(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】高分子重合体廃棄物から多層カーボンナノチューブを合成するためのプロセス及び装置
(51)【国際特許分類】
C01B 32/162 20170101AFI20221114BHJP
【FI】
C01B32/162
(21)【出願番号】P 2021547034
(86)(22)【出願日】2018-08-16
(86)【国際出願番号】 SG2018050417
(87)【国際公開番号】W WO2020036532
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】521165518
【氏名又は名称】ニー アン ポリテクニック
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャヤラマン,サンダラムルシー
(72)【発明者】
【氏名】マスウド,アリ
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-290928(JP,A)
【文献】特開2007-257992(JP,A)
【文献】特表2015-533762(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0280794(US,A1)
【文献】Joner O. Alves et al.,Applied Catalysis B: Environmental,2011年,106,pp.433-444
【文献】Zhuanwei Zhuo et al.,CARBON,2010年,48,pp.4024-4034
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/162
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層カーボンナノチューブを合成するためのプロセスであって、
高分子重合体廃棄物を脱重合させて、炭素含有原料を得ることと、
タイプ304のステンレス鋼からなる一連の触媒材料内のクロム含量を12%未満まで低減させるために前記一連の触媒材料を酸で前処理することと、
前記一連の触媒材料を含有する触媒反応器内に還元ガスを導入することと、
前記一連の触媒材料の表面の活性部位を活性化するために前記還元ガスの存在下で誘導加熱により前記触媒反応器内で前記一連の触媒材料を加熱することと、
前記一連の触媒材料を含有する前記触媒反応器内に前記炭素含有原料を供給することであって、前記一連の触媒材料が、前記触媒材料の表面に多層カーボンナノチューブを成長及び堆積させるのに十分なスペースを、任意の2つの隣接する触媒材料間に有して水平にスタックされた形で配置される、供給することと、
前記一連の触媒材料を前記炭素含有原料の存在下で誘導加熱により加熱して、前記触媒材料の表面に多層カーボンナノチューブを形成することと、
前記多層カーボンナノチューブを前記一連の触媒材料の表面から除去することと、を含むプロセス。
【請求項2】
前記高分子重合体廃棄物を脱重合させるステップが、不活性雰囲気中400℃~480℃の温度で前記
高分子重合体廃棄物を加熱することを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記
高分子重合体廃棄物が30~120分間にわたって加熱される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記炭素含有原料をバブラー内に供給することと、
前記炭素含有原料を前記反応器内に供給する前に、前記バブラー内の前記炭素含有原料の中に不活性ガスをバブリングすることと、をさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記不活性ガスの前記バブラー内へのバブリングが、0.833x10
-3~3x10
-3m
3/sの流速に維持される、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記炭素含有原料が、不活性キャリアガスと一緒に前記触媒反応器内に供給される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記一連の触媒材料は、前記還元ガスの存在下で、および、前記炭素含有原料の存在下で同時に加熱される、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記還元ガスが水素を含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記炭素含有原料を前記触媒反応器内に供給する前に、前記炭素含有原料及び前記不活性キャリアガスを前記還元ガスと混合することをさらに含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項10】
前記不活性キャリアガスが窒素であり、前記還元ガスが水素であり、窒素対水素ガス流量比が1:4~1:10に維持される、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記一連の触媒材料が、ステンレス鋼のシートの層からなる、プレート、メッシュ又はシートの形態の触媒材料からなる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
前記一連の触媒材料が金属ロッドの形態の触媒材料からなり、前記触媒材料のそれぞれが、プレートを形成するように隣り合わせに配置された複数の金属ロッドを含み、複数の前記プレートが、前記一連の触媒材料を形成するように提供される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記高分子重合体廃棄物が、廃棄有機溶媒、使用済み植物油及び調理用油、並びにポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ゴムからなる群から選択される1つ又は複数の長鎖熱可塑性ポリマーからなる群から選択される1つ又は複数である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項14】
前記誘導加熱が、前記反応器の外壁に近接してその周囲に巻き付けられた誘導コイルを用いて実行される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項15】
前記誘導加熱が、1kHz~60kHzの範囲の周波数を有するAC出力を前記誘導コイルに適用することによって実行される、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記誘導加熱が600℃~1000℃の温度で実行される、請求項14に記載のプロセス。
【請求項17】
前記多層カーボンナノチューブが2μm~30μmの長さを有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項18】
前記多層カーボンナノチューブが30nm~150nmの直径を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項19】
前記多層カーボンナノチューブが、機械的攪拌によって前記触媒材料から除去される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項20】
前記多層カーボンナノチューブが、前記複数の触媒材料を溶媒中で超音波処理し、前記溶媒中の多層カーボンナノチューブを熱乾燥にさらすことによって前記触媒材料から除去され、前記多層カーボンナノチューブが得られる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項21】
500℃~900℃の温度の空気中で前記複数の触媒材料を熱活性化することによって、前記複数の触媒材料を再使用のために再活性化することをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項22】
前記熱活性化が超音波処理と組み合わせて実行される、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
高分子重合体廃棄物を脱重合させるためのチャンバと、
前記チャンバと流体連通する触媒反応器と
を含む、多層カーボンナノチューブを合成するための装置であって、前記触媒反応器が、
円筒形アウターケーシングと、
12%未満のクロム含量を有する前処理された304タイプのステンレス鋼からなる一連の触媒材料と、
前記一連の触媒材料を保持及び支持するように構成されたホルダセンブリであって、前記ホルダセンブリが、入口、出口、及び前記ホルダセンブリの長手方向表面に沿って提供された複数の開口を有し、
