(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】熱可塑性プリプレグシート
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20221115BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20221115BHJP
【FI】
B29B11/16
B29K105:12
(21)【出願番号】P 2018109441
(22)【出願日】2018-06-07
【審査請求日】2021-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】葭原 法
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/061597(WO,A1)
【文献】特開2014-173005(JP,A)
【文献】特開2014-173006(JP,A)
【文献】特開2011-116841(JP,A)
【文献】特開2011-063681(JP,A)
【文献】特開2016-011403(JP,A)
【文献】特表2002-528300(JP,A)
【文献】特開2012-092303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29K 105/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂、強化繊維、及び高級脂肪酸化合物を含有する熱可塑性プリプレグシートであって、熱可塑性プリプレグシート100質量部に対して、高級脂肪酸化合物を0.07~2.0質量部含有し、熱可塑性プリプレグシート中に強化繊維は、体積分率で35~60%含まれ、該強化繊維の91~99.9質量%が熱可塑性プリプレグシート中に、単繊維数が4000~40000からなる繊維束として存在
し、熱可塑性プリプレグシートに対して離型性評価を行ったとき、ピン跡深さが0.5mm以下であることを特徴とする熱可塑性プリプレグシート。
【請求項2】
高級脂肪酸化合物の90質量%以上が、表面から深さ0.5mmまでの層及び/または裏面から深さ0.5mmまでの層に存在することを特徴とする請求項
1に記載の熱可塑性プリプレグシート。
【請求項3】
高級脂肪酸化合物が、熱可塑性樹脂の融点の-40℃から+40℃の範囲に融点を有する化合物である請求項1~
2のいずれかに記載の熱可塑性プリプレグシート。
【請求項4】
熱可塑性プリプレグシートが、強化繊維の繊維束に熱可塑性樹脂を含浸した、長さ10mm~150mm、幅3mm~50mm、厚み0.03mm~0.5mmの短冊状のプリプレグテープから構成されていることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の熱可塑性プリプレグシート。
【請求項5】
高級脂肪酸化合物が、高級脂肪酸バリウムである請求項1~
4のいずれかに記載の熱可塑性プリプレグシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束強化熱可塑性樹脂からなるプリプレグシートに関する。詳しくは、高級脂肪酸化合物を含有し、成形性に優れた繊維束強化熱可塑性プリプレグシートに関する。本発明によるプリプレグシートは、成形性や生産性に優れ、塗装や印刷性に優れ、パネル状構造材などに提供される。
【背景技術】
【0002】
長繊維強化熱可塑性樹脂を圧縮成形した成形品は、近年構造部材用として開発された(例えば、非特許文献1参照)。長繊維強化熱可塑性樹脂は、高い強度や剛性を有することから板状や梁状構造材として使用される。長繊維強化熱可塑性樹脂は、繊維の軸方向の引っ張りに対しては、非常に高い強度や剛性を示すが、曲げ変形や圧縮変形に対しては、変形により繊維は曲がりやすく、補強効果が活かされないので、高い強度や剛性を有しない。また繊維軸に対して直交方向の引っ張り変形に対しても、繊維による補強は殆ど効果を示さない。従って、成形品の機械的性質の異方性が大変大きく、実用に当っては、構造材としての信頼性の改善が課題であった。このために繊維束を縦方向や横方向として織った織物や編み物とした後、樹脂を含浸成形するか、含浸したプリプレグテープを織物や編み物として、それを加熱圧縮成形して、成形品を得ていた。しかし、強化繊維を織物や編み物としたプリフォームの予備成形体は、樹脂の含浸性が低く、単繊維間にボイドが多く、また単繊維を十分樹脂で覆うことが出来ず欠陥の多い成形品となり、目標の高い物性を有する成形品は得られなかった。また、繊維軸は織り目で拘束されており、成形時金型内で流動しにくいことから、深しぼり形状のある立体成形品や、リブやボスのある成形品は得られなかった。また、連続単繊維を面内に張り巡らした不織布マットに、樹脂含浸して得られたプリプレグも開示された。しかし、この場合も繊維はからみ合っており、成形時金型内での流動性はたいへん小さく、複雑な立体形状の成形品を得ることは困難であった。