(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 13/70 20060101AFI20221115BHJP
F16D 13/52 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
F16D13/70 A
F16D13/52 Z
(21)【出願番号】P 2018231951
(22)【出願日】2018-12-11
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 則行
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0268580(US,A1)
【文献】特開2013-64488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/00
F16D 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に形成された円筒部、及び前記円筒部の一端部から径方向内方に延在する底部を有するクラッチハウジングと、
前記円筒部に収容された複数のクラッチプレートからなる多板クラッチと、
前記クラッチハウジングの開口端部に取り付けられた受け部材と、
前記クラッチハウジングに対して軸方向に移動して前記多板クラッチを前記底部側から前記受け部材側に向かって押圧する押圧部材と、を備え、
前記押圧部材は、前記底部の径方向内側又は外側に配置される円環部と、前記円環部から径方向に突出するように設けられた複数の突片とを一体に有し、
前記クラッチハウジングの前記底部
の内周側の端部又は外周側の端部には、前記複数の突片をそれぞれ収容する複数の切り欠きが設けられており、
前記複数の突片が前記複数の切り欠き内を軸方向に移動することにより前記多板クラッチが押圧される、
クラッチ装置。
【請求項2】
前記円環部は、前記クラッチハウジングの前記底部の径方向外側に配置され、
前記複数の突片は、前記円環部から径方向内方に突出するように設けられており、
前記複数の切り欠きは、前記底部の外周側の端部と前記円筒部の前記底部側の端部とにわたって設けられている、
請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記円環部は、前記クラッチハウジングの前記底部の径方向内側に配置され、
前記複数の突片は、前記円環部から径方向外方に突出するように設けられており、
前記複数の切り欠きは、前記底部の内周側の端部に設けられている、
請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
前記押圧部材は、前記円環部と前記複数の突片とが同一の厚みで一体に形成された平板状である、
請求項1乃至3の何れか1項に記載のクラッチ装置。
【請求項5】
前記押圧部材は、複数の板部材を軸方向に重ねて構成されている、
請求項1乃至4の何れか1項に記載のクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチハウジングに収容された複数のクラッチプレートを有するクラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有底円筒状のクラッチハウジングに収容された複数のクラッチプレートを有するクラッチ装置が、例えば車両の駆動力を断続可能に伝達するために用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のクラッチ装置は、有底円筒状のクラッチハウジングの円筒部の内側に複数のクラッチプレートからなる多板クラッチが収容されている。クラッチハウジングの底部には、複数のピストン孔が設けられている。多板クラッチは、ピストン孔内を軸方向に移動する立設部を有するピストンによって押圧され、複数のクラッチプレート同士が摩擦接触する。
【0004】
ピストンは、円環状の本体部と、本体部から円周方向に沿って複数箇所に立設された円筒形状の立設部とを有している。本体部には、立設部取り付け穴と、この立設部取り付け穴に開口するリング溝が形成されている。立設部には、立設部取り付け穴に挿入される挿入部と、挿入部を挿入したときにリング溝と同じ位置となる切り欠きが形成されている。立設部取り付け穴に立設部を挿入し、リング溝にスナップリングを取り付けることで、立設部が本体部に組み付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように構成されたクラッチ装置は、ピストンの各部品の加工や組み付けに多くの工数が必要となる。このことは、クラッチ装置のコストを上昇させる要因となる。
