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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】コイルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/06 20060101AFI20221115BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20221115BHJP
   H01F 27/30 20060101ALI20221115BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20221115BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20221115BHJP
   H01F 27/25 20060101ALI20221115BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20221115BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
H01F17/06 A
H01F17/06 F
H01F27/28 M
H01F27/28 152
H01F27/30
H01F41/02 C
H01F41/04 D
H01F27/25
H01F37/00 N
H01F37/00 A
H01F37/00 C
H01F5/00 G ZNM
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018146689
(22)【出願日】2018-08-03
(65)【公開番号】P2020021903
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083725
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100140349
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 継立
(74)【代理人】
【識別番号】100153305
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 卓弥
(74)【代理人】
【識別番号】100206933
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 正樹
(72)【発明者】
【氏名】松岡 孝
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-081239(JP,A)
【文献】特開平01-072512(JP,A)
【文献】特開平02-122606(JP,A)
【文献】特開平10-270253(JP,A)
【文献】実開昭57-110912(JP,U)
【文献】特開平11-176645(JP,A)
【文献】特開2000-208329(JP,A)
【文献】特開平10-321437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 5/00
H01F 17/06
H01F 27/28
H01F 27/30
H01F 41/02
H01F 41/04
H01F 27/25
H01F 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の導体箔が巻回された導体と帯状の磁性箔が巻回された磁性体とを含むコアを有し、
前記導体と前記磁性体とは、前記導体の両端部を前記磁性体の端部から突出させて接触した状態で一体化され、
前記導体および前記磁性体の軸線が直交する面において、扁平形状を有し、
電流が前記導体箔の幅方向に流れることを特徴とするコイル。
【請求項2】
前記磁性体が前記導体の外側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のコイル。
【請求項3】
前記コアは、前記帯状の導体箔の内側面に前記帯状の磁性箔の一部が重ねられた前記導体と前記磁性体の複合部を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコイル。
【請求項4】
前記磁性体の一部が前記導体の箔の間に配置されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のコイル。
【請求項5】
前記帯状の磁性箔は、絶縁層を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のコイル。
【請求項6】
前記導体および前記磁性体の軸線が直交する面において、長手方向におけるコイルの端部が湾曲し、前記端部間のコイルの表面が平坦であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のコイル。
【請求項7】
前記磁性体が、珪素鋼、軟磁性結晶材、微結晶材、アモルファス金属またはアモルファス合金を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のコイル。
【請求項8】
前記磁性体が、鉄系アモルファス金属または鉄系アモルファス合金を含むことを特徴とする請求項7に記載のコイル。
【請求項9】
帯状の導体箔を長さ方向に巻回して、導体を得る工程と、
前記帯状の導体箔と連続して、帯状の磁性箔を長さ方向に巻回して、前記導体と接触し、一体化した磁性体を得る工程と、
前記導体および前記磁性体を一方向に圧縮して、扁平形状を有するコイルを形成する工程と、
