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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】運転計画最適化装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20221115BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20221115BHJP
   H02J 3/14 20060101ALI20221115BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20221115BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20221115BHJP
   H02J 7/02 20160101ALI20221115BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/32
H02J3/14
H02J3/00 130
H02J3/38 110
H02J7/00 B
H02J7/00 L
H02J7/00 302C
H02J7/02 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018189528
(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公開番号】P2020061796
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】大野 正夫
(72)【発明者】
【氏名】小熊 祐司
【審査官】佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-085981(JP,A)
【文献】国際公開第2013/121514(WO,A1)
【文献】特開2016-226099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 3/32
H02J 3/14
H02J 3/38
H02J 7/00
H02J 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電力負荷設備及び1あるいは複数の蓄電設備を備える施設の消費電力のピークを最小化する運転計画最適化装置であって、
前記電力負荷設備の予測消費電力データに基づいて、前記電力負荷設備の運転スケジュールと前記蓄電設備の充放電スケジュールとを求める最適化部を備え
前記最適化部は、前記運転スケジュール及び前記充放電スケジュールの両方または一方を求め、当該求めた一方のスケジュールを固定して他方のスケジュールを求めることを繰り返すことで、前記運転スケジュールと前記充放電スケジュールとを反復的に求めることを特徴とする運転計画最適化装置。
【請求項2】
複数の電力負荷設備及び1あるいは複数の蓄電設備を備える施設の消費電力のピークを最小化する運転計画最適化装置であって、
前記電力負荷設備の予測消費電力データに基づいて、前記電力負荷設備の運転スケジュールと前記蓄電設備の充放電スケジュールとを求める最適化部を備え、
前記最適化部は、前記蓄電設備の充放電回数が最小となるように充放電スケジュールとを求めることを特徴とする運転計画最適化装置。
【請求項3】
複数の電力負荷設備及び1あるいは複数の蓄電設備を備える施設の消費電力のピークを最小化する運転計画最適化装置であって、
前記電力負荷設備の予測消費電力データに基づいて、前記電力負荷設備の運転スケジュールと前記蓄電設備の充放電スケジュールとを求める最適化部を備え、
前記蓄電設備が複数設けられる場合、各々の前記蓄電設備の充放電回数が均等化されるように充放電スケジュールとを求めることを特徴とする運転計画最適化装置。
【請求項4】
前記施設はさらに分散電源を備えることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の運転計画最適化装置。
【請求項5】
前記施設は 系統電力を前記電力負荷設備及び前記蓄電設備に供給することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の運転計画最適化装置。
