IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TOTO株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-水洗大便器装置 図1
  • 特許-水洗大便器装置 図2
  • 特許-水洗大便器装置 図3
  • 特許-水洗大便器装置 図4
  • 特許-水洗大便器装置 図5
  • 特許-水洗大便器装置 図6
  • 特許-水洗大便器装置 図7
  • 特許-水洗大便器装置 図8
  • 特許-水洗大便器装置 図9
  • 特許-水洗大便器装置 図10
  • 特許-水洗大便器装置 図11
  • 特許-水洗大便器装置 図12
  • 特許-水洗大便器装置 図13
  • 特許-水洗大便器装置 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】水洗大便器装置
(51)【国際特許分類】
   E03D 9/00 20060101AFI20221115BHJP
   A47K 17/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
E03D9/00 Z
A47K17/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018145836
(22)【出願日】2018-08-02
(65)【公開番号】P2020020197
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100159846
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 尚
(72)【発明者】
【氏名】西山 暢治
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0141447(US,A1)
【文献】特開平06-109576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 1/00-13/00
A47K 13/00-17/02
G01H 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水により汚物を排出する水洗大便器装置であって、
汚物を受けるボウル部と、上記ボウル部の下方に入口が接続され汚物を排出する排水ト
ラップと、を有する便器本体と、
上記便器本体に取付けられると共に少なくとも上記排水トラップの内部の水流に基づく振動成分を検出する第1振動センサーと、
上記便器本体において上記第1振動センサーの検出する上記水流に基づく振動成分よりも上記水流に基づく振動成分を検出しにくい位置に取付けられる第2振動センサーであって、上記第1振動センサー及び上記第2振動センサーから送信される検出信号を受信して上記第1振動センサーによって検出された振動成分から上記第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより上記排水トラップの内部の上記水流に基づく振動成分を得て上記便器本体の排水状態の不良を判断する排水状態判断部において上記便器本体の排水状態の不良を判断させるために、上記第1振動センサーによって検出された振動成分から差し引く振動成分を検出する上記第2振動センサーと、を備えることを特徴とする水洗大便器装置。
【請求項2】
上記便器本体が、上記ボウル部及び上記排水トラップの流路を構成する通水部と、上記通水部以外の構造を形成する構造部とに分けて規定される場合、
上記第1振動センサーは、上記通水部の外面に取付けられ、
上記第2振動センサーは、上記構造部に取付けられる、請求項1記載の水洗大便器装置。
【請求項3】
上記第1振動センサー及び上記第2振動センサーは、床面からほぼ同じ高さに取付けられている、請求項1又は2に記載の水洗大便器装置。
【請求項4】
上記第1振動センサー及び上記第2振動センサーは、上記便器本体における前後方向の位置がほぼ同様の位置となるように取付けられている、請求項1乃至3の何れか1項に記載の水洗大便器装置。
【請求項5】
上記第1振動センサーは、上記排水トラップの入口部の外面に取付けられる、請求項1乃至4の何れか1項に記載の水洗大便器装置。
【請求項6】
上記第2振動センサーは、上記便器本体の袴部の内面に取付けられる、請求項1乃至5の何れか1項に記載の水洗大便器装置。
【請求項7】
洗浄水により汚物を排出する水洗大便器装置であって、
汚物を受けるボウル部と、上記ボウル部の下方に入口が接続され汚物を排出する排水トラップと、を有する便器本体と、
上記便器本体に取付けられると共に少なくとも上記排水トラップの内部の水流に基づく振動成分を検出する第1振動センサーと、
上記便器本体において上記第1振動センサーの検出する上記水流に基づく振動成分よりも上記水流に基づく振動成分を検出しにくい位置に取付けられる第2振動センサーであって、上記第1振動センサーによって検出された振動成分から差し引く振動成分を検出する上記第2振動センサーと、
上記第1振動センサー及び上記第2振動センサーから送信される検出信号を受信して上記第1振動センサーによって検出された振動成分から第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより上記排水トラップの内部の上記水流に基づく振動成分を得て上記便器本体の排水状態の不良を判断する排水状態判断部と、
を備えることを特徴とする水洗大便器装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗大便器装置に係り、特に、洗浄水により汚物を排出する水洗大便器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水洗大便器装置の便器本体内や便器本体の下流側の流路において、異物の混入や、汚物、尿石等の詰まりなどが生じることにより、上流側の便器本体において洗浄時の排水や洗浄の不具合、洗浄時の汚水あふれ等が生じる可能性がある。特に昨今では、駅、商業施設、飲食店街などが地下通路で接続され、利便性の向上、建物や通路の多目的化、さらに集客量の増大を目的として複雑に構築されている。それに伴い、便器本体の下流側の配管も迷路のように複雑に接続されると共にその配管距離も増大されている。このような複雑な便器本体の下流側の配管においては、どこか1箇所でも排水不良が生じ、便器本体から汚水あふれ等が生じると、近隣のトイレ内のみならず、施設の他の広範囲に悪影響が及び、多くの建物の利用者に迷惑を生じさせる可能性がある。
従って、従来より、便器本体内や便器本体の下流側の配管における詰まりの不具合に対し、早期に対処できるようなさまざまな発明がされてきた。
【0003】
例えば、特許文献1に示すように、小便器において、圧力センサが水位変化を圧力変化として検出し、排水部の詰まりを検出するものが知られている。
また、特許文献2に示すように、大便器において、水位センサがトラップ内の水位変化を検出し、トイレ詰まりを検出するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許3625605号公報
【文献】特開2002-21148号公報
【文献】特開2001-214496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1及び2において用いられる圧力センサーや光学式の水位センサーは、水位変化を直接測定することができるものの、センサーが汚水と直接触れるため、センサー表面への汚れの付着により、使用に伴って検出精度が低下する可能性がある。またこれらのセンサーは、配管を貫通する穴を設けてセンサーを取付ける必要があるため、既に設置されている水洗大便器装置に取付けることが容易ではなく、比較的大掛かりな工事となり、工事費用も多額となる。圧力センサーによる測定においては、強風時に、流路内の気圧が上下することにより、圧力センサーの検出誤差が生じるという問題もある。
【0006】
そこで、特許文献3に示すように、トイレ装置において、トイレ装置の下流側の排水経路に詰まり検出手段を設け、詰まり検出手段に加振式センサー等の振動センサーを用いることが検討されている。
【0007】
ところが、便器本体に取付けた振動センサーで排水不良の検知を行おうとすると、便器本体及び床から伝わる振動ノイズ、例えば、床から伝わる足音の振動、使用者が便器本体を使用するときの便器本体を伝わる振動、便器本体に取付けた排気ファン及び空調ファンなどのモーター回転振動、排水弁の駆動による振動、建物外を電車やトラックなどが通るときの振動、工事現場の振動など、を検出し、排水不良の検知の精度が低下するという問題が生じる。
【0008】