前記一連の触媒材料が、触媒材料の表面に多層カーボンナノチューブが成長できるようにするのに十分なスペースを、任意の2つの隣接する触媒材料間に有して水平にスタックされた形で配置された、ホルダセンブリと、
前記ホルダセンブリに接続されたガス分配チャネルと、
前記触媒反応器内の前記一連の触媒材料に均一な誘導加熱を提供することができる、前記アウターケーシングの外壁の周囲に巻き付けられた加熱素子と、を含む装置。
【請求項24】
前記一連の触媒材料が、ステンレス鋼のシートの層からなる、プレート、メッシュ又はシートの形態の触媒材料からなる、請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記一連の触媒材料が金属ロッドの形態の触媒材料からなり、前記触媒材料のそれぞれが、プレートを形成するように隣り合わせに配置された複数の金属ロッドを含み、複数の前記プレートが、前記一連の触媒材料を形成するように提供される、請求項23に記載の装置。
【請求項26】
前記装置がさらに、
前記チャンバからの脱重合された原料を加工すると共に、前記脱重合された原料を前記触媒反応器に供給するように構成された、前記チャンバ及び前記触媒反応器と流体連通する第1のバブラーを含む、請求項23に記載の装置。
【請求項27】
前記装置がさらに、前記触媒反応器と流体連通する第2のバブラーを含む、請求項26に記載の装置。
【請求項28】
円筒形アウターケーシングと、
12%未満のクロム含量を有する前処理された304タイプのステンレス鋼からなる一連の触媒材料と、
前記一連の触媒材料を前記円筒形アウターケーシング内に保持及び支持するように構成されたホルダセンブリであって、入口、出口、及び前記ホルダセンブリ内から触媒反応器内へガスを分配するために前記ホルダセンブリの長手方向表面に沿って提供された複数の開口を有するホルダセンブリと、
ガス入口及びガス出口を有するガス分配チャネルであって、前記ガス出口が前記ホルダセンブリの入口に接続された、ガス分配チャネルと、
前記触媒反応器内の前記一連の触媒材料に均一な誘導加熱を提供することができる、前記アウターケーシングの外壁の周囲に巻き付けられた加熱素子と、を含む、多層カーボンナノチューブを合成するための触媒反応器であって、
前記一連の触媒材料が、触媒材料の表面に多層カーボンナノチューブを形成させるのに十分なスペースを、任意の2つの隣接する触媒材料間に有して水平にスタックされた形で配置される、触媒反応器。
【請求項29】
前記ガス分配チャネルがさらに、前記ガス分配チャネルのガス出口に近接して提供された円板を含み、前記円板が、前記ガス分配チャネルを前記触媒反応器の前記円筒形アウターケーシングに固定するための固定手段を有する、請求項28に記載の触媒反応器。
【請求項30】
前記一連の触媒材料が、ステンレス鋼のシートの層からなる、プレート、メッシュ又はシートの形態の触媒材料からなる、請求項28に記載の触媒反応器。
【請求項31】
前記一連の触媒材料が金属ロッドの形態の触媒材料からなり、前記触媒材料のそれぞれが、プレートを形成するように隣り合わせに配置された複数の金属ロッドを含み、複数の前記プレートが、前記一連の触媒材料を形成するように提供される、請求項28に記載の触媒反応器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、多層カーボンナノチューブを合成するためのプロセス及び装置に関する。特に、本発明は、高分子重合体廃棄物から多層カーボンナノチューブを合成するためのプロセス及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
カーボンナノチューブは、結晶構造又は黒鉛構造を示す炭素の同素体の1つである(Ajayan, P.M., Chem Rev 1999)。カーボンナノチューブは、グラフェンと同様にsp2混成炭素分子結合によって結合され、円筒形構造に巻かれている(Cumings et al., Science 2000)。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)又は多層カーボンナノチューブ(MWCNT)のいずれかとして存在する。独特な電気及び機械特性は、90年代初期に発見されて以来、非常に大きい研究的及び化学的関心を集めた(Iijima, S., Nature 1991;Frackowiak, E., et al., Applied Physics Letters 2000)。MWCNTは、構造的にも機能的にもSWCNTとは異なっていた。MWCNTは、同じ触媒分岐(catalyst branch)から生じた、互いに包み込まれた同心円状の単層カーボンナノチューブから構成され、SWCNTと比べてより大きい直径、剛性及び伝導性をMWCNTにもたらす。これらの特性は、ナノ多孔性膜、冷陰極電界放出、スーパーキャパシタ、低摩擦ナノベアリング、超高感度電位計などの応用、そしてさらに多くの応用におけるMWCNTの使用を可能にした(Ajayan, P.M., Chem Rev 1999;Cumings et al., Science 2000;Frackowiak, E., et al., Applied Physics Letters 2000;Dai, H, Accounts of Chemical Research 2002;de Heer, W.A. et al., Science 1995;Roschier, L. et al., 2001;Shiflett, M. B. et al., Science 1999)。
【0003】
カーボンナノチューブ(CNT)は、世界中で最も急成長している先端ナノマテリアル技術市場の1つの一部である。現在、カーボンナノチューブの合成のための炭素源は、アセチレン、メタン、エチレン、ベンゼン、キシレンなどの純粋な炭化水素ガス及び化石燃料から得られる(Bazargan, A., et al., Chemical Engineering Journal 2012)。種々の応用において増大するカーボンナノチューブの使用及び需要に起因して、研究者らは、世界中の需要を満たすために、高品質カーボンナノチューブの製造のための安価で代替的な炭素源を常に探している。1つのこのような代替手段は、長鎖炭化水素を含み、地球規模で環境への懸念事項である非分解性プラスチック材料の利用である(Liu, Y., et al., Fuel Processing Technology 2000;Kim, S.-S, et al., Chemical Engineering Journal 2004)。プラスチックの再生利用におけるこの数年にわたるあらゆる技術的進歩にもかかわらず、汚染、市場の不足、又はプラスチックを分離できないこと(これは、回収を非現実的にする)のために、かなりの量のプラスチック廃棄物ストリームはリサイクルすることができないままである。さらに、炭化水素鎖が長いほど、より高い収率を生じるためにカーボンナノチューブの合成に必要とされる温度は高くなる。したがって、プラスチック廃棄物などの非生分解性炭素原料を使用してカーボンナノチューブを製造するために、より良好で効率的なアプローチが必要とされる。
【0004】
カーボンナノチューブは、炭素源及び制限に応じて、3つの異なる反応器構成:アーク放電、レーザー蒸発及び化学蒸着を用いて広く合成されている(Bazargan, A. et al., Chemical Engineering Journal 2012)。アーク放電法は、電気アーク内に置かれた黒鉛電極を蒸発させるために非常に高温(約4000℃)を必要とする。アーク放電法から合成されたカーボンナノチューブは、良好な結晶化を示す(Ando, Y. et al., Japanese Journal of Applied Physics Part 2 Letters 1993)。しかしながら、カーボンナノチューブは、60~70%を超える範囲の、非晶質炭素及び金属粒子の形態の大量の不純物を有する傾向がある(Thess, A. et al., Science 1996;Li, H. et al., The Journal of Physical Chemistry B 2004)。レーザー蒸発法では、高温で高純度の黒鉛標的を蒸発させるために高出力レーザーが使用される。レーザー蒸発法から製造されたカーボンナノチューブは高純度を有するが、製造収率が非常に低い(Dai, H. et al., The Journal of Physical Chemistry B 1999;Hou P.-X et al., Carbon 2008)。アーク放電法及びレーザー蒸発法はいずれも非経済的であり、非常に高いエネルギー、資源投入、及び複雑なプロセス条件を必要とする。これらの制限を克服するために、カーボンナノチューブを合成するために、金属触媒の存在下で炭化水素が熱分解されてカーボンナノチューブが形成される化学蒸着(CVD)法が広く使用されている。今日まで、触媒CVDプロセスは、カーボンナノチューブを大量に製造するために使用される、最も経済的でスケーラブルなアプローチである。しかしながら、CVD法にも制限があり、この方法は高エネルギーを必要とし、初期加熱プロセス中の加熱速度が低い。さらに、均一な加熱及びプロセス効率は加熱源に依存し、したがって、加熱及びプロセス効率の制御が困難になる。