【請求項6】
前記電力負荷設備は、所定の対象物に熱処理を施す熱処理炉であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の運転計画最適化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転計画最適化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、工場全体でのより効率的なエネルギー管理を実現できるエネルギー管理システムが開示されている。このエネルギー管理システムは、工場を対象としてエネルギー管理を行う工場エネルギー管理システム(FEMS)、工場の生産計画を立案する生産管理システム、工場に対し電力供給可能な蓄電池システム及び太陽光発電システムを備え、FEMSが生産管理システムの生産計画と連携して工場のエネルギー負荷を予測し、蓄電池システム及び太陽光発電システムからの供給可能な電力を予測し、生産計画の情報に対して予測による供給可能な電力からの供給量を含めて、予測による工場の負荷を平準化することにより、より効率的なエネルギー管理となるようにピークカットまたはピークシフトを含む調整を行い、当該調整後の生産計画の情報を生産管理システムに出力する。
【0003】
このエネルギー管理システムでは、特許文献1の段落0068~0070や図4に記載されているように、複数の生産ラインの「製造の単位(時間)」における稼働中のエネルギー負荷を一定値とし、各生産ラインにおける作業(製造作業)の時間帯を調整することにより、エネルギー負荷のピークカットやピークシフトを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6114532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、生産ライン(電力負荷設備)の稼働中におけるエネルギー負荷(消費電力)は、必ずしも一定値ではなく、時間の経過とともに変動する場合が多い。したがって、上記エネルギー管理システムは、消費電力が変動する生産設備を含む工場(施設)には適用し難い。特に、消費電力の変動幅が比較的大きな設備を備える施設に適用した場合には、実効性が大きく懸念される。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、消費電力が時系列的に変動する複数の設備を備える施設の消費電力のピークシフトを実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、運転計画最適化装置に係る第1の解決手段として、複数の電力負荷設備及び1あるいは複数の蓄電設備を備える施設の消費電力のピークを最小化する運転計画最適化装置であって、前記電力負荷設備の予測消費電力データに基づいて、前記電力負荷設備の運転スケジュールと前記蓄電設備の充放電スケジュールとを求める最適化部を備える、という手段を採用する。
【0008】
本発明では、運転計画最適化装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記最適化部は、前記運転スケジュール及び前記充放電スケジュールの両方または一方を求め、当該求めた一方のスケジュールを固定して他方のスケジュールを求めることを繰り返すことで、前記運転スケジュールと前記放電スケジュールとを反復的に求める、という手段を採用する。
【0009】
本発明では、運転計画最適化装置に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記最適化部は、前記蓄電設備の充放電回数が最小となるように充放電スケジュールとを求める、という手段を採用する。
【0010】
本発明では、運転計画最適化装置に係る第4の解決手段として、上記第1~第3のいずれかの解決手段において、前記蓄電設備が複数設けられる場合、各々の前記蓄電設備の充放電回数が均等化されるように充放電スケジュールとを求める、という手段を採用する。
【0011】
本発明では、運転計画最適化装置に係る第5の解決手段として、上記第1~第4のいずれかの解決手段において、前記施設はさらに分散電源を備える、という手段を採用する。
【0012】