そこで、本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、排水トラップの内部の水流に基づく振動以外の振動の影響を抑制し、便器本体の排水状態の不良を判断する精度を向上させることができる水洗大便器装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明は、洗浄水により汚物を排出する水洗大便器装置であって、汚物を受けるボウル部と、上記ボウル部の下方に入口が接続され汚物を排出する排水トラップと、を有する便器本体と、上記便器本体に取付けられると共に少なくとも上記排水トラップの内部の水流に基づく振動成分を検出する第1振動センサーと、上記便器本体において上記第1振動センサーの検出する上記水流に基づく振動成分よりも上記水流に基づく振動成分を検出しにくい位置に取付けられる第2振動センサーであって、上記第1振動センサー及び上記第2振動センサーから送信される検出信号を受信して上記第1振動センサーによって検出された振動成分から第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより上記排水トラップの内部の水流に基づく振動成分を得て上記便器本体の排水状態の不良を判断する排水状態判断部において上記便器本体の排水状態の不良を判断させるために、上記第1振動センサーによって検出された振動成分から差し引く振動成分を検出する上記第2振動センサーと、を備えることを特徴とする。
このように構成された本発明においては、第1振動センサーが、排水トラップの内部の水流に基づく振動成分に加えて他の要因による振動成分を検出したとしても、排水状態判断部において、上記第1振動センサーによって検出された振動成分から、第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより、上記排水トラップの内部の水流に基づく振動成分を得て、便器本体の排水状態の不良を判断させることができる。よって、本発明によれば、便器本体に取付けられた第1振動センサー及び第2振動センサーにより、排水トラップの内部の水流に基づく振動以外の振動の影響を抑制し、便器本体の排水状態の不良を判断する精度を向上させることができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、上記便器本体が、上記ボウル部及び上記排水トラップの流路を構成する通水部と、上記通水部以外の構造を形成する構造部とに分けて規定される場合、上記第1振動センサーは、上記通水部の外面に取付けられ、上記第2振動センサーは、上記構造部に取付けられる。
このように構成された本発明においては、第1振動センサーが通水部の外面に取付けられているので、第1振動センサーが排水トラップの内部の水流に基づく振動成分を比較的強い信号強度により検出することができ、排水トラップの内部の水流の流動状態を比較的正確に判断することができる。また、第2振動センサーが構造部に取付けられているので、第2振動センサーは、排水トラップの内部の水流に基づく振動成分を検出しにくくすることができる。一方で、第1振動センサー及び第2振動センサーは、便器本体に加わる水流に基づく振動以外の振動を同様に検出する。これにより、第1振動センサーによって検出された振動成分から第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより排水トラップの内部の水流に基づく振動成分を比較的良好に得ることができ、便器本体の排水状態の不良を判断する精度を向上させることができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、上記第1振動センサー及び上記第2振動センサーは、床面からほぼ同じ高さに取付けられている。
このように構成された本発明においては、第1振動センサー及び第2振動センサーは、床面からほぼ同じ高さに取付けられているので、第1振動センサー及び第2振動センサーは便器本体に加わる水流に基づく振動以外の振動のうち上下方向から伝わる振動を同様の値として検出しやすくできる。
【0012】
本発明において、好ましくは、上記第1振動センサー及び上記第2振動センサーは、上記便器本体における前後方向の位置がほぼ同様の位置となるように取付けられている。
このように構成された本発明においては、第1振動センサー及び上記第2振動センサーは、上記便器本体における前後方向の位置がほぼ同様の位置となるように取付けられているので、第1振動センサー及び第2振動センサーは水流に基づく振動以外の便器本体に加わる振動のうち前後方向から伝わる振動を同様の値として検出しやすくできる。
【0013】
本発明において、好ましくは、上記第1振動センサーは、上記排水トラップの入口部の外面に取付けられる。
このように構成された本発明においては、第1振動センサーは、上記排水トラップの入口部の外面に取付けられるので、第1振動センサーが排水トラップの入口部の水流に基づく振動成分を比較的強い信号強度により検出することができ、排水トラップの内部の水流の流動状態をより正確に判断することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、上記第2振動センサーは、上記便器本体の袴部の内面に取付けられる。
このように構成された本発明においては、第2振動センサーが便器本体の袴部の内面に取付けられているので、第2振動センサーから便器本体の内側方向に空間が形成され、第2振動センサーが、排水トラップの内部の水流に基づく振動成分をより検出しにくくできる。また、第2振動センサーが便器本体の袴部の内面に取付けられている場合であっても、第2振動センサーは、便器本体に加わる水流に基づく振動以外の振動を第1振動センサーと同様に検出できる。
【0015】
本発明において、好ましくは、さらに、上記第1振動センサーと上記通水部との間、及び上記第2振動センサーと上記構造部との間にそれぞれ設けられる導体部を備え、上記導体部は、上記第1振動センサー及び上記第2振動センサーから送信される検出信号を受信して上記第1振動センサーによって検出された振動成分から第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより上記排水トラップの内部の水流に基づく振動成分を得る信号差分部から延び且つ電源に接続されたグラウンド回路と電気的に接続される。
仮に第1振動センサーを内部に洗浄水が存在する通水部に直接に取付けた場合、第1振動センサーと接地電位となっている通水部の内側の流水路の水分との間で浮遊容量等によるインピーダンスが形成される。また、第2振動センサーを内側に空気が存在する構造部に直接に取付けた場合、第2振動センサーと構造部との間では上記浮遊容量等とは異なるインピーダンスが形成される。よって、第1振動センサーがアースに対して形成するインピーダンスと第2振動センサーがアースに対して形成するインピーダンスとが異なることとなる。このインピーダンスの差に対し、信号差分部の電源の周波数が作用し、信号差分部により得られる信号に50Hz又は60Hzの電源周波数成分が概ね常時ノイズとして含まれる。よって、排水トラップの内部の水流に基づく振動成分に対しノイズが含まれた状態となり、便器本体の排水状態の不良の判断の精度を低下させる悪影響が生じる可能性がある。
このように構成された本発明においては、第1振動センサーと上記通水部との間、及び上記第2振動センサーと上記構造部との間に導体部をそれぞれ設け、導体部は、信号差分部から延び且つ電源に接続されたグラウンド回路と電気的に接続される。これにより、第1振動センサーがグラウンドに対して形成するインピーダンスと、第2振動センサーがグラウンドに対して形成するインピーダンスとの間に差が生じることを抑制し、信号差分部から得られる信号に電源周波数成分がノイズとして含まれることを抑制することができる。よって、本発明によれば、排水トラップの内部の水流に基づく振動成分を得て、便器本体の排水状態の不良の判断の精度をより向上させることができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、上記排水状態判断部は、上記第1振動センサーによって検出された振動成分から第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより得られた上記排水トラップの内部の水流に基づく振動成分の特徴量を決定し、過去の上記排水トラップの内部の水流に基づく振動成分の特徴量から決定された代表特徴量と比較して、上記便器本体の排水状態の不良を判断する。
このように構成された本発明においては、排水状態判断部は、過去の上記排水トラップの内部の水流に基づく振動成分の特徴量から代表特徴量を決定すると共に、この代表特徴量と、上記第1振動センサーによって検出された振動成分から第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより得られた上記排水トラップの内部の水流に基づく振動成分の特徴量を比較することにより、比較的容易に上記便器本体の排水状態の不良を判断することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、上記排水状態判断部は、上記排水トラップの内部の水流に基づく振動成分の特徴量を、その振動成分の周波数スペクトルに基づいて決定し、過去の上記排水トラップの内部の水流に基づく振動成分の特徴量から決定された代表特徴量と比較して、上記便器本体の排水状態の不良を判断する。
