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特許7176248熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュール、及び、熱電変換材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュール、及び、熱電変換材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/22 20060101AFI20221115BHJP
   C04B 35/58 20060101ALI20221115BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
H01L35/22
C04B35/58 085
H01L35/34
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2018121096
(22)【出願日】2018-06-26
(65)【公開番号】P2019012828
(43)【公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2017127097
(32)【優先日】2017-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中田 嘉信
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-050325(JP,A)
【文献】特開2016-213343(JP,A)
【文献】特開2016-207825(JP,A)
【文献】特開2009-188368(JP,A)
【文献】ISODA, Yukihiro et al.,Effects of Al/Sb Double Doping on the Thermoelectric Properties of Mg2Si0.75Sn0.25,Journal of ELECTRONIC MATERIALS,2014年06月,Vol. 43, No. 6,pp. 2053-2058,<DOI: 10.1007/s11664-013-2947-7>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/14、35/22、35/34、
C04B 35/58
C22C 1/05
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる熱電変換材料であって、
アルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有しており、
前記アルミニウム酸化物は、前記マグネシウムシリサイドの結晶粒界に偏在していることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
ドーパントとして、Li,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu,Yから選択される1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
アルミニウムを含有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
【請求項5】
前記焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の熱電変換材料。
【請求項6】
前記焼結体を、200Paの水蒸気雰囲気下、600℃まで加熱し、600℃において10分間保持した後、25℃まで冷却し、前記焼結体の結晶粒内を加速電圧3kVとしたSEM-EDXの分析により得られる、前記焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.5原子%以上2原子%以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
【請求項7】
マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる熱電変換材料であって、
前記マグネシウムシリサイドはMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6)であり、
前記焼結体はドーパントとしてSbを含有し、
前記焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内であることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項8】
ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第1層と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層と、が直接接合された構造とされており、
前記第1層は、アルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有しており、前記アルミニウム酸化物は、前記マグネシウムシリサイドの結晶粒界に偏在していることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項9】
前記第2層は、アルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有しており、前記アルミニウム酸化物は、前記マグネシウムシリサイドの結晶粒界に偏在していることを特徴とする請求項8に記載の熱電変換材料。
【請求項10】
前記第1層及び前記第2層のいずれか一方又は両方が、アルミニウムを含有することを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の熱電変換材料。
【請求項11】
マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる第1層と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層と、が直接接合された構造とされており、
前記第1層は、前記マグネシウムシリサイドがMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6)であり、ドーパントとしてSbを含有し、前記焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内であることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の熱電変換材料と、前記熱電変換材料の一方の面および対向する他方の面にそれぞれ接合された電極と、を備えたことを特徴とする熱電変換素子。
【請求項13】
請求項12に記載の熱電変換素子と、前記熱電変換素子の前記電極にそれぞれ接合された端子と、を備えたことを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項14】
請求項8から請求項11のいずれか一項に記載の熱電変換材料と、前記熱電変換材料の一方の面および対向する他方の面にそれぞれ接合された電極と、前記電極にそれぞれ接合された端子と、を備え、
前記第1層が低温側に配置され、前記第2層が高温側に配置されることを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項15】
マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる熱電変換材料の製造方法であって、
Mg及びSiを含む原料粉にアルミニウム酸化物粉を混合し、前記アルミニウム酸化物粉の含有量が0.5mass%以上10mass%以下の範囲内とされた焼結原料粉を得る焼結原料粉形成工程と、
前記焼結原料粉を、焼結温度が800℃以上1200℃以下、前記焼結温度での保持時間が5分以下、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の条件で、加圧しながら加熱して焼結体を形成する焼結工程と、を備えていることを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
【請求項16】
前記焼結原料粉形成工程において使用する前記原料粉が、ドーパントとしてLi,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu、Yから選択される1種または2種以上を含むマグネシウムシリサイドで構成されていることを特徴とする請求項15に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項17】
前記焼結原料粉形成工程において使用する前記原料粉が、ノンドープのマグネシウムシリサイドで構成されていることを特徴とする請求項15に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項18】
前記焼結原料粉形成工程において、さらにアルミニウム粉を添加することを特徴とする請求項15から請求項17のいずれか一項に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項19】
マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる熱電変換材料の製造方法であって、
MgとSiとSnとSbとを含む原料粉にアルミニウム粉を混合し、前記アルミニウム粉の含有量が0.05mass%以上2.0mass%以下の範囲内とされた焼結原料粉を得る焼結原料粉形成工程と、
前記焼結原料粉を、焼結温度が650℃以上850℃以下、前記焼結温度での保持時間が5分以下、加圧荷重が10MPa以上50MPa以下の条件で、加圧しながら加熱して焼結体を形成する焼結工程と、を備えていることを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
【請求項20】
ノンドープのマグネシウムシリサイドで構成された第1原料粉にアルミニウム酸化物粉が混合され、前記アルミニウム酸化物粉の含有量が0.5mass%以上10mass%以下の範囲内とされた第1焼結原料粉と、ドーパントとしてLi,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu,Yから選択される1種または2種以上を含むマグネシウムシリサイドで構成された第2原料粉を有する第2焼結原料粉と、を積層して配置し、
積層した第1焼結原料粉及び第2焼結原料粉を、焼結温度が800℃以上1200℃以下、前記焼結温度での保持時間が5分以下、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の条件で、加圧しながら加熱して、ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第1層と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層と、が直接接合された構造の熱電変換材料を製造することを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
【請求項21】
前記第2焼結原料粉は、前記第2原料粉にアルミニウム酸化物粉が混合され、前記アルミニウム酸化物粉の含有量が0.5mass%以上10mass%以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項20に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項22】
MgとSiとSnとSbとを含む第1原料粉にアルミニウム粉が混合され、前記アルミニウム粉の含有量が0.05mass%以上2.0mass%以下の範囲内とされた第1焼結原料粉と、ドーパントとしてLi,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu,Yから選択される1種または2種以上を含むマグネシウムシリサイドで構成された第2原料粉を有する第2焼結原料粉と、を準備し、
記第2焼結原料粉を、焼結温度が800℃以上1200℃以下、前記焼結温度での保持時間が5分以下、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の条件で、加圧しながら加熱して焼結体を形成し、得られた焼結体に前記第1焼結原料粉を積層して配置し、焼結温度が650℃以上850℃以下、前記焼結温度での保持時間が5分以下、加圧荷重が10MPa以上50MPa以下の条件で、加圧しながら加熱することにより、ドーパントとしてSbを含有するとともに、結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内であるMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6)の焼結体からなる第1層と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層と、が直接接合された構造の熱電変換材料を製造することを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュール、及び、熱電変換材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱電変換材料からなる熱電変換素子は、ゼーベック効果、ペルティエ効果といった、熱と電気とを相互に変換可能な電子素子である。ゼーベック効果は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する効果であり、熱電変換材料の両端に温度差を生じさせると起電力が発生する現象である。こうした起電力は熱電変換材料の特性によって決まる。近年ではこの効果を利用した熱電発電の開発が盛んである。
