(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】石炭灰の有害元素の溶出抑制方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20221115BHJP
B09B 101/30 20220101ALN20221115BHJP
【FI】
B09B3/40
B09B101:30
(21)【出願番号】P 2019152023
(22)【出願日】2019-08-22
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】堀田 太洋
(72)【発明者】
【氏名】小林 宣裕
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-136557(JP,A)
【文献】特開2007-245007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を燃焼した際に発生し、有害な元素として少なくとも土壌環境基準で許容される濃度以上のホウ素を溶出する石炭灰に対して、
前記石炭灰から溶出するホウ素の濃度を知得しておき、知得したホウ素の濃度をX[mg/L]とした場合に、以下の式(1)に従って前記石炭灰の加熱温度Y[℃]を求め、
求められた加熱温度Y[℃]以上の温度で、前記石炭灰を少なくとも1時間以上加熱することにより、前記加熱後の石炭灰から溶出するホウ素の濃度を前記土壌環境基準で許容される濃度未満に抑制する
ことを特徴とする石炭灰の有害元素の溶出抑制方法。
[数1]
Y[℃]=X[mg/L]×6.5+946
ただし、
X:石炭灰
から溶出するホウ素の濃度[mg/L]
Y:石炭灰に対する加熱下限温度[℃]
とする。
【請求項2】
前記石炭灰に、前記有害な元素として、ホウ素に加えて、フッ素、セレン、ヒ素、六価クロムのいずれかが、前記土壌環境基準で許容される濃度以上に溶出するものを用いる場合には、前記加熱後の石炭灰から溶出するフッ素、セレン、ヒ素、六価クロムのいずれかの濃度についても、前記土壌環境基準で許容される濃度以下に抑制する
ことを特徴とする請求項1に記載の石炭灰の有害元素の溶出抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木分野、建築分野などのように、石炭灰を建設、路盤、海洋資材などとして使用する分野において、従来主流のセメント原料化以外の用途で石炭灰を活用する際、石炭灰中に含有される有害元素が溶出しない様に溶出抑制する石炭灰の有害元素の溶出抑制技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、石炭火力発電所で石炭を燃焼させると多量の石炭灰が発生する。このように多量に発生する石炭灰は70%程度がセメント原料の一部、20%程度が路盤材などの土木/建築分野に利用されているが、このような石炭灰については昨今2つの解決すべき課題が指摘されている。
すなわち、増え続ける石炭灰に対し、電力会社は新規用途の開拓を進めているが、普及は進んでいない。一方で、最も使用が多いセメントは、今後国内の建設需要の鈍化などの理由により、需要が伸び悩むと予想されており、石炭灰の新規用途を開拓する必要がある。
【0003】
この石炭灰の用途開拓が、石炭灰についての第1の解決課題である。こうした新規の用途開拓における共通の課題のうち、最も重要なものの一つが有害元素の溶出抑制、加えて、好ましくは長期的に効果が継続する手法の確立である。
一方、石炭灰についての第2の解決課題は、石炭の品質に関するものである。すなわち今後、世界的に石炭原料が劣質化、つまり揮発分(VM)が上昇した場合、有害元素の溶出への対応がより求められるのではないかと考えられる。そのため、上記の様な有害な元素を多量に含む石炭灰についても、簡便に無害化する技術の開発が必要であった。これが、石炭灰についての第2の解決課題である。
【0004】
