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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】リアクトル
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20221115BHJP
   H01F 27/06 20060101ALI20221115BHJP
   H01F 27/30 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
H01F37/00 T
H01F37/00 J
H01F37/00 M
H01F27/06
H01F27/30 160
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018160016
(22)【出願日】2018-08-29
(65)【公開番号】P2020035843
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【弁理士】
【氏名又は名称】江上 達夫
(72)【発明者】
【氏名】飯島 遥
(72)【発明者】
【氏名】宮内 宏之
(72)【発明者】
【氏名】冨田 芳樹
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-096530(JP,A)
【文献】特開2015-144237(JP,A)
【文献】特開2005-294362(JP,A)
【文献】特開平07-022258(JP,A)
【文献】特開2018-146017(JP,A)
【文献】特開2003-234223(JP,A)
【文献】特開2011-254005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
H01F 27/06
H01F 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア及びコイルがモールド樹脂部にて覆われ、前記モールド樹脂部には締結用のステイが一体に形成され、前記ステイに装着される締結部材により相手部品に対して当該ステイの接合面が接するようにして固定され、前記相手部品への固定の際に前記締結部材の締結力が作用する方向とは逆向きの反力が前記ステイに作用することにより、前記ステイには前記接合面側が引張側となるようにして曲げ応力が作用するリアクトルにおいて、
前記ステイには、前記接合面に対する反対側の表面に開口し、前記接合面側には開口しないようにして凹部が設けられているリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置等に用いられるリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車の電力変換装置等にはシステム電圧の昇圧等を目的としてリアクトルが設けられている。その種のリアクトルの固定構造としては、コイルを樹脂にてモールドして形成されたモールドコイルが、相手部品としての電力変換装置のケース等との間に樹脂シート等の放熱体が挟み込まれるようにして相手部品と組み合わされ、モールドコイルの側方に一体的に設けられた複数のステイと相手部品との間がボルトにて締め付け固定される固定構造が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-249427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放熱体を挟み込んでリアクトルを締め付け固定する場合、ボルトを締め付ける過程で放熱体が押し潰され、その反力がリアクトルに作用してリアクトル、あるいは相手部品の寸法のばらつき、あるいはリアクトルを押し付ける力の偏り等に起因して、リアクトルのステイに曲げ応力が発生するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は締結用のステイに生じ得る曲げ応力を緩和することが可能なリアクトルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るリアクトルは、コア及びコイルがモールド樹脂部にて覆われ、前記モールド樹脂部には締結用のステイが一体に形成され、前記ステイに装着される締結部材により相手部品に対して当該ステイの接合面が接するようにして固定され、前記相手部品への固定の際に前記締結部材の締結力が作用する方向とは逆向きの反力が前記ステイに作用することにより、前記ステイには前記接合面側が引張側となるようにして曲げ応力が作用するリアクトルにおいて、前記ステイには、前記接合面に対する反対側の表面に開口し、前記接合面側には開口しないようにして凹部が設けられたものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一形態に係るリアクトルが相手部品に固定された状態を示す図。
