(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】鋼板の酸洗方法及び酸洗装置
(51)【国際特許分類】
C23G 3/02 20060101AFI20221114BHJP
C23G 1/08 20060101ALI20221114BHJP
C23G 1/36 20060101ALI20221114BHJP
C23G 3/00 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
C23G3/02
C23G1/08
C23G1/36
C23G3/00 B
(21)【出願番号】P 2021569663
(86)(22)【出願日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 JP2020000460
(87)【国際公開番号】W WO2021140612
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】314017543
【氏名又は名称】Primetals Technologies Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辻 孝誠
(72)【発明者】
【氏名】中司 龍輔
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅司
(72)【発明者】
【氏名】平田 琢也
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表昭62-501981(JP,A)
【文献】特開平09-170090(JP,A)
【文献】特表2012-508820(JP,A)
【文献】特開平01-165783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00-5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1鋼板部と、前記第1鋼板部の尾端に接続され、同一条件で酸洗をした場合に酸洗に要する時間が前記第1鋼板部よりも長い第2鋼板部と、を含む鋼板の酸洗方法であって、
前記鋼板を搬送しながら、少なくとも1つの酸洗槽内の酸液に前記鋼板を浸漬させて前記鋼板を酸洗するステップと、
前記少なくとも1つの酸洗槽の何れかに接続された循環ラインを介して、前記循環ライン上に設けられた酸化装置と前記酸洗槽との間で前記酸液を循環させるステップと、
前記酸化装置で、気体酸化剤を用いて前記酸液中のFe
2+をFe
3+に酸化するステップと、
前記第1鋼板部
と前記第2鋼板部との接続部である第1接続部が前記少なくとも1つの酸洗槽に入るときに、前記酸液中のFe
2+をFe
3+に酸化するための液体酸化剤の前記少なくとも1つの酸洗槽の何れか又は前記循環ラインへの投入を開始する投入開始ステップと、
を備える鋼板の酸洗方法。
【請求項2】
前
記第1接続部が前記少なくとも1つの酸洗槽の中に存在する期間内に、前記少なくとも1つの酸洗槽又は前記循環ラインへの前記液体酸化剤の投入を開始する
請求項1に記載の鋼板の酸洗方法。
【請求項3】
前記
第1接続部が前記少なくとも1つの酸洗槽に入るときに、前記鋼板の搬送速度を減少させる減速ステップをさらに備える
請求項1又は2に記載の鋼板の酸洗方法。
【請求項4】
前
記第1接続部の搬送方向における位置の情報を取得するステップと、
前記情報に基づいて、前記鋼板の搬送速度を減少させるタイミングを決定するステップと、
をさらに備える
請求項3に記載の鋼板の酸洗方法。
【請求項5】
前記投入開始ステップ及び前記減速ステップの後、
前記第1接続部が前記少なくとも1つの酸洗槽の中に存在する期間内に、前記鋼板の搬送速度を増加させるステップをさらに備える
請求項3又は4に記載の鋼板の酸洗方法。
【請求項6】
前記
第1接続部が前記少なくとも1つの酸洗槽に入るときに、前記酸化装置における前記酸液への前記気体酸化剤の供給量、又は、前記酸化装置と前記少なくとも1つの酸洗槽との間の前記酸液の循環流量の少なくとも一方を増加させて前記酸洗槽内の前記酸液中のFe
3+濃度を増加させるステップをさらに備える
請求項1乃至5の何れか一項に記載の鋼板の酸洗方法。
【請求項7】
前記酸液中のFe
3+
濃度を増加させるステップの後、前記第1接続部が前記少なくとも1つの酸洗槽の中に存在する期間内に、前記少なくとも1つの酸洗槽又は前記循環ラインへの前記液体酸化剤の供給を停止するステップをさらに含む
請求
項6に記載の鋼板の酸洗方法。
【請求項8】
前記鋼板は、前記第2鋼板部の尾端に接続され、同一条件で酸洗をした場合に酸洗に要する時間が前記第2鋼板部よりも短い第3鋼板部をさらに含み、
前記第2鋼板部
と前記第3鋼板部との接続部である第2接続部が前記少なくとも1つの酸洗槽に入るときに、前記酸化装置における前記酸液への前記気体酸化剤の供給量、又は、前記酸化装置と前記少なくとも1つの酸洗槽との間の前記酸液の循環流量の少なくとも一方を減少させて前記酸洗槽内の前記酸液中のFe
3+濃度を減少させるステップをさらに備える
請求項7に記載の鋼板の酸洗方法。
【請求項9】
前記
第2接続部が前記少なくとも1つの酸洗槽に入るときに、前記鋼板の搬送速度を増加させるステップをさらに備える
請求項8に記載の鋼板の酸洗方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの酸洗槽は、前記鋼板の搬送方向に沿って配列される複数の酸洗槽を含み、
前記搬送方向における下流側に位置する酸洗槽内の前記酸液を、前記搬送方向における上流側に位置する酸洗槽に移送するステップを備え、
前記投入開始ステップでは、前記複数の酸洗槽のうちの少なくとも1つ又は該酸洗槽に接続された循環ラインに前記液体酸化剤を投入する
請求項1乃至9の何れか一項に記載の鋼板の酸洗方法。
【請求項11】
前
記第1接続部が通過する順に、前記複数の酸洗槽又は該酸洗槽に接続された循環ラインへの前記液体酸化剤の投入を順次開始する
請求項10に記載の鋼板の酸洗方法。
【請求項12】
前
記第1接続部の位置の前記搬送方向における情報を取得するステップと、
前記情報に基づいて、前記液体酸化剤の供給開始タイミングを決定するステップと、を備える
請求項1乃至11の何れか一項に記載の鋼板の酸洗方法。
【請求項13】
前記酸洗槽内の酸液のFe
3+濃度を検出するステップと、
検出した前記Fe
3+濃度と、前記第2鋼板部の酸洗における前記酸洗槽内の酸液のFe
3+の目標濃度との差分に基づいて、前記液体酸化剤の供給量を決定するステップと、
を備える
請求項1乃至12の何れか一項に記載の鋼板の酸洗方法。
【請求項14】
前記第2鋼板部の酸洗中、かつ、前記液体酸化剤の前記少なくとも1つの酸洗槽又は前記循環ラインへの供給停止後、前記酸洗槽内の酸液のFe
3+濃度を、前記第2鋼板部の酸洗における前記酸洗槽内の酸液のFe
3+の目標濃度を含む規定範囲内に維持するように、前記気体酸化剤の供給量、又は、前記酸化装置と前記少なくとも1つの酸洗槽との間の前記酸液の循環流量の少なくとも一方を調節するステップを備える
請求項1乃至13の何れか一項に記載の鋼板の酸洗方法。
【請求項15】
第1鋼板部と、前記第1鋼板部の尾端に接続され、同一条件で酸洗をした場合に酸洗に要する時間が前記第1鋼板部よりも長い第2鋼板部と、を含む鋼板を酸洗するための酸洗装置であって、
酸液が貯留される少なくとも1つの酸洗槽と、
前記少なくとも1つの酸洗槽内の酸液に前記鋼板を浸漬させながら前記鋼板を搬送するように構成された搬送部と、
前記少なくとも1つの酸洗槽に接続され、前記少なくとも1つの酸洗槽の何れかの内部の酸液を循環させるための循環ラインと、
前記循環ライン上に設けられ、気体酸化剤を用いて前記酸液中のFe
2+をFe
3+に酸化するように構成された酸化装置と、