本発明では、運転計画最適化装置に係る第6の解決手段として、上記第1~第5のいずれかの解決手段において、前記施設は系統電力を前記電力負荷設備及び前記蓄電設備に供給する、という手段を採用する。
【0013】
本発明では、運転計画最適化装置に係る第7の解決手段として、上記第1~第6のいずれかの解決手段において、前記電力負荷設備は、所定の対象物に熱処理を施す熱処理炉である、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、消費電力が時系列的に変動する複数の設備を備える施設の消費電力のピークシフトを実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態における熱処理工場(施設)の電力系統を示す模式図である。
図2】本発明の第1実施形態における電力負荷設備の概要を示す模式図である。
図3】本発明の第1実施形態における熱処理炉の消費電力及び炉内温度の変化を示すグラフである。
図4】本発明の第1実施形態に係る熱処理工場最適化装置の機能構成を示すブロック図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る熱処理工場最適化装置の動作を示す第1のフローチャートである。
図6】本発明の第1実施形態に係る熱処理工場最適化装置の動作を示す第2のフローチャートである。
図7】本発明の第1実施形態における熱処理工場の合計消費電力の予測値を示す特性図である。
図8】本発明の第1実施形態における蓄電設備の充放電電力及び充電残量の予測値を示す特性図である。
図9】本発明の第1実施形態における蓄電設備の充放電計画を示すガントチャートである。
図10】本発明の第2実施形態における熱処理工場(施設)の電力系統を示す模式図である。
図11】本発明の第2実施形態に係る熱処理工場最適化装置の動作を示すフローチャートである。
図12】本発明の第2実施形態における第1蓄電設備及び第2蓄電設備の放電計画を示すガントチャートである。
図13】本発明の第2実施形態における第1蓄電設備の充放電電力及び充電残量の予測値を示す特性図である。
図14】本発明の第2実施形態における第2蓄電設備の充放電電力及び充電残量の予測値を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
最初に、第1実施形態について説明する。本第1実施形態に係る熱処理工場最適化装置は、図1に示すように、複数(8台)の熱処理炉R1~R8及び1あるいは複数の蓄電設備Jを備える熱処理工場Aを最適化対象としている。この熱処理工場Aは、本発明における施設に相当し、また複数の熱処理炉R1~R8は、本発明における電力負荷設備に相当する。
【0017】
蓄電設備Jは、系統電源Dと共に給電設備を構成し、熱処理工場Aが外部の系統電源Dから受け入れた系統電力の一部を充放電する。この蓄電設備Jは、例えば二次電池あるいはフライホイール・バッテリーである。このような蓄電設備Jは、動作モードが熱処理工場最適化装置によって作成された充放電計画に基づいて充電モード、放電モードあるいは停止モードに切替わることにより、系統電源Dから熱処理工場Aに供給される系統電力の一部を充電し、あるいは自らが蓄えた充電電力を複数の熱処理炉R1~R8に供給する。
【0018】
熱処理工場Aは、図2に示すように、上記蓄電設備J及び複数の熱処理炉R1~R8に加えて、複数の上流側ラインU、部品ストレージS及び複数の下流側ラインLを備えており、各熱処理炉R1~R8を用いて複数の部品X(対象物)に同時並行的に熱処理(ジョブ)を施す。すなわち、熱処理工場Aは、系統電源Dと系統連系すると共に、当該系統連系によって系統電源Dから給電された電力に基づいて複数の熱処理炉R1~R8を稼働させることにより、複数の熱処理(ジョブ)を並列処理する施設である。
【0019】
このような熱処理工場Aにおいて、各上流側ラインUは、熱処理前の部品Xに所定の前処理(洗浄処理等)を施す生産ラインであり、部品ストレージSは、各上流側ラインUで前処理された部品Xを一時的に保持する部品保持設備である。
【0020】
また、各熱処理炉R1~R8は、系統電源Dあるいは/及び蓄電設備Jから供給される電力によって作動する電力負荷設備であり、複数の部品Xに熱処理を施す。部品ストレージSから所定数の部品Xを順次受け入れて所定の処理条件における熱処理を行う加熱冷却炉である。