このように構成された本発明においては、上記排水状態判断部は、上記排水トラップの内部の水流に基づく振動成分の特徴量を、その振動成分の周波数スペクトルに基づいて決定する。これにより、排水状態判断部は、過去の周波数スペクトルに基づく特徴量から代表特徴量を決定すると共に、この代表特徴量と、上記第1振動センサーによって検出された振動成分から第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより得られた周波数スペクトルに基づく特徴量を比較することにより、比較的容易に上記便器本体の排水状態の不良を判断することができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、洗浄水により汚物を排出する水洗大便器装置であって、汚物を受けるボウル部と、上記ボウル部の下方に入口が接続され汚物を排出する排水トラップと、を有する便器本体と、上記便器本体に取付けられると共に少なくとも上記排水トラップの内部の水流に基づく振動成分を検出する第1振動センサーと、上記便器本体において上記第1振動センサーの検出する上記水流に基づく振動成分よりも上記水流に基づく振動成分を検出しにくい位置に取付けられる第2振動センサーであって、上記第1振動センサーによって検出された振動成分から差し引く振動成分を検出する上記第2振動センサーと、上記第1振動センサー及び上記第2振動センサーから送信される検出信号を受信して上記第1振動センサーによって検出された振動成分から第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより上記排水トラップの内部の水流に基づく振動成分を得て上記便器本体の排水状態の不良を判断する排水状態判断部と、を備える。
このように構成された本発明においては、第1振動センサーが、排水トラップの内部の水流に基づく振動成分に加えて他の要因による振動成分を検出したとしても、排水状態判断部において、上記第1振動センサーによって検出された振動成分から、第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより、上記排水トラップの内部の水流に基づく振動成分を得て、便器本体の排水状態の不良を判断させることができる。よって、本発明によれば、便器本体に取付けられた第1振動センサー及び第2振動センサーにより、排水トラップの内部の水流に基づく振動以外の振動の影響を抑制し、便器本体の排水状態の不良を判断する精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水洗大便器装置によれば、排水トラップの内部の水流に基づく振動以外の振動の影響を抑制し、便器本体の排水状態の不良を判断する精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態による水洗大便器装置を示す概略構成図である。
図2図1のII-II線に沿って見た排水トラップ管路の入口部の断面図である。
図3図1のIII-III線に沿って見た排水トラップ管路の下降路近傍の断面図である。
図4】本発明の一実施形態による水洗大便器装置の変形例において、平面視により排水トラップ管路の入口部、第1振動センサー、本体支持構造及び第2振動センサーの位置関係を概略的に説明する概略平面図である。
図5】本発明の一実施形態による水洗大便器装置において、第1振動センサー、第2振動センサー、制御部32等の電気的な接続関係を示す構成図である。
図6】本発明の一実施形態による水洗大便器装置において、制御部の信号差分部、排水状態判断部及び記憶装置の制御動作を示すフローチャートである。
図7】本発明の一実施形態による水洗大便器装置において、便器本体の排水状態の不良が生じている状態において、第1振動センサーによって検出された振動成分から第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより得られた排水トラップ管路の内部の水流に基づく振動成分の信号波形を示す図である。
図8】本発明の一実施形態による水洗大便器装置において、便器本体の排水状態の不良が生じている状態において、排水トラップ管路の内部の水流に基づく振動成分の信号波形を周波数分析部により周波数分析することにより得られる周波数スペクトルを示す図である。
図9】本発明の一実施形態による水洗大便器装置の便器本体において、便器本体の排水状態の不良が生じていない状態において、第1振動センサーによって検出された振動成分から第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより得られた排水トラップ管路の内部の水流に基づく振動成分の信号波形を示す図である。
図10】本発明の一実施形態による水洗大便器装置において、便器本体の排水状態の不良が生じていない状態において、排水トラップ管路の内部の水流に基づく振動成分の信号波形を周波数分析部により周波数分析することにより得られる周波数スペクトルを示す図である。
図11】比較例として、第1振動センサーを排水トラップ管路に配置し、第2振動センサーをボウル部に配置した状態で、第1振動センサーによって検出された振動成分から第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより得られた振動成分の時系列信号の信号波形に対し、周波数分析を行って得たスペクトル周波数の時系列の周波数分析図である。
図12】比較例として、第1振動センサーが水洗大便器装置のウォシュレット(登録商標)機構の脱臭ファンの振動を検出している状態の時系列信号の信号波形に対し、周波数分析を行って得た時系列の周波数分析図である。
図13】本発明の一実施形態による水洗大便器装置の変形例を示す概略構成図である。
図14】本発明の一実施形態による水洗大便器装置の他の変形例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態による水洗大便器装置について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態による水洗大便器装置を示す概略斜視図である。なお、図1において、一例として、排水時の水面をW1により示し、排水時に空気Kが例えば気泡となって入口部10aの頂部から巻き込まれ、空気を巻き込む音を生じさせる様子を示している。
【0022】
図1に示すように、本発明の一実施形態による水洗大便器装置1は、洗浄水により汚物を排出する水洗大便器装置である。水洗大便器装置1は、サイホン作用を利用してボウル部内の汚物を吸い込んで排水トラップ管路から一気に外部に排出する、いわゆる、サイホン式の水洗大便器装置である。水洗大便器装置1は、陶器製の便器本体2と、便器本体2の後部に取り付けられ、便器洗浄に使用される洗浄水を貯水して便器本体2へ給水する洗浄水源である重力給水式の貯水タンク4とを備えている。便器本体2は床面F上に配置されている。なお、水洗大便器装置1については、ボウル部内の水の落差による流水作用で汚物を押し流す、いわゆる、洗い落し式の水洗大便器装置であってもよい。なお、便器本体2へ洗浄水を供給する洗浄水源としては、本実施形態で示した重力給水式の貯水タンク4のようなタンク式のものに限定されず、水道水の給水圧を直接利用した水道直圧式のものや、フラッシュバルブ式のものや、ポンプの補圧を利用して洗浄水を供給するものであってもよい。また、便器本体2は、陶器以外に、樹脂と陶器、又は樹脂のみで形成されても良い。
以下、本発明の一実施形態における説明において、水洗大便器装置1を使用する使用者側(水洗大便器装置1を使用するために水洗大便器装置1の前に立っている使用者側)から見て手前側を前方側とし、使用者から見て奥側を後方側とし、水洗大便器装置1を前方から見て右側を右側とし、前方から見て左側を左側とし、便器本体2の中心方向を内側とし、便器本体2の外方に向かう方向を外側として説明している。
【0023】
便器本体2は、汚物を受けるボウル部6と、便器本体2の後方上部に設けられた導水路8と、ボウル部6の下方に入口が接続され、ボウル部6内の汚物を排出する排水トラップである排水トラップ管路10と、便器本体2の外周に沿って外装面を形成する袴部11と、ボウル部6、導水路8及び排水トラップ管路10等を接続し且つ支持する本体支持構造13と、を備えている。
【0024】
ボウル部6は、便器本体2の前方上部に設けられている。ボウル部6は、ボウル形状の汚物受け面12と、ボウル部6の上縁部に沿って形成されたリム部14とを備えている。リム部14の上方には、弁座(図示せず)及びウォシュレット機構(図示せず)等が設けられている。ウォシュレット機構(図示せず)は、局部洗浄装置(図示せず)、脱臭ファン(図示せず)等を備えている。
【0025】