を備えることを特徴とするコイルの製造方法。
【請求項10】
前記導体を得る工程において、前記帯状の磁性箔の一部を前記帯状の導体箔に重ねて、前記帯状の導体箔を前記帯状の磁性箔とともに巻回することを特徴とする請求項9に記載のコイルの製造方法。
【請求項11】
前記帯状の磁性箔の一部を前記帯状の導体箔の内側面に重ねて、前記導体と前記磁性体の複合部を形成することを特徴とする請求項10に記載のコイルの製造方法。
【請求項12】
前記帯状の磁性箔に絶縁層を形成する工程をさらに備えることを特徴とする請求項9ないし請求項11のいずれか一項に記載のコイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子回路において用いられるコイルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コイルは、抵抗およびキャパシタとともに電子回路において用いられる。コイルは、電流が流れると磁界を発生させ(アンペアの法則)、磁界に対応して磁束が発生する。磁束が変化すると電圧が発生する(ファラデーの法則)。コイル周辺の磁界は、コイルに、この磁界に比例する電流を発生させる。このようなコイルの機能はインダクタンスLを用いて表される。インダクタンスLが大きいほどインピーダンスが大きくなり、インピーダンスが、中空の円筒形を有する磁心の磁路長lに対する磁路断面積Sの比(S/l)によって変わることが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-225589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コイルは、たとえば高周波電流を熱エネルギーに変換して、高周波電流の流れを抑制する性質を有する。つまり、コイルが高周波電流を抑制するとき、コイルの温度が上昇する。
【0005】
また、一定の高さを超えるコイルは、狭い空間に設置される基板上に設置することができない。コイルの高さは、コイルの設置条件の自由度を低下させる可能性がある。
【0006】
そこで、本開示は、高周波電流を除去する時のコイルの温度上昇を抑制することを目的とする。
【0007】
また、本開示は、コイルの高さを抑制することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示の一側面によれば、コイルは、帯状の導体箔が巻回された導体と帯状の磁性箔が巻回された磁性体とを含むコアを有し、前記導体と前記磁性体とは、前記導体の両端部を前記磁性体の端部から突出させて接触した状態で一体化され、前記導体および前記磁性体の軸線が直交する面において、扁平形状を有し、電流が前記導体箔の幅方向に流れる。
【0009】
上記コイルにおいて、前記磁性体が前記導体の外側に配置されていてもよい。
【0010】
上記コイルにおいて、前記コアは、前記帯状の導体箔の内側面に前記帯状の磁性箔の一部が重ねられた前記導体と前記磁性体の複合部を有していてもよい。
【0011】
上記コイルにおいて、前記磁性体の一部が前記導体の箔の間に配置されていてもよい。
【0012】
上記コイルにおいて、前記帯状の磁性箔は、絶縁層を含んでいてもよい。
【0013】
上記コイルにおいて、前記導体および前記磁性体の軸線が直交する面において、長手方向におけるコイルの端部が湾曲していてもよく、前記端部間のコイルの表面が平坦であってもよい。
【0014】
上記コイルにおいて、前記磁性体が、珪素鋼、軟磁性結晶材、微結晶材、アモルファス金属またはアモルファス合金を含んでいてもよい。
【0015】
上記コイルにおいて、前記磁性体が、鉄系アモルファス金属または鉄系アモルファス合金を含んでいてもよい。
【0016】
上記目的を達成するため、本開示の他の側面によれば、コイルの製造方法は、帯状の導体箔を長さ方向に巻回して、導体を得る工程と、前記帯状の導体箔と連続して帯状の磁性箔を長さ方向に巻回して、前記導体と接触し、一体化した磁性体を得る工程と、前記導体および前記磁性体を一方向に圧縮して、扁平形状を有するコイルを形成する工程とを備える。
【0017】
前記導体を得る工程において、前記帯状の磁性箔の一部を前記帯状の導体箔に重ねて、前記帯状の導体箔を前記帯状の磁性箔とともに巻回してもよい。
【0018】
上記コイルの製造方法において、前記帯状の磁性箔の一部を前記帯状の導体箔の内側面に重ねて、前記導体と前記磁性体の複合部を形成してもよい。
【0019】
上記コイルの製造方法は、前記帯状の磁性箔に絶縁層を形成する工程をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、次のような効果が得られる。
【0021】
(1) コイルが扁平な形状を有することから、導体の内側表面が、一方向において一定の幅を有している。この一定の幅を有する内側表面の周りに導体および磁性体が形成されているので、コイルの表面積は、たとえば円柱状の導体の周りに磁性体が形成されたコイルの表面積よりも大きい。このため、コイルの放熱性が高く、コイルの温度上昇が抑制される。
【0022】
(2) コイルが扁平な形状を有するので、コイルの高さが抑制される。
【0023】
(3) コイルが導体および磁性体を有するので、導体および磁性体の形状の変更が積層構造により容易である。したがって、コイルの形状設定の自由度が高い。たとえば円筒形状に巻かれた導体箔および磁性箔に加える圧力を調整することにより、コイルの形状を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1の実施の形態に係るコイルの一例の正面図、平面図および平面の部分拡大図である。
図2】コイルの等価回路を示す図である。
図3】コイルの製造方法を示す図である。