【0021】
これら熱処理炉R1~R8は、例えば図3の一点鎖線で示すように、炉内温度が所定時間(温度上昇時間)をかけて常温から目標温度まで上昇し、その後に目標温度を所定時間(均熱時間)に亘って維持し、さらに所定時間(冷却時間)をかけて常温まで低下する。温度上昇時間、均熱時間、冷却時間及び目標温度は、ジョブ(熱処理)の処理条件であり、部品X毎に設定される。
【0022】
このような熱処理炉R1~R8の消費電力は、図3の実線で示すような変化をする。すなわち、各熱処理炉R1~R8の消費電力は、上記温度上昇時間においてゼロから最大値に達し、その後下降して一定値を維持し、さらに冷却時間の途中でゼロに低下する。各熱処理炉R1~R8は、このように炉内温度及び消費電力が変化する熱処理を部品ストレージSから順次受け入れた所定数の部品Xに対して繰り返す。各下流側ラインLは、各熱処理炉R1~R8から受け入れた熱処理済みの部品Xに所定の後処理(選別処理等)を施す生産ラインである。
【0023】
このような熱処理工場Aにおける各熱処理炉R1~R8は、他の上流側ラインU、部品ストレージS及び下流側ラインLよりも消費電力が極めて高い処理設備である。すなわち、複数の熱処理炉R1~R8は、熱処理工場における電力消費量を支配する処理設備である。
【0024】
熱処理工場最適化装置は、このような熱処理工場Aの消費電力のピーク(最大値)を最小化する熱処理炉R1~R8の運転スケジュールつまり最適な熱処理計画を求めると共に、充放電回数を最小化し得る蓄電設備Jの運転スケジュール(充放電スケジュール)つまり最適な充放電計画を求める装置である。このような熱処理工場最適化装置は、本発明に係る運転計画最適化装置に相当するものであり、所定の熱処理支援プログラム(ソフトウエア)に基づいて情報処理を行うことにより熱処理計画及び充放電計画を求める。
【0025】
より具体的には、この熱処理工場最適化装置は、図4に示すように、記憶部1、操作部2、通信部3、演算部4及び表示部5を機能構成要素として備える一種のコンピュータである。なお、このような支援装置の機能構成要素のうち、記憶部1及び演算部4は、本発明における最適化部を構成している。
【0026】
記憶部1は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の内部記憶装置並びにハードディスクあるいは/及びメモリーカード等の外部記憶装置からなり、熱処理炉データベース1a及びプログラム記憶部1bを少なくとも備えている。
【0027】
熱処理炉データベース1aは、各熱処理炉R1~R8の運転履歴が複数登録されたデータテーブルである。この運転履歴には、各熱処理炉R1~R8で行った過去の熱処理における消費電力データが少なくとも含まれている。この消費電力データは、図3に示したように、熱処理に要する消費電力の時間変化を示すものである。
【0028】
プログラム記憶部1bは、上記支援プログラムつまり演算部4が実行するプログラムが記憶された記憶領域である。このプログラム記憶部1bには、上記支援プログラムとして消費電力予測プログラム、数理計画プログラムが少なくとも記憶されている。
【0029】
上記消費電力予測プログラムは、熱処理炉データベース1aに基づいて熱処理炉R1~R8で次に実行する熱処理(ジョブ)の消費電力の変化を示す予測消費電力データを生成するための支援プログラムである。数理計画プログラムは、所定のアルゴリズムを用いて電力最適化問題を解くことにより、熱処理工場Aの消費電力ピークを最小化する熱処理炉R1~R8の熱処理計画及び充放電回数を最小化し得る蓄電設備Jの充放電計画を求める支援プログラムである。
【0030】
操作部2は、熱処理工場最適化装置を運用する作業者の操作指示を受け付ける入力装置であり、より具体的にはキーボードやマウス等のポインティングデバイスである。この操作部2は、作業者の操作指示に対応した操作信号を演算部4に出力する。通信部3は、所定の通信回線を介して外部機器とデータの送受信を行う通信装置であり、例えばLAN(Local Area Network)やインターネットに準拠した通信プロトコルを用いて外部機器との通信を行う。
【0031】
