、実施形態の電気化学反応装置10では、アノード22のカソード21側にイオン交換膜26を隣接させて設け、カソード21とイオン交換膜26の間に電解液流路31を形成している。これにより、アノード22で生成した酸素がカソード21側に移動することがイオン交換膜26によって妨げられ、カソード21での酸素の副反応による損失が低減されるため、高いエネルギー効率を実現できる。
【0044】
なお、本発明の電気化学反応装置は、前記した電気化学反応装置10には限定されない。例えば、電解液流路、カソード側ガス流路及びアノード側ガス流路がそれぞれ複数形成され、少なくとも一組の電解液流路の間で、カソード、アノード及びイオン交換膜が、液流路構造体と第2ガス流路構造体の流路以外の部分で挟持されていれば、電解液流路、カソード側ガス流路及びアノード側ガス流路の数は同じでなくてもよい。
【0045】
具体的には、図6に例示した電気化学反応装置20であってもよい。図6における図1と同じ部分は同符号を付して説明を省略する。電気化学反応装置20は、液流路構造体23の代わりに、液流路構造体23Aを備えている以外は、電気化学反応装置20と同様の態様である。
【0046】
液流路構造体23Aは、厚さ方向から見て間隔をあけて隣り合っている2本のカソード側ガス流路32の両方に重なる幅広の3本のスリット23aが互いに平行して形成されている。そして、各々のスリット23aにおけるカソード21とイオン交換膜26と液流路構造体23Aとで囲まれた部分が3本の電解液流路31Aになっている。
【0047】
電気化学反応装置20では、電解液流路31Aとカソード側ガス流路32とは1対2で対応しており、厚さ方向から見て、1本の電解液流路31に対して2本のカソード側ガス流路32が重なるように配置されている。同様に、電解液流路31Aとアノード側ガス流路33とは1対2で対応しており、厚さ方向から見て、1本の電解液流路31に対して2本のアノード側ガス流路33が重なるように配置されている。
【0048】
電気化学反応装置20においても、隣り合う電解液流路31Aの間では、カソード21は、液流路構造体23Aの電解液流路31A以外の部分と、第1ガス流路構造体24のカソード側ガス流路32以外の部分とによって挟持されている。同様に、隣り合う電解液流路31Aの間で、アノード22及びイオン交換膜26は、液流路構造体23Aの電解液流路31A以外の部分と、第2ガス流路構造体25のアノード側ガス流路33以外の部分とによって挟持されている。
【0049】
そのため、電気化学反応装置20においても、各積層部材をボルト、ナット等で厚さ方向(積層方向)に締結したときに、隣り合う電解液流路31A間においてカソード21、アノード22及びイオン交換膜26に多点でしっかりと面圧がかかる。そのため、第1給電体27からカソード21までの電気の供給と、第2給電体28からアノード22までの電気の供給における損失を低減でき、エネルギー効率がさらに高くなる。
カソード21及びアノード22をより多点で支持でき、カソード21及びアノード22に面圧をかけやすく、電流密度を均一化しやすい点では、電気化学反応装置20よりも電気化学反応装置10が好ましい。
【0050】
また、アノードのカソード側にイオン交換膜が隣接して設けられていれば、電解液流路、カソード側ガス流路及びアノード側ガス流路がそれぞれ1本ずつ形成されている電気化学反応装置としてもよい。
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10,20…電気化学反応装置、21…カソード、22…アノード、23,23A…液流路構造体、24…第1ガス流路構造体、25…第2ガス流路構造体、26…イオン交換膜、27…第1給電体、28…第2給電体、31…電解液流路、32…カソード側ガス流路、33…アノード側ガス流路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6