図4】コイルの製造方法を示す図である。
図5】第2の実施の形態に係るコイルの一例の正面図、平面図および平面の部分拡大図である。
図6】帯状の導体箔および帯状の磁性箔の巻回初期の状態を示す図である。
図7】実施例および比較例に係るコイルの、コアの寸法および質量、ならびにインダクタンスの直流重畳特性を示す図である。
図8】直流重畳特性を示すグラフである。
図9】コイルの実装例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して実施の形態および実施例を説明する。

第1の実施形態
【0026】
第1の実施の形態について、図1を参照して説明する。図1のAは、第1の実施の形態に係るコイルの一例の正面図、図1のBは、コイルの一例の平面図、図1のCはコイルの一例の平面の部分拡大図である。図1のCの部分拡大図は、図1のBにおいて破線で囲まれた部分ICの拡大図である。図1に示すコイルは一例であって、斯かるコイルに本開示の技術が限定されるものではない。なお、図1のBに示されているコイルの形状は、たとえば導体および磁性体の軸線AX(図1のA)が直交する面におけるコイルの形状と同じまたはほぼ同じである。
【0027】
コイル2は、導体4と磁性体6とを含むコアを備えている。磁性体6は、導体4の周りに配置された第1部分6-1と、導体4内に配置された第2部分6-2を含む。つまり、磁性体6の少なくとも一部(第1部分6-1)は、導体4の周りに配置される。導体4の周りに配置された磁性体6が導体4に鎖交して、コイル2がコイルとして機能する。導体4の長さL11は磁性体6の長さL12より長く、導体4の両端部5-1、5-2は、磁性体6の端部から突出している。導体4の両端部5-1、5-2に電流が流れると、コイル2は磁界を発生させ、磁界に対応して磁束が生じる。この磁束の変化により電圧が発生する。しかしながら、交流電圧が導体4に加わると、磁束の変動により、交流電流の周波数に応じて交流電流の流れが抑制される。コイル2は、低周波電流の流れよりも高周波電流の流れを抑制する。導体4が磁性体6を貫き、コイル2がたとえば1ターン構造のコイルを形成している。コイル2は、たとえば数十アンペアの最大電流値および数マイクロヘンリーのインダクタンスを有し、たとえば自動車の駆動系統、ブレーキ系統、ステアリング系統、オイル系統、ウォーターポンプ系統などの大電流系統の回路に適合する。
【0028】
平面視において、コイル2は扁平形状を有している。コイル2の高さH1はコイル2の幅W1よりも短く、コイル2の高さが抑制されている。コイル2の幅W1方向、つまり長手方向において、コイル2、導体4および磁性体6の両端部は、たとえば湾曲している。また、コイル2の表面は、コイル2の両端部間においてたとえば平坦である。つまり、コイル2は、平面視において、たとえば陸上競技場のトラック形状を有する。
【0029】
導体4の湾曲は、磁性体6の箔の折れまたは断裂を抑制し、コイル2の磁性の安定性を高める。コイル2の平坦面は、コイル2の低背の効率を高めるとともに、回路基板面などの平面へのコイル2の設置の安定性を高める。磁性体6の両端部が湾曲し、両端部間の表面が平坦であると、磁束が磁性体6の外に漏れにくく、コイル2のインダクタンスなどの特性の低下が抑制される。
【0030】
導体4の長さL11、磁性体6の長さL12、コイル2の高さH1またはコイル2の幅W1を調整すると、コイル2の特性、たとえばインダクタンスおよび抵抗を調整することができる。コイル2は、高い特性調整機能を有している。
【0031】
平面視において、導体4は、コイル2の中央部分に配置されている。導体4は、導電性を有する箔であり、銅箔またはアルミニウム箔などの導電材を含んでいる。導体4は、たとえば帯状の導体箔14(図3のA)を帯の長さ方向に巻くことにより作られ、導体4は、箔が積層された構造を有する。導体4の箔(以下、「導体箔部分」という)は、導体4の部分である。
【0032】
導体4の外周部8では、磁性体6の一部(第2部分6-2)が導体箔部分の間に配置されて、導体4が磁性体6に接続されている。そのため、導体4と磁性体6が接触した状態で一体化されて、これらがコイル2のコアを形成する。磁性体6の第2部分6-2は、導体4の導体箔の内側面に重ねられ、磁性体6の第2部分6-2と導体箔は、導体と磁性体の複合部を形成している。導体4と磁性体6の接続は、導体4と磁性体6との間の隙を抑制し、コイル2がコンパクトな状態を有している。また、導体4と磁性体6との間の隙が抑制されるほど、磁性体6の配置位置がコイル2の中央部分に近づく。磁性体6の配置位置がコイル2の中央部分に近づくと、磁性体6の磁路長lが小さくなるとともに磁路断面積Sが大きくなり、磁路長lに対する磁路断面積Sの比(S/l)を大きくすることができる。言い換えると、インピーダンスおよびインダクタンスを大きくすることができる。
【0033】
磁性体6は、磁性を有する箔であり、珪素鋼、軟磁性結晶材、微結晶材、アモルファス金属またはアモルファス合金などの磁性材料を含む。磁性体6は、たとえば鉄系アモルファス材料、コバルト系アモルファス材料、鉄系ナノクリスタル材料、鉄-ニッケル系合金、鉄-ケイ素合金などの磁性材料を含む。
【0034】
鉄系アモルファス材料は、鉄系アモルファス金属または鉄系アモルファス合金の一例であり、磁気飽和しにくい材料である。鉄系アモルファス材料を含むコイル2は、電流が重畳されている時であってもインダクタンスを有するので、コイル2は、電流を出力しながらインダクタンスを有することができる。鉄系アモルファス材料を含むコイル2の最大電流は、たとえば100~200アンペアであり、コイル2の周波数は、たとえば0~100メガヘルツであり、コイル2は、たとえばラインフィルタまたはノーマルモードチョークコイルに適している。