また、ボウル部6の汚物受け面12の後方且つ下方には、排水トラップ管路10の入口部10aが開口し、この入口部10aから上昇路10bが後方且つ斜め上方に延びている。この上昇路10bには下降路10cが連続し、下降路10cの下端は排水ソケット16を介して床下の排出管18に接続されている。排出管18には、排出管18の排水不良が便器本体2からの排水状態に影響を与えるような、排水トラップ管路10の下流側に設けられている排水配管が含まれる。
【0026】
導水路8は、貯水タンク4から供給された洗浄水をボウル部6に吐水させるように導いている。導水路8は、貯水タンク4の排水口4aに接続される入口部からボウル部6の背面側近傍まで延びる共通導水路20と、ボウル部6の背面側近傍で共通導水路20から分岐してリム吐水口22まで延びるリム導水路24と、共通導水路20から分岐してゼット口(図示せず)に延びるゼット導水路(図示せず)とを備えている。
【0027】
貯水タンク4は、排水口4aを開閉できる排水弁装置26を備えている。排水弁装置26は、制御部32からの指令信号を受けた電動駆動部からの駆動力を受けて電動で開閉されてもよい。排水弁装置26は、貯水タンク4に設けられた手動の操作装置(図示せず)からの駆動力を受けて手動で開閉されてもよい。
【0028】
袴部11は、便器本体2の外周に沿って縦壁状に形成されている。袴部11は、便器本体2の主に外表面を形成している。
本体支持構造13は、ボウル部6、導水路8及び排水トラップ管路10等の間に延び、これらの一部同士を互いに接続、支持している。また、本体支持構造13は、ボウル部6、導水路8及び排水トラップ管路10等を床面Fに対して指示している。よって、本体支持構造13は、ボウル部6と床面Fとを結ぶ支持構造、導水路8と床面Fとを結ぶ支持構造及び排水トラップ管路10と床面Fとを結ぶ支持構造等も含んでいる。本体支持構造13は、床面Fから便器本体2の上面まで形成される。本体支持構造13は、便器本体2の上部にかかる使用者の体重、貯水タンク4の荷重も支持する。
【0029】
つぎに、図1を参照して、水洗大便器装置1の第1振動センサー28と、第2振動センサー30と、制御部32について説明する。
水洗大便器装置1は、さらに、第1振動センサー28と、第2振動センサー30と、制御部32とを備えている
第1振動センサー28は、便器本体2に取付けられると共に少なくとも排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分を検出する。
【0030】
第2振動センサー30は、便器本体2において第1振動センサー28の検出する水流に基づく振動成分よりも水流に基づく振動成分を弱く検出する位置又は検出しにくい位置に取付けられる。第2振動センサー30は、第1振動センサー28及び第2振動センサー30から送信される検出信号を受信して第1振動センサー28によって検出された振動成分A1から第2振動センサー30によって検出された振動成分A2を差し引くことにより排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分A3を得て便器本体2の排水状態の不良を判断する排水状態判断部44において便器本体2の排水状態の不良を判断させるために、振動成分A1から差し引く振動成分A2を検出している。排水状態の不良は、ボウル部6、排水トラップ管路10又は排出管18の排水状態が不良であることにより生じ、完全に流路が詰まった状態のみならず、詰まりかけの状態を含む。
【0031】
つぎに、図1図5を参照して、水洗大便器装置1の第1振動センサー28及び第2振動センサー30の取付位置について説明する。
図2図1のII-II線に沿って見た排水トラップ管路の入口部の断面図であり、図3図1のIII-III線に沿って見た排水トラップ管路の下降路近傍の断面図であり、図4は本発明の一実施形態による水洗大便器装置の変形例において、平面視により排水トラップ管路の入口部、第1振動センサー、本体支持構造及び第2振動センサーの位置関係を概略的に説明する概略平面図であり、図5は本発明の一実施形態による水洗大便器装置において、第1振動センサー、第2振動センサー、制御部32等の電気的な接続関係を示す構成図である。
図4においては、紙面の上下方向が便器本体2の左右方向に対応し、紙面の左右方向が便器本体2の前後方向に対応している。排水トラップ管路10、第1振動センサー28及び第2振動センサー30は上方から見た状態で示され、本体支持構造13は断面により示されている。
【0032】
便器本体2は、ボウル部6及び排水トラップ管路10の流路を構成する通水部31と、通水部31以外の構造を形成する構造部34とに分けて規定することができる。
通水部31は、その内側に洗浄水Jが流れる流水空間Cを形成すると共に、その外側に空気が存在する大気空間Dを形成する。通水部31は、例えば、ボウル部6及び排水トラップ管路10である。構造部34は、例えば、袴部11及び本体支持構造13であり、その内側及び外側に空気が存在する大気空間Dを形成する。構造部34は、洗浄水Jの流路を構成する壁面以外の構造部分であれば、その内側又は外側に大気空間Dが形成されていない構造であってもよい。
【0033】
便器本体2が、通水部31と、構造部34とに分けて規定される場合、第1振動センサー28は、通水部31の外面に取付けられ、第2振動センサー30は、構造部34の内面又は外面に取付けられる。
図2に示すように、第1振動センサー28は、通水部31である排水トラップ管路10の入口部10aの外面の頂部に取付けられる。排水トラップ管路10の入口部10aは、内側に流水空間Cを形成し、外側に大気空間Dを形成している。
図3に示すように、第2振動センサー30は、構造部34である袴部11の内面に取付けられる。袴部11は、その内側及び外側に大気空間Dを形成している。
【0034】
第1振動センサー28及び第2振動センサー30は、床面Fからほぼ同じ高さに取付けられている。第1振動センサー28の床面Fからの高さH1は、第2振動センサー30の床面Fからの高さH2とほぼ同じである。
【0035】
変形例として、図4に示すように、第1振動センサー28及び第2振動センサー30は、便器本体2における前後方向の位置がほぼ同様の位置となるように取付けられていてもよい。第2振動センサー30は第1振動センサー28の便器本体左右方向の外側に配置されている。図4において、便器本体2における前後方向Bが示される。第1振動センサー28及び第2振動センサー30は、便器本体2における前後方向Bの位置がほぼ同様の位置となるように取付けられているので、第1振動センサー28及び第2振動センサー30は便器本体2に加わる水流に基づく振動以外の振動のうち前後方向Bから伝わる振動をほぼ同様の値として検出しやすくできる。便器本体2の前方側又は後方側から便器本体2に伝わる振動は、第1振動センサー28及び第2振動センサー30においてほぼ同様に検出されるので、振動成分A1から振動成分A2を差し引くことにより、便器本体2の外部から伝わる振動を効率的に排除することができ、水流に基づく振動成分の検出の精度を向上させることができる。
【0036】
つぎに、図5を参照して、水洗大便器装置1の便器本体2の第1振動センサー28と、第2振動センサー30と、制御部32との接続関係について説明する。
水洗大便器装置1は、さらに、第1振動センサー28と通水部31との間に設けられる導体部37、及び第2振動センサー30と構造部34との間に設けられる導体部36、第1振動センサー28から受信した信号の電圧を増幅する第1アンプ38と、第2振動センサー30から受信した信号の電圧を増幅する第2アンプ42とを備えている。
第1振動センサー28は、排水トラップ管路10の入口部10aに取付けられている。第1振動センサー28が検出した振動成分は非常に微小であり、この振動成分は第1振動センサー28により第1アンプ38に送信され、第1アンプ38により大きく増幅された後、信号差分部40に振動成分A1として送信される。
第2振動センサー30は、袴部11に取付けられている。第2振動センサー30が検出した振動成分は非常に微小であり、この振動成分は第2振動センサー30により第2アンプ42に送信され、第2アンプ42により大きく増幅された後、信号差分部40に振動成分A2として送信される。
【0037】
信号差分部40は、受信した振動成分A1から振動成分A2を差し引くことにより排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分A3を得る機能を有する。
続いて、制御部32は、信号差分部40の機能に基づいて算出された振動成分A3を、排水状態判断部44の機能に基づいて判定させる。
【0038】
信号差分部40及び排水状態判断部44を有する制御部32の第1グラウンド回路50、特に信号差分部40のグランドとなる第1グラウンド回路50は、制御部32へ電力を供給する電源である電源部46の出力と電気的に接続される。さらに電源部46の入力は、交流50Hz又は60Hzの電力線と接続される。電力線の一端は、電柱や柱上トランス等を通じて接地されているため、電源部46に接続されている第1グラウンド回路50は、電源部46を通じ、いくらかのインピーダンスでアースと接続されている。そのため第1グラウンド回路50には、アースに対し50Hz又は60Hzの微小な交流電位が発生する。