上述した2つの課題に対して、石炭灰中に含有される有害元素が溶出しないように溶出抑制する有害元素の溶出抑制技術としては、以下に示すようなものが知られている。
例えば、特許文献1は、賦形剤以外の添加物を用いることなく、石炭灰を造粒した後、得られた造粒物を800~1100℃の温度で焼成することで、石炭灰に含有される重金属を不溶化する技術を開示するものであり、得られた不溶化製品を路盤材原料として利用するものとなっている。具体的には、特許文献1の技術で用いられる石炭灰には、一般に流動床フライアッシュと呼ばれる石炭灰が用いられる。
【0005】
また、特許文献2には、賦形剤以外の添加物を用いることなく流動床フライアッシュを5mm以上の厚さの層に形成した後、700~1100℃の温度で焼成することを特徴とする、流動床フライアッシュ中の重金属不溶化方法が記載されている。
また、特許文献3には、石炭灰に添加材を加えて造粒固化、その後熱処理することで、石炭灰からの有害元素の溶出を抑制する方法が記載されている。
【0006】
さらに、特許文献4には、石炭灰をガラスと混合し、空気遮断下で600~1100℃の温度域で1分~120分間焼結することで、ボトムアッシュを原料の一部として有害重金属溶出の危険性の無い(中略)セラミックス多孔質体の製造方法が記載されている。
さらにまた、特許文献5には、B、F、Se、Cr等を含む石炭灰などの廃棄物にセメント及び石灰を添加し混合する混合工程(造粒工程を含む)と、混合工程で混合された混合物を水熱処理する工程とを行い、有害元素の溶出抑制を図る廃棄物の処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-147243号公報
【文献】特開2016-168578号公報
【文献】特開2015-142910号公報
【文献】特開2009-7233号公報
【文献】特開2007-268513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1の重金属の不溶化技術は、ペレットのような造粒物の製品を対象としている為、石炭灰の主用途であるセメント原料のような粉体物には適応しておらず、路盤材としての使用に限定される。また、造粒するには賦形剤を入れる必要がある為、賦形剤を添加するという余計な工程が必要になり、賦形剤を入れる分だけ使用される原料量も増える為、資源保護の観点からも問題がある。
【0009】
また、特許文献1の技術は、賦形剤を入れ、造粒を促進させるのに熱処理が必要になる。この熱処理を行う条件は一般に石炭灰中の有害元素の濃度に依存する。そのため、用いている石炭灰の有害元素の濃度が異なると、無害化のための熱処理条件も変化する。さらに、賦形剤のような無駄なものが入り、造粒物にすることでサイズが大きくなれば、熱が伝わりにくくなるのは自明であり、その分だけ余分に熱を加えなくてはならなくなる。
【0010】
さらに、特許文献1の実施例4などを見ると、1100℃で1時間処理すると例えばAsやSeについては重金属の濃度が基準を超え、環境基準以下まで無害化できていない条件を含んでおり、重金属の不溶化技術として十分ではない。
上述した特許文献2の流動床フライアッシュ中の重金属不溶化方法は、賦形剤を入れる為、材料を添加するという余計な工程が必要になり、賦形剤を入れた分だけ使用される原料も増える為、資源保護の観点から問題がある。
【0011】
また、賦形剤を入れ、かつ造粒物を熱処理する為、余分な熱を加える必要が生じる。つまり、無害化のための条件は一般に石炭灰中の有害元素の濃度に依存する。そのため、用いている石炭灰の有害元素の濃度が異なると、無害化の条件も変化する。さらに、賦形剤のような無駄なものが入り、造粒物にすることでサイズが大きくなれば、熱が伝わりにくくなるのは自明であり、その分だけ余分に熱を加えなくてはならなくなる。
【0012】
さらに、特許文献2の実施例1~4などを見ると、700℃1時間~1000℃1時間に亘って処理すると例えばFについては重金属の濃度が基準を超え、環境基準以下まで無害化できていない条件を含んでおり、重金属の不溶化技術として未完成である。