【0035】
鉄系アモルファス材料を含む磁性箔の厚さは、たとえば20マイクロメートルまたは約20マイクロメートルであり薄いので、鉄系アモルファス材料を含む磁性箔は、磁性箔のみの巻回、または磁性箔および導体箔を有する積層箔の巻回に適している。鉄系アモルファス材料を含む磁性箔の透磁率は、熱処理により、たとえば150~5000[H/m]の広い範囲で制御することができる。鉄系アモルファス材料を含む磁性箔は、優れた入手性およびコストパフォーマンスを有する。
【0036】
コバルト系アモルファス材料は、アモルファス金属またはアモルファス合金の一例であり、高周波において角型のB-H曲線(磁気ヒステリシス曲線)を有する。コバルト系アモルファス材料を含むコイル2の最大電流は、たとえば100~200アンペアであり、コイル2は、たとえば可飽和コイルに適して、半導体素子のスイッチング時に発生するスパイクノイズの抑制に適している。また、コバルト系アモルファス材料を含むコイル2は、広い周波数範囲、たとえば0.01~30メガヘルツで高いインピーダンスを有し、コイル2は、たとえばラインフィルタまたはノーマルモードチョークコイルに適している。
【0037】
コバルト系アモルファス材料を含む磁性箔は、磁性箔のみの巻回、または積層箔の巻回に適している。コバルト系アモルファス材料を含む磁性箔では、熱処理により、角型のB-H曲線が得られやすく、磁路に直角方向の磁場熱処理により、平坦なB-H曲線が得られやすい。つまり、コバルト系アモルファス材料を含む磁性箔は、B-H曲線の調整能力が高い。
【0038】
鉄系ナノクリスタル材料は、微結晶材の一例であり、高周波において角型のB-H曲線を有し、高い飽和磁束密度を有し、高エネルギーのパルスを吸収することができる。鉄系ナノクリスタル材料を含むコイル2の最大電流は、たとえば100~200アンペアであり、コイル2は、たとえば可飽和コイルに適して、半導体素子のスイッチング時に発生するスパイクノイズの抑制に適している。また、鉄系ナノクリスタル材料を含むコイル2は、広い周波数、たとえば0.01~30メガヘルツで高いインピーダンスを有し、コイル2は、たとえばラインフィルタまたはノーマルモードチョークコイルに適している。
【0039】
鉄系ナノクリスタル材料を含む磁性箔は、磁性箔のみの巻回、または積層箔の巻回に適している。鉄系ナノクリスタル材料を含む磁性箔では、磁場熱処理により、角型のB-H曲線が得られやすく、磁路に直角方向の磁場熱処理により、平坦なB-H曲線が得られやすい。つまり、鉄系ナノクリスタル材料を含む磁性箔は、B-H曲線の調整能力が高い。鉄系ナノクリスタル材料を含む磁性箔は、良い入手性およびコストパフォーマンスを有している。
【0040】
鉄-ニッケル系合金は、軟磁性結晶材の一例であり、角型のB-H曲線を有し、高い飽和磁束密度を有し、高エネルギーのパルスを吸収することができる。鉄-ニッケル系合金を含むコイル2の最大電流は、たとえば100~200アンペアであり、コイル2は、たとえば可飽和コイルに適して、半導体素子のスイッチング時に発生するスパイクノイズの抑制に適している。また、鉄-ニッケル系合金を含むコイル2は、高いインピーダンスを有し、その周波数は、たとえば0.1~1メガヘルツであり、コイル2は、たとえばラインフィルタまたはノーマルモードチョークコイルに適している。
【0041】
鉄-ニッケル系合金を含む磁性箔では、磁場熱処理により、角型のB-H曲線が得られやすく、磁路に直角方向の磁場熱処理により、平坦なB-H曲線が得られやすい。つまり、鉄-ニッケル系合金を含む磁性箔は、B-H曲線の調整能力が高い。
【0042】
鉄-ケイ素合金は珪素鋼の一例であり、鉄-ケイ素合金を含む磁性箔は、市場において広く流通し、優れた入手性およびコストパフォーマンスを有している。鉄-ケイ素合金を含むコイル2は、たとえば低周波において、ラインフィルタまたはノーマルモードチョークコイルに適している。
【0043】
磁性体6は絶縁層を箔の内側表面または外側表面に有し、磁性体6の箔の他の表面では、磁性材料が露出している。絶縁層は、磁性体6の積層された箔間を積層方向において絶縁している。絶縁層は、ノイズ電流により生じる渦電流を、磁性体6の各層に分割し、ノイズを効率的に熱に変換している。絶縁層は、絶縁性を有し、たとえば非磁性の絶縁粉体の集合体である。絶縁層は、たとえば以下の物質、
(1) けい酸ナトリウム、アルミノけい酸アルカリ塩、フィロけい酸アルカリ塩、炭化ケイ素、硫酸カルシウム半水塩、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの天然無機化合物、
(2) 酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、二酸化スズ、酸化亜鉛、二酸化ジルコニウム、五酸化二アンチモン、酸化チタンなどの金属酸化物、
(3) ペロブスカイト、ケイ酸塩ガラス、リン酸塩、チタン酸塩、ニオブ,タンタル,タングステン酸塩などの複酸化物からなるセラミックス、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム焼結体、窒化ホウ素、窒化ホウ素マグネシウム、窒化ホウ素複合体、窒化ケイ素、窒化ケイ素ランタン、サイアロンなどの窒化物、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素アルミニウム、炭化チタンなどの炭化物、二ホウ化チタン、六ホウ化カルシウム、六ホウ化ランタンなどのホウ化物で例示されるセラミックス素材を単一、もしくは複合して形成したセラミックス、
