(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】転がり軸受装置及び給油ユニット
(51)【国際特許分類】
F16C 33/66 20060101AFI20221115BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20221115BHJP
F16N 29/00 20060101ALI20221115BHJP
F16N 29/02 20060101ALI20221115BHJP
F16N 31/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C41/00
F16N29/00 C
F16N29/02
F16N31/00 B
(21)【出願番号】P 2017200428
(22)【出願日】2017-10-16
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂▲崎▼ 司
(72)【発明者】
【氏名】上田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】東山 佳路
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-139036(JP,A)
【文献】特開2009-019600(JP,A)
【文献】特開2017-106564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/66
F16C 41/00
F16N 7/38
F16N 29/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪、外輪、及び前記内輪と前記外輪との間に設けられている複数の転動体を有する軸受部と、前記軸受部の隣りに設けられ当該軸受部に潤滑油を供給する給油ユニットと、を備え、
前記給油ユニットは、
潤滑油を溜める圧力室部、及び、電圧の印加により変形して当該圧力室部の容積を変化させる圧電素子を有し、当該容積の縮小により当該圧力室部の潤滑油を噴出するポンプと、
前記ポンプと繋がり当該ポンプへ補充する潤滑油を溜めるタンクと、
前記圧力室部から前記タンクまでの間の潤滑油が存在する油領域の圧力を検出するセンサと、
前記圧力室部から前記タンクまでの間の潤滑油が存在する油領域における潤滑油の圧力を調整する圧力調整部と、
前記センサによる検出結果に基づいて前記圧力調整部と前記圧電素子とのうちの少なくとも一方を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、
前記センサによる検出圧力と基準圧力との差が閾値以下である場合、前記圧電素子の変形動作量を変更する第一処理を実行し、
前記差が前記閾値を超える場合、前記圧力調整部により前記油領域における潤滑油の圧力を変更する圧力調整処理を実行し、
前記第一処理は、
前記検出圧力が前記基準圧力よりも高い場合、当該検出圧力の検出前よりも低い電圧を前記圧電素子に印加させることで、前記圧電素子の変形動作量を小さく変更する処理と、
前記検出圧力が前記基準圧力よりも低い場合、当該検出圧力の検出前よりも高い電圧を前記圧電素子に印加させることで、前記圧電素子の変形動作量を大きく変更する処理と、を含み、
前記圧力調整処理は、
前記検出圧力が前記基準圧力よりも高い場合、前記圧力調整部により前記油領域における潤滑油の圧力を低下させる第二処理と、
前記検出圧力が前記基準圧力よりも低い場合、前記圧力調整部により前記油領域における潤滑油の圧力を高める第三処理と、を含む、
転がり軸受装置。
【請求項2】
前記圧力調整部が前記油領域の潤滑油の圧力を調整するための出力は、前記圧電素子が前記圧力室部の潤滑油の圧力を調整するための最大出力よりも大きい、請求項1に記載の転がり軸受装置。
【請求項3】
前記軸受部の潤滑状態に起因する現象を検出する第2のセンサを有し、
前記制御部は、前記第2のセンサの検出結果に基づいて前記潤滑状態が不適であると判定すると、前記圧力調整部により前記油領域における潤滑油の圧力を高める第四処理を行なう、請求項1又は請求項2に記載の転がり軸受装置。
【請求項4】
前記ポンプは、前記圧力室部の潤滑油を噴出口から噴出し、
前記ポンプは、前記噴出口を覆わないように前記ポンプの外面又は前記ポンプに内部に設けられている振動体を含み、
前記制御部は、前記第四処理の後に、前記振動体により前記噴出口及び前記噴出口の付近を振動させる、
請求項3に記載の転がり軸受装置。
【請求項5】
前記噴出口から前記圧力調整部が前記油領域の圧力を調整する位置までの距離は、前記噴出口から前記圧電素子が前記圧力室部の容積を変化させる位置までの距離よりも長い、
請求項4に記載の転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置及び給油ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の工作機械では、加工効率及び生産効率の向上のために主軸の高速化が要求されている。主軸が高速で回転すると、主軸を支持する軸受部において特に潤滑性が問題となる。そこで、軸受部の軸方向隣りに給油ユニットが設けられている転がり軸受装置が提案されている(特許文献1参照)。この給油ユニットは、潤滑油を軸受部に供給するためにポンプ等を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のような給油ユニットが有しているポンプは、潤滑油を噴出口から油滴として噴出させ、軸受部に供給している。このために、ポンプは、潤滑油を溜める圧力室部、及び、電圧の印加により変形して前記圧力室部の容積を変化させる圧電素子を有しており、圧電素子の変形動作によって圧力室部の容積を縮小させ、これにより潤滑油を噴出させることができる。
【0005】