前記少なくとも1つの酸洗槽の何れか又は前記循環ラインに、前記酸液中のFe
2+をFe
3+に酸化するための液体酸化剤を投入可能な液体酸化剤投入部と、
を備え
、
前記液体酸化剤投入部は、前記第1鋼板部と前記第2鋼板部との接続部である第1接続部が前記少なくとも1つの酸洗槽に入るときに、前記酸液中のFe
2+
をFe
3+
に酸化するための液体酸化剤の前記少なくとも1つの酸洗槽の何れか又は前記循環ラインへの投入を開始するように構成される
酸洗装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼板の酸洗方法及び酸洗装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の酸洗において、酸液に含まれる第二鉄イオン(Fe3+)の濃度を調節することで、酸洗速度が大きくなることが知られており、酸液中のFe3+濃度を調節するための方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、酸液中に含まれるFe3+の濃度を所定範囲内の値に維持するために、酸液のエアレーション(曝気)を行い、酸洗時に酸液中に生じる第一鉄イオン(Fe2+)を酸化して、酸液中のFe3+濃度を増加させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、酸液中の鉄イオンの濃度調節において気体酸化剤(空気や酸素等)を用いる場合、鉄イオンの酸化反応(Fe2+→Fe3+)は、気体酸化剤の酸液への溶解が律速となり、比較的緩やかである。このため、酸洗対象の鋼板が難酸洗材(酸洗に要する時間が長い鋼板)に切り替わったときに、それ以前に比べてライン速度を低下させる必要がある。また、仮に、気体酸化剤の供給量等の調節により酸液中のFe3+濃度を増大させるとしても、Fe3+濃度の増加に時間が長くかかるため、上述のようにライン速度を低下させた後、酸液中のFe3+濃度が増加するまでの間はライン速度をあまり上げられない。このため、鋼板の生産性が低下する場合がある。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、鋼板の生産性を向上可能な鋼板の酸洗方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の少なくとも一実施形態に係る鋼板の酸洗方法は、
第1鋼板部と、前記第1鋼板部の尾端に接続され、同一条件で酸洗をした場合に酸洗に要する時間が前記第1鋼板部よりも長い第2鋼板部と、を含む鋼板の酸洗方法であって、
前記鋼板を搬送しながら、少なくとも1つの酸洗槽内の酸液に前記鋼板を浸漬させて前記鋼板を酸洗するステップと、
前記少なくとも1つの酸洗槽の何れかに接続された循環ラインを介して、前記循環ライン上に設けられた酸化装置と前記酸洗槽との間で前記酸液を循環させるステップと、
前記酸化装置で、気体酸化剤を用いて前記酸液中のFe2+をFe3+に酸化するステップと、
前記第1鋼板部の酸洗から前記第2鋼板部の酸洗への切り替えに伴い、前記酸液中のFe2+をFe3+に酸化するための液体酸化剤の前記少なくとも1つの酸洗槽の何れか又は前記循環ラインへの投入を開始する投入開始ステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、鋼板の生産性を向上可能な鋼板の酸洗方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】一実施形態に係る酸洗設備の概略図である。
【
図1B】一実施形態に係る酸洗設備の概略図である。
【
図1C】一実施形態に係る酸洗設備の概略図である。
【
図5】一実施形態に係る酸洗方法におけるFe
3+濃度及びライン速度等の時間変化を示すグラフである。
【
図6】一実施形態に係る酸洗方法におけるFe
3+濃度及びライン速度等の時間変化を示すグラフである。
【
図7】一実施形態に係る酸洗方法におけるFe
3+濃度及びライン速度等の時間変化を示すグラフである。
【
図8】一実施形態に係る酸洗方法におけるFe
3+濃度及びライン速度等の時間変化を示すグラフである。
【
図9】一実施形態に係るライン速度制御のブロック図である。
【
図10】一実施形態に係るFeイオン濃度の制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0010】
(酸洗装置の構成)
図1A~
図4は、それぞれ、幾つかの実施形態に係る酸洗方法が適用される酸洗設備の概略図である。
図1A~
図4に示す酸洗装置1は、酸液3を用いて鋼板2の酸洗をするための酸洗装置である。
【0011】
図1A~
図1Cに示す酸洗装置1は、酸液3を貯留するための酸洗槽12と、酸液3に浸漬された帯状の鋼板2を連続的に搬送するための搬送ロール16(搬送部10)と、を備えている。酸液3は、鋼板2の表面に生成したスケール(酸化被膜)を溶解して除去するための酸洗液であり、例えば、塩酸、硫酸、硝酸又はフッ酸等の酸を含む液体である。搬送ロール16は、鋼板2に張力を与えて、該鋼板2を酸洗槽の酸液中に浸漬させて搬送するように構成されている。複数の搬送ロール16は、モータ17(
図10参照)によって駆動されるように構成されていてもよい。
【0012】
図2~
図4に示す酸洗装置1は、鋼板2の搬送方向において直列に配置された複数の酸洗槽12(12A~12C)を有する酸洗装置1である。複数の酸洗槽12(12A~12C)は、隔壁によって隔てられている。
複数の酸洗槽12(12A~12C)の各々に搬送ロール16(搬送部10)が設けられており、これらの搬送ロール16によって、複数の酸洗槽12内の酸液3に浸漬された状態で鋼板2が搬送されるようになっている。
【0013】
図2~
図4に示す酸洗装置1では、鋼板2を酸洗するための酸液3が酸液供給部18を介して最下流側の酸洗槽12Cに供給されるようになっている。また、酸洗槽12(12A~12C)から溢れた酸液3が、酸洗槽12間の隔壁を超えて上流側の酸洗槽へと移送されるようになっている。最上流側の酸洗槽12Aには、酸液3を排出するための酸液排出部19が設けられている。
【0014】
酸洗装置1は、酸洗槽12に接続され、該酸洗槽12内の酸液3を循環させるための循環ライン21と、循環ライン21上に設けられた酸化装置20と、を含む。循環ライン21は、酸洗槽12から酸液3を抜き出して酸化装置20に導くための抜出しライン22と、酸化装置20からの酸液3を酸洗槽12に返送するための返送ライン24と、を含む。
【0015】
酸化装置20は、気体酸化剤を用いて酸液3中のFe2+をFe3+に酸化するように構成されている。特に図示しないが、酸化装置20は、密閉タンクと、密閉タンクに気体酸化剤を供給するためのガス供給部を含んでいてもよい。酸化装置20の内部における気体酸化剤の分圧の調節をすることで、酸化装置20内部の酸液のFe3+濃度を調節可能になっていてもよい。
【0016】
鋼板の酸洗において、酸液に含まれる第二鉄イオン(Fe3+)の濃度を調節することで、酸洗速度が大きくなることが知られている。すなわち、酸液中の鉄イオン(Fe2+、Fe3+)の濃度比と酸洗時間とは所定の関係を有することが知られており、酸液中Fe3+濃度をある程度大きくすることで、酸洗速度が増大する(すなわち、酸洗時間が短くなる)。したがって、酸化装置20にて酸液中のFe3+濃度を適切に調節することで、鋼板の酸洗を効率的に行うことができる。
【0017】
酸化装置20で用いる気体酸化剤は、例えば空気、酸素又はオゾン等を含んでいてもよい。
【0018】
複数の酸洗槽12(12A~12C)を含む酸洗装置では、複数の酸洗槽12のうち、何れか1つの酸洗槽12に接続される循環ライン21が設けられ、該循環ライン21上に酸化装置20が設けられていてもよい。
図2及び
