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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】電気化学反応装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/23 20210101AFI20221114BHJP
   C25B 3/03 20210101ALI20221114BHJP
   C25B 3/07 20210101ALI20221114BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20221114BHJP
   C25B 15/023 20210101ALI20221114BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20221114BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20221114BHJP
   C07C 1/12 20060101ALN20221114BHJP
   C07C 1/04 20060101ALN20221114BHJP
   C07C 11/04 20060101ALN20221114BHJP
   C07C 9/06 20060101ALN20221114BHJP
   C07C 31/04 20060101ALN20221114BHJP
   C07C 31/08 20060101ALN20221114BHJP
   C07C 29/152 20060101ALN20221114BHJP
【FI】
C25B1/23
C25B3/03
C25B3/07
C25B3/26
C25B15/023
C25B9/00 G
C25B15/08 302
C07C1/12
C07C1/04
C07C11/04
C07C9/06
C07C31/04
C07C31/08
C07C29/152
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021152243
(22)【出願日】2021-09-17
(62)【分割の表示】P 2018175169の分割
【原出願日】2018-09-19
(65)【公開番号】P2022023047
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2021-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 良太
(72)【発明者】
【氏名】元茂 朝日
(72)【発明者】
【氏名】菅野 義経
(72)【発明者】
【氏名】山際 正和
(72)【発明者】
【氏名】田村 淳
(72)【発明者】
【氏名】工藤 由紀
(72)【発明者】
【氏名】小野 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 智
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-123390(JP,A)
【文献】国際公開第2013/157097(WO,A1)
【文献】特表2009-511740(JP,A)
【文献】特開2014-167151(JP,A)
【文献】特開2011-174139(JP,A)
【文献】特開2018-070936(JP,A)
【文献】特表2017-520685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00- 15/08
C07C 1/00-409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を還元する還元電極と、二酸化炭素を含むガス前記還元電極と接するように流通させるための第1の流路と、水を酸化する酸化電極と、水を含む電解液を前記酸化電極と接するように流通させるための第2の流路と、前記第1の流路と前記第2の流路との間に設けられ、多孔質膜又はイオン交換膜を有する隔膜とを備える反応部と、
前記第1の流路の背圧側に設けられ、前記第1の流路内の圧力を連続的に調整する圧力調整部と、
前記還元電極で生成される物質の量及び種類を検知する反応物検知部と、
前記反応物検知部の検知信号に基づいて、前記還元電極で生成される物質の量及び種類が所望の状態に調整されるように、前記第1の流路内の圧力を連続的に調整する前記圧力調整部を制御する制御部と
を具備する電気化学反応装置。
【請求項2】
前記反応物検知部は、前記第1の流路で生成される物質を分析する分析部を備える、請求項1に記載の電気化学反応装置。
【請求項3】
前記反応物検知部は、前記還元電極の電位を監視する電極電位監視部を備える、請求項1に記載の電気化学反応装置。
【請求項4】
前記反応物検知部は、前記還元電極及び前記酸化電極の電圧及び電流の少なくとも一方を監視する電圧及び電流監視部を備える、請求項1に記載の電気化学反応装置。
【請求項5】
前記第1の流路内の圧力は0.1MPa以上6.4MPa以下となるように調整される、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電気化学反応装置。
【請求項6】
さらに、前記第2の流路内の圧力を調整する第2の圧力調整部を具備する、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電気化学反応装置。
【請求項7】