しかし、このようなポンプを備えている給油ユニットでは、潤滑油の供給(給油)が不安定となる場合がある。例えば圧力室部に微小なエアが混入すると、圧電素子が圧力室部の容積を変化させても、エアの影響によって規定の吐出圧(噴出圧)が得られず、油滴の噴出速度がばらつき、給油が不安定となることがある。また、ポンプには潤滑油を補充するためにタンクが接続されており、このタンク側の潤滑油の圧力が特に高くなっていると、圧電素子が変形動作していないのに、潤滑油が噴出口から滲み出ることがある。滲み出た潤滑油が噴出口を塞ぐと、その後の油滴の噴出に悪影響を及ぼす。また、これとは反対に、タンク側の潤滑油の圧力が特に低くなっていると、圧電素子が変形動作しても、所望の吐出圧が得られず、潤滑油を油滴として噴出することができないことがある。これらのようにポンプによる給油が不安定となり、その状態が継続すると、軸受部がやがて貧潤滑状態となり、軸受部の回転性能を低下させてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、ポンプによる給油が不安定になっている場合、これを解消することが可能となる給油ユニットを備えている転がり軸受装置、及び、このような給油ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の転がり軸受装置は、内輪、外輪、及び前記内輪と前記外輪との間に設けられている複数の転動体を有する軸受部と、前記軸受部の隣りに設けられ当該軸受部に潤滑油を供給する給油ユニットと、を備え、前記給油ユニットは、潤滑油を溜める圧力室部、及び、電圧の印加により変形して当該圧力室部の容積を変化させる圧電素子を有し、当該容積の縮小により当該圧力室部の潤滑油を噴出するポンプと、前記ポンプと繋がり当該ポンプへ補充する潤滑油を溜めるタンクと、前記圧力室部から前記タンクまでの間の潤滑油が存在する油領域の圧力又は前記軸受部の状態を検出するセンサと、前記圧力室部から前記タンクまでの間の潤滑油が存在する油領域における潤滑油の圧力を調整する圧力調整部と、前記センサによる検出結果に基づいて前記圧力調整部と前記圧電素子とのうちの少なくとも一方を制御する制御部と、を有している。
【0008】
この転がり軸受装置によれば、ポンプによる給油が不安定になっている場合、その原因の一つと考えられる前記油領域における潤滑油の圧力が、又は、潤滑油の噴出不良による軸受部の状態(潤滑油不足の兆候)が、センサによって検出され、この検出結果に基づいて圧力調整部とポンプの圧電素子とのうちの少なくとも一方が制御される。圧力調整部を制御する場合、油領域の圧力が調整されて圧力室部の圧力を所望の値に近づけたり、油領域を加圧して圧力室部のエア等の異物を排出させたりすることができ、また、圧電素子を制御する場合、ポンプによる噴出能力を調整することができる。この結果、ポンプによる給油の不安定を解消することが可能となる。
【0009】
なお、「前記圧力室部から前記タンクまでの間の潤滑油が存在する油領域」には、圧力室部とタンクとの間の途中の他に、圧力室部及びタンクが含まれる。更に、前記油領域を、前記途中、圧力室部又はタンクから分岐して潤滑油が存在している領域とすることもできる。また、前記センサによる圧力の検出の対象となる油領域と、前記圧力調整部によって潤滑油の圧力を調整する対象となる油領域とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0010】
また、前記圧力調整部が前記油領域の潤滑油の圧力を調整するための出力は、前記圧電素子が前記圧力室部の潤滑油の圧力を調整するための最大出力よりも大きいのが好ましい。ポンプによる給油が不安定となることにより発生した給油ユニットの不調が、ポンプの圧電素子による出力では対処できないような場合であっても、前記構成によれば、圧力調整部の機能によって、その不調を解消することが可能となる場合がある。
【0011】
また、前記センサは、前記軸受部の潤滑状態に起因する現象を検出し、前記制御部は、前記センサの検出結果に基づいて前記潤滑状態が不適であると判定すると、前記圧力調整部により前記油領域における潤滑油の圧力を高める制御を行なうのが好ましい。この構成によれば、例えば、ポンプの圧力室部にエア等の異物が混入していて給油が不調となり、潤滑油不足によって軸受部の潤滑状態が悪化している場合、センサはこの状態を検出する。そして、この検出に基づいて圧力調整部が前記油領域における潤滑油の圧力を高めることで、ポンプの圧力室部から前記異物を強制的に排出させ、給油の不調を解消することが可能となる。
【0012】
また、前記センサは、前記油領域の圧力を検出し、前記制御部は、前記センサによる検出圧力と基準圧力との差が閾値以下である場合、前記圧電素子の変形動作量を変更する制御を行なうのが好ましい。この構成によれば、例えば油領域における潤滑油の圧力が変動することによってポンプの給油が不安定となっている場合、センサはこの油領域の圧力を検出し、この検出した結果に応じて圧電素子の変形動作量を変化させることで、ポンプによる給油を安定させることが可能となる。
【0013】
また、前記油領域の圧力が基準圧力よりも高く、その圧力差が閾値を超えているような場合、この油領域の圧力がポンプの圧力室部に伝わり、圧電素子が変形動作していないのに、ポンプから潤滑油が押し出されて勝手に滲み出るおそれがある。そこで、前記センサは、前記油領域の圧力を検出し、前記制御部は、前記センサによる検出圧力が基準圧力よりも高く、かつ、当該検出圧力と当該基準圧力との差が閾値を超えている場合、前記圧力調整部により前記油領域における潤滑油の圧力を低下させる制御を行なうのが好ましい。この構成によれば、前記のような場合であっても、油領域と繋がるポンプの圧力室部における潤滑油の圧力が低下するので、ポンプから勝手に潤滑油が滲み出るのを防ぐことが可能となる。
【0014】
また、前記油領域の圧力が基準圧力よりも低く、その圧力差が閾値を超えているような場合、この油領域の圧力がポンプの圧力室部に伝わり、圧電素子が変形動作しても、圧力室部において所望の吐出圧が得られず、潤滑油を油滴として噴出させることができないおそれがある。そこで、前記センサは、前記油領域の圧力を検出し、前記制御部は、前記センサによる検出圧力が基準圧力よりも低く、かつ、当該検出圧力と当該基準圧力との差が閾値を超えている場合、前記圧力調整部により前記油領域における潤滑油の圧力を高める制御を行なうのが好ましい。この構成によれば、前記のような場合であっても、油領域と繋がるポンプの圧力室部における潤滑油の圧力が高まるので、圧力室部において所望の吐出圧を得ることができ、潤滑油を安定して噴出させることが可能となる。