その後、特許文献1のように、強化繊維として、異方性の小さい不織布状の強化繊維を使用し、強化繊維に切り込みを入れて金型内で流動することや、特許文献2のように、繊維をある長さに切断してチョップドストランドマットに樹脂を含浸して得たプリプレグの成形品も開示された。しかし、マット状にした繊維は見かけの嵩が大きく、高い繊維分率の樹脂成形品を得ることが出来ず、結果として目的とする高強度・高弾性率の複合材料は得ることは出来なかった。また、特許文献3のように、流動する不連続繊維強化層と殆ど流動しない連続繊維強化層を組み合わせることが開示された。しかし、不連続繊維層と連続繊維層の熱膨張係数や弾性率の差が大きく、そりが発生することや、界面でせん断破壊を発生しやすく、実用化にはたくさんの課題があった。特許文献4のように、繊維束を所定の長さに切断後、特定の式で定義される臨界繊維数以上の繊維束が繊維全量に対して30%から90%未満になるように、また繊維束中の平均繊維単糸数が特定の式の範囲までなるように、繊維束を機械的に分解や開繊し、これに熱可塑性樹脂繊維や熱可塑性樹脂粉末を混合し、強化繊維が面内ランダム配向になるように散布した後、熱可塑性樹脂を溶融成形して得られたプリプレグが開示されている。特許文献4では、曲げ物性や圧縮物性はやや改善されたが、強化繊維の高い物性をその複合材料に反映して、構造材を得るという要求には大幅に未達であった。
【0003】
長繊維強化の熱可塑性複合材料は、単位重量当りの強度や剛性が高いことが期待されることから、自動車軽量化のために使用したいという市場の根強い希望があり、実用化に当たり成形サイクル時間が短く、生産性の高い熱可塑性プリプレグの強い開発要請があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-18724号公報
【文献】特開2007-262360号公報
【文献】特開2005-324340号公報
【文献】特開2013-10254号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】工業材料、37(1)、53~57(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の狙いは、繊維束強化熱可塑性樹脂の圧縮成形により、複雑な立体形状の成形品が得られ、機械的性質の信頼性が高く、かつ生産性に優れた成形品を提供するプリプレグシートを開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、繊維強化熱可塑性樹脂の圧縮成形において、機械的性質の信頼性が高く、また成形品の生産性が高く、経済性に優れた成形品を得るべき鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1. 熱可塑性樹脂、強化繊維、及び高級脂肪酸化合物を含有する熱可塑性プリプレグシートであって、熱可塑性プリプレグシート100質量部に対して、高級脂肪酸化合物を0.07~2.0質量部含有し、熱可塑性プリプレグシート中に強化繊維は、体積分率で35~60%含まれ、該強化繊維の91~99.9質量%が熱可塑性プリプレグシート中に、単繊維数が4000~40000からなる繊維束として存在することを特徴とする熱可塑性プリプレグシート。
2. 熱可塑性プリプレグシートに対して離型性評価を行ったとき、ピン跡深さが0.5mm以下であることを特徴とする1.に記載の熱可塑性プリプレグシート。
3. 高級脂肪酸化合物の90質量%以上が、表面から深さ0.5mmまでの層及び/または裏面から深さ0.5mmまでの層に存在することを特徴とする1.または2.に記載の熱可塑性プリプレグシート。
4. 高級脂肪酸化合物が、熱可塑性樹脂の融点の-40℃から+40℃の範囲に融点を有する化合物である1.~3.のいずれかに記載の熱可塑性プリプレグシート。
5. 熱可塑性プリプレグシートが、強化繊維の繊維束に熱可塑性樹脂を含浸した、長さ10mm~150mm、幅3mm~50mm、厚み0.03mm~0.5mmの短冊状のプリプレグテープから構成されていることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載の熱可塑性プリプレグシート。
6. 高級脂肪酸化合物が、高級脂肪酸バリウムである1.~5.のいずれかに記載の熱可塑性プリプレグシート。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性プリプレグシートは、圧縮成形により、複雑な立体形状の成形品が得られ、機械的性質の信頼性が高く、かつ成形サイクル時間が短く、生産性に優れた成形品を得ることができる。
【0010】
工業的には生産性はたいへん重要である。熱可塑性プリプレグシートから成形品への生産性は、(1)型内での流れ性、(2)固化速度、(3)離型性の因子に左右される。特に、熱可塑性プリプレグシートの場合、金型との密着性や付着性が高いので、生産性は離型性に大きく依存する。特定の離型剤を特定量、場合により局在させた本発明の熱可塑性プリプレグシートは、強化繊維と熱可塑性樹脂との高い接着力性を保持して、金型と熱可塑性樹脂との接着性を相反して低下させる性質をプリプレグシートに付与でき、生産性は大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】離型性評価の成形品形状と離型抵抗評価の概略図