上述の熱電変換素子は、熱電変換材料の一端側及び他端側にそれぞれ電極が形成された構造とされている。
【0003】
このような熱電変換素子(熱電変換材料)の特性を表す指標として、例えば以下の(1)式で表されるパワーファクター(PF)や、以下の(2)式で表される無次元性能指数(ZT)が用いられている。なお、熱電変換材料においては、一面側と他面側とで温度差を維持する必要があるため、熱伝導性が低いことが好ましい。
PF=Sσ・・・(1)
但し、S:ゼーベック係数(V/K)、σ:電気伝導率(S/m)
ZT=SσT/κ・・・(2)
但し、T=絶対温度(K)、κ=熱伝導率(W/(m×K))
【0004】
ここで、上述の熱電変換材料として、例えば特許文献1に示すように、マグネシウムシリサイドに各種ドーパントを添加したものが提案されている。なお、特許文献1に示すマグネシウムシリサイドからなる熱電変換材料においては、所定の組成に調整された原料粉を焼結することによって製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-179322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上述の熱電変換材料においては、前述のパワーファクター(PF)や無次元性能指数(ZT)について、ある温度でのピーク値を用いて評価されている。しかしながら、上述の熱電変換素子においては、一端が高温に保持されるとともに他端が低温に保持されるため、熱電変換材料の内部で大きな熱勾配を有する。このため、例えば高温側でパワーファクター(PF)や無次元性能指数(ZT)が高くても、低温側でパワーファクター(PF)や無次元性能指数(ZT)が低いと、熱電変換素子全体での熱電変換性能は高くならない。このため、広い温度範囲において、高いパワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)を有する熱電変換材料が求められている。
【0007】
また、マグネシウムシリサイドを主成分とする熱電変換材料においては、高温条件で使用した際にマグネシウムシリサイドの一部が分解してマグネシウム酸化物が形成され、変色することがある。また、分解がさらに進行してマグネシウム酸化物の形成が進むと、マグネシウムシリサイドとマグネシウム酸化物との熱膨張係数の違いに起因して、熱電変換材料自体が破損したり、熱電変換材料が電極から剥離したりするといった問題が生じてしまう。このため、熱電変換材料には、高温条件で使用した際の耐久性も求められている。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなり、広い温度範囲で優れた熱電変換性能を有し、さらに、高温条件で使用した際の耐久性に優れた熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュール、及び、この熱電変換材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の熱電変換材料は、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる熱電変換材料であって、アルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有しており、前記アルミニウム酸化物は、前記マグネシウムシリサイドの結晶粒界に偏在していることを特徴としている。
【0010】
この構成の熱電変換材料によれば、アルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有しており、前記アルミニウム酸化物が、前記マグネシウムシリサイドの結晶粒界に偏在している。これらの結晶粒界に偏在したアルミニウム酸化物の一部とマグネシウムシリサイド(MgSi)が分解して形成されたMgとが反応してAlとMgOが生成し、このAlによって粒界抵抗が低下し、パワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)を向上させることができると考えられる。また、一部のAlは結晶粒内にも拡散し、Mgと置換して格子サイトに入り、余分な電子を放出し、粒子の抵抗を下げていると考えられる。
【0011】
また、粒界に偏在した未反応のアルミニウム酸化物によって、雰囲気中の酸素が前記マグネシウムシリサイドの結晶粒界に沿って内部にまで侵入することを抑制し、これによりマグネシウムシリサイドの分解を抑制することができ、高温条件で使用した際の耐久性を向上させることができると考えられる。さらに、粒内に拡散したAlが、大気中などの酸化雰囲気で素子を高温に晒した場合に表面に拡散し、表面にMgOが形成される際にAlも酸化してその中に取り込まれることにより、あるいは、Alの緻密な酸化膜が形成されて素子内部への酸素の拡散を抑制することにより、酸化を抑制していると考えられる。
したがって、高温条件下でも特性が安定することになり、広い温度範囲においてパワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)が高く、熱電変換性能に優れている。
【0012】
ここで、本発明の熱電変換材料においては、ドーパントとして、Li,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu,Yから選択される1種または2種以上を含んでいてもよい。
この場合、熱電変換材料を特定の半導体型、すなわち、n型熱電変換材料やp型熱電変換材料とすることができる。
【0013】
また、本発明の熱電変換材料においては、ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体で構成されていてもよい。
この場合、ドーパントを含まないノンドープのマグネシリサイドの焼結体で構成されており、さらにアルミニウム酸化物を有しているので、300℃以下の低温条件でも、パワーファクター(PF)が高くなり、熱電変換性能に優れている。
【0014】
さらに、本発明の熱電変換材料においては、アルミニウムを含有していてもよい。
この場合、アルミニウムが表面に偏在することになり、さらに耐酸化性を向上させることが可能となる。
【0015】
また、本発明の熱電変換材料においては、前記焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内であることが好ましい。
この場合、上述のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上であるので、電気抵抗の低減効果が十分に発揮され、熱電特性を確実に向上させることができる。また、耐酸化性を確実に向上させることができる。
一方、上述のアルミニウムの濃度が0.20原子%以下であるので、例えば、600℃を超えるような高い温度となったとき、溶融したアルミニウムが表面に球状の異物を形成することを抑制でき、熱電変換材料の耐食性の低下を抑制することができる。
【0016】
さらに、本発明の熱電変換材料においては、前記焼結体を、200Paの水蒸気雰囲気下、600℃まで加熱し、600℃において10分間保持した後、25℃まで冷却し、前記焼結体の結晶粒内を加速電圧3kVとしたSEM-EDXの分析により得られる、前記焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.5原子%以上2原子%以下であることが好ましい。
この場合、前記焼結体を、200Paの水蒸気雰囲気下、600℃まで加熱し、600℃において10分間保持した後、25℃まで冷却しているので、熱電変換材料を大気中で使用した際の酸化の状態を評価することができる。そして、上述の条件で加熱後の焼結体においても、結晶粒内のアルミニウムの濃度が上述の範囲内とされているので、表面に異物が生じにくく、耐酸化性に優れている。
【0017】
また、本発明の熱電変換材料は、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる熱電変換材料であって、前記マグネシウムシリサイドはMgSiSn1-x(但し、 0.2<x<0.6)であり、前記焼結体はドーパントとしてSbを含有し、前記焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内であることを特徴としている。
【0018】
この構成の熱電変換材料によれば、SbをドープしたMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6)を主成分とする焼結体からなり、前記焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内とされているので、低温領域から中温域においてPFが高くなり、熱電変換効率を向上させることができる。
【0019】
また、本発明の熱電変換材料は、ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第1層と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層と、が直接接合された構造とされており、前記第1層は、アルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有しており、前記アルミニウム酸化物は、前記マグネシウムシリサイドの結晶粒界に偏在していることを特徴としている。
【0020】
この構成の熱電変換材料によれば、第1層が、ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体からなり、アルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有しているので、第1層において低温領域でのPFが高くなるため、第1層を低温側に配置し、第2層を高温側に配置することで、熱電変換効率をさらに向上させることが可能となる。
また、母相が同じ組成であるので、同一の焼結条件で第1層と第2層を一度に焼結することができる。
【0021】
ここで、本発明の熱電変換材料においては、前記第2層は、アルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有しており、前記アルミニウム酸化物は、前記マグネシウムシリサイドの結晶粒界に偏在している構成としてもよい。
この場合、第2層において、高温条件下でも特性が安定することになり、広い温度範囲においてパワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)が高く、熱電変換性能に優れている。
【0022】
さらに、本発明の熱電変換材料においては、前記第1層及び前記第2層のいずれか一方又は両方が、アルミニウムを含有していてもよい。
この場合、前記第1層及び前記第2層のいずれか一方又は両方の表面にアルミニウムが偏在することになり、さらに耐酸化性を向上させることが可能となる。
【0023】
また、本発明の熱電変換材料は、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる第1層と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層と、が直接接合された構造とされており、前記第1層は、前記マグネシウムシリサイドがMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6)であり、ドーパントとしてSbを含有し、前記焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内であることを特徴としている。
【0024】
この構成の熱電変換材料によれば、第1層が、SbをドープしたMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6)を主成分とする焼結体からなり、前記焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内とされているので、第1層において低温領域でのパワーファクター(PF)が高くなるため、第1層を低温側に配置し、第2層を高温側に配置することで、熱電変換効率をさらに向上させることが可能となる。
【0025】
本発明の熱電変換素子は、上述の熱電変換材料と、前記熱電変換材料の一方の面および対向する他方の面にそれぞれ接合された電極と、を備えたことを特徴としている。
この構成の熱電変換素子によれば、上述の熱電変換材料を備えているので、広い温度範囲においてパワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)が高く、熱電変換性能に優れている。
【0026】
本発明の熱電変換モジュールは、上述の熱電変換素子と、前記熱電変換素子の前記電極にそれぞれ接合された端子と、を備えたことを特徴としている。
この構成の熱電変換モジュールによれば、上述の熱電変換モジュールを備えているので、広い温度範囲においてパワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)が高く、熱電変換性能に優れている。