【0015】
また、本発明は、回転部に給油する給油ユニットであって、潤滑油を溜める圧力室部、及び、電圧の印加により変形して当該圧力室部の容積を変化させる圧電素子を有し、当該容積の縮小により当該圧力室部の潤滑油を噴出するポンプと、前記ポンプと繋がり当該ポンプへ補充する潤滑油を溜めるタンクと、前記圧力室部から前記タンクまでの間の潤滑油が存在する油領域の圧力又は前記回転部の状態を検出するセンサと、前記圧力室部から前記タンクまでの間の潤滑油が存在する油領域における潤滑油の圧力を調整する圧力調整部と、前記センサによる検出結果に基づいて前記圧力調整部と前記圧電素子とのうちの少なくとも一方を制御する制御部と、を備えている。
【0016】
この給油ユニットによれば、ポンプによる給油が不安定になっている場合、その原因の一つと考えられる前記油領域における潤滑油の圧力が、又は、潤滑油の噴出不良による回転部の状態(潤滑油不足の兆候)が、センサによって検出され、この検出結果に基づいて前記圧力調整部による調整動作とポンプの圧電素子の変形動作とのうちの少なくとも一方が制御される。前記調整動作の制御によれば、油領域の圧力が調整されて圧力室部の圧力を基準圧力に近づけたり、油領域を加圧して圧力室部のエア等の異物を排出させたりすることができ、また、前記変形動作の制御によれば、ポンプによる噴出能力を調整することができる。この結果、ポンプによる給油の不安定を解消することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポンプによる給油が不安定になっている場合、これを解消することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】ポンプ、タンクの一部、及びその周囲の構成の概略を示す説明図である。
【
図4】ポンプ、タンクの一部、及びその周囲の構成の概略(他の形態)を示す説明図である。
【
図5】ポンプ、タンクの一部、及びその周囲の構成の概略(他の形態)を示す説明図である。
【
図6】ポンプ、タンクの一部、及びその周囲の構成の概略(他の形態)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔転がり軸受装置の全体構成について〕
図1は、転がり軸受装置の一例を示す断面図である。
図1に示す転がり軸受装置10(以下、「軸受装置10」ともいう。)は、工作機械が有する主軸装置の軸(主軸)7を回転可能に支持するものであり、主軸装置の軸受ハウジング8内に収容されている。
図1では、軸7及び軸受ハウジング8を2点鎖線で示している。なお、本発明の転がり軸受装置は工作機械以外においても適用可能である。また、以下の説明において、軸受装置10の中心軸Cに平行な方向を「軸方向」と呼び、この軸方向に直交する方向を「径方向」と呼ぶ。
【0020】
図1に示す軸受装置10は、軸受部20と給油ユニット40とを備えている。軸受部20は、内輪21、外輪22、複数の玉(転動体)23、及びこれら複数の玉23を保持する保持器24を有しており、玉軸受(転がり軸受)を構成している。更に、この軸受装置10は、円筒状である内輪間座17、及び円筒状である外輪間座18を備えている。
【0021】
給油ユニット40は、全体として円環状であり、軸受部20の軸方向隣りに設けられている。本実施形態の給油ユニット40は、外輪間座18の径方向内側に設けられ、内輪21と外輪22との間に形成されている環状空間11の軸方向隣りに位置しており、軸受部20(環状空間11)に潤滑油を供給する機能を有する。給油ユニット40の構成及び機能については後に説明する。なお、図示しないが、給油ユニット40(後述の本体部41)と外輪間座18とを一体とし、給油ユニット40が外輪間座としての機能を有するようにしてもよい。
【0022】
本実施形態では、外輪22及び外輪間座18が軸受ハウジング8に回転不能として取り付けられており、内輪21及び内輪間座17が軸7と共に回転する。したがって、外輪22が、回転しない固定輪となり、内輪21が、軸7と共に回転する回転輪となる。
【0023】
内輪21は、軸7に外嵌する円筒状の部材であり、その外周に軌道25(以下、「内輪軌道25」という。)が形成されている。本実施形態では、内輪21と内輪間座17とは別体であるが、図示しないが、これらは一体(一体不可分)であってもよい。外輪22は、軸受ハウジング8の内周面に取り付けられる円筒状の部材であり、その内周に軌道26(以下、「外輪軌道26」という。)が形成されている。本実施形態では、外輪22と外輪間座18とは別体であるが、図示しないが、これらは一体(一体不可分)であってもよい。
【0024】
玉23は、内輪21と外輪22との間に介在しており、内輪軌道25及び外輪軌道26を転動する。保持器24は、環状であり、玉23を収容するポケット27が周方向に沿って複数形成されている。玉23及び保持器24は、前記環状空間11に設けられている。
【0025】
〔給油ユニット40について〕
図2は、給油ユニット40を軸方向から見た図である。給油ユニット40は、全体として円環形状を有し、環状の本体部41を備えている。この本体部41に、タンク42、ポンプ43、センサ49,50、圧力調整部46、及び、制御部44が設けられている。更に、本実施形態の給油ユニット40は電源部45を備えており、電源部45は、ポンプ43、センサ49,50、圧力調整部46、及び制御部44それぞれを機能させるための電力を供給する。
【0026】
本体部41は、例えば樹脂製の環状部材であり、ポンプ43等を収容(保持)するフレームとしての機能も有している。つまり、本体部41には中空空間が形成されており、この中空空間にタンク42、ポンプ43、センサ49,50、圧力調整部46、制御部44、及び電源部45が設けられる。これにより、本体部41、タンク42、及びポンプ43等を含む給油ユニット40は一体として構成される。
【0027】
〔タンク42及びポンプ43について〕
タンク42とポンプ43とは配管29による流路を通じて繋がっていて、タンク42は、ポンプ43へ補充する潤滑油(オイル)を溜める。ポンプ43が潤滑油を吐出して潤滑油が消費されると、タンク42の潤滑油がポンプ43へ自動的に流れて補充される。