【0005】
したがって、上記に記載される問題の少なくとも1つに対処する、又は少なくとも代替手段を提供することを探求する、多層カーボンナノチューブを合成するためのプロセス及び装置を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0006】
発明の概要
本発明の1つの態様によると、多層カーボンナノチューブを合成するためのプロセスが提供される。本プロセスは、高分子重合体廃棄物を脱重合させて、炭素含有原料を得ることと、ステンレス鋼からなる一連の触媒材料を含有する触媒反応器内に炭素含有原料を供給することであって、一連の触媒材料が、触媒材料の表面に多層カーボンナノチューブを成長及び堆積させるのに十分なスペースを、任意の2つの隣接する触媒材料間に有してスタックされた形で配置されることと、一連の触媒材料を炭素含有原料の存在下で誘導加熱により加熱して、触媒材料の表面に多層カーボンナノチューブを形成することと、多層カーボンナノチューブを一連の触媒材料の表面から除去することとを含む。
【0007】
一実施形態において、長鎖高分子炭素源を脱重合させるステップは、不活性雰囲気中400℃~480℃の温度で長鎖高分子炭素源を加熱することを含む。
【0008】
一実施形態において、本プロセスはさらに、炭素含有原料をバブラー(bubbler)内に供給することと、炭素含有原料を反応器内に供給する前に、バブラー内の炭素含有原料の中に不活性ガスをバブリングすることとを含む。
【0009】
一実施形態において、本プロセスはさらに、炭素含有原料を触媒反応器内に供給する前に、一連の触媒材料を還元ガスの存在下で予熱して、一連の触媒材料の表面の活性部位を活性化することを含む。別の実施形態では、本プロセスはさらに、一連の触媒材料を炭素含有原料の存在下で加熱すると同時に、一連の触媒材料を還元ガスの存在下で加熱することを含む。
【0010】
一実施形態において、本プロセスはさらに、炭素含有原料を触媒反応器内に供給する前に、炭素含有原料及び不活性キャリアガスを還元ガスと混合することを含む。
【0011】
一実施形態において、一連の触媒材料は、ステンレス鋼のシートの層からなる、プレート、メッシュ又はシートの形態の触媒材料からなる。
【0012】
一実施形態において、長鎖高分子炭素源は、廃棄有機溶媒、使用済み植物油及び調理用油、アセチレン、キシレン及び圧縮天然ガスを含む低分子ガス状炭化水素、並びにポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ゴムからなる群から選択される1つ又は複数の長鎖熱可塑性ポリマーからなる群から選択される1つ又は複数である。
【0013】
一実施形態において、誘導加熱は、600℃~1000℃の温度で実行される。
【0014】
本発明の第2の態様によると、多層カーボンナノチューブを合成するための装置が提供される。本装置は、高分子重合体廃棄物を脱重合させるためのチャンバと、チャンバと流体連通する触媒反応器とを含み、ここで、触媒反応器は、円筒形アウターケーシングと、ステンレス鋼からなる一連の触媒材料と、一連の触媒材料を保持及び支持するように構成されたホルダセンブリであって、ホルダセンブリが、入口、出口、及びホルダセンブリの長手方向表面に沿って提供された複数の開口を有し、一連の触媒材料が、触媒材料の表面に多層カーボンナノチューブが成長できるようにするのに十分なスペースを、任意の2つの隣接する触媒材料間に有してスタックされた形で配置された、ホルダセンブリと、ホルダセンブリに接続されたガス分配チャネルと、触媒反応器内の一連の触媒材料に均一な誘導加熱を提供することができる、アウターケーシングの外壁の周囲に巻き付けられた加熱素子とを含む。
【0015】
一実施形態において、本装置はさらに、チャンバからの脱重合された原料を加工すると共に、脱重合された原料を触媒反応器に供給するように構成された、チャンバ及び触媒反応器と流体連通する第1のバブラーを含む。さらなる実施形態では、本装置はさらに、触媒反応器と流体連通する第2のバブラーを含む。
【0016】
本発明の第3の態様によると、多層カーボンナノチューブを合成するための触媒反応器が提供される。触媒反応器は、円筒形アウターケーシングと、ステンレス鋼からなる一連の触媒材料と、一連の触媒材料を円筒形アウターケーシング内に保持及び支持するように構成されたホルダセンブリであって、入口、出口、及びホルダセンブリ内から触媒反応器内へガスを分配するためにホルダセンブリの長手方向表面に沿って提供された複数の開口を有するホルダセンブリと、ガス入口及びガス出口を有するガス分配チャネルであって、ガス出口がホルダセンブリの入口に接続された、ガス分配チャネルと、触媒反応器内の一連の触媒材料に均一な誘導加熱を提供することができる、アウターケーシングの外壁の周囲に巻き付けられた加熱素子とを含み、一連の触媒材料は、触媒材料の表面に多層カーボンナノチューブを形成させるのに十分なスペースを、任意の2つの隣接する触媒材料間に有してスタックされた形で配置される。
【0017】
一実施形態において、ガス分配チャネルはさらに、ガス分配チャネルのガス出口に近接して提供された円板を含み、円板は、ガス分配チャネルを触媒反応器の円筒形アウターケーシングに固定するための固定手段を有する。
【0018】
図面の簡単な説明
本発明に従うプロセス及び装置の上記の利点及び特徴は以下の詳細な説明に記載され、図面に示される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に従って廃棄プラスチック及び油をカーボンナノチューブに変換する際の触媒CVDプロセスの全体的な概略図を示す。
【
図2】本発明の別の実施形態に従って廃棄プラスチック及び油をカーボンナノチューブに変換する際の触媒CVDプロセスの全体的な概略図を示す。
【
図3】本発明のさらに別の実施形態に従って廃棄プラスチック及び油をカーボンナノチューブに変換する際の触媒CVDプロセスの全体的な概略図を示す。
【
図4a】誘導加熱及び界面接触面積を促進するように構成された、触媒反応器の完全な組立図及び触媒反応器内の一連の触媒材料の配置を示す。
【
図4c】本発明の実施形態に従う一連の触媒材料の組立図を示す。
【
図5a】ホルダセンブリによって適所に保持及び支持された一連の触媒材料の側面図を示す。
【
図5b】本発明の実施形態に従うホルダセンブリを有する一連の触媒材料の上面図、側面図及び底面図を示す。
【
図6a】本発明の実施形態に従うガス分配チャネルの側面図を示す。
【
図6c】ガスを一連の触媒材料へ方向付けるためのガス分配チャネルの上面図を示す。
【
図7a】ホルダセンブリの長手方向表面に沿って複数の開口が提供されたホルダセンブリの側面図を示す。
【
図7b】
図7(a)に示されるセクションAの分解図(exploded view)である。
【
図8a】触媒反応器のアウターケーシングの斜視図を示す。
【
図8b】触媒反応器のアウターケーシングの側面図を示す。
【
図8c】触媒反応器のアウターケーシングの上面図を示す。
【
図9a】炭素源:(a)ポリプロピレンの、5℃/分におけるTGA曲線を示す。
【
図9b】炭素源:(b)ポリスチレンの、5℃/分におけるTGA曲線を示す。
【
図10a】炭素源:(a)1:1wt%/wt%のポリプロピレン(PP)及びポリスチレン(PS)の混合物の、5℃/分におけるTGA曲線を示す。
【
図10b】炭素源:(b)1:2wt%/wt%のポリプロピレン(PP)及びポリスチレン(PS)の混合物の、5℃/分におけるTGA曲線を示す。
【
図10c】炭素源:(c)2:1wt%/wt%のポリプロピレン(PP)及びポリスチレン(PS)の混合物の、5℃/分におけるTGA曲線を示す。
【
図11a】炭素源:(a)ゴム油の、5℃/分におけるTGA曲線を示す。
【
図11b】炭素源:(b)調理用油の、5℃/分におけるTGA曲線を示す。
【
図12】ポリプロピレンから合成されたMWCNTの(a)FESEM画像、(b)TEM画像、及び(c)ラマン分析を示す。
【
図13】ポリスチレンから合成されたMWCNTの(a)FESEM画像、(b)TEM画像、及び(c)ラマン分析を示す。
【
図14】エタノール添加剤と共に1:1wt%/wt%のポリプロピレン(PP)及びポリスチレン(PS)の混合物から合成されたMWCNTの(a)FESEM画像、(b)TEM画像、及び(c)ラマン分析を示す。
【
図15】ゴム油から合成されたMWCNTの(a)FESEM画像、(b)TEM画像、及び(c)ラマン分析を示す。
【