【0027】
また、本発明の熱電変換モジュールは、前記第1層と前記第2層を有する上述の熱電変換材料と、前記熱電変換材料の一方の面および対向する他方の面にそれぞれ接合された電極と、前記電極にそれぞれ接合された端子と、を備え、前記第1層が低温側に配置され、前記第2層が高温側に配置されることを特徴としている。
この構成の熱電変換モジュールによれば、低温領域においてパワーファクター(PF)が高い第1層と高温領域においてパワーファクター(PF)が高い第2層とを有し、低温側に第1層が配置され、高温側に第2層が配置されているので、熱電変換材料の全体でパワーファクター(PF)が高くなり、熱電変換性能がさらに優れることになる。
【0028】
本発明の熱電変換材料の製造方法は、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる熱電変換材料の製造方法であって、Mg及びSiを含む原料粉にアルミニウム酸化物粉を混合し、前記アルミニウム酸化物粉の含有量が0.5mass%以上10mass%以下の範囲内とされた焼結原料粉を得る焼結原料粉形成工程と、前記焼結原料粉を、焼結温度が800℃以上1200℃以下、前記焼結温度での保持時間が5分以下、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の条件で、加圧しながら加熱して焼結体を形成する焼結工程と、を備えていることを特徴としている。
なお、Mg及びSiを含む原料粉として、MgSiを含む原料粉を用いることができる。
【0029】
この構成の熱電変換材料の製造方法によれば、アルミニウム酸化物粉を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含む焼結原料粉を加圧加熱して焼結しているので、前記マグネシウムシリサイドの粒界に前記アルミニウム酸化物が偏在した焼結体を得ることができる。また、アルミニウム酸化物の一部が分解して生成したAlが結晶粒内に拡散した焼結体を得ることができる。このため、結晶粒子の電気抵抗を下げることができる。
【0030】
ここで、本発明の熱電変換材料の製造方法においては、前記焼結原料粉形成工程において使用する前記原料粉が、ドーパントとしてLi,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu,Yから選択される1種または2種以上を含むマグネシウムシリサイドで構成されていてもよい。
この構成の熱電変換材料の製造方法によれば、特定の半導体型の熱電変換材料を製造することが可能となる。
【0031】
また、本発明の熱電変換材料の製造方法においては、前記焼結原料粉形成工程において使用する前記原料粉が、ノンドープのマグネシウムシリサイドで構成されていてもよい。
この構成の熱電変換材料の製造方法によれば、300℃以下の低温条件でも、パワーファクター(PF)が高くなり、熱電変換性能に優れた熱電変換材料を製造することが可能となる。
【0032】
さらに、本発明の熱電変換材料の製造方法においては、前記焼結原料粉形成工程において、さらにアルミニウム粉を添加する構成としてもよい。
この構成の熱電変換材料の製造方法によれば、さらに耐酸化性に優れた熱電変換材料を製造することが可能となる。
【0033】
また、本発明の熱電変換材料の製造方法は、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる熱電変換材料の製造方法であって、MgとSiとSnとSbとを含む原料粉にアルミニウム粉を混合し、前記アルミニウム粉の含有量が0.05mass%以上2.0mass%以下の範囲内とされた焼結原料粉を得る焼結原料粉形成工程と、前記焼結原料粉を、焼結温度が650℃以上850℃以下、前記焼結温度での保持時間が5分以下、加圧荷重が10MPa以上50MPa以下の条件で、加圧しながら加熱して焼結体を形成する焼結工程と、を備えていることを特徴としている。
【0034】
この構成の熱電変換材料の製造方法によれば、MgとSiとSnとSbとを含む原料粉にアルミニウム粉を0.05mass%以上2.0mass%以下の範囲内で混合されてなる焼結原料粉を加圧加熱して焼結しているので、SbをドープしたMgSiSn1-x(但し、0.2<x< 0.6)を主成分とする焼結体からなり、前記焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内とされた熱電変換材料を製造することが可能となる。
【0035】
また、本発明の熱電変換材料の製造方法は、ノンドープのマグネシウムシリサイドで構成された第1原料粉にアルミニウム酸化物粉が混合され、前記アルミニウム酸化物粉の含有量が0.5mass%以上10mass%以下の範囲内とされた第1焼結原料粉と、ドーパントとしてLi,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu,Yから選択される1種または2種以上を含むマグネシウムシリサイドで構成された第2原料粉を有する第2焼結原料粉と、を積層して配置し、積層した第1焼結原料粉及び第2焼結原料粉を、焼結温度が800℃以上1200℃以下、前記焼結温度での保持時間が5分以下、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の条件で、加圧しながら加熱して、ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第1層と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層と、が直接接合された構造の熱電変換材料を製造することを特徴としている。
【0036】
この構成の熱電変換材料の製造方法によれば、ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第1層と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層と、が直接接合された構造の熱電変換材料を製造することができる。そして、ノンドープのマグネシウムシリサイドで構成された第1原料粉にアルミニウム酸化物粉が混合され、前記アルミニウム酸化物粉の含有量が0.5mass%以上10mass%以下の範囲内とされた第1焼結原料粉を用いているので、低温領域でのPFが高い第1層を形成することが可能となる。
【0037】
ここで、本発明の熱電変換材料の製造方法においては、前記第2焼結原料粉は、前記第2原料粉にアルミニウム酸化物粉が混合され、前記アルミニウム酸化物粉の含有量が0.5mass%以上10mass%以下の範囲内とされている構成としてもよい。
この場合、第2層が酸化アルミニウムを含むことになり、高温条件下でも特性が安定することになり、広い温度範囲においてパワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)が高い第2層を形成することができる。
【0038】
また、本発明の熱電変換材料の製造方法は、MgとSiとSnとSbとを含む第1原料粉にアルミニウム粉が混合され、前記アルミニウム粉の含有量が0.05mass%以上2.0mass%以下の範囲内とされた第1焼結原料粉と、ドーパントとしてLi,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu,Yから選択される1種または2種以上を含むマグネシウムシリサイドで構成された第2原料粉を有する第2焼結原料粉と、を準備し、記第2焼結原料粉を焼結温度が800℃以上1200℃以下、前記焼結温度での保持時間が5分以下、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の条件で、加圧しながら加熱して焼結体を形成し、得られた焼結体に前記第1焼結原料粉を積層して配置し、焼結温度が650℃以上850℃以下、前記焼結温度での保持時間が5分以下、加圧荷重が10MPa以上50MPa以下の条件で、加圧しながら加熱することにより、ドーパントとしてSbを含有するとともに、結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内であるMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6)の焼結体からなる第1層と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層と、が直接接合された構造の熱電変換材料を製造することを特徴としている。
【0039】
この構成の熱電変換材料の製造方法によれば、SbをドープしたMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6)を主成分とする焼結体からなり、前記焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内とされた第1層と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層と、が直接接合された構造の熱電変換材料を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなり、広い温度範囲で優れた熱電変換性能を有し、さらに、高温条件で使用した際の耐久性に優れた熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュール、及び、この熱電変換材料の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の第一の実施形態である熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールの断面図である。
図2】本発明の第一の実施形態である熱電変換材料のSEM像及び元素マッピング像である。
図3】本発明の第一の実施形態である熱電変換材料のSEM像、結晶粒界及び結晶粒内の組成分析結果である。
図4】本発明の第一の実施形態である熱電変換材料の製造方法のフロー図である。
図5】本発明の第一の実施形態である熱電変換材料の製造方法で用いられる焼結装置の一例を示す断面図である。
図6】本発明の第二の実施形態である熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールの断面図である。
図7】本発明の第二の実施形態である熱電変換材料の製造方法のフロー図である。
図8】本発明の第三の実施形態である熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールの断面図である。
図9】本発明の第三の実施形態である熱電変換材料の製造方法のフロー図である。
図10】本発明の第四の実施形態である熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールの断面図である。
図11】本発明の第四の実施形態である熱電変換材料の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に、本発明の実施形態である熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュール、及び、熱電変換材料の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0043】
<第一の実施形態>
図1に、本発明の第一の実施形態である熱電変換材料11、及び、この熱電変換材料11を用いた熱電変換素子10、及び、熱電変換モジュール1を示す。
この熱電変換素子10は、本実施形態である熱電変換材料11と、この熱電変換材料11の一方の面11aおよびこれに対向する他方の面11bに形成された電極18a,18bと、を備えている。
また、熱電変換モジュール1は、上述の熱電変換素子10の電極18a,18bにそれぞれ接合された端子19a,19bを備えている。
【0044】
電極18a,18bは、ニッケル、銀、コバルト、タングステン、モリブデン等が用いられる。この電極18a,18bは、通電焼結、メッキ、電着等によって形成することができる。
端子19a,19bは、導電性に優れた金属材料、例えば、銅やアルミニウムなどの板材から形成されている。本実施形態では、アルミニウムの圧延板を用いている。また、熱電変換材料11(電極18a,18b)と端子19a,19bとは、AgろうやAgメッキ等によって接合することができる。
【0045】
そして、熱電変換材料11は、マグネシウムシリサイドを主成分とした焼結体とされている。ここで、熱電変換材料11は、ドーパントを含まないノンドープのマグネシリサイドで構成されていてもよいし、ドーパントとして、Li,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu、Yから選択される1種または2種以上を含むマグネシリサイドで構成されていてもよい。
本実施形態では、熱電変換材料11は、マグネシウムシリサイド(MgSi)にドーパントとしてアンチモン(Sb)を添加したものとされている。例えば、本実施形態の熱電変換材料11は、MgSiにアンチモンを0.1原子%以上2.0原子%以下の範囲内で含む組成とされている。なお、本実施形態の熱電変換材料11においては、5価ドナーであるアンチモンの添加することによって、キャリア密度の高いn型熱電変換材料とされている。
【0046】
なお、熱電変換材料11を構成する材料としては、MgSiGe1-X、MgSiSn1-Xなど、マグネシウムシリサイドに他の元素を付加した化合物も同様に用いることができる。