上述した特許文献3の石炭灰からの有害元素の溶出を抑制する方法は、実施例に示されている石炭灰の有害元素溶出量は、処理前の段階ですでに環境基準以内であり、熱処理の効果の有無や効果が出現する温度が明確化できていない。
【0013】
上述した特許文献4は、熱処理時間は1分~120分としているが、実施例はいずれも1時間であり、1分という数値に根拠が無い。
上述した特許文献5は、造形の為のセメントに加え、石灰を添加する必要があり、コスト面/資源保護の点でデメリットとなる。加えて、造粒工程が必要である為、運転費用が必要になる。製品は造粒物である為、混和材等(フライアッシュセメント等と呼ばれるもの)には使用できず、路盤材としての使用に限定される。特許文献5の技術のようにCa分を添加しそれが溶出することで有害元素の溶出を抑制する技術は、Ca溶出が終了すると有害元素溶出が抑制できなくなる、つまり長期の溶出抑制が困難となる可能性が高いという短所がある。
【0014】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、石炭灰に熱を付与することで、風化が進んでいない石炭を使用して発生する有害な元素を多量に含む石炭灰であっても、添加剤等を加えたり、造粒したりせずに、また処理コストを高騰させることなく、長期に亘って安定して有害な元素の溶出濃度を環境基準で許容される濃度以下に抑制できる石炭灰の有害元素の溶出抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の石炭灰の有害元素の溶出抑制方法は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の石炭灰の有害元素の溶出抑制方法(石炭灰の無害化方法)は、石炭を燃
焼した際に発生し、有害な元素として少なくとも土壌環境基準で許容される濃度以上のホウ素を溶出する石炭灰に対して、前記石炭灰から溶出するホウ素の濃度を知得しておき、知得したホウ素の濃度をX[mg/L]とした場合に、以下の式(1)に従って前記石炭灰の加熱温度Y[℃]を求め、求められた加熱温度Y[℃]以上の温度で、前記石炭灰を少なくとも1時間以上加熱することにより、前記加熱後の石炭灰から溶出するホウ素の濃度を前記土壌環境基準で許容される濃度未満に抑制することを特徴とする。
[数1]
Y[℃]=X[mg/L]×6.5+946
ただし、
X:石炭灰から溶出するホウ素の濃度[mg/L]
Y:石炭灰に対する加熱下限温度[℃]
とする。
【0016】
好ましくは、前記石炭灰に、前記有害な元素として、ホウ素に加えて、フッ素、セレン、ヒ素、六価クロムのいずれかが、前記土壌環境基準で許容される濃度以上に溶出するものを用いる場合には、前記加熱後の石炭灰から溶出するフッ素、セレン、ヒ素、六価クロムのいずれかの濃度についても、前記土壌環境基準で許容される濃度以下に抑制するとよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の石炭灰の有害元素の溶出抑制方法によれば、石炭灰に熱を付与することで、良質でない石炭を使用して発生する有害な元素を多量に含む石炭灰であっても、添加剤等を加えたり、造粒したりせずに、また処理コストを高騰させることなく、長期に亘って安定して有害な元素の溶出濃度を環境基準で許容される濃度以下に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】加熱温度と、加熱後の石炭灰から溶出するホウ素の濃度との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る石炭灰の有害元素の溶出抑制方法の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