図16】調理用植物油から合成されたMWCNTの(a)FESEM画像、(b)TEM画像、及び(c)ラマン分析を示す。
【
図17】エタノールから合成されたMWCNTの(a)FESEM画像、(b)TEM画像分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
本発明は、高分子重合体廃棄物から多層カーボンナノチューブを合成するためのプロセス及び装置に関する。本プロセスは、低価値の高分子重合体廃棄物から、より良好な収率及び純度で高価値のカーボンナノチューブ(CNT)を合成するために、修正された触媒化学蒸着(CVD)プロセスと組み合わせて誘導加熱を使用することを含む。
【0021】
誘導加熱は、無線周波数(RF)エネルギーの独特な特徴に依存する。加熱プロセスは、導電性物体(例えば、金属)において電磁誘導によって起こる。導電性物体において発生する渦電流は、誘導コイル及び物体と直接接触することなく正確で局所的な加熱を可能にする。誘導加熱プロセスは、非常に反復可能で且つ制御可能である。瞬間加熱を促進し、比較的短時間で反応器内の均一な高温を達成することが可能である。これは、低エネルギー消費、及び全体としてより短い反応時間につながる。しかしながら、誘導加熱プロセスの効率は、インダクタの設計(すなわち、誘導コイルと加熱される物体との間のカップリング)、物体のサイズ、材料の種類、電力及び周波数 侵入深さに大きく依存する。本発明において、導電性物体は、高渦電流を発生し、且つ触媒としても働いて、触媒材料の表面において炭化水素(又は炭素含有原料)を溶解させ、触媒材料の表面におけるカーボンナノチューブの成長を促進するように選択される。この態様では、触媒として適切な導電性材料の選択は、誘導加熱及び触媒プロセスの両方のために重要な役割を果たす。
【0022】
本発明の1つの態様によると、高分子重合体廃棄物から多層カーボンナノチューブを合成するためのプロセスが提供される。本プロセスは、高分子重合体廃棄物を脱重合させて、炭素含有原料として使用するための短鎖炭化水素にすることを含む。炭素含有原料は、ステンレス鋼からなる一連の触媒材料を含有する触媒反応器内に供給される。一連の触媒材料は、触媒反応器内において、一連の触媒材料の表面における多層カーボンナノチューブの成長を可能にするのに十分な時間、炭素含有原料の存在下で誘導加熱により加熱される。形成された多層カーボンナノチューブは次に一連の触媒材料の表面から除去される。
【0023】
本明細書で使用される「高分子重合体廃棄物」という用語は、長鎖炭化水素又は長鎖高分子炭素源を指す。高分子重合体廃棄物の例としては、プラスチック廃棄物、廃棄ゴム油、及び廃棄調理用油が挙げられるが、これらに限定されない。プラスチック廃棄物の例としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、及び他のプラスチック材料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
本明細書で使用される「短鎖炭化水素」という用語は、主にC6~C10分子を有する炭化水素を指す。短鎖炭化水素は、多層カーボンナノチューブを合成するための炭素含有原料として使用される。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に従う触媒CVDプロセスの全般的な概略図を示す。
【0026】
一実施形態において、脱重合のステップは、真空オーブン(101)内で高分子重合体廃棄物を脱重合させることを含む。真空オーブンは、大気を除去するために減圧される。脱重合された炭化水素の分解温度での燃焼を回避するために、不活性ガス、例えば窒素ガスが真空オーブン内に供給され、真空オーブン内に不活性ガス雰囲気を形成する。一実施形態において、真空オーブンは、多層カーボンナノチューブの合成のための炭素源として脱重合及び使用される重合体廃棄物の種類に応じて、400℃~480℃の温度で動作する。真空オーブン内の圧力は、ポンプ(102)によって、100トル~400トル(又は1.33x104~5.33x104Pa)に維持される。一実施形態において、高分子重合体廃棄物は、400℃~480℃の温度の真空オーブン(101)内で30~120分間にわたって加熱される。高分子重合体廃棄物は長鎖炭化水素を含有する。脱重合プロセスの間に長鎖炭化水素が分解し、固体重合体廃棄物は液体炭化水素、すなわち短鎖炭化水素からなる炭化水素油へ変換される。
【0027】
真空オーブンからの液体炭化水素は、不活性キャリアガスにより導管(103)を通って触媒反応器(104)へ移送される。任意の適切な種類の不活性キャリアガスが使用され得る。一実施形態において、不活性キャリアガスは窒素である。不活性キャリアガスによる真空オーブンから触媒反応器への液体炭化水素の移送は、液体炭化水素を気相に変換する。これは、液体炭化水素が真空オーブンから触媒反応器へ移動する際の蒸気圧の差異に起因して起こる。不活性キャリアガス流は、約60~150SCCMに維持される。炭化水素の気相は、触媒反応器内で多層カーボンナノチューブを合成するための炭素含有原料(105)として使用される。
【0028】
炭素含有原料(105)は、一連の触媒材料を含む触媒反応器(104)内に供給される。一連の触媒材料は、ステンレス鋼で作られている。
【0029】
一般に、炭化水素からのカーボンナノチューブの成長のための触媒CVDプロセスにおいて、鉄、コバルト及びニッケルなどの遷移金属が触媒として使用される(Andrews, R., et al., Chemical physics letters 1999;Lupu, D, et al., Carbon 2004)。遷移金属の他に、銅、銀、白金、パラジウム及び金などの他の金属も、種々の炭化水素からのカーボンナノチューブの成長を触媒することが見出されている(Yuan, D., et al., Nano letters 2008)。しかしながら、このような触媒のコスト及びその利用可能性は、商業的レベルでのカーボンナノチューブの製造に影響を与えた。さらに、カーボンナノチューブからの触媒の回収は酸エッチングを含む激しい湿式法を伴い、これは、合成されたカーボンナノチューブの全体的な品質を損なうことが多い。
【0030】
本発明では、いくつかの理由で触媒としてステンレス鋼が使用される。ステンレス鋼は、他の遷移金属と比べて比較的安価である。これは、全体的な製造コストの削減に役立ち、プロセスのコスト効率をより良くした。ステンレス鋼は容易に入手可能であり、良好な熱導体でもある。これは、誘導加熱を促進すると共に、プロセスの間に触媒として働くのにも役立つ。メッシュ形態のステンレス鋼は多孔質であり、且つ強固である。多孔質且つ強固であるメッシュの性質により、メッシュはより大きい表面積を有することができ、カーボンナノチューブの成長のための触媒活性部位が多くなる。ステンレス鋼で作られた触媒材料は触媒材料の表面におけるカーボンナノチューブの成長を可能にし、これにより、カーボンナノチューブを触媒材料から容易に分離できる。
【0031】
本発明で使用されるステンレス鋼は、ステンレス鋼304及びステンレス鋼201を含むがこれらに限定されない、任意の適切なグレードを有することができる。好ましくは、ステンレス鋼は、比較的低クロム含量を有するタイプ304である。好ましくは、クロム含量は12%未満である。
【0032】
ステンレス鋼からなる一連の触媒材料は、金属ロッド、プレート、メッシュ又はシートを含むがこれらに限定されない、いくつかの層に配置された種々の形態であり得る。一連の触媒材料は、触媒材料の表面に多層カーボンナノチューブを成長及び堆積させるのに十分なスペースが任意の2つの隣接する触媒材料間に存在するように、水平にスタックされた形で配置される。好ましくは、触媒材料は、前記一連の触媒材料を形成するために、水平にスタックされた形で配置されたプレート又はメッシュの形態である。触媒材料が金属ロッドの形態である実施形態において、触媒材料のそれぞれは、プレートを形成するように隣り合わせに配置された複数の金属ロッドを含み、複数の前記プレートは、一連の触媒材料を形成するように提供される。
【0033】
触媒反応器内の一連の触媒材料は炭素含有原料の存在下で加熱されて、一連の触媒材料の表面に多層カーボンナノチューブを形成する。一連の触媒材料は、誘導加熱によって加熱される。ステンレス鋼からなる一連の触媒材料は触媒として働くことができ、誘導コイルによる誘導加熱を可能にする磁気特性も有する。誘導加熱により、触媒反応器内の一連の触媒材料の均一な加熱が可能になる。これにより、炭素含有原料が加熱された一連の触媒材料と接触したときに、触媒材料の表面に多層カーボンナノチューブが均一に形成されるようになる。
【0034】
一実施形態において、一連の触媒材料は、炭素含有原料を触媒反応器内に供給する前に還元される。還元は、一連の触媒材料を含有する触媒反応器内に水素ガスなどの還元剤(106)を通すことによって行われる。一連の触媒材料は、触媒を活性化するのに十分な時間にわたって還元剤を用いて処置することができる。
