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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】ベンゾアゼピン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/6561 20060101AFI20221114BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20221114BHJP
   A61P 7/10 20060101ALI20221114BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
C07F9/6561 Z
A61K31/675
A61P7/10
A61P43/00 111
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021512590
(86)(22)【出願日】2020-01-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2020002171
(87)【国際公開番号】W WO2020158548
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-08-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2019013741
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】株木 隆志
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 茂男
【合議体】
【審判長】木村 敏康
【審判官】瀬良 聡機
【審判官】伊藤 佑一
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-521397(JP,A)
【文献】特開2009-29793(JP,A)
【文献】特開2014-77009(JP,A)
【文献】特開2015-134837(JP,A)
【文献】標準化学用語辞典 第2版、丸善株式会社、2005年、「ワンポット反応」の項
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAPLUS STN,CASREACT STN,REGISTRY STN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
で表されるリン酸エステル化合物のナトリウム塩の製造方法であって、
一般式(2)
【化2】
で表される化合物1モルに対し、オキシハロゲン化リン1~20モルと、水酸化ナトリウム5~40モルとを順次加え、-30℃~室温の温度条件でテレスコーピングな連続反応させる工程と、反応後の抽出水層から塩析操作そして脱塩操作を行う工程とを含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゾアゼピン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トルバプタンは、バソプレシンV2受容体拮抗作用を有し、利尿薬等として活用されている。
【0003】
しかしながら、トルバプタンは水難溶性であることから、剤形及び投与ルートといった面での制限が多い。そこで、特許文献1では、優れた水溶性を有するトルバプタンのプロドラッグが提案されている。
【0004】
かかるプロドラッグを活用することにより、多くの剤形で、トルバプタンの有する薬理作用の恩恵を受けることが可能となると考えられる。
【0005】
一方で、かかるプロドラッグを、より少ない反応工程数で得ることができれば、コスト面及び生産効率面でのメリットは大きい。
【0006】
ところで、トルバプタンのプロドラッグは水溶性が高く、また、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物による加水分解反応時に生成する大量の無機塩類との分離が困難である。そのため、従来のトルバプタンのプロドラッグの製造方法においては、下記一般式(2)で表される化合物、オキシハロゲン化リン、並びにアルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる一種以上を反応させて、下記一般式(1)で表される化合物をアモルファスとして単離する工程と、下記一般式(1)に表されるリン酸エステル化合物のアルカリ金属又はアルカリ土類金属との塩化を行う工程との、二つの工程で製造する必要がある。
【0007】
【化1】
【0008】
【化2】
【0009】
また、このアモルファスの単離には中和操作と2回の抽出操作を実施する必要がある上に、アモルファスの物性が悪く単離は大量合成には不向きであり、コスト面及び生産効率面で不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許4644287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、従来よりも少ない工程数で、水溶性に優れたトルバプタンのプロドラッグの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、オキシハロゲン化リンと、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる一種とを使用するテレスコーピングな連続反応させることにより、前記一般式(1)に表されるリン酸エステル化合物を単離することなく、少ない工程数及び作業で、水溶性に優れたトルバプタンのプロドラッグを得ることができることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、以下のベンゾアゼピン化合物の製造方法を提供する。
項1.
一般式(1)
【化3】
で表されるリン酸エステル化合物のアルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩の製造方法であって、
一般式(2)
【化4】
で表される化合物と、オキシハロゲン化リンと、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる一種以上とをテレスコーピングな連続反応させる工程を含む、
製造方法。
項2.
前記一般式(2)で表される化合物1モルに対し、前記オキシハロゲン化リンを1~20モル使用する、項1に記載の製造方法。
項2A.
前記一般式(2)で表される化合物1モルに対し、前記オキシハロゲン化リンを1~20モル使用する、好ましくは1~10モル使用する、より好ましくは1~5モル使用する、項1に記載の製造方法。
項3.
-100~50℃の温度条件で反応させる、項1又は2に記載の製造方法。
項3A.