図4に示す例示的な実施形態では、複数の酸洗槽12(12A~12C)のうち最下流側に位置する酸洗槽12Cに接続される循環ライン21(抜出しライン22及び返送ライン24を含む)が設けられ、該循環ライン21上に酸化装置20が設けられている。
図4に示す例示的な実施形態では、返送ライン24は、複数の酸洗槽12A~12Cにそれぞれ接続される返送ライン24A~24Cを含んでいる。
【0019】
あるいは、複数の酸洗槽12(12A~12C)を含む酸洗装置では、複数の酸洗槽12のうち、2以上の酸洗槽12にそれぞれ接続される循環ライン21が設けられ、各循環ライン21上に酸化装置20がそれぞれ設けられていてもよい。
図3に示す例示的な実施形態では、複数の酸洗槽12(12A~12C)の各々に対応するように、循環ライン21A~21C(抜出しライン22A~22C及び返送ライン24A~24Cを含む)が設けられ、該循環ライン21A~21C上にそれぞれ酸化装置20A~20Cが設けられている。
【0020】
なお、
図2~
図4に示す例示的な実施形態では、酸化装置20からの酸液3は、最下流側の酸洗槽12Cに供給されるようになっている。
下流側の酸洗槽12では、鋼板2表面のスケールの溶解に加えて、鋼板2の母材表面を溶解させる処理を行うことがある。このように鋼板2の母材を酸液で溶解させる場合に、酸液中のFe
3+が消費される。よって、複数の酸洗槽12のうちの下流側の酸洗槽(例えば最下流の酸洗槽12C)に対して、酸化装置20においてFe
3+濃度を高められた酸液3を供給することで、効果的に鋼板2の酸洗を行うことができる。
【0021】
酸洗装置1は、さらに、少なくとも1つの酸洗槽12の何れか又は循環ライン21に、酸液3中のFe2+をFe3+に酸化するための液体酸化剤を投入可能な液体酸化剤投入部30を備えている。液体酸化剤投入部30は、液体酸化剤を貯留するための液体酸化剤タンク32と、液体酸化剤タンク32からの液体酸化剤を投入するための液体酸化剤投入ライン34と、液体酸化剤投入ライン34に設けられ、液体酸化剤を昇圧するための液体酸化剤ポンプ33と、を含む。
【0022】
液体酸化剤は、鉄イオン(Fe2+)を酸化する能力を有する液体であれば特に限定することなく使用できる。液体酸化剤は、例えば、過酸化水素水、次亜塩素酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(過硫酸アンモニウム)、過マンガン酸カリウム溶液の少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0023】
液体酸化剤投入ライン34は、酸洗槽12又は循環ライン21(循環ライン21上に設けられた酸化装置20を含む)に接続され、液体酸化剤タンク32からの液体酸化剤を酸洗槽12又は循環ライン21(循環ライン21上に設けられた酸化装置20を含む)に投入するように構成されている。
【0024】
図1A及び
図2~
図4に示す例示的な実施形態では、液体酸化剤投入ライン34は、酸洗槽12に接続され、該酸洗槽12に液体酸化剤を投入するように構成された第1投入ライン36を含む。第1投入ライン36には、第1投入ライン36を介した酸洗槽12への液体酸化剤の供給量を調節するためのバルブ37が設けられている。なお、
図3及び
図4に示す例示的な実施形態では、液体酸化剤投入ライン34は、酸洗槽12A~12Cの各々に接続され、該酸洗槽12A~12Cにそれぞれ液体酸化剤を投入するように構成された第1投入ライン36A~36Cを含む。第1投入ライン36A~36Cには、第1投入ライン36A~36Cを介した酸洗槽12A~12Cへの液体酸化剤の供給量をそれぞれ調節するためのバルブ37A~37Cが設けられている。
【0025】
図1B、
図3及び
図4に示す例示的な実施形態では、液体酸化剤投入ライン34は、酸化装置20と酸洗槽12の間の返送ライン24(循環ライン21)に接続され、該返送ライン24に液体酸化剤を投入するように構成された第2投入ライン38を含む。第2投入ライン38には、第2投入ライン38を介した返送ライン24への液体酸化剤の供給量を調節するためのバルブ39が設けられている。なお、
図3及び
図4に示す例示的な実施形態では、液体酸化剤投入ライン34は、返送ライン24A~24Cの各々に接続され、該返送ライン24A~24Cにそれぞれ液体酸化剤を投入するように構成された第2投入ライン38A~38Cを含む。第2投入ライン38A~38Cには、第2投入ライン38A~38Cを介した返送ライン24A~24Cへの液体酸化剤の供給量をそれぞれ調節するためのバルブ39A~39Cが設けられている。
【0026】
図1C、
図3及び
図4に示す例示的な実施形態では、液体酸化剤投入ライン34は、循環ライン21上の酸化装置20(循環ライン21)に接続され、該酸化装置20に液体酸化剤を投入するように構成された第3投入ライン40を含む。第3投入ライン40には、第3投入ライン40を介した酸化装置20への液体酸化剤の供給量を調節するためのバルブ41が設けられている。なお、
図3に示す例示的な実施形態では、液体酸化剤投入ライン34は、酸化装置20A~20Cの各々に接続され、該酸化装置20A~20Cにそれぞれ液体酸化剤を投入するように構成された第3投入ライン40A~40Cを含む。第3投入ライン40A~40Cには、第3投入ライン40A~40Cを介した酸化装置20A~20Cへの液体酸化剤の供給量をそれぞれ調節するためのバルブ41A~41Cが設けられている。
酸洗装置1は、酸洗槽12(12A~12C)内の酸液中のFe
3+濃度や、鋼板2の搬送速度(ライン速度)を調節するためのコントローラ100を含んでいてもよい。コントローラ100の具体的な構成については後述する。
【0027】
コントローラ100は、プロセッサ、メモリ(RAM)、補助記憶部及びインターフェース等を含んでいてもよい。コントローラ100は、インターフェースを介して、上述の種計測器からの信号を受け取るようになっている。プロセッサは、このようにして受け取った信号を処理するように構成される。また、プロセッサは、メモリに展開されるプログラムを処理するように構成される。
【0028】
コントローラ100での処理内容は、プロセッサにより実行されるプログラムとして実装され、補助記憶部に記憶されていてもよい。プログラム実行時には、これらのプログラムはメモリに展開される。プロセッサは、メモリからプログラムを読み出し、プログラムに含まれる命令を実行するようになっている。
【0029】
(酸洗対象の鋼板)
幾つかの実施形態に係る酸洗装置1では、第1鋼板部2aと、第2鋼板部2bと、を含む鋼板2の酸洗処理を行う(
図1A~
図1C参照)。第2鋼板部2bは、溶接等により形成される第1接続部4を介して第1鋼板部2aの尾端に接続されている。第2鋼板部2bは、同一条件で酸洗をした場合に酸洗に要する時間が第1鋼板部2aよりも長い鋼種の鋼板である。
【0030】
鋼板2は、第1鋼板部2a及び第2鋼板部2bに加え、第3鋼板部2cを含んでいてもよい(
図1A~
図1C参照)。第3鋼板部2cは、溶接等により形成される第2接続部5を介して第2鋼板部2bの尾端に接続されている。第3鋼板部2cは、同一条件で酸洗をした場合に酸洗に要する時間が第2鋼板部2bよりも短い鋼種の鋼板である。
【0031】
なお、Si含有量が比較的高い鋼は、酸洗に要する時間が比較的長い。第2鋼板部2bは、Si含有量が比較的高い鋼(例えば高強度鋼材)であってもよい。
【0032】
(酸洗方法)
次に、幾つかの実施形態に係る鋼板2の酸洗方法について説明する。
【0033】
まず、
図5を参照して、幾つかの実施形態に係る酸洗方法の概略について説明する。
図5は、一実施形態に係る酸洗方法における酸液3中のFe
3+濃度及び鋼板2の搬送速度(ライン速度)等の時間変化を示すグラフである。なお、
図5においては、従来の典型的な酸洗方法による酸液中のFe
3+濃度及び鋼板の搬送速度等の時間変化(符号202,203,212,213)も併せて図示されている。
【0034】
