(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】直動装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20221115BHJP
B24C 1/10 20060101ALI20221115BHJP
B24C 5/04 20060101ALI20221115BHJP
B24C 1/06 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
F16H25/22 Z
B24C1/10 A
B24C5/04 Z
B24C1/06
(21)【出願番号】P 2018201234
(22)【出願日】2018-10-25
【審査請求日】2021-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 貴史
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-114076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
B24C 1/10
B24C 5/04
B24C 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延び、外周面に軌道面を有する案内軸と、
内部に前記案内軸の軌道面に対面する軌道面を有し、前記案内軸に沿って往復運動する移動体と、
前記案内軸の軌道面と、前記移動体の軌道面とで形成される空間を転動するボールとを備える直動装置において、
前記案内軸の軌道面及び前記移動体の軌道面の少なくとも一方に、開口直径が10~30μmで、深さ1~3μmの凹凸を、1mm
2当たり200~500個有
し、
前記軌道面のStrが0.5以上である、
ことを特徴とする直動装置。
【請求項2】
軸方向に延び、外周面に軌道面を有する案内軸と、
内部に前記案内軸の軌道面に対面する軌道面を有し、前記案内軸に沿って往復運動する移動体と、
前記案内軸の軌道面と、前記移動体の軌道面とで形成される空間を転動するボールとを備える直動装置の製造方法において、
前記案内軸の軌道面及び前記移動体の軌道面の少なくとも一方を、焼入れ工程後に研削加工または切削加工を施した後、前記軌道面の表面をブラスト処理して、開口直径が10~30μmで、深さ1~3μmの凹凸を、1mm
2当たり200~500個形成
し、
前記軌道面のStrを0.5以上にする、
ことを特徴とする直動装置の製造方法。
【請求項3】
前記ブラスト処理がショットピーニング処理であり、前記軌道面の断面形状の接線に対して直交する角度にてショット材を該軌道面に衝突させることを特徴とする請求項
2記載の直動装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置やリニアガイド装置等の直動装置、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械や搬送装置には、ボールねじ装置やリニアガイド装置等の直動装置が使用されているが、より円滑な動作や静寂性、高速性、耐久性向上等の要求が強く、そのための対策が求められている。
【0003】
このような要求に対して、ボールねじ装置のねじ軸とナットの各軌道面、リニアガイド装置の案内レールとスライダの各軌道面に、硬化処理を施したり、平滑化処理を施して耐摩耗性を向上させることが行われている。例えば特許文献1では、ショットピーニング処理することが記載されている。ショットピーニング処理は、硬質材料からなる数十μm程度の微細なビーズを加工面に高速で吹き付け、ビーズの衝突により加工面の硬さを高める処理である。また、ショットピーニング処理により、表面が平滑になるという効果も得られる。特許文献1では、粒径が40~60μmのSiCビーズや鋼球を用いて軌道面のショットピーニング処理を行い、硬化層を形成するとともに、表面粗さRaを1.0μm以下にしている。
【0004】
また、軌道面の表面の硬さを高める技術として、特許文献2には、蒸着や鍍金、溶射によりTiNやTiC,TiAlN、DLC等の硬化層を形成したり、ショットピーニング処理を施した後に前記の硬化層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-90570号公報
【文献】特開2005-114076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
直動装置の製造工程において、軌道面を形成する際に切削加工や研削加工が行われる。しかし、この切削加工や研削加工した後の軌道面には、ある方向に沿った筋状の加工痕が形成される。この筋状の加工痕は、潤滑剤の保持能力が十分ではなく、焼付きを起こしたり、ボールの表面に損傷を与えたり、自身が剥離等の損傷を受けるなどして、耐久性を低下させる原因になっている。上記したように、特許文献1や特許文献2では、同じく耐久性の向上を目的にしているが、軌道面の表面の硬さを高めたり、平滑化することを示しているものの、加工痕に由来する耐久性の低下を解決することには着目していない。
【0007】
