(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】停車支援装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/00 20060101AFI20221115BHJP
B60W 40/08 20120101ALI20221115BHJP
【FI】
B60W30/00
B60W40/08
(21)【出願番号】P 2018159069
(22)【出願日】2018-08-28
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100196221
【氏名又は名称】上潟口 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】菅野 崇
(72)【発明者】
【氏名】山下 拓也
(72)【発明者】
【氏名】伏間 丈悟
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-1520(JP,A)
【文献】特開2018-16182(JP,A)
【文献】特開2017-222322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行している車両の停止を支援する停車支援装置であって、
運転者の身体の異常を検出する異常検出部と、
上記異常検出部が検出した異常に基づいて目標時間を設定する目標時間設定部と、
上記異常検出部が検出した異常に基づいて許容横加速度を設定する許容値設定部と、
上記車両の進行方向に存在する複数の停止地点候補を検出する候補検出部と、
それぞれの上記停止地点候補までの所要時間を推定する所要時間推定部と、
上記車両がそれぞれの上記停止地点候補まで走行する間に発生する横加速度を推定する加速度推定部と、
停止地点を設定する停止地点設定部と、
上記停止地点まで走行して該停止地点に停止するように上記車両を制御する車両制御部と、を備え、
上記停止地点設定部は、上記複数の停止地点候補のうち、上記加速度推定部が推定した横加速度が上記許容横加速度以下であり、且つ、上記所要時間が上記目標時間以下である上記停止地点候補を、上記停止地点として設定することを特徴とする、停車支援装置。
【請求項2】
上記異常検出部は、運転者の意識の有無を検出し、
上記許容値設定部は、運転者の意識が無い場合は、運転者の意識が有る場合の上記許容横加速度よりも小さい上記許容横加速度を設定する、請求項1に記載の停車支援装置。
【請求項3】
上記異常検出部は、運転者の眼の開閉状態を検出し、
上記許容値設定部は、運転者の眼が閉状態である場合は、運転者の眼が開状態である場合の上記許容横加速度よりも小さい上記許容横加速度を設定する、請求項2に記載の停車支援装置。
【請求項4】
上記異常検出部は、運転者の視線の方向を検出するとともに、運転者の視線の方向が上記車両の進行方向と一致するか否かを判定し、
上記許容値設定部は、運転者の視線の方向が上記車両の進行方向と一致しない場合は、運転者の視線の方向が上記車両の進行方向と一致する場合の上記許容横加速度よりも小さい上記許容横加速度を設定する、請求項3に記載の停車支援装置。
【請求項5】
身体の複数の異常のそれぞれに対応する上記目標時間を予め記憶している記憶部を備え、
上記目標時間設定部は、上記異常検出部が検出した異常に対応する上記目標時間を上記記憶部から読み込む、請求項1から
4のいずれか一項に記載の停車支援装置。
【請求項6】
上記車両制御部は、上記異常検出部が異常を検出した場合に、予め定められた値よりも低い速度で上記車両を走行させる、請求項1から
5のいずれか一項に記載の停車支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行している車両の停止を支援する停車支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者が体調の急変等により安全な運転を継続できなくなった場合に、運転者に代わって車両を停止させる装置が知られている。例えば、特許文献1には、運転者の異常を検出した場合に、車両を退避スペースに停止させる装置が開示されている。さらに、特許文献2には、見通しが良好でない領域への車両の停止が禁止されることが開示されている。これらの停車支援装置によれば、運転者、同乗者、及び他の道路ユーザを、車両の衝突による危険から遠ざけるとともに、車両の停止後に運転者を救助することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-1519号公報