図2】一形態に係るリアクトルの平面図。
図3図2のIII部におけるステイの拡大図。
図4図3のステイの斜視図。
図5】ステイを相手部品の一例としてのケースに固定した状態を示す断面図。
図6】リアクトルをケースに固定する手順を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して本発明の一形態に係るリアクトルを説明する。図1に示すように、本形態に係るリアクトル1は、相手部品の一例としてのケース2の内部に締結部材の一例としての複数本のボルト3を用いて固定される。以下では、リアクトル1のケース2と対向する側を下面側と呼び、その反対側を上面側と呼ぶことにより、リアクトル1の上下方向を区別することがある。ケース2は一例としてハイブリッド車両に設けられた電力変換装置を含んだパワーコントロールユニット(以下、PCUと称する。)の外郭の一部を構成する部品であって、例えば金属製である。図1ではケース2の一部が示されている。相手部品はPCUのケース2に限らず、適宜に変更されてよい。ボルト3の本数も適宜に変更可能である。
【0009】
図2にも示したように、リアクトル1は、コア部10とコイル部11とを含んでいる。コア部10は、概略U字状に形成された一対のコア(不図示)を互いの脚部の端面が突き合わされるようにして組み合わせ、それらのコアの周囲を一対のモールド樹脂部12にて覆った構成を有している。コアは一例として鉄製である。コアとモールド樹脂部12とは例えばコアをインサート部品とする射出成形法により一体的に形成される。コイル部11は、コア部10の一対の脚部分の外周に嵌め合わされた一対のコイル13の少なくとも一部をモールド樹脂部14にて覆った構成を有している。例えばリアクトル1の上部にてコイル13がモールド樹脂部14で覆われ、リアクトル1の下部ではコイル13が露出する。コイル13とモールド樹脂部14とは、例えば成形後のコア部10にコイル13が嵌め合わされた状態の中間的な組立体をインサート部品とする射出成形法により一体的に形成される。コイル部11には一対の電極部15が上方に突出するように設けられている。電極部15は、一例としてPCUの電源ライン及びコンバータのパワートランジスタにそれぞれ接続される。
【0010】
コア部10のモールド樹脂部12には、リアクトル1をケース2に固定するためのステイ16がモールド樹脂部12と一体となるように形成されている。図示例では左側のモールド樹脂部12に一つのステイ16が、右側のモールド樹脂部12に二つのステイ16がそれぞれ設けられている。各ステイ16はモールド樹脂部12の外周から側方に突出するようにして設けられている。ただし、ステイ16はモールド樹脂部12に限らず、リアクトル1の周囲(例えばモールド樹脂部14)から側方に突出するように設けられてよい。リアクトル1を装着する際のボルト3による締結が可能である限り、ステイ16はリアクトル1の適宜の位置に設けられてよい。ステイ16の個数及び位置は、リアクトル1の固定に用いられるべきボルト3の本数、及びそれらのボルト3が装着されるべきケース2のボルト穴の位置に応じて適宜に変更されてよい。
【0011】
図3図5に示すように、ステイ16にはステイ16を上下方向に貫くようにしてカラー18が設けられている。カラー18の中心部には上下方向に延びる貫通孔としてのボルト孔19が形成されている。カラー18は例えば金属製であり、モールド樹脂部12の成形時にインサート部品として型内に配置されることによりステイ16と一体化される。ステイ16のカラー18を除く部分はいずれもモールド樹脂部12と同一の樹脂材料にて形成される。図5から明らかなように、カラー18に装着されたボルト3がケース2のネジ穴2aにねじ込まれることによりリアクトル1がケース2に締め付け固定される。カラー18の下端面は、ケース2に対するステイ16の接合面16aとして機能する。
【0012】
さらに、ステイ16には、少なくとも一つ(図示例では二つ)の凹部20が形成されている。凹部20は、ステイ16の接合面16aと反対側の表面である上面16bに開口するように設けられている。凹部20は、リアクトル1を固定する際にステイ16に作用する曲げ応力を緩和する作用を奏する。この点は後に詳しく説明する。また、凹部20は、モールド樹脂部12を成形する際の引け、すなわち樹脂の冷却過程で生じる収縮に起因するステイ16の変形、あるいは歪を緩和する作用効果をも奏する。さらに、ステイ16の下面側において、ステイ16とモールド樹脂部12とは比較的大きな隅アール部16cを介して接合されている。隅アール部16cはステイ16の根元部分、すなわちモールド樹脂部12に連なる部分における応力集中を緩和する作用効果を奏する。ステイ16の下面側は、凹部20のような開口部を有する部位は存在せず、ステイ16の全体に亘ってほぼ滑らかな表面を呈するように構成されている。また、ステイ16とモールド樹脂部12との間にはリブ等の突部は設けられていない。なお、図3図5は、図2のIII部で示したステイ16を示すが、他の部分のステイ16も同様にカラー18及び凹部20を有し、かつ接合面16a側が隅アール部16cを介してモールド樹脂部12と接合されている。