前記第1の流路内の圧力と前記第2の流路内の圧力との差が0.5MPa以下となるように調整される、請求項6に記載の電気化学反応装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電気化学反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油や石炭といった化石燃料の枯渇が懸念され、持続的に利用できる再生可能エネルギーへの期待が高まっている。そのようなエネルギー問題、さらに環境問題の観点等から、太陽光等の再生可能エネルギーを用いて二酸化炭素を電気化学的に還元し、貯蔵可能な化学エネルギー源を作り出す人工光合成技術の開発が進められている。人工光合成技術を実現する電気化学反応装置は、例えば水(HO)を酸化して酸素(O)を生成する酸化電極と、二酸化炭素(CO)を還元して炭素化合物を生成する還元電極とを備えている。電気化学反応装置の酸化電極及び還元電極は、一般的に太陽光発電、水力発電、風力発電、地熱発電等の再生可能エネルギーに由来する電源に接続される。
【0003】
電気化学反応装置の還元電極は、例えばCOが溶解した水中に浸漬されたり、流路中を流れるCOが溶解した水と接するように配置される。還元電極は、再生可能エネルギーに由来する電源からCOの還元電位を得ることによって、COを還元して一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、メタノール(CHOH)、メタン(CH)、エタノール(COH)、エタン(C)、エチレン(C)、エチレングリコール(C)等の炭素化合物を生成する。
【0004】
上記したような再生可能エネルギーを用いて電気化学的にCOの還元を行う場合、天候や風況等の変化により電力に変動が生じやすく、これに伴って還元電極への印加電位が変動しやすいという問題がある。還元電極への印加電位が変化すると、得られるCOの還元生成物の生成量や組成が継時的に変動する原因となる。これは、COの還元生成物の利用可能性や利用価値を低下させる要因となる。このような問題を解決する手法として、実験的には還元電極に一定電位を印加できるポテンショスタットのような電源を用いて、電気化学反応装置を運転(三極式)することも行われているが、これでは再生可能エネルギーを利用することによる利点が失われ、コストや効率の点で問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2014-528519号公報
【文献】特表2013-536319号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Colin Oloman et al., “Electrochemical Processing of Carbon Dioxide” ChemSusChem 2008, 1, 385-391
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、還元電極への印加電位の変化によりCOの還元生成物の生成量や組成が継時的に変動することを抑制することを可能にした電気化学反応装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の電気化学反応装置は、二酸化炭素を還元する還元電極と、二酸化炭素を含むガス前記還元電極と接するように流通させるための第1の流路と、水を酸化する酸化電極と、水を含む電解液を前記酸化電極と接するように流通させるための第2の流路と、前記第1の流路と前記第2の流路との間に設けられ、多孔質膜又はイオン交換膜を有する隔膜とを備える反応部と、前記第1の流路の背圧側に設けられ、前記第1の流路内の圧力を連続的に調整する圧力調整部と、前記還元電極で生成される物質の量及び種類を検知する反応物検知部と、前記反応物検知部の検知信号に基づいて、前記還元電極で生成される物質の量及び種類が所望の状態に調整されるように、前記第1の流路内の圧力を連続的に調整する前記圧力調整部を制御する制御部とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態の電気化学反応装置を示す図である。
図2】第1の実施形態の電気化学反応装置の変形例を示す図である。
図3】第2の実施形態の電気化学反応装置を示す図である。
図4】実施例1の電気化学反応装置におけるカソード電位とCO選択比との関係を示す図である。
図5】実施例1の電気化学反応装置におけるカソード室内の圧力の時間変化の一例を示す図である。
図6】実施例1の電気化学反応装置におけるカソード電位の時間変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の電気化学反応装置について、図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態の電気化学反応装置1を示す図である。図1に示す電気化学反応装置1Aは、COを含む第1の電解液2を収容する第1の収容部3と水を含む第2の電解液4を収容する第2の収容部5と隔膜6とを有する反応槽7、第1の収容部3内に配置された還元電極(カソード)8、及び第2の収容部5内に配置された酸化電極(アノード)9を備える電気化学反応セル10と、還元電極8と酸化電極9に接続された電源11と、第1の収容部3で生成した還元反応生成物を第1の電解液2から分離する第1の生成物分離部12と、第2の収容部5で生成した酸化反応生成物を第2の電解液4から分離する第2の生成物分離部13と、第1の収容部3内の圧力を調整する圧力調整部14と、還元電極8で生成される物質の量及び種類の少なくとも一方を検知する反応物検知部15と、反応物検知部15の検知信号に基づいて圧力調整部14を制御する制御部16とを備えている。以下、各部について詳述する。