幾つかの実施形態では、鋼板2を搬送部10で搬送しながら、酸洗槽12内の酸液3に鋼板2を浸漬させて鋼板2を酸洗する。
図5に示す例では、時刻t0よりも前の時点から時刻t1よりも後の時点に至るまで鋼板2の酸洗が行われており、時刻t0までは鋼板2の第1鋼板部2aが酸洗槽12の中へと搬送され続ける。時刻t0にて第1鋼板部2aと第2鋼板部2bとの第1接続部4(第2鋼板部2bの先端部)が酸洗槽12に到達し、第1鋼板部2aの酸洗から第2鋼板部2bの酸洗に切り替わる。時刻t0以降は、鋼板2の第2鋼板部2bが酸洗槽12の中へと搬送される。なお、時刻t0で、第1接続部4が酸洗槽12に到達し、第2鋼板部2bの酸洗に切り替わった後も、第1接続部4(第1鋼板部2aの尾端部)が酸洗槽12から排出されるまでは、第1鋼板部2aの一部は酸洗槽12内で酸洗され続ける。
【0035】
第1鋼板部2aの酸洗槽12での酸洗中(時刻t0まで)、酸洗槽12に接続された循環ライン21を介して、循環ライン21上に設けられた酸化装置20と酸洗槽12との間で酸液3を循環させる。また、酸化装置20において、気体酸化剤を用いて酸液3中のFe2+をFe3+に酸化させる。このようにして、酸洗槽12内の酸液3のFe3+濃度を、第1鋼板部2aの酸洗に適した濃度に維持する。
【0036】
第1鋼板部2aの酸洗から第2鋼板部2bの酸洗への切り替えに伴い、時刻t0にて、液体酸化剤投入部30による液体酸化剤の酸洗槽12又は循環ライン21の少なくとも一方への投入を開始する。液体酸化剤投入ライン34に設けられたバルブ(バルブ37,39又は41)を開いて、液体酸化剤タンク32に貯留された液体酸化剤を、液体酸化剤投入ライン34を介して、酸洗槽12又は循環ライン21に投入する。これにより、酸洗槽12内のFe
3+濃度201(
図5参照)は、時刻t0経過後、速やかに、かつ、大幅に上昇する。
【0037】
図5に示すように、時刻t0では、第1鋼板部2aの酸洗から第2鋼板部2bの酸洗への切り替えに伴い、鋼板2の搬送速度211(
図5参照)を減少させるようにしてもよい。
【0038】
酸液中の鉄イオンの濃度調節において、液体酸化剤でなく、気体酸化剤(空気や酸素等)を用いる場合、鉄イオンの酸化反応(Fe
2+→Fe
3+)は、気体酸化剤の酸液への溶解が律速となり、比較的緩やかである。このため、
図5に示す時刻t0にて酸洗対象の鋼板が、第1鋼板部2aから、酸洗に要する時間が長い第2鋼板部2bに切り替わったときに、それ以前に比べてライン速度(鋼板2の搬送速度)を低下させる必要がある(
図5のFe
3+濃度202及びライン速度212参照)。また、仮に、気体酸化剤の供給量等の調節により酸液3中のFe
3+濃度を
図5のFe
3+濃度203のように増大させるとしても、Fe
3+濃度の増加に時間が長くかかるため、上述のようにライン速度を低下させた後、酸液3中のFe
3+濃度が増加するまでの間は、ライン速度をあまり上げられない(
図5のライン速度213参照)。このため、鋼板2の生産性が低下する場合がある。
【0039】
これに対し、液体酸化剤では酸化剤が液体に溶解しているため、気体酸化剤を用いる場合に比べて、酸液3中の鉄イオンの酸化反応が進みやすく、このため、酸液3中のFe
3+濃度を迅速に増加させやすい。この点、上述の実施形態によれば、第1鋼板部2aの酸洗から第2鋼板部2bの酸洗への切り替えに伴い(
図5における時刻t0)、酸洗槽12又は循環ライン21に液体酸化剤を供給するようにしたので、同一条件での酸洗所要時間が比較的長い第2鋼板部2b(難酸洗材)の酸洗に切り替わったときに酸洗槽12内の酸液3中のFe
3+を迅速に高めることができる。よって、酸洗対象の鋼種が切り替わっても鋼板2の搬送速度(ライン速度)を高く維持することができ、鋼板2の生産性を向上させることができる。
【0040】
次に
図6~
図8を参照して、幾つかの実施形態に係る酸洗方法のより具体的な例について説明する。
【0041】
図6及び
図7は、一実施形態における酸洗方法における酸液3中のFe
3+濃度及び鋼板2の搬送速度(ライン速度)等の時間変化を示すグラフである。
図6は、
図5の場合と同様、一実施形態に係る酸洗方法による鋼板2の酸洗において、第1鋼板部2aの酸洗から第2鋼板部2bの酸洗への切り替え時点を含むグラフであり、
図7は、一実施形態に係る酸洗方法による鋼板2の酸洗において、第2鋼板部2bの酸洗から第3鋼板部2cの酸洗への切り替え時点を含むグラフである。
【0042】
図6に示す実施形態では、
図5に示す場合と同様に鋼板2の酸洗が行われ、時刻t10にて第1鋼板部2aと第2鋼板部2bとの第1接続部4(第2鋼板部2bの先端部)が酸洗槽12に到達し、第1鋼板部2aの酸洗から第2鋼板部2bの酸洗に切り替わる。
【0043】
また、
図5に示す場合と同様に、第1鋼板部2aの酸洗槽12での酸洗中(時刻t10まで)、酸洗槽12に接続された循環ライン21を介して、循環ライン21上に設けられた酸化装置20と酸洗槽12との間で酸液3を循環させる。また、酸化装置20において、気体酸化剤を用いて酸液3中のFe
2+をFe
3+に酸化させる。このようにして、酸洗槽12内の酸液3のFe
3+濃度を、第1鋼板部2aの酸洗に適した濃度(C
t10)に維持する。
【0044】
また、
図5に示す場合と同様に、第1鋼板部2aの酸洗から第2鋼板部2bの酸洗への切り替えに伴い、時刻t10にて、液体酸化剤投入部30による液体酸化剤の酸洗槽12又は循環ライン21の少なくとも一方への投入を開始する。これにより、酸洗槽12内のFe
3+濃度は、
図6に示すように、時刻t10からt11までの間に、C
t10からC
t11まで、速やかに、かつ、大幅に上昇する。
【0045】
幾つかの実施形態では、第1鋼板部2aと第2鋼板部2bとの第1接続部4が酸洗槽12の中に存在する期間内、例えば、
図6に示すように、第1接続部4が酸洗槽12に到達した時点(時刻t10)で液体酸化剤の投入を開始する。
図6に示す例では、時刻t10にて、液体酸化剤の投入量をゼロからq
t10まで増加させている。これにより、第2鋼板部2bの酸洗開始後、速やかに酸洗槽12の酸液3中Fe
3+濃度を高めることができる。よって、難酸洗材である第2鋼板部2bの酸洗が開始された後に鋼板2の搬送速度を高く維持しやすく、鋼板2の生産性を効果的に向上させることができる。
【0046】
図6に示す例示的な実施形態では、第1鋼板部2aの酸洗から第2鋼板部2bへの酸洗への切り替えに伴い、時刻t10にて、鋼板2の搬送速度(ライン速度)をV
0からV
t10まで減少させている。
図6の時刻t10にて液体酸化剤を酸液3に投入することで、酸洗槽12内の酸液3中のFe
3+濃度を比較的迅速に上昇させることができるが、酸洗槽12内の酸液3中のFe
3+濃度が目標値Ctに達するまでにはある程度の時間(
図6に示す場合、時刻t10からt11までの時間)がかかる。この点、上述の実施形態に係る方法では、第1鋼板部2aの酸洗から第2鋼板部2bの酸洗への切り替えに伴い、時刻t10にて鋼板2の搬送速度を減少させるようにしたので、難酸洗材である第2鋼板部2bの酸洗開始後、酸洗槽12内の酸液3中のFe
3+濃度が十分高くなる前の段階で、鋼板2の搬送速度を減少させることで難酸洗材である第2鋼板部2bを適切に酸洗することができる。よって、製品の品質低下を抑制することができる。
【0047】
図6に示す例示的な実施形態では、時刻t10でライン速度をV
t10まで減少させた後、時刻t11でライン速度をV
t11まで増加させる。
【0048】
すなわち、第1鋼板部2aの酸洗から第2鋼板部2bへの酸洗への切り替えに伴い、時刻t10にて液体酸化剤の酸液への投入を開始するとともに鋼板2の搬送速度を減速させた後、時刻t11にて鋼板の搬送速度を増加させる。これにより、酸洗中のFe3+の増加に応じて鋼板2の搬送速度を増加させることができ、これにより、第2鋼板部2b(難酸洗材)の酸洗中における鋼板2の搬送速度を高く維持することができる。よって、鋼板の生産性を向上させることができる。