【0028】
ポンプ43は、軸受部20(環状空間11)に潤滑油を供給する機能を有している。この機能を発揮するために、
図3に示すように、ポンプ43は、潤滑油を噴出する噴出口(ノズル)51が設けられているポンプ本体48を有しており、ポンプ本体48は、噴出口51と繋がりかつ潤滑油を溜める空間である圧力室部(第一の圧力室部)54と、圧電素子(第一の圧電素子)55とを有している。
図3は、ポンプ43、タンク42の一部、及びその周囲の構成の概略を示す説明図である。ポンプ本体48内には、第一の圧力室部54の壁の一部を構成する弾性変形可能な振動板(第一の振動板)47が設けられており、この第一の振動板47に第一の圧電素子55が取り付けられている。第一の圧電素子55は電圧を付与すると変形し、この第一の圧電素子55の変形によって第一の振動板47が変形する。これにより、第一の圧力室部54の容積が変化する。第一の圧力室部54には、潤滑油が充満状態にある。
【0029】
噴出口51は、ポンプ本体48が有する壁部に形成された微小の貫通孔により構成されており、噴出口51は、この壁部の側面において開口している。噴出口51が開口しているこの側面は、前記環状空間11の一部に臨む面となる(
図1参照)。
【0030】
前記のとおり、第一の圧電素子55は、電圧が印加されることにより変形して第一の圧力室部54の容積を変化させることができる。第一の圧力室部54の容積が縮小することによって、この第一の圧力室部54の潤滑油を噴出口51から環状空間11に向けて噴出することができる。特に、第一の圧電素子55が動作することにより、噴出口51から潤滑油を油滴として初速を有して噴出させる。つまり、噴出口51から油滴は飛翔する。噴出口51は、軸受部20の内輪軌道25(
図1参照)に向かって開口しており、噴出口51から噴出させた油滴は、玉23に当たる、又は、隣り合う玉23,23の間を通過したとしても内輪軌道25に当たることができる。これにより、給油ユニット40は、軸受部20に対して給油を行なうことができる。
【0031】
このようにポンプ43は、タンク42の潤滑油を第一の圧力室部54において受けると共に、この第一の圧力室部54の潤滑油を噴出口51から油滴として軸受部20のターゲットに向けて噴出させる(飛翔させる)構成となっている。潤滑油の効率的利用の観点から、ポンプ43において1回の噴出動作で定められた量の油滴を噴出させ、この油滴を軸受部20のターゲットに到達させる。ポンプ43の1回の動作で、噴出口51から数ピコリットル~数ナノリットルの潤滑油が油滴として噴出される。本実施形態における前記ターゲットは、玉23及び内輪軌道25である。
【0032】
ポンプ43が有する第一の圧電素子55に印加する電圧値を変更すれば、第一の圧電素子55の変形動作量が変更される。つまり、第一の圧電素子55に印加する電圧値を高くすることで、この第一の圧電素子55の変形動作量が大きくなり、この結果、第一の圧力室部54における潤滑油の圧力(内圧)が高めとなって、噴出口51からの潤滑油の噴出速度が高くなる。これに対して、第一の圧電素子55に印加する電圧値を低くすることで、この第一の圧電素子55の変形動作量が小さくなり、この結果、第一の圧力室部54の内圧が低めとなって、噴出口51からの潤滑油の噴出速度が低くなる。なお、第一の圧電素子55が動作した際の第一の圧力室部54の内圧は、ポンプ43の吐出圧と言える。
【0033】
ポンプ43は、タンク42と配管29を介して繋がっている。タンク42の潤滑油は配管29を通じてポンプ43に供給(補充)される。このため、タンク42側を、潤滑油の流れ方向の「上流側」と呼び、ポンプ43の噴出口51側を「下流側」と呼ぶことができる。本実施形態のタンク42は、補充する潤滑油の多くを溜めている最も上流側のメインタンク部42aと、メインタンク部42aの下流側に設けられているサブタンク部42bとを有している。サブタンク部42bは、潤滑油を充満状態で溜めることができる第二の圧力室部57を有している。第二の圧力室部57は、ポンプ43が有する第一の圧力室部54からタンク42(メインタンク部42a)までの間の潤滑油が存在する油領域であると言える。第二の圧力室部57は第一の圧力室部54と配管29を通じて繋がっており、第二の圧力室部57の内圧が高くなると、第一の圧力室部54の内圧も高くなる。第二の圧力室部57の内圧が低くなると、第一の圧力室部54の内圧も低くなる。
【0034】
〔圧力調整部46について〕
サブタンク部42b内には、第二の圧力室部57の壁の一部を構成する弾性変形可能な振動板(第二の振動板)58が設けられており、この第二の振動板58に圧電素子(第二の圧電素子)59が取り付けられている。第二の圧電素子59は電圧を印加すると変形し、この第二の圧電素子59の変形によって第二の振動板58が変形する。これにより、第二の圧力室部57の容積が変化し、第二の圧力室部57における潤滑油の圧力(内圧)が調整される。つまり、本実施形態では、圧力調整部46は、電圧の印加により変形する第二の圧電素子59を有する(第二の)ポンプにより構成されている。
【0035】
第二の圧力室部57の容積を狭くする方向に第二の圧電素子59が変形すると、第二の圧力室部57の内圧は高まる。これに対して、第二の圧力室部57の容積を広くする方向に第二の圧電素子59が変形すると、第二の圧力室部57の内圧は低くなる。第二の圧電素子59に印加する電圧の大きさに応じて、第二の圧力室部57の容積を狭くしたり広くしたり変更することができ、更に、その電圧を維持することで、第二の圧力室部57の容積を、所定の大きさに維持することが可能である。以上より、圧力調整部46として機能する第二の圧電素子59は、第二の圧力室部57(第一の圧力室部54からタンク42までの間の潤滑油が存在する油領域)における潤滑油の圧力を調整する機能を有している。
【0036】