【
図2】実施例2の熱可塑性プリプレグシート断面のX線マイクロアナライザー図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳述する。
本発明は、熱可塑性樹脂、強化繊維、及び高級脂肪酸化合物を含有する熱可塑性プリプレグシートであって、熱可塑性プリプレグシート100質量部に対して、高級脂肪酸化合物を0.07~2.0質量部含有し、熱可塑性プリプレグシート中に強化繊維は、体積分率で35~60%含まれ、該強化繊維の91~99.9質量%が熱可塑性プリプレグシート中に、単繊維数が4000~40000からなる繊維束として存在する熱可塑性プリプレグシートである。
【0013】
本発明の熱可塑性プリプレグシートにおいては、熱可塑性プリプレグシート中に体積分率で35~60%含まれる強化繊維は、その91~99.9質量%、好ましくは、93~99.9質量%、より好ましくは、93~99.5質量%が繊維束として存在する。本発明において、繊維束とは単繊維間の平均間隔が0.02mm以下、好ましくは0.01mm以下で、それぞれの隣接する繊維軸のなす角度が15度以下、好ましくは角度が10度以下で存在する繊維の集合体をいう。熱可塑性プリプレグシートの厚さ方向断面における強化繊維断面分布を、走査型電子顕微鏡により観察し識別することで、繊維束として存在する強化繊維の割合が算定される。繊維束として存在する強化繊維が91質量%未満では、繊維束としての強度や剛性への効果は低くなり好ましくない。また99.9質量%を超えるのは、工程管理上厳しいので好ましくない。また本発明において、繊維束は単繊維が4000~40000本から、好ましくは、6000~25000本から構成される。4000本未満では成形品が曲げや圧縮変形を受けた場合、繊維の補強効果が発揮されないので好ましくない。また40000本を超えると、均質性が低下するので好ましくない。
【0014】
また、本発明の熱可塑性プリプレグシートは、熱可塑性プリプレグシート100質量部に対して、高級脂肪酸化合物を0.07~2.0質量部、好ましくは、0.1~1.0質量部含有する。0.07質量部未満では、離型性改善効果は小さく好ましくない。また、2.0質量部を超えると、成形品の表面性が低下することや塗装や印刷性などの二次加工性が低下するので好ましくない。
【0015】
本発明で使用される強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、スチール繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ケナフ、コットンなど、使用される熱可塑性樹脂の加工温度で固体である高弾性率繊維が挙げられる。これらの中では、ガラス繊維、炭素繊維が好ましい。熱可塑性プリプレグシート中で繊維束として存在する点から、単繊維径が3μm以上9μm以下の炭素繊維束が本発明の効果発揮に好ましい。また、単繊維径が9μm以上20μm以下のガラス繊維束が本発明の効果発揮に好ましい。特に、炭素繊維束が好ましい。
【0016】
炭素繊維としては、製造法に特に制限されないが、ポリアクリロニトル繊維やセルロース繊維などの繊維を空気中で200~300℃にて処理した後、不活性ガス中で1000~3000℃以上で焼成され炭化製造された、引っ張り強度20t/cm2以上、引っ張り弾性率30GPa以上の炭素繊維が好ましい。本発明に使用できる炭素繊維の単繊維径は、特に制限されないが、複合化(強化繊維の熱可塑性樹脂による含浸)の製造ライン工程から3~9μmが好ましい。3μm未満では、含浸や脱泡が難しく、9μmを超えると、比表面積が小さくなり、複合化の効果が小さくなり好ましくない。本発明に使用される炭素繊維は、空気や硝酸による湿式酸化、乾式酸化、ヒートクリーニング、ウイスカライジングなどによる接着性改良のための処理されたものが好ましい。また本発明の熱可塑性プリプレグシート製造に使用される炭素繊維は、作業工程の取り扱い性から、120℃以下で軟化する収束剤により収束されていることが好ましい。
【0017】
ガラス繊維の材質としては、特に限定されないが、隣接する他素材を損なわないEガラスや、高強度のSガラスが好ましい。本発明に使用されるガラス繊維の単繊維径は、特に制限されないが、9~20μmが好ましく、特に13~18μmが好ましい。9μm未満では熱可塑性樹脂の含浸が難しく、20μmを超えると、比表面積が小さくなり、複合化の効果が小さくなり、強度や弾性率が低下するので好ましくない。また、本発明に使用されるガラス繊維は、100℃以下で軟化する集束剤により集束されていることが作業性上好ましい。
【0018】
本発明に使用される熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6,ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド6T共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリメチルペンテン、シンジオタクチックポリスチレンやこれらの共重合体やポリマーアロイ体などが挙げられる。これらの中では、ポリプロピレン、ポリアミド6、ポリアミドMXD6、ポリブチレンテレフタレートが、成形加工性と物性のバランスからして好ましい。特に、ポリプロピレン、ポリアミド6、ポリアミドMXD6が好ましい。