【0012】
反応槽7は、水素イオン(H)や水酸化物イオン(OH)等のイオンを移動させることが可能な隔膜6により2室に分離され、第1の収容部3と第2の収容部5とを有している。反応槽7は、例えば石英白板ガラス、ポリスチロール、ポリメタクリレート等で形成されていてもよい。反応槽7の一部に光を透過する材料を用いて、残部に樹脂材料を用いてもよい。樹脂材料の例は、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド(PA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアセタール(POM)(コポリマー)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等を含む。
【0013】
第1の収容部7内には還元電極8が配置され、さらに第1の電解液2が収容される。第1の電解液2は、還元電極溶液(カソード溶液)として機能するものであり、還元される物質として二酸化炭素(CO)を含んでいる。第1の電解液2は、水素イオンを含んでいてもよく、また水溶液であることが好ましい。第2の収容部5内には酸化電極9が配置され、さらに第2の電解液4が収容される。第2の電解液4は、酸化電極溶液(アノード溶液)として機能するものであり、酸化される物質として水(HO)を含んでいる。第2の電解液4は、アルコール水溶液、アミン等の有機物水溶液等であってもよい。
【0014】
第1および第2の電解液2、4に含まれる水の量や電解液成分を変えることによって、反応性を変化させ、還元される物質の選択性や生成する化学物質の割合を変えることができる。第1および第2の電解液2、4は、必要に応じて酸化還元対を含有していてもよい。酸化還元対としては、例えばFe3+/Fe2+やIO3-/Iが挙げられる。第1および第2の収容部3、5は、反応物や生成物に含まれる気体を収容する空間部を有していてもよい。第1の収容部3には、第1の電解液2を供給する第1の液供給流路17が接続されており、さらに第1のガス及び液体排出流路19を介して第1の生成物分離部12が接続されている。第2の収容部5には、第1の電解液4を供給する第2の液供給流路18が接続されており、さらに第2のガス及び液体排出流路20を介して第2の生成物分離部13が接続されている。
【0015】
第1の電解液2と第2の電解液4とは、異なる物質を含む電解液であってもよいし、同じ物質を含む同じ電解液であってもよい。第1の電解液2と第2の電解液4とが同じ物質及び同じ溶媒を含む場合、第1の電解液2と第2の電解液4は1つの電解液であると見なされてもよい。また、第2の電解液4のpHは、第1の電解液2のpHより高いことが好ましい。これによって、水素イオンや水酸化物イオン等が移動しやすくなる。また、pHの差による液間電位差により酸化還元反応を効果的に進行させることができる。
【0016】
第1の電解液2は、COの吸収率が高い溶液であることが好ましい。COの第1の電解液2中における存在形態は、必ずしも溶解した状態に限られるものではなく、気泡状のCOが第1の電解液2中に混合されて存在していてもよい。二酸化炭素を含む電解液としては、例えば炭酸水素リチウム(LiHCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、炭酸水素カリウム(KHCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸水素セシウム(CsHCO)のような炭酸水素塩や炭酸塩、リン酸、ホウ酸等を含む水溶液が挙げられる。二酸化炭素を含む電解液は、メタノール、エタノール、アセトン等のアルコール類を含んでいてもよいし、アルコール溶液であってもよい。第1の電解液2は、COの還元電位を低下させ、イオン伝導性が高く、COを吸収するCO吸収剤を含む電解液であってもよい。
【0017】
第2の電解液4としては、水(HO)を含む溶液、例えば任意の電解質を含む水溶液を用いることができる。この溶液は水の酸化反応を促進する水溶液であることが好ましい。電解質を含む水溶液としては、例えばリン酸イオン(PO 2-)、ホウ酸イオン(BO 3-)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、カルシウムイオン(Ca2+)、リチウムイオン(Li)、セシウムイオン(Cs)、マグネシウムイオン(Mg2+)、塩化物イオン(Cl)、炭酸水素イオン(HCO )、炭酸イオン(CO )、水酸化物イオン(OH)等を含む水溶液が挙げられる。
【0018】
上述した電解液2、4としては、例えばイミダゾリウムイオンやピリジニウムイオン等の陽イオンと、BF やPF 等の陰イオンとの塩からなり、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体もしくはその水溶液を用いることができる。さらに、他の電解液としては、エタノールアミン、イミダゾール、ピリジン等のアミン溶液もしくはその水溶液が挙げられる。アミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミン等が挙げられる。これらの電解液が、イオン伝導性が高く、二酸化炭素を吸収する性質を有し、還元エネルギーを低下させる特性を有していてもよい。
【0019】