演算部4は、上述した専用プログラム、熱処理炉データベース1a及び操作信号等に基づいて上記個別予測消費電力データ及び熱処理計画を求める演算装置であり、インターフェース回路及びCPU(Central Processing Unit)等のハードウエアからなる。上記インターフェース回路は、記憶部1、操作部2、通信部3及び表示部5と各種信号の授受を行う電子回路であり、CPUは、上述した支援プログラムを実行する中央処理装置である。
【0032】
また、演算部4は、機能的な構成要素として予測部4a及び最適化部4bを少なくとも備えている。予測部4aは、熱処理炉データベース1a及び消費電力予測プログラムに基づいて、各熱処理炉R1~R8における個々の熱処理(ジョブ)の予測消費電力を個別予測消費電力データを生成する。最適化部4bは、上記個別予測消費電力データ及びプログラム記憶部1bに記憶された数理計画プログラムに基づいて熱処理計画及び充放電計画を求める。
【0033】
演算部4は、自らが求めた熱処理計画及び充放電計画を表示部5に出力する、表示部5は、演算部4から入力された熱処理計画及び充放電計画を表示する。この表示部5は、例えば液晶ディスプレイである。
【0034】
次に、第1実施形態に係る熱処理工場最適化装置の動作について、図5図8をも参照して詳しく説明する。
【0035】
最初に、この熱処理工場最適化装置を用いて所定の計画期間(例えば一週間分)における各熱処理炉R1~R8の熱処理計画及び蓄電設備Jの充放電計画を求める場合、上記計画期間に各熱処理炉R1~R8が行う複数の部品Xに関する熱処理の内容をジョブ(熱処理の実行単位)として熱処理工場最適化装置に入力する必要がある。すなわち、熱処理工場最適化装置には、計画期間に熱処理工場Aで熱処理される予定の複数の部品Xに関するジョブが必要情報として入力される。
【0036】
また、この熱処理工場最適化装置を用いて熱処理計画及び充放電計画を求めるためには、上述した複数のジョブに加えて、当該各ジョブの実行に関する必要条件を電力最適化問題を解くための制約条件として熱処理工場最適化装置に入力する必要がある。この制約条件は、例えば各ジョブの最早実行可能時刻、熱処理後の部品Xの客先への納期、各ジョブの実行優先順位、作業者の勤務予定、熱処理炉R1~R8及び蓄電設備Jのメンテナンス・スケジュール、単位時間当たりに稼働開始可能な熱処理炉R1~R8の炉数等である。
【0037】
作業者は、操作部2を操作することにより、上述した複数のジョブ及び制約条件を操作部2から入力する(ステップS1)。演算部4は、操作部2から上記各ジョブ及び制約条件に関する操作信号が入力されると、各熱処理(ジョブ)及び制約条件を記憶部1に記憶させ、この上で消費電力予測プログラムを実行することにより各熱処理(ジョブ)に関する個別予測消費電力データを生成し、また当該個別予測消費電力データ及び上記制約条件を含む電力最適化問題を解くことにより熱処理計画及び充放電計画を探索する(ステップS2)。
【0038】
すなわち、予測部4aは、各熱処理(ジョブ)に類似する消費電力データを熱処理炉データベース1aから検索することにより、熱処理(ジョブ)毎に個別予測消費電力データを生成する。また、最適化部4bは、個別予測消費電力データ及び数理計画プログラムに基づいて、各熱処理炉R1~R8に関する熱処理計画つまり各熱処理炉R1~R8の合計消費電力ピークを最小化し得る各熱処理炉R1~R8の運転スケジュールと、蓄電設備Jの充放電スケジュールつまり充放電回数を最小化し得る充放電計画とを求める。そして、演算部4は、このように取得した熱処理計画及び充放電計画を表示部5に出力して表示させる(ステップS3)。
【0039】
ここで、第1実施形態の電力最適化問題について詳しく説明する。運転スケジュールと充放電スケジュールとは、上述した複数のジョブ及び制約条件が入力されたのち、電力最適化問題を解くことで更新される。しかし、通常、1ジョブの所要時間が数時間以上である熱処理計画の更新周期に比べて、充放電計画の更新周期は短くすることができる。このような事情から、運転計画最適化問題と充放電計画最適化問題とを別々に定式化することとする。
【0040】