また、熱電変換材料11をn型熱電変換素子とするためのドナーとしては、アンチモン以外にも、ビスマス、リン、ヒ素などを用いることができる。
また、熱電変換材料11をp型熱電変換素子にしてもよく、この場合、アクセプタとしてリチウムや銀などのドーパントを添加することによって得ることができる。
【0047】
そして、本実施形態である熱電変換材料11においては、アルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有している。
なお、熱電変換材料11におけるアルミニウム酸化物の含有量は、熱電変換材料11から測定試料を採取し、蛍光X線分析法によって熱電変換材料11のAl量を求め、このAlの全量がAlであると仮定して換算することによって算出される。
【0048】
また、熱電変換材料11の結晶粒内には、0.005原子%以上0.20原子%以下のアルミニウムが含有されていてもよい。
アルミニウムが0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内で含有されているので、結晶粒の表面の酸化を抑制することができ、また、粒子内の電気抵抗を下げることができる。
結晶粒内のアルミニウムの量は、EDX(Quanta450FEGに付属しているGenesisシリーズ)で測定した。
【0049】
また、本実施形態である熱電変換材料11においては、マグネシウムシリサイドの結晶粒界に、アルミニウム酸化物が偏在している。
図2に、本実施形態である熱電変換材料11のSEM像及び元素マッピング像を示す。図2の元素マッピング像においては、酸素及びアルミニウムが、マグネシウムシリサイドの結晶粒界に偏在していることが確認される。なお、この元素マッピング像で示されたアルミニウムは主に酸化アルミニウムと考えられる。
【0050】
さらに、図3に、本実施形態である熱電変換材料11のSEM像及び組成分析結果を示す。図3(b)が結晶粒界を含んだ領域の分析結果であり、図3(c)が結晶粒内の分析結果である。
本実施形態である熱電変換材料11においては、結晶粒界の酸素濃度及びアルミニウム濃度が結晶粒内よりも高くなっていることが確認される。また、図3(c)に示すように、マグネシウムシリサイドの結晶粒内には微量のアルミニウムが検出されている。このことから、本実施形態においては、アルミニウム酸化物は、ドーパントとしての効果は大きくないと考えられる。ただ、この微量のAlは、表面にMgOの酸化膜が形成される際に表面に外方拡散して、表層中に含まれるAl濃度が高くなっており、Alの酸化物形成などにより酸素の内方拡散を抑え、酸化の進行を抑えていると考えられる。
【0051】
本実施形態である熱電変換材料11においては、上述のように、マグネシウムシリサイドの結晶粒界に、アルミニウム酸化物が偏在しており、このアルミニウム酸化物の一部がMgと反応してAlが生成し、結晶粒界にAlが存在すると考えられる。一部は結晶粒内に拡散していると考えられる。結晶粒界に存在するAlにより、粒界抵抗が低下し、パワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)が向上する。また、結晶粒界に存在するアルミニウム酸化物によって、雰囲気中の酸素が結晶粒界に沿って熱電変換材料の内部にまで侵入することが抑制され、マグネシウムシリサイドの分解が抑制されると考えられる。さらに、熱電変換材料11において外部に露出して雰囲気に接触する結晶粒界では、アルミニウム酸化物の一部がMgと反応して生成したAlが優先的に酸化することにより、またアルミニウム酸化物が酸素の内方拡散を抑制して、マグネシウムシリサイドの分解、酸化を抑制すると考えられる。
【0052】
ここで、アルミニウム酸化物の含有量が0.5mass%未満の場合には、結晶粒界に存在するアルミニウム酸化物が不足し、粒界抵抗を十分に低下させることができないおそれがある。一方、アルミニウム酸化物は、マグネシウムシリサイドよりも熱伝導率が高い。このため、アルミニウム酸化物の含有量が10mass%を超えると、粒界抵抗の低下効果が飽和するとともに、熱伝導率が高くなり、パワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)が逆に低下するおそれがある。
以上のことから、本実施形態においては、アルミニウム酸化物の含有量を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内に規定している。
【0053】
なお、粒界抵抗をさらに低下させるためには、アルミニウム酸化物の含有量の下限を1.0mass%以上とすることが好ましく、2.0mass%以上とすることがさらに好ましい。
また、熱伝導率が高くなることをさらに抑制するためには、アルミニウム酸化物の含有量の上限を7.0mass%以下とすることが好ましく、5.0mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0054】
また、本実施形態の熱電変換材料11は、200Paの水蒸気雰囲気下、600℃まで加熱し、600℃において10分間保持した後、25℃まで冷却し、前記焼結体の結晶粒内を加速電圧3kVとしたSEM-EDXの分析により得られる、前記焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.5原子%以上2原子%以下であることが好ましい。
上記のような条件で加熱することで、熱電変換材料を大気中で使用した際の酸化の状態、すなわち、酸化しやすい熱電変換材料なのか、酸化しにくい熱電変換材料なのかを想定することが可能である。
ここで、加熱後の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.5原子%以上であれば、酸化を抑制する効果を十分に得ることができる。一方、加熱後の結晶粒内のアルミニウムの濃度が2.0原子%以下であれば、600℃より高い温度になった時にMgOだけでなく、アルミニウムを主成分としたMgOより大きな粒子が熱電変換材料11の表面に形成されることを抑制でき、熱電変換材料11の表面が脆弱となることを抑え、耐食性を確保することが可能となる。
【0055】
以下に、本実施形態である熱電変換材料11の製造方法について、図4及び図5を参照して説明する。
【0056】
(マグネシウムシリサイド粉準備工程S01)
まず、熱電変換材料11である焼結体の母相となるマグネシウムシリサイド(MgSi)の粉を製造する。
本実施形態では、マグネシウムシリサイド粉準備工程S01は、塊状のマグネシウムシリサイドを得る塊状マグネシウムシリサイド形成工程S11と、この塊状のマグネシリサイド(MgSi)を粉砕して粉とする粉砕工程S12と、を備えている。
【0057】
塊状マグネシウムシリサイド形成工程S11においては、シリコン粉と、マグネシウム粉と、必要に応じて添加するドーパントとをそれぞれ計量して混合する。例えば、n型の熱電変換材料を形成する場合には、ドーパントとして、アンチモン、ビスマス、など5価の材料を、また、p型の熱電変換材料を形成する場合には、ドーパントとして、リチウムや銀などの材料を混合する。なお、ドーパントを添加せずにノンドープのマグネシウムシリサイドとしてもよい。
本実施形態では、n型の熱電変換材料を得るためにドーパントとしてアンチモンを用いており、その添加量は0.1原子%以上2.0原子%以下の範囲内とした。
【0058】
そして、この混合粉を、例えばアルミナるつぼに導入し、800℃以上1150℃以下の範囲内にまで加熱し、冷却して固化させる。これにより、塊状マグネシウムシリサイドを得る。
なお、加熱時に少量のマグネシウムが昇華することから、原料の計量時にMg:Si=2:1の化学量論組成に対して例えば5原子%ほどマグネシウムを多く入れることが好ましい。
【0059】
粉砕工程S12においては、得られた塊状マグネシウムシリサイドを、粉砕機によって粉砕し、マグネシウムシリサイド粉を形成する。
ここで、マグネシウムシリサイド粉の平均粒径を、1μm以上100μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0060】
なお、市販のマグネシウムシリサイド粉や、ドーパントが添加されたマグネシウムシリサイド粉を使用する場合には、塊状マグネシウムシリサイド形成工程S11および粉砕工程S12を省略することもできる。
【0061】
(焼結原料粉形成工程S02)
次に、得られたマグネシウムシリサイド粉に、アルミニウム酸化物粉を混合し、アルミニウム酸化物粉の含有量が0.5mass%以上10mass%以下の範囲内とされた焼結原料粉を得る。
なお、アルミニウム酸化物粉の平均粒径は、マグネシウムシリサイド粉の平均粒径よりも小さいことが好ましい。具体的には、アルミニウム酸化物粉の平均粒径は、0.5μm以上20μm以下の範囲内とすることが好ましい。アルミニウム酸化物は、例えば、酸化アルミニウム(α型)、酸化アルミニウム(γ型)、酸化アルミニウム(溶融アルミナ)等の粉を用いることができる。
【0062】
なお、得られたマグネシウムシリサイド粉に、アルミニウム酸化物粉に加えて、さらにアルミニウム粉を添加してもよい。
アルミニウム粉を添加する場合、例えば、純度が99mass%以上、粒径が0.5μm以上100μm以下の金属アルミニウム粉を用いることができる。
また、アルミニウム粉の添加量は、0.05mass%以上2.0mass%以下の範囲内とすることが好ましい。この場合、マグネシウムシリサイド結晶粒内へのAlの拡散を容易にして、マグネシウムシリサイド素子の酸化をより効果的に防止し、かつ、マグネシウムシリサイド結晶粒子の電気抵抗を下げることができる。また、焼結体の結晶粒内に拡散して入らなかったアルミニウムは結晶粒界に偏析して、素子の電気抵抗の低下に寄与している。よって、マグネシウムシリサイド粒界でのアルミニウムの濃度が高くなり、結晶粒界の電気抵抗を低減することができる。
【0063】
(焼結工程S03)
次に、上述のようにして得られた焼結原料粉を、加圧しながら加熱して焼結体を得る。
本実施形態では、焼結工程S03において、図5に示す焼結装置(通電焼結装置100)を用いている。
【0064】
図5に示す焼結装置(通電焼結装置100)は、例えば、耐圧筐体101と、この耐圧筐体101の内部を減圧する真空ポンプ102と、耐圧筐体101内に配された中空筒形のカーボンモールド103と、カーボンモールド103内に充填された焼結原料粉Qを加圧しつつ電流を印加する一対の電極部105a,105bと、この一対の電極部105a,105b間に電圧を印加する電源装置106とを備えている。また電極部105a,105bと焼結原料粉Qとの間には、カーボン板107、カーボンシート108がそれぞれ配される。これ以外にも、図示せぬ温度計、変位計などを有している。また、本実施形態においては、カーボンモールド103の外周側にヒーター109が配設されている。ヒーター109は、カーボンモールド103の外周側の全面を覆うように四つの側面に配置されている。ヒーター109としては、カーボンヒーターやニクロム線ヒーター、モリブデンヒーター、カンタル線ヒーター、高周波ヒーター等が利用できる。
【0065】
焼結工程S03においては、まず、図5に示す通電焼結装置100のカーボンモールド103内に、焼結原料粉Qを充填する。カーボンモールド103は、例えば、内部がグラファイトシートやカーボンシートで覆われている。そして、電源装置106を用いて、一対の電極部105a,105b間に直流電流を流して、焼結原料粉Qに電流を流すことによって自己発熱により昇温する。また、一対の電極部105a,105bのうち、可動側の電極部105aを焼結原料粉Qに向けて移動させ、固定側の電極部105bとの間で焼結原料粉Qを所定の圧力で加圧する。また、ヒーター109を加熱させる。
これにより、焼結原料粉Qの自己発熱及びヒーター109からの熱と、加圧により、焼結原料粉Qを焼結させる。
【0066】
本実施形態においては、焼結工程S03における焼結条件は、焼結原料粉Qの焼結温度が800℃以上1020℃以下の範囲内、この焼結温度での保持時間が5分以下とされている。また、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の範囲内とされている。
また、耐圧筐体101内の雰囲気はアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気や真空雰囲気とするとよい。真空雰囲気とする場合は、圧力5Pa以下とするとよい。
【0067】
ここで、焼結原料粉Qの焼結温度が800℃未満の場合には、焼結原料粉Qの各粉の表面に形成された酸化膜を十分に除去することができず、結晶粒界に原料粉自体の表面酸化膜が残存してしまうとともに、焼結体の密度が低くなる。これらのため、得られた熱電変換材料の抵抗が高くなってしまうおそれがある。
一方、焼結原料粉Qの焼結温度が1020℃を超える場合には、マグネシウムシリサイドの分解が短時間で進行してしまい、組成ずれが生じ、抵抗が上昇するとともにゼーベック係数が低下してしまうおそれがある。
このため、本実施形態では、焼結工程S03における焼結温度を800℃以上1020
℃以下の範囲内に設定している。
なお、焼結工程S03における焼結温度の下限は、800℃以上とすることが好ましく、900℃以上であることがさらに好ましい。一方、焼結工程S03における焼結温度の上限は、1020℃以下とすることが好ましく、1000℃以下であることがさらに好ましい。
【0068】
また、焼結温度での保持時間が5分を超える場合には、マグネシウムシリサイドの分解が進行してしまい、組成ずれが生じ、抵抗が上昇するとともにゼーベック係数が低下してしまうおそれがある。