【0035】
別の実施形態では、一連の触媒材料は、炭素含有原料の存在下で一連の触媒材料を加熱すると同時に還元される。還元は、炭素含有原料(105)を触媒反応器内に導入すると同時に還元剤(106)を触媒反応器内に通すことによって行われる。一実施形態において、炭素含有原料を触媒反応器内に導入する前に、炭素含有原料は、窒素などの不活性キャリアガスと一緒に、水素などの還元剤と混合される。この実施形態では、窒素対水素ガス流量比は、1:4~1:10に維持される。
【0036】
一実施形態において、触媒反応器内の触媒プロセスは、炭素源の化学組成に応じて、100トル~400トル(又は1.33x104~5.33x104Pa)の真空圧で1~2時間、600℃~900℃の範囲の温度に維持される。高温の触媒反応器内で一連の触媒材料と一緒に還元環境の存在下において加熱された炭素含有原料は、一連の触媒材料の表面における多層カーボンナノチューブの成長をもたらす。整列及びスタックされた形の触媒材料の配置は、炭素含有原料と触媒材料との間の界面を増強する。これは効率的な誘導加熱を可能にし、比較的短時間で、例えば5分以内に、約600℃~1,000℃の高温を達成する。
【0037】
一連の触媒材料の表面に形成及び堆積された多層カーボンナノチューブは除去及び回収される。多層ナノチューブを除去するために任意の適切な手段を使用することができる。例示的な実施形態では、多層カーボンナノチューブは、単純な機械的攪拌によって除去される。別の例示的な実施形態では、カーボンナノチューブは、エタノール溶媒中での触媒材料の超音波処理によって除去される。超音波処理は、多層カーボンナノチューブを一連の触媒材料の表面から解放させるのに十分な時間実行される。次に多層カーボンナノチューブは回収され、熱乾燥される。
【0038】
別の実施形態では、
図2に示されるように、本発明のプロセスはさらに、炭素含有原料を触媒反応器(104)内に供給する前に、脱重合ステップから得られた炭素含有原料にバブラー(201)を通過させることを含む。この実施形態では、長鎖高分子炭素源の脱重合の後、油などの液体炭化水素が得られ、油は別個にバブラー(201)内に回収される。窒素などの不活性ガスがバブラー(201)内へバブリングされ、混合物は320℃~450℃の温度に加熱される。加熱される温度は、脱重合から得られる油のGC-MSデータ及び加工すべき長鎖高分子炭素源の品質に依存する。バブラー内への液体炭化水素のバブリングは液体炭化水素の気相への拡散律速物質移動を可能にし、多層カーボンナノチューブを合成するための炭素含有原料としてガス状炭化水素が触媒反応器内に供給される前にも液体炭化水素を気相に変換する。
【0039】
さらに別の実施形態では、
図3に示されるように、本プロセスはさらに、炭素含有原料を触媒反応器(104)内に供給する前に、脱重合ステップから得られた炭素含有原料にバブラー(201)を通過させることと、第2の炭素含有原料を触媒反応器(104)内に供給する前に、第2の炭素源に第2のバブラー(301)を通過させて、第2の炭素含有原料を得ることとを含む。この実施形態では、第1のバブラー(201)は重質炭化水素、例えばプラスチック油を処理するために提供され、第2のバブラー(301)は、軽質炭化水素、例えばエタノールを処理するために提供される。
【0040】
プロセスはさらに、触媒CVDプロセスにおいて使用する前に、一連の触媒材料を予熱することを含み得る。プロセスは、弱酸エッチングにより一連の触媒材料を活性化し、一連の触媒材料を熱酸化にさらして、触媒材料の表面に多層カーボンナノチューブを堆積させるために一連の触媒材料の表面に表面粗さ及び触媒活性部位を形成することを含む。前処理の目的の1つは、一連の触媒材料の表面からあらゆる有機残渣を除去すること、及びエッチングされた粗い表面を形成することである。一連の触媒材料と共にエッチングされた粗い表面は、カーボンナノチューブの成長のための触媒活性部位として働く。
【0041】
カーボンナノチューブが一連の触媒材料の表面から除去されたら、一連の触媒材料は、再使用することができる。一連の触媒材料は、約500℃~600℃の空気雰囲気の触媒反応器内で、触媒材料の表面に存在し得る炭素残渣を酸化して二酸化炭素にすることによって再使用のために調製される。その後、一連の触媒材料は上記と同じ方法で化学的に前処理され、次のプロセスでの再使用のために表面を再活性化する。
【0042】
利用されない炭素分子は全て、環境に放出される前に活性炭(AC)フィルタによって除去される。同様のアプローチは、ゴム及び調理用油などの液体炭素源に対しても使用される。液体炭素源が使用される場合、液体炭素源は、真空オーブンではなく液体容器に入れられる。不活性ガス、例えば窒素ガスは、290℃~400℃の脱重合加熱温度で油の中にバブリングされる。
【0043】
本発明のプロセスにより製造される多層カーボンナノチューブは長尺状であり、個々のフィラメントは、2~30μmの長さを有する。直径は30~150nmである。
【0044】
1つの態様では、多層カーボンナノチューブは、
図4に示される例示的な触媒反応器などの触媒反応器を用いて合成される。
図4を参照すると、触媒反応器(401)は、アウターケーシングの外壁の周囲に巻き付けられた加熱素子(図示せず)を有する円筒形アウターケーシング(402)と、ステンレス鋼からなる一連の触媒材料(403)と、ホルダセンブリ(404)に接続された一連の触媒材料(403)及びガス分配チャネル(405)を保持及び支持するように構成されたホルダセンブリ(404)とを含む。
【0045】
円筒形アウターケーシング(402)は空気流を運び、誘導加熱の間に渦電流の強度を増大させ、一連の触媒材料の周囲の均一な加熱を保持することができる。アウターケーシングは、バイパスされた炭素含有原料を一連の触媒材料から活性触媒材料の表面に戻るように運ぶ。アウターケーシングは、プロセスの間に触媒反応器内の蒸気の完全な混合も促進する。一実施形態において、円筒形アウターケーシングは、約440mm~500mmの長さ及び約150mm~200mmの直径を有する。
【0046】
ホルダセンブリ(404)は、一連の触媒材料(403)を水平に固定及び支持するように構成され、触媒材料の主表面は、触媒材料の表面に成長及び堆積される予定の多層カーボンナノチューブを主表面が支持することができるように上向きである。本発明の範囲から逸脱することなく、一連の触媒材料をホルダセンブリに固定するために任意の適切な手段が使用され得る。一連の触媒材料は、溶接によって、或いは触媒材料をホルダセンブリから容易に除去できるようにする固定手段によってホルダセンブリに固定され得る。ホルダセンブリ(404)は、反応の前後の触媒材料(403)の取扱いを容易にする。ホルダセンブリ(404)は長尺であり、円筒形アウターケーシングと同じかそれよりも長い長さと、5mm~10mm、好ましくは約5mmの直径とを有する。ホルダセンブリは、入口(501)と、出口(502)と、ホルダセンブリの長手方向表面に沿って提供された複数の開口(503)とを含み、開口を通って、炭素含有原料及び他の不活性ガスが触媒反応器内に流れる。複数の開口(503)は、炭素含有原料ガス及び/又は他の不活性(insert)ガスを一連の触媒材料に沿って均等に分配するように提供される。一連の触媒材料は、開口から触媒反応器内への炭素含有原料の流れを触媒材料が妨害しないようにホルダセンブリに固定されなければならない。開口は、十分な炭素含有原料及び他の不活性ガスの通過及び触媒反応器内での分配を可能にするサイズを有さなければならない。一実施形態において、各開口は、約3mm~5mm、好ましくは約3mmの直径を有する。
【0047】
図4(b)は、触媒反応器の断面図及び一連の触媒材料の配置を示す。
図4(c)は、ガス分配チャネルに取り付けられていない一連の触媒材料を示す。
図5は、一連の触媒材料の側面図及び一連の触媒材料がホルダセンブリに配置及び固定される方法を示す。
【0048】
図6(a)はガス分配チャネルの側面図を示し、
図6(b)はガス分配チャネルの斜視図である。一実施形態において、ガス分配チャネル(405)は、ガス入口(602)と、ガス出口(603)と、ガス出口(603)に近接して提供される円板(604)とを有する長尺チャネル(601)を含む。ガス分配チャネルは触媒反応器の一部を形成する。ガス分配チャネルは触媒反応器の不可欠な部分であることも、又は触媒反応器のアウターケーシングに取外し可能に固定される別個の部分であることも可能である。一実施形態において、ガス分配チャネルは、円板の縁から垂直に延在する突出部(605)を含む。突出部は、ガス分配チャネルを触媒反応器(401)の円筒形アウターケーシング(402)に係合及び固定する。突出部は、ガス分配チャネルを触媒反応器の円筒形アウターケーシングに固定するのに十分な任意の適切なサイズ及び形状を有することができる。