上述のとおり別々に定式化をした場合であっても、熱処理計画及び充放電計画の探索(ステップS2)において、一方のスケジュールを固定し、固定した消費電力値あるいは充放電電力値を考慮したうえで、他方のスケジュールを求めることを繰り返すことで、上記運転スケジュールと上記放電スケジュールとを反復的に求めることができる。すなわち、最適化部4bは、はじめに、例えば蓄電設備Jを停止モードとして記憶部1に記憶させ、固定した充放電電力値(この場合0)を考慮したうえで、運転計画最適化問題を解くことで熱処理計画を求め、次に、求めた熱処理計画を記憶部1に記憶させ、固定した消費電力値を考慮したうえで、充放電計画最適化問題を解くことで充放電計画を求める、という手順で動作する(図6参照)。
【0041】
運転計画最適化問題の定式化及び解法については、特願2017-141248に詳細が記載されている。この特願2017-141248は、本出願人の先願であり、複数の熱処理炉に関する合計消費電力ピークを最小化し得る電力最適化問題の具体的な定式化及び解法が記載されている。したがって、本明細書では上記のうち、運転計画最適化問題の定式化及び解法について詳しい説明を省略する。なお、熱処理計画と充放電計画を区別せずに、同じ電力最適化問題として定式化してもよい。
【0042】
最初に、この充放電計画最適化問題では、表1~表5に示す記号を用いる。表1の記号は充放電計画最適化問題の規模に関する記号であり、表2の記号は系統連系点に関する記号であり、表3の記号は蓄電設備Jに関する記号であり、表4の記号は熱処理炉R1~R8に関する記号であり、また表5の記号は充放電計画最適化問題に関する記号である。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
【表5】
【0048】
このような記号を用いることにより、系統連系点モデルは下式(1)によって表され、系統連系点電力ピーク値は下式(2)によって表され、また蓄電設備Jのモデル(蓄電設備モデル)は下式(3)~(5)によって表される。
【0049】
【数1】
【0050】
【数2】
【0051】
【数3】
【0052】
【数4】
【0053】
【数5】
【0054】
そして、上記記号を用いることにより充放電計画最適化問題は、以下の式(6)に示す目的関数と式(7)~(12)に示す制約関数によって表される。
【0055】
【数6】
【0056】
ここで、この充放電計画最適化問題は、蓄電設備Jが複数設けられる場合に、各々の蓄電設備Jの充放電回数が均等化されるように充放電スケジュールを求める。すなわち、第1実施形態の充放電計画最適化問題は、以下の条件式(13)をも含んで定式化される。なお、この式(13)における記号「N」は蓄電設備Jの台数であり、「n」は蓄電設備Jの設備番号である。
【0057】
【数7】
【0058】
また、上記目的関数fは、下式(14)に示すピーク消費電力に関する目標関数(第1目標関数)と下式(15)に示す充放電電力変化率に関する目的関数(第2目標関数)との荷重和であり、下式(16)のように表される。
【0059】
【数8】
【0060】
【数9】
【0061】
【数10】
【0062】
ここで、式(16)に示す目標関数fの計算において、上記式(2)が非線形関数であるmax関数を含んでいるので、微分不可能な点が存在する。このような事情から電力最適化問題では、補助変数ypeakを用いた式(11)の制約条件を導入すると共に、式(16)に示す目的関数fを下式(17)のように定義し直す。
【0063】
【数11】
【0064】
演算部4の最適化部4bは、このような充放電計画最適化問題を周知の内点法、逐次二次計画法あるいは有効制約法等のアルゴリズムに従って解くことにより、蓄電設備Jの充放電スケジュールである充放電計画とを求める。
【0065】
図7は、熱処理計画に基づく熱処理炉R1~R8(電力負荷設備)の合計消費電力の予測値(一例)を示している。この合計消費電力のピーク消費電力は、466kWであり、最適化前のピーク消費電力(735kW)に対して大幅に低減されている。また、図8は、充放電計画に基づく蓄電設備Jの充放電電力(kW)及び充電残量(%)の予測値(一例)を示している。この充放電電力及び充電残量は、蓄電設備Jの動作推奨範囲を示す上限値及び下限値を満足する値になっている。
【0066】
また、図9は、例えば蓄電設備Jが5台(設備番号No.1~No.5)の電力最適化問題を解いた場合の充放電計画を示すガントチャートである。この図9は、設備番号No.1~No.5の蓄電設備Jが均等に充放電を繰り返していることを示している。
【0067】