【0013】
次に、図6を参照してリアクトル1をケース2に固定する手順を説明する。まず、図6(a)に示すように、ケース2が台座30上に支持され、リアクトル1の下面側とケース2との間に放熱体の一例としての樹脂シート31(図中にハッチング領域で示す。)が挟み込まれるようにしてリアクトル1がケース2上に配置される。この際、ケース2等に適宜に設けられた位置決めピン等の位置決め手段によりリアクトル1がケース2の所定位置に正しく位置決めされる。図6(a)の段階では、樹脂シート31の厚みに応じてステイ16の接合面16a(図5参照)がケース2よりも上方に離れている。樹脂シート31は、一例として、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等で構成されてよい。放熱体は樹脂シート31に限らず、リアクトル1からケース2への熱伝達効率を改善してリアクトル1の放熱効果を高め得るものであれば適宜に採用可能である。
【0014】
次に、図6(b)に示すように、リアクトル1の上面側に加圧治具32を配置し、その加圧治具32を下向きに押し込むことにより、リアクトル1に下向きの加圧力F1を加える。それにより樹脂シート31が圧縮される。このとき、樹脂シート31からリアクトル1には上向きの反力F2が作用し、台座30からケース2には上向きの反力F3が作用する。加圧力F1を続けて与えることにより、図6(c)に示すように、少なくとも一箇所のステイ16がケース2に接触する(着座すると表現されてもよい。)。図6(c)の例では、左側のステイ16がケース2に接し、右側のステイ16はまだケース2から離れている状態を示している。その後、図6(d)に示すように全てのステイ16がケース2に接触したことを確認し、加圧治具32の押し込みを中止する。ステイ16とケース2とが接触しているか否かは、例えば各ステイ16のカラー18及びケース2が導電性の材料から構成されている場合、各ステイ16とケース2との間の導通の有無を判別することにより判別可能である。
【0015】
加圧治具32の押し込みを中止してもリアクトル1は樹脂シート31からの上向きの反力F2で押し返される。したがって、リアクトル1の浮き上がりを防止するため、加圧治具32は押し込み中止時の位置に保持され、リアクトル1には引き続き下向きの加圧力F1が作用する。このとき、一部のステイ16に対して上向きの曲げ反力F4が作用し、それに伴なって、ステイ16には上方に曲げ返されるように撓みが生じることがある。しかしながら、図3図5に示したように、各ステイ16には上面16bに開口するように凹部20が形成され、曲げ反力F4に対応して引張応力が作用する接合面16a側にはそのような凹部が存在しない。したがって、上方への曲げ反力F4に伴なってステイ16の根元部分(モールド樹脂部12から突出する付け根の部分)に生じる曲げ応力が緩和される。仮に、曲げ反力F4に対応して引張側となる接合面16a側に開口するように凹部20が設けられた場合には、その凹部20が拡大するようにしてステイ16が上方に撓み変形し、ステイ16の根元部分に比較的大きな曲げ応力が作用するおそれがある。そのような場合と比較して本形態のステイ16では、曲げ反力F4にてステイ16が過度に撓むことがなく、ステイ16の根元部分における曲げ応力は十分に小さく抑えられる。
【0016】
加圧治具32の押し込みを停止した後、続けて図6(e)に示すように各ステイ16にボルト3を装着し、各ボルト3を規定のトルクで締め付けることによりリアクトル1をケース2に固定する。その後、図6(f)に示すように加圧治具32を取り去ってリアクトル1を開放する。固定完了後は、ボルト3による下向きの締結力F5がリアクトル1に作用し、樹脂シート31からの上向き反力F2に抗してリアクトル1が定位置に保持される。
【0017】
次に、ステイ16の寸法とステイ16に生じる応力との関係について述べる。ステイ16には、上述した組み付け時の曲げ反力F4に伴う応力と、ケース2に固定されたリアクトル1に作用する振動(荷重)に伴う応力との2種類の応力が生じ得る。以下では、前者を定変位ストレス、後者を定荷重ストレスと呼んで区別する。ステイ16をその根元部分が支持された片持ち梁とみなせば、定変位ストレスによって生じる歪εは下式(1)で、定荷重ストレスによって生じる歪εは下式(2)でそれぞれ与えられる。