【0049】
図6に示す例示的な実施形態では、第1鋼板部2aの酸洗から第2鋼板部2bの酸洗への切り替えに伴い、時刻t10から時刻t11までの間、酸化装置20での気体酸化剤を用いた酸化反応由来のFe
3+(酸化装置由来のFe
3+)を増加させて、酸洗槽12内の酸液3中のFe
3+濃度を増加させる。より具体的には、酸化装置20における酸液3への気体酸化剤の供給量を増加させて酸化装置20内の酸液3中のFe
3+濃度をe
t10からe
t11まで高め、かつ、循環ライン21を介した酸化装置20と酸洗槽12との間の酸液3の循環流量をr
0からr
t10に増加させることで、酸洗槽12内の酸液3中のFe
3+濃度を増加させる。
【0050】
また、
図6に示す例示的な実施形態では、時刻t11にて(すなわち、酸洗槽12内での鋼板2の酸洗中に)、酸洗槽12又は循環ライン21への液体酸化剤の供給を停止する。より具体的には、時刻t10から酸化装置由来のFe
3+を増加させることにより酸洗槽12内の酸液3中のFe
3+濃度を増加させ、酸化装置20からのFe
3+の供給により、酸洗槽12内の酸液3のFe
3+の濃度を維持できるようになった時刻t11にて、酸洗槽12又は循環ライン21への液体酸化剤の供給を停止する。なお、この時、酸化装置20と酸洗槽12との間の酸液3の循環量は、酸洗槽12内の酸液3のFe
3+の濃度を維持できる程度まで減少させてもよい(
図6においては、該循環流量をr
t11まで減少させている)。
【0051】
このように、第1鋼板部2aの酸洗から第2鋼板部の酸洗への切り替えに伴い、酸化装置20での気体酸化剤を用いた酸化反応由来のFe3+を増加させて(時刻t10~t11)、酸洗槽12内の酸液3中のFe3+濃度を増大させ、酸洗槽12内の酸液3中のFe3+濃度を十分に高くして、比較的高価な液体酸化剤の投入を停止することができる(時刻t11)。よって、鋼板2の酸洗にかかるコスト増大を抑制しながら、鋼板2の搬送速度を高く維持して、鋼板2の生産性を向上させることができる。
【0052】
幾つかの実施形態では、液体酸化剤投入部30による酸洗槽12又は循環ライン21への液体酸化剤の供給は、酸洗槽12内の酸液3のFe3+濃度が目標値Ctに到達したら停止してもよい。あるいは、上述の液体酸化剤の供給は、第2鋼板部2bの尾端が酸洗槽12から排出される前に停止してもよい。このように、鋼板2の酸洗中に、液体酸化剤の供給を停止することにより、液体酸化剤の酸洗槽12又は循環ライン21への供給は比較的短時間である。よって、比較的高価な液体酸化剤の使用量を抑制することで鋼板2の酸洗にかかるコスト増大を抑制しながら、鋼板2の搬送速度を高く維持して、鋼板2の生産性を向上させることができる。
【0053】
図7に示す例示的な実施形態では、第2鋼板部2b、及び、第2接続部5を介して第2鋼板部2bに接続される第3鋼板部2cを含む鋼板2の酸洗が行われる。時刻t21までは鋼板2の第2鋼板部2bが酸洗槽12内で酸洗される。時刻t21にて第2鋼板部2bと第3鋼板部2cとの第2接続部5(第3鋼板部2cの先端部)が酸洗槽12に到達し、第2鋼板部2bの酸洗から第3鋼板部2cの酸洗に切り替わる。時刻t21以降は、鋼板2の第3鋼板部2cが酸洗槽12の中へと搬送され、酸洗される。なお、時刻t21で、第2接続部5が酸洗槽12に到達し、第3鋼板部2cの酸洗に切り替わった後も、第2接続部5(第2鋼板部2bの尾端部)が酸洗槽12から排出されるまでは、第2鋼板部2bの一部は酸洗槽12内で酸洗され続ける。
図7のグラフに示す時間範囲において、液体酸化剤投入部30による液体酸化剤の供給量はゼロである。
【0054】
幾つかの実施形態では、
図7に示すように、第2鋼板部2bの酸洗から第3鋼板部2cの酸洗への切り替えに伴い、酸化装置20における酸液3への気体酸化剤の供給量、又は、酸化装置20と酸洗槽12との間の酸液3の循環流量の少なくとも一方を減少させて、酸洗槽12内の酸液3中のFe
3+濃度を減少させる。
図7に示す例示的な実施例では、第2鋼板部2bの酸洗から第3鋼板部2cの酸洗への切り替えに伴い、第2接続部5が時刻t21にて酸洗槽12に到達する前の時刻t20から、酸化装置20における酸液3への気体酸化剤の供給量を減少させて酸化装置20内の酸液3のFe
3+濃度をe
t20からe
t21まで減少させるとともに、酸液3の循環流量をr
t20aからr
t20bまで減少させることにより、酸洗槽12内の酸液3中のFe
3+濃度をC
t20からC
t21まで減少させている。
【0055】
このように、第2鋼板部2bの酸洗から第3鋼板部2cの酸洗への切り替えに伴い、酸化装置20由来のFe3+を減少させて、酸洗槽12内の酸液3中のFe3+濃度を減少させるようにしたので、同一条件での酸洗所要時間が比較的短い第3鋼板部2cの過酸洗を抑制することができる。よって、鋼板2の酸洗ロスを低減して歩留まりを改善することができ、これにより鋼板2の生産性を向上させることができる。
【0056】
幾つかの実施形態では、例えば
図7に示すように、第2鋼板部2bの酸洗から第3鋼板部2cの酸洗への切り替えに伴い、鋼板2の搬送速度を増加させる。
図7に示す例では、第2接続部5が酸洗槽12に到達する時刻t21よりも前の時刻t20から時刻t21までライン速度をV
t20からV
t21aまで減少させ、第2接続部5が酸洗槽12に到達する時刻t21にて、鋼板2の搬送速度をV
t21bに増加させている。
【0057】
第3鋼板部2cは、第2鋼板部2bに比べて同一条件での酸洗所要時間が短いため、第3鋼板部2cへの酸洗への切り替えに伴い、鋼板2の搬送速度を増加させても、第3鋼板部2cの十分な酸洗が可能である。上述の実施形態によれば、第2鋼板部2bから第3鋼板部2cへの酸洗への切り替えに伴い、鋼板2の搬送速度を増加させるようにしたので、第3鋼板部2cの酸洗を十分に行いながら、鋼板2の搬送速度を高く維持することができる。よって、鋼板2の生産性を向上させることができる。
【0058】
図8は、一実施形態における酸洗方法における酸液3中のFe
3+濃度及び鋼板2の搬送速度(ライン速度)等の時間変化を示すグラフである。
図8は、たとえば
図3又は
図4に示すような、複数の酸洗槽12A~12Cを含み、酸洗槽12A~12Cの各々に対し、酸化装置20から酸液3の供給がされるように構成されるとともに、液体酸化剤投入部30から液体酸化剤が供給されるように構成された酸洗装置1における酸洗方法に係るグラフである。
【0059】
図8に示す実施形態では、鋼板2の酸洗が行われ、時刻t40にて第1鋼板部2aと第2鋼板部2bとの第1接続部4(第2鋼板部2bの先端部)が、複数の酸洗槽12のうち最上流側に位置する酸洗槽12A(酸洗槽#1)に到達し、第1鋼板部2aの酸洗から第2鋼板部2bの酸洗に切り替わる。その後、第1接続部4は下流側に進行し、時刻t41に酸洗槽12B(酸洗槽#2)に,時刻t42に酸洗槽12C(酸洗槽#3;最下流側の酸洗槽12)に順次到達する。
【0060】
第1接続部4が各酸洗槽12(12A~12C)到達したタイミング(時刻t40,t41、t42)で、各酸洗槽12(12A~12C)又は該酸洗槽12に接続された循環ライン21(21A~21C)への液体酸化剤の投入が順次開始される。この様子は、
図8において、液体酸化剤供給流量のグラフによって示される。これにより、各酸洗槽12A~12C内の酸液3のFe
3+濃度が速やかに増加される。よって、複数の酸洗槽12(12A~12C)を含む酸洗装置1において、酸洗対象の鋼種が切り替わっても鋼板2の搬送速度(ライン速度)を高く維持することができ、鋼板2の生産性を向上させることができる。
【0061】
図8に示すように、第1接続部4が各酸洗槽12(12A~12C)到達したタイミング(時刻t40,t41、t42)で、各酸洗槽12A~12Cと、酸化装置20(20A~20C)との間の酸液3の循環流量を増加させている。これにより、各酸洗槽12A~12C内の酸液3のFe