導体部36と導体部37は、互いに接続されるとともに、第2グラウンド回路52を介して第1グラウンド回路50に電気的に接続されている。導体部36と導体部37は薄板状に形成されている。第2グラウンド回路52は、第1アンプ38と第2アンプ42とも接続されている。
【0039】
導体部36と導体部37と第1グラウンド回路50とを接続する理由を説明する。
仮に第1振動センサー28を内部に洗浄水が存在する通水部31に導体部37を介さず直接に取付けた場合、第1振動センサー28とアースとの間で、通水部31の内側の流水路の水分を介し、浮遊容量等によるインピーダンスが形成される。また、第2振動センサー30を内側に空気が存在する構造部34に導体部36を介さずに直接取付けた場合、第2振動センサー30とアースとの間では、構造部34ならびにその内部の空気を介し、上記浮遊容量等とは異なるインピーダンスが形成される。よって、第1振動センサー28がアースに対して形成するインピーダンスと第2振動センサー30がアースに対して形成するインピーダンスとが異なることとなる。このアースと各センサーとの間のインピーダンスの差に対し、第1アンプ38と第2アンプ42のグラウンドである第2グラウンド回路52と、第2グラウンド回路52に接続する信号差分部40のグランドである第1グラウンド回路50が、電源部46によりアースに対し50Hz又は60Hzの微小な交流電位を持っている。従って、第1振動センサー28ならびに第2振動センサー30の信号を大きく増幅して得られる振動成分A1と振動成分A2との間にも大きな差が生じ、信号差分部40により得られる信号A3には50Hz又は60Hzの電源周波数成分が概ね常時電源ハムノイズとして含まれる。よって、排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分に対し電源ハムノイズが含まれた状態となり、便器本体2の排水状態の不良の判断の精度を低下させる悪影響が生じる可能性がある。
【0040】
このような課題を解決するため、本実施形態においては、第1振動センサー28と通水部31との間に導体部37、及び第2振動センサー30と構造部34との間に導体部36を設け、導体部36と導体部37とは、共通の第2グラウンド回路52と接続され、さらに第2グラウンド回路52は、信号差分部40から延び且つ電源回路46と接続される第1グラウンド回路50と電気的に接続される。これにより、第1振動センサー28及び第2振動センサー30の、浮遊容量により発生するインピーダンスを抑制するとともに、第1振動センサー28とグラウンドEに対して形成するインピーダンスと、第2振動センサー30とグラウンドEに対して形成するインピーダンスとを同じにすることで、2つのセンサーの間にインピーダンスの差が生じることを抑制し、信号差分部40から得られる信号に電源周波数成分がノイズとして含まれることを抑制することができる。よって、本発明によれば、排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分の検出精度を向上させ、便器本体2の排水状態の不良の判断の精度をより向上させることができる。
【0041】
制御部32は、第1振動センサー28及び第2振動センサー30から信号を受信できるように第1振動センサー28側の第1アンプ38及び第2振動センサー30側の第2アンプ42と接続されている。制御部32は、CPU及びメモリ等を内蔵し、予めプログラムされたように所定の処理及び他の機器の制御を行うことができる。また、制御部32は、報知部54に制御信号を送ることができ、制御部32の制御処理の結果に基づいて報知部54を制御することができる。
【0042】
図1に示すように、制御部32は、信号差分部40と、排水状態判断部44と、記憶装置60とを備えている。
排水状態判断部44は、振動成分A3の信号波形をFFT(Fast Fourier Transform)手法を用いて周波数の関数の周波数スペクトルB3を生成する周波数分析部45を備えている。記憶装置60は、記憶媒体又はメモリ等により構成され、振動成分A1乃至A3のデータ、振動成分A3の特徴量、過去の特徴量、過去の特徴量から決定された代表特徴量等を記憶する。
【0043】
なお、制御部32は、排水弁装置26を作動させる電動駆動部(図示せず)、貯水タンクに洗浄水を供給する給水装置(図示せず)、使用者が水洗大便器装置1の洗浄操作の開始等を操作できる操作部(図示せず)等と電気的に接続されている。制御部32は、便器洗浄を実行できる便器洗浄機能部を備えている。制御部32は、少なくとも信号差分部40及び排水状態判断部44を備えていればよいので、水洗大便器装置1の電動駆動部、給水装置及び操作部等の便器洗浄のために必要な機能部を備えている制御機能部とは別に設けられていてもよい。
【0044】
水洗大便器装置1は、さらに、使用者又は水洗大便器装置1の管理者等に排水状態の不良を報知する報知部54を備えている。
報知部54は、LEDランプ及び/又は小型スピーカー等を備え、制御部32から受信した情報を使用者等に視覚及び/又は音声で報知することができる。例えば、報知部54は、使用者又は管理者等にLED表示を点灯させる又は文字を表示させる等の手段により排水状態の不良を報知することができる。報知部54は、モニタ上に情報を表示させることにより報知する手段であってもよい。報知部54は、例えば便器本体2又は制御部32とは離れた場所に配置され、インターネット等の通信ネットワークを介して制御部32と電気的に接続されていてもよい。
【0045】
次に、図1及び図6を参照して、本発明の一実施形態による水洗大便器装置1の動作(作用)について説明する。
図6は本発明の一実施形態による水洗大便器装置において、制御部の信号差分部、排水状態判断部及び記憶装置の制御動作を示すフローチャートである。図6において、Sは各ステップを示している。
【0046】
図6に示すように、S0において、制御部32は、便器本体2の排水状態の不良が生じているか否かを判断する排水状態判断処理モードを開始して、S1に進む。S0は使用者の検知により開始されてもよく、又は、待機状態において常にS0とS1との間で判定が繰り返されている状態であってもよい。
【0047】
S1において、制御部32は、便器本体2の洗浄が開始されたか否かを判定する。制御部32は、便器本体2の洗浄が開始された場合には、制御部32が便器本体2の排水状態の不良を判断するための洗浄水の供給が便器本体2に行われ、便器本体2の排水状態の不良を有効に判断できる状態であると判断できるので、S2に進む。
制御部32は、便器本体2の洗浄が開始されていない場合には、制御部32が便器本体2の排水状態の不良を判断するための洗浄水の供給が便器本体2に行われておらず、便器本体2の排水状態の不良を有効に判断できない状態であると判断できるので、S1に戻って再び判定を実行する。
【0048】
S2において、制御部32は、第1振動センサー28によって検出された振動成分A1の時系列信号を取得し、S3に進む。制御部32は、振動成分A1の時系列信号を洗浄開始直後から貯水タンク4の給水の終了まで取得しているが、振動成分A1の時系列信号を任意の時間区間において取得してもよい。
【0049】
S3において、制御部32は、第2振動センサー30によって検出された振動成分A2の時系列信号を取得し、S4に進む。制御部32は、振動成分A2の時系列信号を洗浄開始直後から貯水タンク4の給水の終了まで取得しているが、振動成分A2の時系列信号を任意の時間区間において取得してもよい。
【0050】
S4において、制御部32は、信号差分部40により、振動成分A1から振動成分A2を差し引き、排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分A3を取得すると共に記憶装置60に記憶し、S5に進む。
【0051】
図7及び図12を参照して、排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分A3について説明する。
図7は、本発明の一実施形態による水洗大便器装置において、便器本体の排水状態の不良が生じている状態において、第1振動センサーによって検出された振動成分から第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより得られた排水トラップ管路の内部の水流に基づく振動成分の信号波形を示す図であり、図12は、比較例として、第1振動センサー28が水洗大便器装置1のウォシュレット機構(図示せず)の脱臭ファン(図示せず)の振動を検出している状態の時系列信号の信号波形に対し、周波数分析を行って得た時系列の周波数分析図である。図7においては、縦軸は電圧により示す信号強度[V]、横軸は、時刻[t]である。図12においては、縦軸は周波数[Hz]、横軸は時刻[t]である。図12においては、脱臭ファンの比較的高い利得の周波数が領域Iに示されている。
【0052】