【文献】特開2017-190048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、車両の自動運転技術の開発に伴い、高精度地図や車載カメラ等の機器に関する技術が大きく進歩している。停車支援装置においても、これらの機器から提供される情報を有効に利用し、より運転者の救助に資する停車支援を行うことが待望されている。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、より運転者の救助に資する停車支援を行うことが可能な停車支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、走行している車両の停止を支援する停車支援装置であって、運転者の身体の異常を検出する異常検出部と、異常検出部が検出した異常に基づいて目標時間を設定する目標時間設定部と、異常検出部が検出した異常に基づいて許容横加速度を設定する許容値設定部と、車両の進行方向に存在する複数の停止地点候補を検出する候補検出部と、それぞれの停止地点候補までの所要時間を推定する所要時間推定部と、車両がそれぞれの停止地点候補まで走行する間に発生する横加速度を推定する加速度推定部と、停止地点を設定する停止地点設定部と、停止地点まで走行して該停止地点に停止するように車両を制御する車両制御部と、を備え、停止地点設定部は、複数の停止地点候補のうち、加速度推定部が推定した横加速度が許容横加速度以下であり、且つ、所要時間が目標時間以下である停止地点候補を、停止地点として設定することを特徴とする。
【0007】
救助活動を迅速に開始するためには、車両を可及的速やかに停止地点に停止させる必要がある。しかしながら、車両が停止地点まで走行する間に大きな横加速度(つまり、車両の幅方向における加速度)が発生すると、運転者の姿勢が大きく崩れ、運転者の体調がさらに悪化するおそれがある。
【0008】
この構成によれば、加速度推定部が推定した横加速度が許容横加速度以下である停止地点候補が、停止地点として設定される。「許容横加速度」とは、姿勢を維持しようとする運転者が抗し得る横加速度の最大値をいい、異常検出部が検出した運転者の身体の異常に基づいて設定される。したがって、例えば、当該異常が重篤である場合は比較的小さい許容横加速度を設定することにより、横加速度の抑制を優先させ、運転者の姿勢が大きく崩れることを抑制できる。また、当該異常が重篤ではない場合は比較的大きい許容横加速度を設定することにより、車両の走行を優先させ、車両を可及的速やかに停止地点に停止させることができる。
【0009】
また、この構成によれば、目標時間は、異常検出部が検出した運転者の身体の異常に基づいて設定される。このため、例えば、緊急性が比較的高い異常には比較的短い目標時間を設定することにより、車両を迅速に停止させて救助活動を開始することが可能になる。また、緊急性が比較的低い異常には比較的長い目標時間を設定することにより、より多くの停止地点候補の中から停止地点を設定することが可能になる。
【0010】
本発明において、好ましくは、異常検出部は、運転者の意識の有無を検出し、許容値設定部は、運転者の意識が無い場合は、運転者の意識が有る場合の許容横加速度よりも小さい許容横加速度を設定する。
運転者の意識が無い場合は、運転者が横加速度に抗するように身体に力を入れることが困難になる。
この構成によれば、運転者の意識が無い場合は、運転者の意識が有る場合の許容横加速度よりも小さい許容横加速度を設定することにより、車両が停止地点まで走行する間の横加速度を抑制することができる。この結果、運転者の意識が無い場合でも、運転者の姿勢が大きく崩れることを抑制できる。
【0011】
本発明において、好ましくは、異常検出部は、運転者の眼の開閉状態を検出し、許容値設定部は、運転者の眼が閉状態である場合は、運転者の眼が開状態である場合の許容横加速度よりも小さい許容横加速度を設定する。
運転者の眼が閉状態である場合は、運転者が車両の挙動を予測し、身体に力を入れることが困難になる。
この構成によれば、運転者の眼が閉状態である場合は、運転者の眼が開状態である場合の許容横加速度よりも小さい許容横加速度を設定することにより、車両が停止地点まで走行する間の横加速度を抑制することができる。この結果、運転者の眼が閉状態である場合でも、運転者の姿勢が大きく崩れることを抑制できる。