【0007】
本発明者らは、多板クラッチを押圧する押圧部材の構成を見直すことで、この押圧部材を容易に形成することができ、クラッチ装置の低コスト化が可能になることを見出して本発明をなすに至った。すなわち、本発明は、低コスト化が可能なクラッチ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するため、円筒状に形成された円筒部、及び前記円筒部の一端部から径方向内方に延在する底部を有するクラッチハウジングと、前記円筒部に収容された複数のクラッチプレートからなる多板クラッチと、前記クラッチハウジングの開口端部に取り付けられた受け部材と、前記クラッチハウジングに対して軸方向に移動して前記多板クラッチを前記底部側から前記受け部材側に向かって押圧する押圧部材と、を備え、前記押圧部材は、前記底部の径方向内側又は外側に配置される円環部と、前記円環部から径方向に突出するように設けられた複数の突片とを一体に有し、前記クラッチハウジングの前記底部の内周側の端部又は外周側の端部には、前記複数の突片をそれぞれ収容する複数の切り欠きが設けられており、前記複数の突片が前記複数の切り欠き内を軸方向に移動することにより前記多板クラッチが押圧される、クラッチ装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るクラッチ装置によれば、低コスト化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るクラッチ装置を備えた車両用駆動装置の構成例を示す断面図である。
【
図2】車両用駆動装置の一部を拡大して示す断面図である。
【
図3】(a)は、第1のクラッチハウジングと第1の押圧部材とを軸方向に離間させた状態の斜視図、(b)は、第1のクラッチハウジングと第1の押圧部材とを組み合わせた状態の斜視図である。
【
図4】(a)は、第2のクラッチハウジングと第2の押圧部材とを軸方向に離間させた状態の斜視図、(b)は、第2のクラッチハウジングと第2の押圧部材とを組み合わせた状態の斜視図である。
【
図5】第1の実施の形態の変形例に係る第1の押圧部材を示す斜視図である。
【
図6】本発明の第2の実施の形態に係る車両用駆動装置の一部を拡大して示す断面図である。
【
図7】第2の実施の形態に係る第1の押圧部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至
図4を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係るクラッチ装置を備えた車両用駆動装置の構成例を示す断面図である。
図2は、車両用駆動装置の一部を拡大して示す断面図である。
図3(a)は、第1のクラッチハウジングと第1の押圧部材とを軸方向に離間させた状態の斜視図であり、(b)は、第1のクラッチハウジングと第1の押圧部材とを組み合わせた状態の斜視図である。
図4(a)は、第2のクラッチハウジングと第2の押圧部材とを軸方向に離間させた状態の斜視図であり、(b)は、第2のクラッチハウジングと第2の押圧部材とを組み合わせた状態の斜視図である。
【0013】
(車両用駆動装置の全体構成)
この車両用駆動装置1は、左右前輪及び左右後輪のうち一方を主駆動輪として他方を補助駆動輪とする4輪駆動車に搭載され、補助駆動輪(例えば左右後輪)を駆動するために用いられる。また、車両用駆動装置1は、左車輪に伝達する駆動力と右車輪に伝達する駆動力との比である左右駆動力配分比を可変である。主駆動輪は、例えば内燃機関であるエンジンや高出力電動モータ、あるいはこれらを組み合わせたハイブリッドシステムによって構成される主駆動源により駆動される。車両用駆動装置1によって補助駆動輪の左右駆動力配分比を調節し、例えば旋回外側の車輪への駆動力の配分割合を高めることにより、旋回時における走行安定性を向上させることができる。
【0014】
車両用駆動装置1は、第1乃至第5ケース部材11~15からなる装置ケース10と、補助駆動輪を駆動する補助駆動源としての電動モータ21を有する駆動部2と、電動モータ21の回転軸211の出力回転を減速する減速機構3と、減速機構3により減速された電動モータ21の駆動力を左車輪側及び右車輪側に配分して伝達するクラッチ装置4とを有して構成されている。
【0015】