このため、本実施形態では、焼結工程S03における焼結温度での保持時間を5分以下に設定している。
なお、焼結工程S03における焼結温度での保持時間の上限は、3分以下とすることが好ましく、2分以下であることがさらに好ましい。
【0069】
さらに、焼結工程S03における加圧荷重が20MPa未満の場合には、密度が高くならず、熱電変換材料の抵抗が高くなってしまうおそれがある。
一方、焼結工程S03における加圧荷重が50MPaを超える場合には、カーボン治具にかかる力が大きく治具が割れてしまうおそれがある。
このため、本実施形態では、焼結工程S03における加圧荷重を20MPa以上50MPa以下の範囲内に設定している。
なお、焼結工程S03における加圧荷重の下限は、23MPa以上とすることが好ましく、25MPa以上であることがさらに好ましい。一方、焼結工程S03における加圧荷重の上限は、50MPa以下とすることが好ましく、45MPa以下であることがさらに好ましい。
【0070】
以上のような工程により、本実施形態である熱電変換材料11が製造される。
上述の焼結工程S03においては、マグネシウムシリサイドの粉の間にアルミニウム酸化物粉が存在することで、マグネシウムシリサイドの結晶粒界にアルミニウム酸化物が偏在することになる。
【0071】
以上のような構成とされた本実施形態である熱電変換材料11によれば、アルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有しており、アルミニウム酸化物が、マグネシウムシリサイドの結晶粒界に偏在しているので、結晶粒界に偏在したアルミニウム酸化物の一部がMgと反応してAlが生成し、このAlによって粒界抵抗が低下することになり、パワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)を向上させることができる。
【0072】
また、本実施形態である熱電変換材料11によれば、結晶粒界に偏在したアルミニウム酸化物によって、雰囲気中の酸素が結晶粒界に沿ってマグネシウムシリサイドの内部にまで侵入することを抑制でき、これによりマグネシウムシリサイドの分解が抑制され、高温条件で使用した際の耐久性を向上させることができる。さらに、熱電変換材料11において、外部に露出して雰囲気に接触する結晶粒界では、アルミニウム酸化物の一部がMgと反応して生成したAlが優先的に酸化することにより、マグネシウムシリサイドの分解、酸化を抑制すると考えられる。また、分解した一部のAlは粒内に拡散し、Alの酸化物形成などにより酸素の内方拡散を抑え、酸化の進行を抑えていると考えられる。
これにより、本実施形態である熱電変換材料11は、高温条件下でも特性が安定し、広い温度範囲においてパワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)が高く、熱電変換性能に優れている。
【0073】
さらに、本実施形態において、熱電変換材料11が、粒界や粒内にアルミニウムを含有している場合には、これらのアルミニウムが表面に偏析して、耐酸化性をさらに向上させることが可能となる。
【0074】
また、本実施形態である熱電変換材料11によれば、ドーパントを含有しており、具体的には、MgSiにアンチモンを0.1原子%以上2.0原子%以下の範囲内で含む組成とされているので、キャリア密度の高いn型熱電変換材料として好適に使用することができる。
【0075】
さらに、本実施形態である熱電変換材料の製造方法によれば、マグネシウムシリサイドの粉に、アルミニウム酸化物粉を混合し、アルミニウム酸化物粉の含有量が0.5mass%以上10mass%以下の範囲内とされた焼結原料粉を得る焼結原料粉形成工程S02と、焼結原料粉を加圧しながら加熱して焼結体を得る焼結工程S03と、を備えているので、マグネシウムシリサイドの結晶粒界にアルミニウム酸化物が偏在した焼結体を得ることができる。
よって、上述のように、広い温度範囲においてパワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)が高く、熱電変換性能に優れた熱電変換材料11を製造することが可能となる。
【0076】
<第二の実施形態>
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。なお、第一の実施形態と同一の部材には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
図6に、本発明の第二の実施形態である熱電変換材料211、及び、この熱電変換材料211を用いた熱電変換素子210、及び、熱電変換モジュール201を示す。
【0077】
この熱電変換素子210は、本実施形態である熱電変換材料211と、この熱電変換材料211の一方の面211aおよびこれに対向する他方の面211bに形成された電極18a,18bと、を備えている。
また、熱電変換モジュール201は、上述の熱電変換素子210の電極18a,18bにそれぞれ接合された端子19a,19bを備えている。
【0078】
そして、熱電変換材料211は、ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第1層213と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層214と、が直接接合された構造とされている。
ここで、ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第1層213は、アルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有しており、アルミニウム酸化物は、マグネシウムシリサイドの結晶粒界に偏在している。
さらに、ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第1層213は、アルミニウムを含有していてもよい。
【0079】
ここで、ノンドープとは意図的に金属元素のドーパントが添加されていないことを意味する。
しかしながら、不可避不純物として、例えば、Sb,Bi等のドーパント元素が含まれている場合もある。この場合、Sbの含有量が0.001mass%未満、Biの含有量が0.001mass%未満であることが好ましい。Sb,Bi以外にも、不可避不純物として、Na,K,B,Ga,In,P,As,Cu,Yなどの元素が含まれる場合もあるが、その場合でも、各元素の含有量が0.01mass%以下とすることが好ましい。
【0080】
また、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層214においては、ドーパントとして、Li,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu、Yから選択される1種または2種以上を含むものとされている。本実施形態では、マグネシウムシリサイド(MgSi)にドーパントとしてアンチモン(Sb)を添加したものとされている。
ここで、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層214は、アルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有し、アルミニウム酸化物が、マグネシウムシリサイドの結晶粒界に偏在していてもよい。
さらに、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層214は、アルミニウムを含有していてもよい。
【0081】
なお、熱電変換材料211(第1層213、第2層214)を構成する材料としては、MgSiGe1-X、MgSiSn1-Xなど、マグネシウムシリサイドに他の元素を付加した化合物も同様に用いることができる。
【0082】
以下に、本実施形態である熱電変換材料211の製造方法について、図7を参照して説明する。
【0083】
(第1焼結原料粉形成工程S201)
第1層213である焼結体の原料として、ノンドープのマグネシウムシリサイド(MgSi)からなる第1原料粉を製造する。
まず、シリコン粉と、マグネシウム粉と、をそれぞれ計量して混合する。そして、この混合粉を、例えばアルミナるつぼに導入し、800℃以上1150℃以下の範囲内にまで加熱溶解し、冷却して固化させる。これにより、ノンドープの塊状マグネシウムシリサイドを得る。
得られたノンドープの塊状マグネシウムシリサイドを、粉砕機によって粉砕し、ノンドープのマグネシウムシリサイドからなる第1原料粉を形成する。ここで、第1原料粉の平均粒径を、1μm以上100μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0084】
次に、得られた第1原料粉に、アルミニウム酸化物粉を混合し、アルミニウム酸化物粉の含有量が0.5mass%以上10mass%以下の範囲内とされた第1焼結原料粉を得る。
なお、アルミニウム酸化物粉の平均粒径は、マグネシウムシリサイド粉の平均粒径よりも小さいことが好ましい。具体的には、アルミニウム酸化物粉の平均粒径は、0.5μm以上20μm以下の範囲内とすることが好ましい。アルミニウム酸化物は、例えば、酸化アルミニウム(α型)、酸化アルミニウム(γ型)、酸化アルミニウム(溶融アルミナ)等の粉を用いることができる。
なお、得られた第1原料粉に、アルミニウム酸化物粉に加えて、さらにアルミニウム粉を添加してもよい。
アルミニウム粉を添加する場合、例えば、純度が99mass%以上、粒径が0.5μm以上100μm以下の金属アルミニウム粉を用いることができる。
【0085】
(第2焼結原料粉形成工程S202)
第2層214である焼結体の原料として、ドーパントとして、Li,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu、Yから選択される1種または2種以上を含むマグネシウムシリサイド(MgSi)からなる第2原料粉を製造する。
まず、シリコン粉と、マグネシウム粉と、ドーパントとをそれぞれ計量して混合する。なお、本実施形態では、n型の熱電変換材料を得るためにドーパントとしてアンチモンを用いており、その添加量は0.1原子%以上2.0原子%以下の範囲内とした。
そして、この混合粉を、例えばアルミナるつぼに導入し、800℃以上1150℃以下の範囲内にまで加熱、融解し、その後冷却して固化させる。これにより、ドーパントを含有する塊状マグネシウムシリサイドを得る。
得られたドーパントを含有する塊状マグネシウムシリサイドを、粉砕機によって粉砕し、ノンドープのマグネシウムシリサイドからなる第2原料粉(第2焼結原料粉)を形成する。ここで、第2原料粉の平均粒径を、1μm以上100μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0086】
ここで、得られた第2原料粉に、アルミニウム酸化物粉を混合してもよい。このとき、アルミニウム酸化物粉の含有量を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
また、得られた第2原料粉に、アルミニウム酸化物粉に加えて、さらにアルミニウム粉を添加してもよい。
アルミニウム粉を添加する場合、第1焼結原料粉形成工程S201と同様の金属アルミニウム粉を用いることができる。
【0087】
(焼結工程S203)
次に、成形型の内部に、第1焼結原料粉を充填し、その上に積層するように、第2焼結原料粉を充填する。そして、積層した第1焼結原料粉と第2焼結原料粉とを、加圧しながら加熱して焼結体を得る。
本実施形態では、焼結工程S203において、図5に示す焼結装置(通電焼結装置100)を用いている。
【0088】
本実施形態においては、焼結工程S203における焼結条件は、第1焼結原料粉及び第2焼結原料粉の焼結温度が800℃以上1020℃以下の範囲内、この焼結温度での保持時間が5分以下とされている。また、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の範囲内とされている。
また、耐圧筐体101内の雰囲気はアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気や真空雰囲気とするとよい。真空雰囲気とする場合は、圧力5Pa以下とするとよい。
【0089】
以上のような工程により、ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第1層213と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層214と、が直接接合された構造の熱電変換材料211が製造される。
また、上述の焼結工程S203においては、マグネシウムシリサイドの粉の間にアルミニウム酸化物粉が存在することで、マグネシウムシリサイドの結晶粒界にアルミニウム酸化物が偏在することになる。
【0090】
以上のような構成とされた本実施形態である熱電変換材料211によれば、ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第1層213と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層214と、が直接接合された構造とされており、第1層213が、ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体からなり、アルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有しているので、第1層213において特に低温領域(例えば、25℃~400℃)でのPFが高くなるため、第1層213を低温側に配置し、第2層214を高温側に配置することにより、熱電変換効率をさらに向上させることが可能となる。