【0012】
本発明において、好ましくは、異常検出部は、運転者の視線の方向を検出するとともに、運転者の視線の方向が車両の進行方向と一致するか否かを判定し、許容値設定部は、運転者の視線の方向が車両の進行方向と一致しない場合は、運転者の視線の方向が車両の進行方向と一致する場合の許容横加速度よりも小さい許容横加速度を設定する。
「運転者の視線の方向が車両の進行方向と一致する」とは、運転者の視線の方向が、車両の進行方向を含む所定の範囲に属していることをいう。つまり、「運転者の視線の方向が車両の進行方向と一致する」とは、運転者の視線の方向が車両の進行方向と概ね一致していることをいい、両者が完全に一致していることを要しない。
運転者の視線の方向が車両の進行方向と一致しない場合は、運転者が車両の挙動を予測し、身体に力を入れることが困難になる。
この構成によれば、運転者の視線の方向が車両の進行方向と一致しない場合は、運転者の視線の方向が車両の進行方向と一致する場合の許容横加速度よりも小さい許容横加速度を設定することにより、車両が停止地点まで走行する間の横加速度を抑制することができる。この結果、運転者の視線の方向が車両の進行方向と一致しない場合でも、運転者の姿勢が大きく崩れることを抑制できる。
【0014】
本発明において、好ましくは、停車支援装置は、身体の複数の異常のそれぞれに対応する目標時間を予め記憶している記憶部を備え、目標時間設定部は、異常検出部が検出した異常に対応する目標時間を記憶部から読み込む。
この構成によれば、目標時間設定部が外乱等により不適切に短い又は長い目標時間を設定してしまうことを抑制できる。この結果、運転者の身体の異常にとって必要十分な時間を目標時間として設定することが可能になる。
【0015】
本発明において、好ましくは、車両制御部は、異常検出部が異常を検出した場合に、予め定められた値よりも低い速度で車両を走行させる。
この構成によれば、車両が停止する際に運転者に作用する慣性力を抑制することができる。この結果、運転者は、姿勢を大きく崩すことなく、救助を待つことが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、より運転者の救助に資する停車支援を行うことが可能な停車支援装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る停車支援装置を示すブロック図である。
【
図5】
図1のECUが実行する処理を示すフローチャートである。
【
図7】運転者の身体の状態と許容横加速度との対応を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0019】
まず、
図1を参照しながら、実施形態に係る停車支援装置1(以下「装置1」という。)の構成について説明する。
図1は、装置1を示すブロック図である。装置1は、車両に搭載され、緊急措置として、走行している車両の停止を支援する。本明細書では、装置1が搭載される車両を「車両2」という。
【0020】
また、本明細書では、車両2が前進する方向を「前」といい、後退する方向を「後」という。また、車両2が前進する方向を向いた場合の左方向を「左」という。
【0021】
装置1は、車外カメラ31と、車内カメラ32と、ナビゲーション装置33と、アクセルペダルセンサ34と、ブレーキペダルセンサ35と、ステアリングセンサ36と、ECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)5と、を備えている。
【0022】
車外カメラ31は、車両2の外部、特に、車両2の前方を撮影し、画像データを取得する。車外カメラ31は、例えばイメージセンサであり、車両2の不図示のルームミラーに設置されている。車外カメラ31は、取得した画像データに対応する信号をECU5に送信する。
【0023】
車内カメラ32は、車両2の内部を撮影し、画像データを取得する。具体的には、車内カメラ32は、車室内の運転者の上体を含む範囲を撮影する。車内カメラ32は、例えばイメージセンサであり、車両2のインストルメントパネルに設置されている。車内カメラ32は、取得した画像データに対応する信号をECU5に送信する。
【0024】