図1に示すように、本実施形態にかかる石炭灰の有害元素の溶出抑制方法は、石炭を燃焼した際に発生し、有害な元素として少なくとも土壌環境基準で許容される濃度以上のホウ素を含有する石炭灰に対して、石炭灰に含有されるホウ素の濃度を知得しておき、知得したホウ素の濃度をX[mg/L]とした場合に、以下の式(1)に従って石炭灰の加熱温度Y[℃]を求め、求められた加熱温度Y[℃]以上の温度で、石炭灰を少なくとも1時間以上加熱することにより、加熱後の石炭灰から溶出するホウ素の濃度を土壌環境基準で許容される濃度以下に抑制するものとなっている。
【0020】
次に、本発明の無害化方法で無害化される石炭灰、この石炭灰に含まれる有害な元素、無害化するための処理及び処理条件についてそれぞれ説明する。
本実施形態の無害化方法で無害化が行われる石炭灰は、石炭火力発電などの燃焼設備において、石炭を燃料として用いて燃焼させた時に発生する灰(フライアッシュ、炉底灰)となっている。この石炭灰は、例えば、良質な石炭を燃焼させる際に発生するものを対象とするものではなく、風化が進んでいない石炭やVM(揮発成分)が多く含まれた石炭、言い換えれば、ホウ素などの有害な元素を、特に対策を行わないと、石炭灰中に土壌環境基準を超える量含んでしまうような品質が劣る石炭を燃焼させる際に発生するものを対象としている。
【0021】
なお、石炭灰が発生する燃焼設備については、炉の形式、例えば微粉炭燃焼の炉であるか流動床で石炭を燃焼させる炉であるかといった炉の形式にはとらわれず、どのような形式の炉でも良い。また、石炭灰は、飛灰や炉底灰などのように灰が炉のどの場所で発生したかといった発生場所の違い等にもとらわれず、発生場所が異なるものを用いても良い。
上述した石炭灰に含まれる有害な元素には、少なくともホウ素が挙げられる。このホウ素については、平成3年8月23日に告示された環境庁告示第46号、一般には「土壌環境基準」として知られる基準の別表中で、土壌に溶出するホウ素の濃度(溶出量)が、日本工業規格JIS K 0102の47.1、47.3、47.4で調整される検液1Lについて「1mg以下」と定められている。
【0022】
そこで、そのままの状態では土壌環境基準によりホウ素過多により使用できない濃度、言い換えれば土壌環境基準で許容された濃度以上のホウ素として、上述した「検液1Lにつき1mg」以上のホウ素を挙げることができる。本実施形態では、この「検液1Lにつき1mg」以上のホウ素を含む石炭灰を、「少なくとも土壌環境基準以上のホウ素を含有する石炭灰」としている。
【0023】
なお、上述した石炭灰には、ホウ素に加えて、ホウ素以外の有害な元素がさらに含まれるものを用いても良い。このようなホウ素以外の有害な元素(正確には、元素及びイオン種)としては、例えばフッ素、セレン、ヒ素、6価クロムなどが挙げられる。これらの元素についても、上述した土壌環境基準で土壌中での濃度基準が定められている。
例えば、フッ素であれば、日本工業規格JIS K 0102の34.1、34.4で調整される「検液1Lにつき0.8mg以下」と定められているし、セレンであれば、日本工業規格K0102の67.2~67.4で調整される「検液1Lにつき0.01mg以下」と定められている。また、ヒ素であれば、日本工業規格JIS K 0102の61で調整される「検液1Lにつき0.01mg以下」と定められているし、6価クロムであれば、日本工業規格JIS K 0102の65.2、65.2.6で調整される「検液1Lにつき0.05mg以下」と定められている。
【0024】
また、上述した「石炭灰に含有されるホウ素の濃度」については、「土壌環境基準」に規定された分析方法を用いて石炭灰における実濃度を計測しても良いが、既に濃度が既知の石炭灰を配合等して用いる場合には既知の濃度から配合率などに応じて計算されるホウ素の濃度を「石炭灰に含有されるホウ素の濃度」としても良い。つまり、「石炭灰に含有されるホウ素の濃度」は、取得されるだけでなく、単に知らされるものであっても良い。
【0025】