【0019】
本発明に使用される熱可塑性樹脂は、強化繊維との接着性を高めるために、変性されているものが好ましい。例えば、極性基を有しないポリプロピレンやポリメチルペンテンやシンジオタクチックポリスチレンの場合、無水マレイン酸やイタコン酸のような不飽和酸やグリシジルメタクリレートのような不飽和エポキシによる変性されたものが好ましい。
【0020】
本発明に使用される熱可塑性樹脂は、融点より30℃高い温度における21.2N荷重下のメルトフローレートが、30~150g/10minが好ましく、50~140g/10minが特に好ましい。30g/10min未満では、強化繊維への含浸性が低く、空隙率が高くなり好ましくない。また150g/10minを超えると、複合材料の溶融加工時、熱可塑性樹脂と強化繊維が分離しやすく好ましくない。
【0021】
本発明においては、強化繊維は、熱可塑性プリプレグシート中に体積分率で35~60%、好ましくは36~57%含まれる。強化繊維含有率としては、特に39~55体積%が、本発明の効果を発揮し、軽量化に有効な高い曲げ強度や圧縮強度を有する成形品を得る点から好ましい。
【0022】
本発明において高級脂肪酸化合物は、熱可塑性プリプレグシートに離型性を付与するために用いられる。高級脂肪酸化合物の高級脂肪酸とは、一般に炭素数6以上の脂肪族カルボン酸である。炭素数6~30の脂肪族カルボン酸が好ましい。本発明に使用される高級脂肪酸化合物としては、ラウリル酸、ステアリン酸、リシノール酸、モンタン酸などの高級脂肪酸の他、その塩やエステルが挙げられる。これらの中では、ステアリン酸、ラウル酸、モンタン酸化合物が工業的に入手しやすいので好ましい。これらの高級脂肪酸やこのリチュウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシュウム塩、カルシュウム塩、亜鉛塩、バリウム塩やブチルエステルやイソプロピルエステル、ペンチルエステル、ステアリルエステルなどが例示される。これらの中では、リチュウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシュウム塩、カルシュウム塩、亜鉛塩、バリウム塩、ブチルエステルなどが好ましい。特に、ステアリン酸リチュウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシュウム、ラウリル酸カルシュウム、ラウリル酸バリウム、モンタン酸部分カルシュウム塩が本発明の効果発揮に好ましい。さらには、融点が高く成形時の気化量が少なく、また理由は明確ではないが離型性を向上させる点から、高級脂肪酸バリウムが好ましい。これらの中で、走査熱量計DSCを使用して、ISO11357-3により試験した吸熱ピークとして示される融点が、熱可塑性プリプレグシートの母相を成す熱可塑性樹脂の融点の-40℃から+40℃範囲にある高級脂肪酸化合物を用いた場合、成形加工時の気化量が少なく、成形品や金型表面の汚染が抑制されるため、本発明の効果発揮に適している。例えば、母相が融点220℃のポリアミド6の場合、融点225℃程度のステアリン酸バリウムや融点230℃程度のラウリル酸バリウムが好ましい。融点が165℃のポリプロピレンを母相とする場合、融点153℃のステアリン酸カルシュウムも効果を発揮する。
【0023】
本発明の熱可塑性プリプレグシートは、圧縮成形による離型抵抗が低減し、離型性に優れるため、成形品の突出しによるピン跡のめり込みが抑制される。実施例の項に記載する離型性評価を行った場合、ピン跡深さ(ピン跡のめり込み深さ)が0.5mm以下であると使用上や外観上好ましい態様である。ピン跡深さを0.5mm以下とするための方法については、後記で説明する。
【0024】
本発明の熱可塑性プリプレグシートは、高級脂肪酸化合物の90質量%以上が、熱可塑性プリプレグシートの表面から深さ0.5mmまでの層、及び/または裏面から深さ0.5mmまでの層に存在していることが好ましい態様である。高級脂肪酸化合物の90質量%以上が、熱可塑性プリプレグシートの表面から深さ0.5mmまでの層、及び裏面から深さ0.5mmまでの層に存在していることがより好ましい。高級脂肪酸化合物の厚み方向の分布は、走査型電子顕微鏡を使用して、熱可塑性プリプレグシート断面の高級脂肪酸化合物の原子、例えばバリウムやカルシュウムに着目したX線分析(XMA)や面分析により知ることができる。
【0025】
高級脂肪酸化合物を0.2質量部以下配合した本発明の熱可塑性プリプレグシートを圧縮成形して得られた成形品は、溶剤に溶解やエマルジョン化したアクリル酸エステル樹脂のアクリル系、二液型の熱硬化性のウレタン系、二液型の熱硬化性エポキシ系の塗装密着性や印刷性や接着性は良好であり、脱脂やプライマーなしで塗装や印刷が可能なことも本発明の熱可塑性プリプレグシートからなる成形品の特徴の一つとなっている。
【0026】