ナビゲーション装置33は、車両2の乗員に種々の情報を提供する。ナビゲーション装置33は、地図情報を記憶しているか、若しくは、車両2外のサーバと通信を行うことにより地図情報を取得する。当該地図情報には、道路形状、法令で各道路に定められた最高速度、各道路の交通状況が含まれている。また、当該地図情報には、消防署や病院等、救急自動車が配備されている地点に関する情報が含まれている。ナビゲーション装置33は、例えば、GPS(Global Positioning System)や自立航法センサ等、車両2の位置を検出するセンサを有している。ナビゲーション装置33は、地図情報、地図上の車両2の位置、車両2が所定地点に到達するまでに必要となる時間等に関する情報を、音や表示により乗員に提供する。また、ナビゲーション装置33は、ECU5と通信可能であり、ECU5の要求に応じて信号を送信することにより、ECU5に種々の情報を提供する。
【0025】
アクセルペダルセンサ34は、車両2のアクセルペダルの踏み込み量を検出するセンサである。アクセルペダルセンサ34は、検出した踏み込み量に対応する信号をECU5に送信する。
【0026】
ブレーキペダルセンサ35は、車両2のブレーキペダルの踏み込み量を検出するセンサである。ブレーキペダルセンサ35は、検出した踏み込み量に対応する信号をECU5に送信する。
【0027】
ステアリングセンサ36は、車両2のステアリングホイールの操舵方向及び操舵角を検出する。ステアリングセンサ36は、例えば、エンコーダを有しており、ステアリングホイールとともに回転するスリットをカウントする。ステアリングセンサ36は、検出した操舵方向及び操舵角に対応する信号をECU5に送信する。
【0028】
ECU5は、信号を送受信することにより機器を制御する制御装置である。ECU5は、その一部又は全部が、アナログ回路で構成されるか、デジタルプロセッサとして構成される。ECU5は、異常検出部51と、目標時間設定部53と、候補検出部55と、所要時間推定部57と、許容値設定部63と、加速度推定部65と、停止地点設定部67と、車両制御部68と、記憶部69と、を有している。
【0029】
尚、
図1は、ECU5の各機能をブロックとして示している。しかしながら、ECU5のアナログ回路又はデジタルプロセッサに組み込まれるソフトウェアのモジュールは、必ずしも
図1のように分割されている必要はない。つまり、
図1に示される各機能ブロックは更に細分化されていてもよいし、複数の機能ブロックの機能を単一の機能ブロックが有するように構成されていてもよい。後述する処理を実行できるように構成されていれば、当業者は、ECU5の内部の構成を適宜変更できる。
【0030】
異常検出部51は、車両2の運転者の身体の異常を検出する。異常検出部51は、ECU5が車内カメラ32、アクセルペダルセンサ34、ブレーキペダルセンサ35及びステアリングセンサ36から受信する信号に基づいて、運転者の身体の異常を検出する。
【0031】
例えば、異常検出部51は、車内カメラ32が取得した画像データに対して所定の処理を施すことにより、運転者の上体、頭部、顔、眼等を特定するとともに、それらに関する情報を取得する。さらに、異常検出部51は、アクセルペダルセンサ34、ブレーキペダルセンサ35及びステアリングセンサ36から受信する信号に基づいて、運転者の運転操作に関する情報を検出する。そして、異常検出部51は、取得したこれらの情報に基づいて所定の演算を行い、運転者の意識の有無、眼の開閉状態、視線の方向、重心位置等を検出する。
【0032】
また、異常検出部51は、運転者の視線の方向が車両2の進行方向と一致するか否かを判定する。詳細には、異常検出部51は、運転者の視線の方向が、車両2の進行方向を含む所定の範囲に属しているか否かを判定する。さらに、異常検出部51は、運転者が着座するシートの座面から運転者の重心までの距離に基づいて、運転者の重心の位置が適切であるか否かを判定する。
【0033】
また、異常検出部51は、取得した情報に基づいて所定の演算を行い、運転者の身体に発症している疾患を推定する。当該疾患の例として、脳血管疾患、心疾患、消化器疾患、失神等、運転者自身が突然の発症を予測することが困難なものが挙げられる。
【0034】
目標時間設定部53は、異常検出部51が検出した異常に基づいて目標時間を設定する。後述するように、目標時間設定部53は、運転者の身体に発症している疾患に対応する時間を、当該目標時間として設定する。
【0035】