第1ケース部材11は、減速機構3及びクラッチ装置4を収容し、第2ケース部材12は、駆動部2を収容している。第1ケース部材11と第2ケース部材12とは、ボルト101によって締結されている。第3ケース部材13及び第4ケース部材14は、第2ケース部材12の開口を閉塞している。第3ケース部材13は、ボルト102によって第2ケース部材12に締結され、第4ケース部材13は、ボルト103によって第2ケース部材12に締結されている。第5ケース部材15は、図略のボルトによって第1ケース部材11に締結され、クラッチ装置4の収容空間を画成している。第1ケース部材11内には、図略の潤滑油が封入されている。
【0016】
クラッチ装置4は、区画壁5と、区画壁5を挟んで配置された第1及び第2のクラッチ部6,7と、減速機構3から入力された駆動力が第1のクラッチ部6を介して伝達される第1の内側回転部材8と、減速機構3から入力された駆動力が第2のクラッチ部7を介して伝達される第2の内側回転部材9とを有している。
【0017】
第1の内側回転部材8は、第1のクラッチハブ81と、第1の出力シャフト82とを有している。第1のクラッチハブ81と第1の出力シャフト82とは、スプライン嵌合により一体に回転する。第1の出力シャフト82は、軸部821とフランジ部822とを有している。第1の出力シャフト82のフランジ部822には、左車輪に駆動力を伝達するドライブシャフトが連結される。
【0018】
第1のクラッチハブ81は、
図2に示すように、外側円筒部811及び内側円筒部812と、外側円筒部811と内側円筒部812との間に設けられた環状壁部813とを有している。外側円筒部811には、複数の油孔811bが形成されている。内側円筒部812は、第1の出力シャフト82の軸部821の端部に連結されている。なお、第1のクラッチハブ81と第1の出力シャフト82とを一体に形成してもよい。
【0019】
第2の内側回転部材9は、第2のクラッチハブ91と、第2の出力シャフト92とを有している。第2のクラッチハブ91と第2の出力シャフト92とは、スプライン嵌合により一体に回転する。第2の出力シャフト92は、軸部921とフランジ部922とを有している。第2の出力シャフト92のフランジ部922には、右車輪に駆動力を伝達するドライブシャフトが連結される。
【0020】
第2のクラッチハブ91は、
図2に示すように、外側円筒部911及び内側円筒部912と、外側円筒部911と内側円筒部912との間に設けられた環状壁部913とを有している。外側円筒部911には、複数の油孔911bが形成されている。内側円筒部912は、第2の出力シャフト92の軸部921の端部に連結されている。なお、第2のクラッチハブ91と第2の出力シャフト92とを一体に形成してもよい。
【0021】
第1の内側回転部材8と第2の内側回転部材9とは、車幅方向に沿った回転軸線Oを中心として相対回転である。以下、回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。第2のクラッチハブ91と第2の出力シャフト92との軸方向の相対移動は、スナップリング44により規制されている。第1のクラッチハブ81の環状壁部813と第2のクラッチハブ91の環状壁部913との間には、滑り軸受45が配置されている。
【0022】
駆動部2は、電動モータ21と、電動モータ21の回転軸211の回転を検出する回転センサ22とを有している。回転センサ22は、回転軸211に固定されたレゾルバロータ221と、第3ケース部材13にボルト104によって固定されたレゾルバセンサ222とによって構成されている。第4ケース部材14と第1の出力シャフト82の軸部821との間には、玉軸受231及びシール部材241が配置されている。
【0023】
電動モータ21は、三相ブラシレスモータであり、回転軸211と一体に回転する回転子212と、第2ケース部材12に固定された固定子213とを有している。回転子212は、ロータコア212aの外周面に複数の永久磁石212bが固定されている。固定子213は、ステータコア213aに巻き回された複数のコイル213bを有している。コイル213bには、回転センサ22により検出された回転軸211の回転位置に応じたモータ電流が図略のコントローラから供給される。
【0024】
電動モータ21の回転軸211は、中空の管状であり、玉軸受232,233によって装置ケース10に対して回転可能に支持されている。回転軸211の中心部には、第1の出力シャフト82の軸部821が挿通されている。
【0025】