【0091】
また、本実施形態において、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層214がアルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有している場合には、アルミニウム酸化物が、マグネシウムシリサイドの結晶粒界に偏在することになり、結晶粒界に偏在したアルミニウム酸化物の一部がMgと反応してAlが生成し、このAlによって粒界抵抗が低下することになり、パワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)を向上させることができる。
【0092】
さらに、本実施形態において、熱電変換材料211の第1層213及び第2層214の一方又は両方が、アルミニウムを含有している場合には、アルミニウムが、第1層213及び第2層214の一方又は両方の表面に偏在することになり、耐酸化性をさらに向上させることが可能となる。
【0093】
本実施形態である熱電変換材料の製造方法によれば、ノンドープのマグネシウムシリサイド(MgSi)からなる第1原料粉とアルミニウム酸化物粉とを有する第1焼結原料粉を形成する第1焼結原料粉形成工程S201と、ドーパントとしてLi,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu、Yから選択される1種または2種以上を含むマグネシウムシリサイド(MgSi)からなる第2原料粉を有する第2焼結原料粉を形成する第2焼結原料粉形成工程S202と、積層するように充填した第1焼結原料粉及び第2焼結原料粉を、加圧しながら加熱して焼結体を得る焼結工程S203と、を備えているので、ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第1層213と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層214と、が直接接合された構造の熱電変換材料211を製造することができる。
【0094】
<第三の実施形態>
次に、本発明の第三の実施形態について説明する。なお、第一の実施形態及び第二の実施形態と同一の部材には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
図8に、本発明の第三の実施形態である熱電変換材料311、及び、この熱電変換材料311を用いた熱電変換素子310、及び、熱電変換モジュール301を示す。
【0095】
この熱電変換素子310は、本実施形態である熱電変換材料311と、この熱電変換材料311の一方の面311aおよびこれに対向する他方の面311bに形成された電極18a,18bと、を備えている。
また、熱電変換モジュール301は、上述の熱電変換素子310の電極18a,18bにそれぞれ接合された端子19a,19bを備えている。
【0096】
そして、熱電変換材料311は、マグネシウムシリサイドを主成分とした焼結体とされている。ここで、熱電変換材料311は、ドーパントとしてSbを含有し、MgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6)で構成されている。
また、熱電変換材料311を構成する焼結体は、前記焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内とされている。
なお、本実施形態において、結晶粒内のアルミニウム濃度は、EPMA(JEOL製JXA-8230)を用いて測定することができる。
【0097】
以下に、本実施形態である熱電変換材料311の製造方法について、図9を参照して説明する。
【0098】
(マグネシウムシリサイド粉準備工程S301)
まず、熱電変換材料311である焼結体の母相となるSb含有マグネシウムシリサイド(本実施形態では、MgSiSn1-x)を構成するMgとSiとSnとSbとを含む原料粉を準備する。
本実施形態では、マグネシウムシリサイド粉準備工程S301は、塊状のマグネシウムシリサイドを得る塊状マグネシウムシリサイド形成工程S311と、この塊状のマグネシリサイドを粉砕して粉とする粉砕工程S312と、を備えている。
【0099】
塊状マグネシウムシリサイド形成工程S311においては、シリコン粉と、マグネシウム粉と、スズ粉と、ドーパントであるアンチモン粉と、をそれぞれ計量して混合する。この混合粉を、例えばアルミナるつぼに導入し、700℃以上900℃以下の範囲内にまで加熱し、冷却して固化させる。これにより、塊状マグネシウムシリサイドを得る。本実施形態では、n型の熱電変換材料を得るためにドーパントとしてアンチモンを用いており、その添加量は0.1原子%以上2.0原子%以下の範囲内とした。
【0100】
粉砕工程S312においては、得られた塊状マグネシウムシリサイドを、粉砕機によって粉砕し、マグネシウムシリサイド粉を形成する。
ここで、マグネシウムシリサイド粉の平均粒径を、1μm以上100μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0101】
(焼結原料粉形成工程S302)
次に、得られたマグネシウムシリサイド粉に、アルミニウム粉を混合し、アルミニウム粉の含有量が0.05mass%以上2.0mass%以下の範囲内とされた焼結原料粉を得る。
なお、アルミニウム粉の平均粒径は、マグネシウムシリサイド粉の平均粒径よりも小さいことが好ましい。アルミニウム粉としては、純度が99mass%以上、粒径が0.5μm以上100μm以下の金属アルミニウム粉であることが好ましい。
【0102】
(焼結工程S303)
次に、上述のようにして得られた焼結原料粉を、加圧しながら加熱して焼結体を得る。
本実施形態では、焼結工程S303において、図5に示す焼結装置(通電焼結装置100)を用いている。
【0103】
本実施形態においては、焼結工程S303における焼結条件は、焼結原料粉Qの焼結温度が650℃以上850℃以下の範囲内、この焼結温度での保持時間が5分以下とされている。また、加圧荷重が10MPa以上50MPa以下の範囲内とされている。
また、耐圧筐体101内の雰囲気は、アルゴン雰囲気などの不活性雰囲気や真空雰囲気とするとよい。真空雰囲気とする場合は、圧力5Pa以下とするとよい。
【0104】
以上のような工程により、本実施形態である熱電変換材料311が製造される。
【0105】
以上のような構成とされた本実施形態である熱電変換材料311によれば、SbをドープしたMgSiSn1-X(但し、0.2<x< 0.6)を主成分とする焼結体からなり、前記焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内とされているので、低温領域から中温域においてPFが高くなり、熱電変換効率を向上させることができる。また、焼結体の結晶粒内に拡散して入らなかったアルミニウムは結晶粒界に偏在している。
【0106】
さらに、本実施形態である熱電変換材料の製造方法によれば、マグネシウムシリサイドの粉に、アルミニウム粉を混合し、アルミニウム粉の含有量が0.05mass%以上2.0mass%以下の範囲内とされた焼結原料粉を得る焼結原料粉形成工程S302と、焼結原料粉を加圧しながら加熱して焼結体を得る焼結工程S303と、を備えているので、SbをドープしたMgSiSn1-x(但し、0.2<x< 0.6)からなるマグネシウムシリサイドの結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内とされた焼結体を得ることができる。
よって、上述のように、広い温度範囲においてパワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)が高く、熱電変換性能に優れた熱電変換材料311を製造することが可能となる。
【0107】
<第四の実施形態>
次に、本発明の第四の実施形態について説明する。なお、第一の実施形態、第二の実施形態及び第三の実施形態と同一の部材には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
図10に、本発明の第四の実施形態である熱電変換材料411、及び、この熱電変換材料411を用いた熱電変換素子410、及び、熱電変換モジュール401を示す。
【0108】
この熱電変換素子410は、本実施形態である熱電変換材料411と、この熱電変換材料411の一方の面411aおよびこれに対向する他方の面411bに形成された電極18a,18bと、を備えている。
また、熱電変換モジュール401は、上述の熱電変換素子410の電極18a,18bにそれぞれ接合された端子19a,19bを備えている。
【0109】
そして、熱電変換材料411は、ドーパントとしてSbを含有するMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6)の焼結体からなる第1層413と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層414と、が直接接合された構造とされている。
ここで、第1層413は、前記焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内とされている。
【0110】
また、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層414においては、ドーパントとして、Li,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu,Yから選択される1種または2種以上を含むものとされている。
ここで、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層414は、アルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有し、アルミニウム酸化物が、マグネシウムシリサイドの結晶粒界に偏在していてもよい。
さらに、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層414は、アルミニウムを含有していてもよい。
【0111】
以下に、本実施形態である熱電変換材料411の製造方法について、図11を参照して説明する。
【0112】
(第1焼結原料粉形成工程S401)
第1層413である焼結体の原料として、ドーパントとしてSbを含有するMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6)からなる第1原料粉を製造する。
まず、シリコン粉と、マグネシウム粉と、スズ粉と、ドーパントとしてのアンチモン粉と、をそれぞれ計量して混合する。そして、この混合粉を、例えばアルミナるつぼに導入し、700℃以上850℃以下の範囲内にまで加熱融解し、冷却して固化させる。これにより、塊状マグネシウムシリサイドを得る。
得られた塊状マグネシウムシリサイドを、粉砕機によって粉砕し、ドーパントとしてSbを含有するMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6 )からなる第1原料粉を形成する。ここで、第1原料粉の平均粒径を、1μm以上100μm以下の範囲内とすることが好ましい。本実施形態では、n型の熱電変換材料を得るためにドーパントとしてアンチモンを用いており、その添加量は0.1原子%以上2.0原子%以下の範囲内とした。
【0113】
次に、得られた第1原料粉に、アルミニウム粉を混合し、アルミニウム粉の含有量が0.05mass%以上2.0mass%以下の範囲内とされた第1焼結原料粉を得る。
アルミニウム粉としては、例えば、純度が99%以上、粒径が0.5μm以上100μm以下の範囲内である金属アルミニウム粉を用いることが好ましい。
【0114】
(第2焼結原料粉形成工程S402)
第2層414である焼結体の原料として、ドーパントとして、Li,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu,Yから選択される1種または2種以上を含むマグネシウムシリサイドからなる第2原料粉を製造する。
まず、シリコン粉と、マグネシウム粉と、ドーパントとをそれぞれ計量して混合する。なお、本実施形態では、n型の熱電変換材料を得るためにドーパントとしてアンチモンを用いており、その添加量は0.1原子%以上2.0原子%以下の範囲内とした。
そして、この混合粉を、例えばアルミナるつぼに導入し、800℃以上1150℃以下の範囲内にまで加熱、融解し、その後冷却して固化させる。これにより、ドーパントを含有する塊状マグネシウムシリサイドを得る。
得られたドーパントを含有する塊状マグネシウムシリサイドを、粉砕機によって粉砕し、ノンドープのマグネシウムシリサイドからなる第2原料粉(第2焼結原料粉)を形成する。ここで、第2原料粉の平均粒径を、1μm以上100μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0115】
ここで、得られた第2原料粉に、アルミニウム酸化物粉を混合してもよい。このとき、アルミニウム酸化物粉の含有量を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
また、得られた第2原料粉に、アルミニウム酸化物粉に加えて、さらにアルミニウム粉を添加してもよい。