候補検出部55は、停止地点候補を検出する。ここで、装置1が車両2を停止させる地点を「停止地点」といい、当該停止地点となり得る地点を「停止地点候補」という。候補検出部55は、ナビゲーション装置33から受信する信号に基づいて地図情報を取得するとともに、当該地図情報において車両2の進行方向に存在し、所定条件を満たす複数の停止地点候補を検出する。
【0036】
所要時間推定部57は、候補検出部55が検出した各停止地点候補までの所要時間を推定する。詳細には、所要時間推定部57は、各停止地点候補までの経路を探索し、各経路を走行する場合の車両2の速度パターンを決定するとともに、当該経路や速度パターンに基づいて、車両2が各停止地点候補に到達するのに要する時間を推定する。
【0037】
許容値設定部63は、異常検出部51が検出した異常に基づいて許容横加速度Gyaを設定する。許容横加速度Gyaとは、姿勢を維持しようとする運転者が抗し得る横加速度(つまり、車両2の幅方向における加速度)の最大値をいう。後述するように、許容値設定部63は、運転者の身体の状態に対応する値を、許容横加速度Gyaとして設定する。
【0038】
加速度推定部65は、車両2がそれぞれの停止地点候補まで走行する間に発生する加速度を推定する。詳細には、加速度推定部65は、各停止地点候補までの経路を探索し、各経路を走行する場合の車両2の速度パターンを決定するとともに、当該経路や速度パターンに基づいて、車両2が各停止地点候補まで走行する間に発生する横加速度を推定する。
【0039】
停止地点設定部67は、候補検出部55が検出した複数の停止地点候補に対し、所定条件に基づいて絞り込みを行ったり、1つの停止地点候補を停止地点として設定したりする。停止地点の設定の詳細については後述する。
【0040】
車両制御部68は、車両2の挙動を制御する。具体的には、車両制御部68は、車両2のエンジン41及びブレーキ42に制御信号を送信することにより、車両2の速度を制御する。また、車両制御部68は、車外カメラ31が取得した画像データに対して所定の処理を施すことにより、車両2が走行している道路の区画線を検出する。車両制御部68は、当該区画線を基準として生成した制御信号を電動パワーステアリング43に送信することにより、車両2の進行方向を制御する。
【0041】
記憶部69は、例えば不揮発性メモリにより構成されており、種々の情報を記憶する。記憶部69が記憶している情報は、異常検出部51等により読み出され、各種演算に用いられる。
【0042】
次に、
図2から
図4を参照しながら、装置1による車両2の制御について説明する。
図2から
図4は、日本の交通事情のように、法令により車両が左側車線を走行することが定められている環境を示している。道路8は、追越車線81及び走行車線82から成る片道二車線の道路である。車両2の走行中に所定条件が成立した場合、装置1は、緊急措置として運転者に代わって当該車両2を制御し、停止地点SPに停止させる。停止地点SPは、以下の3つのパターンのいずれかで設定される。
【0043】
[第1パターン]
図2は、装置1の停止地点設定部67(
図1参照)が、道路8内の地点を停止地点SPとして設定する第1パターンを示している。具体的には、
図2は、車両2が追越車線81を走行中に所定条件が成立し、車両2の進行方向における追越車線81上の地点が、停止地点SPとして設定された場合を示している。この場合、装置1の車両制御部68(
図1参照)は、車両2が追越車線81を維持しながら走行するように、電動パワーステアリング43(
図1参照)に制御信号を送信する。
【0044】
[第2パターン]
図3は、装置1の停止地点設定部67が、道路8の路肩83を停止地点SPとして設定する第2パターンを示している。具体的には、
図3は、車両2が走行車線82を走行中に所定条件が成立し、車両2の進行方向に存在する路肩83が停止地点SPとして設定された場合を示している。この場合、装置1の車両制御部68は、車両2が走行車線82を維持しながら走行するとともに、停止地点SP近傍において左前方に進行するように、電動パワーステアリング43に制御信号を送信する。
【0045】
[第3パターン]
図4は、装置1の停止地点設定部67が、道路8の側方に設けられた非常駐車帯84を停止地点SPとして設定する第3パターンを示している。具体的には、
図4は、車両2が追越車線81を走行中に所定条件が成立し、車両2の進行方向に存在する非常駐車帯84が停止地点SPとして設定された場合を示している。この場合、装置1の車両制御部68は、車両2がまず追越車線81から走行車線82に移動し、走行車線82を維持しながら走行するとともに、停止地点SP近傍で左前方に進行するように、電動パワーステアリング43に制御信号を送信する。