このような第1実施形態によれば、蓄電設備Jと消費電力が時系列的に変動する複数の熱処理炉R1~R8(電力負荷設備)とを備える熱処理工場Aの消費電力のピークシフトを実現し得る熱処理計画を取得することが可能であると共に、蓄電設備Jの充放電回数を最小化し得る充放電計画を取得することが可能である。
【0068】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について、図10図14を参照して説明する。第2実施形態に係る熱処理工場最適化装置は、図10に示すように、第1実施形態における蓄電設備Jを第1蓄電設備J1と第2蓄電設備J2に置き換えた熱処理工場Bを最適化対象とするものである。これら第1蓄電設備J1及び第2蓄電設備J2のうち、第1蓄電設備J1は充放電計画を求めるに際してサイクル寿命を考慮すべき設備であり、第2蓄電設備J2は、サイクル寿命を考慮する必要がない設備である。
【0069】
第2実施形態に係る熱処理工場最適化装置は、第1実施形態に係る熱処理工場最適化装置と機能構成は同一であり、熱処理工場Bの熱処理計画及び充放電計画を求める場合に図11に示すフローチャートに沿って動作する。なお、この第2実施形態に係る熱処理工場最適化装置の動作において、第1実施形態に係る熱処理工場最適化装置の動作との最も大きな違いは、ステップS2aである。
【0070】
すなわち、第2実施形態に係る熱処理工場最適化装置で熱処理計画及び充放電計画を求める場合、作業者は、複数のジョブ及び制約条件を設定し(ステップS1a)、さらに充放電計画の対象となる蓄電設備つまり複数の蓄電設備の中から第1蓄電設備J1及び第2蓄電設備J2を指定する(ステップS2a)。演算部4は、各ジョブ及び制約条件並びに第1蓄電設備J1の設定情報に基づいて熱処理計画及び充放電計画を探索し(ステップS3a)、この探索結果である熱処理計画及び充放電計画を表示部5に出力する(ステップS4a)。
【0071】
ここで、ステップS2aでは、第1蓄電設備J1の設定において以下の3つの条件が考慮される。
(1)充放電回数の積算値<充放電回数しきい値
(2)初期容量に対する容量低下率<容量低下率しきい値
(3)初期出力に対する出力低下率<出力低下率しきい値
上記充放電回数しきい値、容量低下率しきい値及び出力低下率しきい値は、作業者によって適宜設定されるが、例えば80%である。
【0072】
例えば、各蓄電設備の動作データつまり第1蓄電設備J1及び第2蓄電設備J2の充放電回数、容量及び出力を熱処理工場最適化装置に取り込んで順次記憶させることにより、また充放電回数しきい値、容量低下率しきい値及び出力低下率しきい値を予め熱処理工場最適化装置に記憶させることにより、ステップS2aの自動化が実現可能である。
【0073】
演算部4は、第1蓄電設備J1及び第2蓄電設備J2の充放電回数、容量及び出力を充放電回数しきい値、容量低下率しきい値及び出力低下率しきい値をそれぞれ比較することにより上記条件を満足する蓄電設備を判断する。そして、演算部4は、上記条件を満足する蓄電設備を表示部5に表示させる。
【0074】
このような第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、運転計画最適化問題と充放電計画最適化問題とを別々に定式化したとしても、一方のスケジュールを固定して、他方のスケジュールを求めることを繰り返すことで、上記運転スケジュールと上記放電スケジュールとを反復的に求めることができる。そして、充放電計画最適化問題は以下のように定式化される。なお、第2実施形態の充放電計画最適化問題で用いる記号は、第1実施形態で用いた表1~5の記号に加えて下表6に示す記号である。
【0075】
【表6】
【0076】
そして、上記記号を用いることにより第2実施形態の系統連系点モデルは下式(18)のように記述され、また蓄電設備モデルは上述した式(3)~(5)に加え、式(19)、(20)よって表される。
【0077】
【数12】
【0078】
【数13】
【0079】
【数14】
【0080】
また、第2実施形態の充放電計画最適化問題は、式(21)で示す目的関数及び式(22)~(25)及び第1実施形態の式(11)、(12)からなる制約関数によって以下のように表される。なお、上記式(21)における関数fは、第1実施形態の式(16)と同一である。
【0081】
【数15】
【0082】