減速機構3は、電動モータ21の回転軸211の端部に外嵌された筒状のピニオンギヤ31と、減速歯車32と、リングギヤ33とを有して構成されている。ピニオンギヤ31は、回転軸211にスプライン嵌合しており、回転軸211と一体に回転する。減速歯車32は、円盤状の円盤部321と、中空に形成された中空軸部322とを一体に有している。中空軸部322は、軸受341,342によって第1ケース部材11に支持されている。円盤部321の外周端部には大径ギヤ部321aが形成されており、この大径ギヤ部321aがピニオンギヤ31の外周に形成されたギヤ部31aに噛み合っている。ピニオンギヤ31の外周には、シール部材242が配置されており、このシール部材242によって第1ケース部材11に封入された潤滑油の駆動部2側への漏出が抑止されている。
【0026】
中空軸部322の軸方向の一部の外周には、小径ギヤ部322aが形成されている。小径ギヤ部322aは、リングギヤ33の外周に形成されたギヤ部33aに噛み合っている。リングギヤ33には、締結ボルト35が螺合する複数のねじ穴330が形成された環状の内方突起331が設けられている。
【0027】
第5ケース部材15と第1の出力シャフト82の軸部821との間には、第1の内側回転部材8を装置ケース10に対して回転可能に支持する第1の軸受41が配置されている。また、第1ケース部材11と第2の出力シャフト92の軸部921との間には、第2の内側回転部材9を装置ケース10に対して回転可能に支持するための第2の軸受42、及びシール部材43が配置されている。第1及び第2の軸受41,42は、内輪と外輪との間に複数の球状の転動体が配置された転がり軸受(玉軸受)である。
【0028】
第1のクラッチ部6は、第1のクラッチハウジング61と、複数のアウタクラッチプレート621及び複数のインナクラッチプレート622からなる第1の多板クラッチ62と、第1のクラッチハウジング61を第5ケース部材15に対して回転可能に支持する第1の転がり軸受63と、第1の多板クラッチ62を軸方向に押圧する第1の押圧部材64と、油圧を受けて第1の押圧部材64に軸方向の移動力を付与する環状のピストン65と、第1の押圧部材64とピストン65との間に配置されたスラストころ軸受66及びワッシャ67と、第1の押圧部材64と第1の多板クラッチ62との間に配置された環状の押圧プレート68と、第1の押圧部材64をピストン65側に付勢する付勢部材としてのリターンスプリング69とを有している。
【0029】
図2及び
図3に示すように、第1のクラッチハウジング61は、円筒状に形成された円筒部611と、円筒部611の一端部から径方向内方に延在する底部612と、円筒部611の他端部から径方向外方に突出するフランジ部613と、底部612の内径側の端部から軸方向に延在して形成された小径筒部614とを一体に有している。第1の多板クラッチ62は、円筒部611の内側に収容されている。円筒部611の内周面には、複数のスプライン突起611aが軸方向に延在して形成されている。
【0030】
アウタクラッチプレート621は、外周端部が第1のクラッチハウジング61の円筒部611の複数のスプライン突起611aに係合しており、第1のクラッチハウジング61に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。本実施の形態では、6枚のアウタクラッチプレート621と7枚のインナクラッチプレート622とが軸方向に沿って交互に配置されている。インナクラッチプレート622は、第1のクラッチハブ81の外側円筒部811の外周面に軸方向に延在して形成された複数のスプライン突起811aに係合しており、第1のクラッチハブ81に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。
【0031】
第1の転がり軸受63は、円錐ころ軸受であり、外輪631及び内輪632と、外輪631と内輪632との間に配置された複数の転動体としての円錐ころ633と、複数の円錐ころ633を保持する保持器634とを有している。
【0032】
ピストン65は、第5ケース部材15に形成されたシリンダ150に供給される作動油の圧力により、第1の押圧部材64に軸方向の移動力を付与する。シリンダ150には、図略のコントローラから図略の配管を介して作動油が供給される。
【0033】
第2のクラッチ部7は、第1のクラッチ部6と軸方向に並んで配置され、第1のクラッチ部6と左右対称に構成されている。第2のクラッチ部7は、第2のクラッチハウジング71と、複数のアウタクラッチプレート721及び複数のインナクラッチプレート722からなる第2の多板クラッチ72と、第2のクラッチハウジング71を第1ケース部材11に対して回転可能に支持する第2の転がり軸受73と、第2の多板クラッチ72を軸方向に押圧する第2の押圧部材74と、油圧を受けて第2の押圧部材74に軸方向の移動力を付与するピストン75と、第2の押圧部材74とピストン75との間に配置されたスラストころ軸受76及びワッシャ77と、第2の押圧部材74と第2の多板クラッチ72との間に配置された環状の押圧プレート78と、第2の押圧部材74をピストン75側に付勢する付勢部材としてのリターンスプリング79とを有している。