【0018】
【数1】
【0019】
ここでhはステイ16の上下方向における厚さ(図5)、Lはステイ16の長さ、bはステイ16の幅、Eはステイ16を構成する樹脂材料の縦弾性係数、αはステイ16の根元部分における応力集中係数、σはリアクトル1を固定する際にステイ16間に生じる上下方向のずれ量、Fはリアクトル1に生じる振動に伴なってステイ16に作用する荷重である。ステイ16は断面一定の片持ち梁ではないものの、厚さhはステイ16の平均的な厚さ、長さLはモールド樹脂部12の側面12aからカラー18の外側の端部までの距離として設定されてよい。また、ステイ16の幅bについては、図3に一点鎖線で示したように、ステイ16の両側面16dに概ね沿った直線とモールド樹脂部12の側面12aに沿った直線とを定義してそれらの直線の交点間の距離として設定されてよい。いずれにしても厚さh、長さL及び幅bはステイ16の形状を単純化して得られる値で代表してよい。
【0020】
上式(1)から明らかなように、定変位ストレスに関してはステイ16の幅bが影響しない一方で、定荷重ストレスに関しては幅bが影響する。上述したように、ステイ16にはリブ等の突部が設けられておらず、厚さhをリブによって実質的に増加させて定荷重ストレスに対する剛性を担保することはできない。しかしながら、ステイ16の幅bを増加させることにより、比較的変形し易く、かつ定荷重ストレスに対する剛性が担保されたステイ16を実現することが可能である。また、応力集中係数αは隅アール部16cの曲率半径R(図5)を増加させることによって減少させることができる。例えば、隅アール部16cの曲率半径Rを2mm以上に設定して応力集中係数αを実用的なレベルで低下させることができる。
【0021】
本発明は上述した形態に限定されることなく、適宜の変形又は変更が施された形態にて実施されてよい。例えば、リアクトルは、コア部及びコイル部のそれぞれを別工程で樹脂にてモールドする構成に限らない。ステイに装着される締結部材によって相手部品に固定される構成を有する限り、適宜の構成のリアクトルに本発明が適用されてよい。ハイブリッド自動車の電力変換装置に用いられるリアクトルに限らず、各種の電力回路に設けられるリアクトに対して本発明が適用されてよい。リアクトルは、放熱体を挟むようにしてアイテム部品に固定される例に限らない。ステイに曲げ応力が生じ得る限り、本発明を適用することにより上述した作用効果を奏し得る。例えば、放熱体に代え、又は加えて、他の目的でリアクトルと相手部品との間に弾性体が介在される場合には、上記と同様にステイに曲げ反力が生じる可能性があり、そのような場合に本発明を効果的に適用し得る。
【0022】
上述した実施の形態及び変形例から導かれる本発明の態様を以下に説明する。なお、以下では、図中の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明の態様が図示の形態に限定されるものではない。
【0023】
本発明の一態様に係るリアクトルは、締結用のステイ(16)を有し、前記ステイに装着される締結部材(3)により相手部品(2)に対して当該ステイの接合面(16a)が接するようにして固定されるリアクトル(1)において、前記ステイには、前記接合面に対する反対側の表面(16b)に開口するようにして凹部(20)が設けられたものである。
【0024】
上記態様によれば、ステイを締結部材によって相手部品に締結する場合において、締結部材による締結力が作用する向きとは逆向きの反力がステイに作用しても、その反力に伴なって引張応力が生じ得る接合面側ではなく、反対側の表面に開口するように凹部が設けられている。したがって、凹部が広がるようにステイが撓むことがなく、それによりステイに生じる曲げ応力を緩和することが可能である。
【0025】
上記態様において、ステイはリアクトルから片持ち梁状に突出するように構成されてもよい。その場合には、ステイの根元部分に生じる曲げ応力を緩和することができる。さらに、ステイが樹脂成形によって形成されてもよい。その場合には、樹脂成形の過程で生じ得る引け、すなわち樹脂の冷却に伴なって生じる収縮を凹部にて緩和することも可能である。さらに、片持ち梁状に形成されたステイの接合面側の根元部分には隅アール部が設けられてもよい。これにより、根元部分の応力集中係数を減少させてステイの曲げ応力に対する歪を低減することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 リアクトル
2 ケース
3 ボルト
16 ステイ
16a 接合面
16b 上面
16c 隅アール部
20 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6