振動成分A3に関し、第1振動センサー28及び第2振動センサー30に共通に検出される振動成分はキャンセルされ、無くなる又はほぼなくなった状態となる。例えば図12に示すように、第1振動センサー28は、単独で、ウォシュレット機構(図示せず)の脱臭ファン(図示せず)の振動を検出する。このとき、第1振動センサー28及び第2振動センサー30がこの脱臭ファンの振動を共通して検出する状態であれば、振動成分A3においては、この脱臭ファンの振動成分が無くなる又はほぼなくなった状態となる。排水弁装置26の振動及び他の外部から伝来する振動についても、第1振動センサー28及び第2振動センサー30が振動を共通して検出することにより、振動成分A3は、これらの振動成分を無くなる又はほぼなくなった状態とすることができる。
【0053】
S5において、制御部32は、便器本体2の洗浄が完了したか否かを判定する。
制御部32は、便器本体2の洗浄が完了されていない場合には、制御部32が便器本体2の洗浄が完了するまでの時刻において振動成分A1乃至A3のデータを取得及び記憶装置60への記憶ができるように、S2に戻る。
制御部32は、便器本体2の洗浄が完了した場合には、制御部32における任意の時刻における振動成分A1乃至A3のデータの取得及び記憶装置60への記憶がなされ、周波数分析の準備が整ったと判断できるので、S6に進む。
【0054】
S6において、制御部32は、図7及び図8に示すように、振動成分A3の特徴量を決定し、S7に進む。ここで、図8を参照して、振動成分A3の特徴量である周波数スペクトルの特徴量について説明する。
図8は、本発明の一実施形態による水洗大便器装置において、便器本体の排水状態の不良が生じている状態において、排水トラップ管路の内部の水流に基づく振動成分の信号波形を周波数分析部により周波数分析することにより得られる周波数スペクトルを示す図である。図8においては、縦軸は利得[dB]、横軸は周波数[Hz]である。
図8に示すように、排水状態判断部44は、図7において得られた振動成分A3の信号波形から周波数分析部45によるFFT(Fast Fourier Transform)手法を用いて周波数の関数の周波数スペクトルB3を生成し、周波数スペクトルの特徴量を分析する。このような周波数スペクトルB3の特徴量は、周波数スペクトルにおけるピーク周波数と、そのピーク周波数の強さ(振幅)に関する。
【0055】
排水状態判断部44は、振動成分A1から振動成分A2を差し引くことにより得られた振動成分A3の特徴量を決定する。特徴量は、振動成分A3に基づいた特徴量であり、振動成分A3のデータにどのような特徴があるかを示している。
【0056】
図8に示すような、便器本体2の排水状態の不良が生じている状態においては、ボウル部6内の洗浄水が良好に排水されないため、ボウル部6内の水位が比較的大きく変動しにくく、排水トラップ管路10内を流れる洗浄水の流量及び流勢も低下される。よって、排水トラップ管路10に比較的大きな流量及び流勢の洗浄水が流れることにより生じる振動が生じにくくなる。従って、便器本体2の排水状態の不良が生じている状態においては、後述するような所定以上の利得を生じるようなボウル部6の水の共振周波数のピーク周波数が明確に出現しにくくなる。よって、図8に示すような周波数スペクトルB3は、特徴量に関し、所定以上の利得を生じる共振周波数のピーク周波数が明確に出現していないという特徴を持っている。
例えば、図8に示すように、最大のピークは60Hz付近にあるものの、100Hz以下の周波数帯にあるその他のピークの利得と比べて、概ね15dB以下の差の範囲内に収まっており、所定以上の利得を生じる共振周波数のピーク周波数が明確に出現していないという特徴が見られる。
【0057】
また、便器本体2の排水状態の不良が生じている状態においては、排水トラップ管路10内を流れる洗浄水の流量及び流勢も低下されるため、排水トラップ管路10の入口部10aにおいて空気を巻き込む音、いわゆるごぼごぼ音、の振動が生じにくくなる。便器本体2の排水状態の不良が生じている状態においては、後述するような所定以上の利得を生じるような空気巻き込み音のピーク周波数が明確に出現しにくくなる。よって、図8に示すような周波数スペクトルは、特徴量に関し、所定以上の利得を生じる空気巻き込み音のピーク周波数が明確に出現していないという特徴を持っている。
【0058】
また、便器本体2の排水状態の不良が生じている状態においては、上述のように、所定以上の利得を生じるような共振周波数のピーク周波数が明確に出現しにくくなる。よって、共振周波数のピーク周波数が時間変化する様子も明確に出現しにくくなる。従って、便器本体2の排水状態の不良が生じている状態においては、後述するような所定以上の利得を生じるようなボウル部6の水の共振周波数が時間変化する特徴量も明確に出現しにくくなる。よって、後述する図11に示すような周波数分析図とは異なり、この場合の周波数スペクトルの時系列の周波数分析図は、特徴量に関し、所定以上の利得を生じるピーク周波数とその利得(振幅の大きさ)の時間変化の傾向が明確に出現していないという特徴を持っている。
【0059】
排水状態判断部44は、振動成分A3に基づいた所定の特徴量、例えば上述の特徴量(特定の特徴が表れていないという特徴量)のうちのいずれか、が生じているかを判断すると共に、特徴量を選択又は決定する。
【0060】
S7において、制御部32は、図9及び図10に示すように、過去の振動成分A3の特徴量から決定された代表特徴量を決定する。振動成分A3の特徴量と過去の代表特徴量とを比較し、S8に進む。
図9及び図10を参照して、比較例として便器本体2の排水状態の不良が生じていない状態における信号波形を説明する。
図9は、本発明の一実施形態による水洗大便器装置の便器本体において、便器本体の排水状態の不良が生じていない状態において、第1振動センサーによって検出された振動成分から第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより得られた排水トラップ管路の内部の水流に基づく振動成分の信号波形を示す図であり、図10は、本発明の一実施形態による水洗大便器装置において、便器本体の排水状態の不良が生じていない状態において、排水トラップ管路の内部の水流に基づく振動成分の信号波形を周波数分析部により周波数分析することにより得られる周波数スペクトルを示す図である。図11は、比較例として、第1振動センサーを排水トラップ管路に配置し、第2振動センサーをボウル部に配置した状態で、第1振動センサーによって検出された振動成分から第2振動センサーによって検出された振動成分を差し引くことにより得られた振動成分の時系列信号の信号波形に対し、周波数分析を行って得たスペクトル周波数の時系列の周波数分析図である。図9においては、縦軸は電圧により示す信号強度[V]、横軸は、時刻[t]である。図10においては、縦軸は利得[dB]、横軸は周波数[Hz]である。図11においては、縦軸は周波数[Hz]、横軸は時刻[t]である。図11においては、空気巻き込み音のピーク周波数が比較的高い利得として領域Gに現れており、排水弁の振動の周波数が比較的高い利得として領域Hに現れている。
【0061】
排水状態判断部44は、過去の振動成分A3の特徴量から決定された代表特徴量を決定する。
排水状態判断部44は、過去の便器本体2の排水状態の不良が生じていない状態において、振動成分A1から振動成分A2を差し引くことにより得られた振動成分A3の時系列信号の信号波形を取得し、記憶させている。
【0062】
図10に示すように、排水状態判断部44は、続いて、図9において得られた信号波形から周波数分析部45によりFFT(Fast Fourier Transform)手法を用いて周波数の関数の周波数スペクトルを生成し、周波数スペクトルの特徴量を周波数分析する。
便器本体2の排水状態の不良が生じていない状態においては、ボウル部6内の洗浄水が良好に排水されるため、ボウル部6内の水位が比較的大きく変動しやすく、排水トラップ管路10内を流れる洗浄水の流量及び流勢が比較的大きくなっている。よって、排水トラップ管路10に比較的大きな流量及び流勢の洗浄水が流れることにより振動が生じる。従って、便器本体2の排水状態の不良が生じていない状態においては、所定以上の利得を生じるようなボウル部6の水の共振周波数のピーク周波数が出現しやすくなる。このような共振周波数は、便器本体2及びそのボウル部6の内部に貯留している洗浄水により生じ、便器本体2の形状、ボウル部6内の水位、排水中の排水トラップ管路10内の水位などによっても変化する。共振周波数は、便器本体2の固有の値として求められるため、過去の便器本体2の排水状態の不良が生じていない状態において、振動成分の時系列信号の信号波形を取得し、評価する。