一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン等が挙げられる。アミンの炭化水素は、アルコールやハロゲン等が置換していてもよい。アミンの炭化水素が置換されたものとしては、メタノールアミン、エタノールアミン、クロロメチルアミン等が挙げられる。また、不飽和結合が存在していてもよい。これら炭化水素は、二級アミン、三級アミンも同様である。
【0020】
二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン等が挙げられる。置換された炭化水素は、異なってもよい。これは三級アミンでも同様である。例えば、炭化水素が異なるものとしては、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン等が挙げられる。
【0021】
三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリエキサノールアミン、メチルジエチルアミン、メチルジプロピルアミン等が挙げられる。
【0022】
イオン液体の陽イオンとしては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾールイオン、1-メチル-3-ペンチルイミダゾリウムイオン、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0023】
イミダゾリウムイオンの2位が置換されていてもよい。イミダゾリウムイオンの2位が置換された陽イオンとしては、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-ペンチルイミダゾリウムイオン、1-ヘキシル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0024】
ピリジニウムイオンとしては、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム、ペンチルピリジニウム、ヘキシルピリジニウム等が挙げられる。イミダゾリウムイオンおよびピリジニウムイオンは共に、アルキル基が置換されていてもよく、不飽和結合が存在してもよい。
【0025】
アニオンとしては、フッ化物イオン(F)、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)、BF 、PF 、CFCOO、CFSO 、NO 、SCN、(CFSO、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド等が挙げられる。イオン液体のカチオンとアニオンとを炭化水素で接続した双生イオンでもよい。なお、リン酸カリウム溶液等の緩衝溶液を収容部3、5に供給してもよい。
【0026】
隔膜6には、アニオンまたはカチオンを選択的に流通させることができる膜が用いられる。これによって、還元電極8および酸化電極9のそれぞれに接する電解液2、4を異なる物質を含む電解液とすることができ、さらにイオン強度の違い、pHの違い等によって、還元反応や酸化反応を促進させることができる。隔膜6を用いて、第1の電解液2と第2の電解液4とを分離することができる。隔膜6は、両電極8、9が浸漬されている電解液2、4に含まれる一部のイオンを透過させる機能、すなわち電解液2、4に含まれる1種以上のイオンを遮蔽する機能を有していてもよい。これによって、例えば2つの電解液2、4の間でpH等を異ならせることができる。
【0027】
隔膜6としては、例えばアストム社のネオセプタ(登録商標)、旭硝子社のセレミオン(登録商標)、Aciplex(登録商標)、Fumatech社のFumasep(登録商標)、fumapem(登録商標)、デュポン社のテトラフルオロエチレンをスルホン化して重合したフッ素樹脂であるナフィオン(登録商標)、LANXESS社のlewabrane(登録商標)、IONTECH社のIONSEP(登録商標)、PALL社のムスタング(登録商標)、mega社のralex(登録商標)、ゴアテックス社のゴアテックス(登録商標)等のイオン交換膜を用いることができる。また、炭化水素を基本骨格とした膜や、アニオン交換ではアミン基を有する膜を用いてイオン交換膜が構成されていてもよい。第1の電解液2と第2の電解液4との間にpH差がある場合、カチオン交換膜とアニオン交換膜を積層させたバイポーラ膜を用いることで、それぞれの電解液のpHを安定に維持したまま使用することができる。
【0028】
隔膜6はイオン交換膜以外に、例えばシリコーン樹脂、フッ素系樹脂(パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフロオロエチレンコポリマー(ECTFE)等)、セラミックスの多孔質膜、ガラスフィルタや寒天等を充填した充填物、ゼオライトや酸化物等の絶縁性多孔質体等を用いることができる。特に、親水性の多孔質膜は、気泡による目詰まりを起こすことがないため、隔膜6として好ましい。
【0029】
還元電極8は、二酸化炭素(CO)を還元して炭素化合物を生成する電極(カソード)である。還元電極8は、第1の収容部3の内部に配置され、第1の電解液2に浸漬される。還元電極8は、例えば二酸化炭素の還元反応により炭素化合物を生成するための還元触媒を含んでいる。還元触媒としては、二酸化炭素を還元するための活性化エネルギーを減少させる材料が挙げられる。言い換えると、二酸化炭素の還元反応により炭素化合物を生成する際の過電圧を低下させる材料が挙げられる。
【0030】