である。絶縁層は、単独の材料でもよく、複数の材料の混合物であってもよい。絶縁層は、好ましくは、たとえば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム、五酸化二アンチモン、または酸化チタンの粉末の集合体である。絶縁層は、絶縁粉体の間に空気層を有していてもよい。空気層は、絶縁性を有し、絶縁層の絶縁性を高めることができる。
【0044】
磁性体6は、たとえば帯状の磁性箔20(図3のC)を帯の長さ方向に巻回して作られ、磁性体6は、箔が積層された構造を有する。磁性体6の箔(以下、「磁性箔部分」という)は、磁性体6の部分である。磁性体6は、一表面に絶縁層を有するので、磁性箔部分は、この磁性箔部分の積層方向において絶縁されている。磁性体6は、他の表面において、導体4と電気的に接続する。磁性体6の周りにおける導体4の巻付けが1ターン、つまり一巻き未満であるので、導体4自体が短絡しない。したがって、導体4が絶縁されず、磁性体6に電気的に接続していてもよい。導体4の外周部8では、導体4が、磁性体6により、導体箔部分の積層方向において絶縁されている。
【0045】
磁性体6の外周端部10では、積層されている磁性箔部分が、スポット溶接または他の溶接などの固定部材12により接続されている。固定部材12は、スプリングバックにより磁性体6の形状が帯形状などの元の形状に戻ることを防止している。
【0046】
図2は、コイル2の等価回路を示している。電気抵抗R1を有する導体4は、電気抵抗R2を有する磁性体6に並列に接続されている。磁性体6の第1部分6-1が導体4に鎖交するので、コイル2は、インダクタLを含む。インダクタLは、電気抵抗R1および電気抵抗R2に直列に接続している。導体4の電気抵抗R1は、磁性体6の電気抵抗R2よりも十分に小さいので、電流は主に導体4を通って流れる。電気抵抗R1が電気抵抗R2に並列に接続されているので、コイル2の電気抵抗は、電気抵抗R1よりも小さくなる。つまり、コイル2では、磁性体6の他の表面が導体4と電気的に接続するので、コイル2の電気抵抗が低下し、電気抵抗による電流ロスが抑制される。また、コイル2がインダクタLを有するので、コイル2はノイズなどの高周波電流を抑制することができる。
【0047】
ノイズなどの高周波電流が重畳されている直流電流または交流電流がコイル2に入力されると、高周波電流はインダクタLで熱エネルギーに変わり減衰する。直流電流または交流電流はインダクタLおよび電気抵抗R1、R2を通過して流れる。電気抵抗R1、R2の合成抵抗が小さいので、直流電流または交流電流の損失が小さい。コイル2は導体4を有するので、たとえば100~200アンペアの電流を流すことができる。

〔製造方法〕
【0048】
図3および図4はコイルの製造方法を示している。図3のA、図3のB、図3のC、図4のAは、製造中のコイルを平面方向から示し、図4のBは、製造中のコイルを側面方向から示している。図4のBにおいて、矢印は、コイルに加えられる圧力を示し、破線は、加圧前のコイルの外形を示している。
【0049】
図3のAに示すように、帯状の導体箔14の一端が巻軸16のスリット18内に配置される。巻軸16は、箔を巻くための箔巻き装置の一例である。巻軸16がたとえば反時計回りに回転され、図3のBに示すように、帯状の導体箔14の一部を巻軸16の周りに巻付けて、導体4を得る。帯状の導体箔14の全てが巻かれる前に、図3のCに示すように、帯状の磁性箔20の一端が導体4と帯状の導体箔14の間に配置される。巻軸16が回転され、残りの帯状の導体箔14が帯状の磁性箔20とともに巻かれる。帯状の導体箔14の全てが巻かれた後、巻軸16の回転により残りの帯状の磁性箔20が連続して導体4の周りに巻付けられ、図4のAに示すように、磁性体6を得る。
【0050】
巻軸16が導体4から外された後、図4のBに示すように、導体4および磁性体6の側面が一方向、つまり図4のBにおいて矢印で示されている方向に圧縮されて、扁平な導体4および磁性体6を得る。導体4および磁性体6が熱処理により焼き鈍されるとともに、磁性体6の外周端部10がたとえば溶接されて、コイル2を得る。

〔第1の実施の形態の効果〕
【0051】
(1) コイル2が扁平な形状を有することから、導体4の内側表面が、一方向において一定の幅IW(図1のB)を有している。この一定の幅IWを有する内側表面の周りに導体4および磁性体6が形成されているので、コイル2の表面積は、単に導体の周りに磁性体が形成されたコイルの表面積よりも大きい。このため、コイル2の放熱性が高く、コイル2の温度上昇が抑制される。
【0052】
(2) コイル2が扁平な形状を有するので、コイル2の高さが抑制される。高さの抑制により、耐振性および堅牢性の少なくとも一つが高められる。また、実装において高さ方向のデットスペースが抑制され、または複数のコイル2を積層した時に、積層したコイル2の高さを抑制することができる。
【0053】
(3) コイル2が導体4および磁性体6を有し、積層構造により各層ごとに変形可能であるので、導体4および磁性体6の形状の変更が容易である。したがって、コイル2の形状設定の自由度が高い。たとえば円筒形状に巻かれた導体4および磁性体6に加える圧力を調整することにより、コイル2の形状を調整することができる。また、帯状の磁性箔を巻回してコイル2の磁性体部を得る場合、磁性箔の変動が少ないので、扁平形に磁性箔を巻くよりも円形に磁性箔を巻くほうが容易である。したがって、コイル2の生産性を高めることができる。
【0054】
(4) 電流の周波数が上昇するにつれて、電流は表皮効果により導電材の表面に集中する。しかしながら、コイル2の導体4は、積層された導体箔部分を有するので、導体4が箔の積層方向において分断され易く、電流が分散され易くなる。磁性箔部分が導体箔部分の間に配置されていると、磁性体6の絶縁層により、導体箔部分が分断され易くなる。導体4の分断を、導体箔部分の間に配置されている磁性箔部分の増加により、高めることができる。電流の分散により表皮効果が緩和され、大きな電流をコイル2に流すことができる。