そこで本発明では、軌道面における、研削加工や切削加工による加工痕に由来して耐久性が低下する問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、切削加工や研削加工による筋状の加工痕は潤滑剤の保持性能が低く、表面の平滑性を高めただけでは潤滑剤の保持能力を高めることができないことを知見した。そして、筋状の加工痕を無くするとともに、軌道面に微小な凹凸を形成して、油溜りとしての機能を付与することが有効であることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は下記の直動装置及びその製造方法に関する。
(1)軸方向に延び、外周面に軌道面を有する案内軸と、
内部に前記案内軸の軌道面に対面する軌道面を有し、前記案内軸に沿って往復運動する移動体と、
前記案内軸の軌道面と、前記移動体の軌道面とで形成される空間を転動するボールとを備える直動装置において、
前記案内軸の軌道面及び前記移動体の軌道面の少なくとも一方に、開口直径が10~30μmで、深さ1~3μmの凹凸を、1mm2当たり200~500個有することを特徴とする直動装置。
(2)前記軌道面のStrが0.2以上であることを特徴とする上記(1)記載の直動装置。
(3)軸方向に延び、外周面に軌道面を有する案内軸と、
内部に前記案内軸の軌道面に対面する軌道面を有し、前記案内軸に沿って往復運動する移動体と、
前記案内軸の軌道面と、前記移動体の軌道面とで形成される空間を転動するボールとを備える直動装置の製造方法において、
前記案内軸の軌道面及び前記移動体の軌道面の少なくとも一方を、焼入れ工程後に研削加工または切削加工を施した後、前記軌道面の表面をブラスト処理して、開口直径が10~30μmで、深さ1~3μmの凹凸を、1mm2当たり200~500個形成することを特徴とする直動装置の製造方法。
(4)前記ブラスト処理がショットピーニング処理であり、前記軌道面の断面形状の接線に対して直交する角度にてショット材を該軌道面に衝突させることを特徴とする上記(3)記載の直動装置の製造方法。
(5)前記軌道面の表面を、Strを0.2以上にすることを特徴とする上記(3)または(4)記載の直動装置の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、案内軸や移動体の軌道面を形成する際に切削加工や研削加工により形成された筋状の加工痕に対して、ショットピーニング処理等のブラスト処理を施す。これにより、筋状の加工痕が無くなり、特定の凹凸を特定密度で形成される。そして、この凹凸に潤滑剤が溜ることより潤滑剤の保持能力が高まり、直動装置の耐久性が大きく向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ショットピーニング前のねじ軸の軌道面(比較例1)を撮影した写真である。
【
図2】
図1と同じ軌道面の三次元表面粗さの方向性を示す極座標グラフである。
【
図3】ショットピーニング後のねじ軸の軌道面(実施例1)を撮影した写真である。
【
図4】
図3と同じ軌道面の三次元表面粗さの方向性を示す極座標グラフである。
【
図5】軌道面に対するショット材の噴射様式を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0013】
(直動装置)
本発明において直動装置には制限はなく、ボールねじ装置やリニアガイド装置全般に適用することができる。そのため、本明細書ではこれら装置の具体的な図示は省略する。そして、本発明では、ボールねじ装置のねじ軸やナットの各軌道面、リニアガイド装置の案内レールやスライダの各軌道面の表面の表面性状を下記のように規定する。
【0014】
尚、軌道面の断面形状には制限はないが、例えばボールねじでは、ゴシックアーチ状の断面形状にすることにより、すきま調整がしやすく、ボールと点接触になるためナットを軽く回すことができることから、広く普及している。本発明でも、軌道面の断面形状はゴシックアーチが好ましい。
【0015】
上記の軌道面の表面には、切削加工や研削加工による加工痕として微細な筋状の凹凸が多数形成されている。
図1は、その一例であり、後述する比較例1のナッドの軌道面を撮影した写真である。そして、同表面を三次元表面粗さ測定機にて観察すると、
図2に示す極座標グラフが得られるが、図示されるように、ある方向(
図2では90°付近)に一つの強いピーク(角スペクトル)が現れる。尚、極座標グラフ及び角スペクトルは、ISO 25178に規定されている。このような筋状の加工痕では、谷部が一方向に揃っており、潤滑剤の保持能力が低い。
【0016】
そこで本発明では、切削加工や研削加工の後、軌道面にブラスト処理を施して、筋状の加工痕を無くするとともに、微細な凹凸を多数形成する。ブラスト処理後の加工面の一例を
図3に示すが、同図は後述する実施例1のナットの軌道面を示す写真である。図示されるように、筋状の加工痕が消えて、微細な凹凸が形成されているのが分かる。これは、筋状の加工痕の頂部がショット材の衝突により潰された結果であり、同様にして極座標グラフを求めると、
図4に示すように、ほぼ全ての方向に角スペクトルが分散している。また、角スペクトルのビーク高さも、特定の角度のみ特に高くなることもなく、ほぼ全方向に一様に凹凸が分布していると言える。