還元電極8としては、例えば金属材料や炭素材料を用いることができる。金属材料としては、例えば金、アルミニウム、銅、銀、白金、パラジウム、亜鉛、水銀、インジウム、ニッケル等の金属、当該金属を含む合金等を用いることができる。炭素材料としては、例えばグラフェン、カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube:CNT)、フラーレン、ケッチェンブラック等を用いることができる。なお、これらに限定されず、還元触媒として例えばRu錯体またはRe錯体等の金属錯体、イミダゾール骨格やピリジン骨格を有する有機分子を用いてもよい。還元触媒は複数の材料の混合物であってもよい。還元電極8は、例えば導電性基材上に薄膜状、格子状、粒子状、ワイヤ状等の還元触媒を設けた構造を有していてもよい。
【0031】
還元電極8での還元反応により生成される炭素化合物としては、還元触媒の種類等によって異なり、例えば一酸化炭素(CO)、蟻酸(HCOOH)、メタン(CH)、メタノール(CHOH)、エタン(C)、エチレン(C)、エタノール(COH)、ホルムアルデヒド(HCHO)、エチレングリコール(C)等が挙げられる。また、還元電極8においては、二酸化炭素(CO)の還元反応と同時に、水(HO)の還元反応により水素(H)を発生する副反応が生起される場合がある。
【0032】
酸化電極9は、水(HO)を酸化して酸素を生成する電極(カソード)である。酸化電極9は、第2の収容部5の内部に配置され、第2の電解液4に浸漬される。酸化電極9は、被酸化物質としてのHOの酸化触媒を含んでいる。酸化触媒としては、HOを酸化するための活性化エネルギーを減少させる材料、言い換えるとHOの酸化反応により酸素と水素イオンを生成する際の過電圧を低下させる材料が用いられる。
【0033】
そのような酸化触媒材料としては、例えばルテニウム、イリジウム、白金、コバルト、ニッケル、鉄、マンガン等の金属が挙げられる。また、二元系金属酸化物、三元系金属酸化物、四元系金属酸化物等を用いることができる。二元系金属酸化物としては、例えば酸化マンガン(Mn-O)、酸化イリジウム(Ir-O)、酸化ニッケル(Ni-O)、酸化コバルト(Co-O)、酸化鉄(Fe-O)、酸化スズ(Sn-O)、酸化インジウム(In-O)、酸化ルテニウム(Ru-O)等が挙げられる。三元系金属酸化物としては、例えばNi-Fe-O、Ni-Co-O、La-Co-O、Ni-La-O、Sr-Fe-O等が挙げられる。四元系金属酸化物としては、例えばPb-Ru-Ir-O、La-Sr-Co-O等が挙げられる。なお、これらに限定されず、酸化触媒としてコバルト、ニッケル、鉄、マンガン等を含む金属水酸化物、Ru錯体やFe錯体等の金属錯体を用いることもできる。また、複数の材料を混合して用いてもよい。
【0034】
また、酸化電極9は酸化触媒と導電性材料の両方を含んだ複合材料でもよい。導電性材料としては、例えばカーボンブラック、活性炭、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、ケッチェンブラック、ダイヤモンド等の炭素材料、インジウム錫酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素がドープされた酸化錫(Fluorine-doped Tin Oxide:FTO)、アルミニウムがドープされた酸化亜鉛(Aluminum-doped Zinc Oxide:AZO)、アンチモンがドープされた酸化錫(Antimony-doped Tin Oxide:ATO)等の透明導電性酸化物、Cu、Al、Ti、Ni、Ag、W、Co、Au等の金属、それら金属を少なくとも1つ含む合金が挙げられる。酸化電極9は、例えば導電性基材上に薄膜状、格子状、粒子状、ワイヤ状等の酸化触媒を設けた構造を有していてもよい。導電性基材としては、例えばチタン、チタン合金、またはステンレス鋼を含む金属材料が用いられる。
【0035】
電源11は、電気化学反応セル10に酸化還元反応を生起する電力を投入するものであって、還元電極8および酸化電極9に電気的に接続される。電源11から供給される電気エネルギーを用いて、還元電極8による還元反応および酸化電極9による酸化反応が行われる。電源11と還元電極8との間、および電源11と酸化電極9との間は、例えば配線で接続されている。電気化学セル10と電源11との間には、必要に応じてインバータ、コンバータ、電池等の電気機器を設置してもよい。電気化学反応セル10の駆動方式は、定電圧方式でもよいし、定電流方式でもよい。
【0036】
電源11は、通常の商用電源や電池等であってもよいし、また再生可能エネルギーを電気エネルギーに変換して供給する電源であってもよい。このような電源の例としては、風力、水力、地熱、潮汐力等の運動エネルギーや位置エネルギーを電気エネルギーに変換する電源、光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換素子を有する太陽電池のような電源、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池や蓄電池等の電源、音等の振動エネルギーを電気エネルギーに変換する装置等が挙げられる。光電変換素子は、照射された太陽光等の光のエネルギーにより電荷分離を行う機能を有する。光電変換素子の例としては、pin接合型太陽電池、pn接合型太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、多接合型太陽電池、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、色素増感型太陽電池、有機薄膜太陽電池等を含む。また、光電変換素子は、反応槽7の内部で還元電極8および酸化電極9の少なくとも一方と積層されていてもよい。
【0037】