本実施形態では、ポンプ43が有する第一の圧電素子55と、圧力調整部46として機能する第二の圧電素子59とは、形式が異なっている。第一の圧電素子55は、縦振動型の圧電素子(ピエゾ素子)であるのに対して、第二の圧電素子59は、たわみ振動型の圧電素子(ピエゾ素子)であり、第二の圧電素子59の方が第一の圧電素子55よりも動作量が大きい。具体的に説明すると、第二の圧電素子59が第二の圧力室部57との間の第二の振動板58を押す面積は、第一の圧電素子55が第一の圧力室部54との間の第一の振動板47を押す面積よりも大きく、また、印加電圧が同じである場合に、第二の圧電素子59が第二の振動板58を押すストロークは、第一の圧電素子55が第一の振動板47を押すストロークよりも大きい。よって、第二の圧電素子59(圧力調整部46)が、油領域である第二の圧力室部57の潤滑油の圧力を調整するための出力は、第一の圧電素子55が第一の圧力室部54の潤滑油の圧力を調整するための最大出力よりも大きい。
【0037】
〔センサについて〕
本実施形態の給油ユニット40は、第一のセンサと、第二のセンサとを有している。第一のセンサは、軸受部20の潤滑状態に起因する現象を検出するセンサである。具体的に説明すると、第一のセンサは温度センサ(赤外線センサ)49であり、非接触式とするのが好ましい。温度センサ49は、給油ユニット40の本体部41の一部に取り付けられている(
図2参照)。例えば、軸受部20が貧潤滑状態になると、軸受部20は昇温する。そこで、温度センサ49は、軸受部20の一部(例えば、保持器24)の温度を検出する。軸受部20における温度の変化は、軸受部20の状態(潤滑状態)の変化であると言えることから、温度センサ49により、軸受部20の状態(潤滑状態)に起因する現象が検出される。
【0038】
なお、第一のセンサは温度センサ49以外であってもよく、振動センサ又はAEセンサ(アコースティックエミッションセンサ)であってもよい。または、これらのうちの複数の組み合わせであってもよい。例えば、軸受部20が貧潤滑状態になると、軸受部20において振動が大きくなったり、想定外のひずみエネルギーが蓄積されて弾性波(音波)が放射されたりする。第一のセンサが振動センサである場合、軸受部20において発生した振動を、外輪間座18を通じて検出することができる。第一のセンサがAEセンサである場合、軸受部20(例えば外輪22)の内部のひずみエネルギーが弾性波となって放射されると、このセンサは弾性波を音波として検出する。
【0039】
第二のセンサは、圧力センサ(微圧センサ)50であり(
図3参照)、ポンプ43が有する第一の圧力室部54からタンク42までの間の潤滑油が存在する油領域の潤滑油の圧力を検出する。本実施形態の前記油領域は、ポンプ43とタンク42との間の配管29であり、配管29内の潤滑油の圧力(内圧)が、圧力センサ50によって検出される。
【0040】
〔制御部44について〕
第一のセンサである温度センサ49、及び、第二のセンサである圧力センサ50の検出結果は、制御部44へ出力される。制御部44は、プログラミングされたマイコン等を含む回路基板により構成されており、各種の処理を実行可能である。制御部44の機能について説明する。制御部44は、温度センサ49の検出値と、規定の閾値とを比較することにより、軸受部20の潤滑状態の適否を判定することができる(判定処理)。また、制御部44は、圧力センサ50による検出圧力と規定の基準圧力とを比較し、また、これら検出圧力と基準圧力との差を求めることができる(比較処理)。前記判定処理及び前記比較処理の処理結果に応じて、制御部44は、次の第一処理、第二処理、第三処理、及び、第四処理を選択して実行することができる。
【0041】
・第一処理:圧力センサ50による検出圧力と基準圧力との差が閾値以下である場合、第一の圧電素子55の変形動作量を変更する制御を行なう。
・第二処理:圧力センサ50による検出圧力が基準圧力よりも高く、かつ、これら検出圧力と基準圧力との差(絶対値)が閾値を超えている場合、第二の圧電素子59により第二の圧力室部57における潤滑油の圧力を低下させるための制御を行なう。
・第三処理:圧力センサ50による検出圧力が基準圧力よりも低く、かつ、これら検出圧力と基準圧力との差(絶対値)が閾値を超えている場合、第二の圧電素子59により第二の圧力室部57における潤滑油の圧力を高めるための制御を行なう。
・第四処理:温度センサ49の検出結果に基づいて軸受部20の潤滑状態が不適であると判定した場合、第二の圧電素子59により第二の圧力室部57における潤滑油の圧力を高める制御を行なう。
【0042】
なお、前記第一処理に関して、第一の圧電素子55の変形動作量を変更する制御は、第一の圧電素子55に印加する電圧を変更する制御により実現される。
また、前記第二、第三、及び第四処理により、第二の圧力室部57における潤滑油の圧力が高まる(又は低下する)ことで、第二の圧力室部57と繋がる第一の圧力室部54の潤滑油は加圧される(又は減圧される)。
【0043】
このように、制御部44は、温度センサ49及び圧力センサ50による検出結果に基づいて、第二の圧電素子59による第二の圧力室部57における潤滑油の圧力の調整動作と、第一の圧電素子55の変形動作とのうちの少なくとも一方を制御する機能を有している。また、制御部44は、潤滑油をポンプ43の噴出口51から噴出させるタイミング、つまり、第一の圧電素子55を変形動作せるタイミングを制御する機能を有している。以下、制御部44が実行する処理の具体例について説明する。
【0044】
〔制御部44が実行する処理について〕
給油ユニット40の通常運転において、ポンプ43が潤滑油の噴出を待機している状態での制御部44による制御について説明する。ポンプ43が待機している状態では、
図3における噴出口51の拡大図に示すように、噴出口51の下流端には、潤滑油によるメニスカス30が形成されている。これは、噴出口51における潤滑油の圧力(内圧)が、ポンプ43の外部(気圧)を基準して僅かに負圧となっていることによる。そして、本実施形態では、通常時、噴出口51における潤滑油の圧力(内圧:Pnoz)と、第二の圧力室部57における潤滑油の圧力(内圧:Ptank)とが一定となるように、制御部44は、圧力調整部46として機能する第二の圧電素子59を制御している。
【0045】