-100~50℃、好ましくは-50℃~室温、より好ましくは-30℃~室温の温度条件で反応させる、項1又は2に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、水溶性に優れたトルバプタンのプロドラッグをトルバプタンから中間体を単離することなく得ることができ、簡易で作業性に優れると共に、工業的に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のベンゾアゼピン化合物(下記式(1)で表されるリン酸エステル化合物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩)は、下記式(2)で表される化合物(一般名:トルバプタン)に、オキシハロゲン化リンと、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる一種以上の水酸化物とをテレスコーピングな連続反応させることにより、得られる。また、下記式(1)で表されるリン酸エステル化合物を単離することなく製造さすることができる。
【0016】
【化5】
【0017】
【化6】
【0018】
本発明の製造方法においては、反応系内に、式(2)で表される化合物、オキシハロゲ
ン化リン、及び前記水酸化物を存在させる。具体的には、式(2)で表される化合物を含む反応溶媒にオキシハロゲン化リンと塩基性化合物とを添加し、水酸基のジハロゲンリン酸化を行った後、前記水酸化物とを添加することが好ましい。添加順序に関しては、例えば、オキシハロゲン化リンと塩基性化合物とを添加した後に水酸化物を添加することが好ましい。
【0019】
オキシハロゲン化リンとしては、公知のものを広く使用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、オキシ塩化リン、オキシフッ化リン、オキシ臭化リン、及びオキシヨウ化リン等からなる群より選択される一種以上を使用することが可能である。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。中でも、安価で入手が容易であるという理由から、オキシ塩化リンを使用することが好ましい。
【0020】
アルカリ金属水酸化物としても、公知のものを広く使用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選択される一種以上を使用することが可能である。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。中でも、安価であるという理由から、水酸化ナトリウムを使用することが好ましい。
【0021】
アルカリ土類金属水酸化物としても、公知のものを広く使用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化カルシウムからなる群より選択される一種以上を使用することが可能である。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。中でも、安価であるという理由から、水酸化カルシウムを使用することが好ましい。
【0022】
当該反応は、適宜の溶媒中で実施されることが好ましい。かかる溶媒としては、公知の有機溶媒を広く使用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素溶媒、酢酸エチル等のエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、アセトニトリル等を例示することができる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0023】
また、本発明の製造方法における式(2)で表される化合物に、オキシハロゲン化リンと、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる一種とをテレスコーピング連続反応させる反応工程は、塩基性化合物存在下にて実施されることが好ましい。
【0024】
当該塩基性化合物としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸セシウム等の炭酸塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム等のリン酸塩;ピリジン、イミダゾール、N-エチルジイソプロピルアミン、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ジメチルアニリン、N-メチルモルホリン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN),1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)等の有機塩基又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0025】
使用する各化合物の使用量としては、反応を迅速に進行させるために、一般式(2)で表される化合物1モルに対して、オキシハロゲン化リンを1~大過剰モルとすることが好ましく、1~20モルとすることがより好ましく、1~10モルとすることが更に好ましく、1~5モルとすることが特に好ましく、2~5モルとすることが最も好ましい。
【0026】
また、加水分解及び塩形成を迅速に進行させるために、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される一種以上の使用量は、式(2)で表される化合物1モルに対して、5~40モルとすることが好ましく、10~20モルとすることがより好ましい。
【0027】
反応温度は、不純物の生成を抑制するために、-100~50℃に設定することが好ましく、-50℃~室温に設定することがより好ましく、-30℃~室温に設定することが更に好ましい。
【0028】
また、本発明の製造方法における式(2)で表される化合物に、オキシハロゲン化リンと、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる一種とをテレスコーピング連続反応させる反応工程は、さらにトリエチルアミン、トリメチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)及び1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)からなる群より選択される一種以上の存在下で実施することも好ましい。
【0029】
反応後の抽出水層から塩析操作そして脱塩操作を行うことにより、前記一般式(1)に表されるリン酸エステル化合物を単離することなく、少ない工程数で、水溶性に優れたトルバプタンのプロドラッグを得ることができる。
【0030】
上記反応により合成された式(1)で表されるリン酸エステル化合物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩は、公知の単離手段及び精製手段により反応生成物から単離し、精製することができる。具体的には反応後、反応液を冷却し、濾過、濃縮、抽出等の単離操作によって粗反応生成物を分離し、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の通常の精製操作によって、反応混合物から単離精製することができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例
【0032】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0033】
【化7】
【0034】
(実施例1)
トルバプタン10kg(22モル)に1,2-ジメトキシエタン(DME)80L及びトリエチルアミン20kg(201モル9当量)を加え、窒素気流下-18℃に冷却した。得られた混合物にオキ
シ塩化リン(POCl3)10kg(66モル 3当量)を内温-8℃以下で滴下して加え、その後-13℃で2時間撹拌した。水200Lに25%水酸化ナトリウム水溶液64kg(水酸化ナトリウム 397モ
ル 18当量)を加え、-3℃に冷却し、これに前記の反応液を撹拌しながら加えた。得られた混合物を30℃で30分間撹拌し、トルエン100Lを加え、50℃に加熱し、水層とトルエン層に分液した。水層にトルエン100Lを加え、50℃に加熱し、水層とトルエン層に分液した。得られた水層を1夜静置し、10℃に冷却した後に4時間撹拌して懸濁液を調製した。得られた懸濁液を濾過し、湿り塩析晶48kgを取得した。湿り塩析晶48kgにアセトン120Lを加え、還流状態まで加熱し、還流状態下30分間撹拌した。混合液を40℃まで冷却し、濾過を行って不溶物を除去し、濾液を取得した。濾液に水10L加え、50℃まで加熱撹拌、40℃まで
冷却し、濾過を行って不溶物を除去し、濾液を取得した。濾液を49℃まで加熱して、不溶物がないことを確認した後に、10℃まで冷却し、再結晶を実施した。得られた懸濁液を濾過し、アセトンで湿った結晶性粉末を得た。この湿った結晶性粉末を室温で18時間、続いて50℃で9時間30分の乾燥を行ってナトリウム塩11kgを得た。(収率86%)