図10に示すような周波数スペクトルは、特徴量に関し、所定以上の利得を生じる共振周波数のピーク周波数T1及びT2が出現しているという特徴を持っている。排水状態判断部44は、過去の周波数スペクトルを分析することにより、共振周波数のピーク周波数T1及びT2の主変動範囲及び利得の主変動範囲等の傾向を取得する。排水状態判断部44は、過去の特徴量から決定された代表特徴量として、例えば所定以上の利得を生じる共振周波数のピーク周波数があることを決定する。排水状態判断部44は、この代表特徴量を、今回取得された特徴量と比較することにより、今回取得された特徴量が代表特徴量を有しないことにより、便器本体2の排水状態を不良と判断する。例えば、図10において、共振周波数のピーク周波数T1は約28Hzとなっており、ピーク周波数T2は約56Hzとなっている。なお、特徴量と代表特徴量との比較は、ピーク周波数及び利得の数値の比較によって行われてもよく、また、画像同士の比較により画像認識等の手法により類似しているかの比較が行われてもよい。
【0063】
また、便器本体2の排水状態の不良が生じていない状態においては、排水トラップ管路10内を流れる洗浄水の流量及び流勢が比較的大きくなっているため、排水トラップ管路10の入口部10aにおいて空気を巻き込む音、いわゆるごぼごぼ音、の振動が生じやすくなる。よって、便器本体2の排水状態の不良が生じていない状態においては、排水時の空気巻き込み音が生じる時刻において、所定以上の利得を生じるような空気巻き込み音のピーク周波数が比較的高い利得として出現しやすくなる。図11において、比較例ではあるが、空気巻き込み音のピーク周波数が特定の周波数の領域Gにおいて現れている。このように、周波数スペクトルが、特徴量に関し、所定以上の利得を生じる空気巻き込み音のピーク周波数が出現しやすいという特徴を持っている。排水状態判断部44は、過去の周波数スペクトルを分析することにより、空気巻き込み音のピーク周波数の主変動範囲及び利得の主変動範囲等の傾向を取得する。排水状態判断部44は、過去の特徴量から決定された代表特徴量として、例えば所定以上の利得を生じる空気巻き込み音のピーク周波数を決定する。排水状態判断部44は、この代表特徴量を、今回取得された特徴量と比較することにより便器本体2の排水状態の不良を判断する。
【0064】
また、便器本体2の排水状態の不良が生じていない状態においては、上述のように、所定以上の利得を生じるような共振周波数のピーク周波数が出現しやすくなる。このような共振周波数は、ボウル部6の内部に貯留している洗浄水の水位等により変化する。よって、水位の変化に応じて、ボウル部6内の洗浄水の水位の低下に伴って共振周波数のピーク周波数及びその利得(振幅の大きさ)の時間変化が生じる。例えば、図11において、28Hz近傍の共振周波数のピーク周波数T1が時間経過に伴ってわずかに上昇し、56Hz近傍の共振周波数のピーク周波数T2が時間経過に伴ってわずかに上昇している。このように、共振周波数のピーク周波数が時間変化する様子が出現しやすくなる。従って、便器本体2の排水状態の不良が生じていない状態においては、所定以上の利得を生じるようなボウル部6の水の共振周波数が時間変化する特徴量も明確に出現しやすくなる。よって、図11に示すように、周波数スペクトルは、特徴量に関し、所定以上の利得を生じるピーク周波数とその利得(振幅の大きさ)の時間変化の傾向が出現しやすくなるという特徴を持っている。よって、ピーク周波数の時間変化の傾向が出現することにより便器本体2の排水状態の不良が生じていないことを判断でき、便器本体2の排水状態の不良があるか否かを判断することができる。
【0065】
S8において、制御部32は、振動成分A3の特徴量と過去の代表特徴量との間に差異があるか否かを判定する。
制御部32は、振動成分A3の特徴量と過去の代表特徴量との間に差異がない又はこの差異が所定値以下又は想定範囲内である場合は、便器本体2の排水状態の不良が生じていない状態であると判断できるので、S10に進む。
制御部32は、振動成分A3の特徴量と過去の代表特徴量との間に所定値より大きな差異がある場合は、便器本体2の排水状態の不良が生じている状態であると判断できるので、S9に進む。
【0066】
S9において、制御部32は、便器本体2の排水状態の不良が生じている状態であり、使用者又は水洗大便器装置1の管理者等に排水状態の不良を報知する必要があると判断できるので、報知部54により、使用者又は水洗大便器装置1の管理者等に排水状態の不良を報知する制御を実行し、S10に進む。
【0067】
S10において、制御部32は、今回測定された振動成分A3の特徴量を、過去の特徴量に加え、過去の特徴量から決定された代表特徴量を修正できるようにし、S11に進む。このように、制御部32は、特徴量を学習する学習機能を備え、過去の特徴量に応じて代表特徴量を修正し、決定することができる。
S11においては、制御部32は、排水状態判断処理モードを終了させ、S0に戻る。
【0068】
上述した本発明の一実施形態による水洗大便器装置1によれば、第1振動センサー28が、排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分に加えて他の要因による振動成分を検出したとしても、排水状態判断部44において、第1振動センサー28によって検出された振動成分A1から、第2振動センサー30によって検出された振動成分A2を差し引くことにより、排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分A3を得て、便器本体2の排水状態の不良を判断させることができる。
よって、本実施形態による水洗大便器装置1によれば、便器本体2に取付けられた第1振動センサー28及び第2振動センサー30により、排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動以外の振動の影響を抑制し、便器本体2の排水状態の不良を判断する精度を向上させることができる。
【0069】
また、本実施形態による水洗大便器装置1によれば、第1振動センサー28が通水部31の外面に取付けられているので、第1振動センサー28が排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分を比較的強い信号強度により検出することができ、排水トラップ管路10の内部の水流の流動状態を比較的正確に判断することができる。また、第2振動センサー30が構造部34に取付けられているので、第2振動センサー30は、排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分を検出しにくくすることができる。一方で、第1振動センサー28及び第2振動センサー30は、便器本体2に加わる水流に基づく振動以外の振動を同様に検出する。これにより、第1振動センサー28によって検出された振動成分A1から第2振動センサー30によって検出された振動成分A2を差し引くことにより排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分A3を比較的良好に得ることができ、便器本体2の排水状態の不良を判断する精度を向上させることができる。
【0070】
さらに、本実施形態による水洗大便器装置1によれば、第1振動センサー28及び第2振動センサー30は、床面Fからほぼ同じ高さに取付けられているので、第1振動センサー28及び第2振動センサー30は便器本体2に加わる水流に基づく振動以外の振動のうち上下方向から伝わる振動を同様の値として検出しやすくできる。
【0071】
また、本実施形態による水洗大便器装置1によれば、第1振動センサー28及び第2振動センサー30は、便器本体2における前後方向の位置がほぼ同様の位置となるように取付けられているので、第1振動センサー28及び第2振動センサー30は水流に基づく振動以外の便器本体2に加わる振動のうち前後方向から伝わる振動を同様の値として検出しやすくできる。
【0072】
さらに、本実施形態による水洗大便器装置1によれば、第1振動センサー28は、排水トラップ管路10の入口部10aの外面に取付けられるので、第1振動センサー28が排水トラップ管路10の入口部10aの水流に基づく振動成分を比較的強い信号強度により検出することができ、排水トラップ管路10の内部の水流の流動状態をより正確に判断することができる。
【0073】
さらに、本実施形態による水洗大便器装置1によれば、第2振動センサー30が便器本体2の袴部11の内面に取付けられているので、第2振動センサー30から便器本体2の内側方向に空間が形成され、第2振動センサー30が、排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分をより検出しにくくできる。また、第2振動センサー30が便器本体2の袴部11の内面に取付けられている場合であっても、第2振動センサー30は、便器本体2に加わる水流に基づく振動以外の振動を第1振動センサー28と同様に検出できる。
【0074】