還元電極8で生成された還元反応生成物は、第1のガス及び液体排出流路19を介して第1の生成物分離部12に送られる。第1の生成物分離部12においては、ガス状生成物である一酸化炭素(CO)、又は液状生成物である蟻酸(HCOOH)、メタン(CH)、メタノール(CHOH)、エタン(C)、エチレン(C)、エタノール(COH)、ホルムアルデヒド(HCHO)、エチレングリコール(C)等が、第1の電解液2から分離される。二酸化炭素(CO)の還元反応の副反応である水(HO)の還元反応が生じると、それにより発生する水素(H)も第1の電解液2から分離される。また、酸化電極9で生成された酸化反応生成物は、第2のガス及び液体排出流路20を介して第2の生成物分離部13に送られる。第2の生成物分離部12においては、主としてガス状生成物である酸素(O)が、第2の電解液4から分離される。
【0038】
第1のガス及び液体排出流路19には、第1の収容部3内の圧力を調整する圧力調整部14が設けられている。圧力調整部14は、第1の収容部3の背圧側に配置される。圧力調整部14としては、例えば可変絞り弁や流量調節弁等が用いられる。すなわち、第1のガス及び液体排出流路19に流れる流体(ガス及び液体を含む流体)の流量を調節することで、第1の収容部3内の圧力を調整することができる。第1の収容部3内の圧力は、COが液化しない圧力とすることが好ましく、具体的には0.1MPa以上6.4MPa以下の範囲内で調整することが好ましい。第1の収容部3内の圧力が0.1MPa未満であると、COの還元反応効率が低下するおそれがある。第1の収容部3内の圧力が6.4MPaを超えるとCOが液化し、COの還元反応効率が低下するおそれがある。
【0039】
第1の収容部3内の圧力を加圧又は減圧することによって、還元電極8で生成される還元反応生成物の量や種類を調整することができる。すなわち、第1の収容部3内の圧力を調整し、反応種であるCOの分圧を変化させることによって、還元電極8の近傍のCO量を調整することができる。これによって、還元電極8の還元電位を制御することができる。以下に詳述するように、電源11から還元電極8への印加電圧が変動した場合においても、還元電極8の還元電位を所定の値に調整することができる。従って、還元電極8への印加電圧の変動に伴う還元反応生成物の生成量や組成の変動が抑制され、還元反応生成物の生成量や組成を安定化させることが可能になる。
【0040】
また、図2に示すように、第1の収容部3の背圧側に第1の圧力調整部141を配置することに加えて、第2の収容部5の背圧側に第2の圧力調整部142を配置するようにしてもよい。第2の圧力調整部142は、第2のガス及び液体排出流路20に設けられる。第2の圧力調整部142を設けることによって、第1の収容部3と第2の収容部5との差圧を調整することができる。これによって、第1の収容部3と第2の収容部5との差圧による隔膜6の破損等を抑制することができる。第1の収容部3の圧力と第2の収容部5の圧力との差(差圧)は、0.5MPa以下とすることが好ましい。
【0041】
圧力調整部14による第1の収容部3内の圧力調整は、反応物検知部15で検知した還元電極8で生成される物質の量及び種類の少なくとも一方を示す検知信号を制御部16に送り、制御部16で圧力調整部14の動作を制御することにより行われる。反応物検知部15としては、第1の収容部3で生成される物質をガス分析や液体分析する分析部(分析装置)に限らず、還元電極8の電位を監視する電極電位監視部、還元電極8及び酸化電極9の電圧及び電流の少なくとも一方を監視する電圧及び電流監視部等を用いることができる。反応物検知部15は制御部16に電気的に接続され、また制御部16は圧力調整部14に電気的に接続されている。反応物検知部15は、検知結果に基づく信号を制御部16に出力する。
【0042】
図1に示す反応物検知部15は、参照電極21を介して還元電極8の電位をモニターする電極電位モニターを備えている。還元電極8の電極電位は、電流量及び生成物のファラデー効率を決定する因子の1つであるため、電極電位をモニターすることで還元電極8から生成する物質の量や組成を知ることができる。還元電極8の電極電位をモニターする場合、図1に示すよう、第1の収容部3に参照電極21が配置される。反応物検知部15は参照電極21と接続される。参照電極21は、白金、金、銀、銅、SUS、カーボン等、電極材料として用いることが可能な材料からなるものであれば、どのような材質からなるものであってもよい。また、銀-塩化銀電極、カロメル電極、水銀-酸化水銀電極等の電気化学測定に用いられる参照電極21を用いることもできる。
【0043】
図2に示す電気化学反応装置1Aは、反応物検知部15として、ガス分析及び液体分析の少なくとも一方を行う分析部(分析装置)を備えている。分析装置である反応物検知部15は、第1の生成物分離部12の排出側に配置され、分離物質であるガスや液体から還元反応生成物の生成量や組成を直接分析する。反応物検知部15としての分析装置は、ガスや液体中の炭化水素の分析が可能なガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー等の装置から構成される。分析装置で検知された還元反応生成物の生成量や組成を検知信号は制御部16に送られ、これにより圧力調整部14の動作が制御される。なお、反応物検知部15に還元電極8の電極電位や電気化学反応セル10の電圧や電流(セル電圧・電流)をモニターして生成物を検知する場合には、生成物の組成や量と電極電位やセル電圧・電流との関係(依存性)を事前に調べておくことで、電極電位やセル電圧・電流から間接的に生成物の組成や量を知ることができる。後述する第2の実施形態に示すように、セル電圧をモニターする場合、反応物検知部15はセルに並列に接続される信号出力型の電圧計となる。セル電流をモニターする場合、反応物検知部15はセルと直列に接続される信号出力型の電流計となる。反応物検知部15は電源11内に組み込まれた形態を有していてもよい。