本発明の熱可塑性プリプレグシートには、高級脂肪酸化合物に合わせて、フッ素化合物やシリコン化合物が使用できる。フッ素化合物としては、テトラフロロエチレンやジフロロジクロロエチレンやトリクロロモノフロロエチレンなどが挙げられる。また、シリコン化合物としては、ジメチルシロキサンやこれらの反応物などが挙げられる。これらのフッ素化合物やシリコン系化合物は、熱可塑性樹脂への練りこみや金型や離型紙へのスプレイにより用いられる。フッ素化合物やシリコン化合物の散布は、塗装性や接着性や印刷性に悪影響を与えることがあるので注意が必要である。
【0027】
本発明の熱可塑性プリプレグシートには、上記の必須成分の他に物性改良・成形性改良、耐久性改良を目的として、結晶核剤、滑剤、酸化防止剤、難燃剤、耐光剤、耐候剤、着色剤などを配合できる。
【0028】
本発明の熱可塑性プリプレグシートは、強化繊維の連続繊維束に熱可塑性樹脂を含浸したテープ状プリプレグを一方向に配列した一方向性プリプレグ材(UD材)や、前記テープ状プリプレグをカットした、厚さ0.03~0.5mm、好ましくは0.1~0.4mm、幅3~50mm、好ましくは5~40mm、長さ10~150mm、好ましくは25~100mmである短冊状のプリプレグテープを、繊維軸方向がランダムになるように配置し、圧縮成形することで得られる熱可塑性プリプレグシートであることが好ましい。熱可塑性プリプレグシートを成形品に成形する際の流動性の観点からは、前記の短冊状のプリプレグテープから構成されている熱可塑性プリプレグシートが好ましい態様である。
【0029】
本発明の熱可塑性プリプレグシートの製造法は、特に限定されない。例えば、熱可塑性樹脂の融点以上に温度調節されたスクリュータイプ押出機のホッパーに、熱可塑性樹脂(または変性熱可塑性樹脂)と、必要により高級脂肪酸化合物を所定割合に予備混合して供給する。溶融混合して得られた溶融樹脂をギアポンプの回転数にて計量して、熱可塑性樹脂の融点以上に温度調節された含浸用押出機の上流に供給する。一方、ロービング状の炭素繊維などの強化繊維束を拡張開繊し、含浸用押出機の上流に供給する。下流先端に開口部を絞ったスリットダイを備えた含浸用押出機中で樹脂圧により、ロービング繊維に熱可塑性樹脂を含浸・脱泡する。下流開口部から吐出されたテープ状プリプレグを冷却してかせに巻き取る。ここでテープ状プリプレグの厚さは、0.03~0.5mm、幅は、3~50mmであることが好ましい。
【0030】
このテープ状プリプレグを10mmから150mmの長さにカットする。10mmから150mmにカットされた短冊状のプリプレグテープを平板状の型内にランダムにばらまいて積層する。型を熱可塑性樹脂の融点より20~100℃程高く加熱した後、圧縮し、型を高温結晶化温度より、10~120℃低温まで冷却して、強化繊維がランダム配向した熱可塑性プリプレグシートを得る。熱可塑性プリプレグシートの大きさは、特に限定されないが、厚み2~6mm程度であり、シート面が四角の場合、縦300~1500mm、横300~600mm程度である。
【0031】
高級脂肪酸化合物を熱可塑性プリプレグシート中に含有させる方法は、離型性を発揮する上で、非常に重要である。含有させる方法としては、[1]樹脂練り込み法、[2]フイルム積層法、[3]散布法、[4]離型紙積層法などが挙げられる。以下、説明する。
【0032】
[1]樹脂練り込み法
強化繊維の繊維束に熱可塑性樹脂を含浸する前に、熱可塑性樹脂と高級脂肪酸化合物を所定割合で混合する。この場合、熱可塑性プリプレグシートの深さ(厚み)方向での高級脂肪酸化合物の分布は、ほぼ均等となる。本発明に使用される高級脂肪酸化合物は、疎水性部と親水部からなり、それぞれの親和性の差から、溶融した熱可塑性樹脂中で親水部が牽引し、金型表面側(熱可塑性プリプレグシートの表層側)に移行する性質を有する。高級脂肪酸化合物は、僅かではあるが金型表面側で濃度が高くなり、金型と固化した熱可塑性プリプレグシート(からなる成形品)の離型性を向上させる。特に、強化繊維として炭素繊維を用いた場合、炭素繊維の表面は、疎水性が強いので、高級脂肪酸化合物は、炭素繊維表面に配位しにくく、金型表面側(熱可塑性プリプレグシートの表層側)に配位しやすく、金型からの離型性改善効果は大きい。そのため、離型性評価を行った場合、ピン跡深さを0.5mm以下とすることが可能である。一方、強化繊維としてガラス繊維を用いた場合、ガラス繊維の表面は親水性のため高級脂肪酸化合物の金型表面側(熱可塑性プリプレグシートの表層側)への移行性が抑制されるため、離型性改善効果が低い。そのため、離型性評価を行った場合、ピン跡深さを0.5mm以下とすることが難しい。
【0033】
[2]フイルム積層法