アルミニウム粉を添加する場合、第1焼結原料粉形成工程S401と同様の金属アルミニウム粉を用いることができる。
【0116】
(焼結工程S403)
まず、成形型の内部に第2焼結原料粉を充填し、加圧しながら加熱して第2焼結原料粉焼結体を得る。本実施形態では、焼結工程S403において、図5に示す焼結装置(通電焼結装置100)を用いている。
次に、成形型内部の第2焼結原料を焼結した焼結体の上に、第1焼結原料粉を充填し、積層した第1焼結原料粉を加圧しながら加熱して第2焼結原料粉焼結体と直接接合した焼結体を得る。
【0117】
本実施形態においては、焼結工程S403における焼結条件は、第1焼結原料粉の焼結温度は650℃以上850℃以下の範囲内、また、第2焼結原料粉の焼結温度は800℃以上1020℃以下の範囲内、この焼結温度での保持時間が5分以下とされている。また、加圧荷重が10MPa以上50MPa以下の範囲内とされている。
また、耐圧筐体101内の雰囲気は、アルゴン雰囲気などの不活性雰囲気や真空雰囲気とするとよい。真空雰囲気とする場合は、圧力5Pa以下とするとよい。
【0118】
以上のような工程により、ドーパントとしてSbを含有するMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6)の焼結体からなる第1層413と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層414と、が直接接合された構造の熱電変換材料411が製造される。
【0119】
以上のような構成とされた本実施形態である熱電変換材料411によれば、SbをドープしたMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6)を主成分とする焼結体からなる第1層413と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層414と、が直接接合された構造とされており、第1層413が、SbをドープしたMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6 )を主成分とする焼結体からなり、この焼結体の結晶粒内のアルミニウムの濃度が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲内としているので、第1層413において特に低温領域(例えば、25℃~400℃)でのパワーファクター(PF)が高くなるため、第1層413を低温側に配置し、第2層414を高温側に配置することで、熱電変換効率をさらに向上させることが可能となる。
【0120】
本実施形態である熱電変換材料の製造方法によれば、ドーパントとしてSbを含有するMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6)からなる第1原料粉とアルミニウム粉とを有する第1焼結原料粉を形成する第1焼結原料粉形成工程S401と、ドーパントとしてLi,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu、Yから選択される1種または2種以上を含むマグネシウムシリサイド(MgSi)からなる第2原料粉を有する第2焼結原料粉を形成する第2焼結原料粉形成工程S402と、成形型の内部に第2焼結原料粉を充填し、加圧しながら加熱して第2焼結原料粉焼結体を得るとともに、成形型内部の第2焼結原料を焼結した焼結体の上に、第1焼結原料粉を充填し、積層した第1焼結原料粉を加圧しながら加熱して第2焼結原料粉焼結体と直接接合した焼結体を得る焼結工程S403と、を備えているので、SbをドープしたMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6)を主成分とする焼結体からなる第1層413と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層414と、が直接接合された構造の熱電変換材料411を製造することができる。
【0121】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、図1図6図8図10に示すような構造の熱電変換モジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、本発明の熱電変換材料を用いていれば、電極や端子の構造及び配置等に特に制限はない。
【0122】
また、本実施形態では、図5に示す焼結装置(通電焼結装置100)を用いて焼結を行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、焼結原料を間接的に加熱しながら加圧して焼結する方法、例えばホットプレス、HIPなどを用いてもよい。
【0123】
さらに、本実施形態においては、ドーパントとしてアンチモン(Sb)を添加したマグネシウムシリサイドの粉を焼結原料として用いるものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えばLi,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu,Yから選択される1種または2種以上をドーパントとして含んだものであってもよいし、Sbに加えてこれらの元素を含んでいてもよい。
また、ドーパントを含まないノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体であってもよい。
【0124】
また、マグネシウムシリサイドの粉に加えて、シリコン酸化物の粉を混合してもよい。なお、シリコン酸化物としては、アモルファスSiO、クリストバライト、クオーツ、トリディマイト、コーサイト、ステイショバイト、ザイフェルト石、衝撃石英等のSiOx(x=1~2)を用いることができる。シリコン酸化物の混合量は0.5mol%以上13.0mol%以下の範囲内である。より好ましくは、0.7mol%以上7mol%以下とするとよい。シリコン酸化物は、粒径0.5μm以上100μm以下の粉状とするとよい。
【実施例
【0125】
以下、本発明の効果を確認すべく実施した実験結果について説明する。
【0126】
<実施例1>
純度99.9mass%のMg(粒径180μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.99mass%のSi(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.9mass%のSb(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)を、それぞれ計量した。これら粉を乳鉢中で良く混ぜ、アルミナるつぼに入れて、850℃で2時間、Ar-3vol%H中で加熱した。Mgの昇華によるMg:Si=2:1の化学量論組成からのずれを考慮して、Mgを5原子%多く混合した。これにより、ドーパントであるSbを1原子%含有する塊状マグネシウムシリサイド(MgSi)を得た。
次に、この塊状マグネシウムシリサイド(MgSi)を乳鉢中で細かく砕いて、これを分級して平均粒径が30μmのマグネシウムシリサイド粉(MgSi粉)を得た。
【0127】
また、アルミニウム酸化物粉(Al粉、純度99.99mass%、粒径1μm)を準備し、マグネシウムシリサイド粉とアルミニウム酸化物粉とを表1記載の量となるように混合し、焼結原料粉を得た。なお、本発明例6~9においては、純度99.99mass%の金属アルミニウム粉(粒径1~5μm)を混合した。
【0128】
得られた焼結原料粉をカーボンシートで内側を覆ったカーボンモールドに充填した。そして、図5に示す焼結装置(通電焼結装置100)によって表1に示す条件で通電焼結した。
【0129】
得られた熱電変換材料について、アルミニウム酸化物の含有量、パワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)、高温条件で使用時の耐久性、について、以下のような手順で評価した。
【0130】
(アルミニウム酸化物の含有量)
得られた熱電変換材料から測定試料を採取し、蛍光X線分析法(リガク社製走査型蛍光X線分析装置ZSX PrimusII)によって焼結体のAl量を測定した。測定された焼結体のAl量の全量がAlであるとして、アルミニウム酸化物の含有量を算出した。算出結果を表1に示す。
【0131】
(結晶粒内のアルミニウム含有量)
結晶粒内のアルミニウムの含有量は、EDX(Quanta450FEGに付属しているGenesisシリーズ)で結晶粒内のアルミニウムの含有量を測定した
【0132】
(パワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT))
熱電変換材料のパワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)は、アドバンス理工製ZEM-3によって測定した。測定は、100℃、200℃、300℃、400℃、500℃でそれぞれ2回実施し、その平均値を算出した。評価結果を表2に示す。
【0133】
(高温条件で使用時の耐久性)
炉内に熱電変換材料を装入し、1.3kPa以下にまで減圧した後、11.3kPaとなるようにArガスを導入した。この雰囲気下(11.3kPa)で、室温から550℃までの冷熱サイクルを2回繰り返した。トータルの保持時間は6~7時間であった。
保持後の熱電変換材料から測定試料を採取し、XPS分析によって表層に形成されたMgOの膜厚を評価した。なお、MgOの膜厚は、酸素の強度が最表面の1/2になるまでのスパッタ時間から算出した。評価結果を表2に示す。
【0134】
(ビッカース硬さ)
アルミニウム酸化物を添加した試料の一部と添加していない試料について、ビッカース硬度を測定してその結果を表2に示す。用いたビッカース硬度計は島津製作所製、荷重3kg、保持時間15秒とした。
【0135】
【表1】
【0136】
【表2】
【0137】
アルミニウム酸化物を含まない比較例1、及び、アルミニウム酸化物を、10mass%を超えて含有している比較例2では、PF及びZTが低かった。
これに対して、アルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有している本発明例1~9では、PF及びZTが高くなった。また、アルミニウム酸化物を含まない比較例1に比べて、酸化膜が形成されにくいことが分かった。
さらに、アルミニウムを添加した本発明例6~9においては、さらに酸化膜の形成が抑制されることが確認された。
また、表2に示すように、アルミニウム酸化物の添加量が増加するにつれて、ビッカース硬度が高くなり、機械的特性が向上することが確認された。
【0138】
以上のことから、本発明例によれば、広い温度範囲で優れた熱電変換性能を有し、さらに、高温条件で使用した際の耐久性に優れた熱電変換材料を提供可能であることが確認された。
【0139】
<実施例2>
純度99.9mass%のMg(粒径180μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.99mass%のSi(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)を、それぞれ計量した。これら粉を乳鉢中で良く混ぜ、アルミナるつぼに入れて、850℃で2時間、Ar-3vol%H中で加熱した。Mgの昇華によるMg:Si=2:1の化学量論組成からのずれを考慮して、Mgを5原子%多く混合した。これにより、ドーパントを含まないノンドープの塊状マグネシウムシリサイド(MgSi)を得た。
次に、この塊状マグネシウムシリサイド(MgSi)を乳鉢中で細かく砕いて、これを分級して平均粒径が30μmのノンドープのマグネシウムシリサイド粉(MgSi粉)を得た。
【0140】
また、アルミニウム酸化物粉(Al粉、粒径1μm)を準備し、マグネシウムシリサイド粉とアルミニウム酸化物粉とを表3記載の量となるように混合し、焼結原料粉を得た。なお、本発明例16~19においては、純度99.99mass%の金属アルミニウム粉(粒径1~5μm)を混合した。
【0141】
得られた焼結原料粉をカーボンシートで内側を覆ったカーボンモールドに充填した。そして、図5に示す焼結装置(通電焼結装置100)によって表3に示す条件で通電焼結した。
【0142】
得られた熱電変換材料について、アルミニウム酸化物の含有量、パワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)、高温条件で使用時の耐久性、について、実施例1とどうようの手順で評価した。評価結果を表4に示す。
【0143】
【表3】
【0144】
【表4】
【0145】
アルミニウム酸化物を含まない比較例11、及び、アルミニウム酸化物を、10mass%を超えて含有している比較例12では、PF及びZTが低かった。
これに対して、アルミニウム酸化物を0.5mass%以上10mass%以下の範囲内で含有している本発明例11~19では、PF及びZTが高くなった。また、アルミニウム酸化物を含まない比較例11に比べて、酸化膜が形成されにくいことが分かった。
さらに、金属アルミニウムを添加した本発明例16~19においては、金属アルミニウムを添加していない本発明例12に対して、さらに酸化膜の形成が抑制されることが確認された。
【0146】
<実施例3>
次に、以下のようにして、ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第1層と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層と、をそれぞれ形成した。