【0044】
制御部16は、圧力調整部14と反応物検知部15に電気的に接続されている。制御部16は、反応物検知部15から検知信号(データ信号)を受け、圧力調整部14に制御信号を出力する。制御部16には、生成物の組成や量に関わるデータ信号の要求基準が予め記憶されており、要求基準を満たさない場合に制御部16から圧力調整部14に制御信号が出力される。制御部16は、例えばPCやマイコン等のコンピュータで構成され、反応物検知部15のデータ信号を演算処理し、還元電極8の電位が所望の電位となるように、圧力調整部14の動作を制御して第1の収容部3の内圧を調整する。
【0045】
次に、電気化学反応装置1Aの動作について説明する。ここでは、電解液2、4として水および二酸化炭素を含む水溶液を用い、二酸化炭素を還元して主として一酸化炭素を生成する場合について述べる。還元電極8と酸化電極9との間に電解電圧以上の電圧を印加すると、第2の電解液4と接する酸化電極9付近で水(HO)の酸化反応が生じる。下記の(1)式に示すように、第2の電解液4中に含まれるHOの酸化反応が生じ、電子が失われ、酸素(O)と水素イオン(H)とが生成される。生成された水素イオン(H)の一部は、隔膜6を介して第1の電解液2中に移動する。
2HO → 4H+O+4e …(1)
【0046】
酸化電極9側で生成された水素イオン(H)が還元電極8付近に到達すると共に、電源11から還元電極8に電子(e)が供給されると、二酸化炭素(CO)の還元反応が生じる。下記の(2)式に示すように、還元電極8付近に移動した水素イオン(H)と電源11から供給された電子(e)とによって、第1の電解液2中に含まれるCOが還元されて、一酸化炭素(CO)が生成される。
2CO+4H+4e → 2CO+2HO …(2)
なお、COの還元反応は、COの生成反応に限らず、エタノール(COH)、エチレン(C)、エタン(C)、メタン(CH)、メタノール(CHOH)、酢酸(CHCOOH)、プロパノール(COH)等の生成反応であってもよい。
【0047】
還元電極8による還元反応は、還元電極8に印加される電位により変動する。例えば、上記したCOガスの生成反応に加えて、水の還元反応によりHガスが生成される場合がある。COガスとHガスの生成量の比は、還元電極8に印加される電位により変動し、主目的の生成物であるCOガス中のHガスの混入量が増大する場合がある。また、還元電極8を構成する還元触媒の種類等を選定することによって、COガスに代えてエタノール、エチレン、エタン等の有機化合物を主目的生成物とすることがある。このような場合に、還元電極8に印加される電位によっては、COの生成量が増加して有機化合物の生成量が低下する場合がある。上記したような還元電極8への印加電位の変動に伴う還元反応生成物の組成や生成量の変動は、反応物検知部15によりモニターされる。そして、反応物検知部15でのモニター結果に基づいて圧力調整部14が制御され、前述したように第1の収容部3内の圧力が調整される。これによって、還元電極8の電位が所望の電位となるように調整され、還元反応生成物の組成や生成量が所期の状態に調整される。従って、還元電極8への印加電位の変化によるCOの還元反応生成物の生成量や組成の継時的な変動を抑制し、還元反応生成物の利用可能性や利用価値を高めることが可能になる。
【0048】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態の電気化学反応装置1について、図3を参照して説明する。図3に示す電気化学反応装置1Bは、COを含むガス(単に、COガスと記す場合もある)又はCOを含む第1の電解液(カソード溶液)の還元電極8との接触方式、及び水を含む第2の電解液(アノード溶液)の酸化電極9との接触方式、還元電極8及び酸化電極9と電源11との接続方式が、第1の実施形態の電気化学反応装置1Aとは異なっている。それら以外の各部の構成、例えば還元電極、酸化電極、隔膜、第1の電解液、第2の電解液、電源等の具体的な構成、生成物の分離、生成物の検知、生成物の検知結果に基づく圧力調整等は、第1の実施形態と同様とされている。なお、第2の実施形態においては、COを含む第1の電解液に代えてCOを含むガスを用いることができる。
【0049】
図3に示す第2の実施形態による電気化学反応装置1Bは、還元電極8と、酸化電極9と、隔膜6と、COを含むガス(単に、COガスと記す場合もある)又はCOを含む第1の電解液(カソード溶液)を流通させる第1の流路31と、水を含む第2の電解液(アノード溶液)を流通させる第2の流路32と、還元電極8と電気的に接続された第1の集電板33と、酸化電極9に電気的に接続された第2の集電板34とを有する電気化学反応セル10を備えている。電気化学反応セル10の第1及び第2の集電板33、34は、電源11に接続されている。電気化学反応セル10と電源11との間には、セル電圧をモニターする電圧計が反応物検知部15として接続されている。反応物検知部15は、セル電流をモニターする電流計であってもよいし、第1の実施形態に示した電位検知モニターや分析装置であってもよい。
【0050】