【0017】
本発明では、凹凸の分布が、1mm2当たり、開口直径が10~30μmで、深さが1~3μmである微細な凹凸が200~500個の密度で存在していれば、凹凸による潤滑剤の保持能力が十分に高く、耐久性に優れる直動装置が得られる。特に、開口直径が15~25μmで、深さが1.5~2.5μmの凹凸が300~400個/mm2存在していることが好ましい。
【0018】
尚、以降の説明では、
図1、2に示すようなある方向に沿った凹凸(加工痕)を有する表面を「異方性表面」と呼び、
図3、4に示すような様々な方向を向いて凹凸が分布している表面を「等方性表面」と呼ぶ。
【0019】
異方性表面と等方性表面を表す指標として、ISO 25178で規定される表面性状スペクトル比(Str)が知られている。このStrは0~1の範囲であり、1に近いほど「等方性」が高いことを示している。
【0020】
本発明では、Strが0.2以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.7以上であることが特に好ましい。Strが0.2未満では凹凸の等方性が不十分であり、凹凸による潤滑剤の保持能力が十分ではなく、耐久性の向上効果が十分に得られないおそれがある。
【0021】
また、ブラスト処理によりショット材が衝突する結果、軌道面の表面の圧縮残留応力が高まる。上記のようにStrが高くなるように凹凸が形成されるには、表面圧縮残留応力として500MPa以上になることが好ましい。より好ましくは、表面圧縮残留応力は、800MPa以上である。
【0022】
上記のStrが高いことに加えて、軌道面の表面は平滑であることが好ましい。表面が平滑であるほど、ボールの損傷が少なくなる。具体的には、軌道面の表面の平均粗さRaが0.4μm以下であることが好ましく、Raが0.3μm以下であることがより好ましい。
【0023】
また、耐久性の面では、軌道面が硬いほど好ましく、表面から2μmの深さまでの領域(最表面部)における硬さがHV700~900であることが好ましく、HV750~800であることがより好ましい。
【0024】
本発明の直動装置は、軌道面が上記のような凹凸分布、更には表面圧縮残留応力、表面平均粗さ、表面硬さを満足する限り、他の構成部品には制限はないが、軌道面と接触するボールにも同様の凹凸が形成されていることが好ましい。ボールの表面の加工痕が無くなり、凹凸が形成されることにより、ボール側でも潤滑剤の保持能力が高まり、直動装置の耐久性がより向上する。
【0025】
尚、特許文献1、2のように、従来も軌道面にブラスト処理を施すことが行われている。しかし、特許文献1では、ショットピーニング処理は熱処理の前後に行われており、熱処理によるスケールの除去や、表面粗さの改善を目的としたものであり、本発明のように凹凸を形成するものではない。実施例に、ショットピーニング処理の条件として、粒径40~60μmの鋼球を、ショット圧0.5MPa、処理時間60秒で行うことが記載されているが、後述する本発明の処理条件とは異なり、軌道面に凹凸を形成するほどの処理条件ではない。
【0026】
特許文献2でもショットピーニング処理を行っているが、凹凸の密度やStrに関する記載はない。
【0027】
(製造方法)
本発明はまた、上記の直動装置の製造方法に関する。ブラスト処理までの工程は常法に従うことができ、例えば高炭素鋼等からなる素材を用いてねじ軸やナット、案内レールやスライダの形状に加工し、熱処理を行った後、切削加工や研削加工により軌道面を形成し、更にブラスト処理を施す。このブラスト処理により軌道面にショット材を高速で衝突させ、切削加工や研削加工による筋状の加工痕跡の頂部を潰し、微細な凹凸を形成する。
【0028】
従って、ブラスト処理の処理条件は、上記で規定した凹凸を形成したり、粗さや硬さ、圧縮残留応力等の表面性状にすることができる限り制限は無いが、一例を示すと下記の通りである。
【0029】
ブラスト処理には、ショットブラストやサンドブラスト、ショットピーニング等が代表的であり、ショットピーニング処理が効率的であるため好ましい。ショット材として、鋼材やSiC等のセラミックからなる粒子(ショット材)を用いることができる。また、ショット材は小さいほど好ましく、粒径30~60μmのショット材が好ましく、40~50μmのショット材がより好ましい。ショット材が小さいほど、形成される凹凸も微細になる。尚、ショット材の形状は、球形以外にも、種々の形状とすることができる。ショット材の噴射速度は高いほど有利であり、ショット圧は0.3~0.5MPa以上が好ましく、0.35~0.45MPaがより好ましい。
【0030】
また、ショット材の軌道面への噴射角度であるが、軌道面の断面の接線に対して垂直にショット材を衝突させることが好ましい。即ち、
図5は、ゴシックアーチ状の軌道面1の断面図であるが、噴射ノズル10の噴射口の中心を通る線Aと、軌道面1の接線Lとが直交するように、噴射ノズル10を同断面上で斜め上方、または斜め下方に揺動させながら、ショット材を噴射することが好ましい。これにより、ショット材が、軌道面と直交するように衝突して、凹凸を効率よく形成することができる。