【0049】
ガス分配チャネルのガス入口(602)は、炭素含有原料及び他の不活性ガスを受け入れるために提供される。ガス出口(603)は、炭素含有原料及び他の不活性ガスがチャネル(601)からホルダセンブリ(404)へ連続して流れるようにホルダセンブリの入口(501)へ接続される。炭素含有原料がガス分配チャネル(405)のガス入口(602)を通過すると、炭素含有原料は、ガス入口(602)の反対側の端部のガス出口(603)へ向かって移動し、ホルダセンブリの入口(501)に入る。炭素含有原料はホルダセンブリを通過し、触媒反応器内の一連の触媒材料と接触されるようにホルダセンブリの複数の開口を均等に通過する。ガス分配チャネルのチャネル(405)は、40mm~48mm、好ましくは43mm~45mmの外径、及び38mm~46mm、好ましくは41mm~43mmの内径を有する。チャネル(405)は、開口に入る前に炭素含有原料及び反応性ガスのより良好な混合を促進するように、約11mm~13mm、好ましくは約12.5mmの直径を有する小さい穴よって狭くされる。一実施形態において、チャネル(405)は、触媒反応器内に、水素などの還元剤を分配するため、及び炭素含有原料を分配するためのものである。
【0050】
一実施形態において、加熱素子は誘導コイルである。好ましくは、誘導コイルは、触媒反応器内での誘導加熱を促進するために触媒反応器の周囲に巻き付けられた無線周波数誘導銅コイルである。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく任意の適切な方法で誘導コイルを触媒反応器の周囲に巻き付けられることを認識するであろう。誘導コイルは、一連の触媒材料及び炭素含有原料を所望の温度まで誘導加熱し、必要であれば所定の期間その温度を維持するのに十分な渦電流を発生しなければならない。
【0051】
誘導加熱は、1kHz~60kHzの範囲の中間周波数を発生させることができる、AC電源に接続された無線周波数(RF)発生器を用いて実行される。触媒反応器内での誘導加熱の有効性は、触媒材料の配置と、反応器内部で導電性触媒材料により発生される渦電流の強度とに大きく依存している。さらに、触媒材料の配置は、触媒材料の表面での炭素含有原料の拡散を可能にし、ガス流又は真空の相対的妨害を起こさずにカーボンナノチューブを成長させるように、より大きい界面接触面積を有さなければならない。ホルダセンブリの構造及び一連の触媒材料の配置は強力な誘導加熱を促進し、触媒材料の炭素含有原料との接触面積を最大にする。本発明の触媒反応器の構造は、比較的短時間で触媒反応器内に600℃~1,000℃の反応温度を生じさせることができる。一実施形態において、触媒反応器は、前記反応温度を5分以内に生じさせることができる。
【0052】
触媒反応器は一連の触媒材料の支持体として働くと共に、誘導加熱を触媒反応器全体にわたって均一に実行させる磁気特性を有する。これは一連の触媒材料に均一な加熱を提供し、それは、触媒材料の表面における多層カーボンナノチューブの一貫した成長を達成するのに不可欠である。触媒反応器は、触媒反応器を通る炭素含有原料の容易な流れを可能にし、触媒材料とより良好な相互作用を有するように、一連の触媒材料をスタックされた形で配置できるように構成される。一実施形態において、触媒反応器は、50LPM~180LPM(又は0.833x10-3~3x10-3m3/s)の窒素ガス流を有する。真空圧は、約600℃~1000℃の誘導加熱の間、100トル~400トル(又は1.33x104~5.33x104Pa)に維持される。触媒反応器は、触媒反応器内の圧力の制御を可能にするために真空ポンプ(107)へ接続される。
【0053】
本発明の別の態様によると、多層カーボンナノチューブを合成するための装置が提供される。装置は、高分子重合体廃棄物を脱重合させるためのチャンバと、チャンバと流体連通する触媒反応器とを含み、触媒反応器は、円筒形アウターケーシングと、ステンレス鋼からなる一連の触媒材料と、一連の触媒材料を保持及び支持するように構成されたホルダセンブリとを含む。ホルダセンブリは、入口、出口、及びホルダセンブリの長手方向表面に沿って提供された複数の開口からなる。一連の触媒材料は、触媒材料の表面に多層カーボンナノチューブが成長できるようにするのに十分なスペースを、任意の2つの隣接する触媒材料間に有して水平にスタックされた形で配置される。触媒反応器はさらに、ホルダセンブリに接続されたガス分配チャネルと、触媒反応器内の一連の触媒材料に均一な誘導加熱を提供することができる、アウターケーシングの外壁の周囲に巻き付けられた加熱素子とを含む。
【0054】
一連の触媒材料は、ステンレス鋼のシートの層からなる、金属ロッド、プレート、メッシュ又はシートの形態のステンレス鋼からなる。好ましくは、触媒材料は、前記一連の触媒材料を形成するために、水平にスタックされた形で配置されたプレート又はメッシュの形態である。触媒材料が金属ロッドの形態である実施形態において、触媒材料のそれぞれは、プレートを形成するように隣り合わせに配置された複数の金属ロッドを含み、複数の前記プレートは一連の触媒材料を形成するように提供される。
【0055】
本発明の装置はさらに、チャンバからの脱重合された原料を加工すると共に、脱重合された原料を触媒反応器に供給するように構成された、チャンバ及び触媒反応器と流体連通する第1のバブラーを含み得る。装置はさらに、
図3に示されるように、触媒反応器と流体連通する第2のバブラーを含み得る。装置はさらに、チャンバと触媒反応器との間の流体通路に位置する混合器(図示せず)を含み得る。混合器は、炭素含有原料を触媒反応器内に供給する前に、炭素含有原料及び不活性キャリアガスを還元ガスと混合するために提供される。
【0056】
不活性ガス、例えば窒素が上記で言及されるが、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく他の適切な不活性ガスも使用され得ることを理解するであろう。
【0057】
以下の実施例は、本発明の種々の実施形態を説明する。当業者は、以下に提示される実施例が本発明の実施形態の完全なリストではないことを認識するであろう。
【実施例】
【0058】
実施例
材料及び方法
ポリスチレン及びポリプロピレンなどのプラスチック廃棄物、ゴム油、並びに廃棄調理用油は、局所廃棄物コレクターから入手した。金属メッシュは、Wiremesh Industries, Singaporeから入手した。分析グレードのエタノール、イソプロパノール及びアセトンはSigma-Aldrich, Singaporeから入手し、受け取ったまま使用した。硫酸はMerck, Singaporeから入手し、塩酸(37%)はPanreac, Singaporeから入手し、受け取ったまま使用した。
【0059】
特徴付け
窒素雰囲気中でMettler-Toledo TGA DSC 1システムからの熱重量分析(TGA)を用いて、プラスチック廃棄物及び調理用油の分解温度を分析した。5℃/分の加熱温度で室温から500℃まで分析を実行した。質量分析(GC-MS)と連結したガスクロマトグラフィ(PerkinElmer, Clarus 6000)を用いて、プラスチック、ゴム及び調理用油の化学組成を同定及び定量した。多層MWCNTのラマンスペクトルは、室温でBruker SENTERRAラマン顕微鏡(λ=534nm、5mW)により測定した。エネルギー分散型X線分光法(EDX)(Oxford Instruments)と連結した電界放射型走査電子顕微鏡法(FESEM)(JEOL, JSM 7600F)を使用して、カーボンナノチューブのモルホロジーと、カーボンナノチューブ及び触媒表面の化学組成とを研究した。MWCNTのモルホロジーの確認のために透過電子顕微鏡法(TEM)(JEOL 2100F)を使用した。
【0060】
結果及び考察
触媒CVDプロセスの前に、プロセスパラメータ及び炭素源の化学組成を研究した。プラスチックの脱重合温度及び真空オーブン内の小鎖炭化水素蒸気の発生を特定するために、プラスチックの分解温度をまずTGA曲線から特定した。TGAスペクトルから炭化水素蒸気の最大発生が選択された温度は、プラスチックの性質及び化学組成に依存する。この実施例では、ポリプロピレン、ポリスチレン、並びに1:1、1:2及び2:1wt%/wt%のポリプロピレン及びポリスチレンの混合物などの熱可塑性樹脂を、多層カーボンナノチューブを合成するための炭素含有原料として研究した。
【0061】
図9(a)及び
図9(b)はそれぞれ、ポリプロピレン及びポリスチレンのTGA曲線を示す。
図10(a)~(c)は、それぞれ1:1、1:2及び2:1の比率のポリプロピレン(PP)及びポリスチレン(PS)の混合物のTGA曲線を示す。曲線から、脱重合が380℃~460℃の温度で起こることが観察された。したがって、真空オーブンを400℃~480℃の温度範囲で操作して、脱重合された小鎖炭化水素分子の最大収率を得た。