【0055】
(5) 磁性体6の第2部分6-2が導体4内に配置されているので、導体4の配置領域が、第2部分6-2により増加する。第2部分6-2の占有面積は大きくてもよく、小さくてもよい。コイル2の放熱効果が導体4の配置領域の拡大に応じて向上し、使用時のコイル2の温度を低下させることができる。
【0056】
(6) 帯状の磁性箔20の一端が導体4と帯状の導体箔14の間に配置されるので、導体4および磁性体6を連続的かつ一体的に形成することができる。したがって、コイル2の製造負担が小さい。
【0057】
(7) 導体箔は、たとえば磁性箔よりも柔軟性を有する。したがって、帯状の磁性箔20の少なくとも一端を帯状の導体箔14とともに巻くことで、帯状の磁性箔20のみを巻く場合よりも帯状の磁性箔20が巻き易い。
【0058】
(8) コイル2のインダクタンスおよび電気抵抗などの特性を、帯状の導体箔14および帯状の磁性箔20の一方または両方の幅、厚さまたは長さにより、調整できる。コイル2の特性を、導体4および磁性体6の内径により、調整できる。また、コイル2の特性を、導体箔部分の間に配置される磁性箔部分の量により、調整できる。コイル2の特性の調整が容易である。
【0059】
(9) 帯状の導体箔14および帯状の磁性箔20は、帯の長手方向に巻かれ、電流は導体箔および磁性箔の幅方向に流れるので、帯の長手方向に電流が流れる場合に比べて、大きな電流を流すことができる。
【0060】
(10) コアとして磁性体6を有するので、コイル2は、たとえばフェライトビーズよりも高い応答性を有し、たとえばパルス状のノイズに対して高い吸収を有する。

第2の実施の形態
【0061】
第2の実施の形態について、図5を参照して説明する。図5のAは、第2の実施の形態に係るコイルの一例の正面図、図5のBは、平面図、図5のCは平面の部分拡大図である。図5のCの部分拡大図は、図5のBにおいて破線で囲まれた部分VCの拡大図である。図5に示すコイルは一例であって、斯かるコイルに本開示の技術が限定されるものではない。図5において、図1と同一部分には同一符号を付してある。
【0062】
第1の実施の形態のコイル2では、磁性体6の一部(第2部分6-2)が導体4の外周部8で導体箔部分の間に配置されている。第2の実施の形態のコイル32では、磁性体6の一部(第2部分6-2)が導体4の全体またはほぼ全体で導体箔部分の間に配置されている。つまり、コイル32の中央部分では、互いに重ねられた導体箔および磁性箔が巻かれて、導体4、および磁性体6の第2部分6-2が形成されている。導体4、および磁性体6の第2部分6-2は、コイル32の導体部34を形成し、磁性体6の残りの部分(第1部分6-1)は、導体4の周りに配置されている。導体4の周りに配置された磁性体6の第1部分6-1は導体4に鎖交するので、コイル32がコイルとして機能する。
【0063】
導体部34の導体4の長さL21は磁性体6の長さL22より長く、導体4の両端部5-1、5-2は、磁性体6の端部から突出している。コイル32は扁平形状を有している。コイル32の高さH2はコイル32の幅W2よりも短く、コイル32の高さが抑制されている。コイル32の幅W2方向において、磁性体6の両端部は湾曲している。導体4の長さL21、磁性体6の長さL22、コイル32の高さH2またはコイル32の幅W2を調整すると、コイル32の特性を調整できる。
【0064】
導体4の材料は、第1の実施の形態の導体4の材料と同様である。磁性体6の材料は、第1の実施の形態の磁性体6の材料と同様である。また、第1の実施の形態と同様に、磁性体6は、絶縁層を箔の内側表面または外側表面に有し、他の表面では磁性材料が露出している。
【0065】
平面視において、導体部34は、コイル32の中央部分に配置されている。導体部34が導体4を含むので、導体部34は、導電性を有する。導体部34では、導体箔部分と磁性箔部分が交互に積層されている。その結果、導体部34の高さH3は、導体4のみの高さよりも高く、導体部34の幅W3は、導体4のみの幅よりも広い。電圧が導体4の両端部5-1、5-2に加わると、導体4が発熱する。コイル32では、導体箔部分と磁性箔部分が交互に積層されているので、コイル32を通る電流が各導体箔部分に分散される。結果として、導体4の発熱箇所が分散され、局部的な加熱が抑制される。また、導体4で生じた熱は、導体箔間にある磁性箔に伝導するので、導体部34の温度上昇が抑制される。
【0066】
コイル32の中央部分から外周部分までの全体に、磁性体6が配置されているので、導体部34と磁性体6の第1部分6-1との間の隙が抑制され、コイル32がコンパクトな状態を有している。また、この隙が抑制されるほど、磁性体6の第1部分6-1の配置位置がコイル32の中央部分に近づく。したがって、磁性体6の第1部分6-1の磁路長lが小さくなるとともに磁路断面積Sが大きくなり、磁路長lに対する磁路断面積Sの比(S/l)を大きくすることができる。
【0067】
その他の構成は、第1の実施の形態と同様であり、その説明を省略する。コイル32の等価回路は、第1の実施の形態のコイル2と同様である。

〔製造方法〕
【0068】
第1の実施の形態では、帯状の導体箔14の全てが巻かれる前に、帯状の磁性箔20の一端が導体4と帯状の導体箔14の間に配置されている。第2の実施の形態では、図6に示すように、帯状の導体箔14および帯状の磁性箔20の一端が巻軸16のスリット18内に配置される。巻軸16がたとえば反時計回りに回転され、互いに重ねられた状態で帯状の導体箔14および帯状の磁性箔20を巻軸16の周りに巻付けて、導体部34を得る。その後、巻軸16の回転により残りの帯状の磁性箔20が連続して導体部34の周りに巻付けられる。その他の工程は、たとえば第1の実施の形態と同様である。