3+濃度を適切に維持することができる。また、このため、各酸洗槽12(12A~12C)又は該酸洗槽12に接続された循環ライン21(21A~21C)への液体酸化剤の投入を停止することができる。
【0062】
なお、
図8に示す例示的な実施形態では、酸洗槽12Aに第1接続部4が入った時点(時刻t40)、酸洗槽12Bに液体酸化剤の投入を開始した時点(時刻t41)、酸洗槽12B内の酸液3のFe
3+濃度が規定値に達した時点(時刻t43)、及び、酸洗槽12C内の酸液3のFe
3+濃度が規定値に達した時点(時刻t44)の各タイミングでライン速度を変更している。例えばこのようなタイミングで、ライン速度を適切に変更することで、酸洗対象の鋼種が切り替わってもライン速度を高く維持することができ、鋼板2の生産性を向上させることができる。
【0063】
幾つかの実施形態では、コントローラ100は、ライン速度やライン速度の変更タイミングの制御をするように構成される。
【0064】
ここで、
図9は、一実施形態に係るコントローラ100によるライン速度制御のブロック図である。
図9に示すように、コントローラ100は、酸洗速度評価部102と、目標ライン速度算出部104と、ライン速度制御部106と、を含む。
【0065】
酸洗速度評価部102は、操業情報、溶接部(第1接続部4や第2接続部5)の搬送方向における位置、及び、酸洗槽12内の酸液3のFeイオン濃度(Fe2+濃度及び/又はFe3+濃度)、及び、酸洗槽12内の酸液3の成分等のセンシング情報を示す信号を受け取るように構成される。操業情報とは、酸洗対象の鋼板2の鋼種や、酸洗装置1の運転条件(温度、圧力等)を含む。酸洗速度評価部102は、受け取った信号に基づいて、鋼板2の酸洗速度を評価する。
【0066】
目標ライン速度算出部104は、酸洗速度評価部102による酸洗速度の評価結果に基づいて、搬送部10による目標ライン速度を算出する。ライン速度制御部106は、算出された目標ライン速度となるように、搬送部10の制御を行う。例えば、算出された目標ライン速度を実現するためのモータ17(搬送ロール16を駆動するモータ)の電流指令値を算出し、モータに出力する。
【0067】
幾つかの実施形態では、コントローラ100は、第1接続部4の搬送方向における位置の情報を取得し、この情報に基づいて、ライン速度を減少させるタイミングを決定するように構成されていてもよい。
【0068】
この場合、第1接続部4の搬送方向における位置の情報に基づいて、鋼板2の搬送速度を減少させるタイミングを決定するようにしたので、例えば、第2鋼板部2bの酸洗開始タイミング(すなわち、第2鋼板部2bが酸洗槽12に到達するタイミング)に応じて、適切なタイミングで鋼板2の搬送速度を減少させることができる。よって、第2鋼板部2bを適切に酸洗することができ、製品の品質低下を抑制することができる。
【0069】
幾つかの実施形態では、搬送方向における第1接続部4の位置の情報に基づいて、液体酸化剤の供給開始タイミングを決定するようにしてもよい。液体酸化剤の供給開始タイミングは、鋼板2の搬送速度を減少させるタイミングに関連付けて決定するようにしてもよい。
【0070】
上述の実施形態では、第1接続部4の搬送方向における位置の情報に基づいて、液体酸化剤の供給開始タイミングを決定するようにしたので、例えば、第2鋼板部2bの酸洗開始タイミング(すなわち、第2鋼板部2bが酸洗槽12に到達するタイミング)に応じて、適切なタイミングで液体酸化剤の投入を開始することができる。よって、第2鋼板部12bの酸洗に切り替わるときに、酸洗槽12内の酸液3中のFe3+を適時に高めることができ、鋼板2の搬送速度を高く維持しやすくなる。よって、鋼板2の生産性を向上させることができる。
【0071】
幾つかの実施形態では、コントローラ100は、酸洗槽12内の酸液3のFeイオン濃度の調節をするように、構成されていてもよい。
【0072】
酸洗槽12内の酸液3のFeイオン濃度の調節は、例えば
図10のフローチャートに示す手順に従って行ってもよい。ここで、
図10は、一実施形態に係るFeイオン濃度の制御のフローチャートである。
【0073】
図10のフローチャートに示すように、まず、酸洗槽12及び酸化装置20における目標Feイオン濃度(Fe
2+イオン及びFe
3+イオンの目標濃度)、及び、酸化装置20の運転条件に基づき、酸洗槽12及び酸化装置20におけるマスバランスを計算する(ステップS1)。酸化装置20の運転条件とは、例えば、酸化装置20における気体酸化剤(酸素等)の供給量、気体酸化剤濃度、バブリングガス流量、温度、圧力、等である。
【0074】
次に、ステップS1で計算したマスバランスに基づいて、酸洗槽12への新酸液(塩酸等)の投入流量、酸化装置20と酸洗槽12との間での酸液3の循環流量、及び、液体酸化剤投入部30による液体酸化剤の供給量流量及び供給時間を設定する(ステップS4)。
【0075】
次に、酸洗槽12内の酸液3のFe3+濃度及びFe2+濃度を計測(検出)し(ステップS6)、目標値と一致するか否かを判定する(ステップS8)。ステップS8にてFeイオン濃度の計測値と目標値が一致しない場合(ステップS8のNo)、酸洗槽12への新酸液(塩酸等)の投入流量、酸化装置20と酸洗槽12との間での酸液3の循環流量、及び、液体酸化剤の供給量流量及び供給時間の設定値を変更し(ステップS10)、ステップS6に戻る。一方、ステップS8にてFeイオン濃度の計測値と目標値が一致する場合(ステップS8のYes)、酸洗槽12への新酸液(塩酸等)の投入流量、酸化装置20と酸洗槽12との間での酸液3の循環流量、及び、液体酸化剤の供給量流量及び供給時間の設定値を維持して、制御フローを終了する。
【0076】
幾つかの実施形態では、例えば
図10を参照して説明したように、酸洗槽12内の酸液3のFe
3+濃度を検出し、検出したFe
3+濃度と、第2鋼板部2bの酸洗における酸洗槽12内の酸液3のFe
3+の目標濃度との差分に基づいて、液体酸化剤の供給量を決定するようにしてもよい。
【0077】
この場合、酸洗槽12内の酸液のFe3+の計測値と目標濃度との差分に基づいて、液体酸化剤の供給量を決定するようにしたので、このように決定された供給量に基づいて液体酸化剤を供給することにより、酸洗槽12内の酸液3中のFe3+を適切に高めることができ、鋼板2の搬送速度を高く維持しやすくなる。よって、鋼板2の生産性を向上させることができる。
【0078】
また、幾つかの実施形態では、第2鋼板部2bの酸洗中、かつ、液体酸化剤の酸洗槽12又は循環ライン21への供給停止後、酸洗槽12内の酸液のFe3+濃度を、第2鋼板部2bの酸洗における酸洗槽12内の酸液3のFe3+の目標濃度を含む規定範囲内に維持するように、気体酸化剤の供給量、又は、酸化装置20と酸洗槽12との間の酸液3の循環流量の少なくとも一方を調節するようにしてもよい。
【0079】
この場合、第2鋼板部2bの酸洗中、かつ、液体酸化剤の供給停止後、酸化装置20における気体酸化剤の供給量、又は、酸化装置20と酸洗槽12との間の酸液3の循環流量を調節することにより、酸洗槽12内の酸液3のFe3+濃度を上述の規定範囲内に維持する。したがって、液体酸化剤の供給停止後に、酸洗槽12内の酸液3中のFe3+を適切に維持して、鋼板2の搬送速度を高く維持することができ、鋼板2の生産性を向上させることができる。また、酸洗槽12内の酸液3のFe3+濃度の調整に比較的安価な気体酸化剤を用いるので、コスト増大を抑制できる。
【0080】
以下、幾つかの実施形態に係る鋼板の酸洗方法及び酸洗設備について概要を記載する。
【0081】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る鋼板の酸洗方法は、
第1鋼板部と、前記第1鋼板部の尾端に接続され、同一条件で酸洗をした場合に酸洗に要する時間が前記第1鋼板部よりも長い第2鋼板部と、を含む鋼板の酸洗方法であって、