さらに、本実施形態による水洗大便器装置1によれば、第1振動センサー28と通水部31との間に導体部37、ならびに第2振動センサー30と構造部34との間に導体部36をそれぞれ設け、導体部36と導体部37は、共通の第2グラウンド回路52と接続され、さらに第2グラウンド回路52は、信号差分部40から延び且つ電源部46と接続された第1グラウンド回路50と電気的に接続される。これにより、第1振動センサー28と第2振動センサー30の、浮遊容量により発生するインピーダンスを抑制するとともに、第1振動センサー28とグラウンドEに対して形成するインピーダンスと、第2振動センサー30とグラウンドEに対して形成するインピーダンスとを同じにすることで、2つのセンサーの間にインピーダンスの差が生じることを抑制して、信号差分部40から得られる信号に電源周波数成分がノイズとして含まれることを抑制することができる。よって、本実施形態による水洗大便器装置1によれば、排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分を得る精度を向上させ、便器本体2の排水状態の不良の判断の精度をより向上させることができる。
仮に第1振動センサー28を内部に洗浄水が存在する通水部31に直接に取付けた場合、第1振動センサー28と接地電位となっている通水部31の内側の流水路の水分との間で浮遊容量等によるインピーダンスが形成される。また、第2振動センサー30を内側に空気が存在する構造部34に直接に取付けた場合、第2振動センサー30と構造部34との間では上記浮遊容量等とは異なるインピーダンスが形成される。よって、第1振動センサー28がアースに対して形成するインピーダンスと第2振動センサー30がアースに対して形成するインピーダンスとが異なることとなる。このインピーダンスの差に対し、信号差分部40の電源の周波数が作用し、信号差分部40により得られる信号に50Hz又は60Hzの電源周波数成分が概ね常時ノイズとして含まれる。よって、排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分に対しノイズが含まれた状態となり、便器本体2の排水状態の不良の判断の精度を低下させる悪影響が生じる可能性がある。
【0075】
さらに、本実施形態による水洗大便器装置1によれば、排水状態判断部44は、過去の排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分A3の特徴量から代表特徴量を決定すると共に、この代表特徴量と、第1振動センサー28によって検出された振動成分A1から第2振動センサー30によって検出された振動成分A2を差し引くことにより得られた排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分A3の特徴量を比較することにより、比較的容易に上記便器本体2の排水状態の不良を判断することができる。
【0076】
さらに、本実施形態による水洗大便器装置1によれば、排水状態判断部44は、排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分の特徴量を、その振動成分の周波数スペクトルに基づいて決定する。これにより、排水状態判断部44は、過去の周波数スペクトルに基づく特徴量から代表特徴量を決定すると共に、この代表特徴量と、第1振動センサー28によって検出された振動成分A1から第2振動センサー30によって検出された振動成分A2を差し引くことにより得られた周波数スペクトルに基づく特徴量を比較することにより、比較的容易に便器本体2の排水状態の不良を判断することができる。
【0077】
さらに、本実施形態による水洗大便器装置1によれば、第1振動センサー28が、排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分に加えて他の要因による振動成分を検出したとしても、排水状態判断部44において、第1振動センサー28によって検出された振動成分A1から、第2振動センサー30によって検出された振動成分A2を差し引くことにより、排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動成分A3を得て、便器本体2の排水状態の不良を判断させることができる。よって、本実施形態による水洗大便器装置1によれば、便器本体2に取付けられた第1振動センサー28及び第2振動センサー30により、排水トラップ管路10の内部の水流に基づく振動以外の振動の影響を抑制し、便器本体2の排水状態の不良を判断する精度を向上させることができる。
【0078】
なお、図13を参照して、本発明の一実施形態による水洗大便器装置1の変形例を説明する。図13は、本発明の一実施形態による水洗大便器装置の変形例を示す概略構成図である。なお、図13において、一例として、排水時の水面をW1により示し、排水時に空気Kが例えば気泡となって入口部10aの頂部から巻き込まれ、空気を巻き込む音を生じさせる様子を示している。
第1振動センサー28と信号差分部40との間、及び第2振動センサー30と信号差分部40との間に周波数分析部45を配置している。よって、第1振動センサー28によって検出された振動成分A1が信号差分部40に至る前に、周波数分析部45により周波数スペクトルB1を生成する。同様に、よって、第2振動センサー30によって検出された振動成分A2が信号差分部40に至る前に、周波数分析部45により周波数スペクトルB2を生成する。信号差分部40においては、周波数スペクトルB1から周波数スペクトルB2を差し引くことにより周波数スペクトルB3を得る機能を有する。周波数スペクトルB3は、前述の振動成分A3の信号波形を周波数分析部45によりフーリエ変換して生成された周波数スペクトルB3と基本的に同じである。このように周波数スペクトルB3を生成することにより、仮に第1振動センサー28と第2振動センサー30との間にセンサーの種類等に起因した周波数特性の違いがある場合に、周波数スペクトルB1又は周波数スペクトルB2について比較的容易に補正して、センサー間の誤差を修正することができる。従って、第1振動センサー28の周波数特性と第2振動センサー30の周波数特性との差があったとしても、周波数特性の差を比較的容易に補正することができる。よって、便器本体2の排水状態の不良の判断の精度をより向上させることができる。
【0079】
なお、図14を参照して、図13の水洗大便器装置1のさらなる変形例を説明する。図14は、本発明の一実施形態による水洗大便器装置の他の変形例を示す概略構成図である。なお、図14において、一例として、排水時の水面をW1により示し、排水時に空気Kが例えば気泡となって入口部10aの頂部から巻き込まれ、空気を巻き込む音を生じさせる様子を示している。
水洗大便器装置1は、さらに、第1振動センサー28に電気的に接続される信号データ送信部56と、信号データ送信部56から送信された信号を受信する信号データ受信部58とを備えると共に、便器本体2とは離れた場所に制御部32の排水状態判断部44及び報知部54等を備えている。制御部32が信号データ受信部58を備えていてもよいし、信号データ受信部58は制御部32から独立した受信機として設けられていてもよい。この場合には、信号データ受信部58は制御部32と電気的に接続される。制御部32は、例えば便器本体2とは離れた場所に配置され、信号データ送信部56と、信号データ受信部58とにより、インターネット等の通信ネットワーク57を介して第1振動センサー28及び第2振動センサー30と電気的に接続されていてもよい。本実施形態の水洗大便器装置1は、制御部32がインターネット等の通信ネットワークを介して第1振動センサー28及び第2振動センサー30と電気的に接続されることにより、構成されることができる。
【0080】
また、水洗大便器装置1は、制御部32の排水状態判断部44及び報知部54等を備えていなくてもよい。このとき、水洗大便器装置1は、信号データ送信部56を備え、信号データ送信部56は、振動成分A1及びA2を信号データ受信部58に向けて送信する。水洗大便器装置1とは独立して設けられ制御部32は、振動成分A1及びA2を受信し、周波数分析を行うと共に排水状態判断部44により排水状態判断処理モードを実行する。水洗大便器装置1は、このように別に配置された制御部32と合わせて水洗大便器装置システムを構成する。この際、1つの制御部32に対し複数の水洗大便器装置1が配置されることができる。例えば、クラウドネットワーク上に制御部32が配置されている場合、水洗大便器装置1を信号データ送信部56及び通信ネットワーク57を介して制御部32と接続することにより、便器本体2の排水状態の不良を判断させることができる。
【符号の説明】
【0081】
1 :水洗大便器装置
2 :便器本体
6 :ボウル部
10a :入口部
11 :袴部
28 :第1振動センサー
30 :第2振動センサー
31 :通水部
32 :制御部
34 :構造部
36 :導体部
37 :導体部
40 :信号差分部
44 :排水状態判断部
46 :電源
A1 :振動成分
A2 :振動成分
A3 :振動成分
B :方向
B1 :周波数スペクトル
B2 :周波数スペクトル
B3 :周波数スペクトル
E :グラウンド
H1 :高さ
H2 :高さ
J :洗浄水
T1 :ピーク周波数
T2 :ピーク周波数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14