高級脂肪酸化合物を配合しない熱可塑性樹脂を強化繊維に含浸して得られた熱可塑性プリプレグシート(前駆体)に、熱可塑性プリプレグシート(前駆体)の母相をなす熱可塑性樹脂と同類の熱可塑性樹脂に高級脂肪酸化合物を練り込み、Tダイから押し出し得られた高級脂肪酸化合物含有フイルムを熱可塑性プリプレグシート(前駆体)の少なくとも一表面(表面、裏面の内、少なくとも一方の面)に積層して、一体化させて熱可塑性プリプレグシートとする。一体化は、短冊状のプリプレグテープから熱可塑性プリプレグシート(前駆体)を得る際に、同時に行って熱可塑性プリプレグシートとしても良い。この熱可塑性プリプレグシートは、離型性評価を行った場合、ピン跡深さを0.5mm以下とすることが可能である。また、高級脂肪酸化合物含有フイルムの厚みは、通常0.5mm以下であり、高級脂肪酸化合物の90質量%以上が、熱可塑性プリプレグシートの表面から深さ0.5mmまでの層、及び/または裏面から深さ0.5mmまでの層に存在することを可能とする。高級脂肪酸化合物含有フイルムの厚みを調整することで、高級脂肪酸化合物の90質量%以上が、熱可塑性プリプレグシートの表面/裏面から深さ0.1mmまでの層、さらには深さ0.05mmまでの層に存在することを可能とする。
【0034】
[3]散布法
熱可塑性プリプレグシートを作製する際、金型の表面に、もしくは金型上の離型紙に所定量の高級脂肪酸化合物の粉末を散布して、その上に短冊状のプリプレグテープを積層し、溶融一体化して高級脂肪酸化合物含有熱可塑性プリプレグシートとする。この場合、熱可塑性プリプレグシートの裏面のみに高級脂肪酸化合物を散布・含有したことになるが、必要により、熱可塑性プリプレグシートの表面へも同様にして、高級脂肪酸化合物を散布・含有させても良い。この方法では、溶融一体化する際、高級脂肪酸化合物は、積層された短冊状のプリプレグテープの内、最下層(及び最上層)の短冊状のプリプレグテープの表面や間隙に付着しているので、高級脂肪酸化合物は熱可塑性プリプレグシートの表面や裏面から、短冊状のプリプレグテープ厚さの0.5mmまでに分布する。この方法で得られた熱可塑性プリプレグシートは、表面及び/または裏面に高級脂肪酸化合物が局在化するため、離型性に優れているが、高級脂肪酸化合物が熱可塑性プリプレグシートの表面(/裏面)全体に均一に分散しているとは言えず、他の方法に比べて離型性は十分満足できるものではなく、離型性評価を行った場合、ピン跡深さを0.5mm以下とすることは難しい。なお、連続単繊維からなるマットに熱可塑性樹脂を含浸したプリプレグの場合、空隙は連続しているため、散布した高級脂肪酸化合物は表面(/裏面)から0.5mmを超えて拡散するので、表面(/裏面)に局在することはできない。
【0035】
[4]離型紙積層法
高級脂肪酸化合物を配合しない熱可塑性樹脂を強化繊維に含浸して得られた熱可塑性プリプレグシート(前駆体)に、高級脂肪酸化合物を練り込んだ離型紙(高級脂肪酸化合物含有離型紙)を熱可塑性プリプレグシート(前駆体)の少なくとも一表面(表面、裏面の内、少なくとも一方の面)に積層して、一体化させて熱可塑性プリプレグシートとする。この場合、熱可塑性プリプレグシートを圧縮成形等で成形品とした後、離型紙を剥がすことで最終成形品となる。この方法により得られた熱可塑性プリプレグシートは、離型性評価を行った場合、ピン跡深さを0.5mm以下とすることが可能である。また、高級脂肪酸化合物含有離型紙の厚みは、通常0.5mm以下であり、高級脂肪酸化合物の90質量%以上が、熱可塑性プリプレグシートの表面から深さ0.5mmまでの層、及び/または裏面から深さ0.5mmまでの層に存在することを可能とする。高級脂肪酸化合物含有離型紙の厚みを調整することで、高級脂肪酸化合物の90質量%以上が、熱可塑性プリプレグシートの表面/裏面から深さ0.1mmまでの層、さらには深さ0.05mmまでの層に存在することを可能とする。
【0036】
また、本発明の要件を満たす熱可塑性プリプレグシートは、単品としてのみならず、さらに不織布を使用したプリプレグシート、強化繊維マットを使用したプリプレグシート、プリプレグテープを同方向に配列した一軸配向シート、プリプレグテープの直交織物や多軸織物などから選ばれた1種以上を組み合わせて、いろいろな変形方向に対する要求性能を満たすことができる。
【0037】
本発明の熱可塑性プリプレグシートは、赤外線加熱や高周波加熱により、母相を成す熱可塑性樹脂を加熱溶融して、圧縮成形機の金型に供給して、賦形冷却後脱型して構造材の部品が成形される。
【0038】
本発明の熱可塑性プリプレグシートから得られた成形部品は、自動車のフレーム、2輪車のフレーム、農機具のフレーム、OA機器のフレーム、ホイール、機械部品など高い強度と剛性の必要な部品に利用される。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例と比較例における試験方法は、次のように行なった。
【0040】
(1)離型性
400mm×400mm×2mmの平板の下部に端部とそれから100mm毎に格子状に、2mm幅で高さ3mm、抜き勾配1°のリブ構造を有する圧縮成形用金型(
図1参照。
図1-1は平面図、
図1-2は断面図。)を使用した。その格子状の中央部に8mmφの径を有する突出しピン16本を配置し、その突出しピン16本をエジェクター盤上に立てた。そのエジェクター盤と成形機のエジェクターロッドの間に圧力センサー(双葉電子工業社製 圧力センサー(ボタン形))を配置した。成形後のエジェクターロッドにかかる圧力を、圧力センサーのX-T記録計(日立ハイテクソリュウションズ、VKP7000記録計)に記録して、脱型時の離型抵抗を算定した。