タンク42に溜められている潤滑油は、ポンプ43による給油動作によって消費され(減少し)、タンク42の潤滑油の残量によって、第二の圧力室部57の内圧(Ptank)は変動することが考えられる。噴出口51の内圧(Pnoz)は、その形態(大きさ)によって定まることから、基準圧力となるこの内圧(Pnoz)と第二の圧力室部57の内圧(Ptank)とが等しくなるように第二の圧電素子59の動作が、制御部44によって制御される。このように噴出口51の内圧(Pnoz)と第二の圧力室部57の内圧(Ptank)とを等しくすることにより、ポンプ43の第一の圧電素子55が一定の動作を行なうと、つまり第一の圧電素子55に一定の電圧(所定波形の電圧)を印加すると、所望とする一定の噴出速度(噴出量)で潤滑油を噴出口51から噴出させることが可能となる。
噴出口51の内圧(Pnoz)と第二の圧力室部57の内圧(Ptank)とが等しいというバランス状態が崩れると、その状態に応じて、制御部44は、以下に説明する第一処理、第二処理、及び第三処理のうちのいずれか一つを選択して実行する。
【0046】
〔第一処理〕
前記のとおり、タンク42の潤滑油の残量によって、第二の圧力室部57の内圧(Ptank)が変動することがある。この内圧(Ptank)が変動すると、基準圧力である噴出口51の内圧(Pnoz)との間で差圧が発生する。第二の圧力室部57の内圧(Ptank)が、噴出口51の内圧(Pnoz)よりも高くなると、第一の圧力室部54の内圧、つまり、ポンプ43の吐出圧も高くなる。このため、第一の圧電素子55が一定の動作を行っても、吐出圧が高めとなることから、潤滑油の吐出速度が高くなる。これに対して、第二の圧力室部57の内圧(Ptank)が、噴出口51の内圧(Pnoz)よりも小さくなると、第一の圧力室部54の内圧、つまりポンプ43の吐出圧が低くなる。このため、第一の圧電素子55が一定の動作をしても、吐出圧が低めとなることから、潤滑油の吐出速度が低くなる。このように、給油ユニット40の運転が継続されていると、ポンプ43による給油が不安定となる場合がある。
【0047】
そこで、圧力センサ50は、第二の圧力室部57の内圧(Ptank)と(略)等しくなる配管29における潤滑油の圧力(内圧)を検出している。配管29における検出圧力(P′tank)と、予め設定されている基準圧力(Pnoz)との差の絶対値ΔPが、第一閾値Q1以下であって、かつ、第二閾値Q2以上である場合(但し、Q1>Q2)、制御部44は、第一の圧電素子55の変形動作量を変更する制御を行なう。
【0048】
具体的に説明すると、前記差の絶対値ΔPが、第一閾値Q1以下でありかつ第二閾値Q2以上(Q2≦ΔP≦Q1)であって、検出圧力(P′tank)が基準圧力(Pnoz)よりも高い場合、制御部44は、第一の圧電素子55に対する指令信号として、圧力の検出前よりも電圧を低くして第一の圧電素子55に印加させる制御を行なう。この場合とは反対に、前記差ΔPが、第一閾値Q1以下でありかつ第二閾値Q2以上であるが、検出圧力(P′tank)が基準圧力(Pnoz)よりも低い場合、制御部44は、第一の圧電素子55に対する指令信号として、圧力の検出前よりも電圧を高くして第一の圧電素子55に印加させる制御を行なう。このように、印加電圧を低く又は高くする制御は、検出圧力(P′tank)の大きさに応じて実行される。つまり、検出圧力(P′tank)に基づく制御は、フィードバック制御となる。
【0049】
以上のように、制御部44は、圧力センサ50による検出圧力(P′tank)と基準圧力(Pnoz)との差ΔPが第一閾値Q1以下(かつ第二閾値Q2以上)である場合、第一の圧電素子55の変形動作量を変更する制御を、第一処理として行なう。この第一処理によれば、例えば第二の圧力室部57における潤滑油の圧力が変動することによってポンプ43による給油が不安定となっても、圧力センサ50は、第二の圧力室部57の圧力と(略)同じとなる配管29の内圧(P′tank)を検出し、この検出した結果に応じて第一の圧電素子55の変形動作量を変化させる。この結果、前記バランス状態に可及的に近づけることができ、ポンプ43による潤滑油の噴出を安定させることが可能となる。
【0050】
なお、検出圧力(P′tank)と基準圧力(Pnoz)との差ΔPが、第二閾値Q2未満(ΔP<Q2)である場合は、ポンプ43による潤滑油の噴出速度は大きく変化しないことから、第一の圧電素子55の変形動作量を変更しないようにすることが可能である。
【0051】
〔第二処理及び第三処理〕
前記第一処理は、第二の圧力室部57における圧力(Ptank)と(略)等しい配管29の内圧(P′tank)と、基準圧力(Pnoz)との差の絶対値ΔPが、第一閾値Q1以下である場合の処理である。以下、この差の絶対値ΔPが、第一閾値Q1を超えている場合、つまり、第二の圧力室部57の圧力(Ptank=P′tank)が大きく変動している場合について説明する。
【0052】
先ず、検出圧力(P′tank)と基準圧力(Pnoz)との差の絶対値ΔPが第一閾値Q1を超えていて(ΔP>Q1)、しかも、検出圧力(P′tank)が基準圧力(Pnoz)よりも高い場合について説明する。この場合、第二の圧力室部57及び配管29において高くなった圧力が、ポンプ43の第一の圧力室部54に伝わり、第一の圧電素子55が変形動作していないのに、ポンプ43の噴出口51から潤滑油が押し出されて勝手に滲み出るおそれがある。
【0053】
そこで、このような場合、制御部44は、第一の圧電素子55に対する指令信号として、第二の圧力室部57の容積を拡大させる方向に第二の圧電素子59を変形させる電圧を印加する制御を行なう。これにより、第二の圧力室部57の圧力(Ptank)を、圧力の検出時と比較して、低下させることができ、基準圧力(Pnoz)に近づけることができる。このように、圧力センサ50による検出圧力(P′tank)が基準圧力(Pnoz)よりも高く、かつ、これら検出圧力(P′tank)と基準圧力(Pnoz)との差の絶対値ΔPが、第一閾値Q1を超えている場合、制御部44は、第二の圧電素子59により第二の圧力室部57における潤滑油の圧力を低下させるための制御を、第二処理として行なう。この第二処理によれば、第二の圧力室部57の圧力(Ptank)が高くなっていても、第二の圧電素子59によって、この圧力(Ptank)を低下させることで、第二の圧力室部57と繋がる第一の圧力室部54の内圧が低下するので、ポンプ43から勝手に潤滑油が滲み出るのを防ぐことが可能となる。特に、第二の圧力室部57の圧力と(略)等しくなる配管29の圧力、つまり、圧力センサ50による検出圧力(Ptank)が基準圧力(Pnoz)と等しくなるように、第二の圧電素子59によって、第二の圧力室部57の圧力を低下させるのが好ましい。