上述した有害な元素を含有する石炭灰を無害化する無害化処理は、賦形剤や混和剤のような添加剤を添加せず、また造粒などの賦形処理を行うことなく、石炭灰をそのまま加熱するものとなっている。
具体的には、無害化処理は、電気炉のような加熱設備に、有害な元素を含む石炭灰を単独で投入して加熱するものとなっている。なお、加熱の際は、大気のような酸化雰囲気で加熱しても良いし、不活性ガスや窒素ガスのような非酸化性雰囲気で加熱しても良いし、真空中で加熱しても良い。
【0026】
上述した無害化処理の処理結果には、加熱処理の条件、特に加熱温度と加熱時間とが影響を及ぼす。ただ、加熱時間は長くなると処理コストを高騰させる可能性があるため、実質的には加熱温度が加熱後の有害元素の溶出特性に大きな影響を与える。
つまり、加熱温度が低すぎると有害元素の溶出が抑制できなくなるため、石炭灰を加熱する際には加熱下限温度以上の温度で石炭灰を加熱しなくてはならない。ただ、この加熱下限温度については、石炭灰中でのホウ素の濃度が高ければ石炭灰をより高温で加熱することが必要となり、一方ホウ素の濃度が低ければ石炭灰の加熱は低い温度でも可能になる。つまり、加熱下限温度は、以下の式(1)に示すように、石炭灰中でのホウ素の濃度に相関する関係を、
[数2]
Y[℃]=X[mg/L]×6.5+946 ・・・(1)
ただし、
X:石炭灰に含有されるホウ素の濃度[mg/L]
Y:石炭灰に対する加熱下限温度[℃]
とする。
【0027】
上述した式(1)で得られる加熱下限温度以上の加熱温度で石炭灰を加熱すれば、石炭灰中でのホウ素の濃度によらず、どのような石炭灰であっても加熱後の石炭灰から溶出するホウ素の濃度を土壌環境基準で許容される濃度以下に抑制することができる。
なお、加熱処理(無害化処理)を行う加熱時間は、処理コストとの関係から少なくとも1時間以上、好ましくは1時間以上であって、最大でも3時間~5時間以下とされるのが良い。加熱時間は長くなればなるほど、処理コスト(製造コスト)を高騰させるため、短くできればできるほどよい。ただ、加熱時間が1時間より短くなると、土壌環境基準で許容される濃度以下に有害な元素の濃度を抑制することが困難になる。そこで、有害元素の溶出抑制が可能な加熱時間としては、最短でも1時間とするのが好ましい。そして、製造コストへの影響を考えると、加熱時間としては、最長でも加熱時間が3時間~5時間以下に抑えるのが良い。
【0028】
上述した有害な元素を土壌環境基準で許容される濃度以上に含有する石炭灰に対して無害化処理を行えば、処理後の石炭灰から溶出する有害元素の濃度を、土壌環境基準で許容される濃度以下に抑制することができる。
このように有害な元素の溶出抑制が行われる理由については、未だ明確には解明されていない。しかし、上述した加熱温度・加熱時間で加熱を行うことで、石炭灰中での有害な元素の化合状態が変化する、例えばカルシウムに化合していた有害な元素がシリコンに化合するといった結合状態の変化が加熱の前後で起きているのではないかと出願人は考えている。
【実施例】
【0029】
次に、比較例及び実施例を用いて、本発明の有害元素の溶出抑制方法(無害化処理)が有する作用効果について詳しく説明する。
実施例及び比較例は、石炭灰A、石炭灰B、石炭灰Cの3種類について、加熱温度及び加熱時間を変えて加熱を行って、有害な元素の溶出濃度を調査したものとなっている。
なお、石炭灰A~石炭灰Cは、微粉炭火力発電所での燃焼状態を模擬可能なバーナー式石炭燃焼炉を用いて、実際に石炭を燃焼させることで形成されたものである。
【0030】
石炭灰Aは、有害な元素として、ホウ素を31mg/L(溶出基準1mg/L以下)、ヒ素を0.032mg/L(溶出基準0.01mg/L以下)、6価クロムを0.09mg/L(溶出基準0.05mg/L以下)含むものである。また、フッ素の溶出濃度は0.6mg/L(溶出基準0.8mg/L以下)、セレンの溶出濃度は0.002mg/L(溶出基準0.01mg/L以下)である。つまり、石炭灰Aにはフッ素やセレンは有害元素として含まれていない(いずれも溶出基準以下である)。なお、カッコ内の「溶出基準」は、「土壌環境基準」で定められる各元素の基準値を示したものである。