【0046】
第1パターンから第3パターンのいずれにおいても、車両2が停止地点SPの近傍に到達するまで、車両制御部68は、車両2の速度が50km/hよりも低くなるように、エンジン41及びブレーキ42に制御信号をする。車両制御部68は、車両2を停止地点SPに停止させる。車両2の停止後、装置1は不図示のウインカを点滅させたり、警笛を鳴動させたりすることにより、後続車両の追突を防止するとともに、車両2の運転者が救助を要していることを外部に報知する。
【0047】
次に、
図5から
図7を参照しながら、ECU5(
図1参照)が実行する処理について説明する。
図5は、ECU5が実行する処理を示すフローチャートである。当該処理は、車両2の走行中に、所定の周期で繰り返し実行される。
図6は、疾患と目標時間との対応を示す表である。
図7は、運転者の身体の状態と許容横加速度Gy
aとの対応を示す表である。尚、説明の簡便のため、詳細にはECU5の各機能ブロックが実行している処理も、総括してECU5が実行するとして説明する。
【0048】
まず、ECU5は、
図5に示されるステップS1で、車両2の運転者の身体の状態を検出する。詳細には、ECU5は、車内カメラ32(
図1参照)が取得した画像データに基づいて、運転者の意識の有無、眼の開閉状態、視線の方向、重心位置などを検出する。
【0049】
ステップS2で、ECU5は、運転者の身体に異常があるか否かを判定する。詳細には、ECU5は、ステップS1における検出の結果に基づいて、運転者が車両2を安全に運転できないほど、運転者の身体に異常があるか否かを判定する。例えば、ECU5は、運転者の意識の程度を数値化するとともに、当該数値が所定の閾値を下回った場合に、運転者の身体に異常があると判定してもよい。運転者の身体に異常があると判定しなかった場合(S2:NO)、ECU5は停車支援を行わない。一方、運転者の身体に異常があると判定した場合(S2:YES)、ECU5はステップS3に進む。
【0050】
ステップS3で、ECU5は、運転者の疾患を推定する。詳細には、ECU5は、ステップS1における検出の結果に基づいて、運転者の身体に発症している疾患を推定する。ECU5は、くも膜下出血、心筋梗塞、低血糖及びてんかんのいずれかの疾患が発症していることを推定できる。
【0051】
ステップS4で、ECU5は、目標時間を設定する。詳細には、ECU5は、
図6に示される表に基づいて、ステップS3で推定した疾患に対応する時間を目標時間として設定する。
【0052】
図6に示される表に関するデータは、記憶部69(
図1参照)に予め記憶されている。目標時間T1,T2,T3の値は、互いに異なり、各疾患の緊急性の程度に対応している。例えば、緊急性が比較的高く、可及的速やかな救助が必要とされる疾患に対しては、比較的短い時間が目標時間として設定されている。一方、緊急性が比較的低い疾患に対しては、比較的長い時間が目標時間として設定されている。
【0053】
ステップS5で、ECU5は、停止地点候補を検出する。詳細には、ECU5は、ナビゲーション装置33から受信する信号に基づいて地図情報を取得するとともに、車両2の進行方向において車両2から5km以内に存在し、且つ、所定条件を満たす複数の地点を、停止地点候補として検出する。当該所定条件は、車両2の特性や、車両2が走行している道路の特性、ステップS1で検出された運転者の身体の状態等、種々の因子に基づいて設定することができる。
【0054】
ステップS6で、ECU5は、停止地点候補までの所要時間を推定する。詳細には、ECU5は、まず、所定のアルゴリズムに基づいて、ステップS5で検出した各停止地点候補までの経路を探索し、各径路を走行する場合の車両2の速度パターンを決定する。さらに、ECU5は、決定した経路及び速度パターンに基づいて、車両2が各停止地点候補に到達するのに要する時間を推定する。
【0055】
ステップS7で、ECU5は、停止地点候補の絞り込みを行う。つまり、ECU5は、ステップS5でN個の停止地点候補を検出していた場合、このステップS7では、その中から所定条件を満たすN個以下の停止地点候補を残し、その他を停止地点候補から除外する。詳細には、ECU5は、ステップS5で検出した複数の停止地点候補のうち、ステップS6で推定した所要時間が、ステップS4で設定した目標時間以下である停止地点候補を残す。
【0056】
ステップS8で、ECU5は、許容横加速度Gy