【0062】
ゴム及び植物油においても同様のTGA研究を実施して、操作温度を特定した。
図11(a)及び(b)は、廃棄調理用油及びゴム油のTGA曲線を示す。曲線から、植物油の操作温度を約400℃~480℃に保持し、ゴム油については、温度を約180℃~250℃に保持した。
【0063】
ポリスチレン及びポリプロピレンの熱分解を実験的及び理論的の両方で文献において広く研究した。温度、圧力及び触媒のような反応条件は、長鎖高分子炭素源から小鎖分子炭化水素への変換に影響を与える。熱分解後の脱重合された炭化水素は、化学的及び構造的に異なる。脱重合された炭化水素は、低鎖~中鎖炭化水素(C2~C14及びそれ以上)として広く分類された。これらの炭化水素は、鎖の長さ及び組成に応じて異なる沸点を有する(Liu, Y., et al., Fuel Procesing Technology 2000;Kim, S.-S, et al., Chemical Engineering Journal 2004)。Liu, Y., et al., Fuel Procesing Technology 2000では、ポリスチレンの熱分解が研究され、モノマーからダイマー及びトリマーまでの範囲の複雑な一連の炭化水素が報告された。450℃において、ポリスチレンは、70%を超える低鎖炭化水素、及び約13%の重鎖炭化水素をもたらした。主要な脱重合炭化水素は、ベンゼン、トルエン、スチレン、及びキシレンなどの低沸点を有する低分子鎖分子であった。GCMSソフトウェアを用いるスペクトルのライブラリ検索により、同一及び同様の分子鎖炭化水素の存在を確認した。また脱重合混合物は、分枝状ジフェニルエタン、プロペン、ブテン、及びペンテンを含む中沸点炭化水素と、分枝状トリ-フェニルヘキサンを含む高沸点炭化水素とで構成された。ポリプロピレンの熱分解は、フリーラジカル、及びアルカン、アルケン、アルキン、芳香族化合物などを含む炭化水素の複雑な混合物の発生をもたらした(Kruse, T.M, et al., Journal of analytical and applied pyrolysis 2005;Sojak, L., et al., Journal of Analytical and Applied Pyrolysis 2007)。炭化水素は、C6~C25の範囲及びそれ以上である。Kruse, T.M, et al., Journal of analytical and applied pyrolysis 2005では、420℃におけるポリプロピレンの熱分解は、C15分子よりも小さい約36%の炭化水素鎖をもたらすことが報告された。脱重合されたポリスチレン、ポリプロピレン、並びに異なる重量比のポリスチレン及びポリプロピレン油の混合物のGCMS分析によって同様の観察が確認された。調理用植物油のGCMS分析により、1,2-ベンゼンジカルボン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカトリオン酸(octadecatrionic acid)、ファタル酸(phathalic acid)、フタル酸ジブチルなどの大多数のC16~C20分子と、メチルスチレン、スチレンなどのより少量のC6~C9炭素鎖との存在が確認された。ゴム油のGCMS分析により、熱分における広範な炭化水素の存在が確認された(Benallal, B. et al., Fuel 1995)。ゴムはポリイソプレンを含み、熱分解されると、ベンゼン、シクロ-ベンゼン、ヘキサン、トルエン、1-ヘプチン、オクタン、オクチン、エチルベンゼン、p-キシレン、1-ナフタレンメントールなどの低鎖~中鎖炭化水素をもたらす。
【0064】
プラスチック廃棄物のTGA及びGCMS研究から、真空オーブン内で約400℃~480℃の脱重合温度を維持すれば、低鎖炭化水素の大部分は、中鎖炭化水素に変換された。さらに、以前の研究では、炭化水素原料の種類は、カーボンナノチューブ形成の種類に影響を与えることが報告された。Li, Q., et al., Carbon 2004では、ベンゼン、ナフタレン及びアントラセンのような芳香族分子はSWCNTの形成をもたらすが、脂肪族及び環状炭化水素鎖は、MWCNT又は非チューブ状の炭素構造のようなより複雑な形態をもたらすことが報告された。しかしながら、炭化水素のカーボンナノチューブ形成のための反応全体はまだ証明されていない。しかしながら、遷移金属触媒の存在下で受け入れられている最も一般的なモデルは、Baker, R.T.K. et al., Carbon 1989;Baker, R.T.K. et al., Journal of Catalysis 1973によって提供された。
CxHy → xC+1/2yH2
【0065】
炭素源及び化学組成によって、触媒CVD全体のプロセス条件は、それに応じて変化する。一般に、真空オーブンは、プラスチック廃棄物の場合は400℃~480℃、ゴム油の場合は約180℃~250℃に保たれる。プロセス全体を通して約100トル~400トル(又は1.33x104~5.33x104Pa)の真空圧を維持した。炭素源を触媒CVDプロセスに供給する際、約100~120SCCMの窒素ガス流を維持した。プロセスの間、動作圧力を400トル(又は、5.33x104Pa)よりも十分低く維持するために、安全制御バルブを使用することにより追加の予防策を実施した。1kHz~35kHzの範囲のRF周波数を使用し、これにより、約600℃~900℃の誘導加熱が生じた。さらに、誘導加熱は、ホルダセンブリ及び一連の触媒材料の構成、並びに誘導の際に作り出される渦電流の強度に依存する。CVDプロセスの前に、一連の触媒材料を水素及び窒素の存在下で還元した。炭化水素を供給する際、CVDプロセスにおいて約1:6~1:10の水素対窒素ガス比を維持した。触媒CVDプロセス全体を通して約600℃~900℃の反応温度を約1時間維持した。実験的な研究から、約4%の全収率が達成される。抵抗加熱プロセスとは違って、誘導加熱は5分間しか必要とせず、したがって、高エネルギー消費が回避される。合成されたカーボンナノチューブは、機械的攪拌及び単純なエタノール溶液中での超音波処理を用いて触媒から分離された後、熱乾燥が行われる。モルホロジー及び純度を研究するためにカーボンナノチューブにおいてFESEM、TEM及びラマン分析を実行した。FESEM及びTEMにより、カーボンナノチューブの多層としてのモルホロジーを確認した。ラマン分析により、合成されたMWCNTの純度を確認した。
【0066】
炭素質材料におけるラマン分光法は、材料の構造及び特性に関する情報を明らかにする。材料のレーザー励起は、炭素の黒鉛構造又は非晶質構造の同定を可能にし得る、異なるバンドを生じさせる。この研究において異なる炭化水素源から製造されたMWCNTは、1350cm-1及び1575cm-1において2つの非常に異なるピークを示した。ピークは、炭素のDバンド及びGバンドに対応する。Gバンドは炭素の黒鉛構造に関する情報を明らかにし、Dバンドは、材料の欠陥又は不純物のような、グラフェンシートの黒鉛構造の任意の構造不完全性に関する情報を反映する(Dresselhaus, M. S, et al., Physics Reports 2005;Rao, A.M., et al., Physical Review Letters 2000)。製造されたMWCNTの品質は、一般に、Dバンド及びGバンドの強度比(ID/IG)によって評価した。より低いID/IG比は、より高度の構造秩序化及び純度を示すので、MWCNTのより高い品質を示す(Yang, Z., et al., Applied Physics A 2010)。ポリプロピレン、ポリスチレン、並びにポリプロピレン及びポリスチレンの混合物から得られたMWCNTのID/IG比はそれぞれ、0.89、0.73及び0.8であった。ゴム油からのMWCNTのID/IG比は、非常に高品質のカーボンナノチューブを示す0.61であり、植物油の場合の比は0.74であった。合成された全てのMWCNTは1よりも著しく低いID/IG比を示し、これは、非常に良好な品質のMWCNTであると考えられた。2633cm-1における強い第3のピークの起源は炭化水素原の全てにおいて観察され、これは、ラマン励起からの2つのフォノンの二重共鳴から生じた(Alves, J. O., et al., Applied Catalysis B:Environmtal 2011;Thomsen, C. et al., Physical Review Letters 2000)。ピークは2Dバンド呼ばれることが多く、カーボンナノチューブの平行な黒鉛層を示す。このピークの存在によってさらに、カーボンナノチューブが多層であることが確認されると共に強く示され、TEM分析からの観察が検証された。
【0067】