【0034】
ピストン75は、第1ケース部材11に形成されたシリンダ110に供給される作動油の圧力により、第2の押圧部材74に軸方向の移動力を付与する。シリンダ110には、図略のコントローラから図略の配管を介して作動油が供給される。
【0035】
第2のクラッチ部7の各部材や部分の詳細な構成については、第1のクラッチ部6と同様であるので、先述の第1のクラッチ部6の各部材や部分に対して付した符号に対応する符号を付して重複した説明を省略する。具体的には、
図1乃至
図4における第2のクラッチ部7に関して、第1のクラッチ部6の各部材や部分に対して付した符号の先頭の「6」を「7」に替えた符号を付している。
【0036】
区画壁5は、第1のクラッチハウジング61のフランジ部613に当接した第1のエンドプレート51と、第2のクラッチハウジング71のフランジ部713に当接した第2のエンドプレート52と、第1のエンドプレート51と第2のエンドプレート52との間に配置された間座53とを有している。締結ボルト35は、第1及び第2のクラッチハウジング61,71のフランジ部613,713、第1のエンドプレート51、第2のエンドプレート52、及び間座53を貫通してリングギヤ33のねじ穴330に螺合している。これにより、区画壁5が第1及び第2のクラッチハウジング61,71に対して軸方向移動不能に固定されており、第1及び第2のクラッチハウジング61,71が区画壁5と共に一体に回転する。
【0037】
第1のエンドプレート51は、第1のクラッチハウジング61の開口端部に取り付けられ、第1の押圧部材64の押圧力を第1の多板クラッチ62を介して受ける受け部材として機能する。第1の押圧部材64は、第1のクラッチハウジング61に対して軸方向に移動して第1の多板クラッチ62を底部612側から第1のエンドプレート51側に向かって押圧する。これにより、アウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622とが摩擦接触し、第1のクラッチハウジング61と第1のクラッチハブ81との間で駆動力(トルク)が伝達される。
【0038】
第2のエンドプレート52は、第2のクラッチハウジング71の開口端部に取り付けられ、第2の押圧部材74の押圧力を第2の多板クラッチ72を介して受ける受け部材として機能する。第2の押圧部材74は、第2のクラッチハウジング71に対して軸方向に移動して第2の多板クラッチ72を底部712側から第2のエンドプレート52側に向かって押圧する。これにより、アウタクラッチプレート721とインナクラッチプレート722とが摩擦接触し、第2のクラッチハウジング71と第2のクラッチハブ91との間で駆動力(トルク)が伝達される。アウタクラッチプレート721は、第2のクラッチハウジング71の円筒部711の複数のスプライン突起711aに係合している。インナクラッチプレート722は、第2のクラッチハブ91の外側円筒部911の外周面に軸方向に延在して形成された複数のスプライン突起911aに係合している。
【0039】
第1及び第2のクラッチハウジング61,71の軸方向移動は、第1及び第2の転がり軸受63,73により規制されている。第1の押圧部材64の押圧力は、区画壁5から第2のクラッチハウジング71に伝わり、第2の転がり軸受73により受け止められる。また、第2の押圧部材74の押圧力は、区画壁5から第1のクラッチハウジング61に伝わり、第1の転がり軸受63により受け止められる。これにより、第1の内側回転部材8に伝達される駆動力と第2の内側回転部材9に伝達される駆動力とを独立して制御することができる。
【0040】
第1の押圧部材64は、第1のクラッチハウジング61の底部612の径方向外側に配置される円環部641と、円環部641から径方向の内方に突出するように設けられた複数の突片642とを一体に有している。第1の押圧部材64は、円環部641と複数の突片642とが同一の厚みで一体に形成された平板状である。本実施の形態では、6つの突片642が周方向等間隔に設けられている。円環部641及び複数の突片642の厚みは、底部612の厚みよりも厚く形成されている。
【0041】
同様に、第2の押圧部材74は、第2のクラッチハウジング71の底部712の径方向外側に配置される円環部741と、円環部741から径方向内方に突出するように設けられた複数の突片742とを一体に有している。また、第2の押圧部材74は、円環部741と複数の突片742とが同一の厚みで一体に形成された平板状である。本実施の形態では、6つの突片742が周方向等間隔に設けられている。円環部741及び複数の突片742の厚みは、底部712の厚みよりも厚く形成されている。