aを設定する。詳細には、ECU5は、
図7に示される表に基づいて、ステップS1で検出した運転者の身体の状態に対応する値を許容横加速度Gy
aとして設定する。
【0057】
図7に示される表に関するデータは、記憶部69(
図1参照)に予め記憶されている。許容横加速度Gy
a(a=1,2,3,4,6,8,10)の値は、互いに異なっている。添字aの値が大きいほど、許容横加速度Gy
aの値も大きい。許容横加速度Gy
aの値は、運転者の姿勢の維持しやすさに対応している。例えば、運転者の意識が有り、運転者の眼が開状態であり、運転者の視線が車両2の進行方向と一致しており、運転者の重心位置が適切である場合、運転者の姿勢は維持しやすい状態にあるため、比較的大きい許容横加速度Gy
10が設定される。一方、運転者の意識が無く、運転者の重心位置が適切ではない場合、運転者の姿勢は大きく崩れやすい状態にあるため、比較的小さい許容横加速度Gy
1が設定される。
【0058】
ステップS9で、ECU5は、横加速度を推定する。詳細には、ECU5は、ステップS6で決定した経路及び速度パターンに基づいて、車両2がそれぞれの停止地点候補まで走行する間に発生する横加速度を推定する。
【0059】
ステップS10で、ECU5は、停止地点を設定する。詳細には、ECU5は、ステップS7で絞り込んだ停止地点候補のうち、ステップS9で推定した横加速度が、ステップS8で設定した許容横加速度Gya以下である停止地点候補を、停止地点として設定する。ここで許容横加速度Gyaと比較される横加速度は、車両2がそれぞれの停止地点候補まで走行する間に発生する横加速度の最大値でもよいし、平均値でもよい。
【0060】
ステップS11で、ECU5は、停止地点までの車両2の走行と停止を制御する。詳細には、ECU5は、車両2のエンジン41、ブレーキ42及び電動パワーステアリング43(
図1参照)に制御信号を送信し、停止地点まで車両2を走行させるとともに、停止地点に停止させる。この間、運転者によるアクセルペダルの操作は無効とされる。一方、運転者によるブレーキペダルの操作は有効とされる。これは、意識が朦朧とする中でも、障害物への衝突を回避しようとして、運転者が車両2を停止させようとする可能性があるためである。車両2の走行中、アンチロックブレーキングシステムや横滑り防止システム等、車両2の挙動を安定させるシステムが作動していてもよい。
【0061】
[実施形態が奏する作用効果]
上記実施形態の構成によれば、加速度推定部65が推定した横加速度が許容横加速度Gya以下である停止地点候補が、停止地点として設定される。「許容横加速度Gya」とは、姿勢を維持しようとする運転者が抗し得る横加速度の最大値をいい、異常検出部51が検出した運転者の身体の異常に基づいて設定される。したがって、例えば、重篤な異常には比較的小さい許容横加速度Gyaを設定することにより、横加速度の抑制を優先させ、運転者の姿勢が大きく崩れることを抑制できる。また、重篤ではない異常には比較的大きい許容横加速度Gyaを設定することにより、車両2の走行を優先させ、車両2を可及的速やかに停止地点に停止させることができる。
【0062】
また、この構成によれば、目標時間は、異常検出部51が検出した運転者の身体の異常に基づいて設定される。このため、緊急性が比較的高い異常には比較的短い目標時間を設定することにより、車両2を迅速に停止させて救助活動を開始することが可能になる。また、緊急性が比較的低い異常には比較的長い目標時間を設定することにより、より多くの停止地点候補の中から停止地点を設定することが可能になる。
【0063】
異常検出部51は、運転者の意識の有無を検出する。許容値設定部63は、運転者の意識が無い場合は、運転者の意識が有る場合の許容横加速度Gyaよりも小さい許容横加速度Gyaを設定する。
この構成によれば、運転者の意識が無い場合は、運転者の意識が有る場合の許容横加速度Gyaよりも小さい許容横加速度Gyaを設定することにより、車両2が停止地点まで走行する間の横加速度を抑制することができる。この結果、運転者の意識が無い場合でも、運転者の姿勢が大きく崩れることを抑制できる。
【0064】
異常検出部51は、運転者の眼の開閉状態を検出する。許容値設定部63は、運転者の眼が閉状態である場合は、運転者の眼が開状態である場合の許容横加速度Gyaよりも小さい許容横加速度Gyaを設定する。