ステップS2aにおいて、例えば設備番号No.1~No.5の5台の蓄電設備のうち、設備番号No.1~No.3の蓄電設備が第1蓄電設備J1として設定され、また設備番号No.4、No.5の蓄電設備が第2蓄電設備J2として設定された場合について電力最適化問題を解くと、図12に示す第1蓄電設備J1及び第2蓄電設備J2の充放電計画、また図13図14に示す第1蓄電設備J1及び第2蓄電設備J2の充放電電力及び充電残量が得られる。
【0083】
図12は、第2蓄電設備J2の方が第1蓄電設備J1よりも頻繁に放電を行うことを示している。また図13図14とを対比すると、第2蓄電設備J2の充放電電力及び充電残量の変動は、第2蓄電設備J2の変動よりも小刻み、つまりより短時間で変動している。すなわち、サイクル寿命を考慮すべき第1蓄電設備J1は充放電回数が相対的に少なく、これに対して設備であり、サイクル寿命を考慮する必要がない第2蓄電設備J2は、充放電回数が相対的に多い。
【0084】
このような第2実施形態によれば、第1蓄電設備J1及び第2蓄電設備J2並びに熱処理炉R1~R8(電力負荷設備)とを備える熱処理工場Bの消費電力のピークシフトを実現し得る熱処理計画を取得することができると共に、第1蓄電設備J1の充放電回数を最小化し得る充放電計画を取得することが可能である。
【0085】
また、本第2実施形態によれば、第1蓄電設備J1及び第2蓄電設備J2の劣化度が異なるので、つまり蓄電設備の劣化度が2つにグループ化されるので、蓄電設備のメンテナンス計画がたて易いというメリットがある。
【0086】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、複数の熱処理炉R1~R8を電力負荷設備とした場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明は、複数の熱処理炉R1~R8以外の様々な電力負荷設備に適用可能であり、また熱処理工場A,B以外の様々な施設に適用することが可能である。
【0087】
例えば、電力負荷設備として部品に機械加工を施すマシニングセンタが考えられる。このマシニングセンタは稼働中における電力消費量が大きく変動する電力負荷設備である。このようなマシニングセンタ(設備)を複数備える製造工場(施設)では、熱処理工場と同様に最大消費電力の抑制による効果が大きい。
【0088】
(2)上記実施形態では、給電設備を系統電源D及び蓄電設備Jあるいは系統電源D及び第1、第2蓄電設備J1、J2によって構成したが、本発明はこれに限定されない。例えば熱処理工場A、B内に発電機あるいは/及び分散電源を備え、給電設備を系統電源D、蓄電設備J及び発電機あるいは/及び分散電源によって、あるいは系統電源D及び第1、第2蓄電設備J1、J2及び発電機あるいは/及び分散電源によって構成してもよい。
【0089】
(3)上記実施形態では、系統電源Dと系統連系したが、本発明はこれに限定されない。系統連系することなく、熱処理工場A、B内に設けた発電機あるいは/及び分散電源の電力によって電力負荷設備を稼働させてもよい。
【0090】
(4)上記実施形態では、電力最適化問題を式(6)~(12)あるいは式(11)、(12)、(20)~(24)によって定式化したが、電力最適化問題の定式化はこれら式に限定されない。特に制約条件については、必要に応じて種々の変更を施してもよい。
【0091】
(5)上記実施形態では、熱処理炉データベース1aに基づいて予測消費電力データを生成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、熱処理炉Rの物理モデルを記憶部1に記憶させ、当該物理モデルを用いて予測消費電力データを生成してもよい。また、物理モデルと熱処理炉データベース1aとを併用して予測消費電力データを生成してもよい。
【符号の説明】
【0092】
A、B 熱処理工場(施設)
D 系統電源
J 蓄電設備
J1 第1蓄電設備
J2 第2蓄電設備
R1~R8 熱処理炉(電力負荷設備)
U 上流側ライン
S 部品ストレージ
L 下流側ライン
X 部品(対象物)
1 記憶部
1a 熱処理炉データベース
1b プログラム記憶部
2 操作部
3 通信部
4 演算部
4a 予測部
4b 最適化部
5 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14