【0042】
第1の押圧部材64及び第2の押圧部材74のそれぞれは、例えば鋼板を打ち抜き加工して得られた単一部材である。ここで、単一部材とは、複数の部品を組み合わせたものではない、全体が一体に形成された部材をいう。リターンスプリング69は、リングギヤ33の内方突起331と第1の押圧部材64の円環部641との間に、軸方向に圧縮された状態で配置されている。また、リターンスプリング79は、第2のクラッチハウジング71のフランジ部713との間に、軸方向に圧縮された状態で配置されている。
【0043】
第1のクラッチハウジング61には、底部612の外周側の端部と円筒部611の底部612側の端部とにわたって、複数の突片642をそれぞれ収容する複数の切り欠き610が設けられている。この切り欠き610は、底部612における切り欠き612aと、円筒部611における切り欠き611aとによって形成され、切り欠き612aは底部612を軸方向に貫通し、切り欠き611aは円筒部611を径方向に貫通している。複数の突片642のそれぞれは、複数の切り欠き610内を軸方向に移動することにより第1の多板クラッチ62を押圧する。円筒部611における切り欠き611aは、第1の多板クラッチ62を押圧する際の第1の押圧部材64の軸方向移動を妨げない範囲に設けられている。
【0044】
同様に、第2のクラッチハウジング71には、底部712の外周側の端部と円筒部711の底部712側の端部とにわたって、複数の突片742をそれぞれ収容する複数の切り欠き710が設けられている。この切り欠き710は、底部712における切り欠き712aと、円筒部711における切り欠き711aとによって形成され、切り欠き712aは底部712を軸方向に貫通し、切り欠き711aは円筒部711を径方向に貫通している。複数の突片742のそれぞれは、複数の切り欠き710内を軸方向に移動することにより第2の多板クラッチ72を押圧する。円筒部711における切り欠き711aは、第2の多板クラッチ72を押圧する際の第2の押圧部材74の軸方向移動を妨げない範囲に設けられている。
【0045】
第1の押圧部材64は、複数の突片642が切り欠き610に係合することで第1のクラッチハウジング61に対する相対回転が規制されており、第1のクラッチハウジング61と共に回転する。また、第2の押圧部材74は、複数の突片742が切り欠き710に係合することで第2のクラッチハウジング71に対する相対回転が規制されており、第2のクラッチハウジング71と共に回転する。
【0046】
また、本実施の形態では、
図3に示すように、第1のクラッチハウジング61の底部612における切り欠き612aに連通して、第1の押圧部材64の軸方向移動に伴う潤滑油の流動を円滑にする油溝612bが形成されている。同様に、第2のクラッチハウジング71の底部712における切り欠き712aに連通して、第2の押圧部材74の軸方向移動に伴う潤滑油の流動を円滑にする油溝712bが形成されている。
【0047】
以上のように構成されたクラッチ装置4は、コントローラからシリンダ150に作動油が供給されることにより第1の押圧部材64が第1の多板クラッチ62を押圧し、駆動部2の駆動力が第1の内側回転部材8に伝達される。また、コントローラからシリンダ110に作動油が供給されることにより第2の押圧部材74が第2の多板クラッチ72を押圧し、駆動部2の駆動力が第2の内側回転部材9に伝達される。コントローラは、例えば電磁弁によってシリンダ150,110に供給する作動油の圧力を調節することにより、第1の内側回転部材8から左側のドライブシャフトを介して左車輪に伝達される駆動力、及び第2の内側回転部材9から右側のドライブシャフトを介して右車輪に伝達される駆動力を制御することが可能である。
【0048】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、第1の押圧部材64の円環部641が第1のクラッチハウジング61の底部612の外側に配置され、円環部641から径方向に突出するように設けられた複数の突片642が第1の多板クラッチ62を押圧する。また、第2の押圧部材74の円環部741が第2のクラッチハウジング71の底部712の外側に配置され、円環部741から径方向に突出するように設けられた複数の突片742が第2の多板クラッチ72を押圧する。この構成により、第1及び第2の押圧部材64,74を軸方向に突出する突起等がない平板状に形成することができ、例えば鋼板を打ち抜き加工することによって第1及び第2の押圧部材64,74を容易に形成することができる。これにより、クラッチ装置4の低コスト化を図ることが可能となる。