触媒反応器内の一連の触媒材料の独特の配置のために、一連の触媒材料は、機械的な分離及び単純な音波処理によってカーボンナノチューブの容易な分離を促進し、これにより、プロセスは、以前のプロセスで使用された触媒材料を再使用するという追加の利点を有することができる。カーボンナノチューブを触媒材料から分離した後、触媒反応器内の大気環境において触媒材料を500℃~600℃で1時間酸化させた。残留炭素は、触媒材料と共に酸素の存在下で二酸化炭素に酸化され、高温の不活性雰囲気中で以前に還元された鉄は、天然状態に再生された。前処理プロセスにおいて以前に記載されたように触媒材料を前処理して、粗い活性部位を形成した。再生された触媒材料は再度カーボンナノチューブを成長させ、同様の誘導加熱(inducting heating)を促進した。
【0068】
実施例1-触媒の調製
触媒CVDにおける触媒材料として使用する前に、ステンレス鋼メッシュ/プレート/ロッドを化学的に前処理した。ステンレス鋼中のクロム含量は、より良好なカーボンナノチューブの成長のために12%未満でなければならない。ステンレス鋼メッシュ/プレート/ロッドをまずアセトン、エタノール又はイソプロパノール混合物中で洗浄して、微粒子及び有機残留汚染物質を除去した。次に、ステンレス鋼メッシュ/プレート/ロッドを3~10%の硫酸又は塩酸中で穏やかに前処理した。触媒CVDプロセスのための触媒材料として使用する前に、不活性窒素雰囲気において、酸処理したステンレス鋼メッシュ/プレート/ロッドを触媒反応器内で還元した。
【0069】
実施例2-ポリプロピレン
ポリプロピレンを真空オーブン中400℃~480℃で脱重合させた。脱重合した油の中に、約100~120SCCMの窒素ガス流をバブリングした。小鎖炭化水素分子を触媒反応器内に移送及び供給し、約1:6の水素対窒素ガス流量比を用いてステンレス鋼メッシュ触媒材料の存在下において700℃~800℃の温度で加熱した。400トル(又は5.33x104Pa)よりも低い真空圧を反応器内で維持した。
【0070】
図12は、(a)FESEM、(b)TEM、及び(c)ラマン分析を用いて、合成したカーボンナノチューブのモルホロジー及び純度分析を示す。この実施例で得られたMWCNTは、30nm~150nmの範囲の直径、及び2μm~5μmの長さを有した。EDS分析はさらに、高品質のMWCNTを確認した。
【0071】
実施例3-ポリスチレン
ポリスチレンを真空オーブン中400℃~450℃の温度で脱重合させた。脱重合した油の中に、約120SCCMの窒素ガス流をバブリングした。小鎖炭化水素分子を触媒反応器内に移送及び供給し、約1:10の水素対窒素ガス流量比を用いてステンレス鋼メッシュ触媒材料の存在下において700℃~800℃の温度で加熱した。400トル(又は5.33x104Pa)よりも低い真空圧を反応器内で維持した。
【0072】
図13は、(a)FESEM、(b)TEM、及び(c)ラマン分析を用いて、合成したCNTのモルホロジー及び純度分析を示す。この実施例で得られたMWCNTは、50nm~70nmの範囲の直径、及び2μm~5μmの長さを有した。この実施例は、異なる炭素源を用いて、そしてプロセス条件を調整して、異なる長さ及び直径のMWCNTが得られたことを示す。
【0073】
実施例4-ポリプロピレン及びポリスチレンの混合物
1:2、1:1及び2:1wt%/wt%の重量比のポリプロピレン及びポリスチレンの混合物を考えた。約420℃~480℃の脱重合温度を真空オーブン内で維持して、小鎖炭化水素分子を得た。次に、小鎖炭化水素分子を触媒反応器内に移送及び供給し、約1:6の水素対窒素ガス流量比を用いてステンレス鋼メッシュ触媒材料の存在下において700℃~900℃の温度で加熱した。プロセスにおいて400トル(又は5.33x104Pa)よりも低い真空圧を維持した。カーボンナノチューブの品質をさらに改善するために、100:1の比率で水と混合したエタノール添加剤を100SCCMの窒素ガス炭化水素キャリアと共に導入した。MWCNTの長さの著しい増大が観察された。これは、触媒CVDプロセスにおける少量の水の酸化による触媒材料の再生に起因するものである。さらに、このプロセスは、より長く且つ垂直に整列したMWCNTをもたらした。
【0074】
図14は、(a)FESEM、(b)TEM、及び(c)ラマン分析を用いて、エタノール添加剤と共に1:1wt%/wt%のポリプロピレン及びポリスチレンの混合物から合成したカーボンナノチューブのモルホロジー及び純度分析を示す。MWCNTの直径は100nm~130nmの範囲であり、長さは20μm~30μmの範囲であった。
【0075】
実施例5-ゴム油
ゴム油は液体形態なので、真空オーブン中で加工するのではなく、バブラー内に直接供給した。120SCCMの窒素ガス流にバブラーを通過させる前に、バブラー内でゴム油をまず180℃~250℃の脱重合温度まで加熱した。小鎖炭化水素分子を触媒反応器内に移送及び供給し、約1:10の水素対窒素ガス流量比を用いてステンレス鋼メッシュ触媒材料の存在下において600℃~700℃で加熱した。400トル(又は5.33x104Pa)よりも低い真空圧を触媒反応器内で維持した。炭化水素ガスについては、触媒反応器へ通す前にバブラー内で窒素ガス流と均一に混合した。
【0076】
図15は、FESEM、TEM及びラマン分析を用いて、合成したカーボンナノチューブのモルホロジー及び純度分析を示す。得られたMWCNTの直径は30nm~130nmの範囲であり、長さは4μm~12μmの範囲であり、約12層であった。
【0077】
実施例6-植物油
ゴム油と同様の方法で植物油を加工した。まずバブラー内で植物油を400℃~480℃の温度で脱重合させた。油の中に120SCCMの窒素ガス流をバブリングした。小鎖炭化水素分子を触媒反応器内に移送及び供給し、約1:10の水素対窒素ガス流量比を用いてステンレス鋼メッシュ触媒材料の存在下において700℃~800℃で加熱した。400トル(又は5.33x104Pa)よりも低い真空圧を触媒反応器内で維持した。
【0078】
図16は、FESEM、TEM及びラマン分析を用いて、合成したカーボンナノチューブのモルホロジー及び純度分析を示す。得られたMWCNTの直径は30nm~130nmの範囲であり、長さは4μm~12μmの範囲であった。
【0079】
実施例7-エタノール
バブラーを約90℃に維持したことを除いてゴム油と同様の方法で、エタノールを加工した。エタノールの中に120SCCMの窒素ガス流をバブリングした。次に、ガス状エタノールを触媒反応器内に移送及び供給し、約1:10の水素対窒素ガス流量比を用いてステンレス鋼メッシュ触媒材料の存在下において700℃~800℃で加熱した。400トル(又は5.33x104Pa)よりも低い真空圧を触媒反応器内で維持した。
【0080】
図17は、FESEM及びTEMを用いて、合成したカーボンナノチューブのモルホロジー及び純度分析を示す。得られたMWCNTの直径は20nm~70nmの範囲であり、長さは2μm~5μmの範囲であった。
【0081】
上記の実験結果は、誘導加熱及び触媒材料の特製の配置を用いる触媒CVDプロセスが強力な渦電流を生じさせることができ、それにより5分以内に600℃~1,000℃の温度が生じ得ることを示す。さらに、本発明のCVDシステムは、現在利用可能な技術と比べて約2倍少ないエネルギーを消費する。さらに、本発明のシステム及びプロセスは、4%の収率で低コストの廃棄炭素原料を原料物質として利用し、したがってカーボンナノチューブ合成の全体のコストを削減する。製造されるMWCNTは高品質を有し、黒鉛状の性質である。さらに、プロセスで使用される触媒材料は、単純な酸化ステップにより再度プロセスにおいて再使用することができ、したがって、運用コストがさらに削減される。
【0082】
表1は、本発明のプロセス及びシステムを用いて、リサイクルできない種々の低コストの炭素廃棄物から合成されたMWCNTの概要を示す。
【0083】
【0084】
本明細書で言及される刊行物は、本発明に関連して使用され得る方法論及び概念を説明及び開示するために引用される。本明細書中の記載はどれも、これらの参考文献が本明細書に記載される本発明に関して先行技術であることの承認であると解釈されてはならない。
【0085】
上記のことは、本発明者らが本発明であると見なす主題の説明であり、当業者は以下の特許請求の範囲に記載される本発明に包含される代替の実施形態を設計することができ、そして設計するであろうと考えられる。
【0086】
参考文献
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【要約】
本発明は、高分子重合体廃棄物から多層カーボンナノチューブを合成するためのプロセス及び装置に関する。本プロセスは、高分子重合体廃棄物からより良好な収率及び純度で高価値カーボンナノチューブを合成するために、一連の触媒材料による触媒化学蒸着(CVD)と組み合わせて誘導加熱を使用することを含む。
【選択図】
図1