【0054】
次に、検出圧力(P′tank)と基準圧力(Pnoz)との差の絶対値ΔPが第一閾値Q1を超えていて(ΔP>Q1)、しかも、検出圧力(P′tank)が基準圧力(Pnoz)よりも低い場合について説明する。この場合、第二の圧力室部57及び配管29において低くなった圧力が、ポンプ43の第一の圧力室部54に伝わり、第一の圧電素子55が変形動作しても、第一の圧力室部54において所望の吐出圧が得られず、潤滑油を油滴として噴出させることができないおそれがある。
【0055】
そこで、このような場合、制御部44は、第一の圧電素子55に対する指令信号として、第二の圧力室部57の容積を縮小させる方向に第二の圧電素子59を変形させる電圧を印加する制御を行なう。これにより、第二の圧力室部57の圧力(Ptank)を、圧力の検出時と比較して、高めることができ、基準圧力(Pnoz)に近づけることができる。このように、圧力センサ50による検出圧力(P′tank)が基準圧力(Pnoz)よりも低く、かつ、これら検出圧力(P′tank)と基準圧力(Pnoz)との差の絶対値ΔPが、第一の閾値Q1を超えている場合、制御部44は、第二の圧電素子59により第二の圧力室部57における潤滑油の圧力を高めるための制御を、第三処理として行なう。この第三処理によれば、第二の圧力室部57の圧力(Ptank)が低くなっていても、第二の圧電素子59によって、この圧力(Ptank)を高めることで、第二の圧力室部57と繋がる第一の圧力室部54の内圧が高まるので、第一の圧力室部54において所望の吐出圧を得ることができ、ポンプ43から潤滑油を安定して噴出させることが可能となる。特に、第二の圧力室部57の圧力と(略)等しくなる配管29の圧力(Ptank)が基準圧力(Pnoz)と等しくなるように、第二の圧電素子59によって、第二の圧力室部57の圧力を上昇させるのが好ましい。
【0056】
第二処理及び第三処理のように、第二の圧力室部57の内圧を低く又は高くするための制御は、検出圧力(P′tank)の大きさに応じて実行される。つまり、検出圧力(P′tank)に基づく制御は、フィードバック制御となる。なお、 第二処理と第三処理とでそれぞれ採用される第一の閾値Q1は、異なる値であってもよい。
【0057】
〔第四処理〕
第四処理は、第一、第二、及び第三処理の場合とは異なり、ポンプ43の第一の圧力室部54にエア等の異物が混入することに起因する給油の不安定を、解消するための処理である。
【0058】
ポンプ43は、前記のとおり、噴出口51から潤滑油を微小な油滴として噴出させる。潤滑油を微小な孔による噴出口51から噴出させると、潤滑油の大部分は前記ターゲットに向かうが、一部が粘性によってポンプ本体48側に戻る。この際、一部の潤滑油と共に外部のエアが噴出口51を通じて引き込まれ、第一の圧力室部54に入ることがある。なお、タンク42側から第一の圧力室部54にエアが入ることもある。このように、第一の圧力室部54にエア等の異物が混入すると、第一の圧電素子55が動作しても、このエアがダンパのように機能し、所望の吐出圧が得られず、ポンプ43による給油が不安定になるという不調が発生するおそれがある。この場合、潤滑油不足によって軸受部20の潤滑状態がやがて悪化し、温度が上昇する。
【0059】
そこで、温度センサ49が軸受部20の温度を検出し、制御部44が、軸受部20の状態変化として、温度上昇を検知する。制御部44が、温度センサ49の検出値と、温度について閾値とを比較し、検出値がこの閾値を超えていると判定すると、エアが混入しているとみなし、第二の圧電素子59により第二の圧力室部57の内圧を高める制御を行なう。このように、軸受部20の潤滑状態が不適であると判定されると、第二の圧電素子59により第二の圧力室部57の内圧を高める制御を行ない、第二の圧力室部57と繋がっている第一の圧力室部54の潤滑油を加圧する。
【0060】
更に、この制御を具体的に説明すると、制御部44の判定によって第一の圧力室部54にエアが混入しているとみなされると、制御部44は、第二の圧電素子59に対する指令信号として、第二の圧力室部57の容積を縮小させる方向に第二の圧電素子59を変形させる電圧を印加する制御を行なう。これにより、第二の圧力室部57における潤滑油の圧力が高まり、この第二の圧力室部57と繋がる第一の圧力室部54の内圧が高くなって、第一の圧力室部54に混入したエアを強制的に排出させる(押し出す)ことができる。この結果、給油の不調を解消することが可能となる。
【0061】
このような第四処理によれば、エアを含む潤滑油が、噴出口51から滲み出るようにして吐出される場合がある。そこで、吐出した潤滑油が噴出口51を覆わないように、本実施形態のポンプ43は、ポンプ本体48を振動させる振動体35を更に有している。振動体35は、制御部44の指令信号を受けて動作する振動アクチュエータにより構成されており、前記電源部45から電力を受けて動作する。本実施形態では、第四処理の後、振動体35を動作させる。振動体35は、例えば圧電素子を有しており、この圧電素子が振動することでポンプ本体48を加振する。この振動体35によれば、噴出口51の開口やその付近に潤滑油が付着し、噴出口51の開口を塞いだとしても、振動体35がポンプ本体48を振動させ、その潤滑油を剥離させたり噴出口51の開口から移動させたりすることで取り除くことができる。これにより、噴出口51からの潤滑油の噴出が可能となる。
図3に示すように、振動体35は、ポンプ本体48の外に設けられているが、ポンプ本体48の内部に組み入れられた構成であってもよい。なお、振動体35の加振源(振動アクチュエータ)は圧電素子以外であってもよい。また、前記第一の圧電素子55を、振動体35の加振源として兼用してもよい。
【0062】
制御部44は、圧力センサ50の検出結果に応じて、第一処理、第二処理、及び第三処理のうちの一つの処理を選択的に実行するが、これら第一処理、第二処理、及び第三処理のうちのいずれか一つの処理と、第四処理とを同じ時間帯に、双方とも実行してもよい。