第1の流路31は、還元電極8と面するように配置されている。第1の流路31には、図示を省略したガス又は溶液タンク、ポンプ等が接続されており、COガスやカソード溶液が第1の流路31内を流れ、還元電極8と接するように構成されている。還元電極8を通過したCOガス又はカソード溶液中のCOは、還元電極8により還元される。COの還元反応生成物を含むガス又は溶液は、第1の生成物分離部12に送られる。第1の流路31と第1の生成物分離部12との間には、圧力調整部14が設けられている。第2の流路32は、酸化電極9と面するように配置されている。第2の流路32には、図示を省略した溶液タンク、ポンプ等が接続されており、アノード溶液が第2の流路32内を流れ、酸化電極9と接するように構成されている。酸化電極9を通過したアノード溶液中のHOは、酸化電極9により酸化される。HOの酸化反応生成物を含む溶液は、第2の生成物分離部13に送られる。
【0051】
第2の実施形態の電気化学反応装置1Bにおいては、反応物検知部15でセル電流をモニターすることによって、還元反応生成物の組成や量が検知される。この場合、生成物の組成や量とセル電圧やセル電流との関係(依存性)を事前に調べておくことで、セル電圧・電流から間接的に生成物の組成や量を知ることができる。反応物検知部15でのモニター結果に基づいて圧力調整部14が制御され、第1の流路31内の圧力が調整される。これによって、還元電極8の電位が所望の電位となるように調整され、還元反応生成物の組成や生成量が所期の状態に調整される。従って、還元電極8への印加電位の変化によるCOの還元反応生成物の生成量や組成の継時的な変動を抑制し、還元反応生成物の利用可能性や利用価値を高めることが可能になる。
【実施例
【0052】
次に、実施例及びその評価結果について述べる。
【0053】
(実施例1)
図1に構成を示した電気化学反応装置1Aを製造した。まず、この電気化学反応装置1Aを用いて、第1の収容部3の圧力を制御することで、還元電極8の電位が制御可能かどうかの検証を行った。この検証実験においては、制御部16を作動させず、生成物の反応物検知部15の読み取り及び圧力調整部14の動作を人為的に操作した。
【0054】
電気化学反応セルには、アクリル製の反応容器を用いた。反応容器の中央にアニオン交換膜を配置し、第1の収容部と第2の収容部の2室に隔てた。還元電極としては、カーボンペーパ上にAuめっきを行ったものを使用した。酸化電極としては、ニッケルメッシュを使用した。第1及び第2の電解液には、0.5M KHCO水溶液を用いた。参照電極としては、Ag/AgCl(3M NaCl)を使用し、第1の収容部に挿入した。また、第1の収容部にはCOを供給し、第2の収容部にはCOを補助的に供給した。電源には検証実験用として直流安定化電源を使用し、これを還元電極と酸化電極に接続した。生成物の反応物検知部(反応物検知ユニット)には、電圧が記録可能なデータロガーを用いた。圧力調整部(圧力調整ユニット)には、リリーフバルブを用いた。
【0055】
事前にポテンショスタットを用いた3極式による測定で、COの還元反応で生じる生成物のファラデー効率の電位依存性を評価した。還元電極側から排出されるガス成分をガスクロマトグラフ装置で分析した。ガスクロマトグラフ装置で観測されたガス成分は、CO、H、及びCOであった。その後、還元電極で生成されるCO還元物質のCOの経時的なファラデー効率を算出した。COファラデー効率は下記の式から算出した。なお、CO生成速度はガスクロマトグラフ分析結果から、電流値は電流計で観測された値を用いた。また、反応電子数は2とした。
【0056】
【数1】
【0057】
その結果を図4に示す。図4より、COの還元物であるCOのファラデー効率には電位依存性が存在し、電極電位が-1.2~-1.3V付近で最大値を迎えることが分かる。
次に、第1の収容部の圧力を制御することで、還元電極の電位が制御可能かどうかを検証した。運転方法としては、セルに3.0Vの電圧を印加した状態で、圧力調整ユニットであるリリーフバルブを任意に絞り、その際の還元電極電位の変化を観察した。その結果を図5及び図6に示す。図5は圧力センサーで第1の収容部(カソード室)内の圧力をモニターしたグラフであり、図6は生成物検知ユニットであるデータロガーに記録された還元電極の電位である。図5及び図6より、第1の収容部(カソード室)内の圧力が上がることで、電極電位が圧力変化に対応して増加することが分かる。
【0058】
上記した検証結果から、還元電極が配置される第1の収容部内の圧力を制御することで、還元電極の電極電位を変化させることが可能であることを検証するに至った。還元電極の電位は生成物の量や組成を決定する因子であることから、CO還元物の生成量や組成の変動を抑制し、長期的に安定してCOの還元を行うことが可能となる。
【0059】
以上の結果に基づいて、電源として再生可能エネルギーに由来する電源を使用し、COの還元試験を実施した。この際、還元電極における生成物の量及び組成は、反応物検知部として電位モニターを作動させて検視し、その検知信号を制御部に送って圧力調整部を制御した。その結果、再生可能エネルギーに由来する電源から還元電極に印加される電位に変動が認められたものの、還元電極における生成物の量及び組成は第1の収容部の圧力調整に基づいて変動が抑制されることが確認された。
【0060】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0061】
1…電気化学反応装置、2…第1の電解液、3…第1の収容部、4…第2の電解液、5…第2の収容部、6…隔膜、7…反応槽、8…還元電極、9…酸化電極、10…電気化学反応セル、11…電源、12…第1の生成物分離部、13…第1の生成物分離部、14…圧力調整部、15…反応物検知部、16…制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6