この構成によれば、運転者の眼が閉状態である場合は、運転者の眼が開状態である場合の許容横加速度Gyaよりも小さい許容横加速度Gyaを設定することにより、車両2が停止地点まで走行する間の横加速度を抑制することができる。この結果、運転者の眼が閉状態である場合でも、運転者の姿勢が大きく崩れることを抑制できる。
【0065】
異常検出部51は、運転者の視線の方向を検出するとともに、運転者の視線の方向が車両2の進行方向と一致するか否かを判定する。許容値設定部63は、運転者の視線の方向が車両2の進行方向と一致しない場合は、運転者の視線の方向が車両2の進行方向と一致する場合の許容横加速度Gyaよりも小さい許容横加速度Gyaを設定する。
この構成によれば、運転者の視線の方向が車両2の進行方向と一致しない場合は、運転者の視線の方向が車両2の進行方向と一致する場合の許容横加速度Gyaよりも小さい許容横加速度Gyaを設定することにより、車両2が停止地点まで走行する間の横加速度を抑制することができる。この結果、運転者の視線の方向が車両2の進行方向と一致しない場合でも、運転者の姿勢が大きく崩れることを抑制できる。
【0066】
異常検出部51は、運転者の重心の位置を検出するとともに、運転者の重心の位置が適切であるか否かを判定する。許容値設定部63は、運転者の重心の位置が適切ではない場合は、運転者の重心の位置が適切である場合の許容横加速度Gyaよりも大きい許容横加速度Gyaを設定する。
この構成によれば、運転者の重心の位置が適切ではない場合は、運転者の重心の位置が適切である場合の許容横加速度Gyaよりも小さい許容横加速度Gyaを設定することにより、車両2が停止地点まで走行する間の横加速度を抑制することができる。この結果、運転者の重心の位置が適切ではない場合でも、運転者の姿勢が大きく崩れることを抑制することが可能になる。
【0067】
装置1は、身体の複数の異常のそれぞれに対応する目標時間を予め記憶している記憶部69を備えている。目標時間設定部53は、異常検出部51が検出した異常に対応する目標時間を記憶部69から読み込む。
この構成によれば、目標時間設定部53が外乱等により不適切に短い又は長い目標時間を設定してしまうことを抑制できる。この結果、運転者の身体の異常にとって必要十分な時間を目標時間として設定することが可能になる。
【0068】
車両制御部68は、異常検出部51が異常を検出した場合に、予め定められた値である50km/hよりも低い速度で車両2を走行させる。
この構成によれば、車両2が停止する際に運転者に作用する慣性力を抑制することができる。この結果、運転者は、姿勢を大きく崩すことなく、救助を待つことが可能になる。
【0069】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。
【0070】
上記実施形態では、ECU5の異常検出部51は、車内カメラ32が取得した画像データに基づいて運転者の身体の異常を検出する。しかしながら、本発明はこの形態に限定されない。例えば、運転者の体温や脈波を検出する赤外線センサや、運転者の姿勢に応じた重心位置や脈波を検出するシートセンサ等を備えた車両に本発明に係る停車支援装置が搭載される場合、本発明に係る異常検出部は、各センサの検出情報に基づいて運転者の身体の異常を検出してもよい。
【0071】
上記実施形態では、ECU5の所要時間推定部57が、各停止地点候補までの経路を探索し、各経路を走行する場合の車両2の速度パターンを決定する。しかしながら、本発明はこの形態に限定されない。例えば、本発明に係る所要時間推定部は、当該経路の探索及び当該速度パターンの決定をナビゲーション装置に指示するとともに、ナビゲーション装置から提供される情報に基づいて、所要時間を推定してもよい。
【0072】
上記実施形態では、ECU5の加速度推定部65は、各停止地点候補までの経路を探索し、各経路を走行する場合の車両2の速度パターンを決定する。しかしながら、本発明はこの形態に限定されない。例えば、本発明に係る加速度推定部は、当該経路の探索及び当該速度パターンの決定をナビゲーション装置に指示するとともに、ナビゲーション装置から提供される情報に基づいて、横加速度を推定してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 停車支援装置(装置)
2 車両
51 異常検出部
53 目標時間設定部
55 候補検出部
57 所要時間推定部
63 許容値設定部
65 加速度推定部
67 停止地点設定部
68 車両制御部
69 記憶部
SP 停止地点