【0147】
純度99.9mass%のMg(粒径180μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.99mass%のSi(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)を、それぞれ計量した。これら粉を乳鉢中で良く混ぜ、アルミナるつぼに入れて、850℃で2時間、Ar-3%H中で加熱した。Mgの昇華によるMg:Si=2:1の化学量論組成からのずれを考慮して、Mgを5原子%多く混合した。これにより、ノンドープの塊状マグネシウムシリサイド(MgSi)を得た。
次に、この塊状マグネシウムシリサイド(MgSi)を乳鉢中で細かく砕いて、これを分級して平均粒径が30μmのノンドープのマグネシウムシリサイド(MgSi)からなる第1原料粉を得た。
そして、アルミニウム酸化物粉(Al粉、粒径1μm)を準備し、第1原料粉とアルミニウム酸化物粉とを混合し、第1焼結原料粉を得た。
【0148】
また、純度99.9mass%のMg(粒径180μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.99mass%のSi(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.9mass%のSb(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)を、それぞれ計量した。これら粉を乳鉢中で良く混ぜ、アルミナるつぼに入れて、850℃で2時間、Ar-3%H中で加熱した。Mgの昇華によるMg:Si=2:1の化学量論組成からのずれを考慮して、Mgを5原子%多く混合した。これにより、ノンドープの塊状マグネシウムシリサイド(MgSi)を得た。
次に、この塊状マグネシウムシリサイド(MgSi)を乳鉢中で細かく砕いて、これを分級して平均粒径が30μmのドーパントを含むマグネシウムシリサイド(MgSi)からなる第2原料粉(第2焼結原料粉)を得た。
【0149】
カーボンシートで内側を覆ったカーボンモールドに、得られた第1焼結原料粉及び第2焼結原料粉をそれぞれ充填した。そして、図5に示す焼結装置(通電焼結装置100)によって、雰囲気:真空、焼結温度:950℃、保持時間:60秒、加圧荷重:30MPaの条件で通電焼結した。
【0150】
得られた第1層となるノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体、及び、第2層となるドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体について、電気抵抗値、ゼーベック係数、パワーファクター(PF)について、評価した。評価結果を表5に示す。
電気抵抗値Rとゼーベック係数Sは、アドバンス理工製ZEM-3によって測定した。
測定は、100℃,200℃,300℃,400℃,500℃,550℃で実施した。
パワーファクター(PF)、以下の式(3)から求めた。
PF=S/R・・・(3)
但し、S:ゼーベック係数(V/K)、R:電気抵抗率 (Ω・m))
【0151】
【表5】
【0152】
表5に示すように、ノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第1層は、100℃、200℃、300℃において、高いPFを有している。一方、ドーパントを含有するマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層は、400℃、500℃、550℃において、高いPFを有している。
よって、第1層を低温側(100℃)に配置し、第2層を高温側(500℃)に配置することにより、熱電変換材料内部で温度勾配が生じても、熱電変換材料全体で、高いPFを得ることが可能となる。
【0153】
<実施例4>
純度99.9mass%のMg(粒径180μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.99mass%のSi(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.99mass%のSn(粒径38μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.9mass%のSb(粒径45μm:株式会社高純度化学研究所製)を、それぞれ計量した。これら粉を乳鉢中で良く混ぜ、アルミナるつぼに入れて、800℃で2時間、Ar-3vol%H中で加熱した。Mgの昇華によるMg:Si=2:1の化学量論組成からのずれを考慮して、Mgを5原子%多く混合した。これにより、アンチモンドープの塊状マグネシウムシリサイドスズ(MgSiSn)を得た。アンチモンの濃度は0.5原子%となるように調整した。
【0154】
次に、この塊状マグネシウムシリサイドスズ(MgSiSn)を乳鉢中で細かく砕いて、これを分級して平均粒径が30μmの0.5原子%アンチモンドープのマグネシウムシリサイド粉(MgSiSn粉)を得た。
また、純度99.99mass%の金属アルミニウム粉(Al粉、粒径1~5μm)を準備し、マグネシウムシリサイドスズ粉と金属アルミニウム粉とを表6記載の量となるように混合し、焼結原料粉を得た。
【0155】
得られた焼結原料粉をカーボンシートで内側を覆ったカーボンモールドに充填した。そして、図5に示す焼結装置(通電焼結装置100)によって表6に示す条件で通電焼結した。
【0156】
得られた熱電変換材料について、アルミニウムの含有量、パワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)、高温条件で使用時の耐久性について、実施例1と同様の手順で評価した。評価結果を表6、表7に示す。なお、アルミニウム含有量については、EPMA(JEOL製JXA-8230)を用い、結晶粒内のアルミニウムの含有量を測定した。
【0157】
【表6】
【0158】
【表7】
【0159】
アルミニウムを添加しなかった比較例21では、100℃から450℃の温度範囲において、PFが相対的に低かった。
アルミニウムを2.20mass%添加した比較例22では、100℃から450℃の温度範囲において、PFが相対的に低かった。
これに対して、アルミニウムを0.05mass%以上2mass%以下の範囲内で添加した本発明例21~24では、100℃から450℃の温度範囲において、PFが大幅に高くなった。
【0160】
<実施例5>
次に、以下のようにして、ドーパントとしてSbを含有するMgSiSn1-x(但し、0.2<x<0.6)の焼結体からなる第1層と、ドーパントを含むマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層と、をそれぞれ形成した。
【0161】
純度99.9mass%のMg(粒径180μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.99mass%のSi(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.99mass%のSn(粒径38μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.9mass%のSb(粒径45μm:株式会社高純度化学研究所製)を、それぞれ計量した。これら粉を乳鉢中で良く混ぜ、アルミナるつぼに入れて、800℃で2時間、Ar-3vol%H中で加熱した。Mgの昇華によるMg:Si=2:1の化学量論組成からのずれを考慮して、Mgを5原子%多く混合した。これにより、アンチモンドープの塊状マグネシウムシリサイドスズ(MgSiSn)を得た。
【0162】
次に、この塊状マグネシウムシリサイドスズ(MgSiSn)を乳鉢中で細かく砕いて、これを分級して平均粒径が30μmの0.5原子%アンチモンドープのマグネシウムシリサイド粉(MgSiSn粉)を得た。
そして、純度99.99mass%のアルミニウム粉(Al粉、粒径1~5μm)を準備し、マグネシウムシリサイドスズ粉とアルミニウム粉とを混合し、第1焼結原料粉を得た。
【0163】
また、純度99.9mass%のMg(粒径180μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.99mass%のSi(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.9mass%のSb(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)を、それぞれ計量した。これら粉を乳鉢中で良く混ぜ、アルミナるつぼに入れて、850℃で2時間、Ar-3%H中で加熱した。Mgの昇華によるMg:Si=2:1の化学量論組成からのずれを考慮して、Mgを5原子%多く混合した。これにより、ノンドープの塊状マグネシウムシリサイド(MgSi)を得た。
次に、この塊状マグネシウムシリサイド(MgSi)を乳鉢中で細かく砕いて、これを分級して平均粒径が30μmのドーパントを含むマグネシウムシリサイド(MgSi)からなる第2原料粉(第2焼結原料粉)を得た。
【0164】
得られた第2焼結原料粉をカーボンシートで内側を覆ったカーボンモールドに充填した。そして、図5に示す焼結装置(通電焼結装置100)によって、雰囲気:真空、焼結温度:950℃、保持時間:60秒、加圧荷重:30MPaの条件で通電焼結した。次に、焼結した第2焼結原料粉焼結体をカーボンシートで内側を覆ったカーボンモールドに入れ、その上に第1焼結原料粉を充填した。そして、図5に示す焼結装置(通電焼結装置100)によって、雰囲気:真空、焼結温度:730℃、保持時間:60秒、加圧荷重:20MPaの条件で通電焼結した。
【0165】
得られた熱電変換材料についてパワーファクター(PF)及び無次元性能指数(ZT)、高温条件で使用時の耐久性について、実施例1と同様の手順で評価した。評価結果を表8に示す。
【0166】
【表8】
【0167】
表8に示すように、ドーパントとしてSbを含有し、さらにアルミニウムを含有するMgSiSn1-x(但し、0.2<x< 0.6)からなる第1層は、50℃、100℃、200℃、300℃において、高いPFを有している。一方、ドーパントを含有するマグネシウムシリサイドの焼結体からなる第2層は、300℃、400℃、500℃、550℃において、高いPFを有している。
よって、第1層を低温側(100℃)に配置し、第2層を高温側(500℃)に配置することにより、熱電変換材料内部で温度勾配が生じても、熱電変換材料全体で、高いPFを得ることが可能となる。
【0168】
<実施例6>
実施例1で作製した試料から、本発明例31~33及び比較例31の試料を作製した。なお、試料の組成は、表1の本発明例1~3、比較例1と対応する。
得られた試料に対し、酸化加熱後における表面の結晶粒内の酸素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素の濃度及び表面異物形成温度を測定した。
【0169】
(加熱後における表面の結晶粒内の酸素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素の濃度)
2mm×2mm×2mmの試料片を1000番、2000番の研磨紙(SiC砥粒)で研磨後、さらに4000番、8000番の研磨紙(Al砥粒)で研磨し、鏡面を形成した。それらの試料をカーボン製るつぼ(内径4mmφ、深さ2mm)に入れ、SEM-EDX(SEM:FEI社製Quanta450FEG、EDX:Genesisシリーズ)を用い、200Paの水蒸気雰囲気で、600℃まで昇温し、10分間保持した。その後25℃まで冷却した後、加速電圧3kVの条件で上記SEM-EDXを用い、結晶粒内の酸素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素の濃度を測定した。
【0170】
(表面異物形成温度)
上記の方法において、600℃まで昇温している時にSEM画像(倍率:1000倍)を取得し、このSEM画像を目視で確認し、表面に異物が形成され始めた温度を、表面異物の形成温度とした。評価結果を表9に示す。
【0171】
【表9】
【0172】
アルミニウム酸化物を添加せず、加熱後の結晶粒内のアルミニウム濃度が0.5原子%未満であった比較例31では、加熱後の酸素濃度及びマグネシウム濃度が高く、試料の表面には酸化マグネシウムが形成され、酸化されていることが分かった。また、表面異物形成温度が低いことから、酸化されやすい熱電変換材料であることが分かった。
【0173】
一方、アルミニウム酸化物を添加した本発明例31~33では、加熱後の結晶粒内のアルミニウム濃度は0.5原子%以上であり、加熱後の酸素濃度が低かった。また、表面異物形成温度が高いことから、酸化に強い熱電変換材料が得られることが分かった。なお、本発明例31~33のケイ素濃度が高いのは、酸素濃度が低く、酸化層が相対的薄いことから、酸化層より下層にある熱電変換材料を構成するMgSiのケイ素元素を検出しているためであると考えられる。
【0174】
以上のことから、本発明例によれば、さらに優れた熱電変換性能を有する熱電変換材料を提供可能であることが確認された。
図1
図2
図3
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図5
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図8
図9
図10
図11