【0063】
〔本実施形態の軸受装置10について〕
以上のように、本実施形態の軸受装置10によれば、ポンプ43による給油が不安定になっている場合、その原因の一つと考えられる第二の圧力室部57における潤滑油の圧力が圧力センサ50によって検出される。また、ポンプ43からの潤滑油の噴出不良が生じている場合、軸受部20の状態(潤滑油不足の兆候)が温度センサ49によって検出される。これら圧力センサ50及び温度センサ49による検出結果に基づいて、圧力調整部46として機能する第二の圧電素子59による調整動作(第二処理、第三処理、又は第四処理、)と、ポンプ43の第一の圧電素子55の変形動作(第一処理)とのうちの少なくとも一方が制御される。
【0064】
前記調整動作の制御によれば、第二の圧力室部57の圧力が調整されて、この第二の圧力室部57に繋がる第一の圧力室部54の圧力を所望の値(吐出圧)に近づけたり(第二処理、第三処理)、第二の圧力室部57を加圧して、これに繋がる第一の圧力室部54のエア等の異物を排出させたり(第四処理)することができる。また、前記変形動作(第一処理)の制御によれば、第一圧電素子55に印加する電圧を変化させて、ポンプ43による噴出能力を調整することができる。この結果、ポンプ43による給油の不安定を解消することが可能となる。
【0065】
特に、本実施形態では、前記のとおり、第一の圧電素子55と第二の圧電素子59との形式が異なっており、第二の圧電素子59が第二の圧力室部57の潤滑油を加圧する場合の出力は、第一の圧電素子55が第一の圧力室部54の潤滑油を加圧する場合の出力(最大出力)よりも大きい。このため、ポンプ43による給油が不安定となることにより発生した給油ユニット40の不調が、第一の圧電素子55による出力(噴出能力)では対処できないような場合であっても、第二の圧電素子59の機能(第二処理、第三処理、及び第四処理)によって、その不調を解消することが可能となる。
【0066】
〔その他について〕
圧力センサ50が、潤滑油の圧力を検出する領域は、第一の圧力室部54からタンク42までの間の潤滑油が存在する油領域であればよい。前記実施形態では、圧力センサ50は、第一の圧力室部54とタンク42との間の配管29の内圧を検出する場合について説明したが、圧力の検出領域を、配管29以外の油領域としてもよい。例えば、
図4に示すように、圧力センサ50は、第二の圧力室部57における潤滑油の圧力(内圧)を検出するように構成してもよい。
【0067】
また、前記実施形態では(
図3参照)、タンク42側に第二の圧力室部57が設けられており、この第二の圧力室部57の内圧を圧力調整部46(第二の圧電素子59)によって調整する場合について説明したが、圧力調整部46は、第一の圧力室部54からタンク42までの他の油領域における潤滑油の圧力を調整するように構成してもよい。例えば、
図5に示すように、圧力調整部46(第二の圧電素子59)は、配管29に設けられており、この配管29における潤滑油の圧力を調整するようにしてもよい。
また、その変形例として、圧力調整部46(第二の圧電素子59)が、
図6に示すように、ポンプ43内の油領域における潤滑油の圧力を調整するように構成してもよい。つまり、ポンプ43内における、第一の圧力室部54の上流側の流路37の潤滑油の圧力を、圧力調整部46(第二の圧電素子59)によって調整する構成としてもよい。
【0068】
これら各形態に示すように、圧力センサ50による圧力の検出の対象となる油領域と、圧力調整部46によって潤滑油の内圧を調整する対象となる油領域とは、(
図4及び
図5に示すように)同じであってもよく、(
図3及び
図6に示すように)異なっていてもよい。
また、圧力センサ50による圧力の検出の対象となる油領域を、第一の圧力室部54とタンク42との間の途中(例えば配管29、
図3参照)や、タンク42(第二の圧力室部57、
図5参照)とする他に、ポンプ43(前記上流側の流路37)としてもよい。更に、図示しないが、圧力センサ50による圧力の検出の対象となる油領域、及び、圧力調整部46によって潤滑油の内圧を調整する対象となる油領域を、それぞれ、前記途中(配管29)、第一の圧力室部54、又はタンク42から分岐して潤滑油が存在している領域とすることもできる。
【0069】
前記実施形態では(
図3参照)、第一の圧力室部54からタンク42までの間の潤滑油が存在する油領域を、第二の圧力室部57として説明しており、この油領域(第二の圧力室部57)における潤滑油の圧力を調整する機能を有する圧力調整部46が、第二の圧電素子59により構成されている場合について説明した。前記のような機能を有する圧力調整部46は、圧電素子による構成以外であってもよく、(例えば動力源を小型のモータとする)他のアクチュエータにより構成されていてもよい。
【0070】
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明の転がり軸受装置及び給油ユニットは、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態であってもよい。
例えば、
図1に示す軸受部20はアンギュラ玉軸受であるが、軸受の形式はこれに限らず、深溝玉軸受であってもよく、また、軸受部20は、転動体としてころを有している円すいころ軸受や円筒ころ軸受等であってよい。
【0071】
また、前記実施形態では(
図1参照)、給油ユニット40は、軸受部20と共に一体化され、軸受部20に給油を行なう場合について説明したが、給油ユニット40は他の回転部(例えば歯車機構)を給油するように、当該回転部と共に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0072】
10:転がり軸受装置 20:軸受部 21:内輪
22:外輪 23:玉(転動体) 29:配管
40:給油ユニット 42:タンク 43:ポンプ
44:制御部 46:圧力調整部 49:温度センサ(センサ)
50:圧力センサ(センサ) 54:第一の圧力室部(圧力室部)
55:第一の圧電素子(圧電素子) 57:第二の圧力室部(油領域)
59:第二の圧電素子