また、軌道面は螺旋溝であるため、軌道面に均一にブラスト処理を行う為に、ショット対象(ねじ軸又はナット)を回転させると共に、噴射ノズルをショット対象の回転に同期させて軸方向に移動させながらブラスト処理を行うことが好ましい。
さらに、
図5では、ゴシックアーチ状の軌道面1の片側の円弧にブラスト処理を行っているが、複数の噴射ノズルを用いて、軌道面の両側の円弧に同時にブラスト処理を行っても良い。これにより、軌道面に効率よくブラスト処理を施すことができる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に説明する。
【0032】
[試験1]
(比較例1)
高炭素鋼をボールねじ装置のねじ軸形状に加工し、熱処理した後研削加工により断面がゴシックアーチ状の軌道面を螺旋状に形成した。そして、この軌道面を電子顕微鏡で観察したところ、
図1に示すように、筋状の加工痕が見られた。また、同観察面について三次元表面粗さ測定機を用いて極座標グラフを求めたところ、
図2に示すように、90°付近に一本の角スペクトルが観察された。Strを求めたところ、0.03であった。
【0033】
また、軌道面の表面平均粗さRaは0.2μm、最表面部の硬さはHV685、表面圧縮残留応力は174MPaであった。
【0034】
(実施例1)
比較例1で作製したねじ軸について、平均直径が50μmの鋼球を用いたショットピーニング処理を施した。ショット圧は0.3MPaであり、
図5に示すように軌道面の接線と直交するようにショット材を噴射した。そして、ショットピーニング処理後の軌道面を電子顕微鏡で観察したところ、
図3に示すように、筋状の加工痕が無くなり、代わりに微細な凹凸が多数形成されていた。凹凸は、開口直径が10~30μmで、深さが1.8~2.8μmであり、1mm
2当たり450個存在していた。また、同観察面について三次元表面粗さ測定機を用いて極座標グラフを求めたところ、
図4に示すように、ほぼ全ての方向に一様な角スペクトルが観察された。Strを求めたところ、0.83であった。
【0035】
また、軌道面の表面平均粗さRaは0.18μm、最表面部の硬さはHV705、表面圧縮残留応力は950MPaであった。
【0036】
[試験2]
比較例1のねじ軸に、ショットピーニング処理していないナットを用いて、ボールねじ装置を組み立てた。また、実施例1のねじ軸に、ショットピーニング処理したナットを用いて、ボールねじ装置を組み立てた。また、ボールは両ボールねじ装置とも共通とした。尚、以降に示す[試験例3]、「試験例4」及び[試験例5]も、同様の2つのボールねじ装置を用いた。
そして、両ボールねじ装置について、回転数を変えてトルク値を測定した。結果を
図6に示すが、ショットピーニング処理した実施例1のねじ軸を用いることにより、トルクが小さくなることがわかる。これは、ショットピーニング処理により形成された微細な凹凸に潤滑剤が溜り、潤滑性能が高まったことが原因であると推察される。
【0037】
[試験3]
試験2と同様の両ボールねじ装置について、回転速度1min
-1で低速運転し、100往復した時のトルク残存率を測定した。結果を
図7に示すが、ショットピーニング処理した実施例1のねじ軸を用いた場合、100往復後でもトルクが初期のまま残存している(残存率100%)。これに対し、ショットピーニング処理していない比較例1のねじ軸を用いた場合、100往復後のトルクが初期の34%にまで低下している。このように、ショットピーニング処理を付加することにより、トルク残存率の低下を少なく抑えることもできる。
【0038】
[試験4]
試験2と同様の両ボールねじ装置に、協同油脂製グリース「LRL3」に、異物として珪砂を1質量%混入して供給し、試験3と同様にしてトルク残存率を測定した。結果を
図8に示すが、ショットピーニング処理した実施例1のねじ軸を用いた場合は、ショットピーニング処理していない比較例1のねじ軸を用いた場合に比べて約2倍のトルク残存率を示している。このように、ショットピーニング処理を付加することにより、異物耐久性を向上させることもできる。
【0039】
[試験5]
試験2と同様の両ボールねじ装置を高負荷耐久性試験に供した。試験条件は下記の通りである。
・潤滑剤:リューベ株式会社製グリース「YS2」
・ねじ軸最大面圧2.6GPa、ナット最大面圧:2.2GPaとなる様に軸方向荷重を付加
結果を
図9に示すが、ショットピーニング処理した実施例1のねじ軸を用いた場合は、ショットピーニング処理していない比較例1のねじ軸を用いた場合に比べて寿命が大きく伸びている。このように、ショットピーニング処理を付加することにより、高負荷で使ボールねじ装置を使用した場合でも、耐久性が大きく向上させることもできる。
【0040】
以上は、ねじ軸及びナットにショットピーニング処理を付加した場合の効果を検証したが、ナットのみにショットピーニング処理を施した場合も、ほぼ同じ効果が得られると推察される。さらに、ナットとねじ軸の両方にショットピーニング処理を施した場合には、相乗効果により、より効果的になると推察される。
【符号の説明】
【0041】
1 軌道面
10 噴射ノズル
A 噴射ノズルの噴射孔の中心を通る線
L 軌道面の接線