前記鋼板を搬送しながら、少なくとも1つの酸洗槽内の酸液に前記鋼板を浸漬させて前記鋼板を酸洗するステップと、
前記少なくとも1つの酸洗槽の何れかに接続された循環ラインを介して、前記循環ライン上に設けられた酸化装置と前記酸洗槽との間で前記酸液を循環させるステップと、
前記酸化装置で、気体酸化剤を用いて前記酸液中のFe2+をFe3+に酸化するステップと、
前記第1鋼板部の酸洗から前記第2鋼板部の酸洗への切り替えに伴い、前記酸液中のFe2+をFe3+に酸化するための液体酸化剤の前記少なくとも1つの酸洗槽の何れか又は前記循環ラインへの投入を開始する投入開始ステップと、
を備える。
【0082】
液体酸化剤では酸化剤が液体に溶解しているため、気体酸化剤を用いる場合に比べて、酸洗中の鉄イオンの酸化反応が進みやすく、このため、酸液中のFe3+濃度を迅速に増加させやすい。この点、上記(1)の方法によれば、第1鋼板部の酸洗から第2鋼板部の酸洗への切り替えに伴い酸洗槽又は循環ラインに液体酸化剤を供給するようにしたので、同一条件での酸洗所要時間が比較的長い第2鋼板部(難酸洗材)の酸洗に切り替わったときに酸洗槽内の酸液中のFe3+を迅速に高めることができる。よって、酸洗対象の鋼種が切り替わっても鋼板の搬送速度(ライン速度)を高く維持することができ、鋼板の生産性を向上させることができる。
【0083】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記第1鋼板部と前記第2鋼板部との接続部である第1接続部が前記少なくとも1つの酸洗槽の中に存在する期間内に、前記少なくとも1つの酸洗槽又は前記循環ラインへの前記液体酸化剤の投入を開始する。
【0084】
上記(2)の方法によれば、第1鋼板部と第2鋼板部の接続部である第1接続部が酸洗槽の中に存在する期間内に液体酸化剤の投入を開始するようにしたので、第2鋼板部の酸洗開始後、速やかに酸液中Fe3+濃度を高めることができる。よって、難酸洗材である第2鋼板部の酸洗が開始された後に鋼板の搬送速度を高く維持しやすく、鋼板の生産性を効果的に向上させることができる。
【0085】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の方法において、
前記酸洗方法は、
前記第1鋼板部の酸洗から前記第2鋼板部の酸洗への切り替えに伴い、前記鋼板の搬送速度を減少させる減速ステップをさらに備える。
【0086】
液体酸化剤を酸液に投入することで、酸液中のFe3+濃度を比較的迅速に上昇させることができるが、酸洗槽内の酸液中のFe3+濃度が目標値に達するまでにはある程度の時間がかかる。この点、上記(3)の方法では、第1鋼板部の酸洗から第2鋼板部の酸洗への切り替えに伴い鋼板の搬送速度を減少させるようにしたので、難酸洗材である第2鋼板部の酸洗開始後、酸洗槽内の酸液中のFe3+濃度が十分高くなる前の段階で、鋼板の搬送速度を減少させることで第2鋼板部を適切に酸洗することができる。よって、製品の品質低下を抑制することができる。
【0087】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の方法において、
前記酸洗方法は、
前記第1鋼板部と前記第2鋼板部との接続部である第1接続部の前記搬送方向における位置の情報を取得するステップと、
前記情報に基づいて、前記鋼板の搬送速度を減少させるタイミングを決定するステップと、
をさらに備える。
【0088】
上記(4)の方法によれば、第1接続部の搬送方向における位置の情報に基づいて、鋼板の搬送速度を減少させるタイミングを決定するようにしたので、例えば、第2鋼板部の酸洗開始タイミング(すなわち、第2鋼板部が酸洗槽に到達するタイミング)に応じて、適切なタイミングで鋼板の搬送速度を減少させることができる。よって、第2鋼板部を適切に酸洗することができ、製品の品質低下を抑制することができる。
【0089】
(5)幾つかの実施形態では、上記(3)又は(4)の方法において、
前記酸洗方法は、
前記投入開始ステップ及び前記減速ステップの後、前記鋼板の搬送速度を増加させるステップをさらに備える。
【0090】
上記(5)の方法によれば、第1鋼板部から第2鋼板部への酸洗への切り替えに伴い、液体酸化剤の酸液への投入を開始し、鋼板の搬送速度を減速させた後、鋼板の搬送速度を増加させる。すなわち、例えば酸洗中のFe3+の増加に応じて鋼板の搬送速度を増加させることができ、これにより、第2鋼板部(難酸洗材)の酸洗中における鋼板の搬送速度を高く維持することができる。よって、鋼板の生産性を向上させることができる。
【0091】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れかの方法において、
前記酸洗方法は、
前記第1鋼板部の酸洗から前記第2鋼板部の酸洗への切り替えに伴い、前記酸化装置における前記酸液への前記気体酸化剤の供給量、又は、前記酸化装置と前記少なくとも1つの酸洗槽との間の前記酸液の循環流量の少なくとも一方を増加させて前記酸洗槽内の前記酸液中のFe3+濃度を増加させるステップをさらに備える。
【0092】
上記(6)の方法によれば、第1鋼板部の酸洗から第2鋼板部の酸洗への切り替えに伴い、酸化装置での気体酸化剤を用いた酸化反応由来のFe3+(酸化装置由来のFe3+)を増加させて、酸洗槽内の酸液中のFe3+濃度を増大させるようにしたので、酸洗槽内の酸液中のFe3+濃度が十分に高くなったら、比較的高価な液体酸化剤の投入を停止することができる。よって、鋼板の酸洗にかかるコスト増大を抑制しながら、鋼板の搬送速度を高く維持して、鋼板の生産性を向上させることができる。
【0093】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れかの方法において、
前記酸洗方法は、
前記少なくとも1つの酸洗槽内での前記鋼板の酸洗中に、前記少なくとも1つの酸洗槽又は前記循環ラインへの前記液体酸化剤の供給を停止するステップをさらに含む。
【0094】
上記(7)の方法によれば、鋼板の酸洗中に、液体酸化剤の供給を停止するようにしたので、液体酸化剤の酸洗槽又は循環ラインへの供給は比較的短時間である。よって、比較的高価な液体酸化剤の使用量を抑制することで鋼板の酸洗にかかるコスト増大を抑制しながら、鋼板の搬送速度を高く維持して、鋼板の生産性を向上させることができる。
【0095】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)の方法において、
前記鋼板は、前記第2鋼板部の尾端に接続され、同一条件で酸洗をした場合に酸洗に要する時間が前記第2鋼板部よりも短い第3鋼板部をさらに含み、
前記酸洗方法は、
前記第2鋼板部の酸洗から前記第3鋼板部の酸洗への切り替えに伴い、前記酸化装置における前記酸液への前記気体酸化剤の供給量、又は、前記酸化装置と前記少なくとも1つの酸洗槽との間の前記酸液の循環流量の少なくとも一方を減少させて前記酸洗槽内の前記酸液中のFe3+濃度を減少させるステップをさらに備える。
【0096】
上記(8)の方法によれば、第2鋼板部の酸洗から第3鋼板部の酸洗への切り替えに伴い、酸化装置由来のFe3+を減少させて、酸洗槽内の酸液中のFe3+濃度を減少させるようにしたので、同一条件での酸洗所要時間が比較的短い第3鋼板部の過酸洗を抑制することができる。よって、鋼板の酸洗ロスを低減して歩留まりを改善することができ、これにより鋼板の生産性を向上させることができる。
【0097】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)の方法において、
前記酸洗方法は、
前記第2鋼板部の酸洗から前記第3鋼板部の酸洗への切り替えに伴い、前記鋼板の搬送速度を増加させるステップをさらに備える。
【0098】