【0031】
石炭灰Bは、有害な元素として、ホウ素を8.3mg/L(溶出基準1mg/L以下)、フッ素を1.3mg/L(溶出基準0.8mg/L以下)、セレンを0.029mg/L(溶出基準0.01mg/L以下)含むものである。石炭灰Bにはヒ素や6価クロムは有害元素として含まれていない(いずれも溶出基準以下である)。
石炭灰Cは、有害な元素として、ホウ素を46.5mg/L(溶出基準1mg/L以下)、ヒ素を0.017mg/L(溶出基準0.01mg/L以下)含むものである。なお、石炭灰Cにはフッ素、セレン、及び6価クロムは有害元素として含まれていない(いずれも溶出基準以下である)。
【0032】
上述した石炭灰A~石炭灰Cを、φ50mm、高さ35mmの白金坩堝に、粉末状態のまま15~50g程度入れ、次にこの白金坩堝を予熱したラボ規模の電気炉に挿入し、加熱時間と加熱温度を変化させつつ加熱した。
具体的には、石炭灰Aについては、900℃×1hr、1150℃×1hr、1280℃×1hr、1350℃×2minの4つの加熱条件で加熱した。また、石炭灰Bについては、700℃×1hr、900℃×1hr、1000℃×1hr、1150℃×1hr、1300℃×2minの5つの加熱条件で加熱した。さらに、石炭灰Cについては、1150℃×1hr、1250℃×1hrの2つの加熱条件で加熱した。
【0033】
上述した処理条件で処理した後、処理後の白金坩堝を炉から取り出し、25℃の大気雰囲気下で冷却し、冷却後の各石炭灰のサンプルを土壌環境基準(環告46号)に規定された溶出試験に供して、冷却後のサンプルから溶出する有害元素の溶出量(溶出濃度)を調査した。
なお、無害化処理を行う前、言い換えればバーナー式石炭燃焼炉で生成直後の石炭灰A、石炭灰B、石炭灰Cについても、同様な手順で有害元素の溶出量(溶出濃度)を計測した。
【0034】
また、この土壌環境基準に規定された溶出試験とは、ホウ素の場合であればJIS K0120 47.1,47.3,47.4でホウ素濃度を定量分析するものであり、フッ素の場合であればJIS K0120 34.1,34.4でフッ素濃度を定量分析するものとなっている。また、セレンの場合であればJIS K0120 67.2~JIS K0120 67.4でセレン濃度を定量分析するものであり、6価クロムの場合であればJIS K065.2で6価クロム濃度を定量分析するものとなっている。
【0035】
なお、上述した各サンプルについては、原則として2ヶ月後に溶出試験を行い、土壌環境基準に定められた手順に従って定量分析を行った。また、サンプルの一部については、無害化処理した4ヶ月後、1年後に溶出試験を行い、土壌環境基準に定められた手順に従って定量分析を行った。
上述した無害化処理の処理条件及び定量分析した結果を、表1に示す。
【0036】
【0037】
上述した表1の結果のうち、2ヶ月後にホウ素について溶出試験を実施した結果のみを抽出して、
図1にまとめて示す。
図1の中で、原灰にホウ素溶出量が8.3mg/Lとなる量だけホウ素が含まれている石炭灰Bの結果を見ると、加熱温度が700℃、900℃ではホウ素溶出量は2.5mg/L、2.9mg/Lとなり、溶出基準を超えるホウ素が溶出しており、ホウ素の溶出を十分に抑制できていないことがわかる。しかし、加熱温度が1000℃になるとホウ素溶出量は0.5mg/Lとなり、溶出基準を満足する結果となり、ホウ素の溶出が十分に抑制されている。このことから、石炭灰Bでは加熱温度を1000℃以上に高くすると、ホウ素の溶出が抑制できることがわかる。
【0038】
一方、原灰に含まれるホウ素溶出量が31mg/Lとされ、石炭灰Bより多くのホウ素が含まれた石炭灰Aの結果を見ると、加熱温度が900℃ではホウ素溶出量は35mg/Lとなり、溶出基準を超えるホウ素が溶出しており、ホウ素の溶出を十分に抑制できていないことがわかる。しかし、加熱温度が1150℃、1280℃になるとホウ素溶出量は0.4mg/L未満、0.2mg/L未満となり、溶出基準を満足する結果となり、ホウ素の溶出が十分に抑制されている。このことから、ホウ素の溶出を抑制するには石炭灰Bより高い1150℃の加熱温度が必要となっていることがわかる。