〔第2の実施の形態の効果〕
【0069】
(1) 第1の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0070】
(2) 磁性箔部分が導体箔部分の間に配置され、磁性体6の絶縁層により、導体箔部分が分断され易くなる。表皮効果は分断された導体箔部分ごとに生じるので、大きな電流をコイル32に流すことができる。
【0071】
(3) 磁性箔部分が導体箔部分の間に配置されているので、熱が磁性体6に分散され、導体部34の温度上昇が抑制される。また、導体4の長さL21は磁性体6の長さL22より長いので、導体4の両端部5-1、5-2側に空隙が形成されて、導体部34の放熱性が高められる。
【0072】
(4) 互いに重ねられた状態で帯状の導体箔14および帯状の磁性箔20が巻かれて、導体4および磁性体6が形成されているので、導体4および磁性体6を連続的かつ一体的に形成することができる。コイル32の製造負担が小さい。
【実施例
【0073】
第2の実施の形態と同様の製造方法により、実施例1から実施例3のコイルを作成する。したがって、実施例1から実施例3のコイルは、第2の実施の形態のコイル32と同様の構成を有している。実施例1から実施例3のコイルの導体4は銅箔であり、磁性体6は鉄系アモルファス材料である。磁性体6の絶縁層は、次のようにして形成する。
・ 五酸化二アンチモンの絶縁粉末を準備する。五酸化二アンチモンの絶縁粉末は、10~30ナノメートルの粒径を有する。
・ ポリビニルアルコールを分散液水溶媒に添加して、溶媒を得る。絶縁粉末をこの溶媒に添加して、絶縁粉末溶液を得る。絶縁粉末溶液では、絶縁粉末の割合が、20~30質量パーセントに調整される。
・ 帯状の磁性箔20の一方の表面に、絶縁粉末溶液を塗布する。温度120[℃]の雰囲気で絶縁粉末溶液を乾燥させて、絶縁層を得る。絶縁粉末溶液の乾燥では、絶縁粉末溶液中の水が蒸発する。
・ 乾燥後の絶縁層の厚さは、0.1~0.3マイクロメートルである。乾燥後の絶縁層では、粉末が集合および積層している。乾燥後の絶縁層は、隙間および空気層の少なくとも一つを含んでいる。
・ 乾燥後の絶縁層を、温度380~540[℃]で1~5時間加熱して、絶縁層を得る。この温度380~540[℃]での加熱は、導体4および磁性体6の形成後に、焼き鈍しのための熱処理として行われる。
【0074】
比較例のコイルは、次のようにして作成する。
・ 帯状の鉄系アモルファス材料を巻軸で巻回して、コアを作成する。
・ 銅の電線をコアの中央部に挿入してコイルを得る。
【0075】
実施例1から実施例3および比較例のコイルのコアの寸法および質量は図7のAに示す通りである。比較の対象を一致させるため、図7のAに示す表では、導体または電線の周りに配置されている磁性体を「コア」として扱っている。実施例1から実施例3のコイルのコアの幅、厚さおよびリボン幅は、それぞれ第2の実施の形態で既述したコイル32の幅W2、コイル32の高さH2および磁性体6の長さL22に対応する。
【0076】
実施例1から実施例3のコイルのコアの厚さH2が、それぞれ5.1ミリ、5.9ミリ、7.1ミリであるのに対し、比較例のコイルのコアの外径は10.2ミリである。したがって、実施例1から実施例3のコイルの高さは、コイルの扁平形状により、比較例のコイルの高さよりも低く抑えられている。
【0077】
実施例1から実施例3のコイルは、平面視において、陸上競技場のトラックと同じ形状を有する。したがって、実施例1から実施例3のコイルの表面積Sは、おおよそ以下の式のように表される。
S=側面積+端面積≒(2πr+2l)h+2(πr2+2rl)
ここで、rは湾曲の半径であり、厚さH2の半分の値である。
lは湾曲間の距離であり、幅W2から厚さH2を引いた値である。
hはリボン幅L22の値である。
πは円周率である。
【0078】
この式から、実施例1のコイルの表面積S1はおおよそ964[mm2]であり、実施例2のコイルの表面積S2はおおよそ974[mm2]であり、実施例3のコイルの表面積S3はおおよそ1116[mm2]である。一方、比較例のコイルは、外径10.2ミリ、リボン幅20ミリの円柱形状を有する。したがって、比較例のコイルの表面積は、おおよそ227[mm2]である。したがって、実施例1から実施例3のコイルの表面積は、コイルの扁平形状により、比較例のコイルの表面積よりも大きく、放熱性に優れている。
【0079】
図7のBは、実施例1から実施例3および比較例のコイルのインダクタンスの直流重畳特性を示し、図8は、図7のBに示す直流重畳特性をグラフで表している。直流重畳特性は、直流電流を加えたときの特性値の変動を表す指標である。
【0080】
各実施例のコイルは、比較例のコイルのインダクタンスの4割以上の実用的なインダクタンスを有し、高さおよび温度上昇の抑制により、高い実用性を有している。また、50~60アンペアなどの大電流では、各実施例のコイルのインダクタンス値は、比較例のコイルのインダクタンス値に接近し、または比較例のコイルのインダクタンス値を超える。大電流では、各実施例のコイルの実用性は一層高い。

コイルの実装例
【0081】
図9は、コイルの回路への実装例を示している。図9に示す実装例では、第1の実施の形態に係るコイル2が実装されている。しかしながら、第2の実施の形態に係るコイル32が実装されてもよく、実施例1から実施例3のいずれかのコイルが実装されてもよい。
【0082】