第3鋼板部は、第2鋼板部に比べて同一条件での酸洗所要時間が短いため、第3鋼板部への酸洗への切り替えに伴い、鋼板の搬送速度を増加させても、第3鋼板部の十分な酸洗が可能である。上記(9)の方法によれば、第2鋼板部から第3鋼板部への酸洗への切り替えに伴い、鋼板の搬送速度を増加させるようにしたので、第3鋼板部の酸洗を十分に行いながら、鋼板の搬送速度を高く維持することができる。よって、鋼板の生産性を向上させることができる。
【0099】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(9)の何れかの方法において、
前記少なくとも1つの酸洗槽は、前記鋼板の搬送方向に沿って配列される複数の酸洗槽を含み、
前記酸洗方法は、
前記搬送方向における下流側に位置する酸洗槽内の前記酸液が、前記搬送方向における上流側に位置する酸洗槽に移送されるステップを備え、
前記投入開始ステップでは、前記複数の酸洗槽のうちの少なくとも1つ又は該酸洗槽に接続された循環ラインに前記液体酸化剤を投入する。
【0100】
上記(10)の方法によれば、複数の酸洗槽を含む酸洗装置において、第1鋼板部の酸洗から第2鋼板部の酸洗への切り替えに伴い何れかの酸洗槽又は何れかの酸洗槽に接続された循環ラインに液体酸化剤を供給するようにしたので、同一条件での酸洗所要時間が比較的長い第2鋼板部(難酸洗材)の酸洗に切り替わったときに酸洗槽内の酸液中のFe3+濃度を迅速に高めることができる。よって、酸洗対象の鋼種が切り替わっても鋼板の搬送速度を高く維持することができ、鋼板の生産性を向上させることができる。
【0101】
(11)幾つかの実施形態では、上記(10)の方法において、
前記第1鋼板部と前記第2鋼板部との接続部である第1接続部が通過する順に、前記複数の酸洗槽又は該酸洗槽に接続された循環ラインへの前記液体酸化剤の投入を順次開始する。
【0102】
上記(11)の方法によれば、第1鋼板部と第2鋼板部との接続部である第1接続部が通過する順に、複数の酸洗槽又は該酸洗槽に接続された循環ラインへの前記液体酸化剤の投入を順次開始する。よって、複数の酸洗槽の各々の酸液中のFe3+濃度を迅速に高めることができ、第2鋼板部の酸洗への切り替え後、鋼板の搬送速度を高く維持しやすくなる。よって、鋼板の生産性を効果的に向上させることができる。
【0103】
(12)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(11)の何れかの方法において、
前記酸洗方法は、
前記搬送方向における前記第1接続部の位置の情報を取得するステップと、
前記情報に基づいて、前記液体酸化剤の供給開始タイミングを決定するステップと、を備える。
【0104】
上記(12)の方法によれば、第1接続部の搬送方向における位置の情報に基づいて、液体酸化剤の供給開始タイミングを決定するようにしたので、例えば、第2鋼板部の酸洗開始タイミング(すなわち、第2鋼板部が酸洗槽に到達するタイミング)に応じて、適切なタイミングで液体酸化剤の投入を開始することができる。よって、第2鋼板部の酸洗に切り替わるときに、酸洗槽内の酸液中のFe3+濃度を適時に高めることができ、鋼板の搬送速度を高く維持しやすくなる。よって、鋼板の生産性を向上させることができる。
【0105】
(13)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(12)の何れかの方法において、
前記酸洗方法は、
前記酸洗槽内の酸液のFe3+濃度を検出するステップと、
検出した前記Fe3+濃度と、前記第2鋼板部の酸洗における前記酸洗槽内の酸液のFe3+の目標濃度との差分に基づいて、前記液体酸化剤の供給量を決定するステップと、
を備える。
【0106】
上記(13)の方法によれば、酸洗槽内のFe3+濃度を検出し、検出したFe3+濃度と、第2鋼板部の酸洗における酸洗槽内の酸液のFe3+の目標濃度との差分に基づいて、液体酸化剤の供給量を決定する。したがって、このように決定された供給量に基づいて液体酸化剤を供給することにより、酸洗槽内の酸液中のFe3+濃度を適切に高めることができ、鋼板の搬送速度を高く維持しやすくなる。よって、鋼板の生産性を向上させることができる。
【0107】
(14)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(13)の何れかの方法において、
前記酸洗方法は、
前記第2鋼板部の酸洗中、かつ、前記液体酸化剤の前記少なくとも1つの酸洗槽又は前記循環ラインへの供給停止後、前記酸洗槽内の酸液のFe3+濃度を、前記第2鋼板部の酸洗における前記酸洗槽内の酸液のFe3+の目標濃度を含む規定範囲内に維持するように、前記気体酸化剤の供給量、又は、前記酸化装置と前記少なくとも1つの酸洗槽との間の前記酸液の循環流量の少なくとも一方を調節するステップを備える。
【0108】
上記(14)の方法によれば、前記第2鋼板部の酸洗中、かつ、液体酸化剤の供給停止後、酸化装置における気体酸化剤の供給量、又は、酸化装置と酸洗槽との間の酸液の循環流量の少なくとも一方を調節することにより、酸洗槽内の酸液のFe3+濃度を上述の規定範囲内に維持する。したがって、液体酸化剤の供給停止後に、酸洗槽内の酸液中のFe3+濃度を適切に維持して、鋼板の搬送速度を高く維持することができ、鋼板の生産性を向上させることができる。また、酸洗槽内の酸液のFe3+濃度の調整に比較的安価な気体酸化剤を用いるので、コスト増大を抑制できる。
【0109】
(15)本発明の少なくとも一実施形態に係る酸洗装置は、
第1鋼板部と、前記第1鋼板部の尾端に接続され、同一条件で酸洗をした場合に酸洗に要する時間が前記第1鋼板部よりも長い第2鋼板部と、を含む鋼板を酸洗するための酸洗装置であって、
酸液が貯留される少なくとも1つの酸洗槽と、
前記少なくとも1つの酸洗槽内の酸液に前記鋼板を浸漬させながら前記鋼板を搬送するように構成された搬送部と、
前記少なくとも1つの酸洗槽に接続され、前記少なくとも1つの酸洗槽の何れかの内部の酸液を循環させるための循環ラインと、
前記循環ライン上に設けられ、気体酸化剤を用いて前記酸液中のFe2+をFe3+に酸化するように構成された酸化装置と、
前記少なくとも1つの酸洗槽の何れか又は前記循環ラインに、前記酸液中のFe2+をFe3+に酸化するための液体酸化剤を投入可能な液体酸化剤投入部と、
を備える。
【0110】
上記(15)の構成によれば、第1鋼板部の酸洗から第2鋼板部の酸洗への切り替えに伴い酸洗槽又は循環ラインに液体酸化剤を供給するようにしたので、同一条件での酸洗所要時間が比較的長い第2鋼板部(難酸洗材)の酸洗に切り替わったときに酸洗槽内の酸液中のFe3+濃度を迅速に高めることができる。よって、酸洗対象の鋼種が切り替わっても鋼板の搬送速度(ライン速度)を高く維持することができ、鋼板の生産性を向上させることができる。
【0111】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0112】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0113】
1 酸洗装置
2 鋼板
2a 第1鋼板部
2b 第2鋼板部
2c 第3鋼板部
3 酸液
4 第1接続部
5 第2接続部
10 搬送部
12,12A~12C 酸洗槽
16 搬送ロール
17 モータ
18 酸液供給部
19 酸液排出部
20,20A~20C 酸化装置
21,21A~21C 循環ライン
22,22A~22C 抜出しライン
24,24A~24C 返送ライン
30 液体酸化剤投入部
32 液体酸化剤タンク
33 液体酸化剤ポンプ
34 液体酸化剤投入ライン
36,36A~36C 第1投入ライン
37,37A~37C バルブ
38,38A~38C 第2投入ライン
39,39A~39C バルブ
40,40A~40C 第3投入ライン
41,41A~41C バルブ
100 コントローラ
102 酸洗速度評価部
104 目標ライン速度算出部
106 ライン速度制御部