【0039】
また、原灰のホウ素溶出量が46.5mg/Lの結果(石炭灰Cの結果)を見ると、ホウ素の溶出を抑制するには石炭灰Aよりさらに高い1250℃の加熱温度が必要となっている。つまり、石炭灰A~石炭灰Cの結果を比べると、ホウ素溶出量が多い原灰を処理するためにも、加熱温度を高くする必要があることがわかる。
つまり、ホウ素の溶出濃度が土壌環境基準1mg/Lより高い×の結果と、土壌環境基準1mg/L以下の○の結果は、
図1の上側と下側とに分かれて分布しており、合否が式(1)で示される直線で分けられている。
[数3]
Y[℃]=X[mg/L]×6.5+946 ・・・(1)
例えば、式(1)が成立するかを実データを用いて検証すると、石炭灰Cについて原灰のホウ素溶出量は46.5mg/Lなので、式(1)にXとして代入すると、加熱下限温度Y=6.5×46.5+946=1248℃となる。つまり、この1248℃以上の1250℃で熱処理した結果(1250℃×1hの結果)は、式(1)で示される直線よりも上側に位置しており、本発明の範囲に含まれている。表1の結果を見ると、ホウ素の溶出濃度も0.5mg/Lより低く、土壌環境基準1mg/L未満を満足するものとなることが分かる。
【0040】
また、加熱下限温度Y(=1248℃)未満の1150℃で熱処理した結果(1150℃×1hの結果)は、式(1)で示される直線よりも下側に位置しており、本発明の範囲に含まれていない。表1の結果を見ると、ホウ素の溶出濃度は2.5mg/Lと高く、土壌環境基準1mg/L未満を満足していない事が分かる。
以上のことから、式(1)に従って石炭灰の加熱温度Y[℃]を求め、求められた加熱温度Y[℃]以上の温度で、石炭灰を少なくとも1時間以上加熱することにより、加熱後の石炭灰から溶出するホウ素の濃度を土壌環境基準で許容される濃度未満に抑制できることがわかる。
【0041】
また、上述した
図1の結果は、有害元素の中でも最も無害化が難しい、言い換えれば加熱温度を高くしなくては溶出抑制が難しいホウ素を基準に規定されている。その為、表1の石炭灰A~石炭灰Cについては、ホウ素の溶出が抑制可能な加熱条件で加熱すれば、フッ素、セレン、ヒ素、6価クロムなどの他の元素も、無害化できる。
具体的には、石炭灰Aの場合であれば、ホウ素の溶出が抑制可能な「1150℃×1h」の加熱条件では、フッ素の溶出濃度が<0.2mg/L(溶出基準は0.8mg/L)、セレンの溶出濃度が検出限界以下、ヒ素の溶出濃度が<0.002mg/L(溶出基準は0.01mg/L)、6価クロムの溶出濃度が<0.01 mg/L(溶出基準は0.05mg/L)となっており、いずれも土壌環境基準の溶出基準の濃度を下回っている。
【0042】
また、石炭灰Bの場合であれば、ホウ素の溶出が抑制可能な「1000℃×1h」の加熱条件では、フッ素の溶出濃度が検出限界以下、セレンの溶出濃度が<0.002mg/L(溶出基準は0.01mg/L)、ヒ素の溶出濃度が検出限界以下、6価クロムの溶出濃度が検出限界以下となっており、いずれも土壌環境基準の溶出基準の濃度を下回っている。
さらに、石炭灰Cの場合であれば、ホウ素の溶出が抑制可能な「1250℃×1h」の加熱条件では、フッ素の溶出濃度が検出限界以下、セレンの溶出濃度が<0.002mg/L(溶出基準は0.01mg/L)、ヒ素の溶出濃度が<0.002mg/L(溶出基準は0.01mg/L)、6価クロムの溶出濃度が検出限界以下となっており、いずれも土壌環境基準の溶出基準の濃度を下回っている。
【0043】
以上のことから、ホウ素の溶出が抑制可能な加熱条件で加熱すれば、フッ素、セレン、ヒ素、6価クロムなどのホウ素以外の元素も無害化できると判断される。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。