【0049】
[第1の実施の形態の変形例]
図5は、第1の実施の変形例に係る第1の押圧部材64を示す斜視図である。上記の第1の実施の形態では、第1の押圧部材64が単一部材である場合について説明したが、
図5に示す変形例では、第1の押圧部材64が複数の板部材64a,64bを軸方向に重ねて構成されている。板部材64a,64bは、それぞれが平板状であり、互いに同じ形状及び厚みを有している。また、板部材64a,64bは、結合されて一部品として構成されている。板部材64a,64bを結合する手段としては、例えば溶接であってもよく、加締めであってもよい。
【0050】
このように第1の押圧部材64を構成することで、それぞれの板部材64a,64bの厚みを薄くして加工を容易にしながらも、第1の押圧部材64の厚みを確保することができ、第1のクラッチハウジング61に対する第1の押圧部材64の軸方向の移動距離を延ばすことも可能となる。軸方向に積層される板部材の枚数は、2枚に限らず、3枚以上であってもよい。なお、第2の押圧部材74についても、同様に構成することができる。
【0051】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、
図6及び
図7を参照して説明する。
図6は、第2の実施の形態に係るクラッチ装置4Aを示す断面図である。
図7は、クラッチ装置4Aにおける第1の押圧部材64Aを示す斜視図である。
図6及び
図7において、第1の実施の形態において説明したものと共通する構成要素については、
図1乃至
図4に用いたものと共通の符号を付して重複した説明を省略する。
【0052】
本実施の形態に係る第1の押圧部材64Aは、第1の実施の形態に係る第1の押圧部材64と同様に、環状の円環部641及び複数の突片642とを一体に有しているが、本実施の形態では、複数の突片642が円環部641から径方向外方に突出するように設けられている。また、第1の押圧部材64Aの円環部641は、第1のクラッチハウジング61の底部612の径方向内側に配置されている。なお、第2のクラッチ部7における第2の押圧部材74Aも、第1の押圧部材64Aと同様に構成されている。
【0053】
また、本実施の形態では、第1の押圧部材64Aの複数の突片642をそれぞれ収容する第1のクラッチハウジング61の底部612の複数の切り欠き612aが、底部612の内周側の端部に設けられている。それぞれの切り欠き612aは、底部612の内周面に開口している。第1の押圧部材64Aは、複数の突片642が底部612の切り欠き612aに係合することで第1のクラッチハウジング61に対する相対回転が規制され、複数の突片642によって第1の多板クラッチ62を押圧する。第2の押圧部材74Aにつても同様である。
【0054】
以上説明した第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。また、第1の実施の形態の変形例のように、第1の押圧部材64Aや第2の押圧部材74Aを、複数の板部材を軸方向に重ねて構成してもよい。
【0055】
(付記)
以上、本発明を第1及び第2の実施の形態ならびに変形例に基づいて説明したが、これらの実施の形態や変形例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0056】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、クラッチ装置4を車両用駆動装置1に適用した場合について説明したが、本発明は、車両用駆動装置1のクラッチ装置4に限らず、様々な用途のクラッチ装置に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
4,4A…クラッチ装置 51…第1のエンドプレート(受け部材)
52…第2のエンドプレート(受け部材) 61…第1のクラッチハウジング
610…切り欠き 611…円筒部
612…底部 612a…切り欠き
62…第1の多板クラッチ 621…アウタクラッチプレート
622…インナクラッチプレート 64…第1の押圧部材
641…円環部 642…突片
64A…第1の押圧部材 64a,64b…板部材
7…第2のクラッチ部 71…第2のクラッチハウジング
710…切り欠き 711…円筒部
712…底部 712a…切り欠き
72…第2の多板クラッチ 721…アウタクラッチプレート
722…インナクラッチプレート 741…円環部
742…突片 74A…第2の押圧部材