具体的には、厚さ約3mmの熱可塑性プリプレグシートを390mm×390mmに切削し、遠赤外線加熱器で、表面が、母相をなす熱可塑性樹脂の(融点+40℃)~(融点+80℃)になるまで加熱し、圧縮成形機に金型をセットし、予め母相をなす熱可塑性樹脂の(融点-60℃)~(融点-40℃)に温度調節した金型のキャビティ400mm×400mmの中央部に熱可塑性プリプレグシートをセットした。その後速やかに金型を閉じて、40MPaで2分間負荷した。その後上型を開き、下型の突出しピンにより成形品を5mm/sの速度で突き上げた。突出しピンを作動するエジェクター盤とエジェクターロッドの間に配置した圧力センサーにより、エジェクターロッドの負荷をX―Tレコーダーに記録した。エジェクターロッドに掛る負荷を離型抵抗(N)とした。また突き出された成形品の4隅と中央(4つの内の任意の1つ)の5箇所に烙印されたピン跡を平面部からの深さをノギスで測定し、その平均値をピン跡深さとして評価した。ピン跡深さから、離型性を下記の基準で評価した。
×:脱型時ピンが突き抜け、またはピン跡深さ1mm超、△:ピン跡深さ1mm~0.5mm、○:ピン跡深さ0.5mm未満
【0041】
(2)高級脂肪酸化合物の分布
熱可塑性プリプレグシートからなる圧縮成形品の中央部から10mm×10mm×2mm試験片を切削し、10mm×2mm面が観察面となるように、日立ハイテクノロジーズ社走査電子顕微鏡(SEM)の試料台にセットした。30KVに昇圧し、試験片の中央部を200倍で焦点を合わした。ここで、バリウムの二次電子に着目して、表面から厚さ方向にトレースした。高級脂肪酸化合物がステアリン酸バリウムの場合、バリウムを介して、ステアリン酸バリウムの分布状態を示した。
【0042】
(3)繊維束として存在する質量割合(繊維束率)
400mm×400mm×2mmの成形品の中央部から10mm×10mm×2mmの試料を切削した。試料の観察する断面10mm×2mmを砥石で面粗度1μm程度に研磨した。研磨済試料を走査電子顕微鏡にセットして、40KVの電圧で100倍にて試料中央部の強化繊維の断面を観察し、写真撮影した。写真の100mm×100mm(実試料1mm×1mm)中に、観察される強化繊維数Nを数えた。次に、本発明において、強化繊維間の間隔が1mm(実試料で10μm)以下であると繊維束を成すと定義し、総強化繊維数Nを数えた中で、繊維束を成す強化繊維数Mを数えた。総強化繊維数に対する繊維束を成す強化繊維の比M/Nを算定し、繊維束率とした。
【0043】
[実施例1]
12000本の炭素繊維からなるロービング(東レ社製 トレカT700)を6kg/Hになる速度で拡張開繊して、含浸台のダイヘッドに供給した。ポリアミド6樹脂(東洋紡社製 T800、260℃、1.2kg荷重下のメルトフローレート42g/10min)とステアリン酸バリウム(ナカライテスク、EP級)を、270℃に温度調節されたスクリュー式押し出し機のホッパーに投入し、ステアリン酸バリウム含有ポリアミド6樹脂をギアポンプにより5.7kg/H(ステアリン酸バリウムとしては0.023kg/H)を計量して、含浸台のダイヘッドに供給した。含浸台で加圧含浸、脱泡後、幅10mm、高さ0.2mmのダイから含浸被覆されたテープ状プリプレグを押し出し、空冷固化した後、紙管に巻き取った。
得られたテープ状プリプレグを50mmにカットし、短冊状のプリプレグテープを400mm×400mm×3mmの平板状の型内に、ランダムにばらまき供給した。型を280℃に加熱した後、圧縮し、型を120℃まで冷却して、強化繊維がランダム配向した熱可塑性プリプレグシートを得た。
得られた厚さ約3mmの熱可塑性プリプレグシートを390mm×390mmに切削し、遠赤外線加熱器で、表面が270℃になるまで加熱し、圧縮成形機に金型をセットし、予め180℃に温度調節した金型のキャビティ400mm×400mmの中央部に熱可塑性プリプレグシートをセットし、離型性の評価を行った。
【0044】
[実施例2]
ポリアミド6樹脂(東洋紡社製 T800、260℃、1.2kg荷重下のメルトフローレート42g/10min)とステアリン酸バリウム(ナカライテスク、EP級)を、270℃に温度調節されたスクリュー式押し出し機のホッパーに投入し、溶融混練して、押し出し機ヘッドのTダイより押し出し、水冷の引き取りローラーの速度を調節して、厚さ0.020mm、幅100mmのステアリン酸含有フイルム(ステアリン酸バリウムの含有量0.164質量%)を得た。
ポリアミド6樹脂(東洋紡社製 T800、260℃、1.2kg荷重下のメルトフローレート42g/10min)を270℃に温度調節されたスクリュー式押し出し機のホッパーに投入し、ポリアミド6樹脂をギアポンプにより5.7kg/Hを計量して、含浸台のダイヘッドに供給した。また、12000本の炭素繊維からなるロービング(東レ社製 トレカT700)を6kg/Hになる速度で拡張開繊して、含浸台のダイヘッドに供給した。含浸台で加圧含浸、脱泡後、幅10mm、高さ0.2mmのダイから含浸被覆されたテープ状プリプレグを押し出し、空冷固化した後、紙管に巻き取った。