回路において、電源42が負荷44に接続されている。電源42は、ノイズ発生源の一例であり、たとえばスイッチング電源である。負荷44は、たとえば自動車の電動モータ、ソレノイドのアクチュエータである。コイル2は電源42と負荷44の間の配線上に配置される。電源42は電流を負荷44に供給し、コイル2は電流に含まれるノイズを減少させ、ノイズが抑制された電流を負荷44に供給する。コイル2のみでノイズを除去してもよく、コイル2および他のノイズ除去素子でノイズを除去してもよい。
【0083】
図9に示す実装例では、コイル2が回路に直接配置されている。しかしながら、コイル2が保護ケースに収納されていてもよく、保護ケースを介してコイル2が回路に配置されていてもよい。
【0084】
以上説明した実施の形態および実施例について、変形例を以下に列挙する。
【0085】
(1) 上記実施の形態および実施例では、磁性箔部分が部分的に導体箔部分の間に配置されているが、磁性体6が全て導体4の周りに配置されていてもよい。磁性体6が全て導体4の周りに配置されていると、磁性体6が全て導体4に鎖交するので、磁性体6の断面積が増加し、インダクタンスを高くすることができる。
【0086】
(2) 上記実施の形態および実施例では、コイル、導体4および磁性体6の両端部が湾曲し、コイルの表面が、コイルの両端部間において平坦である。しかしながら、本開示の技術はこれらの構成に限定されるものではない。磁性体6が磁路を形成すれば、コイル機能を得ることができる。たとえば、コイルは、平面視において、楕円形状を有していてもよい。
【0087】
(3) 絶縁層が磁性体6の箔の内側表面および外側表面に形成されていてもよい。絶縁層が両面に形成されると、磁性体6の絶縁性が高められ、ノイズ電流により生じる渦電流を磁性体6の各層に分割しやすくなり、ノイズを効率的に熱に変換しやすくなる。また、磁性体6では、絶縁層が省略されていてもよい。絶縁層が省略されていても、低背かつ高い放熱性を有するコイルを得ることができる。
【0088】
(4) 導体4の箔の一表面または両方の表面に絶縁層を形成して、導体4の導体箔部分の間を絶縁してもよい。導体箔部分の間が絶縁されると、導体箔部分ごとに表皮効果が生じ、電流が分散され、コイルの最大電流値を高めることができる。
【0089】
(5) 上記第1の実施の形態では、磁性体6の一部を導体箔部分の間に配置して、導体4が磁性体6に接続されている。しかしながら、磁性体6の一部を導体箔部分とこの導体箔部分に貼り付けた貼付部材間に配置して、導体4を磁性体6に接続してもよい。この貼付部材は、たとえば導体箔、磁性箔または絶縁箔であり、導体4の箔を構成する。
【0090】
(6) 上記第1の実施の形態では、磁性体6は帯状の磁性箔20一枚を帯の長さ方向に巻回して形成したが、複数の帯状の磁性箔を積層した上で巻回して形成してもよい。厚い帯状の磁性箔を巻回して磁性体を形成すると、薄い帯状の磁性箔を巻回して同じ断面積を有する磁性体を形成する場合に比べ、巻回数を少なくできる。そのため、厚い帯状の磁性箔を巻回して磁性体を形成すると、生産性は向上する。しかし、厚い帯状の磁性箔を用いて形成した磁性体に比べ、薄い帯状の磁性箔を用いて形成した磁性体では、高周波領域において増大する渦電流を抑制することで表皮効果が緩和され、透磁率の低下を抑制して高周波領域まで高いインピーダンスを得ることができる。そのため、薄い帯状の磁性箔を積層した上で巻回して磁性体を形成することで、生産性を向上させつつ、高周波領域おいて高いインピーダンスを持つコイルを製造することができる。この場合において、帯状の磁性箔の少なくとも片側には絶縁層が形成されていてもよい。
【0091】
(7) また、一種の磁性材料を用いて磁性体を形成する実施形態を示したが、これに限らず、異なる磁性材料からなる複数の帯状の磁性箔を用いて磁性体を形成してもよい。このようにすることで、それぞれの磁性材料の特性を備えるコイルが得られる。例えば、コバルト系アモルファス材料のような高透磁率の磁性材料からなる帯状の磁性箔と、鉄系アモルファス材料のような磁性材料からなる帯状の磁性箔を用いて磁性体を形成すると、大電流・低電流のいずれが流れてもインダクタンスが確保できるコイルが得られる。つまり、鉄系アモルファス材料からなる磁性材料によって、大電流が流れた場合のインダクタンスを確保でき、コバルト系アモルファス材料からなる磁性材料によって、低電流が流れた場合に鉄系アモルファス材料のみを用いたコイルよりも高いインダクタンスを確保できる。異なる磁性材料は、一方の磁性材料からなる帯状の磁性箔を巻回して形成した磁性体を形成後その外周に、他方の磁性材料からなる帯状の磁性箔を巻回して磁性体材料を形成してもよく、異なる磁性材料からなる帯状の磁性箔を積層して一緒に巻回して磁性体を形成してもよい。この場合において、帯状の磁性箔の少なくとも片側には絶縁層が形成されていてもよい。
【0092】
以上説明したように、本開示の技術の最も好ましい実施の形態等について説明したが、本開示の技術は、上記記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載され、又は明細書に開示された本開示の技術の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能であることは勿論であり、斯かる変形や変更が、本開示の範囲に含まれることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本開示の技術は、たとえばスイッチング電源などのノイズ発生源のノイズの除去に用いることができ、有用である。
【符号の説明】
【0094】
2、32 コイル
4 導体
5-1、5-2 端部
6 磁性体
8 外周部
10 外周端部
12 固定部材
14 帯状の導体箔
16 巻軸
18 スリット
20 帯状の磁性箔
34 導体部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9