得られたテープ状プリプレグを50mmにカットし、短冊状のプリプレグテープを400mm×400mm×3mmの平板状の型内に、上記の100mm×400mm×0.02mmのステアリン酸含有フイルム4枚を並べて敷き、その上に短冊状のプリプレグテープをランダムにばらまき、更にその上に上記の100mm×400mm×0.02mmのステアリン酸含有フイルム4枚を並べて覆った。平板状の金型を280℃に加熱した後、圧縮し、型を120℃まで冷却して、強化繊維がランダム配向した熱可塑性プリプレグシートを得た。
得られた厚さ約3mmの熱可塑性プリプレグシートを390mm×390mmに切削し、遠赤外線加熱器で、表面が270℃になるまで加熱し、圧縮成形機に金型をセットし、予め180℃に温度調節した金型のキャビティ400mm×400mmの中央部に熱可塑性プリプレグシートをセットし、離型性の評価を行った。
高級脂肪酸化合物の分布を調べたところ、
図2のようであった。
図2は、ステアリン酸バリウムの厚さ方向分布で、二次X線強度と成形品断面深さの関係を示している。高級脂肪酸化合物は、深さ0.035mmの範囲までに存在することが分かった。
【0045】
[実施例3]実施例3は参考例である。
12000本の炭素繊維からなるロービング(東レ社製 トレカT700)を6kg/Hになる速度で拡張開繊して、含浸台のダイヘッドに供給した。ポリアミド6樹脂(東洋紡社製 T800、260℃、1.2kg荷重下のメルトフローレート42g/10min)を270℃に温度調節されたスクリュー式押し出し機のホッパーに投入し、ポリアミド6樹脂をギアポンプにより5.7kg/Hを計量して、含浸台のダイヘッドに供給した。含浸台で加圧含浸、脱泡後、幅10mm、高さ0.2mmのダイから含浸被覆されたテープ状プリプレグを押し出し、空冷固化した後、紙管に巻き取った。
得られたプリプレグテープを50mmにカットし、短冊状のプリプレグテープを得た。400mm×400mm×3mmの平板状の型内に、ステアリン酸バリウムの粉末0.48gを散布し、その上に短冊状のプリプレグテープをランダムにばらまき、平板状の金型を280℃に加熱した後、圧縮し、型を120℃まで冷却して、強化繊維がランダム配向し、裏面にステアリン酸バリウムが散布・含有された熱可塑性プリプレグシートを得た。
得られた厚さ約3mmの熱可塑性プリプレグシートを390mm×390mmに切削し、遠赤外線加熱器で、表面が270℃になるまで加熱し、圧縮成形機に金型をセットし、予め180℃に温度調節した金型のキャビティ400mm×400mmの中央部に熱可塑性プリプレグシートをセットし、離型性の評価を行った。
高級脂肪酸化合物の分布を調べたところ、高級脂肪酸化合物は、深さ0.2mmの範囲までに90質量%以上が存在することが分かった。
【0046】
[実施例4、6~11]実施例4は参考例である。
強化繊維と熱可塑性樹脂の種類や配合比、離型剤(高級脂肪酸化合物)の種類と添加量を、表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様に熱可塑性プリプレグシートを作製した後、評価を行った。
【0047】
[実施例5]
強化繊維の種類を、表1に示したように変更した以外は、実施例2と同様に熱可塑性プリプレグシートを作製した後、評価を行った。高級脂肪酸化合物の分布を調べたところ、実施例2と同様の結果であった。
【0048】
[比較例1~4]
強化繊維と熱可塑性樹脂の種類や配合比、離型剤(高級脂肪酸化合物)の有無や添加方法を表2に示したように変更した以外は、実施例1と同様に熱可塑性プリプレグシートを作製した後、評価を行った。
【0049】
実験に使用した原料と記号:
PP:ポリプロピレンW101(住友化学社製)98.5質量部に、ジクミルパーオキサイド(日本油脂社製パークミルD)0.5質量部、粉末化した無水マレイン酸(ナカライテスク社製)2質量部を予備混合して、190℃に温度調節された二軸押出機のホッパーに供給して、スクリュウ80回転/分にて溶融反応して得たストランドを水槽で冷却固化して得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MFR50g/min)、融点165℃
PA6:ポリアミド6樹脂 T800(東洋紡社製、260℃、1.2kg荷重下のおけるMFR42g/10min,融点227℃)
GF:ガラス繊維ロービング、(日本電気硝子社製、AR2500H-10,300ストランド)
CF:炭素繊維、東レ社製トレカT700(単繊維径6.4μm、12,000フィラメント)
St-Ba:ステアリン酸バリウム(ナカライテスク社製、EP試薬)
St-Ca:ステアリン酸カルシュウム(ナカライテスク社製、EP試薬)
W―E:モンタン酸エステルワックス(クラリアント社製、WAX E)
【0050】
【0051】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、繊維束強化熱可塑性樹脂の圧縮成形サイクル時間が短く、生産性の高い熱可塑性プリプレグシートが提供される。このプリプレグの使用により、複雑な立体形状の成形品が、離型時変形なく、かつ生産性に優れた成形品を提供できる。
【符号の説明】
【0053】
A:突出しピンの配置
B:リブ
C:突出しピン
D:エジェクター盤
E:エジェクターロッド
F:圧力センサー